カテゴリー | 2021年度 | 2022年度 | 2023年度 |
---|---|---|---|
1購入した製品・サービス | 73,914 | 83,818 (▲9,904) | 82,102 (▼1,716) |
2資本財 | 740 | 25,238 (▲24,498) | 64,704 (▲39,466) |
3燃料・エネルギー関連活動 | 7,622 | 6,575 (▼1,047) | 5,758 (▼817) |
4輸送・配送(上流) | 203 | 177 (▼26) | 176 (▼1) |
5事業から発生する廃棄物 | 705 | 885 (▲180) | 714 (▼171) |
「食と健康の新たなよろこび」を広げることグループ全体のミッションに掲げるキリングループでは、生物多様性とどのように向き合っているのか。キリンホールディングス株式会社CSV戦略部と協和キリン株式会社CSR推進部でそれぞれ環境経営に尽力する3人が一堂に会し、語り合った。前編には、企業が生物多様性に向き合う意味、全社的な活動について載せた。後編では、各社の具体的な取り組みと成果、今後のビジョンを伝える。
※掲載情報は公開資料をもとに作成しており、全てのリスク・機会を網羅するものではありません。 より詳細な情報は企業の公式発表をご確認ください。
省エネルギーや水使用量削減は、直接的なコスト削減機会となります 。再生可能エネルギー導入(例:宇部工場1.47MW太陽光 )も貢献します。環境配慮型プロセスや持続可能な包装の開発は競争優位性につながり 、優れたESGパフォーマンス(例:MSCI AA評価 )は投資誘致やブランド価値向上に寄与します
序論
本報告書は、協和キリン株式会社(以下、協和キリン)の環境イニシアチブおよびパフォーマンスについて、特に「気候変動」「資源循環」「生物多様性」の3分野に焦点を当て、包括的かつ学術的な分析を行うことを目的とする。本分析は、同社の環境スコア算定に必要な詳細情報の収集、およびESG(環境・社会・ガバナンス)戦略評価に資することを意図している。報告書の構成は、利用者の要求に基づき、具体的な取り組み、リスクと機会、業界先進事例、課題と提言、競合分析、環境スコアのベンチマーキングの順に進める。
協和キリンは、キリングループの一員として事業を展開する、グローバル・スペシャリティファーマ(GSP)である 1。近年、製薬業界においても、環境サステナビリティ(ESG)の重要性は急速に高まっており、事業活動が気候変動や生物多様性に与える影響への対応が強く求められている 5。日本全体としても、環境負荷低減に向けた取り組みが強化されている 7。このような背景の中、協和キリンは、気候変動の脅威や生物多様性の損失といった地球規模の課題に対し、SDGs(持続可能な開発目標)に基づいた行動をとるべきであるとの認識を示している 1。同社は、2023年度よりサステナビリティ報告を統合報告書に集約しており、情報開示の統合化を進めている 8。本報告書では、これらの公開情報を基に、協和キリンの環境への取り組みの実態を深く掘り下げ、評価する。
1. 協和キリンの環境イニシアチブ:具体的な取り組み
協和キリンは、持続可能な社会の実現に向け、気候変動対策、資源循環、生物多様性保全の各分野において具体的な目標を設定し、多様な活動を展開している。
1.1. 気候変動対策
協和キリンは、気候変動を事業継続における重要なリスクと捉え、野心的な目標と具体的な施策を通じて温室効果ガス(GHG)排出量の削減に取り組んでいる。
GHG排出削減目標: 同社は、バリューチェーン全体で2050年までにGHG排出量ネットゼロを達成するという長期目標を掲げている 10。中期目標としては、2030年までにScope 1およびScope 2のCO2排出量を2019年度比で55%削減することを目指している 10。さらに、短期目標として2024年度までに同51%削減を設定している 10。これらの目標は、親会社であるキリンホールディングスの目標と連携しており、SBTi(Science Based Targets initiative)の考え方に基づいているが、協和キリングループ固有の目標に対する個別のSBTi認証は取得していない 11。基準年である2019年度のScope 1+2排出量は51,931トン(t-CO2)であった 12。
実績 (Scope 1+2): 2023年度のScope 1+2排出量は23,507 t-CO2となり、2030年目標である55%削減を前倒しで達成した 10。内訳はScope 1が16,780 t-CO2、Scope 2が6,727 t-CO2である 14。これは前年度比でグローバル全体として22.1%の削減に相当する 14。売上収益当たりのCO2排出原単位(Scope 1+2)も改善しており、2021年度の10.9 t-CO2/億円、2022年度の6.8 t-CO2/億円から、2023年度には5.3 t-CO2/億円へと減少した 14。
省エネルギー: 全ての事業所において省エネルギー活動を推進しており、各工場・研究所では年間のエネルギー使用原単位削減目標を設定・管理している 10。2023年度のエネルギー使用原単位は前年度比6.4%減となった 10。また、オフィスにおける「グリーンオフィス計画」では、電力使用量原単位を年率1%削減する目標などが掲げられている 12。
再生可能エネルギー: グループ全体で消費する電力を2040年までに100%再生可能エネルギー由来に転換する目標を掲げ、国際的なイニシアチブであるRE100にも整合する形で取り組みを進めている 10。具体的な取り組みとしては、以下のものが挙げられる:
2011年以降、東京リサーチパーク、富士事業場、高崎工場に太陽光発電設備を導入 10。
2023年3月より、宇部工場にてオンサイトPPAモデルによる大規模太陽光発電設備(1.47 MW)を稼働 10。
協和麒麟(中国)製薬有限公司および米国拠点にも太陽光発電設備を導入 10。
2020年以降、高崎工場、富士事業場、宇部工場でRE100対応の再生可能エネルギー(例:高崎工場では2020年から水力発電由来の「アクアプレミアム」を導入 16)を段階的に導入し、各工場での電力消費を100%再生可能エネルギー化した 10。本社においても2021年に導入済みである 10。
目標として、2025年までに国内主要拠点、2030年までに海外拠点や国内支店・営業所を含む全グループ拠点で再生可能エネルギー利用率100%を目指す 10。
実績として、2023年度には年間約6,540万kWhの電力を再生可能エネルギーに切り替え、当該部分のCO2排出量をゼロとした 10。
Scope 3 排出量: 協和キリンは、Scope 3排出量の削減に向けて、中長期目標の設定やサプライヤーとの連携に取り組んでいると言及されている 10。2050年ネットゼロ目標にはScope 3も含まれる 11。親会社であるキリンホールディングスがCDPサプライヤーエンゲージメントリーダーに選定されていることから 18、グループ全体でのサプライチェーン排出量削減への意識は高いと考えられる。しかしながら、協和キリン固有の具体的なScope 3削減目標や詳細な実績データは、主要な報告書からは確認が限定的である 10。ESGデータ概要ページではScope 3データの更新履歴が示唆されており 20、詳細データは関連PDF(例:15)に含まれる可能性があるが、この点は製薬業界においてScope 3排出量が全体の大半を占めることが多い点を考慮すると 6、開示上のギャップとなり得る。
輸送: 国内営業車両(社用車)について、2023年度末までにハイブリッド車導入率100%を達成した 10。
TCFD: 気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に沿った情報開示を行っており、シナリオ分析を通じてリスクと機会、財務的影響を評価している 17。
1.2. 資源循環
協和キリンは、資源の有効活用と廃棄物の削減・再資源化、そして水資源の保全を通じて、循環型社会への貢献を目指している。
廃棄物管理:
目標: 協和キリングループ固有の定量的な廃棄物削減・リサイクル目標は主要報告書 10 では具体的に示されていないが、親会社のキリングループは目標を設定している 21。オフィスにおける「グリーンオフィス計画」では、グリーン購入率90%以上達成が目標とされている 12。循環型経済への移行は業界全体の長期的な目標でもある 7。
実績: 2023年度のデータによると、廃棄物総排出量はグローバルで1,232トン(国内1,223トン、海外9トン)であった。外部リサイクル量は国内で926トン、最終処分率はグローバルで0.71%であった 15。国内の工場・研究所では「ゼロエミッション活動」を目指しており、リサイクル率は(単純な熱回収を除く)有価物売却量と再資源化量の合計を廃棄物発生量で除したものと定義されている 12。
取り組み: 高崎工場のQ-TOWER建設におけるPCaPC工法採用など、建設時の廃棄物削減にも配慮している 10。PCB廃棄物については、高濃度PCB廃棄物は保有しておらず、低濃度PCB廃棄物(トランス等)は84kgを保管、使用中の低濃度PCB含有機器(変圧器2台)は法定期限(2027年3月末)までに適正処理する計画である 12。
水管理:
目標: 2030年までに水使用量(取水量)を2019年度比で40%削減する 10。基準年である2019年度の取水量は2,229千立方メートルであった 12。各工場・研究所では年間の水使用原単位目標を設定・管理している 10。
実績: 2023年度末時点で、2019年度比36%削減(1,433千立方メートル)を達成した 10。2023年度の水使用原単位は前年度比9.0%減であった 10。水ストレス地域における取水量は、2023年度グローバルで98千立方メートル(総取水量の6.8%)であった 15。
取り組み: 国内外の全工場で水リスク評価(水不足・ストレス、洪水、水質汚染)を実施している 10。評価結果に基づき、例えば宇部工場では水不足・ストレスおよび洪水リスクが高いと評価されており 12、洪水防止策や水使用効率改善策を講じている 10。また、キリングループの水源涵養プロジェクト(高崎工場、宇部工場)に参加している 10。
VOC排出量: 2023年度のVOC(揮発性有機化合物)排出量はグローバルで0.03トン(全て国内)であり、売上高当たり原単位は0.01 t/億円であった 12。オゾン層破壊物質(ODS)排出量は2023年度ゼロであった 12。PRTR(化学物質排出移動量届出制度)対象物質の排出量は0.02トンであった 12。
プラスチック・マテリアル循環: 会社封筒、パンフレット、製品段ボール包装などにFSC®認証製品を採用し、国内製品包装への適用拡大や海外拠点・製品への展開を検討している 10。製薬業界では包装材に関する協業(例:22)や、競合他社による具体的な取り組み(例:第一三共のPTPシートリサイクルやバイオマスプラスチック利用 23、大鵬薬品のFSC認証紙やバイオマスインキ利用 24)が進んでいる。協和キリン固有のプラスチック削減目標や実績に関する具体的な情報は、主要報告書 10 からは確認できなかったが、これは業界全体の重要課題である 7。
1.3. 生物多様性保全
協和キリンは、事業活動が生物多様性から恩恵を受ける一方で、影響も与えうることを認識し、保全活動に取り組んでいる。
方針・ガバナンス: キリングループ生物多様性保全宣言(2010年)およびキリングループ生物資源の持続的な調達に関するガイドライン(2013年)の存在が確認されている 10。協和キリン社内には、遺伝子組換え生物等の使用等に関するカルタヘナ法遵守のための委員会が設置されている 10。同社は生物多様性に関するSDGsに基づく行動の必要性を認識している 1。業界の文脈としては、製薬企業にとっての生物多様性の重要性 26、生物多様性条約(CBD)原則との整合性 27、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)のような新しい枠組みへの対応 26 が挙げられる。
保全活動:
原材料調達: FSC®認証材の使用(封筒、パンフレット、包装材) 10。競合他社(例:武田薬品 31)もFSC認証材やリサイクル材の利用を進めている。
生息地・生態系保全: キリングループの水源の森保全活動(高崎工場、宇部工場における下草刈り、植樹、間伐)への参加 10。地域社会との連携による生態系保全活動(アマゴ稚魚放流、草原保護、河川・富士山周辺清掃活動) 10。競合他社の事例としては、塩野義製薬のコンブ再生、希少鳥類保護、薬用植物園 26、住友ファーマのフクロウの森プロジェクト 28、旭化成の「自然共生サイト」認定 32、大鵬薬品の協働の森づくり事業 24、武田薬品の京都薬用植物園や養蜂 33 などがある。
影響緩和: カルタヘナ法に基づく遺伝子組換え生物の適正使用 10。業界リスクとして、化学物質・廃棄物の漏洩、薬剤耐性(AMR)、医薬品有効成分(API)の環境中への排出による影響が指摘されている 26。協和キリンがAPIの環境影響やAMRに関して、一般的な法令遵守を超えた具体的な緩和策を講じているかは、主要報告書 10 からは確認できなかった。
サプライチェーン・外部連携: キリングループの持続可能な調達ガイドラインに言及がある 10。旭化成の30by30アライアンスへの参加 32 や、塩野義製薬の経団連自然保護宣言への賛同および30by30アライアンスへの参加 26 など、外部イニシアチブへの積極的な関与が他社で見られる。協和キリン固有の、キリングループ以外の外部との生物多様性連携に関する具体的な情報は、主要報告書 10 では詳述されていない。
目標・実績: FSC認証材利用やプロジェクト参加を除き、生物多様性保全に関する具体的な定量的目標や包括的な実績データは、主要報告書 10 では詳細に示されていない。これは、特定の生物多様性関連目標を設定している競合他社(例:中外製薬の生物多様性に関連付けた有害廃棄物削減目標 25、第一三共の基本原則・行動指針 23、小野薬品の依存度・影響評価 30)とは対照的である。
協和キリンの環境戦略、特に気候変動と水に関しては、親会社であるキリンホールディングス(ESG評価の高い企業 18)との強い連携が見られ、その影響を大きく受けているように見受けられる。これは、グループ全体のリソースや確立された枠組み(SBTi、RE100、水源保護など)を活用できるという利点をもたらす一方で 10、協和キリン独自の製薬事業に特化した戦略の必要性も示唆している。Scope 1+2排出量削減では目標を前倒しで達成するなど目覚ましい成果を上げているものの 10、製薬業界で最大の排出源となりうるScope 3に関する詳細な目標や実績データが、容易にアクセス可能な報告書には見当たらない点は、重要な課題である 6。資源循環の取り組みは、伝統的な廃棄物管理(リサイクル率、最終処分率 12)や水効率向上 10 に重点が置かれているように見え、持続可能な包装設計やプラスチック削減といった、より広範な循環型経済の原則に関する具体的な言及は、一部の競合他社と比較して少ない 22。生物多様性に関する取り組みは、個別のプロジェクト(水源の森、FSC利用 10)が中心であり、グループ方針を超える包括的な定量的目標や明確な戦略、影響評価の実施状況に関する情報が乏しく、より統合的なアプローチ(例:TNFDへの言及、具体的な保全目標の設定)を進める競合他社 25 と比較すると、戦略の成熟度や透明性の面で改善の余地があるかもしれない。
2. 環境要因に関連する潜在的リスクと機会
協和キリンの事業活動は、気候変動、資源制約、生物多様性の損失といった環境要因から、様々なリスクと機会に直面している。
2.1. リスク分析
気候関連リスク:
物理的リスク: 協和キリン自身が特定したリスクとして、異常高温や集中豪雨・台風・洪水等の増加による操業・サプライチェーンへの影響、そして花粉症患者の変化(これは同社の製品ポートフォリオや研究領域に特有のリスク認識の可能性がある)が挙げられている 17。これらは、業界全体で指摘される物理的リスク、すなわち異常気象による操業中断(特に単一製造拠点の場合の脆弱性)、サプライチェーンの混乱、温度管理輸送・保管の困難化などと共通する 5。協和キリンの評価では、特に洪水による潜在的影響は対策前には「大」と評価されている 17。
移行リスク: 協和キリンが特定したリスクには、カーボンプライシングやCO2排出規制強化によるコスト増、社会的な価値観の変化によるレピュテーションへの影響が含まれる 17。これは、業界全体のリスク認識、すなわち炭素税・エネルギーコスト・規制遵守コストの増加 5、規制強化 7、不十分な対策によるレピュテーション毀損、低炭素製品への市場シフト 37 と一致する。
資源・水リスク: 協和キリンが実施している水リスク評価 10(例:宇部工場の高リスク評価)は、特に水ストレス地域における操業中断、コスト増、水不足や水質汚染に関連するレピュテーションリスクの可能性を示唆している 7。廃棄物管理に関しても、法令遵守、処理コスト、不適切な処理(特に有害廃棄物)によるレピュテーションへの影響といったリスクが存在する 23。
生物多様性損失リスク: 原材料調達への影響(特に天然生物資源への依存がある場合)、生態系サービス(例:工場用水供給 27)の劣化、環境への負の影響(汚染、生息地破壊 26)によるレピュテーションリスク、遺伝資源へのアクセスと利益配分(ABS)に関する規制リスク 27 が考えられる。また、遺伝子組換え生物の環境放出 27 やAPIの環境影響 26 もリスク要因である。
2.2. 事業機会の分析
オペレーション効率: エネルギーおよび水の使用量削減は、コスト削減に直結する機会となる 10。廃棄物削減やリサイクル推進もコストメリットを生む可能性がある 5。
イノベーションと市場アクセス: より環境負荷の少ない製造プロセス(グリーンケミストリー 23)や、持続可能な製品・包装(例:22)の開発は、市場での競争優位性やブランドイメージ向上につながる可能性がある。
レピュテーションとステークホルダー関係: 優れた環境パフォーマンスと透明性の高い情報開示は、ブランド価値を高め、ESG投資を呼び込み 35、ステークホルダーとの良好な関係構築に貢献する 5。協和キリンが複数のESGインデックスに採用されていることは、この機会を裏付けている 20。
気候・健康ソリューション: 製薬企業には、気候変動によって深刻化する健康課題(例:媒介感染症、熱ストレス関連疾患 5)や生物多様性損失に関連する問題(例:AMR対策 26)に対するソリューションを提供する機会がある。協和キリンのTCFD分析では、「花粉症患者の変化」や「冷房負荷増によるエネルギー消費増」が機会として挙げられているが 17、これは業界全体で議論される機会 37 の一部と言える。武田薬品のデング熱ワクチン 41 は、気候変動関連疾患への対応事例である。
協和キリンが実施している具体的な気候変動対策(再生可能エネルギー導入、洪水対策など 10)は、同社自身がTCFD分析で特定した主要な物理的リスク・移行リスク 17 や、業界で懸念されている点 5 に直接対応しており、リスク認識と緩和策の戦略的な整合性を示している。一方で、業界全体では気候関連の健康問題へのソリューション開発に大きな機会が見出されているのに対し 5、協和キリンがTCFDで具体的に挙げた機会(「花粉症患者の変化」17)は比較的限定的に見える。これは、同社の現在のポートフォリオ戦略を反映しているか、あるいはより広範な気候と健康の関連性に関する機会探索がまだ十分に進んでいない可能性を示唆している。環境リスクは相互に関連しており、気候変動は水利用可能性や生物多様性に影響を与え、資源枯渇は気候変動(サプライチェーン排出を通じた移行リスク)を悪化させ、生物多様性にも影響を及ぼす。したがって、これらの問題をシステムとして捉え、統合的に対処する戦略が不可欠である 5。
3. 製薬・バイオテクノロジー業界における環境先進事例
製薬・バイオテクノロジー業界では、環境サステナビリティに対する先進的な取り組みが活発化している。以下に主要な分野における先進事例を概説する。
気候変動対策: 先進企業は、野心的かつ科学的根拠に基づいた目標設定と実行を特徴とする。
SBTi認証を受けた1.5℃目標やネットゼロ目標をScope 1, 2のみならずScope 3まで含めて設定している(例:中外製薬は2030年までにScope 1+2を60-75%削減、2050年ネットゼロ 25、武田薬品は2035年までに事業活動、2040年までにバリューチェーン全体でネットゼロ 31、エーザイは2040年ネットゼロ 22、第一三共は2030年までにScope 1+2を63%削減、2050年ネットゼロ 23)。
RE100目標達成に向け、証書購入だけでなく、PPA(電力購入契約)や自家発電による再生可能エネルギー導入を積極的に進めている(例:エーザイは2023年度に再エネ比率99.8%達成 42、中外製薬は2025年までに100%目標 25、武田薬品はVPPAsを活用 43)。
Scope 3排出量削減のため、サプライヤーに対する具体的な目標設定支援や協働プログラム(例:武田薬品はサプライヤーの67%にSBT設定を支援目標 31、製薬業界共同のEnergizeプログラムへの参加 43、第一三共はCDPサプライチェーンプログラム参加、サプライヤーの70%に1.5℃目標設定を要請 23)を実施している。
グリーンケミストリーの導入やプロセス効率改善により、製造段階での排出量削減を図っている 23。
営業車両などをEV(電気自動車)やハイブリッド車へ転換している(例:協和キリンは国内100%ハイブリッド化 10、エーザイは国内100% HV+BEV化 42)。
資源循環: 廃棄物削減と資源の有効活用において、定量的な目標設定と多様なアプローチが見られる。
総廃棄物量、有害廃棄物量、プラスチック廃棄物量に関する具体的な削減目標を設定し、高いリサイクル率や埋立廃棄物ゼロを目指している(例:中外製薬は2030年までに産業廃棄物・プラ廃棄物10%削減、リサイクル率99%以上 25、武田薬品は2030年度までに主要拠点で埋立廃棄物ゼロ目標、2022年時点で80%達成 31、第一三共は2025年度までに廃棄物原単位10%削減、プラ廃棄物リサイクル率70%以上 23)。
リサイクル推進に加え、持続可能な包装設計(バイオプラスチック、リサイクル材利用、軽量化)や製品回収スキームなど、より広範な循環型経済への取り組みを進めている(例:アステラス製薬、エーザイ、第一三共、武田薬品による包装材協業 22、第一三共のPTPシートリサイクル実証実験 23、武田薬品は2025年度までに包装材の紙・板紙重量の50%以上をリサイクル材またはFSC認証材にする目標 31)。
水使用量削減目標の設定、WRI Aqueductなどのツールを用いた水リスク評価、流域保全活動など、包括的な水スチュワードシップを実践している(例:中外製薬は2030年までに取水量15%削減 25、武田薬品は2025年度までに5%削減 31、第一三共は国内研究・生産拠点で洪水対応マニュアル整備率100%維持 23、小野薬品はCDP水セキュリティAリスト獲得 45)。
生物多様性保全: 自然資本への依存と影響を認識し、体系的な保全活動を展開している。
CBDやTNFDといった国際的な枠組みに整合した、包括的な生物多様性方針や行動計画を策定している 26。
バリューチェーン全体にわたる生物多様性への影響と依存度に関する評価を実施している 26。
具体的な生息地の回復・保全プロジェクトを実施している(例:塩野義製薬の薬用植物園やコンブ再生プロジェクト 26、住友ファーマのフクロウの森 28、武田薬品の京都薬用植物園や養蜂 33、旭化成の自然共生サイト認定 32)。
生物資源の持続可能な調達を推進し、FSC認証材などの利用を促進している 10。
API、AMR、化学物質、遺伝子組換え生物など、事業特有の環境影響管理に取り組んでいる 26。
30by30アライアンスや経団連のイニシアチブなど、外部との連携や共同イニシアチブへ積極的に参加している 26。
先進企業の取り組みからは、環境課題を個別に捉えるのではなく、気候、水、廃棄物、生物多様性の連関性を認識し、統合的にアプローチする姿勢がうかがえる 5。例えば、森林保全活動は、炭素吸収、水源涵養、生物多様性保全といった複数の目標に同時に貢献しうる。また、製薬業界特有の高いScope 3排出割合 6 を踏まえ、サプライヤーエンゲージメント、持続可能な調達、製品ライフサイクル全体での環境負荷低減(特に包装材)など、バリューチェーン全体を視野に入れた取り組みが不可欠となっている 22。さらに、目標設定においては、SBTi認証 23 を取得するなど科学的根拠を重視し、CDPでの高評価 18 を目指すなど透明性の高い情報開示に努め、データの信頼性を高めるために第三者保証を取得する 11 ことが、リーダーシップを示す上で重要となっている。
4. 協和キリンが直面する現在の課題と提言
協和キリンは環境分野で着実な進捗を見せているものの、更なる向上と業界リーダーシップ確立に向けて、いくつかの課題に直面している。
4.1. 現在の課題評価
Scope 3 排出量: 最大の排出源である可能性が高いにもかかわらず、明確で詳細なScope 3削減目標とその達成に向けた包括的な戦略が公表されていない。グループ全体の取り組みを超えた、協和キリン独自のサプライヤーエンゲージメント強化も必要である(上記Insight 2参照)。
資源循環(特にプラスチック): 業界トレンドや協業の動き 22 と比較して、プラスチック廃棄物削減や包装材の循環性向上に関する具体的な目標設定や詳細な取り組み内容の開示が限定的である(上記Insight 3参照)。競合他社(中外製薬)のデータでは、床面積あたりのプラスチック廃棄物が増加しており 34、この課題の困難さを示唆する一方で、重点的な取り組みの必要性も示している。
生物多様性戦略: 既存の個別プロジェクトを超えた、より統合的で戦略的、かつ可能であれば定量的な生物多様性保全アプローチが必要である。影響・依存度評価の実施や、より明確な目標設定が望まれる(上記Insight 4参照)。
透明性と情報開示: TCFD提言に沿った開示 17 やESGデータの公開 15 など改善は見られるものの、特にScope 3の詳細、廃棄物組成やリサイクルの具体的内容、生物多様性関連指標などについて、先進企業に匹敵する粒度の高い情報開示にはまだ改善の余地がある(上記Insight 10参照)。協和キリン固有の目標に対するSBTi認証取得は、信頼性をさらに高めるだろう 11。
目標達成と今後の課題: Scope 1+2削減は好調だが 10、この勢いを維持しつつ、削減がより困難な排出源(Scope 3、プロセス排出)に取り組むことが今後の課題となる。水使用量削減目標(2030年までに40%削減)は野心的だが、2023年時点で既に36%削減を達成しており 10、目標の見直しや更なる深掘りの可能性も考えられる。
4.2. 今後の重点分野と行動提言
上記の課題を踏まえ、協和キリンが今後注力すべき分野と具体的な行動を以下に提言する。
Scope 3 戦略の策定と開示: 詳細なScope 3インベントリを実施し、特に影響の大きいカテゴリー1(購入した製品・サービス)を中心に、SBTiに整合した野心的な削減目標を設定する。キリングループの経験 18 を活かしつつ、協和キリンの医薬品サプライチェーンに特化した、実効性のあるサプライヤーエンゲージメントプログラムを構築・実行し、その戦略と進捗を透明性高く開示する。
循環型経済への取り組み強化: プラスチック廃棄物の具体的な削減目標、および包装材におけるリサイクル材使用率向上目標を設定する。業界連携 22 への参加や、革新的な包装ソリューションの開発を検討する。現在の指標 15 に加え、廃棄物組成分析などを通じて、更なる削減・リサイクル機会を特定し、実行する。
生物多様性アプローチの強化: LEAPアプローチ(例:塩野義製薬 26、武田薬品 19)などを参考に、正式な生物多様性影響・依存度評価を実施する。生息地回復面積、特定種の保護目標、有害物質影響削減など、明確で測定可能な、可能であれば定量的な保全目標を設定する。サプライチェーン管理においても、生物多様性への配慮をより明確に組み込む。
透明性と保証の向上: 協和キリン固有の気候目標について、SBTi認証の取得を目指す 11。Scope 1+2 11 に加え、Scope 3、水、廃棄物、可能であれば生物多様性指標についても第三者保証の範囲を拡大する。環境パフォーマンスデータや取り組みの進捗に関する、より詳細な情報を積極的に公開する。
技術とイノベーションの活用: グリーンケミストリー、プロセス最適化、デジタルツール(例:武田薬品 41)への投資を通じて、エネルギー、水、資源利用の更なる効率化を推進する。廃棄物(溶剤回収、高度リサイクル技術など)に関する革新的な解決策を模索する。
これらの提言を実行する上で、キリングループ全体の枠組みを活用すること 10 と、協和キリン独自の製薬事業特有のリスク(API、GMO、特殊なサプライチェーンなど)と機会に対応した戦略を策定することのバランスを取ることが重要となる。また、全ての提言の根底には、より良いデータと評価(Scope 3インベントリ、生物多様性影響評価、廃棄物分析など)の必要性がある。現状を正確に把握することが、意味のある目標設定と効果的な戦略策定の前提となるからである。
5. 競合他社の環境イニシアチブとパフォーマンス分析
協和キリンの環境パフォーマンスを評価する上で、同業他社との比較は不可欠である。
5.1. 主要競合企業の特定
提供された情報に基づくと、協和キリンの主要な競合企業としては、以下の企業が挙げられる。
国内製薬企業: 武田薬品工業 2、中外製薬 48、エーザイ 48、第一三共 22、小野薬品工業 50、塩野義製薬 51、住友ファーマ 50、大正製薬ホールディングス 48。
グローバル製薬・バイオ企業(一般的な競合、あるいは競争的側面を持つ協業相手として言及): Amgen 2、Sanofi 49、Regeneron Pharmaceuticals 49、AbbVie 49、GSK 49、Moderna 53、Jazz Pharmaceuticals 53、BeiGene 53、Merck 38、AstraZeneca 38、Roche 38。 分析においては、直接的な比較対象として主要な国内同業他社に焦点を当て、グローバルリーダー企業は先進事例の文脈で参照する。
5.2. 競合企業の環境戦略・目標・取り組み比較
競合他社の環境戦略、目標、取り組みを分野別に比較すると、以下の点が注目される。
気候変動: 多くの競合企業がSBTiに整合した野心的な目標(1.5℃目標、ネットゼロ)を設定・公表している(例:武田薬品 31、中外製薬 25、エーザイ 42、第一三共 23)。RE100達成に向けた取り組みも活発である(例:エーザイ 42、中外製薬 25)。Scope 3排出量削減に向けたサプライヤーエンゲージメントも重要な戦略要素となっている(例:武田薬品 31、第一三共 23、中外製薬 25)。小野薬品や中外製薬などは、CDP気候変動でAリスト評価を獲得しており、リーダーシップを示している 39。
資源循環: 廃棄物削減(総量、有害、プラスチック)や高いリサイクル率に関する定量目標を設定している企業が多い(例:中外製薬 34、武田薬品 31、第一三共 23、エーザイ 55)。水使用量削減目標も一般的である(例:中外製薬 34、武田薬品 31)。包装材の持続可能性向上(例:武田薬品 31、第一三共 23、複数社協業 22)など、循環型経済への取り組みも進んでいる。小野薬品はCDP水セキュリティでもAリスト評価を得ている 45。
生物多様性: 包括的な方針策定、影響・依存度評価の実施(TNFDなどへの言及を含む)(例:塩野義製薬 26、武田薬品 46)、具体的な保全プロジェクト(例:塩野義製薬 26、住友ファーマ 28、武田薬品 33)、外部イニシアチブへの参加(例:塩野義製薬 26、旭化成 32)など、企業によって取り組みの深さや焦点は異なるが、戦略的なアプローチが見られる。
5.3. パフォーマンスデータの比較分析
入手可能な直近(例:2023年度)のパフォーマンスデータを比較すると、以下の傾向が見られる(ただし、基準年、算定範囲、報告期間が異なる場合があるため、解釈には注意が必要)。
Scope 1+2 GHG排出量と削減率: 協和キリンは2023年度に2019年比55%削減を達成 10。中外製薬も2023年度に2019年比55.0%削減を達成 34。エーザイは2023年度に前年比4.4%削減 42。第一三共は2022年度に2015年比49.6%削減を達成 23。各社とも削減を進めているが、目標達成度や削減ペースには差が見られる。
再生可能エネルギー比率: 協和キリンは主要工場で100%達成 10。エーザイは2023年度にグローバルで99.8%(直接購入電力) 42。中外製薬は2023年度に97.2%で、2025年100%目標 34。第一三共は2022年度に78.1%で、2025年60%以上目標を達成済み 23。各社とも高い水準を目指している。
水使用量と削減率: 協和キリンは2023年度に2019年比36%削減 10。中外製薬は2023年度に原単位で2019年比25.8%削減 34。武田薬品は2025年度までに2019年比5%削減目標 31。第一三共は具体的な削減率目標は示されていないが、水リスク管理を重視 23。目標や実績のレベル感は企業により異なる。
総廃棄物量とリサイクル/転換率: 協和キリンの2023年度最終処分率は0.71% 15。中外製薬は2023年度リサイクル率99%以上を達成、最終処分率0.1% 34。エーザイは2023年度リサイクル率(有価物含む)44.4%、埋立率2.66%(国内は0.23%でゼロエミ達成) 55。武田薬品は2030年度埋立ゼロ目標に対し、2022年時点で80%達成 31。第一三共は2025年度までに廃棄物原単位10%削減目標 23。リサイクル率や埋立ゼロ達成度には差がある。
日本の製薬業界は、環境サステナビリティへの取り組みが活発であり、武田薬品、中外製薬、エーザイ、第一三共、小野薬品など、多くの企業が高いコミットメントを示し、外部評価(CDP Aリスト、高いESGレーティング)も得ている。協和キリンは、このような競争の激しいESG環境の中で事業を展開している。特定の分野では、競合他社がリーダーシップを発揮している。例えば、武田薬品や第一三共はScope 3サプライヤーエンゲージメント 23、中外製薬は野心的なScope 1+2目標設定 25、小野薬品は気候・水の両分野でのCDP Aリスト獲得 45、塩野義製薬は生物多様性とAMRの連関性に関する詳細な分析 26 などが挙げられ、これらは協和キリンが学び、ベンチマークとする対象となりうる。
6. 環境スコアのベンチマーキング
企業の環境パフォーマンスを客観的に評価する上で、第三者評価機関によるESGスコアは重要な指標となる。
6.1. 主要なESG評価機関の概要
日本企業に関連性の高い主要なESG評価機関としては、CDP(気候変動、水セキュリティ、森林に関する情報開示と評価 6)、MSCI ESG Research(セクター内での相対的なESGリスク管理能力評価 56)、Sustainalytics(ESGリスク・レーティング 58)、FTSE Russell(FTSE Blossom Japan Indexなど、優れたESG実践企業を選定 20)などが挙げられる。その他、SOMPOサステナビリティ・インデックス 20 やCorporate Knights Global 100 38 なども参照される。
6.2. 協和キリンのESG評価結果
協和キリンは、複数の主要なESG評価機関から評価を受けている。
MSCI: 2024年2月時点で「AA」評価を受けている 20。これは一般的に「リーダー」レベルとされる。MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数およびMSCI日本株女性活躍指数(WIN)の構成銘柄にも選定されている 20。
Sustainalytics: 2024年8月時点のESGリスク・レーティングは「17.9」で、「低リスク」カテゴリーに分類される 58。製薬業界グループ(861社中)では47位にランク付けされている 58。リスク管理(Management)は「Strong」、リスクへのエクスポージャー(Exposure)は「Medium」と評価されている 58。Yahoo Finance掲載のスコアも18(低リスク)である 61。
FTSE Russell: FTSE Blossom Japan IndexおよびFTSE Blossom Japan Sector Relative Indexの構成銘柄である 20。また、FTSE4Good Indexにも選定されている 20。
CDP: 協和キリン固有のCDPスコアに関する直接的な情報は提供された資料には見当たらない。しかし、親会社であるキリンホールディングスは、過去に気候変動Aリスト、水セキュリティAリストを獲得し、サプライヤー・エンゲージメント・リーダーにも選定されている 18。これはグループ全体の強さを示唆するが、協和キリン個別のスコアを保証するものではない。競合他社の多くがAまたはA-評価を獲得している点 23 は、重要な比較ポイントとなる。
その他: SOMPOサステナビリティ・インデックスの構成銘柄である 20。健康経営優良法人(ホワイト500)認定やPRIDE指標ゴールド認定なども受けている 20。
6.3. 競合他社のESG評価結果との比較
協和キリンの評価を競合他社と比較すると、以下の点が挙げられる。
MSCI: 協和キリンのAA評価は、同じくAA評価の中外製薬 39 と同レベルであり、高い評価を受けている。
Sustainalytics: 協和キリンの17.9(低リスク)は、比較対象として挙げられたGrifols(15.1、低リスク)、Halozyme(19.9、低リスク)、Jazz Pharma(24.7、中リスク)、Roivant(32.5、高リスク)と比較して良好なポジションにある 58。親会社のキリンホールディングスは食品セクターで23.1(中リスク)である 36。
CDP: ここで協和キリンは、競合他社に後れを取っている可能性がある。中外製薬(2024年 気候変動A、水セキュリティA-)39、小野薬品(気候変動・水セキュリティで複数年Aリスト)45、住友ファーマ(2024年 気候変動A)47、第一三共(気候変動で4年連続Aリスト)23、武田薬品(2020年 気候変動Aリスト)44 など、多くの競合がAリスト評価を獲得している。
その他のランキング: エーザイがCorporate Knights Global 100で高い評価(2024年 35位、製薬企業トップ、日本企業トップ)を得ている点 38 や、中外製薬が過去にDJSI Worldで製薬セクタートップ評価を得ていた点 39 も特筆される。
6.4. ベンチマーキングからの示唆
ベンチマーキングの結果から、以下の点が示唆される。協和キリンは、MSCI AA評価やSustainalytics 低リスク評価が示すように、全体的なESGリスク管理体制やパフォーマンスは堅固であり、幅広い企業群の中で良好な評価を得ている 20。しかし、特にCDPスコアに関して、製薬業界のトップ企業と比較すると、リーダーシップレベルに到達するにはまだ改善の余地があることが示唆される。これは、気候変動対策(特にScope 3)や水スチュワードシップにおける具体的なパフォーマンスや情報開示の質において、更なる向上が求められている可能性を示している。同社が複数の国内ESGインデックス(FTSE Blossom、MSCI Japan)に採用されていることは、国内の責任投資市場において一定の評価を得ていることを裏付けている 20。
MSCIやSustainalyticsのような広範なESG評価で高評価を得ている一方で、CDPのような特定の環境テーマ(気候、水)に深く焦点を当てた評価では、競合トップ企業に比べて見劣りする可能性があるという状況は、注目に値する。これは、MSCIやSustainalyticsが多様なESG課題にわたるリスク管理体制全般(方針、ガバナンスなど)を評価する傾向があるのに対し、CDPは特定の環境テーマについて、詳細なパフォーマンスデータ、目標の野心度(SBTi整合性など)、バリューチェーンへの関与といった具体的な実行レベルを厳格に評価するためと考えられる。つまり、協和キリンのESGマネジメントシステム基盤は強固であるものの、気候変動対策や水管理といった重要分野における具体的な成果や情報開示の質が、CDPが要求する最高水準にはまだ達していない可能性を示唆している。また、親会社であるキリンホールディングスの高いESG評価 18 は、グループ全体の評価やインデックス組み入れにおいて協和キリンに好影響を与えている可能性がある。しかし、最終的には協和キリン自身の事業活動に根差したパフォーマンス 10 が、詳細な評価やスコアリングの基盤となるため、子会社レベルでの卓越性が引き続き重要である。
結論
本分析の結果、協和キリンは環境サステナビリティに関して着実な取り組みを進めている企業であると評価できる。特に、Scope 1+2のGHG排出量削減における目標前倒し達成、水使用量削減における顕著な進捗、そしてMSCIやSustainalyticsといった主要ESG評価機関からの高い評価は、同社の強みと言える。また、親会社であるキリンホールディングスの強固なESG基盤を活用できる点も有利に働いている。
一方で、業界の先進企業と比較した場合、いくつかの課題も浮き彫りになった。具体的には、バリューチェーン全体での排出量削減に向けたScope 3戦略の具体化と情報開示の深化、プラスチック廃棄物削減や包装材の循環性向上といった資源循環領域での取り組み強化、そして生物多様性保全に関するより統合的かつ戦略的なアプローチの構築が挙げられる。これらの分野における取り組みの深化は、CDP評価などにおけるトップレベルへの到達に向けた鍵となるだろう。
協和キリンが今後、持続可能な企業として更なる成長を遂げるためには、以下の点が重要となる。第一に、Scope 3排出量削減目標を具体的に設定し、サプライヤーとの連携を強化すること。第二に、プラスチック問題を含む資源循環戦略を高度化し、具体的な目標と行動計画を策定・実行すること。第三に、生物多様性への影響評価に基づき、より戦略的かつ測定可能な保全目標を設定し、取り組みを強化すること。そして第四に、これらの取り組みに関する透明性を一層高め、可能であれば第三者保証の範囲を拡大することである。
これらの提言を実行に移すことで、協和キリンは環境リスクを効果的に管理し、新たな事業機会を捉え、競合他社に対する優位性を確立し、ステークホルダーからの信頼を一層高めることができるだろう。これは、同社が掲げる「ライフサイエンスとテクノロジーの進歩を追求し、新しい価値の創造を通じて、世界の人々の健康と豊かさに貢献する」という理念 10 を、持続可能な形で実現していく上で不可欠な要素である。
2023年 | 16,780t-CO2 |
2022年 | 16,221t-CO2 |
2021年 | 16,402t-CO2 |
2023年 | 6,727t-CO2 |
2022年 | 13,941t-CO2 |
2021年 | 21,897t-CO2 |
2023年 | - |
2022年 | - |
2021年 | - |
スコープ1+2 CORの過去3年推移
2023年 | 53kg-CO2 |
2022年 | - |
2021年 | 96kg-CO2 |
スコープ3 CORの過去3年推移
2023年 | 0kg-CO2 |
2022年 | - |
2021年 | 0kg-CO2 |
スコープ1+2のCOA推移
2023年 | 23kg-CO2 |
2022年 | - |
2021年 | 41kg-CO2 |
スコープ3のCOA推移
2023年 | 0kg-CO2 |
2022年 | - |
2021年 | 0kg-CO2 |
2023年 | 4,422億円 |
2021年 | 3,984億円 |
2020年 | 3,522億円 |
2023年 | 812億円 |
2021年 | 536億円 |
2020年 | 523億円 |
2023年 | 1兆259億円 |
2021年 | 9,399億円 |
2020年 | 9,219億円 |
すべての会社と比較したポジション
業界内ポジション
CORスコープ1+2
CORスコープ3
CORスコープ1+2
CORスコープ3
COAスコープ1+2
COAスコープ3
COAスコープ1+2
COAスコープ3