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ルネサス エレクトロニクス株式会社 環境イニシアチブおよびパフォーマンスに関する包括的分析レポート

更新日:2025年5月1日
業種:製造業(3333)

1. 序論

1.1. 背景と目的

半導体は、現代社会を支える情報通信技術、自動車、産業機器、医療機器など、あらゆる分野において不可欠な基盤技術となっています。その重要性は増す一方ですが、同時に半導体製造プロセスは、大量のエネルギー、水、化学物質を消費し、温室効果ガス(GHG)や廃棄物を排出するなど、環境への負荷が大きいという側面も持ち合わせています 1。地球規模での気候変動の深刻化、資源枯渇への懸念、生物多様性の損失といった課題が顕在化する中で、企業活動が環境に与える影響に対する社会的な関心は高まっています。特に、投資家や顧客、地域社会といったステークホルダーからは、企業の環境・社会・ガバナンス(ESG)への取り組みに関する情報開示と、具体的な行動が強く求められるようになっています 5

このような背景を踏まえ、本レポートは、世界有数の半導体ソリューションプロバイダーであるルネサス エレクトロニクス株式会社(以下、ルネサス)に焦点を当て、同社の環境パフォーマンスを包括的に分析・評価することを目的とします。特に、「気候変動への対応」「資源循環の推進」「生物多様性の保全」という3つの重要な環境側面における、ルネサスの具体的な方針、目標、取り組み、実績、そしてそれに伴うリスクと機会を詳細に検討します。さらに、業界の先進事例や主要な競合他社との比較分析を通じて、ルネサスの現状の立ち位置を明確にし、今後の課題と改善に向けた提言を行います。本分析は、ルネサスの環境スコアリングや、持続可能な成長戦略の評価に資する基礎情報を提供することを目指します。

1.2. 分析の対象範囲

本分析は、主にルネサスが発行した直近の統合報告書(例:2023年度版 8)やサステナビリティレポート(例:2022年度版 9)、環境報告書(例:那珂工場 1、滋賀工場 10)、公式ウェブサイトのサステナビリティ関連情報 12 を対象期間の中心とします。ただし、傾向や進捗を把握するため、必要に応じて過去数年間のデータ(例:2021年度、2022年度の実績 9)も参照します。分析対象とする環境側面は、「気候変動」「資源循環」「生物多様性」の3分野に限定します。

分析にあたっては、ルネサス自身の開示情報に加え、主要な競合他社(Infineon Technologies 15, NXP Semiconductors 16, STMicroelectronics 18, Texas Instruments 20, Microchip Technology 22 等)のサステナビリティ報告書やウェブサイト情報、CDP 24、MSCI ESG Ratings 29、Sustainalytics ESG Risk Ratings 35、S&P Global ESG Score 48 といった第三者評価機関が公表しているデータ、および半導体業界の環境課題に関するレポート 2 などを幅広く参照します。

本レポートは以下の構成で分析を進めます。第2章では、ルネサスの気候変動、資源循環、生物多様性に関する具体的な取り組みと実績を詳述します。第3章では、これらの環境要因に関連する潜在的なリスクと事業機会を分析します。第4章では、半導体業界における環境に関する先進的な取り組み事例を紹介します。第5章では、主要な競合他社の環境パフォーマンスを分析し、ルネサスと比較します。第6章では、ESG評価機関によるスコアを用いて、ルネサスの相対的な位置づけをベンチマークします。第7章では、これまでの分析を踏まえ、ルネサスが直面する課題を評価し、今後の改善に向けた提言を行います。最後に第8章で、分析結果を総括し、将来展望を述べます。

2. ルネサス エレクトロニクスの環境への取り組み

ルネサスは、「地球環境の保全と人々の健やかな暮らしの調和を考えた企業活動を推進し、持続可能な社会の実現に向けて努力する」ことを環境基本理念として掲げています 1。この理念に基づき、環境マネジメントシステムを基盤とした全員参加の環境経営を推進しており、特に「気候変動」「資源循環」「生物多様性」を重要な環境課題と位置づけ、具体的な取り組みを進めています 13。これらの活動は、「エコファクトリー活動(工場の環境負荷低減)」「エコプロダクト活動(環境配慮型製品開発)」「エココミュニケーション活動(環境教育・情報発信)」の3つを柱として展開されています 13

2.1. 気候変動への対応

2.1.1. 方針と目標

ルネサスは、気候変動を経営上の重要課題の一つとして認識し、バリューチェーン全体でのエネルギー削減と効率的な使用を推進することで、温室効果ガス(GHG)排出量の削減に努め、長期的なカーボンニュートラルの実現を目指しています 13。具体的には、2050年までのカーボンニュートラル達成という長期目標を表明しています 9

この長期目標達成に向けたマイルストーンとして、Science Based Targets initiative (SBTi) によって科学的根拠に基づくと認定された中期目標を設定しています。これは、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて1.5℃に抑える努力目標に整合するものであり、2030年までにScope1(事業者自身による直接排出)およびScope2(他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出)のGHG排出量を2021年比で38%削減することを目指しています 12。さらに、サプライチェーンにおける排出量(Scope3)に関しても、カテゴリ1(購入した製品・サービス)の排出量の70%に相当するサプライヤー(生産委託を含む)に対し、2026年までに科学的根拠のある削減目標を設定することを要請するという目標を掲げています 12。これらの目標は2022年8月にSBTiの認定を受けています 14

加えて、エネルギー効率改善の指標として、エネルギー消費原単位(5年間平均)を年率1%以上低減することも目標としています(省エネ法目標の達成、行政年度基準)13

2.1.2. 具体的な取り組みとプログラム

ルネサスは、設定した気候変動目標を達成するため、環境活動の3本柱を通じて多岐にわたる取り組みを実施しています 13

「エコファクトリー活動」においては、エネルギー消費の多い生産拠点を中心に、環境負荷の低減に注力しています 14。具体的には、省エネルギー効果の高い最新設備への更新(例:高効率冷凍機、最適制御コンプレッサ、ドライポンプ)、既存設備の効率改善(例:ポンプや送風機のインバータ制御化)、自然エネルギーの活用(例:冬期フリークーリング)、廃熱回収・再利用、生産量の変動に応じた設備稼働の最適化など、多角的な省エネ施策を計画的に実施しています 1。特に、主力生産拠点である那珂工場などでは、エネルギー使用効率の改善と、半導体製造プロセスで使用されるPFC(パーフルオロカーボン)ガスの排出削減を重点的に推進しています 1。また、再生可能エネルギーの導入も進めており、グリーン電力の購入などを実施していますが、2024年度には半導体需要の軟化に伴う生産調整と省エネ施策の効果により年間目標を大幅に下回ったため、事業運営上の判断から一時的にグリーン電力の購入量を調整したことも報告されています 14

「エコプロダクト活動」では、製品ライフサイクル全体での環境負荷低減を目指しています 13。低消費電力で環境性能に優れた「ルネサス グリーンデバイス」の開発を推進し、これらの製品が顧客サイドでのエネルギー効率改善に貢献することを目指しています。実際に、2022年度においては、新規開発製品の93%がグリーンデバイスに認定され、関連製品を含めると全売上収益の約60%に相当したと報告されています 9。2023年度には、持続可能性を重視した製品の販売による収益が総収益の70%を占めるなど、製品を通じた環境貢献への注力がうかがえます 8

「エココミュニケーション活動」の一環として、サプライヤーとの連携強化にも取り組んでいます。Scope3排出量の大部分を占めるサプライチェーン全体での排出量削減に向けて、主要サプライヤーに対してSBT(科学的根拠に基づく目標)の設定を働きかけています 12。このサプライヤーエンゲージメント活動は外部からも評価されており、例えば、2022年にはCDP(旧Carbon Disclosure Project)から「サプライヤー・エンゲージメント・リーダー」に選定されています 9。また、Scope3の他のカテゴリに関しても、製品輸送や廃棄物輸送におけるエネルギー削減に取り組んでいます 14。さらに、日本の電機・電子業界が共同で推進する「カーボンニュートラル行動計画」にも参加し、業界全体での地球温暖化防止への貢献を目指しています 14

2.1.3. パフォーマンスと実績

ルネサスは、GHG排出量やエネルギー消費量に関する実績データを定期的に開示しています。2024年度のGHG排出量実績(Scope1, 2, 3合計)は2,240,483トン-CO2と報告されています 14。内訳を見ると、Scope1排出量が125,385トン-CO2(全体の5.60%)、Scope2排出量が642,550トン-CO2(同28.68%)、Scope3排出量が1,472,548トン-CO2(同65.72%)となっています 14。Scope3の中でも、カテゴリ1「購入した製品・サービス」が1,181,824トン-CO2と全体の52.75%を占めており、サプライチェーンにおける排出削減の重要性がデータからも裏付けられています 14。また、Scope1排出量のうち、PFCガスからの排出は93,356トン-CO2でした 14

過去の実績を見ると、2022年度にはGHG排出量を前年度比で6.8%削減し、エネルギー消費量も1.2%削減したと報告されています 9。2023年度には、エネルギー消費量をさらに2.6%削減しました 8。これらの削減努力にもかかわらず、エネルギー消費原単位(5年間平均)については、2024年度はルネサス国内拠点で4.7%増加、ルネサス セミコンダクタマニュファクチュアリングで1.6%増加の見込みとなり、年率1%以上低減という目標は未達成でした 13。これは、生産量の変動や製品ミックスの変化などが影響している可能性が考えられますが、目標達成に向けた継続的な取り組みの必要性を示唆しています。

再生可能エネルギーの使用率に関する具体的な実績値は、参照した資料からは明確に確認できませんでした 13。しかし、前述の通りグリーン電力の購入実績があり 14、今後の導入拡大が期待されます。

これらの環境データについては、その信頼性を確保するため、一般財団法人 日本品質保証機構(JQA)による第三者検証を受けています 9。2022年度、2023年度、2024年度の検証報告書が公開されており、透明性の確保に努めていることがわかります 51

2.1.4. TCFD提言への対応状況

ルネサスは、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に賛同し、TCFDコンソーシアムにも加盟しています 9。TCFDのフレームワークに基づき、気候変動が自社の事業に与えるリスクと機会を評価し、その情報を開示しています 52

シナリオ分析を通じて、2℃未満シナリオ(IEA SDS、IPCC RCP2.6等)と4℃シナリオ(IEA STEPS、IPCC RCP8.5等)における2030年までの影響を評価しています 52。分析の結果、特に2℃未満シナリオにおいて、移行リスク(カーボンプライシング導入によるコスト増、規制強化、市場変化への対応遅延による機会損失など)と物理的リスク(異常気象による拠点やサプライチェーンへの影響)が認識される一方で、それを上回る事業機会(脱炭素・低炭素化に対応した製品・ソリューション、特にEVや産業向け技術の需要拡大)が存在すると評価されています 52

特定された主要なリスクに対しては、GHG排出削減目標の達成に向けた施策の着実な実施、サプライヤーエンゲージメントの強化、省エネ基準変更への迅速な対応、BCM(事業継続マネジメント)に基づいた拠点リスク評価と対策などを対応策として挙げています 52。一方、機会に対しては、エネルギー効率の高い製品開発の加速、xEVやADAS(先進運転支援システム)向け製品、次世代メモリインターフェース製品、5G向けソリューション、FA・BA(ファクトリーオートメーション・ビルディングオートメーション)向け製品、次世代パワー半導体などの開発・拡販を強化する方針を示しています 52。これらのリスクと機会がもたらす財務的影響についても評価を行い、事業戦略に反映させています 52。詳細な開示内容は、サステナビリティサイト内のTCFD関連ページやTCFD対照表で確認できます 53

このTCFD分析の結果は、ルネサスが気候変動対応を単なるリスク管理ではなく、むしろ製品開発や市場開拓を通じた成長戦略の重要な柱と位置づけていることを示唆しています。エコプロダクト活動の推進や、サステナビリティを重視した製品の売上比率向上といった動き 8 は、この戦略的な認識と整合しています。ただし、エネルギー原単位削減目標の未達 13 という実績は、意欲的な目標設定と実際のパフォーマンスとの間にギャップが存在する可能性を示しており、目標達成に向けた施策の実行力と効果の継続的な検証が求められます。また、GHG排出量の過半数を占めるScope3、特にカテゴリ1(購入した製品・サービス)の削減 14 は、サプライヤーとの連携強化が不可欠であり、CDPサプライヤーエンゲージメントリーダーとしての評価 9 を維持・向上させながら、サプライヤーへのSBT設定要請 12 の実効性を高めていくことが、カーボンニュートラル達成に向けた鍵となります。

2.2. 資源循環の推進

2.2.1. 方針と目標

ルネサスは、資源の有効活用を環境方針の柱の一つとし、事業活動に必要な全ての資源を効率的に利用することを目指しています 13。特に、半導体製造に不可欠な水資源については、適正な利用と効率化に努めています 13。また、事業活動から発生する廃棄物については、発生抑制(Reduce)、再利用(Reuse)、再生利用(Recycle)の3Rを推進し、最終処分量の最小化とリサイクルの最大化を図る方針です 13

具体的な目標としては、水使用量に関しては、水総使用量原単位(生産量あたりの水使用量)の改善目標と、水リサイクル率の向上目標を設定しています。例えば、2022年度には水使用原単位を38%改善し、水リサイクル率32%を達成 9、2023年度には水強度(Water Intensity)を36%向上させ、水リサイクル率33%を達成したと報告されています 8。さらに、2030年までに水強度を38%改善(2021年比)、水リサイクル率を35%達成(2021年比)するという目標も掲げています 50

廃棄物に関しては、廃棄物リサイクル率を高い水準で維持することを目標としており、グローバルで毎年90%以上を維持するとしています 50。2022年度には92% 9、2023年度には90% 8 のリサイクル率を達成しています。

ただし、水使用量および廃棄物発生量の「絶対量削減」に関する具体的な数値目標については、参照した資料からは確認できませんでした 13

2.2.2. 具体的な取り組みとプログラム

水資源の効率的な利用に向けては、生産プロセスにおける使用量の削減、冷却水の循環利用、高度な排水処理技術による再利用などを推進しています 1。各生産拠点において、節水設備の導入や運用改善を継続的に実施しています。

廃棄物の削減とリサイクル推進のためには、3R活動を徹底しています 13。発生抑制(Reduce)の観点からは、製造プロセスの改善による不良率の低減や、原材料使用量の最適化に取り組んでいます。再利用(Reuse)としては、梱包材の再利用などが考えられます。再生利用(Recycle)では、廃プラスチック、廃液、金属くずなどを分別し、専門業者を通じてマテリアルリサイクルやサーマルリサイクルを推進しています。特に、価値のある廃棄物を有価物として売却することも積極的に行っています 13。サプライヤーと協力した資源循環の取り組みも進められています。

また、半導体製造には多種多様な化学物質が使用されるため、その適正な管理と排出量の削減も重要な取り組みです 13。化学物質管理システムを運用し、法規制の遵守はもちろんのこと、より環境負荷の少ない代替物質への転換や使用量の削減に努めています。

2.2.3. パフォーマンスと実績

水使用に関するパフォーマンスとしては、前述の通り、水使用原単位(水強度)の大幅な改善(2022年度38%改善 9、2023年度36%向上 8)と、水リサイクル率の着実な向上(2022年度32% 9、2023年度33% 8)が報告されており、2030年目標 50 に向けた進捗が見られます。

廃棄物に関しても、高いリサイクル率を維持しており、2022年度は92% 9、2023年度は90% 8 と、目標である90%以上 50 を達成しています。

これらの資源循環活動は、環境負荷低減だけでなく、経済的な効果も生み出しています。環境会計によれば、2024年度の資源循環に関連する経済効果は1,348百万円であり、そのうちリサイクルによる有価廃棄物の売却益は1,211百万円に上ると報告されています 13

水使用原単位の改善や高いリサイクル率は、ルネサスの資源効率化への取り組みが一定の成果を上げていることを示しています。しかし、半導体産業は依然として水集約型産業であり 2、今後、事業規模の拡大に伴って水使用量の絶対量が増加する可能性も否定できません。現状、具体的な絶対量削減目標が見当たらない 13 ことから、水ストレス地域での事業継続性リスクなども考慮し、今後は絶対量削減に向けたより明確なコミットメントと戦略が求められる可能性があります。廃棄物に関しても、90%以上という高いリサイクル率は評価されるべきですが、サーキュラーエコノミーの観点からは、リサイクルの質(例:より付加価値の高い用途への再生)の向上や、さらに踏み込んだ発生抑制(Reduce)、再利用(Reuse)の強化が、持続可能な資源利用に向けた次のステップとして重要になると考えられます。環境会計で示される経済効果は、これらの取り組みが経済合理性とも両立しうることを示唆しています 13

2.3. 生物多様性の保全

2.3.1. 方針と目標

ルネサスは、生物多様性が豊かで健全な社会を支える重要な概念であると認識し、事業活動を通じてその保全に貢献することを方針として掲げています 13。半導体製造が大量の水、資源、エネルギーを必要とし、生物多様性がもたらす生態系サービスに大きく依存していることを踏まえ、資源の効率的な使用やサステナブルな製品・ソリューションの提供を通じて、環境負荷を低減し、生態系から受けた恩恵を地域社会へ還元することを目指しています 54。直接的に生物多様性に大きな影響を与える事業や森林破壊につながる事業活動は行っていないとしつつも、生産拠点を中心とした節水やGHG排出削減などの活動が、間接的に森林を含む環境全体の保全に繋がると考えています 54

具体的な数値目標は設定されていませんが、環境行動指針に基づき、持続可能な社会の実現に向けた努力を行うとしています 54。活動の推進と継続的な改善のため、「ルネサスの自社スコアブック」という独自の評価指標を導入し、グローバルの製造拠点および事業所を対象に活動状況を評価・可視化しています 54。また、外部イニシアチブとの連携も行っており、生物多様性保全を目指す「にじゅうまるプロジェクト」に参加しています 13

2.3.2. 具体的な取り組みとプログラム

土地利用管理に関しては、生態系サービスへの依存を認識した上で、各生産拠点において、鳥・昆虫・魚などが生息できるような敷地内緑地の整備や維持管理を行っています 54。また、敷地外においても、植樹や間伐といった森林育成活動、地下水涵養活動、土壌保全活動、地域の絶滅危惧種の保護・育成支援など、多様な保全活動に取り組んでいます 54

これらの活動は、「ルネサスの自社スコアブック」において、4つのカテゴリーに分類され評価されています 54。

カテゴリーA「海洋・水質の保全」では、工場排水路や地域の河川・海岸の清掃活動などが実施されています(例:パンタイエセン海岸、中津干潟のビーチクリーン、米沢・高崎工場周辺の美化活動)54。

カテゴリーB「土壌や自然環境の保全」では、マングローブ植林やウミガメ保護(ペナン)、ウォーターオフセット事業への参画(川尻)、絶滅危惧種ツクシイバラの保護(錦)といった活動が行われています 54。

カテゴリーC「温暖化抑制と省資源活動による生態系保護」では、燃料転換によるCO2削減(西条)、公共交通機関利用の推進(ドレスデン、川尻)、自治体や他企業との省エネに関する意見交換(ペナン、北京)などが挙げられます 54。

カテゴリーD「地域行政との連携・本業での活動・社員意識啓発・職場環境の改善」では、再生水の利用(パームベイ)、低炭素社会実現イニシアチブへの参画(クアラランガット)、製造工程での資源使用量削減やリサイクル、環境教育やキャンペーンを通じた従業員の意識向上(北京、蘇州)、環境配慮型食事の提供(ドレスデン)、プラスチック製品使用削減(ペナン)など、多岐にわたる取り組みが含まれています 54。

2.3.3. パフォーマンスと実績

ルネサスは、これらの生物多様性保全活動をグローバルに展開しており、2023年度には合計120件の活動を実施したと報告しています 54。活動の評価には前述の「自社スコアブック」を用いており、国連生物多様性条約締約国会議(CBD-COP)の国際目標なども参考に設定された13項目の活動指標に基づき、4段階で評価することで、継続的な改善と活動の活性化を図っています 54

しかしながら、これらの活動が生物多様性に対して具体的にどのような保全効果をもたらしたか、あるいは事業活動が生物多様性に与える潜在的な負の影響(特に原材料調達などサプライチェーン上流を含む)をどのように評価・管理しているかについての定量的なデータや詳細な影響評価に関する開示は、参照した資料からは限定的でした。

ルネサスが生物多様性の重要性を認識し、多様な活動を展開していることは評価できます 54。しかし、現状の開示は活動事例の紹介が中心であり、TNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures)のような新しいフレームワークが求めるような、事業活動と生物多様性との関連性(依存度・影響度)のより深い分析、バリューチェーン全体を視野に入れたリスク・機会評価、そしてそれらに基づく具体的な定量目標の設定やネイチャーポジティブへの貢献戦略といった、より踏み込んだ情報開示が、今後のESG評価の向上やステークホルダーからの信頼獲得のためには重要になってくると考えられます。

2.4. 環境マネジメントシステムとガバナンス

ルネサスは、環境活動を体系的に推進するため、環境マネジメントシステム(EMS)を構築・運用しています。多くの生産拠点でISO14001認証を取得しており、グループ全体での一括認証の枠組みも活用しています 10。EMSの運用を支える組織として、環境管理委員会が設置され、目標の進捗確認や課題解決に向けた議論が行われています。その下部には、省エネルギー分科会のような専門組織やワーキングチームが設置され、具体的な活動を推進しています 10。また、法令に基づき必要な法定管理者が選任されているほか、内部環境監査員や部門廃棄物処理責任者などが任命され、管理監督体制を強化しています 10

環境関連の法令、条例、地域協定などの遵守は徹底されており、適用される規制を一元管理し、順守状況を確認する体制が整っています 10。法改正情報は迅速に把握され、設備や化学物質の導入時には事前の確認が徹底されています 10。2024年度においては、法令・条例違反は報告されていません。ただし、計画停電時の工事で使用した非常用発電機の稼働音に関する苦情が1件あったものの、適切に対応し、恒久対策も実施済みであると報告されています 13

環境保全活動に伴うコストと効果を明確化し、適切な投資判断を行うため、環境会計を導入しています 13。2024年度の実績として、環境保全投資額は1,509百万円(うち地球環境保全向け投資が前年比倍増)、費用額は4,582百万円(公害防止2,826百万円、地球環境保全879百万円など)、経済効果は2,132百万円(省エネ・資源循環効果に加え、有価廃棄物売却益1,211百万円を含む)と報告されています 13

サステナビリティ推進体制全体としては、CEO直下にサステナビリティ推進室が設置され、気候変動を含むESG課題への対応を統括しています 30。取締役会は、これらのESG課題に関する取り組み状況について定期的に報告を受け、監督する役割を担っています 52。気候変動リスク・機会については、サステナビリティ委員会で審議・管理され、取締役会に報告される体制となっています 52

このように、ルネサスはISO認証や環境管理組織、環境会計といった環境マネジメントの基本的な仕組みを整備・運用しています 10。今後は、これらの仕組みが、気候変動、資源循環、生物多様性といった個別の重要課題に対する具体的な目標達成やパフォーマンス向上に、どれだけ実効的に貢献しているのか、そのプロセスと成果の連関性をより明確に示していくことが、マネジメントの有効性をステークホルダーに伝える上で重要となります。例えば、環境会計で把握された経済効果が、さらなる環境投資の意思決定にどのように活用されているか、ISO監査での指摘事項が具体的な改善活動にどのように結びついているかといった点を具体的に開示することが考えられます。

3. 環境要因に関連するリスクと機会

ルネサスは、TCFD提言に基づくシナリオ分析などを通じて、気候変動をはじめとする環境要因が自社の事業に及ぼす潜在的なリスクと、新たな事業機会を認識し、評価しています 52

3.1. 潜在的リスク分析

3.1.1. 移行リスク

低炭素社会への移行に伴うリスクとして、まず政策・法規制リスクが挙げられます。世界各国でカーボンプライシング(炭素税や排出量取引制度)が導入・強化されることにより、事業活動に伴うコストが増加する可能性があります 52。特に、エネルギー多消費産業である半導体製造においては、炭素税の負担増や、炭素集約度の高い原材料(例:シリコンウェハー、特殊ガス)や生産委託先からの調達コスト上昇が懸念されます 52。また、PFCガス排出規制の強化、省エネルギー基準の厳格化、リサイクル関連規制なども、対応コストの増加や事業運営上の制約につながる可能性があります 52

次に、市場リスクとして、低炭素・省エネルギー性能に対する市場や顧客の要求水準が高まる中で、それに対応できない製品は競争力を失い、販売機会の損失や売上減少につながる可能性があります 52。例えば、従来のICE(内燃機関)向け半導体の需要減少などが想定されます。また、サプライヤーに課せられた炭素コストが部材価格に転嫁され、自社の製品コストが増加するリスクも考えられます 52

さらに、評判リスクも重要です。顧客や投資家、社会全体から、サプライチェーン全体を含む脱炭素化への取り組みが強く求められるようになっています 52。これらの期待に応えられない場合、企業イメージが悪化し、ESG評価の低下や資金調達への悪影響(例:ESG投資の対象からの除外)につながる可能性があります 52。サプライチェーンにおける人権や労働慣行、環境汚染といった問題も、企業の評判を毀損するリスク要因となります。

3.1.2. 物理的リスク

気候変動の進行に伴う物理的な変化も、事業継続上のリスクとなります。慢性的なリスクとしては、平均気温の上昇による冷却コストの増加や、降水パターンの変化や海面上昇による水資源の利用制約、インフラへの影響などが考えられます 52。急性リスクとしては、台風、洪水、干ばつといった異常気象の激甚化・頻発化が挙げられます 52。これらは、自社の製造拠点や研究開発拠点、さらにはサプライヤーの拠点や物流網に直接的な被害を与え、操業停止やサプライチェーンの寸断を引き起こし、売上高の減少や復旧費用の発生につながる可能性があります 52。半導体産業は特定の地域に生産拠点が集中する傾向があるため、地域的な災害がサプライチェーン全体に与える影響は甚大になる可能性があります。

3.2. 事業機会の分析

一方で、環境要因の変化やそれに対する社会の要請は、ルネサスにとって新たな事業機会ももたらします。

3.2.1. コスト削減と効率化

省エネルギー活動や資源効率の向上(水使用量削減、原材料使用量最適化など)は、直接的な製造コストの削減につながります 13。同様に、廃棄物の発生抑制やリサイクル率の向上は、廃棄物処理コストの削減や、有価物としての売却による収益増加をもたらします 13。再生可能エネルギーの導入は、短期的にはコスト増となる可能性もありますが、長期的には化石燃料価格の変動リスクを回避し、エネルギーコストの安定化に寄与する可能性があります。

3.2.2. 新規市場と製品開発

世界的な脱炭素化と電化の流れは、ルネサスの主力製品分野にとって大きな成長機会となります。特に、電気自動車(EV)市場の拡大は、バッテリーマネジメントシステム(BMS)、インバーター制御、ADAS(先進運転支援システム)などに使われるパワー半導体、マイクロコントローラ(MCU)、アナログIC、SoC(System on Chip)などの需要を大幅に押し上げると期待されています 52。産業分野においても、ファクトリーオートメーション(FA)による生産効率向上や、再生可能エネルギー(風力発電など)関連機器、スマートグリッド、省エネ性能の高いビルディングオートメーション(BA)システム向け半導体の需要増加が見込まれます 52

ルネサスは、低消費電力、高効率といった環境性能を強化した「ルネサス グリーンデバイス」を開発・提供することで、これらの市場ニーズに応え、製品の差別化を図り、市場シェアを拡大する機会を有しています 8。さらに、気候変動への適応(例:高度な気象予報システム、災害監視システム向けセンサーや通信IC)や、スマートシティ、スマート農業といった、サステナビリティに貢献する新たな応用分野での事業展開も視野に入ります 52

3.2.3. ブランド価値と競争優位性

環境問題への積極的な取り組みとその透明性の高い情報開示は、顧客、投資家、従業員、地域社会といったステークホルダーからの信頼を高め、企業評価(ブランド価値)の向上につながります 9。高いESG評価は、投資家からの資金調達を有利にし、コスト低減に繋がる可能性があるほか 52、環境意識の高い優秀な人材を引きつけ、維持することにも貢献します。また、サプライヤーとの協働を通じてサプライチェーン全体のサステナビリティとレジリエンス(強靭性)を高めることは、安定的な事業運営基盤を強化し、パートナーシップを深化させる機会となります 9

3.3. リスクと機会の財務的影響評価

ルネサスはTCFD分析において、特定された主要なリスクと機会について、2030年時点での財務影響を評価しています 52。リスク面では、カーボンプライシング導入によるコスト増加(数億円~数十億円規模の可能性)、規制強化への対応コスト、物理的リスクによる売上減少や復旧費用などが想定されています。一方、機会面では、xEV市場の拡大に伴う自動車向け事業での大幅な売上増加(数百億円規模の可能性)や、産業分野での低炭素・脱炭素技術関連市場の拡大による売上増加などが期待されています 52

これらの財務影響評価の結果は、ルネサスの事業戦略、研究開発投資の優先順位付け、設備投資計画、資本配分などに反映され、気候変動に対するレジリエンスを高めつつ、成長機会を最大化するための方策が検討・実行されています 52

ルネサスのTCFD分析は、気候変動をリスクと機会の両面から捉え、特に機会を重視して製品開発戦略に結びつけている点が特徴的です 8。EVや低炭素技術といった成長分野への注力は合理的と言えます。物理的リスクに対してはBCMで対応を進めていますが、近年の自然災害の頻発化・激甚化を踏まえ、サプライヤーを含めたバリューチェーン全体でのリスク評価と対策の継続的な強化が不可欠です。また、半導体産業全体が抱える構造的な課題、すなわち自社の製造プロセスにおける環境負荷(PFCガス、水・エネルギー消費など)の削減努力と、自社製品がもたらす社会全体の環境負荷低減への貢献(ハンドプリント)とのバランスをどのように取り、その貢献度を定量的に示していくかが、今後の重要な論点となります 2

4. 半導体業界における環境先進事例

半導体業界は、その高い環境負荷と社会的な影響力の大きさから、サステナビリティへの取り組みが急速に進んでいます。以下に、気候変動、資源循環、生物多様性の各分野における業界の先進的な事例と、業界全体の動向を示します。

4.1. 気候変動対策の先進事例

多くの大手半導体企業が、野心的なカーボンニュートラル目標を設定しています。例えば、STMicroelectronicsは2027年 18、Infineon Technologiesは2030年 15 にScope1およびScope2でのカーボンニュートラル達成を目指しており、これはルネサスの2050年目標 9 と比較して早期の目標設定です。NXP Semiconductorsも2035年のカーボンニュートラル目標を掲げています 16。これらの目標の多くは、SBTiの認定を受けており、科学的根拠に基づいた削減経路を描いています(例:NXP 16, STMicroelectronics 19, Infineon 15)。

再生可能エネルギーの導入も積極的に進められています。多くの企業が、電力購入契約(PPA)の締結や、自社拠点での太陽光発電設備の設置などを通じて、再生可能エネルギー比率100%を目指しています。Infineonは2025年度末 15、STMicroelectronicsは2027年 19、NXPは2027年 17、Texas Instrumentsは全世界で2030年 21 までに100%達成を目標としています。

Scope3排出量の削減に向けては、サプライヤーエンゲージメントが鍵となります。Infineon 15 やNXP 16 などは、サプライヤーに対してSBT設定を働きかけたり、排出量削減に向けた共同プロジェクトを実施したりするなど、具体的な取り組みを進めています。

製造プロセス特有のGHGであるPFCガスの排出削減も重要な課題です。STMicroelectronics 19 やInfineon 15 などは、最新の除害装置(Abatement System)への投資やプロセス改善を通じて、排出削減率の向上に努めています。

4.2. 資源循環の先進事例

水資源管理においては、高い水リサイクル率の達成が目標とされています。Infineonは2024年度に32%のリサイクル率を達成し、さらなる向上を目指しています 15。NXPは2024年に55%を達成し、2027年までに100%リサイクルを目指すという野心的な目標を掲げています 17。STMicroelectronicsも2023年に42%を達成し、2025年までに50%を目指しています 19。特に水ストレスの高い地域に立地する工場では、取水量の削減や効率的な水利用が喫緊の課題となっています 59

廃棄物管理では、「廃棄物ゼロ(Zero Waste to Landfill)」を目標に掲げる企業も出てきています。STMicroelectronicsは2023年に96%の廃棄物再利用・リサイクル率を達成し、2025年の目標(95%)を前倒しで達成しました 19。Infineonも2024年度に76%のリサイクル率を達成しています 15。単なるリサイクル率の向上だけでなく、製造副産物をより価値の高い用途に再利用するアップサイクルや、そもそも廃棄物を出さないプロセス設計への取り組みも進められています。

化学物質の使用量削減や、より環境負荷の低い代替物質への転換(グリーンケミストリー)も重要なテーマです 4。有害性の高い物質の使用を段階的に廃止したり、使用量を最小限に抑えるためのプロセス改善が行われています。

さらに、製品のライフサイクル全体を考慮したサーキュラーエコノミーの概念も取り入れられ始めています。製品の長寿命化設計、修理の容易化、使用済み製品の回収スキーム構築、回収された部品や材料の再利用・リサイクルといった取り組みが、一部の企業で検討・実施されています 4

4.3. 生物多様性保全の先進事例

生物多様性への取り組みは、気候変動や資源循環と比較して、業界全体としてはまだ初期段階にあると言えます。しかし、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)のようなフレームワークが登場し、企業に対して自然資本への依存度や影響評価、情報開示を求める動きが強まっています。NXPは、TNFDフレームワークに基づいた影響評価手法の開発に着手し、パイロット評価を開始しています 16。これは、今後の業界の方向性を示唆する動きと言えるでしょう。

サプライチェーンにおける生物多様性リスク、特に原材料調達に関連する森林破壊や土地利用変化のリスクを評価し、責任ある調達方針を策定・実行する動きも重要になります。紛争鉱物問題への対応と同様に、トレーサビリティの確保やサプライヤーへの働きかけが求められます。

また、事業所周辺の生態系保全や回復に直接貢献する活動も行われています。Infineonは、ルーマニアでの植林活動やオーストリアでの種の多様性向上を目的とした植樹などを実施しています 15。地域NPOとの連携による保全活動なども先進的な事例として挙げられます。

4.4. 業界全体の課題と動向

半導体産業は、その製造プロセスにおいて大量のエネルギー、水、化学物質を消費し、特殊なガスを含むGHGや廃棄物を排出するという、共通の環境課題を抱えています 2。これらの環境負荷を低減することが、業界全体の持続可能性にとって不可欠です。

サプライチェーンがグローバルかつ複雑に構成されているため、Scope3排出量の算定・管理や、サプライヤーにおける人権・労働問題、環境汚染リスク、紛争鉱物問題などのESG課題への対応も、個々の企業にとって大きな挑戦となっています 4

一方で、半導体技術は、社会全体のデジタルトランスフォーメーション(DX)やグリーントランスフォーメーション(GX)を支える「実現技術(Enabling Technology)」としての重要な役割も担っています 3。より高性能でエネルギー効率の高い半導体を開発・供給することで、最終製品(自動車、家電、産業機器、データセンターなど)の省エネルギー化、再生可能エネルギーシステムの効率向上、スマート化による資源利用の最適化などに貢献し、社会全体の環境負荷低減に貢献する機会も大きいと言えます。

こうした課題と機会に対応するため、業界内での連携も進んでいます。例えば、Semiconductor Climate Consortium(SCC) 32 のような業界団体が設立され、気候変動対策に関する知見共有や共同での目標設定、技術開発などが進められています。また、ベルギーの研究機関imec 61 などが主導する、半導体製造プロセス全体の環境負荷低減を目指す共同研究プログラムなども活発化しています。

業界全体の動向として、カーボンニュートラル目標の前倒しやScope3への取り組み強化が加速している点が挙げられます。これは、規制当局、投資家、顧客からのプレッシャーの高まり 7 を反映していると考えられます。また、水資源管理とサーキュラーエコノミーへの関心も高まっており、特に水ストレス地域での事業継続性確保の観点から、水効率改善とリサイクル技術への投資が活発化しています。生物多様性については、まだ取り組みが始まったばかりの企業が多いものの、TNFD等の影響もあり、今後、影響評価や情報開示の重要性が増していくと予想されます。

5. 競合他社の環境パフォーマンス分析

ルネサスの環境パフォーマンスを客観的に評価するためには、同業他社との比較分析が不可欠です。ここでは、ルネサスが事業を展開する主要な市場における主要な競合他社を特定し、各社の環境目標、取り組み、パフォーマンス、そしてESG評価について比較検討します。

5.1. 主要競合他社の特定

ルネサスは、マイクロコントローラ(MCU)、アナログ半導体、SoC(System on Chip)、パワー半導体などを主力製品とし、特に車載分野や産業分野に強みを持っています 57。これらの市場における主要な競合他社としては、ドイツのInfineon Technologies(インフィニオン)、オランダのNXP Semiconductors(NXPセミコンダクターズ)、スイス(本社機能はジュネーブ)のSTMicroelectronics(STマイクロエレクトロニクス)、米国のTexas Instruments(TI、テキサス・インスツルメンツ)、同じく米国のMicrochip Technology(マイクロチップ・テクノロジー)などが挙げられます 57。これらの企業は、ルネサスと同様に幅広い製品ポートフォリオを持ち、グローバルに事業を展開しています。

市場シェアに関しては、分野や調査機関によって変動がありますが、例えばMCU市場では、近年Infineon、NXP、Microchip、ルネサス、STMicroelectronicsなどが上位を占めています(ただし、順位は年によって変動あり)65。アナログ半導体市場では、TIが長らくトップシェアを維持しており、Analog Devices(アナログ・デバイセズ)、Skyworks Solutions(スカイワークス・ソリューションズ)、Infineon、STMicroelectronicsなどが続いています。ルネサスもトップ10にランクインしています 67。車載半導体市場では、Infineon、NXP、STMicroelectronics、TI、ルネサスがトップ5を構成しており、激しい競争が繰り広げられています 64。これらの市場環境を考慮し、以下では主にInfineon、NXP、STMicroelectronics、TI、Microchipを比較対象とします。

5.2. 競合他社の環境目標と取り組み

5.2.1. 気候変動関連

気候変動対策に関する目標設定において、ルネサスの競合他社、特に欧州に拠点を置く企業は野心的な目標を掲げています。STMicroelectronicsは2027年までにScope1および2のカーボンニュートラル達成を目指しており 18、Infineonは2030年までに同様の目標達成を掲げています 15。NXPも2035年のカーボンニュートラル目標を設定しています 16。これに対し、ルネサスの目標は2050年であり 9、達成年に差が見られます。SBTi認定に関しては、ルネサス 12、NXP 16、STMicroelectronics 19、Infineon 15 など多くの企業が取得またはコミットしており、科学的根拠に基づいた削減努力が進められています。Texas InstrumentsもSBTiにコミットしています 76

再生可能エネルギーの導入目標も高く設定されています。STMicroelectronicsは2027年までに100% 19、Infineonは2025年度末までに全生産拠点で100% 15、NXPは2027年までに100% 17、TIは全世界で2030年までに100%(300mm工場は2025年、米国拠点は2027年までに達成)21 を目指しています。Microchipも再生可能エネルギープロジェクトを拡大しており、タイ工場ではフローティングソーラーファームを建設し、PPAを締結しています 22

Scope3排出量削減に関しては、NXPが2033年までに35%削減(2022年比)というSBTi認定目標を設定している 16 ほか、Infineonもサプライヤーに対してSBT設定を働きかけるなど 15、サプライチェーン全体での取り組みが強化されています。ルネサスもサプライヤーへのSBT設定要請を目標としています 12

5.2.2. 資源循環関連

水資源管理では、各社とも効率改善とリサイクル率向上に注力しています。Infineonは2024年度に32%の水リサイクル率を達成し、水ストレス地域での対策も強化しています 15。NXPは2024年に55%という高いリサイクル率を達成し、2027年までに100%を目指しています 17。STMicroelectronicsは2023年に42%を達成し、2025年までに50%を目指しています 19。TIも2023年に29%の水を再利用またはリサイクルしたと報告しています 21。ルネサスは2023年に33%を達成し、2030年までに35%を目指しています 8

廃棄物管理においては、高いリサイクル率の達成・維持が共通の目標となっています。STMicroelectronicsは2023年に96% 19、ルネサスは2023年に90% 8、NXPは2024年に89% 17、TIは2023年に84%(埋立回避率)78 を達成しています。Infineonも2024年度に76%のリサイクル率を報告しています 15。Microchipは廃棄物削減目標を前倒しで達成し、2040年までに埋立廃棄物ゼロを目指しています 79

化学物質管理については、各社とも法規制遵守に加え、有害物質の使用削減や代替物質の検討を進めていますが、具体的な目標や取り組みの開示レベルには差が見られます。

5.2.3. 生物多様性関連

生物多様性保全への取り組みは、業界全体としてまだ発展途上であり、企業間の差が大きい分野です。NXPは2023年に生物多様性方針を策定し、TNFDに基づく影響評価手法の開発とパイロット評価を開始しました 16。STMicroelectronicsも環境アセスメントの中で生物多様性リスクを評価し、ISO14001認証などを通じて管理しています 19。Infineonは環境管理システムに生物多様性保護を組み込み、地域での保全プロジェクトを支援しています 15。ルネサスも独自のスコアブックを用いて活動を評価・推進しています 54。しかし、多くの企業において、まだ具体的な影響評価や定量的な目標設定、サプライチェーン全体でのリスク管理といった段階には至っていないと考えられます。

5.3. 競合他社のパフォーマンス比較

環境パフォーマンス指標を比較する際には、各社の事業規模、製品構成(例:アナログ中心か、デジタル中心か)、製造プロセス(例:自社工場を持つIDMか、製造委託中心のファブレスか)、工場の立地(例:エネルギーミックスや水ストレス状況)などの違いが指標値に影響を与える可能性がある点に留意が必要です。

GHG排出量に関しては、絶対量だけでなく、売上高あたりや生産量あたりの原単位での比較が有効ですが、公開されているデータの粒度や算出基準が企業によって異なる場合があります。Infineonは2023年度において、直接的な競合他社グループの中で正規化されたScope1・2排出量が最も低かったと主張しています 15。STMicroelectronicsは2023年にScope1・2排出量を2018年比で45%削減 18、NXPは2024年にScope1・2排出量を2021年比で39%削減 16、TIは2023年にScope1・2排出量を2015年比で22%削減 21 したと報告しています。ルネサスは2022年度に6.8%削減 9 しており、削減ペースや基準年の違いから単純比較は難しいものの、目標達成に向けた進捗には差が見られる可能性があります。

エネルギー消費に関しても同様に原単位での比較が望ましいですが、ルネサスは2024年度にエネルギー消費原単位目標が未達であった 13 のに対し、STMicroelectronicsは2023年に生産単位あたりのエネルギー消費量を2016年比で17%削減したと報告しています 80

水使用に関しても、Infineonは2023年度に競合他社グループの中で正規化された水消費量が最も低かったとしています 15。水リサイクル率では、NXPの55% 17 やSTMicroelectronicsの42% 19 は、ルネサスの33% 8 やInfineonの32% 15、TIの29% 21 と比較して高い水準にあります。

廃棄物リサイクル率については、STMicroelectronicsの96% 19、ルネサスの90% 8、NXPの89% 17、TIの84%(埋立回避率)78、Infineonの76% 15 と、各社とも高い水準を目指していますが、STMicroelectronicsが特に高い実績を示しています。

これらの比較から、ルネサスは一部の指標(例:廃棄物リサイクル率)では高い水準を維持しているものの、気候変動目標の野心度や達成時期、水リサイクル率などにおいては、特に欧州の競合他社に先行されている側面がある可能性が示唆されます。これは、事業を展開する地域の規制環境の違いや、各社の経営戦略、投資の優先順位などが影響していると考えられます。資源循環に関しては、業界全体で取り組みが強化されており、ルネサスも高いリサイクル率を維持していますが、水効率改善や絶対量削減においては、競合の先進事例からさらに改善の余地を探る必要があるかもしれません。生物多様性に関しては、業界全体がまだ初期段階にあり、NXPが評価手法開発で一歩リードしている可能性がありますが、今後の各社の取り組みが注目されます。

6. 環境スコアのベンチマーキング

企業の環境パフォーマンスを客観的に評価し、投資判断などに活用するため、第三者のESG評価機関によるスコアリングが広く用いられています。ここでは、主要な評価機関によるルネサスおよび競合他社の評価結果を比較分析します。

6.1. 主要な評価機関とスコア

半導体業界を含むグローバル企業を対象とする主要なESG評価機関には、以下のようなものがあります。

CDPは、企業に対して気候変動、水セキュリティ、フォレストに関する情報開示を求め、その取り組みと透明性をAからFのスコアで評価します 27。サプライヤーエンゲージメントに関する評価も行っています。

MSCI ESG Ratingsは、業界固有のESGリスクへの企業の対応能力を評価し、AAA(リーダー)からCCC(ラガード)の7段階で格付けします 30。

Sustainalytics ESG Risk Ratingsは、企業が直面する重要なESGリスクと、その管理状況を評価し、リスクの度合いを「Negligible(無視できる)」から「Severe(深刻)」までの5段階で評価します 43。スコアが低いほどリスクが低いことを示します。

S&P Global ESG Scoreは、Corporate Sustainability Assessment (CSA) を通じて企業のサステナビリティパフォーマンスを評価し、0から100のスコアを付与します 48。Dow Jones Sustainability Index (DJSI) の構成銘柄選定にも用いられます。

EcoVadisは、企業の環境、労働・人権、倫理、持続可能な調達に関するパフォーマンスを評価し、プラチナ、ゴールド、シルバー、ブロンズのメダルを授与します 15。

これらの評価機関は、それぞれ独自の評価方法論、重点項目、データ収集方法(企業への質問書、公開情報、AI分析など)を用いており、評価結果が異なる場合があります。

6.2. ルネサスと競合他社のスコア比較分析

ルネサスは近年、外部のESG評価機関から一定の評価を得ています。MSCI ESG Ratingsでは、2020年のB評価から2021年にBBB、そして2022年(2023年1月発表)にはAA評価へと着実に評価を向上させています 29。AA評価はリーダーに次ぐ高い評価です。Sustainalytics ESG Risk Ratingsでは、2025年初頭時点で19.0のスコア(Low Risk)と評価されています 35。S&P Global ESG Scoreでは、2024年11月時点で66点と評価されており、データ利用可能性も「Very High」とされています 49。CDP評価については、2022年にサプライヤー・エンゲージメント・リーダーに選定されています 9。気候変動と水セキュリティに関するCDPスコアについては、参照した資料からは最新の公式スコアを確認できませんでした(DitchCarbonによる非公式スコア 24 は存在するものの、CDP公式スコアは通常、評価年の後半から翌年初頭にかけて発表されるため 83、2024年評価の結果は今後の発表を待つ必要があります)。

主要な競合他社のスコアを見ると、業界内でのリーダーシップを発揮している企業も見られます。STMicroelectronicsは、MSCI ESG Ratingsで最高のAAA評価を獲得しており 33、Sustainalyticsでも12.6(Low Risk)とルネサスより低い(良い)スコアです 41。CDP評価でも、2024年評価(2025年発表)で気候変動A、水セキュリティA-という高い評価を得ています 27。EcoVadisでもプラチナ評価(上位1%)を獲得しています 82

Infineon Technologiesも、MSCIでAAA評価(2024年度)31、Sustainalyticsで19.0(Low Risk、ルネサスと同等)40、CDPで気候変動B、水セキュリティB(2024年評価)85、EcoVadisでプラチナ評価 31 を獲得するなど、高い評価を得ています。

NXP Semiconductorsは、2022年にMSCIでAAA評価を得ていましたが 32、最新の評価は確認が必要です。Sustainalyticsでは16.7(Low Risk)と、ルネサスやInfineonより低い(良い)スコアです 38。CDPスコアは2019年時点でDと報告されており 26、近年の改善状況が注目されます。

Texas Instrumentsは、S&P Global ESG Scoreが43点(2024年8月時点)48、Sustainalyticsが20.2(Medium Risk)43 と、ルネサスや欧州勢と比較するとやや低い評価となっています。CDPスコアはC(2023年評価)と報告されています 76

Microchip Technologyは、Sustainalyticsで24.1(Medium Risk)と評価されています 35。MSCIやCDPのスコアは、参照資料からは明確に確認できませんでした。

これらのスコアを比較すると、ルネサスはMSCIやSustainalyticsで良好な評価を得ており、ESGへの取り組みが進展していることが示唆されます。しかし、STMicroelectronicsやInfineonといった業界トップクラスの企業は、複数の評価機関からさらに高い評価を獲得しており、特に環境パフォーマンスや目標の野心度において、ルネサスにはまだ改善の余地がある可能性を示しています。評価機関によって評価結果に差異が見られる点(例:TIのSustainalyticsとS&P Globalの評価レベルの違い)は、各機関の評価方法論や重点分野の違いを反映しており、単一のスコアだけでなく、複数の評価結果とその背景にある具体的な取り組み内容を総合的に分析することの重要性を示唆しています。

6.3. スコアから示唆される強みと弱み

ルネサスの比較的高評価(MSCI AA、Sustainalytics Low Risk、S&P Global 66)は、近年のサステナビリティ推進体制の強化 30、SBTi認定目標の設定 12、TCFDに基づく情報開示の拡充 9、サプライヤーエンゲージメントへの注力 9 などが評価された結果と考えられます。特に、S&P Global ESG Scoreの内訳を見ると、環境(78点)、社会(51点)、ガバナンス&経済(62点)となっており、環境側面での評価が比較的高いことがうかがえます 49

一方で、競合他社との比較やスコアの詳細分析からは、いくつかの潜在的な弱みや改善点が示唆されます。Sustainalyticsのスコア(19.0)はLow Risk評価ではあるものの、STMicroelectronics(12.6)やNXP(16.7)よりは高く(リスクが高い)、特定のESGリスク管理項目(例:製品ガバナンス、人的資本、事業倫理など、評価の詳細項目を確認する必要あり)において改善の余地がある可能性を示唆しています。また、CDPの気候変動・水セキュリティスコアが、A評価を得ている競合他社(例:STMicroelectronics 27)と比較して低い場合(最新スコアの確認が必要)、GHG排出削減実績や水管理戦略の具体性、目標の野心度などで差がある可能性があります。2050年というカーボンニュートラル目標達成年の相対的な遅さも、評価に影響している可能性があります。

評価機関ごとの評価の違いも考慮する必要があります。例えば、Sustainalyticsがリスク管理に重点を置くのに対し、CDPは情報開示の質と具体的な行動を重視するなど、評価軸が異なります。ルネサスとしては、各評価機関からのフィードバックを分析し、自社の取り組みの強みを維持しつつ、改善が必要な分野を特定し、継続的なパフォーマンス向上と情報開示の質の向上に努めることが重要です。

7. ルネサス エレクトロニクスの課題と提言

これまでの分析(ルネサスの取り組み、リスクと機会、業界先進事例、競合比較、ESGスコアベンチマーク)に基づき、ルネサスが環境分野において直面している主要な課題を評価し、今後の持続可能な成長に向けた提言を行います。

7.1. 現在の課題評価

ルネサスは、環境基本理念に基づき、カーボンニュートラル目標の設定、SBTi認定取得、TCFD提言への対応、資源循環の推進、生物多様性保全活動など、多岐にわたる環境への取り組みを進めており、外部評価も向上傾向にあります 8。しかしながら、さらなる高みを目指す上で、以下の点が主要な課題として挙げられます。

第一に、気候変動対策における目標の野心度と実行計画の具体性です。2050年カーボンニュートラル目標 9 は長期的な方向性を示すものですが、競合他社(特に欧州勢)がより早期の目標(2027年や2030年)を設定している 15 中で、目標達成に向けた具体的なロードマップ、特にGHG排出量の大部分を占めるScope3 14 の削減策の強化と進捗の可視化が課題です。SBTi認定の中期目標 12 は重要な一歩ですが、これを達成し、さらに加速していくための施策が必要です。エネルギー消費原単位目標の未達 13 も、実行計画と実績のギャップを示唆しています。

第二に、資源循環における絶対量削減へのコミットメントです。水使用原単位の改善 8 や高い廃棄物リサイクル率の維持 8 は評価できますが、水使用量や廃棄物発生量の「絶対量」削減に関する具体的な目標設定が見られません 13。事業拡大に伴う環境負荷の増加を抑制し、真の資源循環型ビジネスモデルへ移行するためには、効率改善に加えて絶対量削減への取り組み強化が求められます。特に水リサイクル率 8 は、一部競合他社 17 と比較して改善の余地がある可能性があります。

第三に、生物多様性への取り組みの深化です。活動事例は豊富ですが 54、事業活動が生物多様性に与える具体的な影響(依存度・影響度)の評価、特にサプライチェーンを含めたバリューチェーン全体での評価、それに基づく定量的な目標設定、そしてTNFDなど最新のフレームワークに沿った情報開示といった、より戦略的かつ体系的なアプローチへの移行が課題です。現状では、活動の成果や事業との関連性が十分に示されているとは言い難い側面があります。

第四に、最新のESG情報開示基準への対応です。TCFD提言への対応は進んでいますが 52、今後はISSB(国際サステナビリティ基準審議会)が公表したIFRSサステナビリティ開示基準など、グローバルに標準化が進む新たな開示要請への対応も必要となります。これには、データ収集・管理体制の強化や、財務情報との連携強化が求められます。

7.2. 今後注力すべき主要分野

上記の課題認識に基づき、ルネサスが今後特に注力すべき主要分野として以下を提案します。

  1. Scope3排出量削減の加速: サプライチェーン排出量、特にカテゴリ1(購入した製品・サービス)14 の削減に向けた、サプライヤーとのより踏み込んだ協働体制の構築。低炭素材料や部品の調達比率向上。

  2. 再生可能エネルギー導入の拡大: 2050年カーボンニュートラル達成に向け、再生可能エネルギー比率100%達成目標をより早期に設定し、PPA(電力購入契約)の活用拡大やオンサイト発電への投資を加速。

  3. 水リスク管理と水資源効率の向上: 水使用量の絶対量削減目標を設定し、特に水ストレスの高い地域に立地する拠点での取水リスク評価と対策を強化。水リサイクル技術への投資と導入を加速し、リサイクル率の目標を引き上げる。

  4. 生物多様性戦略の策定と実行: TNFDなどのフレームワークを活用し、事業活動及びバリューチェーンにおける生物多様性への依存度・影響度を評価。リスクと機会を特定し、具体的な保全目標(例:No Net Loss、Net Positive)を設定し、それに基づいた行動計画を策定・実行・開示する。

  5. サーキュラーエコノミーへの移行促進: 製品設計段階からの資源効率向上(エコデザイン)、製品寿命の延長、使用済み製品の回収・再利用・リサイクルの仕組み構築など、ビジネスモデル全体での循環性向上を検討・推進する。

  6. 環境貢献型製品(ハンドプリント)の定量評価と訴求強化: 自社製品が顧客や社会全体の環境負荷低減にどれだけ貢献しているか(ハンドプリント)を定量的に評価する手法を確立し、その効果を積極的に情報開示・訴求することで、製品の付加価値を高める。

  7. ESGデータマネジメントと開示体制の強化: ISSB基準など最新の国際的な開示要請に対応できるよう、環境・社会・ガバナンスに関するデータの収集・管理・検証体制を強化し、統合報告書やサステナビリティサイトでの情報開示の質と網羅性を向上させる。

7.3. 具体的な改善策と推奨事項

上記注力分野における具体的な改善策として、以下のようなアクションを推奨します。

  • サプライヤー協働強化: 主要サプライヤーに対して、SBT設定支援プログラムや排出量削減に関する技術協力、共同での低炭素技術開発などを実施する。排出量削減実績に応じたインセンティブ(例:取引条件優遇)の導入を検討する。

  • 再エネ導入加速: 国内外の主要生産拠点において、大規模なPPA契約やオンサイト太陽光発電プロジェクトを推進する。未利用エネルギー(排熱など)の活用技術への投資を拡大する。

  • 水管理高度化: 最新の水処理・リサイクル技術(例:膜処理技術、ゼロリキッドディスチャージ)の導入可能性を評価し、投資を検討する。水使用量モニタリングシステムを強化し、リアルタイムでの効率改善を図る。

  • 生物多様性評価の開始: TNFDのLEAPアプローチなどを参考に、特定の事業拠点や製品カテゴリーを対象とした生物多様性影響評価のパイロットプロジェクトを実施し、その結果と学びを開示する。ネイチャーポジティブに貢献する地域連携プロジェクトを特定・支援する。

  • サーキュラーデザイン導入: 製品開発プロセスにLCA(ライフサイクルアセスメント)の視点を組み込み、使用する材料の削減、リサイクル材利用率の向上、解体・分離の容易性、修理可能性などを考慮した設計(サーキュラーデザイン)を推進する。

  • ハンドプリント算定: 業界団体や研究機関と連携し、半導体製品の環境貢献度(ハンドプリント)を評価するための標準的な算定手法の開発・導入を検討する。顧客事例などを通じて具体的な貢献効果を示す。

  • ESG情報基盤整備: ESGデータ収集・管理のための統合プラットフォームを導入・活用し、データの正確性、一貫性、比較可能性を確保する。第三者検証の対象範囲を拡大し、開示情報の信頼性を高める。

これらの提言は、ルネサスが環境課題への対応を強化し、持続可能な成長を実現するための具体的な道筋を示すものです。技術的な実現可能性や経済合理性を考慮しつつ、ステークホルダーとの対話を通じて優先順位を決定し、着実に実行していくことが期待されます。特に、2050年カーボンニュートラル目標に対するより具体的で野心的な中間目標の設定と実行計画の加速は、競合他社の動向を踏まえると喫緊の課題と考えられます。また、生物多様性に関しては、業界全体がまだ初期段階にある中で、早期にTNFD等を活用した評価・目標設定・開示を行うことで、リーダーシップを発揮し、ESG評価をさらに向上させる好機となり得ます。

8. 結論

8.1. 分析結果の総括

本レポートでは、ルネサス エレクトロニクス株式会社の環境イニシアチブとパフォーマンスについて、「気候変動」「資源循環」「生物多様性」の3つの側面から包括的な分析を行った。分析の結果、ルネサスは環境基本理念に基づき、これらの重要課題に対して体系的に取り組みを進めていることが確認された。

強みとしては、2050年カーボンニュートラル目標やSBTi認定の中期目標といった意欲的な目標設定 9、TCFD提言に沿ったリスク・機会分析と情報開示の推進 52、エコプロダクト活動を通じた環境配慮型製品の売上拡大 8、高い廃棄物リサイクル率の維持 8、サプライヤーエンゲージメントへの注力(CDPリーダー選定 9)、そしてMSCI ESG RatingsにおけるAA評価獲得 29 などが挙げられる。これらの取り組みは、同社の環境経営へのコミットメントと、近年の着実な進捗を示している。

一方で、課題も明らかになった。カーボンニュートラル目標達成に向けたロードマップ、特にScope3排出量削減策の具体化と実行加速は、競合他社の動向 15 を踏まえると、より野心的な取り組みが求められる可能性がある。資源循環においては、水使用量の絶対量削減目標の設定や、水リサイクル率のさらなる向上が課題として残る。生物多様性に関しては、活動事例は豊富であるものの、事業との関連性が明確な影響評価や定量目標の設定、戦略的な情報開示といった点で、まだ深化の余地がある。エネルギー消費原単位目標の未達 13 は、目標達成に向けた施策の実効性向上も課題であることを示唆している。ESGスコアにおいても、業界トップ企業と比較すると、特定の分野で改善の可能性があることが示された 27

8.2. 将来展望

半導体は、デジタルトランスフォーメーションとグリーントランスフォーメーションを加速させる上で不可欠な技術であり、その需要は今後も拡大が見込まれる。しかし同時に、半導体産業が環境に与える負荷の大きさから、サステナビリティへの取り組みは、企業の社会的責任としてだけでなく、事業継続と競争力維持のための必須要件となっている。

ルネサスが持続可能な成長を達成するためには、本レポートで特定された課題に真摯に向き合い、提言された改善策を着実に実行していくことが極めて重要である。特に、気候変動対策の加速(Scope3削減、再エネ導入)、水リスク管理の強化、生物多様性戦略の具体化、そしてサーキュラーエコノミーへの移行は、今後の重点領域となるであろう。これらの取り組みを通じて環境パフォーマンスを向上させるとともに、その進捗と成果を透明性高くステークホルダーに開示していくことが、信頼の維持・向上に不可欠である。

環境への取り組みは、コストや制約だけでなく、技術革新や新規市場創出、ブランド価値向上といった事業機会にも直結する。ルネサスが持つ技術力とグローバルな事業基盤を活かし、環境課題の解決に貢献する製品・ソリューションを提供し続けることは、同社の企業価値を高め、競争優位性を強化することにつながる。最終的には、これらの環境への真摯な取り組みが、ルネサスが掲げるパーパス「To Make Our Lives Easier(私たちの暮らしを楽(ラク)にする)」87、すなわち、より安全・安心、スマート、そして持続可能な未来の実現に貢献するという企業理念の達成に不可欠な要素となるであろう。

引用文献

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