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SUMCO株式会社の環境イニシアチブとパフォーマンスに関する包括的分析:気候変動、資源循環、生物多様性への対応

更新日:2025年4月20日
業種:製造業(3333)

序論

SUMCO株式会社と半導体材料業界の概要

SUMCO株式会社(以下、SUMCO)は、現代社会に不可欠な半導体デバイスの基幹材料であるシリコンウェーハを製造する、世界有数の企業である 。通信機器、データセンター、家電製品、医療機器、自動車、再生可能エネルギー関連機器など、幅広い分野で利用される半導体の進化と安定供給を支え、産業の発展や生活の質の向上、社会課題の解決に貢献している 。市場シェアにおいては、信越化学工業に次ぐ世界第2位の地位を確立しており、日本の半導体材料産業における重要なプレイヤーである 。  

一方で、半導体製造プロセスは、その性質上、エネルギー消費量、水使用量、化学物質の使用、そして特にエッチングやクリーニング工程で使用されるフッ素系ガス(PFCs, HFCs, NF3​など)を含む温室効果ガス(GHG)排出量が多いという点で、重大な環境負荷を伴う産業でもある 。これらの環境課題への対応は、持続可能な社会の実現に向けた企業の社会的責任として、また、規制強化や市場からの要求に応えるための経営戦略として、ますます重要性を増している。  

本報告書の目的と構成

本報告書は、SUMCOの環境に関する取り組みとパフォーマンスについて、特に「気候変動」、「資源循環」、「生物多様性」の3つの重点分野に焦点を当て、包括的かつ学術的なレベルでの詳細な分析を行うことを目的とする。公開されているサステナビリティレポート、CSR報告書、企業ウェブサイトなどの情報に基づき、同社の具体的な活動、目標、実績データを詳細に記述し、環境スコアリングや戦略的評価に必要な情報を提供する。

報告書の構成は以下の通りである。まず、SUMCOの環境マネジメント体制と各重点分野(気候変動、資源循環、生物多様性)における具体的な取り組みを分析する。次に、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に基づき、同社が直面する可能性のある環境関連のリスクと機会を評価する。続いて、半導体材料業界における先進的な環境対策(ベストプラクティス)を紹介し、SUMCOの主要な競合企業(信越化学工業、GlobalWafers、Siltronic AG、SK Siltron)の環境への取り組みと比較分析を行う。さらに、CDP、MSCI、Sustainalytics、S&P Globalなどの主要なESG評価機関によるスコアをベンチマーキングし、SUMCOの相対的なポジションを明らかにする。最後に、これらの分析結果を踏まえ、SUMCOが現在直面している環境課題を評価し、将来に向けた戦略的な提言を行う。なお、本報告書では、すべてのデータ、比較、ベンチマーキング結果を表形式を用いず、本文中での記述形式(必要に応じて箇条書きを含む)で提示する。

SUMCOの環境への取り組み:詳細分析

環境マネジメントシステムとガバナンス

SUMCOグループは、「かけがえのない地球環境を次世代に引き継ぐ」ことを基本理念とし、環境保全活動に自主的かつ持続的に取り組むことを定めた「SUMCO環境基本方針」を制定している 。この方針に基づき、具体的な行動指針として、事業活動における省エネルギーと温室効果ガス排出抑制、廃棄物削減とリサイクル・再利用率の向上、水使用量の削減とリサイクル、化学物質使用量の削減、有害化学物質・廃棄物の適正管理による環境リスク低減、環境関連法規・条例・協定等の遵守、環境汚染の予防と地域社会との共生、サプライヤーとのグリーン調達推進、環境目標の設定と定期的見直しによる環境マネジメントシステムの継続的改善、そして生物多様性への配慮と保全への努力を掲げている 。  

環境マネジメント体制としては、取締役である環境管理担当役員が、全社環境管理責任者および各拠点環境管理責任者を任命し、その役割、責任、権限を明確に定めている 。さらに、CSR・サステナビリティ活動を強化するため、サステナビリティ推進役員を選任し、グループ全体のサステナビリティ推進活動を審議する「サステナビリティ推進会議」を定期的に開催するなど、体制面の強化も図っている 。この推進会議は役員レベル以上のメンバーで構成され、原則年2回開催され、各部門のサステナビリティ推進に関する活動報告や審議が行われる 。  

国際的な環境マネジメント規格であるISO14001については、SUMCOグループの全工場で認証を取得しており、環境マネジメントシステムが国際基準に適合していることを示している 。  

環境リスク管理に関しては、SUMCOグループ(国内)は「リスク管理基本規程」において気候関連を含む環境リスクを特定している 。特定されたリスク(環境汚染、地球温暖化による異常気象など)は、バランススコアカード(BSC)および環境マネジメントシステムの下で、環境リスクへの取り組み計画に組み込まれる 。これらの計画の達成状況は、環境管理担当役員およびBSCに報告され、トップマネジメントによってレビューされる体制となっている 。また、化学品納入業者や産業廃棄物処理業者に対して、SUMCOの環境方針、環境事故予防、法令遵守などに関する環境教育を定期的に実施している(2022年はオンライン形式)。  

このように、SUMCOは取締役会の監督を含む正式な環境管理体制を構築し、リスク管理プロセスと統合している 。ISO14001認証の取得 や取締役レベルまでの明確な役割分担 は、手続き上のコミットメントを示している。しかし、この体制が方針 を具体的なパフォーマンス改善にどれだけ効果的に繋げられるかは、目標設定の厳格さや実行状況のモニタリングに依存する。特に、後述する水リサイクル率の微減 などの課題を考慮すると、体制の実効性が問われる。BSCとの連携 は、より広範な事業戦略との統合を示唆するが、ICP導入 以外の環境投資判断への具体的な影響については、さらなる検証が必要である。  

気候変動対策

SUMCOグループは、気候変動を重要な経営課題と認識し、地球温暖化防止に向けた取り組みを推進している 。  

GHG排出量実績と削減目標

2022年度のSUMCOグループ全体のGHG排出量(スコープ1+2)は793,000トン-CO2​換算(tCO2e)であった。内訳は、スコープ1(直接排出)が28,000 tCO2e、スコープ2(間接排出、主に購入電力由来)が765,000 tCO2eである 。スコープ3(その他の間接排出)は882,000 tCO2eと推計され、スコープ1、2、3を合計した総排出量は1,675,000 tCO2eとなる 。日本国内におけるスコープ3排出量の主な内訳は、「購入した物品・サービス」が561,000 tCO2e、「資本財」が123,000 tCO2e、「燃料及びエネルギー関連活動(スコープ1, 2に含まれないもの)」が110,000 tCO2eなどとなっている 。  

GHG排出削減目標については、以下の通り設定されている。

  • 中期目標(2030年): 当初は2014年比でスコープ1+2排出量を33%削減(年平均2.5%削減)する目標であった 。しかし、2023年の報告書では、**2022年比でスコープ1+2排出量を29%削減(年平均4.2%削減)**するという新たな目標が設定された 。この目標基準年の変更と年間削減率の引き上げは注目すべき点である。  

  • 長期目標(2050年): スコープ1+2排出量を100%削減し、カーボンニュートラルを達成する 。  

2023年度の実績として、2014年基準でのスコープ1+2排出量を20.5%削減し、同年度の目標(20.4%削減)を達成したと報告されている 。ただし、これは旧基準年(2014年)に対する進捗であり、新基準年(2022年)に対する目標達成度については、今後の報告が待たれる。  

さらに、SUMCOグループは、パリ協定の目標達成に整合した科学的根拠に基づく削減目標を設定する国際的イニシアチブである**Science Based Targets initiative (SBTi)**に対し、コミットメントレターを提出し、受理されている 。今後、スコープ1、2に加え、スコープ3排出量の削減計画も策定し、SBTiの承認取得を目指すとしている 。承認後は、サプライヤーに対してもGHG排出削減を積極的に働きかける方針である 。  

2030年目標の基準年が2014年から2022年に変更された点 は、詳細な分析が必要である。削減率の目標値自体は33%から29%へと低下しているように見えるが、基準年が変わったこと、そして目標達成に必要な年平均削減率が2.5%から4.2%へと大幅に引き上げられていることから、短期的にはより野心的な削減ペースが求められている可能性が高い。これは、SBTiへのコミットメント や、最新の気候科学に基づく1.5℃目標達成への要請を反映した動きと考えられる。基準年の変更は長期的な進捗追跡を複雑にする可能性があるため、両基準年における絶対排出量(2014年基準: 821,000 tCO2e 、2022年排出量が必要)を比較し、目標の絶対的な野心度がどのように変化したかを評価することが望ましい。  

エネルギー効率と再生可能エネルギー利用

エネルギー効率に関しては、エネルギー使用原単位の削減目標が設定されている。当初は2014年比で2030年までに14.9%削減(年平均1%)であったが 、2024年の報告書では**2023年比で2030年までに6.8%削減(年平均1.0%)**へと更新された 。2022年度には、エネルギー使用原単位を2014年比で15.4%削減し、同年度の目標(7.7%削減)を大幅に上回る実績を上げた 。省エネルギーへの取り組みとして、生産工程の合理化・効率化、生産設備やユーティリティ設備更新時の省エネ・高効率機器の導入(例:冷却設備の更新)、LED照明への切り替えなどを継続的に実施している 。近年では、データサイエンス、IoT、AI技術を活用し、生産性向上と環境負荷低減の両立も追求している 。  

再生可能エネルギーの利用については、九州事業所(伊万里・久原)に発電能力2.3MWの太陽光発電設備を設置し、自家消費および売電を行っている 。また、非化石電力の購入も進めており、国内グループにおける購入量は2022年度に1.61 GWh 、2023年度には11.4 GWhへと増加した 。これにより、SUMCOグループ(国内)の**総電力使用量に占める再生可能エネルギー比率は、2022年度の0.11% から2023年度には0.75%**へと上昇した 。さらに、2023年12月には、長崎県西海市江島沖の洋上風力発電事業者として選定されており、将来的に同プロジェクトからのグリーン電力供給を受ける計画である 。  

気候変動対策への投資判断を促進するため、2022年1月よりインターナル・カーボンプライシング(ICP)制度を導入し、GHG排出量をコスト換算して環境投資の判断基準の一つとしている 。物流面では、海外向け製品の一部について、2009年から輸送リードタイムへの影響などを考慮しつつ、航空輸送から船舶輸送へのモーダルシフトを推進し、輸送に伴うCO2排出量とコストの削減を図っている 。加えて、2023年4月からは、日本の多様な主体が気候変動対策に取り組むネットワークである**気候変動イニシアティブ(JCI)**にも参加している 。  

SUMCOは明確なカーボンニュートラル目標を設定し、中期目標を更新するなど、気候変動対策への意識を示している 。しかしながら、エネルギー集約型産業である同社にとって、2050年のカーボンニュートラル達成 は極めて挑戦的な目標である。太陽光発電導入 やICP導入 、SBTiへのコミットメント といった取り組みは進められているものの、2023年時点での再生可能エネルギー比率(国内グループで0.75%) は、目標達成に必要な規模や、RE100を掲げる競合他社の動き と比較して著しく低い水準にある。これは、目標達成の実現可能性や移行のペースについて疑問を投げかけるものである。GlobalWafers、Siltronic、SK Siltronといった競合企業は明確なRE100目標を掲げており 、SUMCOは気候変動対策における認識や将来的な炭素コスト(TCFDリスク に関連)において、競争上の不利を被る可能性がある。最近の洋上風力発電プロジェクトへの関与 は前向きな動きであるが、その影響規模と実現時期については今後の評価が必要となる。  

資源循環

SUMCOは、事業活動における資源の効率的な利用と循環を重要な課題と捉え、水資源、廃棄物、化学物質の管理に取り組んでいる 。  

水資源管理

2022年度のSUMCOグループ全体の総給水量は22.4百万立方メートル(Mm3)、総排水量は18.9 Mm3であった 。水源別では、地表水が17.3 Mm3、地下水が3.8 Mm3、上水が1.3 Mm3となっている 。  

水リサイクル率は、2022年度に36.6%を達成した 。しかし、2023年度の実績としては36.1%とわずかに低下しており、その理由として生産増強投資の影響などが挙げられている 。水使用量の削減とリサイクルの取り組みとして、純水製造工程で発生する濃縮排水(リジェクト水)を冷却用水や排水処理薬品の希釈用水として利用したり、シリコンウェーハ洗浄に使用したリンス水を回収・再利用したりしている 。  

水消費量に関する目標として、**2020年比で2030年までに水使用原単位を10%削減(年平均1%削減)**することを掲げている 。この目標の最新状況については、2024年報告書での確認が必要である 。  

廃棄物管理

廃棄物管理においては、リサイクル率の向上が顕著である。産業廃棄物のリサイクル率は、2021年度の77.2%から2022年度には82.9%へと向上し 、さらに**2023年度実績では90.0%**に達した 。これは、廃油(廃スラリー液)、廃酸、廃アルカリ、廃プラスチックなどの有価物化やリサイクルを推進する取り組み が奏功していることを示唆している。具体的には、排水処理で発生する汚泥(スラッジ)削減のため注入薬品の最適化や、300mmウェーハ出荷梱包におけるリユースコンテナの使用(2022年使用率84.8%)なども進められている 。  

廃棄物管理に関する目標としては、「廃棄物の有価物化、リサイクル率向上」が定性的に掲げられている 。  

化学物質管理

SUMCOは、事業活動で使用する化学物質の削減に努めるとともに、有害な化学物質や廃棄物を徹底管理し、環境リスクの低減を図っている 。PRTR(化学物質排出移動量届出制度)法に基づき、届出対象物質(13物質)の排出量・移動量を測定し、適切に届け出ている 。また、RoHS指令やREACH規則といった海外の化学物質規制にも対応している 。具体的な取り組みとして、排水処理に使用する薬品を変更し、化学物質使用量の削減を図った事例がある 。顧客に対しては、安全データシート(SDS)を提供している 。  

資源循環の取り組みにおいて、SUMCOは特に廃棄物リサイクルで目覚ましい進捗を見せ、2023年には90.0%という高いリサイクル率を達成した 。これは、廃油や廃酸などの有価物化推進 が効果を上げている証左であり、定性的な目標 に沿った成果と言える。一方で、水リサイクル率は生産増強投資の影響を受けて2023年にわずかに低下した 。これは、製造業において成長と持続可能性の両立が常に課題であることを示している。「高く安定した水リサイクル率」 を維持するためには、生産能力拡大の際に水効率化策を積極的に組み込むことが不可欠である。  

生物多様性保全

SUMCOグループは、事業活動が生態系に直接的または間接的に影響を与えることを認識し、「SUMCO環境基本方針」に基づき、自然と調和した持続可能な社会の実現を目指している 。  

具体的な活動として、2022年および2023年には、主に国内の事業拠点がある地域を中心に、全国7ヵ所で生物多様性保全活動を実施した 。報告されている活動例は以下の通りである。  

  • 九州事業所(佐賀県伊万里市):絶滅危惧種であるカブトガニの保護活動への賛助 。  

  • SUMCO TECHXIV 長崎工場(長崎県大村市):工場周辺(大村ハイテクパーク)の清掃活動(従業員とその家族が参加)。  

  • SUMCO TECHXIV 宮崎工場(宮崎県宮崎市):椿山森林公園の管理協定締結と環境保護のための植樹活動 。  

  • SUMCOテクノロジー(千葉県野田市):近隣道路や工業団地内の清掃活動、江戸川クリーン大作戦への参加 。  

  • 米沢工場(山形県米沢市):近隣の「づさやま」(里山)における森林保全活動(間伐、施肥)への参加 。  

  • 千歳工場(北海道千歳市):「花いっぱいコンクール」への参加を通じた工場周辺の緑化推進活動 。  

  • SUMCO Taiwan Technology Corporation(台湾):国際海岸清掃活動(ICC)への協賛・参加(800kg以上のゴミを回収)。  

  • SUMCO Phoenix Corporation(米国):地域清掃活動「Litter Patrol」の定期的な実施 。  

  • SUMCOサポート株式会社:花壇造成活動 。  

SUMCOの生物多様性への取り組みは、現時点では清掃活動、植樹、特定の地域種への支援といった、地域社会貢献や局所的な保全活動が中心となっているように見受けられる 。一方で、事業活動の核心部分(例:新規工場建設時の土地利用に関する影響評価、サプライチェーンにおける生物多様性リスク管理など)と直接関連付けた、体系的な影響評価や緩和策に関する情報は、提供された資料からは限定的である。これは、ESG課題として生物多様性への注目が高まっている現状 を踏まえると、今後の強化が期待される領域である。報告されている活動 は地域社会との良好な関係構築や環境美化に貢献するものであるが、先進的な取り組みでは、敷地選定、原材料調達 、操業における水・土地管理戦略などに生物多様性の観点を統合し、バリューチェーン全体での直接的・間接的な影響を最小化することが求められる。SUMCOが正式な生物多様性影響評価を実施しているか、あるいは方針 に記載されている一般的な配慮を超えた具体的な目標を設定しているかについては、現状の情報からは不明確である。  

環境関連のリスクと機会

TCFDに基づく分析

SUMCOは気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)への賛同を表明しており 、その提言に基づいた情報開示を行っている 。気候変動に関するリスクと機会の特定、評価、管理は、取締役が委員長を務める環境管理委員会や、会長兼CEOなど経営トップが出席する事業保安委員会(BSC)といったガバナンス体制の下で行われている 。同社は気候変動を将来の財務に影響を与える重要な経営課題と位置づけ、財務的影響が大きいと想定されるリスクと機会について、予測・定量化およびシナリオ分析を実施している 。  

特定された主要なリスクと機会は以下の通りである 。  

リスク:

  • 移行リスク(規制・政策、市場、技術、評判など):

    • 半導体業界における競争激化による販売機会損失・調達コスト増:中長期、可能性(大)、影響度(大)

    • カーボンプライシング(炭素税など)導入による操業コスト増:中期~中長期、可能性(大)、影響度(中)

    • 循環型社会形成に伴う廃棄物処理コスト増:中長期、可能性(大)、影響度(中)

    • 再生可能エネルギー賦課金負担増による事業コスト増:短期~中長期、可能性(大)、影響度(中)

    • ESG投資拡大に伴う資本コスト増:中期、可能性(大)、影響度(小)

  • 物理的リスク:

    • 風水害による事業活動停止:短期、可能性(中)、影響度(小~大)

    • 風水害によるサプライチェーン寸断:短期、可能性(中)、影響度(小~大)

機会:

  • 資源効率: 省エネ・再エネ進展による省エネ関連機器の需要拡大:長期、可能性(大)、影響度(大)

  • 市場アクセス:

    • EV普及による自動車関連製品の需要拡大:中長期、可能性(大)、影響度(大)

    • テレワーク普及によるサーバー関連機器の需要増:中長期、可能性(大)、影響度(大)

    • 自動化・デジタル化進展による自動化関連機器の需要増:中長期、可能性(大)、影響度(大)

シナリオ分析:

国際エネルギー機関(IEA)の世界エネルギー見通し(WEO)2019年版に基づき、2℃シナリオ(持続可能な開発シナリオ - SDS)と4℃シナリオ(公表政策シナリオ - STEPS)を用いた分析が行われた 。  

  • 炭素税の影響: 2030年時点で、4℃シナリオでは年間約24億円、2℃シナリオでは年間約47億円のコスト負担増が見込まれる 。  

  • 再生可能エネルギーの機会: 再生可能エネルギー調達単価が炭素価格単価を下回れば、総コストが低減する可能性があり、再エネ導入拡大を検討する根拠となる 。  

  • パワー半導体需要: 2030年の2℃目標達成シナリオでは、4℃シナリオと比較して、エアコンインバーター需要は約1.3倍、電気鉄道車両生産は約1.2倍、太陽光・風力発電導入量は約1.5倍、製造業のエネルギー原単位は約7%低減すると推計される 。  

  • 自動車向けウェーハ需要: 2℃、4℃両シナリオともに2030年には需要が倍増以上と予測され、2℃シナリオでは4℃シナリオ比で約1.1倍の需要が見込まれる 。  

SUMCOのTCFD分析 は、カーボンプライシングや競争激化といった移行リスクが重大な財務リスクをもたらす可能性と、EVや省エネといった成長市場における機会を明確に示している。シナリオ分析によってこれらの影響が定量化されており、特に炭素税による潜在的なコスト増(最大年間47億円)や、特定用途での力強い市場成長予測は注目に値する。この分析は、脱炭素化への取り組みを怠ることが重大な財務リスクをもたらす一方で、積極的な関与が大きな成長機会を提供することを示唆している。炭素税リスクの定量化は、再生可能エネルギー導入加速(前述の課題認識と関連)への明確な財務的インセンティブを提供する。また、EV、サーバー、自動化、省エネ機器といった具体的な市場機会の特定は、気候変動トレンドに合わせた製品開発や販売戦略の妥当性を裏付けるものである。  

一方で、物理的リスク評価は風水害に焦点が当てられている 。これは関連性が高いものの、半導体製造とサプライチェーンのグローバルな性質 を考慮すると、水ストレスや異常高温といった他の慢性的な物理リスク(操業やサプライチェーンに影響を与える可能性のある)の影響を十分に捉えきれていない可能性がある。半導体産業は極めて水集約的であり 、主要な製造拠点(台湾、米国やアジアの一部など)における長期的な水不足や、猛暑によるエネルギー需要増・冷却効率低下といった慢性リスクは、重大な操業上の課題となりうる。現在のTCFD要約では捉えられていない脆弱性が、より包括的な物理リスク評価(様々な気候モデルと長期的な時間軸を考慮)によって明らかになるかもしれない。  

業界のベストプラクティス

半導体材料業界および関連する半導体製造業界では、環境負荷低減に向けた様々な先進的な取り組み(ベストプラクティス)が進められている。

気候変動対策

業界リーダーは、1.5℃目標に整合した野心的なGHG削減目標(SBTi認定を含む)を設定し、再生可能エネルギーの導入を積極的に進めている 。具体的には、RE100へのコミットメント、電力購入契約(PPA)の締結、大規模な自家発電設備の導入(太陽光、風力)などが見られる 。また、製造プロセスで使用される高GWPガス(PFCs, NF3​, N2O, HFCsなど)に対して、燃焼や化学変換による高度な除害(abatement)技術を導入し、高い除去効率(例:99%)を達成しようとしている 。サプライヤーエンゲージメントや製品自体のエネルギー効率向上を通じたスコープ3排出量の削減も重要な焦点となっている 。さらに、インターナル・カーボンプライシングの導入 や、よりGWPの低い代替プロセス化学物質の開発 も進められている。  

資源循環

水資源に関しては、クローズドループシステムなどを活用し、極めて高い水リサイクル率(例:一部のチップメーカーでは85%以上と報告)を達成することが目標とされている 。高度な排水処理技術による水の再利用も不可欠である。シリコンウェーハ自体についても、使用済みウェーハのリサイクルや再生(reclaim)技術が実用化されており、資源保全とコスト削減に貢献している 。廃棄物削減のためには、スマートマニュファクチャリングやデジタルツインといった技術を活用したプロセスの最適化 や、再利用可能な輸送容器への切り替え が有効である。原材料調達から製品ライフサイクル全体にわたるサーキュラーエコノミー原則の適用も重視されている 。  

生物多様性保全

先進的な企業では、事業所の立地選定や土地利用計画の段階から生物多様性への配慮を統合し、生物多様性影響評価を実施している 。法的な要求事項を超えた生息地の回復や保全プロジェクトへの投資も見られる 。また、サプライチェーンにおける生物多様性への影響(例:原材料採掘に伴う影響)に関する透明性を高める動きもある 。自然資本に関する研究や自然に基づく解決策(Nature-based Solutions)への支援も行われている 。  

これらの業界ベストプラクティスは、積極的な脱炭素化(RE100、高度除害技術)、高度な資源循環(水・ウェーハのリサイクル)、そして体系的な生物多様性への配慮の統合を強調している 。SUMCOの報告されている活動をこれらと比較すると、特に再生可能エネルギー導入の規模と、体系的な生物多様性管理のアプローチにおいて、改善の余地があることが示唆される。TSMC のようなリーダー企業や競合他社のRE100コミットメント は高い基準を設定している。SUMCOの現在の再生可能エネルギー比率 はRE100が目指す100%には程遠い。廃棄物リサイクルでは進捗が見られるものの 、水リサイクル率は低下しており 、他社が報告する高いリサイクル率 とは対照的である。生物多様性への取り組みも、TSMCが示すような核心戦略への統合 と比較すると、まだ発展途上にあるように見える。  

競合他社分析

主要競合企業

シリコンウェーハ市場は寡占化が進んでおり、SUMCOの主要な競合企業は、市場シェアに基づくと以下の企業が挙げられる 。  

  • 信越化学工業株式会社(Shin-Etsu Chemical Co., Ltd.)(日本):世界シェアトップ 。  

  • GlobalWafers Co., Ltd.(台湾):世界シェア3位。過去にSiltronicの買収を試みた経緯がある 。SUMCOの台湾におけるパートナー企業Formosa Sumco Technologyとは異なる独立した競合である 。  

  • Siltronic AG(ドイツ):世界シェア5位圏内 。  

  • SK Siltron Co., Ltd.(韓国):SKグループ傘下。世界シェア4位または5位 。  

市場シェアの推定値には情報源によって若干の変動があるが、2022年時点の売上高ベースの試算では、信越化学が約35%、SUMCOが約28%、GlobalWafersが約17%、Siltronicが約15%、SK Siltronが約14%程度とされている 。これら上位5社で市場の大部分(約90%)を占めている 。  

競合企業の環境への取り組みと比較

各競合企業の環境への取り組みについて、公開情報から得られた内容を以下に記述する。

  • 信越化学工業:

    • 気候変動: 2050年カーボンニュートラル目標を設定。中期目標として、生産高原単位でのGHG排出量を2025年度までに1990年度比45%削減、エネルギー消費原単位を年平均1%削減する目標を掲げる 。コージェネレーションシステム(群馬、直江津)や太陽光発電(群馬、武生、フィリピン)、PPA(群馬)を活用 。2023年度のスコープ1+2排出量は6,507千tCO2e 。CDP気候変動スコアは2023年度評価で「A-」を取得 。  

    • 資源循環: ゼロエミッション(最終埋立処分率1%以下)を目指し、2023年度の国内連結最終埋立率は1.08% 。水の再循環・再利用を推進し、嫌気性排水処理設備(直江津)では発生したメタンガスをボイラー燃料として利用 。PRTR対象物質管理、化学物質関連法規遵守を徹底 。  

    • 生物多様性: 基本方針で配慮を明記。具体的な活動として、工場での植林(ベトナム)や河川清掃(武生)を実施 。  

    • ESG評価: Sustainalytics ESGリスク評価は26.2(中リスク、化学セクター)。S&P Global ESGスコアは47/100(化学セクター)。MSCIレーティングに関する具体的な最新情報は不明だが、インデックス構成銘柄であることは確認 。  

  • GlobalWafers:

    • 気候変動: RE100に加盟し、2050年までにグループ全体で再生可能エネルギー利用率100%をコミット(中間目標:2030年20%、2035年35%、2040年50%)。2022年の再エネ利用率は約2.27% 。2019年比での電力・GHG原単位削減目標(例:2030年までに10%以上削減)を設定 。2022年のスコープ1+2排出量は約545千tCO2e 。インターナル・カーボンプライシングを導入 。SBTiの検討も表明 。自社太陽光発電所を保有し、デンマーク拠点は2024年後半、イタリア拠点の新ラインは2025年に100%グリーン電力化を目指す 。CDP気候変動スコアは2023年評価で「A-」を取得 。  

    • 資源循環: 2022年の総取水量は19,764 kM3。世界平均の水リサイクル率は21.01%(台湾地域は45.47%)。2022年の総廃棄物発生量は39,041トン、廃棄物リサイクル率は約89.8% 。RoHS, REACH, TSCA等に基づき化学物質を管理し、局所排気装置などを設置 。  

    • 生物多様性: 提供された資料内では、特筆すべき具体的な取り組みは見当たらない 。  

    • ESG評価: Sustainalytics ESGリスク評価は24.7(中リスク、半導体セクター)。S&P Global ESGスコアは59/100 。MSCIレーティングに関する具体的な最新情報は不明だが、インデックス構成銘柄であることは確認 。  

  • Siltronic AG:

    • 気候変動: 2045年ネットゼロ目標を設定。2030年目標として、スコープ1+2排出量を2021年比で42%削減、再生可能エネルギー比率60%達成を掲げる 。2024年実績は、排出量27%削減(2021年比)、再エネ比率19% 。PPAや自家消費型太陽光発電(米国)を導入 。SBTiへのコミットメントも言及 。スコープ3目標として、2030年までに主要サプライヤーの80%がSBTを持つことを目指す 。CDPスコアは2024年評価で気候変動「B」、水セキュリティ「A」を取得(2023年データに基づく)。  

    • 資源循環: 2030年目標として、水リサイクル率を2021年比で15%向上(10.6%へ)、廃棄物リサイクル率を同10%向上(80%へ)。2024年実績は、水リサイクル率10.5%(同+10.5%)、廃棄物リサイクル率67.0%(同+1.1%)。300mmウェーハの93%をリユーザブル容器で出荷 。  

    • 生物多様性: 提供された資料内では、特筆すべき具体的な取り組みは見当たらない 。  

    • ESG評価: Sustainalytics ESGリスク評価は21.8(中リスク、半導体セクター、2024年9月時点)。MSCI ESGレーティングは2024年に「BB」へ格上げ(2023年は「B」)。ISS-ESGで「Prime」評価を取得 。  

  • SK Siltron:

    • 気候変動: 業界で初めてRE100に加盟し 、2040年までのネットゼロ達成とRE100達成という野心的な目標を設定(国の目標より10年前倒し)。2022年には使用電力の19.5%を再生可能エネルギーで調達したと報告 。グリーンプレミアム購入も活用 。全ウェーハ製品でCarbon Trustによるカーボンフットプリント認証を取得 。TCFD報告書も発行 。親会社SKグループは2030年までに2億トンの炭素削減貢献目標を掲げる 。CDPスコアは2022年評価で気候変動・水管理の両分野で最高評価の「リーダーシップA」を取得 。  

    • 資源循環: 水の再利用や廃棄物リサイクルに注力している旨の言及はあるが 、具体的なリサイクル率などの2022/2023年データは提供された資料からは確認できない 。  

    • 生物多様性: 提供された資料内では、特筆すべき具体的な取り組みは見当たらない。

    • ESG評価: SustainalyticsやS&P Globalによる個別の評価は見当たらない。親会社SK Inc.はMSCI ESGレーティングで最高評価の「AAA」を取得している 。  

競合他社の状況を見ると、GlobalWafers、Siltronic、SK Siltronは、SUMCO(2050年目標)よりも野心的なネットゼロ目標(2040年または2045年)とRE100へのコミットメントを明確に打ち出している 。特にSK Siltronは2022年に約20%の再生可能エネルギー利用率を達成しており 、SUMCOの報告値 を大幅に上回っている。これは、SK Siltronがウェーハ業界における気候変動対策のリーダーとなる可能性を示唆し、SUMCOの取り組みペースに課題を提起するものである。GlobalWafers とSiltronic も明確なRE100ロードマップを示している。資源循環面では、信越化学が高い廃棄物最終埋立率の低減(1.08%) を達成している点が注目されるが、SUMCOも近年大幅な改善を見せている 。この比較分析は、SUMCOがステークホルダーからの圧力や競争上の不利に直面する可能性のある領域を浮き彫りにしている。  

また、提供された情報からは、SUMCOおよび主要競合他社のいずれにおいても、詳細かつ体系的な生物多様性保全への取り組みに関する公開情報が限定的である。これは、シリコンウェーハ業界全体として、気候変動や資源循環と比較して、生物多様性がまだ比較的新しい、あるいは透明性の低い課題であることを示唆している可能性がある。方針レベルでの言及 はあるものの、地域的な活動を超えた具体的な測定可能な行動に関する情報は乏しい 。世界的に生物多様性への関心が高まる中 、この分野での取り組み強化と情報開示が今後の課題となる可能性がある。  

環境スコアのベンチマーキング

主要なESG評価の比較分析

SUMCOおよび主要競合企業のESGパフォーマンスを客観的に評価するため、主要なESG評価機関(S&P Global, Sustainalytics, MSCI, CDP)によるスコアを比較分析する。なお、評価機関ごとに評価手法、対象範囲、評価時期が異なるため、スコアの解釈には注意が必要である。

  • S&P Global ESG Score (2024年10月15日時点):

    • SUMCO: スコアは54/100。Corporate Sustainability Assessment (CSA)に参加。データ利用可能性は「Very High」。次元別スコアは、環境62、社会56、ガバナンス44 。  

    • 信越化学工業: スコアは47/100(化学セクター)。CSAに参加。データ利用可能性は「High」。次元別スコアは、環境53、社会50、ガバナンス36 。  

    • GlobalWafers: スコアは59/100。CSAに参加。データ利用可能性は「Very High」。次元別スコアは、環境60、社会64、ガバナンス54 。  

    • Siltronic AG: S&P Globalの公開情報からはスコアが見当たらない。

    • SK Siltron: 個別のスコアは見当たらない。

  • Sustainalytics ESG Risk Rating (2023年後半~2025年初頭時点):

    • SUMCO: リスクスコアは30.0で「High Risk」区分。半導体セクター内順位は250位/377社。リスクエクスポージャーは「Medium」、リスクマネジメントは「Average」と評価 。  

    • 信越化学工業: リスクスコアは26.2で「Medium Risk」区分(化学セクター)。セクター内順位は150位/590社。リスクエクスポージャーは「Medium」、リスクマネジメントは「Strong」。  

    • GlobalWafers: リスクスコアは24.7で「Medium Risk」区分。半導体セクター内順位は151位/378社。リスクエクスポージャーは「Medium」、リスクマネジメントは「Strong」。  

    • Siltronic AG: リスクスコアは21.8で「Medium Risk」区分(2024年9月時点)。半導体セクター内順位は97位/377社。リスクエクスポージャーは「Medium」、リスクマネジメントは「Strong」。  

    • SK Siltron: 個別の評価は見当たらない。

  • MSCI ESG Rating:

    • SUMCO: 2018年のレポートでは「B」評価であった 。MSCI ACWI Small Cap Indexなどの構成銘柄であることは確認できる 。最新のレーティング(AAA~CCCスケール )は公開情報からは特定できないが、検索ツールでの確認が必要 。  

    • 信越化学工業: MSCIインデックスの構成銘柄 。最新評価は不明だが、企業側はインデックス組み入れを認識 。  

    • GlobalWafers: MSCIインデックスの構成銘柄 。最新評価は不明。  

    • Siltronic AG: 2024年に「BB」へ格上げ(2023年は「B」)。  

    • SK Siltron: 個別の評価は見当たらない。親会社SK Inc.は最高評価の「AAA」を取得 。  

  • CDP Scores (気候変動 / 水セキュリティ - 2023年/2024年評価):

    • SUMCO: SBTiへのコミットメントを通じてCDPへの関与が示唆されるが 、具体的な2023年/2024年のスコアは公開情報からは確認できない。ただし、台湾のパートナー企業であるFormosa Sumco Technologyは2023年評価で気候変動・水セキュリティともに「Aリスト」入りしている 。これはSUMCO本体の評価ではないが、関連情報として留意される。  

    • 信越化学工業: 2023年度評価(FY2023データ)で気候変動「A-」を取得 。  

    • GlobalWafers: 2023年評価で気候変動「A-」を取得 。  

    • Siltronic AG: 2024年評価(2023年データ)で気候変動「B」、水セキュリティ「A」を取得 。前年(2023年評価)は両分野とも「B-」であった 。  

    • SK Siltron: 2022年評価で気候変動・水管理の両分野で最高評価の「リーダーシップA」を取得 。  

これらのベンチマーキング結果から、SUMCOは主要な競合企業、特にGlobalWafersやSiltronicと比較して、主要なESG評価(S&P Global, Sustainalytics, MSCI, CDP)において概して後れを取っている状況がうかがえる。信越化学工業(化学セクターとして)やSK Siltron(親会社SK Inc.経由およびCDP評価)も特定の分野で高い評価を得ている。特に、SUMCOのSustainalyticsにおける「High Risk」評価 は、競合他社の「Medium Risk」評価と比較して懸念される点である。  

S&P Global 、Sustainalytics 、MSCI 、CDP の各評価において、競合企業がより良いスコアやリスクプロファイルを示すことが多い。GlobalWafersはS&P GlobalスコアでSUMCOを上回り 、Sustainalyticsのリスク評価も優れている 。SiltronicはSustainalyticsのリスク評価が大幅に優れており 、CDP水セキュリティで「A」評価を達成している 。SK SiltronはCDP気候変動・水セキュリティで「A」評価を得ており 、親会社SK Inc.はMSCI「AAA」評価を誇る 。このパターンは、SUMCOのESGマネジメントやパフォーマンスが、存在するものの、業界リーダーのペースに追いついていない可能性を示唆しており、投資家の認識や資本アクセス(TCFDリスク に関連)に影響を与える可能性がある。  

SUMCOがS&P CSAに参加していること は、ESG評価プロセスへの関与を示す前向きな兆候である。しかし、その結果としてのスコア(S&P Global: 54 )は、GlobalWafers(59 )を下回っており、Sustainalyticsによるマネジメント評価も「Average」 と、GlobalWafersやSiltronicの「Strong」 と比較して見劣りする。これは、SUMCOが情報開示を行っている一方で、その根底にあるマネジメントシステムやパフォーマンス結果が、これらの評価機関によって一部の主要競合他社ほど堅牢または効果的であるとは見なされていないことを示唆している。このことは、SUMCOが気候変動への移行や資源管理といった重要なESG分野において、戦略や実行体制を強化する必要性があることを裏付けている。  

現状の課題と推奨事項

SUMCOの環境課題評価

これまでの分析に基づき、SUMCOが直面している主要な環境課題を以下のように評価する。

  • 課題1:再生可能エネルギーへの移行加速の必要性: 2023年の国内グループにおける再生可能エネルギー利用率(0.75%) は、2050年カーボンニュートラル目標 の達成には不十分であり、RE100を掲げる競合他社の取り組み からも遅れをとっている。これはTCFD分析で特定された移行リスク(カーボンプライシング、競争激化) を増大させる可能性がある。  

  • 課題2:水循環性の強化: 目標設定 はされているものの、近年の水リサイクル率の微減 は、特に生産量増加局面において、より強固な水管理戦略が必要であることを示している。業界の高いベンチマーク と比較しても改善の余地がある。  

  • 課題3:生物多様性への配慮の深化: 現在の取り組みは地域貢献活動が中心であり 、ベストプラクティス で見られるような、影響評価やサプライチェーンへの配慮を含む体系的なアプローチが不足しているように見える。  

  • 課題4:ESG評価・認識の向上: 競合他社と比較して低いESGスコア [Insight 11, Insight 12] は、マネジメントの有効性やパフォーマンスに関する潜在的なギャップを示唆し、ステークホルダーの信頼や資本コスト に影響を与える可能性がある。  

  • 課題5:スコープ3排出量への対応: SBTiへのコミットメント は第一歩だが、半導体業界の排出量の大部分を占めることが多いスコープ3 について、特にサプライヤーを巻き込んだ削減計画の策定と実行は、複雑ながらも不可欠な課題である。  

  • 課題6:低コスト・国家支援型競合の台頭: 特に中国勢による国産ウェーハ(品質は劣る可能性があるが、政策的に使用が促される)を用いた低価格攻勢は、SUMCOの市場シェアや価格決定力に影響を与える可能性がある(特に成熟プロセス向け)。これは直接的な環境課題ではないが、ESG投資へのリソース配分に影響を与えかねない競争環境の変化である。  

将来に向けた戦略的提言

上記の課題評価に基づき、SUMCOが今後注力すべき戦略的な方向性として、以下を提言する。

  • 提言1:明確な再生可能エネルギーロードマップの策定: 2050年カーボンニュートラル目標と競合他社のペースに整合するよう、再生可能エネルギー調達(PPA、証書)および直接投資(自家消費型/オフサイト型太陽光・風力、長崎沖洋上風力プロジェクト の活用)を大幅に拡大するための詳細かつ期限付きの計画を策定する。2030年までに20%超など、野心的な中間目標を設定する。  

  • 提言2:設備投資への水効率性の統合: 将来の生産能力拡大計画 全てにおいて、水リサイクル技術や効率化技術を積極的に組み込み、リサイクル率の低下を防ぎ、2030年の水消費量目標 達成に向けた着実な進捗を確保する。高度な水処理技術の導入も検討する。  

  • 提言3:体系的な生物多様性管理の導入: 主要拠点や新規プロジェクトについて、正式な生物多様性影響評価を実施する。バリューチェーンにおける影響(例:重要鉱物の責任ある調達、ただしウェーハメーカーとしての直接的影響は限定的)を緩和するための戦略を策定する。地域活動を超えた、測定可能な生物多様性目標を設定する。

  • 提言4:ESG情報開示とエンゲージメントの強化: ESGマネジメントプロセスとパフォーマンスに関する透明性を向上させ、特にTCFDのリスク・機会や競合ベンチマークとの関連性を明確にする。ESG評価機関と積極的に対話し、認識されているギャップに対処し、進捗状況を効果的に伝達する。

  • 提言5:スコープ3行動計画の加速: SBTiの承認後 、主要サプライヤー(材料、装置、物流)とのエンゲージメントを優先し、GHG削減努力を促す。低炭素材料の代替案を模索し、物流最適化に関する協力を推進する。  

  • 提言6:長期契約と技術リーダーシップの強化: 競争圧力 に対抗するため、顧客との長期供給契約(LTA) を強化し、品質と技術的差別化が最重要となる最先端・高付加価値ウェーハの研究開発に注力する。その際、サステナビリティ性能を付加価値として訴求することも検討する。  

結論

SUMCOの環境パフォーマンスの総括と将来展望

SUMCOは、確立された環境マネジメントシステム 、カーボンニュートラルを含む明確な環境目標(GHG、エネルギー、水)、そして特に廃棄物リサイクルにおける着実な進捗 を示している。TCFD提言への整合性を意識したリスク・機会分析も実施している 。  

しかしながら、本報告書の分析は、いくつかの重要な課題も浮き彫りにした。再生可能エネルギーへの移行ペース、生産量増加局面における水循環性の一貫性、生物多様性への体系的なアプローチ、競合他社と比較した場合のESG評価、そしてスコープ3排出量への対応である。

結論として、SUMCOは環境保全プログラムの基盤を有しているものの、自社の目標達成、ステークホルダーの期待への対応、業界リーダー に対する競争力の維持、そして特定された気候関連リスク の緩和のためには、特に再生可能エネルギー導入と生物多様性への取り組みにおいて、行動を加速させることが極めて重要である。これらの課題に積極的に取り組むことは、同時に、特定された市場機会 を捉えることにも繋がるであろう。持続可能な社会への貢献と企業価値の持続的な向上の両立を目指す上で、これらの環境課題への対応は、SUMCOの将来戦略の中核を成すべきである。

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