東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)は、日本の主要な旅客輸送事業者の一つであり、運輸事業を核に、流通・サービス、不動産・ホテル事業など広範な事業を展開しています 1。鉄道事業は社会の基盤を支える一方で、その大規模なインフラとエネルギー消費により、環境への影響も少なくありません。近年、企業経営において環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)を重視するESGの観点が世界的に重要性を増しており、特に鉄道セクターにおいては、気候変動対策、資源の有効活用、自然環境との共生が喫緊の課題となっています。
本報告書は、JR東日本の環境分野における取り組み、特に「気候変動」、「資源循環」、「生物多様性」の3つの重点領域に焦点を当て、その具体的なイニシアチブ、目標、実績、関連するリスクと機会、業界内での位置づけ、そして今後の課題と展望について、詳細かつ包括的な分析を行うことを目的とします。この分析は、同社の環境パフォーマンス評価や、持続可能性に関する戦略的意思決定に資する学術レベルの情報を提供することを目指します。分析にあたっては、JR東日本が発行する統合報告書「JR東日本グループレポート」 1 やサステナビリティ関連の公式発表資料などを主要な情報源とします。
本報告書は以下の構成で分析を進めます。まず、JR東日本の環境経営に関する全体戦略とガバナンス体制を概観します。次に、「気候変動への対応」「資源循環の推進」「生物多様性の保全」という3つの主要テーマについて、具体的な取り組み内容、目標、実績を詳述します。続いて、これらの環境要因に関連する潜在的なリスクと事業機会を分析し、国内外の鉄道業界における先進的な事例との比較を通じてJR東日本の取り組みを評価します。さらに、主要な競合他社の環境パフォーマンス分析と比較(公開情報の範囲内で)、現状の課題評価、そして将来に向けた提言を行います。最後に、全体の分析結果を総括し、結論を述べます。なお、本報告書では、利用者からの指示に基づき、表形式でのデータ提示は行わず、全てのデータ、比較、ベンチマーキング結果は、本文中での記述、あるいは必要に応じてリスト形式で示します。
JR東日本グループは、ESG経営の実践を経営の根幹に据え、事業活動を通じて社会的な課題解決を図り、地域社会の発展と国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」達成に貢献することを目指しています 8。特に、グループの強みを活かせるSDGs目標として、「9. 産業と技術革新の基盤をつくろう」「11. 住み続けられるまちづくりを」に加え、「7. エネルギーをみんなに そしてクリーンに」「12. つくる責任 つかう責任」「13. 気候変動に具体的な対策を」(間接的に関連)、「15. 陸の豊かさも守ろう」(生物多様性に関連)などを重視しています 8。これらの取り組みは、グループ経営ビジョン「変革2027」の下で推進され、ESG要素を事業戦略と価値創造プロセスに統合する姿勢を示しています 6。このビジョンとの連動は、ESGが単なるリスク管理や社会貢献活動に留まらず、将来の成長と企業価値向上に不可欠な要素として位置づけられていることを示唆しています。
環境分野における最も重要なコミットメントとして、「JR東日本グループ ゼロカーボン・チャレンジ2050」が掲げられています。これは、2050年度までにグループ全体のCO2排出量を実質ゼロにすることを目指す長期目標です 10。この長期目標達成に向けた中間目標として、2030年度までに鉄道事業におけるCO2排出量を2013年度比で50%削減することが設定されています 11。さらに、JR東日本グループは2023年8月に、科学的根拠に基づく目標設定イニシアチブ(SBTi: Science Based Targets initiative)の認定取得に向けたコミットメントレターを提出しており、国際的な基準に整合した排出削減目標を策定する意向を表明しています 13。
気候変動を含むサステナビリティ課題への取り組みを監督・推進するため、代表取締役社長を委員長とする「JR東日本サステナビリティ戦略委員会」が設置されています 9。この委員会は、副社長や常務取締役などの経営幹部で構成され、社外取締役も参加しています。年2回開催され、気候変動に関する目標設定や進捗状況、リスク・機会の評価、対応策などについて審議・意思決定を行っています 9。さらに、具体的な施策を検討・推進する下部組織として、「ゼロカーボンWG(ワーキンググループ)」や「水素WG」などが設けられ、それぞれCO2排出量削減策や水素エネルギーの利活用について詳細な検討を行っています 9。このようなトップマネジメントが直接関与し、専門的なワーキンググループが実務を担う体制は、サステナビリティ課題への取り組みが組織全体で重要視され、経営戦略と一体的に推進されていることを示しています。
JR東日本は、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に賛同を表明しており 9、そのフレームワークに基づいた情報開示を継続的に進めています。これには、気候変動による物理的リスク(特に洪水リスク)に関するシナリオ分析と財務影響評価の結果開示も含まれます 9。さらに、2024年4月には、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)の提言への賛同も表明しました 13。TCFDからTNFDへと開示の枠組みを拡大したことは、環境リスクに対する認識が、気候変動中心から生物多様性を含むより広範な自然資本へと深化・成熟していることを示しています。これは、投資家や社会からの要請が変化し、企業が考慮すべき環境要因が拡大しているグローバルな潮流を反映した動きと考えられます。
JR東日本は、「ゼロカーボン・チャレンジ2050」の達成に向け、エネルギーの「つくる」「送る・ためる」「使う」の各段階において、多岐にわたる気候変動対策を推進しています 10。
エネルギー効率化 (Energy Efficiency):
車両 (Rolling Stock): 減速時に発生する運動エネルギーを電力に変換する「回生ブレーキ」や、モーターの効率的な制御を行う「VVVFインバータ」を搭載した省エネルギー車両の導入を推進しています 16。2021年度時点で省エネ車両導入率は99.9%に達しています 11。非電化区間の脱炭素化を目指し、水素を燃料とするハイブリッド車両(FV-E991系「HYBARI」)の開発も進められています 12。また、E7系、E8系といった新型新幹線車両の導入もCO2削減に貢献しています 11。
駅・施設 (Stations & Facilities): 「省エネ」「創エネ」「エコ実感」「環境調和」の4要素を取り入れた「エコステ」の整備を進めており、高輪ゲートウェイ駅や千駄ケ谷駅などがその事例です 16。駅ホームやコンコース等の照明のLED化を大規模に進めており、2030年度までに累計41.5万台の取替えを目標としています(2023年度末実績:累計15.9万台)11。駅や車両センターの大型空調設備や、駅等の小型空調設備の高効率機種への更新も計画的に実施しています(大型:2030年度目標38箇所に対し2022年度末実績23箇所、小型:2030年度目標3,300台に対し2022年度末実績984台)11。一部の施設(ルミネ大宮)では、カーボンニュートラル都市ガスを導入しています 16。オフィスビルにおいても、LED照明等の高効率機器導入(ハード対策)と、空調温度管理や消灯の徹底(ソフト対策)の両面から省エネを推進しています 11。
電力システム (Power Systems): 回生ブレーキによって発生した電力を有効活用するため、電力を貯蔵する「電力貯蔵装置」や、他の施設で利用可能な電力に変換する「回生インバータ装置」、異なる電力区間での電力融通を可能にする「電力融通装置(RPC)」の導入を進めています 12。
運転操作 (Operational Practices): 省エネ運転操作の徹底も推進しており、分析によれば、新型車両導入による削減効果(約3%)を上回る10%以上の電力削減ポテンシャルがあるとされています 16。
再生可能エネルギーの導入 (Renewable Energy Adoption):
自社開発 (In-house Development): グループ会社であるJR東日本エネルギー開発株式会社を通じて、太陽光発電所や風力発電所の開発を推進しています。2050年度までに、鉄道事業で使用するエネルギーの約30~40%を賄える規模の再生可能エネルギー電源開発を目指しており、具体的な発電容量目標として100万kWを掲げています 16。宮城県の大崎三本木や茨城県の磯原などで太陽光発電所が稼働しています 16。
電力購入・証書活用 (Power Purchase & Certificate Utilization): 固定価格買取制度(FIT)や非化石証書制度を活用した再生可能エネルギーの導入も行っています 12。主要ビル14棟のオフィス部分では、再生可能エネルギー証書を活用し、実質的に再生可能エネルギー由来の電力への切り替えを実施しており、年間約18,000トンのCO2削減を見込んでいます 18。品川開発プロジェクトの拠点となるTokyo Yard Buildingでは、太陽光発電所のトラッキング付非化石証書を活用しています 18。将来的には、東北エリアにおける電力購入分のCO2フリー化を目指す方針です 12。
水素エネルギーの利活用 (Hydrogen Energy Utilization): 水素ハイブリッド車両の開発 12 に加え、既存の火力発電所(川崎火力発電所)のリプレイスに合わせた水素混焼発電の導入や 12、発電機冷却用水素としての利用 19 など、多角的な水素利活用を検討・推進しています。
その他 (Others): スマートフォン一つで多様な交通手段を利用できるMaaS(Mobility as a Service)の推進(例:「TOHOKU MaaS」)により、環境負荷の低い鉄道へのモーダルシフトを促進しています 12。廃棄物収集運搬車両へのバイオ燃料導入 20 など、ニッチな分野での取り組みも見られます 16。また、顧客企業のScope 3排出量算定を支援するため、新幹線の区間別旅客一人あたりCO2排出量を算定・開示しています 13。サプライチェーン全体の排出量把握と削減に向けて、NTTデータ提供のGHG可視化システム「C-Turtle®」を導入し、サプライヤー固有の排出原単位を用いた、より精緻なScope 3排出量算定(総排出量配分方式)を開始しました 13。
目標 (Targets):
2050年度 CO2排出量実質ゼロ 10
2030年度 鉄道事業CO2排出量 50%削減(2013年度比)11
2030年度 LED照明累計41.5万台導入 11
2030年度 大型空調38箇所、小型空調3,300台を高効率化 11
2050年度 再生可能エネルギー開発容量100万kW 17
実績 (Performance):
2023年度 CO2排出量:185万トン(2013年度比30万トン減)11
LED導入実績(2023年度末):累計15.9万台 11
空調高効率化実績(2022年度末):大型23箇所、小型984台 12
オフィスエネルギー使用量原単位(2023年度):前年度比8.4%減 11
新幹線区間別CO2排出量開示(例:東京~仙台 8.3 kg-CO2/人)13
特筆すべき点として、省エネ設備の導入等によりエネルギー使用量は減少しているものの、購入電力のCO2排出係数の悪化が影響し、2023年度のCO2排出量削減幅が抑制された側面があります 11。これは、JR東日本の努力だけではコントロールできない外部要因(電力系統の脱炭素化の進捗)が、目標達成に向けた重要な要素であることを示しています。2030年の中間目標達成には、自社での省エネ・再エネ導入努力の継続・加速に加え、電力系統全体の脱炭素化が不可欠となります。
気候変動対策は、車両や施設の効率化、自社での再エネ開発、電力調達、そして水素のような次世代技術の探求という、多面的なアプローチで進められています。この戦略的多様性は、単一の解決策への依存リスクを低減する効果が期待されます 11。
また、旅客一人あたりのCO2排出量の開示 13 や、サプライヤー固有データを活用するScope 3算定ツール(C-Turtle®)の導入 13 は、注目すべき動きです。これは、自社の排出削減努力に留まらず、顧客企業(出張等での排出量算定)やサプライヤー(排出削減努力の反映)といった、より広範なバリューチェーン全体での脱炭素化に貢献しようとする意図の表れであり、JR東日本の気候戦略が自社の事業境界を越えて影響力を拡大しようとしていることを示唆しています。
JR東日本グループは、サーキュラーエコノミー(循環型経済)の実現を目指し、事業活動から生じる廃棄物の発生抑制(リデュース)、再利用(リユース)、再資源化(リサイクル)を推進する3Rに積極的に取り組んでいます 10。
3Rの推進と目標設定 (Promotion of 3Rs and Target Setting): グループ全体で3Rを推進し、廃棄物の排出量・処分量削減に向けたリサイクル率目標などを設定しています 21。グループ会社であるJR東日本ビルディング(JEBL)では、2030年度目標として「廃棄物リサイクル率85%以上」「単位面積あたり廃棄物排出量 2013年度比15%以上削減」「単位面積あたり食品廃棄物最終処分量 2020年度比70%以上削減」などを掲げています 22。JR東日本本体としての具体的な全体目標値については、統合報告書等での確認が必要です。
廃棄物分別・リサイクル (Waste Separation & Recycling): 駅や列車から回収された廃棄物を効率的に処理するため、「JR東日本東京資源循環センター」や「大宮リサイクルセンター」といった専用施設を運営し、徹底した分別と再資源化を行っています 21。具体的なリサイクルの流れとして、使用済み乗車券(紙部分)はトイレットペーパーへ100%リサイクルされ 21、雑誌・新聞紙類はコピー用紙へ 21、PETボトルは飲料用ボトル等へ再生するメカニカルリサイクル(協栄産業、サントリー等と連携)24、廃プラスチック類は固形燃料(RPF)へ 21 といった取り組みが行われています。駅構内のゴミ箱にIoT技術を導入し、収集の効率化を図る試みも行われています 20。
食品廃棄物削減・リサイクル (Food Waste Reduction & Recycling): 特に食品廃棄物については、「ダブルリサイクルループ」という先進的な取り組みを推進しています 19。これは、駅ビルやエキナカ店舗等から排出される食品廃棄物を、JFEグループとの共同出資会社である「株式会社Jバイオフードリサイクル」で受け入れ、メタン発酵によりバイオガスを生成します。このバイオガスで発電した電力は、JR東日本グループの施設で使用され(電力リサイクルループ)、発酵後の残渣から作られた肥料で野菜を栽培し、その野菜を駅の店舗で販売・提供する(農業リサイクルループ)という、二重の循環システムです 18。この取り組みにより、Jバイオ横浜工場では一日最大80トンの食品廃棄物を処理し、年間約1,700万kWh(一般家庭約5,700世帯分)の発電を行っています 19。また、別のプロジェクトでは、食品廃棄物から生成したバイオガスをホテルの給湯熱源として利用する取り組みも進められています 19。
プラスチック削減 (Plastic Reduction): 2019年から「なくそうプラごみ」キャンペーンを展開し、レジ袋やストローといったワンウェイプラスチックの削減に取り組んでいます 21。また、紙や水の使用量を削減できる石灰石を主原料とする新素材「LIMEX(ライメックス)」を名刺に採用する動きも進めており、2020年度には約16.7%の紙資源節約効果があったと報告されています 21。
建設副産物管理 (Construction Byproduct Management): JR東日本の廃棄物の約7割を占めるとされる設備工事関連の廃棄物(建設副産物)については、発生抑制に繋がる設計・工法の標準化を進め、適正処理と削減に取り組んでいます 21。この分野での取り組みの深化が、全体の廃棄物削減目標達成の鍵となります。
水資源管理 (Water Management): 車両洗浄には工業用水を利用するほか、駅トイレ等での上水利用に加え、雨水や再生水(中水)の活用、節水器具の導入、水漏れチェックなどを通じて水使用量の削減に努めています 21。グループ会社(JREL)では、機器冷却水を洗濯用水として再利用する取り組みも行われています 26。
グループ会社連携 (Group Company Collaboration): 廃棄物の収集運搬、駅・車両清掃、リサイクル事業においては、株式会社JR東日本環境アクセス(JEA)が中核的な役割を担っています 20。また、JR東日本ビルディング(JEBL)18、ジェイアール東日本企画(jeki)29、JR東日本リネン(JREL)26 など、各グループ会社もそれぞれの事業特性に応じた環境方針や目標を設定し、資源循環に取り組んでいます。
サーキュラーエコノミー事業構想 (Circular Economy Business Concept): JR東日本グループは、資源循環を新たな成長分野と位置づけ、「UPCYCLING CIRCULAR」という事業コンセプトを策定しました 19。これは、グループ内外から発生する廃棄物を回収・リサイクル・再資源化し、グループ内で利活用したり、新たな製品・サービスとして提供したりすることで、持続可能なサーキュラーエコノミーを推進するものです 19。前述の「ダブルリサイクルループ」に加え、川崎市で建設中の「Jサーキュラーシステム 川崎スーパーソーティングセンター」では、高度な選別技術により廃プラスチックを再生ペレット化し、さらにケミカルリサイクルやガス化による水素・アンモニア製造への展開も視野に入れています。生成された水素やアンモニアは、JR東日本の川崎発電所での利用も検討されています 19。
目標 (Targets):
グループ会社(JEBL)の2030年目標:リサイクル率85%以上、廃棄物原単位-15%(2013年度比)、食品廃棄物最終処分原単位-70%(2020年度比)22
使用済み紙乗車券リサイクル率100% 21
(JR東日本本体の全体的な数値目標は要確認)
実績 (Performance):
駅・列車からの廃棄物リサイクル率(2016年度):93%(総排出量約3.4万トン)24(より最新のデータが必要)
LIMEX名刺導入による紙資源節約(2020年度):約16.7% 21
ダブルリサイクルループ:運用開始。電力ループによるCO2削減効果 年間約873トン 25。Jバイオ横浜工場:食品廃棄物処理能力 80トン/日、年間発電量 約1,700万kWh 19。
Jサーキュラーシステム川崎スーパーソーティングセンター:建設中 19
これらの取り組みは、JR東日本が単なる廃棄物処理・リサイクルのレベルを超え、資源を最大限に活用し、新たな価値を創出する統合的なサーキュラーエコノミーモデルへと移行しようとしていることを示しています。「UPCYCLING CIRCULAR」 19 の構想は、環境課題(廃棄物)を事業機会へと転換する試みであり、グループ内のシナジー(廃棄物発生源、処理能力、エネルギー・製品需要)を活用することで、持続可能なビジネスモデルの構築を目指しています。
また、戦略の実現には、グループ内連携 18 のみならず、JFEグループ 18 やサントリー/協栄産業 24 といった外部企業とのパートナーシップ、さらには「ダブルリサイクルループ」で生産された野菜の販売 25 を通じた顧客・地域社会との連携が不可欠であることがうかがえます。
JR東日本グループは、事業活動が自然環境に与える影響を認識し、生物多様性の保全と地域社会との共生を目指した活動を展開しています 8。
生息地保全・再生 (Habitat Conservation & Restoration):
ふるさとの森づくり (Furusato no Mori - Hometown Forest Creation): 2004年から続く長期的な取り組みで、駅や車両センター、線路沿いなどの用地に、その土地本来の樹種(潜在自然植生)を選定して植樹し、地域の生態系に適した森を再生・創出する活動です 26。群馬県の四万温泉地域での「四万ふるさとの森づくり」では、2020年に約30種、計2500本の苗木が植樹されました 31。地域住民や従業員が参加する植樹祭も開催され、地域との触れ合いも重視されています 33。
鉄道林の整備 (Railway Forest Management): 吹雪や雪崩防止などの安全目的で造成・維持されてきた鉄道林(全体で約3,900ヘクタール、約580万本、約1,080箇所)について、適切な管理を行うとともに、老齢化した森林を約20年かけて再生する「新しい鉄道林」プロジェクトも推進しています 31。これらの森林は、生物の生息空間としても重要な役割を果たしています。
生態系保護 (Ecosystem Protection):
魚道整備 (Fishway Construction): 自社で運営する信濃川発電所の宮中取水ダムなどにおいて、魚類の遡上・降下を助けるための魚道を設置・管理しています 8。これにより、サケやアユなどの回遊魚の移動が可能となり、河川生態系の連続性確保に貢献しています。魚道には観察室も設けられ、環境教育の場としても活用されています 31。
干潟整備 (Tidal Flat Creation): 東京・竹芝の複合施設「WATERS takeshiba」の開発において、隣接する水辺に干潟を整備しました。ここでは、地域の学校などと連携した水生生物の観察・調査や、継続的な環境調査が実施され、都市部における貴重な生態系の創出と学習の機会を提供しています 31。
環境調和・地域共生 (Environmental Harmony & Community Coexistence):
環境配慮型資材 (Environmentally Friendly Materials): 鉄道沿線の騒音対策として設置される防音壁に、リサイクル材(再生アルミニウムやリサイクル由来原料を25%程度含有する吸音材)を使用した製品(「NIDES-AL」、「全天候型吸音板」)をメーカーと共同開発し、採用しています 31。
地域連携・環境教育 (Community Collaboration & Environmental Education): 地域主催の環境イベントへの参加や清掃活動 20、前述の魚道観察室や干潟での環境学習プログラムの提供 31 など、地域社会との連携を重視しています。近年では、スタートアップ企業である株式会社バイオームや、他の鉄道会社(東急、小田急、西武)と連携し、「JTOS(ジェイトス)」というコンソーシアムを通じて、スマートフォンアプリ「Biome」を活用した市民参加型の生物調査プロジェクト「駅からはじまるいきもの探し いきものGO」を実施しています 34。このプロジェクトは、鉄道沿線の生物多様性データを収集・可視化し、そのデータを活用した環境保全策の検討や沿線価値向上に繋げることを目指しており、「ネイチャーポジティブ」な社会の実現に貢献する試みです 34。
TNFDへの対応 (TNFD Alignment): 2024年4月のTNFD提言への賛同表明 13 は、今後、自然関連の依存度、影響、リスク、機会を体系的に評価し、開示していくというコミットメントを示すものです。
目標 (Targets):
「ふるさとの森づくり」や鉄道林整備の継続実施 32
「いきものGO」などの協働プロジェクトを通じたネイチャーポジティブへの貢献 34
TNFDフレームワークに基づく体系的な評価と情報開示(賛同により示唆)13
実績 (Performance):
「ふるさとの森づくり」による長年の植樹実績(具体的な累計植樹本数は要確認、実績推移グラフは33に掲載)
魚道の運用によるサケ・アユ等の遡上確認 31
WATERS takeshibaにおける干潟の造成・活用 31
「いきものGO」プロジェクトの開始(2023年9月)と複数路線での展開 34
JR東日本の生物多様性への取り組みは、鉄道事業が必然的に広大な土地を利用するという特性を活かし、線路沿いや保有林といった自社の土地資産を直接的な生息地の創出・管理(「ふるさとの森づくり」、鉄道林管理)に活用している点が特徴的です 31。これは、土地利用という事業活動の側面を、環境保全への貢献機会として捉えていることを示しています。
近年では、従来の植樹や施設整備といった物理的なアプローチに加え、テクノロジー(アプリ活用)と協働(他社連携、市民参加)を取り入れたデータ駆動型のアプローチ(「いきものGO」)34 や、国際的な情報開示枠組み(TNFD)への整合 13 を図るなど、その戦略が進化・現代化している様子がうかがえます。
特に、競合関係にある他の大手私鉄(東急、小田急、西武)と共同で生物多様性調査プロジェクト(「いきものGO」)34 を実施している点は注目に値します。これは、交通インフラ沿いの生物多様性保全という課題が、一事業者の範囲を超えた広域的な視点と連携を必要とすることを認識している表れであり、業界内での競争を超えた環境課題への協調行動の先例となる可能性があります。
JR東日本は、事業活動に影響を及ぼしうる環境関連のリスクと機会を認識し、特に気候変動に関してはTCFD提言に基づき、その評価と情報開示を進めています 9。
物理的リスク (Physical Risks): 気候変動に伴う台風の強大化や集中豪雨の頻発・激甚化は、鉄道インフラ(線路、電気設備、駅舎等)への直接的な被害(浸水、土砂災害等)や、それに伴う運行不能(運休)のリスクを高めます。JR東日本では、TCFD分析の一環として、特に荒川や利根川流域などにおける洪水シナリオを想定し、設備被害や運休に伴う逸失利益などの財務影響を定量的に評価しています 9。鉄道林の荒廃や斜面の崩壊なども運行へのリスクとなりえます。
移行リスク (Transition Risks): 低炭素社会への移行に伴うリスクとして、カーボンプライシング(炭素税や排出量取引制度)の導入・強化によるエネルギーコストや事業運営コストの増加が想定されます 15。排出基準、廃棄物処理、生物多様性保全などに関する環境規制の強化は、追加的な設備投資や対策コスト、事業プロセスの変更を要求する可能性があります。短距離輸送などにおいては、電気自動車(EV)などの代替交通手段との競争激化により、鉄道利用者が減少する可能性も指摘されています 15。環境パフォーマンスが競合他社や社会の期待に比べて劣る場合、企業の評判低下(レピュテーショナルリスク)に繋がる恐れがあります。また、サプライヤーの環境パフォーマンスに起因するリスクも存在しますが、これは「C-Turtle®」導入 13 などにより管理強化を図ろうとしています。
効率化とコスト削減 (Efficiency and Cost Reduction): 省エネルギー車両の導入や駅・施設の省エネ化 11 は、エネルギー消費量と関連コストの削減に直結します。廃棄物の削減とリサイクルの推進 19 は、処理コストの削減に加え、有価物売却による収入増の可能性も生み出します。節水対策 21 は水道料金の削減に貢献します。浸水対策などの気候変動適応策 9 は、将来の災害による被害額や事業中断損失を低減する効果が期待されます。
新規事業・サービス (New Businesses & Services): 自社での再生可能エネルギー発電事業の拡大 16 は、新たな収益源となる可能性があります。「UPCYCLING CIRCULAR」構想 19 に基づく高度な廃棄物処理・リサイクルサービスの提供は、新規事業領域となりえます。MaaSプラットフォームの展開 12 は、環境負荷の低い統合移動サービスの提供を通じて事業成長に繋がる可能性があります。優れたESGパフォーマンスを背景としたグリーンボンド発行など、サステナブルファイナンスへのアクセス改善も期待できます。省エネ車両や水素ハイブリッド車両 11 など、環境配慮型鉄道技術の開発・提供は、国内だけでなく海外展開の機会ももたらしえます。
ブランド価値向上 (Enhanced Brand Value): 環境問題に積極的に取り組む企業としての評価を高めることは、ESG投資家、環境意識の高い顧客、そして優秀な人材の獲得・維持に繋がります。「ふるさとの森づくり」 32 や「いきものGO」 34 といった取り組みは、地域社会との良好な関係構築やポジティブな企業イメージの発信に貢献します。
JR東日本のTCFD報告 9 は、気候変動の物理的リスク、特に洪水リスクに対する体系的な分析アプローチを示しており、具体的なシナリオに基づいた財務影響の定量化を試みています。設備のかさ上げ等のハード対策に加え、特に車両の事前避難(疎開)といったソフト対策(オペレーション改善)が、潜在的な損失を大幅に削減する上で有効であるとの分析結果 9 は、気候変動適応策の経済的合理性を示すものとして重要です。
また、「UPCYCLING CIRCULAR」戦略 19 は、廃棄物管理という従来コスト要因と見なされがちだった領域を、新たな価値創造と収益機会に転換しようとする意欲的な試みです。これは、資源循環を単なる環境コンプライアンスやコスト削減策としてではなく、事業戦略の中核に据えようとする姿勢の表れと言えます。
一方で、EVとの競争 15 やカーボンプライシング導入 15 といった移行リスク、そして脱炭素化に向けた巨額の投資負担は、依然として大きな経営課題です。環境関連の機会を追求すると同時に、これらのリスク要因を的確に評価し、戦略的に管理していくことが求められます。
JR東日本の環境への取り組みを客観的に評価するためには、国内外の他の主要鉄道事業者が実施している先進的な環境プラクティス(ベストプラクティス)と比較することが有効です。ただし、本報告書の作成にあたり参照した資料には、国内外の競合他社の詳細な取り組みに関する情報は限定的でした。したがって、以下に示す比較分析は、一般的な業界動向と提供された情報に基づくものであり、より詳細な比較には追加的な外部調査が必要です。
国内外の鉄道業界における環境分野の先進事例としては、以下のようなものが考えられます(これらは一般的な例であり、特定の事業者の最新状況を反映するものではありません)。
再生可能エネルギー100%利用: 特に欧州の鉄道事業者(例:ドイツ鉄道、SNCFなど)の一部では、列車の運行に必要な電力(牽引動力)の大部分または全てを、自社開発、電力購入契約(PPA)、再生可能エネルギー証書などを通じて、検証可能な再生可能エネルギーで賄う目標を掲げ、高い達成率を示している場合があります。
高度な騒音対策: 列車走行に伴う騒音、特に貨物列車や高速鉄道からの騒音を低減するため、車両の静音化改良、線路側の対策(防音壁、レール削正等)、発生源対策(低騒音ブレーキ等)などを組み合わせた包括的なプログラムを実施している事例があります。
体系的な生物多様性管理: 鉄道ネットワーク全体を対象とした生物多様性管理計画を策定し、生態系の連結性評価、希少種保護、外来種対策などを体系的に実施している場合があります。地理情報システム(GIS)やリモートセンシング技術を活用したモニタリングも行われている可能性があります。
グリーンファイナンスの活用: 環境改善に資する特定のプロジェクト(省エネ車両導入、再エネ設備投資など)の資金調達のために、グリーンボンドなどのサステナブルファイナンスを大規模に活用している事例があります。
車両のライフサイクル管理: 車両の設計段階から廃棄・リサイクルまでを見据えたライフサイクルアセスメント(LCA)を導入し、資源効率の最大化や廃棄物削減を図る取り組み(例:リサイクル容易な材料の採用、部品の再利用・再製造)が進んでいる場合があります。
JR東日本の取り組みをこれらの一般的な先進事例と比較すると、以下のような点が考えられます。
再生可能エネルギー: 2050年までに鉄道電力需要の30-40%を自社開発の再エネで賄うという目標 16 は意欲的ですが、牽引動力の100%再エネ化を早期に目指す一部欧州事業者と比較すると、目標達成時期や再エネ比率の目標レベルに違いが見られます。これは、自社開発を重視する戦略 16 と、電力購入や証書活用をより積極的に行う戦略との違いを反映している可能性があります。
資源循環: 「ダブルリサイクルループ」 19 のような食品廃棄物をエネルギーと農業の両面で循環させる統合的な取り組みや、「UPCYCLING CIRCULAR」 19 構想に基づく高度なプラスチックリサイクル(ケミカルリサイクル含む)への挑戦は、国内外でも先進的な事例となる可能性があります。
生物多様性: 市民参加型のデータ収集プロジェクト「いきものGO」 34 や、早期のTNFD賛同 13 は、生物多様性保全への取り組みにおいて、テクノロジー活用と国際的な枠組みへの整合という点で、先進的な動きと言えるかもしれません。多くの企業がまだ気候変動対策に重点を置く中で、自然関連課題への体系的な取り組みを強化している点は注目されます。
全体として、JR東日本は特定の分野(資源循環、生物多様性データ活用)で先進的な取り組みを見せる一方で、他の分野(再エネ比率目標など)では、世界のトップランナーと比較した場合、更なる向上の余地がある可能性も示唆されます。ただし、正確な位置づけには、各社の目標設定の前提条件や地域のエネルギー事情などを考慮した、より詳細な比較分析が必要です。
JR東日本の環境パフォーマンスを評価する上で、国内の主要な競合他社との比較は重要な視点です。しかし、本報告書の作成に用いた資料には、競合他社の環境戦略、具体的な取り組み、パフォーマンスデータ、第三者評価機関によるスコアに関する詳細情報は含まれていませんでした。したがって、本セクションで提供できる分析は限定的であり、包括的な競合分析とベンチマーキングには、各社のサステナビリティ報告書、ウェブサイト、およびESG評価機関(CDP、MSCI、Sustainalytics等)が提供する公開データなど、追加的な外部情報の収集・分析が不可欠です。
JR東日本の主要な競合相手としては、主に以下の日本の大手鉄道事業者が考えられます。
他のJRグループ旅客鉄道会社:
東海旅客鉄道株式会社(JR東海)
西日本旅客鉄道株式会社(JR西日本)
首都圏の大手私鉄:
東急株式会社(東急電鉄)
小田急電鉄株式会社
京王電鉄株式会社
西武鉄道株式会社(西武ホールディングス)
東武鉄道株式会社
京浜急行電鉄株式会社(京急電鉄)
京成電鉄株式会社
JTOSコンソーシアムでの連携 34 からも、東急、小田急、西武などが重要な比較対象であることが確認できます。
(注記:以下は想定される分析項目であり、具体的な情報は外部調査が必要です。)
競合他社の環境戦略や取り組みを分析する際には、以下の点に注目する必要があります。
気候変動: 各社が設定しているGHG排出削減目標(目標年、削減率、基準年、対象範囲)、再生可能エネルギー導入状況(特に牽引動力への利用率、導入方法)、省エネ車両の導入比率、水素など代替エネルギー技術への投資状況。
資源循環: 公表されているリサイクル率、廃棄物削減目標と実績、独自のサーキュラーエコノミー関連プロジェクトの有無。
生物多様性: 鉄道沿線や保有地での緑化・保全活動、環境影響評価の実施状況、生物多様性に関する方針や目標の有無。
(注記:以下は想定される分析項目であり、具体的な情報は外部調査が必要です。)
主要なESG評価機関(CDP、MSCI、Sustainalytics、FTSE Russellなど)が付与している環境関連のスコアや格付けを比較することで、第三者から見た各社の環境パフォーマンスやリスク管理レベルを相対的に評価できます。例えば、以下のような形式で情報を整理・比較することが考えられます(表形式は不可のため、記述形式で表現)。
CDP気候変動スコア: JR東日本のスコアは[スコア、年]であり、これに対しJR東海は[スコア]、JR西日本は[スコア]、東急は[スコア]であった。これにより、JR東日本は[相対的な位置づけ]にあると評価できる。
MSCI ESG格付け(環境柱): JR東日本の環境柱スコアは[スコア/格付け、年]であり、他の主要私鉄(例:小田急[スコア]、西武[スコア])と比較すると、[相対的な傾向]が見られる。
Sustainalytics ESGリスク評価(環境リスク): JR東日本の環境リスクスコアは[スコア、リスクレベル、年]と評価されており、同業他社(例:JR東海[スコア]、東急[スコア])と比較して[リスクレベルの相対評価]と言える。
このような比較により、JR東日本の環境パフォーマンスが、国内の同業他社と比較してどの程度の水準にあるのか、また、どの評価機関からどのような強み・弱みを指摘されているのかを把握することができます。
競合分析を行う上での留意点として、日本の鉄道事業者間でも、環境情報の開示レベルや詳細度には差がある可能性が高いと考えられます。JR東日本は統合報告書やTCFD/TNFDレポート 2 を通じて比較的詳細な情報開示を行っていますが、全ての競合他社が同レベルの情報を公開しているとは限りません。したがって、比較可能な定量的データ(排出量、リサイクル率等)や第三者評価スコアの入手が、網羅的なベンチマーキングの鍵となりますが、その入手は容易ではない可能性があります。
また、「いきものGO」プロジェクト 34 に見られるような競合他社との協働事例は、純粋な競争関係だけでなく、業界共通の環境課題に対する協調的な取り組みも存在することを示唆しており、競争環境を分析する際には、こうした側面も考慮に入れる必要があります。
JR東日本は環境分野で多岐にわたる意欲的な取り組みを進めていますが、その目標達成と持続的なパフォーマンス向上に向けては、いくつかの重要な課題に直面しています。
目標達成の難易度 (Difficulty of Achieving Targets): 2030年度のCO2排出量50%削減、そして2050年度の実質ゼロという目標 10 は極めて挑戦的です。特に、購入電力の排出係数のような外部要因 11、Scope 3排出量の削減、非電化区間の脱炭素化(水素技術等)には、継続的な巨額投資と技術革新、そして社会システム全体の変革が必要です。
投資コスト (Investment Costs): 省エネ車両への更新、大規模な再生可能エネルギー発電所の建設・導入、水素関連インフラの整備、高度なリサイクル施設の建設・運営、気候変動への適応策強化など、環境目標達成に必要な投資は莫大な額に上ります。これらの環境投資と、安全性確保やサービス向上といった中核事業への投資、そして財務健全性の維持とのバランスを取ることが経営上の大きな課題です。
技術的制約 (Technological Limitations): 水素ハイブリッド車両 12、大規模エネルギー貯蔵システム 16、廃プラスチックのケミカルリサイクル 19 など、脱炭素化やサーキュラーエコノミーの鍵となる技術の一部は、まだ開発途上であったり、コスト効率やスケーラビリティに課題があったりします。これらの技術を計画通りに社会実装できるかどうかが不確実要素となります。
サプライチェーン管理 (Supply Chain Management): 広範かつ複雑なサプライチェーン全体でのScope 3排出量を正確に把握し、効果的に削減していくことは、C-Turtle®のようなツール 13 を導入したとしても依然として大きな挑戦です。多数のサプライヤーとの連携・協働を深め、排出削減努力を促していく必要があります。
生物多様性の定量化と統合 (Quantifying and Integrating Biodiversity): TNFDへの賛同 13 を受け、今後は植樹本数のような活動量だけでなく、生物多様性への実際の貢献度(アウトカム)を測定・評価し、その結果を事業戦略や意思決定に具体的に組み込んでいくことが求められます。自然関連リスク・機会の評価手法の確立も課題です。
ステークホルダーエンゲージメント (Stakeholder Engagement): 再生可能エネルギー発電所のような大規模インフラ開発に対する地域社会の理解と合意形成、乗客によるゴミの分別徹底 24 といった行動変容の促進、多様なパートナー(自治体、企業、NPO等)との効果的な連携 25 など、様々なステークホルダーとの良好な関係構築と協働が不可欠です。
上記の課題を踏まえ、JR東日本が今後さらに環境パフォーマンスを向上させ、持続可能な成長を実現するために注力すべき重点分野として、以下の点が提言されます。
再生可能エネルギー導入の加速 (Accelerate Renewable Energy Adoption): 自社開発 16 と電力購入契約(PPA)や証書活用 12 の両輪で、再生可能エネルギーの導入ペースをさらに加速させるべきです。これにより、電力系統の排出係数変動リスクへの耐性を高め、排出削減目標達成への確実性を向上させることができます。分散型電源を統合制御する仮想発電所(VPP)のような新しいエネルギーマネジメント手法の導入も検討に値します。
Scope 3 排出削減の強化 (Strengthen Scope 3 Emission Reduction): C-Turtle® 13 で得られるデータを活用し、排出量インパクトの大きいサプライヤーを特定し、重点的に協働(エンゲージメント)を進めるべきです。特に、廃棄物の大部分を占める建設分野 21 において、低炭素素材の利用やサーキュラー調達(再生材利用等)を推進することが重要です。旅客一人あたり排出量データの提供 13 を継続・拡充し、顧客企業のScope 3削減努力を支援することも有効です。
サーキュラーエコノミー事業の拡大 (Expand Circular Economy Business): 「UPCYCLING CIRCULAR」 19 構想の下で進められているプロジェクト(高度選別、ケミカルリサイクル等)を本格稼働させ、スケールアップを図るべきです。アップサイクルされた製品の用途開発や市場開拓も重要となります。また、車両やインフラ設備の設計段階から解体・リサイクルまでを見据えたサーキュラーデザインの原則を、より一層導入していくことが望まれます。
TNFDに基づく自然関連戦略の具体化 (Materialize Nature-Related Strategy based on TNFD): TNFD賛同 13 を受け、自然への依存度・影響・リスク・機会に関する評価(LEAPアプローチ等)を実施し、その結果に基づいた具体的な戦略、目標、指標を設定すべきです。「いきものGO」 34 などで得られるデータを活用し、単なる個別プロジェクトの評価に留まらず、鉄道ネットワーク全体での生物多様性の状況を把握・管理する仕組みを構築することが期待されます。
気候変動適応策の継続的強化 (Continuously Strengthen Climate Adaptation Measures): 最新の気候科学の知見に基づき、物理的リスク評価(TCFD分析 9 など)を定期的に更新し、対策の優先順位を見直すべきです。設備の防御・強靭化、早期警戒システム、車両避難計画 9 など、ハード・ソフト両面での適応策を、費用対効果を考慮しつつ、重要なインフラを中心に継続的に実施・強化していく必要があります。
イノベーションとパートナーシップの推進 (Promote Innovation and Partnerships): 水素 12 やエネルギー貯蔵 16 といった重要技術に関する研究開発投資を継続するとともに、スタートアップ企業 34、大学・研究機関、異業種企業 25 など、外部の知見や技術を積極的に取り込むオープンイノベーションを推進すべきです。協働を通じて、技術開発の加速、リスク分担、新たなソリューションの創出を目指すことが重要です。
特に、2050年ネットゼロという壮大な目標 10 達成に向けたエネルギー転換の規模とコストは、最大の課題の一つです。この課題に対処するには、再生可能エネルギー導入の多様化(自社開発と調達の組み合わせ)、エネルギー効率の徹底追求、そして戦略的なパートナーシップによるリスクとコストの分担が不可欠となります。
また、「UPCYCLING CIRCULAR」 19 やTNFD対応 13 といった比較的新しい戦略的重点分野を、既存の気候変動対策アジェンダと並行して、組織全体に浸透させ、事業活動のあらゆる側面に統合していくためには、従業員の意識改革、新たなKPIの設定、部門横断的な連携強化など、組織能力の向上が求められます。
本分析の結果、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)は、気候変動、資源循環、生物多様性の各分野において、極めて意欲的かつ包括的な環境戦略を策定し、具体的な取り組みを多岐にわたって推進していることが明らかになりました。「ゼロカーボン・チャレンジ2050」 10 という長期目標を掲げ、省エネルギー化、再生可能エネルギー導入、水素技術開発 12、先進的なリサイクルループ(「ダブルリサイクルループ」)19、そして長期にわたる生息地保全活動(「ふるさとの森づくり」)32 など、具体的な施策が展開されています。また、TCFD 9、TNFD 13、SBTiコミットメント 13 など、国際的なイニシアチブやフレームワークへの整合性を意識した取り組みも進められており、環境経営に対する強いコミットメントが示されています。
目標に対する進捗を見ると、省エネ施策等によりエネルギー使用量は削減傾向にあるものの、特に2030年のCO2排出量50%削減目標 11 については、購入電力の排出係数という外部要因の影響 11 もあり、達成には更なる努力と外部環境の改善が必要な状況です。業界のベストプラクティスとの比較では、統合的な食品廃棄物リサイクルループ 19 やTNFDへの早期対応 13 など、世界的に見ても先進的と考えられる取り組みがある一方で、牽引動力における再生可能エネルギー比率など、一部の指標においては、更なる向上の余地がある可能性も示唆されます(ただし、正確な比較には更なる調査が必要)。国内競合他社との比較については、公開情報の制約から詳細なベンチマーキングは困難でしたが、情報開示の詳細度や戦略的な取り組みの広範さから、国内トップクラスの環境パフォーマンスを目指している企業の一つであると推察されます。
JR東日本が長期的な環境目標を達成し、サステナブルな企業として成長し続けるためには、いくつかの戦略的要請に応える必要があります。第一に、再生可能エネルギーの導入をあらゆる手段を用いて加速し、エネルギー供給の脱炭素化と安定化を図ること。第二に、サプライチェーン全体を巻き込んだScope 3排出量の削減を強化し、バリューチェーン全体での環境負荷低減を主導すること。第三に、「UPCYCLING CIRCULAR」 19 構想を事業として本格的に展開・拡大し、サーキュラーエコノミーへの移行を推進すること。第四に、TNFD 13 の枠組みに基づき、生物多様性を含む自然資本への依存と影響を経営戦略に統合し、具体的な保全・再生目標を設定・実行すること。そして最後に、これら全ての取り組みを支えるための継続的な技術革新と、多様なステークホルダーとの強固なパートナーシップを構築・維持していくことが不可欠です。これらの課題に戦略的に取り組み続けることが、ますますESGを重視する社会において、JR東日本の企業価値を持続的に高めていくための鍵となるでしょう。
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東日本旅客鉄道 JR東日本グループレポート2023(INTEGRATED REPORT)|エコほっとライン | 統合報告書、アニュアルレポート、サステナビリティレポート、会社案内の無料請求サイト, 4月 21, 2025にアクセス、 https://www.ecohotline.com/products/detail.php?product_id=3448
東日本旅客鉄道 JR東日本グループレポート2024(INTEGRATED REPORT)|エコほっとライン | 統合報告書、アニュアルレポート、サステナビリティレポート、会社案内の無料請求サイト, 4月 21, 2025にアクセス、 https://www.ecohotline.com/products/detail.php?product_id=3923
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JR東日本東京資源循環センター|ビル・駅・ホテルの清掃 株式会社JR東日本環境アクセス, 4月 21, 2025にアクセス、 https://www.jea.co.jp/business/center.html
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JISE News Letter Vol.77 - IGES国際生態学センター, 4月 21, 2025にアクセス、 https://jise.jp/wp-content/uploads/2019/04/Newsletter_Vol_77_web.pdf
鉄道横断型社会実装コンソーシアムJTOS第一弾として、ネイチャーポジティブ社会の実現を目指し、自然環境保全スタートアップ バイオーム社と共創~東京・神奈川・埼玉で大規模な生き物調査!昆虫や自然に向き合うクエスト企画「駅からはじまるいきもの探し いきものGO」を9月23日, 4月 21, 2025にアクセス、 https://jrestartup.co.jp/news/2023/09/97419/
JR東日本(中央線・青梅線)沿線で見つけた生物をスマホにコレクション。「駅からはじまるいきもの探し いきものGO」でクエスト達成に挑戦 - ウォーカープラス, 4月 21, 2025にアクセス、 https://www.walkerplus.com/article/1159672/
中央線・青梅線と自然環境保全スタートアップ「バイオーム」が共創「駅からはじまるいきもの探し いきものGO」をスタート!~ネイチャーポジティブな沿線づくりを目指し、自然と人の新たな出会いを創出~ - JR 東日本スタートアップ株式会社, 4月 21, 2025にアクセス、 https://jrestartup.co.jp/news/2023/09/97452/
サステナビリティ - JR東日本商事, 4月 21, 2025にアクセス、 http://www.ejrt.co.jp/about/sustainability/index.html
JR東日本ホテルズのサステナビリティ・SDGsの取り組み, 4月 21, 2025にアクセス、 https://www.jre-hotels.jp/sdgs/17/sustainability.html
東日本旅客鉄道株式会社|統合報告書2022 - エッジ・インターナショナル, 4月 21, 2025にアクセス、 https://www.edge-intl.co.jp/jr/
JR東日本グループレポート 2023, 4月 21, 2025にアクセス、 https://www.jreast.co.jp/eco/pdf/pdf_2023/all.pdf