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株式会社光通信の環境への取り組みとパフォーマンスに関する包括的分析

更新日:2025年8月4日
業種:運輸・情報通信業(5555)

はじめに

本報告書は、株式会社光通信(以下、光通信)の環境への取り組みについて、「気候変動」「資源循環」「生物多様性」の3つの側面から包括的な分析を行うものである。企業の持続可能性が投資家や消費者からの評価に直結する現代において、環境パフォーマンスは企業価値を測る上で不可欠な要素となっている。本稿では、同社の具体的な取り組みを詳述するとともに、潜在的なリスクと機会、業界のベストプラクティス、そして競合他社の動向を比較分析し、今後の課題と推奨事項を提示する。これにより、同社の環境スコア算出に向けた基礎情報を集約し、学術的な水準の報告書を作成することを目的とする。

第1章 光通信の環境への取り組み

光通信の環境に関する情報開示は、同社の公式ウェブサイトや「ソーシャルファイナンス・フレームワーク」といった文書で断片的に確認できるものの、体系的なサステナビリティ報告書や環境報告書は公表されていない。そのため、取り組みの全体像や定量的な実績を把握することは困難であるのが現状である。以下では、現時点で公表されている情報を基に、各分野における取り組みを整理する。

1.1 気候変動への対応

光通信の気候変動に対する具体的な目標設定や温室効果ガス(GHG)排出量の開示は、現時点では確認できない。しかし、間接的な貢献として、子会社である株式会社ハルエネが提供する電力サービスにおいて、再生可能エネルギー由来の電力を提供するオプションに言及している。ある事例として、自社ビルにおいてこのオプションを契約し、年間で122トンのCO2排出量を削減した実績を報告している。これは事業活動におけるエネルギー消費に伴う環境負荷を認識し、その削減に向けた一歩と評価できるが、企業全体のエネルギー消費量やGHG排出量(Scope1, 2, 3)に関する包括的なデータ、および科学的根拠に基づく削減目標(SBTなど)の策定には至っていない。情報通信業界においては、データセンターや通信基地局の運用に伴う電力消費がGHG排出の主要因となるため、この分野における透明性の高い情報開示と具体的な削減策の実行が強く求められる。

1.2 資源循環の推進

資源循環に関しては、光通信はいくつかの具体的な活動を報告している。業務プロセスにおけるペーパーレス化の推進はその一例であり、取締役会を含む会議での資料電子化や、取引先への請求書等のデジタル化を奨励している。また、什器や備品の購入に際しては、原則として中古品を選択し、社内で文房具等を共有できる棚を設置することで、新規購入の抑制と廃棄物の削減を図っている。さらに、同社の資産構成において、有形固定資産が総資産に占める割合は2024年3月末時点で1.6%と低く、資産を「所有しない」経営スタイルが結果として物理的な資源消費の抑制に繋がっている可能性を示唆している。しかし、事業活動で発生する廃棄物の総量やリサイクル率に関する定量的なデータは開示されておらず、循環経済への貢献度を客観的に評価することは難しい。

1.3 生物多様性の保全

生物多様性の保全に関して、光通信は直接的な事業活動との関連性が低い分野ではあるものの、社会貢献活動の一環として取り組みを行っている。具体的には、水源涵養機能の高い森林が豊かな食生活を育むとの考えから、健全な森林を育成するための間伐等の森林整備活動を挙げている。また、富士山周辺の環境を保護するため、地域社会や専門家が主催する清掃活動に定期的に参加していることも報告されている。これらの活動は、従業員の環境意識の向上や地域社会への貢献という点で意義がある。しかし、企業の事業活動が生物多様性に与える影響評価(例えば、基地局建設やサプライチェーンにおける影響)や、生物多様性損失の回避・低減に向けた具体的な方針や目標は示されていない。

第2章 潜在的なリスクと機会

光通信が直面する環境関連のリスクと機会は、情報通信業界全体に共通する課題と密接に関連している。

2.1 リスク分析

規制リスクとしては、将来的な炭素税の導入やGHG排出量報告義務の強化が挙げられる。現在、同社は排出量データを公表していないが、規制が強化された場合、対応の遅れがコンプライアンス上のリスクとなる可能性がある。市場リスクとしては、環境意識の高い顧客や取引先からの選別が考えられる。特に、サプライチェーン全体での脱炭素化を推進する大企業との取引において、環境パフォーマンスの低さが取引機会の損失に繋がる恐れがある。評判リスクも深刻であり、環境情報開示において競合他社に大きく後れを取っている現状は、投資家やNGO、さらには優秀な人材獲得競争において、ネガティブな評価を受ける要因となり得る。国際的な情報開示の枠組みであるCDP(旧カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)において、同社が「無回答(No Response)」と評価されている事実は、このリスクを象徴している。

2.2 ビジネス機会

一方で、環境への取り組みは新たなビジネス機会を創出する可能性を秘めている。グリーンITサービスの提供は、その代表例である。企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)が進む中、省エネルギー性能の高いデータセンターサービスや、クラウドコンピューティングを活用して顧客のエネルギー消費量とCO2排出量を削減するソリューションは、市場での競争優位性を高めることができる。また、再生可能エネルギーの調達・供給事業や、環境コンサルティングサービスの展開も、同社の多角的な事業ポートフォリオと親和性が高いと考えられる。サステナビリティを重視した経営姿勢を明確に打ち出すことは、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資を呼び込み、資金調達の多様化と企業価値の向上に貢献するだろう。

第3章 業界のベストプラクティスと競合分析

光通信が属する情報通信業界では、大手企業を中心に先進的な環境への取り組みが進んでいる。

3.1 業界の先進事例

KDDI株式会社は、「KDDI GREEN PLAN 2030」を策定し、2030年度までに自社の事業活動におけるCO2排出量実質ゼロ(カーボンニュートラル)を目指すという野心的な目標を掲げている。具体策として、再生可能エネルギーの積極的な導入、省電力技術の開発、そして通信の力を活用して社会全体のCO2排出量削減に貢献することを挙げている。同社は気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言への賛同を表明し、気候変動が事業に与えるリスクと機会を詳細に分析・開示している。生物多様性に関しても、屋久島での基地局設置において景観や生態系に配慮した事例報告や、海底ケーブル敷設時の環境アセスメントなど、事業と関連付けた具体的な取り組みを開示しており、業界のベンチマークとなっている。

ソフトバンク株式会社も同様に、2050年のカーボンニュートラル実現を目標とし、その中間目標として2030年度までに事業で使用する電力を100%再生可能エネルギーに切り替えることを目指している。同社は、使用済み携帯電話の回収とリサイクル率向上に積極的に取り組んでおり、回収された端末は100%リサイクルまたはリユースされていると報告している。資源循環における高い透明性と実績は、特筆に値する。

日本電信電話株式会社(NTT)グループは、NTTグループ環境方針に基づき、事業活動全体での環境負荷低減を推進している。特に、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想を通じて、電力効率を大幅に向上させる次世代情報通信基盤の研究開発を進めており、テクノロジーによる環境問題の解決を目指す姿勢を明確にしている。NTT西日本では、撤去した通信設備のリサイクル率が98.8%(2023年度実績)に達するなど、資源循環においても高いパフォーマンスを示している。

3.2 競合他社との比較

これらの競合他社と比較すると、光通信の情報開示のレベルと取り組みの具体性には著しい隔たりがある。KDDI、ソフトバンク、NTTは、いずれも詳細なサステナビリティ報告書を毎年発行し、GHG排出量、エネルギー消費量、廃棄物リサイクル率などの環境パフォーマンスデータを具体的に開示している。また、CDPの評価においても、例えばKDDIは気候変動分野で最高評価である「Aリスト」に選定されるなど、外部からの高い評価を獲得している。これに対し、光通信は前述の通りCDPから「無回答」と評価されており、環境情報開示に対する姿勢そのものが問われる状況にある。事業規模や形態が異なるとはいえ、同じ情報通信セクターに属する企業として、ステークホルダーに対する説明責任を果たす上で、現在の情報開示レベルは十分とは言えない。

第4章 課題と今後の推奨事項

光通信が持続的な成長を遂げるためには、環境経営への本格的なシフトが不可欠である。

4.1 現在の課題

最大の課題は、環境情報に関する透明性の欠如である。GHG排出量などの基本的な環境パフォーマンスデータが公表されていないため、自社の環境負荷を客観的に把握し、管理するための出発点に立てていない。第二に、全社的な環境戦略および具体的な目標が不在であることだ。気候変動や資源循環といった重要課題に対して、どのようなビジョンを持ち、いつまでに何を達成するのかが示されていないため、取り組みが散発的な社会貢献活動に留まっている印象を拭えない。第三に、事業活動と環境課題の関連付けが弱い点である。情報通信事業が環境に与える負の影響(電力消費など)と、正の貢献(グリーンITなど)の両面を分析し、事業戦略に統合していく視点が求められる。

4.2 推奨事項

以上の課題を踏まえ、以下の点を推奨する。第一に、サステナビリティ推進体制の確立である。経営層のコミットメントのもと、環境課題を専門的に管掌する部門を設置し、全社的な戦略を策定・推進する体制を構築することが急務である。第二に、環境パフォーマンスデータの把握と開示である。まずは自社の事業活動におけるGHG排出量(Scope1, 2)とエネルギー消費量を算定し、これを公表することから始めるべきである。将来的にはサプライチェーン全体(Scope3)へと範囲を拡大することが望ましい。廃棄物量やリサイクル率などのデータも同様である。第三に、中長期的な環境目標の設定である。競合他社がカーボンニュートラルを掲げる中、科学的知見と整合した野心的な目標(例えば、SBT認定の取得)を設定し、その達成に向けたロードマップを策定・公表することが、企業の信頼性を高める上で不可欠である。最後に、TCFD提言やCDPの質問書といった国際的なフレームワークを活用し、情報開示の質を向上させることである。これにより、投資家との対話を促進し、ESG評価の向上に繋げることができる。

結論

本分析の結果、株式会社光通信の環境への取り組みは、現段階では限定的であり、特に情報開示の側面で競合他社から大きく後れを取っていることが明らかになった。気候変動、資源循環、生物多様性のいずれの分野においても、体系的な戦略や定量的な目標・実績の開示が不足しており、企業の環境パフォーマンスを客観的に評価することは困難である。これは、規制強化や市場の変化が加速する中で、重大な経営リスクとなり得る。

しかし、これは同時に、今後の取り組み次第で企業価値を大きく向上させる機会が存在することも意味している。本報告書で提示した推奨事項、すなわち、推進体制の確立、データ把握と開示、具体的な目標設定、そして国際フレームワークの活用を実践することにより、光通信はステークホルダーからの信頼を再構築し、持続可能な成長軌道に乗ることが可能となる。情報通信技術が社会の持続可能性に貢献できるポテンシャルは大きい。光通信がそのポテンシャルを最大限に引き出し、業界における責任ある一員としての役割を果たしていくことを期待する。

参考文献

  1. 株式会社光通信. Environment.

    https://www.hikari.co.jp/en/environment/

  2. 株式会社光通信. HIKARI TSUSHIN Social Finance Framework.

    https://www.hikari.co.jp/en/assets/pdf/en_socilal_finance_framework2402.pdf

  3. 株式会社光通信. 環境.

    https://www.hikari.co.jp/environment/

  4. KDDI株式会社. TCFD提言への対応.

    https://www.kddi.com/corporate/sustainability/efforts-environment/tcfd/

  5. ソフトバンク株式会社. 循環型社会の推進.

    https://www.softbank.jp/corp/sustainability/esg/environment/resource-circulating/

  6. NTT西日本グループ. 資源循環型社会の推進.

    https://www.ntt-west.co.jp/sustainability/environment/resource/

  7. CDP. CDP 気候変動 レポート 2023: 日本版.

    https://socotec-certification-international.jp/assets/pdf/cdp/CDP2023_Japan_Report_Climate_0319.pdf

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