序論
目的と背景
株式会社高島屋(以下、高島屋)は、日本の小売業界、特に百貨店セクターにおける主要企業の一つである。本レポートは、高島屋グループの環境への取り組みとパフォーマンスについて、「気候変動」「資源循環」「生物多様性」の3つの重点分野に焦点を当て、包括的かつ詳細な分析を行うことを目的とする。近年、企業のESG(環境・社会・ガバナンス)要素、とりわけ環境パフォーマンスは、企業価値評価、ステークホルダーからの信頼、規制遵守の観点から、小売業界においてもその重要性を増している 。本レポートは、高島屋の環境スコア算定に必要なデータと分析を提供することを目指すものである。
報告書の構成と対象範囲
本レポートは、以下のセクションで構成される。
高島屋グループの環境への取り組み(気候変動、資源循環、生物多様性に関する具体的施策)
環境要因に関連する潜在的リスクと機会
業界におけるベストプラクティス
現状の課題と推奨事項
競合他社の分析
環境スコアのベンチマーキング
分析は、主に高島屋が開示している情報、特にESGレポートや統合報告書に基づき、主に2022年度(2022年3月1日~2023年2月28日)および2023年度(2023年3月1日~2024年2月29日)の活動とデータを対象とする 。
1. 高島屋グループの環境への取り組み
高島屋グループは、ESG経営を推進する中で、環境課題への対応を重要な柱と位置づけている 。グループ環境方針に基づき、「脱炭素化推進(RE100、EV100)」「循環型ビジネス」「廃棄プラスチック削減」「食品ロス削減」などを重点課題として設定し、具体的な取り組みを進めている 。
1.1 気候変動への対応
高島屋グループは、地球温暖化防止に向けた脱炭素化を重要な経営課題と認識し、国際的なイニシアチブへの参画を通じて取り組みを強化している。
コミットメントと目標: 高島屋は、事業運営で使用する電力を2050年までに100%再生可能エネルギーに転換することを目指す「RE100」、および事業用車両を2030年までに100%電気自動車(EV)等に転換することを目指す「EV100」に加盟している。これらのコミットメントは、グループ全体の脱炭素化推進 7 の核となるものである。グループ環境方針においても、CO2排出量の削減は明確にうたわれている 。TCFD提言に沿った情報開示では、温室効果ガス削減目標(例:過去の報告で-9.4%との記載あり、ただし基準年やスコープの詳細は要確認)にも言及されている 8。
再生可能エネルギー導入: RE100達成に向け、再生可能エネルギー由来電力の調達を拡大している。具体的な事例として、流山おおたかの森S・Cやマロニエコートでは、100%再生可能エネルギー由来の電力導入を実現している 。一方で、TCFD提言に沿った情報開示では、再生可能エネルギー由来電力の調達に伴う潜在的な財務影響(2019年度の電力使用量に基づく試算で、既存の調達電力との料金格差により年間約16億円のコスト増)が示唆されており 8、コスト要因が全面的な移行ペースに影響を与える可能性がうかがえる。高島屋の気候変動戦略は、環境責任の遂行と同時に、これらの予見される財務リスクを管理する必要性によっても強く動機づけられていると考えられる。
省エネルギー・省資源施策: グループ環境方針に基づき、すべての店舗・事業所において、最新技術の導入による省エネルギー化を推進している 10。具体的には、LED照明への切り替え、日中の消費電力を抑制する氷蓄熱式空調システムの導入 、節水型店内設備の導入や厨房排水の再生処理によるトイレでの再利用 など、多岐にわたる施策が実施されている。従業員食堂でのマイカップ・マイボトル持参キャンペーン など、従業員の意識向上と行動変容を促す取り組みも行われている。
サプライチェーン・輸送における取り組み: EV100コミットメントに基づき、事業用車両のEV化を進めている 。また、顧客向けのEV充電器の設置も行われている 。ただし、開示情報からは、自社保有車両以外のサプライチェーン全体(スコープ3排出量)、特に商品輸送や顧客の来店に伴う排出量削減に関する具体的な取り組みの詳細については限定的である。小売業にとってスコープ3排出量は主要な課題であり、今後の取り組み強化が期待される。
気候関連情報開示: 高島屋は、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言に沿った情報開示を行っており 、気候変動が事業に与えるリスクと機会について、シナリオ分析を含む評価を開示している。これには、炭素税導入(2030年時点で約25億円のコスト増と試算)や再エネ電力調達(同約16億円のコスト増と試算)といった具体的な財務影響の試算も含まれている 8。また、温室効果ガス排出量については、第三者機関による検証報告書も公開されており、データの信頼性確保に努めている 。TCFDフレームワークの活用は、単なる情報開示にとどまらず、気候関連課題に対する戦略的な意思決定(例:脱炭素化投資の優先順位付け)やリスク管理に積極的に用いられている様子がうかがえる。
1.2 資源循環の推進
高島屋グループは、廃棄物の削減・リサイクル・省資源を進め 10、循環型社会の実現に向けたビジネスモデルへの転換を目指している 。
廃棄物削減目標と実績: グループ全体として循環型ビジネスを推進する目標を掲げている 。具体的な目標として、使い捨てプラスチックの提供量を2030年までに2020年比で30%削減することを掲げている 5。2023年度の高島屋および岡山高島屋・岐阜高島屋各店舗からのプラスチック廃棄物排出量は1,358,244 kgで、リサイクル率(サーマルリサイクル含む)は96.4%に達した 5。このリサイクル率は、国内の廃プラスチック有効利用率のベンチマーク(82~86%)を大幅に上回る水準である 。しかしながら、2023年度の絶対排出量は前年比で0.2%増加し、前年比1.0%削減という内部目標は未達となった 5。これは、高いリサイクル率を維持しつつも、廃棄物発生量の抑制(リデュース)が依然として課題であることを示唆している。真の循環性を達成するためには、効率的なリサイクル処理(パイプエンド処理)だけでなく、サプライチェーン全体でのプラスチック使用量削減や代替素材への転換といった発生源対策(アップストリーム)の強化が不可欠である。
プラスチック削減策: エコバッグ利用の推奨、プラスチック製および紙製買物袋の有料化(FSC®認証紙袋含む、FSC®N003180)5、代替素材への切り替え検討、店頭ポスター等による啓発活動などを実施している 5。また、施設から排出されるプラスチック廃棄物については、マテリアルリサイクル化に向けた取り組みも推進されている 5。具体例として、衣料品ビニールカバーのマテリアルリサイクルが挙げられ、玉川高島屋S・Cでの取り組みが新宿タカシマヤタイムズスクエア、日本橋高島屋S.C.へと拡大されている 5。
食品ロス削減: 食品売場やレストラン等における食品ロス削減も重点課題の一つである 。発生した生ゴミについては、飼料化・肥料化やメタン発酵による発電などにより、約70%のリサイクル率を達成している 9。顧客に対しては、「食べきりサイズ」メニューの提供などを通じて、食品ロス削減への貢献を呼びかけている 。
衣料品・化粧品等の回収・再生: 顧客参加型の資源循環プロジェクト「Depart de Loop(デパート デ ループ)」を推進している 。このプロジェクトでは、顧客から不要になった衣料品、化粧品(中身や容器)、羽毛ふとんなどを回収し、ECOMMIT社などのパートナー企業と連携してリサイクル(繊維原料やセメント原料などへ再資源化)、アップサイクル(例:化粧品をクレヨンへ)、リユース(国内外での再流通)を行っている 。回収された繊維廃棄物から再生された紙「サーキュラーコットンペーパー」を商品タグに使用し、タグ自体も資源ごみとして再利用する仕組みも導入されている 。当初は期間限定キャンペーンだったものが、常設の回収拠点へと発展しており 、従来の「売りっぱなし」ではない「販売・回収・再生」の循環型ビジネスモデル構築への強い意志が示されている 。この取り組みは、顧客との接点を通じて循環型社会への移行を促す、高島屋の資源循環戦略の中核をなすものと考えられる。
包装材・輸送資材の改善: 納品時の段ボール廃棄量削減のため、繰り返し利用可能な「エコビズボックス(通い箱)」の使用を推進している。2023年には導入店舗が8店舗まで拡大し、将来的には全店展開を目指すことで、2030年までに段ボール廃棄量を約3割(廃棄物総量の約1割)削減する目標を掲げている 5。また、食料品売場の紙製手提げ袋をFSC®認証製品に変更し、有料化を実施した 5。
先進的廃棄物管理システム: 玉川高島屋S・Cでは、次世代型廃棄物計量管理システム「pool」を導入し、リサイクルステーションをリニューアルした 。このシステムは、テナントごとの廃棄物排出量を正確に計量・管理し、データ収集・分析・共有を自動化するものである。タッチパネル式のシンプルな操作性、排出量に応じた課金、リサイクル率やCO2排出量のリアルタイム可視化、ゲーミフィケーション要素によるテナントの分別意識向上などが特徴である 。これにより、廃棄物管理業務の大幅な効率化(月9時間以上の作業時間削減)とコンプライアンス強化、さらにはテナントとの協働による資源循環の促進を目指している 。このシステムは、廃棄物処理場を「ごみの終着点」から「資源の出発点」へと転換させる試みであり、資源循環における技術革新の好例と言える。ただし、この先進的なシステムが現在、玉川高島屋S・Cという特定拠点での導入にとどまっている点は留意が必要である。グループ全体の資源循環を高度化するためには、このようなシステムを他の店舗や施設へ展開する際のスケーラビリティと費用対効果が今後の鍵となる。
1.3 生物多様性の保全
高島屋グループは、事業活動が依存する自然資本の重要性を認識し、生物多様性の保全にも配慮した取り組みを進めている。
緑化推進と都市緑化: 店舗施設における緑化を積極的に推進している。日本橋高島屋S.C.新館の屋上庭園や、玉川高島屋S・Cの「フォレスト・ガーデン」などがその例である 。これらの緑化は、景観向上だけでなく、植樹や樹木の保全によるCO2吸収効果も考慮されている 。また、東京都の「東京グリーンビズ」パートナーに登録するなど、行政と連携した都市における生物多様性保全の取り組みも進めている 24。これにより、地域社会における自然との共生を目指している。
森林保全活動: グループ会社である高島屋スペースクリエイツ株式会社は、1992年から静岡県浜松市で「高島屋スペースクリエイツの森」と名付けた育林事業を展開している 。これは、従業員の提案から始まった社会貢献事業であり、約3.18ヘクタールの土地に約9,000本のヒノキや広葉樹を植樹し、管理を行っている 。この森は、年間約226トンのCO2を吸収する(2023年想定実績)だけでなく 、従業員の環境意識向上にも寄与している。長期間にわたる継続的な森林保全活動は、特筆すべき点である。
地域社会との連携・啓発活動: 店舗を拠点とした地域社会との連携や、生物多様性に関する啓発活動も行っている。例えば、いよてつ高島屋では、愛媛県と連携し、高校生による生物多様性に関する研究発表やワークショップを行うイベント「えひめ生物多様性あそまなびフェス」の会場提供などを行っている 。玉川高島屋S・Cでは、夏休み期間中に「ニコタマ水族館」と題したイベントを開催し、生きた魚の展示を通じて子供たちが生物多様性を学べる機会を提供している 。これらの活動は、高島屋が持つ店舗というプラットフォームを活用し、地域コミュニティにおける環境教育や意識向上に貢献するものであり、同社の「まちづくり」戦略 とも連携している。
高島屋の生物多様性に関する取り組みは、主に自社施設内の緑化や特定の森林保全プロジェクト、地域での啓発活動に重点が置かれているように見受けられる 。これらは価値ある活動であるが、小売業としてサプライチェーン(例:衣料品に使われる綿花、食品の原材料、木材製品など)が生物多様性に与える影響も大きい。今後は、持続可能な原材料調達方針の策定やサプライヤーエンゲージメントを通じて、サプライチェーン全体での生物多様性負荷低減に取り組むことが、より包括的な戦略へと繋がるだろう。
2. 環境要因に関連する潜在的リスクと機会
高島屋グループは、気候変動や資源制約といった環境要因が事業に及ぼすリスクと機会を認識し、TCFD提言などを通じて分析・開示している 8。
リスク分析:
規制リスク: 炭素税導入やプラスチック資源循環促進法 などの環境規制強化に伴う事業運営コストの増加が予測される。特に炭素税については、2030年時点で約25億円の財務的影響(マイナス)が見込まれている 8。また、ESG情報開示基準の厳格化への対応も求められる。
市場リスク: 環境意識の高い消費者の増加に伴い、サステナブルな商品やブランドへの需要が高まる一方、環境対応が遅れれば競争上の不利を招く可能性がある。気候変動による異常気象などが、食料品などのサプライチェーンに影響を与えるリスクもある。
評判リスク: 環境関連の事故や目標未達、グリーンウォッシング(環境配慮を装うこと)と見なされる行為は、ブランドイメージを毀損し、顧客や投資家の信頼を失う可能性がある。
物理的リスク: 気候変動に伴う台風や豪雨などの異常気象は、店舗運営や物流、従業員の安全に直接的な影響を与える可能性がある。事業継続性の確保(レジリエンス強化)が重要となる 8。
機会分析:
コスト削減: 省エネルギー化、節水、廃棄物削減などの取り組みは、光熱費や廃棄物処理費用の削減に繋がり、経営効率の向上に寄与する 。
新規市場開拓: 環境配慮型商品やサービスの開発・販売 は、新たな顧客層を獲得し、市場での差別化を図る機会となる。「Depart de Loop」 のような循環型ビジネスモデルは、新たな収益源の創出や顧客ロイヤルティ向上に繋がる可能性がある。
ブランド価値向上: 環境への積極的な取り組みは、企業の社会的評価を高め、ブランドイメージ向上に貢献する 。環境意識の高い顧客や従業員を惹きつける要因ともなり得る。
レジリエンス強化: 気候変動への適応策を進めることで、事業の継続性を高め、不測の事態に対する耐性を強化できる 8。
資金調達: ESG投資家からの資金調達や、サステナビリティ・リンク・ローンなど有利な条件での資金調達機会が増加する可能性がある 。
高島屋がTCFD提言に基づき、炭素税や再エネ導入コストといったリスクを具体的に定量化している点 8 は、これらの課題を単なる報告義務としてではなく、経営戦略上の重要事項として捉え、リスク管理と機会創出の両面から統合的にアプローチしようとしている姿勢を示している。また、「Depart de Loop」 や先進的な廃棄物管理システム「pool」 への注力は、資源循環を単なる廃棄物処理問題としてではなく、イノベーションと新たな事業価値創造の機会と捉えていることを示唆しており、同社の「新たな生活・文化の創造」 という理念とも合致している。
3. 業界におけるベストプラクティス
高島屋の取り組みを評価するためには、百貨店・小売業界における先進的な環境慣行との比較が不可欠である。提供された資料内には直接的な競合他社のベストプラクティスに関する詳細情報が限定的であるため、以下の分析は一般的な業界動向と外部知見に基づくものである。
気候変動: 業界の先進企業は、科学的根拠に基づく目標(SBTs)を設定し、スコープ1、2のみならず、サプライチェーン全体を含むスコープ3排出量の削減にも取り組んでいる。再生可能エネルギーの導入率をグローバルで高い水準に引き上げ、サプライヤーと協働した脱炭素化プログラムへの投資、中間目標に対する進捗状況の透明性の高い報告などがベストプラクティスとして挙げられる。
資源循環: 包装材のクローズドループシステムの構築、革新的な配送モデルやリユーザブル容器システムの導入による使い捨てプラスチックへの依存度の大幅な削減、サーマルリサイクルに留まらないマテリアルリサイクルの高い比率の達成、広範な製品回収・再販プラットフォームの開発などが先進的な取り組みとして見られる。高島屋の「Depart de Loop」 やプラスチックリサイクルの取り組み 5 は、これらの方向性に沿ったものと言えるが、業界全体の最先端と比較した場合の達成度合いについては更なる評価が必要である。
生物多様性: 包括的な生物多様性戦略を持つ企業は、サプライチェーンマッピングを実施し、持続可能な認証を受けた原材料(例:森林破壊フリーのコモディティ、オーガニックコットン)の調達目標を設定している。自社の直接的な事業活動範囲を超えた自然資本への投資(Nature-based Solutions)や、自然に関する科学的根拠に基づく目標設定ネットワーク(SBTN)などのフレームワークの適用も進んでいる。高島屋の現在の取り組み と比較すると、サプライチェーンへの取り組み拡大が今後の課題となり得る。
提供された情報だけでは、高島屋が業界リーダーと比較してどの程度の位置にあるかを断定することは困難である。したがって、最終的な評価には外部データの活用が不可欠となる。
4. 現状の課題と推奨事項
高島屋グループは環境課題に対して多岐にわたる取り組みを進めているが、さらなる向上に向けていくつかの課題も認識される。
課題評価:
野心的な目標達成: RE100(2050年)、EV100(2030年)、プラスチック削減(2030年)といった長期目標の達成には、継続的な投資と努力が必要であり、コスト障壁 8 や運用上の複雑さが課題となる可能性がある。特にRE100/EV100については、目標達成に向けた中間目標や具体的なロードマップの開示がより求められる。
スコープ3排出量管理: 小売業にとって排出量の大部分を占めるスコープ3(サプライチェーン、販売した製品の使用・廃棄など)に関する詳細な情報開示や削減目標の設定、具体的な取り組みが、現状の開示情報からは限定的に見える。
発生抑制とリサイクルのバランス: 高いリサイクル率 5 を維持する一方で、廃棄物そのものの発生を抑制する(リデュース)取り組みの強化が課題である。特にプラスチック廃棄物の絶対量は目標に反して微増しており 5、発生源対策の重要性が増している。
生物多様性への取り組み範囲: 現在の取り組みは自社施設や特定のCSRプロジェクトが中心であり、サプライチェーン全体での生物多様性への影響評価と対策が今後の課題である 。生物多様性への影響を効果的に測定し、報告する手法の確立も求められる。
データの粒度と透明性: ESGレポート や統合報告書 は発行されているものの、環境スコア算定や進捗管理のためには、全ての環境KPI(特にスコープ3、廃棄物組成、生物多様性指標など)について、一貫性のある詳細なデータ収集と開示が重要となる。
イノベーションの展開: 玉川高島屋S・Cで導入された「pool」システム や、一部店舗で実施されているマテリアルリサイクル 5 など、成功しているパイロットプロジェクトをグループ全体へ効果的に展開していくことが求められる。
推奨事項:
気候変動: RE100/EV100達成に向けた明確な中間目標と進捗状況を開示する。スコープ3排出量の算定範囲を拡大し、主要カテゴリー(購入した製品・サービスなど)における削減目標を設定・公表する。サプライヤーとのエンゲージメントを強化し、サプライチェーン全体の脱炭素化を推進する。
資源循環: プラスチックをはじめとする廃棄物の発生抑制(リデュース)策を強化する。マテリアルリサイクル率向上に特化した目標を設定する。「Depart de Loop」モデルをさらに発展させ、他の製品カテゴリーへの応用や新たな循環型ビジネスモデルを模索する。「pool」のような先進的な廃棄物管理技術のグループ全体への展開可能性を評価する。
生物多様性: サプライチェーンにおける生物多様性リスク評価を実施する。生物多様性への影響が大きい主要な原材料(綿、パーム油、木材、食品原料など)に関する持続可能な調達方針を策定・開示する。SBTN(Science Based Targets Network)などを参考に、自然に関する科学的根拠に基づく目標設定を検討する。生物多様性保全活動とその成果に関する報告を強化する。
全般: GRIスタンダードやISSB基準 など、主要な国際的フレームワークとの整合性を高め、ESGデータの粒度と一貫性を向上させる。全ての環境目標に対する進捗状況の透明性を高める。TCFD提言に基づく統合的なリスク・機会管理を継続・深化させる。
5. 競合他社の分析
高島屋の環境パフォーマンスを相対的に評価するためには、同業他社との比較分析が不可欠である。ただし、提供された資料には競合他社の具体的な環境への取り組みに関する情報は含まれていないため、本セクションは外部情報の調査が必要となることを前提とする。
競合企業の特定: 日本国内の主要な百貨店・小売企業として、三越伊勢丹ホールディングス、J.フロント リテイリング(大丸松坂屋百貨店)、エイチ・ツー・オー リテイリング(阪急阪神百貨店)などが主要な比較対象と考えられる。
競合の環境への取り組み分析(外部調査に基づく想定): これらの競合他社も、サステナビリティ報告書などを通じて環境への取り組みを開示している。比較分析においては、以下の点が焦点となる。
気候変動目標(SBT認定の有無、RE100加盟状況、GHG排出削減目標と実績)
資源循環プログラム(廃棄物削減目標、リサイクル率、プラスチック対策、循環型プロジェクトの有無と内容)
生物多様性保全活動(店舗緑化、持続可能な調達方針、地域貢献活動)
パフォーマンス比較(外部調査に基づく想定): 公開データが入手可能であれば、排出原単位、再生可能エネルギー利用率、リサイクル率などの主要な環境KPIを比較する。
高島屋がRE100、EV100に加盟し 9、「Depart de Loop」 のような独自の循環型プログラムを展開している点は強みとなり得るが、競合他社も同様のイニシアチブへの参加や独自の取り組みを進めている可能性が高い。したがって、高島屋の環境パフォーマンスにおける真の競争優位性や課題を明らかにするためには、競合他社の具体的な活動内容とパフォーマンスデータを詳細に比較検討する必要がある。
6. 環境スコアのベンチマーキング
環境スコアは、投資家やその他のステークホルダーが企業の環境パフォーマンスを評価する上で重要な指標となる。提供された資料には競合他社の具体的なスコア情報は含まれていないため、本セクションも外部情報の調査・推察が必要となる。
主要な環境スコアリングフレームワーク: CDP、MSCI ESGレーティング、Sustainalytics ESGリスクレーティング、FTSE Russell ESGレーティングなどが、投資家等に広く利用されている代表的な評価機関・フレームワークである。これらの評価機関は、「環境」側面において、気候変動戦略、水セキュリティ、廃棄物管理、生物多様性、環境マネジメントシステムなどを評価対象としている。
競合他社のスコア(外部調査に基づく想定): 前述の主要競合他社について、これらの評価機関から公表されている環境関連スコアや格付けを調査し、業界内での一般的なスコア水準やリーダー企業の評価レベルを把握する。
高島屋のポジショニング評価: 本レポートで分析した高島屋の取り組み(例:RE100/EV100目標設定 9、TCFDに基づく開示とリスク管理 8、高いリサイクル率 5、「Depart de Loop」 、森林保全活動 )は、多くの評価項目において肯定的に評価される要素である。特に、循環型ビジネスへの注力やTCFDの統合的活用は強みと言える。一方で、スコープ3排出量管理の詳細やサプライチェーンにおける生物多様性への配慮、廃棄物の発生抑制といった側面では、さらなる取り組みと情報開示が求められる可能性があり、これらがスコアに影響を与える可能性がある。高島屋は環境パフォーマンスに関する定量データを開示しているが 、評価機関が要求する特定の指標に対するデータの網羅性や比較可能性が、最終的なスコアを左右する重要な要素となる。競合他社のスコア(外部調査結果)と比較することで、高島屋の相対的なポジションをより明確に評価できる。
7. 結論
本レポートでは、高島屋グループの環境への取り組みとパフォーマンスを、「気候変動」「資源循環」「生物多様性」の観点から分析した。
総括: 高島屋は、RE100・EV100への加盟 9、TCFD提言に沿ったリスク・機会の分析と開示 8、顧客参加型の資源循環プログラム「Depart de Loop」 や先進的な廃棄物管理システム「pool」 の導入、長年にわたる森林保全活動 など、多岐にわたる意欲的な取り組みを進めている。これらは同社の環境経営における強みである。 一方で、課題も存在する。RE100/EV100の目標達成に向けた具体的な進捗加速、小売業として影響の大きいスコープ3排出量の管理強化、高いリサイクル率に加えて廃棄物発生量そのものを削減する取り組みの推進、サプライチェーン全体を視野に入れた生物多様性戦略の構築、そして環境スコア評価に対応するためのデータ網羅性と透明性の向上が、今後の重要な取り組み分野となる。
戦略的提言: 高島屋が持続的な成長 を達成し、環境面での評価を高めるためには、以下の戦略的行動が推奨される。
脱炭素化の加速と透明性向上: RE100/EV100の中間目標設定と進捗開示、スコープ3排出量の算定・削減目標設定とサプライヤー連携強化。
資源循環の深化: 発生抑制(リデュース)策の強化、マテリアルリサイクル率向上、循環型ビジネスモデルの拡大・展開。
生物多様性戦略の包括化: サプライチェーンリスク評価に基づく持続可能な調達方針の策定・推進。
データ基盤強化: 国際基準に準拠したデータ収集・開示体制の強化。
将来展望: 高島屋グループは、「いつも、人から。」 という経営理念のもと、環境課題への取り組みをESG経営の中核に据え、企業価値向上を目指している。気候変動や資源制約、生物多様性損失といった地球規模の課題に対する社会的な要請は今後ますます高まることが予想される。本レポートで示された強みをさらに伸ばし、課題に対して戦略的に取り組むことで、高島屋は変化する小売業界において持続可能な未来を切り拓き、社会からの信頼を一層高めていくことができるだろう。