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ENEOSホールディングス株式会社の環境イニシアチブおよびパフォーマンスに関する分析報告書

更新日:2025年4月18日
業種:製造業(3333)

1. はじめに

本報告書は、ENEOSホールディングス株式会社(以下、ENEOS)の環境への取り組みとパフォーマンスについて、「気候変動」「資源循環」「生物多様性」の3つの重点分野に焦点を当て、包括的な分析を行うことを目的とする。エネルギー業界は、地球規模の環境課題、特に気候変動への対応において中心的な役割を担っており、企業の環境・社会・ガバナンス(ESG)への取り組みは、持続的な成長と企業価値向上の観点から極めて重要視されている 1。本分析は、ENEOSの環境スコア算定に必要な詳細情報を収集し、学術的な水準での評価を提供することを目指すものである。分析にあたっては、ENEOSが公開するサステナビリティ報告書、ESGデータブック 3、統合報告書 6、公式ウェブサイト等の情報に加え、競合他社の環境戦略、業界のベストプラクティス、第三者評価機関によるESGスコアなどを参照し、多角的な視点から評価を行う。

2. ENEOSホールディングスの環境への取り組み

ENEOSグループは、ESG経営を推進し、ステークホルダーから信頼される企業グループの確立を目指す基本方針を掲げている 1。この方針に基づき、環境課題に対して具体的な目標を設定し、グループ全体で取り組みを推進している。

2.1. 気候変動

ENEOSグループは、気候変動を最重要課題の一つと認識し、2040年までに自社排出量(Scope 1およびScope 2)のカーボンニュートラル達成を目標として掲げている 9

  • Scope 1およびScope 2排出削減: グループ全体での目標達成に向け、各事業会社が具体的な削減目標を設定し、省エネルギーの推進や再生可能エネルギーの導入を進めている。例えば、グループ会社のENEOS NUC株式会社では、2013年度を基準年として2025年までにCO2排出量を11%削減する目標を掲げ、生産段階における省エネルギーを推進している 8。ENEOSリニューアブル・エナジー株式会社では、2024年7月に森林組合からJ-クレジットを購入し、Scope 1およびScope 2排出量のカーボンニュートラルを達成した 10。グループ全体のKPI達成状況は定期的に確認され、経営会議等で報告されている 1

  • Scope 3排出削減への貢献: 自社排出だけでなく、サプライチェーン全体での排出削減にも貢献することを目指している。高性能素材の開発を通じて社会全体の温室効果ガス削減に寄与しており、例として、独自開発した溶液重合スチレン・ブタジエンゴムを使用したタイヤは、自動車の低燃費性能向上を通じてCO2排出量削減に貢献している 11。さらに、水素エネルギーのサプライチェーン構築、再生可能エネルギー由来の合成燃料(e-fuel)や持続可能な航空燃料(SAF)の開発・供給 12、二酸化炭素回収・利用・貯留(CCUS)技術の開発など、低炭素エネルギー・素材の供給に向けた取り組みを強化している。

  • 再生可能エネルギー事業: ENEOSリニューアブル・エナジー株式会社を中心に、太陽光発電や風力発電事業を積極的に展開している 13。同社は、再生可能エネルギーの安定供給と温室効果ガス排出削減への貢献を重要課題(マテリアリティ)の一つとして特定している 13。全国でメガソーラー発電所を運営するほか 14、洋上風力発電にも注力している 12

  • TCFD提言への対応: 2019年5月に気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言への賛同を表明し、TCFDコンソーシアムにも設立時から参加している 1。TCFD提言の趣旨に沿った気候変動に関する情報開示を、統合レポートやESGデータブック等を通じて行っている 1

2.2. 資源循環

ENEOSグループは、循環型社会の形成への貢献を目指し、3R(リデュース・リユース・リサイクル)の推進と廃棄物の削減に取り組んでいる。

  • 3Rの推進: 資源の有効活用、廃棄物の発生抑制(リデュース)、再利用(リユース)、再資源化(リサイクル)を基本方針として掲げている 8。ENEOS NUC株式会社では、環境リサイクル事業を通じて社会全体の廃棄物低減や資源循環にも貢献している 8

  • 廃棄物管理: 廃棄物の最終処分率低減をKPIの一つとして設定し、管理している 1。グループ会社のENEOS NUC株式会社では、ゼロエミッション(最終処分率1%未満)の維持を目標としている 8。具体的な達成状況については、ESGデータブック等で報告されている 1

  • 具体的な取り組み: 廃プラスチックの再資源化(ケミカルリサイクルを含む)や、環境負荷の低い持続可能な素材の開発などが、今後の重要な取り組み分野となると考えられる。

2.3. 生物多様性

ENEOSグループは、事業活動が生物多様性に与える影響を認識し、その保全に努めている。

  • 基本的な考え方: 地球環境保全が人類共通の重要課題であるとの認識に基づき、事業活動における環境保全を推進している 8。ENEOSリニューアブル・エナジー株式会社では、環境保護を経営基盤の一つとして特定している 13

  • 具体的な活動: 「ENEOSの森」と名付けた森林保全活動を全国各地で展開している 15。地域のNPO等と連携し、グループ従業員やその家族が植樹、間伐、下草刈りなどの活動に参加するほか、自然観察会などを通じて自然とのふれあいを深めている 15。この活動は、NPO・NGOとの協働による環境保全・社会貢献活動の一環として位置づけられている 1

  • 管理アプローチ: 生物多様性保全を環境方針の一部として掲げ 15、事業活動における環境リスク管理の一環として取り組んでいる。特に再生可能エネルギー事業においては、地域社会や自然環境との調和が重要課題として認識されている 13。今後は、事業全体を通じた生物多様性への影響評価や、より体系的な管理体制の構築が期待される。

3. 潜在的リスクと機会

ENEOSが事業を展開する上で、環境要因に関連する潜在的なリスクと機会が存在する。これらを適切に認識し、経営戦略に反映させることが持続的な成長に不可欠である。

3.1. リスク

  • 規制リスク: 各国・地域における炭素税導入や排出量取引制度の強化、環境規制の厳格化は、事業コストの増加や既存資産(特に化石燃料関連)の価値毀損(座礁資産化)リスクを高める可能性がある。

  • 市場リスク: 化石燃料から再生可能エネルギーや代替燃料への需要シフトは、既存事業の収益性を低下させる可能性がある。また、低炭素技術や再生可能エネルギー市場における競争激化、炭素クレジット価格の変動などもリスク要因となる。

  • 評判リスク: 気候変動対策の遅れや不十分さ、環境事故、あるいは「グリーンウォッシング」との批判は、企業の社会的評価やブランドイメージを損ない、投資家、顧客、従業員などのステークホルダーからの信頼を失墜させる可能性がある 1

  • 操業リスク: 気候変動に伴う異常気象(台風、洪水、干ばつ等)の激甚化は、製油所や発電所などの生産設備、物流網に物理的な損害を与え、操業停止やサプライチェーンの寸断を引き起こすリスクがある。

3.2. 機会

  • 新規事業分野: 再生可能エネルギー市場の拡大は、太陽光・風力発電事業の成長機会を提供する 13。また、水素・アンモニアの製造・輸送・利用に関わるサプライチェーン構築、CCUS技術のサービス提供、SAF 12 や高機能素材 11 などの低炭素・環境配慮型製品の開発・販売は、新たな収益源となり得る。

  • コスト削減: 省エネルギー活動の推進 8 や資源循環の促進による廃棄物処理コストの削減、エネルギー効率の改善は、事業コストの低減に繋がる。

  • 企業価値向上: 環境・社会課題への積極的な貢献は、企業のブランドイメージを高め、優秀な人材の獲得・維持、環境意識の高い顧客からの支持、ESG投資を重視する投資家からの評価向上に繋がる可能性がある 4

  • 資金調達: サステナビリティへの取り組みは、グリーンボンドやサステナビリティ・リンク・ローンなど、有利な条件での資金調達(サステナブル・ファイナンス)へのアクセスを向上させる可能性がある 3

4. 業界のベストプラクティス

世界のエネルギー・石油業界では、環境課題への対応として先進的な取り組みが進められている。ENEOSがさらなる向上を目指す上で、これらのベストプラクティスは重要な参考となる。

4.1. 気候変動

  • 野心的な目標設定: Scope 1, 2のみならず、製品使用段階を含むScope 3排出量までを対象とした、科学的根拠に基づく削減目標(SBT)を設定する企業が増加している。一部の欧州大手(例:BP)は、石油・ガス生産量の絶対量削減目標を掲げるなど、より踏み込んだ目標を設定している。

  • ポートフォリオ転換: 従来の化石燃料事業から、再生可能エネルギー、低炭素エネルギー(水素、バイオ燃料等)、電力事業へと、事業ポートフォリオを大胆に転換するための大規模な投資を行っている企業が見られる(例:TotalEnergies 16、Shell 16)。

  • 技術開発と実装: CCUS、グリーン水素製造、SAFなどの次世代技術開発に積極的に投資し、実証から商業規模での実装へと移行を進めている。技術開発における連携やオープンイノベーションも活発化している。

  • 透明性の高い情報開示: TCFD提言に基づき、気候変動に関するリスクと機会、具体的な移行戦略、目標達成に向けた進捗状況、投資計画などを詳細かつ透明性高く開示することが標準となりつつある。

4.2. 資源循環

  • 高度なリサイクル技術: 従来の物理的リサイクルでは困難だった廃プラスチックを原料レベルまで分解し再利用するケミカルリサイクル技術への投資と実用化が進んでいる。

  • サーキュラー・エコノミー型ビジネスモデル: 製品の所有から利用へと移行するサービスモデル(Product-as-a-Service)や、使用済み製品を回収し再資源化するクローズドループ・システムの構築など、ビジネスモデル自体の変革に取り組む動きがある。

  • 持続可能な原料: バイオマス由来原料やリサイクル原料の使用比率を高める目標を設定し、サプライチェーン全体でのトレーサビリティ確保に取り組んでいる。

4.3. 生物多様性

  • 自然資本ソリューション(Nature-Based Solutions): 森林保全・再生、湿地回復など、生物多様性の向上と炭素吸収源確保に貢献するプロジェクトへの投資が注目されている。

  • 体系的な影響評価: 事業活動が生物多様性に与えるリスクと影響を、サプライチェーン全体にわたって体系的に評価し、管理する枠組み(例:自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)の提言に沿った評価)を導入する企業が現れている。

  • ポジティブインパクト目標: 事業活動による生物多様性への負の影響をゼロにする「ノーネットロス」や、さらに進んでプラスの影響を目指す「ネットポジティブ」といった野心的な目標を設定する動きが出始めている。

5. 現在の課題と推奨事項

ENEOSは、カーボンニュートラル目標達成と持続可能な社会への貢献に向けて多岐にわたる取り組みを進めているが、エネルギー転換期特有の課題にも直面している。

5.1. 課題

  • 既存事業と新規事業のバランス: 主力である化石燃料事業の収益性を維持・効率化しつつ、将来の成長ドライバーとなる再生可能エネルギーや低炭素技術へ、いかに適切に経営資源を配分していくかという経営判断の難しさがある。国内市場における圧倒的なシェア 19 を持つ一方で、グローバルなエネルギー企業と比較すると、事業規模や投資体力には差があり 18、多角的なエネルギー転換への同時並行的な大規模投資には制約が生じる可能性も考えられる。

  • 投資の規模とスピード: 2040年カーボンニュートラル達成には、再生可能エネルギー導入、水素サプライチェーン構築、CCUS実装などに巨額の投資が必要となる。これらの投資を計画通り、かつ適切なスピードで実行できるかどうかが課題となる。

  • Scope 3排出量の削減: サプライチェーン全体での排出量の大部分を占めるScope 3(特に販売した燃料の燃焼に伴う排出)への具体的な削減道筋を描き、実行していくことが大きな課題である。

  • 新技術の成熟度とコスト: グリーン水素、SAF、CCUSなどの重要技術は、まだ開発途上であったり、コスト競争力の面で課題を抱えていたりする場合が多い。これらの技術を社会実装可能なレベルまで引き上げ、スケールアップしていく必要がある。

  • 生物多様性の統合的管理: 「ENEOSの森」15 のような個別活動に加え、事業活動全体における生物多様性への影響を評価し、リスクと機会を経営戦略に統合していく体系的なアプローチの深化が求められる。

  • 情報開示の深化: TCFD提言への対応 1 は進んでいるものの、投資家や社会からの要求水準は高まっており、移行計画の具体性、Scope 3排出量の算定・開示、生物多様性への配慮など、情報開示の質と範囲を一層向上させる必要がある 4

5.2. 推奨事項

上記の課題を踏まえ、ENEOSが今後、環境パフォーマンスをさらに向上させ、持続的な企業価値を高めていくために、以下の領域に重点的に取り組むことを推奨する。

  • 脱炭素ロードマップの具体化と実行: 2040年カーボンニュートラル目標達成に向けた、より詳細かつ具体的なロードマップ(特にScope 3削減策を含む)を策定し、その進捗状況を定期的に開示する。各施策の実行計画と投資計画を明確化する。

  • 移行技術への戦略的投資加速: 水素・アンモニア、CCUS、SAF、合成燃料などの重要技術分野における研究開発・実証・実装への投資を加速し、早期の社会実装と事業化を目指す。再生可能エネルギー事業のさらなる拡大も継続する。

  • 資源循環戦略の高度化: 廃プラスチックのケミカルリサイクル技術開発・導入を推進し、サーキュラー・エコノミー型ビジネスモデルの可能性を検討する。再生材利用率向上などの具体的な目標を設定する。

  • 生物多様性リスク管理の統合: 事業活動が生物多様性に与える影響評価(TNFDフレームワークの活用等)を導入し、リスクと機会を特定する。その結果を事業戦略や意思決定プロセスに統合し、具体的な保全目標を設定・管理する。

  • ESG情報開示の質的・量的拡充: 国際的な開示基準(GRIスタンダード 4、ISSB基準等)に準拠し、投資家が必要とする非財務情報(特に気候関連、資源循環、生物多様性に関する定量的データ、目標、進捗)の開示を拡充する。ステークホルダーとの対話 1 を通じて開示内容の改善を継続する。

6. 競合分析

ENEOSの環境戦略とパフォーマンスを評価する上で、国内外の主要な競合企業との比較は不可欠である。

6.1. 主要競合企業

  • 国内: 出光興産株式会社 19、コスモエネルギーホールディングス株式会社 19 が主要な競合となる。これら3社で国内石油元売り市場の大半を占める 20

  • 国際(ベンチマーク対象): ExxonMobil Corporation 16, Shell plc 16, BP p.l.c. 18, TotalEnergies SE 16, Chevron Corporation 16 など、いわゆる石油メジャーや主要な国営石油会社が比較対象となる。これらの企業は、事業規模、研究開発投資、グローバルな事業展開においてENEOSを大きく上回る場合が多い 18

6.2. 競合企業の環境戦略と実績比較

ENEOSと競合企業の環境戦略には、共通点と相違点の両方が見られる。

  • 気候変動:

  • 目標: 国内競合の出光興産、コスモエネルギーHDも、ENEOSと同様にカーボンニュートラル目標を掲げ、再生可能エネルギー事業や低炭素技術への投資を進めている 14。目標達成年やScope 3へのコミットメントの度合いには各社差が見られる可能性がある。国際的な大手企業(例:Shell、BP、TotalEnergies)は、多くが2050年までのネットゼロを目標としており 17、Scope 3排出量削減への取り組みや情報開示も進んでいる傾向にある。BPのように石油・ガス生産量の削減目標を掲げる企業もあり、これは現在のところ生産維持を前提とするENEOSの戦略とは異なるアプローチである。

  • 戦略: 再生可能エネルギー分野では、ENEOSが太陽光と風力に注力しているのに対し 14、出光興産は地熱発電やバイオマス発電にも力を入れている 14。コスモエネルギーHDは特に風力発電事業に強みを持っている 14。水素やCCUSへの取り組みも各社進めているが、投資規模や重点領域には違いがあると推察される。国際大手は、より大規模な再生可能エネルギー投資や、グローバルな水素サプライチェーン構築、大型CCUSプロジェクトなどを推進している。

  • 資源循環: 廃プラスチックのリサイクル(特にケミカルリサイクル)や、バイオ燃料・持続可能素材の開発は、国内外の多くのエネルギー・化学企業が取り組んでいる分野であり、技術開発競争が激化している。各社の具体的な目標設定(リサイクル率、再生材利用率等)や投資規模を比較することが重要となる。

  • 生物多様性: 生物多様性に関する方針策定や情報開示は、国際的な大手企業を中心に進展が見られる。TNFDへの対応や、サプライチェーン全体での影響評価、具体的な保全目標の設定状況において、企業間で差が出始めている可能性がある。

国内市場においては、出光興産やコスモエネルギーHDも積極的にエネルギー転換を進めており 14、再生可能エネルギー導入や新規事業開発を巡る競争は激しさを増している。ENEOSは国内首位の地位にあるが 19、各社の強み(例:コスモの風力 14)を活かした差別化戦略が進む中で、優位性を維持・強化していくためには、効果的かつ迅速な戦略実行が求められる。

グローバルな視点で見ると、ENEOSは売上高や時価総額で世界のトップ企業(例:Saudi Aramco, ExxonMobil, PetroChina)とは規模が異なる 18。この規模の違いは、研究開発や新規事業への投資余力、グローバルな展開力に影響を与える可能性がある。そのため、ENEOSにとっては、自社の強み(国内市場基盤、特定の技術力 11、既存インフラ 12 など)を活かせる分野に戦略的に資源を集中させるとともに、技術導入やリスク分担のために他社とのパートナーシップを積極的に活用することが、効果的な移行戦略を進める上でより重要になると考えられる。

7. 環境スコアのベンチマーキング

第三者のESG評価機関による評価スコアは、企業の環境パフォーマンスを客観的かつ相対的に把握する上で有用な指標となる。これらのスコアは、投資家の投資判断にも影響を与えるため 4、その動向を注視する必要がある。

  • 主要ESG評価機関による評価: CDP(気候変動、水セキュリティ、フォレスト)、MSCI ESG Ratings、Sustainalytics ESG Risk Ratingsなどが、主要な評価機関として広く参照されている。これらの機関は、企業の公開情報や質問書への回答に基づき、環境パフォーマンスやリスク管理体制を評価し、スコアや格付けを付与している。

  • (注:本報告書作成時点での最新の具体的なスコアは、外部データベースからの参照が必要となるため、以下は一般的な傾向や比較の視点を示す。)

  • スコア比較と分析:

  • ENEOSの各評価機関におけるスコア・格付けを、国内競合(出光興産、コスモエネルギーHD)および国際的な大手エネルギー企業(Shell, BP, ExxonMobil等)と比較することが重要である。例えば、「CDP気候変動スコアにおいて、ENEOSがB評価である場合、Aリスト入りしている欧州大手企業と比較すると改善の余地があるが、国内競合の評価と比較して相対的な位置づけを確認する」といった分析が可能となる。

  • 評価機関が付与するスコアだけでなく、評価レポート等で指摘されているENEOSの強みや弱み(例:気候変動戦略の野心度、Scope 3開示の透明性、水リスク管理体制、生物多様性への配慮、サプライチェーン管理など)を分析することで、重点的に改善すべき領域を特定する手がかりが得られる。

  • 競合他社と比較してスコアが低い項目は、単に環境パフォーマンス上の課題であるだけでなく、資本市場における評価や企業評判にも影響を与えかねない。評価機関がどのような点を重視し、どのような情報開示や取り組みが他社で進んでいるかを把握することは、ENEOSが自社の戦略や開示を改善していく上で不可欠である。例えば、競合他社がScope 3排出量に関する詳細な目標と実績を開示しているにも関わらず、ENEOSの開示が限定的であれば、それがスコアの差に繋がっている可能性がある。

8. 結論

8.1. 主要な分析結果の要約

本分析の結果、ENEOSホールディングスは、2040年カーボンニュートラル目標 9 の達成に向け、再生可能エネルギー事業の拡大 13、水素やCCUSなどの低炭素技術開発、資源循環の推進 8、生物多様性保全活動(「ENEOSの森」15)など、多岐にわたる環境への取り組みを積極的に進めていることが確認された。TCFD提言への賛同 1 やESGデータブックを通じた情報開示 3 にも努めている。

一方で、エネルギー転換期における特有の課題にも直面している。特に、サプライチェーン全体で排出量の大部分を占めるScope 3排出量の削減に向けた具体的な道筋の提示、再生可能エネルギーや低炭素技術への大規模投資の継続と収益化、事業活動全体における生物多様性リスクの体系的な管理と目標設定、そして投資家等の期待に応えるためのESG情報開示のさらなる深化などが、今後の重要な課題として挙げられる。

国内競合他社も同様にエネルギー転換を進めており、競争環境は激化している 14。国際的な大手エネルギー企業と比較した場合、事業ポートフォリオ転換の野心度、Scope 3排出削減へのコミットメント、生物多様性への統合的アプローチなどの面で、さらなる向上が求められる可能性がある。ESGスコアのベンチマーキングは、こうした相対的な立ち位置を客観的に示す指標となる。

8.2. 戦略的インプリケーションと今後の展望

エネルギー産業が構造的な変革期にある中、ENEOSにとっては、既存の化石燃料事業の効率化と脱炭素化を進めつつ、将来の成長が見込まれる低炭素・脱炭素分野へ戦略的に投資し、事業ポートフォリオを転換していくことが、持続的な成長を実現するための鍵となる。その際、自社の事業規模や強みを踏まえ、資源を集中すべき分野を見極め、必要に応じて外部との連携を強化することが有効と考えられる。

環境に関わるリスクを適切に管理すると同時に、新たな事業機会を確実に捉えるためには、環境戦略を単なるCSR活動としてではなく、経営戦略の中核に据え、全社的な取り組みとして推進していく必要がある。継続的なパフォーマンス改善と、その成果や課題に関する透明性の高い情報開示は、ステークホルダーからの信頼を獲得し 1、企業価値を持続的に向上させていく上で不可欠である。

8.3. 最終提言

本報告書で特定された課題に対応し、ENEOSが環境分野におけるリーダーシップをさらに強化していくために、以下の点を重点的に推進することを提言する。

  1. 脱炭素ロードマップの精緻化と実行: Scope 3排出削減を含む、2040年カーボンニュートラル目標達成に向けた、より具体的で測定可能な中間目標とアクションプランを策定・公表し、着実に実行する。

  2. 資源循環戦略の強化: ケミカルリサイクルを含む先進的なリサイクル技術への投資や実用化を加速し、具体的なリサイクル率目標などを設定する。

  3. 生物多様性管理の統合: 事業活動が生物多様性に与える影響評価を体系的に実施し、リスク管理プロセスに組み込むとともに、具体的な保全目標を設定・開示する。

  4. ESG情報開示の拡充: 国際的な基準に基づき、気候関連移行計画、Scope 3排出量、生物多様性への取り組みなど、投資家が重視する情報の開示範囲と質を一層向上させる。

これらの提言を実行に移すことにより、ENEOSは環境課題への対応を強化し、変化する事業環境の中での競争力を高め、持続可能な社会の実現に貢献するとともに、長期的な企業価値向上を達成することが期待される。

引用文献

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