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丸紅株式会社の環境イニシアティブと実績に関する包括的分析報告書

更新日:2025年5月15日
丸紅8002
業種:商業(6666)

序論

本報告書の目的と構成

本報告書は、丸紅株式会社(以下、丸紅)の環境戦略、特に「気候変動」「資源循環」「生物多様性」の3分野における具体的な取り組みと実績を深く掘り下げ、同社の環境スコア算定に必要な詳細情報を提供することを目的とする。今日の企業経営において、環境要因への配慮は持続的な成長と企業価値向上のための不可欠な要素となっている。本報告書では、丸紅がこれらの地球規模の課題に対し、どのように向き合い、事業活動を通じてどのような貢献を目指しているのかを多角的に分析する。構成としては、まず丸紅自身の環境方針、目標、具体的な施策、そしてそれらの実績について詳述する。次に、これらの環境要因が丸紅の事業に及ぼす潜在的なリスクと、そこから生まれる新たな事業機会について考察する。さらに、国内外の同業他社や関連業界における先進的な環境への取り組み事例を紹介し、丸紅の取り組みを相対的に評価するための一助とする。その上で、丸紅が現在直面している課題を明確にし、環境パフォーマンスの一層の向上と持続的成長を実現するための戦略的な提言を行う。最後に、主要な競合他社の環境戦略と、CDP、MSCI、Sustainalyticsといった外部評価機関による環境スコアを比較分析し、丸紅の環境面での立ち位置を客観的に評価するための情報を提供する。本報告書を通じて、丸紅の環境への取り組みの全体像を明らかにし、今後の戦略策定やステークホルダーとのエンゲージメントに資する知見を提供することを目指す。

丸紅株式会社の事業概要と環境課題への総合的認識

丸紅は、1858年の創業以来、時代とともに事業内容を変化させながら成長を続けてきた日本を代表する総合商社の一つである。その事業領域は極めて広範にわたり、食料、農業、化学品、電力・エネルギー、金属・資源、機械・インフラ、金融、不動産、次世代事業開発など、生活産業から基幹産業、そして未来を形作る新たな分野に至るまで、多岐にわたるセグメントでグローバルに事業を展開している 1。具体的には、穀物取扱量は総合商社で最大級であり、「食料」分野における強固な基盤を持つ。また、海外独立系発電事業(IPP)においても日本最大の事業者の一つであり、「電力・インフラ」分野でも主導的な役割を果たしている 1。その他、輸送機の取引仲介、非鉄金属の原料開発、原油・ガス開発、情報通信技術(ICT)サービスなど、枚挙にいとまがない。

このような多角的かつグローバルな事業活動は、必然的に地球環境と深く関わることになる。資源の採掘から製品の製造、輸送、消費、廃棄に至るバリューチェーン全体を通じて、気候変動の原因となる温室効果ガス(GHG)の排出、資源の消費、廃棄物の発生、そして生態系への影響など、様々な環境負荷を生じさせる可能性がある。丸紅自身もこの点を深く認識しており、企業活動が地球環境に与える影響の大きさを自覚し、環境保全への取り組みを経営の重要課題の一つと位置付けている。その基本的な考え方は、2019年1月に改訂された「丸紅グループ環境方針」に明確に示されている。「良き企業市民としての責任を自覚し、人間社会の繁栄と地球環境の保全との調和を図りながら、持続可能な社会の実現に向けて最善を尽くす」という基本理念のもと、具体的な行動指針を定めている 2。この方針は、地球温暖化対策としての気候変動への対応、資源の効率的利用と循環型経済への移行を目指す資源循環の推進、そして事業活動が依存し影響を与える自然資本と生物多様性の保全という、現代社会が直面する主要な環境課題への包括的なコミットメントを表明するものである。これらの課題への取り組みは、単なるリスク管理に留まらず、新たな事業機会の創出にも繋がるという認識が、同社のサステナビリティ戦略の根底にある。

第1部:丸紅株式会社の環境への取り組みと実績

1.1. 気候変動への対応

戦略、ガバナンス、およびTCFD提言に基づく情報開示

丸紅は、気候変動をグローバルかつ緊急性の高い社会課題であり、自社の持続的成長に影響を与える重要な要素と認識し、「環境・社会マテリアリティ」の一つとして特定している 3。この認識に基づき、気候変動に関連するリスクと機会を事業戦略に統合し、企業価値向上を目指すため、2019年2月には気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に賛同を表明した 3。これは、日本の主要総合商社の中でも比較的早い段階での対応であり、気候変動問題への積極的な姿勢を示すものと言える。TCFD提言への賛同は、単に情報開示の枠組みを採用するという形式的な意味合いに留まらず、気候変動がもたらす財務的影響を定量的に把握し、それを経営の意思決定に反映させるという、より実質的な取り組みへのコミットメントを意味する。丸紅は、気候変動によって事業の陳腐化や収益力の低下が見込まれる場合には、撤退を含めた代替案を検討し、事業ポートフォリオを適切な規模とタイミングで見直すことが長期的な企業価値の向上を支えるとの考えを示している 3。この方針は、TCFDをリスク管理ツールとしてだけでなく、事業構造の変革と新たな成長機会の特定を促す戦略的ドライバーとして活用しようとする意図の表れと解釈できる。

気候変動対応に関するガバナンス体制としては、サステナビリティ推進委員会が中心的な役割を担っている 2。同委員会は常務執行役員を委員長とし、気候変動を含むサステナビリティに関する幅広い事項について議論し、対応方針、目標、アクションプランなどを策定する。これらの内容は定期的に(少なくとも年1回以上)取締役会に報告され、取締役会による適切な監督が行われる体制が構築されている 5。この体制は、気候変動課題が経営レベルで重要視され、トップダウンでの意思決定と全社的な取り組み推進が図られていることを示している。

情報開示においては、TCFD提言の4つの主要項目である「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」に沿った開示を積極的に行っている 3。これには、複数の気候変動シナリオ(IEAのNZEシナリオ、STEPSシナリオ、IPCCのRCPシナリオなど)を用いた事業への影響分析が含まれ、主要事業セグメントにおけるリスクと機会、そして2030年までの業績への影響などが評価・開示されている 3。このような詳細な情報開示は、投資家をはじめとするステークホルダーが丸紅の気候変動への対応力と将来性を評価する上で重要な情報を提供している。

温室効果ガス(GHG)排出削減目標と実績(Scope 1, 2, 3を含む)

丸紅グループは、気候変動対策の中核として、GHG排出量の削減に積極的に取り組んでいる。長期的な目標として、2050年までにグループ全体のGHG排出量をネットゼロにすることを宣言している 3。この野心的な目標達成に向け、具体的な中間目標も設定している。

Scope1(自社での直接排出)およびScope2(他社から供給された電気・熱の使用に伴う間接排出)のCO2排出量については、2030年度までに2019年度比で5割削減するという目標を掲げている 6。この目標は、当初2018年度比25%削減としていたものを、パリ協定の1.5℃目標との整合性を考慮して引き上げたものであり、より積極的な削減意志を示すものと言える 6。2024年3月期のScope1およびScope2のGHG排出量実績(丸紅単体および連結子会社)は、合計で120.4万トン-CO2​e(6.5ガス※注1 を含む)であった 4。これは、2020年3月期実績の108.4万トン-CO2​eと比較すると増加しているが、目標の基準年が2019年度である点、また事業ポートフォリオの変動や算定範囲の変更なども影響し得るため、目標達成に向けた進捗は継続的な注視が必要である。

※注1:6.5ガスとは、メタン(CH4​)、一酸化二窒素(N2​O)、ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)、パーフルオロカーボン類(PFCs)、六ふっ化硫黄(SF6​)、三ふっ化窒素(NF3​)の6種類の温室効果ガスを指す。ただし、丸紅の開示では、2020年3月期以前のGHG排出量には6.5ガスを含んでいないと注記がある 7。

サプライチェーン全体での排出量を示すScope3については、特にカテゴリ15(投資)のCO2排出量に焦点を当て、2019年度の想定排出量約3,600万トンに対し、2030年度までに2割削減する目標を設定している 6。2024年3月期におけるScope3カテゴリ15(投資)の実績は2,500万トン-CO2​eであり、目標達成に向けて進捗が見られる 4。しかしながら、丸紅グループのScope3排出量全体は、2024年3月期で8,900万トン-CO2​eに達しており、これはScope1およびScope2の合計排出量の70倍以上という規模である 4。この事実は、丸紅の環境負荷の主たる源泉が自社の直接的な事業活動範囲外、すなわち投融資先の事業活動や販売した製品の使用段階などに存在することを示している。したがって、GHG排出削減戦略においては、サプライヤーエンゲージメントの強化、投資先の脱炭素化支援、そして低炭素製品・サービスの開発・普及といった、Scope3排出量削減に直接的に貢献する取り組みが、自社内の省エネルギー努力以上に決定的な重要性を持つことを意味している。この構造は、丸紅が単独で解決できる問題ではなく、バリューチェーン全体での協調とイノベーションが求められることを示唆しており、同時に、脱炭素ソリューションの提供といった新たな事業機会にも繋がり得る。

個別の拠点レベルでは、東京本社において2026年3月期にエネルギー使用量(電気、ガス)を2016年3月期比で10%以上削減するという目標を設定しており、これに対して2024年3月期の実績では28.5%減と、目標を大幅に前倒しで達成している 2。また、多摩センターでは、2021年3月期から2025年3月期の5年間でCO2排出量を基準値(2006年3月期から2008年3月期の平均値)より約27%削減する計画を東京都に提出しており、2024年3月期の排出量は基準値比で約76%減と、こちらも大きな成果を上げている 2。これらの実績は、個別拠点における省エネ努力の有効性を示している。

石炭火力発電事業に関しては、そのGHG排出量の大きさと社会的な要請を踏まえ、段階的な撤退計画を明確にしている。2018年度末比でネット発電容量を2025年までに半減させ(当初目標の2030年から前倒し)、2050年までにはゼロにする方針である 5。この目標設定は、座礁資産化リスクへの対応と同時に、再生可能エネルギー事業への経営資源のシフトを加速させる戦略的な判断である可能性が高い。この転換の速度と規模、そしてそれに伴う財務的影響や地域社会への配慮が、今後の企業価値を左右する重要な要素となるだろう。

再生可能エネルギー導入および省エネルギー推進の具体的な取り組み

丸紅は、GHG排出量削減の主要な手段として、再生可能エネルギーの導入拡大と省エネルギーの徹底を両輪で推進している。

再生可能エネルギー分野では、自社グループの発電事業における再生可能エネルギー比率の向上を積極的に進めている。2023年3月31日時点でのネット発電容量に占める再生可能エネルギーの比率は約21%(英国スコットランド沖の洋上風力発電プロジェクト「スコットウィンド」の海底リース権益を含む場合。含まない場合は約16%)に達している 3。これは、2023年までに再生可能エネルギー電源の比率をネット発電容量ベースで約20%へ拡大するという、かつて掲げた目標 6 を達成、あるいはそれに近い水準にあることを示している。さらに、電力卸売事業や小売電気事業、分散型電源事業においても、再生可能エネルギーの利用拡大を推進し、低炭素社会への貢献を目指している 3。これらの取り組みは、丸紅がエネルギー供給者としての役割を果たす中で、気候変動対策を事業機会として捉え、ポートフォリオのグリーン化を進めていることを示している。

省エネルギー推進に関しては、特に自社拠点における取り組みが具体的である。東京本社では、省エネルギー設備の導入などを通じてエネルギー効率の改善に努めている 2。特筆すべきは、2022年3月期より、丸紅単体の国内事業所における購入電力を実質再生可能エネルギー100%で調達している点である 7。具体的には、電力会社から再生可能エネルギー由来の電力を購入する、あるいは再生可能エネルギー指定の非化石証書等を利用することでこれを実現している。さらに、東京本社でエネルギーとして購入している蒸気や冷水についても、再生可能エネルギー熱に由来するJ-クレジットを調達することで、実質的に再生可能エネルギー由来のものとし、丸紅単体の主要拠点におけるScope2排出量をゼロにしている 7

このような丸紅単体主要拠点でのScope2ゼロ達成は、企業の環境意識の高さを示す象徴的な成果である。しかしながら、丸紅グループ全体の広範な事業活動と、特にScope3排出量の巨大さ 4 を考慮すると、この取り組みがグループ全体のGHG排出量削減に与える直接的な量的インパクトは限定的であると言わざるを得ない。この取り組みのより大きな意義は、再生可能エネルギー調達手法の確立やJ-クレジット活用のノウハウ蓄積にあると考えられる。これらの知見や経験を、今後は連結子会社や国内外の投資先企業へと展開し、それぞれの事業特性に応じた再生可能エネルギー導入支援や省エネルギー化コンサルティングを提供すること、さらには顧客企業に対して再生可能エネルギー電力の供給や包括的な脱炭素ソリューションを提案することにより、より広範なScope3排出量の削減に繋げていくことが期待される。これは、自社の環境負荷低減活動で得た知見を、新たな事業機会へと転換させる戦略とも言え、丸紅の「グリーン戦略」 3 の実質的な推進に貢献するだろう。

気候変動長期ビジョンと2050年ネットゼロ目標への道筋

丸紅は、気候変動問題への長期的なコミットメントを示すため、2021年3月に「気候変動長期ビジョン」を策定・公表した 6。このビジョンは、パリ協定の1.5℃目標の重要性を認識し、2050年までに丸紅グループのGHG排出量をネットゼロにすることを目指すという明確な目標を掲げている 3

この長期ビジョンの核心は、単に自社の排出量を削減するに留まらず、事業活動を通じて社会全体の低炭素化・脱炭素化に積極的に貢献することにより、気候変動問題に対してポジティブなインパクトを創出し、企業グループとして成長していくという「ネットポジティブ」の理想を追求する点にある 3。これは、リスク回避や規制遵守といった受動的な環境対応ではなく、環境貢献を事業成長の原動力と位置づける、より野心的で能動的な戦略である。

この「ネットポジティブ」達成に向けた2つの柱として、第一に「丸紅グループによるGHG排出ネットゼロの達成」、第二に「事業活動を通じた低炭素・脱炭素社会への移行への貢献」が掲げられている 3。前者については、前述のScope1, 2, 3の削減目標に加え、石炭火力発電事業からの段階的撤退(2025年までにネット発電容量半減、2050年までにゼロ) 5 や、技術革新によるさらなる排出量削減、そして最終的には森林・植林地によるCO2吸収・固定化による残余排出量のニュートラル化(GHG除去) 6 を通じて達成を目指す。後者については、再生可能エネルギー供給の拡大、省エネルギーソリューションの提供、EV(電気自動車)関連材料の供給、持続可能な森林経営によるCO2吸収量の増大など、多岐にわたる事業機会を追求する方針である 6

これらの目標達成に向けたアクションプランは、現時点での事業ポートフォリオや国際社会の認識、想定される制度変更や技術革新を前提として策定されており、これらの前提条件の変化を踏まえて適宜見直しを行っていくとしている 6。この柔軟性は、不確実性の高い気候変動問題に対応していく上で不可欠な要素である。

「ネットポジティブ」という目標設定は、丸紅が気候変動問題を深刻なリスクとして認識する一方で、それを乗り越えるためのイノベーションや事業変革を成長の機会と捉えていることを明確に示している。このビジョンの具現化には、既存の高排出事業からの戦略的な撤退や転換と並行して、CCUS(二酸化炭素回収・有効利用・貯留)、水素・アンモニアといった次世代エネルギー、持続可能な燃料などの気候変動ソリューションを提供する新規事業への大規模な投資と、それらを軌道に乗せるための技術開発および事業開発能力が不可欠となる。これらの事業が将来的にどれだけ成長し、収益に貢献できるかが、「ネットポジティブ」達成、ひいては丸紅の持続的な企業価値向上を実現するための試金石となるであろう。

1.2. 資源循環の推進

廃棄物削減、再利用、リサイクルに関する方針と具体的なプログラム

丸紅グループは、資源の有効活用と環境負荷の低減を目指し、資源循環の推進を重要な経営課題と位置付けている。その基本的な考え方は、グループ環境方針における「省エネルギー、省資源、廃棄物削減の実施」という項目に明示されている 2。この方針に基づき、具体的な目標設定と取り組みが進められている。

特に、東京本社における廃棄物管理は、具体的な数値目標を伴って推進されている。2026年3月期までに、東京本社の廃棄物排出量を2016年3月期比で50%以上削減するという野心的な目標を設定している 2。この目標達成に向けた進捗として、2024年3月期における丸紅単体主要拠点(東京本社を含む)の廃棄物発生量は295トンであり、同拠点のリサイクル率は71.6%に達している 7。これらの数値は、オフィス活動における廃棄物削減とリサイクル推進の努力を示している。

グループ会社においても、資源循環への意識は浸透しつつある。例えば、丸紅ロジスティクス株式会社は、その環境方針の中で「循環型経済社会の実現」を基本方針の一つとして掲げ、グリーン調達の推進や廃棄物の有効利用に積極的に取り組む姿勢を示している 9。これは、物流プロセスにおける梱包材の削減や再利用、輸送効率の向上による資源消費の抑制など、事業特性に応じた資源循環への貢献を目指すものと考えられる。

しかしながら、現状の開示情報からは、丸紅グループ全体の事業活動、特に製造、建設、資源開発、食料生産といった、より多くの産業廃棄物や副産物を生み出す可能性のあるセクターにおける、包括的な資源循環戦略や具体的な数値目標(例えば、グループ全体の廃棄物削減目標、再生材利用率目標、最終処分率目標など)については、必ずしも明確ではない。東京本社のオフィス廃棄物に関する目標は具体的であるが、グループ全体の事業規模と多様性を考慮すると、そのインパクトは限定的と言わざるを得ない。総合商社として、バリューチェーン全体に影響力を持つ丸紅にとって、製品の設計段階から使用後の処理、再資源化に至るまでのライフサイクル全体を見据えたサーキュラーエコノミー戦略を策定し、その進捗を測るための具体的な指標(例:主要製品群における再生材利用率、製品寿命延長への貢献度、事業部門ごとの廃棄物原単位など)を開示することが、より高度な環境経営を実践し、ステークホルダーからの信頼を得る上で今後の重要な課題となるだろう。

太陽光パネルリサイクル事業「リクシア」等の革新的取り組み

丸紅は、資源循環型社会の実現に向けた具体的なアクションとして、将来的に大量廃棄が見込まれる使用済み太陽光パネルの問題に着目し、革新的なリサイクル事業への参入を果たしている。2022年、丸紅は産業廃棄物処理やリサイクル事業を手掛ける株式会社浜田と共同で、使用済み太陽光パネルのリユース(再利用)およびリサイクル(再資源化)関連サービスを提供する新会社「リクシア株式会社」を設立した 10

この「リクシア」事業は、太陽光発電の普及に伴い、今後急速に増加すると予測される使用済みパネルの適正処理と資源有効活用という社会課題の解決を目指すものである。背景には、固定価格買取制度(FIT)の導入により太陽光発電設備の設置が急増し、これらのパネルが寿命を迎える2030年代中頃には、年間約80万トンもの排出量ピークを迎えるとの予測がある 10。これは、最終処分場の逼迫や、パネルに含まれる微量の有害物質の環境流出といった問題を引き起こす可能性がある。

リクシアの事業モデルは、使用済み太陽光パネルの状態に応じて、リユースとリサイクルの両面からアプローチする点に特徴がある。まず、リユースに関しては、撤去されたパネルの中からまだ発電能力を有するものを対象とする。確立された性能検査体制を通じて品質を評価し、リユース可能と判断されたパネルを買い取る。そして、これまでは中古パネルの品質保証が難しくリユース市場が未成熟であったという課題に対し、大手保険会社との提携を通じて瑕疵保証を付与した上で、国内外の需要家へ販売するスキームを構築している 10。これにより、中古パネル市場の信頼性を高め、リユースの促進を図る。

一方、外観の破損や著しい性能劣化などによりリユースが困難と判断されたパネルについては、リサイクルを推進する。従来、太陽光パネルのリサイクル技術は限定的で、多くが埋め立て処分されてきた。リクシアは、高度なリサイクル技術を有する全国の専門リサイクル会社と連携し、これらのパネルをガラス、アルミフレーム、セルシート(銀、銅、シリコンなどを含む)、樹脂、配線材料などに効率的に分別し、それぞれを素材として再資源化することを目指す 10

この「リクシア」事業は、単に廃棄物を処理するのではなく、それを新たな資源として捉え直し、価値を再生しようとするサーキュラーエコノミーの理念を具現化したものと言える。その意義は、以下の3点に集約される。第一に「資源の有効利用」であり、新たな資源採掘を抑制することに繋がる。第二に「最終処分場の逼迫回避」であり、環境負荷の低減に貢献する。第三に「有害物質の適正処理」であり、環境汚染リスクを未然に防ぐ 10

この事業は、丸紅が持つ広範なネットワーク(国内外の発電事業者、リサイクル関連企業、保険会社、中古パネルの潜在的な購入者など)、リスク管理能力、そして新規事業開発力を活かせる分野である。太陽光パネルで確立したリユース・リサイクルのビジネスモデルや、品質評価、トレーサビリティ確保、循環スキーム構築といったノウハウは、将来的にはEV用蓄電池や風力発電設備のブレードなど、他の再生可能エネルギー関連機器や耐久消費財の資源循環にも応用できる可能性を秘めている。成功すれば、丸紅の「グリーン戦略」 3 における重要な柱の一つとなり、環境課題解決と経済的リターンの両立を実現するモデルケースとなり得るだろう。

サプライチェーン全体での資源効率向上のための施策

丸紅は、自社の事業活動だけでなく、広範かつ複雑なサプライチェーン全体を通じて資源効率を向上させることの重要性を認識している。グループ環境方針には「環境に配慮した取引先との取り組み拡大」が明記されており 2、サプライヤーやパートナー企業と連携して環境負荷を低減していく姿勢を示している。

具体的な取り組みとしては、まず、持続可能な調達方針の策定と運用が挙げられる。丸紅は、特に環境・社会リスクが高いとされる重要商材に関して、個別の調達方針を定めている。例えば、森林由来製品については、違法伐採や森林破壊に関与しない木材の調達を基本とし、FSC(森林管理協議会)やPEFC(PEFC森林認証プログラム)といった国際的な森林認証制度によって認証された木材、あるいは同等の管理基準を満たす木材の利用を推進している 7。同様に、パーム油についても、RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)認証油の調達を推進し、森林破壊や人権侵害といった問題のないサプライチェーンの構築を目指している 11。これらの調達方針は、サプライヤーに対しても遵守を求め、定期的な確認やエンゲージメントを通じて実効性を高めようとしている。

また、丸紅アセットマネジメント株式会社のようなグループ会社においても、その事業特性に応じてサプライチェーンにおける環境負荷の管理と軽減に取り組む方針が示されている 12。これは、投資先の企業や不動産運用において、資源効率の高い技術やプロセスの導入を促したり、環境認証の取得を支援したりといった形での貢献が期待される。

しかしながら、サプライチェーン全体での資源効率向上に関する具体的な数値目標や、広範な取引品目全体をカバーする包括的な戦略については、開示情報が限定的であると言わざるを得ない。調達方針の策定は重要な第一歩であるが、その実効性を担保し、真にサプライチェーン全体の資源効率を高めるためには、より踏み込んだ施策が必要となる。例えば、主要サプライヤーに対する資源消費量や廃棄物発生量のモニタリング体制の構築、具体的な削減目標の設定と進捗共有、資源効率改善のための技術支援や共同プロジェクトの実施、さらには資源効率に優れたサプライヤーを優先的に選択するインセンティブ設計などが考えられる。特に、丸紅のようなグローバルに多種多様な産品を取り扱う総合商社にとっては、サプライチェーンの透明性を高め、どの段階でどれだけの資源が消費され、あるいはロスが生じているのかを可視化するトレーサビリティシステムの導入も、今後の重要な課題となるだろう。これらの取り組みを深化させることが、Scope3排出量の削減にも繋がり、企業全体の環境パフォーマンス向上に不可欠である。

1.3. 生物多様性の保全

TNFD提言への対応と自然関連リスク・機会の評価

丸紅は、気候変動と並ぶ重要な地球環境問題として生物多様性の損失を認識し、その保全と持続可能な利用に向けた取り組みを強化している。この分野における国際的な情報開示の枠組みとして注目されるTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の提言に対し、丸紅は早期から関心を示し、2024年1月にはTNFD提言への賛同を表明し、「TNFD Adopters」として登録された 11。また、2022年3月にはTNFDフォーラムにも参画しており 11、フレームワークの検討段階から積極的に関与してきたことがうかがえる。

TNFDへの対応においては、単に財務的影響を評価するだけでなく、自社の事業活動が自然資本や生物多様性に与える影響(インパクトマテリアリティ)の観点からも分析・評価を行い、いわゆる「ダブルマテリアリティ」の考え方に基づいた情報開示を進めている 11。これは、企業が環境・社会に与える影響(インサイドアウト・アプローチ)と、環境・社会の変化が企業経営に与える影響(アウトサイドイン・アプローチ)の両側面を重要と捉え、統合的に管理しようとする姿勢を示すものである。このアプローチの採用は、丸紅が生物多様性問題を、単なる社会貢献活動(CSR)の範疇に留めず、事業の持続可能性に直結する本質的な経営課題として捉え始めていることを示唆している。

具体的なリスク・機会の評価と管理体制としては、社長直轄のサステナビリティ推進委員会が、気候変動問題と並んで自然資本に関するリスクと機会についても管理・モニタリングを行う体制を構築している 5。投融資の意思決定プロセスにおいても、環境、安全衛生、社会の3つのカテゴリー、合計27項目にわたる多角的な観点から潜在的なリスク評価を実施しており、この中に生物多様性への影響も含まれると考えられる 5

このようなTNFDへの対応とダブルマテリアリティに基づく評価は、丸紅が生物多様性の損失を自社の事業継続リスク(例:原材料調達の困難化、生態系サービスの劣化による操業コストの増大、規制強化への対応、レピュテーションの低下など)として認識し、同時に、ネイチャーポジティブ(自然再興)に貢献する事業を新たな成長機会として捉えようとしていることの表れである。今後、これらの評価が、具体的な事業戦略、例えば新規投資案件の選定基準、既存事業ポートフォリオの見直し、サプライチェーン管理方針などに、どのように具体的に反映されていくのかが、ステークホルダーからの注目点となるだろう。

LEAPアプローチおよび「グリーンポータル」を活用した分析

丸紅は、TNFDが推奨する自然関連リスク・機会の評価・管理プロセスであるLEAPアプローチ(Locate:自然との接点の発見、Evaluate:依存関係と影響の診断、Assess:マテリアルなリスクと機会の評価、Prepare:対応と報告の準備)を導入し、自社の事業活動と自然との関わりを体系的に分析している 11。このアプローチは、特に丸紅のように多岐にわたる商材を扱い、グローバルに広がる複雑なバリューチェーンを持つ総合商社にとって、自然関連の課題を網羅的かつ効率的に把握するための有効な手法となる。

具体的には、商材、バリューチェーンの段階、取り扱い組織、そして事業活動が行われるロケーション(地理情報)という4つの座標軸で個々のビジネスを定義し、それぞれのビジネスが自然環境(特に生物多様性重要地域(KBA:Key Biodiversity Areas)や水ストレスの高い地域など、TNFDが「要注意地域」として示すエリア)とどのように関わっているのかを評価している 11。この際、UNEP-FI(国連環境計画 金融イニシアティブ)やUNEP-WCMC(国連環境計画 世界自然保全モニタリングセンター)、Global Canopyなどが共同で開発・運営するツール「ENCORE(Exploring Natural Capital Opportunities, Risks and Exposure)」なども活用し、各商材やバリューチェーンの各段階における自然への依存度(例:特定の生態系サービスへの依存)やインパクト(例:土地利用変化、汚染物質排出)を5段階で評価している 11

これらの分析結果や関連情報を一元的に管理し、全社的に活用するためのプラットフォームとして、丸紅は「グリーンポータル」というシステムを開発中である 11。このポータルは、LEAPアプローチに基づく分析の基幹情報を提供し、多岐にわたる商材やバリューチェーンに対して横断的に適用可能な情報基盤となることを目指している。この「グリーンポータル」が本格的に稼働し、LEAPアプローチが全社的に展開されれば、これまで定性的、あるいは部分的にしか把握されてこなかった生物多様性への配慮や自然資本への依存・影響が、データに基づいたより定量的かつ客観的なリスク・機会管理へと進化する可能性を秘めている。

例えば、どの事業がどの生態系サービス(例:水の供給、花粉媒介、気候調整など)にどれほど強く依存しているのか、どの地域での事業活動が特に脆弱な生態系や絶滅危惧種の生息地に影響を与えている可能性があるのか、といったことが可視化される。これにより、企業として優先的に対応すべきリスクを特定し、経営資源をより効果的に配分することが可能になる。将来的には、この「グリーンポータル」が、新規投融資の判断材料、サプライヤー選定基準の策定、さらにはネイチャーポジティブな事業活動の成果を定量的に評価し、企業価値向上に繋げるためのKPI(重要業績評価指標)設定などにも活用されることが期待される。これは、丸紅が生物多様性保全を経営戦略に統合し、持続可能な成長を実現するための重要な布石となるだろう。

具体的な保全活動(植林、持続可能な森林管理、認証材利用、地域生態系保護活動等)

丸紅グループは、TNFD提言への対応やLEAPアプローチによる分析と並行して、具体的な生物多様性保全活動にも多角的に取り組んでいる。これらの活動は、社会貢献活動の一環として行われるものと、事業活動そのものに組み込まれたものに大別できる。

社会貢献活動としては、「自然・環境」を3つの柱の一つに掲げ、脱炭素化、循環経済への移行と並んで「自然との共生」を追求している 13。具体的な活動例としては、以下のものが挙げられる。

植林・森林保全活動

フィリピンで発電事業を運営する子会社TeaM Energy Corporation (TeaM) は、地域コミュニティやNGOと協力し、2001年からスアル発電所周辺で約100ヘクタール、パグビラオ発電所周辺で約328ヘクタールの植林活動を継続している 11

大阪府岸和田市の神於山(こうのやま)では、「アドプトフォレスト『丸紅の森』」と名付けたエリアで、2006年からNPO法人と協力して竹の伐採、間伐、イノシシよけの柵作りなどの森林整備活動を役職員とその家族が参加して行っている 13

東京都青梅市では、2006年以降、「東京グリーンシップ・アクション」の一環として、間伐、山道修復、除伐といった奥多摩の森林保全活動を継続している 13

地域生態系保護活動

東京本社ビル(丸紅ビル)1階の植栽エリア「紅(くれない)の杜」は、在来種を積極的に植栽し生物多様性保全に取り組む緑地として、東京都の「江戸のみどり登録緑地」制度において特に優れた「優良緑地」として2024年8月に認定された 13。皇居周辺の緑地との生態系ネットワーク形成への貢献を目指している。

佐賀県唐津市では、2024年11月に九州支社主催で海岸清掃ボランティア活動を実施し、プラスチック類や空き缶などの漂着物を回収した。また、同市に海岸漂着ごみ専用のごみ箱「拾い箱」を寄贈している 13

フィリピンのTeaM Energy Foundation, Inc. (TEFI) は、環境天然資源省などと協力し、発電所周辺の水鳥のモニタリングを行うアジア水禽類生息数調査に毎年参加している 11

NPO「富士山クラブ」の協力のもと、富士山の清掃活動にも参加している 15

事業活動に組み込まれた生物多様性保全の取り組みとしては、持続可能な資源調達が中心となる。

持続可能な森林経営と認証材利用

丸紅は、FSC®(森林管理協議会)認証やPEFC(PEFC森林認証プログラム)認証といった国際的な森林認証を取得した木材、および認証機関より管理材として認められた木材の取扱比率を高める努力を継続している。2024年3月期におけるこれらの認証材および管理材の比率は52%であった 7。これは一定の進捗を示すものの、裏を返せば約半数が非認証材である可能性を示唆しており、これらの木材の調達におけるトレーサビリティ確保と森林破壊リスクの管理が引き続き重要となる。特に、インドネシアの子会社であるPT Musi Hutan Persadaが保有していた約28.7万ヘクタールのPEFC認証林の認証が2023年3月13日に期限切れとなったとの情報があり 16、認証の維持・再取得に向けた取り組み状況とその開示が注目される。一方で、オーストラリアの植林・木材チップ事業会社であるWAPRES社はFSC認証を取得し、現地法令を遵守した事業運営を行っている 11

その他の事業における配慮

チリで計画中の国営銅公社向け造水・送水事業においては、建設予定地の一部が絶滅危惧種のサボテンの重点保全地区に該当する可能性があったため、事前のデューデリジェンスで生息がないことを確認し、さらに生物多様性行動計画(BAP)および生物多様性管理計画(BMP)を策定し、継続的なモニタリングを実施する計画である 11

デンマークのサーモン養殖会社Danish Salmon A/Sの株式を取得し、環境負荷の小さい閉鎖循環式陸上養殖(RAS)による持続可能な水産物の供給を目指している 11

パーム油の取り扱いにおいては、RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)認証品やISCC(国際持続可能性カーボン認証)認証品などを積極的に取り扱い、環境・社会に配慮した製品の普及に貢献している 11

これらの具体的な保全活動は、丸紅が生物多様性保全へのコミットメントを実践に移していることを示すものである。しかし、特にサプライチェーンにおける持続可能な調達の徹底、とりわけ認証材調達比率のさらなる向上と、非認証材に関するリスク管理の透明性確保は、今後の重要な課題と言えるだろう。

第2部:環境要因に関する潜在的リスクと事業機会

2.1. 気候変動がもたらすリスク(規制、市場、評判、物理的)と新たな事業機会

気候変動は、丸紅のようなグローバルに多角的な事業を展開する企業にとって、避けて通れない経営上の重要課題である。その影響は、事業継続を脅かす「リスク」として顕在化する一方、新たな成長を促す「事業機会」をもたらす両側面を持つ。丸紅はTCFD提言に基づき、これらのリスクと機会を特定し、戦略に織り込む努力を続けている 3

気候変動がもたらすリスク

丸紅が認識している主要な気候変動関連リスクは、規制、市場、物理的、評判の4つに大別される。

規制リスク

各国政府による炭素税の導入や強化、排出量取引制度の対象拡大、エネルギー効率基準の厳格化など、気候変動対策を目的とした新たな規制が導入・強化されることにより、事業コストの増加や事業活動そのものへの制約が生じるリスクがある。特に、石炭火力発電事業に対しては、新規制の導入や既存設備の早期閉鎖要求といった動きが加速しており、関連資産の価値毀損に繋がる可能性がある 3

市場リスク

再生可能エネルギーの発電コスト低下や蓄電技術の革新などにより、既存の化石燃料を中心としたエネルギー事業の競争力が相対的に低下するリスクがある。また、環境意識の高い消費者や投資家の増加に伴い、低炭素・脱炭素に配慮した製品やサービスへの需要がシフトし、従来の製品・サービスの市場が縮小する可能性も指摘される。化石燃料需要の長期的な減少は、エネルギー資源の権益投資事業の収益性を圧迫する要因となり得る 3

物理的リスク

気温上昇に伴う異常気象(大型台風、集中豪雨、洪水、干ばつ、熱波など)の頻発化・激甚化は、丸紅が保有する発電所、工場、港湾設備、農地といった事業資産に直接的な損害を与える可能性がある。また、サプライチェーンの寸断や物流機能の麻痺を引き起こし、事業継続に支障をきたすリスクも存在する 3。2024年3月期において、丸紅グループが気候変動リスク回避(非常用発電機関係、異常気象による洪水等対策)のために支出したコストは62億5500万円に上る 7。海面上昇は沿岸部に位置する事業拠点に、気温上昇や降雨パターンの変化は農産物の生産や林業事業に影響を及ぼす可能性がある 3

評判リスク

環境問題への取り組みが不十分である、あるいは社会の期待に応えられていないとステークホルダー(投資家、顧客、従業員、地域社会など)から認識された場合、企業イメージやブランド価値が毀損するリスクがある。特に、ESG投資の拡大に伴い、投資家や金融機関からの気候変動対応に関する要求はますます高まっており、これらに適切に対応できない場合は、資金調達コストの上昇や投資対象からの除外といった事態も想定される 3

丸紅は、これらのリスクに対し、気候変動により事業が陳腐化したり収益圧力がかかったりする場合には、当該事業からの撤退を含めた代替案を検討するとの方針を示しており 3、リスクの大きさを深刻に受け止めていることがうかがえる。

気候変動がもたらす新たな事業機会

一方で、丸紅は気候変動を新たな事業機会を創出する好機とも捉えている。特に、低炭素・脱炭素社会への移行を支える分野での事業拡大を積極的に推進している。

エネルギー供給分野

再生可能エネルギー発電事業のグローバルな拡大(洋上・陸上風力、太陽光、バイオマス、地熱、水力など)は最優先事項の一つである 3

既存の火力発電については、天然ガスへの燃料転換や、将来的には水素・アンモニア混焼・専焼といった低炭素化技術の開発・導入を進める 3

水素、アンモニア、SAF(持続可能な航空燃料)、バイオ燃料、合成メタンといった次世代エネルギーキャリアの製造・供給・バリューチェーン構築にも注力する 3

CCUS(二酸化炭素回収・有効利用・貯留)技術の開発・導入や関連事業への参画も視野に入れている 3

エネルギー需要分野・その他

幅広い産業における省エネルギー化や電化、脱炭素化に貢献するソリューション(例:高効率機器、エネルギーマネジメントシステム)を提供する 3

電化の進展に不可欠な銅については、その生産能力を拡大することで需要増に対応する 8

持続可能な森林経営を通じて、CO2吸収源としての森林の価値を高め、カーボンクレジットを創出する事業も展開している 4

丸紅は、これらの事業機会を追求することで、社会の持続可能性への貢献と自社の企業価値向上の両立を目指している。TCFDレポートにおけるシナリオ分析 3 は、これらのリスクと機会を各事業セグメントレベルで具体的に評価する試みであるが、その分析結果が実際の投資判断や経営戦略にどの程度強く、また迅速に反映されているかの透明性をさらに高めることが、投資家からの信頼を一層確固たるものにする上で重要となる。特に、高排出セクターからの撤退判断の基準や、低炭素事業への具体的な投資配分額とその進捗、そしてそれらが企業全体の財務パフォーマンスに与える影響について、より詳細かつタイムリーな情報開示が期待される。

2.2. 資源循環型経済への移行に伴うリスクと機会

資源の枯渇、廃棄物問題の深刻化、そして気候変動対策への意識の高まりを背景に、従来の「大量生産・大量消費・大量廃棄」を前提としたリニアエコノミー(線形経済)から、資源を効率的に利用し、廃棄物を最小限に抑え、使用済み製品を再び資源として活用するサーキュラーエコノミー(循環型経済)への移行が世界的な潮流となっている。この移行は、丸紅のような多岐にわたる製品・サービスを取り扱う総合商社にとって、新たなリスクと事業機会をもたらす。

資源循環型経済への移行に伴うリスク

規制強化リスク

各国・地域で、廃棄物の削減目標、リサイクル率の義務化、特定製品への再生材使用義務、拡大生産者責任(EPR)の強化といった規制が導入・強化される傾向にある。これらの規制に対応するためのコスト(例:新たな処理技術の導入、リサイクルシステムの構築、製品設計の変更)が増加する可能性がある。対応が遅れた場合には、罰金や事業許可の取り消しといった直接的な影響に加え、市場での競争力低下を招く恐れもある。

ビジネスモデル陳腐化リスク

リニアエコノミーに深く依存したビジネスモデル(例:使い捨て製品の大量販売、修理よりも買い替えを前提とした製品設計)は、サーキュラーエコノミーの進展とともにその持続可能性が問われ、徐々に市場から受け入れられなくなるリスクがある。

資源調達リスク

特定の希少資源や、環境負荷の高い方法で採掘・生産される原材料への依存度が高い事業は、資源枯渇の進行や価格高騰、あるいは調達先の環境・社会問題(紛争鉱物など)に起因するサプライチェーン寸断リスクに直面する可能性がある。サーキュラーエコノミーでは、再生資源の安定的な確保が新たな競争要因となる。

評判リスク

製品の過剰包装、リサイクル困難な素材の使用、不適切な廃棄物処理などが明らかになった場合、環境意識の高い消費者や投資家からの批判を受け、企業ブランドや評判が大きく損なわれるリスクがある。

資源循環型経済への移行に伴う事業機会

丸紅は、これらのリスクを認識しつつ、サーキュラーエコノミーへの移行を新たな事業機会として捉え、具体的な取り組みを進めている。

リサイクル・リユース事業の展開

使用済み製品の回収、再資源化、再製品化、あるいは修理・再整備によるリユースを事業として展開する機会がある。丸紅が設立した太陽光パネルリサイクル事業「リクシア」 10 はその代表例であり、今後、EV用バッテリー、建設機械、電子機器など、他の製品分野への応用も期待される。

再生材・代替素材の開発・供給

バージン材への依存を減らすため、高品質な再生材の開発・製造・供給や、植物由来プラスチック、バイオマス素材といった環境負荷の低い代替素材の取り扱いを拡大する機会がある。

シェアリング・サービス化(PaaS)モデルの推進

製品を「所有」するのではなく、必要な時に「利用」するシェアリングエコノミーや、製品とサービスを一体として提供するPaaS(Product as a Service)モデルは、製品の稼働率向上と長寿命化を促し、資源効率を高める。丸紅の持つ多様なアセット(例:建設機械、輸送機器、産業設備)を活用したこれらのビジネスモデル展開が考えられる。

廃棄物エネルギー利用・アップサイクル事業

従来は廃棄されていたものをエネルギー源として利用する廃棄物発電やバイオマス発電、あるいは付加価値の高い製品に転換するアップサイクル事業も有望な分野である。丸紅の食料事業本部では、農産加工品や畜水産加工品の生産時に出る副産物を飼料や燃料などに有効活用する循環システムを形成している 17

環境配慮設計・コンサルティングサービス

製品の設計段階からリサイクル性や耐久性を考慮するエコデザインの導入支援や、サプライチェーン全体での資源効率改善コンサルティングなど、専門知識を活かしたサービス提供も事業機会となり得る。丸紅ロジスティクスが掲げるグリーン調達や廃棄物の有効利用への取り組み 9 は、この方向性を示唆している。

丸紅の「リクシア」事業 10 は、資源循環型ビジネスの一つの具体例であるが、総合商社としての広範な事業領域とネットワークを活かし、金属、化学品、食料、繊維、機械といった多様な産業セクターにおけるサーキュラーエコノミーの構築を主導するプラットフォーマーとしての役割を担うことで、より大きな事業機会を創出できる可能性がある。そのためには、業界横断的な連携の促進、技術開発への投資、そして循環を前提とした新たなバリューチェーンの設計と社会実装が鍵となるだろう。

2.3. 生物多様性の損失・劣化が事業に与えるリスクとネイチャーポジティブへの貢献機会

生物多様性の損失と生態系サービスの劣化は、気候変動と並び、地球規模で進行する深刻な環境危機であり、人類社会の存続基盤を揺るがす問題である。丸紅のようなグローバルに事業を展開し、農林水産物、鉱物資源など自然資本に大きく依存する総合商社にとって、この問題は事業継続上の重大なリスクであると同時に、自然共生型社会への移行を支える新たな事業機会をもたらすものでもある。丸紅はTNFD提言への賛同 11 などを通じ、この課題への認識を深めつつある。

生物多様性の損失・劣化が事業に与えるリスク

原材料調達リスク

丸紅の食料事業や森林産品事業などは、健全な生態系とそれが提供する生態系サービス(例:土壌の肥沃度、清浄な水、花粉媒介など)に直接的に依存している。生物多様性の損失や生態系の劣化は、農作物の不作、林産資源の枯渇、水産資源の減少などを引き起こし、原材料の安定調達を困難にしたり、品質低下や価格高騰を招いたりするリスクがある。

操業リスク

事業活動を行う地域における生態系サービス(例:洪水調整機能、水質浄化機能、気候安定化機能など)が低下した場合、自然災害の激甚化、水不足、インフラの損傷といった形で操業に支障が生じるリスクがある。例えば、丸紅がTNFD開示の中で分析している植林事業(MHP社)は、樹木の生育に必要な土質調整、水災害の抑制、生息地の個体数と生息環境の維持といった調整・維持サービスに特に依存していることが判明している 11。これらのサービスが損なわれれば、植林事業の持続可能性そのものが脅かされる。

規制リスク

生物多様性保全に関する国際的な枠組み(例:昆明・モントリオール生物多様性枠組)や各国の国内法規制が強化される傾向にある。これには、保護地域の拡大、特定の資源利用の制限、環境影響評価(EIA)の厳格化、生物多様性オフセットの義務化などが含まれる。これらの規制に対応するためのコスト増、事業計画の変更、場合によっては事業機会の喪失といったリスクが考えられる。

評判・ブランドリスク

事業活動が森林破壊、海洋汚染、希少種の生息地破壊といった生物多様性への負の影響を引き起こした場合、あるいはそのように認識された場合、NGO、消費者、地域社会などからの厳しい批判を受け、企業のブランドイメージや社会的評価が著しく低下するリスクがある。これは、不買運動や投資撤退(ダイベストメント)に繋がる可能性もある。

資金調達・市場リスク

ESG投資の拡大に伴い、投資家や金融機関は、投融資先の企業に対し、生物多様性への配慮やネイチャーポジティブへの貢献をますます重視するようになっている。これらの期待に応えられない企業は、資金調達コストの上昇、投資対象からの除外、あるいは市場での競争力低下といったリスクに直面する。

丸紅はTNFDフレームワークを活用し、事業拠点やサプライチェーンにおける「要注意地域」(生物多様性重要地域(KBA)、水ストレス地域など)を特定し、リスク評価を進めている 11。例えば、ベトナム、ブラジル、ミャンマー、アメリカ、台湾、ポルトガル、日本などが、グループ内の事業活動と関連する生物多様性重要地域として挙げられている 11。これらの地域における具体的な事業活動がどのような生物多様性リスクに晒されており、それに対してどのような緩和策(例:サプライヤーへのエンゲージメント強化、代替調達先の確保、生態系保全プロジェクトへの投資、操業方法の見直しなど)を講じているのか、その進捗と効果を今後より具体的に、かつ定量的に開示していくことが、ステークホルダーの懸念を払拭し、事業の正当性を確保する上で極めて重要となる。

ネイチャーポジティブへの貢献機会

一方で、生物多様性の保全と回復に貢献する「ネイチャーポジティブ」な取り組みは、新たな事業機会にも繋がり得る。

持続可能な農林水産業の推進

環境再生型農業

(リジェネラティブ農業)、持続可能な森林経営(FSC/PEFC認証取得など)、環境配慮型養殖(ASC認証取得など)といった、生物多様性の保全と両立する農林水産物の生産・供給事業の拡大。丸紅は認証材の取扱比率向上に努めている 7

生態系保全型インフラ・ソリューション

自然資本の価値を維持・向上させるようなインフラ開発(例:グリーンインフラ、自然共生型都市開発)や、生態系モニタリング技術、自然再生技術、精密農業技術などの提供。

自然由来製品・サービスの開発

生物資源を持続可能な形で利用した医薬品、化粧品原料、機能性食品、バイオ素材などの開発・販売。

生物多様性オフセット・クレジット市場への参画

開発事業による生物多様性への影響を他の場所での保全・再生活動で相殺するオフセット事業や、生物多様性保全活動によって生み出されるクレジットの取引市場への参画。

エコツーリズム・環境教育事業

豊かな自然環境や生物多様性を活用したエコツーリズムの推進や、環境教育プログラムの提供。丸紅は社会貢献活動の一環として、奥多摩での森林保全活動や「江戸のみどり登録緑地」の維持管理などを通じて、自然との共生を追求している 13

丸紅がTNFD対応を深化させ、これらの事業機会を戦略的に追求していくことは、リスクを低減するだけでなく、新たな企業価値を創造し、持続可能な社会の実現に貢献する道筋となるだろう。

第3部:業界における環境先進事例

丸紅の環境への取り組みを評価し、今後の戦略を展望する上で、同社が事業を展開する主要な業界における先進企業の事例を参照することは有益である。丸紅の事業ポートフォリオは総合商社として極めて多岐にわたるため、ここでは気候変動対策、資源循環、生物多様性保全の各分野において、関連性の高い業界から特徴的な事例を抽出して紹介する。

3.1. 気候変動対策における国内外の先進企業事例

気候変動対策は、あらゆる産業にとって喫緊の課題であり、GHG排出削減目標の設定、再生可能エネルギーへの転換、省エネルギーの推進、そして低炭素技術の開発・導入が世界的に進められている。

総合商社業界

日本の大手総合商社は、いずれも気候変動対応を経営の最重要課題の一つと位置づけ、TCFD提言への賛同を表明し、GHG排出削減目標(Scope1、2のみならず、サプライチェーン全体を含むScope3までを対象とすることが一般的)を設定している。具体的な取り組みとしては、再生可能エネルギー発電事業への大規模投資(国内外での洋上・陸上風力、太陽光、地熱、バイオマスなど)、水素・アンモニアといった次世代クリーンエネルギーのバリューチェーン構築(製造・輸送・貯蔵・利用)、石炭火力発電事業からの段階的撤退や関連資産の売却、そしてCCUS(二酸化炭素回収・有効利用・貯留)技術への投資などが共通して見られる。
例えば、三井物産は2050年のネットゼロエミッション達成を掲げ、その中間目標として2030年にGHGインパクト(Scope1+2及びScope3カテゴリー15のGHG排出量から森林吸収量と削減貢献量を差し引いたもの)を2020年3月期比で半減させること、発電事業における再生可能エネルギー比率を30%以上に引き上げることを目指している 18。三菱商事も2050年ネットゼロ目標を掲げ、2030年度までにGHG排出量を2020年度比で半減させるという野心的な目標を設定し、エネルギートランスフォーメーション(EX)関連分野に2030年度までに2兆円規模の投資を計画している 19。住友商事は2050年のカーボンニュートラル化を目指し、石炭火力発電事業の持分発電容量に占める比率を段階的に低減し、再生可能エネルギー比率を高める目標を設定している 20。伊藤忠商事は中期経営計画において「SDGsへの貢献・取組強化」や「脱炭素社会を見据えた事業拡大」を重点施策として掲げ、蓄電池を核とする分散型電源プラットフォームの構築などを推進している 21。これらの動きは、総合商社が伝統的な資源・エネルギービジネスから、より持続可能なビジネスモデルへとポートフォリオを転換しようとしていることを明確に示している。

再生可能エネルギー業界

デンマークのØrsted(エルステッド)社は、元々は石油・天然ガス会社であったが、洋上風力発電事業への大胆な事業転換に成功し、現在では同分野におけるグローバルリーダーとなっている。同社は、2030年までに自社の事業活動およびサプライチェーン全体(Scope1、2、3)でカーボンニュートラルを達成するという極めて野心的な目標を掲げている 22。さらに、気候変動対策と生物多様性保全の両立を目指し、2030年までに同社が新たにコミッションする全ての再生可能エネルギープロジェクトにおいて、ネットポジティブな生物多様性インパクト(事業活動による負の影響を上回る正の貢献)を実現するという先進的な目標も設定している 22。

石油・ガス業界(エネルギー転換戦略)


伝統的な石油・ガス大手(オイルメジャー)も、気候変動への対応を迫られ、エネルギー転換戦略を模索している。英国のbp社は、2050年までにネットゼロエミッションを達成する目標を掲げ、低炭素エネルギー分野への投資拡大、既存事業における排出削減、エネルギー効率の改善を3つの柱として推進している 23。同様に、オランダのShell社も2050年ネットゼロ目標を掲げ、天然ガスへのシフト、低炭素電力事業の成長、バイオ燃料や水素といった低炭素燃料の供給拡大などを戦略の軸としている 23。しかしながら、近年、一部のオイルメジャーにおいては、株主からの短期的な収益還元圧力や化石燃料価格の高騰などを背景に、再生可能エネルギーへの投資目標を下方修正し、再び石油・ガス事業への投資を強化する動きも見られる 24。これは、巨額の投資を要するエネルギー転換の難しさと、短期的な経済合理性と長期的な持続可能性のバランスを取ることの複雑さを示唆しており、同様の課題に直面し得る総合商社にとっても重要な示唆を与える。

これらの先進事例は、気候変動対策が単なるコストではなく、新たな事業機会を創出し、企業価値向上に繋がる可能性を示している。一方で、その実現には長期的な視点に立った戦略、大胆な投資、そして時には困難な事業ポートフォリオの転換が不可欠であることも示唆している。

3.2. 資源循環モデル構築における成功事例

資源循環型経済(サーキュラーエコノミー)への移行は、廃棄物削減、資源の有効活用、そして新たな価値創造を目指す取り組みであり、多様な業界で先進的なモデルが構築されつつある。

化学業界


プラスチック汚染問題への対応として、化学業界では「サステナブルなプラスチック設計」が重要なテーマとなっている。OECD(経済協力開発機構)は、製品の設計段階から有害化学物質の使用を回避し、リサイクルしやすい素材を選定すること、そして製品寿命を延ばすことの重要性を指摘している 25。PwCドイツとシドニー工科大学の共同研究によれば、化学産業のGHG排出量を大幅に削減するためには、低炭素・ゼロカーボンな製造プロセスへの迅速な投資と開発に加え、サーキュラーエコノミーのベストプラクティス(需要削減、プラスチック消費量の削減、製品寿命の延長、リサイクルの推進)を通じて、全体の生産量の伸びを抑制する必要があるとされている 26。これは、資源循環が気候変動対策とも密接に関連していることを示している。

紙・パルプ業界


紙・パルプ業界は、古紙リサイクルにおいて比較的進んだ取り組みが見られる分野である。例えば、中国のNine Dragons Paper Holdings社は、年間1000万トン以上の古紙をリサイクル繊維として利用している 27。欧州のStora Enso社やUPM社は、再生可能エネルギーの利用拡大とともに、リサイクル能力の向上にも積極的に投資している 27。また、業界横断的なアライアンスである4evergreenイニシアチブは、2030年までに欧州における繊維ベース包装材のリサイクル率を90%に引き上げるという野心的な目標を掲げている 28。これらの取り組みは、製品の回収システムの構築、リサイクル技術の向上、そして再生材の品質維持・向上への努力が伴っている。

食品・農業業界


食品ロス・廃棄物の削減は、資源循環の観点から極めて重要な課題である。ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)の分析によれば、世界で生産される食料の約3分の1に相当する年間16億トン(約1.2兆ドル相当)が損失または廃棄されており、この問題に対処することで年間約7000億ドルの経済価値が創出され得ると指摘されている 29。オーストラリアのFlavorite Group社は、水耕栽培や先進的なガラスハウス施設を活用することで、農薬使用量と水の消費量を大幅に削減し、廃棄物の発生も抑制する持続可能な農産物生産モデルを実践している 30。

その他の革新的モデル


日本国内でも、ユニークな資源循環モデルが登場している。LOOP Japan社は、耐久性の高いリユース可能な容器包装を使用し、消費者が使用後に返却すると洗浄・再充填されて再び商品として提供されるという、循環型のプラットフォームを構築・運営している 31。また、レコテック株式会社は、ブロックチェーン技術などを活用して静脈物流(廃棄物の回収・処理・リサイクル物流)のトレーサビリティと効率性を高めるシステムを開発・提供し、多様なプレイヤーが連携した資源循環の実現を支援している 31。

これらの成功事例に共通するのは、単に廃棄物を処理するという発想から脱却し、使用済み製品や副産物を「資源」として捉え直し、新たな価値を付加しようとする視点である。また、製品設計、製造プロセス、ビジネスモデル、そして消費者とのコミュニケーションといったバリューチェーン全体での変革を伴うことが多い。丸紅が「リクシア」事業 10 で示したような革新的な取り組みを他の事業分野にも展開し、さらに深化させていくためには、このような「価値創造型循環」への視点と、異業種やスタートアップ企業との連携を積極的に進めることが不可欠となるだろう。

3.3. 生物多様性保全と事業活動の両立事例

生物多様性の保全は、事業活動が自然資本に依存し、また影響を与える以上、企業にとって避けて通れない課題である。先進企業は、リスク管理の観点からだけでなく、新たな価値創造や社会からの信頼獲得の機会として、生物多様性保全と事業活動の両立を模索している。

鉱業・金属業界


鉱業は、土地利用改変や水質汚染など、生物多様性への潜在的な影響が大きい産業の一つである。そのため、**ICMM(国際鉱業金属評議会)**に加盟する大手鉱山会社などは、事業活動による環境影響の回避・最小化・緩和を基本原則とし、操業地域の生態系や生物多様性への配慮、先住民族の権利尊重、そして閉山後の生態系修復などに取り組んでいる 32。ICMMの調査によれば、世界の活動中の鉱業プロジェクトの4.6%が原生林景観(Intact Forest Landscapes)、7.5%が法的な保護地域、3.2%が生物多様性重要地域(KBA)と重複しており、これらの地域における責任ある採掘慣行の確立が極めて重要であると認識されている 32。一部の企業では、事業による影響を相殺し、さらにプラスの貢献を目指す「生物多様性オフセット」や「ネットポジティブインパクト」といった概念を導入し始めている 32。

森林資源事業


持続可能な森林経営は、木材生産と生物多様性保全を両立させる鍵となる。三井物産は、オーストラリアやチリで大規模な植林事業を展開するにあたり、FSC(森林管理協議会)などの国際的な森林認証を取得し、責任ある森林管理を実践している。また、世界最大級の森林アセットマネジメント事業者であるNew Forests社への出資を通じて、生物多様性や地域社会との共生を重視した持続可能な森林資源投資・管理を推進している 34。さらに、オーストラリアのClimate Friendly社と共同で、農場における植生の回復を通じてカーボンクレジットを創出し、CO2吸収だけでなく、生態系の保護や土壌改善といった生物多様性への副次的効果も生み出す事業に取り組んでいる 34。

  • 食品・農業業界:
    農業は土地利用や水利用を通じて生物多様性に大きな影響を与える一方、花粉媒介や土壌形成といった生態系サービスに大きく依存している。オランダのSaint-Gobain Cultilene社は、温室栽培者向けに、最小限の水とエネルギーで最適な作物の収量を得るための先進的な栽培システム(基材、灌漑戦略、データ駆動型管理など)を提供し、資源効率の向上と環境負荷の低減に貢献している 30。このような精密農業技術は、農地拡大による生息地破壊を抑制し、生物多様性保全に繋がる可能性がある。

  • 再生可能エネルギー業界:
    再生可能エネルギーの導入拡大は気候変動対策に不可欠だが、大規模な太陽光発電所や風力発電所の建設は、土地利用や鳥類への影響(バードストライク)など、新たな生物多様性への課題も生じさせ得る。この点に対し、洋上風力発電の世界的リーダーであるデンマークのØrsted社は、2030年までに同社が新たにコミッションする全ての再生可能エネルギープロジェクトにおいて、ネットポジティブな生物多様性インパクトを実現するという野心的な目標を掲げている 22。具体的には、風力タービンの基礎部分に人工魚礁を設置したり、周辺海域の生態系再生プロジェクトに投資したりといった取り組みを計画している。

これらの事例から見えてくるのは、生物多様性保全への取り組みが、従来の「CSR活動」や「リスク回避」といった受動的なものから、事業戦略そのものに統合され、新たな価値創造や競争優位性の源泉となり得るという認識の広がりである。特に、「No Net Loss(生物多様性の損失を正味ゼロにする)」から、さらに一歩進んで「Net Positive Impact(事業活動による負の影響を上回る正の貢献をする)」や「Nature Positive(自然を回復軌道に乗せる)」といった、より積極的で野心的な目標を掲げる企業が増えている点は注目に値する 22。丸紅がTNFDへの対応を本格化させ、生物多様性保全を経営の柱の一つとして位置付けていく上で、これらの先進事例は重要な示唆を与えるだろう。

第4部:丸紅株式会社の現状の課題と推奨事項

  • 4.1. 各環境分野(気候変動、資源循環、生物多様性)における現状の課題分析

丸紅は、気候変動、資源循環、生物多様性の各分野において、先進的な方針や目標を掲げ、具体的な取り組みを推進している。しかし、その広範な事業ポートフォリオとグローバルな事業展開の特性上、依然として克服すべき課題も存在する。

  • 気候変動分野における課題:
    最大の課題は、Scope3排出量の削減、特にカテゴリ15(投資)に分類される投融資先の排出量管理である。丸紅のScope3排出量はScope1・2の合計の70倍以上にも及び 4、その大部分が投資先の事業活動に起因する。これらの排出量を実質的に削減するためには、投資先の脱炭素化に向けた積極的なエンゲージメントや支援、ポートフォリオにおける高排出資産の戦略的な見直しが不可欠であるが、これは丸紅単独の努力だけでは達成が難しく、投資先との協調や、時には困難な判断を伴う。また、化石燃料関連事業(特に石炭火力発電からの段階的撤退計画 5)を着実に実行しつつ、再生可能エネルギーや水素・アンモニアといった次世代エネルギー事業を早期に収益化し、エネルギー転換を円滑に進めることも大きな挑戦である。サプライチェーン全体でのGHG排出量算定の精度向上と、削減策の実効性を担保する仕組みの構築も継続的な課題と言える。

  • 資源循環分野における課題:
    東京本社における廃棄物削減目標 2 や、太陽光パネルリサイクル事業「リクシア」 10 といった個別の取り組みは評価できるものの、丸紅グループ全体の事業活動(製造、建設、資源開発、食料生産など)から生じる多種多様な産業廃棄物や副産物に対する、包括的かつ定量的な資源循環戦略や数値目標の具体化が十分とは言えない。現状の開示情報からは、オフィス廃棄物を超えた規模での廃棄物削減目標、再生材利用率目標、最終処分率目標などが明確に読み取れず、製品のライフサイクル全体を通じた資源効率向上策の推進体制も具体性に欠ける部分がある。「リクシア」のような先進的な取り組みを、他の事業分野(例:金属、化学品、繊維、食品廃棄物など)へ横展開し、事業としてスケールアップさせていくための具体的なロードマップも求められる。

  • 生物多様性分野における課題:
    TNFD提言への対応を開始し、LEAPアプローチや「グリーンポータル」を用いた分析を進めている点 11 は先進的であるが、これらの分析結果を具体的な事業戦略や投融資判断にどのように統合し、実効性のあるリスク管理と機会創出に繋げていくかが今後の大きな課題である。特に、サプライチェーンにおける生物多様性リスク(森林破壊、違法伐採、過剰な水利用など)の管理強化と、原材料のトレーサビリティ確保は喫緊の課題と言える。森林認証材の取扱比率が2024年3月期で52% 7 に留まっている点や、主要な植林事業子会社であるPT Musi Hutan PersadaのPEFC認証が期限切れとなっている可能性 16 は、この課題の深刻さを示唆している。認証材調達比率100%に向けた具体的な道筋と、非認証材調達におけるデューデリジェンスプロセスの強化・開示が不可欠である。また、「ネイチャーポジティブ」への貢献を具体的にどのような事業活動を通じて実現し、その成果をどのように定量的に評価・開示していくのか、その方法論の確立も求められる。

これら3分野に共通する横断的な課題として、設定された環境目標と各事業部門や個人の業績評価との連動性の強化が挙げられる。高い目標を掲げても、それが組織のインセンティブ構造と結びついていなければ、実効性が伴わない可能性がある。また、気候変動(炭素会計、シナリオ分析)、資源循環(ライフサイクルアセスメント、サーキュラーデザイン)、生物多様性(生態系評価、自然資本会計)といった分野は高度な専門知識を要するため、これらの分野における専門人材の育成・確保、そして全従業員への環境リテラシー教育の強化も、戦略を推進する上での基盤となる重要な課題である。

  • 4.2. 環境パフォーマンス向上と持続的成長に向けた戦略的提言

丸紅が環境パフォーマンスを一層向上させ、持続的な成長を確実なものとするためには、前述の課題認識に基づき、より踏み込んだ戦略的アクションが求められる。

  • 気候変動対策の深化:

  • Scope3排出量削減の本格化: サプライヤーエンゲージメントプログラムを質・量ともに強化し、主要サプライヤーとの間で具体的なGHG削減目標を共有し、達成に向けた技術支援や共同プロジェクトを実施する。また、優れた取り組みを行うサプライヤーに対するインセンティブ(優先的取引など)の導入も検討すべきである。

  • カーボンプライシングの戦略的活用: 社内で導入しているインターナルカーボンプライシング制度を、新規投資判断だけでなく、既存事業の評価や事業ポートフォリオの見直しにもより積極的に活用し、その具体的な適用事例や財務的影響を開示すべきである。

  • 低炭素技術・事業への重点投資: グリーン水素・アンモニア、持続可能な航空燃料(SAF)、CCUS(二酸化炭素回収・有効利用・貯留)など、将来の主力となり得る低炭素技術や関連事業に対し、より大胆かつ戦略的な投資を加速させ、早期の技術確立と市場形成を主導する気概が求められる。これには、研究開発投資の拡大や、専門知識を持つスタートアップ企業との連携・M&Aも有効な手段となる。

  • 資源循環型ビジネスモデルの確立:

  • セクター別ロードマップの策定と開示: 金属、化学品、食料、繊維、建設など、丸紅が関与する主要な事業セクターごとに、具体的な資源循環ロードマップを策定し、公表すべきである。これには、再生材利用率の目標値、製品種別ごとの廃棄物原単位削減目標、リサイクル率向上目標などを具体的に盛り込むことが期待される。

  • サーキュラリティ向上のための設計思想導入: 製品の設計段階から、耐久性、修理可能性、分解容易性、リサイクル可能性などを考慮する「サーキュラーデザイン」の思想を導入するため、事業部門を横断するイニシアチブや専門チームを設置し、設計ガイドラインの策定やベストプラクティスの共有を推進する。

  • 静脈産業との連携強化とプラットフォーム構築: 国内外の廃棄物処理・リサイクル事業者(静脈産業)との連携を強化し、効率的な回収・選別・再資源化システムを構築する。将来的には、丸紅が持つ物流網や情報システムを活用し、異業種間での資源融通やトレーサビリティ確保を支援する「資源循環プラットフォーム」を構築・運営することも視野に入れるべきである。

  • 生物多様性保全とネイチャーポジティブへの貢献:

  • TNFD対応の具体化と実行計画の公表: LEAPアプローチに基づき特定した高リスク地域や高インパクト事業に関して、具体的なリスク緩和策(例:代替調達先の開発、生態系再生プロジェクトへの投資)と、ネイチャーポジティブに貢献するための具体的なアクションプラン(目標、KPI、実施体制、モニタリング計画を含む)を策定し、ステークホルダーに開示すべきである。

  • サプライチェーンにおける持続可能性の徹底: 主要な森林リスクコモディティ(木材、パーム油、大豆、牛肉、カカオ、コーヒーなど)について、2030年といった具体的な期限を設けてトレーサビリティ100%達成を目指し、同時に持続可能な認証(FSC、RSPO、RTRSなど)を取得した原材料の調達比率100%を目標として設定し、その進捗を定期的に開示すべきである。PT Musi Hutan PersadaのPEFC認証再取得に向けた具体的な取り組みとタイムラインも明確にすべきである。

  • ネイチャーテックへの投資と事業開発: 生物多様性保全や生態系サービスの向上に資する技術(例:環境DNA分析による生態系モニタリング、AIを活用した精密農業、ドローンによる森林管理、海洋プラスチック回収技術など)、「ネイチャーテック」への投資や、関連するスタートアップ企業との協業を通じて、新たな事業機会を創出する。

  • 全社横断的な基盤強化:

  • インセンティブ設計と人材育成: 環境目標(GHG削減、資源循環率、生物多様性指標など)の達成度と、役員報酬や従業員の業績評価との連動性を強化し、組織全体としてのコミットメントを高める。また、ESG各分野(特に炭素会計、LCA、生態学、サステナブルファイナンスなど)の高度な専門知識を持つ人材の育成プログラムを拡充し、外部からの専門家採用も積極的に行う。

  • ESGデータ基盤の高度化: 「グリーンポータル」のようなESGデータ収集・分析基盤の機能をさらに拡充し、リアルタイムでの進捗管理、シナリオ分析、インパクト評価などを可能にする。これにより、データに基づいた迅速かつ的確な意思決定を支援する。

  • ステークホルダーエンゲージメントの深化: 投資家、NGO/NPO、地域社会、専門家など、多様なステークホルダーとの建設的な対話を継続的に行い、そこから得られるフィードバックや新たな知見を、環境戦略の改善や新規事業の開発に活かしていく。

これらの提言を実行に移すことで、丸紅は環境パフォーマンスを飛躍的に向上させるとともに、社会からの信頼を一層高め、真に持続可能な企業としての地位を確立することができるだろう。その過程で、丸紅の多角的な事業ポートフォリオは、一見すると環境課題への対応を複雑にする要因に見えるかもしれないが、むしろ異なるセクターで培われた知見や技術を組み合わせることで、独自の環境ソリューションを生み出す「シナジー創出」の機会ともなり得る。例えば、食料事業における持続可能な農業技術のノウハウを、金融事業と連携させて新たなサステナブルファイナンス商品を開発したり、電力事業で得た再生可能エネルギー開発の知見を、輸送機事業におけるSAF(持続可能な航空燃料)の導入支援やEV(電気自動車)充電インフラ整備に活かしたりといった、セクター横断的なイノベーションが期待される。

第5部:競合他社の環境への取り組みと環境スコア比較分析

  • 5.1. 主要競合他社(総合商社:三菱商事、三井物産、住友商事、伊藤忠商事等)の特定と環境戦略の比較分析

丸紅の環境への取り組みを評価する上で、同業である日本の大手総合商社(三菱商事、三井物産、住友商事、伊藤忠商事)との比較は不可欠である。これらの企業は、事業構造やグローバル展開の規模において類似性を持ちつつも、環境戦略の重点分野や目標設定、具体的な取り組みにおいてそれぞれ特徴が見られる。

  • 三菱商事:
    三菱商事は、2050年のカーボンニュートラル達成、およびその中間目標として2030年度までにGHG排出量を2020年度比で半減させるという目標を掲げている 19。特に「エネルギートランスフォーメーション(EX)」を経営戦略の中核に据え、関連分野に2030年度までに2兆円規模の投資を計画している点が特徴的である 19。石炭火力発電事業からは段階的に撤退する方針を明確にし、再生可能エネルギー事業の拡大や、水素・アンモニアなどの次世代エネルギー開発に注力している 19。TCFD提言に加え、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)のフレームワークに基づく自然関連課題の分析も進めている 35。資源の有効活用や生物多様性保全に関しても、サプライチェーン管理の強化や社会貢献活動を通じて取り組んでいる 35。

  • 三井物産:
    三井物産も2050年のネットゼロエミッション達成を目標とし、中間目標として2030年にGHGインパクト(Scope1+2及びScope3カテゴリー15の排出量から森林吸収量と削減貢献量を控除)を2020年3月期比で半減させること、発電事業における再生可能エネルギー比率を30%以上に引き上げることを目指している 18。TCFD提言に基づく情報開示を積極的に行い、気候変動シナリオ分析も詳細に実施している 18。特徴的なのは、日本国内に約45,000ヘクタールの社有林「三井物産の森」を保有し、これを活用したCO2吸収や生物多様性保全、持続可能な森林経営を推進している点である 39。また、TNFD提言にも賛同し、自然資本に関する取り組みを強化している 39。サーキュラーエコノミー分野では、PETボトルリサイクル工場の稼働など具体的な事業も展開している 17。

  • 住友商事:
    住友商事は、2050年の事業活動におけるカーボンニュートラル化を目指し、その達成に向けた長期ビジョン「気候変動問題に対する方針」を策定している 20。石炭火力発電事業の持分発電容量に占める比率を2035年までに30%(2019年度実績50%)に低減し、再生可能エネルギー比率を30%(同20%)に向上させる目標を掲げている 20。TCFD提言に基づく情報開示に加え、TNFD提言に基づくトライアル開示も行っている 41。天然資源の持続的活用と循環型経済への移行を重要課題と認識し、ニュージーランドでの森林事業や、消費者参加型のPETボトルリサイクルシステムの展開などに取り組んでいる 41。生物多様性分野では、マダガスカルのアンバトビー・ニッケルプロジェクトにおける「No Net Loss, Net Gain」を目指す取り組みや、バードフレンドリー®認証コーヒー事業などが特徴的である 41。

  • 伊藤忠商事:
    伊藤忠商事は、中期経営計画「Brand-new Deal 2023」において、「『SDGs』への貢献・取組強化」や「脱炭素社会を見据えた事業拡大」を重点施策として掲げている 21。TCFD提言に基づく情報開示を行い、気候変動対応を推進している。また、TNFDフォーラムにも参画し、自然資本・生物多様性に関する情報開示の準備を進めている 42。サプライチェーンにおける人権尊重や環境配慮を重視し、持続可能な調達を推進している。具体的なGHG削減目標や資源循環、生物多様性保全戦略については、同社のESGレポート等で詳細が示されており、例えば、2030年度までにScope1・2排出量を2021年度比50%削減、石炭火力発電事業からの撤退、再生可能エネルギー事業の拡大などを進めている 42。

これらの主要競合他社は、いずれも気候変動対応を経営の重要課題と位置づけ、TCFDやTNFDへの対応、GHG排出削減目標(特にScope3を含む)の設定、再生可能エネルギー事業への投資拡大、水素・アンモニアといった次世代エネルギー開発への関与といった点では共通の方向性を示している。しかし、目標数値の野心度(例:GHG削減率、再エネ比率)、戦略の重点分野(例:三井物産の森林事業活用、住友商事の地熱発電事業、三菱商事のEX戦略)、資源循環や生物多様性保全への具体的なアプローチや情報開示の深度においては、各社それぞれの強みや事業特性を反映した差異が見受けられる。丸紅がこれらの競合他社との比較において独自の強みを発揮し、環境分野でのリーダーシップを確立するためには、自社の事業ポートフォリオと親和性の高い分野での先進的な取り組みを加速させるとともに、その成果を具体的かつ定量的に示していくことが鍵となるだろう。例えば、丸紅が掲げる「ネットポジティブ」という高い目標 3 や、革新的な「リクシア」事業 10 といったユニークな取り組みが、グループ全体の環境パフォーマンス向上や企業価値創造にどれだけ実質的に貢献できるのか、その道筋と進捗をより明確に、かつ説得力を持ってステークホルダーに伝えていく必要がある。

  • 5.2. 競合他社の環境スコア(CDP、MSCI、Sustainalytics等)のベンチマーキングと評価機関による評価の違いに関する考察

企業の環境パフォーマンスを外部から評価する指標として、CDP、MSCI ESGレーティング、Sustainalytics ESGリスクレーティングなどが広く参照されている。これらのスコアを比較することで、丸紅および主要競合他社の環境への取り組みが、国際的な評価機関からどのように見られているのか、その相対的な位置づけを把握することができる。

  • 丸紅の環境スコア:

  • CDP: 2025年3月時点の丸紅の開示によれば、気候変動、水セキュリティ、森林の3分野全てにおいて「Aリスト」(最高評価群)またはそれに準ずる高い評価(A-)を獲得している 45。具体的には、気候変動「A」、水セキュリティ「A」、森林「A-」である。これは、情報開示の質と環境パフォーマンスの両面でリーダーシップを発揮している企業と認識されていることを示す。

  • MSCI ESGレーティング: 2023年6月時点で、最高評価である「AAA」を獲得している 46。これは、ESG全般にわたるリスク管理能力と機会への対応が業界内でトップレベルにあると評価されたことを意味する。

  • Sustainalytics ESGリスクレーティング: Yahoo Finance経由の2025年4月更新データでは、総合リスクスコア44.0で「深刻(Severe)」と評価されている 48。Sustainalytics自身のウェブサイト(2024年8月22日更新)でも、総合リスクスコア44、リスクレベル「深刻」、産業グループ(Industrial Conglomerates)内順位86/131とされている 49

  • SPOTT(木材・パルプ分野、2023年8月評価): 総合スコア51.9%、環境スコア46.45%であった 16

  • 三菱商事の環境スコア:

  • CDP(FY2023評価): 気候変動「A-」、水セキュリティ「B」、森林「B」 50。気候変動ではリーダーシップレベルに近いが、水と森林ではマネジメントレベルの評価となっている。

  • MSCI ESGレーティング: 三菱商事本体のレーティングは直接確認できなかったが、同社はMSCI日本株ESGセレクト・リーダーズ指数に選定されている 50。グループ会社では、三菱重工業が「AA」 51、三菱マテリアルが「AA」 52 と高い評価を得ている。

  • Sustainalytics ESGリスクレーティング: 総合リスクスコア39.4で「高リスク(High Risk)」、産業グループ(Industrial Conglomerates)内順位55/132(2023年11月20日更新)54

  • 三井物産の環境スコア:

  • CDP(2024年2月発表): 気候変動および水セキュリティの両分野で最高評価の「A」を獲得 55

  • MSCI ESGレーティング: MSCI日本株ESGセレクト・リーダーズ指数に選定されている 57。グループ会社では、三井倉庫ホールディングスが「AA」評価を得ている 59

  • Sustainalytics ESGリスクレーティング: 総合リスクスコア31.8で「高リスク(High Risk)」、産業グループ(Industrial Conglomerates)内順位26/126(2024年5月16日更新)61

  • 住友商事の環境スコア:

  • CDP(2024年開示、2023年活動評価): 気候変動「B」、水セキュリティ「A-」、森林「A-」62。水と森林ではリーダーシップレベルに近い評価。過去には水セキュリティでAリスト選定歴もある 64

  • MSCI ESGレーティング: 2024年6月時点で「AA」評価 62。MSCI日本株ESGセレクト・リーダーズ指数にも選定されている 62

  • Sustainalytics ESGリスクレーティング: 総合リスクスコア23.0で「中リスク(Medium Risk)」、産業グループ(Traders & Distributors)内順位94/189(2023年12月15日更新)69

  • 伊藤忠商事の環境スコア:

  • CDP(FYE 2023評価): 気候変動「B」、水セキュリティ「A-」、サプライヤーエンゲージメントレーティング(SER)「A-」71

  • MSCI ESGレーティング: 2020年12月時点で最高評価の「AAA」を獲得し、その後も維持していると記載がある 71。グループ会社の伊藤忠エネクスも「AA」評価を得ている 73

  • Sustainalytics ESGリスクレーティング: 総合リスクスコア34.9で「高リスク(High Risk)」、産業グループ(Industrial Conglomerates)内順位37/126(2023年10月13日更新)74

評価機関による評価の違いに関する考察:

上記のスコア比較から明らかなように、同じ企業であっても、評価機関によってその評価が大きく異なるケースが見受けられる。特に丸紅の場合、MSCI ESGレーティングでは最高評価の「AAA」であるのに対し、Sustainalytics ESGリスクレーティングでは「深刻」と、両極端な評価となっている。このような評価の乖離が生じる主な要因としては、以下の点が考えられる。

  1. 評価方法論と重点項目の違い: 各評価機関は独自の評価フレームワークと方法論を持っている。例えば、MSCIは企業のESGリスク管理能力や機会への対応を包括的に評価し、特にガバナンス体制やポリシー、情報開示の質を重視する傾向があると言われる。一方、Sustainalyticsは、企業が直面する具体的なESGリスクの大きさと、それに対する管理策の有効性を評価し、特に「アンマネージド・リスク(管理しきれていないリスク)」を定量化しようとする。また、企業の論争事例(Controversies)が評価に与える影響も評価機関によって異なる(Sustainalyticsは丸紅のControversy Levelを「2 Moderate」と評価している 48)。CDPは、気候変動、水セキュリティ、森林といった特定の環境テーマに絞り、詳細な情報開示を求め、企業の具体的な取り組みやリスク管理プロセス、目標設定と実績を評価する。

  2. データソースと評価対象範囲の違い: 評価機関が参照するデータソース(企業開示情報、ニュース報道、NGOレポート、政府データなど)や、評価対象とする事業活動の範囲(例:連結子会社全てを対象とするか、主要事業のみか)にも違いがある。

  3. 産業分類とピアグループ選定の違い: 企業がどの産業に分類され、どの企業群(ピアグループ)と比較されるかによって、相対的な評価が変動する。総合商社のように多角的な事業を展開する企業の場合、どの事業セグメントを主要と見なすかによって産業分類が変わり得る。

  4. 評価の更新頻度とタイミング: 各評価機関はそれぞれ異なるタイミングで評価を更新するため、最新の企業情報を反映しているかどうかに差異が生じることがある。

丸紅のMSCI評価(AAA)とSustainalytics評価(深刻)の著しい乖離 46 は、同社がTCFDやTNFDへの対応 3 など、国際的なフレームワークに沿った情報開示や方針策定の面では先進的であると評価される一方で、実際の事業ポートフォリオ(例:依然として残る化石燃料関連事業の規模や、サプライチェーン上で抱える潜在的な環境・社会リスクなど)が持つ固有のリスクの大きさや、過去の論争事例などが、Sustainalyticsのようなリスクの絶対量を重視する評価機関からは依然として高いと見なされている可能性を示唆している。あるいは、MSCIが同業他社との相対比較を重視するのに対し、Sustainalyticsがより絶対的なリスクエクスポージャーを評価する傾向があるなど、根本的な評価哲学の違いも影響していると考えられる。

投資家やその他のステークホルダーは、単一のESGスコアに依存するのではなく、複数の評価機関のスコアやレポートを参照し、それぞれの評価方法論の特性を理解した上で、自らの投資哲学や重要と考えるマテリアリティ(重要課題)に基づいて総合的に判断する必要がある。企業側にとっては、各評価機関からどのような評価を受けているのかを把握し、特に低い評価を受けた項目についてはその要因を分析し、具体的な改善策を講じることが、ESGパフォーマンスの向上とステークホルダーからの信頼獲得に繋がる。丸紅にとっては、この「開示の質と事業実態のリスク」の間のギャップ、あるいは「評価機関による視点の違い」を深く分析し、Sustainalyticsが指摘する具体的なリスク要因(どの事業のどのリスクが問題視されているのか、指摘されている論争事例は何か)を特定し、それらに対する管理策の強化と透明性の高い情報開示を進めることが、真のサステナビリティ経営を推進し、より広範なステークホルダーからの信頼を醸成する上で鍵となるだろう。

結論

  • 丸紅株式会社の環境パフォーマンスに関する総括的評価

本報告書を通じて、丸紅株式会社の環境への取り組みを「気候変動」「資源循環」「生物多様性」の3つの主要分野において詳細に分析した結果、同社がこれらの地球規模の課題に対し、明確な方針と野心的な目標を設定し、多岐にわたる具体的な施策を推進していることが確認された。特に、TCFD提言への早期賛同とそれに基づく詳細な情報開示 3、2050年GHG排出ネットゼロという長期目標の策定と「ネットポジティブ」という理想の追求 3、太陽光パネルリサイクル事業「リクシア」のようなサーキュラーエコノミーへの革新的な挑戦 10、そしてTNFD提言への対応開始とLEAPアプローチや「グリーンポータル」を活用した自然関連リスク・機会の体系的評価への着手 11 などは、同社の先進性と環境問題への強いコミットメントを示すものとして高く評価できる。CDP評価においても、気候変動、水セキュリティ、森林の各分野でAリストまたはそれに準ずる高評価を獲得していることは 45、その取り組みが国際的にも認められている証左と言えるだろう。

一方で、その広範な事業ポートフォリオとグローバルなサプライチェーンの複雑さから、克服すべき課題も依然として存在する。気候変動分野では、Scope1・2と比較して圧倒的に規模の大きいScope3排出量、特に投資カテゴリにおける排出削減の実効性をいかに高めるかが最大の焦点である。資源循環分野では、東京本社など一部拠点での取り組みは進んでいるものの、グループ全体の多様な事業活動から生じる産業廃棄物や副産物に対する包括的な資源循環戦略、具体的な数値目標、そして製品ライフサイクル全体での資源効率向上策の展開については、さらなる具体化と開示の充実が望まれる。生物多様性分野においては、TNFDに基づくリスク・機会評価を深化させ、それを具体的な事業戦略や投融資判断に結び付けていくこと、サプライチェーンにおける森林破壊やその他の生態系への負の影響を確実に管理し、トレーサビリティを確保すること、そして認証材調達比率100%達成に向けた道筋を明確にすることが急務である。

ESG評価機関によるスコアにばらつきが見られる点(例えば、MSCIでは最高評価のAAA、Sustainalyticsではリスクが高いとされる評価 46)は、丸紅の取り組みが多面的に評価されており、情報開示の質と事業活動の実態との間に認識のギャップが存在する可能性、あるいは評価機関ごとの方法論や重点項目の違いが影響していることを示唆している。これは、丸紅にとって、自社の強みと弱みを客観的に把握し、さらなる改善努力を促すための重要なフィードバックと捉えるべきである。

  • 環境スコア算定に向けた主要な論点と今後の展望

丸紅の環境スコアを算定するにあたっては、以下の主要な論点を総合的に評価する必要がある。

  1. 目標の野心度と科学的根拠: 設定された環境目標(GHG削減目標、再エネ導入目標、資源循環目標、生物多様性保全目標など)が、パリ協定や昆明・モントリオール生物多様性枠組といった国際的な合意や科学的知見と整合しているか、また、業界のベストプラクティスと比較してどの程度の水準にあるか。

  2. 実績と進捗の透明性: 設定された目標に対する具体的な進捗状況が、定量的かつ検証可能なデータに基づいて透明性高く開示されているか。目標未達の場合には、その理由と今後の対策が明確に説明されているか。

  3. ガバナンスとリスク管理体制の実効性: 環境課題への対応が、取締役会レベルでの監督を含む強固なガバナンス体制のもとで推進され、リスク管理プロセスに適切に統合されているか。環境目標の達成が経営層や従業員のインセンティブに結びついているか。

  4. 事業戦略との統合と機会創出: 環境課題への対応が、単なるコストやリスク管理に留まらず、新たな事業機会の創出や競争優位性の確立に繋がるよう、事業戦略の中核に位置づけられているか。環境配慮型製品・サービスの開発・普及や、グリーン市場への投資が具体的に行われているか。

  5. サプライチェーン全体での取り組み: 自社の事業活動範囲を超えて、サプライチェーン全体(上流の調達先から下流の製品使用・廃棄段階まで)における環境負荷低減や人権尊重に積極的に関与しているか。

今後の展望として、丸紅には、これまでに築き上げてきた環境への取り組みの基盤をさらに強化し、課題として認識されている点を着実に改善していくことが期待される。特に、Scope3排出量という最大の難関に対して、より革新的で実効性のある削減策を打ち出し、サプライヤーや投資先との協調を通じて具体的な成果を上げていくことが求められる。また、資源循環や生物多様性保全といった分野では、先進的な取り組みをグループ全体に横展開し、事業ポートフォリオのグリーン化を加速させることが重要となる。

ESG評価機関による評価の差異については、それぞれの評価基準や方法論を深く理解し、自社の取り組みの強みと改善点を多角的に把握した上で、より網羅的かつ説得力のある情報開示に努めるべきである。同時に、開示内容と事業実態との整合性を常に追求し、ステークホルダーからの信頼を一層高めていく必要がある。

丸紅が「ネットポジティブ」という高い理想を掲げ、気候変動問題への貢献と企業成長の両立を目指すのであれば、その道のりは決して平坦ではないだろう。しかし、総合商社として持つ多様な事業基盤、グローバルなネットワーク、そして変革を恐れない企業文化を最大限に活用し、環境課題への挑戦を新たな成長の原動力へと転換していくことができれば、真に持続可能な社会の実現に貢献し、長期的な企業価値を創造していくことが可能となるであろう。

引用文献

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  59. Recognition from Society|MITSUI-SOKO HOLDINGS Co., Ltd., 5月 10, 2025にアクセス、 https://www.mitsui-soko.com/en/sustainability/evaluation/

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  64. Sumitomo Corporation achieves place on 'A List' for corporate leadership in Water Security 2019, 5月 10, 2025にアクセス、 https://www.sumitomocorp.com/en/jp/news/topics/2020/group/20200218

  65. External Evaluation | Sustainability | SUMITOMO MITSUI TRUST GROUP, 5月 10, 2025にアクセス、 https://www.smtg.jp/english/sustainability/evaluation

  66. Material Issues | Our Sustainability Management | Sustainability | Sumitomo Corporation, 5月 10, 2025にアクセス、 https://sumitomocorp.disclosure.site/en/themes/12

  67. Sumitomo Corporation - Sustainable Finance, 5月 10, 2025にアクセス、 https://sumitomocorp.disclosure.site/en/themes/15

  68. Sustainability | Sumitomo Corporation, 5月 10, 2025にアクセス、 https://sumitomocorp.disclosure.site/en

  69. Sumitomo Corp. - Company ESG Risk Rating - Sustainalytics, 5月 10, 2025にアクセス、 https://www.sustainalytics.com/esg-rating/sumitomo-corp/1007901051

  70. Sustainability - Sumitomo Corp ADR SSUMY - Morningstar, 5月 10, 2025にアクセス、 https://www.morningstar.com/stocks/pinx/ssumy/sustainability

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  72. ITOCHU Announces It Has Earned an MSCI ESG Rating of AAA | Sustainability News, 5月 10, 2025にアクセス、 https://www.itochu.co.jp/en/csr/news/2020/201225.html

  73. ITOCHU ENEX Maintains “AA” MSCI ESG Rating | News 2023, 5月 10, 2025にアクセス、 https://www.itcenex.com/en/news/2023/20230523.html

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