大東建託株式会社(以下、大東建託)は、日本を代表する建設・不動産企業であり、特に土地所有者向けのアパート・マンション建設請負、及び完成後の賃貸経営受託(一括借上)を中核事業として展開しています 1。同社は管理戸数および賃貸仲介件数において業界トップクラスの実績を有し 1、賃貸住宅市場におけるリーディングカンパニーとしての地位を確立しています。近年、企業経営において環境・社会・ガバナンス(ESG)への配慮がますます重要視される中、建設・不動産業界においても、気候変動への対応、資源の有効活用、自然環境との共生は喫緊の課題となっています。
本レポートは、大東建託の環境パフォーマンス、特に「気候変動への対応」「資源循環の推進」「生物多様性の保全」という3つの重要分野における具体的な取り組み、目標、実績を詳細に分析することを目的とします。これにより、同社の環境スコアリングに必要な定量的・定性的情報を整理し、現状の課題と機会を明らかにするとともに、持続可能性向上に向けた戦略的洞察を提供することを目指します。分析にあたっては、公開されているサステナビリティ関連情報、統合報告書、ニュースリリース等の提供資料に基づき、学術的研究に値する客観性と詳細性を追求します 3。
本レポートでは、大東建託の環境側面における以下の3領域に焦点を当てます。
気候変動への対応: 温室効果ガス(GHG)排出削減目標(SBT、RE100、EP100)、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)/LCCM(ライフ・サイクル・カーボン・マイナス)住宅の推進、再生可能エネルギー導入、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に基づく情報開示など。
資源循環の推進: 3R(リデュース、リユース、リサイクル)の取り組み、建設廃棄物の削減・リサイクル率向上、サプライチェーンにおける資源効率化など。
生物多様性の保全: TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)への対応、持続可能な木材調達、生物多様性に配慮した事業活動(例:外構事業)、森林保全活動など。
レポートの構成は以下の通りです。まず、大東建託の環境に対する全体的な方針と体制を確認します。次に、上記の3つの重点分野それぞれについて、具体的な取り組み、目標、実績データを詳述します。続いて、これらの環境要因に関連する潜在的なリスクと事業機会を分析します。さらに、業界における先進的な環境への取り組み事例を紹介し、大東建託が直面する課題を評価した上で、今後の推奨事項を提案します。最後に、主要な競合他社の環境パフォーマンスと比較分析を行い、外部評価機関による環境スコアのベンチマーキングを通じて、大東建託の相対的なポジションを評価します。
なお、本レポートでは、情報の明瞭性を確保するため、表形式でのデータ表示は避け、全てのデータ、比較、ベンチマーキング結果は、本文中での記述形式、または必要に応じて箇条書き形式で提示します。
大東建託グループは、その企業活動の根幹にサステナビリティを据えています。「豊かな暮らしを支える企業として、社会の変化を成長の機会と捉え、ステークホルダーのみなさまと共に、事業活動の発展と持続可能な社会の実現を目指します」というサステナビリティ基本方針を定めており、環境課題への対応をその重要な柱の一つと位置づけています 3。
この基本方針に基づき、グループ全体の環境経営戦略として、2020年に長期目標である「DAITO 環境ビジョン2050」を策定しました 4。このビジョンは、「建築」「暮らし」「ごみ」「企業」「自然」「人」という6つの領域を設定し、それぞれの領域における環境配慮の取り組みの方向性を示しています 4。これは、事業活動全体を通じて環境負荷を低減し、持続可能な社会へ貢献していくというグループの強い意志を示すものです。
また、グループ傘下の主要企業も、この方針に沿った独自の環境方針を掲げています。例えば、建設事業を担う大東建設株式会社は、「すべての事業活動において、省資源、再利用、再資源(3R)に努め、地球環境の保全に積極的に取り組みます。また、建設事業者として、地域社会や自然との調和を重視し、良好な住環境づくりに取り組みます」との方針を定めています 7。同様に、賃貸管理事業を担う大東建託パートナーズ株式会社も、「すべての事業活動において、省資源、再利用、再資源(3R)に努め、地球環境の保全に積極的に取り組みます。また、地域社会や自然との調和を重視し、良好な住環境を提供します」という環境方針を掲げています 8。これらの子会社レベルでの方針設定は、グループ全体の環境ビジョンを具体的な事業活動に落とし込むための基盤となっています。
大東建託グループは、自社の事業活動が社会や環境に与える影響と、社会や環境の変化が自社に与える影響の両面から、持続的な成長のために優先的に取り組むべき重要課題(マテリアリティ)を特定しています 3。環境分野においては、以下の課題がマテリアリティとして認識されています。
環境1-1: 事業活動による気候危機への対応: 事業活動に伴う温室効果ガス排出の削減、気候変動による物理的リスク・移行リスクへの対応を含みます 4。
環境1-2: エネルギー効率の向上(EP100達成への貢献など): 事業運営におけるエネルギー消費量の削減、及び顧客(入居者)が使用するエネルギーの効率化支援を含みます 4。
環境1-3: 持続可能な木材調達と活用: 建設に使用する木材の調達における環境・社会・ガバナンスへの配慮、及び国産材を含む木材資源の有効活用を含みます 4。
これらのマテリアリティは、「DAITO 環境ビジョン2050」の6つの領域とも連動しており、本レポートで分析する「気候変動」「資源循環」「生物多様性」のテーマと密接に関連しています。特に、「気候危機への対応」は最重要課題の一つとして位置づけられ、TCFD提言への賛同やSBT目標設定など、具体的な取り組みが進められています 4。また、「持続可能な木材調達と活用」は、資源循環と生物多様性の両方に関わる重要な課題として認識されています。
大東建託グループは、環境方針とビジョン、そして特定されたマテリアリティに基づき、環境経営を実効的に推進するための体制を構築しています。
経営レベルでの意思決定と監督機能として、代表取締役 社長執行役員 CEOを議長とする「サステナビリティ推進会議」が設置されています 4。この会議体では、気候変動への対応を含むサステナビリティに関する重要課題への取り組み方針や進捗状況が協議・推進され、その内容は定期的に取締役会へ報告される体制となっています 4。経営トップが直接関与し、取締役会への報告義務があることは、環境課題が単なるCSR活動ではなく、経営戦略上の重要事項として認識され、トップダウンでのコミットメントが存在することを示唆しています。ただし、この会議体の具体的な審議内容、開催頻度、決定事項が事業戦略やリソース配分にどのように反映されているかといった実効性の詳細については、公開情報からは判断が難しい側面もあります。
実務推進レベルでは、グループ会社を横断する「環境経営プロジェクト」が設置され、グループ全体の環境経営体制を構築しています 4。このプロジェクトでは、定期的な会議を通じて現状把握、課題分析、解決策の検討が行われ、グループ全体の気候変動関連を含む環境への取り組みが推進されています 4。
さらに、目標達成へのコミットメントを強化する仕組みとして、役員報酬制度への非財務指標の導入が挙げられます。2023年度より、業績連動報酬の算定係数に非財務指標が組み込まれ、そのKPI(重要業績評価指標)の一つとして「CO2排出量の削減率」が採用されています(2025年3月期まで)4。役員報酬と環境目標達成度を連動させることは、経営層の意識向上と具体的な行動変容を促すインセンティブとして機能しうる先進的な取り組みと言えます。しかし、このCO2削減率というKPIが役員報酬全体に占める割合や、他の財務・非財務KPIとのバランス、目標設定の野心度などが不明であるため、この制度が実際にどの程度強力な動機付けとなっているかを評価するには、より詳細な情報が必要です。
大東建託グループは、マテリアリティの一つとして「事業活動による気候危機への対応」を掲げ 4、パリ協定の目標達成に貢献すべく、多岐にわたる取り組みを推進しています。
ZEH/LCCM賃貸集合住宅の推進:
気候変動対策の中核をなす取り組みとして、エネルギー効率の高いZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)及びLCCM(ライフ・サイクル・カーボン・マイナス)賃貸集合住宅の供給を積極的に進めています。2017年11月には、国内で初めて「戸建ZEH基準」を満たす賃貸集合住宅を完成させました 4。以降、ZEH賃貸住宅の建設を強化し、その累計契約戸数は2024年末時点で10万戸を突破するなど、着実な普及実績を上げています 11。ZEHのメリット・デメリットに関する情報発信も行い、市場への浸透を図っています 12。同社はZEH供給割合を重要なKPIと位置づけ、将来的なZEH義務化 4 を見据え、これを事業機会と捉えて市場シェア拡大を目指しています 4。
再生可能エネルギー導入:
事業活動におけるエネルギー転換も重要な戦略です。国際イニシアチブ「RE100」に加盟し、2040年までに事業活動で使用する電力を100%再生可能エネルギーに転換するという野心的な目標を掲げています 4。特徴的なのは、市場からの証書購入等に頼るだけでなく、自社グループの施設からの再生可能エネルギー電力によって事業運営を行うことを目指している点です 4。
その具体的な施策として、管理物件への太陽光発電設備の設置を大規模に推進しています。2023年11月には設置棟数が1万棟に達し、2024年3月末時点では26,141棟まで拡大しています 4。これらの設備による年間発電量は約413.8GWhに上ります 4。この太陽光パネル設置のための初期費用には、グリーンボンド(2021年度に110億円)およびグリーンローン(2022年度に90億円)によって調達された資金が充当されており、サステナブルファイナンスを積極的に活用しています 4。
また、バイオマス発電にも注力しており、本社ビル(品川イーストワンタワー)や研究施設であるROOFLAG賃貸住宅未来展示場では、国産木質バイオマス発電による再生可能エネルギー電力を導入しています 4。さらに、2023年7月には兵庫県で朝来バイオマス発電所を事業譲受し、地元の未利用木材を活用して2024年4月から運転を開始しました 4。加えて、岩手県の一戸フォレストパワー(バイオマス発電所運営会社)の株式譲渡契約も締結しており 12、再生可能エネルギーの自社供給能力を着実に強化しています。
SBT(科学的根拠に基づく目標設定):
GHG排出削減目標については、国際的な基準であるSBTイニシアチブの認定を取得しています。当初、2019年1月にはパリ協定の2℃目標(当時)に整合する水準として、「GHG排出量(Scope1+2+3)を2030年までに2017年度比で16%削減する」目標が認定されました 10。その後、目標レベルを引き上げ、現在は「2030年までにGHG排出量(スコープ1+2,及びスコープ3)を2017年度比で55%削減し、2050年までにネットゼロを達成する」ことを目指しています 4。これは、1.5℃目標に整合する野心的な水準です。
TCFDに基づく情報開示:
気候変動のリスクと機会に関する情報開示の重要性を認識し、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言に賛同しています 4。TCFDのフレームワークに基づき、気候変動が自社の事業(建設業、不動産業)に与える影響を、1.5℃/2℃未満シナリオと4℃シナリオを用いて短期・中期・長期の時間軸で評価・分析しています 4。これらの分析結果は、経営戦略やリスクマネジメントプロセスに反映させるとともに、統合報告書やサステナビリティレポート等を通じて、透明性の高い情報開示を推進しています 4。
インターナルカーボンプライシング(ICP):
脱炭素化に向けた社内での投資判断を促進するため、2025年4月からインターナルカーボンプライシング(ICP)制度を本格的に導入します 4。グループ全体の新規事業や設備投資を対象とし、社内炭素価格を5,500円/t-CO2と設定することで、省エネルギー投資や再生可能エネルギー導入といった低炭素化に貢献するプロジェクトの経済的合理性を高め、投資を加速させることを狙いとしています 4。
エネルギー効率向上:
エネルギー消費そのものの削減も重要な取り組みです。国際イニシアチブ「EP100」に加盟し、2030年までにエネルギー効率(売上高当たりのエネルギー消費量等で評価)を2017年度比で2倍に向上させることを目標としています 4。国内の省エネ法に基づき、エネルギー使用量の過去5年間平均原単位を毎年1%以上削減する目標も設定しており、2018年度には目標(99%未満)を達成する96.2%という実績を上げています 16。具体的な施策としては、事務所におけるクールビズ・ウォームビズの実施、未使用時のPC・照明の電源OFF徹底、節水啓蒙活動などが挙げられます 7。
その他の取り組み:
車両からのGHG排出削減のため、社用車におけるアイドリングストップの励行、エコドライブの推奨、公共交通機関の利用促進などに取り組んでいます 7。また、外部への貢献として、金融機関向けのカーボンオフセットサービスをイベントに無償提供するなどの活動も行っています 11。
大東建託グループの温室効果ガス排出量に関する2023年度の実績は以下の通りです 17。
スコープ1(自社での燃料燃焼等による直接排出): 33,584 t-CO2e
スコープ2(購入した電力・熱の使用に伴う間接排出): 33,223 t-CO2e
スコープ3(サプライチェーン全体での間接排出): 3,434,912 t-CO2e
総排出量(スコープ1+2+3): 3,501,719 t-CO2e
特筆すべきは、スコープ3排出量が総排出量の約98%という極めて大きな割合を占めている点です。さらにスコープ3の内訳を見ると、カテゴリ11「販売した商品の使用」(すなわち、建設・供給した賃貸住宅における入居者のエネルギー使用に伴う排出)が2,067,775 t-CO2eであり、スコープ3全体の約60%、総排出量の約59%を占めています 10。この事実は、大東建託の気候変動戦略において、ZEH/LCCM賃貸住宅の供給がいかに重要であるかを明確に示しています。自社の事業活動(スコープ1、2)からの排出削減努力も必要ですが、バリューチェーン全体での排出削減、特に顧客が使用する段階でのエネルギー効率向上が、SBT目標達成 4 の鍵を握ることは明らかです。
スコープ1とスコープ2の合計排出量の推移を見ると、2019年度から2023年度にかけて絶対量、及び売上高原単位ともに改善傾向が見られます 17。例えば、2021年度のスコープ1+2排出量は93,976 t-CO2eでしたが、2023年度には66,807 t-CO2eへと減少しています。これは、省エネ活動や再生可能エネルギー導入の成果が現れ始めていることを示唆します。
しかしながら、2030年までにGHG総排出量を55%削減するというSBT目標 4 の達成は、依然として大きな挑戦です。スコープ3排出量の大部分を占めるカテゴリ11への対策としてZEH普及 11 は進んでいますが、目標達成のためには、この取り組みをさらに加速させる必要があります。加えて、スコープ3の中でもカテゴリ1「購入した物品・サービス」(2023年度実績で約226万t-CO2e 18)も大きな割合を占めており、建設資材の製造段階における排出量削減など、サプライヤーとの連携強化を通じた取り組みも不可欠となるでしょう。
大東建託は、SBT、RE100、EP100といった国際的なイニシアチブへのコミットメントを通じて、気候変動目標達成に向けた明確な道筋を示しています 4。主要戦略としては、ZEH/LCCM賃貸住宅の標準化と普及促進 4、太陽光発電やバイオマス発電による再生可能エネルギー導入の拡大 4、そしてインターナルカーボンプライシング(ICP)導入による低炭素投資の促進 4 が挙げられます。
これらの戦略の進捗を示す指標の一つとして、CDP(旧カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)による評価があります。2024年度評価において、気候変動分野では「B」スコアを取得しました 19。CDPのスコアリング基準によれば、Bスコアは「マネジメントレベル」に該当し、気候変動課題を認識し、目標設定や戦略策定といった管理体制は構築されているものの、野心的な目標達成に向けた広範な排出削減活動の実行や、質の高い情報開示といった「リーダーシップレベル」(A/A-スコア)にはまだ改善の余地があることを示唆しています 20。
特に、RE100目標(2040年までに再エネ100%)達成に向けた戦略 4 は注目に値します。市場からの調達(証書購入やPPA)に全面的に依存するのではなく、自社グループ施設(管理物件への太陽光設置、バイオマス発電所)からの再生可能エネルギー電力供給を目指す方針 4 は、エネルギーの安定供給確保と地域経済への貢献(例:朝来バイオマス発電所での地元材活用 4)という点で意欲的です。しかし、この方針を実現するには、大規模な初期投資、用地確保、系統連系、技術開発といった課題が伴います。市場調達と比較した場合のコスト効率性や、2040年という目標年次までに完全な自給体制を構築できるかどうかの実現可能性については、今後の技術革新や政策動向、そして同社の投資判断にかかっています。
大東建託グループは、「DAITO 環境ビジョン2050」において「ごみ:すべての廃棄物の循環を実現する」という目標を掲げ 4、資源の有効活用と廃棄物の削減・リサイクルを重要な経営課題と位置づけています。グループ各社の環境方針においても、3R(リデュース、リユース、リサイクル)の推進が基本原則として明記されています 7。
3Rの推進と廃棄物発生抑制(リデュース):
資源消費と廃棄物発生を根本から抑制するため、建設プロセスにおける工夫を進めています。現場での廃棄物排出量が少ない工法の開発・導入に取り組むとともに 4、同社の主力商品である賃貸マンション・アパートの多くが規格型商品である特性を活かし、工場での計画的な生産を通じて部材の無駄を削減しています 16。また、建材(例:外壁材のサイディング)の最適な割り付け情報をサプライヤーと共有したり、プレカットされた部材を現場に納入する仕組みを試行するなど、材料ロスの削減にも努めています 4。さらに、キッチンや洗面化粧台といった大型資材の梱包材についても、サプライヤーである各メーカーと協力し、サイズの最適化や最小化を随時行い、梱包材由来の廃棄物発生抑制につなげています 4。オフィス業務においては、紙書類の電子化推進や電子印鑑の利用促進、重要書類以外の印刷物における裏紙利用の徹底などを通じて、ペーパーレス化を図っています 7。
再利用(リユース)と再資源化(リサイクル):
発生した廃棄物については、適正な分別を徹底し、再利用可能なものは再加工するなどして資源の有効活用を図っています 16。特に、建設現場から発生する建廃木材については、マテリアルリサイクルやサーマルリサイクル(再エネルギー化)を推進しています 4。廃プラスチックについても排出量削減とリサイクルに取り組んでいます 4。また、子会社である大東建設では、NPO法人エコキャップ推進協会を通じたペットボトルキャップのリサイクル活動にも参加しています 7。
サプライチェーンとの連携:
資源循環の取り組みは、自社内だけでなくサプライチェーン全体での連携が不可欠です。前述のサイディングメーカーや資材メーカーとの協力に加え、2022年からはサードパーティ評価機関であるEcoVadisのプラットフォームを活用したサステナビリティ調達(サプライチェーンマネジメント)を導入しました 22。これは建設業界では日本初のバイヤー企業としての導入事例であり、サプライヤーとの協働を通じて、環境負荷低減を含むサステナビリティ課題への対応をサプライチェーン全体で推進していく姿勢を示すものです 22。
従業員参加型の取り組み:
社内公募プログラム「大東建託グループ SDGsアワード」においても、資源循環に関するアイデアが採択・実行されています。例えば、2023年度には広島営業所の提案による「廃棄物の循環利用による処分費用・空家削減と街の景観向上の取り組み」が新規施策として決定しました 9。これは、建物の維持管理業務で発生する建て替えアパートの残置住宅設備、解体建物の植栽、塗装工事で余った塗料という3つの廃棄物の循環利用方法を検討し、廃棄物処分費用の削減や街の景観向上を目指すものです 9。
大東建託グループは、資源循環に関する具体的な目標を設定し、その達成に向けて取り組んでいます。
目標:
産業廃棄物の総排出量を毎年、前年度比で1%削減することを目指しています 4。
産業廃棄物のリサイクル率については、2030年度までに97%、そして「DAITO 環境ビジョン2050」の目標である2050年までには100%(ゼロエミッション)を達成することを目標としています 4。
実績 (2023年度、国内のみ) 17:
2023年度における廃棄物関連の実績データ(第三者保証対象項目を含む)は以下の通りです。
産業廃棄物:
総排出量: 約49.6万トン (第三者保証対象範囲は約50万トン 17)
最終処分量: 約8.7万トン (第三者保証対象範囲は約9万トン 17、総排出量からリサイクル量を差し引いた計算上の値)
リサイクル率: 約83% (計算値: (49.6万トン - 8.7万トン) / 49.6万トン)
一般廃棄物:
総排出量: 1,419トン
リサイクル量: 359トン
リサイクル率: 約25% (計算値: 359トン / 1,419トン)
現状の産業廃棄物リサイクル率約83% 17 は、建設業界の平均と比較しても高い水準にあると考えられます。これは、同社が長年にわたり推進してきた分別徹底やリサイクルルートの確立、規格型商品の活用による発生抑制などの取り組みの成果と言えるでしょう。しかしながら、2030年度の目標である97% 4 との間には依然としてギャップが存在します。目標達成のためには、現在最終処分されている約8.7万トン 17 の廃棄物(混合廃棄物や処理困難物などが含まれると推測される)に対する新たなリサイクル技術の開発・導入や、さらなる発生抑制策の強化が不可欠です。
一方で、オフィス等から排出される一般廃棄物のリサイクル率(約25%)17 は、産業廃棄物と比較して著しく低い水準に留まっています。これは、建設現場や工場に比べてオフィスでの分別ルール徹底やリサイクルインフラ整備が相対的に遅れている可能性を示唆しており、今後の改善が求められる領域です。
大東建託グループは、「DAITO環境ビジョン2050」における「ごみ:すべての廃棄物の循環を実現する」という最終目標 4 に向けて、資源循環戦略を着実に推進しています。主要な戦略としては、建設現場での排出量が少ない工法の開発・導入 4、サプライヤーとの連携強化による発生抑制とリサイクル促進 4、そして新たなリサイクル技術の導入が挙げられます。
特に、EcoVadisを活用したサステナビリティ調達の推進 22 は、サプライヤーに対して環境パフォーマンス(廃棄物削減努力を含む)の向上を促す上で重要な役割を果たすと期待されます。サプライヤー評価の結果に基づき、改善に向けた対話や支援を行うことで、サプライチェーン全体での資源循環レベルを引き上げることが可能となります。
2030年のリサイクル率97%、2050年のゼロエミッション達成 4 という目標は挑戦的ですが、これまでの実績と継続的な取り組み、そしてサプライチェーン全体を巻き込む戦略によって、目標達成に向けた進捗が期待されます。
大東建託グループは、事業活動が自然環境や生態系に与える影響を認識し、生物多様性の保全を重要な経営課題と位置づけています。特に、木造建築物を主力とする企業として、持続可能な森林資源の利用と、事業展開地域における生態系への配慮に注力しています 4。
TNFDへの対応と情報開示:
自然関連リスクと機会に対する意識の高まりを受け、2023年3月にTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)フォーラムへ参画し、その理念に賛同を表明しました 4。現在は、TNFDが提唱するLEAPアプローチ(Locate, Evaluate, Assess, Prepare)に沿って、自社の事業活動が自然資本へ与える影響(インパクト)と依存度、そしてそれに伴うリスクと機会の分析に着手しています 4。この分析結果に基づき、自然関連情報の適切な開示を進める方針であり、2025年度中の情報開示を目指しています 4。
持続可能な木材調達:
生物多様性保全の観点からも、木材調達における持続可能性の確保は極めて重要です。大東建託は「持続可能な木材調達と活用」をマテリアリティの一つに掲げ 4、2023年9月に「木材調達方針」を改定しました 4。この方針では、「合法性の確保」「社会的持続性(人権尊重等)の確保」「環境的持続性(生物多様性保全等)の確保」という3つの観点を定め、調達する全ての木材に対してデューデリジェンス(リスク調査)を実施しています 4。この基準を満たした木材を「持続可能な木材」と定義し、その調達比率を高めることを目指しています。また、国内林業の活性化と森林保全に貢献するため、国産材の活用も積極的に推進しており、住友林業との間で国産材利活用などを含む広範な業務提携に関する基本合意を締結したほか 11、熊本県産のスギ材を活用したツーバイフォー(2x4)工法部材の開発なども行っています 4。
生物多様性に配慮した外構事業「めぐる とまりぎ」:
生物多様性保全への直接的な貢献を目指す新たな取り組みとして、賃貸住宅向けの外構事業「めぐる とまりぎ」を2024年5月から1都3県で試行開始しました 23。この事業は、環境コンサルティング企業の株式会社グリーン・ワイズとの協業によりコンセプト設計が行われました 23。主な特徴は以下の通りです 4。
地域の生態系に配慮し、植栽の50%以上に在来種を採用。
多様な樹種や、鳥や蝶を引き寄せる花や実のなる植物を積極的に使用。
雨水を地下に浸透させる舗装材の利用。
農薬や化学肥料を使用しない管理。
地域の土壌に適した多様な土壌改良。
生きものの生息空間となるような自然樹形の剪定。
必要に応じた巣箱や水場(バードバスなど)の設置。 この事業では、年間植栽数や在来種比率のカウント、飛来する鳥・蝶種の推計、施工前後の周辺環境調査などを通じて効果検証を行い、その結果を情報開示していく計画です 4。
森林保全と地域・ステークホルダー連携:
木造住宅の供給を通じて森林資源を利用する企業として、森林保全活動にも積極的に関与しています。木造住宅の供給自体が、適切な管理下にある森林の循環利用を促進し、地球温暖化緩和に貢献する側面があると捉えています 10。加えて、地域自治体やNPO法人、業界団体などと連携し、植林体験活動、希少な蝶の観察会、山林保全活動などを実施しています 4。NPOへの寄付や従業員向けの自然体験ツアーなども開催し、生物多様性への意識向上を図っています 4。また、バイオマス発電所が立地する兵庫県朝来市に対して、企業版ふるさと納税として5,000万円を寄付するなど、事業と関連付けた地域貢献も行っています 4。政府(林野庁)や業界団体(経団連の委員会等)とも連携し、国産材利用促進やネイチャーポジティブに関する政策提言や議論にも参画しています 4。
外部評価:
これらの取り組みが評価され、CDPの「フォレスト」分野において、2024年度評価で最高評価である「Aリスト」企業に選定されました 12。これは、木材調達方針の策定とデューデリジェンスの実施、サプライヤーとの協働による持続可能な調達比率向上への努力などが高く評価された結果です 19。
大東建託は、生物多様性保全に関して、以下のような目標を設定し、戦略的に取り組んでいます。
目標:
「持続可能な木材調達比率」を2025年までに100%達成することを目指しています 4。
事業活動を通じて、2030年までに自然の損失を止め、プラスに転じさせる「ネイチャーポジティブ」の実現に貢献することを目指しています 4。
現在、TNFDのフレームワークに基づき、より具体的な生物多様性に関する指標(KPI)と目標の設定を検討しており、今後開示していく予定です 4。
実績:
持続可能な木材調達に向けた取り組みの結果として、2023年度には国産木材を約27,217 m³使用しました 4。
CDPフォレスト分野でのAリスト取得 19 は、目標達成に向けた取り組みが国際的に評価されていることを示します。
「めぐる とまりぎ」事業 23 は、生物多様性保全への具体的なアクションプランとして大きな可能性を秘めています。都市部や郊外における緑地の創出と質の向上は、ネイチャーポジティブ達成に貢献しうる重要な取り組みです。しかし、この事業はまだ試行段階であり、その長期的な生態系への貢献度、事業としての継続性(コスト効率や収益性)、そして顧客(オーナーや入居者)からの受容性を評価するには、今後の詳細なモニタリングと検証結果 4 が待たれます。事業効果が実証されれば、全国展開によるインパクト拡大も期待されますが、地域ごとの生態系の違いへの対応など、スケールアップに伴う課題も考慮する必要があります。
また、2025年までに持続可能な木材調達比率100%を達成するという目標 4 は非常に野心的です。これを実現するには、サプライチェーン全体にわたるトレーサビリティの確保と、デューデリジェンスの徹底が不可欠となります。特に、海外から調達する木材が含まれる場合、その合法性や持続可能性を検証するプロセスは複雑化します。CDPのAリスト評価は進捗を示唆しますが、全ての調達先に対して自社方針 4 に基づく基準遵守を徹底するには、継続的な管理体制の強化とサプライヤーとの緊密な連携が求められます。
大東建託の事業活動は、気候変動、資源制約、生物多様性の損失といった地球規模の環境課題と密接に関連しており、それに伴うリスクと機会が存在します。同社はTCFDやTNFDのフレームワークを活用し、これらのリスクと機会を評価・分析し、経営戦略に反映させる取り組みを進めています 4。
物理的リスク: 気候変動に伴う異常気象(台風、豪雨、猛暑など)や自然災害の激甚化・頻発化は、同社にとって最も直接的なリスクの一つです。管理・運営する賃貸建物、建設中の現場、事業所、そして顧客や従業員自身が被災する可能性があり、復旧には多大な時間とコストを要し、事業継続に深刻な支障をきたす恐れがあります 4。このリスクは「重点管理リスク項目」として特定され、過去の災害対応経験を踏まえたグループ横断的な復旧体制の整備が進められています 4。
移行リスク: 低炭素社会への移行に伴うリスクも重要です。
政策・規制リスク: 今後、炭素税の導入や強化、建築物に対する省エネルギー基準やZEH基準のさらなる厳格化、廃棄物処理に関する規制強化などが進む可能性があります。これらは、建設コストの増加、エネルギーコストの上昇、事業運営コストの増大につながる可能性があります。TCFDシナリオ分析においても、これらの規制動向は考慮されています 4。
市場リスク: 環境性能に対する市場(入居者、オーナー、投資家)の要求水準が高まる中で、省エネ性能の低い既存物件の資産価値が相対的に低下するリスク(ブラウン・ディスカウント)や、環境配慮型住宅への需要シフトに迅速に対応できない場合の競争力低下リスクが考えられます。
技術リスク: 低炭素技術や資源循環技術への移行が遅れた場合、競合他社に対して技術的な劣位に立たされる可能性があります。
評判リスク: 環境問題への対応が不十分であると認識された場合、企業のブランドイメージが損なわれ、顧客離れ、投資家からの評価低下、人材獲得難などを招く可能性があります。
資源・サプライチェーンリスク:
資源調達リスク: 主力構造材である木材について、気候変動による森林災害の増加や違法伐採問題などにより、持続可能な木材を安定的に調達することが困難になるリスクがあります。これは「重点管理リスク」として認識され、認証材の活用などを通じてリスク低減が図られています 4。
サプライヤーリスク: サプライヤーにおける環境規制対応の遅れや、災害による操業停止などが、資材供給の遅延やコスト上昇につながるリスクがあります。
廃棄物関連リスク: 廃棄物処理コストの上昇や、最終処分場の逼迫、不適切な処理(不法投棄など)が発生した場合の法的責任リスクなどが考えられます 4。
生物多様性リスク:
事業活動が依存する自然資本(木材、水、土地など)や生態系サービス(気候調整、水質浄化など)が、森林破壊や気候変動などによって劣化した場合、原材料の調達難やコスト増、事業運営への支障などを引き起こす可能性があります。TNFDのLEAPアプローチに基づく分析を通じて、これらの依存度とインパクト、リスクの特定が進められています 4。
一方で、環境課題への積極的な取り組みは、新たな事業機会の創出にもつながります。
環境配慮型製品・サービスの提供:
省エネルギー性能や快適性に優れたZEH・LCCM賃貸住宅は、環境意識の高い入居者やオーナーからの需要増加が期待され、市場における競争優位性の確立とブランドイメージ向上に貢献します 4。また、「めぐる とまりぎ」のような生物多様性に配慮した外構事業は、新たな付加価値サービスとして、他社との差別化を図る機会となり得ます 23。
再生可能エネルギー事業の展開:
自社管理物件への太陽光発電設備の設置・運営は、余剰電力の売電による新たな収益源となる可能性があります 4。また、朝来バイオマス発電所のような発電事業への本格参入は、エネルギー事業という新たな事業領域への展開機会をもたらします 4。
コスト削減と効率化:
事業活動における省エネルギー化の推進は、光熱費の削減に直結します。同様に、建設現場や工場における廃棄物の発生抑制やリサイクル率の向上は、廃棄物処理コストの削減につながります 4。
資金調達における優位性:
環境への取り組みを積極的に行う企業は、ESG投資家からの評価が高まり、資金調達が有利になる傾向があります。大東建託が実施したグリーンボンドやグリーンローンの発行 4 はその一例であり、今後もサステナブルファイナンスを活用することで、有利な条件での資金調達が可能となる可能性があります。
人材獲得とエンゲージメント向上:
環境問題への貢献や持続可能な社会の実現に向けた企業の姿勢は、従業員の働く意欲やエンゲージメントを高めるとともに、環境意識の高い優秀な人材を引きつける要因となり得ます 25。
これらのリスクと機会を的確に把握し、経営戦略に統合していくことが、大東建託の持続的な成長にとって不可欠です。特に、TCFDやTNFDに基づくリスク・機会分析の結果 4 を、具体的な事業ポートフォリオの見直し 26 や設備投資計画 26、研究開発の優先順位付けなどにどのように反映させているのか、そのプロセスと結果をより詳細に開示していくことが、投資家をはじめとするステークホルダーからの信頼と評価を一層高める上で重要となるでしょう。現状の開示では、分析を行っている事実は述べられていますが、その分析が具体的な経営判断にどう結びついているかの事例が不足している可能性があります。
大東建託の環境への取り組みを評価する上で、同業他社や関連業界における先進的な事例(ベストプラクティス)を参考にすることは有益です。以下に、気候変動、資源循環、生物多様性の各分野における日本の建設・不動産業界の代表的な取り組みを示します。
SBT 1.5℃目標とRE100: 大和ハウス工業 27 や積水ハウス 31 など、業界をリードする企業の多くが、パリ協定の1.5℃目標に整合したSBT認定を取得し、RE100にも加盟して再生可能エネルギー100%化に向けた具体的な目標(例:積水ハウスは2040年目標 31)を設定・推進しています。サプライヤーエンゲージメントを通じたスコープ3排出量削減にも注力しています。
ZEH/ZEBの普及: 積水ハウスは、戸建住宅で95%、賃貸住宅で76%、分譲マンションで100%(いずれも2023年度実績)という極めて高いZEH比率を達成しており、業界標準を引き上げています 18。大和ハウス工業もZEH/ZEBの供給を積極的に推進しています 28。政府も補助金等で後押ししており、ZEH/ZEBは業界全体のトレンドとなっています 32。
中高層木造建築: 建設時のCO2排出量が鉄骨造やRC造に比べて少ない(例:同規模の鉄骨造比で20%以上削減 33)とされる木造建築物を、オフィスビルやマンションなどの中高層建築にも適用する動きが、三井不動産や三菱地所といった大手デベロッパーや大手建設会社の間で活発化しています 32。これは、建設段階の排出量(エンボディドカーボン)削減に貢献する重要な取り組みです。大東建託も木材活用を推進していますが 4、中高層への展開は今後の焦点となる可能性があります。
グリーンリース: テナントとオーナーが協力して省エネルギーを推進し、そのメリット(光熱費削減分など)を共有する「グリーンリース」契約の導入が進んでいます。郵船不動産の事例 34 のように、具体的な節電メニューの提示やインセンティブ(還元)の仕組みを設けることで、テナントの省エネ行動を促進します。国土交通省もガイドラインを示すなどして普及を後押ししています 35。
高いリサイクル率とゼロエミッション: 積水ハウスは、新築施工現場における廃棄物リサイクル率100%を達成・維持しているほか、工場やリフォーム事業においても非常に高いリサイクル率(例:工場で94%~100% 31)を実現しています。さらに、再資源化が難しい廃棄物のマテリアルリサイクル率向上に向けた研究開発も進めています 31。大和ハウス工業も、環境行動計画「EGP2026」の中で建設廃棄物の削減・リサイクル目標を設定し、取り組みを進めています 28。多くの建設会社が、現場や工場における廃棄物ゼロエミッション(最終処分量ゼロ)を目標に掲げ、分別の徹底、リサイクル技術の開発・導入に取り組んでいます。
サプライチェーン連携: サプライヤーと連携し、梱包材の削減やリサイクルしやすい材料への変更、建設副産物の有効活用などを進める事例が見られます。
生態系ネットワークの構築: 積水ハウスの「5本の樹」計画は、個別の住宅の庭づくりを通じて、地域の在来種を中心とした植栽を大規模に展開し(2001年からの累計植栽本数1,984万本 31)、都市部における生態系ネットワークの維持・回復を目指す独創的な取り組みとして高く評価されています。生物多様性に関するビッグデータを活用した効果測定や、自社施設(梅田スカイビル「新・里山」)での自然共生サイト認定なども先進的です 31。
開発と保全の両立 (JHEP認証等): 大和ハウス工業は、過去のプロジェクトにおいてJHEP(ハビタット評価認証制度)認証を取得するなど、開発事業における生物多様性への配慮を定量的に評価・示す取り組みを行ってきました 27。森ビルのアークヒルズにおける長期的な緑化活動と緑被率の向上(20年間で21%→37%)も、都市開発における生物多様性配慮の好事例です 36。
TNFDへの対応: 大和ハウス工業 27 や積水ハウス 31 など、業界大手はTNFDへの対応を進めており、自然関連リスク・機会の評価と情報開示に取り組んでいます。
環境共生型まちづくり: 三井不動産のパークシティ柏の葉キャンパスのように、省エネ・創エネ技術の導入だけでなく、CO2見える化システムの導入や専用SNS、地域クラブとの連携などを通じて、環境をテーマとしたコミュニティ育成を図る事例も見られます 37。
これらの先進事例は、大東建託が自社の取り組みをさらに深化させる上で、目標設定、技術導入、ステークホルダー連携、情報開示などの面で参考となるでしょう。
これまでの分析を踏まえ、大東建託が環境パフォーマンス向上と持続可能な成長を実現する上で直面している主要な課題を評価し、今後の重点分野と具体的な行動提案を以下に示します。
スコープ3排出量削減の加速: GHG総排出量の大部分(約98%)を占めるスコープ3 17、特にカテゴリ11(販売した製品の使用、約59%)10 とカテゴリ1(購入した物品・サービス、約64% - 18の積水ハウスの例から類推すると大きな割合を占める可能性)の削減が最大の課題です。ZEH推進 4 は重要な進捗ですが、SBT目標(2030年55%削減)4 達成には、ZEH化のさらなる加速と、サプライチェーン全体(特に建設資材の製造段階)での排出削減に向けたより強力なエンゲージメントが不可欠です。
気候変動への適応策強化: 物理的リスク 4 に対する具体的な適応策の強化が求められます。災害時の事業継続計画(BCP)の策定・運用状況や、気候変動による影響を考慮した設計基準の見直しなど、レジリエンス向上のための取り組みを具体化し、その実効性を高める必要があります。
資源循環目標達成への道筋: 産業廃棄物のリサイクル率約83% 17 は高いものの、2030年目標の97% 4 達成には、現在最終処分されている約8.7万トン 17 の廃棄物(リサイクル困難物)への対応策と、それを可能にする技術開発・導入が課題です。また、一般廃棄物のリサイクル率(約25%)17 の大幅な改善も必要です。
生物多様性保全の実効性向上と定量化: 「めぐる とまりぎ」事業 23 の効果を科学的根拠に基づいて検証し、その結果を広く共有するとともに、全国展開に向けたビジネスモデルと生態系配慮の両立を図る必要があります。持続可能な木材調達比率100%目標(2025年)4 の達成には、サプライチェーン全体でのトレーサビリティとデューデリジェンスの厳格な管理が求められます。TNFD分析 4 に基づく具体的なリスク・機会評価を完了させ、それを事業戦略へ統合するプロセスを明確化することも重要です。
情報開示の質と網羅性の向上: CDP気候変動スコアが「B」に留まっていること 19 は、情報開示の質、特に戦略、リスク管理、指標と目標に関する具体性や定量性の面で改善の余地があることを示唆しています。TCFD/TNFD提言に沿った開示内容をさらに充実させ、スコープ3排出量のカテゴリ別内訳や削減努力、資源循環や生物多様性に関する定量データの網羅性を高めることが、ステークホルダーからの信頼を得る上で重要です。
上記の課題に対応し、大東建託が環境パフォーマンスをさらに向上させ、持続可能な企業価値を高めていくために、以下の行動を推奨します。
推奨1:サプライチェーンエンゲージメントの戦略的強化: スコープ3排出量、特にカテゴリ1(購入した物品・サービス)の削減に向けて、主要サプライヤー(建材メーカー、設備メーカー等)との連携を強化します。具体的には、サプライヤーに対するSBT設定の推奨・支援、低炭素素材やリサイクル材の共同開発・採用促進、EcoVadis評価 22 結果を活用した具体的な改善目標の設定とフォローアップなどを体系的に実施します。
推奨2:ZEH/LCCMの加速と既存ストックのグリーン化: 新築物件におけるZEH比率の目標値を引き上げ、その達成を確実にするとともに、LCCM住宅の開発・標準化・普及を加速させます。同時に、膨大な管理戸数という強みを活かし、既存の賃貸住宅ストックに対しても、断熱性能向上改修、高効率な給湯・空調設備への更新、太陽光発電設備の設置といった「グリーンリフォーム」メニューを開発し、オーナーに対して積極的に提案・実施する仕組みを構築します。
推奨3:資源循環技術への研究開発投資: 産業廃棄物リサイクル率97%目標 4 達成の障壁となっているリサイクル困難物(例:混合廃棄物、特定の廃プラスチック、断熱材等)に対応するため、高度な分別技術やマテリアルリサイクル技術、あるいは建材としての再利用を可能にするアップサイクル技術などへの研究開発投資を強化します。大学や研究機関、専門企業との連携も有効です。
推奨4:生物多様性インパクトの定量評価と目標設定: 「めぐる とまりぎ」23 やその他の緑化活動が、地域の生態系に与えるプラスの効果(例:特定の指標種の増加、緑地の連結性向上など)を、科学的・定量的にモニタリングする手法を確立し、その結果を定期的に公表します。TNFD分析 4 の結果を踏まえ、自社の事業活動に関連する具体的な生物多様性に関するKPI(例:管理地における在来種比率、生物多様性配慮設計の導入率など)と、達成目標を設定・開示します。
推奨5:環境データマネジメント強化と開示の質の向上: グループ全体の環境パフォーマンスデータ(特にスコープ3各カテゴリ、廃棄物の種類別排出・リサイクル量、水使用量の詳細、生物多様性関連指標など)を正確かつ網羅的に収集・管理するためのシステムやプロセスを強化します。収集したデータに基づき、TCFD、TNFD、SBT等の国際的フレームワークに沿った情報開示の具体性、定量性、比較可能性を高めます。特に、気候変動戦略の進捗、リスク管理プロセスの詳細、目標達成に向けた具体的な道筋などを、投資家をはじめとするステークホルダーに対してより分かりやすく説明責任を果たしていくことが求められます。
大東建託の環境パフォーマンスを相対的に評価するため、主要な競合企業の特定と比較分析を行います。
大東建託の事業領域である賃貸住宅の建設・管理、及び不動産開発・管理の観点から、以下の企業が主要な競合と考えられます。
大和ハウス工業株式会社: 日本最大の住宅・建設企業の一つであり、戸建住宅、賃貸住宅、分譲マンション、商業施設、事業施設など多岐にわたる事業を展開しています 1。売上高規模も大きく 1、ESGへの取り組みにおいても業界をリードする存在として認識されています 27。
積水ハウス株式会社: 大和ハウス工業と並ぶ大手ハウスメーカーであり、戸建住宅に加え、賃貸住宅(シャーメゾン)、分譲マンション、リフォーム、海外事業なども手掛けています 1。特にZEH推進や生物多様性保全(「5本の樹」計画)において先進的な取り組みで知られ、ESG評価も高い企業です 1。
東建コーポレーション株式会社: 大東建託と同様に、土地活用としての賃貸アパート・マンション経営の提案から、設計・施工、入居者斡旋、管理・運営までを一貫して手掛けるビジネスモデルを特徴としています 1。事業内容の類似性が高い直接的な競合企業と言えます。ただし、環境情報開示のレベルについては、大東建託と比較して限定的である可能性が示唆されています 16。
その他大手デベロッパー(三井不動産、三菱地所、住友不動産など): これらの企業は、大規模な都市開発、オフィスビルや商業施設の賃貸・管理、分譲マンション事業などを主力としており、不動産開発や賃貸管理の側面で大東建託と競合します 1。多くがESG投資家からの注目度が高く、環境への取り組みや情報開示にも力を入れています 39。
大和ハウス工業: 長期環境ビジョン「Challenge ZERO 2055」を掲げ、環境行動計画「エンドレス グリーン プログラム(EGP)2026」に基づいて具体的な目標管理を行っています 28。気候変動対策としてSBT 1.5℃目標の認定、RE100への加盟、ZEH/ZEBの推進、TCFD及びTNFDに準拠した情報開示などを実施しています 27。資源循環や生物多様性保全にも包括的に取り組み、詳細な環境パフォーマンスデータを開示しています 48。
積水ハウス: グローバルビジョン「“わが家”を世界一幸せな場所にする」の下、サステナビリティビジョン2050を策定しています 31。気候変動対策では、SBT 1.5℃目標認定、RE100加盟(2040年目標)、業界最高水準のZEH比率達成 18 などが特徴です。生物多様性分野では、独自の「5本の樹」計画が象徴的な取り組みであり、定量的な効果測定や外部認証も取得しています 31。TNFDにも対応し、詳細なESGデータを開示しています 18。
東建コーポレーション: CSR活動の一環として環境保全に取り組む姿勢を示しています 42。具体的な活動としては、工場やオフィスでのLED照明導入、空調温度管理、社用車の運行管理システム導入によるアイドリングストップ励行、配送効率化、緑化計画を盛り込んだ環境共生型賃貸マンションの提案などが挙げられます 16。しかし、SBT、RE100といった国際イニシアチブへの加盟や、TCFD/TNFDに基づく体系的な情報開示、GHG排出量や廃棄物総量といった詳細な環境パフォーマンスデータの公開は、現時点では確認されていません 16。ただし、サステナビリティ・リンク・ローン(SLL)の契約において、ZEH導入率に関する目標(SPTs)が設定されている情報があります 50。
大手デベロッパー(三井不動産、三菱地所、住友不動産など): 各社ともESG経営を重視し、TCFD/TNFDへの対応、SBT目標設定、RE100加盟、ZEB/ZEHの推進、保有物件におけるグリーンビルディング認証(CASBEE、LEED等)の取得、グリーンファイナンスの活用などを積極的に行っています 32。ESG評価機関(GRESB、CDP、MSCIなど)からの高評価獲得にも注力しており、情報開示レベルも高い傾向にあります 39。
これらの競合他社との比較から、大東建託の立ち位置が見えてきます。大和ハウス工業や積水ハウスといったESG先進企業と比較した場合、大東建託はSBT、RE100、EP100への加盟や目標設定 4、ZEH推進の実績 11、木材調達や水セキュリティ、森林保全に関する取り組みとCDPでの高評価 19 など、個別の分野においては遜色ない、あるいは先進的な側面も持っています。しかし、気候変動に関するCDPスコアがB評価である点 19 や、開示されている環境データの網羅性・具体性(特にスコープ3の詳細や資源循環の内訳など)においては、これらの先進企業にやや後れを取っている可能性が考えられます。一方で、事業モデルが類似する東建コーポレーションと比較すると、大東建託の環境に関する目標設定、具体的な取り組みの多様さ、そして情報開示のレベルは格段に高いと言えます 4。
外部のESG評価機関によるスコアリングは、企業の環境パフォーマンスを客観的に評価し、競合他社と比較する上で重要な指標となります。大東建託に関する主要な環境スコアと、競合他社とのベンチマーキング結果を以下に示します。
CDP (旧 Carbon Disclosure Project):
CDPは、気候変動、水セキュリティ、フォレスト(森林)の3分野で企業の環境情報開示とパフォーマンスを評価する国際的な非営利団体です。大東建託はこれらの質問書に回答しており、2024年度評価(2025年2月発表)において以下のスコアを獲得しました 12。
フォレスト: Aリスト (最高評価)
水セキュリティ: Aリスト (最高評価)
気候変動: B (マネジメントレベル) フォレストと水セキュリティにおけるAリスト選定は、同社の当該分野における取り組み、特に木材調達方針の策定・デューデリジェンス実施・サプライヤー協働(フォレスト分野)、及び賃貸建物への節水・節湯設備の標準導入・朝来バイオマス発電所での適正な排水管理(水セキュリティ分野)などが、国際的な基準に照らして高く評価されたことを示します 19。一方で、気候変動分野のBスコアは、前述の通り、目標設定や管理体制は認識されているものの、野心的な削減目標の達成に向けた実行力や情報開示の質において、リーダーシップレベル(A/A-)にはまだ改善の余地があることを示唆しています 20。
GX Research 環境スコア:
GX Researchは、日本企業が開示しているサステナビリティレポートやCDP回答、国際イニシアチブへの参加状況などに基づき、独自のアルゴリズムで環境スコアを算出・公開しているプラットフォームです 51。スコアリング基準には、SBT、RE100、EP100、TCFD/TNFD対応、GHG排出量(Scope別)の開示状況と削減実績(絶対量、原単位)、サステナビリティ委員会の設置などが含まれます 53。
大東建託の最新の環境スコア(2025年4月16日時点)は255点であり、これは評価対象となっている不動産業界14社中では6位に位置します 39。全評価対象企業(510社)の平均点(217.6点)や不動産業界の平均点(257.1点)と比較すると、平均以上の水準にはありますが、業界トップ層には及ばない状況です 39。なお、過去のデータ(日付不明)では331点(不動産業界1位)と表示されていた時期もあり 39、スコアが変動していることが確認できます。
その他の外部評価:
上記以外にも、大東建託はサプライヤー評価プラットフォームであるEcoVadisを活用しており 22、これはサプライチェーンマネジメントにおけるサステナビリティ評価を重視していることを示します。また、格付投資情報センター(R&I)からは、グリーンファイナンス・フレームワークがグリーンボンド原則等に適合している旨のセカンドオピニオンを取得しています 14。これらの外部評価の活用も、自社の取り組みの客観性を担保し、改善につなげる上で有効です。
CDPスコア比較:
大東建託の競合となる大手建設会社やデベロッパーの多くは、CDPにおいて高い評価を得ています。特に気候変動分野では、大和ハウス工業や積水ハウスは過去に複数回Aリストに選定された実績があります 21。2022年の日本企業Aリスト(気候変動)には、建設業から大林組、熊谷組、清水建設、積水化学工業、積水ハウス、大和ハウス工業、戸田建設が含まれていました 21。また、大手デベロッパーである三菱地所や三井不動産も、気候変動Aリストの常連企業です 54。これらと比較すると、大東建託の気候変動Bスコア 19 は、改善の余地が大きいことを示しています。東建コーポレーションについては、CDPへの回答状況やスコアは公開情報からは確認できませんでした。
GX Research 環境スコア比較:
GX Researchのスコアにおいても、競合との差が見られます。不動産業界の最新ランキングでは、三菱地所(420点、2位)、三井不動産(390点、3位)、東急不動産ホールディングス(425点、1位)などが大東建託(255点、6位)を上回っています 39。また、建設業界を見ると、大和ハウス工業(318点)、住友林業(303点)、戸田建設(298点)、積水ハウス(290点)なども高いスコアを獲得しています 39。これらの比較から、大東建託は業界内で中位から上位に位置するものの、トップランナー企業群にはまだ差をつけられている状況にあることが分かります。
これらのベンチマーキング結果は、大東建託が環境への取り組みを着実に進めている一方で、特に気候変動対応の実行力と情報開示の質、そして総合的なESGパフォーマンスにおいて、業界をリードする競合他社(大手デベロッパーや一部の大手建設会社)との間にまだギャップが存在することを示唆しています。CDPのフォレスト・水セキュリティ分野でのAリスト獲得は大きな強みですが、気候変動分野でのスコア向上と、GX Researchのような総合評価スコアの引き上げが、今後の課題となります。
また、GX Researchのスコアが大東建託について過去のデータ 39 と最新データ 39 で変動している点は、ESG評価のダイナミズムを象徴しています。評価基準は常に進化し 52、企業側の開示内容も毎年更新されるため、スコアは固定的なものではありません。相対的なポジションを維持・向上させるためには、単に現状の取り組みを続けるだけでなく、継続的なパフォーマンスの改善と、透明性の高い情報開示に向けた努力が不可欠であることを示しています。
本レポートでは、大東建託株式会社の環境イニシアチブとパフォーマンスについて、「気候変動への対応」「資源循環の推進」「生物多様性の保全」の3分野を中心に包括的な分析を行った。
分析の結果、大東建託は「DAITO 環境ビジョン2050」 4 という長期的な視点に基づき、サステナビリティを経営の重要課題と位置づけ、各分野で体系的な取り組みを進めていることが確認された。
気候変動分野では、ZEH/LCCM賃貸住宅の供給拡大 4、再生可能エネルギー導入(RE100加盟、太陽光・バイオマス発電)4、SBT 1.5℃目標の設定 4、TCFD提言への賛同と情報開示 4、ICP導入計画 4 など、多岐にわたる施策を展開している。
資源循環分野では、3Rの推進、建設廃棄物の削減努力、リサイクル率向上目標(2030年97%、2050年100%)の設定 4、EcoVadis活用によるサプライチェーン管理強化 22 などに取り組んでいる。
生物多様性分野では、TNFDへの対応開始 4、持続可能な木材調達方針の策定とデューデリジェンス実施 4、国産材活用 4、そして独自の生物多様性配慮型外構事業「めぐる とまりぎ」の試行開始 23 など、具体的なアクションが見られる。
特筆すべき成果として、CDP評価において「フォレスト」および「水セキュリティ」分野で最高評価であるAリストを獲得したこと 19 が挙げられる。これは、当該分野における同社の取り組みと情報開示レベルの高さを示すものである。
一方で、課題も明確になった。最大の課題は、GHG総排出量の大部分を占めるスコープ3、特にカテゴリ11(製品使用)とカテゴリ1(購入物品・サービス)の大幅な削減である 10。CDP気候変動スコアがB評価に留まっていること 19 は、目標達成に向けた実行力や情報開示の質に改善の余地があることを示唆する。資源循環においては、産業廃棄物リサイクル率の目標達成に向けたリサイクル困難物への対応 4、及び一般廃棄物のリサイクル率向上 17 が課題である。生物多様性分野では、「めぐる とまりぎ」事業の実効性検証と展開 23、持続可能な木材調達100%目標の達成に向けたサプライチェーン管理 4、TNFDに基づく具体的なリスク・機会評価と戦略への統合 4 が今後の焦点となる。
競合他社(特にESG先進企業である大和ハウス工業、積水ハウス、大手デベロッパー)との比較においては、大東建託は特定の分野で先進性を示す一方で、総合的な環境パフォーマンス、特に気候変動対応の実行度や情報開示の網羅性・具体性においては、依然としてギャップが存在する可能性が示唆された。
本分析から得られた、大東建託の環境スコアリング向上と将来戦略策定に向けた主要なインサイトは以下の通りである。
気候変動スコア改善の優先度: 環境スコア全体を引き上げるためには、CDP気候変動スコアをB評価からA/A-評価へと改善することが急務である。そのためには、スコープ3排出量の網羅的な把握と削減策(特にカテゴリ1と11)を具体化し、サプライチェーン全体での協働を強化すること、そしてTCFD提言に基づく情報開示、特に戦略、リスク管理、指標と目標に関する具体性と定量性を大幅に向上させることが鍵となる。
ZEH/LCCM推進の戦略的重要性: ZEH/LCCM賃貸住宅の供給拡大は、最大の排出源であるスコープ3カテゴリ11削減に直結するだけでなく、市場における競争優位性確保と新たな事業機会の創出にもつながる最重要戦略である。新築における普及加速はもちろん、既存ストックの環境性能向上(グリーンリフォーム)にも注力し、ライフサイクル全体での炭素排出量削減を追求すべきである。
資源循環と生物多様性の価値創造機会: これら2分野は、単なるリスク管理の対象ではなく、新たな事業価値を創造する機会を提供する領域である。資源循環では、リサイクル率目標達成に向けた技術開発投資やサプライヤー連携が、コスト削減と環境負荷低減に貢献する。生物多様性では、「めぐる とまりぎ」のような取り組みが、顧客への付加価値提供やブランドイメージ向上につながる可能性がある。これらの取り組みの実効性を科学的根拠に基づき測定・評価し、その結果を積極的に開示することが重要である。
サプライチェーン・マネジメントの深化: EcoVadisの活用 22 を足掛かりとし、サプライチェーン全体を巻き込んだサステナビリティ推進体制をさらに深化させることが、スコープ3排出量削減、資源循環の促進、持続可能な原材料調達、さらには人権尊重といった、広範なESG課題への対応力を高める上で不可欠である。サプライヤーとの目標共有、能力構築支援、パフォーマンス評価に基づくインセンティブ設計などを検討すべきである。
大東建託は、環境分野において着実な進歩を遂げているが、業界トップランナーとの比較や国際的な要請の高まりを踏まえると、さらなる野心的な目標設定、実行力の強化、そして透明性の高い情報開示が求められる。本レポートで示された課題と推奨事項に取り組むことが、同社の持続的な企業価値向上に貢献するものと期待される。