本レポートは、阪和興業株式会社(以下、同社)の環境への取り組みとそのパフォーマンスについて、「気候変動」、「資源循環」、「生物多様性」の3つの重点分野に焦点を当て、包括的な分析を提供するものである。本分析は、同社の環境スコアリング及び戦略的評価に必要な詳細情報を収集することを目的とし、学術的な形式に基づき日本語で記述する。なお、利用者の指示に基づき、本レポートでは表形式でのデータ表示を避け、全ての情報は記述形式または箇条書きにて提示する。
阪和興業株式会社は、1947年に設立された大手専門商社であり、鉄鋼、リサイクルメタル・プライマリーメタル、食品、エネルギー・生活資材、木材、機械など多岐にわたる事業分野を展開している 。特に鉄鋼、金属、エネルギーといった資源集約型セクターにおける事業活動は、環境課題との関連性が深い。同社は国内外に広範なネットワークを持ち、連結ベースでの従業員数は5,508名(2024年3月31日時点)に上る 。このような事業規模と多様性を持つ同社にとって、環境への配慮は持続可能な経営に不可欠な要素である。
ガバナンスと戦略
同社は、気候変動を自社の事業活動に影響を与え、また自社の事業活動が影響を与える重要な経営課題として認識している 。気候変動に関するガバナンス体制としては、代表取締役社長を委員長とするサステナビリティ推進委員会が中心となり、取締役会の指揮・監督のもとで気候関連のリスク及び機会の評価、管理状況の検証、対応策の企画立案を行っている 。この委員会は、従来のCSR委員会を発展させる形で2021年10月に設置されたものであり、その活動状況は適宜取締役会へ報告されている 。
さらに、同社は2022年6月に気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言への賛同を表明し 、経済産業省が主導する「GXリーグ基本構想」にも賛同している 。これらの動きは、気候変動問題に対する同社のコミットメントが、近年急速に具体化・ formalized されていることを示唆している。TCFDへの賛同や専門委員会の設置は、投資家や規制当局からの要請、市場動向への対応という側面を持つと同時に、気候変動対応を経営戦略に統合しようとする同社の意思の表れと解釈できる。ただし、TCFDへの対応が2022年であることから、一部の競合他社と比較して、特にScope 3排出量の把握や詳細なシナリオ分析に基づく財務影響の定量化といった点では、まだ発展途上にある可能性も考えられる。
GHG排出量削減目標と実績
同社は、2023年度にGHG(温室効果ガス)排出量に関する中長期的な削減目標を設定した 。
目標:
国内事業所におけるScope 1及びScope 2のGHG排出量を、2030年度までに2021年度比で34%削減する 。
2050年度までにカーボンニュートラルを実現する 。
実績:
連結ベースでのScope 1+2 CO2排出量は、2023年度に45,283トンであり、2022年度の45,998トンから微減した 。しかしながら、削減目標の基準年である2021年度のScope 1+2 CO2排出量は19,727トンと報告されており 、2021年度から2023年度にかけて排出量が増加している計算となる。これは、2030年度の34%削減目標達成に向けて、現状の排出量水準からは大幅な削減努力が必要であることを示している。基準年の定義や算定範囲について、さらなる情報開示が望まれる。
Scope 3排出量に関しては、目標設定や包括的なデータ開示は確認されていない。これは、広範なバリューチェーンを持つ商社にとって、気候変動対応における主要な課題領域である。ただし、輸送時のCO2排出量については開示されており、2023年度は20,270トンで、2022年度の20,290トン 、2021年度の23,770トン から減少傾向にある。エネルギー消費原単位も2023年度は21.5 kl/百万トンキロと、2022年度の25.4 kl/百万トンキロから大幅に改善している 。
なお、韓国のHanwha Corporation(同社とは別法人である可能性が高い)のデータとして、2023年のScope 1排出量が約2,139万kg CO2e、Scope 2が約4,736万kg CO2e、Scope 3が約74億kg CO2eと報告されているが 、これは阪和興業株式会社(日本)の実績とは直接関連しない可能性が高い。
明確なScope 1+2削減目標の設定は評価できるものの、基準年からの排出量増加傾向は、目標達成に向けた具体的な道筋と進捗管理の重要性を強調している。特に、Scope 3に関する目標設定とデータ開示の欠如は、同業の総合商社(例:三菱商事 )と比較した場合、顕著なギャップとなっている。
具体的な取り組み
同社は、自社の事業活動における排出量削減と、取引を通じて社会全体の脱炭素化に貢献するという二つのアプローチで気候変動対策を推進している。
自社排出量の削減: 事業所で使用する電力を再生可能エネルギー由来のものに切り替えたり、使用する燃料を低炭素なものへ転換したりする取り組みを進めている 。省エネルギー活動も推進している 。
脱炭素化への貢献(事業活動):
バイオマス・リサイクルエネルギー: エネルギー・生活資材事業本部を中心に、PKS(パーム椰子殻)、木質ペレット、RPF(廃棄物固形燃料)、廃タイヤ由来燃料、炭化汚泥といったバイオマスエネルギーやリサイクルエネルギーの安定供給体制を構築・拡販している 。特にPKSの輸入取扱量は国内トップシェアを誇る 。
再生可能エネルギー関連: 企業向けに自家消費型太陽光発電システムの導入支援を行っており、EMS(エネルギーマネジメントシステム)の提案も可能である 。屋根上、遊休地、駐車場(カーポート)、ため池など多様な設置場所に対応している 。
次世代エネルギー・技術: 船舶用バイオ燃料(国内での実証試験完了 )、炭化バイオマス、ESCO事業、建築廃材利用、アンモニア、カーボンクレジット市場への参入などを検討・推進している 。
EV関連: 本田技研工業との間で、バッテリー用レアメタル(ニッケル、コバルト、リチウム)の中長期的な安定調達に関するパートナーシップを締結しており、EV化の進展を支えている 。
脱炭素化支援サービス: 2024年3月より、CO2排出量見える化・削減クラウドサービスを提供するアスエネ株式会社と協業し、取引先企業に対してScope 1-3排出量の可視化と削減ソリューションをワンストップで提供している 。これは、取引先のTCFD対応やサプライチェーン全体の脱炭素化を支援するものであり、同社自身のScope 3リスク管理にも間接的に寄与する戦略的な取り組みと言える。同社自身もアスエネのサービスを利用している 。
J-クレジット制度: 水稲栽培における中干し期間延長によるメタン(CH4)削減プロジェクトのプログラム運営・管理者としてJ-クレジット創出にも関与している 。
認証取得: 2023年10月にISCC PLUS認証を取得し、マスバランス方式でのバイオマス・リサイクル原料の取り扱いが可能となった 。
これらの取り組みは、同社が既存のトレーディング機能やネットワークを活用しつつ、エネルギー転換や脱炭素化という新たな市場機会を捉えようとしていることを示している。特にアスエネとの協業は、商社にとっての課題であるサプライチェーン排出量管理に対して、顧客へのソリューション提供という形でアプローチする点で注目される。
戦略
同社は、「阪和のサーキュラー・サプライチェーン・マネジメント」を事業活動の核に据え、資源循環型社会への貢献を目指している 。特に、金属リサイクル(アルミニウム、銅、ニッケル、クロム、鉄鋼)は、創業当初からの強みとして位置づけられている 。
具体的な取り組み
金属リサイクル:
アルミニウム: アルミ缶を再びアルミ缶にリサイクルする「Can to Can」や、廃アルミサッシをリサイクルする「Sash to Sash」を推進しており、国内トップクラスの取扱量を誇る 。同社はアルミリサイクルの先駆者の一つとされる 。
鉄鋼: 鉄スクラップの回収・加工・供給を通じて、高度な資源循環に貢献している 。グループ会社の廣内スチールでは、鋼材輸送に使用される木製スキッドのリサイクルも行っている 。
銅: 銅スクラップのリサイクルも推進している 。
その他金属: ステンレス、ニッケル、クロム、チタン、鉛などのリサイクルも手掛けている 。近年では、韓国のSEBITCHEM社と戦略的提携を結び、リチウムイオン電池(LIB)スクラップのリサイクル事業にも進出している 。
E-scrap: 電子基板などのE-scrapのリサイクルにも貢献している 。
エネルギー・燃料リサイクル:
RPF(廃棄物固形燃料): 子会社化した西部サービス株式会社及び有限会社アルファフォルムを通じて、RPFの製造・安定供給体制を構築している 。西部サービスはエコアクション21認証を取得し、JIS規格に準拠した高品質なRPF製造を目指している 。年間取扱量は10万トンを超える 。
廃タイヤ: 使用済みタイヤを回収・加工し、カーボンニュートラル燃料として供給するリサイクル事業を推進している 。
バイオマス: PKS(パーム椰子殻)の取扱量は国内トップであり、化石燃料からの転換を支援している 。
その他の素材:
紙: 古紙のリサイクルを推進している 。
木材: 間伐材の輸出(年間約15万m3)を通じて森林整備に貢献するほか、国内・輸入木材や建材も取り扱っている 。
プラスチック: リサイクル原料やバイオマス原料を使用したポリエチレン製品の開発・供給を行っている 。
風力発電ブレード: 風力発電機の解体・撤去工事から発生するFRP(繊維強化プラスチック)製ブレードのリサイクルに関する実証事業(宏幸株式会社が主体)に関与している可能性がある 。ブレードを破砕・加工し、太陽光パネル下の防草シートなどに再利用する構想が示されている 。
実績データ
同社の資源循環に関する報告では、PKSやRPF、間伐材の取扱量や市場シェアに関する記述はあるものの、グループ全体の廃棄物総排出量、リサイクル率、水使用量といった網羅的な定量データは限定的である 。
資源循環、特に金属リサイクルは同社の中核事業であり、長年の経験と実績に基づいていることは明らかである。LIBやRPF、風力発電ブレードといった新たな廃棄物・リサイクル分野への進出は、時代の要請に応じた事業展開と言える。一方で、同社自身の事業活動における廃棄物削減や水使用量削減に関する情報開示は、一般的な企業ESG報告と比較して限定的であり、今後の拡充が期待される。トレーディング事業が中心であるため、自社オペレーションよりも、リサイクル原料の「取引」に重点が置かれている側面がうかがえるが、子会社レベルでの取り組み(廣内スチールのスキッドリサイクル 、西部サービスの環境経営 )も見られる。
方針とガバナンス
同社のサステナビリティ基本方針には、「豊かな地球環境の次代への承継」が掲げられており、生態系の保全、生物多様性の維持、自然資源(森林、海洋等)の持続可能な利用を可能にする地球環境を目指し、資源の有効活用や環境負荷低減に努めるとしている 。生物多様性の重要性を認識し、自然環境への配慮に努めることも明記されている 。これらの課題は、サステナビリティ推進委員会が統括していると考えられる 。
具体的な取り組み
同社の生物多様性への取り組みは、主にリスクの高いサプライチェーンにおける認証取得を通じて行われている。
持続可能な森林経営: 木材製品に関して、FSC®-CoC(認証番号:FSC®C018719)、PEFC、SGECといった森林認証を取得し、環境配慮型製品の供給を通じて持続可能な森林経営への貢献を目指している 。また、「木材調達方針」を策定し、合法木材の利用推進、森林認証材の優先調達、国産材利用の推進などを掲げている 。間伐材の輸出も森林整備に貢献する取り組みとして挙げられている 。グループ会社の廣内スチールでは、工場敷地の緑化も行っている 。
持続可能な水産資源: 水産資源の保護に向けて、MSC-CoC認証及びASC-CoC認証を取得し、持続可能な漁業で獲られた水産物の流通に貢献している 。MSCジャパンが主催するキャンペーンにも協力している 。同社の食品事業本部は、エビやカニなどを主力商品として扱っている 。
その他: 尿素の安定供給(大気汚染物質抑制に寄与)や間伐材輸出を通じて「海と陸の豊かさを守る」ことへの貢献を謳っている 。基本方針では生態系保全への言及がある 。木材事業に関するTCFD分析では、森林保護政策や気候変動による物理的リスクが認識されている 。
実績データ
認証製品の具体的な取扱量や比率、生息地保全活動、生物多様性ホットスポットへの影響評価などに関する定量的なデータは、提供された情報からは確認できなかった 。
同社の生物多様性へのアプローチは、現時点では、木材や水産物といった自然資源を扱うサプライチェーン上のリスク管理に主眼が置かれており、その手段として国際認証の取得が中心となっている。これは、商社としては一般的な対応であるが、金属資源(プライマリーメタル)の採掘に伴う影響や、水産物以外の食品(農産物等)のサプライチェーンにおける生物多様性への影響評価、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)のような新しいフレームワークへの対応、認証取得を超えた積極的な保全活動といった点では、さらなる取り組みの余地があると考えられる。
同社は、TCFD提言に沿った枠組みを用いて、気候変動に関連するリスクと機会を主要な事業セグメント(エネルギー、リサイクルメタル、食品、木材)ごとに分析している 。分析にはIEA(国際エネルギー機関)やIPCC(気候変動に関する政府間パネル)のシナリオ(1.5℃目標達成シナリオ、現状維持シナリオ(4℃上昇相当)など)が参照され、移行リスク(政策・法規制、技術、市場、評判)と物理リスク(急性、慢性)の両面から検討されている 。財務的な影響については、「大」「中」といった定性的な評価が行われている 。
気候関連リスク
移行リスク:
政策・法規制: 環境規制の強化(化石燃料への影響、炭素価格導入によるコスト増)、金属スクラップの輸出入規制強化 。
市場: 化石燃料需要の減少と代替エネルギー(バイオマス、リサイクル燃料、再エネ)需要の増加 。EV化による伝統的素材需要の変化とバッテリー関連素材(銅、アルミ、リチウム、ニッケル)需要の増加 。持続可能性認証製品(木材、水産物)への需要シフト 。
技術: 低炭素技術の進展による既存技術の陳腐化 。新しいリサイクル技術(LIB等)への対応の必要性 。
評判: 高排出製品の取り扱いや不十分な環境パフォーマンスに伴うレピュテーションリスク(間接的に示唆)。
物理リスク:
急性: 異常気象(台風、洪水等)の頻発・激甚化による操業・物流への影響、災害復旧関連資材需要の増加可能性 。
慢性: 平均気温上昇(アルミ缶需要増の可能性 )、海面上昇による港湾機能への影響 、気象パターンの変化による農林水産業への影響(食品・木材事業)。
気候関連機会
低炭素・再生可能エネルギー関連ソリューション(太陽光発電システム、バイオマス燃料、リサイクル燃料、将来的なアンモニア・水素等)への需要増加 。
リサイクル金属(特にEV・電化向けのアルミ、銅)及びバッテリー素材への需要増加 。
カーボンクレジット市場の拡大 。
認証された持続可能な製品(木材、水産物)への需要増加 。
取引先への脱炭素化ソリューション提供機会(アスエネとの協業等)。
インフラ強靭化・適応関連資材への需要 。
資源循環リスク・機会
リスク: 規制変更(バーゼル条約等の廃棄物輸出入規制 )、スクラップ価格変動、高品質スクラップ獲得競争の激化。
機会: サーキュラーエコノミー政策や企業のサステナビリティ目標達成に向けたリサイクル原料需要の増大 、リサイクル技術の進展(LIB、プラスチック、複合材(風力ブレード等))、高度な選別・加工による付加価値創出の可能性。
生物多様性リスク・機会
リスク: 森林破壊や持続不可能な慣行に関連する調達による評判リスク、高リスク地域からの調達規制強化、気候変動による生態系への物理的影響(森林、漁業資源等)。
機会: 認証された持続可能な製品への市場アクセス・選好度の向上 、生態系サービス支払い・クレジット(森林炭素等)の可能性 、実証可能な保全活動によるブランドイメージ向上。
同社のTCFD分析 は、主要事業における気候リスクと機会を体系的に整理しており、特に商社としての事業特性を踏まえた移行リスク・機会(伝統的な高炭素商材のリスクと、再エネ・リサイクル・バッテリー関連の機会)を明確に示している。これらのリスク・機会に対して、具体的な事業活動(PKS取引、アルミ・リサイクル、太陽光ソリューション等)を対応策として位置づけている点は、戦略への統合を示唆するものである。しかしながら、財務的影響の評価が定性的(「大」「中」)に留まっており、より進んだTCFD報告で見られる定量的な財務リスクエクスポージャーの開示には至っていない。
同社は鉄鋼・金属の専門商社としての側面と、食品・エネルギーなど多角的な事業展開を行う総合商社的な側面を併せ持つ。そのため、ベストプラクティスとしては両方の業界動向を参照する必要がある。
気候変動
大手総合商社(例:三菱商事 、三井物産 、伊藤忠商事 、住友商事 、丸紅 )の動向:
目標設定: Scope 1, 2だけでなく、Scope 3を含む野心的なGHG削減目標(多くはSBTi認定)を設定している。(同社はScope 3目標未設定)
Scope 3 開示: ファイナンスド・エミッションや販売製品の使用に伴う排出量(カテゴリ11)を含む、複数カテゴリにわたる詳細なScope 3排出量を開示している(例:三菱商事のカテゴリ11開示 )。(同社のScope 3開示は限定的)
再エネ投資: 大規模な再生可能エネルギー発電事業(太陽光、陸上・洋上風力)への直接投資を積極的に行っている(例:住友商事 、三菱商事 )。(同社はバイオマス取引や太陽光設備販売が中心 )
次世代エネルギー: 水素、アンモニア、SAF、e-fuel等の次世代エネルギーバリューチェーン構築に向けた大型JV設立や直接投資を推進している(例:三井物産 、三菱商事 )。(同社は探求・取引段階 )
シナリオ分析: 財務的影響を含む定量的な気候変動シナリオ分析を実施・開示している。(同社は定性的評価 )
CDP評価: 高いCDPスコアを獲得している(例:三井物産 気候・水「A」、伊藤忠商事 気候・水・SER「A-」、三菱商事 気候「A-」、水・森林「B」)。(同社のスコアは不明確だが、相対的に低い可能性 ) 資源循環
バリューチェーン全体を対象とした包括的なサーキュラーエコノミー戦略と、廃棄物削減やリサイクル材利用率向上に関する定量目標の設定。
先進的なリサイクル技術(例:プラスチックのケミカルリサイクル、複雑な金属分離技術)への投資。
顧客とのクローズドループシステムの構築(Can-to-Can/Sash-to-Sashを超えた取り組み)。
グローバルな事業活動全体における廃棄物発生量(有害・非有害別)、リサイクル率、水消費量・リサイクル率に関する詳細なデータ開示。(同社のデータは限定的 ) 生物多様性
TNFDフレームワークの採用による自然関連リスク・機会の評価と開示(例:三菱商事 )。(同社は未言及)
生物多様性保全に関する定量的かつ期限付きの目標設定(例:NDPE(森林破壊・泥炭地開発・搾取ゼロ)コミットメント、生息地回復目標)。
自社の直接的な事業範囲を超えた自然資本を活用した解決策(NbS)プロジェクトの実施。
認証取得対象の商品だけでなく、より広範なサプライチェーンにおける生物多様性への影響に関する詳細なマッピングとリスク評価の実施。
CDP森林スコアにおける高評価(例:三菱商事「B」、伊藤忠商事「B」)。(同社はCDP森林への報告が見られない)
大手総合商社と比較した場合、同社はScope 3目標の設定、包括的なScope 3報告、大規模再エネ投資、気候変動リスクの定量的財務評価、廃棄物・水に関する全体的なデータ開示、TNFD採用のような認証を超えた積極的な生物多様性戦略といった面で、改善の余地があるように見受けられる。同社の強みは、確立された金属・バイオマスリサイクル取引と、顧客に焦点を当てた脱炭素化ソリューション提供にあると言える。
課題
Scope 3 排出量: 商社としての事業特性上、最大の排出源である可能性が高いScope 3 GHG排出量について、包括的な測定・報告体制、及び削減目標が欠如している点。
データ透明性: 連結グループ全体での廃棄物発生量、全体的なリサイクル率(個別品目の主張を除く)、水消費量、再生可能エネルギー使用量に関する定量データの公開が限定的である点 。
目標達成への道筋: 2030年度のScope 1+2削減目標(2021年度比34%減)に対し、報告されている近年の実績(2021年度から2023年度にかけて増加 )との間に乖離が見られる可能性があり、目標達成に向けた具体的な道筋や進捗の明確化が必要な点。
生物多様性戦略: 現状のアプローチが認証取得中心であり、より広範なバリューチェーンへの影響評価やTNFDのような新しい枠組みへの対応、積極的な保全活動といった戦略的深掘りが不足している点。
サステナビリティの統合: 多岐にわたる事業部門とグローバル拠点全体において、コンプライアンス遵守を超えたサステナビリティ視点の一貫した統合を進める点。
資源配分: 従来の事業への投資と、脱炭素化、サーキュラーエコノミー、サステナビリティ推進に必要な新規投資とのバランスを取る点。
推奨事項
Scope 3 戦略の策定: 主要なScope 3カテゴリ(特に購入した製品・サービス、輸送・配送、販売した製品の使用)の測定と報告を優先的に実施する。科学的根拠に基づいた野心的なScope 3削減目標を設定する。アスエネとの協業 を活用し、サプライヤーデータの収集を推進する。
データ開示の強化: GHG排出量(Scope 1, 2, 3)、廃棄物発生量(種類別、処理方法別)、リサイクル率、水取水量(水源別、水ストレス地域別)、再生可能エネルギー消費量・発電量について、連結グループ全体の包括的な定量データを年次で公開する。GRIスタンダードやSASBスタンダード等の国際的な報告フレームワークを活用する。
Scope 1+2 削減の加速と透明化: 2021年度のベースラインと2030年目標達成に向けた排出削減経路について明確な説明を提供する。目標達成を確実にするため、全拠点でのエネルギー効率改善、燃料転換、再エネ導入等の具体的な対策を加速する。
生物多様性アプローチの強化: TNFDのLEAPアプローチ等を参考に、グループ全体での自然への依存度と影響に関する評価を実施する。認証取得に留まらず、リスクの高いサプライチェーンへの対策や積極的な貢献(NbS等)を含む、明確な目標を伴った包括的な生物多様性戦略を策定する。
統合の深化: 事業部門の戦略策定、業績評価、投資判断プロセスに、サステナビリティ指標をより深く組み込む(既存のリスク評価プロセス を発展させる)。社内研修やコミュニケーションを強化する。
グリーン投資の拡大: リスク・機会分析 で特定された低炭素・循環型経済ビジネス機会の開発・拡大に向けて、専門的な資金を割り当てる。グリーン売上高比率やグリーン投資額に関する目標設定も検討する。
同社の主要な課題は、環境マネジメントの基盤(コンプライアンス、基本的な目標設定、リサイクル分野での強み)から、より包括的でデータに基づき、戦略的に統合されたサステナビリティ・アプローチへと移行することにあると考えられる。特にScope 3排出量と生物多様性への影響に関する取り組みは、ステークホルダーからの期待の高まりや競合他社の動向を踏まえ、加速が必要な領域である。
競合企業の特定
同社の競合環境は、事業分野の多様性から、複数のカテゴリーに分類される。
鉄鋼・金属専門商社: JFE商事、伊藤忠丸紅鉄鋼(MISI)、メタルワン(三菱商事と双日の合弁)、日鉄物産(日本製鉄グループ)などが、中核事業である鉄鋼・金属分野における直接的な競合相手となる 。
総合商社(Sogo Shosha): 三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、住友商事、丸紅は、エネルギー、食品、化学品など、同社が展開する非金属分野で競合するとともに、ESGパフォーマンス全体のベンチマークとなる 。
その他: 独立系商社である岡谷鋼機 や、バイオマス燃料取引、特定のリサイクル分野における専門企業なども、事業領域によっては競合となり得る。
比較分析(記述形式)
事業規模と範囲: 同社は大手専門商社であるが、最大手の総合商社と比較すると規模は小さい。事業ポートフォリオは多岐にわたるが、特定の非金属分野におけるグローバルな統合度では、トップティアの総合商社に及ばない可能性がある。
気候戦略:
目標: 同社のScope 1+2目標(2030年34%減、2050年CN )を競合他社の目標と比較する。大手総合商社はSBTi認定を受けた目標(Scope 3を含む場合が多い)を設定していることが多い(例:三菱商事 Scope 1+2 2030年半減、2050年ネットゼロ )。
取り組み: 同社のバイオマス・リサイクル燃料取引や顧客向けソリューション提供 と、競合他社による大規模再エネ発電への直接投資 、水素・アンモニアプロジェクト 、CCUSへの取り組みなどを対比する。メタルワンやJFE商事は、親会社である大手鉄鋼メーカーの脱炭素戦略と連携した動きが想定される。MISIは伊藤忠・丸紅双方のアプローチを反映している可能性がある。
開示: TCFD報告の成熟度(定性的 vs 定量的財務影響評価)やScope 3報告の網羅性を比較する。
資源循環:
同社の強みである金属リサイクル の幅広さ(鉄、アルミ、銅、ニッケル、クロム、LIB、E-scrap)を競合と比較する。メタルワン、MISI、日鉄物産は鉄鋼・金属スクラップに強みを持つ。総合商社はプラスチック、化学品、食品廃棄物など、より多様な分野でリサイクル事業を展開している(例:三菱商事の広範なアプローチ )。入手可能であれば、リサイクル量やリサイクル率を比較する(同社は全体率の開示なし)。
生物多様性:
同社の認証ベースのアプローチ を競合と比較する。大手総合商社は、より明確なNDPE方針、TNFDへの対応 、あるいは大規模な保全プロジェクト(例:三井物産の森 )を実施している場合がある。取り組みの重点分野(同社:木材、水産物)を比較する。
同社は金属リサイクルやバイオマス・リサイクル燃料取引において強力なニッチを確立しているものの、大手鉄鋼メーカー系列の専門商社や、エネルギー転換・循環経済インフラに大規模な投資を行う総合商社との厳しい競争に直面している。ベンチマーキングからは、同社が広範なトレーディングセクターの最先端に追いつくためには、Scope 3管理、定量的開示、そして場合によってはトランジション資産への直接投資を強化する必要があることが示唆される。
評価機関別スコア
以下に、CDP、MSCI、Sustainalyticsによる同社及び主要競合他社の環境関連スコアを記述形式で比較する。
CDP:
阪和興業: 同社(証券コード8078)に関する明確なCDPスコアは、提供された情報からは確認できなかった。DitchCarbonは、Hanwha(おそらくコングロマリット全体)がCDPを通じて削減目標にコミットしていないと指摘している 。World Benchmarking Alliance (WBA) の社会性ベンチマークでは、同社に1点(非常に低い)が付与されている 。アスエネは、2024年のCDP質問書において、同社の支援先の9割がスコアを向上または維持したと報告しているが 、同社が含まれるか、またそのスコアは不明である。現時点では、同社のCDPスコアは未確認、あるいは相対的に低い水準にある可能性が高い。
競合他社:
三菱商事: 気候変動 A-, 水 B, 森林 B (2023年度)
三井物産: 気候変動 A, 水 A (2024年/2023年度)
伊藤忠商事: 気候変動 A-, 水 A-, SER A- (2024年3月期) 。過去には気候変動B (2023年3月期) 、気候変動A-, 森林B/B (2022年3月期) も記録。
住友商事: 気候変動 B (2023年)
丸紅: 水 A (2022年), 気候変動 A-, 森林 A- (2022年) 。CDP Aリスト選定歴あり 。
比較: 大手総合商社は、気候変動および水セキュリティ分野で「A」または「A-」評価を獲得する傾向があり、同社の推定されるスコアよりも著しく高い水準にある。
MSCI ESGレーティング:
阪和興業: 同社(証券コード8078)に特化したMSCI ESGレーティングは、提供情報からは確認できなかった。関連会社であるHanwha SystemsはA評価(2021-2023年)、Hanwha Corporation(コングロマリット)はAA評価(2024年、Aから格上げ) と報告されているが、これらが同社自身の評価を示すものではない。格付投資情報センター(R&I)は信用格付(A、安定的)を提供しているが、ESG評価ではない 。
競合他社:
三菱商事: AA 、MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数構成銘柄 。
三井物産: MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数構成銘柄 。具体的な格付けは不明だが、指数採用から高い評価が推察される。
伊藤忠商事: AAA(2020年12月以降維持)。
住友商事: AA(2024年6月時点)。
丸紅: AAA(2023年1月以降)。
比較: 同社のMSCI評価は不明だが、主要競合他社はAAまたはAAAという最高水準の評価を獲得しており、業界リーダーとしての地位を示している。
Sustainalytics ESGリスクレーティング:
阪和興業: ESGリスクレーティングは 24.8(中リスク)(2024年12月/2025年1月時点)。業種グループ(Traders & Distributors)内では186社中108位。リスクエクスポージャーは「低」、リスクマネジメントは「平均的」と評価されている 。
競合他社:
三菱商事: 26.3(中リスク)。
三井物産: 31.8(高リスク)。注: では三井住友トラスト・ホールディングスが20.7(中リスク)とされているが、別会社であるためを採用。
伊藤忠商事: 33.4(高リスク)。
住友商事: 23.0(中リスク)。
丸紅: 43.97(深刻リスク)。注: は37.8(高リスク)だが、より新しいの数値を採用。
比較: 同社のSustainalyticsスコア(24.8 中リスク)は、住友商事(23.0 中リスク)や三菱商事(26.3 中リスク)と同程度であり、三井物産(31.8 高リスク)、伊藤忠商事(33.4 高リスク)、丸紅(43.97 深刻リスク)といった一部の大手競合他社よりも良好な評価となっている。
これらのESG評価結果は、評価機関ごとに異なる側面を捉えていることを示唆している。同社は、CDPにおける開示やパフォーマンス、MSCI評価においては大手総合商社に後れを取っている可能性がある一方で、Sustainalyticsのリスク評価では、特定のリスクエクスポージャーが低いか、あるいはリスク管理体制がそのリスクレベルに対しては平均的と評価されているため、一部のより大規模な競合他社よりも良好なスコアとなっている可能性がある。これは、同社の事業構成や規模が総合商社とは異なること、また、Sustainalyticsがリスク管理体制を重視する評価手法であることなどが影響していると考えられる。しかし、CDPやMSCIで評価される積極的な取り組みや開示のレベルでは、改善の余地が大きいことを示唆している。
分析結果の要約
本レポートでは、阪和興業株式会社の環境への取り組みを、気候変動、資源循環、生物多様性の観点から分析した。同社は、TCFD提言への賛同(2022年)、国内Scope 1+2 GHG排出量削減目標(2030年34%減、2050年CN)の設定、及びサステナビリティ推進委員会の設置など、気候変動ガバナンスと戦略の基盤を近年強化している。具体的な取り組みとしては、長年の強みである金属リサイクル(特にアルミ)に加え、バイオマス・リサイクルエネルギー(PKS、RPF、廃タイヤ等)の取引拡大、顧客向け脱炭素化ソリューション(自家消費型太陽光、アスエネ連携)の提供などが挙げられる。資源循環は同社の中核戦略であり、LIBリサイクルや風力ブレードリサイクルといった新分野へも進出している。生物多様性に関しては、主に木材・水産物サプライチェーンにおける森林認証・水産認証(FSC, MSC, ASC等)の取得を通じてリスク管理を行っている。
全体評価
同社の環境パフォーマンスは、着実な進展を見せている側面と、さらなる強化が必要な側面が混在している。特に資源循環分野、とりわけ金属リサイクルにおける実績と戦略的重点化は明確な強みである。TCFDへの対応やGHG削減目標の設定も、近年の重要な前進と言える。
しかしながら、業界のベストプラクティスや大手総合商社の動向と比較した場合、いくつかのギャップが浮き彫りになる。第一に、Scope 3 GHG排出量の測定・目標設定・開示が不十分である点は、バリューチェーン全体での影響が大きい商社にとって喫緊の課題である。第二に、廃棄物、水、再エネ利用率に関する網羅的な定量データの開示が限定的であり、透明性の向上が求められる。第三に、生物多様性へのアプローチが現状では認証取得中心であり、TNFDのような新しい枠組みへの対応や、より積極的な保全戦略の策定が望まれる。第四に、CDPやMSCIといった主要なESG評価において、競合他社に後れを取っている可能性が高い。Sustainalyticsのリスク評価が相対的に良好である点は注目に値するが、これはリスク管理体制がある程度評価されている一方で、積極的な取り組みや開示レベルでは改善が必要であることを示唆している可能性がある。
総じて、同社はリサイクル事業という強力な環境関連事業基盤を持ちつつ、気候変動対応やデータ開示、生物多様性戦略において、ステークホルダーの期待の高まりや業界リーダーのレベルに追いつくための取り組みを加速させる必要がある段階にあると評価できる。
今後の展望
本レポートで提示された推奨事項、特にScope 3管理戦略の策定、データ透明性の向上、生物多様性アプローチの深化、そして具体的な削減活動の加速に取り組むことで、同社は環境パフォーマンスを大幅に向上させ、ESG評価を高めることが可能である。同社の持つリサイクル分野での知見や、アスエネとの協業のような新しい取り組みは、これらの課題解決に貢献する潜在力を持っている。持続可能性への継続的な注力は、リスク管理の強化だけでなく、新たな事業機会の創出にも繋がり、同社の中長期的な企業価値向上と競争力維持に不可欠となるであろう。