イビデン

はじめに (Introduction)

近年、地球温暖化や生物多様性の損失といった地球規模の環境問題が深刻化しており、企業は事業活動における環境責任をより一層強く求められています。特に、電子部品・セラミックス産業は、製造プロセスにおいてエネルギー消費や資源利用が大きく、環境負荷の低減が重要な課題となっています。本報告書では、これらの背景を踏まえ、イビデン株式会社（以下、イビデン）の環境イニシアチブとパフォーマンスについて、気候変動、資源循環、生物多様性の3つの主要な側面に焦点を当てて包括的な分析を行います。本研究の目的は、イビデンのこれらの分野における具体的な取り組みと実績を詳細に調査し、同社の環境スコアを算出するために必要な情報を提供することです。

本報告書は、まずイビデンの環境ビジョンと基本方針、ESG報告書や統合報告書の概要を示します。次に、気候変動対策として、温室効果ガス排出削減目標、再生可能エネルギー導入、省エネルギー対策、カーボンオフセットプロジェクトに関する取り組みを分析します。続いて、資源循環への取り組みとして、廃棄物削減、水資源管理、リサイクル活動、再生材の利用促進について詳述します。さらに、生物多様性保全への取り組みとして、生態系保全活動、絶滅危惧種保護への配慮、持続可能な資源調達、土地利用に関するイニシアチブを検証します。また、イビデンの環境リスクとビジネス機会についても考察します。その後、電子部品・セラミックス業界の環境ベストプラクティスと比較分析を行い、主要な競合他社の環境イニシアチブとパフォーマンス、環境スコア、評価、ランキングを調査します。最後に、これまでの分析に基づき、イビデンの環境課題を特定し、環境パフォーマンス向上のための主要な重点分野と具体的なアクションを提案し、結論として本レポートの主要な調査結果を要約し、イビデンの環境イニシアチブとパフォーマンスを総合的に評価します。

イビデン株式会社の環境方針と取り組み概要 (Overview of IBIDEN CO.,LTD.'s Environmental Policies and Initiatives)

イビデンは、「イビデンウェイ」という企業理念に基づき、地球環境との共存を目指し、持続可能な社会の実現に貢献することを経営の重要課題の一つと位置づけています。同社は、全従業員が参加する環境負荷低減活動を継続的に取り組み、次世代に向けて地球環境と豊かな社会の共存を実現することを基本的な考え方としています 。この長期的なコミットメントは、同社の企業文化に深く根ざしていることを示唆しています。  

イビデンは、「環境ビジョン2050」において、事業活動における環境負荷を低減するための4つの主要な目標を掲げています。これらは、エネルギー（気候変動）、水の恵み、廃棄物（資源）、化学物質の管理です 。これらの目標は、製造業である同社にとって、環境影響を管理する上で重要な側面を網羅しており、明確な枠組みを提供しています。また、同社は、この環境ビジョンを達成するための具体的な指針として、環境基本方針を定めており、2024年7月16日には第11版が発行されています 。この方針が定期的に改訂されていることは、イビデンが環境課題や規制の変化に動的に対応していることを示唆しています。さらに、イビデンは代表取締役社長をトップとする全社環境マネジメントシステムを構築し、環境経営を推進しています 。これは、環境持続可能性が組織の最高レベルで優先されていることを示唆しています。  

イビデンは、2019年度からCSRレポートと年次報告書を統合し、統合報告書として開示することで、透明性の向上と企業パフォーマンスの全体像の提示を目指しています 。最新の統合報告書は2024年3月期（FY2024）のものです 。環境、社会、ガバナンス（ESG）に関する情報は、公式ウェブサイトのESGセクションに詳細に掲載されており 、ESGデータ集として、これらの分野に関する詳細なデータが提供されています 。この詳細なデータ公開は、同社の透明性へのコミットメントを示すものであり、環境パフォーマンスの深い分析を可能にします。過去のCSRレポートもウェブサイトで公開されており 、イビデンの環境への取り組みの変遷を追跡することができます。  

気候変動対策 (Climate Change Initiatives)

イビデンは、気候変動問題への対応を重要な経営課題と認識し、温室効果ガス排出量の削減に積極的に取り組んでいます。同社は、2030年度までに2017年度比で総排出量を30%削減し、売上高あたりの排出量原単位を50%削減するという中期目標を設定しています 。絶対排出量と原単位の両方で目標を設定することは、同社のカーボンフットプリント削減に対する包括的なアプローチを示しており、全体的な影響と事業効率の両方を考慮しています。特筆すべきは、2023年度の実績として、排出総量が2017年度比で約56%減少し、売上原単位も同期間比で30にまで改善したことです 。これは、同社の現在の取り組みが非常に効果的であり、将来に向けてさらに野心的な目標を設定する可能性を示唆しています。  

イビデンは、排出削減を推進するための具体的な施策として、2022年1月に社内カーボンプライシングを導入しました 。これは、炭素のコストを投資決定に組み込むことで、排出削減を経済的にインセンティブ化するものです。また、サプライチェーン全体での脱炭素化を目指し、2024年度には取引先への温室効果ガス排出量削減に向けたヒアリングを開始しています 。これは、同社の環境負荷が自社の事業活動だけでなく、サプライチェーン全体に及ぶことを認識し、より広範な排出削減に取り組む姿勢を示しています。  

再生可能エネルギーの導入も、イビデンの気候変動対策の重要な柱です。同社は、創業の地である揖斐川上流域に水力発電所を保有しており、これは再生可能エネルギーの固定価格買取制度（FIT）の基準を満たしています 。また、エネルギー効率を高めるためにガスコージェネレーションシステムを導入し 、太陽光発電設備の導入も進めています 。さらに、海外拠点であるマレーシアとフィリピンのICパッケージ基板製造拠点では、使用電力を100%再生可能エネルギーに切り替えています 。これは、同社の脱炭素化への取り組みが日本国内にとどまらず、グローバルに進んでいることを示しています。  

省エネルギー対策も、イビデンの重要な取り組みの一つです。同社は、全社横断的な専門組織を設置し、全従業員が参加して省エネのマネジメントサイクルを推進しています 。また、省エネ活動に対するGX提案制度を設けることで、さらなる活動の活性化を図り、各拠点で実施されている優れた省エネ活動を全社で共有しています 。これらの取り組みに加え、生産技術の革新や設備の改善も継続的に行われています 。  

一方、提供された情報からは、具体的なカーボンオフセットプロジェクトに関する記述は見当たりませんでした。イビデンは排出量削減と再生可能エネルギー導入に注力しているようですが、カーボンオフセットの活用は今後の検討課題であるか、あるいは直接的な排出削減を優先する戦略をとっている可能性があります。

資源循環への取り組み (Resource Circulation Initiatives)

イビデンは、資源の有効活用と環境負荷の低減を目指し、資源循環への取り組みを積極的に推進しています。廃棄物削減においては、2004年度から国内事業拠点で生産工程から発生する廃棄物の埋立量をゼロにするゼロエミッションを達成しています 。これは、同社が長年にわたり廃棄物処理を重視してきた成果と言えます。さらに、2023年度から2027年度にかけて、売上高あたり廃棄物原単位を2022年度比で5%削減するという中期目標を設定しており 、継続的な資源効率の改善に取り組んでいます。各事業所やグループ会社では、廃棄物の分別とリサイクルが徹底されています 。  

水資源管理においても、イビデンは3R（Reduce, Reuse, Recycle）の原則に基づき、工業用水使用量の削減に努めています 。2023年度から2027年度にかけては、売上高あたり取水量原単位を2022年度比で5%削減するという中期目標を設定し 、水使用量の効率化を推進しています。また、同社は岐阜県の西濃地区地下水利用対策協議会に参加し、地域社会や他の企業と協力して水源の保全と地下水の適正かつ合理的な利用を図っています 。  

リサイクル活動も、イビデンの資源循環への重要な貢献です。同社は、使用済み製品である電線・ケーブル、光ファイバーケーブル、切削工具用超硬チップとそのプラスチックケースを顧客から回収し、新たな製品の材料として再利用・リサイクルしています 。これは、製品のライフサイクル全体にわたる責任を果たすための取り組みです。また、イビデングループ全体の3R活動は、グループ会社のイビデンケミカルが支援しており 、グループ全体で資源循環を推進する体制が整っています。さらに、同社は廃プラスチック、古紙、木くずなどを固形燃料RPFにリサイクルすることで 、廃棄物のエネルギーとしての有効活用を図っています。  

再生材の利用促進にも積極的に取り組んでおり、主要サプライヤーに対してグリーン調達ガイドラインを発行し、環境管理や化学物質管理の取り組み状況を確認しています 。これは、サプライチェーン全体での持続可能性の向上を目指すものです。  

生物多様性保全への取り組み (Biodiversity Conservation Initiatives)

イビデンは、生物多様性の保全とその持続可能な利用を重要な課題の一つと認識し、様々な取り組みを推進しています。生態系保全活動として、創業の地である揖斐川上流域を中心とした地域社会における生物多様性の保全と持続可能な利用に貢献するため、森林保全活動を推進しています 。岐阜県、揖斐川町、NPO法人と「生きた森林づくり協定」を締結し 、地域社会や外部団体と連携しながら活動を実施しています。また、日本経団連などが推進する「経団連生物多様性保全イニシアティブ」にも参加し 、情報共有や連携を図っています。イビデンのグループ会社であるイビデングリーンテックは、「防災」と「環境保全」を両立した新しいのり面技術を提供しており 、事業を通じて生態系保全に貢献しています。さらに、神戸事業場内の太陽光発電所では、ヤギによる除草を導入するなど 、自然を活用した環境管理も行っています。  

絶滅危惧種保護への具体的な取り組みに関する記述は、提供された情報からは限定的です。しかし、より広範な生物多様性保全の取り組みを通じて、間接的に貢献していると考えられます。

持続可能な資源調達においては、「イビデングループサプライチェーンCSRガイドライン」を策定し、持続可能な木材および木材製品の調達に努めています 。また、紛争地域で違法に採掘された鉱石を使用しない方針を掲げ 、責任ある調達を推進しています。株式会社フェイガーとの連携協定により、バイオ炭の開発にも取り組んでおり 、持続可能な資源の利用を模索しています。  

土地利用に関しては、岐阜県揖斐川上流域に水力発電所を保有しており 、イビデングリーンテックが「全面緑化」を可能にする新しい工法などを提供することで 、環境に配慮した土地利用に貢献しています。  

イビデン株式会社の環境リスクとビジネス機会 (Environmental Risks and Business Opportunities for IBIDEN CO.,LTD.)

イビデンは、事業活動を取り巻く環境リスクとビジネス機会を認識し、対応を進めています。規制リスクとしては、気候変動関連リスク、特に排出規制の強化やエネルギー・資源コストの増加の可能性を挙げており 、化学物質に関する法規制の遵守を徹底しています 。  

市場リスクとしては、顧客や投資家からのESG対応要求の高まりを認識しており 、自動車市場の電動化によるDPF需要の減少リスクも考慮しています 。  

評判リスクに関しては、2023年度には環境に関する是正勧告や流出災害、法令違反による罰金・制裁などの実績は確認されていません 。しかし、TNFD提言に基づく情報開示への対応の遅れは、将来的に評判リスクにつながる可能性も指摘されています 。  

一方、イビデンには潜在的なビジネス機会も存在します。環境負荷低減に貢献するセラミック製品（DPFなど）は 、環境意識の高まりとともに需要の増加が期待されます。また、電子市場におけるデータ処理能力向上と省エネニーズへの対応 、再生可能エネルギー関連事業への貢献（水力発電、太陽光発電、コージェネレーション） 、バイオ炭開発による農業分野への貢献 なども、新たなビジネスチャンスにつながる可能性があります。  

業界の環境ベストプラクティスとの比較分析 (Comparative Analysis with Industry Environmental Best Practices)

電子部品業界では、環境負荷を低減するための主要なトレンドとして、製品の低消費電力化、鉛やハロゲンなどの有害物質の削減、レアメタルなどの省資源化、製品のリサイクル性の向上などが挙げられます 。また、サプライチェーン全体での環境負荷低減や、カーボンニュートラルへの取り組みも加速しています 。製品の長寿命化やモジュール化も、廃棄物削減の観点から注目されています 。  

セラミックス業界においては、製造プロセスにおける省エネルギー化、CO2排出量の削減、製造工程で発生する廃棄物の削減とリサイクルが重要な課題です 。再生可能エネルギーの利用や、環境に優しい原材料の利用も進んでいます 。また、採掘跡地の再生など、事業活動が生物多様性に与える影響への配慮も求められています 。  

イビデンの取り組みをこれらの業界トレンドと比較すると、気候変動対策においては、明確な排出削減目標を設定し、再生可能エネルギーの導入や省エネルギー対策を積極的に推進している点で、業界の動向と合致しています。資源循環においても、ゼロエミッション達成やリサイクル活動の推進など、先進的な取り組みが見られます。生物多様性保全においては、地域社会との連携による森林保全活動など、独自の取り組みを展開しています。しかし、電子部品業界で重視されている製品の長寿命化やモジュール化、サプライチェーン全体でのより踏み込んだ環境負荷低減策、セラミックス業界における再生可能エネルギーの更なる導入や環境に優しい原材料の積極的な利用などは、今後の強化が期待される領域と言えるでしょう。

主要競合他社の環境イニシアチブとパフォーマンス (Environmental Initiatives and Performance of Key Competitors)

イビデンの主要な競合他社としては、プリント配線板やセラミック製品を製造する京セラ、住友電気工業、日本碍子、Unimicron、TTM Technologies、Denso、Corning、CMK Corporationなどが挙げられます 。これらの企業は、それぞれの事業特性に応じて、気候変動対策、資源循環、生物多様性保全に関する様々なイニシアチブを展開しています。  

例えば、京セラは環境安全方針を定め、気候変動対策としてTCFD提言に基づく情報開示や再生可能エネルギーの導入、省エネルギー化を推進しています 。また、サーキュラーエコノミー構築への貢献や廃棄物削減、環境汚染防止、生物多様性保全にも積極的に取り組んでいます。住友電気工業は、2050年までのカーボンニュートラル達成を目指し、温室効果ガス排出削減目標を設定し、省エネルギー活動や再生可能エネルギーの導入、環境貢献製品の開発などを推進しています 。日本碍子は、「自然と人間の共生」を目指し、カーボンニュートラル、循環型社会、自然との共生に貢献する取り組みを進めており、省エネルギー化や再生可能エネルギーの利用拡大、CO2排出量削減技術の開発などに注力しています 。  

Unimicronは、「地球への配慮、人間尊重、パフォーマンス追求」をサステナビリティ戦略の柱とし、省エネルギー、省資源、廃棄物削減、水管理、有害物質管理などに取り組んでいます 。TTM Technologiesは、ISO 14001認証を取得し、温室効果ガス排出量と水使用量をCDPに報告するなど、環境管理体制を整備し、排出量削減や廃棄物削減、水使用量削減などの目標を設定しています 。Densoは、「DENSO Eco Vision 2025」を掲げ、2035年までのカーボンニュートラル達成を目指し、省エネルギー化、再生可能エネルギー導入、環境負荷低減技術の開発などを推進しています 。Corningは、2028年までにScope 1および2のGHG排出量を30%削減する目標を設定し、省エネルギー化、再生可能エネルギーの利用拡大、製品の環境負荷低減に取り組んでいます 。CMK Corporationは、2050年までのカーボンニュートラル達成を目指し、「Smart e-changes NetZero」というスローガンの下、省エネルギー化や再生可能エネルギー導入、廃棄物削減などの活動を推進しています 。  

これらの競合他社の取り組みと比較すると、イビデンも気候変動対策や資源循環においては積極的に行動していることがわかります。生物多様性保全においては、地域に根ざした独自の活動を展開している点が特徴的です。

競合他社の環境スコア、評価、ランキング (Environmental Scores, Ratings, and Rankings of Competitors)

主要なESG評価機関による競合他社の環境スコア、評価、ランキングを調査することで、イビデンの環境パフォーマンスを客観的に評価するための基準を得ることができます。

SustainalyticsのESGリスク評価では、イビデンは18.9で「低リスク」と評価されています 。競合他社と比較すると、京セラは19.2で同じく「低リスク」 、住友電気工業は20.9で「中リスク」 、日本碍子のデータは見当たりませんでした。Unimicronは20.1で「中リスク」 、TTM Technologiesは11.9で「低リスク」 、Densoは16.2で「低リスク」 、Corningは17.5で「低リスク」 、CMK Corporationは26.8で「中リスク」と評価されています 。  

MSCI ESGレーティングでは、イビデンは最高評価のAAAを取得しています 。競合他社では、京セラもAAA 、住友電気工業のデータは見当たりませんでした。日本碍子はA- 、Unimicronのデータは見当たりませんでした。TTM Technologiesのデータは見当たりませんでした。DensoはAA 、CorningはAA 、CMK Corporationのデータは見当たりませんでした。  

S&P Global ESGスコアでは、イビデンは57 、京セラは60 、住友電気工業のデータは見当たりませんでした。日本碍子のデータは見当たりませんでした。Unimicronは44 、TTM Technologiesのデータは見当たりませんでした。Densoは49 、Corningは83 、CMK Corporationのデータは見当たりませんでした。  

CDPの気候変動と水セキュリティの評価では、イビデンはA- 、京セラはA 、住友電気工業のデータは見当たりませんでした。日本碍子はA- 、Unimicronのデータは見当たりませんでした。TTM Technologiesのデータは見当たりませんでした。DensoはA 、CorningはA 、CMK CorporationはB と評価されています。  

これらの評価を総合的に見ると、イビデンは競合他社と比較して、環境リスク管理や情報開示において高い評価を得ていることがわかります。特にMSCI ESGレーティングでのAAAは、同社の環境パフォーマンスが業界をリードする水準にあることを示唆しています。

イビデン株式会社の環境課題と改善提案 (Environmental Challenges and Proposals for Improvement for IBIDEN CO.,LTD.)

これまでの分析に基づくと、イビデンは気候変動対策、資源循環、生物多様性保全において、既に多くの先進的な取り組みを実施し、高い実績を上げています。特に、温室効果ガス排出量の大幅な削減や国内事業所でのゼロエミッション達成は、同社の環境パフォーマンスにおける強みと言えるでしょう。また、地域社会との連携による生物多様性保全活動も、同社の特徴的な取り組みです。

しかし、業界のベストプラクティスや競合他社の動向と比較すると、いくつかの改善の余地があると考えられます。第一に、電子部品業界では製品の長寿命化やモジュール化が重要なトレンドとなっていますが、イビデンにおけるこれらの取り組みに関する情報は限定的です。製品設計段階から環境負荷低減を考慮するアプローチを強化することで、更なる廃棄物削減に貢献できる可能性があります。第二に、再生可能エネルギーの導入は着実に進んでいますが、競合他社の中にはより高い目標を設定している企業も見られます。事業活動全体での再生可能エネルギー利用率をさらに高めることで、CO2排出量の削減を加速できるでしょう。第三に、サプライチェーン全体での環境負荷低減に向けた取り組みは開始されていますが、より具体的な目標設定やサプライヤーとの連携強化が望まれます。

環境パフォーマンス向上のための主要な重点分野と具体的なアクション提案として、以下の点が挙げられます。

• 気候変動対策の強化: 2030年目標の前倒し達成や、より野心的な長期目標の設定を検討する。Scope 3排出量の削減目標を具体的に設定し、サプライヤーとの連携を強化する。カーボンオフセットプロジェクトの導入を検討する。

• 資源循環の更なる推進: 製品の長寿命化やモジュール化設計を導入する。製造プロセスにおける水の再利用率をさらに高めるための技術開発や設備投資を行う。

• 生物多様性保全活動の拡充: 絶滅危惧種保護に焦点を当てた具体的なプログラムを策定・実施する。事業活動における土地利用が生物多様性に与える影響を評価し、負の影響を最小限に抑えるための対策を講じる。

• 情報開示の強化と透明性の向上: TNFD提言に基づく情報開示を積極的に進める。環境目標の達成状況や環境パフォーマンスに関するデータを、より詳細かつ分かりやすく開示する。

• サプライチェーンとの連携強化: サプライヤーに対する環境目標の設定を促し、共同で排出量削減や資源効率化に取り組む。サプライヤーの環境パフォーマンスを評価し、調達における環境基準を厳格化する。

結論 (Conclusion)

本報告書では、イビデン株式会社の環境イニシアチブとパフォーマンスについて、気候変動、資源循環、生物多様性の3つの主要な側面に焦点を当てて包括的な分析を行いました。イビデンは、「イビデンウェイ」という企業理念に基づき、環境問題に積極的に取り組み、温室効果ガス排出量の大幅な削減や国内事業所でのゼロエミッション達成など、顕著な成果を上げています。また、地域社会との連携による生物多様性保全活動も、同社の重要な取り組みです。

競合他社との比較分析やESG評価機関による評価からも、イビデンは環境パフォーマンスにおいて高い水準にあることが示唆されています。特にMSCI ESGレーティングでのAAAは、同社の環境への取り組みが国際的に高く評価されていることを裏付けています。

しかし、業界のベストプラクティスや今後の環境問題の重要性を考慮すると、製品の長寿命化やモジュール化設計の導入、再生可能エネルギー利用率の更なる向上、サプライチェーンとの連携強化など、更なる改善の余地があると考えられます。