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株式会社スズケンの環境サステナビリティ・パフォーマンスに関する最新分析

更新日:2025年4月20日
業種:商業(6666)

1. エグゼクティブサマリー

本報告書は、株式会社スズケン(以下、スズケン)の環境サステナビリティに関する取り組み、特に気候変動、資源循環、生物多様性の分野における最新のパフォーマンスを分析・評価するものである。分析の結果、スズケンは環境課題に対して体系的なアプローチを採用しており、特に気候変動対策と医薬品廃棄ロス削減において顕著な進捗を示していることが明らかになった。

主要な発見事項として、スズケングループは2030年度までにScope 1およびScope 2のCO2排出量を2020年度比で40%削減するという目標を掲げ、2023年度までに17.1%の削減を達成している 。これは目標達成に向けた着実な前進を示すものである。また、スペシャリティ医薬品トレーサビリティシステム「キュービックス(Cubixx)」の活用により、2023年度には約42.8億円相当の医薬品廃棄ロス削減を実現しており、これは環境負荷低減と経済的価値創出を両立する特筆すべき成果である 。  

気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言への対応も進んでおり、ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標の4つの柱に沿った情報開示が行われている 。サステナビリティ委員会による監督と取締役会への報告体制が整備され、シナリオ分析に基づくリスク・機会の評価も実施されている。  

一方で、いくつかの課題も存在する。Scope 3排出量に関する具体的な削減目標は現時点で公表されておらず、物流を多用する事業特性を考慮すると、今後の開示が期待される 。医薬品廃棄ロス以外の一般廃棄物に関する資源循環については、グループ全体での定量的な目標設定や実績開示が限定的である 。生物多様性保全に関しても、特定の拠点での取り組みは見られるものの、グループ全体の戦略における位置づけや定量的な目標・指標は明確ではない 。  

競合他社(アルフレッサホールディングス、メディパルホールディングス)との比較では、スズケンのCO2削減目標は業界内で競争力のある水準にあるが、企業によって目標設定の野心度には差が見られる 。ESG評価スコア(S&P Global CSAスコア)は業界平均を上回るものの 、CDPスコアについては情報源によって不一致が見られ、検証が必要である 。  

報告体制については、従来のCSR報告書から統合報告書へと移行しており 、財務情報と非財務情報の統合的な開示に向けた企業の成熟度向上を示唆している。  

全体として、スズケンは環境サステナビリティ、特に気候変動と事業に直結する医薬品廃棄ロス削減において明確な進捗を示している。今後の課題は、Scope 3排出量管理の強化、資源循環と生物多様性に関する目標設定と情報開示の拡充、そして報告データの一貫性と透明性の確保にあると考えられる。

2. はじめに

目的

本報告書の目的は、株式会社スズケンの環境サステナビリティに関するパフォーマンスについて、最新の情報に基づき包括的な分析を提供することである。特に、気候変動への対応、資源循環、生物多様性の保全という3つの主要な環境側面に着目する。近年のステークホルダーからの期待の高まり、規制環境の変化 、そしてスズケン自身の戦略的展開 を踏まえ、同社の環境への取り組み状況を再評価し、現状の理解を深めることを目指す。  

分析手法

本分析は、提供されたリサーチ情報(以前のリサーチ結果と最新情報の双方を含む)を活用し、ユーザーの要求に従って変更点、進捗、新たな視点を特定するアプローチを採用している 。具体的には、スズケンの公式開示情報(統合報告書、ウェブサイト等)や関連する業界情報、第三者評価機関のデータなどを参照し、気候変動(TCFD提言への対応を含む)、資源循環、生物多様性に関する目標、具体的な取り組み、実績データを整理・評価する。また、国内の主要な競合企業であるアルフレッサホールディングス株式会社(以下、アルフレッサ)および株式会社メディパルホールディングス(以下、メディパル)との比較分析(ベンチマーキング)や、医薬品卸売業界全体の動向も考慮に入れ、スズケンの取り組みを多角的に評価する。  

報告書の構成

本報告書は以下の構成で展開される。まず、スズケンのサステナビリティ戦略全体の枠組みとガバナンス体制、報告の進化について概説する(第3章)。次に、気候変動対策とTCFD提言への対応状況を詳細に分析する(第4章)。続いて、資源循環と廃棄物管理に関する取り組み、特に医薬品廃棄ロス削減の成果を評価する(第5章)。さらに、生物多様性保全に関する戦略と活動を検証する(第6章)。その後、内部的な進捗と外部(競合他社)との比較分析を行う(第7章)。最後に、新たな視点、リスク、将来展望を考察し(第8章)、結論と戦略的提言を提示する(第9章)。

3. スズケンの進化するサステナビリティ・フレームワーク

3.1. ESG戦略とマテリアリティ

スズケンは、サステナビリティへの取り組みを価値創造を支える経営基盤と位置づけ、グループ一体となってサステナビリティ経営を推進している 。その根底には、「健康創造のスズケングループ」として、すべての人々の笑顔あふれる豊かな生活への貢献を目指すというミッションが存在する 。このミッションは、人々の健康だけでなく、地球の健康にも貢献するという考え方につながっており 、同社のサステナビリティ戦略の根幹を成している。  

ステークホルダーとの対話や社会動向、事業環境を踏まえて特定されたESG重要課題(マテリアリティ)の中で、環境分野においては主に2つの側面が重視されている。第一に、「環境保全への取り組み」であり、具体的にはCO2排出量の削減、廃棄物の適切な管理・リサイクル、再生利用の推進が挙げられる 。第二に、「医療・ヘルスケア分野における社会的コストの低減」であり、これには医薬品廃棄ロスの削減、流通在庫の適正化、物流コストの削減などが含まれる 。  

このマテリアリティ設定は、医薬品卸売業という事業特性を色濃く反映している。医薬品卸は、全国規模での医薬品の保管・配送を担う物流集約型のビジネスであり、車両燃料や倉庫の電力消費に伴うCO2排出、梱包材などの廃棄物発生といった直接的な環境負荷が存在する 。同時に、医薬品の有効期間管理や適切な温度管理が不可欠であり、管理不備による医薬品廃棄は大きな経済的損失であると同時に、環境負荷(廃棄物処理)にもつながる。したがって、スズケンがマテリアリティとして直接的な環境負荷(CO2、一般廃棄物)と、事業活動に起因する間接的な環境・社会コスト(医薬品廃棄ロス、物流効率)の両方を掲げていることは、自社の事業モデルに即した、実践的かつ戦略的なサステナビリティへの取り組み姿勢を示唆している。特に、医薬品廃棄ロス削減 は、環境負荷低減と経済合理性(コスト削減・価値回収)が直結する領域であり、同社の戦略において高い優先順位が与えられていると考えられる。  

3.2. ガバナンス体制

スズケングループのサステナビリティ推進体制は、経営層の関与を明確にした構造となっている。気候変動を含むサステナビリティに関する重要課題への取り組みやリスク管理は、サステナビリティ委員会が中心となって推進している 。この委員会は、CO2排出量削減や社会的コスト低減といったマテリアリティ課題への対応方針を協議し、必要に応じて取締役会に報告する体制となっている 。  

このようなガバナンス体制は、TCFD提言が推奨する取締役会レベルでの監督と、課題に対応するための経営管理体制の構築という要請に合致するものである 。サステナビリティ課題を、独立したCSR部門だけでなく、経営戦略やリスク管理と一体化した枠組みの中で扱っている点は重要である。これにより、環境・社会課題への対応が、単なる評判管理やコンプライアンス遵守にとどまらず、事業戦略そのものに組み込まれ、企業価値向上に資する活動として推進されることが期待される。サステナビリティ委員会が環境保全と社会的コスト低減の両方を管掌していることも 、マテリアリティ設定に見られる統合的なアプローチを裏付けている。  

3.3. 報告の進化

スズケンのサステナビリティに関する情報開示は、時代の要請に合わせて進化してきた。過去には「スズケングループCSR報告書」を発行していたが(2010年度版から2015年版まで確認可能) 、2016年以降は「One Suzuken Report」や「One Team Report」といった名称の「統合報告書」へと移行している 。この統合報告書は、スズケングループ各社(例:スズケン岩手)のウェブサイトからも参照されるなど、グループ全体の公式な報告媒体として位置づけられている 。  

このCSR報告書から統合報告書への移行は、財務情報と非財務情報(ESG情報)を統合し、企業がどのようにして短期・中期・長期的に価値を創造していくかを説明しようとする、世界的な企業報告の潮流を反映したものである。特に、ESG投資の拡大に伴い、投資家は企業のESGパフォーマンスが財務パフォーマンスや企業価値に与える影響を重視するようになっている 。統合報告書という形式を採用することは、スズケンがサステナビリティへの取り組みを単なる社会貢献活動としてではなく、事業戦略と企業価値創造に不可欠な要素として位置づけ、その関連性をステークホルダー(特に投資家)に対してより明確に伝えようとする意図の表れと考えられる。これは、競合であるアルフレッサも同様の移行を行っていることからも 、業界全体の動向とも言えるだろう。  

4. 気候変動対策とTCFD提言への対応:進捗と評価

4.1. CO2削減目標と実績

スズケングループは、気候変動対策における明確な目標を設定している。グループ全体として、Scope 1(事業者自身による直接排出)およびScope 2(他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出)のCO2排出量を、2030年度までに2020年度比で40%削減し、2050年度までにカーボンニュートラルを達成することを目標として掲げている 。この40%削減目標は、同業他社の目標と比較しても意欲的な水準にある。例えば、メディパルは2030年度までに50%削減 、アルフレッサは同30%削減 を目標としており、スズケンの目標設定は業界内でのリーダーシップを目指す姿勢を示している可能性がある。  

実績としては、2023年度のScope 1+Scope 2排出量は72,586トンであり、基準年である2020年度の87,562トンから17.1%の削減を達成した 。これは2030年目標達成に向けた着実な進捗を示すものである。内訳を見ると、2023年度はScope 1が26,491トン、Scope 2が46,095トンであり、依然としてScope 2(主に電力使用)が排出量の大きな割合を占めていることがわかる 。  

表1:スズケングループ CO2排出量(Scope 1+2)推移と目標

年度

Scope 1 (t-CO2)

Scope 2 (t-CO2)

合計 (t-CO2)

2020年度比削減率

2020年度

36,692

50,870

87,562

基準年

2021年度

35,613

49,614

85,227

2.7%

2022年度

27,789

44,795

72,584

17.1%

2023年度

26,491

46,095

72,586

17.1%

2030年度

目標: 40%削減

Google スプレッドシートにエクスポート

出典:  

排出量の推移を見ると、2021年度から2022年度にかけて約12,600トンの大幅な削減が見られる一方、2022年度から2023年度にかけてはほぼ横ばいとなっている 。この2021年度から2022年度にかけての大幅削減の要因(例:大規模な省エネ設備導入完了、再生可能エネルギーへの切り替え、物流体制の大きな変更 、あるいは外部要因としての電力排出係数の改善など)を特定し、その持続可能性を評価することが、今後の削減トレンドを見通す上で重要となる。また、2023年度の横ばい傾向は、初期の取り組みやすい削減策が一段落した可能性や、事業活動の増加が削減努力を相殺した可能性を示唆しており、2030年目標達成のためには、さらなる取り組みの加速が必要であることを示している。  

Scope 3(Scope 1, 2以外の間接排出。サプライチェーン排出量など)に関しては、スズケンはその重要性を認識し、サプライチェーン全体での効率化を目指すとしているが、具体的な削減目標は主要な開示資料では確認されていない 。物流、購入した製品・サービス、廃棄物処理など、医薬品卸売業においてはScope 3排出量が相当量に上ると考えられるため、この領域における目標設定と開示は今後の重要な課題となるだろう。競合のメディパルがScope 3カテゴリ別の排出量を開示し始めていることからも 、業界全体の動向としてScope 3への対応強化が求められている状況がうかがえる。  

4.2. 主要な削減施策

スズケンはCO2排出量削減目標達成のため、多岐にわたる施策を展開している。その中心となるのが「3 Green Action」である 。これは、「グリーンオフィス」「グリーン営業・グリーン物流」「グリーンIT」の3つの柱から構成される。  

  • グリーンオフィス: 事業所内での省エネ活動(昼休み消灯、PCスタンバイ徹底、冷暖房の効率利用)に加え、一部の事業所や物流センターでは太陽光発電システム、LED照明、高効率空調機などの省エネ設備の導入を進めている 。グループ会社のSKKも同様に「もったいない!!身近なエコ活動キャンペーン」を展開している 。  

  • グリーン営業・グリーン物流: 営業・配送車両のハイブリッドカーや軽自動車への切り替えを進め、2024年3月末時点で86.9%の切り替えを完了した 。エコドライブの励行も推進している。  

  • グリーンIT: 省エネタイプのIT機器(PC、サーバー等)への切り替えや新規導入に努めている 。  

これらの「3 Green Action」は、Scope 1(車両燃料、ガス等)およびScope 2(電力)排出量の主要因に直接対処するものである。

加えて、医薬品流通の最適化を目指す「スマートロジスティクス」も重要な施策である 。これは、共同物流・共同配送の検討、在庫管理提案による頻回・急配配送の削減、流通在庫のリアルタイム可視化・最適化などを通じて、配送効率を高め、CO2排出量を削減することを目的としている。同時に、医薬品の安定供給という社会的使命との両立を目指すものであり 、社会的コストの低減というマテリアリティ課題にも貢献する 。このスマートロジスティクスは、効率化によるCO2削減という環境面の効果だけでなく、サプライチェーンの可視性と柔軟性を高めることで、異常気象や感染症拡大といった不測の事態に対する事業継続計画(BCP) の強化、すなわちレジリエンス向上にも寄与する。最適化されたルートや在庫情報は、有事の際の迅速な対応を可能にし、環境対策と事業安定性の両立を実現する相乗効果を生み出している。  

再生可能エネルギーの導入については、複数の物流センターに太陽光発電パネルが設置されており(合計70kWの発電能力が過去に報告されているが、最新状況の確認が必要)、今後、全国の営業・物流拠点への追加設置も計画されている 。また、営業車両については、ハイブリッド・軽自動車への切り替えが86.9%完了した現在 、次のステップとしてEV(電気自動車)の導入が計画されている 。このEVへの移行は、車両からの排出量をさらに削減するための重要な鍵となる。全国270カ所以上ともされる拠点網 における充電インフラの整備と合わせて、その導入ペースと規模が2030年目標達成に向けた進捗を左右するだろう。  

4.3. TCFD提言への対応評価

スズケンは、TCFD提言に基づいた情報開示を積極的に行っていることを明示している 。開示内容は、TCFDが推奨する「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の4つの基本項目を網羅している。  

  • ガバナンス: 前述の通り、サステナビリティ委員会が気候関連課題を監督し、取締役会への報告体制が敷かれている 。  

  • 戦略: 気候変動が事業活動に与える影響について、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)やIEA(国際エネルギー機関)などが公表する複数のシナリオ(例:パリ協定の目標達成を目指す「2℃未満」シナリオ、対策が不十分な場合の「4℃」シナリオ)を用いて、リスクと機会を定性的・定量的に評価・分析している 。特定されたリスクには、炭素税導入や排出規制強化といった「移行リスク」 、異常気象による物流・施設への被害といった「物理的リスク」 が含まれる。機会としては、省エネや物流効率化によるコスト削減、企業評価の向上などが認識されている。  

  • リスク管理: 気候関連リスクは、グループ全体の統合的リスクマネジメントプロセスに組み込まれている。特に、医薬品の「安心・安全かつ安定的な流通」を維持することが重要課題と位置づけられ、自然災害発生時にも流通を途絶させないためのBCP(全国BCPネットワーク構築、拠点・設備の強靭化、非常用電源確保など)が推進されている 。  

  • 指標と目標: 主要な指標としてScope 1およびScope 2のCO2排出量を用い、前述の2030年削減目標および2050年カーボンニュートラル目標を設定している 。排出実績は追跡され、開示されている 。  

これらの開示内容は、TCFDの基本的な要求事項を満たしている。競合であるアルフレッサ やメディパル もTCFDへの対応を進めており、業界標準となりつつある。  

スズケンのTCFD開示の成熟度を評価する上で、特に注目すべきは戦略におけるシナリオ分析の深さである。開示資料では定性的・定量的な分析を実施していると述べられているが 、例えば炭素税導入による具体的なコスト増の見積額や、異常気象による損失額の試算といった、定量的な財務影響分析の結果がどの程度詳細に開示されているかが、その成熟度を測る鍵となる。提供された情報からは、分析のアプローチは確認できるものの、具体的な数値結果までは読み取れないため、詳細な評価には統合報告書本体 の確認が必要である。  

表2:TCFD提言に基づく情報開示チェックリストと評価

TCFD推奨開示項目

スズケンの開示状況(確認された情報に基づく)

評価/要確認事項

ガバナンス

a) 気候関連リスク・機会に関する取締役会の監督体制

取締役会への報告体制あり

✓ 対応済み

b) 気候関連リスク・機会の評価・管理における経営者の役割

サステナビリティ委員会が担当

✓ 対応済み

戦略

a) 短期・中期・長期の気候関連リスク・機会

移行リスク(炭素税、規制)、物理リスク(異常気象)等を特定

✓ 対応済み

b) 気候関連リスク・機会が事業、戦略、財務計画に与える影響

影響評価を実施(定性・定量)

✓ 対応済み(財務影響の定量的詳細の開示度は要確認)

c) 異なる気候シナリオ(2℃未満シナリオ等)に基づく戦略のレジリエンス

2℃未満/4℃シナリオ等で分析

✓ 対応済み(分析結果の詳細な開示度は要確認)

リスク管理

a) 気候関連リスクの特定・評価プロセス

サステナビリティ委員会で協議、取締役会へ報告

✓ 対応済み

b) 気候関連リスクの管理プロセス

BCP策定・推進等

✓ 対応済み

c) 気候関連リスク管理プロセスの統合状況

全社的リスク管理体制に統合

✓ 対応済み

指標と目標

a) 気候関連リスク・機会の評価に用いる指標

Scope 1, 2 CO2排出量

✓ 対応済み(Scope 3 指標は未設定)

b) Scope 1, 2, 3 GHG排出量と関連リスク

Scope 1, 2 実績開示 。Scope 3 は目標・詳細データ未確認

△ 一部対応(Scope 3の開示拡充が課題)

c) 気候関連リスク・機会の管理に用いる目標とその実績

2030年40%削減目標、2050年CN目標。実績開示

✓ 対応済み

 

5. 資源循環と廃棄物管理:取り組みとインパクト

5.1. 医薬品廃棄ロス削減(キュービックスシステム)

スズケンは、医薬品の廃棄ロス削減を重要な経営テーマであり、マテリアリティ課題の一つとして位置づけている 。特に、高価で厳格な管理が求められるスペシャリティ医薬品の流通においては、2017年から展開しているトレーサビリティシステム「キュービックス(Cubixx)」が大きな役割を果たしている 。  

このシステムは、医薬品の個装箱単位での流通履歴管理を可能にし、医療機関での未使用在庫の再販売や、過剰在庫の発生防止に貢献する。その結果、2023年度には約42.8億円相当の医薬品廃棄ロス削減を実現したと報告されている 。これは、単に廃棄物処理に伴う環境負荷を低減するだけでなく、廃棄されるはずだった高価な医薬品の価値を回収・再利用することにつながる。  

この42.8億円という具体的な金額は、キュービックスシステム導入による経済的な効果がいかに大きいかを示している。環境保全への貢献に加え、明確な費用削減効果や収益機会(再販売)が見込めるため、この取り組みは強力なビジネス上の正当性を持ち、継続的な投資と改善がなされる可能性が高い。医薬品卸売業特有の課題である廃棄ロス問題に対し、テクノロジーを活用して環境と経済の両面で価値を創出している先進的な事例と言える。

5.2. 一般廃棄物の削減とリサイクル

医薬品廃棄ロス削減に加え、スズケングループは一般的な廃棄物の削減とリサイクルにも取り組んでいる。具体的には、「Reduce Action」として両面コピーの励行や電子資料の活用による紙資源使用量の削減、「Recycle Action」として廃棄物の分別徹底やグリーン調達(環境負荷の少ない製品の優先購入)の推進が挙げられる 。グループ会社のSKKにおいても、「もったいない!!身近なエコ活動キャンペーン」を通じて、事務用品の再利用などが奨励されている 。  

また、グループ内には廃棄物処理やリサイクルを専門とする企業も存在する。医薬品製造を担う株式会社三和化学研究所では、リサイクル量を増やし最終処分率の低下を目指している 。鈴建興業株式会社は、建設・解体工事から発生するコンクリートくずや木くずなどの中間処理を行い、再生資源としてリサイクルする事業を展開している 。輸送を担うスズケン輸送株式会社も、繰り返し使用可能な輸送コンテナの活用を(業界慣行として)行っていると考えられる 。  

これらの活動は、企業として標準的な廃棄物管理の取り組みと言える。しかしながら、スズケングループ全体の一般廃棄物に関する定量的な目標(例:総廃棄物量削減目標、リサイクル率目標)や実績データは、主要な開示資料(統合報告書など)では明確に示されていない 。CO2排出量や医薬品廃棄ロス削減額が具体的に報告されているのとは対照的である。これは、グループ全体での一般廃棄物に関するデータ収集・集計体制が発展途上である可能性や、戦略的な優先順位が、現時点では気候変動対策や事業に直結する医薬品廃棄ロス削減に置かれている可能性を示唆している。  

5.3. プラスチックその他の取り組み

プラスチックに関しては、物流における繰り返し利用可能なコンテナ(オリコンやトートボックス)の使用が業界の一般的な取り組みとして挙げられており 、スズケングループの物流部門でも同様の運用がなされていると考えられる。また、グループ会社のSKKでは、ペットボトルキャップを回収し、ワクチン支援を行うNPO法人に提供する活動を行っている 。  

化学物質管理の側面では、三和化学研究所などがPRTR(Pollutant Release and Transfer Register:化学物質排出移動量届出制度)に基づき、環境への排出量や移動量を把握・管理している 。これは、人の健康や生態系への有害性が懸念される化学物質による環境汚染を未然に防ぐための重要な取り組みである。  

一方で、近年世界的に関心が高まっている使い捨てプラスチックの削減や、製品・梱包に使用されるプラスチックにおける再生材利用率の向上といった、より踏み込んだプラスチック対策に関する具体的な目標や戦略は、提供された情報からは確認できない。物流用コンテナ以外のプラスチック使用量全体に関するデータ開示も限定的である。プラスチック汚染問題への対応は、今後ステークホルダーからの関心が高まる可能性のある領域であり、将来的な報告や戦略策定のテーマとなりうる。

6. 生物多様性保全:戦略と活動

6.1. 位置づけと戦略

スズケングループの環境に関する方針には、「地球の健康」への貢献 や環境関連法規の遵守 が謳われているものの、主要なマテリアリティ課題として「生物多様性」が明示的にリストアップされてはいない 。これは、CO2排出量削減や廃棄物管理が具体的な項目として挙げられているのとは対照的である。ただし、グループの用語集には生物多様性の定義が掲載されており 、基本的な認識は存在すると考えられる。  

グループ会社レベルでは、より明確な言及が見られる。例えば、環境保全活動を行うSKKは「自然環境との調和」を目指し 、後述するビオトープ管理を行う関連会社は「カーボンニュートラルと共に生物多様性は世界における重要課題」であるとコメントしている 。また、中部電力との提携に関する情報では、中部電力側の取り組みとして生物多様性保全が挙げられている 。  

これらの情報から、グループ全体としての生物多様性保全戦略は、気候変動対策ほど明確に体系化・開示されていない可能性がある。特定の事業所やグループ会社での先進的な取り組みや認識が存在する一方で、それがグループ全体のコア戦略としてどの程度統合され、優先順位付けされているかは、主要な開示資料からは判断しにくい。TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)のような新しい枠組みが注目を集める中 、今後、グループ全体での戦略的な位置づけや情報開示が強化される可能性はある。  

6.2. 具体的な保全活動

スズケングループ内で確認できる具体的な生物多様性保全活動としては、愛知県豊田市にある自社施設「下山バークパーク」内のビオトープ管理が挙げられる 。ここでは、ゲンゴロウ、アカハライモリ、トウカイモウセンゴケといった希少種が生息しており、その生息域を維持するための管理作業(外来種駆除を含む)が通年で行われている。さらに、ビオトープを環境学習の場として地域住民や企業、学校などに提供し、環境教育にも貢献している 。  

これ以外には、前述のPRTR制度に基づく化学物質管理 が、生態系への悪影響を未然に防ぐという点で間接的に生物多様性保全に寄与している。また、グループ会社のSKKによる「緑の募金」への協力(森林整備支援)も挙げられる 。  

これらの活動は、特にビオトープ管理において、直接的かつ具体的な保全努力を示している。しかし、この活動は特定の地域・施設に限定されているように見受けられる。医薬品卸売業の事業活動全体、例えば全国に広がる物流センターの建設・運営や、車両の運行ルート選定などにおいて、生物多様性への配慮がどの程度組み込まれているか(例:敷地内の緑化、生態系への影響評価)については、提供された情報からは明らかではない。製薬業界全体としては、医薬品の原材料調達段階での生物多様性への影響(遺伝資源の利用、森林破壊など)もリスクとして認識されているが 、卸売業であるスズケンの直接的な影響は、主に土地利用と事業活動に伴う環境負荷(排出物、騒音等)に関連すると考えられる。  

6.3. 目標と実績指標

スズケングループ全体として、生物多様性保全に関する具体的な、定量化された目標や実績評価指標(例:保全・再生した生息地の面積、保護対象種の個体数変化、生物多様性に配慮した調達率など)は、主要な開示資料では確認されていない 。  

これは、グループ戦略における生物多様性の位置づけが、現時点では気候変動対策ほど明確でないことと整合している。目標と指標がなければ、取り組みの規模、有効性、そして戦略への統合度合いを客観的に評価することは困難である。ビオトープ管理のような個別の活動は評価できるものの、グループ全体の事業活動が生物多様性に与える影響(ネガティブ・ポジティブ双方)を把握し、管理するための枠組みとしては、まだ発展の余地があると言える。世界的に企業による生物多様性情報の開示基準策定が進む中で 、今後、この分野における目標設定と指標導入が期待される。  

7. 比較分析:内部進捗と外部ベンチマーキング

7.1. 内部比較(前回リサーチからの変化)

提供された情報を「前回のリサーチ」と「最新情報」として比較分析すると、スズケンの環境サステナビリティへの取り組みにおいて、以下のような進捗、明確化、そして依然として残る課題が確認できる。

確認された進捗・継続事項:

  • CO2削減への継続的注力: 削減目標がより明確化(2030年40%削減)され、具体的な進捗(2023年度17.1%削減)が報告されている 。(以前の情報 では目標値が不明確な場合があった)  

  • 「3 Green Action」の推進: 各施策が継続されており、特に営業車両のハイブリッド・軽自動車への転換率(86.9%)という具体的な成果が示された 。  

  • キュービックスシステムによる成果: 医薬品廃棄ロス削減効果が継続的に創出され、その経済的インパクト(2023年度 約42.8億円)が定量的に示された 。  

  • TCFD提言への対応: TCFDへの対応が正式に表明され、ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標の4つの柱に沿った情報開示が進んでいることが確認された 。(以前の情報 では言及があったが、枠組み全体への対応がより明確化)  

  • 報告形態の進化: CSR報告書から統合報告書への移行が完了し、定着している 。  

新たに明確化・詳細化された点:

  • 目標の具体化: 2030年40%削減、2050年カーボンニュートラルという具体的な目標値が明示された 。  

  • 実績データの詳細化: CO2排出量の年度別推移(Scope 1, 2別)が2020年度から2023年度まで開示された 。  

  • TCFD開示内容の具体化: シナリオ分析の実施やリスク管理プロセスとの統合など、TCFD対応の詳細がより具体的に説明されるようになった 。  

  • インパクトの定量化: 医薬品廃棄ロス削減の経済効果が金額で示された 。  

依然として残る課題・発展途上の領域:

  • Scope 3排出量: 重要性は認識されているものの、具体的な削減目標の設定・開示には至っていない 。  

  • 一般廃棄物・リサイクル: グループ全体での定量的な目標や実績指標(例:リサイクル率)の開示が限定的 。  

  • 生物多様性: グループ全体の戦略における位置づけが不明確で、定量的な目標・指標が欠如している 。  

  • CDPスコアの不確実性: 報告されているCDPスコアに情報源間で不一致があり、正確な評価状況の確認が必要 。  

7.2. 外部ベンチマーキング(スズケン vs. 競合他社)

スズケンの環境パフォーマンスを評価する上で、国内の主要な医薬品卸売業者であるアルフレッサおよびメディパルとの比較は重要な示唆を与える。

目標設定:

  • Scope 1+2 CO2削減目標(2030年 vs 2020年)では、スズケンが40%削減 、メディパルが50%削減 、アルフレッサが30%削減 となっており、メディパルが最も野心的で、次いでスズケン、アルフレッサの順となっている。3社とも2050年のカーボンニュートラル/ネットゼロを目指している点は共通している。  

実績:

  • スズケンは2023年度までに17.1%削減を達成 。メディパルは2024年3月期(FY23)の排出量が73,575トン 、アルフレッサは2021年度(FY20)の排出量が70,411トン と報告されているが、基準年や報告年度の違いから直接的な削減率比較は困難である。各社の詳細なESGデータを確認する必要がある。  

Scope 3:

  • スズケンは目標未設定 。メディパルはカテゴリ別の排出量を開示している 。アルフレッサについては提供情報からは不明 。Scope 3への対応ではメディパルが一歩リードしている可能性がある。  

ESG評価スコア:

  • S&P Global CSAスコア(2024年8月時点): スズケンは総合17点(モデル化スコア含むと22点)、環境側面スコアは31点であり、業界平均(26点)を上回っている 。競合他社のスコアは提供情報内にはない。  

  • CDP気候変動スコア: スズケンについては「F」評価とする情報 があるが、これは他の取り組み状況から見て疑問があり、最新かつ正確な情報の検証が不可欠である。アルフレッサは「D」評価とする情報がある (もスコアの存在を示唆)。メディパルについてはスコアの存在は示唆されているが 、具体的な評価は不明である 。CDPスコアに関する比較は、各社の最新の公式発表やCDPウェブサイトでの確認が必須となる。  

総括:

  • 目標設定においては、スズケンは業界内で競争力のあるレベルにあるが、メディパルがより高い目標を掲げている。

  • 実績比較はデータの一貫性の問題から現時点では難しい。

  • Scope 3対応やCDP評価といった点では、改善の余地や情報検証の必要性が示唆される。

  • 医薬品卸売業界は、物流センター運営や輸配送といった共通の事業基盤を持つため、各社が同様の環境課題に直面している。省エネ、物流効率化、再生可能エネルギー導入などが共通の取り組みテーマとなっている 。  

8. 新たな視点、リスク、および将来展望

8.1. 最新の分析と業界動向

医薬品卸売業界は、近年、厳しい経営環境に直面している。薬価の毎年改定による価格低下圧力に加え、燃料費や電気料金の高騰が収益を圧迫しており、事業効率の向上が喫緊の課題となっている 。このような状況は、業界再編(M&A)や事業多角化の動きを加速させている 。  

一方で、ESG投資は世界的に拡大しており、投資家は企業のサステナビリティへの取り組みと情報開示をますます重視するようになっている 。特に、財務情報と非財務情報を統合的に報告する統合報告書への評価が高まっている 。  

また、新型コロナウイルス感染症のパンデミックや、一部後発医薬品メーカーにおけるGMP(Good Manufacturing Practice)違反問題に端を発する医薬品供給不安は、医薬品サプライチェーンの安定性とレジリエンスの重要性を改めて浮き彫りにした 。これを受けて、事業継続計画(BCP)の強化は、業界全体の重要課題となっている 。  

このような環境下で、デジタルトランスフォーメーション(DX)が鍵を握る。スズケンが展開する医療従事者向けプラットフォーム「コラボポータル」 や、AIを活用した物流最適化 、ドローン配送の実証実験 など、テクノロジーを活用した効率化や新たなサービス創出の動きが活発化している。  

これらの業界動向は、スズケンのサステナビリティ戦略に直接的な影響を与える。収益圧力は、環境投資に対する制約となる可能性がある一方で、省エネルギーや物流効率化(例:スマートロジスティクス)のように、コスト削減と環境負荷低減を同時に達成できる取り組みへのインセンティブを強化する。厳しい価格交渉力を背景に、環境負荷低減効果と明確な投資対効果(ROI)を両立できる施策、例えばキュービックスシステムによる廃棄ロス削減 などが、より優先的に推進される可能性がある。一方で、投資回収期間が長い、あるいは直接的な経済的リターンが見えにくい分野(例:一部の生物多様性保全活動や、より抜本的な脱炭素化技術への投資)は、慎重な判断が求められる可能性がある。また、サプライチェーンの安定供給確保という社会的要請は、BCP強化と気候変動適応策(物理的リスクへの備え)の重要性を高めている。  

8.2. 気候および生物多様性に関するリスクと機会

スズケンのTCFD分析でも認識されている通り 、気候変動は同社にとって重要なリスクと機会をもたらす。  

リスク:

  • 移行リスク: 炭素税の導入や排出量取引制度の強化は、事業所での燃料使用や車両運行に伴うコストを増加させる可能性がある 。また、より厳しい排出ガス規制は、低排出ガス車(EVなど)やノンフロン冷凍設備への投資負担増につながる 。  

  • 物理的リスク: 台風の激甚化や集中豪雨の頻発は、物流センターや営業拠点の被災、配送網の寸断を引き起こし、事業停止や売上減少につながる可能性がある 。サプライヤーの被災も、商品の安定供給を脅かす。また、平均気温の上昇は、医薬品の厳格な温度管理(保管・輸送)に必要なエネルギーコスト(冷房費)を増加させる可能性がある 。  

  • 生物多様性関連リスク: (製薬業界全体のリスクとして)医薬品の原材料となる天然資源の枯渇や調達コスト増、生態系破壊によるサプライチェーンへの影響などが考えられるが 、卸売業であるスズケンにとっては、事業所の立地や建設に伴う生態系への影響、排出物による環境汚染リスクなどがより直接的である。  

機会:

  • 効率化とコスト削減: 省エネルギー活動やスマートロジスティクスによる燃料・電力消費量の削減は、コスト削減に直結する 。  

  • 評判とブランド価値向上: 環境への積極的な取り組みは、顧客、取引先、投資家、従業員などからの評価を高める。

  • 新規事業・サービス: 低炭素物流サービスの提供や、環境配慮型製品の取り扱い拡大などが考えられる。

  • レジリエンス強化: 気候変動への適応策(BCP強化など)は、事業の安定性向上に貢献する。

  • 市場ニーズの変化: 気候変動による疾病構造の変化(例:感染症の増加 )に対応した医薬品需要の変化に対応できる可能性がある。  

スズケンが構築している全国規模のBCPネットワーク は、台風や地震といった「急性」の物理的リスクに対しては、比較的高い対応能力を有していると考えられる。拠点間の相互補完体制や非常用電源の確保などは、突発的な事象による事業中断を最小限に抑える上で有効である。しかし、平均気温の上昇に伴う冷房コストの恒常的な増加といった「慢性」的な物理的リスク に対しては、より長期的な視点での設備投資(断熱性能の向上、高効率空調への更新など)が、全国の多数の拠点 で継続的に必要となる可能性がある。これは、短期的な災害対応とは異なる、長期的な資本計画とエネルギー効率改善へのコミットメントを要求する。  

8.3. 公表されている今後の取り組み

スズケンは、今後の環境関連の取り組みとして、以下の計画を公表している 。  

  • 営業車両へのEV導入

  • 全国の営業・物流拠点における太陽光パネルの追加設置

  • 営業拠点における照明のLED化、空調設備・医薬品保冷庫の省エネ型への入れ替え

  • 気候変動関連データの統合管理体制の構築

これらの計画は、設定されたCO2削減目標の達成に向けた具体的な行動であり、主要な削減戦略(省エネ、再エネ導入、輸送効率化)とも整合している。特に、「気候変動関連データの統合管理体制の構築」 は、今後の戦略策定において極めて重要である。精度の高いデータを一元的に管理・分析することで、排出量の正確な把握、削減効果の測定、Scope 3排出量の算定・管理、さらには調達や物流計画への気候変動要因の組み込みなどが可能となる。このデータ基盤の強化は、より洗練された、データ駆動型の環境経営への移行を促し、CDP評価などの外部評価向上にも寄与すると期待される。  

9. 結論と戦略的提言

結論

本分析の結果、スズケンは環境サステナビリティに対して体系的に取り組み、特に気候変動対策と医薬品廃棄ロス削減において顕著な成果を上げていることが確認された。明確なCO2削減目標(2030年40%削減、2050年カーボンニュートラル)を設定し、TCFD提言に沿った情報開示を行うなど、気候変動への対応は着実に進んでいる。キュービックスシステムを活用した医薬品廃棄ロス削減(2023年度 約42.8億円)は、環境負荷低減と経済的価値創出を両立する同社独自の強みと言える。サステナビリティ推進体制も経営層の関与の下で整備され、報告形態も統合報告へと進化している。

一方で、いくつかの領域では更なる深化が求められる。サプライチェーン全体での排出量削減に向けたScope 3目標の設定と開示、一般廃棄物に関するグループ全体での定量的な目標・実績の開示、そして生物多様性保全の戦略的な位置づけ強化と目標・指標の設定は、今後の課題である。特に、CDPスコアに関する情報の不一致は、早急な確認と対応が必要である。

競合他社との比較では、スズケンは目標設定や取り組みにおいて業界内で競争力のあるポジションにあるが、Scope 3対応など一部で先行されている可能性もある。医薬品卸売業界特有の収益圧力の中で、環境投資と経済合理性のバランスを取りながら、いかに持続的な成長を実現していくかが問われている。

戦略的提言

以上の分析に基づき、スズケンが環境サステナビリティにおけるリーダーシップをさらに強化し、持続的な企業価値向上につなげるために、以下の戦略的提言を行う。

  1. 気候変動対策の深化:

    • Scope 3目標の設定と開示: サプライチェーン排出量(特に輸送・配送、購入した製品・サービス)を算定し、科学的根拠に基づく削減目標(SBT認定等も視野に)を設定・公表する。

    • CDP評価の向上: 報告されているスコアの不一致を解消し、最新の正確なスコアを確認・公表する。評価向上に向けて、Scope 3を含む包括的な情報開示とパフォーマンス改善に取り組む。

    • 削減策の加速: EV導入計画を着実に実行し、再生可能エネルギー導入(太陽光発電追加設置等)を加速する。過去の排出量変動要因を分析し、2030年目標達成に向けた着実な進捗を確保するためのロードマップを明確化する。

  2. 資源循環の強化:

    • 定量目標の設定: 一般廃棄物の総量削減目標およびリサイクル率向上目標をグループ全体で設定し、実績を定期的に開示する。

    • プラスチック戦略の策定: 物流用コンテナ以外のプラスチック(製品梱包材等)の使用実態を把握し、削減目標や再生材利用目標を含む包括的なプラスチック戦略を策定・公表する。

  3. 生物多様性の主流化:

    • 戦略的位置づけの明確化: 生物多様性保全を、気候変動と並ぶ重要な環境課題としてグループ全体のサステナビリティ戦略及びマテリアリティ評価に明確に位置づける。

    • 目標設定と指標導入: TNFD提言なども参考に、グループとして取り組むべき生物多様性に関する目標(例:自然関連リスク・機会の評価、生態系保全への貢献目標)を設定し、関連する指標を導入・開示する。既存のビオトープ活動などをグループ全体の取り組みとして体系化する。

    • バリューチェーンでの配慮: 事業活動(拠点開発、物流網運営等)における生物多様性への影響評価プロセスを導入・強化する。

  4. データ管理と報告の高度化:

    • 統合データ管理体制の活用: 計画中の「気候変動関連データの統合管理体制」 を早期に構築・活用し、Scope 3を含む排出量データの精度向上、削減効果の可視化、シナリオ分析の高度化を図る。  

    • 統合報告の充実: 統合報告書において、シナリオ分析に基づく財務影響の定量的な情報や、資源循環・生物多様性に関する目標・実績データをより詳細に開示し、透明性を高める。グループ各社の取り組み状況も含め、報告の一貫性を確保する。

これらの提言を実行することにより、スズケンは環境リスクへの対応力を強化し、新たな事業機会を捉え、厳しい事業環境下においても持続的な成長を達成するための強固な基盤を築くことができると考える。

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