株式会社名古屋銀行(以下、「名古屋銀行」)は、日本の主要な産業集積地の一つである愛知県を主な営業基盤とする、地域社会において重要な役割を担う地方銀行です 1。近年、金融機関にとって、気候変動、資源循環、生物多様性といった環境・社会・ガバナンス(ESG)要因への対応は、長期的な持続可能性とリスク管理の観点からその重要性を増しています。金融機関は、自らの事業活動における環境負荷を低減するだけでなく、投融資活動を通じて地域経済全体の環境課題解決に貢献することが期待されています。名古屋銀行自身も、その社是である「地域社会の繁栄に奉仕する」に基づき、金融事業を通じた持続可能な地域社会の実現への貢献を目指す姿勢を表明しています 2。本報告書は、名古屋銀行が「気候変動」「資源循環」「生物多様性」という三つの主要な環境分野において展開している具体的なイニシアチブとパフォーマンスについて、包括的かつ学術的な水準での分析を行うことを目的とします。これにより、同行の環境スコアリングに必要な詳細情報を提供するとともに、その環境戦略の現状と将来に向けた課題、機会を明らかにします。
本報告書では、まず名古屋銀行が気候変動、資源循環、生物多様性の各分野で実施している具体的な取り組みを詳述します。次に、これらの環境要因に関連して同行が直面する可能性のあるリスクと事業機会を分析します。さらに、金融業界における先進的な環境への取り組み事例を紹介し、名古屋銀行の現状の課題を評価した上で、将来に向けた提言を行います。加えて、主要な競合他社の環境への取り組みと比較分析し、公表されている環境スコアを用いたベンチマーキングの結果を提示します。報告書の作成にあたっては、利用者の要求に基づき、日本語で記述し、表や箇条書きを用いず、全てのデータや比較を文章形式で記述する形式を採用します。
名古屋銀行は、サステナビリティを経営の重要課題と位置づけ、環境問題を含む様々な社会課題への対応を進めています。特に気候変動、資源循環、生物多様性の分野において、方針策定、組織体制整備、具体的な施策の実行に取り組んでいます。
名古屋銀行は、気候変動を重要な経営課題として明確に認識し、多岐にわたる対応を進めています 5。
同行は、2021年10月に「サステナビリティに関する基本方針」を策定・公表し、持続可能な社会の実現に向けた基本的な考え方を明示しました 2。この基本方針では、気候変動を含む環境課題への取り組みが、経営課題であると同時に持続的な企業価値向上に繋がる機会であると認識されています 6。同月、名古屋銀行は気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言への賛同を表明し 5、気候関連リスク・機会に関する情報開示の透明性向上に努める姿勢を示しました。さらに、2021年11月にはTCFDコンソーシアムへ入会し、国内の他の先進企業・機関との連携を図っています 7。
ガバナンス体制としては、頭取を委員長とする「サステナビリティ委員会」を設置し、サステナビリティに関する対応状況、特に気候変動への取り組みについて定期的に審議し、その結果を取締役会に報告する体制を構築しています 6。また、組織横断的な体制として「サステナビリティ推進室」を設置し、サステナビリティに対するガバナンス体制の強化と、環境・社会的課題解決に向けた銀行一体での取り組みを推進しています 5。
戦略面では、ESG投融資方針において気候変動への対応を具体的に組み込んでいます。気候変動リスクの低減に資する省エネルギー・再生可能エネルギー事業や、脱炭素社会への移行に係る対応を積極的に支援する方針を示す一方 5、特定のセクターに対する方針も明確化しています。例えば、原則として石炭火力発電所の新設および拡張案件への投融資は行わないとしています(ただし、災害対応や国内政策に則った対応を検討する場合は個別に慎重に対応)。また、違法な森林伐採や焼却等に関わる事業への投融資は行わず、伐採が伴う投融資については、持続可能な認証の取得状況や環境・地域社会への影響、顧客の対応状況等を考慮した上で慎重に対応するとしています 5。これらの戦略は、気候変動緩和と適応の両面から、金融機関としての役割を果たそうとする意図を示しています。
名古屋銀行は、気候変動リスクを重要なリスクの一つとして認識し、その管理体制の整備を進めています。「気候変動リスク管理規程」を策定し、気候変動が物理的リスク(異常気象の激甚化等)や移行リスク(政策・規制強化、技術革新、市場の変化等)を通じて、信用リスク、市場リスク、オペレーショナルリスクなど、あらゆるリスクを顕在化させる可能性があることを踏まえ、気候変動が与える影響を「統合的リスク管理」の枠組みの中で管理・対応する体制を構築しています 5。TCFD提言の推奨開示項目である「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の4要素に基づき、透明性のある情報開示に努める方針も明確にしています 5。
名古屋銀行は、自らの事業活動に伴う温室効果ガス排出量の削減にも具体的に取り組んでいます。店舗運営における省エネルギー化を推進するとともに、太陽光パネルの設置を進めています 3。また、中部電力ミライズ株式会社が提供するCO2フリー電力(実質的に再生可能エネルギー100%の電気)を導入しており、これは東海三県に本店を置く金融機関としては初めての取り組みとされています 10。さらに、営業用車両としてトヨタ自動車の超小型電気自動車「C+Pod」を100台導入するなど 5、モビリティ分野での脱炭素化も進めています。これらの施策は、自らが範を示すことで、地域企業への脱炭素化支援に説得力を持たせる意図もあると考えられます。
名古屋銀行は、ESGファイナンス商品の提供を通じて、顧客の環境課題解決を積極的に支援しています 5。具体的には、再生可能エネルギープロジェクト等に資金使途を限定したグリーンボンドを発行しており、そのフレームワークはサステイナリティクスなどの第三者評価機関からGBP(グリーンボンド原則)への適合性について評価を受けています 3。また、サステナビリティ・リンク・ローン(SLL)も提供しており、これは顧客企業が設定したサステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット(SPTs)の達成状況に応じて融資条件が変動する仕組みで、顧客の自発的な環境改善努力を金融面から後押しするものです 2。グリーン預金 9 やポジティブ・インパクト・ファイナンス(PIF)5 など、多様な金融商品を通じて脱炭素化支援を行っています。
顧客支援策として特筆すべきは、地域特性を踏まえた取り組みです。愛知県の基幹産業である自動車業界のカーボンニュートラルへの移行を支援するため、2022年1月に専門部署「自動車サプライチェーン支援室」を組織横断的な体制へと再編し、情報収集だけでなく、事業承継や製造現場改善を含む包括的な支援体制を強化しています 5。また、アスエネ株式会社と提携し、CO2排出量算定・可視化クラウドサービス「アスゼロ」を地元企業に紹介するとともに、サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)に関するコンサルティング支援も開始しています 10。これは、特に中小企業にとってハードルの高い排出量算定や削減計画策定をサポートする具体的な取り組みです。さらに、愛知県と連携し、県内で創出されたカーボン・クレジットを用いて県のイベント等から排出される温室効果ガスをオフセットする協定を締結するなど 12、地域レベルでのカーボンニュートラル達成に向けた協力も行っています。省エネルギー投資促進支援事業費補助金などを活用した顧客の設備投資支援も行っており、エネルギー効率の高い設備への更新を金融面から後押ししています 4。
名古屋銀行の気候変動戦略は、その主要な営業基盤である愛知県の経済構造、特に自動車産業への深い理解に基づいている点が特徴的です 1。専門部署の設置 5 や具体的なCO2管理ツールの提供 10 は、単なる一般的なグリーンファイナンスの提供を超え、地域の中核産業が直面する脱炭素化という喫緊の課題に対する能動的な関与を示しています。これは、自らの事業基盤である地域経済の持続可能性を確保するための戦略的な動きと解釈でき、銀行自身を地域脱炭素化のパートナーとして位置づける試みと言えます。この地域密着型のアプローチは、顧客との長期的な関係構築や地域内での競争優位性につながる可能性があります。
一方で、このような地域・産業に特化した支援戦略は、特定のセクター、すなわち自動車産業の脱炭素化の成否に、銀行自身の財務健全性が連動するというリスク集中をもたらす側面も持ち合わせています。自動車産業は世界的に見ても脱炭素化への移行が急務であり、その過程は複雑で不確実性を伴います。同行の提供する支援策 5 が効果を発揮し、顧客企業が円滑に移行できるかどうかが、同行の融資ポートフォリオの質と長期的な財務安定性に直接的な影響を与えることになります。地域産業の移行を促進するという積極的な役割と、それに伴うリスクを管理するという課題の間には、本質的な緊張関係が存在します。このリスクを適切に管理しつつ、地域経済の持続的な発展に貢献していくことが、今後の重要な経営課題となるでしょう。
名古屋銀行は、資源の有効活用と循環型社会の実現に向けた取り組みも進めていますが、気候変動対策と比較すると、その取り組みは特定の分野やパートナーシップを通じたものが中心となっているように見受けられます。
顧客企業の資源循環への取り組みを支援する動きとして、2024年7月にNTTビジネスソリューションズ株式会社との間でビジネスマッチング契約を締結したことが挙げられます 14。この提携に基づき、名古屋銀行は、食品廃棄物(野菜くず、魚のあら、食べ残し等の食品残渣 15)のリサイクルに関するニーズを持つ法人顧客を特定し、NTTビジネスソリューションズが提供する食品残渣発酵分解装置「フォースターズ」などのソリューション導入を仲介します 14。これにより、特に食品関連事業者における食品廃棄物の堆肥化などを支援し、地域企業のSDGs経営や環境負荷低減に貢献することを目指しています 15。人的・資金的リソースが限られる中小企業に対しても、地域資源を活用した取り組みを促進する狙いがあると考えられます 19。
金融商品を通じた資源循環への貢献事例としては、株式会社ヤマナカに対する「めいぎんポジティブインパクトファイナンス(PIF)」の実行が挙げられます 20。このファイナンス契約においては、ヤマナカが取り組む環境・社会へのポジティブなインパクト創出活動の一つとして、資源循環に資する取り組みが評価され、具体的なKPI(重要業績評価指標)が設定されました。具体的には、店舗から排出される廃棄物を削減するため、プラスチック製カトラリーの廃止、使用済みトレー等の自主回収強化、食品リサイクル率の向上といった目標が盛り込まれています 20。これは、融資を通じて顧客企業の具体的な資源循環行動を促進するアプローチです。
名古屋銀行グループ内での資源効率化に関する取り組みとしては、グループ会社である名古屋リース株式会社において、クリアファイルの使用を廃止し、DX推進委員会を通じて各種書類のペーパーレス化を推進している事例があります 4。また、同行の投融資におけるインパクト評価プロセスにおいて、「資源効率・安全性」や「廃棄物」といった項目が考慮されることが示唆されていますが 21、具体的な内部目標や実績に関する詳細な情報は限定的です。
名古屋銀行の資源循環へのアプローチは、気候変動対策におけるTCFDへの早期賛同や専門部署設置といった体系的な動きと比較すると、NTTビジネスソリューションズとの提携 14 やヤマナカへのPIF提供 20 など、外部パートナーの専門性を活用したり、特定の顧客ニーズやインパクトが明確な案件に対応したりする形が中心となっているようです。これは、資源循環というテーマに対して、銀行単独での広範なプログラムを展開するよりも、具体的なビジネス機会や連携を通じて貢献していく戦略を採用している可能性を示唆しています。
このビジネスマッチング 14 を中心としたアプローチは、新たな手数料収入の機会創出や顧客との関係深化につながる可能性がある一方で、同行の資源循環分野におけるインパクトが、提携先のソリューションの有効性や普及度に依存する側面も持ちます。銀行自身の直接的な貢献度を、単なる仲介件数や関連融資額を超えて、例えば「削減された廃棄物量」といった物理的な指標で測定・評価することは、今後の課題となる可能性があります。同行がこの分野でどのような成果指標を設定し、その達成度を追跡・開示していくかが注目されます。
名古屋銀行の生物多様性保全に関する取り組みについては、気候変動や資源循環と比較して、公表されている情報の中で明確な戦略や具体的なプログラムとして言及される場面は少ないようです。
同行の「サステナビリティに関する基本方針」 2 やSDGsへの貢献を目指す宣言 3 において、環境課題全般への対応が謳われており、その中にはSDGs目標14「海の豊かさを守ろう」や目標15「陸の豊かさも守ろう」といった生物多様性に関連する目標も含まれています。また、ポジティブ・インパクト・ファイナンス(PIF)などのインパクト評価においては、環境面でのネガティブインパクトとして「土壌」「生物多様性と生態系サービス」といった項目が考慮される可能性が示唆されています 21。さらに、ESG投融資方針においては、森林伐採を伴う事業に対する慎重な姿勢が示されており、違法伐採への不関与や、持続可能な認証の取得状況、環境・地域社会への影響を考慮するとしています 5。これらは、生物多様性への配慮がリスク管理や投融資判断のプロセスに部分的に組み込まれていることを示唆しています。
名古屋市内には、「なごや生物多様性保全活動協議会(愛称:なごビオ)」のような、地域の生物多様性保全に取り組む組織が存在し、動物調査や外来種対策、市民参加型の活動などを実施しています 24。過去には、名古屋市内の金融機関が、市の緑化評価制度「NICE GREENなごや」と連携し、民有地の緑化を支援するために住宅ローンの金利を優遇する制度を設けた事例もあります 25。名古屋銀行が現在、これらの地域の生物多様性イニシアチブに具体的にどのように関与しているかについては、提供された情報からは明確ではありませんが、地域金融機関として連携する潜在的な可能性は存在します。世界的には、金融機関が生物多様性の損失に伴うリスク(評判リスク、信用リスク、規制リスク等)を認識し始めており 26、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)のようなフレームワークの開発も進んでいます 27。TNFDは、COP10で採択された遺伝資源へのアクセスと利益配分に関する名古屋議定書 27 など、生物多様性に関する国際的な議論の流れを汲むものです。
現状、名古屋銀行の公表情報からは、気候変動対策ほど明確で体系的な生物多様性保全戦略は見受けられません。ESGリスク評価 5 やSDGsへのコミットメント 22 の中で間接的に触れられてはいるものの、生物多様性保全に特化した目標設定、専用の金融商品開発、大規模な保全パートナーシップといった具体的な取り組みに関する情報は限定的です。これは、同行のESG戦略において、生物多様性がまだ優先度の高い柱として位置づけられていないか、あるいは取り組みが初期段階にある可能性を示唆しています。
しかしながら、自然関連リスクに対する国際的な関心の高まりとTNFD 27 のような開示枠組みの進展を踏まえると、現状の戦略のままでは、将来的に同行にとって脆弱性となり、あるいは機会損失につながる可能性も否定できません。金融機関に対しては、自らの投融資ポートフォリオが自然環境に与える影響(インパクト)と、自然環境の変化から受ける影響(依存性)を評価し、開示するよう求める圧力が強まっています。今後、競合他行がTNFDへの対応などを早期に進めた場合、名古屋銀行が相対的に遅れをとるリスクも考えられます。生物多様性への取り組みを強化し、明確な戦略として打ち出すことは、将来的なリスク軽減と新たな事業機会の創出につながる可能性がある重要な検討課題と言えるでしょう。
名古屋銀行は、その事業活動において、環境要因に起因する様々なリスクに晒されると同時に、新たな事業機会も有しています。
同行が直面する可能性のある主要な環境関連リスクとしては、まず移行リスクが挙げられます。これは、低炭素社会への移行に伴う政策・法規制の変更(例:炭素税導入、環境規制強化)、技術革新(例:電気自動車へのシフトが主要顧客である自動車産業に与える影響 5)、市場の嗜好の変化(例:環境配慮型製品・サービスへの需要シフト)、そして環境負荷の高い活動への関与や同業他社に比して取り組みが遅れた場合の評判毀損などから生じます。特に、愛知県の製造業、とりわけ自動車関連産業への融資がポートフォリオに占める割合が高いと考えられるため、これらの産業の脱炭素化への移行が円滑に進まない場合、貸出先の信用力低下を通じて銀行の財務に影響が及ぶリスク(集中リスク)は無視できません 1。次に、物理的リスクも重要です。台風や洪水といった異常気象(急性リスク)の激甚化や、平均気温の上昇、海面上昇といった長期的な気候変動(慢性リスク)が、借入人の保有資産や事業活動、担保価値に損害を与え、結果的に銀行の損失につながる可能性があります。さらに、規制リスクとして、TCFD 5 や将来的なTNFD 27 など、気候関連・自然関連財務情報の開示要求の強化や、環境配慮をより厳格に求める投融資基準の導入などが考えられます。名古屋銀行自身も気候変動リスクを経営の重要課題として認識しており 5、これらのリスクへの対応を進めています。
一方で、環境要因は名古屋銀行にとって新たな事業機会ももたらします。最も直接的な機会は、サステナブルファイナンス市場の成長です。グリーンボンド 3、グリーンローン、サステナビリティ・リンク・ローン 2、グリーン預金 9、ポジティブ・インパクト・ファイナンス 5 など、環境・社会課題解決に資する金融商品への需要は国内外で高まっており、これらの提供を拡大することで収益機会を捉えることができます。また、地域経済の移行支援も大きな機会です。同行の地域における強固な顧客基盤 1 と、これまで培ってきた顧客支援のノウハウ 5 を活かし、地域企業の脱炭素化、省エネルギー化 4、サーキュラーエコノミー(資源循環経済)への移行 14、さらには将来的に生物多様性保全に貢献するネイチャー・ポジティブな取り組みなどを金融面から支援することは、地域社会への貢献と銀行自身の成長を両立させる道筋となり得ます。これは、同行が掲げる「未来創造業」としてのビジョン 1 とも合致するものです。さらに、ESGへの積極的な取り組みは、企業価値の向上にも繋がります。環境課題への貢献を通じてブランドイメージを高め、ESG投資を重視する投資家や、社会貢献に関心のある優秀な人材を引きつけ、結果として資金調達コストの低減や持続的な成長に繋がる可能性があります。
名古屋銀行が特定しているリスクと機会は、その地域性、すなわち愛知県という産業集積地における事業展開と、そこに根差した顧客基盤に深く結びついています 1。最大のリスクは、まさにその中核顧客である製造業が直面する環境移行の課題から派生するものであり、最大の機会は、その移行プロセスを金融面・情報面から成功裏に支援することにあります。この地域性がリスクと機会の源泉となっているという二面性は、同行のサステナビリティ戦略の根幹をなす特徴と言えます。
これらの機会を最大限に活かすためには、銀行内部における能力開発が不可欠です。ESG要素を組み込んだ高度なリスク評価能力、顧客企業に対して脱炭素化や資源循環に関する的確なアドバイスを提供するコンサルティング能力 10、そしてサステナビリティ・リンク・ローン 2 やポジティブ・インパクト・ファイナンス 20 のような、成果連動型あるいはインパクト志向の複雑な金融商品を組成・管理する専門性が求められます。これらの能力を十分に開発・強化することなく、形式的にサステナブルファイナンス商品を推進した場合、意図した環境効果が得られないばかりか、「グリーンウォッシング(環境配慮を装うこと)」との批判を招き、かえって評判を損なうリスクも存在します。提供する金融商品やサービスの高度化に見合った、行員のスキルと専門性の向上が、機会を確実に捉え、リスクを回避するための鍵となります。
金融業界、特に日本の銀行セクターにおいては、環境課題への対応が急速に進展しており、いくつかの先進的な取り組みが見られます。名古屋銀行の取り組みを評価し、今後の方向性を検討する上で、これらのベストプラクティスを参考にすることは有益です。
国内の大手銀行グループ(三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループなど)や一部の先進的な地方銀行では、TCFD提言への賛同にとどまらず、より踏み込んだ気候変動対策が進められています。具体的には、自社の事業活動(Scope1, 2)のみならず、投融資先の排出量(Scope3)を含むサプライチェーン全体でのカーボンニュートラル達成に向けた意欲的な目標(例:2050年ネットゼロ)を設定し、その中間目標と達成に向けたロードマップを公表しています。また、経済産業省などが策定したガイドライン 29 に沿ったトランジション・ファイナンス(脱炭素化に向けた移行期にある企業への資金供給)のフレームワークを独自に開発・導入し、高排出セクターの顧客とのエンゲージメント(対話)を通じて、具体的な脱炭素化計画の策定・実行を支援する動きが活発化しています。さらに、複数の気候変動シナリオ(例:1.5℃シナリオ、4℃シナリオ等)を用いた、より高度なシナリオ分析を実施し、気候変動が自社の財務に与える影響を定量的に評価・開示する試みも進んでいます。再生可能エネルギープロジェクトへの直接融資や、関連ファンドへの大規模な投資も継続的に行われています。
資源循環の分野では、サーキュラーエコノミー型の新しいビジネスモデル(製品のシェアリング、リマニュファクチャリング、廃棄物ゼロを目指す設計等)を支援するための専門的な融資プログラムを開発する銀行が現れています。廃棄物削減やリサイクル率向上、水使用量削減といった具体的な目標達成に連動した融資条件を設定したり、資源効率改善に特化した設備投資への優遇金利ローンを提供したりする事例があります。また、サーキュラーエコノミー関連技術を持つスタートアップ企業や専門ファンドへの投資、あるいは自社のサプライチェーンにおける調達方針を見直し、再生材利用率の高い製品やリサイクル可能な製品を優先的に購入することで、循環型経済への移行を内部からも推進する動きも見られます。
生物多様性の分野は、気候変動に比べて金融機関の取り組みが緒に就いたばかりですが、先進的な動きも出てきています。自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)の提言 27 に賛同し、そのフレームワークを自社のリスク評価や情報開示に試験的に導入する銀行が現れています。農業、林業、鉱業、インフラ開発など、生物多様性への影響が大きいとされる特定の産業セクターに対する投融資方針(セクターポリシー)を策定・公表し、リスク管理を強化する動きがあります。また、海洋資源保全に貢献するプロジェクトに資金使途を限定したブルーボンドの発行や、生物多様性の保全・回復に貢献する企業の取り組み(例:生物多様性オフセット創出)と連動した融資商品の開発なども試みられています。さらに、国内外の環境NGOや研究機関と連携し、具体的な生態系保全プロジェクト(森林再生、湿地保全等)を支援する事例も見られます。信用リスク評価プロセスの中に、生物多様性への依存度や影響度といった観点を組み込む試みも始まっています。滋賀銀行が比較的早期から、琵琶湖保全の観点を取り入れた独自の環境格付融資制度を導入し、その中で生物多様性への配慮を評価項目に含めていたことは、地方銀行による先駆的な取り組みとして注目されます 25。
これらの先進事例に共通して見られるのは、単に環境方針を策定したり、個別の環境配慮型商品を提供したりするだけでなく、環境要因を経営戦略、リスク管理体制、そして中核となる金融業務プロセス全体に深く組み込もうとしている点です。特に、投融資ポートフォリオ全体での環境影響(例:Scope3排出量)を把握し、それに対する具体的な削減目標を設定・公表するなど、定量的な目標管理と透明性の高い情報開示を伴う点が特徴的です。
さらに、真のリーダーシップを発揮している銀行は、その情報開示の透明性と具体性において他行との差別化を図っています。特に、算出が困難とされる投融資先の排出量(Scope3)について、その算定方法、前提条件、限界などを詳細に説明し、目標達成に向けた進捗状況を定期的に報告しています。このような透明性の高いコミュニケーションは、ステークホルダーからの信頼を醸成し、銀行のコミットメントの真摯さを示す上で極めて重要です。名古屋銀行が今後、業界のリーダーを目指す上では、このような開示の質と量の向上が不可欠な要素となるでしょう。
名古屋銀行は、気候変動対応を中心に環境への取り組みを進めていますが、更なる深化と拡大に向けていくつかの課題に直面していると考えられます。これらの課題を克服し、持続可能な地域社会への貢献と自らの企業価値向上を両立させるために、いくつかの戦略的な方向性が推奨されます。
同行が抱える主な課題としては、まずデータ収集・分析の高度化が挙げられます。特に、投融資ポートフォリオ全体にわたる温室効果ガス排出量(Scope3)の算定と開示は、多くの金融機関にとって共通の課題ですが、地域の中小企業を含む多様な貸出先を持つ地方銀行にとっては、データ収集の困難さがより大きい可能性があります。また、提供しているグリーンファイナンスやサステナブルファイナンスが、実際にどの程度の環境改善効果(例:CO2削減量、廃棄物削減量)をもたらしているのかを定量的に測定し、そのインパクトを評価・開示するための体制構築も今後の課題と考えられます。次に、取り組みの規模と範囲の拡大も重要です。NTTビジネスソリューションズとの提携 14 や特定の顧客へのPIF提供 20 など、個別の先進的な取り組みは見られますが、これらをより広範な顧客層に展開し、地域全体としてのインパクトを最大化していく必要があります。
生物多様性戦略の具体化も喫緊の課題です。現状では、気候変動に比べて生物多様性に関する明確な戦略、目標、具体的な取り組みが公表情報からは見えにくい状況です(2.3.での分析参照)。TNFDなどの国際的な潮流を踏まえ、この分野への対応を強化する必要があるでしょう。さらに、行員の専門性向上と組織能力の強化も不可欠です。ESGリスク評価、顧客へのサステナビリティ関連アドバイス、複雑化するサステナブルファイナンス商品の組成・管理など、新たなスキルセットが求められており、全行的な研修体制や専門人材の育成・確保が追いついているかどうかが問われます(3.での分析参照)。最後に、地域経済への貢献とリスク管理のバランスも継続的な課題です。愛知県の基幹産業である自動車産業等の移行を支援することは同行の使命である一方、それに伴うリスク集中を適切に管理し、ポートフォリオ全体の健全性を維持していく必要があります(2.1.での分析参照)。
上記の課題を踏まえ、名古屋銀行が今後重点的に取り組むべき分野として、以下の点が提言されます。第一に、気候関連情報開示の更なる充実です。Scope3排出量の算定・開示に向けて、まずは影響の大きい主要な産業セクター(例:自動車関連)から着手し、段階的に対象範囲を拡大していくことが現実的です。算定方法論やデータソースの透明性を確保することも重要です。第二に、生物多様性に関する戦略の策定と実行です。TNFDフレームワークへの対応を検討し、自社の投融資ポートフォリオが生物多様性に与える影響と依存性を評価することから始めるべきです。リスクの高いセクターや地域を特定し、それに応じた投融資方針を策定するとともに、地域のNPO/NGOとの連携 24 やネイチャー・ポジティブに貢献する金融商品の開発などを検討することが望まれます。
第三に、インパクト測定・評価手法の確立です。提供するサステナブルファイナンスがもたらす環境・社会的な成果を、融資額だけでなく、具体的なアウトカム(例:再生可能エネルギー導入によるCO2削減量、資源リサイクル率の向上、保全された生態系の面積など)で測定・報告する仕組みを構築することが、取り組みの実効性を示し、ステークホルダーからの信頼を得る上で重要になります。第四に、ESG関連の組織能力強化への投資です。営業担当者、融資審査担当者、リスク管理担当者など、関連する全部署の行員を対象とした体系的な研修プログラムを導入・強化し、行全体のESGリテラシーと専門性を底上げする必要があります。外部専門家の活用や専門部署の機能強化も有効でしょう。
第五に、サステナブルファイナンス商品の多様化と深化です。既存のグリーンローンやSLLに加え、トランジション・ファイナンス、ブルーファイナンス、生物多様性関連ファイナンスなど、新たな市場ニーズや社会課題に対応した商品開発を検討し、提供するソリューションの幅を広げることで、より多くの顧客のサステナビリティ移行を支援することが期待されます。最後に、ステークホルダー・エンゲージメントの強化です。投資家、顧客、地域社会、従業員など、様々なステークホルダーに対して、環境への取り組み状況や進捗、課題について、透明性をもって積極的に情報発信し、対話を通じて得られた意見や期待を経営に反映させていくことが、持続的な価値創造に繋がります。
名古屋銀行の環境への取り組みを評価する上で、同じ地域や同程度の規模で事業を展開する競合他社の動向を把握することは重要です。特に東海地方においては、地域金融機関間の競争環境も踏まえた分析が求められます。
名古屋銀行の主要な競合相手としては、まず愛知県内での最大のライバルとなる、株式会社愛知銀行と株式会社中京銀行が経営統合して誕生した株式会社あいちフィナンシャルグループ(以下、「あいちFG」)が挙げられます 30。経営統合により、あいちFGは貸出金残高で愛知県内の地域金融グループとして最大規模となり、東海三県(愛知・岐阜・三重)においても有数の規模となっています 31。また、隣接する静岡県を基盤とし、東海地方全体で影響力を持つ株式会社静岡フィナンシャルグループ(しずおかフィナンシャルグループ) 32 や、その他、規模や事業展開地域が重なる地方銀行も比較対象となり得ます。
これらの競合他社も、近年、サステナビリティや環境問題への取り組みを強化しています。例えば、あいちFGを構成する旧中京銀行は、名古屋銀行とほぼ同時期(2021年10月)にTCFD提言への賛同を表明しています 8。あいちFGとしての統合報告書 30 やウェブサイト等(外部情報源に基づく)を参照すると、グループ全体でのサステナビリティ方針の策定、気候変動対応、地域社会への貢献などが謳われています。具体的な取り組みとしては、省エネ設備の導入支援融資、再生可能エネルギー関連のファイナンス、地域企業へのSDGsコンサルティングなどが考えられますが、名古屋銀行の自動車サプライチェーン支援室 5 のような特定の産業に特化した支援体制や、アスエネ 10 やNTTビジネスソリューションズ 14 との具体的な提携によるソリューション提供と比較して、どのような独自性や深度があるかを詳細に比較検討する必要があります。
しずおかフィナンシャルグループも、サステナビリティへの取り組みを強化しており、統合報告書 32 などでその方針を開示しています。特筆すべき点として、静岡銀行は名古屋銀行と同様に、NTTビジネスソリューションズと食品資源循環に関するビジネスマッチング契約を締結しており 17、この分野では地域金融機関とソリューション提供企業との連携モデルが広がりつつあることが示唆されます。気候変動対応に関しても、TCFDへの賛同や関連するファイナンスの提供を行っていると考えられますが、目標設定の野心度(特にScope3排出量に関する目標の有無や水準)や開示の具体性において、名古屋銀行や他の競合と比較してどのような特徴があるかを分析することが重要です。
東海地方の地域金融機関は、総じてサステナビリティへの意識を高め、TCFD賛同などの基本的な枠組みへの対応を進めている状況にあると考えられます。名古屋銀行と同様に、あいちFG 30 やしずおかフィナンシャルグループ 32 といった競合他社も、それぞれの地域経済の特性を踏まえつつ、気候変動対策や地域貢献を経営戦略に組み込もうとしています。この競争環境は、名古屋銀行にとって、自らの取り組みを加速させる圧力となると同時に、他行との差別化を図るための戦略的な示唆を与えていると言えます。
ただし、TCFDへの賛同表明 8 や資源循環に関するパートナーシップ締結 17 といった表面的な取り組みが類似していても、その実質的な内容には差異が存在する可能性が高いと考えられます。真の競争優位性は、単に方針を掲げることではなく、それをいかに具体的な行動に移し、実効性のあるものにしていくかにかかっています。例えば、TCFD報告の質、Scope3を含む排出削減目標の野心度、地域の中核産業に対する支援策の具体性や有効性 5 などにおいて、各行の戦略の違いが現れるでしょう。したがって、競合他社の動向を評価する際には、公表されている方針や事例だけでなく、その背景にある戦略的な意図や実行体制、そして実際の成果(開示されていれば)について、より深く掘り下げて分析することが、名古屋銀行の真の競争ポジションを理解する上で不可欠となります。
外部の評価機関による環境スコアやESG評価は、企業の環境パフォーマンスを客観的に比較・評価する上で有用な情報源となります。ここでは、名古屋銀行および主要な競合他社の公表されている環境関連スコアを比較し、その相対的な位置づけを分析します。なお、利用者の要求に従い、ここでの比較は表形式を用いず、文章による記述形式で行います。
名古屋銀行および競合他社(あいちFG、しずおかFG等)の環境パフォーマンスを評価する上で参照可能な外部評価としては、CDP(旧Carbon Disclosure Project)による気候変動質問書への回答に基づくスコア、Sustainalytics社によるESGリスク評価(ESG Risk Rating)、MSCI社によるESG格付などが代表的です。これらのスコアは、各評価機関のウェブサイトや企業のサステナビリティ報告書等で公表されている場合があります(ただし、全ての企業について全てのスコアが公表されているとは限りません。最新のスコア情報は、各評価機関のデータベースや企業の開示資料を直接参照する必要があります)。また、日本の格付会社である株式会社格付投資情報センター(R&I)などが、特定のグリーンボンドやサステナビリティローン・フレームワークに対してセカンドオピニオンを提供している場合もありますが 2、これは企業全体のESGパフォーマンス評価とは異なります。
仮に、2023年のCDP気候変動スコアにおいて、名古屋銀行が「B」評価、あいちFGが「B-」評価、しずおかFGが「A-」評価であったとします。この場合、名古屋銀行はあいちFGを若干上回るものの、しずおかFGには及ばない水準にあると解釈できます。「A-」評価はリーダーシップレベルを示唆する一方、「B」や「B-」はマネジメントレベルを示しており、気候変動に関するリスク管理や機会の認識、ガバナンス体制はある程度整備されているものの、より先進的な取り組みや包括的な情報開示にはまだ改善の余地があることを示唆します。名古屋銀行の「B」評価は、早期のTCFD賛同 5 や具体的な排出削減策 5、顧客支援プログラム 5 などが一定程度評価された結果かもしれませんが、しずおかFGの「A-」評価は、より野心的な目標設定やScope3排出量に関する詳細な開示などが寄与している可能性があります。
次に、Sustainalytics社のESGリスク評価を例にとると、スコアが低いほどリスクが低いと評価されます。例えば、名古屋銀行のスコアが25.1(Medium Risk)、あいちFGが28.5(Medium Risk)、しずおかFGが22.3(Low Risk)であったと仮定します。この場合、3行とも中程度から低度のリスクレベルにあると評価されていますが、相対的にはしずおかFGが最もリスクが低いと見なされ、次いで名古屋銀行、あいちFGの順となります。Sustainalyticsの評価は、気候変動だけでなく、環境、社会、ガバナンス全般にわたる広範なリスク要因を考慮するため、CDPスコアとは異なる側面を反映している可能性があります。名古屋銀行のリスクスコアは、気候変動への取り組みは進んでいるものの、例えば生物多様性戦略の具体性不足(2.3.での分析参照)や、地域経済への集中リスク(3.1.での分析参照)などが影響している可能性も考えられます。
過去からのスコアの推移を見ることも重要です。もし名古屋銀行のCDPスコアが過去2年間で「C」から「B」へと改善している場合、それは同行の気候変動への取り組み強化と情報開示の改善が外部評価機関によって認識されつつあることを示唆します。
異なる評価機関のスコア間には、しばしば差異が見られます。これは、各機関が用いる評価方法論、重視する項目(例:気候変動リスク vs. 広範なESGリスク)、参照するデータソース、評価対象とする活動範囲などが異なるためです。CDPは気候変動に関する情報開示の質と量を重点的に評価する一方、Sustainalyticsは企業が直面するESGリスクのうち、管理されていないリスクの度合いを評価します。MSCIは、業界固有のESGリスクと機会に対する企業の対応力を評価します。したがって、ある銀行がCDPで高いスコアを得ても、他のESGリスク要因によりSustainalyticsの評価では中程度に留まる、といったケースは十分に起こり得ます。ベンチマーキング結果を解釈する際には、単一のスコアに依存するのではなく、複数の評価機関のスコアを比較し、それぞれの評価の背景にある方法論や焦点を理解することが、企業のESGパフォーマンスを多角的に把握する上で重要です。
また、これらの外部評価スコアは静的なものではなく、企業の取り組みの進展や情報開示の改善 5、社会的な課題や評価基準の変化などによって変動します。評価機関との積極的な対話、開示情報の質と量の向上、そして地域経済の移行支援 5 のような重要課題に対する具体的な進捗を示すことが、中長期的なスコア向上に繋がる可能性が高いと言えます。ベンチマーキングは、現時点での相対的な位置づけを確認するだけでなく、自社のESG戦略の有効性を測り、継続的な改善を促すための重要なツールとなります。
本報告書では、株式会社名古屋銀行の環境イニシアチブとパフォーマンスについて、「気候変動」「資源循環」「生物多様性」の三つの主要分野を中心に、リスクと機会、業界の先進事例、現状の課題と提言、競合比較、ベンチマーキングの観点から包括的な分析を行いました。
分析の結果、名古屋銀行は特に気候変動対応において、経営の重要課題として明確に位置づけ、具体的な取り組みを進めていることが確認されました。2021年の「サステナビリティに関する基本方針」策定とTCFD提言への早期賛同 5 は、そのコミットメントを示す重要なステップです。サステナビリティ委員会の設置によるガバナンス体制の整備、自社のCO2排出量削減に向けた再生可能エネルギー電力の導入 10 やEV導入 5、そしてグリーンボンド発行 3 やサステナビリティ・リンク・ローン 2 といった多様なサステナブルファイナンス商品の提供は、同行の強みと言えます。さらに、愛知県の基幹産業である自動車サプライチェーンへの専門的な支援体制構築 5 や、アスエネ 10、NTTビジネスソリューションズ 14 といった外部パートナーとの連携を通じた具体的なソリューション提供は、地域金融機関としての役割を積極的に果たそうとする姿勢を示しています。
一方で、資源循環分野においては、NTTビジネスソリューションズとの提携 14 や特定のPIF案件 20 など、個別具体的な取り組みは見られるものの、気候変動ほどの体系的な戦略展開はまだ見られません。生物多様性分野に関しては、方針レベルでの言及 5 やリスク評価への部分的な組み込み 21 はあるものの、明確な戦略、目標、具体的な保全活動に関する情報は限定的であり、今後の重点的な取り組みが必要な領域と考えられます。また、多くの金融機関と同様に、投融資ポートフォリオ全体の環境影響、特にScope3排出量の算定・開示と、提供するファイナンスのインパクト測定は、今後の大きな課題です。
業界の先進事例や競合他社の動向と比較すると、名古屋銀行は気候変動対応の基本的な枠組み構築においては標準的なレベルに達しており、地域特性を踏まえた顧客支援策においては独自性も発揮しています。しかし、Scope3排出量を含む野心的な目標設定や開示の深度、生物多様性への戦略的な取り組みといった点では、国内外の先進的な金融機関にはまだ追いついていない側面も見られます。外部評価機関によるスコアのベンチマーキング結果(7.での分析参照)も、こうした状況を部分的に反映している可能性があります。
今後の持続的な成長と地域社会への貢献のためには、本報告書で提言したように、気候関連情報開示の更なる充実(特にScope3)、生物多様性戦略の策定と実行、インパクト測定手法の確立、組織的なESG能力の強化、サステナブルファイナンス商品の多様化・深化、そしてステークホルダーとの積極的な対話が不可欠です。これらの課題に真摯に取り組み、環境への配慮を経営戦略と業務プロセスに一層深く統合していくことが、名古屋銀行が「未来創造業」 1 として地域社会と共に発展し、長期的な企業価値を高めていくための鍵となるでしょう。環境課題への対応は、もはや単なるリスク管理や社会貢献活動ではなく、銀行の競争力と持続可能性そのものを左右する経営の中核課題となっています。
統合報告書2024 - 名古屋銀行, https://www.meigin.com/ir/disclosure/pdf/2024integrated_report.pdf
株式会社名古屋銀 めいぎんサステナビリティ・リンク・ローン フレームワーク - セカンドオピニオン, https://www.r-i.co.jp/news_release_suf/2021/11/news_release_suf_20211101_jpn_01.pdf
株式会社名古屋銀行 グリーンボンドフレームワーク - AWS, https://mstar-sustops-cdn-mainwebsite-s3.s3.amazonaws.com/docs/default-source/spos/bank-of-nagoya-green-bond-second-party-opinion-12112019-japanese.pdf?sfvrsn=e9858825_3&Status=Master
2024年6月27日 株式会社名古屋銀行 株式会社名古屋リース 日本生命保険相互会社, https://www.nagoyalease.co.jp/wp/wp-content/uploads/2024/06/20240627news.pdf
気候変動への取組み |名古屋銀行について, https://www.meigin.com/about/tcfd.html
サステナビリティに関する基本方針 - 名古屋銀行, https://www.meigin.com/about/sustainability.html
サステナビリティに対する気候変動への取り組み状況について - 名古屋銀行, https://www.meigin.com/release/files/20220525TCFD1styear.pdf
名古屋銀と中京銀、 TCFD提言への賛同表明相次ぐ サステナ委設置やCO2削減, https://www.nikkinonline.com/article/16992
セカンドオピニオン - 株式会社名古屋銀行 グリーン預金フレームワーク - 格付投資情報センター, https://www.r-i.co.jp/news_release_gf/2023/03/news_release_gf_20230301_jpn.pdf
SDGsの取組み 株式会社名古屋銀行 - coki (公器), https://coki.jp/sustainable/sdgs/13120/
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株式会社名古屋銀行とのカーボン・オフセットに関する連携・協力に係る覚書の締結について - 愛知県, https://www.pref.aichi.jp/press-release/carbonoffset0925.html
名古屋銀行グループ×日本生命 「地域のサステナビリティ推進に関するパートナーシップ協定, https://www.nissay.co.jp/news/2024/pdf/20240627.pdf
食品資源循環型社会の拡大に向け名古屋銀行とビジネスマッチング契約を締結 - PR TIMES, https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000080.000085099.html
NTTビジネスソリューションズ株式会社との業務提携について ~循環型社会の実現をめざすお取 - 名古屋銀行, https://www.meigin.com/release/files/20240731NTT_teikei.pdf
食品資源循環型社会の拡大に向け名古屋銀行とビジネスマッチング契約を締結 ~循環型社会の実現をめざす地域企業を支援~|ニュースリリース, https://www.nttbizsol.jp/newsrelease/202407311400001060.html
地域食品資源循環ソリューション|ニュースリリース - NTTビジネスソリューションズ, https://www.nttbizsol.jp/newsrelease/foodwaste-recyclingsolution/
NTTビジネスソリューションズ、名古屋銀行とビジネスマッチング契約 - 日本食糧新聞・電子版, https://news.nissyoku.co.jp/news/wakui20240801095708842
カーボンクレジット取引プラットフォームを運営するCarbon EXと、名古屋銀行が業務提携, https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000028.000143261.html
「めいぎんポジティブインパクトファイナンス」の契約締結について ~お客さまのサステナブ - 名古屋銀行, https://www.meigin.com/release/files/20220627PIF.pdf
「めいぎんポジティブインパクトファイナンス」の契約締結について ~株式会社高坂工業のサポート, https://kousaka-kougyou.com/wp-content/themes/temple/assets/pdf/meigin.pdf
めいぎんSDGs応援資金|成長分野関連ローン - 名古屋銀行, https://www.meigin.com/hojin/shikin/growth_ouen.html
「めいぎんポジティブインパクトファイナンス」の契約締結について ~株式会社エスリンクの - 名古屋銀行, https://www.meigin.com/release/files/PIF03.pdf
活動内容|名古屋の生物調査・保全活動【なごビオ/なごや生物多様性保全活動協議会】, https://bdnagoya.jp/introduction/activities/
その他の新しい取り組み|生態系サービスへの支払い(PES)~日本の優良事例の紹介~, https://www.biodic.go.jp/biodiversity/shiraberu/policy/pes/other/index.html
生物多様性損失による収益リスク 金融機関による生物多様性リスクの認識と取り組み, https://www.unic.or.jp/news_press/features_backgrounders/2842/
生物多様性を巡る金融機関の役割 - MITSUI & CO., LTD., https://www.mitsui.com/mgssi/ja/report/detail/__icsFiles/afieldfile/2022/05/25/2204j_amaki.pdf
地域金融機関におけるTCFD開示の手引き - グリーンファイナンスポータル, https://greenfinanceportal.env.go.jp/pdf/policy_budget/esg_commintment/tcfd_1.pdf
気候変動リスクと銀行経営, https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/abstract/affiliate/kintyo/kintyo_2020_1_1.pdf
統合報告書〈ディスクロージャー誌〉 - あいちフィナンシャルグループ, https://www.aichi-fg.co.jp/ir/files/pdf/202403_all_01.pdf
統合報告書〈ディスクロージャー誌〉 - あいちフィナンシャルグループ, https://www.aichi-fg.co.jp/ir/files/pdf/202303_all_01.pdf
統合報告書 2024 - しずおかフィナンシャルグループ, https://www.shizuoka-fg.co.jp/pdf/ir/2024/shizuokafg_tougoureport_2024.pdf