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環境アナリストレポート(2025年4月)

更新日:2025年4月20日
業種:製造業(3333)

3分野を中心に分析した。同社は「2050年環境ビジョン」および「2025年環境行動計画」に基づき、体系的な環境経営を推進している。

気候変動分野では、Scope 1およびScope 2排出量の削減で着実な成果を上げており、特に再生可能エネルギー導入率は2025年目標を大幅に前倒しで達成している。しかし、報告されているScope 3排出量は極めて大きく、バリューチェーン全体での排出量削減が最大の課題である。資源循環分野では、廃棄物と水使用量の原単位削減目標を設定し、ケナフなどの植物由来材料やリサイクル材の活用、アップサイクル、水リサイクルなどの取り組みを進めているが、廃棄物の絶対量は増加傾向にある。生物多様性分野では、国内外で多数の保全プロジェクトを実施し、地域社会との連携を深めているが、事業戦略への統合度合いは気候変動分野に比べて発展途上である可能性がある。環境関連のリスクと機会については、TCFD提言に沿った分析が進んでおり、特に製品イノベーションを通じた機会創出に注力している。

総合評価

トヨタ紡織の環境パフォーマンスは、全体として業界内で良好な水準にあると評価できる。特に水セキュリティに関するCDPでの継続的な高評価は、同社の水管理体制の強固さを示している。Scope 1およびScope 2排出量削減や再生可能エネルギー導入も着実に進展している。また、現場レベルでの多様な生物多様性保全活動や、DBJ環境格付での最高評価も特筆すべき点である。

一方で、いくつかの課題も存在する。第一に、Scope 3排出量の大きさであり、サプライチェーン上流(材料調達)と下流(製品廃棄)における排出量削減に向けた、より踏み込んだ戦略と実行が求められる。第二に、資源循環における絶対量削減の課題であり、サーキュラーエコノミーへの移行をさらに加速させる必要がある。第三に、生物多様性保全を、プロジェクトベースの活動から、TNFDが示すような事業リスク・機会評価と戦略的意思決定に統合していく必要性である。

競合他社比較では、トヨタ紡織は多くの指標で健闘しているものの、フォルシア、アディエント、マーレ、デンソー、ボッシュといった企業は、特定の目標の野心度、Scope 3削減への取り組み、サステナブル素材技術、廃棄物管理、ESG評価スコアなどで、より先進的な側面も見られる。

将来展望と推奨事項

自動車部品業界における環境サステナビリティの重要性は今後ますます高まることが予想される。トヨタ紡織が競争力を維持し、持続可能な社会への貢献を続けるためには、継続的な改善、イノベーション(特に材料技術とサーキュラーエコノミー)、そしてバリューチェーン全体での強固な連携が不可欠である。

本報告書で提示した推奨事項、すなわち、Scope 3削減戦略の強化と透明化、サーキュラーエコノミーの推進加速、生物多様性戦略の深化(TNFD整合性向上)、報告の質向上、そして目標設定の野心度向上に取り組むことが、同社のさらなる成長と企業価値向上につながると考えられる。特に、Scope 3排出量という最大の課題に対処するためには、サプライヤーとの協働を深化させ、製品のライフサイクル全体を見据えた設計・開発思想を徹底することが極めて重要となるであろう。