サステナビリティ情報開示
TCFD・IFRS S1・S2 開示への対応
国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)から公表されたIFRS S1・S2やTCFD提言に基づく気候変動に関する情報開示が世界標準となっています。 投資家・取引先からの評価向上につながる重要な取り組みです。
- ガバナンス体制の確立
- 戦略への影響評価
- リスク管理プロセス
- 指標と目標の設定
- シナリオ分析の実施
サステナビリティ情報開示の
国際スタンダード
世界的に進む気候変動対策の一環として、企業の情報開示の枠組みが整備されています。 TCFDとIFRS S1・S2は、投資家向けの開示基準として最も重要な位置づけとなっています。
TCFD提言に基づく情報開示はIFRS S2と高い整合性を持ち、 2022年4月からは東京証券取引所プライム市場上場企業に対して開示が実質義務化されています。
基準審議会
TCFD提言公表
IFRS S1・S2公表
TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)は、G20の要請を受け金融安定理事会が設立。企業の気候変動リスク・機会を評価・開示する国際的な枠組みを提供しています。
1ガバナンス
気候関連のリスクと機会に関する組織のガバナンス
2戦略
気候関連のリスクと機会が組織の事業、戦略、財務計画に及ぼす影響
3リスク管理
気候関連リスクの特定、評価、管理の方法
4指標と目標
気候関連のリスクと機会を評価・管理するための指標と目標
IFRS財団が設立した国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が2023年6月に公表した、サステナビリティ関連の情報開示に関する国際基準です。
IFRS S1:サステナビリティ関連財務情報の開示
- 全てのサステナビリティ関連のリスクと機会に関する包括的な情報開示を規定
- 企業価値に影響を与えるESG情報の開示に関する一般的要求事項を提供
- 開示の一貫性と比較可能性を確保するための基本フレームワーク
IFRS S2:気候関連開示
- TCFD提言に基づく開示内容を基礎として開発された気候特化の基準
- 物理的リスク・移行リスク・気候関連の機会に関する詳細情報の開示を要求
- 温室効果ガス排出量(Scope1,2,3)の開示など、より詳細な要件を規定
情報開示の重要性と動向
投資家からの要請
ESG投資の拡大により、気候関連情報の開示は投資判断における重要な評価基準になっています。
規制対応の必要性
世界各国で気候関連開示の義務化が進み、日本でもプライム市場上場企業に実質義務化されています。
企業価値の向上
適切な開示は企業のリスク管理能力を示し、長期的な企業価値の向上につながります。
2023年以降、IFRS S1・S2とTCFD提言に基づく開示が
グローバルスタンダードとして定着しつつあります
なぜ今、TCFD・IFRS S1・S2の
開示が重要なのか
気候変動がビジネスに与える影響は増大し、投資家・ステークホルダーは企業の気候変動リスクと機会に関する 透明性の高い情報開示を求めています。TCFD・IFRS S1・S2に基づく開示は、企業の持続可能性を示す重要指標です。
投資家からの評価向上
気候リスクへの対応は投資判断の重要基準。開示の質と透明性が高い企業は投資家からの信頼を獲得し、資金調達における優位性を確保できます。
規制対応と国際競争力
世界的に気候関連開示の義務化が進む中、先進的な開示は規制対応だけでなく、国際競争力の維持・向上につながります。
リスク管理と経営戦略の強化
気候変動リスクの特定と評価は、企業の強靭性を高め、持続可能なビジネスモデルへの転換を促進します。
現状把握と開示準備
気候関連リスクの初期評価とギャップ分析を行い、開示フレームワークを選定
リスク・機会の評価
シナリオ分析を通じて気候リスクと機会を特定し、財務影響を定量評価
戦略と目標の設定
評価結果に基づく気候戦略策定と、科学的根拠に基づく目標の設定
開示と継続的改善
情報開示実施とフィードバックに基づく継続的な開示内容の改善
開示対応における重要ポイント
経営層の積極的な関与と気候変動への姿勢明示
各種シナリオ分析による中長期的影響評価
全社横断的な推進体制の構築
データ収集・管理体制の確立と継続的改善
TCFD・IFRS S1・S2フレームワークの概要
TCFDとIFRS S1・S2は、気候関連情報を含むサステナビリティ情報の開示フレームワークとして国際的に認知されています。 これらのフレームワークは相互に連携し、企業の気候変動リスクと機会の評価・管理・開示のための包括的な指針を提供します。
TCFDフレームワーク
気候関連財務情報開示タスクフォースによる提言。気候変動リスクと機会の財務的影響に焦点を当てた開示フレームワーク。
特徴:短期・中期・長期の時間軸での分析と、2℃以下シナリオ分析を含む複数シナリオでの評価を推奨
IFRS S1・S2基準
国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)による国際基準。S1は一般的なサステナビリティ開示、S2は気候関連開示に特化。
IFRS S1: 一般要求事項
サステナビリティ関連のリスクと機会に関する全般的な開示基準
IFRS S2: 気候関連開示
気候関連リスクと機会に特化した開示基準(TCFDと整合)
特徴:投資家ニーズに基づく開示要求と、財務報告との一体性を重視
TCFD・IFRS間の関係性
- IFRS S2はTCFDに基づいている: IFRS S2はTCFDの提言を基盤としており、ガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標の4つの柱を踏襲
- より詳細な要求事項: IFRS S2はTCFDを基にしながらも、より詳細な開示要求と具体的なガイダンスを提供
- 会計基準との一貫性: IFRSサステナビリティ基準は、財務報告との接続性と一貫性を確保する設計
ガバナンス
- 取締役会による気候関連問題の監督体制
- 経営陣の役割と責任の明確化
- 気候関連情報の報告体制と頻度
- 気候関連目標の達成と監視に関する仕組み
戦略
- 短期・中期・長期の気候関連リスクと機会の特定
- 事業・戦略・財務計画への影響評価
- 異なる気候シナリオ(1.5℃・2℃・4℃等)に基づく分析
- 気候変動への戦略的レジリエンス(強靭性)の評価
リスク管理
- 気候関連リスク(物理的・移行)の特定プロセス
- リスクの重要性評価方法と優先順位付け
- リスク軽減・適応・移転の対応策
- 全社的リスク管理への統合方法
指標と目標
- 気候関連リスクと機会の評価に用いる主要指標
- 温室効果ガス排出量(Scope 1,2,3)の測定と開示
- 気候関連目標設定と進捗状況のモニタリング
- 目標に向けた実績評価と対策
各開示要素は相互に関連し、企業の気候変動対応を包括的に評価できるフレームワークを構成しています
TCFD・IFRS S1・S2の開示項目と優良事例
TCFD・IFRS S1・S2に基づく開示では、ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標について、具体的かつ透明性の高い情報提供が求められます。 ここでは、各フレームワークの主要な開示項目と先進企業の開示事例を紹介します。
カテゴリー | 開示項目 |
---|---|
ガバナンス | a) 気候関連のリスクと機会に関する取締役会の監督体制を記述する |
b) 気候関連のリスクと機会の評価と管理における経営陣の役割を記述する | |
戦略 | a) 組織が特定した短期・中期・長期の気候関連リスクと機会を記述する |
b) 気候関連のリスクと機会が組織の事業、戦略、財務計画に及ぼす影響を記述する | |
c) 2℃以下シナリオを含む異なる気候シナリオを考慮した、組織戦略のレジリエンスを記述する | |
リスク管理 | a) 気候関連リスクを特定・評価するプロセスを記述する |
b) 気候関連リスクを管理するプロセスを記述する | |
c) 気候関連リスクの特定・評価・管理プロセスが、組織の全体的リスク管理にどのように統合されているかを記述する | |
指標と目標 | a) 戦略とリスク管理プロセスに沿って、気候関連のリスクと機会の評価に使用する指標を開示する |
b) Scope 1、Scope 2、および当てはまる場合はScope 3のGHG排出量と関連リスクを開示する | |
c) 気候関連リスクと機会の管理に用いる目標、および目標に対するパフォーマンスを開示する |
基準 | 主要開示項目 |
---|---|
IFRS S1 (一般要求事項) | サステナビリティ関連のリスクと機会の識別プロセス |
重要性(マテリアリティ)の判断基準と評価方法 | |
サステナビリティ関連リスクと機会のガバナンス体制 | |
事業モデルと戦略へのサステナビリティ課題の統合状況 | |
目標設定と進捗状況のモニタリング手法 | |
IFRS S2 (気候関連開示) | 気候変動が企業価値に与える財務的影響の分析 |
物理的リスク・移行リスク・機会の詳細評価 | |
炭素排出量(Scope 1,2,3)と測定方法 | |
気候シナリオ分析と財務影響の定量化 | |
移行計画と排出削減目標の策定状況 | |
気候目標と資本配分・事業計画との整合性 |
優良開示事例のポイント
- 取締役会の具体的な監督活動(年間の気候関連議題数、取締役会での検討内容)
- 気候変動担当役員の設置と責任範囲・権限の明確化
- 気候関連の意思決定プロセスを示す組織図とフロー
- 役員報酬と気候関連目標達成度の連動制度
- 1.5℃・2℃・4℃など複数シナリオ分析の詳細結果
- 気候変動リスク・機会の財務インパクト定量化(収益・コスト・資産評価への影響額)
- 低炭素製品・サービスの開発と収益貢献の将来予測
- 各事業セグメント別の気候戦略と資源配分計画
- 物理的リスクの詳細評価(拠点別・サプライチェーン別の脆弱性評価)
- 移行リスク評価の精緻化(カーボンプライシングによるコスト増加試算など)
- リスク管理プロセスの可視化(特定→評価→対応→モニタリングの各ステップの説明)
- サプライヤー評価への気候リスク統合と協働取組
- Scope 1,2,3排出量の第三者保証と過去5年間の推移
- 科学的根拠に基づく目標(SBT)の設定と認証取得
- 気候関連資本支出の明示と低炭素投資比率
- 内部カーボンプライシング制度の運用と投資判断基準
情報開示の段階的アプローチ
初期段階
基本的な情報開示
- 気候変動リスクの基本認識
- 温室効果ガス排出量(Scope 1,2)の測定
- 気候ガバナンスの基本構造
発展段階
開示の拡充と体系化
- シナリオ分析の導入
- Scope 3排出量の把握
- 定性的な財務影響の評価
成熟段階
開示の高度化
- 複数シナリオでの詳細分析
- リスク・機会の財務影響の定量化
- 科学的根拠に基づく目標設定
先進段階
統合的・戦略的開示
- 気候戦略と経営戦略の一体化
- 詳細な移行計画の策定と開示
- 気候関連財務情報の第三者保証
重要ポイント:どの段階から始めるにしても、継続的な開示の改善プロセスが重要です。 自社の現状を把握し、段階的にTCFD・IFRS S1・S2に準拠した開示内容の充実を図ることで、 投資家・ステークホルダーからの信頼獲得と企業価値向上につながります。
自社の開示状況診断と対応戦略の策定をサポートします
TCFD・IFRS開示の要件は複雑で、業種によって重要なポイントも異なります。 専門コンサルタントが御社の状況に合わせた最適な開示戦略をご提案します。
TCFD・IFRS S1・S2開示のメリット
TCFD・IFRS S1・S2に基づく情報開示は単なるコンプライアンス対応ではなく、企業価値向上につながる戦略的取り組みです。 気候変動リスクと機会を適切に分析・開示することで、企業は多くのメリットを享受できます。
投資家からの評価向上
ESG投資が拡大する中、気候変動への対応力を示す開示は重要な投資判断材料となり、資金調達の円滑化につながります。
規制対応と将来への備え
グローバル規制への先行対応が可能になり、将来的な開示義務化への円滑な移行と国際競争力の維持につながります。
新たな事業機会の発見
気候変動対応は単なるリスク対策ではなく、低炭素製品・サービスの開発など新たな事業機会の源泉となります。
ステークホルダーとの信頼構築
透明性の高い情報開示は、顧客・取引先・地域社会など幅広いステークホルダーからの信頼獲得につながります。
TCFD・IFRS S1・S2に基づく開示は、以下のプロセスを通じて企業価値の向上につながります
リスク・機会の分析
気候変動がもたらすリスクと機会を体系的に分析
戦略・目標の構築
分析結果に基づく気候戦略と具体的な目標設定
対応策の実行
設定した目標の達成に向けた具体的施策の実施
情報開示の実施
透明性の高い情報開示とステークホルダーとの対話
継続的な改善
フィードバックをもとにした継続的な開示の質向上
財務面での価値向上
- ESG投資資金の獲得機会拡大
- サステナビリティ・リンク・ボンド/ローンによる有利な資金調達
- 政府補助金・税制優遇措置の活用
- 気候関連リスク対応による将来的なコスト回避
事業面での価値向上
- 低炭素製品・サービス市場での競争優位性獲得
- エネルギーコスト削減によるコスト競争力向上
- サプライチェーン強靭化による事業リスク低減
- 顧客・取引先からの選好獲得による売上拡大
組織面での価値向上
- 人材獲得競争での優位性確保
- 従業員エンゲージメントの向上
- イノベーション創出文化の醸成
- 経営リスク管理体制の強化
ポイント:開示は「コスト」ではなく「投資」として捉えることが重要です。短期的な負担が生じても、中長期的には企業価値向上につながります。 特に、早期に取り組むことで、競争優位性の構築や先行者利益の獲得が期待できます。
自社の開示状況の確認や、対応方法についてのご相談はお気軽にどうぞ
開示支援サービスを相談するTCFD・IFRS S1・S2開示の先進事例
TCFD・IFRS S1・S2に基づく情報開示は年々充実しており、多くの先進的な企業が模範的な事例を示しています。 業種や規模を問わず、各社が工夫を凝らした開示を行っています。ここでは、参考となる優良事例をご紹介します。
製造業:東芝
製造業主な特徴
- シナリオ分析の詳細な開示と事業への影響評価
- Scope 1,2,3排出量の経年推移と削減目標の明示
- 気候関連リスク・機会に関連する研究開発投資額の開示
特に優れている点
物理的リスクの評価において、自社工場だけでなく主要サプライヤーのリスク評価まで実施し、サプライチェーン全体のレジリエンス強化に活用
金融業:三菱UFJフィナンシャル・グループ
金融業主な特徴
- セクター別カーボンバジェットに基づく投融資ポートフォリオの分析
- 高排出セクターに対する詳細な移行リスク評価
- 石炭火力発電への投融資方針の明確化
特に優れている点
各セクターの脱炭素化に向けたエンゲージメント方針と実績を詳細に開示し、「責任ある移行」への貢献を強調
小売業:イオン
店舗の省エネルギー化、再エネ導入、フロン排出削減等の取組みを包括的に開示。特に気候変動対応と事業戦略の統合度が高い。
エネルギー:ENEOSホールディングス
1.5℃・4℃シナリオに基づく詳細な財務影響分析と低炭素事業ポートフォリオへの移行計画が秀逸。具体的な投資計画も明示。
建設業:大林組
建設現場のScope 1,2排出量だけでなく、建築物のライフサイクル全体のScope 3排出量削減に向けた取組みを詳細に開示。
Unilever(欧州・消費財)
全商品のカーボンフットプリント算定と削減ロードマップの策定。製品パッケージへの環境情報表示も先進的。
Microsoft(米国・IT)
2030年カーボンネガティブ目標、2050年までの累積排出量解消。内部炭素価格を設定し、社内投資の意思決定に反映。
BHP(豪州・鉱業)
複数の気候シナリオに基づく詳細な財務影響分析。採掘事業ごとの移行リスク評価と事業ポートフォリオ戦略の開示。
優れた開示の共通点
トップのコミットメント
CEOや取締役会の明確なメッセージとコミットメントが示されている
詳細なシナリオ分析
複数の気候シナリオに基づく分析と財務影響の定量化
ガバナンス体制の詳細化
気候関連事項を扱う委員会構造や経営陣の責任範囲を明確に示す
経営戦略との統合
気候変動対応が付随的活動ではなく中核的な経営戦略に組み込まれている
よくある質問
TCFD・IFRS S1・S2に基づく開示に関して、企業の皆様からよくいただく質問にお答えします。 実務上の疑問点や開示の進め方など、実践的な内容を中心にまとめています。
TCFD・IFRS S1・S2に基づく情報開示は法的に義務付けられていますか?
現在の日本では、上場企業に対して東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コードにおいて、プライム市場上場企業はTCFD提言またはそれと同等の国際的枠組みに基づく気候変動情報開示を実質的に義務付けられています。IFRS S1・S2については国際的な基準として公表されましたが、現時点では各国の採用状況により適用の範囲が異なります。ただし、グローバルな投資家からの期待が高まっており、実質的な開示圧力は増しています。
TCFD開示とIFRS S1・S2開示の主な違いは何ですか?
TCFD・IFRS S1・S2に基づく開示はどの部署が担当すべきですか?
シナリオ分析はなぜ重要で、どのように実施すべきですか?
IFRS S1・S2はTCFDと比べて何が追加されたのですか?
開示を始めるにあたって、最初に取り組むべきことは何ですか?
中小企業にとってTCFD・IFRS S1・S2開示の意義はありますか?
開示の質を高めるためのポイントは何ですか?
お問い合わせ
TCFD・IFRS S1・S2開示に関するサポートについてのご質問や、ご相談など、お気軽にお問い合わせください。 専門のコンサルタントが丁寧にご対応いたします。
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社内研修プログラム
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