現代社会において、地球環境問題への対応は、あらゆる産業にとって喫緊の課題となっている。特に、国際貿易の根幹を支える海運業界は、その活動が地球規模の環境、とりわけ気候変動、資源循環、そして生物多様性に与える影響の大きさから、厳しい視線に晒されている。国際海事機関(IMO)による温室効果ガス(GHG)排出削減目標の強化 1 や、海洋プラスチック汚染、バラスト水による生態系攪乱といった問題は、海運企業に対し、より積極的かつ具体的な環境対策を求めている。
このような背景の下、企業の非財務情報、特に環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)に関するESG要素は、投資家や金融機関、さらには荷主や消費者といったステークホルダーが企業価値を評価する上で、その重要性を急速に増している 3。海運企業にとっても、環境パフォーマンスの向上と透明性の高い情報開示は、持続的な成長と競争力維持のための必須要件となりつつある。
本レポートは、日本の大手海運企業である株式会社商船三井(Mitsui O.S.K. Lines, Ltd.、以下、商船三井)に焦点を当て、同社の環境への取り組みとパフォーマンスを包括的に分析することを目的とする。特に、「気候変動対策」、「資源循環」、そして「生物多様性保全」の三つの分野における具体的な活動、目標、実績を詳細に検証する。さらに、これらの取り組みに伴う潜在的なリスクと事業機会、業界内での比較、競合他社の動向、そして外部評価機関によるスコアリングを分析し、商船三井の環境パフォーマンスに関する学術的レベルでの評価を行う。最終的には、同社の環境スコア算出に資する詳細な情報を提供するとともに、今後の課題と戦略的な方向性についての洞察を示すことを目指す。
本分析は、前述の通り「気候変動対策」、「資源循環」、「生物多様性保全」の三つの主要分野を軸に進める。レポートの構成としては、まず第2章で、商船三井がこれら各分野で展開している具体的な環境戦略、目標、施策、そして実績について詳述する。第3章では、これらの環境要因が同社の事業にもたらす潜在的なリスク(規制、市場、物理的、評判リスク等)と、新たなビジネスチャンスについて分析を行う。
続く第4章では、海運業界全体に視野を広げ、環境分野における先進的な取り組み(ベストプラクティス)を紹介するとともに、主要な競合他社(Maersk, CMA CGM, Hapag-Lloyd, COSCO, ONE, Evergreen等)を特定し、それらの企業の環境戦略、パフォーマンス、そして外部評価機関による環境スコアを比較・分析することで、商船三井の相対的な位置づけを明らかにする。
第5章では、これまでの分析を踏まえ、商船三井が現在直面している主要な環境課題を評価し、将来に向けて同社が注力すべき戦略的な提言を行う。最後に第6章で、分析結果全体を総括し、結論を述べる。
分析にあたっては、商船三井が発行する統合報告書「MOLレポート」 5、サステナビリティ関連資料「Sustainability Fact Book」 12、公式ウェブサイト上のサステナビリティ情報 15、ニュースリリース 6 を主要な情報源とする。加えて、CDP 24 やSustainalytics 35 といった第三者評価機関による評価データ、業界レポート、関連ニュース記事なども参照し、多角的かつ客観的な分析を試みる。なお、本レポートでは、表、箇条書き、リスト形式を一切用いず、全てのデータや比較結果は文章形式で記述するという形式的制約に従う。
商船三井グループは、サステナビリティを経営戦略の中核に据え、事業活動を通じて社会課題の解決と企業価値向上を目指す姿勢を明確にしている 15。特に環境分野においては、「商船三井グループ 環境ビジョン2.2」 15 を策定し、気候変動対策、資源循環、生物多様性保全を含む包括的な取り組みを推進している。
海運業にとって気候変動問題への対応は避けて通れない喫緊の課題であるとの認識の下 36、商船三井は野心的な目標を設定し、多岐にわたる具体的なアクションプランを実行している。
商船三井は、「商船三井グループ 環境ビジョン2.2」において、グループ全体のGHG排出量に関し、2050年までにネットゼロ・エミッションを達成するという最終目標を掲げている 21。この目標達成は、Scope1, 2, 3の全ての排出量を対象とし、2050年時点での残存排出量を2019年比で10%以下に抑制した上で、後述するネガティブ・エミッション技術等による除去・吸収量と中立化させることで実現を目指すものである 21。
この長期目標達成に向けたマイルストーンとして、複数の中間目標が設定されている。具体的には、2035年までに輸送単位当たりのGHG排出原単位(Intensity)を2019年比で約45%削減すること 21、そして2030年までにScope1およびScope2におけるGHG排出総量を2019年比で23%削減することが定められている 14。年間での削減目標としては、GHG排出原単位を2019年起点で毎年1.4%削減することも短期目標として掲げられている 37。
これらの目標に対する進捗状況を見ると、2023年度の実績として、GHG排出原単位は基準年である2019年比で7.2%の削減を達成した 21。また、Scope1およびScope2のGHG排出総量については、同期間で10%の削減を達成している 14。年間削減ペースとしては、2022年度実績で対基準年比4.97%削減、年率換算で1.66%削減と報告されており、短期目標の達成水準にあることが示唆されている 37。しかしながら、特に2035年の原単位削減目標(45%削減)と比較すると、現状の実績(7.2%削減)との間には依然として大きな隔たりが存在する。これは、目標達成の難易度の高さを示すと同時に、燃料価格の変動や世界経済の動向といった外部要因、さらには代替燃料技術の導入ペースやコストといった内部要因が複雑に影響している可能性を示唆している。目標達成には、今後さらなる取り組みの加速と、計画の着実な実行が不可欠である。
なお、サプライチェーン全体での排出量を示すScope3排出量についても、同社はデータを開示し、第三者機関による認証を受けている点は評価されるべき側面である 36。ただし、Scope3排出量に関する具体的な削減目標や詳細な取り組み内容については、現在策定中であり 36、今後の開示内容が注目される。これは、Scope3排出量の算定と削減の複雑さ、そしてサプライヤーや顧客との連携の重要性を示している。
GHG排出削減目標の達成に向け、商船三井は船舶燃料の転換を最重要戦略の一つと位置づけ、多様なクリーン代替燃料の導入をポートフォリオアプローチで推進している 14。特定の燃料に依存するリスクを避け、将来の技術動向や市場環境の変化に柔軟に対応する狙いが見て取れる。
現在実用可能な低排出燃料としては、液化天然ガス(LNG)の活用を積極的に進めている 36。LNGは従来の重油と比較してCO2排出量を約20-25%、SOx排出量をほぼ100%、NOx排出量を約80%削減できるとされ、カーボンバジェットへの貢献が期待される 38。同社は既に自動車船、大型ばら積み船、フェリー 36、タグボート 36 など多様な船種でLNG燃料船の導入を進めており、2023年度末時点で37隻のLNG燃料船を運航している 14。2030年までにLNG燃料船とメタノール燃料船を合わせて90隻整備するという目標に向け、着実な進捗を示している 14。
メタノール燃料についても、次世代燃料の一つとして導入を進めている。メタノールは常温常圧で液体であり、既存のインフラを比較的活用しやすい利点がある。商船三井は2023年度末時点で1隻のメタノール燃料船を運航しており 14、今後も導入を拡大していく方針である。
さらに将来のゼロエミッション燃料として、アンモニアと水素に大きな期待を寄せ、早期から研究開発やサプライチェーン構築に関与している。アンモニアについては、燃焼時にCO2を排出しない特性から有力な候補とされており、燃料としての利用検討に加えて、その生産、輸送、貯蔵、供給といったサプライチェーン全体への参画を目指している 14。具体的な動きとして、アンモニアを燃料とする外航液化ガス輸送船の設計基本承認(AiP)を取得 38 したほか、世界初となるアンモニア燃料のケープサイズバルカーおよびケミカルタンカー計9隻の整備計画を発表している 6。これらの取り組みを通じて、ネットゼロ・エミッション外航船の第一号として、2028年頃のアンモニア燃料船の竣工・運航開始を目指している 38。シンガポールにおける舶用アンモニア燃料サプライチェーンの共同開発にも参画しており 36、燃料供給体制の構築にも布石を打っている。
水素に関しても、同様に将来のゼロエミッション燃料と位置づけ、関連プロジェクトへの関与を進めている。液化水素の海上輸送技術の開発や、水素生産プロジェクトへの参画 14、さらには水素とバイオ燃料で推進する内航旅客船の開発 38 などが挙げられる。
既存の船舶エンジンでも使用可能なドロップイン燃料として、バイオ燃料の活用も推進している。持続可能な原料から製造されたバイオ燃料は、ライフサイクルでのCO2排出量を大幅に削減できる可能性がある。商船三井は、大手資源会社BHPと共同でケープサイズバルカーへのバイオ燃料補油を実施 15 したほか、シンガポールでは自動車船への供給実績もある 38。
これらの多様な代替燃料導入の取り組みにもかかわらず、2030年に5%とするゼロ・エミッション燃料の使用割合目標に対し、2023年度の実績は、国際認証スキーム等の条件を満たすバイオディーゼル利用量を含めても0.4%に留まっている 21。これは、LNGを除く次世代燃料の供給量、コスト、そして燃料供給インフラの整備が依然として発展途上であり、本格的な普及には多くの課題が残されていることを示唆している。商船三井の多角的なアプローチは、これらの不確実性に対するリスクヘッジであると同時に、将来のエネルギー市場における主導権獲得に向けた長期的な投資戦略とも解釈できる。
燃料転換と並行して、商船三井は既存技術の改良や新技術の導入による省エネルギー化にも注力している。その代表例が、独自に開発を進める硬翼帆技術「ウインドチャレンジャー」である 14。これは、伸縮・回転可能な帆で風力を捉え、船舶の推進力を補助するもので、帆1本当たり5~8%のGHG削減効果が見込まれている 40。商船三井はこの技術を旗印とし、船舶における風力利用のリーディング・ポジションを目指しており 38、2030年までに25隻、2035年までに80隻への搭載という野心的な目標を掲げている 14。2024年7月時点で、石炭船1隻、ドライバルク運航船6隻を含む合計9隻への搭載が決定しており 21、実用化に向けた動きが進んでいる。
また、グループ会社の商船三井テクノトレードが販売するプロペラ装着型省エネ装置「PBCF(Propeller Boss Cap Fins)」も重要な技術要素である。プロペラ後方の渦流を整え、推進効率を向上させることで燃料消費量を削減するこの装置は、GHG削減効果に加えて、水中騒音を低減する効果も水槽実験で確認されている 41。この二重の効果は、気候変動対策と生物多様性保全という複数の環境課題に同時に貢献する統合的なアプローチの好例と言える。PBCFは累計販売数でギネス世界記録™に認定され 42、日本の環境技術賞も受賞するなど 42、その効果と実績は広く認められている。
その他にも、船体への低摩擦塗料の採用による抵抗削減 43 や、空気潤滑システム、ローターセイル、バントフォイルといった多様な省エネ技術の導入検討も進められている 14。これらの技術開発・導入は、燃料消費量、ひいてはGHG排出量を削減するための重要な手段であり、燃料転換への過渡期においても継続的な効果が期待される。特にウインドチャレンジャーのような自社開発技術への注力は、技術的優位性の確保と将来の差別化に繋がる可能性がある。
最新技術の導入だけでなく、日々の船舶運航における効率改善もGHG排出削減に不可欠な要素である。商船三井は、「効率運航深度化専門チーム」の設置や、社内横断的なプロジェクトチームを組成し、運航効率のさらなる向上に取り組んでいる 36。
その中核となるのが、運航船から得られるIoTデータを活用した「FOCUSプロジェクト」である 36。このプロジェクトでは、船舶のリアルタイムデータを陸上からモニタリング・分析し、最適な運航計画の策定や燃費性能の評価を行うことで、運航の効率化と最適化を追求している。これにより、無駄な燃料消費を抑制し、GHG排出量の削減を目指している。
具体的な運航上の工夫としては、「ECO SAILING」として体系化されたアプローチが取られている 44。これには、最も経済的な速度での航行(減速航行)、気象・海象予測情報を活用した最適な航路選択、船舶の喫水状態を最適化するトリム調整、船体付着物による抵抗を減らすための適切な船体清掃、エンジンや補機の最適な運転・保守などが含まれる 44。
これらの取り組みの成果は、燃費効率の改善目標に対する実績にも表れている。2025年までに2019年比で5%の燃費効率改善を目指す目標に対し、2023年度には既に6.9%の改善を達成しており、目標を前倒しでクリアしている 14。これは、デジタル技術の活用と地道な運航改善努力が着実に成果を上げていることを示唆している。データに基づいた継続的な改善サイクルを確立することが、今後のさらなる効率向上に繋がるだろう。
商船三井は、自社のバリューチェーン内での排出削減努力(Scope1, 2, 3の削減)に加えて、大気中のCO2を能動的に除去・貯留するネガティブ・エミッション(Carbon Dioxide Removal: CDR)技術の普及拡大を支援する取り組みも開始している 20。これは、パリ協定の1.5℃目標達成にはCDRが不可欠であるとの科学的知見 20 や、海運業のような脱炭素化が困難(Hard-to-abate)なセクターにおいて、2050年ネットゼロ目標達成のためには残存排出量の相殺が必要になる 21 という認識に基づいている。同社はこれを「バリューチェーンを超えた緩和(Beyond Value Chain Mitigation: BVCM)」と位置づけ、早期から積極的に関与する姿勢を示している 20。
CDRへのアプローチとしては、自然の生態系を活用する「自然ベース」の手法と、工学的な技術を用いる「技術ベース」の手法の両方を推進している 20。
自然ベースの取り組みの代表例が、インドネシア南スマトラ州におけるマングローブの再生・保全を目的としたブルーカーボン・プロジェクトへの参画である 14。このプロジェクトは、ワイエルフォレスト社との共同事業であり、約14,000ヘクタールの既存マングローブ林の保全(約500万トンのCO2排出抑制効果)と、約9,500ヘクタールの裸地への新規植林(約600万トンのCO2吸収・固定効果)を30年間にわたって行う計画である 20。さらに、シルボフィッシャリー(マングローブ林内での持続可能な水産養殖)の導入を通じて、地域住民の生計向上や生物多様性保全にも貢献することを目指している 31。このプロジェクトは、国際的なカーボンクレジット基準であるVerraによる認証取得も目指している 31。また、丸紅と共同で自然ベースの吸収・除去系カーボンクレジット事業を行う新会社設立にも合意しており 20、中南米地域を対象とする森林ファンドへの出資も決定している 20。
技術ベースの取り組みとしては、海洋からのCO2直接回収(Direct Ocean Capture: DOC)技術に注目している。2025年3月には、世界初となるDOC由来の技術ベースCO2除去クレジットの購買契約を締結し、この新技術の普及に貢献する姿勢を示した 15。また、NextGen CDR Facilityの設立バイヤーやFirst Movers CoalitionのCDRセクターメンバーとして、技術ベースCDRクレジットの購入コミットメントも行っている 20。さらに、関西電力との間でカーボンクレジット事業に関する協業検討の覚書を締結するなど 20、多様なパートナーシップを通じて技術ベースCDRの展開を図っている。
これらの積極的な動きにもかかわらず、2030年までの累計で220万トンの吸収・除去系カーボンクレジットを使用するという目標に対し、2023年度時点での実績は0トンとなっている 14。これは、CDRプロジェクト、特に自然ベースのものは立ち上がりに時間を要することや、技術ベースのものはまだコストが高く市場が未成熟であることなどを示唆している。しかし、多数のプロジェクトへの参画やパートナーシップ締結は、将来の目標達成に向けた重要な布石であり、商船三井がCDRをネットゼロ戦略の重要な一部と捉えていることの表れと言える。
商船三井は、環境ビジョンの中で資源循環にも言及しており 45、船舶運航や陸上業務における廃棄物管理、リサイクルの推進、資源効率の向上に取り組んでいる。ただし、気候変動対策と比較すると、資源循環分野における包括的な戦略や具体的な数値目標の開示は限定的である。
船舶は、船員の生活の場であり、また貨物輸送に伴う様々な活動が行われるため、多種多様な廃棄物が発生する。商船三井は、国際条約であるMARPOL条約附属書V(船舶からの廃棄物による汚染の防止のための規則)を遵守し、船上で発生する廃棄物の適正な管理・処理体制を構築している 41。
具体的には、各船舶に「船内廃棄物管理計画(Garbage Management Plan)」を策定し、廃棄物管理者を任命して、全乗組員への周知徹底を図っている 41。船内で発生する廃棄物は、プラスチック類、食品くず、調理油、焼却炉灰、貨物残さ、動物死骸、漁具などに分別され、それぞれ規定された方法で処理・処分される。特に、プラスチックごみは海洋への排出が全面的に禁止されており、焼却する場合を除き、全て陸上の受入施設に引き渡すことが義務付けられている 41。食品くずについては、細かく粉砕した上で、陸地から規定の距離以上離れた海域でのみ排出が許可されている 41。
燃料油の使用に伴って発生する廃油(油性残留物、スラッジ)についても、専用タンクで水分を除去した後、MARPOL条約の基準を満たす船内焼却炉で焼却するか、陸上施設に引き渡して適正に処理している 41。また、エンジンルーム等で発生する油性ビルジ(油分を含む汚水)は、油水分離装置を通して油分濃度を規制値以下にした上で排出するか、廃油と同様に処理する必要がある。商船三井は、ビルジの発生源を特定し、油分の有無に応じて回収・処理する「ビルジ発生源分離方式」システムを導入し、より適切な管理を目指している 41。
グループ会社の商船三井フェリー(現・商船三井さんふらわあ)が運航する旅客フェリーにおいても、船内で発生する廃棄物の分別収集を励行している 47。陸上のオフィスにおいても、一般的なオフィスと同様に、ごみの分別、省エネルギータイプのOA機器の使用、リサイクル文房具の利用推進、不要時の消灯・電源オフといった取り組みを行っている 47。
これらの取り組みは、主に国際条約や国内法の遵守を目的とした標準的な廃棄物管理策である。廃棄物の発生量そのものを削減するための具体的な数値目標(例えば、廃棄物発生量の原単位削減目標や、ゼロ・ウェイスト目標など)や、3R(リデュース、リユース、リサイクル)を推進するための革新的な施策に関する情報は、提供された資料からは限定的である。資源循環の観点からは、規制遵守に留まらず、より積極的な削減目標の設定と取り組みの深化が今後の課題となりうる。
廃棄物の適正処理に加えて、商船三井はリサイクルの推進にも取り組み始めている。特に注目されるのが、プラスチックのリサイクルに関する先進的な試みである。同社は、出光興産と共同で、船舶から発生する使用済みプラスチックを原料とした油化ケミカルリサイクルの実証実験を開始した 25。この取り組みは二つの側面を持つ。一つは、商船三井が運航する大型原油タンカー(VLCC)「SUZUKASAN」内で発生する生活ごみ由来の使用済みプラスチックを回収し、出光興産の技術を用いて油に戻し、石油化学製品や燃料油の原料として再利用する可能性を探るものである 25。もう一つは、港湾等に設置した海洋浮遊ゴミ回収装置「Seabin」 14 などで回収された海洋プラスチックごみを同様に油化し、再資源化する試みである 26。これらの実証実験は、これまで有効なリサイクル手法が限られていた船舶由来・海洋由来のプラスチック廃棄物に対し、高度な資源循環(サーキュラーエコノミー)を実現する可能性を秘めており、海洋プラスチック問題解決への貢献も期待される先進的な取り組みとして評価できる。ただし、現時点では実証段階であり、技術的な確立、コスト効率、そして商業ベースでのスケールアップが今後の課題となる。
もう一つの重要なリサイクル分野が、船舶そのものの解撤(解体)プロセスであるシップリサイクルである。船舶は鉄鋼などの資源を大量に含んでいるが、その解撤プロセスにおいては、労働者の安全衛生や環境汚染(アスベスト、PCB、残留油等の有害物質)のリスクが指摘されてきた。この問題に対応するため、IMOでは「2009年の船舶の安全かつ環境上適正な再資源化のための香港国際条約(通称:香港条約)」が採択され、必要な批准国数を満たしたことから2025年6月26日に発効することが決定している 48。商船三井は、この香港条約を遵守し、環境負荷の少ない安全な船舶解撤を推進する方針を示している 14。具体的な取り組みとして、解撤を依頼するヤードが条約の要件を満たしているかを確認・選定することが重要となる。同社の統合報告書では、サプライチェーン管理の一環として、シップリサイクルヤードの選定基準に言及している箇所もあるが 11、その詳細な基準や運用状況に関する情報は限定的である。香港条約の発効を見据え、条約基準を遵守するだけでなく、可能であればそれを上回る独自の基準を設定し、サプライヤーである解撤ヤードに対する監査やエンゲージメントを強化していくことが、責任ある資源循環の観点から求められるだろう。
資源循環の概念には、廃棄物の削減やリサイクルだけでなく、資源そのものの利用効率を高めることも含まれる。海運業において最も重要な資源の一つは燃料であり、その効率的な利用は、GHG排出削減と資源保全の両面に貢献する。前述の通り、商船三井は燃費効率の改善目標(2025年までに2019年比5%改善)を設定し、2023年度には6.9%の改善を達成している 14。これは、運航効率の改善 36 や省エネルギー技術(ウインドチャレンジャー、PBCF等)の導入 37 による成果であり、エネルギー資源の効率化に対する明確な取り組みと実績を示している。
一方で、燃料以外の資源、例えば水資源の利用効率化や、船舶建造・保守に使用される資材の削減・効率化に関する具体的な目標や取り組みについては、提供された資料からは情報が限定的である。例えば、競合であるMaerskは、サステナビリティデータとして水消費量を開示している例もある 51。商船三井においても、今後はエネルギー効率だけでなく、水やその他のマテリアルに関する資源効率化の目標設定やデータ開示を進めることが、より包括的な資源循環への貢献を示す上で重要となる可能性がある。
商船三井は、事業活動の基盤である海洋環境の保全、特に生物多様性の保護を重要な課題と認識し、「商船三井グループ 環境憲章」 52 や「環境ビジョン2.2」 21 においてもその重要性を明記している。具体的な取り組みは、船舶運航に伴う直接的な影響の低減策と、生態系保全プロジェクトへの支援・関与の両面から進められている。
船舶は、貨物の積載状況に応じて船体の安定性を保つために海水(バラスト水)をタンクに取り込んだり排出したりする。この過程で、バラスト水と共に海洋生物(プランクトン、幼生、細菌等)が意図せず別の海域へ運ばれ、侵入先の生態系に悪影響を及ぼすリスクがある 41。この問題に対処するため、IMOは「バラスト水の管理及び制御並びに船舶によるバラスト水の交換のための国際条約(バラスト水管理条約)」を2004年に採択し、2017年に発効させた 41。同条約は、船舶に対し、バラスト水中の生物を処理するためのバラスト水処理装置(BWMS)の搭載等を義務付けている。
商船三井は、この規制動向を早期に捉え、条約発効に先立つ2014年度には、保有・管理する船舶にBWMSを搭載する全社方針を決定した 41。メーカー等と協力してBWMSの開発にも関与し、計画的に搭載を進めてきた結果、2024年中にはグループの全保有船への搭載が完了する見込みである 14。2022年末時点での搭載率は既に97%に達しており 14、条約要件の遵守を超えた迅速な対応は、生物多様性保全への高い意識を示すものとして評価できる。
同様に、船舶の船体や海中構造物に付着する生物(フジツボ、貝類、藻類等)が、船舶の移動に伴って異なる海域へ運ばれ、外来種として生態系を攪乱するリスク(バイオファウリング問題)も指摘されている。IMOでは、この船体付着生物の管理に関するガイドラインが採択されており、現在その改正に向けた議論が進められている 41。商船三井は、業界団体を通じてこれらの議論に積極的に関与し、実用性や効果的な対策の観点から意見を述べ、国際的な指針づくりに貢献している 41。具体的な対策としては、生物が付着しにくい特殊な船底塗料(低摩擦・防汚塗料)の使用 43 や、定期的な船体清掃が挙げられる。これらの対策は、燃費効率の向上(抵抗削減)にも繋がるため、経済性と環境保全の両立に資する取り組みである。
近年、船舶が航行中に発生させる水中騒音が、クジラやイルカといった音に敏感な海洋哺乳類のコミュニケーションや採餌行動、繁殖活動を妨げるなど、その生活環境に悪影響を与えている可能性が専門家の研究により指摘され、新たな環境問題として認識されるようになってきた 41。IMO等においても、この問題に関する議論が進められている 41。
商船三井は、この水中騒音問題に対しても早期から対応に着手している。前述のプロペラ装着型省エネ装置「PBCF」は、推進効率向上によるGHG削減効果だけでなく、プロペラ周りのキャビテーション(気泡発生)を抑制することで、水中騒音を低減する効果があることが水槽実験で確認されている 41。この効果が認められ、PBCFはカナダのバンクーバー港やプリンスルパート港が実施している環境保全プログラムにおいて、水中騒音低減に貢献する技術として認定を受けている 41。省エネルギーと騒音低減という二つの便益を同時に提供できる点は、技術的な強みと言える。
ただし、水中騒音対策はまだ発展途上の分野であり、PBCFのような装置の導入に加えて、船舶の設計段階での静粛化(エンジンや船型の工夫)、あるいはクジラの生息域など特定の海域における運航方法の工夫(減速航行など)といった、より包括的なアプローチの検討も将来的には重要となる可能性がある。後述する鯨類との衝突回避策とも関連する課題である。
商船三井は、自社の事業活動による環境負荷を低減する取り組みに加え、社会貢献活動「BLUE ACTION for ALL」 29 の一環として、具体的な海洋生態系の保全・再生プロジェクトへの関与や支援を積極的に行っている。これは、単なる資金提供に留まらず、自社のリソースや知見を活用し、パートナーシップを通じて課題解決に貢献しようとする姿勢を示している。
特筆すべきは、インドネシア南スマトラ州で実施しているマングローブ再生・保全プロジェクトである 14。これは、CDR(ブルーカーボン)の取り組みであると同時に、マングローブ生態系が持つ高い生物多様性を保全・回復させることを目的としている。約23,500ヘクタールという広大な対象面積を持ち、植林・保全活動に加えて、シルボフィッシャリーの導入による地域社会の持続可能性向上も目指す、統合的なプロジェクトである 20。
また、2020年にモーリシャス沖で発生した同社チャーター船「WAKASHIO」の油濁事故 28 を契機に、モーリシャス共和国における自然環境回復・保全と地域社会への貢献活動を継続的に実施している 28。その一環として、現地の慈善団体カリムジー・ファウンデーションと連携し、事故の影響を受けた可能性のある海域におけるサンゴ礁の回復プロジェクトを支援している 28。このプロジェクトでは、サンゴの移植、生育基盤となる人工構造物の設置、海草の増殖に関する研究などが行われている 32。国内においても、サンゴの生態や気候変動の影響について学ぶ子供向けの体験イベントを開催し、次世代の環境意識向上に努めている 29。
絶滅危惧種であるアカウミガメの保護にも貢献している。名古屋港水族館が実施するアカウミガメの回遊経路調査に対し、同社の自動車船による海上輸送協力を行っている 29。この調査は、ウミガメの生態解明と効果的な保護策の立案に繋がることが期待される。鯨類との衝突回避に関しても、世界海運評議会(WSC)の保護プロジェクトへの参加が競合他社の事例として見られるように 53、業界全体での情報共有や技術開発が重要となる。
深刻化する海洋プラスチック問題に対しても、複数のアプローチで取り組んでいる。NPO法人と協働し、小中高生を対象とした海洋プラスチックごみの回収・調査イベントを開催し、環境教育の機会を提供している 29。また、三浦工業と共同でマイクロプラスチック回収装置を開発し、航行中に常時回収可能な新型装置を船舶に搭載する取り組みも進めている 14。さらに、港湾での浮遊ゴミ回収を目的とした自動回収装置「Seabin」の設置支援も行っている 14。
その他にも、過去の海難事故を教訓とした鹿島灘での海岸清掃活動の継続実施 29、国内外のグループ拠点における地域清掃活動の推進 29、社員食堂で食害魚(藻場を食い荒らす魚)を積極的に利用することによる藻場保全への間接的な貢献 29、琉球大学などが進める海洋生物多様性ビッグデータ活用プロジェクトへの協力 54 など、多岐にわたる活動を展開している。
これらの活動は、商船三井が海洋環境と生物多様性の保全を事業活動と切り離せない重要な要素と捉え、多様なステークホルダーと連携しながら具体的な行動を起こしていることを示している。特に、自社の事業と関連の深い生態系(マングローブ、サンゴ礁)への直接的な投資や、事故からの教訓を活かした長期的な支援は、企業の責任ある姿勢を示すものとして評価される。
生物多様性保全の基盤となるのは、海洋汚染そのものを防止することである。商船三井は、船舶からの油濁事故リスクを低減するため、国際条約(MARPOL条約)で義務付けられている燃料油タンク及びタンカー船体の二重構造化(ダブルハル)を遵守している 41。
また、前述の廃棄物管理(2.2.1項)におけるプラスチック類、廃油、ビルジ等の適正な処理・管理は、海洋環境への汚染物質排出を防止するための基本的な取り組みである 41。
2020年のモーリシャスでの油濁事故は、予防策の重要性と事故発生時の影響の甚大さを改めて示す出来事であった 28。この事故を受け、商船三井は安全運航体制の一層の強化を図るとともに、モーリシャス自然環境基金などを通じて、長期的な環境回復と地域社会への支援を継続している 28。事故からの学びを組織全体で共有し、再発防止と環境保全への意識向上に繋げている。
さらに広義の海洋汚染防止としては、有害液体物質(化学薬品等)の輸送における安全管理の徹底や、船舶から排出される大気汚染物質(SOx、NOx)が海洋酸性化等を通じて海洋環境に与える影響への配慮も含まれる。SOx排出原単位の削減目標 14 は、主として大気汚染防止策であるが、結果的に海洋環境の保全にも寄与する側面を持つ。
商船三井をはじめとする海運企業は、気候変動、資源制約、生物多様性の損失といった地球規模の環境課題から直接的・間接的に大きな影響を受ける。これらの環境要因は、事業継続上のリスクとなる一方で、新たな技術革新や市場創出の機会ともなり得る。TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言 34 なども踏まえ、リスクと機会の両側面を適切に評価し、経営戦略に統合することが求められている。
海運業界に対する環境規制は、国際的にも地域的にも強化される傾向にある。これが商船三井にとって最も直接的かつ重大なリスクの一つである。
国際海事機関(IMO)は、国際海運からのGHG排出削減に向けて段階的に規制を強化している。既に導入されているエネルギー効率設計指標(EEDI)や既存船エネルギー効率指標(EEXI)、そして2023年から開始された燃費実績の格付け制度(CII) 14 は、船舶の設計や運航に直接的な影響を与えている。特にCIIについては、格付けが低い船舶に対する改善措置が求められ、将来的には運航制限に繋がる可能性も指摘されている。さらに、IMOは2023年にGHG削減戦略を改定し、「2050年頃までにGHG排出ゼロ」という野心的な目標を採択した 1。この目標達成のため、現在、GHG排出量に応じて課金を行う市場メカニズム(炭素課金)や、船舶燃料のGHG強度を段階的に引き下げる燃料基準といった「中期対策」の導入が検討されており、2025年の採択、2027年の発効を目指して議論が進められている 2。これらの新たな規制が導入されれば、低性能な既存船の競争力は著しく低下し、代替燃料船への転換や省エネ改修のための莫大な投資が必要となる。運航コストも大幅に増加する可能性があり、事業の収益性を圧迫するリスクとなる。商船三井は、これらの規制動向を注視し、TCFD提言に基づく開示の中でリスク分析を行っている 37。
地域レベルでも規制強化の動きがある。欧州連合(EU)は、既に海運セクターをEU排出量取引制度(EU-ETS)の対象に含めており、EU域内を発着する船舶は排出枠の購入が必要となっている 37。米国においても、中国製の船舶や港湾クレーンに対する追加関税や入港料賦課といった措置が検討されており 56、地政学的な要因と絡み合って特定の航路や船隊構成に影響を与える可能性がある。
GHG関連以外にも、バラスト水管理条約に基づくBWMS搭載義務 41、2025年に発効するシップリサイクル香港条約への対応 48、SOx・NOx排出規制海域(ECA)の拡大 2 など、遵守すべき環境規制は多岐にわたる。これらの規制への対応コストは継続的に発生し、違反した場合には罰金や運航停止といった厳しい措置が科されるリスクがある。規制動向を正確に把握し、計画的に対応していくことが極めて重要である。
環境規制の強化や社会全体の環境意識の高まりは、海運市場の構造そのものを変化させる可能性がある。
代替燃料への移行は、新たな市場リスクを生み出す。LNG、メタノール、アンモニア、水素といった候補燃料は、それぞれ技術的な課題、コスト、供給安定性、インフラ整備状況が異なる 37。将来どの燃料が主流となるか見通しが不透明な中で、特定の燃料技術への投資が将来的に陳腐化するリスク(座礁資産化リスク)が存在する。また、燃料価格の変動性や供給量の不安定さが、運航コストやサービスの安定供給に影響を与える可能性もある。商船三井が多様な燃料オプションを追求するポートフォリオ戦略 21 を採用しているのは、この市場リスクを分散する意図があると解釈できる。
荷主側の変化も大きなリスク要因である。多くのグローバル企業が自社のサプライチェーン全体でのカーボンニュートラル目標を掲げる中、輸送過程での排出量削減に対する要求はますます強まっている 37。低排出・ゼロ排出輸送サービスを提供できない海運企業は、環境意識の高い荷主から敬遠され、顧客を失うリスクがある。また、環境性能を理由とした価格競争が激化する可能性も考えられる。
エネルギー市場の構造転換も、海運需要に直接的な影響を及ぼす。世界的な脱炭素化の流れの中で、石炭、石油、そして将来的にはLNGといった化石燃料の輸送需要は、中長期的に減少していく可能性が高い 37。商船三井の事業ポートフォリオにおいて、これらのエネルギー輸送が占める割合は依然として大きく、需要減少は収益への直接的な打撃となり得る。一方で、洋上風力発電設備の部材や、アンモニア、水素といった次世代エネルギーの輸送需要が増加するという機会も存在するが、この需要シフトに適切に対応できるかが鍵となる。
新技術への投資自体もリスクを伴う。ゼロエミッション船やウインドチャレンジャーのような革新的な技術は、開発・導入に多額の費用を要するが、期待通りの性能を発揮できない、あるいは予期せぬ技術的問題が発生する可能性がある 37。また、技術開発のスピードは速く、導入した技術が短期間で陳腐化してしまうリスクも考慮する必要がある。
気候変動の進行は、異常気象の激甚化や頻発化をもたらし、海運事業に直接的な物理的リスクをもたらす。
台風やハリケーンの強大化、発生頻度の増加は、船舶の安全運航を脅かし、航行遅延や欠航の原因となる 37。嵐を避けるための迂回航路(避航)は、航海日数の増加と燃料消費量の増大を招き、運航コストを押し上げる 37。大規模な洪水や高潮は、港湾施設や周辺のインフラ(道路、鉄道、倉庫等)に甚大な被害を与え、物流機能の麻痺やサプライチェーンの寸断を引き起こす可能性がある 37。
気候パターンの長期的な変化もリスク要因となる。海面上昇は、低地の港湾施設の機能を脅かす可能性がある。干ばつによる河川水位の低下は、内陸水運や、パナマ運河のような重要航路の通航能力に影響を与える可能性がある 37。実際に、近年のパナマ運河の水位低下は、通航隻数の制限や追加料金の発生といった形で、国際海運に影響を及ぼしている。また、気候変動が農業生産パターンや資源の分布に変化をもたらせば、従来の輸送ルートや貨物需要が変動するリスクもある 37。
商船三井は、これらの物理的リスクに対し、安全運航支援センター(SOSC)による24時間365日体制での気象・海象情報のモニタリングと船舶への指示 37 や、船体構造の強化、航路計画の最適化、港湾インフラの耐候性評価といったソフト・ハード両面での適応策を講じている 37。しかし、気候変動の影響は今後さらに深刻化する可能性があり、リスク評価の高度化と事業継続計画(BCP)の継続的な見直し・強化が不可欠である。特に、貨物の種類や地域ごとの脆弱性を詳細に分析し、サプライチェーン全体でのレジリエンスを高める取り組みが重要となる 37。
環境問題に対する社会的な関心の高まりは、企業の評判(レピュテーション)に対するリスクも増大させている。
大規模な油濁事故や、規制基準を大幅に超える環境汚染物質の排出、あるいは環境関連法規の違反といった事象が発生した場合、企業の社会的信用は大きく失墜する。2020年のモーリシャス沖での油濁事故 28 は、事故そのものの環境影響に加え、企業の評判にも長期的なダメージを与え得ることを示した。事故後の対応の適切さも、評判を左右する重要な要素となる。
また、環境への取り組みを過剰にアピールする一方で実態が伴わない、いわゆる「グリーンウォッシング」に対する批判も厳しくなっている。実質的な進捗がないにも関わらず環境配慮を謳うことは、かえってステークホルダーからの信頼を損ない、長期的な企業価値を毀損するリスクがある。
さらに、自社の直接的な活動だけでなく、サプライチェーン全体における環境・社会問題への関与も、評判リスクとなり得る。例えば、環境基準や安全基準の低いシップリサイクルヤードを利用することや、燃料供給業者が環境破壊や人権侵害に関与している場合などが考えられる。サプライヤーに対するデューデリジェンスと、責任ある調達方針の徹底が求められる。
ESG投資の拡大に伴い、投資家や評価機関は企業の環境パフォーマンスをより厳格に評価するようになっている。低いESG評価は、資金調達コストの上昇や投資対象からの除外に繋がる可能性がある。顧客(荷主)や従業員も、企業の環境に対する姿勢を重視する傾向が強まっており、評判の低下は顧客離反や優秀な人材の獲得・維持の困難化にも繋がりかねない。透明性の高い情報開示と、実効性のある環境への取り組みを通じて、ステークホルダーからの信頼を維持・向上させることが、評判リスクを管理する上で不可欠である。
環境課題への対応は、リスク管理の側面だけでなく、新たな事業成長の機会をもたらす。商船三井は、脱炭素化やエネルギー転換といった世界的な潮流を捉え、積極的にビジネス機会を追求している。
エネルギー構造の転換は、従来の海運市場に変化をもたらす一方で、新たな市場を創出している。商船三井は、海運業で培った技術、ノウハウ、ネットワークを活かし、これらの成長市場へ戦略的に参入を図っている。
その筆頭が、次世代クリーンエネルギーのサプライチェーン構築である。アンモニアや水素は、将来のゼロエミッション燃料としてだけでなく、発電や工業用途での利用拡大が見込まれており、その生産、貯蔵、輸送、供給に関わる新たなインフラ需要が生まれる 37。商船三井は、アンモニア・水素の海上輸送技術の開発 38 に加え、生産・供給プロジェクトへの参画 36 も進めている。シナリオ分析に基づけば、2050年時点でのアンモニア・水素輸送関連事業の利益機会は、1.5℃シナリオ下で110億円に達すると試算されており 37、将来の重要な収益源として期待されている。
再生可能エネルギー分野、特に洋上風力発電市場の拡大も大きな事業機会である 37。洋上風力発電所の建設には、資材やタービンを運ぶ特殊船(WTIV: Wind Turbine Installation Vessel)、建設後の保守・メンテナンスを行う作業員輸送船(SOV: Service Operation Vessel)などが必要となる。また、発電された電力を陸上へ送るための海底ケーブル敷設船や、浮体式洋上風力発電設備の設置・曳航など、海事技術が不可欠な領域が多数存在する。商船三井は、これらのバリューチェーン各層への事業参画を目指し、既にSOVの保有・運航 7 や、台湾でのWTIV事業への出資などを実行している 37。IEA(国際エネルギー機関)の予測に基づくと、洋上風力発電市場は今後急拡大が見込まれ、商船三井の試算では、関連事業全体の利益機会は2050年時点で1.5℃シナリオ下で240億円に達する可能性がある 37。
二酸化炭素回収・利用・貯留(CCUS/CCS)技術の実用化が進めば、回収された液化CO2の輸送需要が生まれる 40。商船三井は、液化CO2専用船の開発を進めるとともに、オーストラリアの洋上CO2回収貯留ハブプロジェクト(deepC Store)への参画 40 など、CCSバリューチェーン全体での事業機会を追求している 14。
その他にも、新興国を中心に需要が見込まれる浮体式LNG貯蔵再ガス化設備(FSRU)事業 40 や、海洋温度差発電(OTEC) 40、電気自動車(EV)の普及に伴うリチウムや銅といった関連資源の輸送需要増加 37 など、脱炭素化・エネルギー転換に関連する多様な事業機会が存在する。商船三井は、これらの機会を捉え、従来の海運事業の枠を超えた「社会インフラ企業」への変革を目指している 7。この戦略的なポートフォリオ転換は、既存事業のリスクをヘッジし、持続的な成長を実現するための鍵となるだろう。
環境規制の強化と市場要求の変化に対応するためには、技術革新が不可欠である。商船三井は、代替燃料技術や省エネルギー技術の開発・導入を積極的に進めることで、競争優位性を確立しようとしている。
アンモニア燃料船 6 や水素燃料船 38 といったゼロエミッション船の技術開発で先行できれば、将来の市場において技術的リーダーシップを発揮し、他社との差別化を図ることが可能となる。同様に、独自開発の風力推進システム「ウインドチャレンジャー」 37 の実用化と普及が進めば、燃料消費量と排出量を削減できる高効率な船舶を提供でき、環境性能を重視する荷主からの評価を高めることができる。
デジタル技術の活用も競争優位性の源泉となり得る。「FOCUSプロジェクト」 36 のような運航データ分析システムを高度化させることで、さらなる運航効率の改善とコスト削減を実現できる。AIを活用した最適配船や燃費予測などの技術が進展すれば、より精度の高い運航管理が可能となり、収益性の向上に繋がる。
また、PBCF 41 のように、GHG削減効果に加えて水中騒音低減といった付加価値を持つ環境技術は、複数の環境課題への対応を求める市場のニーズに応えることができる。このような複合的な価値を提供できる技術は、企業のブランドイメージ向上にも貢献する。
技術革新には多額の投資とリスクが伴うが、成功すれば規制への適合コストを低減し、新たなサービス提供を可能にし、長期的な競争力を強化する機会となる。特に、ウインドチャレンジャーのような自社技術の開発・保有は、技術ポートフォリオの核となり得る。
企業の環境への取り組みは、資金調達の側面や資本市場での評価においても重要な機会を提供する。
近年、環境プロジェクトへの融資や、企業のサステナビリティ目標達成度に応じて金利等の条件が変動するサステナビリティ・リンク・ローン/リース、あるいはグリーンボンドといった「サステナブルファイナンス」の市場が急速に拡大している 57。商船三井は、独自の「サステナブルファイナンス・フレームワーク」を策定し 19、これに基づいて資金調達を行っている。例えば、ケミカルタンカーを対象とした本邦初のサステナビリティ・リンク・リース契約を締結し、環境目標の達成度に応じてリース料が減額される仕組みを導入している 19。このようなファイナンス手法を活用することで、環境投資に必要な資金を有利な条件で調達し、財務的な負担を軽減することが可能となる。
また、ESG投資家の増加に伴い、企業のESGパフォーマンスは投資判断における重要な要素となっている。CDP、Sustainalytics、MSCIといった評価機関による高いESG評価は、投資家からの信頼獲得と企業価値向上に直結する。商船三井は、CDP気候変動で最高評価の「Aリスト」を2年連続で獲得 24 し、Sustainalyticsからも「低リスク」の高い評価を得ている 35。さらに、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の国内株式運用機関から「優れたTCFD開示企業」として3年連続で選定され、高い評価を受けている 42。これらの外部評価は、同社の環境への取り組みと情報開示の質が市場から認められていることを示しており、投資家へのアピールやブランド価値向上に繋がる機会となる。
TCFD提言 34 に基づく積極的かつ透明性の高い情報開示は、気候変動に関連するリスクと機会を企業がどのように認識し、戦略に反映しているかをステークホルダーに示す上で不可欠である。商船三井は、TCFDコンソーシアムにも参画し 36、詳細なシナリオ分析を含む情報開示を行っている 37。このような取り組みは、投資家との建設的な対話を促進し、長期的な信頼関係を構築するための基盤となる。
サプライチェーン全体での排出削減(Scope3排出量の削減)が重視されるようになる中、荷主(顧客)との連携は、単なる輸送サービスの提供を超えた新たな価値共創の機会を生み出す。
多くの荷主企業が、自社の製品やサービスのライフサイクル全体での環境負荷低減を目指しており、輸送過程における排出量削減は重要な課題となっている。これに対し、商船三井のような海運企業が、バイオ燃料や将来のゼロエミッション燃料を使用した低排出・ゼロ排出輸送サービスを提供できれば、荷主のサステナビリティ目標達成に貢献することができる 37。例えば、Hapag-Lloydが提供するバイオ燃料利用オプション「Ship Green」 53 のようなサービスは、荷主にとって魅力的な選択肢となり得る。このような環境価値の高いサービスを提供することで、顧客エンゲージメントを強化し、価格競争を超えた長期的なパートナーシップを構築する機会が生まれる。
さらに、代替燃料の導入や新技術の開発において、荷主と共同でプロジェクトを進めることも有効なアプローチである。商船三井がBHPと共同で実施したバイオ燃料補油 15 はその一例である。共同での取り組みは、開発リスクやコストを分担し、イノベーションを加速させる効果が期待できる。また、荷主のニーズを直接反映した技術開発やサービス設計が可能となる。
環境面での連携強化は、顧客ロイヤルティの向上に繋がり、安定的な貨物量の確保や、より有利な契約条件の獲得にも寄与する可能性がある。サプライチェーン全体での脱炭素化という共通の目標に向けて、荷主と海運企業が協力関係を深化させることが、双方にとっての機会となる。
商船三井の環境パフォーマンスを評価する上で、海運業界全体の動向や、主要な競合他社の取り組みと比較検討することが不可欠である。本章では、業界における環境先進事例を紹介し、主要競合他社の戦略とパフォーマンス、そしてESGスコアのベンチマーキングを行う。
海運業界は、国際的な規制強化と社会からの要請を受け、環境負荷低減に向けた様々な取り組みを加速させている。以下に、脱炭素化、資源循環、生物多様性保全の各分野における先進的な事例や動向を示す。
海運業界の脱炭素化は、代替燃料への転換、省エネルギー技術の導入、運航効率の改善、そして業界連携といった多岐にわたるアプローチで進められている。
代替燃料戦略においては、企業ごとに異なる道筋が見られる。デンマークのA.P. Moller-Maersk(以下、Maersk)は、グリーンメタノールを主要な代替燃料と位置づけ、世界に先駆けてメタノール燃料コンテナ船を多数発注し、既に一部を就航させている 56。フランスのCMA CGMは、LNG燃料船への大規模投資を継続しており、2026年までに77隻のLNG燃料船(e-methane対応含む)を保有する計画である 59。同時に、バイオ燃料の利用も積極的に進めており、大手荷主であるナイキとの間でバイオ燃料活用によるCO2削減で提携するなどの実績がある 60。ドイツのHapag-Lloydも、LNG燃料船の導入を進めるとともに、バイオ燃料の使用量を大幅に増やしている 53。これらの欧州大手に対し、商船三井を含む日本企業は、LNG、メタノール、アンモニア、水素といった複数の選択肢を並行して追求する傾向が見られる 62。この多様性は、将来の燃料供給や技術の不確実性に対するリスク分散戦略とも言えるが、一方で投資の集中度合いでは欧州勢に劣る可能性も指摘される。
技術開発面では、新造船への代替燃料機関搭載だけでなく、既存船を代替燃料(特にメタノール)仕様に改造する技術開発も進んでいる。例えば、常石造船はMaersk Mc-Kinney Møller Center for Zero Carbon Shipping(MMMC)と共同で、既存の中型ばら積み貨物船をメタノール二元燃料仕様に改造する設計の基本承認(AiP)を取得した 63。これは、船舶の長いライフサイクルを考慮すると、既存船隊の脱炭素化に貢献する重要な技術となり得る。風力推進技術も多様化しており、商船三井のウインドチャレンジャー以外にも、ローターセイル(円筒帆)、カイト(凧)システム 64 などが開発・実用化されている。船底に空気を送り込んで抵抗を減らす空気潤滑システムや、AIを活用した最適航路選定・運航支援システム 62 なども、省エネルギー化に貢献する技術として注目されている。
目標設定においては、IMOが掲げる「2050年頃ネットゼロ」 2 を上回る、より野心的な目標を設定する企業も現れている。例えば、Maerskは2040年 65、Hapag-Lloydは2045年 53 のネットゼロ達成を目標として掲げている。これらの企業は、科学的根拠に基づく目標設定イニシアチブ(SBTi)の認証取得なども進めている場合が多い。
業界連携の動きも活発化している。特定の港湾間(例:シンガポールとロッテルダム)でゼロエミッション船の航行実現を目指す「グリーンコリドー」構想 53 が各地で立ち上がっている。また、荷主、船主、燃料供給者などが連携し、ゼロエミッション燃料・技術の需要創出を目指す「First Movers Coalition」 62 のような国際的なイニシアチブも、技術開発と市場形成を後押ししている。
これらの事例は、海運業界の脱炭素化が、単一の解決策ではなく、多様な技術、燃料、そしてステークホルダー間の連携によって進められていることを示している。技術の成熟度、経済性、インフラ整備、そして規制の動向が相互に影響し合いながら、業界全体の変革が進んでいる状況にある。
海運業界における資源循環の取り組みは、気候変動対策に比べると、まだ先進的な事例や情報開示が限定的である傾向が見られる。しかし、廃棄物削減、リサイクル技術、シップリサイクルといった分野で、徐々に取り組みが進みつつある。
廃棄物削減に関しては、MARPOL条約附属書Vの遵守が基本となるが、さらに踏み込んで「廃棄物ゼロ」や「陸上埋め立てゼロ」といった目標を掲げる企業も(他業界ではあるが)存在する。船舶からのプラスチックごみ排出ゼロに向けては、使い捨てプラスチック製品(食器、カップ、梱包材等)の使用を極力避け、再利用可能な代替品への切り替えを進めることが推奨されている 46。貨物の固定や保護に使用されるプラスチックシートの代わりに再利用可能なカバーを使用したり、緩衝材(ダンネージ)を回収・再利用するシステムを導入したりすることも有効な策である 46。
リサイクル技術では、従来のマテリアルリサイクルに加え、より高度な手法の開発・導入が期待される。商船三井と出光興産のケミカルリサイクル実証 25 はその一例である。プラスチックを化学的に分解し、元の原料(モノマー)や代替燃料・化学原料(油化)に戻すケミカルリサイクル 66 は、汚れたプラスチックや複合素材プラスチックのリサイクルを可能にする技術として注目されている。また、特定の酵素を用いてPETプラスチックを効率的に分解し、高品質な原料に戻す技術なども研究されている 66。これらの技術が商業化されれば、船舶から発生するプラスチック廃棄物の資源価値を高め、循環利用を促進することが期待される。
シップリサイクルにおいては、2025年の香港条約発効 49 を見据え、条約基準の遵守は最低限の要件となる。先進的な企業は、条約基準を上回る独自の厳格な環境・安全・人権基準を設定し、解撤を委託するヤードに対して定期的な監査を実施し、改善を促すといった取り組みを行っている。ヤードの労働環境改善や地域社会への貢献といった側面にも配慮した、包括的なサステナブル・シップリサイクルを目指す動きが重要となる。
全体として、海運業界における資源循環は、規制遵守から、より積極的な削減目標の設定、革新的なリサイクル技術の導入、そしてサプライチェーン全体での責任ある管理へと、取り組みのレベルを引き上げていく必要のある分野と言える。他業界の先進事例も参考にしながら、業界特有の課題に対応した戦略と目標設定、そして透明性の高い情報開示が求められる。
海洋環境に直接依存する海運業界にとって、生物多様性の保全は事業継続性の観点からも極めて重要である。近年、この分野における企業の取り組みも注目度が高まっている。
生態系保護の観点では、自社の事業活動が影響を与える可能性のある特定の海洋生態系(サンゴ礁、藻場、マングローブ林など)の保全・再生プロジェクトへ、長期的な視点で投資や支援を行う事例が見られる。商船三井のモーリシャスでのサンゴ礁回復支援 32 やインドネシアでのマングローブ再生プロジェクト 33 はその具体例である。これらの活動を、ブルーカーボン・クレジットの創出 30 と結びつけ、気候変動対策と生物多様性保全の相乗効果を狙う動きも出てきている。
船舶と大型海洋生物(特に鯨類)との衝突(ストライク)は、動物の致死傷だけでなく、船舶の損傷や運航遅延にも繋がる深刻な問題である。このリスクを低減するため、先進的な技術開発が進められている。AI(人工知能)を用いた画像認識や音響センサー、ドローンなどを活用して鯨類の位置をリアルタイムで検知し、船舶に警告するシステムの研究が進んでいる 67。また、鯨類が嫌がる特定の周波数の音波を水中スピーカーから発信し、船舶の接近を知らせて回避行動を促す技術 68 も開発・試用されている。技術的な対策に加え、鯨類の主要な生息域や回遊経路において、船舶の航行速度を自主的に制限する(スロースチーミング) 43 といった運航上の配慮も、有効な対策として国際的に推奨されている。
企業の情報開示においては、気候変動分野におけるTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に続き、自然資本・生物多様性分野における「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)」の提言 70 が注目されている。TNFDは、企業が自然に対してどのように依存し、どのような影響を与えているか、そしてそれが事業にどのようなリスクと機会をもたらすかを評価し、開示するためのフレームワークを提供する。既に、日本郵船 71 や川崎汽船 64 といった日本の海運企業も、TNFDの考え方を取り入れた情報開示を開始しており、今後、海運業界においてもTNFDへの対応がスタンダードとなる可能性がある。
これらの事例は、生物多様性保全が、単なる社会貢献活動から、リスク管理、技術開発、そして情報開示を含む経営戦略の重要な一部へと進化していることを示している。特に、TNFDのようなフレームワークへの対応は、企業の自然関連リスク・機会に対する理解と管理能力を示す上で、今後ますます重要になると考えられる。
商船三井の環境パフォーマンスを相対的に評価するため、主要な競合他社を特定する必要がある。海運業界、特に定期船(コンテナ船)事業においては、運航船腹量(TEU: Twenty-foot Equivalent Unit)が市場シェアを示す主要な指標の一つとなる。
海運調査会社Alphalinerが発表している世界のコンテナ船社ランキング(2025年3月時点)によると、上位にはスイスのMediterranean Shipping Company (MSC)、デンマークのMaersk、フランスのCMA CGM、中国のCOSCO SHIPPING Lines (COSCO)、ドイツのHapag-Lloyd、日本のOcean Network Express (ONE)、台湾のEvergreen Marine Corporation (Evergreen)などが名を連ねている 72。商船三井は、日本郵船(NYK)、川崎汽船(K Line)と共に、コンテナ船事業を合弁会社であるONEに統合しているため 72、ONEの動向は間接的に重要となる。しかし、本レポートでは、商船三井本体の環境パフォーマンスを比較可能なグローバルな総合海運企業として、主にMaersk, CMA CGM, Hapag-Lloyd, COSCO, Evergreenを主要な比較対象とする。加えて、同じ日本の大手海運企業であり、ESGへの取り組みで比較されることの多い日本郵船(NYK)と川崎汽船(K Line)も分析対象に含める。
特定された主要競合他社は、それぞれ異なる環境戦略、目標、そして具体的な取り組みを進めている。
Maersk: 世界最大級の海運企業であるMaerskは、業界の脱炭素化をリードする存在として知られる。2040年までに事業全体でのネットゼロ達成という野心的な目標を掲げ 65、科学的根拠に基づく目標(SBTi)も設定している。代替燃料戦略としては、特にグリーンメタノールに注力しており、世界初のメタノール燃料コンテナ船を就航させ、同燃料を使用可能な船舶を大量に発注している 56。陸上輸送や航空輸送を含むサプライチェーン全体の脱炭素化を目指す「インテグレーター戦略」を推進しており、環境への取り組みは事業戦略と不可分一体となっている。ESG評価も総じて高く、Sustainalyticsでは「低リスク」評価を受けている 65。
CMA CGM: フランスの大手であるCMA CGMは、LNG燃料を主要な代替燃料と位置づけ、LNG燃料船への大規模な投資を行ってきた 59。将来的にはバイオメタンやe-methane(合成メタン)への移行も視野に入れている 59。2050年のネットゼロ達成を目標とし 61、バイオ燃料の活用にも積極的で、大手荷主との連携実績もある 61。CDP評価では「A-」を獲得するなど 74、気候変動対策への取り組みが評価されているが、Sustainalyticsの評価では「中リスク」に分類されている 76。
Hapag-Lloyd: ドイツのHapag-Lloydは、2045年のネットゼロ達成を目標に掲げている 53。代替燃料としては、LNG燃料船の導入を進めるとともに、バイオ燃料の利用を大幅に拡大している 53。既存船の燃費効率を改善するためのフリートアップグレードプログラムにも注力している 53。詳細なサステナビリティレポートを発行し、透明性の高い情報開示に努めている 53。ESG評価も高く、Sustainalyticsでは「低リスク」 78、S&P Global ESG Scoreも業界平均を上回る評価を得ている 79。
COSCO SHIPPING Holdings: 中国の国営企業であるCOSCOは、世界有数の船腹量を誇るが、環境戦略や具体的な目標、代替燃料への取り組みに関する詳細な情報は、他の欧州や日本の大手企業と比較して限定的である(少なくとも提供された公開情報からは)。Sustainalyticsの評価では「中リスク」に分類されており 80、ESGパフォーマンスや情報開示の透明性向上に課題がある可能性が示唆される。
Ocean Network Express (ONE): 商船三井、日本郵船、川崎汽船のコンテナ船事業統合により設立されたONEは、シンガポールに本社を置く。その環境戦略や目標は、出資元である親会社3社の意向や方針の影響を強く受けると考えられる 81。中期経営計画では、グリーン戦略(脱炭素化)、デジタルトランスフォーメーション、組織文化の強化を柱としている 82。具体的な代替燃料戦略や環境目標については、親会社との連携の下で進められていると推測される。
Evergreen Marine: 台湾の大手であるEvergreenは、コンテナ船腹量で世界トップクラスに位置する。しかし、代替燃料戦略や具体的な環境目標に関する詳細な情報は、提供された資料からは不明瞭であった 84。Sustainalyticsの評価は「低リスク」に分類されているものの、MaerskやHapag-Lloyd、日本の大手3社と比較するとやや低い水準にある 88。一方で、S&P Global ESG Scoreでは比較的高い評価を得ている 89。
日本郵船 (NYK): 商船三井と並ぶ日本の大手総合海運企業である日本郵船は、2050年までの外航海運事業におけるネットゼロ・エミッション達成を目標として掲げている 81。LNG燃料船の導入を積極的に進めるとともに、アンモニア燃料船やアンモニア燃料供給船の開発にも注力している 62。環境情報開示にも積極的で、CDP気候変動では長年にわたり最高評価の「Aリスト」を獲得しており 90、TNFD提言に基づくレポートも発行している 71。Sustainalyticsの評価も「低リスク」である 35。
川崎汽船 (K Line): 同じく日本の大手である川崎汽船も、ESGへの取り組みを強化している。CDP気候変動では8年連続で「Aリスト」に選定され、サプライヤーエンゲージメント評価でも最高評価を6年連続で獲得するなど、高い評価を得ている 91。LNG燃料船の導入に加え、風力を利用した自動カイトシステムの実証実験など、独自の技術開発も進めている。TNFDに関連する情報開示も行っている 64。
これらの比較から、世界の主要海運企業は、脱炭素化という共通の課題に対し、それぞれ異なる戦略とペースで取り組んでいることがわかる。特に欧州の大手企業は、野心的な目標設定と代替燃料への大規模投資で先行する傾向が見られる。一方で、日本企業は複数の技術オプションを追求しつつ、着実な取り組みと高いレベルの情報開示を進めている。代替燃料の選択(メタノール vs LNG vs アンモニア等)は、現時点での大きな戦略的分岐点となっている。また、ESG評価や情報開示の透明性においても、企業間で差異が見られる。
企業の環境パフォーマンスを客観的に比較する上で、第三者評価機関によるESGスコアは重要な指標となる。ここでは、主要な評価機関(CDP, Sustainalytics, MSCI等)による商船三井および主要競合他社の評価結果を比較分析する。
CDP: CDPは、企業の気候変動、水セキュリティ、森林に関する情報開示と取り組みを評価する国際的な非営利団体である 34。その評価はAからD-のスコアで示され、特に気候変動分野の「Aリスト」は最高評価とされる。商船三井は、2023年度および2024年度のCDP気候変動評価において、2年連続で「Aリスト」企業に選定された 24。これは、同社の気候変動に対する戦略、行動、透明性が世界最高水準にあると評価されたことを意味する。日本の競合他社である日本郵船 90 および川崎汽船 91 も、長年にわたりCDP気候変動でAリストを獲得している常連であり、日本企業が高いレベルで評価されていることがわかる。一方、CMA CGMは2023年度評価で「A-」を獲得しており 74、これもリーダーシップレベルの高い評価である。Maersk, Hapag-Lloyd, COSCO, Evergreenの最新のCDPスコアについては、提供された資料内では確認できなかったが、これらの企業もCDP質問書に回答している可能性は高い 34。
Sustainalytics: Sustainalytics(Morningstarグループ)は、企業が直面するESGリスクの大きさと、そのリスクをどの程度管理できているかを評価し、ESGリスク評価スコア(0から100以上、スコアが低いほどリスクが低い)を付与している 4。商船三井のESGリスク評価は14.5であり、「低リスク(Low Risk: 10-20)」カテゴリーに分類される 35。これは、評価対象となった運輸業(Transportation)383社の中で11位、全世界の評価対象企業約15,000社の中でも上位約9%に位置する、極めて優れた評価である 35。主要競合他社と比較しても、Maerskの15.2(運輸業19位)65、Hapag-Lloydの17.0(同42位)78、日本郵船の17.4(同47位)35、Evergreen Marine (Taiwan)の19.4(同88位)88、韓国のHMMの15.5(同21位)35 といった企業も「低リスク」評価を得ているものの、商船三井はこれらの中でもトップクラスの評価を受けている。一方で、CMA CGMは20.4 76、COSCO SHIPPING Holdingsは22.3 80 と、「中リスク(Medium Risk: 20-30)」カテゴリーに分類されており、商船三井を含む上位企業との間には差が見られる。
MSCI: MSCI ESG Researchも、世界的に広く利用されているESG評価を提供しており、企業を業界固有のESGリスクへのエクスポージャーとその管理能力に基づき、AAA(リーダー)からCCC(ラガード)までの7段階で格付けしている 4。商船三井は、MSCIが算出する「MSCI日本株ESGセレクト・リーダーズ指数」や「MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数」(旧称)の構成銘柄に選定されている 42。また、「MSCIジャパンEmpowering Women指数(WIN)」にも選定されており 42、社会(S)やガバナンス(G)側面での評価も受けていることがうかがえる。具体的なMSCI ESGレーティング(AAA~CCC)については、提供資料内では確認できなかったが、指数への採用状況から、比較的高い評価を得ていると推測される。競合他社のMSCIレーティングについても同様に調査が必要である。
その他の評価: 上記以外にも、商船三井は複数のESG関連指数や評価で認められている。S&P Globalの「Dow Jones Sustainability Index (DJSI) Asia Pacific」に3年連続で選定され、「The Sustainability Yearbook 2025」においても「Yearbook Member」に3年連続で選定されている 42。また、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が環境要素を重視して採用している「S&P/JPXカーボン・エフィシェント指数」の構成銘柄にも選定されている 42。SOMPOアセットマネジメントが運用する「SOMPOサステナビリティ・インデックス」には13年連続で選定されており 42、長期的なサステナビリティへの取り組みが評価されている。日経SDGs経営調査2024では、4.5星(5星満点)の評価を受けている 42。これらの多様な外部評価は、商船三井のESGパフォーマンスが多角的に評価されていることを示している。競合他社についても、Hapag-LloydがS&P Global ESG Scoreで43/100 79、Evergreenが同スコアで58/100 89 と評価されている情報がある。
これらのESGスコアを基に、商船三井の環境パフォーマンスを主要競合他社と比較すると、全体として業界内でトップレベルにあることが示唆される。
特に気候変動分野においては、CDPの2年連続「Aリスト」獲得 34 が際立っている。これは、情報開示の包括性、環境リスクの認識と管理、野心的かつ意義のある目標設定といった点で、最高水準の実践を示していると評価された結果である 34。日本の競合である日本郵船 90 や川崎汽船 91 も同様にAリスト常連であり、日本の大手海運3社が気候変動対応で世界をリードするグループを形成していると言える。CMA CGMの「A-」評価 74 も非常に高いレベルである。
SustainalyticsのESGリスク評価においても、商船三井のスコア(14.5)と順位(運輸業11位)は、Maersk(15.2、19位)65 やHapag-Lloyd(17.0、42位)78 を上回っており、ESGリスク全体に対する管理能力が極めて高いことを示している 35。Sustainalyticsの評価項目である「リスクへのエクスポージャー(Exposure)」は「低(Low)」、「リスク管理(Management)」は「強(Strong)」と評価されており 35、業界特有のリスクに晒されてはいるものの、それを管理するための体制やプログラムが強固であることが示唆される。これは、投資家にとって、同社がESG関連の潜在的な財務リスクに対してレジリエントであると判断する材料となり得る。比較対象のMaerskやHapag-Lloydもリスク管理は「強」と評価されているが 65、商船三井はわずかにリスクスコアで優位に立っている。
一方で、資源循環や生物多様性に関する個別の評価項目やスコアについては、これらの主要なESG評価機関の公開情報からは詳細を把握することが難しい。CDPは水セキュリティや森林に関する評価も行っているが 95、海運業に特化した資源循環や生物多様性の詳細評価は、今後の評価手法の進化や企業側の情報開示拡充によって、より明確になる可能性がある。現時点では、気候変動分野での高い評価が、商船三井の総合的なESG評価を牽引している主要因と考えられる。
スコアの経年変化を見ると、商船三井がCDPで2年連続Aリストを獲得したこと 34 や、SOMPOサステナビリティ・インデックスに13年連続で選定されていること 42 は、継続的な取り組みと改善が評価されていることを示唆している。今後も高い評価を維持・向上させていくためには、目標達成に向けた着実な進捗と、資源循環や生物多様性といった分野での取り組み強化、そしてそれらに関する透明性の高い情報開示が重要となるだろう。
これまでの分析を通じて、商船三井が環境課題に対して野心的な目標を掲げ、多様な技術開発やプロジェクトに積極的に取り組み、外部からも高い評価を得ていることが明らかになった。しかし同時に、目標達成に向けた道筋や、特定の環境分野における取り組みの深化、情報開示の高度化といった点で、いくつかの課題も浮き彫りになった。本章では、これらの課題を評価し、将来に向けた戦略的な提言を行う。
商船三井が掲げるGHG排出削減目標、特に2030年(Scope1, 2で23%削減)および2035年(原単位で45%削減)の中間目標 14 は非常に野心的である。2023年度時点での実績(Scope1, 2で10%削減、原単位で7.2%削減)21 は、目標達成軌道に乗っているとは言え、特に原単位削減目標とのギャップは大きく、達成には削減ペースの大幅な加速が必要である。
このギャップの背景には、代替燃料の実用化と普及に関する課題がある。LNGは導入が進んでいるものの、それ自体が移行期の燃料であり、ネットゼロ達成にはメタノール、アンモニア、水素といった次世代ゼロエミッション燃料への転換が不可欠である。しかし、これらの燃料は、①船舶用エンジン技術の開発・確立、②燃料自体の安定的かつ安価な大量供給体制の構築、③燃料補給インフラの整備、④安全性基準の策定と運用体制の確立、といった多くのハードルを抱えている。商船三井が目標とするゼロ・エミッション燃料の使用割合(2030年 5%)に対し、実績が0.4% 21 に留まっている現状は、これらの課題の大きさを物語っている。2020年代中にネットゼロ・エミッション外航船の運航を開始するという目標 21 の実現も、これらの課題克服にかかっている。
また、2050年ネットゼロ目標達成の鍵の一つとされるネガティブ・エミッション(CDR)についても、目標(2030年までに累計220万トンのクレジット使用)14 に対し、現時点での実績がゼロであること 21 は課題である。参画しているマングローブ再生プロジェクト 33 やDOCクレジット購入契約 20 などが、計画通りにクレジットを創出・供給できるか、その確実性を高めていく必要がある。CDR市場自体の未成熟さや価格の不確実性も考慮すべき点である。
商船三井の環境への取り組み全体を見ると、気候変動対策や生物多様性保全と比較して、資源循環分野における戦略的な位置づけや目標設定がやや不明確である点が課題として挙げられる。廃棄物管理についてはMARPOL条約遵守を中心とした取り組みがなされているが 41、廃棄物発生量そのものの削減(リデュース)や再利用(リユース)の推進、あるいはリサイクル率向上に関する具体的な数値目標やKPIの設定、そしてそれらの実績開示は限定的である 10。
先進的な取り組みとして開始されたプラスチックのケミカルリサイクル実証実験 25 は評価できるが、これを実証段階から商業化し、グループ全体の廃棄物削減や資源循環に大きく貢献する規模へとスケールアップさせていくためには、技術的・経済的な課題を克服する必要がある。
シップリサイクルに関しても、2025年の香港条約発効 49 を控え、条約遵守は当然として、サプライヤーである解撤ヤードの選定基準、監査体制、そして環境・安全・人権パフォーマンスに関する情報開示の透明性をさらに高めていくことが求められる。現状では、具体的な基準や運用に関する情報が不足している 11。包括的な資源循環戦略を策定し、具体的な目標と行動計画を明確化することが、この分野での取り組みを深化させる上で重要となる。
生物多様性保全に関しても、バラスト水管理 41 や生態系保護プロジェクトへの支援 28 など、多くの具体的な取り組みが進められている。しかし、事業活動全体が生物多様性に与える影響(依存度とインパクト)を体系的かつ定量的に評価し、それに基づいてリスクと機会を特定し、戦略に統合していくという点では、まだ発展途上にあると言える。特に、TNFDフレームワーク 70 が提唱するような、自然関連リスク・機会の財務情報への統合と開示への対応は、今後の重要な課題となる。競合である日本郵船 71 や川崎汽船 64 が既にTNFD関連の開示を進めていることを踏まえると、対応の加速が望まれる。
水中騒音 41 や鯨類との衝突リスク 67 といった、比較的新しく認識されてきた課題に対しては、PBCFによる騒音低減 41 やアカウミガメ調査協力 29 といった個別の対策は見られるものの、リスクの全体像を把握し、設計・技術・運航を組み合わせた包括的な管理戦略を策定・実行していく必要がある。
また、実施しているマングローブ再生やサンゴ礁保全といった生態系保護プロジェクトについても、その活動が実際に生物多様性の保全・回復にどの程度貢献しているのか、効果を定量的に測定・評価し、長期的な持続可能性を確保していくためのモニタリング体制の強化が課題となる。
ESGパフォーマンスの評価と改善、そしてステークホルダーへの説明責任を果たすためには、信頼性の高いデータの収集と透明性のある開示が不可欠である。商船三井はTCFD提言に基づく開示 37 やESGデータの開示 17 を進めているが、さらなる高度化が求められる領域も存在する。
Scope3排出量については、現在開示・認証は受けているものの 36、算定の精度向上(特にカテゴリー別の詳細把握)と、削減に向けた具体的な目標・計画の開示が待たれる。
資源循環分野では、廃棄物の種類別発生量、処理・リサイクル量、リサイクル率、水の使用量といった基本的なデータの収集体制を強化し、経年変化を含めて開示を拡充することが望まれる。
生物多様性分野では、TNFDが推奨する指標なども参考に、自社の事業活動と自然との関わり(依存度、影響度)を示す指標や、保全活動の成果を示す指標に関するデータを収集し、開示していく必要がある。
これらのデータ収集・開示は、自社内だけでなく、サプライチェーン全体(傭船会社、燃料供給業者、寄港地、解撤ヤード等)を対象とする必要があり、サプライヤーとの連携強化とデータ管理体制の構築が課題となる。
上記の課題評価を踏まえ、商船三井が今後、環境分野でのリーダーシップを維持・強化し、持続的な成長を達成するために注力すべき戦略的な方向性と重点分野について、以下のように提言する。
GHG排出削減目標達成に向けて、代替燃料導入戦略をさらに具体化し、実行に移すことが最優先課題である。各代替燃料(LNG、メタノール、アンモニア、水素、バイオ燃料)について、導入時期、船隊に占める比率、必要な投資額、燃料供給・インフラ整備の見通しと計画をより明確にしたロードマップを策定・公開することを提言する。特に、アンモニアや水素といった次世代ゼロエミッション燃料に関しては、技術開発への投資を継続・強化するとともに、国内外のパートナーとの連携を通じて、研究開発、実証実験、インフラ構築のリスクとコストを分担し、早期の実用化と普及を目指すべきである。同時に、運航効率の改善(FOCUSプロジェクト等のデジタル技術活用深化)や省エネルギー技術(ウインドチャレンジャー、PBCF等)の導入・展開を継続的に推進し、短・中期的な排出削減を着実に積み重ねることが、目標達成への道筋を確かなものにする。さらに、Scope3排出量削減に向けて、具体的な目標を設定し、サプライヤー評価への反映や、荷主向けにバイオ燃料利用などを選択できるグリーン輸送メニューの開発・提供といった連携プログラムを積極的に推進することを推奨する。
資源循環を、気候変動対策や生物多様性保全と並ぶ環境戦略の柱として明確に位置づけ、グループ全体の包括的な戦略を策定することを提言する。その戦略には、廃棄物発生量の原単位削減率、最終処分率の低減、リサイクル率の向上、水使用量の削減など、測定可能で野心的な数値目標とKPIを含めるべきである。これらの目標と進捗状況を定期的に開示することで、取り組みの実効性と透明性を高めることができる。船舶のライフサイクル全体(設計、建造、運航、保守、解撤)を通じて資源効率を最大化する視点(ライフサイクルアセスメント:LCA)を導入し、より少ない資源で建造・運航でき、解撤・リサイクルが容易な船舶の開発・導入を目指すことを推奨する。出光興産との共同プロジェクトのようなプラスチックのケミカルリサイクル技術については、実用化・商業化に向けた取り組みを加速させ、将来的にはグループ内での水平展開や、新たな事業としての可能性も追求すべきである。シップリサイクルに関しては、香港条約基準の遵守に留まらず、可能な限り高い環境・安全・人権基準を適用し、委託先ヤードに対する定期的な監査と、必要に応じた能力構築支援(技術指導、設備投資支援等)を行うことで、サプライチェーン全体での責任ある資源循環体制を構築することを提言する。
自然資本への依存度が高い海運企業として、生物多様性保全への取り組みをさらに強化し、その情報開示を国際的なフレームワークに整合させることが重要である。TNFD提言 70 に沿った情報開示を早期に開始し、自社の事業活動が自然環境・生態系に与える依存度とインパクトを評価(例:LEAPアプローチの活用)し、それに基づくリスクと機会を特定・管理する体制を構築することを強く推奨する。特に、主要な事業拠点や航路周辺における重要な生態系(Important Bird and Biodiversity Areas, Key Biodiversity Areas等)との関連性を評価し、負の影響を最小化・回避するための具体的な対策を講じるべきである。水中騒音や鯨類との衝突といった課題に対しては、具体的な削減目標や回避目標を設定し、最新技術(AI、音響技術等)の導入検討や、特定の重要海域における自主的な運航制限(減速等)の実施など、多角的なアプローチで対策を強化することを提言する。現在実施しているマングローブ再生 33 やサンゴ礁保全 32 といったプロジェクトについては、その効果(CO2吸収量、生物種数の変化、生態系サービスの向上等)を科学的根拠に基づいて定量的に評価し、生物多様性へのポジティブな貢献度を可視化して報告することを推奨する。これにより、活動の正当性と有効性を示すことができる。また、サプライチェーンの上流(例:船舶建造に使用される資材の調達)における生物多様性リスクにも配慮し、持続可能な調達方針を策定・実施することも重要である。
環境課題への取り組みを成功させ、社会からの信頼と支持を得るためには、多様なステークホルダーとの建設的な対話と連携が不可欠である。投資家に対しては、ESG説明会や統合報告書 8、サステナビリティレポート 12 等を通じて、環境戦略、目標、進捗、課題について透明性の高い情報提供を継続し、長期的な視点での対話を深めるべきである。特に、目標達成に向けた具体的な道筋や、それに伴うリスクと機会について、誠実なコミュニケーションを図ることが信頼醸成に繋がる。荷主(顧客)に対しては、低・ゼロ排出輸送サービスの共同開発や提供を通じて、サプライチェーン脱炭素化という共通の目標に向けたパートナーシップを強化することを提言する。NGOや研究機関とは、生態系保全プロジェクトや技術開発において連携を深め、専門的な知見やネットワークを活用すべきである。地域社会に対しては、環境保enação活動への参加や支援を通じて、良好な関係を構築し、事業活動への理解を得ることが重要である。さらに、ICS(国際海運会議所)やBIMCOといった国際的な業界団体 96 を通じて、国際的なルール形成プロセスに積極的に関与し、業界全体の持続可能性向上に貢献し続けることも、リーダー企業としての重要な役割である。
本レポートでは、株式会社商船三井の環境パフォーマンスについて、「気候変動対策」、「資源循環」、「生物多様性保全」の三分野を中心に包括的な分析を行った。
分析の結果、商船三井は、気候変動対策において「2050年ネットゼロ・エミッション」という野心的な長期目標を掲げ、LNG、メタノール、アンモニア、水素といった多様な代替燃料の導入、風力推進技術「ウインドチャレンジャー」の開発、運航効率改善、そしてネガティブ・エミッション技術への関与など、多岐にわたる具体的な取り組みを積極的に推進していることが確認された 21。これらの活動は、CDPの最高評価「Aリスト」獲得 34 やSustainalyticsの「低リスク」評価 35 など、主要な外部評価機関からも高く評価されており、同社が環境課題に対して先進的なリーダーシップを発揮していることを示している。
生物多様性保全に関しても、バラスト水処理装置の早期全船搭載完了(予定)41、水中騒音低減技術(PBCF)の活用 41、マングローブ再生 33 やサンゴ礁保全 32 といった生態系保護プロジェクトへの積極的な関与・支援など、具体的な貢献が見られた。特に、モーリシャスでの油濁事故 28 を教訓とした長期的な環境回復へのコミットメントは、企業の責任ある姿勢を示すものである。
一方で、いくつかの課題も明らかになった。GHG排出削減の中間目標達成に向けては、削減ペースの加速が必要であり、特に次世代ゼロエミッション燃料の実用化・普及には多くの技術的・経済的ハードルが存在する 21。資源循環分野においては、気候変動対策や生物多様性保全に比べて、包括的な戦略や具体的な数値目標の設定、情報開示がまだ限定的であり、取り組みの深化が望まれる 11。生物多様性に関しても、TNFDフレームワーク 70 への対応を含め、事業活動が与える影響の定量的評価とリスク・機会分析の高度化が今後の課題となる。
競合他社との比較においては、商船三井は全体として高い環境パフォーマンスを示しているものの、Maerskのメタノール戦略 58 やCMA CGMのLNG戦略 59 のような特定の代替燃料への大規模投資と比較すると、多角的なアプローチが特徴である。ESG評価ではトップクラスに位置するが、欧州大手や日本の競合他社との競争は激しく、継続的な努力が不可欠である。
結論として、商船三井は、海運業界が直面する複雑な環境課題に対し、先進的かつ多角的なアプローチで取り組んでおり、その努力は外部からも高く評価されている。しかし、掲げた野心的な目標を達成し、真のサステナビリティリーダーとしての地位を確立するためには、代替燃料技術の実用化加速、資源循環戦略の具体化、生物多様性への影響評価と対策強化、そしてサプライチェーン全体を巻き込んだデータ収集・開示の高度化といった課題に正面から向き合う必要がある。本レポートで提言した戦略を実行に移すことで、環境リスクを管理し、脱炭素化やエネルギー転換に伴う新たな事業機会を捉え、企業価値を持続的に向上させていくことが期待される。環境への取り組みは、もはやコストではなく、将来の競争力と成長の源泉であるという認識の下、全社的な努力を継続することが極めて重要である。
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横浜港にてメタノールバンカリングシミュレーションを実施しました
~メタノールの船舶燃料利用の実装に向けた模擬バンカリングの実施~|ニュースリリース|上野グループ|Uyeno Group, https://www.uyeno-group.co.jp/news/130
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【徹底解説】海運業界の脱炭素化最前線!2050年ネットゼロに向けた課題と展望, https://www.greenguardian.co.jp/post/shipping01
常石造船、重油焚き既存船の改造を想定したメタノール二元燃料船の設計でClassNKから基本設計承認を取得 - PR TIMES, https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000046.000115319.html
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