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株式会社山陰合同銀行の環境イニシアチブとパフォーマンスに関する学術的分析

更新日:2025年5月16日
業種:金融・保険業(7777)

序論

本報告書は、株式会社山陰合同銀行(以下、「当行」と称す)の環境イニシアチブ、特に「気候変動」「資源循環」「生物多様性」の三分野におけるパフォーマンスを包括的に分析し、その環境スコア算出に資する詳細情報を提供することを目的とする。分析にあたっては、当行の公開情報、関連報道、業界報告等を網羅的に調査し、学術的視点から客観的かつ批判的な評価を行う。当行の環境への取り組みは、地域金融機関としての根源的な役割、すなわちリレーションシップバンキングを通じた地域貢献と密接に連携している点が特徴的である ₁, ₂。これは、単に企業の社会的責任(CSR)を果たすという次元を超え、環境配慮を事業戦略の核心に据えようとする経営姿勢の表れと解釈できる。具体的には、「リレーションシップバンキングを普遍的なビジネスモデルと位置付け、本業による地域貢献に取り組み」 ₁、「地域密着の活動、信頼関係構築」や「地域の発展に資する活動を展開」 ₂ するといった方針は、環境イニシアチブが地域社会との共生や地域課題の解決という、より広範な文脈の中に戦略的に組み込まれていることを示唆している。さらに、当行が2020年まで顧客向けサービス業務利益において赤字が継続し、有価証券運用益で補填していたという過去の収益構造の課題 ₃ からの転換と、近年のサステナビリティへの注力強化、特に2021年以降に気候変動関連の目標設定や具体的な取り組みが活発化していること ₄, ₅ を照らし合わせると、経営再建プロセスの一環として、ESG/サステナビリティを新たな企業価値創造の源泉及び成長ドライバーとして戦略的に導入した可能性が考察される。この視点は、当行の環境戦略を評価する上で重要な背景情報となる。本報告書は、これらの背景を踏まえつつ、各環境分野における具体的な取り組み、潜在的なリスクと機会、業界の先進事例との比較、現状の課題とそれに対する提言、競合他行の戦略分析、そして環境スコアのベンチマーキングを連続した論述形式で詳述する。

1. 株式会社山陰合同銀行の環境への取り組み:包括的評価

1.1. 気候変動への対応

1.1.1. 具体的な取り組みとプログラム

当行は気候変動への対応を経営の重要課題と認識し、多岐にわたる具体的な施策を推進している。国際的な枠組みへの整合性を示す動きとして、2021年4月に気候変動関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言への賛同を表明し、これに基づく情報開示を積極的に進めている ₄, ₅, ₆。これは、気候変動がもたらすリスクと機会に対する経営レベルでの認識の深化と、その対応策に関する透明性の向上を目指す国際的な潮流に呼応するものである。カーボンニュートラル達成に向けた目標設定も野心的であり、当行グループはScope₁およびScope₂の温室効果ガス(GHG)排出量に関し、2030年度までのネットゼロ達成を掲げている。さらに、サプライチェーン全体を包含するScope₃排出量についても、2050年度までのネットゼロ達成を目指すという長期的なコミットメントを示している ₂, ₅。これらの目標は、パリ協定が目指す世界の実現に向けた金融機関としての責任を具体的に示したものと言える。GHG排出量の削減実績については、2023年度において、Scope₁およびScope₂の合計排出量を基準年である2013年度と比較して55.9%削減 ₅、あるいは別の報告では56.7%削減 ₁ したと公表しており、これは前中期経営計画で設定された目標(2013年度比50%削減)を達成し、かつ上回る成果である。現行の中期経営計画では、2026年度までに2013年度比で70%の削減を目標としており、継続的な削減努力が計画されている ₅。再生可能エネルギーの導入と普及に関しても、当行は積極的な姿勢を見せている。その中核となるのが、2022年7月に設立された100%出資子会社「ごうぎんエナジー株式会社」である。同社はPPA(電力販売契約)事業を主力とし、地域における再生可能エネルギーの発電と供給を推進している ₂, ₅, ₇。2024年8月末時点でのPPA契約件数は28件に達し、太陽光発電(PV)設備の総容量は約2.9MW、これによる年間のCO2​排出削減貢献量は1,354t-CO2​と試算されている ₂。自行施設における再生可能エネルギー導入も進んでおり、複数の営業店(例えば米子支店、北支店、島根医大通支店)には太陽光発電設備が設置されているほか ₆, ₈、新築移転した安来支店(2022年10月)や浜田支店(2023年3月)はZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)認証を取得、あるいはZEB Readyの基準を満たす環境配慮型店舗として設計されている ₈。さらに、本店ビルおよび鳥取営業本部ビルでは、2023年4月1日から使用電力の全てを再生可能エネルギー由来のものに切り替えるなど ₃, ₈、自らの事業活動における脱炭素化を具体的に進めている。これらの取り組みは、自行の排出量削減に留まらず、地域全体の脱炭素化を金融・非金融の両面から支援し、新たな収益機会(コンサルティング、ファイナンス仲介等)を創出しようとする戦略的意図が明確であり、地域金融機関としての存在意義と事業継続性を両立させる試みと評価できる ₂, ₅, ₉。サステナブルファイナンスの推進も当行の気候変動戦略の重要な柱である。2021年度から2030年度までの10年間で累計1.5兆円のサステナブルファイナンスを実行する目標を掲げ、そのうち環境分野には5,000億円を充当する方針を示している ₂, ₃, ₅, ₆。この目標に対し、2021年度から2023年度までの3年間で、総額4,047億円、うち環境分野で1,582億円の実行実績があり、目標達成に向けて順調な進捗が確認できる ₅。具体的な案件としては、「ごうぎんグリーンローン」による太陽光発電所のリファイナンス資金として2億2,800万円を実行した事例などが報告されている ₇。J-クレジット制度への関与も注目すべき点である。当行は2011年度からJ-クレジットの販売仲介業務を開始し、2023年度までの累計で376件、12,104t-CO2​の仲介実績を上げている ₂, ₆。特に2021年度以降、SDGsやカーボンニュートラルへの関心の高まりを背景に仲介実績が飛躍的に増加しており、2023年度からはJ-クレジットの創出支援にも乗り出している ₂。その一例として、島根県奥出雲町と連携し、町内の森林約570haを活用したJ-クレジット創出(想定創出量2.9万t-CO2​)を目指す協定を締結したことが挙げられる ₂。さらに、金融商品とカーボンオフセットを組み合わせた革新的な取り組みとして、2024年5月より「ごうぎんカーボンオフセットサポートローン」の取り扱いを開始した。これは全国で初めて、銀行とその電力事業子会社が連携し、融資実行に伴い非化石証書を寄贈する商品であり、取引先の脱炭素化への関心を喚起することを目的としている ₁, ₂。その他の気候変動対策としては、営業用車両へのEV(電気自動車)およびハイブリッド車の導入 ₆、行内におけるクールビズ・ウォームビズの励行による省エネルギー推進 ₆, ₈、そして環境省が推進する「デコ活(脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動)」への宣言 ₇ など、事業活動のあらゆる側面で環境負荷低減に向けた意識的な取り組みが展開されている。Scope₁およびScope₂のGHG排出量削減目標の達成は順調に進んでいるものの、Scope₃、特にカテゴリ15に分類される投融資ポートフォリオからの排出量(2024年3月末時点で8,201千t-CO2​と報告されている ₅)は、Scope₁・₂の合計排出量と比較して桁違いに大きい。このScope₃排出量の削減に向けて、投融資先とのエンゲージメント戦略の具体性とその実効性が、今後の当行の気候変動対応における評価を左右する重要な鍵となる。当行がPCAF(Partnership for Carbon Accounting Financials)に加盟したこと ₅ は、排出量算定・開示の国際標準化への対応という点で評価できる第一歩であるが、山陰地方に多いとされる中小企業に対する脱炭素化の働きかけには特有の難しさ(例えば、中小企業における脱炭素化への意識の低さやコスト負担への懸念 ₁₀)が存在することを踏まえ、これを如何に克服し実質的な削減に繋げるかが今後の大きな課題となる。

1.1.2. 潜在的リスクと事業機会

当行は、気候変動が事業活動に及ぼす潜在的なリスクとして、物理的リスクと移行リスクの双方を明確に認識し、その影響評価に取り組んでいる ₅。物理的リスクに関しては、台風や洪水といった極端な気象現象の頻発化・激甚化による直接的・間接的な被害を想定している。具体的には、豪雨等による洪水被害が担保物件の価値を毀損する可能性や、取引先企業が事業中断を余儀なくされることによる財務状況の悪化などが挙げられ、これらに伴う信用コストの増加額は最大で約57億円に上ると試算されている ₅。このリスクは、特定の地域に事業基盤が集中している地域金融機関特有の脆弱性を示唆しており、地域全体のレジリエンス向上が求められる。一方、移行リスクについては、低炭素社会への移行過程で生じる政策変更、法規制の強化、技術革新の遅延などが、取引先の事業環境や財務状況に負の影響を与える可能性を分析している。例えば、炭素税の導入や排出量規制の強化、あるいは新たな低排出技術への対応コストなどがこれに該当し、これらの要因による信用コストの増加額は最大で約81億円と試算されている ₅。特に、当行の主要な営業エリアである山陰地方の産業構造を考慮すると、運輸セクターや素材・建築物セクターなど、特定の産業分野が受ける影響が相対的に大きくなる可能性も指摘されている ₅。しかしながら、これらの気候変動関連リスクは、同時に新たな事業機会の源泉ともなり得る。再生可能エネルギー(太陽光発電、風力発電等)関連事業へのファイナンス需要の拡大 ₅, ₆, ₇、顧客企業に対する省エネルギー設備導入支援、脱炭素化戦略の策定や実行に関するコンサルティングサービスの提供 ₁, ₆、そしてJ-クレジット市場の活性化を通じた新たな金融仲介ビジネスの展開 ₂, ₆ などが具体的な事業機会として期待される。これらの機会は、当行が掲げるサステナブルファイナンス目標とも戦略的に整合しており、地域経済の持続可能な発展に貢献しつつ、当行自身の収益基盤を強化する可能性を秘めている。当行が開示しているシナリオ分析の結果(物理的リスク最大57億円、移行リスク最大81億円の信用コスト増 ₅)は、リスク認識の深度を示すものだが、これらの定量的なリスク評価を、個別の融資判断基準、事業ポートフォリオ戦略、さらには地域全体の経済的レジリエンスを向上させるための具体的な施策にどのように統合し、実効性を高めていくかが今後の重要な課題となる。特に、気候変動リスクが高いと特定された産業セクターや地理的エリアに対して、どのようなエンゲージメント方針を策定し、どのような支援策(技術導入支援、事業転換ファイナンス等)を提供していくのか、その具体策の提示が強く求められる。再生可能エネルギー導入支援や脱炭素コンサルティングといった事業機会の追求は、当行にとって新たな収益源となるだけでなく、地域企業の競争力強化や地域全体のカーボンニュートラル目標達成に直接的に貢献するものであり、この「事業機会の最大化」と「地域社会への貢献」という二つの目標を両立させるビジネスモデルの構築が、当行の持続的な成長を実現する上での鍵となるであろう。例えば、既に提供を開始している「ごうぎんカーボンオフセットサポートローン」 ₂ のような革新的な金融商品をさらに発展させ、山陰地方の地域特性や産業ニーズに応じた、より多様できめ細やかな金融・非金融ソリューションを提供していくことが期待される。

1.2. 資源循環の推進

1.2.1. 具体的な取り組みとプログラム

当行は、事業活動に伴う環境負荷を低減させるための重要な施策の一つとして、資源循環の推進に積極的に取り組んでおり、その具体的な活動は多岐にわたる ₈。まず、行内業務におけるペーパーレス化の推進が挙げられる。これは、デジタル技術の活用を通じて「紙」の使用を前提としない業務プロセスの構築を目指すものであり、行内のあらゆる業務における紙資源の消費量削減を目標としている ₆, ₈。廃棄物の削減とリサイクルの観点では、本店を中心に発生する紙ごみの大部分を廃棄物処理業者との連携によりトイレットペーパーなどの再生紙製品へとリサイクルする体制を整えており、これは資源の有効活用に具体的に貢献するものである ₃, ₈。また、不要となった廃棄文書についても、適切にリサイクル処理が施されている ₆。特筆すべき先進的な取り組みとして、2024年2月から全国の地方銀行に先駆けて資源循環型ATMの導入を開始したことが挙げられる ₈, ₁₁。この新型ATMは、耐用年数を終え回収された旧型ATMから取り出された部品やユニットを、厳格な再生プロセスを経て品質を確保した上で再利用(リユース)するものであり、製品ライフサイクル全体での資源効率向上を目指すサーキュラーエコノミーの理念を具現化し、環境負荷の低減に大きく貢献するものと期待される。このATM導入は、単なる廃棄物削減の範疇を超え、銀行の基幹設備そのものを循環型経済の思想に基づいて再設計するという、金融機関としては極めて意欲的な試みであり、サプライヤーである日立チャネルソリューションズ株式会社および株式会社日立製作所との協働を通じて実現したものである ₁₁。グリーン購入の推進も組織的に行われており、当行は「購買活動に関する方針」を明確に定め ₈、特に紙類や文具類の調達においては具体的なKPI(重要業績評価指標)を設定し、原則としてエコマークなどの環境ラベルが表示された製品を優先的に選定する方針を徹底している ₃, ₈。このKPI設定は、グリーン購入方針の実効性を担保し、具体的な成果へと繋げる上で重要な役割を果たしている。さらに、社会貢献活動の一環として、衣類の再活用を促進し、同時に開発途上国へのポリオワクチン寄付にも繋がる「古着deワクチン」プロジェクトにも積極的に参加しており、行内で不要となった制服を寄付するなどの活動を行っている ₁。これらの多角的な取り組みは、当行が資源循環を重要な経営課題と捉え、具体的な行動を通じて持続可能な社会の実現に貢献しようとする強い意志を示している。今後、廃棄物削減量やリサイクル率、資源循環型ATMの導入比率など、他の資源循環関連項目についても具体的なKPIを設定し、その進捗状況を定期的に開示することが、取り組みの透明性と実効性をさらに高める上で望ましい。

1.2.2. 潜在的リスクと事業機会

資源循環への取り組みが不十分な場合、当行はいくつかの潜在的リスクに直面する可能性がある。まず、資源価格の不安定化や継続的な高騰は、事務用品や設備機器などの調達コスト増加に直結し、銀行の運営経費を圧迫する要因となり得る。また、廃棄物処理に関する法規制が今後さらに強化され、リサイクル義務の範囲拡大や処理費用の高騰などが進めば、これもまたコスト増に繋がる可能性がある。評判リスクの側面では、環境意識が社会全体で高まる中、資源の大量消費や不適切な廃棄物管理を行っていると顧客や投資家から認識された場合、企業イメージの低下やブランド価値の毀損を招く恐れがある。一方で、資源循環への積極的な取り組みは、これらのリスクを軽減するだけでなく、新たな事業機会を創出する可能性も秘めている。最も直接的な機会としては、ペーパーレス化の徹底や省エネルギー型設備の導入といった資源利用効率の向上策を通じて、事務コストや光熱費などの直接的な経費削減が期待できる。さらに、金融機関としての事業機会も考えられる。例えば、当行が先駆的に導入した資源循環型ATMのノウハウや、サプライヤーとの連携経験を活かし、取引先企業に対して資源効率改善に関するコンサルティングサービスを提供する、あるいはサーキュラーエコノミー関連事業への投融資を専門的に行う「サーキュラーエコノミー推進ローン」のような新たな金融商品を開発することが可能である。これは、地域企業の資源効率改善や循環型ビジネスモデルへの移行を金融面から支援し、当行にとって新たな収益源となり得る。また、地域金融機関としての特性を活かし、地域内での廃棄物リサイクルネットワークの構築支援や、地域資源(例えば未利用バイオマスなど)を活用した循環型産業の育成を金融・情報面からサポートすることも考えられる。これは、J-クレジット創出支援 ₂ に見られるような地域貢献とビジネスを両立させるモデルであり、地域経済の活性化と環境負荷低減の同時達成に寄与し得る。さらに、「古着deワクチン」 ₁ のような従業員参加型の社会貢献活動は、CSRとしての外部評価を高めるだけでなく、行員の環境意識の向上や組織としての一体感の醸成といった内部的な効果も期待できる。これらの機会を戦略的に追求することで、当行は環境負荷低減と経済的価値創造の両立を目指すことができる。

1.3. 生物多様性の保全

1.3.1. 具体的な取り組みとプログラム

当行は、気候変動問題と並ぶ重要な環境課題として、生物多様性の保全および自然資本への対応を新たな経営マテリアリティとして認識し、その取り組みを本格化させている ₁。この分野における国際的な情報開示の枠組みである自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)の提言に対しては、早期に対応する姿勢を示しており、2023年9月にはTNFD提言の採用者(Adopter)として登録を完了し、TNFDフォーラムへも積極的に参画している ₁, ₁₂。今後は、TNFDが推奨する分析アプローチであるLEAP(Locate:自然との接点の発見、Evaluate:依存関係と影響の診断、Assess:リスクと機会の評価、Prepare:対応準備と報告)を用い、当行の事業活動および投融資ポートフォリオが自然資本や生物多様性に与える影響、依存関係、そしてそれに伴うリスクと機会を体系的に分析し、その結果を情報開示していく方針である ₁₂。具体的なTNFDに基づく開示は、2025年会計年度の報告から開始される予定となっている ₁₂。このTNFDへの早期のコミットメントと具体的な開示準備は、特に日本の地方銀行の中では先進的な動きと評価でき、自然資本に関連するリスクと機会に対する経営層の感度が高いことを示唆している。これが実際の投融資判断や顧客企業とのエンゲージメント戦略にどのように具体的に結びついていくかが、今後の注目点となる。主要な国際的・国内的イニシアチブへの参加も積極的に行っており、環境省が主導する「生物多様性のための30by30アライアンス」には2024年1月に参加を表明した ₁, ₁₂, ₁₃。これは、2030年までに日本の陸と海の30%以上を健全な生態系として効果的に保全するという国際目標の達成に、金融機関として貢献しようとする意志の表れである。また、2022年6月には「経団連生物多様性宣言イニシアチブ」にも加盟し、経済界全体での生物多様性保全への取り組みに歩調を合わせている ₃, ₁₂。行政との連携も深めており、環境省とは2021年3月に「国立公園オフィシャルパートナーシップ」を締結し、国立公園の魅力向上と利用促進を通じて地域活性化に貢献する活動を展開している ₁₂。さらに、鳥取県とは2023年12月から「生物多様性マッチング業務」に関する協定を締結し、官民連携による自然共生サイト(OECM:Other Effective area-based Conservation Measures)の認定促進などを通じて、地域レベルでの生物多様性保全活動を支援している ₁₂, ₁₃。これらのイニシアチブへの参加と並行して、当行は地域社会と連携した具体的な環境保全活動も長年にわたり継続している。代表的なものとして、鳥取砂丘、三朝町、大山町など山陰地方の象徴的な自然景観地において「ごうぎん希望の森」と名付けた森林保全活動(植樹、下草刈り、間伐など)を展開しているほか ₁, ₃, ₆, ₁₂、地域の海岸清掃活動や中海・宍道湖におけるヨシ刈り取りボランティアなどにも積極的に参加している ₁₂。また、「森林(もり)を守ろう! 山陰ネットワーク会議」の事務局としての役割も担い、地域全体の森林保全意識の向上と活動の連携促進に貢献している ₁, ₆。「30by30アライアンス」への参加と、従来から実施している「ごうぎん希望の森」のような地域密着型の保全活動を有機的に連携させることで、国際的な保全目標達成への具体的な貢献と、地域社会における環境意識の啓発という両面での効果が期待される。特に、鳥取県との生物多様性マッチング業務は、この連携を具現化し、企業や地域住民を巻き込んだ広範な保全活動へと発展させるための重要なプラットフォームとなり得る。

1.3.2. 潜在的リスクと事業機会

当行は、その事業活動および投融資先の事業が、森林、水資源、土壌、生態系サービスといった自然資本に広範に依存し、また多大な影響を与えている可能性を認識している ₁₂。この依存と影響の関係性を適切に把握し、管理する体制が不十分な場合、当行は様々なリスクに直面する可能性がある。具体的には、自然災害の激甚化による事業中断やサプライチェーンの混乱、原材料調達の困難化といった物理的リスク、環境規制の強化や新たな環境税の導入に伴うコスト増加といった規制リスク、さらには生態系破壊への加担や自然資本の劣化を助長していると社会から見なされた場合のレピュテーションリスクなどが想定される。特に、当行の主要営業基盤である山陰地方においては、農業、林業、漁業、観光業など、自然資本への依存度が極めて高い産業が地域経済の重要な柱を成しており、これらのセクターにおける生物多様性の損失や生態系サービスの劣化は、個々の企業の経営リスクに留まらず、地域経済全体の持続可能性を脅かすリスクへと繋がりかねない。一方で、これらのリスク認識は、新たな事業機会の創出へと転化し得る。当行は、自然資本に関連する金融商品やサービスの開発に積極的に取り組む方針を示しており ₁₂、例えば、生物多様性の保全や回復に直接的に貢献するプロジェクト(サステナブルな土地利用、持続可能な農業・林業・漁業への転換支援、生態系再生技術の開発・導入など)への専門的な融資プログラムの提供や、生態系サービスの経済的価値を評価する新たな評価軸を導入した投融資判断、さらにはTNFD対応を目指す企業に対するコンサルティングサービスの展開などが考えられる。TNFD対応を進める中で、単に自然関連リスクを低減するだけでなく、生物多様性の回復・向上に積極的に貢献する、いわゆる「ネイチャーポジティブ」な事業への投融資機会が具体化する可能性があり、これは地域経済の持続可能性と銀行の新たな収益機会を両立させる有望な道筋となり得る。「ごうぎん希望の森」 ₆, ₁₂ に代表されるような地域社会と連携した保全活動は、地域社会への貢献として高く評価されるだけでなく、例えば森林吸収源としてのJ-クレジット創出に繋がり、新たな経済的価値を生み出す機会ともなり得る。また、鳥取県との間で開始された生物多様性マッチング業務 ₁₂ は、生物多様性保全に関心を持つ企業と具体的な保全活動を結びつけるプラットフォームとして機能し、新たなビジネスモデルを構築する好機を提供する。生物多様性保全活動を通じて、山陰地方が誇る豊かな自然環境という地域ブランド価値の向上に貢献し、それが観光業の振興や農水産物の高付加価値化に繋がることで、地域経済を間接的に支援することも期待される。これは、地域金融機関としての長期的な地域経済へのコミットメントを示すものであり、巡り巡って当行自身の事業基盤の強化にも資するであろう。

2. 金融業界における環境イニシアチブの先進事例

金融業界においては、環境課題への対応が単なる社会的責任を超え、経営戦略の根幹に関わる重要事項として認識されるようになり、国内外の金融機関において先進的かつ多様な取り組みが見受けられる。気候変動対応の分野では、地域金融機関である滋賀銀行が特筆すべき活動を展開している。同行は、早くから「環境経営」を経営方針の中心に据え、独自の「ESG評価制度」を融資判断に組み込み ₉, ₁₄, ₁₅、取引先企業の環境活動を評価し金利優遇等を行うことで、地域全体のサステナビリティ向上を促している。さらに、顧客の脱炭素化を具体的に支援するための包括的なプログラム「しがCO₂ネットゼロ」プラン ₁₆ を提供するなど、地域に根差したきめ細やかな対応が特徴的である。また、同じく地域金融機関である北都銀行は、その営業エリアである秋田県の豊富な風力資源に着目し、風力発電事業に対するプロジェクトファイナンスを積極的に組成することで、再生可能エネルギーの普及促進と地域経済の活性化を両立させるビジネスモデルを構築している ₉, ₁₇, ₁₈。これらの取り組みは、地域固有の特性や資源を最大限に活用し、金融仲介機能を通じて環境価値と経済価値を同時に創出しようとする点で、山陰合同銀行が設立した「ごうぎんエナジー」 ₂, ₇, ₉ の戦略と共通する視点を持つものの、支援対象事業の規模の多様性や、提供するファイナンス手法の幅広さにおいては、さらなる比較検討の余地が残されている。資源循環の分野では、国際的に注目される事例として、オランダのABNアムロ銀行がアムステルダムに建設したサーキュラーエコノミー複合施設「CIRCL」が挙げられる ₁₉, ₂₀, ₂₁, ₂₂, ₂₃, ₂₄, ₂₅, ₂₆, ₂₇。この施設は、建設段階から解体後の再資源化を前提とした設計思想(Design for Disassembly)に基づき、リサイクル素材や再利用建材を多用しているだけでなく、施設内で運営されるレストランにおいても食品廃棄物ゼロを目指すなど、建物全体が循環型経済の理念を体現するショーケースとなっている。これは、金融機関が自ら実践者となり、その経験や知見を社会に還元することで変革を主導しようとする先進的なモデルであり、山陰合同銀行が導入した資源循環型ATM ₈, ₁₁ も国内では先進的と評価できるが、ABNアムロ銀行の取り組みは事業所運営全体をサーキュラーエコノミーの実験場かつ発信拠点とする点で、より包括的かつ戦略的であると言える。生物多様性保全の分野においては、フランスの大手金融機関BNPパリバの取り組みが多岐にわたる。同行は「生物多様性ロードマップ」を策定・公表し ₂₈, ₂₉、生物多様性に対する主要な5つの脅威(土地・海洋利用の変化、特定生物の直接的搾取、気候変動、汚染、侵略的外来種)への具体的な対応方針を明確化するとともに、2025年までに全ての法人顧客を生物多様性関連の基準で評価するという野心的な目標を設定している ₂₉。さらに、投資家としての立場から、株主提案を通じて投資先企業であるマクドナルドに対し、サプライチェーンにおける生物多様性への影響評価の実施と、TNFDのガイダンスなどを考慮した情報開示を求めるなど ₃₀、積極的なエンゲージメント活動も展開している。加えて、BNPパリバ財団を通じて「気候・生物多様性イニシアチブ」を立ち上げ、海洋生態系や沿岸生態系の保全に関する科学研究プロジェクトへの資金提供を行うなど ₃₁, ₃₂、資金供給者としての役割も果たしている。また、オランダの倫理銀行として知られるトリオドス銀行は、ネイチャーベースソリューション(NbS)への融資に特化した具体的な数値目標(2030年末までに5億ユーロ)を設定し ₃₃, ₃₄、英国で導入された生物多様性ネットゲイン(BNG)ユニットモデルに基づく民間セクター向け融資の先駆的な事例を創出するなど ₃₃、自然資本の回復に直接貢献するファイナンスを推進している。山陰合同銀行は、TNFDへの早期採用表明や「30by30アライアンス」への参加 ₁₂, ₁₃ など、国際的なイニシアチブへの関与は着実に進めているものの、BNPパリバに見られるような投融資先の評価基準への生物多様性要素の具体的な組み込みや、トリオドス銀行のようなネイチャーポジティブファイナンスに特化した定量的目標の設定といった点では、今後の戦略展開における検討課題となろう。これらの先進事例は、金融機関が環境課題の解決において果たし得る役割の多様性と、その実現に向けた具体的な戦略や手法に関する貴重な示唆を提供するものである。これらの事例を詳細に検討すると、共通して見られるのは、金融商品やサービスの提供を通じて顧客企業の環境対応を支援するという「金融を通じた変革」と、自行の事業活動や施設運営における環境負荷の低減や資源循環を徹底して実践するという「自社の変革」の、両輪を高いレベルで追求している点である。ABNアムロ銀行のCIRCL ₁₉, ₂₀ はその象徴であり、自らが模範を示すことで社会全体の変革を促すという強いメッセージ性を有している。また、BNPパリバによる株主提案 ₃₀ や、全顧客に対する生物多様性評価基準の導入計画 ₂₉ は、金融機関が保有する影響力を多角的に活用し、より深いレベルでの構造変革を促そうとする能動的な姿勢を示しており、単なる資金提供者の役割を超えた、建設的な対話と具体的な行動変容を志向するエンゲージメントの重要性を示唆している。さらに、トリオドス銀行によるネイチャーベースソリューション(NbS)への特化型融資目標 ₃₃, ₃₄ は、気候変動対策に加えて、生物多様性の保全や自然資本の回復に直接的に貢献する事業への資金供給という、新たな金融市場の可能性を提示している。TNFDフレームワークの普及と社会的な要請の高まりとともに、このようなネイチャーポジティブファイナンスの潮流は今後ますます強まることが予想される。

3. 山陰合同銀行の環境パフォーマンスにおける現状の課題と提言

山陰合同銀行は、気候変動対策、資源循環の推進、生物多様性の保全という主要な環境分野において、これまで述べてきたように多岐にわたる具体的な取り組みを積極的に展開している ₂, ₅, ₆, ₈, ₁₂。しかしながら、その事業基盤である山陰地方特有の経済構造や、地域金融機関としての役割遂行の中で直面する課題、さらには環境イニシアチブの一層の深化と実効性向上に向けた内部的な課題も認識される。現状の主要な課題としては、第一に、サプライチェーン全体でのGHG排出量削減、特にScope₃排出量の大部分を占める投融資先(カテゴリ15)の排出量削減に向けたエンゲージメントの難しさが挙げられる。これは多くの地方銀行が共有する課題であり ₁₀、取引先の多くを占める地域の中小企業は、情報、人材、資金の制約から脱炭素化への取り組みが遅れがちであるか、あるいはコスト増としての認識が強い場合が多い ₁₀。当行が提供を開始した「ごうぎんカーボンオフセットサポートローン」 ₂ はこの課題への一つのアプローチであるが、より多様な業種や規模の企業のニーズに対応できる、包括的かつ具体的なソリューション提供能力の向上が不可欠である。外部環境分析にかかる時間短縮のためのツール導入 ₃₅ も、この課題認識の表れと解釈できるが、分析から具体的な行動変容支援への橋渡しが重要となる。第二に、サステナブルファイナンスの「質」と、それがもたらす環境・社会への具体的な「インパクト」の測定・評価・開示に関する透明性と深度の向上が求められる。実行額目標は設定されているものの ₅、各ファイナンス案件が具体的にどのような環境改善効果(例:CO2​削減量、再エネ導入量)や社会貢献(例:雇用創出数、地域経済波及効果)をもたらしたのか、あるいはもたらす見込みなのかを定量的に示し、その進捗を追跡する枠組みの強化が期待される。格付投資情報センター(R&I)によるポジティブインパクトファイナンス実施体制の評価取得 ₃₆ はこの方向への進展を示すものだが、これを個別の投融資案件レベルにまで広げ、透明性の高い情報開示を行うことが、ステークホルダーからの信頼獲得に繋がる。第三に、TNFDへの早期賛同とフォーラム参画 ₁₂ は評価に値するものの、LEAPアプローチを用いた具体的な分析結果の開示や、それを踏まえたリスク管理策の策定、さらには自然資本に関連する新たな事業機会の創出戦略の具体化は、これからの重要なステップである。特に、山陰地方の基幹産業である農業、林業、観光業など、自然資本への依存度が高いセクターに対する投融資方針やエンゲージメント戦略に、この分析結果をどのように反映させていくかが課題となる。第四に、資源循環および生物多様性保全の分野における、より具体的なKPI(重要業績評価指標)の設定と、それに基づく目標管理の強化が望まれる。気候変動分野ではGHG排出量削減目標などが明確に設定されているが ₅、資源循環に関しては、例えば廃棄物総量の削減目標、リサイクル率の向上目標、水使用量の削減目標など、また生物多様性保全に関しては、保全活動に貢献した面積の拡大目標、支援したプロジェクト数、あるいはそれらによる生態系サービス向上への貢献度を示す指標など、定量的な目標設定とその実績開示を強化する余地がある。グリーン購入に関するKPI設定 ₈ は良い事例であり、このアプローチを他の環境側面にも拡大することが推奨される。第五に、環境問題の複雑化と専門化に対応するため、行内の専門人材育成と推進体制の一層の強化が不可欠である。サステナビリティ推進グループ ₅, ₁₂ の機能強化に加え、営業店を含む全行員の環境リテラシー向上、さらには気候変動リスク分析、脱炭素技術、サステナブルファイナンス、TNFD対応などの専門知識を有する人材の育成・確保が急務である。特に、取引先企業に対して実効性のある脱炭素コンサルティングやSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)支援を行うためには、高度な専門性が求められる。業務効率化のための人員捻出策 ₃₇ や生成AIの導入による生産性向上 ₃₈ も、こうした専門性の高い業務へリソースを戦略的にシフトするための一環として捉える必要がある。最後に、外部ESG評価機関からの評価については、SustainalyticsによるESGリスクレーティングが「Medium」 ₃₉, ₄₀、R&Iによる発行体格付が「A+」 ₄₁ と、一定の評価は得ているものの、国内外の先進的な金融機関との比較や、より高い評価基準から見ると、さらなる改善の余地が存在する(詳細は5. 環境スコア及びESG評価のベンチマーキングの章で後述)。これらの課題を踏まえ、当行の環境パフォーマンス向上と持続可能な成長に向けて、以下の提言を行う。第一に、山陰地方の産業構造、エネルギー需給状況、再生可能エネルギーの賦存量、特定産業の排出特性などを詳細に分析し、地域特化型のGX(グリーン・トランスフォーメーション)およびSXソリューションを開発・提供することを推奨する。これには、既存の「ごうぎんエナジー」 ₂, ₇ の事業展開やJ-クレジット仲介・創出支援 ₂ で得られたノウハウを最大限に活用し、必要に応じて外部の専門研究機関やコンサルティングファームとの戦略的連携も強化することが有効である。第二に、サステナブルファイナンス・フレームワークの国際標準への準拠性を高め、その透明性と信頼性を向上させることを提言する。具体的には、グリーンボンド原則(GBP)、ソーシャルボンド原則(SBP)、サステナビリティ・リンク・ローン原則(SLLP)などの国際的な指針に整合したファイナンス・フレームワークを整備・公開し、調達資金の使途や設定された目標(SPT)の達成度が、環境問題の解決や社会課題の改善にどの程度貢献したのかを、定量的および定性的なインパクト指標を用いて具体的に報告する体制を構築することが求められる。第三に、TNFD対応のロードマップを策定し、それを具体的な投融資判断プロセスやエンゲージメント戦略へ明確に組み込むことを推奨する。LEAPアプローチに基づく自然関連リスク・機会の分析を計画通りに進め、特に生物多様性への影響が大きいとされるホットスポットや水ストレスが高い地域における事業活動への投融資については、より慎重なデューデリジェンスとエンゲージメントを行う方針を策定・公開すべきである。第四に、資源循環および生物多様性保全に関する具体的なKPIと中長期目標を設定し、目標管理を強化することを提言する。例えば、紙使用量の前年度比削減率、総廃棄物排出量の削減目標、廃棄物のリサイクル率目標、水使用量の原単位改善目標、さらには生物多様性保全活動への貢献度を示す指標(例:植林本数、保全・再生に関与した生態系の面積、支援した保全プロジェクトの数やその成果)などを設定し、これらの進捗状況をサステナビリティレポート等で定期的に開示することが望ましい。第五に、行内におけるサステナビリティ人材育成プログラムを質・量ともに拡充することを推奨する。全行員を対象とした環境・社会課題に関する基礎研修の実施に加え、サステナビリティ推進担当者や法人営業担当者など専門性が求められる行員に対しては、TCFD/TNFDフレームワーク、ESG評価手法、インパクトファイナンスの理論と実践、各主要産業における脱炭素技術の動向など、より高度な専門研修を体系的に提供し、関連する外部資格の取得支援制度なども積極的に活用して、行内に専門人材のプールを形成することが重要である。第六に、ステークホルダー・エンゲージメントの一層の深化を提言する。投資家、顧客企業、地域社会、NPO/NGO、従業員など、多様なステークホルダーとの対話の機会を増やし、当行の環境戦略や具体的な取り組みに対する意見やフィードバックを積極的に収集し、それを経営戦略や施策の継続的な改善プロセスに反映させることが求められる ₄₂。特に、近年増加傾向にある株主からの環境関連提案(メガバンク等での事例を参照 ₄₃)なども念頭に置き、建設的かつ透明性の高い対話を通じて相互理解を深めることが、長期的な信頼関係の構築に不可欠である。これらの提言を実行するにあたり、地方銀行が共通して直面する人口減少や地域経済の縮小といった構造的な課題 ₄, ₃₆ への対応と、環境経営の深化は不可分であるという認識が重要となる。例えば、地域の中小企業に対する脱炭素化支援は、企業の競争力強化を通じて地域経済全体の持続可能性を高めることに繋がり、ひいては銀行自身の長期的な経営基盤の強化にも資する。この地域課題解決と環境経営深化の間に生まれる相乗効果を意識した戦略こそが、当行の独自性を際立たせる。また、TCFDやTNFDといった国際的なフレームワークに基づく情報開示は、単なる規制対応や義務の履行として捉えるのではなく、当行のリスク管理能力の高さや新たな事業機会への積極的な取り組み姿勢を内外にアピールし、ESG評価機関や投資家からの信頼と評価を獲得するための戦略的なコミュニケーションツールとして積極的に活用すべきである。開示される情報の質と量が、企業の資金調達コストや市場評価に直接的な影響を与える時代認識が求められる ₄₄, ₄₅。そして、環境リスクへの対応という「守り」の側面と、環境関連ビジネス機会の追求という「攻め」の側面のバランスを戦略的に取ることが肝要である。現状、リスク分析 ₅ は着実に進められているが、それを具体的な事業機会へと転換し、持続的な収益に結びつけていく「攻め」の戦略のさらなる具体化と、その進捗の可視化が期待される。

4. 主要競合銀行の環境戦略分析

山陰合同銀行の環境戦略およびパフォーマンスを相対的に評価する目的で、主要な競合地域金融機関グループの環境イニシアチブについて、気候変動、資源循環、生物多様性の各分野を中心に分析を行う。分析対象は、地理的に隣接し競合関係にあると考えられる中国地方のちゅうぎんフィナンシャルグループ(中国銀行)、ひろぎんホールディングス(広島銀行)、山口フィナンシャルグループ(山口銀行、もみじ銀行、北九州銀行)に加え、環境への取り組みにおいて先進的と目される滋賀銀行、および東北地方で独自の戦略を展開する**フィデアホールディングス(北都銀行、荘内銀行)**とする。

ちゅうぎんフィナンシャルグループ(中国銀行)は、気候変動対応としてTCFD提言に賛同し、2030年度末までにScope₁・₂排出量のネットゼロ達成を目標として掲げている ₄₆。サステナブルファイナンスに関しては、2030年度末までに累計1.5兆円(そのうち環境関連に1兆円)の実行を目指しており ₄₆, ₄₇, ₄₈、2023年度のScope₁・₂排出量は2013年度比で46.3%の削減を達成したと報告している ₄₆。移行リスクに関するシナリオ分析は、電力、自動車・同部品、陸運、建設・土木の各セクターを対象に実施済みである ₄₆。また、TNFDフォーラムへも参画し ₄₇, ₄₉、グループ会社である「ちゅうぎんエナジー」を通じて太陽光PPA事業などを展開している ₄₆。資源循環の分野では、「おかやまプラスチック3R宣言事業所」への登録を行い ₅₀, ₅₁、グリーン購入指針の策定やペーパーレス化を推進している ₅₀。特筆すべきは、NTTビジネスソリューションズ株式会社と連携し、食品資源循環ソリューションに関するビジネスマッチング契約を締結したことである ₅₂。生物多様性保全に関しては、2008年度から「ちゅうぎんの森」と名付けた岡山県真庭市内の森林において、台風による風倒木被害地の再生事業(植林、下草刈り、間伐等)に継続的に取り組み、そのCO₂吸収量について岡山県から認証を受けている ₅₀, ₅₃。さらに、「生物多様性のための30by30アライアンス」にも参加しており ₅₀、グループの環境方針においても生物多様性保全への取り組みを明確に位置づけている ₅₄。

**ひろぎんホールディングス(広島銀行)は、気候変動対応においてTCFD提言に賛同し、グループ全体のScope₁・₂排出量について2030年度までのカーボンニュートラル達成、さらにScope₁・₂・₃の全排出量については2050年度までのカーボンニュートラル達成を目標としている ₅₅。サステナブルファイナンスの目標額は、2021年度から2030年度までの累計で2兆円(うち環境分野1兆円)を設定している ₅₅。2023年度のScope₁・₂排出量実績は、2013年度比で52.8%削減された ₅₅。自行の取り組みとしては、本社ビルへのグリーン電力導入(オフサイトPPA契約締結)や、一部支店のZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)化などを推進している ₅₅。また、海運ポートフォリオの脱炭素化を推進する国際イニシアチブであるポセイドン原則にも署名している ₅₅。資源循環に関しては、広島県特産の牡蠣筏をリサイクルし、自動車部品製造における鋳造用バイオマス燃料として活用するサプライチェーン構築の検討に関与しているほか ₅₅、グループ会社においてエコ紙クリアファイルの企画・販売などを行っている ₅₅。生物多様性保全の分野では、広島県尾道市が推進するブルーカーボン・オフセット事業(藻場の再生によるJブルークレジット創出)において創出されたクレジットを購入するとともに、関連する環境教育活動への協力も行っている ₅₅。また、店舗等の施設整備にあたっては、広島県産木材を積極的に活用する協定を広島県と締結している ₅₅。

山口フィナンシャルグループ(YMFG)は、気候変動対応としてTCFD提言に賛同し、2030年度までにグループのCO₂排出量(Scope₁・₂)をネットゼロとする目標を掲げている ₅₆, ₅₇。2023年度のScope₁・₂排出量は10,588t-CO2​で、前年度比21%の削減を達成した ₅₆, ₅₇。サステナブルファイナンスについては、2022年度から2031年度までの累計実行額目標を1兆5,000億円(うち環境分野・気候変動対応は5,000億円)とし、2023年度までの実績は4,527億円(うち環境分野・気候変動対応は2,819億円)となっている ₅₆, ₅₇。シナリオ分析は電力、自動車、海運の各セクターを対象に実施済みである ₅₆。YMFGは「環境・社会に配慮した投融資方針」を策定しており、この中で石炭火力発電所の新設や拡張を資金使途とする投融資は行わない方針を明確にしている ₅₆, ₅₇, ₅₈。資源循環の取り組みとしては、山口県下関市との共同提案である「地域経済のエコロジカルな循環による海峡(環境)都市づくり」プロジェクトにおいて、地域リース事業の展開やエコポイント制度の導入などを通じて、地域資源の有効活用と経済循環の創出を目指している ₅₉, ₆₀, ₆₁。また、グループのマテリアリティ(重要課題)の一つとして「省資源・省/創エネルギーへの対応」を特定している ₅₉。生物多様性保全に関しては、「環境・社会に配慮した投融資方針」の中で、絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約)に違反する事業、ラムサール条約指定湿地やユネスコ世界遺産へ負の影響を与える事業、そして国際的な認証(FSC、PEFC等)を取得していない等の大規模な森林伐採を伴う事業への投融資は行わないという明確な基準を設定している ₅₈。パーム油農園開発に対する投融資についても、RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)等の国際認証の取得状況を確認し、慎重に対応する方針である ₅₅, ₅₈。

先進的な取り組みで知られる滋賀銀行は、日本の地方銀行として初めて2018年7月にTCFD提言への賛同を表明し ₁₆、気候変動対応をリードしてきた。GHG排出量削減目標として、2024年3月末時点で2013年度比58.90%削減を達成し、2030年3月期末には75%削減、さらに2050年には本店を置く滋賀県が提唱する「しがCO₂ネットゼロ」の達成を目指している ₁₆。サステナブルファイナンスの実行額は2024年3月末時点で8,989億円に達し、中期目標の7,000億円を既に達成している ₁₆。また、近畿エリアの銀行で初となるエネルギー事業会社「しがぎんエナジー」を2024年4月に設立し、企業のGX・SXコンサルティングやPPA事業などを展開している ₁₆。資源循環の分野では、行内で発生したPETボトルを回収しカーペットとして再生する「PETボトル再生マット」プロジェクト ₁₅ や、通帳ケースへのバイオマスプラスチック配合、琵琶湖のヨシを活用したヨシ紙名刺の利用など、地域資源の活用と廃棄物削減に繋がるユニークな取り組みを実践している ₁₅。生物多様性保全においては、TNFDアダプターとして登録し、TNFDフォーラムにも加盟している ₁₆。琵琶湖とその周辺生態系の保全を目的とした「“いきものがたり”活動」(固有種であるニゴロブナやワタカの保護・育成・放流、ヨシ群落の保全・育成など)を長年にわたり展開しており ₁₅、2010年には独自の「生物多様性保全方針」を制定し、融資判断に「生物多様性格付」を導入するなど、金融業務と生物多様性保全を結びつける先進的な試みを行っている ₁₅。

最後に、東北地方を拠点とするフィデアホールディングス(北都銀行、荘内銀行)**は、グループとしてTCFD提言に賛同し ₆₂、2030年度までにCO₂排出量(Scope₁・₂)を2013年度比で70%削減し、同年度中にネットゼロを達成するという目標を設定している ₆₂, ₆₃。2023年度までの実績としては、50.2%の削減を達成している ₆₂。サステナブルファイナンス目標は、2021年度から2030年度までの10年間で累計4,000億円(うち環境分野2,000億円)であり、2023年度末までの実績は1,526億円となっている ₆₂, ₆₃, ₆₄, ₆₅。特に傘下の北都銀行は、秋田県の豊富な風力資源を背景に、再生可能エネルギー事業、特に風力発電関連のプロジェクトファイナンスに積極的に取り組んでいる点が特徴的である ₁₇, ₁₈, ₆₆。資源循環に関する具体的なプログラムの詳細は限定的であるが、グループの環境方針には環境負荷軽減への努力が明記されており ₆₄, ₆₅、顧客向けの脱炭素ソリューションメニューの中には省エネルギー・エネルギーマネジメントシステムの導入支援などが含まれている ₆₃。生物多様性保全に関しては、TNFDフォーラムへの参画を決定しており ₆₄, ₆₅、グループの環境方針においても生物多様性保全への努力を明記している ₆₄, ₆₅。傘下の荘内銀行は、山形県金山町で「荘銀かねやま絆の森」と名付けた森林保全活動を継続している ₆₅。また、フィデアグループとして環境省東北地方環境事務所と連携協定を締結し、地域の脱炭素化推進および生物多様性保全を含むローカルSDGsの達成に向けた取り組みを共同で進めている ₆₇。

これらの競合銀行の戦略を概観すると、各行ともにTCFD提言への賛同やGHG排出量削減目標の設定といった基本的な枠組みは共有しつつも、具体的な戦略の展開においては、それぞれの営業エリアが持つ地域特性(例えば、秋田県の風力資源、滋賀県の琵琶湖、広島県の牡蠣養殖など)や、経営陣の戦略的判断によって、再生可能エネルギー事業への注力度合い、地域資源循環への関与の仕方、生物多様性保全の重点分野などに明確な差異が見受けられる。これは、各行がそれぞれの地域社会における持続可能性への貢献と、自らの事業機会の創出を両立させるための最適解を模索している結果と言えるだろう。また、山陰合同銀行の「ごうぎんエナジー」 ₂、中国銀行の「ちゅうぎんエナジー」 ₄₆、滋賀銀行の「しがぎんエナジー」 ₁₆ のように、エネルギー関連事業や専門的な環境コンサルティングサービスを提供するための子会社設立や専門部署の設置といった動きは、金融機関による環境ビジネスへの本格的な参入と、その遂行に必要な専門性の強化を目指す共通のトレンドとして注目される。これは、環境関連ビジネスが単なる付帯サービスではなく、銀行グループの新たな収益の柱として成長する可能性を示唆している。サステナブルファイナンスの目標額についても、各行の規模や戦略的重点の置き方によって大きな違いが見られる。例えば、ひろぎんホールディングスは累計2兆円(うち環境分野1兆円) ₅₅、ちゅうぎんフィナンシャルグループは1.5兆円(うち環境分野1兆円) ₄₆, ₄₇、山口フィナンシャルグループは1.5兆円(うち環境分野0.5兆円) ₅₆、そして山陰合同銀行も1.5兆円(うち環境分野0.5兆円) ₅ となっており、これらの目標額の絶対値だけでなく、各行の総資産や貸出金残高に対する相対的な比率や、目標達成に向けた具体的な戦略、実績の進捗度などを総合的に比較検討することで、各行のサステナブルファイナンスへのコミットメントの度合いやその野心度をより深く評価する必要がある。

5. 環境スコア及びESG評価のベンチマーキング

企業の環境パフォーマンスは、複数の外部評価機関によって定量化・定性化され、ESGスコアとして公表されており、これらは投資家の投資判断や企業のレピュテーション形成において極めて重要な指標となっている。本項では、山陰合同銀行および前項で分析対象とした主要競合銀行について、入手可能な最新のESG評価を比較分析し、当行の相対的なポジションを明らかにする。

主要な国際的ESG評価機関であるMSCI ESGレーティングは、企業を最上位のAAAからCCCまでの7段階で評価するものであり、業種内での相対評価を基本としている ₆₈, ₆₉。山陰合同銀行に関する最新のMSCI総合評価は本調査の範囲では限定的であったが、過去(2017年時点)にはMSCI日本株ESGセレクト・リーダーズ指数において「A」評価で構成銘柄に含まれていた実績がある ₇₀。直近では、MSCI日本株女性活躍指数(WIN)の構成銘柄に選定されていることが確認された ₇₁。ちゅうぎんフィナンシャルグループは、MSCI日本株ESGセレクト・リーダーズ指数に2023年12月から選定されており ₇₂、過去にはBB以上の評価を得ていた ₇₃。ひろぎんホールディングスは、過去にMSCI ESG格付けで「BBB」の評価を獲得した実績がある ₇₄。山口フィナンシャルグループも、山陰合同銀行と同様に過去(2017年時点)にMSCI日本株ESGセレクト・リーダーズ指数へ「A」評価で選定されていた ₇₀。滋賀銀行は、MSCI日本株ESGセレクト・リーダーズ指数に選定されており、その評価スコアを3.8点に向上させたと報告している ₇₅。フィデアホールディングスに関するMSCI日本株ESGセレクト・リーダーズ指数への選定状況は確認できなかった ₇₆, ₇₇。

次に、Sustainalytics ESGリスクレーティングは、企業が直面するESGリスクを0から100超のスコアで評価し、そのスコアが高いほどリスクが高いと判断される。リスクレベルは「無視できる低さ」から「重大」までの5段階で分類される ₇₈, ₇₉。山陰合同銀行のSustainalytics ESGリスクレーティングは、2024年10月14日更新時点で29.6であり、「Mediumリスク」に分類されている。業種グループ(銀行)内では1040社中715位と評価されている ₃₉。別の情報源(2024年10月9日更新)でも同様に29.6(Mediumリスク)で、銀行業種グループ1015社中703位であった ₄₀。ちゅうぎんフィナンシャルグループ(中国銀行ニューヨーク支店として)の評価は、2025年3月18日更新予定で25.3(Mediumリスク)、業種グループ内1036社中475位とされている ₈₀。ひろぎんホールディングスは、2023年5月9日更新時点で28.4(Mediumリスク)、業種グループ内1016社中644位である ₈₁。山口フィナンシャルグループに関する具体的なSustainalyticsスコア情報は限定的であった ₄₅, ₇₈, ₈₂, ₈₃, ₈₄, ₈₅, ₈₆, ₈₇。滋賀銀行は、2024年10月9日更新時点で37.9と評価され、「Highリスク」に分類、業種グループ内1016社中1000位となっている ₈₈。フィデアホールディングスに関するSustainalyticsのスコア情報は確認できなかった。

国内の格付機関による評価では、格付投資情報センター(R&I)が山陰合同銀行の発行体格付を「A+」、格付の方向性を「安定的」としている ₄₁, ₈₉。ちゅうぎんフィナンシャルグループも同様に「A+」「安定的」の格付を得ている ₉₀, ₉₁。R&IはESG要素を考慮したファイナンス評価(グリーンボンドアセスメント等)も提供しており ₉₂, ₉₃、山陰合同銀行はR&Iからポジティブインパクトファイナンス実施体制についてPIF原則への適合性に関する確認を受けている ₃₆。日本格付研究所(JCR)も金融法人全体の格付リストを提供しており ₉₄、ESG関連評価(グリーンファイナンス評価、PIFへの意見書提供等)を行っている ₉₅。山陰合同銀行については、JCRによるESGクレジットアウトルックが複数年にわたり発行されていることが確認できる ₈₉。中国銀行は、JCRからポジティブ・インパクト・ファイナンス原則への適合性に関する第三者意見を取得している ₉₆。フィデアホールディングスのJCRによる格付は「BBB+」「安定的」である ₉₇。

CDPスコアは、気候変動、水セキュリティ、フォレスト等のテーマに関する企業の環境情報開示とその取り組みを評価する国際的な指標である ₉₈。山陰合同銀行に関するCDPスコアの直接的な情報は本調査では見当たらなかった。ちゅうぎんフィナンシャルグループは、CDP気候変動において「B評価」を取得していると報告している ₄₇。ひろぎんホールディングス、山口フィナンシャルグループ ₉₉, ₁₀₀、滋賀銀行、フィデアホールディングス ₉₇, ₉₈ についても、CDPスコアに関する具体的な情報は限定的であった。

主要なESG指数への選定状況も、企業のESGパフォーマンスを示す重要な指標となる。グローバルなインデックスプロバイダーであるFTSE Russellが作成する、ESG対応に優れた日本企業のパフォーマンスを示すFTSE Blossom Japan IndexおよびFTSE Blossom Japan Sector Relative Index ₁₀₁, ₁₀₂ について、山陰合同銀行は2024年7月に「FTSE Blossom Japan Index」の構成銘柄に選定された ₁₀₃。また、「FTSE Blossom Japan Sector Relative Index」の構成銘柄にも選定されている ₇₁。ちゅうぎんフィナンシャルグループについては、直接の選定状況は不明だが、関連会社である中国塗料が「FTSE Blossom Japan Sector Relative Index」に選定された事例がある ₁₀₄。ひろぎんホールディングスは、「S&P/JPX カーボン・エフィシェント指数」に採用されているが ₇₄、FTSE Blossom Japan Indexへの選定状況は不明である。山口フィナンシャルグループは、FTSE Blossom Japan IndexおよびSector Relative Indexに継続して選定されている ₁₀₅。滋賀銀行およびフィデアホールディングスに関するFTSE Blossom Japan Indexシリーズへの選定状況は確認できなかった ₇₆, ₁₀₂, ₁₀₆。

MSCI日本株ESGセレクト・リーダーズ指数は、ESG評価に優れた企業を選別して構築される指数である ₁₀₇, ₁₀₈。山陰合同銀行は過去にこの指数の構成銘柄であった実績があるが(2017年時点で「A」評価) ₇₀、直近ではMSCI日本株女性活躍指数への選定が確認されるに留まっている ₇₁。ちゅうぎんフィナンシャルグループは2023年12月から同指数の構成銘柄に選定されている ₇₂。その他の競合銀行の選定状況については、前述のMSCI ESGレーティングの項目で触れた通りである。

SOMPOアセットマネジメント株式会社がESG評価と株式価値評価を組み合わせて作成するSOMPOサステナビリティ・インデックスについては、山陰合同銀行が2023年度の構成銘柄に選定されている ₇₁。ちゅうぎんフィナンシャルグループに関する情報は確認できなかったが、株式会社ディスコが同インデックスに選定された事例がある ₁₀₉。

これらの外部評価を総合的に勘案すると、山陰合同銀行は国内の主要なESG指数に選定されるなど一定の評価を得ているものの、国際的な評価機関によるレーティングにおいては、さらなる向上の余地が示唆される。特に、MSCIやSustainalyticsのようなグローバルな評価機関は、評価アプローチや重点項目がそれぞれ異なり、例えばSustainalyticsのリスク評価とMSCIの業種内相対評価では、同じ取り組み内容であっても異なるスコアや格付けに繋がる可能性がある。したがって、各評価機関の評価軸の特性を深く理解し、バランスの取れた情報開示戦略と実質的なパフォーマンス改善を両輪で進めていくことが、今後の評価向上には不可欠である。FTSE Blossom Japan Indexのような主要なESG指数への選定は、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)をはじめとする国内外の機関投資家からの投資資金流入を促進し、企業価値の向上に直接的に貢献する可能性があるため ₇₁、選定の維持およびさらなる上位指数への採用を目指すことは、経営戦略上も重要である。CDPスコアや各種ESG評価は、情報開示の網羅性、透明性、具体性も評価の対象としている。当行のサステナビリティレポート ₄, ₄₂ はGRIスタンダードやTCFD提言を参考に作成されているが、今後、TNFDフレームワークへの対応を本格化させ、自然関連リスク・機会に関する詳細なデータを開示範囲に加えていくことなどにより ₁₂、評価の一層の向上が期待できる。

6. 結論

本報告書では、株式会社山陰合同銀行の環境イニシアチブに関して、「気候変動」「資源循環」「生物多様性」の三分野を中心に、その具体的な取り組み、潜在的リスクと機会、業界先進事例との比較、現状の課題と提言、そして主要競合銀行とのESG評価ベンチマーキングを包括的に分析した。分析の結果、当行は、地域金融機関としての特性を活かしつつ、環境課題への対応を経営の重要課題と位置づけ、具体的な行動を積み重ねていることが確認された。特に、100%出資子会社「ごうぎんエナジー株式会社」の設立による再生可能エネルギー事業への参入 ₂, ₇、全国の地方銀行で初となる資源循環型ATMの導入 ₈, ₁₁、そして自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)への早期対応準備 ₁₂ などは、当行の先進性を示す特筆すべき取り組みである。一方で、地域経済の屋台骨を支える中小企業群への脱炭素化支援のさらなる深化、実行額目標が設定されているサステナブルファイナンスが生み出す具体的な環境・社会インパクトの定量的評価と開示の充実、資源循環および生物多様性保全分野におけるより明確なKPI(重要業績評価指標)の設定とそれに基づく進捗管理および情報開示の強化といった課題も認識された。

競合分析や国内外の先進事例との比較からは、各金融機関がそれぞれの地域特性や経営戦略に基づき多様な環境イニシアチブを展開していること、金融仲介機能を通じた外部への働きかけと自行の事業活動における環境負荷低減という両面からのアプローチの重要性、そして投融資先や社会全体に対するエンゲージメントの深化が、環境パフォーマンス向上の鍵となることが示唆された。

株式会社山陰合同銀行が今後、持続可能な成長を確実なものとし、環境スコアおよびESG評価を一層向上させていくためには、本報告書で特定された課題への真摯な対応とともに、その強みである地域社会との強固な連携をさらに強化し、山陰地方全体のサステナビリティ向上に貢献する独自のビジネスモデルを構築・推進していくことが肝要である。特に、TNFDフレームワークに基づく自然資本および生物多様性に関するリスクと機会の評価を深化させ、その分析結果を具体的な金融商品開発、融資審査プロセス、そして顧客企業とのエンゲージメント戦略へと戦略的に結びつけていくことが、今後の企業価値向上と競争優位性確立に向けた重要な鍵となるであろう。当行が持つ地域密着性という強み ₁, ₂ を最大限に活用し、環境課題の解決を地域経済の活性化や新たな地場産業の創出に結びつける「地域共創型サステナビリティ」とも呼べるモデルを確立することは、他の大規模金融機関との明確な差別化要因となり得る。これは、単に環境対策を講じるという受動的な姿勢を超え、地域全体のレジリエンス向上に能動的に貢献する道筋を示すものである。また、ESG評価機関からのフィードバック ₇₈ を経営改善の貴重な機会と捉え、具体的な改善計画へと落とし込み、その進捗と成果を透明性高く開示するという継続的なPDCAサイクルを確立することが、持続的なESG評価の向上と、それを通じた企業価値の創造に不可欠である。このプロセスを通じて、当行はステークホルダーからの信頼を一層高め、山陰地方におけるサステナブルファイナンスのリーディングバンクとしての地位を確固たるものにできると期待される。