本報告書は、LIXIL株式会社(以下、LIXIL)の環境戦略、特に「気候変動」「資源循環」「生物多様性」の3分野における取り組みと実績を包括的に分析し、同社の環境スコア算定に資する詳細情報を提供するとともに、学術的レベルの報告書を作成することを目的とする。LIXILは、住まいと暮らしに関わる製品・サービスを提供するグローバル企業として、その事業活動が環境に与える影響の大きさを認識し、持続可能な社会の実現に向けた取り組みを強化している。本報告書の分析範囲には、LIXILの具体的な環境施策、それに伴う潜在的なリスクと事業機会、建材・住宅設備業界における環境先進事例、LIXILが直面する現状の課題と将来に向けた推奨事項、さらには主要な競合他社の環境戦略およびパフォーマンスとの比較、環境評価スコアのベンチマーキングが含まれる。
学術的な厳密性とESG(環境・社会・ガバナンス)評価の実用性という二つの要請に応えるため、本報告書では、LIXILが開示している各種報告書、データブック、ウェブサイト情報などを網羅的に調査し、定性的および定量的な側面から深掘りした分析を行う。特に、LIXILの環境パフォーマンスを客観的に評価するため、具体的な目標値、達成状況、第三者機関による評価などを重視する。また、企業が公表する情報だけでなく、その背景にある戦略的意図や業界全体の動向、さらには地球規模での環境課題との関連性についても考察を加えることで、多角的な視点からの評価を目指す。
なお、本報告書におけるデータ比較やベンチマーキング結果の提示は、すべて記述形式で行い、図表や箇条書きは用いない。この制約は、情報を物語的に展開し、文脈の中での理解を深めることを意図している。そのため、各データの詳細な説明と、それがLIXILの環境戦略全体の中でどのような意味を持つのかについての解説に注力する。
LIXILの環境経営の根幹を成すのは、2050年を見据えた長期的な指針である「環境ビジョン2050」である。このビジョンは、「Zero Carbon and Circular Living(CO2ゼロと循環型の暮らし)」の実現を最終目標として掲げている。この包括的な目標達成のため、LIXILは三つの主要な柱を設定している。第一に「気候変動対策を通じた緩和と適応」、第二に「水の持続可能性の追求」、そして第三に「資源の循環利用の促進」である。これらの柱は、LIXILが事業活動を通じて環境負荷を低減し、持続可能な社会の構築に貢献するための具体的な行動領域を示している。特に、事業プロセス全体および製品・サービスのライフサイクルを通じてCO2排出量を実質ゼロにすること、そして水という貴重な資源の恩恵を最大限に活かしつつ、限りある天然資源を保全し次世代へと継承していくという強い意志が表明されている。
このビジョンの名称「Zero Carbon and Circular Living」自体が、本報告書の主要テーマである「気候変動」と「資源循環」を明確に結びつけており、これら二つの領域がLIXILの環境戦略において特に高い優先度を持つことを示唆している。一方で、もう一つの主要テーマである「生物多様性」は、ビジョンの名称には直接的には含まれていないものの、「水の持続可能性の追求」や「資源の循環利用の促進」といった柱の中に深く関連する要素として組み込まれていると考えられる。例えば、水資源の保全は水生生物の生息環境維持に不可欠であり、森林資源などの持続可能な利用は陸上生態系の保護に直結する。このように、生物多様性の保全は、他の二つの柱と密接不可分な関係にあると理解される。
さらに、LIXILはこのビジョンを通じて、単に環境規制を遵守する企業に留まらず、環境分野における「リーディングカンパニー」となることを目指している。この野心的な目標は、LIXILが環境課題への対応をリスク管理の一環としてだけでなく、新たな事業機会の創出源として捉えていることを示している。実際に、LIXILは「私たちの製品を通じて、環境に配慮した持続可能な暮らしを経験していただき、その価値を知っていただくことも大切です」と述べており、自社製品を介して消費者のライフスタイル変革を促し、環境配慮型社会への移行を加速させる役割を担おうとしている。これは、環境への貢献と企業価値向上を両立させる戦略的アプローチと言えるだろう。
LIXILにおけるサステナビリティの推進は、強固なガバナンス体制によって支えられている。環境課題を含むサステナビリティ全般に関する監督責任は取締役会が負っており、経営の最上位レベルでのコミットメントが確保されている。具体的な戦略策定や実行計画の審議は執行役会で行われ、その内容は四半期ごとに取締役会へ報告される。取締役会は、報告された目標、実行計画、進捗状況などを多角的に議論し、監督機能を果たす。さらに、社外取締役全員で構成されるガバナンス委員会においても、気候変動、自然資本、生物多様性を含む環境課題に関する報告と協議が行われ、客観性と透明性の高い意思決定プロセスが担保されている。
環境戦略の具体的な推進を担う組織として、Chief Environmental Impact Officer(環境インパクト最高責任者)が議長を務める「環境戦略審議会」が設置されている。この審議会は、環境ガバナンスに関わる方針や規程の制定、環境課題への具体的な施策の審議、そしてLIXIL全体の環境目標達成に向けた進捗管理などを担当する。ここで協議された内容は、インパクト戦略委員会を通じて決議され、四半期ごとに執行役会に報告される。執行役会は、これらの報告に基づき重要課題に対する目標や実行計画を協議・承認し、取締役会は半期ごとにその進捗報告を受け、議論・監督を行うという階層的かつ連携の取れた体制が構築されている。このような専門的かつ高位の審議会の存在は、環境問題への取り組みが経営戦略の中核に据えられ、単なる部門レベルの活動ではなく、全社的な重要事項として扱われていることを示している。
LIXILは、自社の事業活動と社会・環境との関連性を踏まえ、取り組むべき重要課題(マテリアリティ)を特定している。これには、本報告書の主要テーマである「気候変動対策を通じた緩和と適応」「資源の循環利用の促進」「生物多様性の保全」が含まれている。また、「水の持続可能性の追求」も重要な柱として位置づけられている。特筆すべきは、「生物多様性の保全」が2023年3月期に重要課題として新たに追加された点である。この事実は、LIXILが環境課題に対する認識を継続的に更新し、グローバルな動向や社会からの要請に応じて戦略の優先順位を柔軟に見直していることを示している。近年、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の枠組みが整備されるなど、企業に対する自然資本や生物多様性への配慮と情報開示の要求が高まっている。LIXILがTNFDの早期導入企業(Early Adopter)として登録し、LEAP分析を開始したことからも、この新しい潮流への積極的な対応姿勢がうかがえる。生物多様性が比較的新しく重要課題として明示されたことは、この分野における具体的な取り組みや詳細な情報開示が、気候変動や資源循環といった長年取り組んできた課題と比較して、まだ発展途上である可能性を示唆している。今後の取り組みの深化と成果の具体化が期待される。
LIXILの環境への取り組みと情報開示の質は、複数の権威ある外部機関から高い評価を受けている。これらの評価は、同社の環境パフォーマンスを客観的に測る上での重要な指標となる。例えば、日本の環境省が主催する「第4回ESGファイナンス・アワード・ジャパン」において、「環境サステナブル企業」に初めて選定された。この賞は、環境関連の重要な機会とリスクを企業価値向上に向けた経営戦略に取り込み、透明性の高い充実した開示を行っている企業を表彰するものであり、LIXILの継続的なESGへの取り組みと情報開示の質が認められた結果と言える。国内の政府機関からのこのような評価は、日本国内におけるステークホルダーからの信頼獲得やブランドイメージ向上に大きく寄与する。
国際的な評価においても、LIXILは顕著な成果を上げている。S&P Global社が実施するCorporate Sustainability Assessment(CSA)に基づく「The Sustainability Yearbook 2025」において、LIXILは全評価対象企業7,690社以上のうち、各産業グループの上位1%にランクインした企業に与えられる「Top 1% S&P Global CSA Score」の評価を獲得した。この評価を受けた企業は世界でわずか65社、うち日本企業は9社であり、LIXILがグローバルな基準で見ても極めて高いレベルのサステナビリティ経営を実践していることを示している。特に2025年の評価では、環境側面でのスコアが大幅に向上したと報告されており、継続的な改善努力が実を結んでいることがわかる。
さらに、CDP(旧カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)による評価では、2024年のスコアリングにおいて「気候変動」および「ウォーターセキュリティ」の両分野で「A-」という高い評価を獲得した。「A-」評価はCDPのスコアリングシステムにおいて「リーダーシップ」レベルに位置づけられ、環境課題に対する先進的な取り組みと情報開示を行っている企業に与えられるものである。これは、LIXILが気候変動緩和策と水資源管理において、国際的なベストプラクティスを導入し、実質的な成果を上げていることを裏付けている。「フォレスト」に関するCDPスコアについては、現時点では公表情報が確認されていないが、生物多様性保全への取り組み強化に伴い、将来的にはこの分野での評価も注目される。これらの国内外からの高い評価は、LIXILが環境戦略の策定、実行、そして透明性の高い情報開示というサイクルを効果的に回している証左であり、投資家や顧客をはじめとする多様なステークホルダーからの信頼を醸成する上で重要な役割を果たしている。
LIXILは、気候変動問題への対応を経営の最重要課題の一つと捉え、野心的な温室効果ガス排出量削減目標を設定し、その達成に向けて具体的な取り組みを進めている。同社は、2050年までに事業プロセスおよび製品・サービスからのCO2排出量を実質ゼロにするという長期目標を掲げており、この目標は科学的根拠に基づく目標設定イニシアチブであるSBTi(Science Based Targets initiative)から「ネットゼロ認定」を日本の建材業界で初めて取得している。この認定は、LIXILの脱炭素化への道筋がパリ協定の目標と整合的であり、科学的に妥当であることを国際的に認められたことを意味し、同社の気候変動に対する本気度とリーダーシップを示すものである。
この長期目標達成のための中間目標として、LIXILは2031年3月期までに、自社グループの事業活動に伴う直接排出(Scope1)とエネルギー使用に伴う間接排出(Scope2)の合計量を、2019年3月期比で50.4%削減することを掲げている。さらに、サプライチェーン全体での排出量(Scope3)についても、同期間内に30%削減するという目標を設定している。これらの目標は、SBTiの「1.5℃水準」に整合するものであり、地球温暖化を産業革命前と比較して1.5℃に抑えるという国際的な努力目標に貢献するものである。
これらの目標に対する進捗状況として、2024年3月期の実績では、Scope1およびScope2のCO2排出量は2019年3月期比で34.7%削減され、Scope3のCO2排出量も同21.6%削減された。これは、中間目標達成に向けて順調に進捗していることを示しており、LIXILが導入している各種削減策が効果を上げていることの証左である。特にScope3排出量は、製造業にとってその大部分を占め、かつ管理が難しい領域であるが、ここでも着実な削減が進んでいる点は評価できる。しかしながら、Scope3排出量の削減は、原材料調達から製品の使用、廃棄に至るバリューチェーン全体の変革を必要とするため、今後もサプライヤーとの連携強化や製品使用段階でのエネルギー効率向上など、継続的かつ多岐にわたる取り組みが一層求められる。
LIXILは、事業活動におけるCO2排出量削減の主要な手段として、再生可能エネルギーの導入拡大と徹底した省エネルギー活動を両輪で推進している。同社は、事業で使用する電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指す国際的な企業イニシアチブ「RE100」に加盟しており、このコミットメントは脱炭素化への強い意志を示すものである。2024年3月期におけるLIXIL全体の再生可能エネルギー比率は28.3%であり、目標達成に向けて着実に歩を進めている。しかし、100%達成にはまだ道半ばであり、特にグローバルに展開する多数の生産拠点において、各地域の再生可能エネルギー市場の状況や導入コストなどを考慮しながら、導入を加速していく必要がある。
具体的な再生可能エネルギー導入策としては、国内外の生産拠点において、敷地内に太陽光発電設備を設置するオンサイトPPA(電力購入契約)モデルや、敷地外の発電所から専用線で電力を調達するオフサイトPPAモデルを積極的に活用している。これにより、初期投資を抑えつつ、長期的に安定した価格で再生可能エネルギーを確保することを目指している。既にGROHEブランドの工場を含む海外10拠点では、使用電力を100%再生可能エネルギーに切り替えるなど、先進的な取り組みも見られる。国内においても、複数の工場で太陽光発電設備が稼働している。
省エネルギー活動においては、工場やオフィスでのエネルギー効率改善を継続的に実施している。これには、生産プロセスの見直しによるエネルギー消費量の削減、高効率な設備(例:コンプレッサー、集塵機)への更新、エネルギーロスを最小化するための運用改善などが含まれる。また、化石燃料から天然ガスへの燃料転換や、熱源の電化なども進めている。有明工場では石油系燃料から天然ガスへの切り替えを実施した。さらに、将来の脱炭素化を見据え、水素エネルギーの利用や、排出されたCO2を分離・回収し有効活用するCCU(Carbon Capture and Utilization)技術といった次世代技術についても、導入に向けた検討や実証試験を開始しており、長期的な視点での技術開発にも取り組んでいる。これらの多角的なアプローチは、LIXILが短期的な目標達成だけでなく、持続的な排出量削減体制の構築を目指していることを示している。
LIXILは、自社の事業活動における排出量削減(Scope1、2)に留まらず、製品やサービスを通じて社会全体のCO2排出量削減(Scope3カテゴリ11、製品使用時の排出)に貢献することを極めて重視している。建材・住宅設備メーカーとして、製品が使用される段階でのエネルギー消費量が環境負荷の大部分を占めることを認識し、省エネルギー性能の高い製品の開発・普及に注力している。
その代表例が、高い断熱性能を持つ窓製品である。例えば、TOSTEMブランドの高性能ハイブリッド窓「TW」は、屋外側に高強度・高耐久なアルミ、室内側に高断熱で結露を軽減する樹脂を採用し、Low-Eトリプルガラスと高性能ガス入り二重中空層を組み合わせることで、業界トップクラスの断熱性能を実現している。一般的な単板ガラス窓と比較して熱流出を約8割抑制でき、新築住宅におけるCO2排出削減効果は37%にも達すると試算されている。LIXILは、日本国内の新築戸建住宅向け高性能窓の販売構成比率を2026年3月期までに100%とする目標を掲げており、2024年3月期には既に93%を達成するなど、目標達成は目前である。これは、市場における高性能窓の需要の高まりと、LIXILの製品供給力・販売戦略が噛み合った結果と言える。
水まわり製品においても、節湯水栓や節水型トイレの普及を通じて、給湯エネルギーの削減や水使用量の削減に貢献している。これらの製品についても、日本国内での販売構成比率を2031年3月期までに100%とする目標を設定しており、2024年3月期には節湯水栓が94.1%、節水型トイレが99.4%と、極めて高い達成率を示している。INAXブランドの「ナビッシュハンズフリー(エコセンサー付き)」のような製品は、利便性と省エネ・節水を両立させている。
さらに、新築市場だけでなく、既存住宅の省エネ化も重要な課題と捉え、高性能住宅工法「まるごと断熱リフォーム」を提供している。これは、既存住宅の構造躯体を活かしつつ、壁・床・天井・開口部などの断熱性能を総合的に向上させるものであり、建て替えに比べて解体時の廃棄物を削減しつつ、住宅のエネルギー効率を大幅に改善できる。この工法の一部である「スーパーウォール工法リフォーム」は、2021年度の省エネ大賞「資源エネルギー庁長官賞」を受賞するなど、その効果と革新性が外部からも高く評価されている。日本の住宅ストックの約8割が現行の省エネ基準を満たしていないという現状を踏まえれば、このようなリフォームソリューションの提供は、国のカーボンニュートラル目標達成に向けて非常に大きな意義を持つ。
加えて、LIXILは気候変動の「適応」策にも貢献する製品群を開発・提供している。台風や豪雨といった自然災害の激甚化に対応するための窓シャッターや雨戸、夏の猛暑による室内熱中症リスクを軽減するための外付け日よけ「スタイルシェード」、災害時にも使用可能な「レジリエンス トイレ」などがその例である。これらの製品は、気候変動がもたらす物理的リスクから人々の安全・安心な暮らしを守る上で重要な役割を果たす。
LIXILは、気候変動が事業に与える財務的な影響を適切に評価し、経営戦略に統合することの重要性を認識し、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言に2019年3月に賛同を表明している。この枠組みに基づき、同社は気候変動に関連するリスクと機会の特定・評価、そしてそれらが事業、戦略、財務計画に及ぼす影響について、透明性の高い情報開示を積極的に進めている。
具体的には、短期・中期・長期の時間軸で、気候変動が自社のバリューチェーンや社会全体にもたらす「移行リスク」と「物理リスク」を特定するためにシナリオ分析を実施している。分析にあたっては、政策移行の影響が大きい「1.5℃シナリオ」と、物理的な影響が大きい「4℃シナリオ」の二つを想定し、それぞれのシナリオ下での事業環境の変化を予測している。2022年3月期には、事業への影響が大きいと想定されるリスクと機会を特定し、2030年における財務影響を可能な範囲で定量化した。さらに2023年3月期には、気候変動との関連性が高い水や資源に関わる戦略との統合的な管理にも着手しており、より包括的なリスク・機会管理体制の構築を進めている。
LIXILが特定した主要な気候変動関連リスクには、規制リスクとして炭素税導入による操業コストの増加、物理リスクとして台風や洪水、渇水などによる自社工場の被災や操業停止に伴う売上機会の喪失、市場リスクとして気候変動を背景とした原材料・部材調達コストの増加などが挙げられている。これらのリスクは、製造業であるLIXILの事業継続性や収益性に直接的な影響を及ぼす可能性がある。
一方で、気候変動はLIXILにとって新たな事業機会ももたらす。例えば、新築住宅におけるZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の普及や既築住宅の省エネリフォーム市場の拡大に伴う、高性能断熱窓やドア、省エネ設備・サービスへの需要増加が期待される。また、節水・水質改善に貢献する水まわり製品や、低炭素材料を利用した製品、資源の環境性に配慮した製品への需要も高まると予測している。さらに、激甚化する自然災害に対応するための災害対策・復興商材の需要増加も機会として捉えている。
これらのシナリオ分析を通じて特定されたリスクと機会への対応策は、LIXILの環境戦略および事業戦略に具体的に反映されている。これにより、事業の持続的な成長を確保し、将来的なリスクを低減するとともに、企業としてのレジリエンス(強靭性)向上を目指している。LIXILは、経営戦略の優先課題の一つとして「環境戦略の事業戦略への統合」を掲げており、企業価値の向上と社会・地球環境へのインパクト拡大の両立を追求する姿勢を明確にしている。TCFD提言に基づく情報開示の充実は、投資家をはじめとするステークホルダーとの建設的な対話を促進し、LIXILの気候変動戦略への理解と信頼を高める上で不可欠な要素となっている。
LIXILは、「Zero Carbon and Circular Living」という環境ビジョンの下、「資源の循環利用の促進」を重点領域の一つと位置づけ、バリューチェーン全体での持続可能な資源利用と廃棄物削減に取り組んでいる。具体的な目標として、2026年3月期までに、グローバル全体の事業所から排出される廃棄物のリサイクル率を90%にすることを掲げている。この目標に対し、2024年3月期の実績ではリサイクル率92.8%を達成しており、目標を前倒しでクリアする見込みである。この高いリサイクル率は、LIXILの廃棄物管理システムが効果的に機能していることを示しており、継続的な改善努力の成果と言える。
個別の工場レベルでも顕著な成果が報告されている。例えば、名張工場では、従来廃棄物として処理されていた木屑をバイオマス燃料として外部のバイオマス事業者に売却するスキームを構築し、木屑廃棄物の排出ゼロを実現した。これは、廃棄物を有価物へと転換する先進的な事例である。また、メキシコのアグアスカリエンテス工場では、衛生陶器製造時に使用した石膏型のリサイクルを開始し、リサイクル率を前期の49.6%から84.0%へと大幅に向上させた。同じくメキシコのサンタクララ工場でも汚泥のリサイクルなどを開始し、リサイクル率を前期の16.6%から54.9%に改善した。LIXIL Housing Technology(LHT)のベトナム工場では、汚泥を含む工場廃棄物のリサイクル率を2022年3月期の63.3%から2024年3月期には99.4%へと飛躍的に向上させている。これらの事例は、各拠点の特性に応じた創意工夫と地道な努力が、グローバルな目標達成に貢献していることを示している。
廃棄物削減の取り組みは、生産プロセス内に留まらない。LIXILは、製品の梱包に使用される使い捨てプラスチックパッケージの削減にも注力している。エンドユーザーが廃棄するプラスチックパッケージについて、環境配慮型資材への代替や梱包材自体の使用量削減などを推進している。例えば、GROHEブランドでは「Less Plastic Initiative」を掲げ、2023年3月期に梱包材からプラスチックを完全に排除した。国内では、キッチンと浴室の取扱説明書のパッケージを、海洋生分解性を有するバイオプラスチックへと切り替える取り組みも行っている。これらの活動は、プラスチックごみ問題という地球規模の課題への貢献を目指すものである。ただし、バイオプラスチックについては、そのライフサイクル全体での環境負荷や適切な廃棄・回収システムの整備といった課題も残されており、今後の動向を注視する必要がある。
LIXILは、新規に投入する資源を最小化し、循環型経済への移行を加速するため、リサイクル材の積極的な利用と、資源効率の高い循環型製品の開発に力を入れている。特にアルミニウムは、LIXILの主要な製品群であるサッシやドアなどに多用される重要な素材であり、そのリサイクルはCO2排出量削減と資源保全の両面で大きな効果をもたらす。同社は長年にわたりアルミ資材のリサイクル技術開発に取り組み、業界でもトップクラスのアルミリサイクル使用比率を誇る。2024年3月期には、ハウジング事業で使用されるアルミ形材におけるリサイクルアルミの使用比率は78%に達しており、2031年3月期までにこの比率を100%にするという野心的な目標を掲げている。この目標達成に向けた画期的な製品として、原材料の100%にアルミリサイクル材を使用した低炭素型アルミ形材「PremiAL R100」を開発し、2024年3月期からビル用形材での展開を開始した。この「PremiAL R100」は、新たな地金から製造した製品と比較して約80%のCO2排出量削減に貢献するとされ、第三者検証による環境ラベル「SuMPO EPD(旧:エコリーフ)」も取得しており、その環境性能の高さが客観的に示されている。
プラスチックや木材についても、リサイクル材の活用が進んでいる。LIXILの人工木デッキは、基材部の原料に、製造工程で発生する木粉や木くずと、自治体が回収・再生した再生プラスチックを100%使用した環境配慮設計となっている。また、樹脂窓の分野では、工場内で発生する樹脂端材のリサイクルシステム構築や分別設備導入を進め、窓から窓へのマテリアルリサイクルを目指し、樹脂材の有効利用・循環利用を推進している。
さらに、LIXILは従来リサイクルが困難とされてきた廃プラスチックの課題解決にも挑戦している。廃プラスチックと廃木材を融合させた独自の循環型素材「レビア(Revia)」を開発した。この素材は、従来は焼却・埋め立て処分されたり、熱回収されたりしていた様々な種類の廃プラスチックを再資源化するものであり、CO2排出量の削減にも貢献する。2023年3月期には、この「レビア」を使用した第一弾製品として、舗装材「レビアペイブ」を発売した。これは、廃棄物を新たな価値ある製品へと転換するアップサイクルの好例であり、LIXILの技術開発力と環境問題へのコミットメントを示すものである。
国際的な基準への対応も進んでいる。ドイツを拠点とするGROHEブランドでは、サーキュラーエコノミーの実現に長年取り組んでおり、原材料の安全性、原料の再利用、再生可能エネルギー利用とCO2排出管理、責任ある水管理、社会的な公正さといった厳しい基準を満たした製品に与えられる国際的な環境認証「Cradle to Cradle®」のゴールド認証を4つの製品で取得している。これらの製品では、真鍮の最大80%にリサイクル材を使用するなど、高いレベルでの循環性が実現されている。GROHEブランドの工場における廃棄物の再資源化率は99%以上に達しており、極めて高い資源効率を達成している。このような国際認証の取得は、グローバル市場におけるLIXIL製品の競争力強化にも繋がる。
LIXILは、個々の製品におけるリサイクル材の使用率向上や廃棄物削減に留まらず、製品のライフサイクル全体、すなわち原材料の調達から生産、販売、施工、使用後の回収、そして再製品化に至るまでのバリューチェーン全体を俯瞰した資源循環システムの構築を目指している。これは、真のサーキュラーエコノミーを実現するための包括的なアプローチであり、自社単独の努力だけでは達成が難しく、政府や自治体、業界団体、ビジネスパートナーといった多様なステークホルダーとの連携が不可欠となる。
この壮大な構想の具体的な取り組みの一つとして、樹脂窓の「窓から窓へ」のマテリアルリサイクルシステムの構築が進められている。これは、使用済みの樹脂窓を回収し、再び樹脂窓の原料として再生利用することを目指すものであり、資源を高い品質レベルで循環させるクローズドループリサイクルの実現に向けた挑戦である。このようなシステムを社会実装するためには、効率的な回収網の整備、高度な選別・再生技術の開発、そして再生材を用いた製品の品質確保など、多くの課題を克服する必要がある。LIXILは、これらの課題解決に向けて、関係各所との協働を深めている。
また、製品設計の段階から資源循環を意識することも重要である。LIXILは、「製品寿命の長期化」や「再利用に配慮した設計」を推進している。製品が長く使われることは、それ自体が資源消費の抑制に繋がり、廃棄物の発生を遅らせる効果がある。さらに、製品が寿命を迎えた際に、部品の交換や修理が容易であったり、素材ごとに分解しやすくリサイクルに適した設計であったりすることは、資源循環の効率を大幅に高める。この考え方は、LIXILの環境ビジョン「Zero Carbon and Circular Living」における「循環型の暮らし」の実現にも寄与するものであり、単にモノを売るのではなく、長く快適に使い続けられる価値を提供しようとする姿勢の表れである。
さらに、ビジネスモデルの変革を通じた資源循環の促進も視野に入れている。例えば、オフィス等で使用される可動式アメニティブース「withCUBE」は、レンタル・リース契約での提供を中心としており、製品の所有権をLIXILが保持し続けることで、製品のライフサイクル全体での資源投入量やエネルギー消費、廃棄物の削減に繋げている。このような「製品のサービス化(Product as a Service: PaaS)」の考え方は、資源循環型ビジネスモデルへの移行における有望な選択肢の一つであり、LIXILが他の製品分野でも同様のモデルを展開していく可能性を示唆している。これらの取り組みは、LIXILが単なる製品メーカーから、持続可能な社会システムを構築するソリューションプロバイダーへと進化しようとしていることを示している。
LIXILは、自社の事業活動が広範な生態系サービスに依存しており、同時にそれらに影響を与え得る存在であることを深く認識している。この認識に基づき、同社は生物多様性の保全に関する明確な方針を策定し、事業活動に伴う負の影響を可能な限り最小限に抑制するとともに、自然環境に対して積極的にプラスの貢献(ネイチャーポジティブ)を果たすような事業活動やソリューションの提供を推進することを目指している。具体的には、生物多様性の損失をできる限り低減し、自然共生社会の実現に貢献することを目標としている。
しかしながら、LIXILの生物多様性保全に関する取り組みは、気候変動対策や資源循環の推進と比較すると、まだ発展途上の段階にある側面も見受けられる。一部の開示資料においては、具体的な数値目標や詳細な活動事例に関する情報が限定的であるとの指摘もなされている。これは、生物多様性の保全がLIXILの重要課題として正式に位置づけられたのが2023年3月期と比較的最近であることと関連している可能性がある。重要課題としての認識が深まるにつれて、より具体的な戦略、目標設定、そして実行計画が策定され、開示されていくことが期待される。
現状の取り組みとして特に注力されているのは、サプライチェーンにおける生物多様性リスクの管理である。LIXILは、原材料の調達段階における環境・社会リスクを特定し、サプライヤーとの協働を通じて責任ある調達を推進している。これは、建材・住宅設備メーカーとして、木材や鉱物資源といった自然由来の原材料を多く使用することから、サプライチェーン上流での環境負荷、特に森林破壊や鉱山開発に伴う生態系への影響が生物多様性に対する主要なリスクとなり得るためである。同社の「調達先行動指針」には、「環境汚染による生活基盤の破壊」や「土地の権利の不法な立ち退き」といった、生物多様性や地域社会の人権に負の影響を及ぼす可能性のある行為を禁止する項目が含まれており、サプライヤーに対してもこれらの遵守を求めている。今後、TNFD提言に基づくLEAP分析の深化とともに、これらの調達方針がより具体的に生物多様性保全策として強化されていくことが予想される。
LIXILは、生物多様性を含む自然資本に関するリスクと機会を経営戦略に統合するため、国際的な枠組みであるTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の提言への対応を積極的に進めている。同社は、TNFDフォーラムに参画するとともに、2024年1月にはTNFDの提言に早期に賛同し情報開示を行う「TNFD Early Adopter」として登録された。これは、自然関連課題への取り組みにおいて先進的な企業グループの一員となる意志を示すものである。
TNFD提言への対応の中核となるのが、LEAP(Locate, Evaluate, Assess, Prepare)アプローチに基づいた分析の実施である。LIXILは、このLEAP分析を2024年3月期の環境戦略審議会で討議・決定し、既に具体的な分析作業を開始している。この分析では、まず事業活動と自然との接点を特定する「Locate(発見)」フェーズにおいて、特に影響が大きいと考えられるアルミニウムと木材を対象原材料として選定した。そして、バリューチェーンの上流(原材料調達・加工)と直接操業(自社工場)における自然への依存度と影響度、ならびに生物多様性の観点から優先的に対応すべき地域(影響を受けやすい地域)の特定を進めている。この特定には、ENCORE(Exploring Natural Capital Opportunities, Risks and Exposure)のようなツールや、TNFDが推奨するデータベースが活用されている。
続く「Evaluate(診断)」フェーズでは、特定された依存と影響のメカニズムを詳細に分析し、事業活動が自然資本へ与える具体的な影響経路を整理している。例えば、アルミニウムに関しては原材料の採掘や加工時における自然への影響が大きく、木材に関しては原材料を伐採する森林における自然資本への依存が大きいといった評価がなされている。
さらに「Assess(評価)」フェーズでは、これらの依存・影響関係から生じうる中長期的な自然関連のリスクと機会を特定する。これには、TNFDが提示するシナリオや、リスク事例データベース(例:RepRisk)などが参照され、事業内容や事業地域を考慮した上で、優先的に取り組むべき重要なリスクと機会を絞り込んでいる。
最終的な「Prepare(準備)」フェーズでは、特定されたリスクと機会に対応するための戦略を策定し、目標設定、行動計画の立案、そしてモニタリング体制の構築と情報開示を行う。LIXILが発行した「TCFD・TNFD提言に基づく情報開示レポート 2024年版」は、このPrepareフェーズの一環として、これまでの分析結果や今後の対応方針を開示するものと位置づけられる。
このLEAP分析の導入とTNFDへの早期対応は、LIXILが生物多様性保全を含む自然関連課題を、単なる環境保護活動としてではなく、事業の持続可能性と企業価値に直結する経営マターとして捉え、データに基づいた戦略的なアプローチで取り組もうとしていることを明確に示している。今後、この分析結果が具体的な調達方針の改定や事業戦略の見直し、さらには新たなネイチャーポジティブな製品・サービスの開発へと繋がっていくことが期待される。
LIXILの環境戦略において、「水の保全と環境保護」は、気候変動対策や資源循環と並ぶ3つの優先取り組み分野の一つとして明確に位置づけられている。この分野での取り組みは、水資源の持続可能な利用を確保するだけでなく、水に依存する生態系の健全性を維持し、ひいては生物多様性の保全にも大きく貢献するものである。
LIXILは、製造プロセスで水を使用する全世界83ヶ所の全工場を対象に、水リスク調査を毎年実施している。この調査では、各拠点が直面する水ストレスの状況、渇水リスク、洪水リスク、水質汚染リスクなどを評価し、地域の実情に応じた適切な水管理策を講じている。特に水ストレスが極めて高いと評価された地域(例えばメキシコ、中国大陸、インド、タイの生産拠点)では、原材料に含まれる水を分離・回収して再利用したり、排水処理に砂ろ過やイオン交換装置などを導入して処理水の再利用率を高めたりするなど、水使用量の削減と効率的な利用を徹底している。これらの取り組みにより、事業活動に必要な水を安定的に確保しつつ、地域の水環境への負荷を最小限に抑える努力が続けられている。2031年3月期までに水使用効率を2019年3月期比で20%向上させるという目標も設定されている。
製品開発においても、水資源保全への貢献はLIXILの重要なテーマである。節水型トイレや節湯水栓、スマートコントローラーといった革新的な製品を通じて、消費者が日常生活で使用する水の量を大幅に削減することを目指している。具体的な目標として、これらの節水製品の普及により、2025年3月期までに世界で年間20億立方メートルの水使用量削減に貢献することを掲げている。この目標は、水資源の枯渇が懸念される地域において、極めて大きな環境価値を生み出すものである。
さらに、LIXILは、科学的根拠に基づいた自然関連目標の設定を支援する国際的なイニシアチブであるSBTN(Science Based Targets Network)のコーポレートエンゲージメントプログラムにも参画している。このプログラムへの参加を通じて、水リスク評価に関する指針策定に貢献するなど、グローバルな水問題解決に向けた先進的な取り組みにも関与している。これは、LIXILが自社の水戦略を、地球環境の保全というより大きな文脈の中で位置づけ、科学的な知見に基づいたより効果的な対策を追求しようとする姿勢の表れである。
これらの水に関する多岐にわたる取り組みは、河川流量の維持、地下水位の保全、水質汚染の防止などを通じて、水生生物や水辺の生態系、さらにはそれらに依存する陸上生物の生息環境を守ることに繋がる。したがって、LIXILの水戦略は、生物多様性保全戦略と表裏一体の関係にあり、両者を統合的に推進していくことが、ネイチャーポジティブな社会の実現に向けた同社の貢献を最大化する鍵となるだろう。
LIXILは、TCFD提言に基づく詳細な分析を通じて、気候変動が自社事業に及ぼす多岐にわたる潜在的リスクと、それに伴う新たな事業機会を特定している。これらのリスクと機会の認識は、同社の長期的な経営戦略および環境戦略の策定において極めて重要な要素となっている。
気候変動に関連する主要なリスクとして、まず規制リスクが挙げられる。具体的には、各国政府による炭素税の導入や排出量取引制度の強化など、カーボンプライシングメカニズムの進展による製造コストやエネルギーコストの増加が想定される。これは、LIXILのグローバルな生産体制において、操業コストを押し上げる要因となり得る。次に物理リスクとして、気候変動に起因する異常気象の頻発化・激甚化が指摘されている。台風や集中豪雨による洪水、あるいは長期的な旱魃による渇水などが発生した場合、国内外の生産工場が被災し、操業停止やサプライチェーンの寸断を引き起こす可能性がある。これにより、製品供給の遅延や機会損失が生じ、売上や収益に直接的な打撃を与えることが懸念される。LIXILがグローバルに多数の製造拠点を有することを考慮すると、これらの物理リスクへの対応は事業継続計画(BCP)の観点からも喫緊の課題である。さらに市場リスクとして、気候変動の影響による農作物不順や資源採掘の困難化などが、原材料や部材の調達コストを高騰させる可能性も認識されている。
一方で、気候変動はLIXILにとって大きな事業機会ももたらす。最も直接的な機会は、省エネルギー性能に優れた製品・サービスへの需要拡大である。世界的に脱炭素化への動きが加速する中、住宅や建築物におけるエネルギー効率の向上は必須の要請となっている。LIXILが強みを持つ高断熱窓、高効率給湯器、節水型トイレ、太陽光発電システムといった製品群は、まさにこの需要に応えるものであり、市場の拡大が期待される。特に、新築住宅におけるZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)基準の義務化や、既存住宅の省エネリフォームへの補助金制度などは、LIXILの関連製品の販売を力強く後押しするだろう。また、水不足や水質汚染が深刻化する地域が増えるにつれて、節水技術や水質改善に貢献する製品・ソリューションへの需要も高まると予測される。LIXILの先進的な水まわり技術は、この分野でも競争優位性を発揮できる可能性がある。さらに、低炭素型アルミニウムのような環境配慮型素材を使用した製品や、資源循環に貢献する製品への市場評価も高まっており、これらの製品開発・供給は新たな収益源となり得る。加えて、自然災害の増加に対応するための防災・減災製品や、被災地の迅速な復旧・復興に貢献する建材・設備への需要も、気候変動適応の観点から拡大が見込まれる。LIXILの製品ポートフォリオは、これらの気候変動に関連する市場のニーズに幅広く対応できる潜在力を有しており、環境戦略と事業戦略を効果的に連携させることで、これらの機会を最大限に活用し、持続的な成長を実現することが可能となる。
地球規模での資源制約の顕在化と、持続可能な社会システムへの移行を目指す循環型経済への転換は、LIXILのような製造業にとって、看過できないリスクと同時に、革新を促す事業機会をもたらしている。
リスク側面では、まず原材料価格の高騰と供給の不安定化が挙げられる。有限な天然資源への依存度が高い事業構造を持つ場合、資源の枯渇懸念や地政学的リスク、あるいは採掘・精製プロセスにおける環境規制の強化などが、原材料の安定調達を困難にし、コストを大幅に押し上げる可能性がある。また、製品のライフサイクル全体での環境負荷に対する責任が問われる中で、廃棄物の処理コストの増大や、最終処分場の逼迫といった問題も深刻化している。さらに、循環型経済への移行を促すための新たな規制導入もリスク要因となる。例えば、欧州を中心に検討が進む「デジタル製品パスポート」制度は、製品の素材構成やリサイクル可能性、環境フットプリントといった詳細な情報の開示と追跡を求めるものであり、これに対応できない企業は市場からの退出を迫られる可能性すらある。LIXILも、フランスや北欧市場での製品パスポート導入の動きを認識し、EPD(環境製品宣言)規格での準備を進めているが、グローバルな規制動向への迅速かつ適切な対応は継続的な課題となる。
しかし、これらの課題は裏返せば新たな事業機会の宝庫でもある。LIXILは、リサイクル材利用技術の高度化によって、この機会を積極的に捉えようとしている。例えば、100%アルミリサイクル材を使用した低炭素型アルミ形材「PremiAL R100」の開発は、バージン材への依存を低減し、CO2排出量を大幅に削減するとともに、環境意識の高い顧客からの需要を獲得する上で大きな強みとなる。同様に、従来はリサイクルが困難であった廃プラスチックと廃木材を原料とする循環型素材「レビア」と、それを用いた舗装材「レビアペイブ」の開発は、廃棄物を価値ある資源へと転換するイノベーションであり、新たな市場を切り開く可能性を秘めている。これらの循環型製品の開発・市場投入は、LIXILの技術力と環境へのコミットメントを内外に示し、競争優位性を確立する上で重要な役割を果たす。
さらに、資源効率の改善は、直接的なコスト削減にも繋がる。製造プロセスにおける原材料使用量の削減、エネルギー効率の向上、廃棄物の削減と再資源化率の向上は、生産コストを低減し、収益性を高める。また、製品設計の段階から長寿命化、修理可能性、分解・リサイクル容易性を考慮するエコデザインを徹底することは、製品ライフサイクル全体での資源消費量を最小化し、顧客満足度の向上にも貢献する。LIXILのGROHEブランドにおけるCradle to Cradle®認証製品の展開は、このような循環型設計思想を具現化したものであり、高い環境性能とデザイン性を両立させることで、持続可能性を重視する市場セグメントでのブランド価値を高めている。このように、資源制約と循環型経済への移行は、LIXILにとって既存のビジネスモデルを見直し、より持続可能で強靭な事業構造へと変革するための触媒となり得る。
生物多様性の損失と自然資本の劣化は、気候変動と並び、地球環境における喫緊の課題であり、LIXILの事業活動にも多大な影響を及ぼす可能性がある。同社はTNFD提言に基づくLEAP分析を通じて、これらの自然関連リスクと機会の特定・評価を進めている。
リスクとしては、まず原材料調達における生態系劣化による供給不安が挙げられる。LIXILが使用する主要原材料の一つである木材は、違法伐採や持続可能でない森林管理が行われた場合、森林生態系の破壊や生物多様性の損失に直結する。これにより、木材の安定供給が脅かされるだけでなく、企業の評判失墜や規制強化のリスクも高まる。同様に、アルミニウムの原料であるボーキサイトの採掘は、大規模な土地改変を伴い、地域の生態系に深刻な影響を与える可能性がある。これらの調達地の環境問題が深刻化すれば、サプライチェーンの寸断やコスト増に繋がる恐れがある。また、水資源の減少も大きなリスクである。気候変動による降水パターンの変化や、地域の過剰な水利用は、LIXILの工場操業に必要な工業用水の確保を困難にし、生産活動に支障をきたす可能性がある。さらに、生物多様性保全に関する国内外の法規制が強化される傾向にあり、これらに適切に対応できない場合は、罰金や操業停止といったペナルティを科されるリスクも存在する。
一方で、生物多様性保全への意識の高まりは、LIXILにとって新たな事業機会も創出する。消費者の間で、環境負荷の低い、持続可能な方法で生産された製品への関心が高まっている。例えば、適切に管理された森林から産出された認証木材を使用した製品や、採掘プロセスにおける環境・社会影響を最小限に抑えた鉱物資源を使用した製品は、環境意識の高い顧客層からの支持を得やすくなる。LIXILが、サプライチェーン全体でのトレーサビリティを確保し、生物多様性に配慮した原材料調達を徹底することで、製品の付加価値を高め、市場での競争力を強化することができる。また、水資源の保全に貢献する節水型製品や、自然由来の素材を活かした製品開発なども、ネイチャーポジティブな市場の拡大とともに成長が期待できる分野である。さらに、TNFDに基づく情報開示を積極的に行うことで、投資家や金融機関からの評価を高め、ESG投資の呼び込みや有利な資金調達に繋がる可能性もある。
LIXILは、LEAP分析を通じて特定されたこれらのリスクと機会を踏まえ、具体的な対応戦略の策定を進めている。特に、影響が大きいと評価されたアルミニウムと木材については、調達方針の見直しやサプライヤーエンゲージメントの強化を通じて、生物多様性への負の影響を低減し、持続可能な調達体制の構築を目指している。このプロセスにおいて、自然資本への依存度と影響度を定量的に評価し、事業戦略に統合していくことが、将来にわたる企業価値の維持・向上にとって不可欠となる。
建材・住宅設備業界では、地球温暖化対策が喫緊の課題となる中、各社がCO2排出量削減に向けた革新的な技術開発と戦略的取り組みを加速させている。LIXILもSBTネットゼロ認定を取得するなど先進的な目標を掲げているが、業界全体の動向を俯瞰することで、さらなる施策のヒントや将来の方向性が見えてくる。
例えば、建設業界においては、コンクリート製造時に大量のCO2を排出するという課題に対し、鹿島建設株式会社はCO2を吸収・固定するコンクリート「CO2-SUICOM(シーオーツースイコム)」を開発・実用化している。この技術は、セメントの一部を高炉スラグや石炭灰といった産業副産物に代替することで製造時のCO2排出を抑制し、さらに炭酸化反応を利用してコンクリート自体が大気中のCO2を吸収するという画期的なものである。このようなカーボンネガティブ技術は、建材そのものが脱炭素化に貢献するという新たな可能性を示している。
エネルギー創出の分野では、パナソニック株式会社が次世代太陽電池として期待される「ペロブスカイト太陽電池」の開発を進め、これを建材と一体化させることで、建物の壁面や窓など、従来は設置が難しかった場所でも発電を可能にしようとしている。これが実現すれば、都市部における再生可能エネルギー導入の選択肢が大幅に広がり、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)やLCCM(ライフ・サイクル・カーボン・マイナス)住宅の普及を一層後押しすることになるだろう。
燃料転換の動きも活発である。米国のKohler社は、自社製のディーゼルエンジン発電機において、HVO(Hydrotreated Vegetable Oil:水素化植物油)と呼ばれる再生可能ディーゼル燃料への対応を進めている。HVOは、廃食油や植物油などを原料とし、従来の軽油と比較してCO2排出量を最大90%削減できるとされており、既存のインフラを活用しながら脱炭素化に貢献できる技術として注目されている。Kohler社はさらに、将来のエネルギー源として水素燃料電池システムの開発も行っており、排出ガスゼロのバックアップ電源ソリューションを提供しようとしている。
戦略面では、スイスのGeberit社が気候変動対策を事業運営の中核に据えている点が注目される。同社は、CO2排出量に対して社内で価格を設定するインターナル・カーボンプライシング(ICP)制度を導入し、投資判断の際にCO2排出コストを考慮に入れている。2023年の社内炭素価格は1トンあたり80ユーロと、欧州排出量取引制度(EU ETS)の市場価格を参考に設定されており、実効性の高いものとなっている。さらに、通貨調整後売上高あたりのCO2排出量を年間5%削減するという明確な原単位目標を設定し、その進捗を厳格に管理している。これらの取り組みの結果、同社は2015年比でCO2原単位を大幅に削減している。同様に、TOTO株式会社も社内炭素価格を1トンあたり20,000円と設定し、CO2排出量の増減を伴う大型設備投資の判断材料として活用している。LIXILにおいてもICP制度の検証が進められているが、これらの先進企業のように制度を本格導入し、経営判断の根幹に組み込むことで、より効果的な脱炭素投資の促進が期待できる。
これらの事例は、材料技術の革新、エネルギー源の多様化、そして戦略的な社内制度の導入といった多岐にわたるアプローチが、気候変動対策において重要であることを示している。LIXILがこれらの動向を参考に、自社の強みを活かした独自の革新的技術開発や戦略展開をさらに推進することが望まれる。
資源循環型社会への移行は、建材・住宅設備業界にとって避けて通れない課題であり、各社は独自の資源循環モデルの構築やサステナブルマテリアルの活用に積極的に取り組んでいる。これらの先進事例は、LIXILの今後の戦略展開において有益な示唆を与えるだろう。
まず、製品の長寿命化と維持管理による資源効率の向上という観点では、旭化成ホームズ株式会社の取り組みが参考になる。同社は、戸建住宅「ヘーベルハウス」において、引き渡し後の定期点検サービスの無償提供期間を従来の30年間から60年間に延長するなど、建物の長寿命化を支援する体制を強化している。これは、適切なメンテナンスによって建物の耐久性を高め、解体に伴う産業廃棄物の発生を抑制するという、資源循環の基本的な考え方に合致するものである。
次に、再生材や未利用材の積極的な活用事例として、パナソニック ハウジングソリューションズ株式会社の取り組みが挙げられる。同社は、環境配慮型木質床材「サステナブルフロアー™」において、製造工程で発生する端材や、従来は利用価値が低いとされてきた未利用材を原料として有効活用している。さらに、売上の一部を森林整備活動に寄付することで、資源の循環と森林保全の両立を目指している。また、東南アジアなどで大量に発生するアブラヤシの廃果房(EFB)や空果房(PKS)といった農業廃棄物を原料とした再生木質ボード化技術「PALM LOOP™」を開発し、これを建材として製品化している。これは、未利用バイオマス資源の新たな価値を創出し、熱帯雨林の保護にも貢献し得る革新的な取り組みである。
製造廃棄物のアップサイクルにおいては、米国のKohler社の「WasteLAB®」が注目される。このイニシアチブでは、衛生陶器の製造工程で発生する陶器くずや釉薬かす、鋳物工場から出る鋳物砂やスラグといった、従来は埋め立て処分されていた可能性のある多様な産業廃棄物を原料として、デザイン性の高いタイルや洗面ボウルなどの製品へと生まれ変わらせている。WasteLAB®の製品は、そのユニークな背景ストーリーと高い意匠性から市場で評価されており、廃棄物を価値ある資源へと転換するだけでなく、新たな収益源をも創出している。Kohler社はまた、鋳鉄製バスタブなどの製品において、リサイクル材を80%以上使用するなど、製品への再生材利用も積極的に進めている。
欧州のGeberit社は、製品開発の初期段階から環境配慮を組み込む「エコデザイン」原則を2007年から一貫して適用している。原材料の選定から製造、使用、廃棄に至る製品ライフサイクルの各段階で環境負荷を評価し、あらゆる新製品が前世代品よりも環境性能で優れていることを目指している。具体的には、再生プラスチックの利用拡大に努めており、自社工場内で発生するプラスチック廃棄物のほぼ100%を内部でリサイクルし再利用している。さらに、購入する再生プラスチック(ポストコンシューマー廃棄物由来)の製品への使用比率向上にも取り組んでいる。同社はまた、製品の耐久性と修理可能性を重視し、隠蔽型タンクセラミック部品の50年間のスペアパーツ供給保証を打ち出すなど、製品の長寿命化を通じた資源循環にも貢献している。
建材業界全体を見渡すと、竹、ヘンプクリート(麻と石灰を混合した建材)、再生鋼材、再生プラスチックを利用した建材ブロック、さらには鉄鋼ダストを原料とするFerrock(フェロック)や、キノコの菌糸体を利用したマイセリウム建材、木材の透明化技術、おがくずと粘土を混ぜた断熱材など、革新的なサステナブルマテリアルの開発と利用が世界各地で進んでいる。これらの材料は、従来の建材と比較して、製造時のエネルギー消費量やCO2排出量が少ない、あるいは炭素を固定する、再生可能である、軽量で施工性に優れる、断熱性が高いといった様々な利点を有しており、持続可能な建築の実現に貢献すると期待されている。
これらの事例は、LIXILが既に進めているアルミリサイクル材「PremiAL R100」や循環型素材「レビア」といった取り組みをさらに発展させる上でのヒントとなるだろう。特に、未利用バイオマス資源の活用、製造廃棄物のより高付加価値なアップサイクル、そして製品のサービス化や長寿命化を通じたビジネスモデルの変革といった視点は、LIXILの資源循環戦略を一層深化させる可能性を秘めている。
生物多様性の保全とネイチャーポジティブ(自然再興)への貢献は、企業にとってますます重要な課題となっている。建材・住宅設備業界においても、サプライチェーンを通じた影響の管理や、直接的な保全活動、資金提供といった多様な形で貢献を目指す動きが見られる。これらの事例は、LIXILが生物多様性保全戦略を具体化していく上で参考となるだろう。
TOTO株式会社は、生物多様性への配慮を調達方針に組み込んでいる。特に、主力商品の原材料である土石原料(粘土、長石、珪石など)および木質材料について、「持続可能な原料調達基準」を設け、サプライヤーに対して環境・生態系への影響に配慮した対応を求めている。土石原料については、採掘完了区域での森林再生の実施状況や、採掘くずによる水質汚染防止策などを定期的に確認している。木質材料については、合法性が証明された木材・木材製品の利用を基本とし、トレーサビリティの確保に努めている。2017年以降、合法材と再生材の比率は100%を維持している。また、国内外の工場敷地内や周辺地域での植林活動も継続的に実施しており、2023年度には国内外で合計19,000本以上の植樹を行った。さらに、「TOTO水環境基金」を通じて、市民団体による水環境保全活動や水源涵養林の保全活動を支援しており、間接的に生物多様性の保全に貢献している。
スイスのGeberit社は、自社のセラミック製品の製造過程で避けられないCO2排出量をオフセットする手段として、国際的な気候保護団体myclimateと連携し、タンザニアにおける森林保護プロジェクトを支援している。このプロジェクトは、ヤエダ渓谷の原生林を保護し、違法伐採や密猟を防ぐとともに、そこに生息するライオン、チーター、ゾウといった多くの絶滅危惧種の保護を目指すものである。さらに、森林と共に暮らす先住民コミュニティの持続可能な森林管理能力の向上や生活支援も行っており、CO2削減、生物多様性保全、地域社会への貢献という三重の便益(トリプルベネフィット)を生み出している。Geberit社は、特定のバスルームコレクション製品の売上から得た資金をこのプロジェクトに投じており、顧客に対しても環境貢献への参加を促す形となっている。
パナソニック ハウジングソリューションズ株式会社では、環境配慮型木質床材「サステナブルフロアー™」の売上の一部を森林整備活動に寄付する取り組みを行っている。これは、製品の販売を通じて直接的に森林保全に資金を提供するモデルであり、消費者が製品選択を通じて環境貢献に参加できる仕組みを提供している。また、旭化成ホームズ株式会社は、環境省の「エコ・ファースト制度」の認定企業として、生態系ネットワークの再生・保全を積極的に推進することを約束しており、事業活動を通じて生物多様性への配慮を深めていく方針を示している。
これらの事例は、サプライチェーンにおける責任ある原材料調達の徹底、事業拠点周辺や原材料調達地における直接的な生態系保全・再生プロジェクトの実施、NGOや地域社会とのパートナーシップを通じた資金的・技術的支援、そして製品販売と連動した環境貢献スキームの構築など、企業が生物多様性保全に貢献するための多様なアプローチが存在することを示している。LIXILがTNFD LEAP分析を進め、自社の事業と自然との関わりを深く理解する中で、これらの先進事例を参考に、より具体的かつ効果的な生物多様性保全戦略を策定し、実行していくことが期待される。特に、グローバルなサプライチェーンを持つLIXILにとっては、原材料調達におけるトレーサビリティの向上と、調達地域での生態系保全への積極的な関与が重要な鍵となるだろう。
TOTO株式会社(以下、TOTO)は、LIXILの主要な国内競合企業の一つであり、水まわり製品を中心に事業を展開し、環境配慮型製品の開発と持続可能な社会への貢献を長年にわたり追求してきた企業である。同社の環境戦略は、2030年までの中期経営計画「TOTO WILL2030」において、「環境」を「きれいと快適・健康」「人とのつながり」と並ぶ3つのマテリアリティ(重要課題)の一つとして明確に位置づけ、具体的な目標と取り組みを推進している。
気候変動対策において、TOTOは2050年のカーボンニュートラル実現を掲げ、そのマイルストーンとしてSBTイニシアチブから科学的根拠に基づく削減目標の認定を受けている。当初は「2℃を十分に下回る水準(WB2℃)」の認定であったが、2024年3月にはこれを更新し、より野心的な「1.5℃水準」の認定を取得した。具体的な目標として、事業所からのCO2排出量(Scope1およびScope2)を2030年度までに2021年度比で47.5%削減、商品使用時のCO2排出量(Scope3カテゴリ11)を同25%削減することを掲げている。2023年度の実績では、Scope1・2排出量は2021年度比で約28%削減、Scope3排出量は同約5%削減と報告されており、目標達成に向けた取り組みが進んでいる。再生可能エネルギーの導入にも積極的で、国際イニシアチブ「RE100」に2021年4月に加盟し、2040年までに事業活動で使用する電力を100%再生可能エネルギーとすることを目指している。2023年度の再生可能エネルギー電力比率は36.8%であった。また、気候変動が財務に及ぼす影響を分析し、CO2排出量削減に資する設備投資を促進するため、インターナル・カーボンプライシング(ICP)制度を導入しており、社内炭素価格を1トンあたり20,000円と設定している。
資源循環の推進においては、TOTOの伝統的な強みである節水技術が中心的な役割を果たしている。同社は、大便器の洗浄水量を大幅に削減する技術開発を継続しており、製品ライフサイクル全体での水使用量削減に大きく貢献している。事業所における水のリサイクル率向上や、製造工程から排出される陶器屑、廃木材、廃プラスチックを新たな素材として再利用する実証事業にも取り組むなど、廃棄物の削減と有効活用にも注力している。例えば、温水洗浄便座部品の工程端材を再生プラスチックとして自社製品に再利用するポストインダストリアルリサイクル(PIR)材料の開発を進めている。
生物多様性の保全に関しては、「地球環境方針」の中で生物多様性の保全と持続可能な利用に取り組むことを明記している。サプライチェーンにおける配慮として、主力商品の原材料である土石原料および木質材料について「持続可能な原料調達基準」を設け、生産地の環境・生態系への影響に配慮した調達を推進している。具体的には、土石原料の全供給鉱山に対して定期的な調査を実施し、採掘完了区域での森林再生状況などを確認している。木質材料については、合法材と再生材の比率100%を2017年以降維持している。また、国内外での植林活動や、「TOTO水環境基金」を通じた地域社会の環境保全活動支援も継続的に行っている。
外部評価としては、CDPの気候変動および水セキュリティの分野において、2023年度はそれぞれ「B」スコアを獲得している。過去にはより高い評価を得ていた時期もあり、継続的なパフォーマンス向上が期待される。TOTOの環境への取り組みは、製品の環境性能向上を核としつつ、生産プロセスでの負荷低減、サプライチェーン管理、社会貢献活動をバランス良く組み合わせている点に特徴がある。特に、長年にわたる節水技術の蓄積と、それをグローバルに普及させる力は、同社の大きな強みと言えるだろう。
パナソニック ホールディングス株式会社(以下、パナソニック)は、多岐にわたる事業を展開するグローバル企業であり、その中で住宅設備や建材事業を担うのがパナソニック ハウジングソリューションズ株式会社である。パナソニックグループ全体として、2050年を見据えた長期環境ビジョン「Panasonic GREEN IMPACT」を掲げ、自社事業活動におけるCO2排出量実質ゼロ(ファクトリーゼロ)と、社会全体のCO2排出量削減への貢献インパクトの創出を目指している。
パナソニック ハウジングソリューションズ社は、このグループ全体のビジョンに基づき、具体的な環境目標を設定している。特に気候変動対策では、2030年度までに自社工場およびオフィスのScope1・2におけるCO2排出量を実質ゼロにすることを目指している。この目標達成のため、再生可能エネルギーの活用と省エネルギー活動を積極的に推進している。再生可能エネルギーについては、群馬工場において製造工程で発生する木屑や木粉を燃料とするバイオマスボイラーを導入し、蒸気や電力を回収しているほか、栗東工場では太陽光発電設備の導入を進めている。省エネルギー活動としては、全工場での高効率設備への更新、エネルギーロスの削減、塗料硬化工程でのLEDランプへの切り替えなど、多岐にわたる取り組みが行われている。
製品を通じた環境貢献も重視しており、業界最高クラスの断熱性能を持つ真空断熱ガラス「グラベニール」や、再配達削減に貢献する宅配ボックス「コンボ」などを開発・提供している。これらの製品は、住宅のエネルギー効率向上や物流におけるCO2排出量削減に寄与する。また、パナソニックグループの強みであるIoT技術を活用し、家庭内のエネルギー管理システム「AiSEG2」を通じて、住宅全体のエネルギー消費の最適化や太陽光発電の効率的な利用を支援するソリューションも提供しており、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)やLCCM(ライフ・サイクル・カーボン・マイナス)住宅の実現に貢献している。
資源循環の分野では、環境配慮型木質床材「サステナブルフロアー™」が代表的な取り組みである。この製品は、バイオマス塗料の採用や、廃材・未利用材の再利用に加え、売上の一部を森林整備に寄付するという仕組みを取り入れている。また、リフォーム市場向けには、再生材利用樹脂を材料に混錬した薄型フローリング「ウスイータ」を提供している。さらに、アブラヤシの廃果房などの未利用バイオマス資源を原料とする再生木質ボード化技術「PALM LOOP™」を開発し、これを建材として製品化することで、廃棄物の削減と新たな資源価値の創出を目指している。
生物多様性保全については、前述の「サステナブルフロアー™」の売上の一部を森林整備に寄付する活動が間接的に貢献している。また、パナソニックグループ全体として、製品に使用する木材の持続可能な調達や、事業所敷地内での緑化活動などを推進しているが、ハウジングソリューションズ社独自の詳細な生物多様性保全プログラムに関する情報は限定的である。
外部評価として、パナソニック ホールディングス株式会社は、CDPの2023年評価において、気候変動で「A」、水セキュリティで「B」のスコアを獲得しているが、フォレストでは「F」(情報開示なしまたは不十分)という評価であった。これは、グループ全体としての評価であり、ハウジングソリューションズ社のパフォーマンスを直接示すものではないが、グループとしての気候変動対策への高いコミットメントと、森林資源関連の情報開示における課題を示唆している。パナソニック ハウジングソリューションズの環境への取り組みは、グループ全体の技術力とブランド力を背景に、省エネ・創エネ技術と建材・設備を融合させた総合的なソリューション提案に強みがあると言える。
Kohler社(以下、Kohler)は、米国に本社を置く、水まわり製品、家具、エンジン・発電システムなどを手がける世界的な非公開企業である。150年以上の歴史を持ち、特に北米や欧州市場で高いブランド力とシェアを誇る。同社のサステナビリティ戦略は、「Believing in Better」という理念の下、「Better Planet(より良い地球)」「Better Communities(より良いコミュニティ)」「Better Lives(より良い暮らし)」という3つの柱で構成され、環境フットプリントの削減、製品を通じた顧客の環境負荷低減支援、そして地域社会への貢献を目指している。
気候変動対策において、Kohlerは2035年までにScope1およびScope2の温室効果ガス(GHG)排出量をネットゼロにするという目標を掲げている。2008年からの比較では、2022年時点でグローバルな事業活動におけるGHG排出原単位(売上高あたり)を62%削減したと報告されている。再生可能エネルギーの導入も進めており、2022年にはグローバルで使用する電力の54%を再生可能エネルギーで賄い、特に米国とカナダの事業所では100%再生可能エネルギー化を達成している。また、同社は発電システム事業も有しており、ディーゼルエンジン発電機においてHVO(水素化植物油)のような再生可能燃料への対応を進めたり、水素燃料電池システムの開発に取り組んだりするなど、クリーンエネルギーソリューションの提供にも力を入れている。
水資源の保全は、Kohlerの事業の中核であり、長年にわたり注力してきた分野である。米国環境保護庁(EPA)の「WaterSense®」プログラムにおいて、2023年までに9回の「Sustained Excellence Award(持続的優秀賞)」を受賞するなど、節水製品の開発と普及におけるリーダーシップが高く評価されている。2023年には新たに120製品がWaterSense®認証を取得し、これらの製品を通じて顧客が節約した水量は累計で6,340億ガロン、それによるCO2排出削減量は1,470万トンに上ると試算している。また、「Safe Water for All」というイニシアチブを通じて、安全な水と衛生設備へのアクセスが困難な地域への支援活動もグローバルに展開している。
資源循環に関しては、2035年までに事業所からの埋立廃棄物をゼロにするという目標を設定している。2022年には、グローバルな事業活動における埋立廃棄物原単位を2008年比で58%削減した。特に注目されるのが「KOHLER WasteLAB®」の取り組みである。これは、製造工程で発生する陶器くず、鋳物廃材、釉薬かすといった従来は廃棄されていた材料を、デザイン性の高いタイルや洗面ボウルなどの新たな製品へとアップサイクルするイニシアチブである。2019年以降、WasteLAB®製品の販売を通じて33.3トン以上の廃棄物を埋め立てから回避したと報告されている。また、鋳鉄製バスタブなどの製品には最低80%のリサイクル材を使用するなど、製品への再生材利用も積極的に行っている。さらに、製品設計段階から環境配慮を組み込む「Design for Environment (DfE)」手法を導入し、製品ライフサイクル全体での環境負荷低減を目指している。
生物多様性保全については、具体的な数値目標は明示されていないものの、環境保全活動への関与が見られる。例えば、中国での植林活動「Kohler Forest」イニシアチブでは、2010年以降43万本以上の木を植樹した。また、従業員主導のサステナビリティプロジェクトを支援する「Kohler Seed Fund」を通じて、事業所周辺の流域保全プロジェクトなどが実施されている。
外部評価としては、CDPの2022年評価において、気候変動および水セキュリティの両分野で「B」スコアを獲得している。また、DitchCarbonという評価機関からは、2023年にカーボンアクションに関するスコアとして26点(業界比較で上位95%)と評価されている。Kohlerの環境への取り組みは、特に水効率製品と製造廃棄物の革新的なアップサイクルに顕著な強みがあり、非公開企業でありながらも積極的な情報開示と目標設定を行っている点が特徴的である。
Geberit社(以下、Geberit)は、スイスに本社を置く、衛生陶器、配管システム、浴室設備などを製造・販売するヨーロッパ有数の企業である。同社は、サステナビリティを企業戦略の不可欠な要素と位置づけ、長期的な視点での価値創造を目指している。そのサステナビリティ戦略は、「社会(People)」「環境(Planet)」「経済(Profit)」の3つの次元にまたがる12のモジュールで構成されており、包括的かつ体系的なアプローチを特徴としている。
気候変動対策において、Geberitは野心的なCO2削減目標を設定し、着実な成果を上げている。同社は、通貨調整後売上高あたりのCO2排出量(CO2原単位)を年間5%削減するという目標を掲げ、2035年までに2015年比で80%削減することを目指している。この目標達成に向けた重要な手段として、インターナル・カーボンプライシング(ICP)制度を導入し、CO2排出をコストとして認識することで、低炭素投資を促進している。2023年の社内炭素価格は1トンあたり80ユーロであった。実績として、2023年末時点で、CO2原単位は2015年比で63.2%削減されており、目標を上回るペースで進捗している。再生可能エネルギーの利用も積極的に進めており、2023年には全社電力消費量の79%を再生可能エネルギーで賄った。これは、主に再生可能エネルギー証書の購入や、一部自社太陽光発電によるものである。
資源循環の推進は、Geberitの環境戦略におけるもう一つの重要な柱である。同社は、製品開発の初期段階から環境配慮を組み込む「エコデザイン」原則を2007年から一貫して適用している。この原則に基づき、原材料の選定、製造プロセス、製品の耐久性、修理可能性、リサイクル性などを総合的に評価し、あらゆる新製品が前世代品よりも環境性能で優れていることを目指している。これまでに180以上の製品がエコデザイン原則に従って開発または最適化された。製品の長寿命化にも注力しており、高品質な素材の使用と厳格な品質管理により、製品が数十年にわたり使用されることを前提としている。特に、隠蔽型タンクセラミック部品については、50年間のスペアパーツ供給を保証するなど、修理を通じた長期使用を支援している。プラスチックの使用においては、工場内で発生するプラスチック廃棄物のほぼ100%を内部でリサイクルし再利用しているほか、購入する再生プラスチック(ポストコンシューマー廃棄物由来)の製品への使用比率向上にも取り組んでいる。2023年には、包装材に関する新たな戦略を策定し、製品保護を確保しつつ資源消費を削減し、2030年までにプラスチック包装材のリサイクル材含有率を最低30%に、包装材全体の80%をリサイクル可能にすることを目指している。
生物多様性保全に関しては、Geberitは具体的な保全プロジェクトへの支援を通じて貢献している。特筆すべきは、スイスの気候保護団体myclimateと連携し、タンザニアのヤエダ渓谷における森林保護プロジェクトを支援していることである。このプロジェクトは、セラミック製品の製造過程で避けられないCO2排出量をオフセットする目的で開始され、森林保全によるCO2吸収、絶滅危惧種の保護、そして地域住民の持続可能な生活支援という多面的な効果を目指している。Geberitは、特定のバスルームコレクション製品の販売を通じてこのプロジェクトに資金を提供しており、環境貢献と事業活動を結びつける先進的な取り組みと言える。
外部評価としては、EcoVadis社のサステナビリティ評価において、2024年にゴールドメダルを獲得しており、これは評価対象となった12万5千社以上の企業の中で上位5%に位置することを示している。S&P GlobalのESGスコア(2023年)は43点であり、業界平均の35点を上回っている。CDPについては、2022年の年次報告書で情報開示を行っている旨の記載があるが、具体的な最新スコアの確認は別途必要である。Geberitの環境への取り組みは、体系的な戦略、野心的な目標設定と着実な実績、そして製品ライフサイクル全体を通じた環境配慮、さらには具体的な生物多様性保全プロジェクトへの参画といった点に特徴があり、欧州企業としての高い環境意識と実践力を示している。
LIXILおよび主要競合他社の環境パフォーマンスを客観的に比較するため、CDPやS&P Globalといった国際的に認知された評価機関によるスコアを概観する。これらのスコアは、各社の環境戦略の成熟度、取り組みの成果、そして情報開示の透明性を測る上での重要な指標となる。
LIXIL株式会社は、CDP評価において、2024年に気候変動および水セキュリティの両分野で「A-」というリーダーシップレベルの高い評価を獲得している。これは、環境課題に対する先進的な取り組みと情報開示が国際的に認められていることを示す。また、S&P Global社のCorporate Sustainability Assessment(CSA)に基づく「The Sustainability Yearbook 2025」においては、全評価対象企業の中で「上位1%」にランクインするという極めて優れた評価を得ており、環境・社会・ガバナンス(ESG)全般にわたる高いパフォーマンスが示されている。
国内の主要競合であるTOTO株式会社は、CDPの2023年評価において、気候変動および水セキュリティの分野でそれぞれ「B」スコアであった。これは、環境課題への対応を進めているものの、リーダーシップレベルには一歩及ばない状況を示唆している。
パナソニック ホールディングス株式会社は、CDPの2023年評価において、気候変動で「A」という最高レベルの評価を獲得しており、この分野での卓越した取り組みが認められている。一方で、水セキュリティでは「B」、フォレストでは「F」(情報開示なしまたは不十分)という評価であり、課題分野も存在することがわかる。
米国のKohler社は、CDPの2022年評価において、気候変動および水セキュリティの両分野で「B」スコアであった。これはTOTO社と同水準の評価である。
欧州のGeberit社は、EcoVadis社のサステナビリティ評価において2024年にゴールドメダルを獲得しており、これは全評価企業の上位5%に位置するという高い評価である。S&P GlobalのESGスコア(2023年)は43点であり、これは同社の評価対象業界における平均35点を上回り、最高スコア89点には及ばないものの、良好なパフォーマンスを示している。Geberit社のCDPスコアについては、2022年の年次報告書でCDPへの報告を行っている旨の記載があるが、具体的な最新スコアの公表は確認が必要である。
これらのスコアを総合的に比較すると、LIXILは特に気候変動と水セキュリティ、そしてS&P GlobalによるESG総合評価において、国際的に見ても競合他社と比較して遜色ない、あるいは先進的なポジションにあると言える。特にCDPの「A-」評価やS&P Global「上位1%」は、TOTO社やKohler社のCDP「B」評価を上回っている。しかしながら、パナソニック ホールディングスが気候変動で「A」評価を獲得している点や、Geberit社がEcoVadisで高い評価を得ている点など、競合他社も各々の強みを持つ分野がある。LIXILにとっては、これらのベンチマーキング結果を踏まえ、自社の強みをさらに伸長させるとともに、改善の余地がある分野については他社の先進事例を参考にしながら、継続的なパフォーマンス向上を図っていくことが重要となる。特に、フォレスト分野における情報開示や取り組みの強化は、生物多様性保全へのコミットメントを具体的に示す上で、今後の課題となる可能性がある。
LIXILはSBTネットゼロ認定を取得し、Scope1・2排出量削減において着実な進捗を見せているが、気候変動対策を一層深化させるためにはいくつかの課題が存在する。最大の課題の一つは、Scope3排出量の削減加速である。製造業にとってScope3排出量は全体の大部分を占めることが多く、その削減はサプライチェーン全体での協力なしには達成困難である。LIXILは既に主要サプライヤーとのエンゲージメントを開始しているが、これをさらに強化し、サプライヤー側のCO2削減努力を具体的に支援・促進する仕組み(例えば、技術支援、共同での低炭素技術開発、インセンティブ付与など)を構築する必要がある。また、製品使用段階での排出量削減に向けては、エネルギー効率の高い製品開発を継続するとともに、消費者の省エネ行動を促す情報提供やサービスの開発も重要となる。
次に、再生可能エネルギー導入率の向上も喫緊の課題である。RE100加盟企業として100%再生可能エネルギー化を目指しているが、2024年3月期時点での導入率は28.3%に留まっている。目標達成のためには、国内外の拠点における導入ペースを大幅に加速させる必要がある。オンサイト・オフサイトPPAモデルの活用は有効な手段であるが、これに加えて、再生可能エネルギー市場が未成熟な地域における導入促進策(例えば、共同購入スキームへの参加、新規再エネプロジェクトへの直接投資、バーチャルPPAの活用など)も検討すべきである。
さらに、インターナル・カーボンプライシング(ICP)制度の本格導入とその戦略的活用が求められる。LIXILはICP制度の検証を行っている段階であるが、これを早期に本格導入し、設備投資や事業判断における重要な評価軸として組み込むことで、CO2削減効果の高い施策への資金配分を優先し、全社的な脱炭素化を加速させることができる。社内炭素価格を十分に高い水準に設定し、その収益を再エネ導入や省エネ技術開発に再投資するような循環的な仕組みを構築することも有効であろう。
提言としては、まずサプライチェーンエンゲージメントを質・量ともに強化し、Scope3排出量削減目標の達成確度を高めるべきである。具体的には、主要サプライヤーに対してLIXILと同レベルのSBT目標設定を働きかけ、その達成を支援するプログラムを展開することが考えられる。次に、再生可能エネルギー調達戦略を再評価し、より多様な調達手段を組み合わせることで導入率の向上を急ぐべきである。そして、ICP制度を単なる内部管理指標ではなく、経営戦略と一体化した脱炭素化推進のドライバーとして位置づけ、その運用を高度化していくことが望ましい。加えて、製品のライフサイクル全体での炭素排出量評価(LCA)を全ての主要製品カテゴリーで実施し、その結果を製品設計の初期段階から反映させることで、抜本的な製品の低炭素化を推進すべきである。
LIXILは、「PremiAL R100」や「レビア」といった革新的なリサイクル材・循環型素材の開発において顕著な成果を上げているが、真の資源循環型ビジネスモデルへの転換を加速するためには、いくつかの課題に取り組む必要がある。
第一の課題は、製品回収・リサイクルシステムの広範な構築と運用である。特に「製品から製品へ」のクローズドループリサイクルを実現するためには、使用済み製品を効率的に回収し、高品質な再生材へと再資源化する社会システムが不可欠である。LIXILは樹脂窓のマテリアルリサイクルシステム構築に着手しているが、これを他の主要製品カテゴリー(例えば、衛生陶器、水栓金具、アルミ建材など)にも拡大し、全国的あるいはグローバルな規模で展開していくには、多大な投資と業界内外の広範な連携が求められる。回収物流網の整備、解体・分別プロセスの標準化、再生材の品質管理基準の確立などが具体的な課題となる。
第二に、再生材の利用率の一層の向上が挙げられる。アルミ形材におけるリサイクル材100%使用目標は野心的であるが、他の素材(プラスチック、木材、セラミックなど)においても、再生材の利用比率を高めていく必要がある。そのためには、安定した品質と量を確保できる再生材の調達先の開拓・多様化が重要となる。また、製品設計段階から分解・リサイクル容易性を最大限に高めるエコデザインの原則を、全ての製品開発プロセスに徹底して組み込む必要がある。部品のモジュール化、異種材料の接合方法の工夫、リサイクル禁忌物質の使用回避などが具体的な設計指針となるだろう。
第三に、開発した循環型製品・素材の市場浸透と事業化の加速である。「レビア」のような革新的な循環素材は、その環境性能だけでなく、耐久性や意匠性、コスト競争力といった市場での受容性を高め、多様な用途へと展開していく必要がある。そのためには、実証実験の拡大、用途開発の推進、そしてマーケティング戦略の強化が求められる。
提言として、LIXILはまず、使用済み製品の回収・再資源化スキームの構築を最優先課題と位置づけ、特に販売量の多い主要製品カテゴリーを対象に、具体的なロードマップと数値目標を設定し、パイロットプロジェクトから本格展開へと移行を加速すべきである。これには、業界団体や自治体、リサイクル事業者との戦略的パートナーシップの構築が鍵となる。次に、再生材の安定調達と品質確保のために、サプライヤーとの長期契約や共同開発、あるいはリサイクル事業者への直接投資なども視野に入れるべきである。そして、エコデザインの社内基準をさらに高度化し、製品開発の全プロセスでその遵守を徹底するとともに、循環型素材「レビア」については、建材分野に留まらず、新たな用途開発を積極的に行い、その事業規模を拡大していくべきである。将来的には、製品のサービス化(PaaS)モデルの導入も検討し、製品の所有権をLIXILが保持し続けることで、製品ライフサイクル全体での資源管理を徹底し、循環性を最大化するビジネスモデルへの転換も視野に入れるべきである。
LIXILは、生物多様性の保全を2023年3月期に重要課題として新たに追加し、TNFDの早期導入企業としてLEAP分析を開始するなど、この分野への取り組みを本格化させている。しかし、気候変動対策や資源循環と比較すると、まだ具体的な戦略や目標設定、実績開示の面で発展途上にあると言える。生物多様性保全への貢献度を実質的に向上させ、ステークホルダーからの信頼を得るためには、いくつかの課題に取り組む必要がある。
第一の課題は、生物多様性に関する具体的な数値目標の設定である。現在の方針は定性的なものが中心であり、取り組みの進捗や成果を客観的に評価するための定量的な目標が不足している。LEAP分析を通じて自社の事業活動と自然との依存・影響関係が明らかになるにつれて、その結果に基づいたSMART(Specific, Measurable, Achievable, Relevant, Time-bound)な目標を設定することが急務である。
第二に、LEAP分析の結果を具体的な行動計画へと落とし込み、それを着実に実行していくことが求められる。特に影響が大きいと特定された原材料(例えば、アルミニウムや木材)の調達においては、サプライチェーン全体での生物多様性リスクを低減するための具体的な施策(例えば、森林認証材やASI認証アルミニウムのような持続可能性認証を受けた原材料の調達比率目標の設定、主要調達地域における生態系保全プロジェクトへの直接的支援や投資など)を策定し、実行に移す必要がある。
第三に、生物多様性保全への取り組みとその成果に関する情報開示の質と量を強化することである。TNFD提言の枠組みに沿って、ガバナンス、戦略、リスクと機会の管理、指標と目標といった項目について、より詳細かつ透明性の高い情報を開示していく必要がある。特に、取り組みの進捗状況を測るための具体的なKPI(重要業績評価指標)を設定し、その実績を定期的に報告することが、ステークホルダーからの信頼醸成に不可欠である。
提言として、LIXILはまず、進行中のLEAP分析の結果を最大限に活用し、自社のバリューチェーンにおける生物多様性への主要な負の影響(プレッシャー)を特定し、それらを緩和・解消するための優先順位を明確にすべきである。その上で、例えば「2030年までに主要木材製品におけるFSC/PEFC認証材利用率XX%達成」や「主要鉱物資源調達先における生物多様性管理計画策定率YY%」といった、具体的かつ測定可能な目標を設定することが推奨される。また、既存の強みである水資源保全活動と生物多様性保全活動との連携を強化し、節水や水質改善が地域の生態系に与えるプラスの効果を定量的に評価し、積極的に発信していくべきである。さらに、TNFD提言に準拠した情報開示を年次報告書やサステナビリティレポートで拡充し、目標設定の根拠、リスク管理プロセス、具体的な保全活動の内容とその進捗、そして生物多様性への貢献度を示す指標などを具体的に記述することで、透明性と説明責任を高めるべきである。将来的には、ネイチャーポジティブへの貢献を定量的に示すための新たな指標開発にも挑戦することが期待される。
LIXILが気候変動、資源循環、生物多様性という三つの主要な環境課題への取り組みをさらに深化させ、それらを持続可能な企業価値の創造へと繋げていくためには、これらの取り組みを有機的に連携させ、シナジーを最大化する統合的な戦略視点が不可欠である。
各環境課題は独立して存在するのではなく、相互に深く関連している。例えば、再生可能エネルギーの導入拡大や製造プロセスの電化といった気候変動対策は、化石燃料という枯渇性資源の消費削減(資源循環)に直接的に貢献する。また、エネルギー効率の高い製品の提供は、製品使用段階でのエネルギー消費量を減らし、気候変動緩和に寄与すると同時に、顧客にとっては光熱費の削減という経済的メリットをもたらす。さらに、持続可能な森林管理から得られた木材の使用や、環境負荷の低いリサイクル材の活用は、資源循環を促進し、炭素固定に貢献するとともに、森林生態系や自然環境全体の保全(生物多様性)にも繋がる。LIXILは、このような各取り組み間の連関性を明確に認識し、個別の施策が他の環境課題に対してもたらす複合的な便益(コベネフィット)を最大化するような戦略設計を追求すべきである。例えば、製品開発においては、LCA(ライフサイクルアセスメント)の手法を用いて、気候変動、資源消費、生態系影響といった複数の環境側面を統合的に評価し、トレードオフを最小限に抑えつつ、全体の環境パフォーマンスを最適化する設計思想を徹底することが求められる。
さらに、これらの環境への取り組みを、単なるコストやリスク管理の対象としてではなく、競争優位性の源泉でありブランド価値向上の機会として積極的に位置づける戦略的コミュニケーションが重要である。LIXILは、「私たちの製品を通じて、環境に配慮した持続可能な暮らしを経験していただき、その価値を知っていただくことも大切です」と述べているように、製品を通じた環境貢献を重視している。この理念をさらに推し進め、LIXIL製品が提供する環境性能(例えば、省エネ性、節水性、耐久性、リサイクル材使用率、持続可能な素材調達など)を、顧客にとって魅力的かつ分かりやすい形で伝え、製品選択における重要な判断基準として確立していく必要がある。これは、BtoC市場だけでなく、環境意識の高いデベロッパーや設計事務所といったBtoB市場においても同様である。
そのためには、サステナビリティを製品開発、マーケティング、そして企業ブランディング戦略の中核に据え、一貫性のあるメッセージを発信し続けることが不可欠である。例えば、LIXILが提供する製品群を組み合わせることで実現できる「サステナブルな住空間ソリューション」といった形で、包括的な環境価値を提案することも有効であろう。また、TNFDやCDPといった国際的な情報開示フレームワークへの積極的な対応を通じて、環境パフォーマンスの透明性を高め、ESG投資家からの評価を確固たるものにすることも、持続可能な企業価値創造には欠かせない。LIXILがこれらの統合的戦略と戦略的コミュニケーションを効果的に実行することで、環境課題への貢献と事業成長を両立させ、真の環境リーディングカンパニーとしての地位を築き上げることが期待される。
本報告書は、LIXIL株式会社の環境戦略、特に気候変動、資源循環、生物多様性の3分野における取り組みと実績を、公開情報に基づいて包括的に分析した。その結果、LIXILがこれらの地球規模の課題に対し、明確なビジョンと戦略を持ち、具体的な目標設定と行動を通じて着実な成果を上げつつあることが確認された。
気候変動対策においては、SBTネットゼロ認定の取得や、Scope1・2・3排出量削減目標に対する順調な進捗、再生可能エネルギー導入へのコミットメント、そして製品を通じた社会全体のCO2排出削減への貢献など、業界をリードする先進的な取り組みが数多く見られた。TCFD提言に基づくリスク・機会分析と情報開示も積極的に進められており、気候変動を経営の重要マターとして統合しようとする姿勢が明確である。
資源循環の推進に関しても、廃棄物リサイクル率の高水準での達成、100%リサイクルアルミ材「PremiAL R100」や循環型素材「レビア」といった革新的な素材開発、Cradle to Cradle®認証製品の展開など、目覚ましい成果を上げている。バリューチェーン全体での資源循環システムの構築に向けた意欲的な構想も示されており、サーキュラーエコノミーへの移行を力強く牽引しようとする意志が感じられる。
生物多様性の保全については、2023年3月期に重要課題として新たに追加され、TNFDの早期導入やLEAP分析の開始など、取り組みが本格化した段階にある。具体的な数値目標や詳細な行動計画の策定はこれからの課題であるが、水資源保全や持続可能な原材料調達といった既存の取り組みとの連携を通じて、着実に貢献度を高めていくことが期待される。
総じて、LIXILは環境課題への対応において、特に気候変動と資源循環の分野で高いパフォーマンスを示しており、国際的な評価機関からもその努力と成果が認められている。しかしながら、Scope3排出量削減のさらなる加速、再生可能エネルギー導入率の一層の向上、生物多様性保全戦略の具体化と目標設定、そしてこれら3分野の取り組みのより一層の統合とシナジー創出といった課題も残されている。
LIXILがこれらの課題に真摯に取り組み、本報告書で提示された提言事項も参考にしながら、環境戦略を継続的に進化させていくことで、同社が掲げる「Zero Carbon and Circular Living」の実現はより確かなものとなるだろう。そしてそれは、LIXIL自身の持続的な企業価値向上に繋がるだけでなく、建材・住宅設備業界全体のサステナビリティ水準を引き上げ、地球環境の保全と人々の豊かで快適な暮らしの実現に大きく貢献する道筋となるであろう。LIXILの持続可能な未来への挑戦は、まだ道半ばであるが、そのポテンシャルは極めて大きいと言える。
LIXIL株式会社、環境省「環境サステナブル企業」に選定! https://www.lixil.co.jp/corporate/sustainability/detail/202304-esg/
LIXIL コーポレートレスポンシビリティレポート 2022 (日本語版) https://www.lixil.com/jp/impact/cr_library/pdf/LIXIL_CR2022_ja.pdf
LIXIL株式会社 ESGデータブック2024 https://www.lixil.com/jp/impact/library/pdf/LIXIL_ESG_databook2024_jp.pdf
LIXIL サステナビリティ 2023年 気候変動の影響を受ける子どもたちを支援 「住まいから未来へつなぐプロジェクト」キックオフ! https://www.lixil.co.jp/corporate/sustainability/2023/
LIXIL インパクトデータ Scope(範囲) https://www.lixil.com/jp/impact/data/scope.html
LIXIL インパクトレポート 2024 https://www.lixil.com/jp/impact/library/pdf/impact_20241018_jp.pdf
LIXILの約束 https://www.lixil.co.jp/corporate/sustainability/eco/commitment/
LIXIL 気候変動対策を通じた緩和と適応 https://www.lixil.com/jp/impact/environment/ghg.html
LIXIL 資源の循環利用の促進 https://www.lixil.com/jp/impact/environment/sustainable.html
LIXIL 重要課題の特定とSDGsへの貢献 https://www.lixil.com/jp/impact/strategy/issues.html
LIXIL株式会社 TCFD・TNFD提言に基づく情報開示レポート 2024年版 https://www.lixil.com/jp/impact/environment/pdf/tcfd_tnfd_report_2024jp.pdf
TOTO株式会社 環境への取り組み https://jp.toto.com/company/csr/environment/
TOTO株式会社 気候変動が事業に及ぼすリスクと機会の分析(TCFD提言に基づく開示) https://jp.toto.com/company/csr/environment/warming/tcfd/
令和5年度環境課題対応のための資源循環効率化等に関する調査検討委託業務報告書(TOTO株式会社) https://www.env.go.jp/content/000311343.pdf
TOTO株式会社 生物多様性の保全 https://jp.toto.com/company/csr/environment/biodiversity/biodiversity/
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LIXIL Earns Top 1% Distinction in S&P Global Sustainability Yearbook and High CDP Ratings https://newsroom.lixil.com/20250217_spcdp
株式会社東陽テクニカ、CDP「気候変動レポート 2023」で「B」スコアを獲得 (TOTOのスコアではない) https://assets.toyo.co.jp/files/user/company/documents/release/240219_cdp2023_72024.pdf
TOTO、環境分野における国際的な非営利団体CDPより 気候変動「B」、水セキュリティ「B」の評価を獲得 https://www.toto.com/jp/press/pdf/news_250212_jp.pdf
Geberit Sustainability 2023 at a glance https://reports.geberit.com/annual-report/2023/sustainability/sustainability-at-a-glance.html
CDP Scores and A Lists 1 https://www.cdp.net/en/data/scores
CDP Ireland Report 2024 (General CDP trends, not specific to Kohler) https://www.cdpirelandnetwork.net/uploads/8/8/7/7/88773346/cdp_report_2024.pdf
Kohler Co. 2022 Believing in Better Metrics Report 2 https://powercontrol.rehlko.com/wp-content/uploads/2024/03/2022-Believing-in-Better-Metrics-Report.pdf
CDP Scores and A Lists 1 https://www.cdp.net/en/data/scores
What is a CDP Rating & Score? (General CDP Information) https://www.getsunhat.com/blog/cdp-rating-score
4 Innovative Sustainable Construction Practices for 2025 https://www.unsustainablemagazine.com/4-sustainable-construction-materials/
LVMH Commitment in Action - For the Environment (Luxury industry, general practices) https://www.lvmh.com/en/commitment-in-action/for-the-environment
GEF Council approves $916 million for urgent environmental action (Funding, not industry practices) https://www.thegef.org/newsroom/news/gef-council-approves-916-million-urgent-environmental-action
Geberit Know-how Sustainability 3 https://www.geberit-global.com/know-how/sustainability/
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Top 15 Sustainable Building Materials for a Greener Future https://blog.enscape3d.com/top-sustainable-building-materials
16 Innovative Energy-Efficient Building Materials for Sustainable Homes https://www.fjdynamics.com/blog/industry-insights-65/sustainable-building-materials-481
How the Circular Economy Applies to Building Materials https://www.conexpoconagg.com/news/how-the-circular-economy-applies-to-building-mater
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Sustainability | Geberit USA, 5月 19, 2025にアクセス、 https://www.geberitnorthamerica.com/know-how/sustainability/