本報告書は、建設機械・鉱山機械業界のグローバルリーダーであるコマツ(KOMATSU LTD.)が展開する環境分野における戦略、具体的な取り組み、及びそのパフォーマンスについて、包括的な分析を行うことを目的とする。特に、「気候変動への対応」「資源循環の推進」「生物多様性の保全」という三つの重点領域に焦点を当てる。この分析を通じて、同社の環境パフォーマンスに関する定量的・定性的な情報を体系的に整理し、環境スコア算出のための基礎資料を提供するとともに、学術的な視点からの評価を可能にすることを目指す。分析にあたっては、小松製作所及びその連結グループ会社を対象とし 1、同社が発行するサステナビリティ報告書、統合報告書「コマツレポート」、公式ウェブサイト上で公開されている情報、並びに信頼性の高い第三者情報源を基盤とする。報告期間は主に最新の公表データ(例えば2023年度や2024年発行の報告書に基づく情報)とするが、継続的な取り組みや長期目標に関しては、必要に応じて過去の情報も参照する 1。
コマツは、企業経営においてサステナビリティを中核的な要素と捉え、「収益向上とESG課題解決の好循環を通じ持続的な成長を目指す」という方針を掲げている 4。この経営哲学は、単にリスクを管理するだけでなく、環境・社会課題への対応を新たな価値創造と事業成長の機会と捉える積極的な姿勢を示唆している。この考え方は、短期的な利益追求に留まらず、長期的な企業価値向上を目指す上で、環境戦略が不可欠な要素であることを示している。
その根幹を成すのが「サステナビリティ基本方針」であり、これはコマツの存在意義である「ものづくりと技術の革新で新たな価値を創り、人、社会、地球が共に栄える未来を切り拓く」における「人、社会、地球」を三つの柱としている 4。特に「地球と共に」という項目では、あらゆる事業活動を通じて先進技術を駆使し環境負荷を低減すること、ものづくりと技術革新により地球環境保全と事業成長の両立を図ること、そしてステークホルダーとの協働を通じてより良い地球と未来の実現を目指すことが明記されている 7。
環境保全活動は、1992年の「コマツ地球環境憲章」制定時に既に経営の最優先課題の一つとして位置づけられており、業界に先駆けて環境問題への取り組みを開始した歴史を持つ 9。近年、特に気候変動問題への対応は、2019年4月の気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言への賛同表明以降、その戦略的重要性が一層高まっている 9。
これらの戦略を実効性あるものとするため、ガバナンス体制も強化されている。2021年4月には、グループ全体のサステナビリティ経営推進を統括する社長直轄組織として「サステナビリティ推進本部」が新設された 5。この組織は、グループ全体のESG経営へのコミットメントを高め、環境(E)及び社会(S)に関わる方針や施策の企画・策定を担う。さらに、社長を委員長とする「サステナビリティ推進委員会」が年1回(及び必要時)開催され、グループ全体のサステナビリティ施策の立案・推進状況、環境方針、重要施策などを審議・決定し、その実行を促進する体制が整えられている 5。このような社長直轄の組織体制は、サステナビリティ課題、とりわけ環境問題への取り組みがトップマネジメントの直接的な関与のもと、全社横断的かつ戦略的に推進されていることを示している。
コマツは、気候変動への対応を経営上の最重要課題の一つとして明確に認識し、事業戦略の中に組み込んでいる 9。パリ協定以降の世界的な脱炭素化の流れと、異常気象の頻発化といった物理的影響の増大を踏まえ、低炭素社会への移行に貢献することがグローバル企業としての責務であるとの認識を示している 6。
この認識に基づき、コマツは野心的な目標を設定している。長期的なビジョンとして「2050年カーボンニュートラル」達成をチャレンジ目標として掲げ、自社の生産拠点(Scope1及びScope2排出量)のみならず、製品使用時(Scope3排出量)も含めたバリューチェーン全体でのCO2排出実質ゼロを目指している 6。これは、製品ライフサイクル排出量の大部分を占める製品使用段階での削減にもコミットする強い意志の表れである。
中期的なマイルストーンとして、2030年までに達成すべき具体的な目標も設定されている。これには、生産におけるCO2排出量を原単位で2010年度比50%削減すること、製品使用におけるCO2排出量を原単位で2010年度比50%削減すること、そして主要生産事業所で使用する電力に占める再生可能エネルギーの比率を50%に引き上げることが含まれる 6。
これらの目標は、国際的な枠組みとも整合性を図っている。コマツは、科学的根拠に基づく目標設定イニシアチブ(SBTi: Science Based Targets initiative)から、2022年3月に更新認定を受けている。認定された目標は、世界の平均気温上昇を産業革命前比で2℃を十分に下回る水準(Well Below 2℃)に抑える経路に整合するものであり、具体的にはScope1及びScope2の合計排出総量を2030年までに2019年比で30%削減、Scope3排出総量を同じく2030年までに2019年比で15%削減するというものである 6。2010年基準の原単位目標(50%削減)と2019年基準のSBTi認定総量目標(30%/15%削減)が併存している状況が見られるが、これは内部的な管理指標としての高い目標設定と、国際基準に照らした外部検証済みの目標という、異なる目的を持つ目標を両立させているものと考えられる。特に、製品使用時の排出削減目標(2010年比50%削減)は、SBTiのScope3目標(2019年比15%削減)よりも野心的に見えるが、これは原単位での評価であることや、対象範囲の違いを反映している可能性がある。
気候変動に関するガバナンス体制については、取締役会が最終的な監督責任を負う構造となっている 9。具体的な議論と戦略提言は、関連する委員会組織が担う。地球環境委員会は環境関連の重要事項やKPIについて審議・報告し、リスク管理委員会は自然災害リスクへの対応を報告、そしてCSR委員会(現在はサステナビリティ推進委員会がその役割を継承・拡大していると考えられる)はESG課題全般への取り組みについて議論する 9。これらの委員会からの提言や報告が戦略検討会を経て取締役会に上程され、経営判断に反映される仕組みが構築されている。
コマツの製品ライフサイクルにおけるCO2排出量の約90%は、顧客が製品を使用する段階で燃料を消費することにより発生する 11。この事実に基づき、同社は製品使用段階での排出削減を最重要課題と位置づけ、多角的なアプローチを展開している。
コマツは、製品使用時のCO2排出量削減に向けて、「ダントツ商品」「ダントツサービス」「ダントツソリューション」という三つの柱で取り組みを進めている 12。この三位一体のアプローチは、機械単体の性能向上だけでなく、運用方法の最適化、さらには施工プロセス全体の効率化を通じて排出削減を目指すものであり、製品使用段階という最も大きな排出源に対して包括的に対応しようとする戦略的な思考を示している。
「ダントツ商品」としては、燃費性能に優れた製品の開発・提供が挙げられる。その代表例が、2008年に世界で初めて市場導入されたハイブリッド油圧ショベルである 12。これらのハイブリッド建機は、日本の国土交通省から「低炭素型建設機械」として認定されており、2024年4月時点で16型式が認定を受けている 12。また、ブルドーザーやホイールローダーなど、燃費基準達成建設機械として認定された機種も多数存在する 12。さらに、将来のカーボンニュートラルを見据え、電動化技術の開発にも注力している。既にバッテリー駆動のマイクロショベル「PC01E-1」(レンタル機)、ミニショベル「PC30E/33E-6」、大容量リチウムイオンバッテリー搭載の電動フォークリフト「FE25G-2」などが市場導入されている 15。加えて、より大型の機械や多様な用途に対応するため、燃料電池(FC)技術や水素エンジン技術の研究開発も製品開発ロードマップに基づき段階的に進められている 15。これらの新動力源には技術的・経済合理性の課題が残るため、並行して代替燃料であるHVO(水素化植物油)への対応も進めている 15。
「ダントツサービス」の核となるのが、機械稼働管理システム「Komtrax」である 12。Komtraxは、世界中で稼働するコマツ製車両から稼働時間、燃料消費量、作業内容などの情報を収集し、インターネットを通じて顧客に提供する。これにより、機械の使われ方を「見える化」し、アイドリング時間の削減や効率的な運転方法など、具体的な改善点を提案することで、顧客の燃料消費量、ひいてはCO2排出量の削減を支援する 12。
「ダントツソリューション」の代表格が「スマートコンストラクション」である 12。これは、ICT(情報通信技術)を搭載した建設機械と、ドローンや3Dスキャナーによる高精度な測量技術、施工管理ソフトウェアなどを組み合わせ、調査測量から設計、施工、検査に至る建設生産プロセス全体をデジタル化し、最適化するソリューションである。例えば、自動ブレード制御機能を搭載したICTブルドーザーや、セミオート制御機能を搭載したICT油圧ショベルを使用することで、丁張り作業などの従来必要だった工程を削減し、熟練オペレーターでなくとも高精度な施工が可能となる。これにより、工期短縮と燃料消費量の大幅な削減が実現できる。社内テスト施工に基づく試算では、ICT油圧ショベルによる盛土法面整形作業で約30%、ICTブルドーザーによる敷均し作業で約25%の燃料消費量削減が確認されており、CO2排出削減に大きく貢献する 12。
これらの取り組みの結果、2023年度におけるコマツ製品の稼働時CO2排出指数は、基準年である2010年度比で22%削減を達成した 12。しかしながら、2030年の目標である50%削減に向けては、残りの期間で削減ペースを大幅に加速させる必要がある。特に大型機械の電動化や水素化には技術的・コスト的なハードルが高く、充電・水素充填インフラの整備、そして顧客による新技術の受容といった課題も存在するため 15、目標達成には更なるイノベーションと市場環境の整備が求められる状況にある。
コマツは、自社の事業活動から直接排出されるScope1及びScope2のCO2排出量削減にも積極的に取り組んでいる。生産拠点におけるCO2排出削減目標は、2030年までに原単位で2010年度比50%削減と設定されている 6。
この目標達成に向けた具体的な活動としては、まず省エネルギーの推進が挙げられる。個々の生産設備の高効率化に加えて、IoT技術を活用して生産ライン全体や工場全体のエネルギー使用を最適化する取り組みが進められている。その一例として、小山工場ではグループ会社のコマツNTCと共同開発したエンジン基幹部品加工用の「スマートライン」が導入されている 14。また、再生可能エネルギーの導入も積極的に進められており、工場敷地内への太陽光発電設備の設置やバイオマス発電の利用、さらにはグリーン電力証書の購入などが行われている 12。
これらの活動の成果は着実に表れており、2023年度の生産時CO2排出量原単位は、2010年度比で51%削減(2023年度指数が49のため、100-49=51%削減)を達成し、2030年目標を前倒しで達成した 12。これは、省エネ改善と再エネ導入の組み合わせが効果を発揮したことを示している。一方で、電力使用量に占める再生可能エネルギー比率は2023年度時点で25%であり、2030年の目標である50%に向けては、今後さらなる導入拡大が必要となる 12。再生可能エネルギーの調達・導入拡大が、生産部門における次の主要な課題となっていることがうかがえる。
Scope3排出量の一部である物流プロセスにおいても、CO2削減の取り組みが行われている。コマツの物流子会社などでは、トラック輸送から内航船や鉄道輸送へのモーダルシフトを推進しているほか、輸出入における空コンテナの輸送距離を短縮するコンテナラウンドユースの推進、輸送時の積載率向上といった施策を通じて、環境負荷の低減に努めている 17。製品使用時に比べれば排出量は小さいものの、バリューチェーン全体での排出削減を目指す上で重要な取り組みである。
コマツは、気候変動が事業に与える財務的な影響を評価し、投資家をはじめとするステークホルダーに対して適切な情報開示を行うことの重要性を認識し、2019年4月にTCFD提言への賛同を表明した 9。以降、TCFDが推奨する「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」という4つの開示項目に沿って、気候変動に関する情報を積極的に開示している 9。この取り組みは、気候変動を単なる環境問題としてではなく、長期的な企業価値に影響を及ぼす経営上の重要課題として捉え、戦略的に対応していることを示すものである。
TCFD対応の中核となるのがシナリオ分析である。コマツは、世界の平均気温上昇が産業革命前比で1.5℃/2℃に抑制されるシナリオと、4℃上昇するシナリオを用いて、気候変動が自社グループにもたらす潜在的なリスクと機会を特定・評価している 10。分析の結果、主要なリスクとして、1.5℃/2℃シナリオ(低炭素社会への移行が進むシナリオ)では、「資源需要の変化」(例:石炭需要の減少に伴う石炭採掘向け機械の売上減少リスク)、「低炭素製品への移行」(例:電動化等への対応遅れによる売上減少リスク、開発・設備投資コストの増加リスク)、「製造コスト」(例:炭素税導入やエネルギーコスト上昇、サプライヤーからの価格上昇圧力リスク)が特定された。一方、4℃シナリオ(気候変動の物理的影響が深刻化するシナリオ)では、「自然災害」(例:大雨・洪水による自社工場やサプライヤーの被災リスク、サプライチェーン寸断リスク)が最大のリスクとして認識された 10。
同時に、これらのリスクの裏側にある事業機会も特定されている。例えば、「資源需要の変化」は、電化の進展に伴う銅などの金属資源需要増大につながり、坑内掘りハードロック機械事業の拡大機会をもたらす。「低炭素製品への移行」は、電動建機やスマートコンストラクションなど、低炭素化に貢献する製品・ソリューションへの需要増大を意味する。また、循環型経済への移行はリマン(再生)事業の拡大機会を創出し、持続可能な林業への関心向上は高性能な林業機械への需要を高める。さらに、「自然災害」の激甚化は、国土強靭化や災害復旧工事の需要を喚起し、関連する建設機械の需要増につながる可能性も指摘されている 10。
これらのリスクと機会の分析結果は、コマツの事業戦略に具体的に反映されている。例えば、坑内掘りハードロック事業の強化、電動化・自動化・遠隔操作化技術の開発推進、循環型ビジネスとしての林業機械事業やリマン事業の拡大促進、スマートコンストラクションによるソリューション提供の強化、そして物理リスクに対応するためのサプライチェーン強靭化や自社拠点の防災対策強化などが挙げられる 10。このように、TCFDに基づく分析が、気候変動という外部環境の変化に対応し、持続的な成長を実現するための戦略策定に活用されていることがわかる。また、子会社である小松ウオール工業株式会社もTCFD提言に賛同し、同様の情報開示を進めていることは、グループ全体での取り組みの浸透を示している 18。
コマツは、限りある資源を有効活用し、持続可能な社会を実現するために、資源循環の推進を重要な経営課題と位置づけている。その戦略は、単に自社の生産活動における廃棄物を削減するに留まらず、製品ライフサイクル全体を通じて資源効率を高め、循環型ビジネスモデルを構築することを目指している。特に、解体・産廃・リサイクルといった、まさに循環型社会の実現を支える産業分野に対して、最適化された製品やアタッチメント、サービスを提供することで、顧客の事業活動を支援し、社会全体の資源循環に貢献しようとしている 20。
この戦略の中核を成すのが、使用済みコンポーネントの再生事業である「リマン事業」である 21。リマン事業は、製品の修理・延命化を通じて資源の消費を抑制(リデュース)、部品を再利用(リユース)、そして再生不能な部品も材料として再資源化(リサイクル)するという、3R活動そのものであり、コマツの資源循環戦略を象徴する取り組みと言える。
生産活動においては、廃棄物の発生抑制(リデュース)、再利用(リユース)、再資源化(リサイクル)を徹底する3R活動を推進し、いわゆる「ゼロエミッション」を目指している 21。また、水資源についても、その有効利用とリスク管理に注力し、持続可能な水利用を目指す方針を示している 23。これらの取り組みを通じて、環境負荷の低減と事業活動の両立を図り、循環型社会への移行に貢献することを目指している。
コマツのリマン事業は、「Remanufacturing(再製造)」を語源とし、顧客が使用したエンジンやトランスミッション、油圧機器などの主要コンポーネントを回収し、分解、洗浄、検査、部品修復・交換、再組立、性能検査といったプロセスを経て、新品と同等の品質・性能を持つ再生コンポーネントとして提供する循環型ビジネスである 21。この事業は、コマツが主要コンポーネントを自社で開発・生産しているという強みを最大限に活かしたものである 21。自社製品の構造や耐久性に関する深い知見があるからこそ、高度な再生技術と厳格な品質管理が可能となり、顧客に信頼性の高いリマン部品を提供できる。
リマン事業は、環境面と経済面の両方で大きなメリットをもたらす。環境面では、新品部品を製造する場合と比較して、原材料の使用量とエネルギー消費量を大幅に削減できるため、資源の節約、廃棄物の削減、そしてCO2排出量の削減に貢献する 21。経済面では、顧客は新品部品よりも割安な価格で、新品同等の保証が付いたコンポーネントを入手できるため、修理コストを低減できる 22。さらに、コマツは世界各地のリマン拠点に再生済みコンポーネントの在庫を最適に配置し、Komtraxによる機械稼働状況のモニタリング情報も活用しながら、顧客が必要とするタイミングで迅速に部品を供給する体制を構築している 21。これにより、故障した機械の修理時間を大幅に短縮し、休車時間(ダウンタイム)を最小化することで、顧客の生産性向上にも貢献する 22。このように、リマン事業は環境負荷低減と顧客メリット、そしてコマツ自身のサービス事業収益を同時に実現するものであり、まさに「収益向上とESG課題解決の好循環」を体現する取り組みと言える。
コマツは、このリマン事業をグローバルに展開するため、世界13箇所にリマン工場及びセンターを設置している 22。これには、グローバルな供給拠点としての役割を担うインドネシア、チリ、そして2021年に竣工した南アフリカの工場などが含まれる 22。これらの拠点は、単に地域ごとの需要に対応するだけでなく、ネットワークを通じて再生技術や品質に関する情報をグローバルで共有し、常に最新の知見に基づいた高品質なリマンサービスを提供できる体制を構築している 22。その結果、リマン事業は着実に成長を続けており、例えば2018年度には、事業規模が2004年度比で4倍以上に拡大したと報告されている 14。
コマツは、生産活動から排出される廃棄物の削減と再資源化にも力を入れており、「ゼロエミッション」活動として推進している 23。具体的な目標として、2030年までに廃棄物排出量原単位を削減することを掲げており、既に2023年度には2010年度比で54%削減を達成し、目標を前倒しで達成している 14。この成果は、生産現場における地道な改善活動が実を結んだことを示している。
具体的な取り組み事例としては、まず生産プロセスから発生する廃棄物の有効利用が挙げられる。例えば、海外工場では鋳造工程で使用する砂の再利用化を進め、廃棄物排出量を大幅に削減した 27。また、大阪工場では、従来は固形燃料化やサーマルリサイクルに回していたプラスチック使用製品産業廃棄物について、2022年施行の「プラスチック資源循環促進法」も踏まえ、より高度な再資源化を目指す取り組みを開始した。材質が単一で品質が安定しているポリエチレン製梱包資材に着目し、これを適正に分別・回収することで、農業用容器などのプラスチック製品原料として有価物化(マテリアルリサイクル)することに成功した 27。現在は、ポリプロピレン製のケースやパレットなど、他のプラスチック廃棄物についても有価物化を検討しており、資源循環のレベル向上を図っている 27。
さらに、製品や部品の輸送・保管方法の見直しによる廃棄物削減も行われている。コマツ物流では、茨城工場へ納入するトランスミッション部品の輸送時に、品質保護のために被せていたビニール袋について、工場内の保管場所変更提案と連携することで、ビニール袋そのものを不要とした。これにより、ビニール袋の購入費用と着脱作業工数を削減するとともに、廃棄物発生量も削減するという、コストと環境負荷の両面での改善を実現した 27。
加えて、オフィスなどから発生する廃棄予定の什器備品についても、廃棄する前にコマツグループ内や協力企業(みどり会)などにリユース(再利用)を呼びかける活動を実施し、多くの廃棄品が有効活用される結果につながっている 27。これらの事例は、単に廃棄物を減らすだけでなく、より付加価値の高いリサイクルやリユースを優先する、サーキュラーエコノミーの原則に沿った取り組みが進められていることを示している。グループ会社であるコマツNTCでは、リサイクル率99.5%以上を維持しているとの報告もあり 16、高いレベルでの廃棄物管理が行われていることがうかがえる。
コマツは、水が事業活動にとって不可欠な資源であると同時に、地域社会や生態系にとっても重要であることを認識し、水リスクへの対応と持続可能な水利用に取り組んでいる 24。そのアプローチは、水の使用量削減(水不足リスクへの対応)と、洪水などによる水関連災害リスクへの対応という、二つの側面を持っている。これは、同社がグローバルに多様な地域で事業を展開しており、地域ごとに異なる水課題に直面していることを反映している。
水使用量の削減に関しては、生産工程(洗浄工程など)における水使用量削減目標を設定し、継続的な改善活動を実施している 16。また、使用した水を回収・処理して再利用する水循環システムの導入も計画的に進め、水の利用効率を高めることを目指している 24。生産拠点や販売拠点から排出される水については、国や地域の法規制を遵守することはもちろん、自主的に設定した厳しい管理基準に従って適切に処理し、環境への影響を最小限に抑えるよう努めている 24。
一方、気候変動の影響による大雨や洪水の頻発化・激甚化を踏まえ、物理的な水リスクへの対応も強化している 10。コマツは、自社の生産拠点やサプライヤーにおける水リスク(洪水、渇水など)を評価するため、定期的に調査を実施している 24。この調査結果に基づき、リスクレベルが高いと判断された拠点では、具体的な対策が講じられている。例えば、国内の小山工場や栃木工場では、1時間あたり100mmの降雨にも対応可能な貯水能力を持つ貯水池や地下貯水タンク、大雨送水管、拡張された雨水溝などが整備されているほか、敷地外への浸水を防ぐための止水壁や止水板も設置されている 24。これらの設備は、自社の事業継続性を確保するだけでなく、結果的に周辺地域の排水能力不足緩和にも貢献している側面がある 24。海外拠点においても、インドのコマツインディア(KIPL)やコマツリマニュファクチャリングアジア(KRA)では、河川氾濫による浸水リスクに対応するため、雨水排水溝の設置や防護壁の建設などの対策が進められている 24。
さらに、コマツは水に関するイニシアチブへの参加や、ステークホルダーとの対話、情報公開を通じて、水問題に対する意識向上と協働を推進する姿勢を示している 24。ただし、公開されている情報からは、CO2排出量や廃棄物削減量と比較して、グループ全体の水使用量、リサイクル率、削減目標に対する具体的な進捗状況などの定量的なデータがやや限定的である印象を受ける。今後の報告においては、水資源管理に関するより詳細なパフォーマンスデータの開示が期待される。
コマツは、自社の事業活動が、生態系が提供する様々な恵み(生態系サービス)に依存していると同時に、生態系に対して影響を与えているという相互関係を深く認識している 28。この認識に基づき、生物多様性の損失が進行している現状に危機感を共有し、その保全と持続可能な利用に努めることを経営上の重要な課題の一つとして位置づけている 28。
この課題に取り組むための具体的な指針として、「コマツ生物多様性ガイドライン」を制定している 28。このガイドラインでは、活動の基本方針として二つの視点を掲げている。第一に、製品のライフサイクル全体を通じて、事業活動が生物多様性に及ぼす環境負荷(CO2排出、水使用、廃棄物発生など)を低減すること。第二に、社会貢献活動を通じて、生物多様性の維持・保全に直接的に寄与することである 28。特に、気候変動問題と生物多様性問題は密接に関連しているとの認識から、これらの活動を統合的に進める方針を示している点は注目に値する 28。
ガイドラインでは、具体的な行動原則も定められている。例えば、事業所の立地選定などにおいては、重要な生物多様性を含む場所やその近接地域での活動を原則として避けることとしている 28。また、生物多様性保全は一企業だけで完結するものではないとの認識から、行政機関、地域住民、NGO/NPOといった外部パートナーとの協働を重視している 28。さらに、この活動を全従業員が参加するものとし、サプライヤーや代理店、顧客をも巻き込んだグローバルかつグループワイドな取り組みへと展開していくことを目指している 28。加えて、自社の取り組みに関する情報を積極的に開示し、社会全体の生物多様性保全に対する意識向上に貢献することも重要な柱とされている 28。
コマツは、生物多様性ガイドラインに基づき、事業活動の様々な側面で生物多様性への配慮を組み込んでいる。
土地利用においては、工場などの事業所敷地内において、地域の生態系に配慮した緑地の造成・管理を行っている事例が見られる。代表的な例が、大阪工場内に設けられたビオトープ「コマツ里山」である 29。これは、かつて枚方市周辺で見られた里山環境を復元した池と林からなり、トンボのヤゴや水鳥など多様な生物の生息空間を提供している。ここでは専門家による定期的なモニタリング調査も実施されている 29。同様に、郡山工場にも敷地内ビオトープが設置されているほか、米国のグループ会社ヘンズレー社のダラス工場では、雨水管理と生態系配慮を兼ねたバイオスウェイル(植生を用いた排水路)が導入されている 28。これらの取り組みは、事業所の設置・運営に伴う土地利用の影響を緩和し、地域レベルでの生物多様性保全に貢献するものである。
製品ライフサイクル全体での環境負荷低減も、間接的に生物多様性保全につながる重要な取り組みと認識されている 28。具体的には、既に述べた気候変動対策(CO2排出削減)、資源循環(廃棄物削減、水使用量削減)に関する目標を設定し、その達成に向けて活動することが、生態系への負荷を軽減することにつながると考えられている 28。
さらに、コマツの製品が直接的に生物多様性保全に貢献する分野もある。それは、持続可能な林業への貢献である 28。コマツは、植林、育林、伐採、搬出といった森林管理のあらゆる工程に対応する高性能な林業機械を提供している。これらの機械化・効率化技術は、適切な森林管理を支援し、森林の健全な再生と循環を促すことで、森林生態系の保全と、森林が持つ多面的な機能(炭素吸収源、水源涵養、生物生息地など)の維持に貢献する可能性がある 13。
ただし、現状の取り組みは、事業所周辺での直接的な保全活動や、他の環境課題(気候変動、資源循環)への取り組みを通じた間接的な貢献が中心となっているように見受けられる。製品の原材料調達など、グローバルなサプライチェーンの上流における生物多様性への影響(例えば、鉱物資源採掘に伴う生態系破壊リスクなど)に関する体系的な評価や具体的な対応策については、公開情報からは十分に確認できない。今後の課題として、サプライチェーン全体を視野に入れた生物多様性リスクの把握と管理強化が挙げられる。
コマツは、生物多様性ガイドラインに掲げる「外部パートナーとの協働」や「社会貢献活動による保全への寄与」を実践するため、国内外の事業所が立地する地域社会と連携した多様な保全活動を展開している。
国内においては、大阪工場がその代表例である。同工場は、敷地内のビオトープ「コマツ里山」を活用し、大阪府及び研究機関と「おおさか生物多様性パートナー協定」を締結している 29。この協定に基づき、工場周辺の淀川と枚方市東部の里地里山を結ぶエコロジカルネットワークの形成を目指した管理を行うとともに、市民向けの自然観察会のフィールドとして提供するなど、環境教育や地域貢献にも活用されている 29。また、創業の地である石川県小松市では、粟津工場が市民、行政、企業が連携して進める「木場潟再生プロジェクト」に参画し、新入社員研修の一環として、水質浄化や生態系保全のためのヨシ刈りや水草(ガガブタ)育成地の整備作業などに参加している 30。このほか、小山サイト(栃木県)では東日本大震災で被災したいわき市の防潮林再生ボランティア活動に参加したり 28、小山工場では敷地内で確認された郷土の希少種である両生類の保護のため、生息環境(樹林地、水質良好な貯水池)の整備や個体数モニタリングを実施し、個体数の増加を確認するなどの成果を上げている 28。
海外においても、地域に根差した活動が行われている。中国では、砂漠化が進む内モンゴル自治区での植林活動に長年協力している 28。インドネシアの生産子会社コマツインドネシア(株)では、工場敷地内で希少な植物を保護する活動や、水辺環境の整備などを行っている 28。ブラジルの生産子会社コマツブラジル(有)では、広大な敷地内の森林や緑地を生物多様性保全の観点から管理しており、2013年の調査では絶滅危惧種のブラジルボクや貴重な鳥類(アオハシヒムネオオハシ)を含む多くの動植物が確認された。今後はこれらの生育条件を考慮した緑地の拡大や、社内外向けの環境教育プログラムの実施も計画されている 30。
これらの事例は、コマツが各地域の特性に応じた生物多様性保全活動を、地域社会や専門家との連携のもとで推進していることを示している。一方で、これらの活動がグローバルな生物多様性戦略の中でどのように位置づけられ、その効果が定量的に評価されているのか、また、サプライチェーン全体での影響緩和策とどのように連携しているのかについては、更なる情報の明確化が望まれる。
コマツは、事業活動に影響を与える可能性のある様々なリスクを全社横断的な視点から定期的に洗い出し、評価するプロセスを導入している。このプロセスでは、「経営成績への影響」「発生の可能性」「リスク発生時の影響期間」といった基準でリスクの優先度を決定しており、サステナビリティに関する重要課題(マテリアリティ)分析から特定されたリスクも織り込まれている 3。これにより、環境関連リスクが他の経営リスクと同等に扱われ、経営戦略に統合されていることが示唆される。
特に気候変動に関しては、TCFD提言への賛同以降、詳細なリスク分析が行われている 10。分析の結果、低炭素社会への「移行リスク」として、①化石燃料(特に石炭)需要の減少に伴う関連市場の縮小リスク、②燃費規制や排出ガス規制の強化、及び顧客からの低炭素製品への要求増大に対応するための開発・設備投資コスト増加リスクや、対応遅延による市場シェア低下リスク、③炭素税の導入やエネルギー価格の上昇による製造コスト増加リスク、④サプライヤーにおけるコスト上昇分の価格転嫁リスクなどが特定されている。また、気候変動の「物理リスク」としては、異常気象(特に大雨や洪水)の頻発化・激甚化による自社工場や主要サプライヤーの被災、それに伴う生産停止やサプライチェーンの寸断リスクが重要視されている。
気候変動以外にも、環境関連のリスクは多岐にわたる。事業活動を行う上で遵守すべき環境関連法規制(大気汚染防止法、水質汚濁防止法、廃棄物処理法、化学物質管理規制など)は国・地域によって異なり、かつ年々強化される傾向にあるため、これらへの対応不備は罰金や操業停止命令などの直接的な損害に加え、企業評価の低下につながるリスクがある 7。また、事業活動に伴う土壌汚染や水質汚染が発生した場合、浄化費用や損害賠償、地域社会からの信頼失墜といった深刻な影響が生じるリスクも存在する 16。さらに、直接的な環境問題ではないものの、例えばサプライチェーンにおける人権侵害などが発覚した場合、不買運動や社会的批判を通じて企業の評判が著しく傷つき、間接的に環境配慮型製品の販売などにも影響を及ぼす可能性があり、評判リスクとして認識されている 33。
コマツは、環境関連リスクを認識し管理すると同時に、これらの課題への対応を新たな事業機会の創出につなげようとしている。これは、「収益向上とESG課題解決の好循環」を目指す同社の経営方針とも合致する。
気候変動への対応は、リスクだけでなく大きな事業機会ももたらす。TCFD分析などを通じて特定された主な機会としては、①低炭素・ゼロエミッション建機(電動建機、水素燃料建機など)や、施工全体の効率化を実現するスマートコンストラクションのようなソリューションに対する需要の増大が挙げられる 10。②エネルギー転換に伴う資源需要の変化も機会となりうる。例えば、再生可能エネルギー設備や電気自動車の普及には大量の銅などの金属資源が必要となるため、これらの採掘に使われる鉱山機械、特に効率性や安全性が求められる坑内掘り機械の需要拡大が期待される 10。③サーキュラーエコノミーへの移行は、製品の長寿命化や資源効率向上に貢献するリマン事業の更なる成長機会を提供する 10。④気候変動緩和策としての森林再生や、バイオマスエネルギー利用の拡大は、高性能な林業機械や関連ソリューションへの需要を高める可能性がある 10。⑤気候変動の物理的影響に対する適応策として、防災・減災のためのインフラ整備(国土強靭化)や、激甚化する自然災害からの復旧・復興工事が増加することも考えられ、これらに使用される建設機械の需要増につながる可能性がある 10。
さらに、自社の生産プロセスにおける省エネルギー化や再生可能エネルギー導入は、エネルギーコストの削減に直結する 11。また、環境負荷を低減する革新的な生産技術の開発は、コスト競争力の向上にもつながりうる 11。環境に配慮した製品やサービスを提供することは、顧客からの評価を高め、ブランドイメージを向上させ、ひいては企業価値全体の向上に貢献すると期待される 5 (間接的に示唆)。
このように、コマツは、脱炭素化、サーキュラーエコノミー、気候変動適応といった世界的なメガトレンドを的確に捉え、それらをリスクとして管理するだけでなく、自社の技術力や事業基盤を活かして新たな成長機会へと転換しようとする戦略的な視点を持っていることがうかがえる。これは、石炭採掘向け機械のような縮小が予想される市場のリスクを、エネルギー転換に必要な金属資源採掘向け機械や再生可能エネルギー関連インフラ整備向け機械といった成長市場へのシフトによって相殺・凌駕しようとする能動的な姿勢の表れと言える。
(注記:本セクションにおける詳細な業界動向、競合他社の具体的な取り組み、及びESGスコアに関する比較分析は、提供された情報源だけでは限定的であり、包括的な評価のためには外部の業界レポートやESG評価機関のデータベース等、追加的な情報収集が必要となる。以下では、分析の枠組みと、現時点で利用可能な情報に基づく考察を示す。)
建設・鉱山機械業界全体として、環境問題、特に気候変動への対応は喫緊の課題となっている。業界の主要プレーヤーは、持続可能な社会への移行に貢献するため、様々な技術開発と戦略的取り組みを進めている。共通する主要なトレンドとしては、製品の電動化(バッテリー駆動、ハイブリッド)、水素燃料電池や水素エンジンといった代替動力源の研究開発、機械の自動化・自律化による作業効率向上と安全性向上、テレマティクス(Komtraxなど)や施工管理プラットフォーム(スマートコンストラクションなど)といったデジタルソリューションの活用による運用最適化、HVOなどの再生可能ディーゼル燃料への対応、そしてリマニュファクチャリングやリサイクルといったサーキュラーエコノミーへの貢献が挙げられる。
業界をリードする先進企業(例えば、Caterpillar、Hitachi Construction Machinery、Volvo CE、Sandvik、Epirocなど)は、これらのトレンドを踏まえつつ、それぞれ独自の戦略を展開している。具体的な先進事例としては、より野心的なScope3排出削減目標(SBTi 1.5℃目標認定など)の設定、電動化製品ラインナップの積極的な拡充と実用化に向けたロードマップの提示、再生可能エネルギー導入率の高さ(100%達成目標など)、水資源管理における流域レベルでのリスク評価と保全活動へのコミットメント、生物多様性への影響評価とネイチャーポジティブ貢献目標の設定、サプライヤーに対するESG要求水準の引き上げと協働による改善推進などが考えられる。コマツの取り組みを評価する上で、これらの業界ベストプラクティスとの比較は重要な視点となる。
コマツの主要な競合他社としては、米国のCaterpillar社や、日本の日立建機株式会社などが挙げられる。これらの企業も、コマツと同様に、気候変動対策、資源循環、生物多様性保全を含むサステナビリティ戦略を推進している。
気候変動戦略に関しては、各社ともにカーボンニュートラル目標(多くは2050年)を掲げ、SBTi認定の排出削減目標を設定する動きが広がっている。製品面では、電動化が主要な焦点であり、特に小型~中型の建設機械を中心にバッテリー駆動モデルの市場投入が進んでいる。大型機械や鉱山機械向けには、水素技術(燃料電池、エンジン)や高効率ディーゼルエンジン、代替燃料対応などが研究開発の中心となっている。各社のScope1, 2, 3排出量の実績値や削減目標の野心度(特に製品使用段階のScope3)を比較することで、コマツの相対的なポジションを評価できる。
資源循環戦略においては、リマニュファクチャリング事業は多くの大手企業が展開しており、その事業規模、対象部品の範囲、グローバルな拠点網などを比較することが有効である。また、生産拠点における廃棄物削減目標とその達成状況、水使用量やリサイクル率などの指標も比較対象となる。
生物多様性戦略については、企業によって取り組みの深度に差が見られる可能性がある。方針の有無、具体的な保全活動の内容と規模、サプライチェーンにおける生物多様性リスクへの配慮(特に原材料調達段階)などを比較することで、各社のコミットメントレベルを評価できる。
これらの詳細な比較分析を行うためには、各社のサステナビリティ報告書や統合報告書、ウェブサイトなどを精査する必要がある。
企業の環境パフォーマンスを客観的に評価し、競合他社と比較する上で、第三者のESG評価機関によるスコアや格付けは有用な情報源となる。代表的な評価機関としては、CDP(気候変動、水セキュリティ、フォレストに関する情報開示と評価)、MSCI ESG Research(ESGレーティング)、Sustainalytics(ESGリスクレーティング)などが挙げられる。これらの機関は、それぞれ独自の方法論に基づき、企業の公開情報やアンケート回答などを分析し、環境側面を含むESGパフォーマンスを評価している。
コマツ及び主要競合他社の最新の環境関連スコア(例:CDPの気候変動スコア(Aリスト、A-、Bなど)、水セキュリティスコア、MSCIのESGレーティング(AAA~CCC)、SustainalyticsのESGリスクレーティング(Negligible~Severe))を収集し比較することで、業界内でのコマツの相対的な立ち位置を把握することができる。例えば、CDPのスコアは特定の環境課題(気候変動、水)に対する取り組みの網羅性や先進性を示し、MSCIやSustainalyticsの評価はより広範なESGリスク管理能力を反映する傾向がある。
これらのスコアや格付け結果を分析することで、コマツがどの環境分野で業界をリードしており、どの分野で改善の余地があるのかを客観的に評価することが可能となる。これは、同社の環境戦略の有効性を検証し、今後の重点課題を特定する上で重要なインプットとなる。ただし、各評価機関の方法論や評価基準は異なるため、スコアを解釈する際にはその点を考慮する必要がある。これらのスコアに関する最新かつ詳細な情報は、各評価機関のウェブサイトや関連データベースを参照する必要がある。
コマツの環境分野における取り組みは、多岐にわたり、着実な進展を見せている分野も多い。特に、自社の生産プロセスにおける環境負荷低減においては顕著な成果を上げている。生産時のCO2排出量原単位は2030年目標(2010年度比50%削減)を既に達成し 12、廃棄物排出量原単位についても同様に2030年目標(同54%削減で達成)をクリアしている 27。これは、長年にわたる省エネルギー活動や廃棄物削減・リサイクル活動が効果を上げていることを示している。また、TCFD提言に早期に賛同し、気候関連リスク・機会の分析と情報開示を進めている点 10、資源循環の中核としてリマン事業をグローバルに拡大している点 22、国内外で地域と連携した生物多様性保全活動を展開している点 28 なども高く評価できる。
一方で、さらなる改善が求められる課題も残されている。最も大きな課題の一つは、製品使用時のCO2排出削減である。2030年までに原単位で50%削減(2010年度比)という野心的な目標に対し、2023年度時点での達成率は22%に留まっており 12、目標達成には削減ペースの大幅な加速が必要である。これには、電動化や水素化といった次世代技術の開発・実用化に伴う技術的・経済的なハードルや、インフラ整備、顧客の受容性といった外部要因も絡んでおり 15、解決には時間を要する可能性がある。
また、生産拠点における再生可能エネルギーの導入率も、2030年目標の50%に対して2023年度実績は25%であり 12、目標達成に向けた取り組み強化が必要である。特に、グローバルに多数の生産拠点を抱える中で、地域ごとに異なるエネルギー事情や調達コストを考慮しながら再エネ比率を高めていくことは容易ではない。
サプライチェーン全体での環境負荷管理も今後の重要課題である。製品使用時(Scope3下流)のCO2排出については目標設定と取り組みが進んでいるが、原材料調達や部品製造など(Scope3上流)における排出量や、生物多様性への影響については、その把握と削減策がまだ十分とは言えない可能性がある 28 (間接的に示唆)。
水資源管理に関しては、リスク評価や対策事例は報告されているものの、グループ全体での定量的な取水量・消費量・リサイクル率の目標設定や実績開示が、CO2や廃棄物ほど明確ではない点が課題として挙げられる (Insight 16に基づく考察)。生物多様性に関しても、個別の保全活動は評価できるものの、グローバル戦略としての一貫性や、サプライチェーン全体への展開、定量的な目標設定といった面で、さらなる深化の余地があると考えられる (Insight 17に基づく考察)。
コマツが今後も持続的な成長を達成し、「収益向上とESG課題解決の好循環」を加速させていくためには、残存課題への対応と戦略的な取り組みの深化が不可欠である。以下に、重点領域ごとの戦略的提言を述べる。
気候変動対応においては、製品使用時CO2削減目標達成に向け、電動化・水素技術などの次世代パワーソースに関する研究開発を一層加速させるとともに、実用化・普及に向けたインフラ事業者やエネルギー供給者、顧客とのパートナーシップを強化することが重要である。同時に、スマートコンストラクションのようなデジタルソリューション事業をさらに進化・普及させ、顧客の現場全体の効率化を通じたScope3排出削減支援を強化することも有効である。自社のScope2排出削減に向けては、再生可能エネルギー導入率の向上を加速させる必要があり、電力購入契約(PPA)や自己託送、自家発電など、多様な手法を地域特性に応じて組み合わせ、積極的に活用していくべきである。
資源循環の推進に関しては、確立されたリマン事業の強みをさらに活かし、対象となるコンポーネントの種類やサービス提供地域を拡大していくことが望まれる。また、製品の設計段階から分解・修理のしやすさ、部品の再利用可能性、材料のリサイクル性を考慮するエコデザインの思想をより徹底し、製品ライフサイクル全体での資源効率を高めるべきである。さらに、サプライヤーと協力し、部品製造プロセスにおける資源使用量や廃棄物発生量の削減に向けた取り組みを推進することも重要となる。
生物多様性の保全については、まずサプライチェーン、特に鉱物資源などの原材料調達段階における生物多様性への影響・リスク評価手法を導入し、その結果を開示していくことが求められる。将来的には、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の枠組みなども参考に、事業活動が自然資本に与える影響を定量的に評価し、「ネイチャーポジティブ」(自然再興)への貢献に向けた具体的な目標を設定することも検討すべきである。また、国内外で実施されている地域適合型の保全活動から得られた知見や成功事例をグループ内で共有し、他の地域への展開を促進することも有効であろう。
これらの重点領域に共通する横断的な課題として、サプライチェーン全体をカバーするESGデータ(環境負荷データ、人権関連データなど)の収集・管理体制を強化し、データの信頼性と透明性を高めることが挙げられる。また、環境パフォーマンス目標の達成度と経営目標や役員報酬との連動性を強化することは、組織全体のコミットメントを高める上で効果的である。最後に、投資家、顧客、地域社会、従業員といった多様なステークホルダーとの対話(エンゲージメント)を継続的に深化させ、期待や要請を的確に把握し、経営戦略や取り組みに反映させていくことが、長期的な信頼獲得と企業価値向上につながる。
本報告書における分析の結果、コマツはサステナビリティ経営を事業戦略の中核に据え、地球環境保全を重要な経営課題と認識し、「気候変動」「資源循環」「生物多様性」の各分野において多岐にわたる具体的な取り組みを推進していることが確認された。1992年の地球環境憲章制定以来の長い歴史を持ち、近年はTCFD提言への賛同や2050年カーボンニュートラル目標の設定など、グローバルな要請に対応した戦略的な取り組みを強化している。
特に、自社の生産プロセスにおける環境負荷低減(CO2排出量、廃棄物排出量)においては、2030年目標を前倒しで達成するなど、顕著な成果を上げている。また、使用済みコンポーネントを再生するリマン事業は、資源の有効活用とCO2削減に貢献すると同時に、顧客への価値提供と自社のサービス事業成長を両立させる、同社の「収益向上とESG課題解決の好循環」を象徴するビジネスモデルとして確立されている。生物多様性に関しても、国内外の拠点で地域社会と連携した保全活動を展開している。
一方で、いくつかの重要な課題も残されている。製品ライフサイクルで最大の排出源である製品使用時のCO2排出削減は、目標達成に向けてペースアップが必要であり、技術的・経済的な課題克服が求められる。再生可能エネルギーの導入率向上も道半ばである。サプライチェーン全体、特に上流工程における環境負荷(CO2、生物多様性影響など)の把握と管理、水資源管理における定量的な目標設定と情報開示の強化、生物多様性戦略の更なる深化とグローバル展開なども、今後の取り組みが期待される分野である。
コマツは、建設・鉱山機械業界におけるリーディングカンパニーとして、その技術力とグローバルな事業基盤を活かし、業界全体のサステナビリティへの移行を牽引する大きな潜在力を持っている。電動化、水素技術、ICT、自動化といった技術革新をさらに推進し、スマートコンストラクションのようなソリューション提供やリマン事業といったビジネスモデルの変革を加速させることで、建設・鉱山現場の脱炭素化、安全性・生産性向上、そしてサーキュラーエコノミーの実現に大きく貢献できる可能性がある。
残存する課題に対して、本報告書で提言したような戦略的な取り組みを深化させ、着実に実行していくことができれば、同社が掲げる「収益向上とESG課題解決の好循環」はさらに加速し、企業価値の向上と持続可能な社会の実現への貢献を両立させることが期待される。そのためには、技術開発への継続的な投資、サプライチェーン全体を巻き込んだ連携強化、そしてステークホルダーとの誠実な対話を通じて、変化する社会の要請に柔軟に対応していくことが不可欠となるであろう。
報告書ライブラリー | 環境・社会活動(CSR)|小松製作所 - 建設機械のコマツ - サステナビリティ, https://komatsu.disclosure.site/ja/themes/121
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2023 | Komatsu ESG Databook - サステナビリティ, https://komatsu.disclosure.site/jp/csr/pdf/KOMATSUCSR2023_jp.pdf
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環境への取り組み | 会社情報 | コマツNTC株式会社, https://ntc.komatsu/jp/profile/sdgs/environment
環境への取り組み - コマツ物流, https://www.btr-komatsu.co.jp/company/csr.html
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解体・産廃・リサイクル|事業内容|コマツ 企業サイト, https://www.komatsu.jp/ja/industries-we-support/demolition-waste-and-recycling
「つくる」から、「つなぐ」へ|ストーリー|ブランドコミュニケーション - コマツ, https://www.komatsu.jp/ja/aboutus/brandcommunication/stories/reman
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環境リスクマネジメント | 地球と共に | 環境・社会活動(CSR)|小松製作所 - 建設機械のコマツ, https://komatsu.disclosure.site/ja/themes/153
コマツリマンユニット|商品情報|コマツカスタマーサポート株式会社, https://kcsj.komatsu/products/parts/riman/01
拠点一覧|コマツについて|コマツ 企業サイト, https://www.komatsu.jp/ja/aboutus/locations
循環型社会形成への取り組み | 地球と共に | 環境・社会活動(CSR)|小松製作所 - 建設機械のコマツ - サステナビリティ, https://komatsu.disclosure.site/ja/themes/150
生物多様性活動への取り組み - サステナビリティ, https://komatsu.disclosure.site/ja/themes/103
[環境][報道]コマツと「おおさか生物多様性パートナー協定」を締結しました, https://www.knsk-osaka.jp/kankyo/info/doc/2016031400069/
株式会社 小松製作所, https://www.keidanren-biodiversity.jp/pdf/030_J.pdf
【IR広告】株式会社小松製作所(コマツ)成 戦略とESG課題解決への取り組み - YouTube, https://www.youtube.com/watch?v=NJnHJZRVuTA
Komatsu ESG Databook - サステナビリティ, https://komatsu.disclosure.site/jp/csr/pdf/KomatsuCSR2024_jp.pdf
リスク管理 | ガバナンス | 環境・社会活動(CSR)|小松製作所 - 建設機械のコマツ, https://komatsu.disclosure.site/ja/themes/97