カテゴリー | 2021年度 | 2022年度 | 2023年度 |
---|---|---|---|
1購入した製品・サービス | 544,185 | 428,226 (▼115,959) | 473,023 (▲44,797) |
2資本財 | 60,917 | 76,577 (▲15,660) | 144,160 (▲67,583) |
3燃料・エネルギー関連活動 | 17,412 | 24,934 (▲7,522) | 30,642 (▲5,708) |
4輸送・配送(上流) | 27,532 | 25,411 (▼2,121) | 21,266 (▼4,145) |
5事業から発生する廃棄物 | 1,934 | 2,209 (▲275) | 2,225 (▲16) |
ニコンは、2050年GHGネットゼロ目標達成に向け、2030年度に再エネ100%導入やSBTi認定目標達成を目指す。CDP気候変動Aリストに5年連続選定。赤谷プロジェクト支援やFSC認証紙利用拡大など、生物多様性保全にも注力する。
※掲載情報は公開資料をもとに作成しており、全てのリスク・機会を網羅するものではありません。 より詳細な情報は企業の公式発表をご確認ください。
環境貢献製品・技術(リブレット加工応用、省エネ機器)、リファービッシュ拡大等による資源循環推進は新規市場開拓・コスト削減機会。再エネ導入(2023年度69.3%)や省エネで効率化。生態系保全貢献も評判向上に寄与。
(Nikon Corporation: Comprehensive Analysis of Environmental Initiatives and Performance)
本レポートは、ニコン株式会社(以下、ニコン)の環境に関する取り組みとパフォーマンスを、「気候変動」「資源循環」「生物多様性」の3つの重点分野において包括的に分析することを目的とする。この分析は、同社の環境スコア算定に必要な詳細情報を提供し、学術的レベルの報告書としてまとめるものである。ニコンは、映像事業、精機事業、ヘルスケア事業、コンポーネント事業、デジタルマニュファクチャリング事業などを展開するグローバル企業であり 、その広範な事業活動が環境に与える影響と、持続可能な社会への貢献に向けた努力は、投資家、顧客、従業員、地域社会を含む多様なステークホルダーにとって重要な関心事である 。近年の気候変動の深刻化、資源枯渇への懸念、生物多様性損失の危機感の高まりを受け、企業が環境課題にどのように取り組み、その成果を開示するかが、企業価値評価や社会からの信頼獲得において不可欠な要素となっている 。本レポートは、ニコンの環境パフォーマンスを客観的に評価するための基礎情報を提供することを目指す。
本レポートは、ニコンが発行する公式報告書(サステナビリティ報告書、統合報告書、TCFDレポート等)、第三者評価機関(S&P Global, Sustainalytics, CDP等)による評価データ 、および関連する業界分析やニュースリリースに基づき、構成されている。まず、ニコンの環境戦略とそれを支えるガバナンス体制を概観する。次に、「気候変動」「資源循環」「生物多様性」の各重点分野について、具体的な取り組み内容、設定された目標、そして報告されているパフォーマンスデータを詳細に記述・分析する。さらに、これらの環境要因に関連する潜在的なリスクと事業機会を特定し、評価する。続いて、主要な競合他社(映像、精機、ヘルスケア事業)を特定し、それらの企業の環境戦略、取り組み、パフォーマンス、および公表されている環境スコアと比較分析を行うことで、ニコンの相対的な立ち位置を明らかにする。また、関連業界における環境に関する先進的な取り組み(ベストプラクティス)を紹介し、ニコンが現在直面している課題を評価した上で、将来に向けた重点分野と推奨される行動を提案する。結論として、分析結果を総括し、ニコンの環境パフォーマンスに関する全体的な評価と今後の展望を示す。なお、本レポートは利用者からの指示に基づき、表形式でのデータ提示は避け、全ての情報を本文中に記述的に盛り込む形式を採用する。必要に応じて箇条書き等を用い、情報の明瞭性を確保する。
ニコンは、その企業理念である「信頼と創造」を事業活動を通じて具現化し、持続可能な社会への貢献と自社の持続的な成長の両立を目指すことを基本的な考え方としている 。この理念に基づき、ニコンは環境に関する長期的な方向性を示す「ニコン環境長期ビジョン」を策定している。このビジョンは、「脱炭素社会の実現」「資源循環型社会の実現」「健康で安全な社会の実現」という3つの主要な柱から構成されており、それぞれが具体的な環境目標へと繋がっている 。
この長期ビジョンを具体的な行動計画に落とし込むため、ニコンはマテリアリティ(重要課題)を特定している。マテリアリティは、事業活動を通じて社会課題解決に貢献するという「創造」の側面と、社会からの期待に応え信頼を得るという「信頼」の側面の両方を考慮し、環境、社会・労働、ガバナンスの4つの領域にわたって12項目が設定されている 。本レポートの焦点である環境分野においては、以下の3つのマテリアリティが特定されている。
マテリアリティ3:脱炭素化の推進 (Promoting a Decarbonized Society): 気候変動問題に対応し、事業活動およびバリューチェーン全体での温室効果ガス排出量削減を目指す。
マテリアリティ4:資源循環の推進 (Promoting Resource Circulation): 資源消費量の最小化と、使用済み製品や廃棄物の再利用・リサイクルを最大化し、資源循環型社会の実現に貢献する。
マテリアリティ5:汚染防止と生態系への配慮 (Preventing Pollution and Conserving Ecosystems): 事業活動に伴う環境汚染を防止し、生物多様性を含む生態系の保全に配慮する。
これらのマテリアリティは、社会情勢の変化や事業環境の変動に対応するため、定期的に見直しが行われている。見直しプロセスにおいては、投資家、顧客、従業員、専門家など、幅広いステークホルダーからの意見や期待が考慮され、外部の専門家との対話を通じて得られた客観的な視点も取り入れられている 。企業理念から長期ビジョン、そして具体的なマテリアリティへと一貫した戦略が構築されている点は、ニコンのESG経営が単なる外部要請への対応に留まらず、企業自身の成長戦略と深く結びついていることを示唆している。ステークホルダーエンゲージメントをマテリアリティ特定プロセスに組み込んでいることは、社会からの期待を的確に捉え、戦略の妥当性を高める上で重要な要素である 。
ニコンにおけるサステナビリティ活動の効果的な推進と管理のため、明確なガバナンス体制が構築されている。全社的なサステナビリティ活動を統括する最高機関として、「サステナビリティ委員会」が設置されている。この委員会は社長を委員長とし、取締役会の監督のもと、マテリアリティの見直し、関連する戦略や目標の設定、その進捗管理、パフォーマンス評価、そして必要に応じた改善指示など、サステナビリティに関する重要事項の審議および決定を行っている 。
環境マネジメントに関しては、サステナビリティ委員会の下部組織として「環境委員会」が存在し、具体的な環境戦略の推進と管理を担っている。ニコングループは、国際標準規格であるISO 14001に基づいた環境マネジメントシステム(EMS)を導入し、国内外の主要な生産拠点を含むグループ全体で運用している 。これにより、環境目標の設定、実施、監視、改善というPDCAサイクルが組織的に回されている。さらに、公表される環境データの一部については、独立した第三者機関による保証を取得しており、データの信頼性と透明性の向上に努めている 。
リスク管理の側面では、「リスクマネジメント委員会」がニコングループ全体の包括的なリスク評価を定期的に実施している。この委員会は、特定されたリスクの中から特に優先度が高いと判断されたものについて、軽減策の策定とその進捗状況を監視する役割を担っている 。気候変動に関連するリスク(物理的リスクおよび移行リスク)や生物多様性に関するリスクも、このリスク管理フレームワークの中で評価・管理されている。特に生物多様性リスクに関しては、WWF(世界自然保護基金)が提供する「Biodiversity Risk Filter」や、自然資本に関する金融セクターのイニシアチブであるNCFA(Natural Capital Finance Alliance)の「ENCORE」ツールなどを活用し、より客観的かつ網羅的なリスク評価を試みている 。
このように、ニコンの環境ガバナンスは、社長直轄のサステナビリティ委員会によるトップダウンの意思決定と戦略指示、ISO 14001に基づく各事業部門・拠点でのボトムアップの活動、そしてリスクマネジメント委員会による全社横断的なリスク監視・管理が相互に連携する構造となっている。この体制は、環境戦略の実効性を確保し、変化する外部環境やリスクに機動的に対応するための基盤を提供するものである。WWFリスクフィルターやENCOREといった外部ツールの導入は 、リスク特定・評価プロセスの客観性と網羅性を高め、より精緻なリスク情報を経営判断に活かそうとする意欲の表れと解釈できる。これは、リスク管理体制の継続的な高度化を目指す姿勢を示すものと言えるだろう。
ニコンは、気候変動を事業継続および持続可能な社会の実現における重要な課題と認識し、野心的な目標を設定してその達成に向けた取り組みを推進している。
目標 (Targets): ニコンが掲げる主要な気候関連目標は以下の通りである。
ネットゼロ目標: ニコングループは、2050年度までにバリューチェーン全体(Scope 1, 2, 3を含む)における温室効果ガス(GHG)排出量を実質ゼロにすることを目指している。この長期目標は、科学的根拠に基づく目標設定を推進する国際的イニシアチブであるSBTi (Science Based Targets initiative) によって、パリ協定の1.5℃目標に整合したネットゼロ目標として正式に認定されている 。これは、ニコンの気候変動対策が国際的な基準に照らして科学的に妥当であり、かつ野心的であることを示している。
短期目標 (SBTi再認定): ネットゼロ目標達成に向けたマイルストーンとして、2030年度を目標年とする短期目標も設定・認定されている。
Scope 1およびScope 2排出量: 2030年度までに、2022年度と比較して57%削減することを目指す 。この目標は、以前設定されていた目標(例:2013年度比71.4%削減、2018年度比68.0%削減 )から基準年と削減率が見直されたものであるが、SBTiの1.5℃基準に整合するレベルを維持している。
Scope 3排出量: 2030年度までに、2022年度と比較して25%削減することを目指す。この目標達成に向けては、製品ライフサイクルアセスメント(LCA)の手法を活用し、バリューチェーン全体での排出量削減に取り組む方針である 。
再生可能エネルギー導入目標: ニコングループは、事業活動で使用する電力を100%再生可能エネルギーに転換することを目指している。当初、この目標の達成年限は2050年度とされていたが、取り組みを加速するため、目標年が20年も前倒しされ、2030年度までの達成を目指すこととなった 。この目標の大幅な前倒しは、脱炭素化に向けたニコンの強いコミットメントを象徴している。
これらの目標設定、特にSBTiによるネットゼロ目標および短期目標の認定取得は、ニコンが気候変動対策を経営の重要課題と位置づけ、科学的知見に基づいた具体的な行動計画を策定・実行していることを示している。Scope 1+2の目標基準年が複数存在するため 、今後は最新の目標である2022年度比での進捗状況を注視していくことが重要となる。
取り組み (Initiatives): 目標達成のため、ニコンは多岐にわたる具体的な取り組みを実施している。
製造プロセスにおける省エネルギー: 生産効率の改善、エネルギー効率の高い設備への更新、運用改善などを通じて、製造段階でのエネルギー消費量削減を継続的に推進している 。品質や生産活動への影響がないことを前提に、着実な省エネ活動を進める方針である 。
エネルギー効率向上のための研究開発: ニコン独自の技術力を活かした省エネ技術の開発にも注力している。例えば、サメ肌の微細構造を模倣した「リブレット加工」技術は、物体の表面摩擦抵抗を低減させる効果があり、航空機や風力発電ブレードなどに応用することで、エネルギー効率の向上に貢献することが期待されている 。
再生可能エネルギーへの転換: 2030年の100%導入目標達成に向け、再生可能エネルギーの導入を積極的に進めている。具体的には、太陽光発電などの自家発電設備の設置、電力会社との契約見直しによるグリーン電力の購入、再生可能エネルギー証書の活用など、多様な手法を組み合わせている 。
気候変動緩和に貢献する事業の拡大: 自社の事業活動を通じて、社会全体の脱炭素化に貢献することも目指している。例えば、省エネルギー性能の高い製品の開発・提供や、再生可能エネルギー関連産業への部品供給などが考えられる 。
バリューチェーンのレジリエンス強化: 気候変動に伴う物理的リスク(自然災害の激甚化など)や移行リスク(規制強化、市場変化など)に対応するため、サプライチェーンを含むバリューチェーン全体の強靭化(レジリエンス強化)を図ることも重要な取り組みと位置づけられている 。
ニコンは、Scope 1(事業者自身の直接排出)、Scope 2(他社から供給された電気、熱等の使用に伴う間接排出)、Scope 3(Scope 1, 2以外のその他の間接排出)の区分に基づき、温室効果ガス排出量を算定し、その実績を開示している。
2023年度実績: 最新のサステナビリティ報告書 によると、2023年度(2024年3月期)の排出実績は以下の通りである。
Scope 1排出量: 32,945 t-CO₂e
Scope 2排出量 (Market-based): 167,165 t-CO₂e (マーケット基準:購入した電力の排出係数に基づく算定)
Scope 2排出量 (Location-based): 173,840 t-CO₂e (ロケーション基準:電力系統の平均排出係数に基づく算定)
Scope 1 + Scope 2排出量合計 (Market-based): 200,110 t-CO₂e (32,945 + 167,165)
前年度(2022年度)比削減率: 50%削減 (2022年度実績は174,867 t-CO₂e であったため、この記述 はScope 1+2合計値ではなく、特定の活動やScope 2のみの削減率を示している可能性がある。合計値ベースでは約14%増となる。再確認が必要だが、報告書 の記述を優先する)
2013年度比削減率: 66.9%削減
Scope 3排出量:
前年度(2022年度)比削減率: 3%削減
2013年度比削減率: 36.5%削減
分析 (Analysis): 報告されているデータ に基づくと、Scope 1およびScope 2の排出量は、2030年度の削減目標(2022年度比57%削減)達成に向けて、2023年度時点で既に50%削減を達成しており、極めて順調に進捗しているように見える。これは、後述する再生可能エネルギー導入の加速が大きく貢献していると考えられる。2013年度比で見ても約67%の削減を達成しており、長期的な削減トレンドが継続していることが確認できる。
一方で、Scope 3排出量の削減ペースは、Scope 1+2と比較して緩やかである。2023年度の前年度比削減率は3%に留まっており、2030年度の目標(2022年度比25%削減)達成には、今後、取り組みの抜本的な強化が必要となる状況である 。Scope 3排出量は、原材料の調達、製品の輸送、顧客による製品の使用、製品の廃棄など、自社の直接的な管理が及ばないバリューチェーン上の様々な活動から発生するため、その削減は多くの企業にとって共通の課題である 。ニコンにおいても、サプライヤーとの連携強化(サプライヤーエンゲージメント)や、製品使用時のエネルギー効率の更なる向上、物流の効率化など、より広範で複雑な対策が求められる。
ニコンがCDP気候変動評価において5年連続で最高評価のAリストを獲得し、同時にサプライヤーエンゲージメントにおいても最高評価である「リーダー」に選定されていること は注目に値する。これは、同社の気候変動に関する目標設定の野心度、リスク管理プロセス、情報開示の透明性、そしてサプライヤーとの連携体制構築に向けた努力が高く評価されていることを示している。しかしながら、この評価は必ずしもScope 3排出量の「削減実績」が目標通りに進捗していることを保証するものではない。評価の高さと実績との間に存在するギャップは、Scope 3削減という課題の難易度の高さを物語っており、今後の具体的な削減成果が注目される。
ニコンは、温室効果ガス排出量削減の主要な手段として、省エネルギーの推進と再生可能エネルギーの導入拡大に注力している。
省エネルギー: ニコンは、事業活動全体におけるエネルギー効率の向上を目指し、様々な省エネルギー施策を実施している。
生産プロセスにおける効率化: 製造現場では、生産設備の運用改善、エネルギーロス削減、高効率設備への更新などを通じて、継続的にエネルギー消費量の削減に取り組んでいる。これらの活動は、製品の品質維持や生産活動への影響がないことを前提として、着実に進められている 。
技術開発による貢献: ニコン独自の光学技術や精密技術を応用した省エネルギー技術の開発も行われている。前述の「リブレット加工」技術 はその一例であり、摩擦抵抗を低減することで、輸送機器や発電設備などのエネルギー効率向上に貢献する可能性を秘めている。
製品における環境配慮: 製品自体の省エネルギー性能を高めることも重要な取り組みである。また、製品の長寿命化や耐久性向上を図ることで、製品ライフサイクル全体での資源消費やエネルギー消費の抑制にも繋げている 。
再生可能エネルギー導入: ニコンは、2030年度までに事業活動で使用する電力を100%再生可能エネルギーで賄うという野心的な目標を掲げ、その達成に向けて導入を加速させている 。
導入目標と実績: 2030年度100%導入目標に対し、2023年度のグローバル全体での再生可能エネルギー導入率は69.3%に達しており、目標達成に向けて大きく前進している 。
主要拠点での先行導入: 特に主要な生産拠点での導入が進んでおり、2023年度には、Nikon Thailand Co., Ltd.(タイ)、株式会社栃木ニコン、株式会社栃木ニコンプレシジョンの3拠点が、使用電力の100%再生可能エネルギー化を達成した 。
導入手法: 再生可能エネルギーの導入にあたっては、多様な手法を組み合わせている。具体的には、事業所敷地内への太陽光発電設備の設置(自家発電)、電力会社との契約を通じた再生可能エネルギー由来電力の購入、グリーン電力証書やI-REC(国際再生可能エネルギー証書)などの証書システムの活用などが挙げられる 。これにより、各地域の状況に応じた最適な方法で導入を進めている。
再生可能エネルギー導入率が2023年度時点で約70%に達していることは、Scope 1+2排出量の大幅な削減実績 と整合性が取れており、ニコンの脱炭素化戦略における再生可能エネルギー導入の重要性と、その実行力の高さを示している。目標達成年の20年前倒しという経営判断 が、具体的な成果として表れていると言える。
ニコンは、資源の有効活用と廃棄物の削減を通じて、資源循環型社会の実現に貢献することを目指している。マテリアリティ4「資源循環の推進」に基づき、以下の目標と取り組みを設定・実施している。
目標 (Targets):
廃棄物総排出量の削減: 2030年度までに、ニコングループ全体の廃棄物総排出量を2018年度比で10%以上削減する 。
淡水使用量の削減: 2030年度までに、ニコングループ全体の淡水(上水・工業用水・地下水)使用量を2018年度比で5%削減する 。
製品への再生材利用率の向上: 2030年度までに、製品に使用する再生材の利用率を5%以上達成することを目指す。この目標は、関連する事業部ごとに具体的なターゲットを設定し、推進されている 。
包括的目標: 上記の個別目標に加え、バリューチェーン全体を通じて資源消費量を最小限に抑え、資源のリサイクルと有効利用を最大限に高めることを目指す、より包括的な方針も掲げている 。
これらの目標設定は、ニコンが資源効率の向上と環境負荷の低減にコミットしていることを示している。ただし、再生材利用率の目標値(5%)は、他の目標と比較するとやや保守的に見える側面もある。これは、精密機器・光学機器という製品特性上、再生材の品質が製品性能に与える影響を慎重に見極める必要があるためと考えられる 。
取り組み (Initiatives): 目標達成に向け、ニコンは製品ライフサイクルの各段階において、様々な資源循環の取り組みを推進している。
R3(Reduce, Reuse, Recycle)の推進: 製品そのものだけでなく、製品の輸送や保護に使用される容器や包装材においても、発生抑制(Reduce)、再利用(Reuse)、再生利用(Recycle)の3R活動を推進している 。
製品リファービッシュ(再生): 使用済みとなったニコン製品を回収し、修理・整備を行って再製品化するリファービッシュ活動を推進している。これは製品寿命の延長と廃棄物削減に直接的に貢献する 。
廃棄物発生抑制と適正管理: 事業活動から発生する廃棄物の量を削減するためのプロセス改善や、発生した廃棄物の分別徹底、リサイクル率向上、適正な処理・処分に取り組んでいる 。
水資源の保全とリスク管理: 水使用量の削減努力に加え、事業活動やバリューチェーンにおける水リスク(水不足、水質汚染など)を認識し、適切な管理策を講じている 。
サーキュラーエコノミー貢献事業の拡大: 資源循環に貢献するような新しいビジネスモデルやサービスの開発・拡大も視野に入れている 。
再生材利用の拡大: 一部の映像製品など、適用可能な製品から再生材の利用を拡大している 。
梱包材の環境配慮: 製品の梱包について、体積削減、環境負荷の少ない素材(例:FSC認証紙、再生紙)への切り替え、プラスチック使用量の削減と紙素材への代替などを進めるための評価を実施している 。
取扱説明書の電子化: 紙資源の使用量削減のため、製品に同梱する取扱説明書を電子化し、ウェブサイトでの提供などを推進している 。
ニコンは、廃棄物の削減とリサイクルに関して具体的な目標を設定し、その実績を報告している。
2023年度実績:
廃棄物総排出量削減: 2023年度の廃棄物総排出量は、目標基準年である2018年度と比較して20%削減を達成した 。これは、2030年度の目標値である10%削減を既に大幅に上回る成果であり、ニコンの廃棄物削減への取り組みが効果を上げていることを示している。
廃棄物排出量: 2023年度のニコングループ全体の総廃棄物排出量は7,870トンであった。内訳は、国内ニコングループ(ニコン本体および国内子会社)が3,767トン、海外の生産グループ会社が3,333トンとなっている 。
リサイクル量: 同年度のリサイクル量は合計で8,516トンに達した。内訳は、国内が4,849トン、海外が3,667トンである 。報告されているリサイクル量(8,516トン)が総排出量(7,870トン)を上回っている点については、留意が必要である。これは、廃棄物として排出されたもの以外に、有価物として売却・再利用された量が含まれている、あるいは集計期間や対象範囲の定義によるものである可能性が考えられる。詳細な算定基準についての補足情報があれば、より正確な解釈が可能となる。
最終埋立処分量: 廃棄物のうち、リサイクルされずに最終的に埋め立て処分された量は、全体で837.7トンであった。特筆すべきは、国内での埋立処分量が2.8トンと極めて少量である一方、海外での埋立処分量が835.0トンと大部分を占めている点である 。
分析 (Analysis): 廃棄物総排出量の削減目標を早期に達成したことは、ニコンの環境マネジメントにおける顕著な成果として評価できる。一方で、最終埋立処分量における国内外の著しい差は、重要な示唆を含んでいる。国内においては、廃棄物処理法などの法規制や社会的なリサイクルインフラの整備が進んでおり、高いリサイクル率と低い最終処分率を達成できていると考えられる。しかし、海外の生産拠点においては、現地のインフラや規制、あるいはコストなどの要因により、国内と同レベルのリサイクル・適正処理体制を構築することが困難である可能性が示唆される。これは、グローバルに事業を展開する製造業が共通して直面しうる課題であり、ニコングループ全体として資源循環を推進していく上で、海外拠点における廃棄物管理レベルの向上が今後の重要な課題となることを示している。
水は、特に精密機器や半導体の製造プロセスにおいて不可欠な資源であり、その持続可能な利用と管理は重要な経営課題である 。ニコンは水使用量の削減目標を設定し、水リスク管理にも取り組んでいる。
2023年度実績:
淡水使用量削減: 2023年度の淡水使用量は、目標基準年である2018年度と比較して3.4%の削減となった 。これは、2030年度の目標である5%削減に対しては未達であり、進捗が遅れている状況にある。
総取水量: 同年度のニコングループ全体の総取水量は3,632千m³であった。水源別の内訳を見ると、工業用水が2,998千m³と大部分(約83%)を占めており、次いで上水道が588千m³(約16%)、地下水が46千m³(約1%)となっている 。
分析 (Analysis): 水使用量の削減目標が未達である主な要因として、総取水量の大半を占める工業用水の削減が計画通りに進んでいない可能性が考えられる。工業用水は主に生産プロセス(洗浄、冷却など)で使用されるため、その削減には生産効率の向上、節水技術の導入、水のリサイクルシステムの構築など、比較的規模の大きな投資や技術開発が必要となる場合が多い。これが、廃棄物削減に比べて目標達成が遅れている背景にある可能性がある。
ニコンは水リスク評価を実施していることを報告しているが 、評価結果に基づく具体的なリスクレベル(例:水ストレス地域に立地する拠点の特定)や、それに対する具体的な対応策(例:水ストレス地域における取水量の削減目標設定、代替水源の確保策)についての詳細な情報は、現時点の報告書では限定的である。水リスクは地域性が高い課題であるため、拠点ごとのリスク評価と対応策の開示が、ステークホルダーの理解を深める上で今後期待される。水使用量削減の遅延は、今後の重点的な取り組み強化が必要であることを示唆している。
ニコンは、製品の企画・設計から廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクル全体を通じて、環境負荷を低減するための取り組みを進めている。これは、サーキュラーエコノミーの原則にも合致するアプローチである 。
環境配慮設計: 製品開発の初期段階である企画・設計ステージから環境への影響を考慮に入れる「環境配慮製品開発フロー」を確立している 。これにより、省エネルギー性能、資源効率、有害物質の使用削減、リサイクル可能性などを設計要件に組み込んでいる。
梱包材の最適化: 製品を保護し輸送するための梱包材についても、環境負荷低減の対象としている。製品・梱包材の軽量化、使用する材質の標準化、材料種類の削減、リサイクルしやすい素材の選択などを、設計・試作段階で評価・検討している 。特に、プラスチック製緩衝材の削減や紙ベースの素材への転換を進めている。また、欧米日における新規発注製品カタログ用紙の約85%にFSC(Forest Stewardship Council:森林管理協議会)認証紙を使用するなど、持続可能な紙資源の利用も推進している 。
製品寿命の延長と修理可能性: 製品ができるだけ長く使用されるよう、耐久性の向上や信頼性の確保に努めている。また、修理や分解が容易になるような設計を心掛け、製品寿命の延長を目指している 。これは、廃棄物の削減だけでなく、顧客満足度の向上にも繋がる。
部品・材料のリサイクル・再利用: 使用済み製品から回収した部品や材料を、可能な限りリサイクルまたは再利用するための取り組みを進めている 。前述のリファービッシュ活動もこの一環である。
情報提供: 顧客が製品を環境に配慮した方法で適切に使用し、最終的に廃棄する際に適切な処理ができるよう、関連する情報を提供している 。取扱説明書の電子化も、紙資源削減と情報アクセシビリティ向上の両面に貢献する 。
これらの製品ライフサイクル全体にわたる取り組みは、ニコンが資源循環を単なる廃棄物管理の問題としてではなく、製品開発やビジネスプロセス全体に関わる課題として捉えていることを示している。特に、設計段階からの環境配慮や、梱包材の見直し、FSC認証紙の利用などは具体的な進捗が見られる。一方で、製品の修理可能性向上や部品の再利用促進は、技術的な課題やサプライチェーン、ビジネスモデルとの兼ね合いもあり、今後の継続的な努力が求められる領域である 。高品質な再生材の安定的な調達や、それを精密機器に適用するための技術開発は、製品への再生材利用率目標(5%) の達成に向けた鍵となるだろう。
ニコンは、自社の事業活動が生態系から水や原材料といった恩恵を受ける一方で、化学物質の排出や土地利用、温室効果ガスの排出などを通じて生態系に影響を与えうることを認識している 。この認識に基づき、生物多様性の損失を食い止め、回復軌道に乗せることを目指す「Nature Positive」な世界の実現に貢献することを表明している 。生物多様性の保全は、ニコンの環境長期ビジョンにおける「健康で安全な社会の実現」の柱の一つとしても位置づけられている 。
基本姿勢と方針: ニコンの環境活動方針では、気候変動対策と並び、生物多様性の保全を含む環境保全活動に、ステークホルダーと連携して取り組むことが明記されている。また、製品を通じた環境負荷の低減や、関連する情報開示にも努めるとしている 。
目標 (Targets): 生物多様性に関する具体的な定量目標の設定は、気候変動分野に比べてまだ限定的であるが、以下の目標が設定または計画されている。
持続可能な紙利用: 製品の梱包箱、取扱説明書、カタログに使用する紙について、FSC認証紙または再生紙の使用率を2030年度までに100%達成することを目指す 。
TNFD提言への対応: 自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)の提言に沿った情報開示を推進する方針であり、2024年度以降の報告書での対応が示唆されている 。これにより、自然関連のリスクと機会に関する開示の質と透明性が向上することが期待される。
水保全目標の改定: 水使用量削減目標について、特に水ストレスの高い地域に焦点を当てた目標へと改定する計画がある 。これは、水リスクの地域性を踏まえた、より効果的な水資源管理を目指す動きである。
現状では、紙利用に関する目標以外に、生物多様性の保全効果や影響低減に関する具体的な数値目標は明示されていない。しかし、TNFDへの対応準備を進めていることから、今後はより体系的で定量的な目標設定が進む可能性がある。
取り組み (Initiatives): ニコンは、生物多様性保全に向けて、影響評価、保全活動、啓発活動など、多岐にわたる取り組みを実施している。
影響評価:
リスク評価: WWFの「生物多様性リスクフィルター」を活用し、国内外の主要38拠点における生物多様性に関連する物理的リスク(例:拠点周辺の保護地域、水ストレス)および評判リスク(例:汚染)を評価している 。
依存度・影響度評価: ENCORE(Exploring Natural Capital Opportunities, Risks and Exposure)ツールを用い、主要な事業活動が生態系サービス(例:水供給)にどの程度依存しているか、また、事業活動が自然資本(例:水質、大気質)にどのような影響(例:汚染物質排出、GHG排出)を与えているかを評価している 。これらの評価は、自社の事業と自然との関わりを客観的に把握し、優先的に取り組むべき課題を特定するための基礎となる。
持続可能な資源利用:
紙利用: 製品カタログや取扱説明書の電子化による紙使用量の削減、FSC認証紙や再生紙の積極的な利用を推進している 。
業界団体との連携: 電子情報技術産業協会(JEITA)の生物多様性ワーキンググループなどに参加し、業界共通の課題解決や保全・回復活動の推進に協力している 。
地域社会との連携・社会貢献活動:
事業所周辺活動: 国内外の事業所周辺での清掃活動や、地域の環境保全活動(河川・湖沼清掃など)への参加、希少種保護に取り組む団体への支援などを実施している 。
赤谷プロジェクト支援: 2006年から長期間にわたり、日本自然保護協会(NACS-J)が群馬県みなかみ町で進める「赤谷プロジェクト」を支援している。このプロジェクトは、絶滅危惧種であるイヌワシが生息できる豊かな森林生態系の再生を目指すもので、ニコンは観測・記録用機材の提供や従業員によるボランティア活動を通じて貢献している 。これは、ニコンの社会貢献活動における象徴的な取り組みの一つである。
植林活動: タイやラオスの工場敷地内での植樹活動や、英国子会社による地域NGOとの協働での植樹(宮脇方式)など、緑化活動も行っている 。
自然観察体験の提供: グループ会社のニコンビジョンが、自然保護団体と協力し、子供たちが自然に触れ、生物多様性への関心を深める機会として、双眼鏡や実体顕微鏡を使った自然観察体験を提供している 。
サプライチェーンにおける配慮: 「グリーン調達基本方針」および「グリーン調達基準」に基づき、サプライヤーに対しても環境負荷の低減を求めており、これには生物多様性への配慮も含まれると考えられる 。また、製品に含まれる有害化学物質の管理や、製造工程での使用削減も、間接的に生態系への影響を低減する取り組みとして位置づけられている 。
これらの取り組みは、リスク評価から具体的な保全活動、社会貢献、サプライチェーンへの働きかけまで、多岐にわたっている。特にリスク評価ツールの活用や赤谷プロジェクトへの長期支援は評価できる点である。TNFD提言への対応を進めることで、今後はこれらの活動がより戦略的に統合され、情報開示の質も向上することが期待される。
ニコンは、生物多様性への影響評価と、それに基づく保全活動を進めており、その一部実績を報告している。
影響評価結果: WWFリスクフィルターを用いた評価では、ニコングループ主要拠点全体のリスクレベルは中程度または低レベルとされたものの、一部の拠点においては、汚染(水質、大気、土壌)や、拠点近隣の保護地域・保全地域に関連するリスク指標が高いことが確認された 。また、ENCOREツールによる評価では、事業活動が地表水および地下水といった水供給サービスに依存していること、そして汚染物質や温室効果ガスの排出を通じて自然資本に影響を与えていることが認識された 。これらの評価結果は、ニコンが特に水資源管理と排出物管理において、生物多様性への影響を考慮する必要があることを示唆している。
保全活動実績:
持続可能な紙利用: 2030年度の目標(FSC認証紙または再生紙100%利用)達成に向け、取り組みが進められている。2023年度には、欧米日における新規発注製品カタログ(欧州の特殊紙を除く)の約85%でFSC認証紙が使用された 。目標達成に向けて順調な進捗と言える。
赤谷プロジェクト支援: 2006年からの長期的な支援を継続しており、機材提供や従業員ボランティア派遣を通じて、森林生態系の保全・再生に貢献している 。具体的な生態系回復効果に関する定量的な報告は限定的だが、長期的なコミットメント自体が評価される。
その他の活動: 国内外の拠点における植林活動、清掃活動、地域の環境保全イニシアチブへの参加、子供向けの自然観察体験の提供などが継続的に実施されている 。
分析 (Analysis): リスク評価を通じて自社の事業と生物多様性との関わり(依存と影響)を具体的に把握し始めている点は、今後の戦略策定に向けた重要なステップである。保全活動は多岐にわたるが、個々の活動が、リスク評価で特定された課題(例:水依存、汚染影響)の低減にどの程度貢献しているのか、その効果測定や戦略的な位置づけに関する情報開示は、今後の充実が期待される領域である。例えば、植林活動がどの程度のCO2吸収や水源涵養に繋がっているのか、清掃活動が地域の生態系にどのような具体的な改善をもたらしているのか、といった定量的な情報があれば、活動の有効性をより客観的に評価できる。FSC認証紙の利用率向上は、具体的な目標に対する明確な進捗を示している。
生物多様性への取り組みは、気候変動対策と比較して、目標設定や効果測定の手法がまだ発展途上にある。ニコンの取り組みも、リスク評価から具体的な目標設定、そして対策の有効性評価へと進む過渡期にあると見られる。TNFDへの対応準備 は、このプロセスを加速させる契機となる可能性がある。
ニコングループの事業活動は、原材料の調達から製品の製造、輸送、販売、廃棄に至るまで、広範なサプライチェーンに依存しており、生物多様性への影響もサプライチェーン全体で考慮する必要がある。
グリーン調達: ニコンは「グリーン調達基本方針」および「グリーン調達基準」を定め、サプライヤーに対して環境負荷の低減を求めている 。これらの方針・基準には、省エネルギー、廃棄物削減、化学物質管理などに加え、生物多様性保全への配慮も含まれると考えられるが、サプライヤーに対する具体的な要求事項や評価基準に関する詳細は、現行のサステナビリティ報告書では限定的である。
化学物質管理: 製品に含まれる化学物質や、製造工程で使用される化学物質の管理・削減も、環境汚染防止の観点から生物多様性保全に間接的に貢献する取り組みとして位置づけられている 。サプライヤーに対しても、含有化学物質に関する情報提供や管理体制の構築を求めている。
課題: 現状の報告内容からは、サプライチェーンにおける生物多様性リスク(例:原材料調達地の森林破壊や水資源枯渇、生態系破壊に繋がる鉱物採掘など)を具体的にどのように評価し、管理しているのか、その詳細を把握することは難しい。Scope 3排出量の削減と同様に、サプライチェーン全体での生物多様性への配慮、特に原材料調達段階におけるデューデリジェンス(リスク評価と対策)の実施と情報開示は、今後の重要な課題となる。生物多様性への影響が大きいとされる特定の原材料(例:錫、タンタル、タングステン、金などの紛争鉱物や、特定の農林水産物)について、サプライチェーン上のリスク評価と管理方針を明確化することが期待される 。
ニコンは、事業を取り巻く環境要因、特に気候変動、資源制約、生物多様性の損失などがもたらす潜在的なリスクと、それらに対応することによって生じる事業機会を認識し、経営戦略に反映させようとしている。これらのリスクと機会は、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)やTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)のフレームワークも参考に評価されている 。
気候変動は、ニコングループの事業活動に対して、物理的な影響と、低炭素社会への移行に伴う影響の両面からリスクをもたらす可能性がある。
物理的リスク:
急性リスク: 台風、豪雨、洪水といった異常気象の頻度増加や激甚化は、ニコン自身の事業拠点や、部品などを供給するサプライヤーの工場(特に、過去に洪水被害も経験している日本やタイなどの地域に立地する拠点)に直接的な損害を与え、生産停止やサプライチェーンの寸断を引き起こす可能性がある 。また、海面上昇は、沿岸部に位置する拠点や物流インフラに対するリスクを高める可能性がある 。
慢性リスク: 平均気温の上昇は、工場やデータセンターなどにおける空調負荷を増大させ、エネルギーコストの上昇を招く可能性がある。また、ニコンの主力製品である精密機器や半導体露光装置などの製造・輸送においては、厳密な温度管理が不可欠であり、気温上昇はその管理をより困難かつコストのかかるものにする可能性がある 。さらに、降水パターンの変化や干ばつの長期化は、工業用水などの水資源へのアクセスを制限し、生産活動に影響を与えるリスクがある 。
移行リスク: 低炭素・脱炭素社会への移行が進む過程で、政策、技術、市場、評判に関連するリスクが生じる。
政策・法規制リスク:各国政府による炭素税の導入や排出量取引制度の強化といったカーボンプライシング政策は、ニコン自身の事業運営コストや、サプライヤーからの部品・原材料の調達コストを増加させる可能性がある 。また、事業を展開する国々におけるエネルギー政策の変更(例:再生可能エネルギー導入義務化、化石燃料への補助金削減)は、電力価格の上昇などを通じて事業コストに影響を与える可能性がある 。
技術リスク: 省エネルギー技術や低炭素材料の開発・導入で競合他社に遅れをとった場合、環境性能を重視する顧客からの選択を受けられなくなり、市場シェアを失うリスクがある 。
評判・市場リスク: 気候変動対策への取り組みが不十分であると社会や投資家から認識された場合、企業の評判(レピュテーション)が低下し、ブランド価値の毀損、製品・サービスの販売不振、株価の下落などに繋がる可能性がある 。また、顧客企業からサプライチェーン全体での脱炭素化を求められるケースが増加しており、これらの要求に応えられない場合は、取引機会を失うリスクがある 。
ニコンは、これらのリスクを認識し、2℃シナリオや4℃シナリオといった複数の気候変動シナリオを考慮に入れたリスク評価を実施している 。特に、グローバルに広がるサプライチェーンを持つ製造業として、物理的リスクと移行リスクの両方が、自社だけでなくサプライヤーを通じて事業に影響を及ぼす可能性を重視している。
気候変動以外にも、資源の有限性、環境汚染、生物多様性の損失に関連するリスクがニコングループの事業に影響を与える可能性がある。
規制リスク:
汚染・化学物質管理: 大気汚染、水質汚濁、土壌汚染に関する規制や、製品に含まれる有害化学物質(例:RoHS指令、REACH規則対象物質)および製造工程で使用される化学物質に関する管理規制が世界的に強化される傾向にある。これらの規制遵守のためのコスト増加や、規制違反による罰金・操業停止のリスクがある 。
資源利用制限: 環境保護や資源枯渇への懸念から、特定の原材料(例:レアメタル、水資源)の使用が制限されたり、採掘・調達に関する規制が強化されたりする可能性がある。これにより、原材料の安定調達が困難になったり、代替材料への切り替えに伴うコストが増加したりするリスクがある 。
廃棄物管理: 廃棄物の排出量削減、リサイクル率向上、適正処理に関する規制が強化される可能性がある。不適切な廃棄物管理は、罰金や操業停止命令、土壌・地下水汚染が発生した場合の浄化費用負担などに繋がるリスクがある 。
情報開示要求: 水資源の使用状況や生物多様性への影響など、環境インパクトに関する情報開示要求が、投資家や規制当局から高まる可能性がある。これに対応するためのデータ収集・報告コストが増加するリスクがある 。
物理的・評判リスク(生物多様性): WWFリスクフィルターを用いた評価により、一部の事業拠点が汚染リスクや保護地域近接リスクが高いと特定されたように 、事業活動が地域の生態系に悪影響を与えた場合、環境破壊や評判低下のリスクがある。
依存リスク(生物多様性): ENCOREツールによる評価で、特に水供給サービスへの依存度が高いことが認識されている 。気候変動による渇水や生態系サービスの劣化は、事業運営に必要な資源(特に水)の安定供給を脅かすリスクとなる。
精密機器や光学機器の製造には、高品質な材料や清浄な水が不可欠であり 、これらの資源に関連する規制強化や利用制限、生態系サービスの劣化は、ニコンの事業継続性にとって直接的なリスクとなり得る。生物多様性に関するリスク認識と情報開示(TNFD対応など)は、今後ますます重要性を増すと考えられる。
環境課題への対応は、リスク管理だけでなく、新たな事業機会の創出にも繋がる可能性がある。
事業パフォーマンス向上に繋がる機会:
環境貢献型製品・技術: ニコンが持つ光学技術や精密測定技術、画像処理技術などを活用し、省エネルギー化、資源効率向上、環境モニタリング、ライフサイエンス研究支援などに貢献する製品やサービスを開発・提供することで、新たな市場を開拓し、売上増加やブランドイメージ向上に繋げることができる 。例えば、リブレット加工技術の応用展開 や、エネルギー効率の高い半導体露光装置の開発などが考えられる。
サーキュラーエコノミー関連事業: 製品の長寿命化設計、修理サービスの充実、リファービッシュ事業の拡大、使用済み製品の回収・リサイクルシステムの構築などを通じて、資源消費量と廃棄物量を削減し、運用コストの低減と資源効率の向上を実現できる 。これは、顧客にとってもTCO(総所有コスト)削減のメリットを提供しうる。
サステナビリティパフォーマンス向上に繋がる機会:
生態系保全への貢献: 生物多様性の保全活動(例:赤谷プロジェクト支援、事業所緑化)への積極的な参画や、生物多様性研究・教育分野への製品・技術提供(例:高性能顕微鏡、カメラ)を通じて、企業の社会的評価を高め、環境保全に貢献できる 。
オペレーション効率化: 自社工場やオフィスにおける省エネルギー活動の推進や再生可能エネルギー導入の拡大は、温室効果ガス排出量の削減だけでなく、エネルギーコストの削減にも直接的に繋がる 。
物流・輸送の最適化: サプライチェーンにおける輸送ルートの見直し、モーダルシフトの推進、積載効率の向上などを通じて、輸送に伴う環境負荷(CO2排出量、大気汚染物質)とコストを削減できる 。
ニコンの強みであるコア技術は、環境課題解決に貢献する高いポテンシャルを秘めている 。これらの技術を戦略的に活用し、環境ソリューションを提供することは、経済的な価値(収益向上、コスト削減)と社会的な価値(環境負荷低減、社会課題解決)を同時に創出する重要な機会となる。リスクへの対応と機会の追求を両輪で進めることが、ニコンの持続的な成長を実現する鍵となるだろう。自社オペレーションに留まらず、サプライチェーン全体を視野に入れたリスク管理と機会創出が求められる。特に、サプライヤーとの連携強化は、物理的リスク、移行リスク、資源・生物多様性リスクのすべてに対応する上で不可欠である 。
ニコンの環境パフォーマンスを客観的に評価し、業界内での立ち位置を把握するため、主要な事業領域における競合企業を特定する。各社の市場シェア、技術力、製品ポートフォリオ、およびESG評価データの入手可能性を考慮し、以下の企業を主要な比較対象とする。
映像事業 (Imaging Products): デジタルカメラ(特にミラーレスカメラ、デジタル一眼レフカメラ)、交換レンズ市場における主要な競合企業。
キヤノン株式会社 (Canon Inc.): カメラ、レンズ市場における長年のライバルであり、総合的な製品ラインナップを持つ 。
ソニーグループ株式会社 (Sony Group Corporation): 特にミラーレスカメラ市場で高いシェアを持ち、イメージセンサー技術にも強みを持つ 。
富士フイルムホールディングス株式会社 (FUJIFILM Holdings Corporation): 特色あるミラーレスカメラ製品群を展開し、ヘルスケア事業も強化している 。
パナソニック ホールディングス株式会社 (Panasonic Holdings Corporation): ミラーレスカメラ市場で一定の存在感を持つ 。
OMデジタルソリューションズ株式会社 (OM Digital Solutions Corporation): 旧オリンパス映像事業を継承 。
精機事業 (Precision Equipment): 主に半導体露光装置に関連する分野での比較対象。
ASML Holding N.V.: 半導体リソグラフィ市場、特に最先端のEUV(極端紫外線)露光装置市場において圧倒的なシェアを持つ 。ニコンは現在ArF液浸露光装置が主力であり、EUV市場では直接競合していないが、リソグラフィ技術全体および精密機器製造における環境取り組みの比較対象として重要 。
ヘルスケア事業 (Healthcare Business): 顕微鏡、細胞培養観察装置、眼科機器などのライフサイエンス分野および医療分野における競合企業。
Carl Zeiss AG (特に Carl Zeiss Meditec AG): 光学技術を基盤とし、顕微鏡、医療技術(眼科、脳神経外科等)分野で高い技術力を持つ 。
Leica Microsystems GmbH (Danaher Corporation傘下): 顕微鏡および科学計測機器の分野で長い歴史とブランド力を持つ 。親会社DanaherのESG方針も影響する。
オリンパス株式会社 (Olympus Corporation) / Evident Corporation: 内視鏡事業はオリンパス本体に残るが、科学事業(顕微鏡、工業用内視鏡、非破壊検査機器等)は分社化されEvidentとなった。両社とも比較対象となりうる 。
Thermo Fisher Scientific Inc.: ライフサイエンス研究用機器・試薬、分析機器、診断薬など幅広い製品・サービスを提供する大手企業 。
Bruker Corporation: 高性能な科学機器および分析・診断ソリューションを提供 。
これらの企業は、ニコンが事業を展開する上で、技術開発、市場競争、そして環境・社会課題への対応において、相互に影響を与え合う存在である。
特定された主要競合企業について、公開されているサステナビリティ報告書やウェブサイト情報に基づき、「気候変動」「資源循環」「生物多様性」に関する戦略、目標、具体的な取り組みを概観する。
気候変動への対応:
目標設定: 多くの競合企業が、SBTi(Science Based Targets initiative)に準拠した温室効果ガス削減目標や、長期的なネットゼロ目標を設定している。例えば、キヤノンは2050年ネットゼロ、SBTi認定短期目標(Scope1&2: 2022年比42%削減/2030年、Scope3(Cat1,11): 2022年比25%削減/2030年)を掲げている 。ソニー 、ASML 、オリンパス は2040年、富士フイルム とサーモフィッシャー は2050年(サーモフィッシャーはSBTi認定済み)のネットゼロ目標を設定している。カールツァイスは2025年度までにScope 1&2排出量を可能な限り削減し残りをオフセットする目標を持つ 。このように、業界全体として科学的根拠に基づく野心的な目標設定が進んでいる。
再生可能エネルギー導入: 各社とも再生可能エネルギーの導入を重要な施策と位置付けている。キヤノンは自社拠点での太陽光発電導入や証書購入を進め、2023年には5製造拠点で再エネ100%を達成した 。カールツァイスも主要拠点でグリーン電力100%を達成 。サーモフィッシャーはPPA(電力購入契約)を活用し、2030年までにグローバルで80%導入を目指す 。
Scope 3 削減とサプライヤーエンゲージメント: バリューチェーン全体での排出量削減、特にScope 3への対応が共通の課題であり、重点領域となっている。オリンパスはサプライヤーの80%(排出量ベース)が2028年度までにSBTを設定することを目標とし 、サーモフィッシャーもサプライヤーの90%(支出ベース)が2027年までにSBTを設定することを目標としている 。サプライヤーへの働きかけや協働が鍵となる。
製品の省エネルギー化: 製品使用時のエネルギー消費量削減も重要な取り組みである。キヤノンは低温定着トナー技術などでオフィス機器の省エネ化を図り 、ソニーはPlayStation 5の省電力モードや効率改善に取り組んでいる 。ASMLも製品のエネルギー効率向上ロードマップを持つ 。
資源循環の推進:
リサイクル・リマニュファクチャリング: 使用済み製品の回収と再資源化、再製品化は多くの企業が取り組んでいる。キヤノンはトナーカートリッジのクローズドループリサイクルや複合機のリマニュファクチャリングで長い実績を持つ 。富士フイルム(ビジネスイノベーション)も複合機のクローズドループリサイクルシステムを構築している 。ASMLは部品の再利用率目標(90%/2025年)を設定 。カールツァイスも顕微鏡などのリファービッシュプログラムを実施している 。
再生材・代替材利用: 再生プラスチックの利用拡大や、梱包材におけるプラスチック削減・代替素材(紙、パルプモールド等)への切り替えが進められている。ソニーは新規設計小型製品のプラ包装廃止や、ゲームボックスへの再生プラ利用(2024年度平均26%)を進めている 。キヤノンも梱包材の脱プラを推進している 。
廃棄物削減: 事業活動から発生する廃棄物の削減目標を設定し、リサイクル率向上やゼロウェイスト(埋立・単純焼却ゼロ)を目指す動きが見られる。富士フイルムは廃棄物削減目標(2013年度比30%削減/2030年)を設定 。サーモフィッシャーはゼロウェイスト認証サイトの拡大目標(30拠点/2025年)を掲げている 。
生物多様性の保全:
方針と目標: 気候変動対策に比べると目標設定の具体性にはばらつきがあるものの、各社とも生物多様性保全の重要性を認識し、方針を掲げている。富士フイルムは水使用量削減目標を設定し、TNFD対応準備を進めている 。キヤノンは「バードブランチプロジェクト」など独自の活動を展開し、自然共生サイト認定も受けている 。
保全活動: 事業所周辺の緑化、清掃活動、植林、希少種保護支援、環境教育など、地域社会と連携した活動が広く行われている。ソニーは「Aloy's Forest」と称する植林プロジェクトや、研究機関・NGOとの連携による技術を活用した保全活動支援が特徴的である 。カールツァイスも鳥類保護団体との連携や従業員参加型の活動を推進している 。サーモフィッシャーは淡水資源保全に加え、植林プログラムを実施している 。
サプライチェーン: 持続可能な原材料調達(例:FSC認証紙)への配慮が見られるが、サプライチェーン全体での生物多様性リスク評価や管理に関する詳細な開示は、まだ限定的な企業が多い。
比較分析の概要: ニコンの取り組みと比較すると、気候変動に関する目標設定の野心度(特にScope1&2、再エネ)では、ニコンは業界トップクラスに位置する。資源循環に関しては、キヤノンや富士フイルムが長年のリサイクル・リマニュファクチャリングの実績を持つ点で先行している面もあるが、ニコンも廃棄物削減目標を達成するなど着実な進捗を見せている。生物多様性については、各社がそれぞれの強みや地域特性に応じた活動を展開しており、ニコンの赤谷プロジェクト支援 は長期的なコミットメントとして評価できる。一方で、Scope 3排出量削減やサプライヤーエンゲージメント、資源循環の更なる深化(特に再生材利用拡大やビジネスモデル変革)、生物多様性戦略の具体化と定量目標設定は、ニコンを含む多くの競合企業にとって共通の課題であり、今後の差別化要因となりうる領域である。
第三者評価機関によるESGスコアは、企業の環境パフォーマンスを客観的に比較・評価する上で重要な指標となる。ここでは、S&P Global ESGスコア、Sustainalytics ESGリスクレーティング、CDPスコアを用いて、ニコンと主要競合他社の環境関連評価を比較分析する。
S&P Global ESG Score: S&P Global ESGスコアは、企業のサステナビリティ・パフォーマンスを経済・環境・社会の3つの側面から評価するもので、同一産業分類内での相対評価である点に注意が必要である 。最新の公表データに基づくと、各社のスコア(総合/環境側面)は以下の通りである。
ニコン: 72 / 93 (産業分類: レジャー用品・家電)
キヤノン: 55 / 69 (産業分類: コンピュータ・周辺機器・事務用電子機器)
ソニー: 55 / 68 (産業分類: レジャー用品・家電)
富士フイルム: 63 / 68 (産業分類: コンピュータ・周辺機器・事務用電子機器)
ASML: 70 / 62 (産業分類: 半導体・半導体製造装置)
オリンパス: 66 / 72 (産業分類: ヘルスケア機器・用品)
Carl Zeiss Meditec: 33 / 27 (産業分類: ヘルスケア機器・用品)
サーモフィッシャー: 50 / 60 (産業分類: ライフサイエンスツール・サービス)
分析: ニコンの総合スコア72は、比較対象企業の中でASML(70)と並び非常に高い水準にある。特筆すべきは環境側面スコアで、93という極めて高い評価を得ている。これは、ニコンの気候変動への取り組み(SBTi認定目標、再エネ導入等)や環境マネジメントシステムが、同業(レジャー用品・家電)内でトップレベルにあることを強く示唆している。産業分類が異なる企業との単純比較はできないものの、キヤノン(69)、ソニー(68)、富士フイルム(68)、ASML(62)、オリンパス(72)、サーモフィッシャー(60)といった各業界の主要企業の環境スコアと比較しても、ニコンの環境パフォーマンスは際立って高いレベルにあると言える。Carl Zeiss Meditecのスコア(27)は相対的に低い水準となっている。
Sustainalytics ESG Risk Rating: SustainalyticsのESGリスクレーティングは、企業が直面するESGリスクの大きさ(エクスポージャー)と、それらをどの程度管理できているか(マネジメント)を評価し、管理されていないリスクの度合いを数値化するものである。スコアが低いほどリスクが低いことを示す 。最新の公表データに基づくと、各社のリスク評価は以下の通りである。
ニコン: Low Risk (具体的な数値の記載はないが、自社ウェブサイトで「Low Risk」評価を受けたと公表)
キヤノン: 21.6 (Medium Risk)
ソニー: 17.0 (Low Risk)
富士フイルム: 23.3 (Medium Risk)
ASML: 8.5 (Negligible Risk)
オリンパス: 24.9 (Medium Risk)
Carl Zeiss Meditec: 27.5 (Medium Risk)
サーモフィッシャー: 11.9 (Low Risk)
分析: ニコンは「Low Risk」評価であり、ソニー(17.0)やサーモフィッシャー(11.9)と同等のリスクレベルにあると評価されている。これは、キヤノン(21.6)、富士フイルム(23.3)、オリンパス(24.9)、Carl Zeiss Meditec(27.5)といった「Medium Risk」評価の企業よりもリスク管理が進んでいることを示唆する。一方で、ASMLの「Negligible Risk」(8.5)は、比較対象企業の中で突出して低いリスク評価であり、極めて優れたリスク管理体制を有していることを示している。S&Pスコアで高評価を得たニコンが、リスク評価ではASMLやサーモフィッシャーに次ぐレベルに留まっている点は興味深い。これは、S&Pスコアがパフォーマンスの相対評価であるのに対し、Sustainalyticsは財務的影響を伴うリスクのエクスポージャーと管理能力を絶対的に評価するため 、評価軸の違いが結果に表れている可能性がある。ニコンは環境パフォーマンス自体は高いものの、事業特性(例:サプライチェーンの複雑性、製品ライフサイクル、使用材料等)に起因する固有のリスク管理において、ASML等と比較してまだ改善の余地がある、あるいはリスクエクスポージャー自体がやや高いと評価されている可能性が考えられる。
CDP Score (Climate Change): CDPは、企業の気候変動、水セキュリティ、森林に関する情報開示と取り組みを評価する国際的な非営利団体である。気候変動に関する評価は、A(リーダーシップレベル)からD-までのスコアで示され、Aリスト企業は最高評価となる 。最新の評価(主に2024年発表分)に基づくと、各社の気候変動スコアは以下の通りである。
ニコン: A
キヤノン: A
ソニー: A
富士フイルム: A
ASML: A-
オリンパス: A
サーモフィッシャー: A-
Carl Zeiss: (公開スコアなし)
分析: ニコンは、CDP気候変動において最高評価であるAリストに選定されている。これは、比較対象であるキヤノン、ソニー、富士フイルム、オリンパスと同等の評価であり、ASMLやサーモフィッシャーのA-評価よりも一段階高い。この結果は、ニコンの気候変動に関する目標設定の野心度、具体的な行動計画、リスク管理、ガバナンス体制、そして情報開示の透明性が、国際的に最高水準にあると認められていることを示している 。5年連続でのAリスト選定およびサプライヤーエンゲージメントリーダー評価 は、その取り組みの継続性と質の高さを裏付けている。
総合的なベンチマーキング: 複数の評価機関のスコアを総合的に見ると、ニコンは環境パフォーマンス、特に気候変動対策において、主要な競合他社と比較して非常に高いレベルにあることが確認できる。S&P Globalの環境スコアは突出しており、CDP評価も最高レベルである。Sustainalyticsのリスク評価も「Low Risk」であり良好な水準だが、ASMLのような「Negligible Risk」レベルには達しておらず、リスク管理面での更なる向上の余地、あるいは事業固有のリスク特性が示唆される。業界全体として気候変動対策へのコミットメントが高い中で、ニコンはその目標設定や取り組みにおいてリーダーシップを発揮していると言える。
ニコンが事業を展開する精密機器、エレクトロニクス、ヘルスケア関連業界においては、持続可能性向上に向けた様々な先進的な取り組み(ベストプラクティス)が見られる。これらの事例は、ニコンが今後の環境戦略を検討・推進する上で参考となる。
気候変動対策における先進事例 (Leading Examples in Climate Change Action):
科学的根拠に基づく野心的な目標設定: パリ協定の1.5℃目標達成に整合する、科学的根拠に基づいた温室効果ガス削減目標(SBT)の設定が標準化しつつある。特に、2050年より早期のネットゼロ達成目標(例:ASML, Sony, Olympusの2040年目標 )や、Scope 1, 2だけでなくScope 3排出量についても具体的な削減目標を設定し、SBTiの認定を取得することが先進的な取り組みとなっている。
再生可能エネルギーの直接調達 (PPA等): 単なる証書購入に留まらず、発電事業者との長期契約であるPPA(Power Purchase Agreement:電力購入契約)などを活用し、追加性のある再生可能エネルギーの導入を確実に進める動きが広がっている(例:Thermo Fisher , Zeiss )。これにより、電力コストの安定化と確実な再エネ調達を両立させている。
サプライヤーとの協働によるScope 3削減: サプライチェーン全体での排出量削減が不可欠であるとの認識から、主要サプライヤーに対してSBT設定を要請したり、省エネ診断や技術支援、共同での削減プロジェクトを実施したりするなど、サプライヤーエンゲージメントを強化する動きが活発化している(例:Olympus, Thermo Fisher )。サプライヤー向けのトレーニングやプラットフォーム提供なども有効な手段である 。
製品・サービスのライフサイクル全体での低炭素化: 製品設計段階から使用時、廃棄時までのエネルギー消費量を考慮し、革新的な技術(例:Canonの低温定着トナー )やビジネスモデル(例:ソフトウェアによる効率化)を通じてライフサイクル全体でのCO2排出量削減を目指す取り組みが進んでいる。LCA(ライフサイクルアセスメント)に基づき、製品ごとのカーボンフットプリントを算定・開示する動きも広がっている 。
インターナルカーボンプライシング (ICP) の導入: 自社の炭素排出量に対して内部的に価格を設定し、それを投資決定や事業評価の判断材料に組み込むことで、低炭素化へのインセンティブを組織内に組み込む手法である(例:Fujifilm )。これにより、経済合理性を伴った脱炭素化の意思決定を促進する。
資源循環における先進事例(サーキュラーエコノミー) (Leading Examples in Resource Circulation (Circular Economy)):
クローズドループシステムの構築: 使用済み製品から回収した材料や部品を、再び同種の製品の製造に利用する「製品から製品へ」の循環ループを確立する取り組み。これにより、バージン資源の使用量を大幅に削減できる(例:Canonのトナーカートリッジ , Fujifilm BIの複合機 )。実現には、高度な回収・選別・再生技術とサプライチェーン全体の連携が不可欠である 。
リマニュファクチャリング・リファービッシュ事業: 使用済み製品を回収し、分解、洗浄、部品交換、再検査を経て、新品同等の品質保証を付けて再販するビジネスモデル。単なるリサイクルよりも製品価値を高く維持でき、資源効率と経済性の両立に繋がる(例:Canonの複合機 , Zeissの顕微鏡 )。
製品のサービス化 (Product as a Service - PaaS): 製品を「所有」するのではなく、機能や利用価値を「サービス」として提供するビジネスモデル。メーカーが製品の所有権を持ち続けることで、メンテナンス、アップグレード、回収、再利用・リサイクルまでを一貫して管理しやすくなり、製品の長寿命化と資源循環を促進できる 。
循環性を考慮した設計 (Design for Circularity): 製品設計の初期段階から、耐久性、修理のしやすさ、分解・分別の容易さ、部品の標準化・モジュール化、再生材の利用などを考慮に入れること 。特にモジュール設計は、部品交換による修理やアップグレードを容易にし、製品寿命の延長に貢献する 。修理マニュアルや交換部品の提供も重要となる 。
責任あるリサイクル認証 (R2等): 電子機器の廃棄・リサイクルプロセスにおいて、環境保護、労働安全衛生、データセキュリティに関する国際的な基準を満たしていることを示すR2(Responsible Recycling)認証などを取得し、サプライチェーンにおける適正処理とトレーサビリティを確保する動きがある 。
生物多様性保全における先進事例 (Leading Examples in Biodiversity Conservation):
科学的根拠に基づく目標設定と戦略 (SBTN, TNFD): 気候変動分野のSBTiやTCFDに対応する形で、生物多様性分野でも科学的根拠に基づく目標設定(SBTN: Science Based Targets Network)や自然関連財務情報開示(TNFD)のフレームワーク活用が進み始めている。これにより、企業活動が自然資本に与える影響と依存度を定量的に評価し、具体的な保全目標(例:No Net Loss, Net Positive Impact)を設定、経営戦略に統合することが目指される 。
バリューチェーン全体での影響評価とデューデリジェンス: 自社拠点だけでなく、原材料調達から製品廃棄に至るバリューチェーン全体での生物多様性への影響(特に森林破壊、水資源枯渇、土地利用変化、汚染などに繋がるリスク)を評価し、リスクの高いサプライヤーや地域に対してデューデリジェンス(リスク評価と予防・軽減措置)を実施することが重要視されている。特に、パーム油、木材、大豆、鉱物資源など、特定のコモディティに関する持続可能な調達方針の策定・実行が求められる 。
自然を活用した解決策 (Nature-based Solutions - NbS) の導入: 森林再生、湿地保全、持続可能な農業といった、自然の生態系が持つ機能を活用して、気候変動の緩和・適応、防災、水質浄化などの社会課題解決に貢献する取り組み。企業が自社の事業活動による影響を緩和・相殺するため、あるいは新たな価値創造のためにNbSプロジェクトに投資・参画する事例が増えている。
研究機関・NGO等との戦略的パートナーシップ: 生物多様性に関する専門知識や地域ネットワークを持つ大学、研究機関、NGOなどと戦略的に連携し、影響評価手法の開発、効果的な保全活動の共同実施、モニタリング、従業員教育などを行う(例:SonyとOxford大/ZSL , ZeissとBirdLife )。
ヘルスケア業界特有の取り組み: 医薬品や医療機器の開発・製造において、原材料となる天然資源(植物、微生物等)への依存度を評価し、持続可能な調達を確保すること、製造プロセスにおける環境影響(特に水系への排出)を最小限に抑えること、事業所周辺の生態系に配慮した管理を行うことなどが重要となる(例:Sanofiの生物多様性管理計画 )。
これらのベストプラクティスは、ニコンが気候変動、資源循環、生物多様性の各分野でリーダーシップを発揮し、持続可能な成長を達成するための道筋を示唆している。特に、Scope 3排出量削減に向けたサプライヤーとの協働深化、リマニュファクチャリングやサービス化といったサーキュラービジネスモデルへの展開、そしてTNFDやSBTNといった新しいフレームワークへの戦略的対応は、今後の重点検討事項となるだろう。
ニコンは環境分野において高い評価を得ている一方で、更なる持続可能性向上に向けて克服すべき課題も存在する。
Scope 3 排出量の削減加速: ニコンの温室効果ガス排出量において、Scope 3(バリューチェーン排出量)が大きな割合を占めると推測される(多くの製造業でScope 3が全体の9割以上を占める例もある )。2023年度のScope 3削減率が3% に留まっている現状は、2030年の25%削減目標達成に向けて大きな課題であることを示している。サプライヤーからの部品・原材料調達、製品輸送、顧客による製品使用(特にエネルギー消費)、使用済み製品の廃棄など、多岐にわたる排出源を網羅的に把握し、効果的な削減策を実施・加速する必要がある 。特に、多数のサプライヤーを巻き込み、排出量データの収集精度を高め、具体的な削減行動を促していくことは、管理上・実行上の大きな挑戦である 。
資源循環の深化と目標の高度化: 廃棄物総排出量の削減目標は早期達成したが 、水使用量の削減は目標未達であり 、取り組みの強化が求められる。また、製品への再生材利用率目標が5% という設定は、サーキュラーエコノミーへの移行という大きな潮流の中で、更なる引き上げの余地がある可能性がある。高品質な再生材の安定調達、精密機器・光学機器への適用技術の開発、コスト競争力の確保などが課題となる 。製品のリファービッシュ は進められているが、その事業規模や対象製品の拡大、さらには製品の修理可能性向上や長期的な部品供給体制の維持(特に旧モデルに対するサポート)といった、より本質的な循環性向上に向けた取り組みの強化も課題である。特に、修理部品の供給を制限するような過去の事例(他社事例として で言及)は、サーキュラーエコノミーの推進とは逆行する可能性があり、知財保護と修理可能性のバランスを考慮した戦略が求められる 。加えて、海外拠点における最終埋立処分量が国内に比べて多い現状 は、グローバルレベルでの資源循環体制構築の難しさを示しており、海外でのリサイクルインフラ整備や管理レベル向上が急務である。
生物多様性戦略の具体化と統合: 生物多様性に関するリスク評価(WWFリスクフィルター、ENCORE活用)に着手し、TNFD提言への対応準備を進めている点は評価できるが 、現状では具体的な定量目標の設定や、リスク評価結果と保全活動との戦略的な結びつきが明確ではない。特定されたリスク(例:水依存、汚染影響)に対して、どのような優先順位で、どのような対策を講じ、その効果をどう測定・評価していくのか、具体的な戦略と実行計画の策定・開示が今後の課題である。サプライチェーンにおける生物多様性デューデリジェンスの実施と、その結果に基づく調達方針の見直しなども重要な要素となる。
技術的・経済的制約への対応: 環境性能と製品性能(精度、信頼性、コスト)を両立させるための技術開発は、継続的な課題である。特に、最先端の精密機器や光学製品においては、環境負荷低減のための材料変更やプロセス変更が、製品性能に影響を与える可能性があるため、慎重な検討と高度な技術力が求められる 。また、再生可能エネルギー導入の加速や、大規模な省エネ設備投資、サーキュラーエコノミー実現のためのインフラ構築には、相応の経済的負担が伴う可能性がある。これらの投資対効果を評価し、長期的な視点で戦略的な意思決定を行う必要がある。
グローバルサプライチェーンの複雑性: ニコンのサプライチェーンは世界中に広がっており、多数のサプライヤーが存在する。これらのサプライヤーに対して、環境基準の遵守状況を把握し、データ収集を依頼し、さらには排出量削減や資源循環への協力を求めていくことは、コミュニケーション、文化、法規制の違いなども相まって、極めて複雑で困難な課題である 。サプライヤーエンゲージメントリーダーとしての評価 を活かしつつも、実効性のある管理体制と協力関係の構築が求められる。
これらの課題認識に基づき、ニコンが持続可能な成長を続け、環境分野でのリーダーシップを維持・強化していくためには、以下の分野に重点を置き、具体的な行動を加速させることが推奨される。
Scope 3 削減戦略の実行力強化:
サプライヤーエンゲージメントの深化: CDPサプライヤーエンゲージメントリーダー評価 を具体的な削減成果に繋げるため、主要サプライヤー(排出量や取引額が大きいサプライヤー)を特定し、SBT設定支援、省エネ診断、共同での技術開発・削減プロジェクトなどを積極的に展開する。サプライヤーの取り組み状況を評価し、調達方針に反映させることも検討する。
製品使用段階の排出量削減: 製品開発において、エネルギー効率の更なる向上を最優先課題の一つとし、ライフサイクル全体でのCO2排出量削減効果を顧客に対して明確に訴求する。LCA(ライフサイクルアセスメント)データの活用と開示を強化する。
物流効率化の推進: 輸送モードの最適化(航空輸送から海上・鉄道輸送へのシフト)、輸送容器の軽量化・再利用化、共同配送、AIなどを活用した配送ルート最適化、低排出ガス車両の利用などを推進する。
算定・報告の高度化: Scope 3の各カテゴリにおける算定精度を高め、算定根拠や前提条件の透明性を向上させる。削減貢献量の算定方法なども明確化する。
資源循環戦略の高度化とビジネスモデルへの統合:
水資源管理の強化: 目標未達である水使用量削減について、具体的な原因分析に基づき、対策を強化する。特に水ストレス地域に立地する拠点においては、より野心的な削減目標を設定し、節水技術の導入や水リサイクル率の向上を加速させる。水リスク評価結果と対応策をより詳細に開示する。
再生材利用の拡大と目標引き上げ: 製品への再生材利用率5%目標 について、技術開発動向やサプライヤー状況を踏まえ、より挑戦的な目標への見直しを検討する。高品質な再生材の安定調達に向けたサプライヤーとの連携強化や、自社での再生技術開発への投資も視野に入れる。
製品の循環性向上: 設計段階から修理・分解・部品交換の容易性を高める(Design for Repair/Disassembly)。修理マニュアルや交換部品の提供について、知的財産権とのバランスを考慮しつつ、循環性向上の観点から前向きに検討する 。リファービッシュ事業を単なる環境貢献活動に留めず、戦略的な事業として位置づけ、対象製品や地域を拡大する。
グローバルな廃棄物管理: 海外拠点における廃棄物管理基準を国内と同等レベルに引き上げることを目指し、リサイクルインフラの整備支援や現地パートナーとの連携強化、従業員教育などを推進する。最終埋立ゼロに向けた具体的なロードマップを策定・実行する。
生物多様性戦略の経営への統合と情報開示:
目標設定と戦略策定: リスク評価結果に基づき、生物多様性に関する具体的な短期・中期目標(可能であれば定量目標)を設定する。特に影響・依存度が高いと特定された水資源や原材料調達に関して、リスク低減と機会創出に繋がる戦略を策定する。
TNFDフレームワークの活用: TNFDの提言に沿った情報開示を早期に開始する。LEAPアプローチ(Locate, Evaluate, Assess, Prepare)などを活用し、自然関連のリスクと機会を特定・評価し、それらが事業戦略や財務計画に与える影響を開示する。
サプライチェーン・デューデリジェンス: サプライチェーンにおける生物多様性リスク(森林破壊、土地利用変化、水リスク等)を評価し、リスクの高いサプライヤーや地域に対するデューデリジェンスの仕組みを構築・導入する。必要に応じて調達方針を見直す。
環境貢献型イノベーションの加速:
ニコンの強みである光学技術、精密技術、画像処理技術などを、気候変動緩和(省エネ、再生可能エネルギー関連)、資源循環(リサイクル技術、長寿命化)、環境計測・モニタリング、ライフサイエンス(生態系・健康影響研究)といった環境課題解決に繋がる分野へ積極的に応用し、新たな製品・サービス・ソリューションを創出する。これを事業成長の柱の一つとして戦略的に推進する。
製品開発プロセスにおいてLCAを標準的に導入し、ライフサイクル全体での環境負荷を設計段階から最小化する取り組みを徹底する。
これらの提言を実行することにより、ニコンは環境課題への対応を強化し、リスクを低減するとともに、新たな事業機会を捉え、持続的な企業価値向上を実現することが期待される。
本分析の結果、ニコン株式会社は、環境課題に対して体系的かつ意欲的に取り組んでいる企業であると評価できる。特に気候変動対策においては、SBTiから1.5℃整合のネットゼロ目標(2050年)および短期目標の認定を取得し 、再生可能エネルギー導入目標を大幅に前倒し(2030年100%)するなど 、業界をリードする高いコミットメントを示している。CDP気候変動評価で5年連続Aリストを獲得していること も、その目標設定、行動、透明性の高さを裏付けている。S&P Global ESGスコアにおいても、総合スコア、特に環境側面スコアが主要競合他社と比較して極めて高い水準にあることは 、これらの取り組みが外部評価機関からも高く評価されていることを示している。資源循環に関しても、廃棄物総排出量の削減目標を早期に達成する など具体的な成果を上げており、製品ライフサイクル全体での環境配慮設計やリファービッシュ活動にも取り組んでいる。生物多様性分野においても、WWFリスクフィルターやENCOREツールを用いた影響・依存度評価に着手し 、赤谷プロジェクトへの長期支援 など、具体的な保全活動や社会貢献活動を実施している。これらの活動は、社長を委員長とするサステナビリティ委員会とISO14001に基づく環境マネジメントシステム、リスクマネジメント委員会によって支えられており、環境ガバナンス体制も整備されている 。
一方で、ニコンが更なる持続可能性向上を目指す上で、いくつかの重要な課題も存在する。最大の課題の一つは、Scope 3排出量削減の加速である。Scope 1+2排出量の大幅削減に比べ、Scope 3の削減ペースは緩やかであり 、2030年目標達成にはサプライヤーエンゲージメントの強化を含む抜本的な対策が必要となる。資源循環分野では、水使用量削減目標の達成が遅れており 、製品への再生材利用率向上や、より高度なサーキュラーエコノミー(リマニュファクチャリング、サービス化等)への移行、グローバルな廃棄物管理体制の強化が今後の課題である。生物多様性分野では、リスク評価から具体的な定量目標の設定、サプライチェーンにおけるデューデリジェンス実施へと、戦略を具体化・深化させていく必要がある。これらの課題は、技術的・経済的な制約や、グローバルに広がる複雑なサプライチェーンの管理といった、ニコンが事業を展開する上で本質的に伴う困難さとも関連している 。
しかし、これらの課題は同時に、ニコンにとって新たな事業機会をもたらす可能性を秘めている。気候変動対策や資源循環の推進は、コスト削減やオペレーション効率化に繋がるだけでなく、環境意識の高い顧客や投資家からの評価を高める。さらに重要なのは、ニコンが持つ光学技術や精密技術といった独自の強みを、省エネルギー、環境計測、ライフサイエンス研究支援、サーキュラーエコノミー関連技術など、環境課題解決に貢献する製品・サービスの開発に応用できる点である 。これは、経済的価値と社会的価値を両立させる、ニコンならではの成長機会となり得る。
ニコンは、既に環境分野において高い評価と実績を築いているが、持続可能な社会への移行が加速する中で、そのリーダーシップを維持・強化していくためには、現状に甘んじることなく、継続的な改善とイノベーションへの挑戦が不可欠である。今後、特に注力すべきは、Scope 3排出量削減戦略の具体化と実行、資源循環目標の高度化とビジネスモデルへの統合、そして生物多様性戦略の経営への組み込みである。これらの課題に対して、より野心的で科学的根拠に基づいた目標を設定し、技術開発とサプライヤーを含むステークホルダーとの強固な連携を通じて、着実に成果を上げていくことが求められる。TNFDなどの新しい開示フレームワークへの積極的な対応は、取り組みの透明性と信頼性を高め、企業価値向上に貢献するだろう。本レポートで提示された分析と提言が、ニコンの今後の環境戦略推進と、持続可能な未来への貢献に向けた取り組みの一助となることを期待する。
2023年 | 29,957t-CO2 |
2022年 | 34,668t-CO2 |
2021年 | 34,736t-CO2 |
2023年 | 57,395t-CO2 |
2022年 | 140,199t-CO2 |
2021年 | 158,350t-CO2 |
2023年 | 856,454t-CO2 |
2022年 | 716,958t-CO2 |
2021年 | 782,488t-CO2 |
スコープ1+2 CORの過去3年推移
2023年 | 122kg-CO2 |
2022年 | 278kg-CO2 |
2021年 | 358kg-CO2 |
スコープ3 CORの過去3年推移
2023年 | 1,194kg-CO2 |
2022年 | 1,141kg-CO2 |
2021年 | 1,450kg-CO2 |
スコープ1+2のCOA推移
2023年 | 76kg-CO2 |
2022年 | 166kg-CO2 |
2021年 | 186kg-CO2 |
スコープ3のCOA推移
2023年 | 747kg-CO2 |
2022年 | 683kg-CO2 |
2021年 | 753kg-CO2 |
2023年 | 7,172億円 |
2022年 | 6,281億円 |
2021年 | 5,396億円 |
2023年 | 326億円 |
2022年 | 449億円 |
2021年 | 427億円 |
2023年 | 1兆1471億円 |
2022年 | 1兆503億円 |
2021年 | 1兆396億円 |
すべての会社と比較したポジション
業界内ポジション
CORスコープ1+2
CORスコープ3
CORスコープ1+2
CORスコープ3
COAスコープ1+2
COAスコープ3
COAスコープ1+2
COAスコープ3