カテゴリー | 2021年度 | 2022年度 | 2023年度 |
---|---|---|---|
1購入した製品・サービス | 8,740,800 | 9,607,890 (▲867,090) | 8,527,986 (▼1,079,904) |
2資本財 | 1,042,135 | 901,708 (▲140,427) | 845,385 (▼56,323) |
3燃料・エネルギー関連活動 | 936,628 | 1,217,373 (▼280,745) | 253,585 (▲963,788) |
4輸送・配送(上流) | 504,216 | 238,076 (▼266,140) | 211,989 (▼26,087) |
5事業から発生する廃棄物 | 6,998 | 7,409 (▲411) | 5,910 (▼1,499) |
TDKは事業で使用する電力を100%再生可能エネルギーで賄う国際イニシアチブ「RE100」に加盟。2050年までに国内外全拠点の使用電力を再エネ転換する目標を掲げ、サステナブルな社会と企業成長の両立を目指す取り組みを加速します。
TDKはJEPLAN、キリン、村田製作所、花王など計9社と連携。飲料用ペットボトルに加え、TDKなどが供給する工業用PETフィルム端材や化粧品ボトル等を原料とするケミカルリサイクルを開始。国内初となる非食品用途PETからの飲料ボトル再生を目指します。
※掲載情報は公開資料をもとに作成しており、全てのリスク・機会を網羅するものではありません。 より詳細な情報は企業の公式発表をご確認ください。
省エネ・高効率な電子部品提供による顧客の環境負荷低減への貢献は、市場シェア拡大の主要な機会です。再生可能エネルギーやEV関連市場の成長も追い風となります。TCFD分析 では、これらの機会による2030年の売上増を6,450億円と試算。社内の省エネ・資源循環推進によるコスト削減効果も期待されます。
TDK株式会社(以下、TDK)は、グローバルな電子部品・ソリューションプロバイダーとして、持続可能な社会の実現に向けた環境戦略の推進が極めて重要となっています。エレクトロニクス産業全体において、環境負荷低減への要請は年々高まっており、企業の環境パフォーマンスは、企業価値、投資家との関係、規制遵守の観点から不可欠な要素となっています。特に、「気候変動」、「資源循環」、「生物多様性」は、現代のESG(環境・社会・ガバナンス)戦略における中核的な柱であり、本報告書ではこれら3つの分野に焦点を当てて分析を行います。
本報告書の目的は、TDKの環境イニシアチブとパフォーマンスについて、特に気候変動、資源循環、生物多様性の3分野にわたり詳細な分析を行い、環境スコアリングや戦略評価に資する情報を提供することにあります。報告書は、まずTDKの具体的な取り組みを詳述し、次いで事業環境分析として潜在的なリスクと機会、業界の先進事例を考察します。さらに、競合他社との比較分析と環境スコアのベンチマーキングを行い、最後にTDKが直面する課題と今後の推奨事項を提示します。本報告書は、学術的な要求水準を満たす深さと客観性を目指し、全ての情報を文章形式で記述し、図表や箇条書きは使用しません。言語は日本語とし、参考文献リストは指定された形式に従います。
TDKは、気候変動対策を経営の重要課題と位置づけ、意欲的な目標を設定しています。同社は、2050年度までに事業活動における温室効果ガス(GHG)排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラル達成を目標として掲げています。この長期目標に向けた中間目標として、2030年度までにScope 1(直接排出)およびScope 2(間接排出、主に電力使用に伴う排出)の合計排出量を2019年度比で57.3%削減することを定めています。この具体的な削減率(57.3%)は、SBTイニシアチブ(Science Based Targets initiative)のような国際的な気候科学の枠組みとの整合性を意識した目標設定であることを示唆しており、コミットメントの信頼性を高める要素と考えられます。実績としては、2022年度において、Scope 1およびScope 2の合計排出量を2019年度比で41.5%削減しており、目標達成に向けて着実な進捗が見られます。
一方で、サプライチェーン全体での排出量を示すScope 3については、2030年度までに2019年度比で25%削減するという目標を設定しています。2022年度のScope 3排出量は1,610万トンCO2eと報告されており、Scope 1およびScope 2の排出量と比較して非常に大きいことが分かります。Scope 1、2での削減が進む一方で、Scope 3排出量の規模が大きいことは、TDKのカーボンフットプリントの大部分がバリューチェーン内に存在することを示しています。したがって、サプライヤーや顧客との連携を通じたScope 3排出量の削減が、2050年のカーボンニュートラル達成に向けた今後の重要な鍵となります。これは、自社努力だけでは管理が難しい領域であり、戦略的な複雑さを伴う課題であると言えます。
TDKは、事業活動で使用する電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指す国際的なイニシアチブ「RE100」に加盟しており、2050年までに再生可能エネルギー電力利用率100%達成を目標としています。2022年度の実績として、グループ全体の再生可能エネルギー電力利用率は21.1%に達しました。RE100への加盟は、再生可能エネルギー導入に対する強いコミットメントを示すものです。しかし、現状の21.1%という導入率と2050年の100%目標との間には依然として大きな隔たりが存在します。この約79%の差を埋めるためには、自家発電設備の導入、電力購入契約(PPA)、証書の購入など多様な手段を組み合わせ、グローバルに展開する生産拠点での導入を加速する必要があります。特に、地域による再生可能エネルギーの利用可能性やコスト、送電網の制約、特定の製造プロセスにおける技術的課題などを克服するための、今後の戦略的な投資と調達努力が不可欠となります。
TDKは、エネルギー効率の向上と使用量の削減を目指す省エネルギー活動を、気候変動戦略の基本的な柱として推進しています。これらの活動は、「TDK環境安全衛生方針」や企業理念に基づく環境活動の基本方針である「TDK環境憲章」によって方向づけられています。さらに、「環境ビジョン2035」および中期的な「環境活動計画2025」が具体的な行動枠組みを提供しています。これらの計画には、エネルギー原単位の改善目標が含まれていると考えられます。具体的な活動内容は提供された情報からは詳述できませんが、これらの指針に基づき、製造プロセスの効率改善、高効率設備への更新、運用最適化といった、業界で一般的に行われる省エネ施策がグローバル拠点で展開されていると推察されます。複数の指針や計画(憲章、ビジョン、活動計画、方針)が存在することは、体系的なアプローチを示唆する一方で、それぞれの文書間の整合性や優先順位の明確化が効果的な実行のためには重要となります。これらの枠組みが、現場レベルでの具体的な省エネ活動に円滑に結びついているかどうかが、継続的な成果達成の鍵となります。
TDKは、気候変動が事業に与える財務的影響に関する情報開示の重要性を認識し、2019年6月に気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言への賛同を表明しました。以降、TCFDのフレームワークに基づいた情報開示を行っています。TCFD提言への賛同は、気候変動に関連するリスク(物理的リスク、移行リスク)と機会について、ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標といった側面から透明性を高めることを企業に求めるものです。TDKがこの枠組みを採用していることは、気候変動問題を単なる環境コンプライアンスとしてではなく、経営戦略や財務計画に統合し、リスク評価を行っていることを示唆しています。TCFDに基づく分析プロセスを通じて、気候変動がもたらす潜在的な財務影響(例えば、炭素価格導入によるコスト増、異常気象によるサプライチェーン寸断リスク、省エネ技術や再生可能エネルギー関連市場での事業機会など)を評価し、それが設備投資や研究開発の意思決定に反映されている可能性が高いと考えられます。
TDKは、「環境ビジョン2035」および「環境活動計画2025」に基づき、廃棄物の削減とリサイクルの推進に取り組んでいます。これらの計画には、最終処分される廃棄物の原単位削減目標が含まれていると推察されます。具体的な目標値は提供されていませんが、同社は「TDK環境憲章」の原則に従い、製造プロセスにおける廃棄物発生量の抑制(リデュース)、再利用(リユース)、再資源化(リサイクル)を推進していると考えられます。電子部品業界では、製品の材料構成の複雑さ、グローバルなサプライチェーン、地域によるリサイクルインフラの違いなど、廃棄物管理における特有の課題が存在します。TDKが「原単位」での削減を目指していることは、事業成長と廃棄物発生量のデカップリング(分離)を図る、持続可能な製造業の重要な原則を意識していることを示唆しています。これは、生産量が増加しても、単位生産量あたりの廃棄物を削減することで環境効率を高める戦略的なアプローチです。
水は、電子部品の製造プロセス(洗浄、冷却など)において不可欠な資源であり、TDKは水資源の持続可能な利用にも注力しています。「TDK環境憲章」、「環境ビジョン2035」、「環境活動計画2025」が、水資源管理に関する取り組みの指針となっています。これらの枠組みの中で、水使用量の監視、節水技術の導入、排水処理の徹底、そして水ストレス地域における水リスク評価などが行われていると考えられ、水使用量原単位の削減目標も設定されていると推察されます。特にエレクトロニクス製造は水集約的になり得るため、絶対量だけでなく「原単位」での管理を重視することは、生産規模の拡大に伴う水リスクを抑制し、効率的な資源利用を示す上で重要です。これは、水資源が逼迫している地域での事業継続性を確保する観点からも合理的です。
TDKの主力事業である電子部品の製造において、製品自体の資源効率性を高めることは、資源循環への貢献において重要な側面です。提供された情報には具体的な製品レベルでの取り組みは詳述されていませんが、同社は小型化、軽量化、使用材料の削減、製品寿命の長期化、リサイクル材や再生可能材料の利用可能性の探求などを通じて、資源効率の向上に努めていると推察されます。これは、「環境ビジョン2035」 に含まれる広範な目標とも整合します。また、TDKは自社製品を通じて、顧客が製造する最終製品の省エネルギー化に貢献している点を強調しています。これは、自社の直接的な環境負荷削減に留まらず、バリューチェーン全体、特に製品使用段階での環境影響低減に貢献するアプローチであり、TDKの技術力が持続可能性に貢献する重要な側面を示しています。
TDKの廃棄物削減・リサイクル活動(1.2.1項参照)や製品の資源効率性向上(1.2.3項参照)は、従来の「採取・製造・廃棄」という線形経済から脱却し、資源を循環させるサーキュラーエコノミー(循環経済)の原則に貢献するものです。提供された情報には「サーキュラーエコノミープログラム」といった名称での具体的な取り組みは記載されていませんが、これらの活動は、資源ループを閉じ、製品価値を最大化するというサーキュラーエコノミーの基本的な考え方に沿っています。これらの野心的な目標は、「環境ビジョン2035」 のような長期的な戦略文書に含まれていると考えられます。ただし、現状の取り組みは、サーキュラーエコノミーの中でも特にリサイクルや効率化の側面に重点が置かれているように見受けられます。製品の長寿命化設計、修理可能性の向上、リファービッシュ(再生)や製品のサービス化(PaaS)といった、より進んだサーキュラーエコノミーの概念については、今後の戦略展開における潜在的な発展領域となる可能性があります。
TDKは、事業活動が生物多様性に与える影響を認識し、その保全に取り組む姿勢を示しています。「TDK環境憲章」および関連するガイドライン には、環境保護全般に関する原則が含まれていると考えられます。さらに、同社がTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)フォーラムに参加していること は、気候変動分野におけるTCFDと同様に、自然資本や生物多様性に関するリスクと機会の評価・開示に向けた新しい枠組みへの関与を示しています。これは、特にサプライチェーン(例えば、原材料調達)を通じた影響を含め、生物多様性への依存度や影響度を評価する重要性が高まっていることを、同社が認識している証左と言えます。TNFDへの早期からの関与は、この複雑で進化途上にあるサステナビリティ分野において、将来的な開示要求やリスク管理に備える積極的な姿勢を示すものであり、対応が遅れる企業に対する潜在的な優位性につながる可能性があります。
電子部品のサプライチェーンはグローバルかつ複雑であり、特に原材料(鉱物資源など)の調達段階で生物多様性への影響が生じる可能性があります。TDKのサプライヤー管理プロセスには、「TDK環境憲章」 に基づく環境基準が含まれている可能性がありますが、生物多様性保全に特化した具体的なサプライチェーン活動に関する情報は提供されていません。Scope 3排出量が大きいこと を考慮すると、サプライチェーンにおける環境影響(生物多様性への影響を含む)は無視できない規模であると推察されます。サプライヤーとの連携強化や、調達方針における生物多様性配慮の組み込みが、今後の課題となります。気候変動に関する目標や実績が詳細に報告されているのに対し、サプライチェーンにおける生物多様性保全活動に関する具体的な情報が少ない点は、この分野がTDKの環境戦略実行において、TNFDへの関与 にもかかわらず、まだ発展途上にある可能性を示唆しています。
TDKは、事業拠点のある地域社会と連携した生物多様性保全活動も実施しています。具体的な事例として、秋田県における「TDK 秋田ふるさとの森づくり」プロジェクトがあり、10年間で1万本の植樹活動を行っています。また、英国では「TDKワイルドライフ&ウェットランド・リサーチ&エデュケーション・センター」を通じて、湿地の保全や環境教育に貢献しています。これらの地域貢献活動は、企業の社会的責任を示し、従業員の意識向上や地域生態系への貢献という点で価値がありますが、地理的に限定されています。TDKのグローバルな事業展開やサプライチェーン全体が持つ潜在的な生物多様性への影響規模と比較すると、これらの局所的な取り組みだけでは十分とは言えない可能性があります。TNFDのような枠組みを通じて得られる知見に基づき、これらの地域活動を、より広範なバリューチェーン全体にわたる体系的な保全戦略へと統合していくことが望まれます。
TDKの事業活動は、様々な環境要因に関連するリスクに晒されています。同社がTCFD提言に賛同していること は、これらのリスク、特に気候関連リスクを認識し、分析していることを示唆しています。具体的には、炭素税導入や排出基準強化などの「移行リスク」、異常気象の頻発化・激甚化による生産拠点やサプライチェーンへの影響といった「物理的リスク」が挙げられます。市場リスクとしては、環境性能に優れた製品を求める顧客の嗜好変化や、競合他社による環境技術の先行、環境目標の未達や環境事故発生による「評判リスク」も存在します。特に、Scope 3排出量が大きいこと は、サプライチェーンに起因するリスク(サプライヤーに対する規制強化の影響、原材料供給の不安定化など)への脆弱性が高いことを意味します。サプライヤーが直面する気候関連の規制や物理的影響は、部品コストの上昇や供給遅延を通じて、必然的にTDKの事業にも影響を及ぼします。加えて、TNFDフォーラムへの参加 が示すように、生物多様性の損失に伴うリスク(生態系サービスへの依存、原材料調達の持続可能性に関する懸念など)も、今後顕在化する可能性のある重要なリスク領域です。
一方で、積極的な環境経営はTDKにとって新たな事業機会を創出します。最大の機会の一つは、自社製品を通じて顧客の環境負荷低減に貢献することです。エネルギー効率の高い部品やソリューションを提供することで、環境意識の高い顧客からの選択を受けやすくなり、市場での競争優位性を確立できます。また、再生可能エネルギー市場の拡大に伴い、太陽光・風力発電設備やエネルギー貯蔵システム向けの高性能部品・材料に対する需要が高まることも、TDKにとって大きな成長機会となり得ます。TCFDに基づく分析 は、こうした機会の特定にも役立っていると考えられます。さらに、社内での省エネルギーや廃棄物削減といった資源効率改善の取り組み(第1.1.3項、第1.2.1項参照)は、コスト削減に直結し、収益性を向上させます。低炭素・循環型社会への移行は、TDKが持つ技術革新力を活かせる新たな市場を生み出す可能性を秘めており、単なる自社の環境負荷削減を超えた価値創造が期待されます。特に、電力変換効率の向上、スマートグリッド用センサー、高性能バッテリー材料など、サステナビリティへの移行を「可能にする」基盤技術の開発は、内部コスト削減やリスク軽減以上に大きな長期的成長機会をもたらす可能性があります。
(注記:提供された情報には競合他社のデータは含まれますが、「先進事例」として特定された記述はありません。本項では、競合他社の活動や一般的な業界動向に基づき、TDKが参照しうる先進的な取り組みを提示します。)
気候変動対策における先進的な取り組みとしては、まず、科学的根拠に基づく野心的な目標設定が挙げられます。例えば、競合である京セラは、RE100加盟に加え、SBTiの1.5℃目標認定を取得しています。これは、TDKが現在掲げる目標(Scope 1+2で2030年度57.3%削減、これはSBTiの「Well below 2℃」水準に相当する可能性が高い)よりも、より高いレベルの目標設定であり、業界標準となりつつある可能性があります。再生可能エネルギーの導入率向上も重要であり、TDKの21.1%(2022年度) に対し、村田製作所は24.4%(2022年度) とやや先行しています。さらに、先進企業はScope 3排出量削減に向けて、サプライヤーエンゲージメントプログラムの強化、低炭素輸送の推進、製品使用時のエネルギー効率向上支援など、包括的な戦略を展開しています。CDPのような外部評価機関から最高評価(例えば、村田製作所のCDP気候変動Aリスト認定)を獲得することも、リーダーシップを示す指標となります。
資源循環の分野では、高いレベルでの廃棄物リサイクル率の達成と公表が先進的な取り組みと言えます。村田製作所は、廃棄物リサイクル率99.7%(2022年度)という具体的な数値を公表しています。また、京セラは水使用量原単位について、2030年度までに2019年度比10%削減という明確な目標を設定・公表しています。このように、具体的かつ測定可能な目標を設定し、その進捗を透明性高く開示することが重要です。製品レベルでは、モジュール設計や分解・分別しやすい設計(Design for Circularity)、リサイクル材や再生可能材料の使用率向上、製品回収・再製造プログラムの確立などが先進的な取り組みとして挙げられます。TDKも関連する取り組みを進めていると考えられますが(第1.2項参照)、競合他社のように具体的な目標値や達成率を公表することは、取り組みの信頼性を高める上で有効です。
生物多様性保全は、気候変動対策に比べて業界全体でまだ発展途上の分野ですが、先進的な取り組みも見られます。村田製作所は、拠点ごとのアセスメントに基づき生物多様性保全を推進していると報告しています。また、京セラは森林保全活動などを実施しています。TDKも地域貢献プロジェクト やTNFDフォーラムへの参加 を行っていますが、先進事例としては、事業活動、特にサプライチェーンにおける生物多様性への影響と依存度に関する詳細な評価の実施、そして「ノーネットロス(No Net Loss)」や「ネットポジティブインパクト(Net Positive Impact)」といった測定可能な目標の設定、自然を活用した解決策(Nature-based Solutions)の導入、リスクの高い原材料に関する具体的な調達方針の策定、TNFDのようなフレームワークへの早期整合などが挙げられます。現状では、TDKを含む競合他社の報告されている活動は、局所的なプロジェクトや一般的なコミットメントに留まる傾向が見られます。これは、生物多様性問題の複雑さと測定の難しさから、業界全体が体系的な戦略構築の初期段階にあることを示唆しています。したがって、TNFDへの関与 を足掛かりに、より包括的で科学に基づいた戦略を他社に先駆けて構築・実行できれば、TDKにとってリーダーシップを発揮する機会となり得ます。
TDKの主要な競合企業として、同様の電子部品事業を展開する村田製作所株式会社(以下、村田製作所)および京セラ株式会社(以下、京セラ)が挙げられます。これらの企業は、サステナビリティ報告などを通じて環境への取り組みを積極的に開示しており、TDKのパフォーマンスを評価する上で重要な比較対象となります。
村田製作所は、2050年までのカーボンニュートラルとRE100達成を目標に掲げ、高い廃棄物リサイクル率を維持し、拠点ごとのアセスメントに基づく生物多様性保全を推進しています。京セラも、RE100加盟、2050年度までのカーボンニュートラル達成を目指し、より野心的なSBTi 1.5℃目標の認定を受け、水使用量原単位削減目標を設定し、森林保全活動などに取り組んでいます。これらの企業もTDKと同様に、気候変動、資源循環、生物多様性を重要な環境課題として認識し、それぞれ独自の目標とアプローチで取り組んでいます。比較分析を行う際には、各社の事業構成やグローバルな事業展開の地理的特性の違いも考慮に入れる必要があります。
気候変動対策に関してTDKと競合他社を比較すると、いくつかの点で特徴が見られます。Scope 1+2排出量の削減進捗において、TDKの41.5%削減(2022年度、2019年度比) は着実な成果を示しています。再生可能エネルギー導入率では、TDKの21.1%(2022年度) に対し、村田製作所は24.4%(2022年度) とわずかに先行しています。目標の野心度においては、京セラがSBTi 1.5℃目標の認定を受けている点 が注目されます。TDKの目標(57.3%削減) も意欲的ですが、1.5℃整合目標として認定されているかは確認が必要です。外部評価であるCDP気候変動スコア(2022年)では、TDKが「A-」、村田製作所が「A」、京セラが「A-」 となっています。これは、3社ともにリーダーシップレベルにあることを示していますが、村田製作所が僅かに高い評価を得ています。これらのスコアは近接しており、TCFD報告の質、Scope 3削減への取り組み深度、再生可能エネルギー戦略の具体性といった要素が、評価上の僅かな差を生んでいる可能性があり、この分野での競争が激しいことを示唆しています。
資源循環に関しては、TDKも取り組みを進めていますが(第1.2項参照)、競合他社はより具体的な指標を公表しています。村田製作所の廃棄物リサイクル率99.7% や、京セラの具体的な水使用量原単位削減目標(2030年度までに10%削減) は、透明性と目標達成に向けたコミットメントを示す点で、TDKが参考にできる点です。提供された情報からは、TDKの同分野における具体的な数値目標や実績値の公表は限定的であり、競合他社と比較して透明性の面で改善の余地がある可能性があります。TDKが高いパフォーマンスを達成している可能性もありますが、それを裏付ける具体的なデータの開示が望まれます。
生物多様性保全に関しても、TDK、村田製作所、京セラ はいずれも何らかの活動を行っていますが、気候変動対策ほど体系化された戦略や具体的な目標設定は、提供された情報からは見受けられません。村田製作所の拠点アセスメント や京セラの森林保全、TDKの地域プロジェクト など、各社が取り組みを進めているものの、業界全体としてまだ模索段階にあると考えられます。その中で、TDKのTNFDフォーラムへの参加 は、この分野における戦略的な先見性を示す可能性のある差別化要因です。しかし、この関与を具体的なバリューチェーン全体にわたる影響評価や保全活動へと繋げていくことが、今後のリーダーシップ確立の鍵となります。
投資家やその他のステークホルダーは、企業の環境パフォーマンスを評価するために、第三者の評価機関によるスコアや格付けを重視します。代表的な評価機関として、CDP(旧Carbon Disclosure Project)が挙げられます。CDPは、企業に対し気候変動、水セキュリティ、フォレストに関する詳細な情報開示を求め、そのパフォーマンスを評価しています。TDK、村田製作所、京セラのスコアもCDPによって公表されています。その他、MSCI ESGリサーチやSustainalyticsといった機関も、環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)の要素を統合的に評価するESG格付けを提供しており、これらの評価は投資判断や企業の評判に大きな影響を与えます。TDKが複数のESG投資インデックスに採用されていること は、これらの評価機関からも一定の評価を得ていることを示唆しています。
入手可能な環境スコアを比較すると、CDP気候変動2022において、TDKは「A-」、村田製作所は「A」、京セラは「A-」の評価を得ています。これは、TDKが競合他社と並び、気候変動に関する情報開示とパフォーマンスにおいてリーダーシップレベルにあることを示しています。村田製作所の「A」評価は、その年のCDP評価基準において僅かに優位性があったことを示唆します。また、TDKは「FTSE Blossom Japan Sector Relative Index」や「MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数」など、国内外の主要なESG投資インデックスの構成銘柄に選定されています。これは、FTSE RussellやMSCIといったインデックス提供機関が、TDKのESG全般(環境だけでなく社会、ガバナンス側面も含む)の取り組みを総合的に評価し、良好であると判断していることを示しています。特定の環境スコア(例:CDPスコア)では競合他社に僅差で及ばない場合があるとしても、複数の主要ESGインデックスへの継続的な採用は、TDKのESGマネジメントシステム全体が市場関係者から堅牢であると見なされていることを裏付けています。完全なベンチマーキングのためには、MSCIやSustainalyticsなどの他の評価機関による具体的なスコアも比較対象とすることが望ましいですが、公開情報からは限定的です。
これまでの分析に基づき、TDKが直面している主要な環境課題を以下のように評価します。第一に、「再生可能エネルギー導入の加速」が挙げられます。2022年度の導入率21.1% から、RE100が定める100%目標 への道のりは長く、導入ペースの大幅な向上が求められます。第二に、「Scope 3排出量の管理」です。報告されているScope 3排出量の規模 は非常に大きく、カーボンニュートラル目標 達成における最大の難関であり、複雑なサプライチェーン全体での協働が不可欠です。第三に、「資源循環に関する報告の具体性向上」です。関連プログラムは存在しますが、競合他社(例:村田製作所、京セラ)と比較して、廃棄物削減率や水使用量原単位などの具体的な公表指標が不足しており、進捗の明確な提示とベンチマーキングが困難になっています。第四に、「包括的な生物多様性戦略の策定」です。地域プロジェクト やTNFDへの関与 から一歩進め、バリューチェーン全体を視野に入れた体系的なリスク評価と保全戦略の構築が求められます。第五に、「競争力の維持」です。競合他社の野心的な目標設定(例:京セラの1.5℃ SBTi)や高い外部評価(例:村田製作所のCDP『A』評価)に伍していくためには、継続的な取り組み強化と情報開示の改善が必要です。
上記の課題に対応するため、TDKが今後注力すべき分野と具体的な行動提案を以下に示します。
第一(気候変動関連)として、再生可能エネルギー導入ロードマップの詳細化と実行加速を推奨します。仮想PPA(電力購入契約)や直接投資など多様な調達オプションをグローバルに検討し、より野心的な中間目標の設定も視野に入れるべきです。
第二(気候変動・サプライチェーン関連)として、Scope 3排出量削減に焦点を当てた、強固なサプライヤーエンゲージメントプログラムを導入することを提案します。排出影響に基づいてサプライヤーを階層化し、脱炭素化に向けた支援やインセンティブを提供するなどの施策が考えられます。
第三(資源循環関連)として、廃棄物削減率・リサイクル率、水使用量原単位について、具体的、測定可能、達成可能、関連性があり、期限付き(SMART)な目標を設定し、公表することを推奨します。競合他社のベンチマーク(例:村田製作所、京セラ)も参考に、目標レベルを設定することが考えられます。また、製品におけるリサイクル材の使用率なども積極的に調査・報告すべきです。
第四(生物多様性関連)として、TNFDへの関与 を活かし、バリューチェーン全体にわたる包括的な生物多様性リスク・影響評価を実施することを推奨します。その結果に基づき、明確な目標を持つ正式な生物多様性方針を策定し、主要な事業影響に関連する自然ポジティブなパイロットプロジェクトの実施も検討すべきです。
第五(戦略・情報開示関連)として、気候変動目標について、SBTiの1.5℃基準での認定取得を検討し、主要な競合他社(例:京セラ)との整合性を高めることを推奨します。また、特にScope 3排出量や気候リスク統合に関する詳細な情報開示を通じて、CDP報告の質をさらに向上させ、最高評価である『A』スコア(例:村田製作所)の獲得を目指すべきです。
TDKは、カーボンニュートラル やRE100 へのコミットメント、Scope 1+2排出量削減における顕著な進捗、TCFDへの賛同、TNFDへの早期関与、そして堅調なESG評価とインデックスへの採用 など、環境経営において強固な基盤を築いています。一方で、再生可能エネルギー導入の規模拡大、膨大なScope 3排出量の管理、資源循環に関する具体的指標の開示、そして包括的な生物多様性戦略の展開といった領域では、更なる取り組みの深化が求められます。
総じて、TDKは環境マネジメントにおいて確かな歩みを進めていますが、同時に重要な課題と機会に直面しています。特にScope 3排出量管理と生物多様性保全という複雑な課題に積極的に取り組み、同時にサステナブルな製品イノベーション という機会を最大限に活用することが、環境意識が高まる市場において競争力を維持し、長期的な持続可能な成長を達成するための鍵となるでしょう。本報告書で提示された課題への対応と提言の実行が、TDKの更なる企業価値向上に貢献することを期待します。
2023年 | 133,616t-CO2 |
2022年 | 146,350t-CO2 |
2021年 | 146,774t-CO2 |
2023年 | 693,690t-CO2 |
2022年 | 1,236,669t-CO2 |
2021年 | 1,554,703t-CO2 |
2023年 | 19,545,785t-CO2 |
2022年 | 26,498,982t-CO2 |
2021年 | 14,250,163t-CO2 |
スコープ1+2 CORの過去3年推移
2023年 | 393kg-CO2 |
2022年 | 634kg-CO2 |
2021年 | 895kg-CO2 |
スコープ3 CORの過去3年推移
2023年 | 9,290kg-CO2 |
2022年 | 12,151kg-CO2 |
2021年 | 7,492kg-CO2 |
スコープ1+2のCOA推移
2023年 | 242kg-CO2 |
2022年 | 439kg-CO2 |
2021年 | 559kg-CO2 |
スコープ3のCOA推移
2023年 | 5,723kg-CO2 |
2022年 | 8,420kg-CO2 |
2021年 | 4,685kg-CO2 |
2023年 | 2兆1039億円 |
2022年 | 2兆1808億円 |
2021年 | 1兆9021億円 |
2023年 | 1,247億円 |
2022年 | 1,142億円 |
2021年 | 1,313億円 |
2023年 | 3兆4153億円 |
2022年 | 3兆1470億円 |
2021年 | 3兆417億円 |
すべての会社と比較したポジション
業界内ポジション
CORスコープ1+2
CORスコープ3
CORスコープ1+2
CORスコープ3
COAスコープ1+2
COAスコープ3
COAスコープ1+2
COAスコープ3