本報告書は、レンゴー株式会社(以下、レンゴー)の環境パフォーマンス、特に「気候変動」「資源循環」「生物多様性」の3分野における具体的な取り組みと成果を詳細に分析し、同社の環境スコアリング評価に必要な情報を提供することを目的とする。近年、企業経営においてESG(環境・社会・ガバナンス)要素の重要性が増しており、投資家や社会全体から、企業に対する持続可能な経営の実践と情報開示への要請がかつてなく高まっている。特に、レンゴーが属する製紙・包装業界は、資源消費、エネルギー消費、廃棄物排出の観点から環境負荷が大きい産業の一つであり、環境問題への積極的な対応が企業価値を左右する重要な要素となっている。本報告書は、レンゴーの環境側面からの企業価値評価を目指す投資家、ESG評価機関、研究者、その他のステークホルダーにとって、客観的かつ詳細な情報源となることを目指すものである。
レンゴーは、段ボール、板紙、包装を核とした「ゼネラル・パッケージング・インダストリー(GPI)」戦略を掲げ、あらゆる産業の多様な包装ニーズに応える総合企業である 。その事業は、板紙・紙加工関連事業、軟包装関連事業、重包装関連事業、海外関連事業、その他と多岐にわたり 、国内外に広範な事業ネットワーク(国内・海外の多数の会社・工場)を展開している 。この広範な事業規模と多様な事業内容は、同社の環境への影響が広範囲に及ぶ可能性を示唆している。1909年の創業 以来、日本の段ボール産業のパイオニアとして業界をリードしてきた歴史を持ち 、そのリーダーシップには、業界全体の持続可能性向上に向けた相応の責任が伴うと考えられる。
本報告書は、以下の構成でレンゴーの環境への取り組みを分析・評価する。まず、同社の環境経営の理念とサステナビリティ戦略の全体像を概説する。次に、重点環境課題である「気候変動」「資源循環」「生物多様性」に対する具体的な取り組み内容とその分析を行う。続いて、これらの環境要因に関連する潜在的なリスクと事業機会を評価する。さらに、製紙・包装業界における先進的な環境プラクティスや競合他社の動向にも触れ、レンゴーの立ち位置を考察する。最後に、現状の課題を整理し、今後の持続可能な成長に向けた推奨事項を提示し、結論として全体の評価をまとめる。
レンゴーの環境経営は、「Less is more.」という独自の理念に基づいている 。これは、「より少ない資源で、より大きな価値を生む」という考え方であり、具体的には「Less energy consumption(エネルギー消費はできるだけ少なく)」「Less carbon emissions(二酸化炭素の発生はできるだけ少なく)」を追求しつつ、「High quality products with more value-added(より付加価値の高い高品質な製品づくり)」を目指すものである 。この理念は、単なる環境負荷の低減に留まらず、資源効率性の向上と製品価値の向上を同時に達成しようとする戦略的な姿勢を示しており、環境保全と経済合理性を統合しようとする同社のサステナビリティ戦略の核心と言える 。この理念を実践するためには、資源投入量(エネルギー、原材料、排出物)の最小化("Less")と、製品の機能性、性能、顧客便益といった価値の最大化("More")という、時に相反する可能性のある要素のバランスを取る必要がある。例えば、高性能な素材は初期の資源集約度が高い場合もあるため、この両立には、素材、設計、プロセスにおける継続的な技術革新が不可欠となる。
レンゴーは、持続可能な社会の実現に向けたグループ全体の環境経営をさらに推進するため、2021年4月に「レンゴーグループ環境憲章」を改定した 。この憲章は、同社の環境活動の基盤となるものである。レンゴーグループは、ESG(環境・社会・ガバナンス)経営を重視しており、これらの側面からの取り組みを通じて、国連の持続可能な開発目標(SDGs)達成への貢献を目指している 。また、2009年には国連グローバル・コンパクトに署名しており 、国際的な規範を遵守し、責任ある企業行動をとることへのコミットメントを示している。
レンゴーは、環境経営を具体的な行動計画に落とし込むため、中長期的な環境目標を設定している。
エコチャレンジ2030 (Eco Challenge 2030): 2030年度までの中期目標として、以下の3点を掲げている 。
化石エネルギー起源CO2排出量を2013年度比で26%削減する。
再生可能エネルギー利用率を25%以上にする。
総エネルギー原単位(5年平均)を年率1%削減する。 これらの目標は具体的かつ測定可能であり、進捗状況の管理と評価の基礎となる。
レンゴーグループ環境アクション2050 (Rengo Group Environmental Action 2050): 2050年までの長期目標として、温室効果ガス(GHG)排出量を実質ゼロにすることに挑戦する姿勢を明確にしている 。これは、パリ協定が目指す脱炭素社会の実現に向けた、野心的なコミットメントを示すものである。
これらの中長期目標の設定は、レンゴーが気候変動対策を経営上の最重要課題の一つとして位置づけ、具体的な行動を通じて貢献していくという明確な意思表示である 。
レンゴーは、統合報告書 、環境データ集 、サステナビリティレポート(2022年発行分まで) などを通じて、財務情報と非財務情報(ESG情報)を統合的に開示する姿勢を示している。報告範囲はレンゴー株式会社とその子会社(環境データは孫会社を除く)を対象とし 、環境省の環境報告ガイドライン、GRIスタンダード、ISO26000などを参考に作成されている 。
特に、従来のサステナビリティレポートから統合報告書へと情報開示の形態を移行させた点 は注目に値する。これは、財務パフォーマンスと非財務パフォーマンス(ESG)の連関性をより明確に示そうとする、近年の企業報告における世界的な潮流 を反映した動きと考えられる。レンゴー自身の統合報告書の編集方針においても、財務情報とESGの取り組みを一体として説明することが明記されており 、単なる報告形式の変更ではなく、サステナビリティを中核的な事業価値創造のストーリーに組み込み、投資家をはじめとするステークホルダーに対して全体的な視点を提供しようとする戦略的な意図がうかがえる。
また、FTSE Blossom Japan Sector Relative Index といった主要なESG関連インデックスへの組み入れや、外部評価機関からの高い評価 は、同社のESGへの取り組みが客観的に見て一定の水準に達していることを示唆している。
GHG排出削減目標と実績: レンゴーは、中期目標(2030年度:2013年度比26%削減)および長期目標(2050年:実質ゼロ挑戦)を掲げ、GHG排出削減に取り組んでいる 。これらの目標達成に向けた具体的な進捗状況については、環境データ集 などで定量的に確認する必要があるが、現時点で提供されている情報だけでは詳細な実績評価は限定的である。過去には2020年目標(1990年比32%削減)に向けた取り組みも言及されていたが 、現在は基準年が2013年に変更されており、目標達成評価においては基準年変更の影響も考慮する必要がある。
具体的な削減施策:
省エネルギー化の推進: 総エネルギー原単位を年率1%削減するという目標 を達成するため、生産プロセスの効率改善や省エネ設備への投資を進めていると考えられる(具体的な施策の詳細は追加情報が必要)。
再生可能エネルギーの導入拡大: 工場を中心に太陽光発電設備やバイオマス焼却(発電)設備の導入を推進し、再生可能エネルギー利用率を2030年度までに25%以上とする目標を掲げている 。バイオマス燃料への転換は、化石燃料への依存度を低減させる上で重要な施策である。
サプライチェーン排出量: レンゴーは、自社の直接排出(Scope 1, 2)だけでなく、サプライチェーン全体でのGHG排出量(Scope 3)の算定にも着手し、産業界全体での算定効率化を目指す共同実証実験に参画している 。これは、バリューチェーン全体での環境責任を認識し、より包括的な気候変動対策を進めようとする姿勢の表れである。Scope 3排出量は、企業の総排出量の中で大きな割合を占めることが多いため、この領域への取り組みは気候戦略の深化を示すものとして評価できる。ただし、算定体制の構築に続き、具体的な削減策の展開が今後の課題となる。
新規技術開発: 特筆すべきは、建設廃材を原料として利用し、持続可能な航空燃料(SAF)の原料となるエタノールを生産する計画である 。2027年の生産開始を目指し、年間2万キロリットルの生産能力を持つ設備(糖化・発酵・蒸留)に約200億円を投資する計画であり、子会社の太閤製紙の工場敷地内に建設される予定である 。これは、従来の食料系原料に依存しないSAF原料製造技術であり、脱炭素化が急務とされる航空業界への貢献、新たな事業機会の創出、そして産業廃棄物の有効活用という複数の意義を持つ革新的な取り組みである。この計画は、レンゴーが従来の包装事業の枠を超え、成長が期待される脱炭素ソリューション市場へ戦略的に進出しようとしていることを示唆している。この動きは、同社のESG評価を大幅に向上させる可能性がある一方で、SAF生産に関連する新たな技術的・市場的リスク(原料の安定調達、変換効率、認証取得、販売先の確保など)も伴う点に留意が必要である。
リサイクルの推進: レンゴーの中核事業である段ボール製造は、主原料として古紙を大量に使用するため、事業そのものが本質的に資源循環(サーキュラーエコノミー)のループに深く関わっている。リサイクルエコボード のような製品開発も行っている。一方で、近年課題となっている海洋プラスチック問題に対しては、解決に貢献する包装材や生分解性素材の開発・提供を推進する方針を示している 。具体的には、バイオマスプラスチック配合のOPPフィルム(バイオマスマーク取得)、国際持続可能性カーボン認証(ISCC PLUS)を取得したパッケージ 、植物由来プラスチック「REBIOS」 などの開発・導入を進めており、代替素材への取り組みが見られる。
製品における資源効率: 「Less is more.」の理念に基づき、包装材の軽量化(「軽薄短小」) や高機能化による使用量の削減にも注力している。また、電子商取引(EC)市場の拡大に対応した包装ソリューション や、店頭での開封・陳列作業を容易にし廃棄物削減にも繋がるリテール・レディ・パッケージング(Rengo Smart Display Packaging, RSDP) など、サプライチェーン全体の効率化や廃棄物削減に貢献する製品開発も行っている。さらに、「LossLess」鮮度保持包装 のような機能性包装は、包装材自体の環境負荷だけでなく、中身である食品の廃棄ロス削減にも貢献する可能性があり、これは製品ライフサイクル全体で見た場合の重要な環境貢献と言える。
廃棄物管理: 生産工程から発生する廃棄物の削減、再利用、再資源化にも取り組んでいる(具体的なデータは環境データ集 等での確認が必要)。前述のSAF原料としての建設廃材利用計画 は、これまで処理が困難であった可能性のある産業廃棄物に対して、付加価値の高い新たな有効活用ルートを開拓する試みとして注目される。
ただし、レンゴーが板紙・段ボールだけでなく、軟包装や重包装分野へも事業を拡大している点 は、資源循環の観点からは新たな課題も生じさせる。これらの分野ではプラスチック素材が多く使用されるため、紙のリサイクルシステムとは異なる、プラスチック廃棄物の回収・再生インフラの構築や技術開発が重要となる。バイオマスプラスチック や生分解性素材 への取り組みは、この課題に対応する一環と考えられるが、これらの素材のライフサイクル全体での環境影響評価や、既存のリサイクルシステムとの整合性についても考慮が必要である。
保全活動: 具体的な取り組みとして、武生工場のビオトープ(生物生息空間)が環境省の「自然共生サイト」に認定された事例が挙げられる 。これは、事業所敷地内における生物多様性保全への貢献を示す具体的な成果として評価できる。また、地域貢献活動の一環として、日光杉並木などの地域清掃活動に参加しており 、間接的に地域の生態系保全に寄与している側面もある。
原材料調達: 製紙事業においては、主原料である木材パルプの調達が生物多様性に与える影響が大きい。そのため、持続可能な森林管理が行われた木材の使用や、森林認証材の利用に関する方針と実績の情報開示が極めて重要となる。サステナビリティ関連のウェブページには「木材原料の調達方針」という項目が存在するものの 、その具体的な内容はこの資料からは確認できない。サプライチェーン全体での生物多様性への影響を管理するためには、調達方針の透明性と実効性が求められる。また、紛争鉱物に関する方針も示されているが 、これは責任ある調達姿勢の一部を示すものの、生物多様性への直接的な関連性は限定的である。
提供された情報を見る限り、レンゴーの生物多様性への取り組みは、気候変動や資源循環分野と比較すると、まだ発展途上にある可能性が示唆される。自然共生サイトの認定 は評価されるべき具体的な行動であるが、より包括的な戦略としては、バリューチェーン全体(特に原料調達や水利用が河川生態系に与える影響など)における生物多様性リスクの評価、体系的な保全目標の設定、そして具体的な行動計画の策定と開示が望まれる。
レンゴーが直面する可能性のある環境関連リスクは多岐にわたる。
規制リスク: 国内外での炭素税導入、排出量取引制度の強化、プラスチック使用量削減やリサイクル義務化といった規制強化、生物多様性保全に関する新たな法規制などが、事業コストの増加や生産活動への制約となる可能性がある。
市場リスク: 環境意識の高い消費者や、サプライチェーン全体での環境負荷低減を求める顧客企業からの要求は今後ますます高まると予想される。よりサステナブルな製品やサービスへの移行が遅れた場合、市場シェアの喪失やブランドイメージの低下に繋がるリスクがある。また、木材パルプ以外の代替素材(非木材由来パルプ、キノコ由来素材など)を用いた包装材の技術開発が進展すれば、競争環境が変化する可能性もある。
評判リスク: 工場からの汚染物質の排出、不適切な廃棄物処理といった環境事故や、サプライチェーン上での違法伐採、人権侵害などの問題が発覚した場合、企業の社会的評価やブランドイメージが大きく損なわれるリスクがある。また、環境への取り組みが実態以上に良く見せかける「グリーンウォッシング」と批判されるリスクにも注意が必要である。
物理的リスク: 気候変動の進行に伴う異常気象(洪水、干ばつ、大型台風など)の頻発化・激甚化は、工場設備の損壊、原材料調達の不安定化、物流網の寸断などを引き起こし、操業停止につながるリスクがある。また、水資源が豊富な日本においても、地域によっては渇水リスクが高まる可能性があり、大量の水を使用する製紙プロセスにとって影響が生じるリスクも考慮すべきである。
一方で、環境課題への積極的な取り組みは、レンゴーにとって新たな事業機会をもたらす可能性も秘めている。
新規市場・製品開発: 軽量でありながら強度を保つ包装材、リサイクルしやすい単一素材(モノマテリアル)化された包装、植物由来のバイオマスプラスチック製品 、さらにはSAF原料供給 など、環境負荷低減に貢献する製品やサービスを開発・提供することで、新たな市場ニーズを獲得し、競争優位性を確立できる可能性がある。
コスト削減: 省エネルギー設備の導入やエネルギー効率の改善、原材料使用量の削減、廃棄物の削減・再資源化、水使用量の効率化などは、直接的に生産コストの削減につながる。また、再生可能エネルギーの導入比率を高めることは、将来的な化石燃料価格の変動リスクや炭素価格導入リスクを低減する効果も期待できる。
企業価値・ブランドイメージ向上: 先進的な環境への取り組みは、ESG投資を重視する投資家からの評価を高め 、資金調達を有利にする可能性がある。実際に、レンゴーはポジティブ・インパクト・ファイナンス(特定の環境・社会課題解決への貢献度を評価指標とする融資)の契約を締結しており 、ESG金融へのアクセスが向上していることを示している。また、環境に配慮する企業としての評価は、顧客や社会からの信頼獲得、さらには優秀な人材の獲得・維持にも繋がる。
サプライチェーン強靭化: 気候変動への適応策(例:工場の耐水害対策、調達先の分散)や、資源循環型ビジネスモデルへの移行は、物理的リスクや資源枯渇リスクに対する耐性を高め、事業継続性の確保に貢献する。
特に、レンゴーが掲げる「ゼネラル・パッケージング・インダストリー(GPI)」戦略 は、環境面での機会を捉える上で有利に働く可能性がある。顧客企業が自社の環境フットプリント全体を削減しようとする際、紙、段ボール、軟包装、重包装といった多岐にわたる包装材について、サステナビリティを考慮した最適な組み合わせをワンストップで提案できる総合力は、専門分野に特化した競合他社に対する強みとなり得る。
(注:本セクションの内容は、提供された資料のみでは詳細な分析が困難であり、主に一般論および外部調査の必要性を示すものとなる。)
製紙・包装業界では、環境負荷低減に向けた先進的な取り組みが国内外で進められている。気候変動対策においては、科学的根拠に基づく削減目標(SBT)の認定取得、事業活動で使用する電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指すRE100への加盟、二酸化炭素回収・利用・貯留(CCUS)技術の実証・導入、サプライヤーと協働したScope 3排出量の削減などが挙げられる。資源循環に関しては、使用済みプラスチックを化学的に分解して原料に戻すケミカルリサイクル技術の実用化、製品から回収した資源を再び同じ製品に利用するクローズドループ・リサイクルシステムの構築、木材以外の代替繊維(竹、農業残渣など)の利用拡大、製品の素材情報やリサイクル履歴を追跡可能にするデジタルパスポートの導入などが進められている。生物多様性保全では、大規模な森林再生・植林プロジェクトへの投資、サプライチェーン全体での生物多様性への影響評価と具体的な目標設定(自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)の提言枠組みなどを参考に)、流域レベルでの水資源管理(ウォーター・スチュワードシップ)の推進などが見られる。
レンゴーの現在の取り組み(目標水準、技術導入の進捗、情報開示の範囲など)を、これらの業界先進事例と比較評価することが重要である。例えば、レンゴーは2050年の実質ゼロ挑戦という長期目標を掲げているが 、その達成に向けた中期目標(2030年目標 )や再生可能エネルギー導入のペース が、SBTi(Science Based Targets initiative)などが示す科学的知見と整合した経路に乗っているか、業界リーダーと比較して遜色ない水準にあるかを検証する必要がある。他社の成功事例を分析することで、レンゴーが今後さらに注力すべき分野(例:より野心的なSBT認定の取得、ケミカルリサイクル技術への投資可能性検討、サプライチェーン全体を対象とした体系的な生物多様性管理戦略の強化)や、導入を検討すべき新たな技術・戦略を特定することができる。
(注:本セクションの内容は、提供された資料のみでは具体的な分析が不可能であり、分析の必要性と方向性を示すものとなる。)
レンゴーと同様に、段ボール、板紙、軟包装、重包装など幅広い製品ポートフォリオを持つ国内外の主要企業を特定する必要がある。国内では王子ホールディングス、日本製紙、大王製紙、凸版印刷、大日本印刷などが、海外ではAmcor、Smurfit Kappa、WestRock、International Paperなどが競合として考えられる。
特定した競合企業のサステナビリティ報告書、統合報告書、ウェブサイト、第三者機関によるESG評価データなどを収集・分析し、各社の気候変動、資源循環、生物多様性に関する目標設定、戦略、具体的な施策内容を把握する必要がある。
入手可能な定量データに基づき、GHG排出量(原単位)、再生可能エネルギー利用率、古紙利用率、水使用量(原単位)、廃棄物リサイクル率などの主要な環境パフォーマンス指標(KPI)について、レンゴーと競合企業を比較分析することが、レンゴーの相対的なポジションを理解する上で不可欠である。
CDP、MSCI、Sustainalyticsなどの主要なESG評価機関が付与している環境関連スコアや評価結果を調査し、レンゴーと比較することも有効なベンチマーキング手法である。スコアの背景にある評価項目やレーティングの変動要因を分析することで、強みと弱みを客観的に把握できる。
競合他社の環境戦略やパフォーマンスを分析することは、単に自社の立ち位置を確認するだけでなく、環境要因がもたらす競争上の優位性や劣位性を特定するためにも重要である。例えば、ある競合他社が軟包装分野で著しく高いリサイクル技術を確立したり、認証された持続可能な森林資源をより効率的に確保したりしている場合、それは市場シェアや企業評判に影響を与える可能性がある。
レンゴーは環境経営において多くの前向きな取り組みを進めているが、さらなる持続可能な成長のためには、いくつかの課題に対処する必要があると考えられる。
目標達成の加速: 特に2030年の中期目標(CO2排出量26%削減、再エネ利用率25%以上) の達成に向けた取り組みを加速させ、そのための具体的なロードマップをより明確に示すことが求められる。また、2050年のネットゼロ目標達成に向けた道筋についても、技術開発や投資計画を含め、より具体的に示す必要がある。
Scope 3 排出削減: サプライチェーン排出量の算定に着手したことは評価できるが 、今後は算定結果に基づき、原材料調達、製品輸送、製品の使用・廃棄段階など、バリューチェーン全体での具体的な削減策を策定し、実行に移すことが重要となる。
プラスチック問題への対応強化: 事業ポートフォリオに含まれる軟包装・重包装分野におけるプラスチックの使用に関して、リサイクル技術の開発や社会的な回収・リサイクルインフラ構築への貢献、代替素材(バイオマス、生分解性、リサイクル材)の開発・利用の加速、製品設計段階からの循環性向上(Design for Recycling)といった取り組みを一層強化する必要がある。
生物多様性戦略の深化: 武生工場のビオトープ認定 のような個別事例に留まらず、バリューチェーン全体のリスクと依存度を評価し、それに基づいた体系的な目標設定(例:森林破壊ゼロ、水ストレス地域での取水量削減)と行動計画を策定・開示することが望まれる。特に、木材原料調達におけるトレーサビリティ確保と持続可能性基準の適用、水リスク評価と管理の強化が重要である。
グローバル展開における環境ガバナンス: 海外にも多くの拠点を有しており 、これらの拠点における環境基準の遵守状況のモニタリングと管理体制の強化が求められる。近年のアラブ首長国連邦(UAE)企業の買収 のようなM&Aに際しては、環境デューデリジェンスを徹底し、統合後の環境マネジメントシステムを効果的に機能させることが重要である。
上記の課題を踏まえ、レンゴーが今後重点的に取り組むべき領域と具体的な行動提案を以下に示す。
SBT認定取得と野心度向上: 2030年目標および2050年目標について、SBTi(Science Based Targets initiative)の認定(特に1.5℃目標水準)を取得することで、目標の科学的妥当性と国際的な信頼性を高める。
再生可能エネルギー導入の加速: 自家消費型太陽光発電設備のさらなる導入拡大、外部からの再生可能エネルギー電力購入契約(PPA)の活用、非化石証書の購入など、多様な手法を組み合わせて、再生可能エネルギー利用率目標(2030年度25%以上) の前倒し達成や、さらなる目標引き上げを目指す。
サーキュラーエコノミー・ビジネスモデルの構築: 単に製品を販売するだけでなく、包装材の回収・再利用・再資源化までを含めたサービスとして提供するモデル(PaaS: Packaging as a Service)の検討、使用済み製品の回収スキームの強化、異業種との連携による新たなリサイクルループの構築などを推進する。
生物多様性コミットメントの強化: TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の提言枠組みへの対応準備を進め、自然資本に関するリスクと機会の情報開示を強化する。サプライヤーに対して、持続可能な原材料(特に森林資源)調達に関する要件を強化し、エンゲージメントを通じて改善を促す。また、水リスクの高い地域においては、流域レベルでのウォーター・スチュワードシップ活動への参画を検討する。
DX活用による環境パフォーマンス向上: デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進 を環境分野にも応用し、サプライチェーン全体での原材料や製品のトレーサビリティ向上、AIなどを活用したエネルギー・資源使用量の最適化、環境データの収集・分析・開示プロセスの高度化・効率化を図る。
これらの取り組みを進める上で、レンゴーが経営の柱の一つとして掲げる「人本主義(人間中心主義)」 と、「成長と分配の好循環」の追求という考え方を戦略的に活用することが有効と考えられる。環境目標達成には、従業員の理解と協力、そして新たなスキル習得が不可欠である。環境イニシアチブへの従業員の積極的な参画促進、グリーン技術に関する教育・訓練への投資、脱炭素化等に伴う影響を受ける可能性のある従業員への公正な移行支援などを通じて、社会的側面(Social)と環境的側面(Environmental)の両面での成果向上を目指すことが、持続可能な変革を推進するための強固な基盤となり得る。
レンゴーは、「Less is more.」という独自の理念に基づき、特に気候変動対策と資源循環を中心に、体系的な中長期目標を設定し、具体的な取り組みを進めている。再生可能エネルギー導入の推進 、サプライチェーン排出量算定への着手 、そして建設廃材からのSAF原料製造という革新的な事業計画 など、評価すべき点は多い。情報開示においても、統合報告書への移行 を通じて、財務・非財務情報を統合的に伝えようとする姿勢が見られる。
一方で、さらなる改善が期待される領域も存在する。設定した目標、特に2030年の中期目標達成に向けた取り組みの加速と進捗状況の透明性向上が求められる。Scope 3排出量については、算定に続く具体的な削減策の展開が今後の焦点となる。また、プラスチックを含む多様な包装材を提供する企業として、プラスチックの資源循環への貢献度を高める必要がある。生物多様性に関しては、現状では個別的な取り組みが中心であり、バリューチェーン全体を視野に入れた体系的な戦略の構築と開示が望まれる。グローバルに事業を展開する中で、海外拠点を含めた環境ガバナンスの強化も継続的な課題である。
業界内での相対的なポジションについては、本報告書で利用可能な情報の範囲では限定的な評価に留まるため、競合他社の詳細なデータを用いた客観的なベンチマーキングが不可欠である。
レンゴーの環境スコアリング評価においては、以下の点が考慮されるべきである。
ポジティブ評価要因:
明確な中長期環境目標(2030年、2050年)の設定 。
再生可能エネルギー導入や省エネルギーへの具体的な取り組み 。
統合報告書を通じた積極的な情報開示姿勢 。
SAF原料製造計画 など、将来性のある革新的な技術開発への挑戦。
ESGインデックスへの選定や外部評価 。
注意・改善が必要な要因:
設定目標に対する実績値と進捗度(特に定量データの詳細な開示と分析)。
Scope 3排出削減に向けた具体的な戦略と行動計画の明確性。
生物多様性に関するリスク評価の範囲と保全戦略の包括性・具体性。
プラスチック製品のライフサイクル全体での循環性向上への貢献度。
海外事業拠点における環境パフォーマンス管理の実効性。
環境スコアリングにおいては、環境データ集 などで開示される定量的なパフォーマンスデータと、統合報告書などで示される定性的な戦略、ガバナンス、リスク管理体制の両側面から総合的に評価することが重要となる。