GX RESEARCH
更新日: 2025/5/26

アイシン

7259.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコン製造業
環境スコア450
売上
4,909,557百万円
総資産
4,643,016百万円
営業利益
143,396百万円

COR(売上高炭素比率)

年間CO2排出量(kg)÷ 売上高(百万円)
Scope1+2
464kg
Scope3
4,659kg

COA(総資産炭素比率)

年間CO2排出量(kg)÷ 売上高(百万円)
Scope1+2
491kg
Scope3
4,927kg

Scope1

事業者自らによる直接排出
525,133t-CO2
2023年実績

Scope2

エネルギー消化に伴う間接排出
1,755,040t-CO2
2023年実績

Scope3

事業者の活動に関連する他社の排出
22,873,826t-CO2
2023年実績

スコープ3カテゴリー別データ

カテゴリー2021年度2022年度2023年度
1購入した製品・サービス
11,373,619
10,736,420
(637,199)
11,177,441
(441,021)
2資本財
752,442
761,807
(9,365)
791,314
(29,507)
3燃料・エネルギー関連活動
409,028
361,030
(47,998)
348,710
(12,320)
4輸送・配送(上流)
608,026
669,230
(61,204)
689,386
(20,156)
5事業から発生する廃棄物
54,752
53,040
(1,712)
58,472
(5,432)

国際イニシアティブへの参加

check
SBT
RE100
EV100
EP100
UNGC
check
30by30
check
GXリーグ

ガバナンス・フレームワーク開示

check
サステナビリティ委員会
check
TCFD・IFRS-S2
check
TNFD
潜在的環境財務コスト(シナリオ別試算)
2023年度排出量データ: スコープ1(525,133t)、 スコープ2(176万t)、 スコープ3(2287万t)
低コストシナリオ
想定単価: 3,000円/t-CO₂
スコープ1:15.8億円
スコープ2:52.7億円
スコープ3:686.2億円
総額:754.6億円
売上高比率:1.54%
中コストシナリオ
想定単価: 5,000円/t-CO₂
スコープ1:26.3億円
スコープ2:87.8億円
スコープ3:1143.7億円
総額:1257.7億円
売上高比率:2.56%
高コストシナリオ
想定単価: 10,000円/t-CO₂
スコープ1:52.5億円
スコープ2:175.5億円
スコープ3:2287.4億円
総額:2515.4億円
売上高比率:5.12%
※潜在的環境財務コストは、仮想的なカーボンプライシングシナリオをもとに算出した参考値です。

環境への取り組み

「アイシンエコトープ」が環境省「自然共生サイト」に認定

アイシンの「アイシンエコトープ」が環境省「自然共生サイト」に認定

半田工場の「アイシンエコトープ」が、生物多様性保全が図られている区域として環境省「自然共生サイト(OECM)」に認定された。希少種保全活動やモニタリング調査、環境学習支援等を通じて「30by30」目標達成に貢献する 。

気候変動関連のリスク・機会

※掲載情報は公開資料をもとに作成しており、全てのリスク・機会を網羅するものではありません。 より詳細な情報は企業の公式発表をご確認ください。

リスク

移行リスク

各国での排出ガス・燃費規制強化(例:欧州 )やカーボンプライシング導入は、生産コスト増(特にダイカスト )や既存製品(例:AT)の需要減リスクとなる。市場の急速な電動化シフト  や顧客からのサステナビリティ要求  に対応できない場合、受注機会損失の可能性がある。ESG情報開示義務化(例:CSRD )も対応コスト増と評価リスクを伴う。

物理的リスク

気候変動に伴う異常気象(洪水、干ばつ、熱波等)の激甚化により、生産拠点や物流網への直接的な被害リスクが増大する。特にTNFD分析で特定された水ストレスの高い地域  などでは、水不足による操業制限のリスクも考えられる。サプライチェーン寸断リスクも高まる 。

機会

eAxle等の電動化製品  や燃費・電費向上技術  は主要な成長機会。省エネ・廃棄物削減  によるコスト削減も可能。環境技術(CCU 、水素  等)による1,000億円規模の新事業創出  や、高評価によるブランド価値向上 、グリーンファイナンスへのアクセス改善も期待される。

目標

生産CNを2035年、ライフサイクルCNを2050年に達成目標 。SBTi 1.5℃目標認定取得済 。Scope1+2排出量46.2%削減(2019年度比、2030年目標)、Scope3(Cat1&11)27.5%削減(同)はいずれも2023年度に早期達成 。再エネ導入率15%以上(2025年度目標)も達成済(2023年度18.4%) 。廃棄物・水使用量削減目標も達成済 。

環境アナリストレポート

アイシン株式会社の環境イニシアチブとパフォーマンスに関する包括的分析レポート

序論

近年、自動車部品業界においては、規制当局からの圧力、電動化や持続可能性への市場シフト、そしてステークホルダーからの期待の高まりを背景に、環境・社会・ガバナンス(ESG)要素の重要性が急速に増している。本報告書は、アイシン株式会社(以下、アイシン)の環境戦略、イニシアチブ、パフォーマンス、リスク、および機会について、特に「気候変動」「資源循環」「生物多様性」の三つの柱に焦点を当て、包括的かつ学術的な分析を行うことを目的とする。本分析は、同社の環境スコア算定や戦略的評価に資する可能性のある詳細な情報を提供することを目指すものであり、報告書全体を通じて、表や箇条書き、リスト形式を一切用いず、すべての情報を物語形式の文章のみで記述するという厳格な要件に従う。分析の範囲は、主にアイシンが開示している公式情報(統合報告書、サステナビリティ関連情報など)1および提供された調査結果に基づく比較可能な業界データに限定される。

1. アイシン株式会社の環境経営基盤

1.1. 環境理念とサステナビリティ憲章

アイシンは、その企業活動の根幹に環境への配慮を深く組み込んでいる。グループ理念である「”移動”に感動を、未来に笑顔を」5の実現に向けた取り組みの一環として、環境問題への貢献を位置付けている。同社の持続可能性に関する基本的な考え方を示す「アイシングループ サステナビリティ憲章」7には、自然との調和ある共存や、事業活動を通じた持続可能な社会への貢献といった原則が明記されている5。これらの理念や憲章は、単なるスローガンに留まらず、具体的な企業活動の指針として機能し、同社が環境課題にどのように向き合うかを示す基盤となっている。環境への取り組みをリスク軽減策としてだけでなく、企業の本質的な使命(「”移動”に感動を、未来に笑顔を」)および価値創造プロセス5に不可欠な要素として明確に位置付けている点は、持続可能性を周辺的なCSR活動としてではなく、事業戦略の中核に統合しようとする意図を示唆している。理念が事業活動や社会貢献に直結していること5、そして憲章が企業活動のガイドラインとして定められていること9は、そのコミットメントの具体化と実践に向けた意志を裏付けている。

1.2. 環境推進体制とガバナンス

アイシンにおけるサステナビリティおよび環境関連事項の推進体制は、経営トップの関与を特徴としている。毎年開催されるサステナビリティ会議は、取締役社長が議長を務め、執行役員および主要グループ会社11社の社長が出席し、サステナビリティに関する活動方針の審議・決定を行う場となっている9。この会議には、経営企画部やサステナビリティ推進に密接に関わる部門・グループ会社から選出された専任および兼任のメンバーも参加し、最新動向の共有や方針策定が行われる9。決定された環境方針は、世界中の事業拠点に周知され、実践される体制が取られている5。社長自らが議長を務める会議体が最高意思決定機関となっている事実は、サステナビリティが経営戦略上の高い重要度を与えられていることを示している9。ただし、その実効性は、決定された方針が、多様なグローバル拠点と多数のグループ会社7にわたって、いかに具体的に行動へと落とし込まれ、一貫して実行されるかにかかっている。グループ会社社長の参加9は戦略の浸透を図る試みを示唆するが、アイシンのような大規模で複雑な組織10においては、一貫した実行と説明責任の確保が課題となり得る。

1.3. 第7次連結環境取り組みプランと目標

アイシンは、環境活動を推進するため、1993年から5年ごとに具体的な行動計画を示す「連結環境取り組みプラン」を策定してきた実績を持つ5。この長年にわたる計画策定の歴史は、環境マネジメントにおける成熟したプロセスを示唆している。現在進行中の「第7次連結環境取り組みプラン」(2026年度目標)は、2050年のあるべき姿・ビジョンを描き、そこからバックキャスティング(逆算)する形で策定されたものであり5、従来の5年サイクルと比較して、より戦略的かつ長期的な視点に基づいたアプローチへの移行を示している。このプランでは、主要な重点分野と具体的な目標が設定されており、特に生産活動におけるカーボンニュートラル(CN)を2035年までに達成するという目標8、そしてグループ全体でのCNを2050年までに達成するという目標9が掲げられている。さらに、マテリアリティ(重要課題)と連動した2031年度までのKPI(重要業績評価指標)と目標も設定されている7。注目すべき点として、以前設定したKPIが2024年度に早期達成されたため、より広範な対象への価値提供を目指してKPIが見直されたことが挙げられる9。これは、目標達成に向けた意欲を示す可能性がある一方で、当初の目標設定が達成容易であったか、あるいは能力を過小評価していた可能性も示唆しており、目標の野心性と実際の進捗能力のバランスを評価する上で重要な要素となる。この構造化された計画は、同社の環境パフォーマンスを評価するための明確な枠組みを提供している。

2. 気候変動への対応

2.1. カーボンニュートラル達成に向けた戦略

2.1.1. 生産拠点における排出削減活動

アイシンは、2035年までに生産活動におけるカーボンニュートラル(CN)を達成するという目標8に向け、具体的な取り組みを進めている。この目標達成の鍵となるのは、「エネルギーのムダ削減」「クリーンエネルギー活用」「廃棄物ゼロを目指した資源循環」という三つのテーマである8。これらのテーマに基づき、各生産拠点での排出削減活動が展開されている。具体的な事例として、2023年5月に西尾ダイカスト工場南棟において、CO2を分離・回収し再利用する資源循環システムが稼働を開始したことが挙げられる8。このような拠点固有の取り組みは、企業全体のCN目標達成に貢献するものである。生産拠点における具体的な運用改善(例:西尾工場のCO2再利用 8)に注力している点は、単にオフセットを購入したり、製品効率の向上のみに依存したりするのではなく、製造現場における実質的な変革へのコミットメントを示している。さらに、資源循環をCN戦略に統合していること8は、環境課題に対する相乗効果を狙ったアプローチの可能性を示唆しており、廃棄物とエネルギーの関連性を理解していることを示している。こうした取り組みを全てのグローバル生産拠点に展開していくことが、今後の課題となるだろう。

2.1.2. 製品・技術を通じた貢献

アイシンは、生産活動における排出削減に加え、製品や技術を通じてカーボンニュートラルに貢献することも目指している。特に、モビリティの電動化への対応9が重要な柱となっている。走行時の空気抵抗を低減する空力デバイスや、冷却モジュールなどの熱マネジメントデバイスといった製品開発を通じて、車両全体の電費効率を向上させる取り組みを進めている。2021年に設定した10%の改善目標を大幅に上回り、18%以上の改善が可能であると主張している8。これは、バッテリー式電気自動車(BEV)における航続距離への懸念や効率性要求に応える直接的な取り組みと解釈できる。さらに、2025年以降にSUBARU向けに供給予定の電動駆動システム(eAxle)の開発12や、累計販売台数が700万台に達したとされるハイブリッドトランスミッション開発の継続的な強化12など、電動化の中核技術にも注力している。これらの活動は、内燃機関(ICE)、ハイブリッド車(HEV)、BEVといった多様な車種に対応する部品の効率を高める8と同時に、電動化の核心技術(eAxle、ハイブリッドシステム)12も開発するという二重戦略を追求していることを示している。これにより、EVへの移行期に対応しつつ、世界各地で異なる電動化の進展ペースに対するリスクヘッジも図っていると考えられる。ただし、最大の顧客であるトヨタ自動車への依存度が65.5%と高いこと12は、製品開発の優先順位がトヨタの電動化戦略に大きく影響される可能性を示唆しており、これが戦略的な制約となるか、あるいは連携による機会となるかは注視が必要である。

2.2. 再生可能エネルギー導入状況

アイシンは、カーボンニュートラル戦略の一環として、クリーンエネルギーの導入を重要なテーマの一つとして掲げている8。生産拠点におけるCN達成(2035年目標)8およびグループ全体のCN達成(2050年目標)9の両方において、再生可能エネルギーの活用は不可欠な要素である。しかしながら、提供された情報源においては、具体的な再生可能エネルギーの導入比率や目標値に関する定量的なデータは詳述されていない。クリーンエネルギー活用が戦略的な柱として明記されている8ものの、例えば西尾工場のCO2再利用8や製品効率の数値8のように具体的なデータが伴っていない点は、注目に値する。これは、この特定の側面に関する透明性や報告の詳細さに潜在的なギャップがあること、あるいは、提供された資料内では他の取り組み(運用効率改善や製品開発)と比較して重点が置かれていない可能性を示唆している。この分野については、完全な報告書を参照するなど、さらなる調査が必要となるかもしれない。

2.3. 気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)への準拠

アイシンは、気候変動に関連する情報開示において、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に準拠していることを、サステナビリティデータブック2024などで明示している5。TCFDへの準拠は、投資家やその他のステークホルダーに対し、気候関連のガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標に関する体系的な情報を提供することを意味する。この枠組みを採用することは、気候関連リスクと機会(セクション5で詳述)の分析を構造化する上で重要である。TCFDフレームワークの採用5は、標準化された気候関連財務情報に対する投資家の要求を認識し、それに応えようとする同社の姿勢を示すものである。これにより、同業他社との比較可能性が向上し、気候リスクと機会の特定および管理に対する体系的なアプローチが示唆される。TCFDは気候情報開示に関する世界的な主要基準であり、これへの準拠を明言すること9は、国際的なベストプラクティスに沿った透明性へのコミットメントを示すものであり、ESGを重視する投資家やアナリストにとって重要な要素である。

3. 資源循環の促進

3.1. 廃棄物ゼロに向けた取り組み

3.1.1. 3R(リデュース、リユース、リサイクル)の推進

アイシンは、カーボンニュートラル(CN)達成に向けた取り組みの中で、「廃棄物ゼロを目指した資源循環」を重要なテーマとして位置付けている8。これは、廃棄物削減と資源リサイクルを単なる環境問題としてではなく、気候変動対策と密接に関連するものとして捉えていることを示唆する。同社は、事業活動全般において3R(リデュース、リユース、リサイクル)の原則を推進している。具体的な全社的な廃棄物削減量に関する指標は提供された情報源には見当たらないものの、この取り組みは「循環型社会」の実現に貢献するというより広範な目標8に繋がっている。先進的なリサイクル・リユースの事例としては、前述の西尾工場におけるCO2分離・回収・再利用システム8が挙げられる。資源循環をCN戦略に直接統合すること8は、物質利用、廃棄物、エネルギー消費の間の関連性を認識した、より包括的な視点を示しており、廃棄物管理を独立した、戦略性の低い環境問題として扱うアプローチよりも先進的であると言える。この連携は、西尾工場のCO2再利用のような取り組みが、単なる廃棄物・資源効率のためだけでなく、気候変動への貢献という観点からも評価され、社内での資金調達や戦略的優先順位付けにおいて異なる扱いを受ける可能性を示唆している。

3.1.2. 製品設計における環境配慮

アイシンは、製品ライフサイクルの初期段階である設計時点から、リサイクルやリユースを前提とした「エコデザイン」を導入している8。これは、製品の廃棄段階での管理を考慮に入れた設計を行うことの重要性を認識していることを示している。製品のライフサイクル全体における環境負荷、特にリサイクル可能性は、設計段階での選択に大きく左右されるため、設計段階でリサイクルやリユースに取り組むこと8は、資源循環に対する積極的なアプローチであり、最終的な廃棄物管理ソリューションよりも大きな環境便益と長期的なコスト削減をもたらす可能性がある。この取り組みは、単に廃棄物を減らすだけでなく、持続可能なものづくりを通じて社会に貢献するという同社の広範な目標5にも合致しており、サーキュラーエコノミー(循環経済)の原則への移行を示唆している。

3.2. 水資源の有効活用と管理

資源循環の広範な文脈において、水資源の管理は重要な要素である。責任ある水源の利用、効率的な水使用、適切な排水処理、排出水質の管理などを含む水スチュワードシップは、包括的な資源循環戦略には通常含まれるべき項目である。しかしながら、提供された情報源においては、アイシンの水資源に関する具体的な取り組みやデータは詳述されていない。資料内で重点が置かれているのは、主に材料・廃棄物のリサイクル8やCO28であり、水管理に関する具体的な言及が不足している。これは、水管理の優先順位が相対的に低いこと、プログラムがまだ成熟していないこと、あるいは単にこれらの特定の文書において気候変動や廃棄物と比較して報告の詳細度が低いことを示している可能性がある。水は特に製造業にとって重要な資源であり、その管理に関する詳細情報の欠如8は注目すべき点であり、完全な報告書を確認する際にはさらなる調査が必要な領域であることを示唆している。

3.3. 資源循環技術の開発と展開

アイシンは、資源循環に関する技術開発とその展開にも注力している。その具体的な例として、西尾ダイカスト工場におけるCO2分離・回収・再利用システム8が挙げられる。この技術は、単なる排出削減策に留まらず、回収したCO2を資源として再利用する循環型の取り組みである。さらに注目すべきは、アイシンがこれらの環境技術を将来的に発展させ、約1,000億円規模の新規事業創出を目指している点である8。この野心的な目標は、同社が環境技術開発、特にCO2再利用のような資源循環技術8を、単なるコストやコンプライアンス対応策としてではなく、将来の収益源を生み出す可能性のある重要な機会と捉えていることを明確に示している。この商業化への意欲は、環境イニシアチブの背後にある強力なビジネスドライバーの存在を示唆しており、西尾工場のようなシステムへの投資が、将来の製品やサービスのための研究開発と見なされ、アイシンをグリーン経済におけるソリューションプロバイダーとして位置づける可能性があることを意味している。

4. 生物多様性の保全活動

4.1. 生物多様性に関する基本方針

アイシンは、その環境に対する全体的な姿勢の中で、自然と調和した社会の構築を目指すことを掲げている5。これは、炭素排出や廃棄物管理といった側面だけでなく、生物多様性への配慮も同社の環境理念に含まれていることを示唆している。提供された情報源には、「生物多様性に関する基本方針」といった独立した文書の名称は具体的に挙げられていないものの、より広範な環境方針や、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)への対応方針5から、その原則を推察することができる。持続可能な環境を未来世代に引き継ぐという目標5も、生物多様性保全の重要性を内包していると考えられる。「自然との調和」5といった理念的な表現に加え、TNFDのような自然に焦点を当てた枠組みへのコミットメント5は、同社が生物多様性を関連性の高い環境側面として認識していることを強く示唆している。

4.2. 事業活動が与える影響の評価と低減策

企業の事業活動、特に製造業においては、工場のための土地利用やサプライチェーンを通じた原材料調達などが、生態系や生物多様性に影響を与える可能性がある。これらの影響を評価し、低減策を講じることは、責任ある企業活動の重要な側面である。提供された情報源には、アイシンが実施している具体的な影響評価の方法や緩和プロジェクトに関する詳細は記載されていない。しかし、同社がTNFDへの対応を進めていること5は、自然に関連する影響、依存関係、リスク、機会をカバーする評価プロセスが開発または実施されていることを示唆している。さらに、第7次連結環境取り組みプランの文脈で、国際的な目標である「30by30」(2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として保全するという目標)に言及していること5は、同社が世界の生物多様性に関する目標を認識している証左である。この「30by30」目標5への言及は、たとえ簡潔であっても、アイシンが自社の計画策定を国際的な保全枠組みと関連付けていることを示している。TNFDへの対応5は、この認識を具体的な評価と緩和戦略へと転換し、バリューチェーン全体にわたる潜在的な影響に対処するための道筋を提供するものである。現在、気候関連報告と比較して、自然関連の影響評価はまだ発展途上である可能性もあるが、TNFDへの取り組みはその方向性を示している。

4.3. 自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)への対応

アイシンは、生物多様性に関連する情報開示において、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)の提言に対応していく方針を、同社のウェブサイトやサステナビリティデータブック2024で示している5。TNFDは、気候変動に関するTCFDと同様に、組織が進化し続ける自然関連のリスクと機会について報告し、行動するための枠組みを提供するものである。まだ世界的に普及が進んでいる段階にあるこの比較的新しい枠組みを採用するという決定は、新たに出現しつつあるESG情報開示への期待に対する積極的な姿勢を示唆している。TNFDはTCFDよりも新しく、まだ確立されていないフレームワークであるため、アイシンがその提言への対応を明示すること5は、単なるコンプライアンスを超えたコミットメントレベルを示唆している。これは、同社のバリューチェーンが自然資本に依存していることや、自然関連リスクにさらされていることへの理解に基づいている可能性があり、生物多様性リスクに敏感なESG投資家を引き付ける上で、まだTNFD報告を行っていない同業他社に対する競争優位性をもたらす可能性がある。

4.4. 地域社会との連携による保全活動

グローバルな製造拠点を持つ企業にとって、地域レベルでの保全活動や地域社会とのパートナーシップは、生物多様性戦略の重要な要素となることが多い。これらの活動は、地域の生態系に貢献するだけでなく、事業活動を行う上での社会的な信頼(ソーシャルライセンス)を構築するためにも役立つ。しかしながら、提供された情報源には、アイシンが実施している具体的な地域連携による保全活動の事例は含まれていない。TNFDのような高レベルの枠組みへの言及5は見られるものの、保全のための地域社会との関わりに関する現場レベルでの実施詳細は、これらの特定の資料からはあまり強調されていないように見受けられる。効果的な生物多様性戦略は、しばしば拠点固有の行動と地域のステークホルダーとのエンゲージメントを伴うため、具体的な事例の欠如は、報告上のギャップを示しているか、あるいは気候変動や資源循環技術と比較して、アイシンの戦略がまだ発展途上であるか、公表されている詳細が少ない領域であることを示唆している可能性がある。

5. 環境側面におけるリスクと機会の分析

5.1. 事業継続に関わる潜在的リスク

5.1.1. 規制強化と政策変動リスク

自動車部品業界は、世界的に強化される環境規制(例:排出ガス基準、カーボンプライシング、循環経済指令)や政策変動の影響を直接受ける。特に、電動化を推進する政策や特定の材料に関する規制は、アイシンの従来型製品ライン(内燃機関関連部品など)および新興製品ライン(電動化部品など)の需要に大きな影響を与える可能性がある。アイシンがカーボンニュートラル目標(2035年生産CN8、2050年全体CN9)を積極的に設定し、TCFD/TNFDといった開示フレームワークを採用していること5は、将来の規制リスクを軽減するために、予想される政策動向に先行または整合しようとする戦略的な動きと解釈できる。しかし、特定の顧客(トヨタ自動車)への高い依存度12は、もしトヨタの戦略が特定の地域の規制と整合しない場合に、リスクが集中する可能性を生む。世界的な自動車産業は複雑で進化し続ける規制環境に直面しており、アイシンのような企業は地域ごとに異なる政策(例:EU対中国対米国)を乗り越えなければならない。同社の戦略計画(第7次環境取り組みプラン5など)は、暗黙のうちにこれらの圧力に対応していると考えられる。トヨタとの関係12は、トヨタ自身の規制対応が直接アイシンに影響を与えるため、さらなる複雑さをもたらす。

5.1.2. 市場動向の変化に伴うリスク

アイシンは、急速な市場動向の変化、特にバッテリー式電気自動車(BEV)の普及(中国市場で顕著8)と、現地中国の自動車・部品メーカーの競争力向上8という大きな課題に直面している。これらの変化は、従来の内燃機関関連部品からの移行リスク、そして製品ポートフォリオ、生産方法、サプライチェーンの変革8の必要性を突き付けている。さらに、半導体不足や地政学的緊張(ウクライナ情勢、米中関係)といった外部要因が市場の変動性を増幅させている8。アイシン自身がこれらの市場の破壊的な性質、特に電動化と中国競合の台頭を認識していること8は重要である。課題は、これらの圧力の中で市場シェア10を維持するために、同社が進める「フルモデルチェンジ」8の対応速度と有効性にある。電費効率18%超改善という主張8は、BEVの航続距離や効率性への要求に対する直接的な応答である可能性が高い。技術、生産、販売、サプライチェーンの変革が必要であるとの言及8は、求められる変革がシステム全体に及ぶものであることを強調している。

5.1.3. 気候変動による物理的リスク

気候変動に伴う物理的リスク、例えば異常気象の頻発化・激甚化、水不足、海面上昇などは、アイシンのグローバルな製造拠点、サプライチェーン、物流網に影響を与える可能性がある。TCFDへの準拠5は、理想的にはこのような物理的リスクの評価を含むべきであるが、提供された情報源には具体的なリスク評価の詳細は記載されていない。市場シフトや規制といった移行リスクが資料内でより顕著に議論されている8一方で、気候変動に関連する物理的リスクもTCFD5の重要な構成要素である。提供された資料において物理的リスクへの具体的な言及が少ないことは、報告上のギャップであるか、あるいは移行リスクが現在、より緊急性が高い、または重要性が高いと認識されていることを示唆している可能性がある。アイシンのようなグローバルな拠点を持つ製造業は、施設や供給ラインに影響を与える物理的な気候リスクに本質的にさらされており、TCFD報告5ではこれらの評価が必要とされる。このトピックに関する相対的な沈黙は、完全なTCFD開示をレビューする際に注意を払うべき点である。

5.1.4. 環境評価に関わる評判リスク

環境目標の未達成、ESG評価の低迷、あるいは環境関連の事故などは、企業の評判に損害を与える可能性がある。投資家、顧客、従業員といったステークホルダーの環境パフォーマンスに対する期待は高まっており、これがブランドイメージや、市場アクセス、人材獲得能力に影響を与え得る。アイシンは、統合報告書1やサステナビリティデータブック9などの透明性の高い報告を、ステークホルダーエンゲージメントのツールとして積極的に活用しており1、評判リスク管理の重要性を認識していることがうかがえる。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用機関から統合報告書が「優れた統合報告書」として選定されたこと15は、肯定的な評判要因として挙げられる。報告書をエンゲージメントツールとして繰り返し強調していること1や、GPIFからの評価を特筆していること15は、アイシンが報告を単なるコンプライアンスではなく、積極的な評判管理と見なしていることを示している。したがって、公表した目標(例:CN目標8)を達成できなかった場合、重大な評判上の影響を伴う可能性がある。

5.2. 環境経営を通じた事業機会

5.2.1. 環境技術・製品による市場創造

アイシンは、環境技術分野に大きな事業機会を見出しており、約1,000億円規模の新規事業創出を目指している8。これは、同社が環境関連の研究開発を、単なる内部効率化やコンプライアンス対応のためだけでなく、将来の成長と市場創造の原動力として戦略的に位置付けていることを示している。具体的には、電動化関連部品(eAxle12など)、エネルギー効率向上ソリューション(18%超の改善主張8)、そしてCO2再利用技術8のような資源循環技術の商業化などが機会として考えられる。これらの技術開発は、より環境性能の高いモビリティソリューションを求める市場の需要に応えるものであり、環境技術を主にコストセンターと見なす可能性のある企業とは一線を画す、積極的な商業化への注力がうかがえる。この明確な収益目標8は、CN、資源循環、製品効率化への投資が、持続可能な自動車ソリューションに対する進化する市場ニーズを満たすことによって、具体的な財務リターンを生み出すと期待されていることを示唆している。

5.2.2. サプライチェーンにおける価値向上

サプライチェーン全体での環境面での連携は、新たな価値創造の機会をもたらす可能性がある。例えば、サプライヤーと協力してスコープ3排出量を削減すること、循環型の材料フローを促進すること、あるいは持続可能な原材料調達を確保することなどが考えられる。これにより、サプライチェーンの強靭性が向上し、コストが削減され、特に野心的なESG目標を持つOEM(自動車メーカー)からの要求に応えることができるようになる可能性がある。アイシンの内部オペレーション8や製品開発8については議論されているものの、提供された情報源では、広範なサプライチェーン内での具体的な環境イニシアチブに関する詳細は少ない。これは、リスク(スコープ3排出量)と機会(協力、強靭性)の両方にとって潜在的に重要な領域であり、今後の戦略展開や報告において注目されるべき分野である。アイシンのような主要なTier1サプライヤーにとって、サプライチェーンの排出量と持続可能性の実践は、全体的な環境パフォーマンスとリスクの重要な構成要素である。資料における詳細の欠如は、これが特定の報告書であまり強調されていない領域であるか、戦略の発展途上の側面であることを示唆している可能性がある。

5.2.3. 企業価値とブランドイメージの向上

優れた環境パフォーマンスと透明性の高い報告は、企業価値とブランドイメージを高め、投資家、顧客、そして優秀な人材を引き付ける力となる。アイシンの統合報告書がGPIFの運用機関から評価されたこと15は、この点に肯定的に寄与している。強力なESGパフォーマンスは、ESG評価機関(後述)による好意的な評価に繋がり、資本へのアクセスを改善する可能性もある。アイシンは、サステナビリティ活動、報告の質、そして企業評判・価値の間の関連性を理解しているようで、報告書を積極的に広報し1、外部からの評価を強調している15。これは、ブランドイメージを強化するためにサステナビリティコミュニケーションを戦略的に利用していることを示唆している。ますますESG意識が高まる市場において、優れた環境パフォーマンスと透明性を実証することは、ステークホルダーの認識、ひいては企業価値に直接結びついている。報告書評価の追求15のようなアイシンの行動は、この理解と一致している。

6. 自動車部品業界における先進的環境慣行

自動車部品業界は競争が激しく、環境リーダーシップは重要な差別化要因となりつつある。業界における先進的な環境慣行は、単なる運用効率の改善に留まらず、戦略的なポートフォリオの転換、バリューチェーン全体での深い統合、そして新しい報告フレームワークの採用など、多岐にわたる。

6.1. 気候変動対策の先進事例

業界をリードする企業は、スコープ1、2のみならず、サプライチェーン全体を含むスコープ3排出量についても、科学的根拠に基づいた野心的な削減目標を設定する傾向にある。技術面では、電動化技術の開発と展開が加速しており、競合であるデンソーが電動化、自動運転、熱システムなどに注力していること16や、ヴァレオが自動運転技術(しばしばEVの効率性と関連する)や自動車照明分野で開発を進めていること12が例として挙げられる。また、一部の企業では、過去の主力事業(しばしばパワートレイン関連)を分離し、技術的な成長分野に注力するための事業再編が行われている。コンチネンタルがパワートレイン部門をヴィテスコ・テクノロジーズとして分社化した事例17は、脱炭素化に向けた戦略的転換を示す好例である。さらに、大規模な再生可能エネルギーの調達契約や自家発電設備の導入も、先進的な取り組みとして広まっている。

6.2. 循環経済移行への貢献事例

循環経済への移行に向けた先進的な取り組みとしては、製品の耐久性向上を意図した設計、部品の再製造(リマニュファクチャリング)、重要素材(バッテリー材料やレアアースなど)に関するクローズドループのリサイクルシステムの構築、リサイクル材含有率の高い材料やバイオベース代替材料の開発などが挙げられる。また、回収・リサイクルインフラを改善するために、バリューチェーン全体で企業が協力する動きも見られる。これらの取り組みは、資源枯渇リスクの低減、廃棄物削減、そして新たなビジネスモデルの創出に繋がる可能性がある。

6.3. 生物多様性保全の革新的取り組み

生物多様性に関する先進的なアプローチは、単なる事業所レベルでの緑化や保護活動を超えて進化している。具体的には、バリューチェーン全体にわたる自然関連の影響と依存関係に関する詳細な評価の実施(アイシンも採用を進めるTNFD5に沿ったもの)、負の影響を削減するための定量的目標の設定(例:生息地回復目標)、自然資本への投資(Nature-based Solutions)、そして生物多様性リスクの高い原材料に関する持続可能な調達方針の導入などが含まれる。これらの取り組みは、企業活動が自然環境に与える影響を深く理解し、その保全に積極的に貢献しようとする姿勢を示すものである。

アイシンは、これら業界の先進的な慣行の多くに関与しているように見える5。しかし、電動化への戦略的シフト12、旧来事業の分離17、スコープ3排出量や循環性への深いバリューチェーン統合、そしてTNFDのような新しいフレームワークの採用5といった点で、激しい競争に直面している。アイシンの取り組み5を、これらの広範な業界トレンドや競合他社の行動12と比較検討することは、同社の環境戦略の野心性と有効性を評価する上で不可欠な文脈を提供する。

7. 主要競合他社の環境戦略分析

7.1. 主要競合企業の特定と比較軸

アイシンは、世界の自動車部品業界において、売上高でトップ10前後に位置する主要プレイヤーである10。ただし、ランキングは変動があり、近年ではバッテリー需要の増加を受けてCATL(寧徳時代新能源科技)のような企業が急浮上している11。主要なグローバル競合企業としては、売上高ランキングや市場での存在感を考慮すると、Robert Bosch GmbH(ボッシュ)10、株式会社デンソー10、ZF Friedrichshafen AG(ZF)10、Hyundai Mobis(現代モービス)10、Magna International Inc.(マグナ)10、Continental AG(コンチネンタル)10、Valeo(ヴァレオ)10、Lear Corporation(リア)10、Forvia(フォルシアとヘラーの統合事業体)10などが挙げられる。日本国内では、デンソーに加え、日立Astemo株式会社(日立アステモ)21や株式会社ジェイテクト23なども重要な競合相手となる。特に、日本国内の特許引用情報に基づく「他社牽制力ランキング」では、アイシンはデンソーに次ぐ第2位に位置しており、技術開発における競争力の高さを示している21。本セクションでは、これらの主要競合企業について、提供された情報源から入手可能な範囲で、気候変動、資源循環、生物多様性に関する公表された環境イニシアチブ、目標、パフォーマンスを物語形式で比較分析する。

7.2. 競合他社の気候変動目標と進捗

アイシンが掲げるカーボンニュートラル目標(2035年生産8、2050年全体9)を、主要な競合他社の目標と比較することは、その野心度を測る上で重要である。例えば、業界トップのボッシュは、モビリティソリューション、産業技術、消費財、エネルギー・建築技術など、幅広い分野で事業を展開し、先進運転支援システムや電動モビリティ、自動車用エレクトロニクスなどで貢献している16。デンソーは、自動車の電動化、自動運転、パワートレイン、熱システム、内装部品などに特化し、特に燃費効率の高いエンジンや電動パワートレイン、電動化ソリューションで知られている16。ヴァレオは、自動運転関連技術(レーザーレーダー、カメラ等)や自動車照明(ピクセルヘッドライト等)に強みを持つ一方、電動化事業では欧米市場での内燃機関回帰の影響も受けているとされる12。リアは、シート事業で世界首位クラスの売上を誇る一方、電子システム事業も展開している12。これらの競合他社も、それぞれが持つ技術ポートフォリオや事業戦略に基づき、EVシフトへの対応を進めている。アイシンの戦略は、これらのグローバル競争環境の中で評価される必要がある。

7.3. 競合他社の資源循環イニシアチブ

アイシンは、エコデザインの導入8やCO2再利用技術の開発8など、資源循環に関する取り組みを進めている。これらの取り組みを競合他社のイニシアチブと比較分析することが望ましいが、提供された情報源には、競合他社の廃棄物削減、リサイクル、水管理、あるいは具体的な循環経済戦略に関する詳細な情報は限定的である。しかし、自動車部品業界全体として、資源効率の向上、リサイクル材の使用拡大、サプライチェーン全体での循環性向上といった動きは加速しており、主要な競合他社も同様の課題認識を持ち、それぞれの戦略に基づいた取り組みを進めていると推察される。例えば、製品の長寿命化設計、リマニュファクチャリングの推進、重要資源のリサイクル技術開発などが、業界全体のトレンドとして考えられる。

7.4. 競合他社の生物多様性への配慮

アイシンは、TNFDへの対応を進めることで、生物多様性への配慮を示している5。競合他社が同様の取り組みを行っているか、例えばTNFDやそれに類するフレームワークを採用しているか、大規模な生息地回復プロジェクトに関与しているか、あるいは生物多様性リスクの高い原材料に対して厳格な持続可能な調達方針を実施しているかなどを比較することが、アイシンの相対的なポジションを理解する上で有益である。しかし、この分野に関しても、提供された情報源には競合他社の具体的な取り組みに関する情報は少ない。生物多様性に関する企業の情報開示は、気候変動と比較してまだ発展途上であり、業界全体での取り組み状況を把握するには、さらなる情報収集が必要となる。

総じて、アイシンはボッシュ、デンソー、ZFといった巨大なグローバル企業10がひしめく競争環境の中で事業を展開しており、これらの競合他社も特に電動化と気候変動を中心に積極的な環境戦略を追求している12。アイシンのトヨタへの高い依存度12は、ボッシュのようなより多角化した競合他社とは異なる戦略的特徴をもたらす可能性がある。アイシンは世界ランキング10や日本の特許ランキング21で上位に位置しているものの、競合他社のイノベーションや持続可能性へのコミットメントに追随、あるいはそれを凌駕していくという強いプレッシャーに常にさらされている。競合他社の状況10や戦略12を背景として、アイシンの具体的な目標8や行動8を比較することは、その環境戦略に関する相対的な位置づけや潜在的な競争優位性・劣位性を評価するために不可欠である。

8. 環境パフォーマンスに関する外部評価とベンチマーキング

8.1. 主要ESG評価機関による評価の動向

CDP、MSCI、Sustainalyticsといった主要なESG評価機関は、企業の環境パフォーマンスを評価する上で重要な役割を担っている。これらの機関は、企業への質問票送付や公開情報の分析などを通じて評価を行い、その結果(スコアや格付け)は、投資家やその他のステークホルダーによる意思決定に大きな影響を与える。アイシンの統合報告書がGPIFの運用機関から評価されたこと15は、同社が投資家を意識した評価の重要性を認識していることを示唆している。また、同社のウェブサイト等で外部評価について言及されていること5も、外部からの視線を意識していることの表れと言える。

8.2. アイシン株式会社の環境スコア・評価状況

アイシン株式会社に関する主要なESG評価機関(CDP、MSCI、Sustainalyticsなど)による具体的な環境スコアや格付け情報は、本報告書の作成にあたって提供された資料の中には含まれていなかった。通常、これらの情報は各評価機関が発行するレポートやデータベース、あるいは対象企業自身のサステナビリティ報告書などで確認することができる。したがって、本セクションでは、具体的なスコアを示す代わりに、そのような情報が通常どこで見つけられるかを述べ、今回の分析においては参照可能な資料に具体的な現行スコアが含まれていなかったという事実を記録するに留める。これは、もし実際のデータが入手された場合に、そのデータを挿入するためのプレースホルダーとしての役割を果たす。

8.3. 競合他社との比較分析

客観的なパフォーマンス評価のためには、アイシンの環境スコアや格付け(上記8.2で述べた通り、具体的な数値は提供資料にはない)を、ボッシュ、デンソー、ZF、マグナ、コンチネンタル、ヴァレオといった主要な競合他社のスコアと比較分析することが不可欠である。これらの比較データは、通常、各評価機関から公に入手可能な情報に基づいて行われる。このようなベンチマーキングを通じて、アイシンが同業他社グループの中で、リーダー、平均、あるいは遅れをとっているといった相対的な位置づけを把握することができる。標準化されたESGスコアを用いて競合他社と比較することは、相対的なパフォーマンスに関する客観的な洞察を提供する上で極めて重要である。ただし、繰り返すが、提供された資料には比較対象となる具体的なスコア情報が含まれていなかったため、本報告書では、そのような分析の必要性と方法論を記述することに焦点を当てる。

全体として、アイシンがGPIF運用機関からの評価15のような肯定的な認識を強調している一方で、提供された資料に具体的なESGスコア(CDP、MSCIなど)が含まれていない点は、包括的なベンチマーキングを行う上での重大なデータギャップである。これらの外部スコアにアクセスし分析することは、同業他社やステークホルダーの期待との比較において、アイシンの環境パフォーマンスを客観的に評価するために不可欠である。ESG格付けは投資判断や企業評判に影響を与えるため、徹底的な分析にはこれらの外部ベンチマークを組み込む必要がある。

9. アイシン株式会社への提言:課題と今後の方向性

9.1. 現状分析に基づく主要課題の特定

これまでの分析を通じて、アイシンが直面する主要な環境関連の課題がいくつか特定された。第一に、急速なEVシフトと、特に中国メーカーを含む国内外の競合他社との激しい競争環境8への対応が挙げられる。第二に、特定の顧客(トヨタ自動車)への高い依存度12に伴うリスク管理の必要性がある。第三に、大規模かつグローバルに展開する組織全体で、環境戦略の一貫した実行と浸透を確保するという組織運営上の課題が存在する。第四に、提供された情報からは、水管理、サプライチェーン全体の持続可能性、気候変動による物理的リスク評価といった分野において、取り組みや情報開示の深化が求められる可能性が示唆された。最後に、主要なESG指標や格付けにおいて、競合他社のパフォーマンスに追随、あるいはそれを上回るための継続的な努力が必要である。

9.2. 環境パフォーマンス向上に向けた戦略的提言

特定された課題に基づき、アイシンの環境パフォーマンスをさらに向上させるための戦略的な提言を以下に述べる。まず、電動化関連技術や高効率製品の開発と市場への浸透を加速させること8が推奨される。同時に、可能であれば顧客基盤の多様化を図ることも検討に値する。次に、スコープ3排出量の削減と循環性の向上を目指し、サプライチェーン全体でのエンゲージメントを深化させることが重要である。さらに、再生可能エネルギー導入比率8、水管理実績、生物多様性への影響と保全活動(TNFD5への対応を基盤として)に関する定量的な情報開示を強化することが望ましい。また、TCFD5の枠組みに基づき、詳細な物理的気候リスク評価を実施し、その結果を開示することも推奨される。過去のKPI見直しの経験9を踏まえ、必要に応じてより野心的な中間目標を設定することも、継続的な改善を促す上で有効であろう。

9.3. 持続可能な成長のための重点施策案

持続可能性を事業に深く統合し、長期的な成長を確実にするための重点施策として、以下の点が考えられる。第一に、環境技術イノベーションを、単なるコスト削減やリスク管理ではなく、中核的な事業ドライバーとして位置づけ、その開発と商業化を推進すること(1,000億円規模の事業目標8を足掛かりとして)が重要である。第二に、環境パフォーマンスと役員報酬や事業部門の目標との連動性を強化し、説明責任を高めることが有効である。第三に、サステナビリティ活動を通じて創出される価値に関するコミュニケーションを強化し、ブランドイメージとステークホルダーとの関係をさらに向上させること1が推奨される。第四に、TNFD5のような先進的なフレームワークへの早期対応を継続し、将来を見据えた姿勢を維持することが、競争優位性の確保に繋がる可能性がある。

結論

本報告書は、アイシン株式会社の環境イニシアチブとパフォーマンスを、気候変動、資源循環、生物多様性の観点から包括的に分析した。分析の結果、同社が企業理念5、ガバナンス体制9、そして連結環境取り組みプラン5を通じて、環境経営に対する体系的なアプローチを有していることが確認された。特に、生産効率改善における具体的な進捗8、商業的目標を伴う環境技術開発への注力8、そしてTCFDやTNFDといった国際的な情報開示フレームワークへの積極的な対応5は、同社の強みとして挙げられる。

一方で、自動車業界が経験している急速な市場変革8と、グローバルな競合他社との熾烈な競争10は、同社にとって重大な課題となっている。これらの外部環境の変化に対応し、持続可能な成長を達成するためには、継続的な戦略的適応、イノベーションの推進、そして透明性の高い情報開示が不可欠である。アイシンがこれらの課題に効果的に取り組み、環境側面での強みをさらに強化していくことが、変化の激しい自動車部品業界において競争力を維持し、企業価値を高めていく上で極めて重要となるであろう。

引用文献

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  35. 世界トップレベルの自動車部品メーカー・デンソーを解説いたします! - ジョブハウス,  https://jobhouse.jp/factory/columns/420

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  38. Global Top 100 Global Auto Parts Companies - Aranca,  https://intrapps.aranca.com/applicationdata/revenue-dashboard/Growth%20Benchmarks%20-%20Auto%20Parts%20Companies.pdf

  39. トヨタ王国を支える重臣”トヨタ御三家(デンソー・アイシン精機・豊田自動織機)”を徹底解剖します,  https://unistyleinc.com/columns/735

アイシンのGHG排出量推移

GHG排出量推移

「Scope1」の過去3年の推移

2023年525,133t-CO2
2022年533,137t-CO2
2021年602,011t-CO2

「Scope2」の過去3年の推移

2023年1,755,040t-CO2
2022年1,745,595t-CO2
2021年1,963,240t-CO2

「Scope3」の過去3年の推移

2023年22,873,826t-CO2
2022年21,741,692t-CO2
2021年22,892,796t-CO2

COR(売上高あたりのCO2排出量)推移

スコープ1+2

スコープ1+2 CORの過去3年推移

2023年464kg-CO2
2022年518kg-CO2
2021年655kg-CO2

スコープ3

スコープ3 CORの過去3年推移

2023年4,659kg-CO2
2022年4,938kg-CO2
2021年5,844kg-CO2

COA(総資産あたりのCO2排出量)推移

スコープ1+2

スコープ1+2のCOA推移

2023年491kg-CO2
2022年551kg-CO2
2021年610kg-CO2

スコープ3

スコープ3のCOA推移

2023年4,927kg-CO2
2022年5,257kg-CO2
2021年5,443kg-CO2

業績推移

売上推移

2023年4兆9096億
2022年4兆4028億
2021年3兆9174億

純利益推移

2023年908億円
2022年377億円
2021年1,419億円

総資産推移

2023年4兆6430億
2022年4兆1358億
2021年4兆2058億

すべての会社・業界と比較

環境スコアポジション

アイシンの環境スコアは450点であり、すべての会社における環境スコアのポジションと業界内におけるポジションは下のグラフになります。

すべての会社と比較したポジション

業界内ポジション

アイシンのCORポジション

アイシンにおけるCOR(売上高(百万円)における炭素排出量)のポジションです。CORは数値が小さいほど環境に配慮したビジネスであると考えられます。アイシンのスコープ1+2の合計のCORが464kg-CO2であり、スコープ3のCORが4659kg-CO2になります。グラフはGHG排出量のスコープ別に分かれており、すべての会社と業界内におけるそれぞれのポジションを表しています。
全体におけるアイシンのCORポジション

CORスコープ1+2

CORスコープ3

業界内におけるアイシンのCORポジション`

CORスコープ1+2

CORスコープ3

アイシンのCOAポジション

アイシンにおけるCOA(総資産(百万円)における炭素排出量)ポジションです。COAもCAR同様、数値が小さいほど環境に配慮したビジネスを行っていると考えられます。アイシンのスコープ1+2の合計のCORが491kg-CO2であり、スコープ3のCORが4927kg-CO2になります。グラフはGHG排出量のスコープ別に分かれており、すべての会社と業界内におけるそれぞれのポジションを表しています。
全体におけるアイシンのCOAポジション

COAスコープ1+2

COAスコープ3

業界内におけるアイシンのCOAポジション

COAスコープ1+2

COAスコープ3

環境スコアランキング(全社)

集計数:985企業
平均点数:171.8
CDPスコア気候変動勲章
三菱電機
6503.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコン製造業
505
CDPスコア気候変動勲章
コニカミノルタ
4902.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコン製造業
500
CDPスコア気候変動勲章
豊田自動織機
6201.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコン製造業
480
4
古河電気工業
5801.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコン製造業
470
5
味の素
2802.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコン製造業
460
6
セコム
9735.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコンサービス業
455
7
ダイキン工業
6367.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコン製造業
450
8
アイシン
7259.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコン製造業
450
9
オムロン
6645.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコン製造業
445
10
フジクラ
5803.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコン製造業
445

業界別環境スコアランキング

集計数:484企業
平均点数:194.2
CDPスコア気候変動勲章
三菱電機
6503.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコン製造業
505
CDPスコア気候変動勲章
コニカミノルタ
4902.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコン製造業
500
CDPスコア気候変動勲章
豊田自動織機
6201.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコン製造業
480
4
古河電気工業
5801.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコン製造業
470
5
味の素
2802.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコン製造業
460
6
アイシン
7259.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコン製造業
450
7
ダイキン工業
6367.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコン製造業
450
8
富士通
6702.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコン製造業
445
9
オムロン
6645.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコン製造業
445
10
フジクラ
5803.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコン製造業
445