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東洋製罐グループホールディングス株式会社の環境イニシアチブとパフォーマンスに関する包括的分析

更新日:2025年4月20日

序論

目的

本報告書は、総合容器メーカーである東洋製罐グループホールディングス株式会社(以下、TSKG)の環境パフォーマンスについて、「気候変動」「資源循環」「生物多様性」の3つの主要分野に焦点を当て、学術的な水準での包括的な分析を提供することを目的とする。具体的には、TSKGの環境戦略、具体的な取り組み、実績(特に2022年度および2023年度のデータ)、関連するリスクと機会、業界の文脈、競合他社との比較、そして環境スコアリングに必要な詳細情報を、公開情報(主にサステナビリティレポートおよび関連開示資料)に基づき収集・評価する。  

範囲

本報告書の範囲は、TSKGの上記3つの環境分野における戦略、具体的施策、パフォーマンス、リスク・機会、業界動向、競合比較、ベンチマーキングを網羅する。分析は提供された情報源に依拠し、特に2022年度および2023年度の定量的データに注目する。  

方法論

本報告書は、TSKGの開示情報を分析し、競合他社や業界のベストプラクティスと比較評価するアプローチを採用する。設定された目標に対する進捗状況を評価し、学術的基準を遵守する。なお、利用者の指示に従い、報告書内での表形式によるデータ表示は避け、全てのデータは記述的に本文中に組み込む。

東洋製罐グループの環境戦略とガバナンス

創業の理念とサステナビリティの原点

TSKGのサステナビリティ活動の原点は、1933年に創業者高碕達之助が明文化した『東洋製罐の使命』に見出すことができる。この創業の理念は、現在の「東洋製罐グループサステナビリティ憲章」へと受け継がれている。同憲章は、「経営理念の実践」「ステークホルダーとの対話」「マテリアリティ(重要課題)の特定」「グループ一体となった事業活動の実践」の4つの柱から構成され、社会の持続可能な発展と自社の持続的な成長の両立を目指す基本的な枠組みとなっている。  

長期経営ビジョンと中期経営計画

TSKGは、2050年のあるべき姿として長期経営ビジョン2050「未来をつつむ」を策定し、従来の包装容器製造の領域を超え、社会を変える新たな価値を創造する企業グループを目指している。このビジョン達成に向けた中期的な戦略として、中期経営計画2025が定められている。これらの計画は、グループ全体のサステナビリティ戦略の根幹をなしている。  

環境ビジョンと環境方針

TSKGは、2002年に制定した環境方針に基づき、地球環境の保全と向上に積極的に取り組んできた。2021年には、環境ビジョンを従来の「低炭素社会」の実現から、2050年のカーボンニュートラル達成を目指す「脱炭素社会」の実現へと改定し、目標を引き上げた。改定後の環境方針では、省エネルギーと再生可能エネルギー利用比率の向上によるCO2排出量削減、ライフサイクルを通じた環境負荷低減(再生材・再生可能材利用、リサイクル性向上)、資源の有効利用(投入材料・廃棄物削減、再資源化)、環境影響懸念物質の削減・代替、環境汚染予防(海洋プラスチック問題への取り組み)、生態系・生物多様性への配慮、ステークホルダーとの環境コミュニケーションの推進が掲げられている。  

Eco Action Plan 2030

「Eco Action Plan 2030」は、TSKGグループがSDGsの目標年である2030年までに達成すべき定量的な環境目標群であり、2019年に策定され、2021年に改定された。この計画は、気候変動対応、資源循環、海洋プラスチック問題、生物多様性保全に関する具体的な目標値を設定している。主要な目標には、事業活動からのGHG排出量(Scope1&2)50%削減(2019年度比)、サプライチェーン排出量(Scope3)30%削減(2019年度比)、枯渇性資源使用量30%削減(2013年度比)、プラスチック製品の化石資源使用量40%削減(2013年度比)、全容器包装製品のリサイクル可能またはリユース可能化、事業活動での水使用量削減、PRTR法対象物質排出・移動量削減などが含まれる。  

マテリアリティ(重要課題)の特定

TSKGは、長期経営ビジョンやEco Action Plan 2030を踏まえ、持続可能な社会への貢献のため優先的に取り組むべき課題を「マテリアリティ」として特定している。環境分野における主要なマテリアリティとして、「環境配慮型製品・サービスの開発と提供」および「環境への貢献」が挙げられ、これらはSDGsとも関連付けられている。  

ガバナンス体制

サステナビリティ経営の推進体制として、代表取締役社長を委員長とする「グループサステナビリティ委員会」が設置されている。環境側面に関しては、「グループ環境活動委員会」が関連課題の審議・決定を行い、グループ全体の環境活動を統括している。サステナビリティ担当役員として室橋和夫氏(グループサステナビリティ担当)、金子友昭氏(環境担当)が任命されている。報告にあたってはGRIスタンダードを参照し、KPMGあずさサステナビリティ株式会社による第三者保証を受けている。  

外部イニシアチブへの参画・評価

TSKGは、国連グローバル・コンパクト(UNGC)への署名、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言への賛同、エレン・マッカーサー財団ネットワークへの加盟(日本の包装容器メーカー初)、CLOMA(クリーン・オーシャン・マテリアル・アライアンス)への参画(運営委員)、経団連自然保護協議会への参加など、多くの国際的・国内的なイニシアチブに積極的に関与している。また、S&P/JPXカーボン・エフィシェント指数やMSCI日本株女性活躍指数(WIN)、DJSI Asia Pacific Index などのESG指数にも選定されている。  

これらの戦略、方針、目標、ガバナンス体制、外部連携は、TSKGがサステナビリティ、特に環境課題に対して包括的かつ体系的なアプローチを採用していることを示している。長期ビジョンと具体的な数値目標(Eco Action Plan 2030)、そしてTCFDやSBTi、UNGCといった外部基準との整合性を図ることで、取り組みの基盤を固めていると言える。特に、2030年のGHG削減目標(Scope1&2)を35%削減から50%削減へと引き上げ、SBTiの1.5℃整合目標として認定を受けたことは、ステークホルダーからの期待の高まりや科学的知見の進展に対応し、より野心的な目標設定へと舵を切ったことを示唆している。これは、企業が外部環境の変化に柔軟に対応し、コミットメントレベルを高めている証左である。  

気候変動への対応

目標と実績

TSKGは、2050年のカーボンニュートラル達成を長期目標として掲げ、その中間目標としてEco Action Plan 2030において具体的なGHG排出削減目標を設定している。2030年目標は、2021年に改定され、SBTi(Science Based Targets initiative)より1.5℃整合目標としての認定を受けている。  

  • Scope1およびScope2排出量(事業活動由来):

    • 2030年目標: 2019年度比で50%削減。  

    • 2023年度実績: 2019年度基準年比で18.9%削減を達成した。これは目標達成(評価★★★)と評価されている。  

    • 2022年度実績: 2019年度基準年比で16.0%削減であった。2022年度の総排出量は1,175千トン-CO2であった。省エネルギー活動や再生可能エネルギー導入が進捗していることがうかがえる。  

  • Scope3排出量(サプライチェーン由来):

    • 2030年目標: 2019年度比で30%削減。  

    • 2023年度実績: 2019年度基準年比で6.7%の増加となった。これは目標未達(評価★)と評価されている。増加の要因として、生産量の増加と算定範囲の拡大が挙げられている。  

    • 2022年度実績: 2019年度基準年比で7.5%の増加であった。2022年度の総排出量は6,774千トン-CO2であった。  

Scope1および2における着実な削減進捗に対し、Scope3排出量の増加傾向は、TSKGの気候変動目標達成における最大の課題を示唆している。包装容器メーカーとして、原材料調達(上流)や製品の廃棄・リサイクル(下流)に関連するScope3排出量は、事業活動全体のカーボンフットプリントにおいて大きな割合を占める可能性が高い。生産量増加や算定範囲拡大は一部の説明になるものの、30%削減という野心的な目標に対する6.7%の増加という結果は、サプライチェーン全体での排出量管理の難しさを浮き彫りにしており、SBTiコミットメント達成に向けたリスク要因となっている。  

具体的な取り組み

TSKGは、GHG排出量削減に向けて多岐にわたる施策を展開している。

  • 再生可能エネルギーの導入: 太陽光発電設備の導入を積極的に推進している。2023年度には、国内3拠点(東洋製罐 滋賀工場、東洋鋼鈑 下松事業所、東洋メビウス 熊谷物流センター)および海外1拠点(Crown Seal Public Co., Ltd.)にオンサイト太陽光発電設備を導入した。さらに、東洋鋼鈑 下松事業所向けに、中国電力とのオフサイトPPA(電力購入契約)を締結し、新たに開発される64MWの営農型太陽光発電所から電力供給を受ける計画である。これにより、2030年までに同事業所の電力消費量の約20%を再生可能エネルギーに転換し、年間約25,000トンのGHG排出量削減を見込んでいる。東洋製罐 静岡工場でもオンサイトPPAモデルを活用し、年間約810トンのGHG排出量削減を開始している。  

  • 省エネルギー: 設備更新や生産ラインの統廃合に加え、技術革新による効率化も進めている。東洋ガラス 千葉工場では、2025年12月予定の大規模改修時に、大型ガラス溶融窯1基に酸素燃焼方式を国内で初めて導入する。これにより、現行の生産能力を維持しつつ、溶融窯1基あたりのGHG排出量を約20%削減できる見込みである。また、東洋製罐 川崎工場は省エネ活動が評価され、川崎市よりスマートライフスタイル大賞を受賞している。  

  • CO2分離回収技術: 九州大学発スタートアップである株式会社JCCLおよび三井物産プラスチック株式会社との3社共同で、JCCLが有するアミン含有ゲルを用いた省エネルギー型CO2分離回収技術の早期社会実装に向けた取り組みを開始した。この技術は、工場排ガス等からCO2を効率的に吸収し、40~60℃程度の低温蒸気で容易に脱離・回収できる特徴を持ち、従来法に比べ回収コストの大幅な低減が期待される。2025年度に東洋鋼鈑 下松事業所にて小型回収装置(VPSA1)を用いた実証実験を開始し、材料耐久性評価や設備最適化、量産化技術開発を進める。その結果に基づき、2025年度中に小型装置(回収能力30kg/日)、2026年度中にコンテナ型装置(回収能力300~500kg/日)の実装を目指す。並行して、大気中のCO2を直接回収するDAC(Direct Air Capture)技術の開発も進め、2025年度中の実証実験開始を予定している。このCO2回収プロジェクトは、将来的な大幅な排出削減に貢献する可能性を秘めているが、実証段階であり、その成功とスケールアップには不確実性が伴う。長期的な脱炭素戦略において、高い潜在能力を持つ一方でリスクも内包する要素と言える。  

  • 低炭素製品・プロセス: 資源循環の項で詳述する軽量化技術に加え、無溶剤型パウチの増産体制を構築し、GHG排出量を削減している。また、廃棄米や古米などを原料とするバイオマスプラスチック「ライスレジン」を使用した育苗ポットの試作・現地試験を実施し、良好な結果を得たことから、2025年には限定的な販売を開始する予定である。これは食品ロス削減や国内米農家支援にも繋がる取り組みである。  

  • 物流(モーダルシフト): トラック輸送から鉄道・海上輸送への転換を推進している。関東~関西間の缶蓋輸送におけるモーダルシフト化などが評価され、モーダルシフト取り組み優良事業者賞やエコシップ・モーダルシフト事業優良事業者の認定を受けている。ただし、これらの取り組みによる定量的なGHG削減効果に関する具体的な数値は、提供された情報からは確認できなかった。  

  • 森林クレジットの活用: 東洋鋼鈑は、山口県内で初めて認証された森林J-クレジットを三井物産株式会社より購入する契約を締結した。これは、同社が排出する重油(C重油)由来のCO2排出量に相当する年間1,300トンを、2024年度から2031年度までの8年間にわたり購入し、オフセットするものである。森林保全を通じて脱炭素社会の実現に貢献する取り組みの一環である。  

リスクと機会(TCFD提言に基づく開示)

TSKGは、2021年7月にTCFD提言への賛同を表明し、気候関連のリスクと機会に関する情報開示を進めている。IEA(国際エネルギー機関)などのシナリオを参照し、1.5~2℃シナリオと4℃シナリオを用いて、2030年までの影響分析を実施している。分析対象は、国内および海外の主要事業(包装容器事業、エンジニアリング・充填・物流事業、鋼板関連事業、機能材料関連事業)へと拡大されている。  

  • 特定されたリスク:

    • 移行リスク(1.5~2℃シナリオ): 炭素税導入による操業コストの増加(ある試算では101億円の増加可能性が示唆されているが、詳細な前提条件は不明瞭)や、環境規制の強化が挙げられる。Eco Action Plan 2030の実施により、これらのコスト増加を抑制できる可能性も確認されている。  

    • 物理的リスク(4℃シナリオおよび全般): 異常気象の激甚化(洪水、渇水など)による製品製造の遅延や中断のリスクが認識されている。特に水リスクは経営への影響が大きいと評価され、2024年から運用開始予定の水リスクに関する総合マネジメントシステムの構築に繋がった。  

  • 特定された機会:

    • 移行機会(1.5~2℃シナリオ): 環境配慮型製品(軽量缶、リサイクル材使用製品など)への需要増加による販売拡大や、成長分野への投資加速が期待される。特に、鋼板関連事業においては、EV(電気自動車)やPHEV(プラグインハイブリッド車)向け電池部材・材料の需要が大幅に増加する機会が見込まれている。  

    • 物理的機会(4℃シナリオ): 気温上昇に伴い、特定の製品(例:飲料容器)の需要が増加する可能性が指摘されている。  

  • リスク管理: 特定されたリスクと機会は、全社的なリスクマネジメントの枠組みに統合され、水リスク管理システムの構築など、具体的な対応策が検討・実施されている。  

TCFDに基づく分析は、炭素税導入によるコスト増という明確な財務リスクと、環境配慮型製品やEV関連部材といった具体的な事業機会を特定しており、Eco Action Plan 2030を推進する上での財務的合理性を補強している。特に、鋼板事業における機会は、エネルギー転換に関連した事業多角化の可能性を示している。ただし、リスク quantification(例:101億円のコスト増)については、その算出根拠や前提条件の透明性を高めることが望ましい。  

資源循環の推進

目標と実績

TSKGは、「Eco Action Plan 2030」において、資源循環社会の実現に向けた複数の定量目標を設定している。

  • 枯渇性資源の使用量削減:

    • 2030年目標: 2013年度比で30%削減。  

    • 2023年度実績: 2013年度基準年比で20.4%削減を達成した。これは目標達成(評価★★★)と評価されている。  

    • 2022年度実績: 2013年度基準年比で16.0%削減であった(評価★★★)。容器の軽量化や工程での歩留まり向上が寄与していると考えられる。  

  • プラスチック製品における化石資源の使用量削減:

    • 2030年目標: 2013年度比で40%削減。内訳として、軽量化・素材転換により15%削減、再生材・植物由来樹脂の利用率30%向上を目指す。  

    • 2023年度実績: 2013年度基準年比で19.7%削減となった。これは目標未達(評価★)と評価されている。  

    • 2022年度実績: 2013年度基準年比で15.5%削減であった(評価★★)。  

  • 容器包装製品のリサイクル・リユース:

    • 2030年目標: 全ての容器包装製品をリサイクル可能またはリユース可能にする。進捗状況に関する定量的なデータは限定的である。  

気候変動目標と同様に、プラスチックに関する目標達成には課題が見られる。40%削減という目標に対して、2023年度実績が19.7%削減にとどまっている点は、特に注目すべきである。包装材に関する規制強化(容器包装リサイクル法、プラスチック資源循環促進法など)や、海洋プラスチック汚染問題への関心の高まりを考慮すると、この分野での遅れは将来的な規制リスクやレピュテーションリスクに繋がりかねない。  

具体的な取り組み

TSKGは、資源の使用量削減、リサイクル・リユースの促進、再生可能・代替素材への転換など、多角的なアプローチで資源循環に取り組んでいる。

  • 軽量化(Reduce):

    • 金属缶: 鉄製飲料缶で2004年度比約16%、アルミ飲料缶で同約6%の軽量化を達成(2023年度実績)。特に、圧縮成形底部改良(CBR: Compression Bottom Reform)技術を用いたアルミ缶の開発が進んでおり、例えば350ml DI缶では従来比1.5g軽量化(11.7g→10.2g)、500ml缶では同2.0g軽量化(15.0g→13.0g)を実現した。190ml缶では6.1gまで軽量化されている。これにより、缶あたりのGHG排出量も約8~9%削減され、全量適用した場合、年間約4万トンのGHG削減効果が見込まれる。この技術は木下賞を受賞するなど、高く評価されている。  

    • PETボトル: 形状や成形条件の工夫により樹脂使用量を削減。カゴメ株式会社と共同開発した軽量PETボトルは、従来品比7%軽量化(31g→28g)し、かつ100%リサイクルPET材を使用している。日本コカ・コーラ株式会社向けの500ml PETボトルも、プリフォーム形状やボトル底部形状の変更により、従来性能・デザインを維持しつつ9%軽量化(23g→21g)し、100%リサイクルPET材を使用している。こちらも木下賞を受賞している。  

    • その他: プラスチック製本体容器や詰替え用フィルムパウチの軽量化・減容化も進められている。  

  • リサイクル材の利用(Recycle):

    • PETボトル: 上記の通り、特定製品で100%リサイクルPET(rPET)の使用が実現している。また、日本クロージャー株式会社が、アサヒグループジャパン株式会社、双日プラネット株式会社と共同で、使用済みPETボトルキャップの水平リサイクルに向けた技術検証を開始している。  

    • 金属缶: 国内の高いリサイクル率を背景に、リサイクル原料の使用拡大を目指している。新開発の飲料缶用蓋「EcoEnd™」は、多様なリサイクル原料の使用を可能にし、採用拡大により年間約14万トンのGHG削減が見込まれる画期的な製品である。また、住友商事、神戸製鋼所、サントリーグループなどと協働し、マスバランス方式を用いて「グリーンアルミ」(再生可能エネルギー由来の電力で製造されたアルミ)を使用した缶を製造・商品化し、通常缶比でCO2排出量を25%削減した実績もある。  

    • プラスチック(ケミカルリサイクル): TSKGは複数のケミカルリサイクルプロジェクトに参画している。出光興産株式会社(子会社のケミカルリサイクル・ジャパン株式会社)とは、TSKG工場で発生するプラスチック製造工程くずを原料油にリサイクルする実証試験を行っている。また、使用済みプラスチックのリサイクル技術開発・実用化を目指す共同出資会社アールプラスジャパン株式会社にも参画している。さらに、地域循環モデルとして「Pla-relay Project」を推進。これは、鹿嶋市、株式会社リファインバース、三菱ケミカル株式会社、キユーピー株式会社、株式会社カスミとの6者連携により、家庭から回収した使用済みドレッシング容器のキャップと中栓をケミカルリサイクルし、再びドレッシング容器のキャップ・中栓として製品化する、日本初のクローズドループリサイクル実証プロジェクトである(2025年実施予定)。  

  • 再生可能・代替素材への転換(Replace):

    • バイオマスプラスチック: 植物由来樹脂の利用を進めている。前述の「ライスレジン」はその一例である。競合の大和製罐もサトウキビやトウモロコシ由来の100%バイオマス樹脂チューブを販売している。  

    • 紙素材: 東罐興業株式会社では、間伐材を原料とした紙コップを製造・販売している。  

  • リユースとリサイクルシステムの構築(Reuse & Recycle System):

    • リユース: 詰替え用パウチに対応したプラスチック製本体容器、規格統一リターナブルびん「Rマークびん」、株式会社ジャパンボトルドウォーターが手掛けるウォーターサーバー用大型リユースボトルなど、繰り返し使用可能な製品を提供している。  

    • リサイクル性向上設計: 2030年までに全容器包装製品をリサイクル可能またはリユース可能にする目標を掲げ、分別しやすい容器設計・開発を進めている。  

    • リサイクルシステム・啓発: アルミ缶リサイクル協会やPETボトルリサイクル推進協議会などのリサイクル団体に積極的に参加し、運営にも関与している。また、プロバスケットボールチーム「アルバルク東京」とのサステナブルパッケージパートナー契約に基づき、2025年秋開業予定の「TOYOTA ARENA TOKYO」において、ゼロウェイストを目指す「Re-CUPプロジェクト」を推進する。このプロジェクトでは、東罐興業が開発した、使用後にフィルムを剥がしてリサイクルできる紙コップ「FFカップ」と、カップ洗浄機「Re-CUP WASHER」を活用し、来場者が使用済みカップを洗浄・分別し、それを原料に新たなカップを製造する「CUP to CUP」(水平リサイクル)の実現を目指す。代々木第一体育館での実証実験では、カップ回収率が2022-23シーズンの23.9%から2023-24シーズンには38.1%に向上、さらに特定の試合での試行では40.9%を記録するなど、来場者の意識向上が見られる。消費者自らが洗浄・回収した紙コップが再生紙コップに生まれ変わるこの取り組みは国内初であり、注目される。  

  • 廃棄物削減: 投入材料の削減や廃棄物の削減・再資源化を方針として掲げている。グループ会社のStolle Europe Ltd.では、包装材の再利用により埋立廃棄物を約25%削減した(2023年度)。容器の軽量化や工程での歩留まり向上(不良率低減)も廃棄物削減に貢献する。  

TSKGは、プラスチック循環に関して、メカニカルリサイクル(rPET利用、キャップリサイクル)、ケミカルリサイクル(出光興産、アールプラスジャパン、鹿嶋市連携)、バイオマス素材(ライスレジン)、そして革新的な回収・リサイクルモデル(Re-CUPプロジェクト)といった複数の経路を同時に追求している。これは、各手法が持つ課題(メカニカル:品質劣化、ケミカル:コスト・効率、バイオマス:原料・廃棄)を考慮した、現実的かつ多角的な戦略と言える。いずれか単一の解決策に依存するリスクを低減し、状況に応じた最適な循環モデルを模索する姿勢を示している。一方で、これらの取り組み、特にケミカルリサイクルやRe-CUPプロジェクトはまだ実証段階や限定的な展開に留まるものも多く、目標達成に向けたスケールアップが今後の鍵となる。  

また、CBR技術を用いたアルミ缶の軽量化は、資源削減とGHG排出削減の両面に quantifiable な成果をもたらしており、環境分野間のシナジー効果を示す好例である。具体的な重量削減値(1.5g~2.0g)とGHG削減率(約9%)、年間ポテンシャル(4万トン)が示されていることは、技術開発の有効性を明確に示している。  

リスクと機会

資源循環の取り組みは、TSKGにとって以下のようなリスクと機会をもたらす。

  • リスク: 資源枯渇や原材料価格の変動リスク。容器包装に関する規制強化(EPR制度、プラスチック使用量削減義務など)によるコスト増・事業制約リスク。特にプラスチックに関する目標未達や取り組みの遅れによる、ステークホルダーからの信頼失墜や競争力低下のリスク。海洋プラスチック汚染問題への対応不足によるレピュテーションリスク。  

  • 機会: サステナブルな包装材への需要拡大に対応することによる市場シェア維持・拡大の機会。資源効率改善や軽量化によるコスト削減効果。革新的な循環ソリューション(Re-CUP、EcoEnd™など)によるブランドイメージ向上と市場差別化。協調的なリサイクルスキームへの参加による技術・ノウハウ獲得とインフラ構築への貢献。  

生物多様性の保全

目標と実績

TSKGは、Eco Action Plan 2030において生物多様性保全に関連する目標も設定しているが、気候変動や資源循環分野と比較すると、定量的な目標設定や実績報告はまだ発展途上にあるように見受けられる。

  • 目標: Eco Action Plan 2030では、「生物多様性の保全を推進」「事業活動における取水量を売上高原単位で前年度比1%改善」「水リスク評価・リスク低減の取り組み推進」「海洋プラスチック問題解決に向けた対応(散乱防止)と情報公開」が掲げられている。また、2030年までに事業活動での水使用量を2013年度比で30%削減するという目標も存在する。  

  • 実績(2023年度): 事業活動における取水量は、売上高原単位で前年度比6.0%改善(目標達成★★★)した。しかし、2013年度比での総取水量削減率に関する2023年度のデータは明示されていない。参考として、2022年度実績では2013年度比2.7%削減に留まり、30%削減目標に対しては大幅な遅れ(目標未達★)が見られた。その他の目標(海洋プラスチック、全般的な保全活動)については、主に定性的な進捗が報告されている。  

具体的な取り組み

TSKGは、水資源管理、汚染防止、生態系保全、モニタリング技術開発など、生物多様性に関連する多様な活動を実施している。

  • 水資源管理:

    • 水リスク評価: WRI Aqueduct や ENCORE といったツールを用い、国内外の主要生産拠点93箇所を対象とした水リスク評価を実施した。水資源、地下水、渇水、水質、洪水被害、規制・レピュテーションの6分野でリスクを評価し、事業活動への依存度・影響度を考慮して優先度(Priority 1~3)を分類した結果、7拠点が最もリスクの高いPriority 1に該当すると特定された。内訳は、水資源リスクで海外2拠点、規制・レピュテーションリスクで海外1拠点、洪水被害リスクで国内3拠点・海外4拠点である。具体的な拠点名は開示されていない。この評価結果に基づき、水リスクに関する総合マネジメントシステムを構築し、2024年から運用を開始している。この体系的なリスク評価は、潜在的な事業中断リスクや地域社会への影響を事前に把握し、対策を講じる上で重要なステップである。  

    • リスク低減策: 特定されたリスクへの対応として、例えば本州製罐 館林工場などでは、防水壁や防水扉の設置、近隣住民用の避難階段設置といった洪水対策を実施している。また、東洋ガラス 千葉工場では、工場屋根の雨水を回収・有効利用(年間約2,606㎥)するシステムを導入している。  

  • 汚染防止(樹脂ペレット漏出防止): 海洋プラスチック汚染の主要因の一つである樹脂ペレットの漏出防止は、包装容器メーカーにとって重要な課題である。TSKGは2019年にグループ共通の「樹脂ペレット漏出防止ガイドライン」を策定し、国内外の事業所に適用している。具体的な対策として、漏出可能性箇所の特定と防止策(雨水枡への金属ネット設置、ペレット捕集用スクリーン設置など)、日常管理、監査などを各社の環境マネジメントシステム(EMS)の中で運用している。ガイドライン策定と対策実施は評価できるが、その有効性を客観的に示すための定量的データ(監査実施件数、漏出インシデント件数・量など)の開示が不足している点は、今後の改善が期待される。海洋プラスチック問題への注目度を考えると、この分野での透明性向上は不可欠である。  

  • 生態系保全:

    • 森林保全: 東洋鋼鈑は、工場の水源涵養にも繋がる森林保全活動として、「ふれあいの森」での植林・下草刈りボランティア活動(第27回には約200名参加)などを実施している。日本トーカンパッケージ株式会社は、北海道沼田町と協定を結び、約0.5ヘクタールの町有林を「段ボールの森 DANDANの森」として借り受け、2023年9月より森林整備活動を開始した。また、経団連自然保護協議会への参加や、前述の森林J-クレジット購入も森林保全への貢献策である。  

    • ブルーカーボン生態系: 東洋ガラス株式会社は、ガラス中の有効成分が水中に徐々に溶け出す「緩水溶性ガラス」技術を保有しており、これを活用して藻場の造成や珪藻増殖を促進し、ブルーカーボン生態系の保全・回復に貢献している。国内外のブルーカーボンや藻場再生に関する情報共有や支援活動、気候変動と海洋生態系に関する情報発信にも積極的に関与し、多様な研究機関や団体、企業と協働している。  

  • 生物多様性モニタリング(eDNA技術): 東洋鋼鈑株式会社は、医療用に開発したDNAチップを用いた遺伝子解析システムが環境分野にも応用可能であることを見出し、山口大学や日本工営株式会社との共同研究を通じて、ダム貯水池の水(1リットル程度)から環境DNA(eDNA)を分析し、外来魚の種類を特定する技術を開発した。これにより、従来困難であった広範囲の生息調査が容易になる可能性がある。この研究成果は国際学術誌にも掲載された。  

TSKGは、水リスク評価においてAqueductやENCOREといった国際的に認知されたツールを活用し、リスクの高い拠点を特定するなど、プロアクティブな管理体制を構築しようとしている。しかし、その実効性は、特定された7つの高リスク拠点に対する具体的な緩和策とその成果に依存する。これらの詳細な計画や進捗状況については、今後の開示が待たれる。  

また、TSKGがガラス技術(緩水溶性ガラス)や遺伝子解析技術(eDNAチップ)といった自社のコア技術を、ブルーカーボン生態系保全や外来種モニタリングといった生物多様性ソリューションに応用している点は、特筆に値する。これは、単なる事業活動における環境負荷低減に留まらず、保有技術を活用して環境課題解決に貢献するという、より積極的な姿勢を示しており、企業価値向上に繋がる可能性を秘めている。  

リスクと機会

生物多様性の損失や劣化は、TSKGに以下のようなリスクと機会をもたらす。

  • リスク: 水リスク評価で特定されたような、水不足や洪水による操業への影響リスク。樹脂ペレット漏出などの環境汚染事故によるレピュテーションリスク。水使用や生態系への影響に関する規制強化リスク。生物多様性の損失による原材料(例:紙の原料となる木材、バイオプラスチック原料など)の供給不安定化リスク。  

  • 機会: eDNAチップや緩水溶性ガラスのような、生物多様性保全に貢献する技術や製品の開発・販売による新たな収益機会。森林保全活動などを通じた企業イメージ向上。水リスク管理強化による事業継続性の向上。ネイチャーポジティブファイナンスなど、自然関連の資金調達機会へのアクセス可能性。  

業界のベストプラクティスと比較分析

競合他社の特定と比較

TSKGが事業を展開する包装容器業界には、国内外に多数の競合企業が存在する。提供された情報から、主要な競合として、大和製罐株式会社、レンゴー株式会社、Amcor Plc、Ball Corporation、Crown Holdings Inc.などが挙げられる。これらの企業との比較を通じて、TSKGの環境パフォーマンスの相対的な位置づけを評価する。  

  • 気候変動への取り組み比較:

    • 目標: TSKGの目標(2030年:Scope1&2 50%削減、Scope3 30%削減(対2019年比)、2050年ネットゼロ)に対し、Ball社はより野心的な目標(2030年:Scope1&2 55%削減、Scope3 55%削減(対2017年比)、2050年以前ネットゼロ、2030年再生可能エネルギー100%)を、Crown社はより早期の目標(2040年ネットゼロ(The Climate Pledge)、2040年再生可能エネルギー100%(RE100))を設定している。レンゴー社は2030年までに化石エネルギー由来CO2を46%削減(対2013年比)、2050年ネットゼロ、大和製罐は2030年までにScope1&2 45%削減、Scope3 30%削減(対2015年比)、2050年ネットゼロ、SBTi認定準備中、Amcor社はSBTi認定済みの2050年ネットゼロ目標と脱炭素ロードマップを公表している。TSKGのScope1&2目標は強力だが、特にScope3目標やネットゼロ達成年において、Ball社やCrown社と比較すると、業界の最先端を行くとは言い難い可能性がある。  

    • 実績: TSKGの2023年度実績(Scope1&2 18.9%削減、Scope3 6.7%増(対2019年比))に対し、Amcor社は2024年度にGHG総排出量を前年比9%削減(2022年度比17%削減)、レンゴー社は2023年度に国内GHG排出量を2013年度比14%削減、大和製罐は2023年度にScope1&2を2015年度比15%削減している。ただし、基準年や算定範囲が異なるため、単純比較は難しい。  

    • 施策: Ball社の広範な再生可能エネルギーVPAポートフォリオ、Crown社の欧州での再生可能エネルギー契約、Amcor社のLCAツール「ASSET™」、レンゴー社のバイオマスボイラー導入、大和製罐のグリーンアルミ使用など、各社独自の取り組みを進めている。  

  • 資源循環への取り組み比較:

    • 目標: TSKGの目標(2030年:枯渇性資源30%削減、化石プラスチック40%削減、全包装材リサイクル/リユース可能化)に対し、Ball社はアルミ缶リサイクル材比率85%(2030年)、世界リサイクル率90%、Amcor社は全基材でリサイクル材30%(2030年)、PCRプラスチック10%(2025年)、大和製罐は金属缶リサイクル率目標(2025年:鉄93%以上、アルミ92%以上、既に達成済)、再生プラスチック利用率16%以上(2030年)などを掲げる。レンゴー社は紙のリサイクルシステムに強みを持つ。  

    • 実績: TSKGの2023年度実績(枯渇性資源20.4%削減、化石プラスチック19.7%削減(対2013年比))に対し、Amcor社は2024年度にPCRプラスチック使用率9%超、生産量の74%がリサイクル可能、レンゴー社は2023年度の古紙利用率98.6%、大和製罐は2022年度に鉄缶92.7%、アルミ缶93.9%のリサイクル率を達成している。  

    • 施策: Amcor社のリサイクル対応軟包装ポートフォリオ(90%超)、Ball社のエアゾール缶技術「ReAl®」(リサイクル材75%目標)、Crown社の金属の無限リサイクル性強調、レンゴー社の生分解性素材への注力などが特徴的である。TSKGの軽量化技術やリサイクルプロジェクトも、競合の取り組みと比較して評価されるべきである。包装容器業界全体として、技術革新が競争の重要な軸となっていることがわかる。TSKGも継続的な研究開発投資により、競争力を維持する必要がある。  

  • 生物多様性への取り組み比較:

    • アプローチ: TSKGは水リスク評価、ペレット漏出防止、森林保全、ブルーカーボン技術、eDNA技術などを展開。Crown社はIBATを用いたリスク評価、水ストレス地域での水補給目標(2030年100%)、ブラジルでの森林再生プロジェクトなどを実施。Ball社は主に資源効率(水、エネルギー)と責任ある調達に注力。Amcor社は責任ある繊維調達(認証サプライヤー99%超)、廃棄物削減(ゼロウェイスト認証153拠点)に重点。レンゴー社はウェブサイトでの言及、武生工場のビオトープ、FSC認証取得など。大和製罐は提供情報内では資源効率が中心。生物多様性への取り組みは、気候変動や資源循環と比較して、業界内での進捗度合いや重点領域にばらつきが大きいように見受けられる。特にCrown社の具体的な水補給目標や生息地再生プロジェクトは、TSKGや他の競合企業が開示している情報と比較して、より成熟し、インパクトに焦点を当てた取り組みとして際立っている。  

業界の先進事例

  • Ball Corporation: Scope1, 2, 3全てで55%削減という野心的なSBTと、大規模な再生可能エネルギー調達。  

  • Crown Holdings Inc.: パリ協定より10年早い2040年ネットゼロ目標と、水ストレス地域での水補給目標。  

  • Amcor Plc: 90%を超えるリサイクル対応軟包装ソリューションと、製品評価のためのLCAツール「ASSET™」の活用。  

  • レンゴー株式会社: 高い古紙利用率と、生分解性代替素材への注力。  

環境スコアのベンチマーキング

評価機関の概要

企業のESG(環境・社会・ガバナンス)パフォーマンスやリスクを評価する主要な外部機関として、Sustainalytics、MSCI、CDPなどが挙げられる。これらの評価は、投資家やその他のステークホルダーにとって、企業の持続可能性に関する重要な情報源となる。  

東洋製罐グループの評価

  • Sustainalytics: 2025年3月7日時点のESGリスクレーティングは19.6であり、「低リスク」カテゴリー(10~20の範囲)に分類される。業種別(容器・包装)では89社中49位、グローバル全体では15,067社中3,938位となっている。リスクの内訳として、ESGリスクへの「エクスポージャー(晒され度)」は「低」と評価されている一方、「マネジメント(管理状況)」は「平均的」と評価されている。  

  • MSCI: TSKGホールディングスとしての具体的な総合評価スコアは、提供された情報からは確認できなかった。ただし、MSCI日本株女性活躍指数(WIN)の構成銘柄には選定されている。  

  • CDP: 2023年または2024年の気候変動に関するスコアは、提供された情報からは確認できなかった。過去(2018年)の森林に関する情報開示状況は「F(不開示)」であったが、これは古く、気候変動スコアとは直接関連しない可能性がある。  

  • その他: S&P/JPXカーボン・エフィシェント指数およびDJSI Asia Pacific Index の構成銘柄に選定されている。  

競合他社の評価

  • 大和製罐: 大和製罐株式会社自体の評価スコアは確認できなかった。関連企業として、大和証券グループ本社はSustainalytics 19.7(低リスク)、MSCI AAA、CDP Aリスト(2022年)と高い評価を得ているが、これは証券業であり直接の比較対象ではない。大和工業はSustainalytics 32.7(高リスク)である。  

  • レンゴー: SustainalyticsのESGリスクレーティングは26.1(2023年7月時点)で、「中リスク」に分類され、業種別では89社中86位と下位に位置する。エクスポージャーは「中」、マネジメントは「平均的」と評価されている。MSCIでは日本株ESGセレクト・リーダーズ指数およびWIN指数に選定されているが、総合評価スコアは不明。CDP気候変動スコアは、2022年報告書(2021年度実績)において「B」評価であった。  

  • Amcor: MSCI評価は「A」。Sustainalytics評価は16.1(低リスク)(2022年)。CDP評価(2022年)は気候変動「A-」、サプライヤーエンゲージメント「A-」、水セキュリティ「B」。その他、EcoVadisシルバーメダル、ISS Prime評価なども獲得している。  

  • Ball Corporation: 具体的なSustainalyticsやMSCIの評価スコアは確認できなかったが、CDP気候変動への情報開示は行っている。アルミ缶メーカーとして初めてASI認証を取得している。  

  • Crown Holdings Inc.: 具体的なSustainalytics、MSCI、CDPの評価スコアは確認できなかった。

相対的な位置づけ

Sustainalyticsの評価に基づくと、TSKGのESGリスクレーティング(19.6)は「低リスク」であり、業界内では中位(49/89)に位置する。Amcor(16.1)、O-I Glass(16.8)、Gerresheimer(17.5)、Greif(19.0)といった競合他社には後れを取るものの、「中リスク」評価のレンゴー(26.1)よりは良好な評価を得ている。  

特筆すべきは、Sustainalytics評価における「マネジメント」スコアが「平均的」である点である。これは、TSKGの事業が晒されている固有のESGリスク(エクスポージャー)は比較的低いものの、それらのリスクを管理するためのプログラム、方針、実績といったマネジメント面では、業界のリーダーと比較して改善の余地があることを示唆している。「マネジメント」スコアの向上は、総合評価とランキングを改善する上で重要な鍵となるだろう。  

また、提供された情報からはTSKGの最新のMSCIおよびCDPスコアが確認できなかった点は、完全なベンチマーク比較を行う上での制約となる。レンゴーのCDP「B」評価やAmcorの「A-」評価は存在する一方で、TSKGの情報が開示されていない、あるいは容易にアクセスできない状況は、透明性の観点から課題となりうる。投資家やステークホルダーは複数の評価機関の情報を参照することが一般的であり、特にCDP(気候変動情報開示の標準)やMSCI(主要なESG指数プロバイダー)における評価情報の欠如は、これらの枠組みを重視する層からの評価に影響を与える可能性がある。  

課題と提言

現在の課題評価

これまでの分析から、TSKGが直面している主要な環境課題は以下の通りである。

  • Scope3 GHG排出量の削減: 30%削減目標に対し、実績は増加傾向にある。サプライチェーン(特に原材料調達と製品廃棄)および製品使用段階での排出量管理が大きな課題である。  

  • 化石由来プラスチック使用量の削減: 40%削減目標に対し、進捗が約半分(19.7%削減)に留まっている。リサイクル材やバイオマスプラスチックの調達・スケールアップ、Re-CUPのような回収システムの普及、そして規制強化への対応が課題である。  

  • 水リスク管理: リスクの高い7拠点が特定されたが、具体的な緩和策とその有効性に関する報告はこれからである。潜在的な操業中断リスクを抱える。  

  • 生物多様性インパクト測定: 森林保全やブルーカーボンなどの取り組みにおける定量的なインパクト指標やKPIが不足しており、活動の成果を客観的に評価・報告することが困難である。  

  • 樹脂ペレット漏出防止: ガイドラインは存在するものの、実績データが開示されておらず、対策の有効性を検証できない。  

  • ベンチマーキングにおけるパフォーマンス: Sustainalytics評価ではマネジメント面が「平均的」であり、業界内ランキングも中位に留まる。CDPやMSCIのスコアに関する透明性にも課題がある。  

今後の重点分野と行動提案

上記の課題を踏まえ、TSKGが今後注力すべき分野と具体的な行動提案を以下に示す。

  • Scope3排出削減の加速:

    • 提案: 低炭素素材(グリーンアルミ/スチール、リサイクルプラスチック等)を使用するサプライヤーを優先するなど、目標を明確にしたサプライヤーエンゲージメントプログラムを実施する。Amcor社のASSET™のようなLCA(ライフサイクルアセスメント)能力を強化し、購入物品・サービスにおける排出ホットスポットを特定する。軽量化の取り組みをさらに積極的に展開する。製品廃棄段階の排出削減のため、回収・リサイクルインフラの整備を支援・連携する。  

  • プラスチック循環への取り組み強化:

    • 提案: rPETの使用を拡大し、安定的な調達ルートを確保する。出光興産や鹿嶋市コンソーシアムとのケミカルリサイクル実証プロジェクトを加速させ、商業化に向けた明確なロードマップを設定する。Re-CUPプロジェクトのような消費者参加型モデルを実証段階から本格展開へと移行させ、自治体等との連携も検討する。紙ベース素材やライスレジンなどの代替素材開発・普及を積極的に推進する。  

  • 水スチュワードシップの強化:

    • 提案: 特定された7つの高リスク拠点における具体的な水リスク緩和策と、取水量削減・水効率改善に関する目標・実績を公表する。状況に応じた水目標(Context-Based Water Targets)の設定を検討し、Crown社のように水ストレス地域での水補給プロジェクト実施も視野に入れる。  

  • 生物多様性に関する測定と報告の強化:

    • 提案: 森林保全活動(例:年間あたりの再生・保護面積、検証済み炭素吸収量)やブルーカーボンプロジェクトに関する定量的なKPIを設定し、進捗を報告する。eDNAモニタリングのインパクトを定量化する。気候変動と生物多様性の統合的な取り組みが潮流となっていることを踏まえ、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)フレームワークへの整合も検討する。  

  • 樹脂ペレット漏出に関する透明性向上:

    • 提案: 堅牢なモニタリング体制を構築し、樹脂ペレット漏出防止に関するパフォーマンス(例:監査結果、インシデント/ニアミス件数)を、可能であればOperation Clean Sweep等の原則に沿って公表する。

  • ESG情報開示とパフォーマンスの向上:

    • 提案: CDP気候変動質問書に公的に回答し、標準化されたデータを提供するとともに、ベンチマーキングのためのスコアを取得する。MSCIとエンゲージメントを行い、評価手法を理解し、データ提供を改善する。Sustainalytics評価における「マネジメント」スコアの構成要素(例:リスク管理に関する開示強化、目標達成と実績の連動性の明確化)を強化するためのプログラムに注力する。

これらの提言は、TSKGが掲げる野心的な目標(Eco Action Plan 2030、2050年ネットゼロ)と現状のパフォーマンス、特にScope3排出量やプラスチック循環といった課題が大きい領域とのギャップを埋めることに焦点を当てている。これらの課題に効果的に対処することが、環境成果の向上と外部からのESG評価改善の両方に繋がるだろう。また、既に存在する多くの連携・協働関係を、サプライチェーン上の課題解決(Scope3削減、リサイクル推進)のためにより戦略的に活用することが鍵となる。例えば、サプライヤーとの排出削減に関する共同目標設定や、リサイクルパートナーとの回収率向上に向けた連携強化、ケミカルリサイクル技術のスケールアップに向けた新たな協働などが考えられる。  

結論

分析結果の要約

東洋製罐グループホールディングス株式会社(TSKG)は、明確な長期ビジョンとEco Action Plan 2030という具体的な環境目標に基づき、体系的なサステナビリティ推進体制を構築している。特に、事業活動からの直接的な排出量(Scope1&2)削減や枯渇性資源の使用量削減においては着実な進捗が見られ、CBR技術によるアルミ缶軽量化や、CO2回収、eDNAモニタリング、緩水溶性ガラスといった分野での技術革新も注目される。しかしながら、サプライチェーン全体での排出量(Scope3)削減や、化石由来プラスチックの使用量削減といった目標に対しては、実績が大きく遅れており、目標達成に向けた取り組みの加速が急務である。生物多様性分野では、水リスク評価が進んでいるものの、具体的なインパクト測定や情報開示には改善の余地がある。

ベンチマーク上の位置づけ

外部ESG評価(Sustainalytics)では「低リスク」と評価されるものの、業界内ランキングは中位であり、リスク管理体制は「平均的」とされている。Amcor社やBall社、Crown社といった競合他社と比較すると、特に気候変動目標の野心度(Scope3、ネットゼロ達成年)や資源循環(プラスチック)、生物多様性(水補給など)に関する取り組みにおいて、必ずしも業界をリードするポジションにあるとは言えない状況である。MSCIやCDPといった主要な評価フレームワークにおけるスコア情報の不足も、透明性の観点から課題と言える。

主要な提言の再確認

TSKGが環境パフォーマンスを向上させ、持続可能な社会への貢献を強化するためには、以下の点が特に重要となる。

  1. Scope3排出量とプラスチック循環に関する取り組みの抜本的強化: サプライヤーエンゲージメント、LCA活用、軽量化推進、リサイクル技術(特にケミカルリサイクル)のスケールアップ、代替素材開発、消費者参加型モデルの拡大などを通じ、目標達成に向けた道筋を具体化・加速させる。

  2. 水リスク管理と生物多様性保全の深化: 高リスク拠点における具体的な水リスク緩和策の開示と実行、水補給なども含めた包括的な水スチュワードシップへの移行検討。森林保全やブルーカーボン等に関する定量的なKPI設定と進捗報告。TNFD等への対応検討。

  3. 透明性の向上: 樹脂ペレット漏出防止に関する実績データの開示。CDP気候変動質問書への公的回答とスコア取得。MSCIとの連携強化による評価改善。

総括

TSKGは、包装容器業界におけるリーディングカンパニーとして、持続可能性への強いコミットメントを示している。確立された戦略的枠組みと、保有する技術革新力を最大限に活用し、特定された課題、特にScope3排出量とプラスチック循環という業界共通の難題に効果的に対処することができれば、同社の環境スコアは向上し、持続可能な社会の実現に向けた貢献を一層高めることが可能となるだろう。

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