カテゴリー | 2021年度 | 2022年度 | 2023年度 |
---|---|---|---|
1購入した製品・サービス | 3,733,195 | 3,540,146 (▼193,049) | 2,575,525 (▼964,621) |
2資本財 | 410,192 | 470,181 (▲59,989) | 442,366 (▼27,815) |
3燃料・エネルギー関連活動 | 141,631 | 157,129 (▲15,498) | 168,579 (▲11,450) |
4輸送・配送(上流) | 145,082 | 99,293 (▲45,789) | 126,718 (▼27,425) |
5事業から発生する廃棄物 | 19,132 | 18,036 (▼1,096) | 18,237 (▲201) |
京セラは、国際的な非営利団体CDPから、気候変動分野における透明性とパフォーマンスが評価され、3度目となる最高評価「Aリスト」に選定されました。2050年カーボンニュートラル達成に向け、TCFD提言に基づくガバナンス確立、リスク・機会評価、再エネ導入、省エネ対策などが総合的に評価されました。
京セラドキュメントソリューションズは、ベトナム工場の建屋に最大発電電力6MWpの太陽光発電システムを設置し、本格稼働を開始しました。これにより年間4,210トンのCO2削減を見込み、工場使用電力の約41%をカバーします。これは京セラグループの2050年カーボンニュートラル目標達成に向けた取り組みの一環です。
京セラは、携帯電話梱包で段ボール折箱の新方式を採用し紙使用量を約30%削減。印刷には有害廃液が出ない水無し印刷を採用。京セラドキュメントソリューションズでは、エコシスプリンター発売以来、環境配慮型包装に取り組み、紙系梱包材への切り替えや前モデル比30%削減目標を設定。国内外のコンテストで多数受賞しています。
※掲載情報は公開資料をもとに作成しており、全てのリスク・機会を網羅するものではありません。 より詳細な情報は企業の公式発表をご確認ください。
気候変動をリスクだけでなく、成長機会としても捉えています。世界的な脱炭素化の流れは、同社が強みを持つ太陽電池、蓄電池、燃料電池などの再エネ関連製品・システムの市場拡大を後押しします。省エネ基準強化やEV普及は、エネルギーマネジメントシステムや高効率な電子部品・半導体関連製品の需要を喚起します。電力エネルギーサービス事業の拡大や、環境配慮型製品(エコシスプリンター等 )への消費者需要増加も機会として認識されています。
本報告書は、京セラ株式会社(以下、京セラ)の環境分野における取り組みとパフォーマンスを、「気候変動」「資源循環」「生物多様性」の3つの重点領域において包括的に分析・評価することを目的とする 1。京セラは、社会、世界、そして自然との共生を持続可能な社会実現に向けた取り組みの基本とし、その加速を表明している 1。本分析を通じて、京セラの具体的な環境戦略、目標、施策、実績データを詳細に調査し、同社の環境スコアリングに必要な情報基盤を提供するとともに、学術研究に資する水準での客観的な評価を行うことを目指す。
分析範囲は、京セラ本体および主要なグループ会社、特に京セラドキュメントソリューションズ株式会社などの活動を含むものとする。参照する情報は、統合報告書、サステナビリティレポート、公式ウェブサイト(グローバルおよび日本)、プレスリリース、CDP(Carbon Disclosure Project)への回答など、公開されている情報源に限定する 1。分析内容には、競合他社との比較分析、関連業界における環境動向の考察、京セラが直面する可能性のある環境関連のリスクと事業機会の評価、現状の課題特定、そして将来に向けた戦略的な提言を含むものとする。
京セラは、1959年の創業以来、ファインセラミックス技術を核として事業領域を拡大してきたグローバル企業である。現在の主要事業セグメントには、産業・自動車用部品、半導体関連部品、電子デバイスなどの「コアコンポーネント事業」、コンデンサやコネクタなどの「電子部品事業」、そして情報通信機器、ドキュメントソリューション、環境エネルギー機器、医療材料などを含む「ソリューション事業」がある 3。これらの多岐にわたる事業を通じて、情報通信、自動車、環境・エネルギー、医療・ヘルスケアといった成長市場における社会課題の解決に貢献することを目指している 3。
京セラの企業活動の根底には、創業者稲盛和夫氏が提唱した独自の経営哲学が存在する。社是である「敬天愛人」、すなわち「常に公明正大 謙虚な心で 仕事にあたり 天を敬い 人を愛し 仕事を愛し 会社を愛し 国を愛する心」を持つこと、そして「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること」という経営理念が、全ての企業活動の判断基準となっている 1。さらに、「社会との共生。世界との共生。自然との共生。共に生きる(LIVING TOGETHER)ことをすべての企業活動の基本に置き、豊かな調和をめざす」という経営思想は、環境問題への取り組みを含むサステナビリティ経営の方向性を明確に示している 1。
これらの理念や思想は、単なる抽象的なスローガンに留まらず、具体的な経営戦略や事業活動に反映されている。例えば、新規事業開発においては、「何らかの社会課題の解決に資するテーマであること」が着手要件とされ、経済価値よりもまず事業の大義が問われる 14。この企業文化は、環境問題への取り組みにおいても同様であり、TCFD提言への賛同と情報開示、SBT(Science Based Targets)認定を受けた温室効果ガス削減目標の設定、生物多様性保全活動の推進といった具体的な環境戦略へと結実している 1。このような理念と実践の一貫性は、京セラの環境経営が経営層からのトップダウンで推進されるだけでなく、企業文化として深く根付いている可能性を示唆しており、その取り組みの実効性と持続性を支える重要な基盤となっていると考えられる。
京セラグループは、気候変動問題を経営における最重要課題の一つとして明確に認識し、その対応を事業戦略に組み込んでいる 12。グループ全体として、2050年度までに事業活動に伴う温室効果ガス排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルの達成を長期的な目標として掲げている 7。この長期目標達成に向けたマイルストーンとして、より短期的な環境目標を設定し、具体的な行動計画を推進している。
主要な長期環境目標として、Scope1(直接排出)およびScope2(間接排出、主に購入電力由来)の温室効果ガス排出量を、2030年度までに2019年度比で46%削減することが定められている 7。さらに、サプライチェーン全体での排出量を含むScope1, 2, 3の合計排出量についても、同様に2030年度までに2019年度比で46%削減するという意欲的な目標を設定している 7。加えて、再生可能エネルギーの導入拡大も重要な戦略と位置づけられており、2030年度までにその導入量を2013年度比で20倍に増加させることを目指している 7。これらの目標設定は、地球温暖化対策の国際的な枠組みであるパリ協定が目指す、世界の平均気温上昇を産業革命前と比較して1.5℃に抑える努力目標に整合する水準として設計されており、京セラが気候変動問題に対して科学的根拠に基づき、かつ国際社会の要請に応える形で取り組む姿勢を示している 7。
京セラが設定した2030年度の温室効果ガス排出量削減目標(Scope1, 2で46%削減、Scope1, 2, 3で46%削減、いずれも2019年度比)は、科学的根拠に基づく目標設定を推進する国際的なイニシアチブであるSBTi(Science Based Targets initiative)から、パリ協定の1.5℃目標達成に整合するものとして正式な認定を受けている 7。これは、同社の目標が科学的に妥当であり、かつ十分な野心度を持っていることを客観的に示すものである。
これらの認定目標を確実に達成するため、京セラは具体的なロードマップを策定し、段階的に取り組みを進めている。2019年度から目標年度である2030年度までの期間を4つのフェーズに分け、各フェーズにおいて計画的な施策を実行している 7。主な取り組みとしては、エネルギー効率の向上を目的とした省エネルギー対策の強化と、再生可能エネルギーの導入拡大が二つの柱となっている 7。具体的には、各工場へのエネルギー使用量見える化システムの導入、生産設備の省エネ化更新、自家消費型太陽光発電設備の設置、再生可能エネルギー由来電力の購入などが計画的に進められている 7。
京セラは、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に早期に賛同を表明し、そのフレームワークに沿った情報開示を積極的に行っている 1。これは、気候変動がもたらすリスクと機会を財務的な影響と結びつけて評価し、投資家をはじめとするステークホルダーに対して透明性の高い情報を提供することの重要性を認識していることの表れである。
気候変動に関するガバナンス体制も明確に構築されている。グループ全体のサステナビリティ戦略を統括する「京セラグループサステナビリティ委員会」が、気候変動に関する目標設定や対策の方向性を審議・決定する役割を担っている 7。この委員会での決定事項や活動状況は、定期的に取締役会に報告されるとともに、グループの経営幹部が一堂に会する国際経営会議においても共有され、経営レベルでのコミットメントが確保されている 7。さらに、具体的な施策の推進を担う実行部隊として、サステナビリティ委員会の下部組織である「長期環境目標推進タスクフォース」が設置されており、目標達成に向けた具体的な活動計画の策定や進捗管理を行っている 7。
リスク管理の側面では、京セラは気候変動に関連するリスクと機会を特定・評価するために、定期的にシナリオ分析を実施している 7。具体的には、世界の平均気温上昇が1.5℃に抑制された場合と、2.6℃上昇した場合の二つのシナリオ(「1.5℃シナリオ」と「2.6℃シナリオ」)を用いて、2030年時点での自社事業への影響や顧客が存在する業界の変化を予測し、それらがもたらす潜在的な財務上の影響額を評価・分析している 7。この分析を通じて、炭素税導入や排出量取引制度強化といった「移行リスク」や、異常気象の激甚化による洪水や干ばつなどの「物理的リスク」を具体的に認識し、それらに対する対応策を事業戦略に反映させている 7。このようなTCFDへの準拠、SBT認定(特に1.5℃水準への更新)、そして明確なガバナンス・リスク管理体制の構築は、京セラが気候変動への対応を単なる環境保護活動としてではなく、経営戦略の根幹に関わる重要事項として捉え、国際的な要請に応えながら実効性のある取り組みを進めていることを示している。
京セラグループは、Scope1およびScope2の温室効果ガス排出量削減目標達成に向け、省エネルギーの推進と再生可能エネルギーの導入拡大を両輪で進めている。省エネルギーに関しては、多岐にわたる施策が展開されている。生産設備の効率改善は継続的に行われ、エネルギー使用状況をリアルタイムで把握し最適化を図るための「見える化システム」が各工場に導入されている 7。ボイラーやコンプレッサーといったユーティリティー設備については、エネルギー効率が最も高いとされるトップランナー基準を満たす設備の導入を進めている 7。また、エネルギー消費量の大きいクリーンルームにおいては、省エネルギーを考慮した設計基準の適用や、運用状況に応じた最適化制御が行われている 7。燃料使用に関しては、石油系燃料から天然ガスへの転換や、蒸気を使用するプロセスから電気や水加湿への転換(脱蒸気)も推進されている 7。さらに、将来的な技術として水素やアンモニアの活用も検討されている 7。
省エネルギー活動の推進とベストプラクティスの共有を目的として、社内では定期的に「CO2排出量削減事例発表会」が開催されている 7。この発表会では、各製造部門で実施または計画中の具体的な省エネ施策が共有され、他部門への横展開が促進される。例えば、生産工程で発生する排ガス処理に使用される脱臭装置において、従来の触媒からエネルギー効率の高いハイブリッド触媒へ置き換えることで、年間385トンのCO2排出量削減(t-CO2e/年)を達成した事例が報告されており、この取り組みはグループ内での展開が検討されている 7。また、エネルギー消費の大きいコンプレッサーについては、運転効率を常時監視するシステムを導入し、非効率な運転の早期発見による省エネ効果と、異常検知による予防保全の両立を図っている 7。
再生可能エネルギーの導入に関しても、積極的な投資が行われている。国内外の事業拠点において、工場の屋根などを活用したオンサイト(自家消費型)太陽光発電設備の設置が進められている。具体例としては、ベトナム工場に設置された最大発電電力6MWpの大規模システム(年間4,210トンCO2削減見込み)6、国内の枚方工場および玉城工場への設置(合計で年間860トンCO2削減見込み)18、米国統括本社のビル屋上への設置(年間960トンCO2削減見込み)6 などが挙げられる。さらに、オフサイト(事業所外)での再生可能エネルギー確保策として、発電事業者と長期契約を結び再生可能エネルギー電力を購入するPPA(Power Purchase Agreement)や、自社またはグループ会社が遠隔地に設置した発電設備から送電網を通じて電力を供給する自己託送の仕組みも活用されている 7。加えて、再生可能エネルギーによって発電された電力の環境価値を証書として購入する手法も取り入れており、例えばベトナム工場と中国工場では、I-REC証書やTIGR証書といった国際的な環境価値証書付きの電力を購入することで、2023年4月から使用電力の100%再生可能エネルギー化を達成している 6。
これらの取り組みの結果、京セラドキュメントソリューションズグループ単体で見ると、2023年度のScope1, 2排出量は40,613 t-CO2であった。この数値には、海外生産拠点における環境価値証書の購入による31,845 t-CO2の削減効果が含まれている 6。また、同グループのISO14001統合認証を取得している拠点においては、2023年度の排出量目標である54,253 t-CO2以下に対して、実績は18,782 t-CO2となり、目標を大幅に達成する成果を上げている 6。これらの具体的な施策と実績は、京セラグループがScope1, 2排出量削減目標達成に向けて着実に前進していることを示している。
京セラグループの温室効果ガス総排出量において、Scope3(サプライチェーン排出量)が約83%という大きな割合を占めていることが認識されている 7。このため、Scope3排出量の削減はカーボンニュートラル達成に向けた重要な課題であり、特に排出量が大きいとされるカテゴリー1(購入した製品・サービス)を中心に、サプライヤーをはじめとするバリューチェーン上のステークホルダーとの連携を通じた削減活動が不可欠となっている 7。
具体的な取り組みとして、まず製品輸送における排出量削減が挙げられる。京セラは、全日本空輸(ANA)が展開する「SAF Flight Initiative」に参画している 7。これは、化石燃料由来のジェット燃料に比べてライフサイクルでのCO2排出量が大幅に少ないとされるSAF(持続可能な航空燃料)の利用拡大と普及を支援するプログラムであり、航空貨物輸送に伴う環境負荷の低減に貢献するものである。
また、製品そのものの環境性能向上もScope3削減に繋がる重要な要素である。京セラドキュメントソリューションズでは、プリンターや複合機の梱包において、環境負荷を低減するための様々な工夫を行っている。例えば、従来は別々であった個装箱と内部の緩衝トレイを、一枚の段ボールを折りたたんで構成する新方式の箱を採用することで、箱としての機能を維持しつつ包装材の使用量そのものを削減している 9。具体的な例として、携帯電話「DIGNO SX3」の梱包箱では、この新方式により従来モデル(DIGNO SX2)と比較して紙使用量を約30%削減した実績がある 19。さらに、梱包箱の印刷においては、現像液などの有害な廃液が発生しない「水無し印刷」方式を2021年から採用しており、環境負荷の低減に貢献している 19。加えて、製品個包装に使用する素材についても、持続可能な森林活用・保全に配慮した認証材への切り替えを進めている 19。京セラドキュメントソリューションズは、1992年の環境配慮型「エコシス」プリンター発売以来、業界に先駆けて紙製梱包材を採用するなど、包装材の環境負荷低減に継続的に取り組んできた歴史があり、その技術とアイデアは国内外のパッケージコンテストで高く評価されている 19。
製品ライフサイクル全体での環境負荷を定量的に評価する手法として、カーボンフットプリント(CFP)の算定と開示の重要性が高まっている。特に欧州などでは製品のCFP情報開示に関する法規制の導入が進んでおり、顧客からの要求も増加している。これに対応するため、京セラグループ内では、製品一つ当たりのライフサイクル全体におけるCO2排出量を算定するための社内ルールの整備と、各事業部門への展開を検討している段階にある 7。CFP算定の推進は、サプライチェーンにおける排出量削減の重点領域を特定し、より効果的な対策を講じるための基礎となるだけでなく、環境性能を重視する顧客への訴求力を高める上でも重要となる。Scope3削減はサプライヤーとの緊密な連携が不可欠であり、Scope1, 2削減に比べて複雑性が高いが、CFP算定の検討開始などは、今後の本格的な取り組みに向けた準備が進められていることを示唆している。
京セラグループ全体のScope1, 2, 3排出量の詳細な経年データや、SBT目標に対するグループ全体の進捗状況については、別途公開されているESGデータ集などの詳細情報を参照する必要がある 1。しかしながら、京セラドキュメントソリューションズにおけるScope1, 2排出量の目標達成状況 6 や、グループ全体として推進されている省エネルギー・再生可能エネルギー導入の具体的な取り組み事例から判断すると、SBT目標達成に向けた進捗は着実であると推察される。
この評価を客観的に裏付けるものとして、国際的な環境情報開示プラットフォームであるCDPからの評価が挙げられる。京セラは、CDPの気候変動分野に関する調査において、企業戦略、リスク・機会への対応、情報開示の透明性、そして実際のパフォーマンスが総合的に評価され、2020年、2021年、そして2023年の3度にわたり、最高評価である「Aリスト」企業として選定されている 12。CDPの気候変動Aリストは、評価対象となった全世界の約21,000社の中から、特に優れた取り組みを行っていると認められた上位約350社(2023年実績)にのみ与えられるものであり、この複数回にわたる選定は、京セラの気候変動対策の実質的な内容と、その情報開示レベルの高さが国際的に高く評価されていることを示している。これは、同社が目標達成に向けて着実に成果を上げていることの強力な外部からの証明と捉えることができる。
京セラは、TCFD提言に基づくシナリオ分析を通じて、気候変動が自社事業に及ぼす潜在的なリスクと、同時にそれがもたらす事業機会の両側面を認識し、経営戦略に反映させている。リスク分析においては、炭素税の導入や排出量取引制度の強化といった政策・規制の変更に伴う「移行リスク」として、製造コストやサプライヤーからの調達コストの増加、各国の排出削減目標達成に向けた規制強化への対応コスト増大、省エネルギー化推進に伴う新規設備投資コストの増加、リサイクル規制導入に伴う対応コスト増などが認識されている 7。また、異常気象の頻発化・激甚化に伴う「物理的リスク」として、洪水や高潮による工場設備の浸水被害や、干ばつによる水不足が製造能力の低下や操業停止に繋がる可能性も評価されている 7。これらのリスクに対し、具体的な対応策も講じられており、例えば物理リスクに対しては、工場ごとに立地条件を踏まえたハザードマップ等で災害発生可能性を把握し、止水板の設置や、設備更新・新設時に浸水深を考慮した高所への重要設備設置などの対策を実施している 7。
一方で、京セラは気候変動を単なるリスク要因としてだけでなく、自社の持つ技術力や事業基盤を活かした新たな成長機会としても捉えている点が特徴的である。機会分析では、世界的な脱炭素化の流れが、京セラの主要事業領域に追い風となる可能性が示されている。具体的には、炭素価格の上昇や各国の再生可能エネルギー導入目標の設定が、京セラが強みを持つ太陽電池、蓄電池、そして燃料電池といった再生可能エネルギー関連製品・システムの市場拡大を後押しすると分析されている 3。また、再生可能エネルギー導入促進のための補助金政策は、導入コストの低減を通じて事業展開を有利にする可能性がある 7。住宅分野や産業分野での再生可能エネルギー導入義務化や省エネルギー基準の強化は、関連するエネルギーマネジメントシステムやパワーコンディショナなどの需要を喚起する 7。さらに、電気自動車(EV)の普及や電子機器の高性能化に伴い、省電力化や高効率化に貢献する電子部品や半導体関連製品への需要増加が見込まれる 7。京セラが展開する電力エネルギーサービス事業(余剰電力買取、需給調整、再エネ電力供給等)も、再生可能エネルギーの普及拡大に伴い、事業機会が拡大すると考えられている 3。加えて、環境意識の高まりによる消費者の低炭素・環境配慮型製品への需要増加(例:エコシスプリンター 19)や、太陽光発電設備の長寿命化・高耐久化といった技術革新による需要拡大も、事業機会として認識されている 7。
このように、京セラは気候変動に関連するリスクを適切に評価し対策を講じると同時に、それを自社のコア技術や既存事業と結びつけ、新たなビジネスチャンスへと転換しようとする戦略的な視点を持っている。リスク対応策(例:工場の防災強化)と機会創出策(例:再エネ関連事業の拡大)が連動して進められており、気候変動への対応が、単なるコスト要因ではなく、持続的な成長を実現するための重要なドライバーとして位置づけられていることがうかがえる。
京セラグループは、限りある地球資源の持続可能な利用と、廃棄物による環境負荷の低減を目指し、サーキュラーエコノミー(循環型経済)の構築に向けた取り組みを重要な経営課題と位置づけている。その根底には、「自然との共生」を掲げる経営思想があり、製品の企画・開発から生産、販売、使用、そして廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクル全体を通じて、資源効率の最大化と環境負荷の最小化を追求する方針を明確にしている 1。
具体的な方針として、まず「廃棄物排出量ゼロ」を究極的な目標として掲げ、事業活動から排出される廃棄物を可能な限り削減するとともに、排出された廃棄物についても、単に処理するのではなく、再生原料として再利用する取り組みを積極的に推進している 9。これは、EUのサーキュラーエコノミーアクションプランなど、国際的な規制動向や社会的な要請を踏まえたものであり、資源消費に依存しない循環型の事業モデルへの転換を目指す意思の表れである。
グループ会社の中でも、特に京セラドキュメントソリューションズ株式会社は、この方針を具現化する先進的な取り組みを行っている。同社が長年にわたり展開してきた「エコシス(ECOSYS)」コンセプトは、プリンターや複合機の主要部品(特に感光体ドラムなど)の長寿命化を徹底することで、消耗品の交換頻度を劇的に減らし、廃棄物の発生そのものを抑制する「リデュース」に重点を置いた独自のアプローチである 2。このコンセプトは、環境負荷の低減(Ecology)と顧客の運用コスト削減(Economy)を両立させるものであり、同社の製品開発における資源循環の核となる考え方となっている。
京セラグループは、サーキュラーエコノミー構築に向けた方針に基づき、具体的な数値目標を設定し、その達成に向けた管理体制を構築している。廃棄物削減に関しては、特に排出量が多い、あるいは処理リスクが高いと評価された生産拠点を対象に、具体的な削減目標を設定し、重点的に対策を講じている 9。例えば、2023年度においては、リスクが高いと特定された生産拠点群に対して、合計で1,400トンの廃棄物排出量削減対策を実施するという目標を設定し、実績として1,725トンの削減対策を達成した 9。2024年度についても、同様にリスク評価に基づき、対象拠点で合計659トンの削減対策を実施する目標が掲げられている 9。このようなリスクベースでの目標設定は、限られたリソースを効果的に配分し、実効性の高い削減活動を推進するための合理的なアプローチと言える。
再資源化に関しては、長年にわたり国内の全生産拠点において「ゼロエミッション」の達成・維持を目標としてきた。ゼロエミッションの定義は、廃棄物の再資源化率が99.5%以上であることとされている 9。2023年度の実績においても、この目標は達成され、再資源化率は99.7%であった 9。しかし、京セラは現状に甘んじることなく、より本質的な資源循環を目指すため、2024年度から再資源化率の定義を見直すことを決定した。従来は、廃棄物を焼却し、その際に発生する熱エネルギーを回収・利用する「サーマルリサイクル」も再資源化に含めていたが、新定義ではこれを再資源化とは見なさず、削減すべき対象(非再資源化廃棄物)として扱うこととした 9。この定義の厳格化は、単なるエネルギー回収に留まらず、廃棄された物質そのものを再び資源として利用するマテリアルリサイクルの重要性を認識し、その促進に向けた取り組みを強化する姿勢を示すものである。
製品レベルでの資源循環目標も設定されている。京セラドキュメントソリューションズでは、複合機やプリンター本体、およびトナーコンテナに使用するプラスチックについて、PCR(Post-Consumer Recycled:使用済み再生材)の含有率目標を設定している 9。2023年には1%以上、2024年には5%以上を最低基準とし、将来的には複合機全体の50%にリサイクルされた材料を使用することを目指している 9。これは、製品設計段階から再生材の利用を前提とし、循環型社会に適応した製品開発を進めるという明確なコミットメントである。
一方で、水資源管理に関する目標設定については、本調査でアクセス可能な情報からは限定的であった。TCFD提言に基づく情報開示の中で水リスクへの対応方針が示唆されているものの 1、具体的なリスク評価結果、拠点ごとの取水量・排水量削減目標、水ストレス地域における具体的な対策目標などの詳細な情報は確認できなかった(関連情報源 66 はアクセス不可)。水リスクは地域性が高く、事業継続にも影響しうる重要な要素であるため、この分野における目標設定と情報開示の充実は、今後の課題となる可能性がある。全体として、廃棄物削減と再資源化に関する目標設定は具体的かつ意欲的であり、特に再資源化率定義の厳格化やPCR材利用目標の設定は、資源循環への取り組みを質的に深化させようとする京セラの意欲を示すものとして評価できる。
京セラグループ、特に京セラドキュメントソリューションズは、製品ライフサイクル全体を通じた資源効率の向上に注力している。その中核を成すのが、前述の「エコシスコンセプト」である 5。このコンセプトに基づき、感光体ドラムなどの主要部品に、京セラ独自の高耐久性素材(例:アモルファスシリコン)を採用することで、部品の長寿命化を実現している 24。これにより、従来は定期的な交換が必要であった部品や消耗品の交換頻度が大幅に低減され、製品使用段階での廃棄物発生量が削減される。これは、資源の有効活用(リデュース)に大きく貢献する取り組みである。
製品設計の段階においては、3R(リデュース、リユース、リサイクル)の考え方が徹底されている 5。リデュースの観点からは、製品本体の小型化・軽量化や部品点数の削減が追求される。リユースの観点からは、製品や部品が再利用しやすいように、分解や部品の取り外しが容易な構造、清掃しやすい設計などが採用されている 25。リサイクルの観点からは、異なる素材の接着を避ける、金属部品のインサート成形を廃止するなど、使用後の素材分離・分別を容易にするための配慮がなされている 25。さらに、製品に使用するプラスチック部品においては、PCR(使用済み再生材)の利用が積極的に推進されており、目標値を設定してその含有率向上に取り組んでいる 9。
使用済みとなった製品や消耗品の回収と再資源化にも力を入れている。複合機・プリンター本体については、回収後、分解・分別し、素材レベルでのリサイクルを行うだけでなく、一部地域では点検・清掃・部品交換・検査を経て、再生品として再び市場に供給するリファービッシュやリコンディショニングの取り組みも行われている 9。使用済みトナーコンテナについても専用の回収プログラムが設けられ、リサイクルされている 2。さらに、携帯電話については業界団体(CIAJ)の回収プログラムに参加し、レアメタルを含む貴重な資源の回収・再資源化に貢献している 9。また、産業用の切削工具(超硬チップ)やそのケースについても、顧客から使用済み品を回収しリサイクルするプログラムを実施しており、顧客のゼロエミッション推進を支援している 9。これらの多岐にわたる回収・リサイクルプログラムは、製品が廃棄物となることを防ぎ、資源を循環させるための重要な仕組みとなっている。
京セラグループは、製品ライフサイクルだけでなく、生産プロセスそのものにおいても廃棄物削減と再資源化に積極的に取り組んでおり、具体的な成果を上げている。鹿児島国分工場では、セラミックスの研削工程で発生する大量の廃液(研削スラッジ)の減容化に取り組んでいる 9。送風式の蒸発装置を導入し、廃液に含まれる水分を効率的に蒸発させることで、最終的に産業廃棄物として処理しなければならない廃液の量を大幅に削減している。この蒸発装置の稼働に必要な熱エネルギーの一部は、工場内の他の工程から発生する廃熱を利用しており、省エネルギーにも配慮した設計となっている。この取り組みにより、年間458トンの産業廃棄物排出量削減効果が得られている 9。
京都綾部工場では、製造工程から排出される高濃度の有機物を含んだ排水の処理が課題となっていた 9。従来、この濃厚排水は既存の排水処理設備では処理できず、全量を産業廃棄物として外部委託処理していた。これに対し、新たにフェントン法を用いた前処理設備を導入した。フェントン法は、過酸化水素と鉄イオンを利用して難分解性の有機物を分解する化学処理技術であり、この前処理によって濃厚排水を既存の排水処理設備で処理可能な水質に改善することができた。結果として、従来は廃棄物として処理していた全量を場内で処理できるようになり、年間676トンもの産業廃棄物排出量削減を実現した 9。
海外拠点においても同様の取り組みが見られる。中国の京セラ光電科技(東莞)有限公司では、レンズ製造工程で使用される研磨液の寿命延長に取り組んでいる 9。研磨工程では、研磨材や削りカスなどによって研磨液が汚染され、定期的な交換が必要となり、使用済み研磨液は産業廃棄物として処理されていた。そこで、研磨装置に遠心分離機を導入し、研磨液中の不純物を効率的に除去することで、研磨液の清浄度を維持し、交換頻度を大幅に低減することに成功した。これにより、研磨液の使用量が削減されるとともに、産業廃棄物としての排出量も年間120トン削減された 9。
さらに、生産工程で発生する廃棄物を、再び生産活動に利用する「水平リサイクル」の取り組みも進められている。例えば、電子部品の製造工程などで使用されるPETフィルムは、従来は廃棄物として処理されていたが、これを回収し、製品を出荷する際に使用するPET製トレーの原料として再利用するシステムを構築した 9。これにより、廃棄物の発生量を削減すると同時に、新品のPET樹脂の使用量も削減できる。目標として、トレーに使用するPET材料の50%をこの再生原料で賄うことを目指している 9。これらの事例は、京セラが生産現場において、技術的な工夫やプロセスの見直しを通じて、具体的な廃棄物削減と資源循環を着実に推進していることを示している。
製品を保護し顧客に届ける上で不可欠な包装材についても、京セラグループは環境負荷低減に向けた継続的な努力を行っている。特に、包装材の使用量そのものを削減する「リデュース」に重点が置かれている。前述の通り、携帯電話などの小型製品においては、従来は別体であった個装箱と内部の緩衝トレイを、一枚の段ボールを巧みに折り曲げて一体構造とする新方式の梱包箱が開発・採用されている 9。これにより、必要な強度や保護機能を維持しながら、使用する段ボールの総量を削減することに成功している。この梱包箱は、使用後に消費者がリサイクルに出しやすいように、簡単に平たく折りたためるような工夫も凝らされている 19。
大型製品である複合機やプリンターの梱包においても、京セラドキュメントソリューションズが長年にわたり先進的な取り組みを続けてきた 19。同社は、環境配慮型製品「エコシス」の発売を機に、製品本体だけでなく梱包材においても環境負荷を低減すべきとの考えから、業界に先駆けて発泡スチロールなどの緩衝材を削減し、段ボールを中心とした紙系の梱包材への切り替えを進めてきた。さらに、新製品開発時には、前モデルの梱包材から30%削減するという高い目標を設定し、設計段階から軽量化や材料削減に取り組んでいる 19。これらの努力は、輸送効率の向上(積載効率の改善)にも貢献している。こうした環境配慮型の包装設計技術は高く評価されており、日本の「日本パッケージコンテスト」では2004年から19回、国際的な「ワールドスターコンテスト」でも14回の受賞歴を誇る 19。これは、同社が包装材分野においても、環境性能と機能性を両立させる高い技術力を有していることを示している。
水資源は、事業活動の維持に不可欠であると同時に、地域社会や生態系にとっても極めて重要な共有資源である。京セラグループは、この認識に基づき、水リスクへの対応の重要性を認識している 1。しかしながら、本調査で確認できた範囲では、気候変動や廃棄物削減に関する取り組みと比較して、水リスクに関する具体的な評価方法、拠点別のリスクレベル分析、定量的な削減目標、取水量・排水量の実績データなどの詳細な情報開示は限定的であった。
一部の情報源では、工場で使用した水を浄化し、公共用水(河川など)よりもクリーンな状態で排出する努力を行っているとの記述が見られた 24。これは、排水管理に対する意識の高さを示すものである。しかし、世界各地に生産拠点を有するグローバル企業としては、各拠点が立地する地域の水ストレス状況(水資源の逼迫度)を評価し、そのリスクレベルに応じた水使用量の削減目標や、取水・排水管理の強化策を具体的に設定・開示することが、国際的な要請(例:CDP水セキュリティ質問書など)に応える上で重要となる。現状では、水リスクに関する包括的な戦略や具体的な取り組み状況を外部から評価するための情報が十分とは言えず、この分野における情報開示の充実が今後の課題と考えられる。
京セラグループは、資源循環に関する取り組みの進捗を測るための主要な指標として、再資源化率と廃棄物削減量を管理・公表している。国内の生産拠点における再資源化率については、長年維持してきたゼロエミッション(再資源化率99.5%以上)目標を継続して達成しており、2023年度の実績は99.7%であった 9。ただし、前述の通り、この数値はサーマルリサイクルを含んだ定義に基づいている。2024年度以降、サーマルリサイクルを除外した新しい定義での再資源化率が開示されることで、マテリアルリサイクルの実質的な進捗がより明確になることが期待される。
廃棄物削減量に関しては、リスクが高いと評価された生産拠点を対象とした削減対策の実績として、2023年度に1,725トン相当の対策が実施されたことが報告されている 9。これは、目標としていた1,400トンを上回る成果であり、重点的な取り組みが効果を上げていることを示している。
しかしながら、グループ全体の総廃棄物排出量、総水使用量、水源別の取水量、排水量、排水先などの包括的な環境パフォーマンスデータについては、本報告書の主要な情報源からは断片的な情報しか得られなかった。これらの詳細な経年データや拠点別データは、別途発行されているESGデータ集などで確認する必要がある 1。資源循環に関する取り組みの全体像を正確に把握し、競合他社との比較や経年変化を評価するためには、これらの基礎的なデータの継続的な収集と開示が不可欠である。生産プロセスにおける具体的な削減事例は技術的な進展を示しており評価できるが、水リスク関連の情報不足と合わせて、データ開示の網羅性と透明性の向上が望まれる。
京セラグループは、その経営思想の根幹にある「自然との共生」の考え方に基づき、生物多様性の保全を重要な経営課題の一つとして認識し、取り組みを進めている 11。グループ全体の環境活動の指針となる「京セラグループ環境安全方針」においても、「自然環境への負荷を極小化し、守り育てることにより、生物多様性保全を促進する」ことが明確に方針として掲げられている 11。事業活動が生態系から受ける恩恵(生態系サービス)に依存していると同時に、事業活動が生態系に対して様々な影響を与えうることを認識しており、生物多様性の保全活動を推進することが、持続的な企業発展を目指す環境経営を行う上で不可欠であると考えている 11。
具体的な保全方針としては、以下の4点が示されている 11。第一に、事業所の建設や拡張などを行う際には、重要な生物多様性を有する地域(保護区や希少種の生息地など)を可能な限り回避し、自然環境の破壊や生態系への影響を低減すること。第二に、事業活動が環境に与える影響を事前に評価(環境影響評価)し、影響の最小化、影響を受けた環境の回復、そして避けられない影響に対する代償措置(オフセット)など、影響を緩和するための措置に努めること。第三に、工場敷地内など、事業所の緑化を積極的に推進し、地域の生態系ネットワークに貢献すること。第四に、地域のNPOや行政、専門家などの外部パートナーと協力し、地域社会における生物多様性保全活動へ積極的に参画し、支援すること。
これらの社内方針に加え、京セラは国際的な枠組みやイニシアチブにも積極的に関与している。2010年からは、企業の生物多様性への取り組みを促進する「日本経団連生物多様性宣言」の推進パートナーズに参加している 11。さらに、2020年には、生物多様性に関する世界的な目標(愛知目標の後継となる昆明・モントリオール生物多様性枠組など)を踏まえて改訂された「経団連生物多様性宣言・行動指針(改訂版)」にも賛同を表明している 11。これは、国内の経済界における先進的な取り組みに歩調を合わせ、国際的な潮流に対応していく姿勢を示すものである。また、グループ会社の京セラドキュメントソリューションズでは、環境マネジメントシステム(EMS)の運用の中に生物多様性保全の観点を組み込み、事業所ごとに生物多様性に関するリスク調査を実施し、その結果に基づいて計画的な改善活動を推進している 26。
京セラグループは、生物多様性保全活動の推進状況を管理するための目標を設定している。現在、主要な管理指標として用いられているのは、年間に実施する生物多様性保全活動の「件数」である 11。2023年度は、グループ全体で29件の保全活動を実施することを目標として掲げ、実績として30件の活動を行い、目標を達成した 11。続く2024年度には、目標件数を大幅に引き上げ、47件の活動実施を目指している 11。
活動件数を目標とすることは、取り組みの活性度を示す一つの指標にはなりうる。しかしながら、近年の生物多様性に関する国際的な議論、特にTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)などの枠組みにおいては、単なる活動の有無や回数だけでなく、事業活動が自然資本や生物多様性に与える「影響(Impact)」や、事業が自然資本にどれだけ「依存(Dependency)」しているかを評価し、それに基づいてリスクと機会を管理・開示することが求められる潮流にある。現状の「活動件数」目標は、保全活動によって実際にどのような生態系へのポジティブな効果(例:保全・再生された生息地の面積や質の向上、特定の種の個体数回復への貢献度など)がもたらされたのかを測るには限界がある。
したがって、京セラが今後、生物多様性に関する取り組みをさらに深化させ、国際的な要請に応えていくためには、活動件数目標に加えて、より成果に基づいた(Outcome-based)目標や、影響・依存度を測る定量的な管理指標(KPI)を設定・導入していくことが望ましいと考えられる。競合他社の中には、既にTNFDへの対応を表明し、具体的な情報開示を進めている企業(例:日本ガイシ 27)も見られることから、この分野における戦略的な目標設定と管理指標の高度化は、今後の重要な検討課題となるであろう。
京セラグループは、生物多様性保全方針に基づき、事業拠点内およびその周辺地域において、具体的な保全活動を長年にわたり展開している。その代表的な活動が「京セラの森づくり」である 10。これは、工場敷地内や地域社会の森林を対象に、緑豊かな環境を再生・維持することを目的とした活動であり、主に地域の森林組合や行政、地元住民といった外部パートナーと協力して実施されている。活動内容は、森林の健全な成長を促すための間伐や下草刈り、地域の気候風土に適した樹種の植林、そして地域住民が自然と触れ合えるような遊歩道の整備など多岐にわたる。具体的な事例としては、長野県岡谷市では「森林(もり)の里親促進」事業に賛同し、2011年からカラマツの植林(累計3,450本)や間伐・下草刈りを継続している 11。京都府綾部市では、工場に隣接する社有林において、地域の特産でもある丹波栗の植林(累計37本)や間伐、遊歩道整備を行っている 11。滋賀県東近江市や鹿児島県薩摩川内市の社有林、京都府京田辺市の甘南備山などでも、同様に間伐や下草刈りを通じて、天然更新による植生の回復を促す活動が行われている 11。
事業所敷地内における生物の生息空間(ハビタット)を創出・維持する取り組みとして、ビオトープの整備も行われている 11。鹿児島国分工場、滋賀野洲工場、滋賀東近江工場などでは、池や小川、雑木林などを模したビオトープが造成され、地域の生物が B生息できる環境を提供している。これらのビオトープは、生物多様性保全への貢献だけでなく、従業員の環境意識向上や、地域住民への環境教育の場、あるいは従業員の憩いの場としても活用されている。滋賀野洲工場のビオトープを含む緑地では生態系調査が実施され、在来種や希少な昆虫(エノキカイガラキジラミ)の生息が確認されるなど、地域の生態系ネットワークにおいて貴重な役割を果たしていることが示されている 11。
さらに、絶滅危惧種の保護にも貢献している。三重県にある京セラドキュメントソリューションズ玉城工場では、地域の環境保護団体と協定を結び、工場敷地内のビオトープの再生活動を共同で実施しており、その結果、希少な動植物の生息が確認されている 11。この活動は、地域社会との連携による生物多様性保全の好事例と言える。
これらの主要な活動に加え、各事業所においては、壁面緑化(グリーンカーテン)による省エネ効果と景観向上 24 や、事業所周辺の清掃活動 28 など、地域環境の美化や改善に貢献する活動も行われている。これらの地道で継続的な現場活動は、京セラの「自然との共生」という理念を具体的に示すものであり、地域社会からの信頼醸成にも繋がる重要な取り組みとして評価できる。
事業活動が生物多様性に与える影響は、自社の事業拠点内にとどまらず、原材料の調達から製品の使用・廃棄に至るサプライチェーン全体に及ぶ可能性がある。京セラグループもこの点を認識しており、サプライチェーンにおける生物多様性への配慮を進めるための取り組みを開始している。
特に、京セラドキュメントソリューションズにおいては、サプライヤーに対するCSR(企業の社会的責任)調達の一環として、生物多様性保全に関する項目を盛り込んだ「サプライチェーンCSR推進ガイドライン」および「サプライチェーンCSR推進チェックシート」を策定し、運用している 26。これらのツールを用いて、サプライヤー各社に対し、生物多様性への配慮状況や具体的な保全活動に関する取り組み状況について確認を求めている。ガイドラインでは、サプライヤーに対して、使用する原材料が生物の生息地を破壊したり、天然資源を過剰に利用したりしていないかを確認すること、原材料や製品の輸送において外来種を意図せず拡散させないように注意すること、そして工場等の操業において取水、排水、排気、廃棄物、騒音、振動、光などが生態系に与える直接的な影響を評価し、環境マネジメントシステム等を通じて適切に管理することを求めている 26。また、チェックシートによる確認の結果、潜在的なリスクが特定された場合には、その改善に向けた働きかけも行っている 26。
しかしながら、本調査で得られた情報からは、これらのサプライチェーンにおける生物多様性への配慮に関する取り組みが、京セラグループ全体としてどの程度浸透し、実効性を持って運用されているのかを判断するには情報が不足している。特に、森林破壊リスクの高い木材パルプ(紙製品の原料)や、採掘が生態系に影響を与える可能性のある鉱物資源など、具体的な原材料カテゴリーごとの調達方針やリスク評価、トレーサビリティ確保に向けた取り組みに関する詳細な情報は確認できなかった。サプライチェーンにおける生物多様性リスクは、企業のレピュテーションや事業継続性にも関わる重要な課題であり、今後、グループ全体としてのより網羅的かつ具体的な取り組み方針の策定と、その進捗状況に関する情報開示の強化が望まれる。
京セラグループは、生物多様性保全活動の進捗を示す指標として、年間の活動件数を目標管理している。2023年度においては、目標としていた29件に対し、実績として30件の活動を実施し、目標を達成した 11。これらの活動内容は多岐にわたり、前述の「京セラの森づくり」(植林、間伐、下草刈り等)、ビオトープの整備・管理、地域環境の清掃活動、従業員や地域住民向けの環境教育・啓発活動などが含まれる。
活動件数という指標は、取り組みの量的な側面を示すものであり、目標達成は活動が計画通りに実施されていることを示唆する。しかし、前述の通り、これらの活動が具体的にどのような生態系へのポジティブな影響(例:生物多様性の向上、希少種の保護、生態系サービスの維持・向上など)をもたらしたのか、その質的な成果や効果を評価するための情報は、現状では限定的である。今後は、活動件数に加えて、例えば「京セラの森づくり」活動における森林面積や吸収したCO2量、ビオトープにおける生物種の多様性の変化、サプライヤーにおける環境改善の達成度など、活動の成果をより具体的に示す指標を設定し、その実績を開示していくことが、ステークホルダーからの理解と評価を高める上で重要となるであろう。
京セラは、ファインセラミックス技術を基盤としながらも、電子部品、情報通信機器、環境エネルギー関連、産業用セラミックスなど、極めて多岐にわたる事業ポートフォリオを有している 3。そのため、単一の競合企業を特定することは困難であるが、主要な事業領域ごとに代表的な競合企業を選定し、それらの企業との比較分析を行うことが、京セラの環境パフォーマンスを相対的に評価する上で有効である。
本報告書では、京セラの主要事業領域を考慮し、以下の企業を主要な比較対象(競合企業)として選定した。電子部品分野においては村田製作所株式会社(以下、村田製作所)およびTDK株式会社(以下、TDK)29。情報機器(複合機・プリンター等)分野においては株式会社リコー(以下、リコー)およびキヤノン株式会社(以下、キヤノン)29。そして、産業用セラミックスやエネルギー関連分野においては日本ガイシ株式会社(以下、日本ガイシ)27。
これらの選定された競合企業について、各社が公開している統合報告書、サステナビリティレポート、公式ウェブサイト、CDPへの回答内容、そして主要な第三者評価機関によるESG評価(CDPスコア、MSCI ESG格付け等)といった公開情報を収集・分析する 27。比較分析の焦点は、本報告書の主要テーマである「気候変動への対応」「資源循環の推進」「生物多様性の保全」の3分野における各社の戦略、目標設定のレベル、具体的な取り組み内容、報告されているパフォーマンス(実績データ)、そして外部からの評価スコアとする。この比較分析を通じて、京セラの環境分野における相対的な強みと弱み、そして業界内でのポジショニングを明らかにすることを目的とする。
気候変動対策に関する目標設定において、京セラおよび主要な競合他社は、いずれも高いレベルのコミットメントを示している。京セラはSBTiから1.5℃水準の認定を受けた削減目標(Scope1,2およびScope1,2,3で2030年度46%削減)を掲げている 7。同様に、村田製作所もSBT 1.5℃認定目標(2030年度46%削減)とRE100(2050年目標)への加盟 36、TDKはSBTネットゼロ目標認定とRE100加盟 37、リコーもSBT 1.5℃認定目標(2030年度63%削減)とRE100加盟(2040年目標)43、そして日本ガイシもSBTネットゼロ目標認定とRE100加盟(2025年50%目標)48 を達成または目指している。キヤノンもSBT認定を取得しており 44、主要な競合企業の多くが、科学的根拠に基づいた野心的な削減目標を設定し、再生可能エネルギー100%利用を目指す国際的な潮流に合致した動きを見せている。目標レベル自体においては、各社間で大きな差はなく、高い水準で拮抗している状況と言える。
戦略および具体的な取り組みにおいても、各社に共通する傾向が見られる。Scope1, 2排出量削減のためには、生産プロセスにおける徹底した省エネルギー対策の継続と、再生可能エネルギー導入の加速が不可欠であるとの認識が共有されており、自家消費型太陽光発電設備の設置、外部からの再生可能エネルギー電力の購入(PPA契約や証書購入を含む)などが積極的に進められている 36。また、サプライチェーン全体での排出量(Scope3)が総排出量の大部分を占めるケースが多いことから、サプライヤーとの連携を通じたScope3排出量削減への取り組み強化が、各社共通の重要な課題として認識されている 7。
一方で、具体的な実績、例えば再生可能エネルギーの導入比率の達成度や、Scope1, 2排出量の削減率の進捗状況については、各社の事業構造、地域別展開、投資ペースなどにより差が生じている可能性がある。例えば、リコーは2023年度の再エネ比率が33.6% 43、村田製作所は2022年度で23.7% 36 と報告されている。京セラグループ全体の詳細な再エネ比率データは要確認であるが、これらの実績値と比較することで、相対的な進捗度を評価できる。Scope3削減に関しても、サプライヤーエンゲージメントの具体的な手法や進捗度合いには、企業ごとに違いが見られる可能性が高い。これらの実績比較には、各社が公表している詳細なESGデータやCDP回答などを参照し、定義や算定範囲の差異にも留意しながら慎重に行う必要がある。
資源循環の分野においても、京セラおよび主要競合他社は、それぞれ独自の目標を設定し、多様な取り組みを進めている。目標設定においては、各社の事業特性や重点課題を反映した指標が用いられている。京セラは、リスク評価に基づいた生産拠点での廃棄物削減目標、国内拠点でのゼロエミッション(再資源化率99.5%以上)維持、そして製品へのPCR材利用率目標(2024年5%以上最低基準、将来50%目標)などを掲げている 9。村田製作所は、「持続可能な資源利用率」(枯渇リスクの低い資源の使用割合、2030年目標25%)と「循環資源化率」(排出物がリサイクルされる割合、2030年目標50%)という独自の指標を設定している 36。リコーは、製品に使用する新規資源使用率の低減(2030年60%以下目標)、画像製品へのプラスチック回収材使用率向上(2030年50%以上目標)、使用済み回収製品のリユース・リサイクル率向上(2030年87.5%以上目標)といった具体的な目標を設定している 43。日本ガイシは、廃棄物発生量の売上高原単位削減(2025年度目標:2013年度比50%削減)と、国内生産拠点での再資源化率99%以上維持を目標としている 49。このように、目標とする指標やレベルは各社で異なるものの、廃棄物削減、再資源化率向上、再生材利用拡大といった共通の方向性が見て取れる。
戦略および具体的な取り組みにおいても、共通する基盤の上に各社独自のアプローチが見られる。製品設計段階からの3R(リデュース、リユース、リサイクル)配慮、生産プロセスにおける歩留まり改善や廃棄物削減努力、そして使用済み製品の効果的な回収システムの構築・運用は、多くの企業に共通する基本的な取り組みである。その上で、村田製作所が電子部品業界で初めて実現したというPETフィルムの水平リサイクル(使用済みフィルムを再び同用途のフィルム原料として利用する)36、リコーがグローバルに展開する複合機の再生機(リコンディショニング機、リファービッシュ機)事業 43、京セラが進める使用済み燃料電池からのレアアース回収技術の開発 8 など、各社が自社の技術や事業特性を活かした特徴的な資源循環の取り組みを推進している。
これらの取り組みの実績を比較評価する際には、注意が必要である。例えば、「再資源化率」という指標一つをとっても、その定義(サーマルリサイクルを含むか否かなど)が企業によって異なる場合があるため、単純な数値比較が困難なケースがある。廃棄物削減量についても、対象範囲(国内拠点のみか、グローバルか)や原単位計算の分母(生産量か売上高か)などが異なれば、直接比較は難しい。リサイクル材の使用率に関しても、対象製品カテゴリーや算出方法が統一されていない可能性がある。したがって、競合比較を行う際には、各社が公表しているデータの定義や算定基準を十分に確認し、可能な範囲で条件を揃えた上で比較するか、あるいは数値の絶対比較だけでなく、目標達成に向けた進捗度や取り組みの質的な側面(独自性、先進性など)を総合的に評価することが重要となる 9。
生物多様性の保全に関する取り組みは、気候変動対策や資源循環と比較して、企業間の戦略、目標設定、情報開示のレベルにばらつきが大きい傾向が見られる。京セラは、年間の保全活動「件数」を目標として設定し、管理している 11。リコーは、より具体的な成果目標として、2026年度までの持続可能な紙の調達100%達成や、2030年度までの100万本の植林(「100万本未来の森プロジェクト」)といった目標を掲げている 43。日本ガイシは、国際的な枠組みであるTNFDへの対応を明確に打ち出し、そのフレームワークに沿ったリスク・機会評価と情報開示を進めるとともに、社有林が環境省の「自然共生サイト」に認定されるなど、外部からの評価も得ている 27。
一方で、村田製作所やTDK、キヤノンについては、本調査で参照した資料からは、生物多様性に関する具体的な数値目標や詳細な戦略に関する情報が限定的であった 36。各社とも、事業所周辺の緑化活動や環境保全活動、あるいはサプライチェーンにおける環境配慮(例えば、責任ある鉱物調達など間接的に関連する可能性のある取り組み)は行っていると推察されるが、生物多様性を主眼に置いた体系的な戦略や目標設定、そしてTNFDのような新しいフレームワークへの対応状況については、さらなる情報収集と比較検討が必要である。
この分野における企業間の取り組み度合いの差は、生物多様性問題の複雑さや、事業活動との関連性を定量的に評価する手法がまだ発展途上であること、そして気候変動問題ほどには規制や市場からのプレッシャーが顕在化していないことなどが背景にあると考えられる。しかし、自然資本の劣化が事業リスクとして認識され始め、TNFDなどの情報開示要求が高まる中で、今後は企業間の取り組みの差がより明確になり、先進的な企業が競争優位性を獲得していく可能性も考えられる。京セラにとっては、リコーの具体的な目標設定や日本ガイシのTNFD対応といった競合の動きを参考に、自社の生物多様性戦略をさらに高度化させていくことが、将来的なリスク低減と機会創出に繋がる可能性がある。
企業の環境パフォーマンスを客観的に評価し、競合他社と比較する上で、第三者の評価機関によるスコアや格付けは重要な情報源となる。ここでは、代表的な評価機関であるCDPおよびMSCI ESG Researchによる評価を中心に、京セラと主要競合他社のスコアを比較分析する。
CDPは、気候変動、水セキュリティ、フォレスト(森林)の3分野において、企業の環境情報開示とパフォーマンスを評価し、A(リーダーシップ)からD-までのスコアを付与している。
気候変動分野においては、京セラは2023年の評価で最高評価の「A」を獲得している 12。同様に、リコーも2024年評価で「A」を5年連続で獲得しており、リーダーシップレベルにある 38。TDKも2024年評価で初の「A」を獲得した(それ以前はA-評価)51。村田製作所に関しても、WWFジャパンの報告など複数の情報源で2023年評価が「A」とされている 32。ただし、一部のデータアグリゲーターサイトでは「F」(情報不開示または不十分)との記載も見られ 58、評価対象年やデータソースによる差異の可能性があり、公式発表等の確認が推奨される。キヤノンについては、SBT認定を受けていることから高いレベルの取り組みが推察されるが、具体的なCDPスコアは要確認である。総じて、京セラを含む主要な電子・電機メーカーは、気候変動分野で高い評価を得ている企業が多い。
水セキュリティ分野では、企業間の評価にやや差が見られる。TDKは2025年評価で5年連続の「A」 51、リコーも2025年評価で2年連続の「A」 38 と、両社が特に高い評価を継続して獲得している。京セラの水セキュリティに関するCDPスコアは、本調査では確認できなかった。この分野での高評価は、水リスク管理体制の有効性と情報開示の透明性が高いレベルにあることを示唆しており、TDKとリコーが先行している状況と言える。
さらに、CDPはサプライチェーン全体での気候変動への取り組みを評価する「サプライヤーエンゲージメント評価」も行っており、ここでも京セラはリーダー企業として評価された実績がある(2021年)21。TDKも同様にリーダー評価を4年連続で獲得している(2023年)31。これは、自社の排出量削減だけでなく、サプライヤーと協力してバリューチェーン全体での脱炭素化を推進する取り組みが評価されていることを示している。
MSCI ESG Researchは、企業のESG(環境・社会・ガバナンス)リスクへの対応能力を評価し、AAA(リーダー)からCCC(ラガード)までの7段階で格付けを行っている。MSCI Japan Climate Change Indexの構成銘柄リスト(2024年11月時点)に含まれる企業の格付けを参照すると、以下の通りである 34。リコーが最高評価の「AAA」を獲得しており、ESG全般において極めて高い評価を得ていることがわかる。次いでキヤノンが「AA」(リーダー)と評価されている。京セラ、村田製作所、TDKはいずれも「A」(アベレージ)評価となっている。日本ガイシについては、この特定のインデックスリストには含まれていなかったため、別途確認が必要である。MSCI ESG格付けは、CDPスコアのように特定の環境課題に特化するのではなく、より広範なESG要素を総合的に評価するものであるため、企業のサステナビリティ全般に対する取り組み状況を比較する上で参考になる。この評価においては、リコーが競合他社をリードしており、キヤノンも高い評価を得ている一方で、京セラ、村田製作所、TDKは業界平均レベルと位置づけられている。
CDPやMSCI以外にも、企業のサステナビリティパフォーマンスを評価する指標は存在する。例えば、サプライヤーのサステナビリティパフォーマンスを評価するプラットフォームであるEcoVadisによる評価では、リコーが最高評価の「プラチナ」(全評価対象企業の上位1%)を獲得したと報告されている 38。また、キヤノンも「ゴールド」(上位5%)評価を獲得している 52。これらの評価は、特にサプライチェーンにおけるCSR調達を重視する企業からの要求に応える上で重要となる。
その他、FTSE Russell社のFTSE Blossom Japan Indexシリーズや、S&P Global社のDow Jones Sustainability Indices(DJSI)など、主要なESGインデックスへの組み入れ状況も、企業のサステナビリティパフォーマンスを測る上での参考情報となる。これらの多様な評価指標を総合的に参照し、多角的な視点からベンチマーキングを行うことで、京セラの環境・社会パフォーマンスに関するより客観的で信頼性の高い評価が可能となる。
これらの比較分析から、京セラは多くの環境分野で高いレベルの取り組みを行っており、CDP気候変動Aリスト獲得など国際的にも評価されている一方で、競合他社の中には特定の分野(例:リコーやTDKの水セキュリティ、リコーのMSCI ESG格付け)で京セラと同等かそれ以上の評価を得ている企業も存在することが明らかになった。村田製作所のCDPスコアに見られたようなデータの不一致は、ESG評価におけるデータソースの選択や評価方法論の違いによる影響の可能性を示唆しており、評価結果を解釈する際には、その背景にある評価基準やデータ収集プロセスを理解することの重要性を物語っている。京セラが今後、環境リーダーとしての地位をさらに確固たるものにするためには、これらの競合比較から得られる洞察に基づき、自社の相対的な強みを伸ばし、弱点となりうる分野(例:水リスク管理の開示、生物多様性戦略の高度化)の改善に取り組むことが求められる。
京セラが事業を展開する電子部品およびセラミックス業界においては、グローバルなサプライチェーン、エネルギー多消費型の生産プロセス、そして製品に含まれる多様な化学物質といった特性から、環境マネジメントの高度化が求められている。この業界における環境先進企業に見られるベストプラクティスとしては、以下のような取り組みが挙げられる。
まず、基盤となるのは国際的な環境マネジメントシステム規格であるISO 14001の認証取得と、その要求事項に基づいた継続的な運用である 59。これにより、環境目標の設定、実施計画の策定、パフォーマンスの監視・測定、そして定期的な見直しと改善というPDCAサイクルが組織的に確立される。
サプライチェーン管理においては、製品に含まれる有害物質に関する規制(EUのRoHS指令やREACH規則、PFAS(有機フッ素化合物)規制など)への厳格な遵守が不可欠である 59。先進企業は、サプライヤーに対してグリーン調達基準を提示し、含有化学物質情報の収集・管理システムを構築・運用することで、規制遵守を徹底している。さらに、EUのSCIPデータベース(高懸念物質(SVHC)含有製品に関する情報データベース)への登録義務化などに対応するため、サプライチェーン全体での情報連携とトレーサビリティ確保の仕組みを強化している 61。
エネルギー消費と温室効果ガス排出量の削減は、業界共通の重要課題である。ベストプラクティスとしては、利用可能な最良の技術(BAT: Best Available Technology)とされる高効率な生産プロセスや省エネルギー設備の導入、エネルギー使用量の見える化と最適制御、そして再生可能エネルギーの積極的な導入(自家消費型太陽光発電、PPA契約、再エネ証書の購入など)が挙げられる 56。特に、セラミックス製造における焼成工程など、高温プロセスにおける燃料転換(例:水素やアンモニアの利用検討)や排熱回収技術の開発・導入も進められている 63。
資源効率の向上と廃棄物削減も重要な取り組みである。3R(リデュース、リユース、リサイクル)の原則に基づき、製品設計段階での材料使用量の削減、生産工程における歩留まり改善、発生した廃棄物の分別徹底と再資源化率の向上、そして有害物質の使用削減や代替材料への転換などが進められている。特に、従来はリサイクルが困難であった複合素材や廃棄物から有用な物質を化学的に取り出すケミカルリサイクル技術の開発・導入も注目されている 63。
水資源管理に関しては、取水量の削減、生産プロセスにおける水のリサイクル利用率の向上、そして排水の水質管理基準の遵守と、基準を上回るレベルでの浄化努力が求められる。特に水ストレスの高い地域に立地する事業所においては、より厳格な水管理と地域社会・生態系への配慮が不可欠となる。
製品そのものの環境性能向上も、競争優位性を確保する上で重要である。製品使用時のエネルギー効率の改善、製品寿命の長期化、そして使用後の解体・リサイクルを容易にする設計(易解体性設計)などが、先進企業によって追求されている。
複合機・プリンター業界は、製品のライフサイクル全体(資源採掘、製造、輸送、使用、廃棄・リサイクル)にわたる環境負荷が大きいことから、環境配慮への取り組みが特に重要視される分野である。この業界における先進的な事例やベストプラクティスには、以下のようなものがある。
製品開発段階においては、ライフサイクルアセスメント(LCA)の手法を用いて、製品の一生にわたる環境負荷(特に温室効果ガス排出量や資源消費量)を定量的に評価し、その結果に基づいて環境負荷を低減するための設計を行うことが標準となっている 5。具体的には、製品使用時の消費電力を削減するための省エネ設計(スリープモード時の消費電力削減、待機電力ゼロ技術など)、製品本体の小型化・軽量化による省資源設計、そして使用済み製品や部品のリユース・リサイクルを容易にするための設計(部品のモジュール化、単一素材化、解体しやすい構造など)が追求されている。
製品の環境性能を客観的に示し、消費者の選択を支援するために、国際エネルギースタープログラム、日本のエコマーク、ドイツのブルーエンジェル、米国のEPEATといった主要な環境ラベル(タイプI:第三者認証による環境ラベル)の取得が積極的に進められている 5。これらのラベルは、省エネルギー性能や有害物質含有規制、リサイクル性など、多岐にわたる環境基準を満たしていることの証明となる。
資源循環を促進するため、製品への再生材の利用拡大が重要なトレンドとなっている。特に、使用済みプラスチック製品から回収・再生されたPCR(Post-Consumer Recycled)プラスチックを、製品本体の筐体や内部部品、トナーカートリッジなどに積極的に利用する動きが広がっている 9。再生材の利用率を高めることは、新規の化石資源由来プラスチックの使用量を削減し、廃棄物削減にも貢献する。
製品使用段階での環境負荷低減策として、トナーの定着技術の改良が進められている。より低い温度でトナーを用紙に定着させることができる低融点トナーの開発・採用により、印刷時の消費電力を大幅に削減することが可能になっている 24。
使用済みとなった製品や消耗品(特にトナーカートリッジ)の回収と適切なリサイクルシステムの構築・運用は、この業界における重要な責務である。先進企業は、顧客が容易に返却できるような回収スキーム(郵送回収、販売店回収など)を整備し、回収された製品やカートリッジを分解・分別し、部品の再利用(リユース)や素材としての再資源化(マテリアルリサイクル)を高いレベルで実施している 2。さらに、回収した製品を点検・整備し、再生品として販売するリファービッシュやリコンディショニングといったビジネスモデルも確立されており、製品寿命の延長と資源の有効活用に貢献している 43。
また、製品の性能を維持し、長期にわたって使用してもらうためには、適切な設置環境の確保と定期的なメンテナンスが重要であることも、ユーザーに対して啓発されている 64。高温多湿や粉塵の多い場所を避け、適切な温度・湿度管理を行い、定期的な清掃や消耗品の交換を行うことが、故障を防ぎ、製品寿命を延ばす上で効果的であるとされている。
これまでの分析および業界の先進事例を踏まえると、京セラは多くの環境分野で高いレベルの取り組みを実践している一方で、さらなる進化とリーダーシップ発揮のために導入または強化が望まれるベストプラクティスがいくつか存在する。
第一に、水リスク管理と情報開示の強化である。現状、水リスクへの対応方針は示されているものの、拠点別の詳細なリスク評価(例:WRI Aqueductのようなツールを活用した水ストレス評価)、それに基づく具体的な取水量・排水量削減目標の設定、および実績データの透明性の高い開示が十分とは言えない。特に、CDP水セキュリティ質問書への回答などを通じて、水管理戦略、リスク評価プロセス、目標、実績を包括的に開示することは、投資家や顧客からの信頼を高める上で重要である。競合他社(TDK、リコー)がこの分野で高い評価を得ていることを考慮すると、キャッチアップが急務と言える。
第二に、生物多様性戦略の高度化である。現在の「活動件数」目標から、事業活動が生物多様性に与える影響(Impact)と依存度(Dependency)の評価に基づいた、より科学的根拠のある目標設定へと移行することが望まれる。TNFDフレームワークのLEAPアプローチ(Locate, Evaluate, Assess, Prepare)などを本格的に導入し、自社の事業とバリューチェーンにおける生物多様性関連のリスクと機会を特定・評価し、開示していくことが求められる。目標設定においても、保全・再生に貢献する面積、生態系の質の改善度、サプライチェーンにおける森林破壊ゼロ達成度など、より成果志向の指標(KPI)を導入することが考えられる。サプライチェーン全体、特に原材料調達における生物多様性リスクへの対応方針を明確化し、具体的な取り組みを進めることも重要である。
第三に、Scope3排出量削減に向けたサプライヤーエンゲージメントの深化である。現在も連携を進めているが、主要サプライヤーとの間で具体的な削減目標を共有し、達成に向けた共同での取り組み(技術支援、省エネ・再エネ導入支援、共同での技術開発など)を強化することが、排出量の大半を占めるScope3削減を加速させる鍵となる。サプライヤーの選定基準に環境パフォーマンスをより明確に組み込むことや、優れた取り組みを行うサプライヤーへのインセンティブ付与なども有効な手段となりうる。
第四に、製品のカーボンフットプリント(CFP)算定と開示の迅速な推進である。現在検討中とのことだが、主要製品についてライフサイクル全体でのCFPを算定し、積極的に開示していくことは、欧州などの規制動向への対応だけでなく、製品の環境性能をアピールし、環境意識の高い顧客を獲得する上でも有利となる。算定結果を製品設計やサプライヤー選定のプロセスにフィードバックし、継続的な環境負荷低減に繋げていくことが重要である。
これらのベストプラクティスを導入・強化することにより、京セラは環境分野におけるリーダーシップをさらに強固なものとし、持続可能な社会への貢献と企業価値の向上を両立させることが期待される。
本報告書の分析を通じて、京セラは環境分野において多くの先進的な取り組みを推進し、高いパフォーマンスを示している一方で、いくつかの重要な課題に直面していることが明らかになった。
第一の課題は、Scope3排出量削減の加速である。京セラグループの総排出量の約83%を占めるScope3 7、特にその中でも大きな割合を占めるカテゴリー1(購入した製品・サービス)の排出量を効果的に削減していくことが、2050年カーボンニュートラル達成に向けた最大の難関の一つである。サプライヤーとの連携強化は進められているものの、広範かつ多様なサプライチェーン全体で実効性のある削減策を展開し、SBT目標(2030年度46%削減)を達成するには、より踏み込んだ戦略と具体的な行動計画が必要となる。
第二の課題は、水リスク管理と情報開示の透明性向上である。TCFD提言に基づく開示などで水リスクへの言及は見られるものの 1、事業拠点ごとの詳細な水リスク評価、それに基づく具体的な取水量・排水量の削減目標、水ストレス地域における具体的な対応策、そして関連する実績データの包括的な開示が十分ではない。水資源の持続可能性に対する社会的な関心が高まる中、現状の情報開示レベルでは、投資家や顧客などのステークホルダーが求める透明性の水準との間にギャップが生じる可能性がある。
第三の課題は、生物多様性戦略の高度化である。現在の管理指標が主に「活動件数」に留まっている点 11 は、取り組みの成果や生態系への実質的な貢献度を評価するには限界がある。TNFDなどの国際的なフレームワークが求めるような、事業活動による生物多様性への影響(Impact)と依存度(Dependency)の評価に基づいた、より科学的根拠のある目標設定とインパクト評価への移行が求められている。また、サプライチェーン全体、特に原材料調達における生物多様性リスク(森林破壊、生態系破壊など)への対応についても、より明確な方針と具体的な取り組みの推進が必要である。
第四の課題は、資源循環における取り組みの更なる深化である。国内拠点での高い再資源化率(サーマルリサイクル含む)は達成されているものの 9、サーマルリサイクルを除いた真のマテリアルリサイクル率の向上や、製品レベルでのリユース率、再生材利用率(特にPCR材)の目標達成に向けた取り組みの加速が、真のサーキュラーエコノミー実現のためには不可欠である。製品の回収・リサイクルシステムの効率化や、再生材の品質確保と安定供給体制の構築なども継続的な課題となる。
上記の課題認識に基づき、京セラが持続可能な成長を達成するために、特に重点的に改善・強化すべき領域は以下の通りである。
第一に、サプライチェーン全体を巻き込んだ統合的な環境戦略の推進である。カーボンニュートラル達成とサーキュラーエコノミー構築は、自社単独の努力だけでは達成できない。Scope3排出量削減と資源循環の深化のためには、サプライヤーとのより強固なパートナーシップを構築し、目標共有、技術協力、情報連携などを通じて、バリューチェーン全体での環境パフォーマンス向上を目指す必要がある。
第二に、水リスクマネジメントの強化と透明性の向上である。グローバルな事業展開を踏まえ、拠点ごとの水リスクを科学的に評価し、リスクレベルに応じた具体的な水管理目標(取水量・排水量削減、水質改善、水ストレス地域での保全活動など)を設定・実行することが求められる。そのプロセスと結果、および実績データを積極的に開示することで、ステークホルダーからの信頼を高める必要がある。
第三に、生物多様性戦略の科学的根拠と実効性の強化である。TNFDなどの国際的なフレームワークを参照し、事業活動が生物多様性に与える影響と依存度を評価する手法を導入する。その評価結果に基づき、活動件数だけでなく、生態系へのポジティブなインパクトを測る指標(例:保全・再生面積、種の多様性指標など)を用いた目標を設定し、活動の効果を測定・開示していくことが重要である。サプライチェーンにおけるリスク評価と対応も強化する必要がある。
第四に、製品の環境情報開示の強化である。製品のカーボンフットプリント(CFP)、再生材使用率、リサイクル可能性、易解体性といった環境性能に関する情報を、より分かりやすく、かつ積極的に顧客や市場に対して開示していくことが求められる。これは、環境規制への対応だけでなく、製品の競争力強化にも繋がる。
特定された課題と重点改善領域を踏まえ、京セラの環境経営をさらに強化するための具体的な戦略的提言を以下に示す。
提言1:サプライヤー協働によるScope3削減とCFP活用
Scope3排出量削減目標(2030年度46%削減)の達成に向け、排出量への寄与度が大きい主要サプライヤーを特定し、具体的な協働プログラムを構築・強化することを推奨する。プログラムには、削減目標の共有、省エネ・再エネ導入に関する技術支援やノウハウ提供、共同での低炭素技術開発、優れた取り組みに対するインセンティブの導入などを含めることが考えられる。また、製品カーボンフットプリント(CFP)算定を主要製品カテゴリーについて早期に完了させ、その結果をサプライヤー選定基準や製品の設計・開発プロセスに積極的に活用し、ライフサイクル全体での排出量削減を推進する。
提言2:水リスク評価の高度化と目標設定・開示
CDP水セキュリティ質問書への回答を積極的に行い、これを機に水リスク管理体制を強化することを推奨する。WRI Aqueductなどの国際的に認知されたツールを用いて、国内外の全事業拠点における水リスク(物理的リスク、規制リスク、レピュテーションリスク)を詳細に評価する。その評価結果に基づき、特にリスクが高いと判断された拠点については、具体的な水管理目標(例:取水量原単位の削減率、排水水質の改善目標、水ストレス地域における水資源保全活動への貢献目標など)を設定し、その達成に向けた施策を実行する。評価プロセス、リスクレベル、目標、施策、そして実績(取水量、排水量、水質データ等)を統合報告書やウェブサイトで定量的に開示し、透明性を高める。
提言3:TNFD導入とインパクト志向の生物多様性目標設定
TNFDフレームワーク(特にLEAPアプローチ)を本格的に導入し、自社の事業活動およびバリューチェーン全体における自然関連のリスクと機会を体系的に評価し、その結果を開示することを推奨する。現在の活動件数目標に加え、生物多様性へのポジティブなインパクトを測るための具体的な目標・KPIを設定・管理する。例えば、「京セラの森づくり」活動においては植林本数だけでなく、育成した森林面積や生物多様性の指標(例:特定の指標種の個体数変化など)を、ビオトープにおいては創出・維持した生息地の面積や質の評価指標を導入することが考えられる。サプライチェーンにおいては、特に森林破壊リスクの高い原材料(紙パルプ等)について、持続可能な調達方針を明確化し、トレーサビリティ確保とリスク低減に向けた具体的な取り組み(例:認証材の利用率目標設定)を進める。
提言4:製品の循環性向上とビジネスモデル変革
製品のリユース・リサイクル率目標達成に向け、製品回収を促進するための新たなビジネスモデル(例:製品のサービス化(PaaS: Product as a Service)、サブスクリプションモデル、回収インセンティブの強化、リファービッシュ品の販売チャネル拡大など)の検討・導入を推進する。再生材(特にPCR材)の利用率目標(将来50%)達成に向け、再生材の品質基準を明確化し、安定的な調達を可能にするためのサプライヤーとの連携を強化する。また、製品設計段階で、将来のリサイクル技術の進展も見据えた素材選択や構造設計(易解体性、易分別性)をさらに追求する。
これらの提言を実行に移すことにより、京セラは直面する環境課題に対応し、リスクを低減するとともに、新たな事業機会を捉え、環境分野におけるリーダーとしての評価をさらに高め、持続可能な企業価値の向上を実現することが期待される。
本報告書における分析の結果、京セラ株式会社は、その経営理念および「自然との共生」を謳う経営思想を基盤として、気候変動対策、資源循環の推進、生物多様性の保全という3つの重点分野において、体系的かつ意欲的な環境イニシアチブを展開していることが確認された。特に、気候変動対策においては、SBTiから1.5℃水準の認定を受けた野心的な温室効果ガス削減目標を設定し、TCFD提言に準拠した情報開示を行うとともに、省エネルギー化と再生可能エネルギー導入を着実に進めている。その結果、CDPの気候変動評価において複数回にわたり最高評価「Aリスト」を獲得するなど、国際的にも高い評価を得ている。
資源循環の分野では、製品の長寿命化と廃棄物削減を目指す独自の「エコシスコンセプト」を長年にわたり推進し、複合機・プリンター市場において環境性能の高さを確立してきた。生産プロセスにおける具体的な廃棄物削減事例や、使用済み製品・部品の回収・リサイクルプログラムの展開も顕著な成果を上げている。生物多様性保全に関しても、「京セラの森づくり」活動やビオトープ整備など、地域社会と連携した現場での保全活動を継続的に実施しており、そのコミットメントを示している。これらの取り組みは、京セラが環境課題に対して真摯に向き合い、具体的な行動を通じて持続可能な社会の実現に貢献しようとしている姿勢を明確に示している。
一方で、本分析ではいくつかの課題も明らかになった。サプライチェーン全体での排出量削減(Scope3)、水リスク管理と情報開示の透明性向上、生物多様性戦略の目標設定とインパクト評価の高度化、そして資源循環におけるマテリアルリサイクルと製品レベルでの循環性向上の深化は、京セラが今後取り組むべき重要な領域である。これらの課題に的確に対応し、改善を進めることができれば、京セラは環境分野におけるリーダーとしての地位をさらに強固なものとし、変化する社会や市場の期待に応え続けることができるであろう。
京セラは、ファインセラミックス、センサー技術、太陽電池、燃料電池など、環境問題の解決に貢献しうる独自のコア技術と多様な事業ポートフォリオを有している。これらの技術力を最大限に活用し、エネルギー効率の向上、再生可能エネルギーの普及、資源の有効活用、有害物質の削減などに貢献する革新的な製品やソリューションを開発・提供していくことは、社会全体のサステナビリティへの移行を加速させる上で大きな貢献となることが期待される。
結論として、京セラは環境分野において確固たる基盤と実績を築いているが、さらなる高みを目指すためには、サプライチェーン全体を視野に入れた取り組みの強化と、より透明性の高い情報開示、そして科学的根拠に基づいた目標設定とインパクト評価の導入が不可欠である。これらの課題に積極的に取り組み、自社の技術力と経営理念を融合させることで、京セラは環境価値と経済価値を両立させ、持続可能な未来社会の実現に向けた貢献を一層拡大していくことができると確信する。
サステナビリティ | 京セラ, https://www.kyocera.co.jp/sustainability/
サステナビリティ | 京セラドキュメントソリューションズ - Kyocera Document Solutions, https://www.kyoceradocumentsolutions.com/ja/company/csr/
統合報告書 | IRライブラリー | 株主・投資家の皆様へ - 京セラ, https://www.kyocera.co.jp/ir/library/catalog.html
統合報告書 | サステナビリティ | 京セラ, https://www.kyocera.co.jp/sustainability/catalog/index.html
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生物多様性保全 | 環境への取り組み | サステナビリティ | 京セラ, https://www.kyocera.co.jp/sustainability/eco/biodiversity.html
CDP気候変動調査で、最高評価の「Aリスト」に選定 | ニュースリリース - 京セラ, https://www.kyocera.co.jp/newsroom/news/2024/002374.html
京セラ レポート名:統合報告書 2022 1.この会社が目指している将来の姿が理解で, https://tsumuraya.hub.hit-u.ac.jp/special03/2023/6971.pdf
京セラ「新規事業とサステナビリティをセットで推進する」 - グロービス学び放題, https://globis.jp/article/58293/
CDP気候変動調査で、最高評価の「Aリスト」に選定 | 京セラ株式会社 - アットプレス, https://www.atpress.ne.jp/news/384747
Kyocera Recognised on CDP's "A List 2023", https://www.kyoceradocumentsolutions.co.uk/en/smarter-workspaces/insights-hub/articles/kyocera-recognised-on-cdps-a-list-2023.html
年間4,210トンのCO2を削減 ベトナム工場で太陽光発電システムが本格稼働 | ニュース | 京セラドキュメントソリューションズ - Kyocera Document Solutions, https://www.kyoceradocumentsolutions.com/ja/news/rls_2024/rls_20240328.html
年間860トンのCO2を削減 枚方・玉城工場で太陽光発電システムが本格稼働 | 京セラドキュメントソリューションズ株式会社 - Digital PR Platform, https://user.pr-automation.jp/r/104533
京セラグループで取り組む製品梱包における環境負荷低減の取り組み - PR TIMES, https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000009.000052048.html
ESGデータ集 | サステナビリティ | 京セラ, https://www.kyocera.co.jp/sustainability/esg_data/index.html
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2022年のCDP Aリスト選出企業は!?CDP Aリストの評価基準も解説! - アスエネ, https://asuene.com/media/1398
気候変動 企業の活動促進 (CDP) 投資家の取組促進 (PRI) - エネルギー・資源学会, https://www.jser.gr.jp/wp-content/uploads/2021/04/210222doc1.pdf
Environmental Policy | About us - Kyocera Document Solutions Europe, https://www.kyoceradocumentsolutions.eu/en/about-us/our-brand/environmental-policy.html
省資源・リサイクルのための取り組み | 京セラドキュメントソリューションズ, https://www.kyoceradocumentsolutions.com/ja/ecology/process/recycle.html
生物多様性保全 | 京セラドキュメントソリューションズ - Kyocera Document Solutions, https://www.kyoceradocumentsolutions.com/ja/ecology/process/ecosystem.html
生物多様性の保全と再生 | 環境 | 日本ガイシ株式会社, https://www.ngk.co.jp/sustainability/environment-nature.html
各拠点の取り組み|京セラコミュニケーションシステム(KCCS), https://www.kccs.co.jp/company/sustainability/ecology-activities/
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2023年3月期 ESG説明会資料, https://www2.jpx.co.jp/disc/69810/140120230220514635.pdf
finance-frontend-pc-dist.west.edge.storage-yahoo.jp, https://finance-frontend-pc-dist.west.edge.storage-yahoo.jp/disclosure/20240301/20240229545820.pdf
サステナビリティ | TDK - TDK Corporation, https://www.tdk.com/ja/sustainability/index.html
リコー、CDPの企業調査において2年連続「気候変動」「水セキュリティ」両分野で最高評価の『Aリスト』企業に選定, https://jp.ricoh.com/info/2025/0214_1
ESGデータ集|サステナビリティ|キヤノンマーケティングジャパン株式会社 - 企業情報, https://corporate.canon.jp/sustainability/esgdata
コピー機(複合機)の環境性能とは?人と地球にやさしい複合機, https://big-up.co.jp/zerocopy/post_column/column-0229%E2%80%90copy_environment_performance/
PEST分析による複合機市場の結果は?今後の展望と戦略について解説!, https://www.zimu-ya.com/pest-analysis/
Environmental Report 環境報告書 | リコーグループ 企業・IR | リコー, https://jp.ricoh.com/sustainability/report/environment
Ricoh Group Environmental Report 2024, https://finance-frontend-pc-dist.west.edge.storage-yahoo.jp/disclosure/20240906/20240905581476.pdf
サステナビリティレポート | キヤノングローバル - Canon Global, https://global.canon/ja/csr/report/
日本ガイシ〈前編〉製品で社会課題解決 地域新電力にも進出【SDGsに貢献する仕事】, https://asahi.gakujo.ne.jp/research/sdgs/detail/id=3741
日本特殊陶業のあゆみ | 企業情報, https://www.niterragroup.com/corporate/history/
サステナビリティ | 日本ガイシ株式会社, https://www.ngk.co.jp/sustainability/
カーボンニュートラルへの取り組み | 環境 | 日本ガイシ株式会社, https://www.ngk.co.jp/sustainability/environment-cn.html
廃棄物削減と資源の有効利用 | 環境 | 日本ガイシ株式会社, https://www.ngk.co.jp/sustainability/environment-recycle.html
サステナビリティレポート - 村田機械, https://www.muratec.jp/corp/sustainability/sustainability/report/
CDPの「気候変動」「水セキュリティ」両分野においてAリスト(最高評価)に選定 | TDK, https://www.tdk.com/ja/news_center/press/20250214_01.html
「統合報告書2024」「サステナビリティレポート2024」を発行 | キヤノン株式会社のプレスリリース, https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000986.000013980.html
Canon Electronics Sustainability Report 2023 キヤノン電子 サステナビリティレポート 2023, https://www.canon-elec.co.jp/files/media/2023/10/CE_Sustainability_Report_2023-1.pdf
統合報告書 NGKレポート / サステナビリティウェブサイトデータ | 日本ガイシ株式会社, https://www.ngk.co.jp/sustainability/booklet.html
CDPから気候変動分野で最高評価となる「Aリスト」を獲得 | キヤノングローバル - Canon Inc., https://global.canon/ja/news/2024/20240208.html
2050 年カーボンニュートラルに向けた電機・電子業界 ... - 経済産業省, https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/chikyu_kankyo/denshi_wg/pdf/2023_001_04_02.pdf
CDP水セキュリティ対策にてAリスト(最高評価)に4年連続で選定 | TDK, https://www.tdk.com/ja/news_center/press/20240208_01.html
環境スコアランキング(CDP気候変動スコア:F企業) | GXリサーチ, https://gx-research.com/scores?market_class=core30&page=2&cdp_score_climate=0
電子部品ディストリビューターのための4つの主要な認証 - Altium Resources, https://resources.altium.com/jp/p/4-key-certifications-electronic-parts-distributors
品質と環境・安全衛生(EHS) - クアーズテック - CoorsTek, https://www.coorstek.com/jp/resources/quality-and-ehs/
効果的なモニタリングコンプライアンスのためのトップ戦略:エレクトロニクスにおけるPFAS、EU POPs、TSCA、SCIPの管理 - Accuris, https://accuristech.com/ja/top-strategies-for-effective-monitoring-compliance-managing-pfas-eu-pops-tsca-and-scip-in-electronics/
2050 年カーボンニュートラルに向けた電機・電子業界のビジョン (基本方針等) - 経団連, https://www.keidanren.or.jp/policy/2022/095_kobetsu04.pdf
新・素材産業ビジョン 中間整理 - 経済産業省, https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/green_transformation/pdf/008_s01_00.pdf
コピー機・複合機の設置場所はどこが最適?NGの置き場所も解説 - OFFICE110, https://office110.jp/copy/knowledge/basic/installation-location/
複合機市場が再編してどうなる?業務効率を最大化する戦略を知ろう! - 株式会社じむや, https://www.zimu-ya.com/mfps-reorganization/
1月 1, 1970にアクセス、 https://www.kyocera.co.jp/sustainability/eco/water.html
2023年 | 115,672t-CO2 |
2022年 | 122,710t-CO2 |
2021年 | 134,684t-CO2 |
2023年 | 683,142t-CO2 |
2022年 | 800,613t-CO2 |
2021年 | 780,884t-CO2 |
2023年 | 3,876,049t-CO2 |
2022年 | 4,837,820t-CO2 |
2021年 | 5,048,146t-CO2 |
スコープ1+2 CORの過去3年推移
2023年 | 399kg-CO2 |
2022年 | 456kg-CO2 |
2021年 | 498kg-CO2 |
スコープ3 CORの過去3年推移
2023年 | 1,934kg-CO2 |
2022年 | 2,389kg-CO2 |
2021年 | 2,745kg-CO2 |
スコープ1+2のCOA推移
2023年 | 179kg-CO2 |
2022年 | 226kg-CO2 |
2021年 | 234kg-CO2 |
スコープ3のCOA推移
2023年 | 868kg-CO2 |
2022年 | 1,182kg-CO2 |
2021年 | 1,289kg-CO2 |
2023年 | 2兆42億円 |
2022年 | 2兆253億円 |
2021年 | 1兆8389億円 |
2023年 | 1,011億円 |
2022年 | 1,280億円 |
2021年 | 1,484億円 |
2023年 | 4兆4654億円 |
2022年 | 4兆939億円 |
2021年 | 3兆9173億円 |
すべての会社と比較したポジション
業界内ポジション
CORスコープ1+2
CORスコープ3
CORスコープ1+2
CORスコープ3
COAスコープ1+2
COAスコープ3
COAスコープ1+2
COAスコープ3