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株式会社三越伊勢丹ホールディングス:環境パフォーマンスに関する包括的分析レポート

更新日:2025年4月20日

序論

株式会社三越伊勢丹ホールディングス(以下、IMHDS)は、三越、伊勢丹などの百貨店を核に、クレジット・金融・友の会事業、不動産業、その他関連事業を展開する日本有数の大手小売企業グループである。 近年、小売業界においても、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)のESG要素に対する関心と要求が急速に高まっている。これは、顧客、投資家、従業員、地域社会といったステークホルダーからの期待の高まり、環境規制の強化、そして気候変動や資源枯渇、生物多様性の損失に伴う事業リスクと機会の認識向上 によるものである。

本レポートは、IMHDSの環境分野における取り組みとパフォーマンスについて、特に「気候変動への対応」「資源循環の推進」「生物多様性の保全」の3つの重点領域に焦点を当て、包括的かつ学術的な水準での分析を行うことを目的とする。分析にあたっては、同社が発行するサステナビリティレポート、ESGデータブック、統合報告書などの公式情報 を基盤としつつ、競合他社(株式会社高島屋、J.フロント リテイリング株式会社、エイチ・ツー・オー リテイリング株式会社など)の動向、国内外の小売・百貨店業界における先進事例、CDPやSustainalyticsなどの外部評価機関による評価 を参照する。これにより、IMHDSの環境スコアリングに必要な詳細情報を提供し、同社が直面する課題を特定するとともに、今後の戦略的方向性に関する提言を行う。

本レポートは、まずIMHDSの各重点領域における具体的な取り組み、目標、実績データを詳述する。次に、環境要因に関連する潜在的なリスクと事業機会を分析し、競合他社との比較評価を通じてIMHDSのポジションを明らかにする。さらに、業界の先進事例を紹介し、現状の課題評価に基づいた具体的な提言を提示する構成となっている。

三越伊勢丹ホールディングス:環境への取り組みと実績

IMHDSグループは、持続可能な社会の実現に向けた環境保全活動を企業の社会的責任と捉え、グループ環境方針を定めている。これらの環境への取り組みは、マテリアリティ(重要課題)特定プロセスを経て、グループ全体のサステナビリティ戦略に組み込まれており、統合報告書やサステナビリティレポートを通じてステークホルダーに開示されている。

気候変動への対応

気候変動対応は、IMHDSが企業活動を営む上での最重要課題の一つとして位置づけられている。

具体的な取り組み

  • エネルギー効率の向上: IMHDSは、店舗運営におけるエネルギー消費を削減するため、多岐にわたる施策を推進している。具体的には、館内照明のLED化、高効率な空調設備や冷凍冷蔵設備への更新、エネルギー管理システムの活用による運用改善(適切な温度設定、バックヤードでの消灯・間引き点灯など)、社用車におけるエコドライブの実践などが挙げられる。これらの取り組みは、継続的な設備投資計画と日々の運用改善の両面から進められている。

  • 再生可能エネルギーの利用: 同社は再生可能エネルギーの利用拡大にも積極的に取り組んでいる。これには、太陽光発電などの自家発電設備の設置可能性の検討に加え、再生可能エネルギー由来電力の購入が含まれる。特に2023年度および2024年度においては、再生可能エネルギーの利用量が大幅に増加しており、エネルギー戦略における具体的なシフトが見て取れる。この進展は、設定された目標達成に向けた具体的な行動を示すものである。

  • TCFD提言への対応: 2021年に気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言への賛同を表明し、以降、ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標という4つの開示推奨項目に沿った情報開示を行っている。TCFD提言に基づくリスク分析も実施し、戦略策定に活用している。

  • 技術導入とベストプラクティス共有: 温室効果ガス(GHG)排出削減をさらに推進するため、新しい省エネ技術の導入を積極的に進めている。また、グループ各社間で成功事例やノウハウを共有し、グループ全体での取り組み効果の最大化を図っている。

  • ステークホルダーエンゲージメント: 従業員に対しては、職場での省エネ行動や3R(リデュース、リユース、リサイクル)の徹底、クールビズ・ウォームビズの実施などを呼びかけている。顧客に対しても、ライフスタイルの転換を促すような提案を通じて、省エネルギーへの協力を呼びかける活動が見られる。

目標設定

IMHDSは、気候変動対応に関して、野心的かつ具体的な目標を設定している。

  • 2030年目標: 2013年度比でScope1およびScope2のGHG排出量を50%削減する。

  • 2050年目標: Scope1およびScope2のGHG排出量を実質ゼロにする。

  • ロードマップ: これらの目標達成に向けた削減努力の道筋を示すロードマップを策定し、開示している。

実績データ(記述的表示)

IMHDSの気候変動関連のパフォーマンスデータは以下の通りである。

  • GHG排出量 (Scope 1 & 2): Scope1とScope2(マーケット基準)を合わせたGHG排出量は、2021年度に140,267 t-CO2e、2022年度に143,245 t-CO2e、2023年度に131,445 t-CO2eと推移した後、2024年度には170,758 t-CO2eへと増加した。

  • GHG排出量 (Scope 3): Scope3排出量は、サプライチェーン全体での排出量を示し、2021年度の2,703,028 t-CO2eから、2022年度2,931,944 t-CO2e、2023年度3,457,447 t-CO2e、そして2024年度には4,229,121 t-CO2eへと大幅に増加している。Scope3排出量の算定方法は2024年度に見直されており、この増加には算定精度の向上も影響している可能性がある。

  • GHG排出原単位 (Scope 1 & 2): 売上高当たりのScope1およびScope2排出量で示される原単位は、2022年度の0.188から2023年度には0.168、2024年度には0.139へと着実に減少しており、事業活動の効率化が進んでいることを示唆している。

  • 総エネルギー消費量: グループ全体の総エネルギー消費量は、2021年度の2,950,133 GJから2024年度の3,111,118 GJまで、年度によって変動はあるものの、概ね横ばいから微増傾向にある。

  • 再生可能エネルギー利用量: 購入または自家発電による再生可能エネルギー利用量は、2022年度の638 GJから、2023年度には96,205 GJ、2024年度には90,873 GJへと飛躍的に増加した。

  • エネルギー消費原単位: 売上高当たりのエネルギー消費原単位は、2021年度の3.96から2024年度の2.54へと継続的に改善している。

  • CDP評価: 国際的な環境非営利団体CDPによる気候変動に関する調査において、2022年、2023年と2年連続で最高評価である「Aリスト」企業に選定された。これは、情報開示の包括性、環境リスクへの認識と管理、野心的で有意義な目標設定といった環境リーダーシップが国際的に高く評価されたことを意味する。

これらのデータからは、IMHDSがエネルギー効率改善と再生可能エネルギー導入を着実に進めている一方で、事業規模の拡大(特にコロナ禍からの回復局面)に伴う絶対排出量の増加、とりわけScope 3排出量の管理が大きな課題であることがわかる。売上高当たりの原単位は改善しているものの、事業成長と環境負荷のデカップリング(分離)を達成するには、バリューチェーン全体での排出削減、すなわちScope 3への取り組み強化が不可欠である。2024年度のScope 3排出量の大幅な増加は、算定方法の見直しによる影響も考えられるが、購入する商品・サービスや輸送など、小売業のサプライチェーンにおける排出削減の難しさを浮き彫りにしている。

また、CDPにおける「Aリスト」選定 は、同社の気候変動に関する情報開示の透明性や目標設定が高く評価されていることを示している。しかしながら、後述するSustainalyticsのESGリスク評価では「Average(平均的)」なマネジメントと評価されており、評価機関によって視点が異なることが窺える。CDPが気候変動に特化しているのに対し、Sustainalyticsはより広範なESGリスク管理体制や具体的な課題対応(Controversy)を評価するため、気候変動分野でのリーダーシップが必ずしもESG全体の高評価に直結しない可能性を示唆している。

資源循環の推進

IMHDSは、循環型社会の構築に向けた取り組みを通じて、環境負荷の低減を図るとともに、新たなサービス機会の創出やコスト削減を目指している。

具体的な取り組み

  • 廃棄物削減・管理: 各店舗において、地域の条例を遵守しながら廃棄物の適正管理と削減活動を推進している。特に、店舗従業員の大部分を占める取引先従業員を含めた全員が正しい分別を行えるよう、店舗ごとに分別マニュアルの作成や周知徹底を図っている(例:伊勢丹新宿店)。仙台三越では、仙台市の「定禅寺食品リサイクル事業」に参画し、生ごみのリサイクル率向上に貢献している。

  • リサイクルプログラム: 衣料品回収リサイクルへの関心は高く、具体的なプログラムとして顧客からの買い取りサービス「i'm green」などが挙げられ、顧客からの想定以上の反応を得ている。これは、信頼できる企業にリサイクルを託したいという顧客ニーズの表れと考えられる。また、銀座三越では、レストランや食品フロアから排出される廃食油をSAF(持続可能な航空燃料)に再利用する「Fry to Fly Project」に参画し、年間約16トンの廃油リサイクルを見込んでいる。この取り組みは今後、効果検証を経て他店舗への拡大も目指している。

  • サーキュラーエコノミーモデル: 顧客が愛着のある品物を長く使い続けられるよう、修理・メンテナンスサービス「三越のおなおし」を日本橋三越本店で展開している。全館に点在する修理・メンテナンスメニューを集約し、リーフレット作成や店頭での情報発信を行った結果、多くの注文や問い合わせがあり、顧客の関心の高さが示された。この取り組みは、部門を超えたサービス連携にも繋がっている。買い取りサービス「i'm green」 もサーキュラーモデルへの移行を示唆する動きである。

  • 包装材: 容器包装リサイクル法関連省令改正に伴い、2020年7月からプラスチック製買物袋を順次廃止し、マイバッグの利用を推奨している。ペットボトル再生繊維を使用したオリジナルエコバッグの販売も行っている。さらに、紙製買物袋も含めた使用量削減のため、声かけを強化している。梱包においては、商品特性に応じた適切な梱包方法を定めたマニュアルを整備し、過剰包装を防ぎ、資材使用量の抑制に努めている。包装材には、(一社)日本有機資源協会(JORA)認定のバイオマスマークを取得した素材も使用している。

  • 水資源管理: 水道水、井戸水、再生水を含む水資源の使用量を把握し、管理を行っている。

目標設定

グループ全体としての廃棄物削減率やリサイクル率に関する具体的な数値目標は、食品リサイクル率を除き、提供された情報からは明確ではない。ただし、食品リサイクル率については実績値が開示されている。業界団体である日本百貨店協会の目標(例:最終処分量の削減目標)には準拠しているものと考えられる。

実績データ(記述的表示)

IMHDSの資源循環関連のパフォーマンスデータは以下の通りである(主に国内百貨店事業および一部グループ会社が対象)。

  • 廃棄物排出量・リサイクル: 総排出量は年度により変動があるものの、2024年度は16,319トンと、2020年度の24,680トンからは減少傾向にある。リサイクル量は2024年度で11,585トンであった。

  • リサイクル率: 全体のリサイクル率は、2020年度の72.9%から、2021年度71.3%、2022年度71.0%、2023年度70.7%、2024年度71.0%と、概ね71%前後で推移しており、近年は横ばい傾向にある。

  • 最終処分量: 最終処分量は、2024年度に4,734トンとなり、2020年度の6,686トンから減少している。売上高当たりの最終処分量原単位も、2021年度の6.5トンから2024年度の4.4トンへと着実に減少している。

  • 食品リサイクル率: 食品リサイクル率は、2020年度の75.8%から2024年度の74.8%まで、75%前後で安定して推移している。

  • 水資源使用量: 水道水、井戸水、再生水を合わせた水資源使用量は、2023年度の1,923千立方メートルから2024年度には1,710千立方メートルへと減少した。排水量も同様に減少している。

これらのデータから、最終処分量の削減や原単位改善には進展が見られるものの、全体のリサイクル率が71%前後で停滞している点は課題と言える。百貨店特有の多様な廃棄物(混合素材、食品、包装材など)の処理の複雑さ、外部リサイクルインフラへの依存、テナントや取引先との連携の難しさなどが背景にある可能性がある。競合の高島屋が廃棄プラスチックのリサイクル率99%(2025年度目標)を掲げていること を考慮すると、より野心的な目標設定と、それを達成するための新たな戦略(例:素材代替、高度な分別技術導入、サプライヤー連携強化)が必要となるかもしれない。

一方で、「i'm green」 や「三越のおなおし」 といったサーキュラー関連サービスに対する顧客の高い関心は、今後の事業機会を示唆している。特に、修理サービスにおける成功は、IMHDSブランドへの信頼が、リセールやリファービッシュといった他のサーキュラーサービスへの展開においても強みとなり得ることを示している。これは、サステナブル消費への関心が高まる市場トレンドとも合致する。また、「Fry to Fly」プロジェクト は、廃棄物から新たな価値を生み出す革新的な取り組みであり、現在は限定的ながらも、今後の展開次第ではリーダーシップを発揮できる可能性を秘めている。

生物多様性の保全

IMHDSは、生物多様性の保全や自然環境の保護に配慮した企業活動や社会貢献活動を推進している。

具体的な取り組み

  • 都市緑化と生息地創出: 主要店舗(伊勢丹新宿本店、三越日本橋本店、三越銀座店)の屋上緑化を推進している。これは、省エネ効果(空調負荷低減)や空気清浄効果に加え、都市部における緑地のネットワーク化(エコロジカルコリドー)を通じて、生物多様性の保全に貢献することを意図している。これらの屋上庭園は、顧客に憩いの場を提供するとともに、(公財)都市緑化機構のSEGES(社会・環境貢献緑地評価システム)「都市のオアシス」認証を取得している。

  • 都市農業と養蜂: 三越銀座店屋上の「テラスファーム」では、地域の子供たちを対象とした農業体験プログラムを実施し、食育や自然との共生への理解を深める活動を行っている。また、複数の店舗やグループオフィスビル屋上では養蜂プロジェクトが実施されており、採れた蜂蜜の商品化・販売も行われている。特に伊勢丹新宿本店が参画する「しんじゅQualityみつばちプロジェクト©」は、障がい者の就労機会創出と地域交流を目的としており、社会的な側面も併せ持つ。養蜂と連携し、緑のカーテンとしてサツマイモを栽培し、空調エネルギー削減を目指すとともに、収穫物を商品化する取り組みも行われている。

  • 持続可能な調達: 環境方針の一環として、環境に配慮した商品・サービスの提供に努めている。ただし、原材料(木材、紙、食品、繊維など)の調達における生物多様性への配慮に関する具体的な方針、認証制度(例:FSC認証)の利用状況、目標などは、提供された情報からは詳細不明である。サプライチェーン全体でのリスク認識は示されている。

  • 保全活動への支援: 取引先である家具ブランド<ニカリ>のポップアップショップにおいて、売上の一部が生物多様性保全のために寄付される取り組みが紹介されている。

目標・コミットメント

生物多様性に関する具体的な数値目標(例:認証済み原材料の使用率、生息地回復への貢献度など)は、提供された情報からは確認できない。取り組みは、定性的な活動や拠点ごとの活動が中心となっているように見受けられる。自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)のような新しいフレームワークへの整合性に関する情報開示も、競合のJ.フロント リテイリング(TNFDレポート発行)と比較すると見られない。

実績評価(記述的表示)

屋上緑化や養蜂プロジェクトは、SEGES認証や地域社会との連携実績 から、地域レベルでの貢献とブランドイメージ向上に寄与していると評価できる。これらの活動は顧客へのアピールにも繋がりやすい。

しかし、小売業における生物多様性への影響は、店舗運営そのものよりも、むしろサプライチェーン(原材料調達)に大きく依存する。現状のIMHDSの開示情報からは、サプライチェーン全体を対象とした体系的な生物多様性リスク評価や、それに基づく具体的な調達方針、目標設定が行われているかは不明である。都市部での緑化活動は価値があるものの、原材料生産地における森林破壊、水質汚染、土壌劣化といった、より根本的な生物多様性への影響に対処する戦略が、今後の重要な課題となる可能性がある。TNFDのようなフレームワークへの対応の遅れは、将来的なリスク認識や機会創出において、競合他社に対する潜在的なギャップとなり得る。

三越伊勢丹ホールディングスにおける環境リスクと事業機会

IMHDSの事業活動は、気候変動、資源制約、生物多様性の損失といった環境要因から、様々なリスクと機会に晒されている。

潜在的リスク分析

  • 物理的リスク: 気候変動に伴う異常気象(大型台風、集中豪雨、猛暑など)の頻発化・激甚化は、店舗の浸水被害や営業停止による売上減少、サプライチェーンの寸断による商品調達難といった直接的な脅威となる。また、気温上昇は冷暖房需要を変化させ、特定の季節商品(例:防寒衣料)の売上に影響を与える可能性もある。

  • 移行リスク: 低炭素社会への移行に伴うリスクも多岐にわたる。

    • 政策・法規制リスク: 炭素税や排出量取引制度の導入・強化、省エネルギー基準の厳格化、プラスチック使用規制(レジ袋有料化、使い捨てプラ削減義務など)、将来的には生物多様性保全やサプライチェーンにおける人権・環境デューデリジェンス義務化 などが、事業コストの増加や事業活動の制約につながる可能性がある。

    • 市場リスク: 環境意識の高い消費者の増加による、サステナブルな商品やブランドへの需要シフト は、対応が遅れれば市場シェアの喪失につながる。逆に、環境負荷の高い商品への需要が減少するリスクもある。競合他社がより先進的な環境対応を進めた場合、相対的な競争力が低下する。

    • 技術リスク: 再生可能エネルギー導入、省エネ設備更新、EV(電気自動車)化など、低炭素技術への投資コストが発生する。また、導入した技術が陳腐化するリスクも存在する。

    • 評判リスク: 環境問題への取り組みが不十分とみなされた場合、ブランドイメージが毀損し、顧客離れや投資家からの評価低下を招く可能性がある。サプライチェーンにおける環境破壊や人権侵害が発覚した場合も、深刻なレピュテーショナルダメージを受けるリスクがある。

  • 資源枯渇リスク: 気候変動や水ストレス、生物多様性の損失は、衣料品に使われる綿花、家具や紙製品に使われる木材、食品原材料などの安定供給を脅かし、価格高騰や調達困難を引き起こす可能性がある。これは製品の提供能力や価格設定に直接影響する。

  • 生物多様性リスク: 生態系の劣化は、原材料供給の不安定化(例:食料生産における花粉媒介者の減少)や、森林破壊・違法伐採などに関わる調達による評判リスクをもたらす。自然資本への依存度が高い事業(食品、アパレル、家具など)ほど、リスクは大きい。

事業機会の特定

一方で、環境課題への積極的な取り組みは、新たな事業機会を創出する可能性を秘めている。

  • サステナブル商品・サービス: 環境配慮型素材の使用、フェアトレード認証、オーガニック認証などを取得した商品の品揃え拡充は、環境意識の高い顧客層の獲得につながる。高品質・高付加価値を求める百貨店顧客層に対しては、サステナビリティを訴求軸としたプレミアム商品の開発・販売も可能である。

  • サーキュラーエコノミーモデル: 修理(リペア)、レンタル、再販(リセール)、再生(リサイクル・アップサイクル)といった循環型ビジネスモデルの構築・拡大は、新たな収益源となり得る。特に、IMHDSのような信頼性の高いブランドは、顧客が安心してこれらのサービスを利用できるという強みを持つ。これらのサービスは顧客との長期的な関係構築にも寄与する。

  • オペレーション効率化: 省エネルギー化、廃棄物削減、水使用量削減、包装材の最適化などは、光熱費、廃棄物処理費用、資材費などのコスト削減に直結する。

  • ブランド価値向上: 積極的なESGへの取り組みと透明性の高い情報開示は、企業の評判を高め、環境意識の高い顧客、従業員、投資家を惹きつける要因となる。

  • 資金調達: 良好なESGパフォーマンスは、ESG投資家からの資金調達を容易にし、サステナビリティ・リンク・ローン(例:高島屋)など有利な条件での資金調達機会をもたらす可能性がある。

  • イノベーション: サステナビリティを起点とした新しい商品、サービス、技術(例:サステナブル包装、環境配慮型物流、デジタル技術を活用した顧客体験)の開発は、競争優位性の源泉となり得る。

これらのリスクと機会を評価する上で、特に注目すべき点が二つある。第一に、変化する消費者の価値観 は、IMHDSのようなプレミアムリテーラーにとって、単なるリスクではなく、むしろ大きな事業機会となり得る点である。品質や信頼性を重視する顧客層に対し、サステナビリティをブランド価値の一部として効果的に訴求できれば、競合との差別化を図り、顧客エンゲージメントを深めることが可能となる。「i'm green」 や「三越のおなおし」 の成功事例は、そのポテンシャルを示唆している。

第二に、物理的な気候リスク は、IMHDSの基幹事業である百貨店運営にとって直接的かつ深刻な脅威である。大規模な固定資産である店舗は、異常気象に対して脆弱であり、事業継続性の観点から、レジリエンス強化への投資が不可欠となる。IMHDSもこのリスクを認識しているが、競合他社(例:高島屋はレジリエンス投資に言及)と比較して、どの程度具体的な対策や投資が進んでいるかを評価することが重要である。

競合他社分析と比較評価

IMHDSの環境パフォーマンスを評価する上で、国内百貨店業界における主要な競合他社との比較は不可欠である。ここでは、株式会社高島屋、J.フロント リテイリング株式会社(大丸、松坂屋、パルコなどを運営、以下JFR)、エイチ・ツー・オー リテイリング株式会社(阪急、阪神、イズミヤなどを運営、以下H2O) を主要な比較対象とする。

環境パフォーマンス比較(記述的表示)

気候変動

  • 目標:

    • IMHDS: Scope1&2排出量を2030年度までに2013年度比50%削減、2050年度までに実質ゼロ。

    • JFR: Scope1&2排出量を2030年度までに2017年度比60%削減、Scope3排出量を同40%削減、2050年度までにScope1,2,3でネットゼロ。

    • H2O: Scope1&2排出量を2030年度までに2019年度比30%削減(2013年度比48%削減に相当)、2050年度までにネットゼロ。

    • 高島屋: RE100(2050年までに再エネ100%)、EV100(2030年までに社用車100%EV化)へのコミットメント。具体的な%削減目標は提供情報からは不明瞭。

    • 比較すると、JFRはScope3に関する具体的な削減目標を設定している点で先進的である。IMHDSとH2Oも2030年目標を持つが、基準年が異なるため直接比較は難しい。高島屋は国際イニシアチブへの参加を前面に出している。

  • 取り組み:

    • 再生可能エネルギー導入: 各社とも店舗への再エネ導入を進めている(JFR、H2O、高島屋、IMHDS)。JFRとH2Oは具体的な店舗名を挙げて導入状況を開示している。

    • TCFD対応: 全社がTCFD提言に賛同し、情報開示を行っている(IMHDS、高島屋、JFR、H2O)。

    • Scope3への注力: JFRはScope3削減目標を持ち、サプライヤーとの協働を明記している。H2OもScope3カテゴリ1の排出量を報告し、サプライヤーエンゲージメントに言及している。IMHDSもScope3排出量を報告しているが、具体的な削減目標は不明。高島屋はRE100/EV100を通じてScope1/2に重点を置いているように見える。

  • パフォーマンス(CDPスコア):

    • IMHDS: A (2022, 2023)

    • JFR: Aリスト選定歴あり、2023年はサプライヤー・エンゲージメント・リーダーに選定

    • 高島屋: B (2023)

    • H2O: B (2023)

    • CDP評価においては、IMHDSとJFRがリーダーシップを発揮している一方、高島屋とH2Oはそれに次ぐ評価となっている。

資源循環

  • 目標:

    • IMHDS: 食品リサイクル率は約75%で推移。全体廃棄物やプラスチックに関する明確な数値目標は不明。

    • JFR: 2030年度までに廃棄物排出量(食品含む)を2019年度比50%削減、食品廃棄物排出量を同15%削減。

    • H2O: 2030年度までに食品リサイクル率70%、特定プラスチック製品提供量(原単位)を2021年度比60%削減。

    • 高島屋: 2025年度までに廃棄プラスチックリサイクル率99%以上。

    • 比較すると、JFR、H2O、高島屋は、廃棄物全体、プラスチック、食品廃棄物に関して、IMHDSよりも具体的かつ野心的な数値目標を設定しているように見える。

  • 取り組み:

    • 衣料品回収: 各社とも回収プログラムを実施(IMHDS「i'm green」、JFR「ECOFF」、高島屋「Depart de Loop」、H2O「oHOHo CYCLE」参加)。高島屋は回収品を再生原料とした商品開発まで踏み込んでいる。

    • 廃棄物削減: IMHDSは梱包マニュアル整備、高島屋は通い箱導入、JFRはプラスチックリサイクル、H2Oは食品廃棄物削減・再利用(堆肥化、飼料化、バイオコンポスター試行) など、各社多様な取り組みを行っている。

    • サーキュラービジネス: IMHDSは修理サービス「三越のおなおし」、JFRはファッションサブスクリプション「AnotherADdress」、高島屋は「Depart de Loop」を通じた商品開発 など、モデルの多様化が見られる。

  • パフォーマンス:

    • 各社の報告データ(廃棄物量、リサイクル率、水使用量など)は、算定範囲や基準年が異なるため、直接的な比較は困難である。しかし、IMHDSのリサイクル率が約71%で横ばいであるのに対し、他社がより高い目標(特にプラスチックや食品)を掲げている点は注目される。

生物多様性

  • 取り組み:

    • IMHDS: 都市緑化、養蜂、地域連携が中心。サプライチェーンへの言及は限定的。

    • JFR: 環境配慮型包装材の使用、地域共生・活性化プロジェクト、TNFDレポート発行による体系的アプローチ。

    • H2O: 大阪府産間伐材利用プロジェクト、地域産品販売促進。

    • 高島屋: 環境方針での言及、具体的な取り組みは限定的(提供情報内)。

    • 比較すると、JFRがTNFDへの対応を進めている点で、より戦略的かつ包括的なアプローチを取っている可能性がある。IMHDSは拠点ごとの具体的活動に強みがある一方、H2Oは地域連携、高島屋は方針レベルでの言及に留まっているように見える。

  • コミットメント: JFRのTNFD整合性 が他社との違いを際立たせている。

環境スコア・レーティング比較(記述的表示)

外部評価機関によるスコアは、企業のESGパフォーマンスを客観的に比較する上で有用な指標となる。

  • CDP気候変動: 前述の通り、IMHDSは「A」評価であり、JFR(Aリスト歴/サプライヤーリーダー)と共に業界をリードしている。高島屋(B)、H2O(B)はそれに続く評価である。これはIMHDSの気候変動に関する情報開示と目標設定が特に優れていることを示している。

  • Sustainalytics ESGリスクレーティング:

    • IMHDS: 24.8 (Medium Risk), 業界ランク 406/469

    • JFR: 18.3 (Low Risk), 業界ランク 217/469

    • 高島屋: 27.9 (Medium Risk), 業界ランク 445/469

    • H2O: 26.4 (Medium Risk), 業界ランク 430/469

    • Sustainalyticsの評価では、スコアが低いほどリスクが低いとされる。JFRが「Low Risk」と評価され、競合他社(IMHDS、高島屋、H2Oはいずれも「Medium Risk」)を大きくリードしている。IMHDSは中位グループに位置するが、小売業界全体の中では下位(406位/469社)にランクされている。この評価差は、各社のリスクエクスポージャーとマネジメント能力の評価に基づいている。IMHDSは「Medium Exposure / Average Management」、JFRは「Medium Exposure / Strong Management」、高島屋は「Medium Exposure / Weak Management」、H2Oは「Low Exposure / Average Management」と評価されており、JFRのマネジメント能力の高さと、高島屋のマネジメント能力の弱さが指摘されている。IMHDSの「Average」評価は、CDPの「A」評価とのギャップを示唆しており、気候変動以外のESG要素やリスク管理体制全般において改善の余地がある可能性を示している。

  • FTSE Blossom Japan Index: JFRはこの代表的なESG指数(年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が採用)の構成銘柄に選定されている。提供された情報からは、IMHDS、高島屋、H2Oが同指数の構成銘柄に含まれているかは確認できない。構成銘柄への選定は、ESGパフォーマンスが投資家から評価されている証左となる。

これらの比較から、IMHDSは気候変動に関する情報開示と目標設定(CDP評価)では業界トップクラスにあるものの、資源循環に関する目標設定の野心度や、生物多様性への戦略的アプローチ、そして広範なESGリスク管理(Sustainalytics評価)においては、特にJFRと比較して改善の余地があることが示唆される。JFRはScope3目標設定、TNFD対応、Sustainalyticsでの高評価など、バリューチェーン全体を見据えた包括的なESG戦略で先行している側面が見られる。

業界における先進的な環境への取り組み事例

IMHDSおよび日本の百貨店業界がさらなる環境パフォーマンス向上を目指す上で、国内外の小売・百貨店業界における先進事例は重要な示唆を与える。

グローバルな小売・百貨店業界の先進事例紹介

気候変動対策

  • 再生可能エネルギー: RE100コミットメント に加え、革新的な電力購入契約(PPA)の締結や、大規模な自家発電(屋上太陽光など)の導入が進んでいる。

  • エネルギー効率: AIを活用した高度なビルエネルギー管理システム(BEMS)の導入(H2Oの事例も参照)、自然冷媒(CO2、アンモニアなど)を使用した次世代型冷凍冷蔵設備の導入 など、技術革新による効率化が追求されている。

  • Scope 3 排出削減: サプライヤーエンゲージメントプログラムの高度化(データ共有プラットフォーム活用など)、低炭素商品の開発・販売推奨、持続可能な物流(EVトラック導入、配送ルート最適化)、製品使用時・廃棄時の排出量削減への貢献、インターナルカーボンプライシング(ICP)の導入などが挙げられる。

  • 従業員教育: 環境eラーニングや資格取得支援(eco検定など)を通じた従業員の環境意識向上が図られている。

資源循環

  • サーキュラービジネスモデル: 大規模な自社運営または提携によるリセールプラットフォームの構築(例:The RealReal、Vestiaire Collective、ブランド公式リユース)、包括的な修理サービスの提供(例:Patagonia)、衣料品レンタルサービスの展開(例:Rent the Runway、JFRのAnotherADdress)、そして製品設計段階からの循環性考慮(リサイクル容易なデザイン、単一素材化など)が本格化している。

  • 廃棄物削減・活用: AIによる需要予測精度向上を通じた食品ロス削減、廃棄されるはずだった繊維やプラスチック、食品などを新たな製品に生まれ変わらせるアップサイクル技術の活用、使用済みPETボトルを再びPETボトルにする水平リサイクル(クローズドループ)の構築、問題のある包装材(例:特定プラスチック)の全廃、廃食油からSAFを製造するような異業種連携 など、革新的な取り組みが見られる。

  • 水資源管理: 水使用量削減目標の設定、節水技術への投資、サプライチェーン(特に繊維・農業セクター)における水リスク評価と管理強化が進められている。

生物多様性保全

  • サプライチェーン管理: リスクの高い原材料(木材、紙、パーム油、綿花、カカオ、水産物など)に対する持続可能な調達方針の策定と実行、信頼できる認証制度(FSC、MSC/ASC など)の活用、サプライチェーンマッピングと生物多様性リスク評価(TNFDフレームワークへの準拠)、再生型農業や持続可能な森林管理の支援などが重要視されている。

  • ネイチャー・ポジティブ活動: バリューチェーンに関連する生態系の回復・保全プロジェクトへの投資、自然に関する科学的根拠に基づく目標(SBTs for Nature)の設定、自然資本を活用した気候変動対策(Nature-based Solutions)の推進、30by30目標 など国際的な枠組みへの貢献、汚染(農薬、プラスチックなど)の削減努力が進められている。

これらの先進事例から、業界のリーダー企業は、単なるオペレーション改善に留まらず、ビジネスモデル自体の変革(サーキュラーエコノミーへの移行)や、サプライチェーン全体(Scope3排出、原材料調達)での環境・社会課題解決に深く踏み込んでいることがわかる。IMHDSもオペレーションレベルでの取り組みは進めているが、グローバルな先進事例と比較すると、特にバリューチェーン全体を視野に入れた戦略的な取り組みにおいて、さらなる深化の余地がある。

また、これらの先進的な取り組みは、サプライヤー、顧客、技術パートナー、時には競合他社との連携なしには実現が難しい。サプライヤーとのデータ共有、共同でのリサイクルスキーム構築、業界共通プラットフォームの活用、異業種連携による廃棄物活用 など、協働を通じてサプライチェーン全体の持続可能性を高める動きが加速している。IMHDSの今後の進化においても、こうしたパートナーシップの強化が鍵となるだろう。

三越伊勢丹ホールディングスが直面する現在の課題と提言

これまでの分析を踏まえ、IMHDSが環境パフォーマンス向上に向けて直面している主要な課題と、今後の戦略的重点分野および改善への提言を以下に示す。

現状の課題評価

  • 目標達成のペース: 2030年のGHG削減目標(2013年度比50%削減)達成に向けた進捗状況、特に2024年度に見られた絶対排出量の増加 を踏まえると、目標達成に向けた取り組みの加速が必要となる可能性がある。

  • Scope 3 排出量の管理: Scope3排出量が全体の大部分を占め、近年増加傾向にあること は、バリューチェーンにおける排出削減が喫緊の課題であることを示している。競合のJFRがScope3削減目標を設定しているのに対し、IMHDSにおける具体的な目標設定が見られない点は課題である。

  • 資源循環の野心度: 全体のリサイクル率が横ばいであること、廃棄物全体やプラスチックに関する野心的な数値目標が(提供情報内では)不明瞭であることは、一部の競合他社(例:高島屋のプラリサイクル目標、JFRの廃棄物削減目標、H2Oのプラ削減目標)と比較して、取り組みの積極性において見劣りする可能性がある。修理サービス「三越のおなおし」 や買い取りサービス「i'm green」 のようなサーキュラーモデルを、より大規模に展開していく必要性も考えられる。

  • 生物多様性戦略の深化: 取り組みが拠点ごとの活動(都市緑化、養蜂など)に偏っており、バリューチェーン全体のリスク・影響に対処する体系的な戦略が不足している可能性がある。TNFDへの対応や、包括的なサステナブル調達方針の開示が、先進的な取り組みと比較して遅れている可能性がある。

  • 競合他社との比較: Sustainalyticsの評価において、主要競合であるJFRに後れを取っていること は、ESG全般のリスク管理体制に対する外部評価において改善の余地があることを示唆している。競合他社の先進的な取り組み(JFRのScope3目標/TNFD対応、高島屋のプラリサイクル目標、H2OのAI省エネシステムなど)に追随、あるいは凌駕していく必要がある。

戦略的重点分野と改善への提言

上記の課題認識に基づき、IMHDSが今後注力すべき戦略的分野と具体的な改善策を以下に提言する。

  • 提言1: Scope 3 戦略の強化と目標設定:

    • Scope3排出量の主要カテゴリー(カテゴリ1:購入した製品・サービス、カテゴリ4:輸送・配送、カテゴリ11:販売した製品の使用など)を特定し、詳細な削減ロードマップを策定する。

    • 科学的根拠に基づいた野心的なScope3削減目標(例:SBT認定を目指す)を設定・公表する。

    • 特に影響の大きいサプライヤーを対象としたエンゲージメントプログラムを深化させ、排出量削減に向けた協働を強化する(参考:)。

  • 提言2: 資源循環の加速とサーキュラーモデルの本格展開:

    • 廃棄物総量削減、およびプラスチック削減・リサイクルに関して、競合他社(例:高島屋, JFR)をベンチマークとした、より野心的な数値目標を設定する。

    • 全体の廃棄物リサイクル率向上に向けた具体的な戦略(例:分別プロセス改善、リサイクル技術導入、パートナーシップ強化)を検討・実行する。

    • 成功しているサーキュラーサービス(例:「三越のおなおし」)を他店舗へ展開し、「i'm green」 のような買い取りサービスを拡充する。さらに、自社または提携によるリセール、レンタルプラットフォームの導入を本格的に検討する(参考:)。

  • 提言3: 生物多様性への取り組み深化と統合:

    • バリューチェーン全体を対象とした、体系的な生物多様性リスク・依存度評価を実施する(参考:TNFDフレームワーク)。

    • 特にリスクの高い原材料(木材、紙、綿、食品など)について、信頼性の高い認証制度(例:FSC)の活用を含む、具体的かつ実効性のあるサステナブル調達方針を策定し、開示する。

    • 将来的には、自然に関する科学的根拠に基づく目標(SBTs for Nature等)の設定を検討する。

  • 提言4: ESGマネジメント体制の強化と情報開示の拡充:

    • Sustainalytics評価における「Average」マネジメントスコア の背景要因を分析し、特定された弱点(ガバナンス体制、リスク管理プロセス、ステークホルダーエンゲージメントなど)に対処する。

    • ESG課題に対するガバナンス体制、リスク管理プロセス、目標達成に向けた進捗状況に関する情報開示の透明性と網羅性をさらに向上させる。競合のJFRに倣い、TNFDに沿った情報開示の導入を検討する。

  • 提言5: ブランド信頼性を活用したサステナブル消費の推進:

    • 三越・伊勢丹ブランドが持つ高い信頼性と品質イメージを最大限に活用し、サステナブルな商品ラインナップやサーキュラーサービス(修理、リセールなど)を積極的にマーケティングする。

    • サステナビリティを、単なるCSR活動ではなく、プレミアムな顧客体験を提供する上での重要な構成要素として位置づけ、訴求する。

これらの提言は、IMHDSが直面する課題に対応し、持続可能な成長を実現するための方向性を示すものである。特に、オペレーション改善に留まらず、バリューチェーン全体を視野に入れたScope 3排出削減、資源循環、生物多様性保全への取り組みを深化させることが、今後の競争優位性を確立する上で不可欠となる。また、長年培ってきたブランドへの信頼は、特にサーキュラーエコノミー関連サービスの展開において、他社にはない独自の強みとなり得るだろう。

結論

本レポートでは、株式会社三越伊勢丹ホールディングス(IMHDS)の環境パフォーマンスについて、「気候変動」「資源循環」「生物多様性」の3つの側面から包括的な分析を行った。

分析の結果、IMHDSは気候変動対策において、CDP「Aリスト」選定 に象徴されるように、高いレベルの情報開示と目標設定を行っており、再生可能エネルギー導入も加速させている 点が強みとして挙げられる。また、都市部における屋上緑化や養蜂、修理サービス「三越のおなおし」 など、地域社会や顧客との接点を活かしたユニークで具体的な取り組みも展開している。

一方で、いくつかの課題も明らかになった。第一に、事業活動の回復・拡大に伴い、GHG排出量の絶対値、特にScope 3排出量が大幅に増加しており、事業成長と環境負荷のデカップリングが急務である。第二に、廃棄物全体のリサイクル率が近年横ばいであり、資源循環に関する目標設定や取り組みの野心度において、一部競合他社に後れを取る可能性がある。第三に、生物多様性への取り組みが、拠点ごとの活動に重点が置かれ、サプライチェーン全体を対象とした体系的なリスク評価や戦略が十分に示されていない可能性がある。第四に、SustainalyticsのESGリスク評価では、主要競合であるJFRと比較して低い評価となっており、ESG全般のリスク管理体制に対する外部評価の向上が求められる。

小売業界を取り巻く環境は、サステナビリティへの要請の高まりとともに、急速に変化している。IMHDSが今後も業界のリーダーとしての地位を維持し、持続的な成長を遂げるためには、これらの課題に正面から向き合い、戦略的な対応を加速させることが不可欠である。具体的には、Scope 3排出削減への本格的な取り組みと目標設定、資源循環の加速とサーキュラービジネスモデルの本格展開、サプライチェーン全体を視野に入れた生物多様性戦略の深化、そしてESGマネジメント体制の継続的な強化と情報開示の拡充が求められる。

幸いにも、IMHDSが長年培ってきた「三越」「伊勢丹」ブランドへの高い信頼は、サステナブルな商品やサービスを顧客に提供し、共に価値を創造していく上で、大きな推進力となり得る。環境課題への取り組みを、コストやリスクとしてだけでなく、ブランド価値向上と新たな事業機会創出の源泉として捉え、経営戦略の中心に据えていくことが、今後の持続的な企業価値向上に繋がるであろう。

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