GX RESEARCH
更新日: 2025/6/5

日本電気

6701.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコン製造業
環境スコア430
売上
3,477,262百万円
総資産
4,227,514百万円
営業利益
188,012百万円

COR(売上高炭素比率)

年間CO2排出量(kg)÷ 売上高(百万円)
Scope1+2
65kg
Scope3
1,650kg

COA(総資産炭素比率)

年間CO2排出量(kg)÷ 売上高(百万円)
Scope1+2
53kg
Scope3
1,357kg

Scope1

事業者自らによる直接排出
20,000t-CO2
2023年実績

Scope2

エネルギー消化に伴う間接排出
206,000t-CO2
2023年実績

Scope3

事業者の活動に関連する他社の排出
5,738,000t-CO2
2023年実績

スコープ3カテゴリー別データ

カテゴリー2021年度2022年度2023年度
1購入した製品・サービス
3,439,000
3,795,000
(356,000)
3,778,000
(17,000)
2資本財
152,000
173,000
(21,000)
230,000
(57,000)
3燃料・エネルギー関連活動
56,000
53,000
(3,000)
54,000
(1,000)
4輸送・配送(上流)
353,000
86,000
(267,000)
79,000
(7,000)
5事業から発生する廃棄物
9,000
6,000
(3,000)
8,000
(2,000)

国際イニシアティブへの参加

check
SBT
check
RE100
EV100
EP100
check
UNGC
check
30by30
check
GXリーグ

ガバナンス・フレームワーク開示

check
サステナビリティ委員会
check
TCFD・IFRS-S2
check
TNFD
潜在的環境財務コスト(シナリオ別試算)
2023年度排出量データ: スコープ1(20,000t)、 スコープ2(206,000t)、 スコープ3(574万t)
低コストシナリオ
想定単価: 3,000円/t-CO₂
スコープ1:60百万円
スコープ2:6.2億円
スコープ3:172.1億円
総額:178.9億円
売上高比率:0.51%
中コストシナリオ
想定単価: 5,000円/t-CO₂
スコープ1:1億円
スコープ2:10.3億円
スコープ3:286.9億円
総額:298.2億円
売上高比率:0.86%
高コストシナリオ
想定単価: 10,000円/t-CO₂
スコープ1:2億円
スコープ2:20.6億円
スコープ3:573.8億円
総額:596.4億円
売上高比率:1.72%
※潜在的環境財務コストは、仮想的なカーボンプライシングシナリオをもとに算出した参考値です。

環境への取り組み

NECネッツエスアイ

【NECネッツエスアイ】CDPの気候変動分野で最高評価「Aリスト」企業に選定

NECネッツエスアイは、国際的な非営利組織CDPから気候変動への取り組みと情報開示が評価され、最高評価「Aリスト」に選定されました。同社は中期経営計画「Shift up 2024」で全事業の気候変動対応型への移行を宣言し、2050年のカーボンニュートラル達成を目指しています 。

NEC田んぼ作りプロジェクト

『NEC田んぼ作りプロジェクト』のフィールドが、環境省「モニタリングサイト1000」に認定

NECと認定NPO法人アサザ基金が協働する「NEC田んぼ作りプロジェクト」のフィールド(茨城県)が、環境省「モニタリングサイト1000」里地調査サイトに認定されました。生物多様性の保全状況を長期モニタリングするもので、生態系回復の取り組みが評価されました 。

気候変動関連のリスク・機会

※掲載情報は公開資料をもとに作成しており、全てのリスク・機会を網羅するものではありません。 より詳細な情報は企業の公式発表をご確認ください。

リスク

移行リスク

NECは気候変動に伴う移行リスクとして、カーボンプライシング導入等による中期的なコスト増(試算44億円)や、規制対応遅延・評判低下による短期的な売上減(試算35億円)を認識しています 。これらは、低炭素社会への移行が事業運営コストや市場での競争力に直接的な財務影響を及ぼす可能性を示しており、脱炭素化への投資と戦略の重要性を強調しています。

物理的リスク

気候変動による物理的リスクとして、洪水等の異常気象が生産拠点やサプライチェーン、特にデータセンター運営に与える影響を重視しています 。短期的な事業停止による売上減少リスクを33億円と試算しており、気象災害の激甚化が事業継続性に重大な脅威をもたらす可能性を示しています 。安定供給責任を果たす上で、インフラの強靭化が不可欠です。

機会

NECは気候変動対応を事業機会と捉えています。脱炭素化支援(EV充電基盤、VPP、省エネ技術等)や防災・減災ソリューション(災害予兆検知、避難支援等)への需要増が期待されます 。また、適応ファイナンス事業やICT農業ソリューション「CropScope」、次世代データセンター  など、自社の技術力を活かした新市場開拓の好機と分析しています。

目標

NECは2040年のカーボンニュートラル(Net-Zero)達成を掲げ、SBTi認定を取得しています 。中間目標として2030年度にScope1,2及びScope3排出量を2020年度比50%削減、再エネ比率約50%を目指します 。2023年度実績はScope1,2が31.0%削減と順調ですが、Scope3は6.8%削減に留まります 。製品再資源化率は98%を維持し 、廃プラ排出量は目標(3.5%削減)を大幅に超える46%削減を達成しました 。

環境アナリストレポート

NEC Corporation 環境イニシアチブおよびパフォーマンスに関する包括的分析レポート

序論

1. 本報告書の目的と分析範囲

本報告書は、NEC Corporation(以下、NEC)の環境に関する取り組みと実績を、「気候変動」「資源循環」「生物多様性」の三つの重点分野において包括的に分析・評価することを目的とする。NECの環境パフォーマンスに関する詳細な情報を収集・整理し、環境スコアリング評価に資する学術的レベルの基礎資料を提供することを目指す。分析範囲は、NECグループ全体の環境戦略、具体的な施策、目標達成状況、関連するリスクと機会、競合他社との比較、および第三者評価機関によるベンチマーキングを含む。報告対象期間は主に2023年度(2023年4月1日から2024年3月31日)であるが、必要に応じて対象期間外の情報も参照する 1。また、2024年からはサステナビリティ情報開示基準としてISSBおよびSSBJ草案の構成要素(ガバナンス、戦略、リスク管理、指標・目標)を参考に記述が整理されている点も考慮する 2

2. NECの事業概要と環境経営の重要性

NECは、ITサービス事業と社会インフラ事業を核とし、将来の成長の柱としてヘルスケア・ライフサイエンス事業を含む「その他」の区分を加えた3つの事業領域でグローバルに事業を展開している 1。2024年3月期の連結売上収益は3兆4,773億円に達する 1。企業としてのPurpose(存在意義)として「安全・安心・公平・効率という社会価値を創造し、誰もが人間性を十分に発揮できる持続可能な社会の実現を目指す」ことを掲げており、このPurposeの実現に向けて環境経営は不可欠な要素と位置づけられている 3。NECは、自社の事業活動が環境に与える影響を低減する責任を負うと同時に、その高度な技術力、特にICTソリューションを活用して地球規模の環境課題解決に貢献することが、社会からの期待であり、かつ新たな事業機会でもあると認識している 3。気候変動の深刻化、資源枯渇懸念の高まり、生物多様性損失の危機といった課題に対し、企業が積極的に関与することの重要性は増しており、NECの環境への取り組みは、その企業価値と持続可能性を左右する重要な経営課題となっている。

第1部:NECの環境戦略とガバナンス

1.1. 環境方針と推進体制

NECは、環境経営を推進するための基本的な考え方と行動指針として「環境方針」を定めている 5。この方針は、自社の事業活動に伴う環境負荷低減を図るとともに、製品・サービスの提供を通じて社会全体の環境負荷低減に貢献することを柱としている 5。この方針の遵守は、役員から従業員一人ひとりに至るまで、NECグループ全体で徹底されている 5。環境経営を実効性あるものとするため、専門の推進体制が構築されている。具体的には、環境経営推進会議がグループ全体の環境戦略や重要施策を審議・決定し、その決定事項は各ビジネスユニットや各事業場に設置された委員会等を通じて展開され、全従業員への周知徹底が図られている 6。さらに、NECライベックスのような子会社においても、社長と環境担当役員をトップマネジメントとし、ISO14001の枠組みを活用した独自の環境推進体制を構築・運用しており、グループ全体での連携が図られている 7。加えて、より客観的かつ専門的な視点を取り入れるため、2021年4月には社外の有識者を含むサステナビリティ・アドバイザリ・コミッティが新設され、マテリアリティの特定や進捗、人権リスクといった重要課題について助言を得ている 9

1.2. サステナビリティ経営における環境課題の位置づけ

NECは、持続可能な社会の実現と企業価値の向上を目指すサステナビリティ経営において、環境課題を最重要課題の一つとして明確に位置づけている。ESG(環境・社会・ガバナンス)視点での経営優先テーマである「マテリアリティ」を特定し、その中で「気候変動(脱炭素)を核とした環境課題への対応」を、リスク低減と持続的成長の基盤となる「基盤マテリアリティ」の一つとして定義している 3。この位置づけは、気候変動対策が単なる環境保全活動に留まらず、事業継続リスクの管理、新たな事業機会の創出、そして企業評価の向上に直結する経営戦略上の重要事項であるとの認識を示している 10。2023年度からは、このマテリアリティ体系をさらに精緻化し、リスク低減と成長率向上に貢献する「基盤マテリアリティ」7項目と、機会創出と成長率向上に貢献する「成長マテリアリティ」5項目に整理した 12。これにより、環境課題への対応が、リスク管理の側面だけでなく、カーボンニュートラル実現に貢献するICTソリューション提供といった成長戦略と、よりダイレクトに結びつけられている 10

1.3. 環境に関する中長期目標の概要

NECは、環境経営を具体的な行動計画に落とし込み、その進捗を測るために、野心的な中長期目標を設定している。2017年には「2050年を見据えた気候変動対策指針」を策定し、地球規模での気候変動問題に対する長期的なコミットメントを示した 5。その後、国際的な枠組みである「The Climate Pledge」への加盟(2022年)を契機に、サプライチェーン全体でのカーボンニュートラル達成目標を当初の2050年から2040年へと10年間前倒しすることを決定した 5。この目標は、科学的根拠に基づく目標設定イニシアチブ(SBTi)からNet-Zero認定を受けており、その実現に向けた道筋の妥当性が国際的に認められている 6。この長期目標達成に向けた中間目標として、「NEC環境ターゲット2030」および5カ年計画である「NECエコ・アクションプラン2025」が策定されている 5。これらの中間計画では、温室効果ガス(GHG)排出量削減(Scope 1, 2, 3)、再生可能エネルギー利用率向上、資源循環(廃棄物削減、リサイクル率向上、プラスチック対策)、水資源管理、生物多様性保全といった多岐にわたる分野で具体的な数値目標が設定され、定期的に進捗状況が評価・公開されている 6。例えば、2030年目標としてScope 1, 2およびScope 3のGHG排出量を2020年度比で50%以上削減すること、再生可能エネルギー電力比率を約50%にすることなどが定められている 15

第2部:気候変動への対応

2.1. 気候変動緩和・適応に向けた具体的取り組み

NECは、ESGにおける最重要課題の一つとして気候変動(脱炭素)を位置づけ、「緩和」と「適応」の両面から対策を推進し、価値を提供することを目指している 5

2.1.1. 温室効果ガス排出削減の推進

NECは、自社事業活動からの直接排出(Scope 1)およびエネルギー使用に伴う間接排出(Scope 2)の削減に向けて、多角的なアプローチを採用している。省エネルギー設備の導入更新や生産プロセスの効率化は継続的な取り組みであり、特にエネルギー消費の大きいデータセンターにおいては、再生可能エネルギーの導入・調達を積極的に進めている 6。国内データセンターの再生可能エネルギー利用率目標を設定し、その進捗を管理しているほか、NECクラウドIaaS(Infrastructure as a Service)では既に再生可能エネルギー100%での運用を実現している 6

バリューチェーン全体での排出量(Scope 3)削減は、NECにとってより大きな挑戦であり、その大部分を占める「購入した製品・サービス」(カテゴリ1)と「販売した製品の使用」(カテゴリ11)への対策が鍵となる 15。カテゴリ1に対しては、サプライヤーエンゲージメントを強化しており、CDPサプライチェーンプログラムへの参加を通じてサプライヤーの排出量データ収集や削減目標設定を促している 13。主要なサプライヤーに対しては、CO2排出量削減と気候変動影響を考慮したBCP(事業継続計画)対策を要請し、サステナビリティ調達SAQ(自己評価質問票)やCDP回答結果に基づき、優れた取り組みを行うサプライヤーを表彰する制度も設けている 13。カテゴリ11に対しては、製品ライフサイクル全体での環境負荷低減を目指し、製品開発段階からの省エネルギー設計を徹底している 13

さらに、これらの削減努力を経済合理性と両立させるため、NECはインターナルカーボンプライシング(HICP)制度を導入している 6。これは、設備投資などの意思決定において、CO2削減効果を金銭価値に換算して評価に組み込む仕組みであり、脱炭素化に向けた投資を促進する効果が期待される。子会社レベルでも、NECファシリティーズやNECキャピタルソリューションズが社有車のEV転換やハイブリッド化、エコドライブ推進に取り組むなど 14、グループ全体で排出削減に向けた具体的な行動が進められている。NECフィールディングでは、事務フロアの合理化やエコカー導入率100%達成といった施策を実施している 18

2.1.2. 再生可能エネルギー利用の拡大と省エネルギー施策

2040年のカーボンニュートラル達成という野心的な目標に向け、再生可能エネルギーの利用拡大はNECの気候変動戦略の中核を成す 6。国内データセンターにおける具体的な再エネ利用率目標(2023年度実績41.9%、2024年度目標48.3%)の設定や、NECクラウドIaaSの100%再エネ化はその象徴的な取り組みである 6。グループ全体としても、事業所における非化石電力の調達目標を掲げ 16、追加性のある再生可能エネルギー源からの電力購入を増やすため、コーポレートPPA(電力購入契約)の活用を積極的に推進している 19。NECプラットフォームズでは、国内事業所や海外子会社への太陽光発電設備の導入を進めている 20

省エネルギー施策も継続的に強化されている。工場においては、高効率な生産設備の導入・更新、生産技術やLumada(NECのデジタルプラットフォーム)を活用した生産効率の向上、スマートメーターを用いたエネルギー使用量の最適化などが進められている 19。オフィスにおいても、エネルギー効率の高いビルへの移転や既存施設の集約、省エネ設備の導入、設備運用の最適化などが実施されている 19。NECプラットフォームズでは、省エネ推進チームを発足させ、事業所間の情報共有や優良施策の水平展開を図り、照明のLED化やインフラ設備の省エネ更新を計画的に進めている 20。NECライベックスでは、省エネ月間を設定し、省エネパトロールを実施している 7。これらの取り組みは、エネルギーコスト削減とCO2排出量削減の両面に貢献している。

2.1.3. 脱炭素化に貢献する技術・ソリューション開発

NECは、自社の排出削減努力に加え、その強みであるICT(情報通信技術)を活用して顧客や社会全体の脱炭素化を支援することを、重要な事業機会と捉え、積極的に関連技術・ソリューションの開発・提供に取り組んでいる 5

気候変動の「緩和」に貢献するソリューションとしては、企業やサプライチェーンにおけるCO2排出量を可視化・管理するシステム 6、再生可能エネルギーの導入拡大と電力系統の安定化を支援するリソースアグリゲーション事業(仮想発電所(VPP)、電力需給管理、需給調整市場への参画支援など)6、工場やビルのエネルギー効率を最適化するエネルギーマネジメントシステム(xEMS)6、AIやIoTを活用した物流の可視化と輸配送ルートの最適化 6、電気自動車(EV)の普及と効率的な運用を支援するEVエネルギーマネジメントシステムや充電クラウド 6、疑似量子アニーリング技術を用いた配送計画の自動化による輸送効率向上 6、そして企業の脱炭素戦略策定から実行までを支援するSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)コンサルティングサービス 6などが挙げられる。NECファシリティーズも、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)サービスの提供やプラント運転最適化による省エネ化支援を行っている 14

一方、気候変動の「適応」に貢献するソリューションとしては、激甚化する気象災害に備えるため、AI、IoT、画像解析技術などを活用した災害発生前の予兆検知システム、河川氾濫シミュレーション、効果的な避難計画を支援するシステムなどを開発・提供している 6。さらに、防災・減災対策による将来のCO2排出抑制効果を定量化し、それを金融商品化することで民間投資を促進する「適応ファイナンス」事業にも注力しており、関連コンソーシアムの設立やCOP28での提言活動も行っている 6。これらのソリューションは、社会のレジリエンス強化に貢献するものである。

2.2. 目標達成状況とパフォーマンス評価

NECの気候変動対策に関する目標達成状況とパフォーマンスは、定量データと外部評価の両面から評価することができる。

2023年度のGHG排出量実績を見ると、Scope 1およびScope 2の合計排出量は226千トンとなり、基準年である2020年度比で31.0%の削減を達成した 6。これは、2030年度目標である50%削減に向けて順調な進捗を示していると言える。一方、Scope 3排出量は5,738千トンで、2020年度比6.8%の削減に留まっており、2030年度の50%削減目標達成には、今後さらなる取り組みの加速が必要である 6。再生可能エネルギーの利用に関しては、2023年度に電力総消費量の34%を再生可能エネルギーで賄い、2030年の目標である約50%に向けて着実な進展が見られる 15

これらの内部的な進捗に加え、外部からの評価も高い水準にある。国際的な環境情報開示プラットフォームであるCDPの気候変動分野において、NECは5年連続で最高評価である「Aリスト」企業に選定されている 22。これは、NECの気候変動に対する取り組みの先進性と情報開示の透明性が国際的に高く評価されていることを示している。このCDPスコアは、NECが発行するサステナビリティ・リンク・ボンド(SLB)のサステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット(SPTs)の一つとしても設定されており、財務活動と環境パフォーマンスが連動している点も注目される 12

Scope 1, 2排出削減が順調に進んでいる一方で、Scope 3排出削減が相対的に遅れている現状 15 は、NECの事業特性を反映していると考えられる。Scope 3排出量の大部分は、サプライチェーン上流の「購入した製品・サービス」(カテゴリ1)と、下流の「販売した製品の使用」(カテゴリ11)に起因している 15。これらの排出量を削減するには、自社の努力だけでは限界があり、数多くのサプライヤーとの連携強化や、顧客が使用する段階での製品エネルギー効率のさらなる向上が不可欠である。NECがサプライヤーエンゲージメント 13 や製品の環境配慮設計 13 に注力しているのはこのためであり、今後は、開発中のプラスチック情報流通プラットフォーム「PLA-NETJ」25 のような技術を活用し、バリューチェーン全体の効率化と透明性向上を図ることが、Scope 3目標達成に向けた鍵となるだろう。

2.3. 気候変動がもたらすリスクと機会の分析

NECは、気候変動が自社の事業活動および企業価値に与える影響について、リスクと機会の両面から体系的に分析し、その結果を短期・中期・長期の時間軸で評価し、中期経営計画などの経営戦略に反映させている 6

2.3.1. 移行リスクと物理的リスクの評価

気候変動に伴うリスクとして、低炭素社会への「移行リスク」と、気候変動そのものによる「物理的リスク」の両方を認識し、評価している。

移行リスクとしては、カーボンプライシング(炭素税や排出量取引制度など)の導入・強化による事業コストの増加を中期的な重要リスクと捉え、その財務影響を試算している(例:中期で44億円の影響)6。また、環境規制の強化への対応遅延や、環境に対する取り組みが不十分と見なされた場合のレピュテーション(評判)低下による売上減少リスクも短期的な影響として評価している(例:短期で35億円の影響)6。これらのリスクに対応するため、NECはGHG排出量実質ゼロに向けた省エネルギー化の徹底、再生可能エネルギーの利用拡大、グリーン電力証書の購入などを推進している 6

物理的リスクとしては、洪水、土砂災害、渇水といった異常気象の頻発・激甚化による影響を重視している。特に、自社の生産拠点やサプライチェーンの寸断、電力・ガス・水道といったライフラインの長期停止、そして事業継続性の観点からデータセンターへの影響を重大なリスクとして認識している(例:短期で33億円の影響)6。具体的な対策として、サプライチェーン全体でのリスク評価に基づいたBCP(事業継続計画)を策定・実行しており、これには重要拠点への防水扉の設置や電源設備の高所への移設などが含まれる 6。データセンターにおいては、非常用発電設備の能力強化(例:5日間連続稼働可能な燃料備蓄)や、毎年全データセンターを対象とした自然災害耐性の再評価および非常用発電機の負荷試験を実施するなど、レジリエンス強化に努めている 6。NECファシリティーズが提供する工場向け水害レジリエンス強化コンサルティングサービス 26 は、こうした社内でのリスク対応ノウハウを外部にも展開している例である。

2.3.2. 環境関連事業における機会創出

NECは、気候変動をリスクとして認識するだけでなく、その課題解決に貢献することを通じて新たな事業機会を創出できると考えている 6

移行リスク対策(緩和)に関連する事業機会としては、社会インフラの脱炭素化に貢献するソリューションへの需要増が挙げられる。具体的には、EV(電気自動車)やPHV(プラグインハイブリッド自動車)の普及を支える充電インフラ管理クラウド 6、再生可能エネルギーの導入拡大と電力系統の安定化に不可欠な仮想発電所(VPP)技術や電力需給管理システム 6、工場やオフィスのエネルギー消費を最適化するスマートファクトリーソリューションや次世代冷媒技術 6 などである。

物理リスク対策(適応)に関連する事業機会としては、防災・減災ソリューションへの需要増がある。AI、IoT、画像解析技術を駆使した災害予兆検知システム、河川氾濫シミュレーション、迅速かつ適切な避難誘導を支援するシステムなどがこれに該当する 6。また、適応策への投資を促進するための適応ファイナンス事業 6 も、新たな市場を開拓する可能性を秘めている。

さらに、気候変動による農業生産環境の変化に対応するためのICT農業ソリューション「CropScope」の提供拡大 6 や、省エネルギー性能と災害耐性を両立した次世代データセンターへの需要増 6 も、NECの技術力を活かせる重要な事業機会として認識されている。これらの機会を捉え、社会課題解決と事業成長の両立を目指している 10

第3部:資源循環の推進

3.1. サーキュラーエコノミー実現に向けた具体的取り組み

NECは、限りある資源の有効活用を通じて持続可能な社会を実現するため、製品のライフサイクル全体(生産から使用、リサイクルまで)を視野に入れた資源循環への取り組みと、各プロセスで発生する廃棄物の削減を推進している 5。2025年にサーキュラーエコノミー指針を制定したとの記述がNECのウェブサイトには存在するが 5、その具体的な制定時期については確認できず、2025年という記述の正確性には疑問が残るものの 25、指針に基づき取り組みを進めていることは確かである 5

3.1.1. 廃棄物発生抑制と再資源化の促進

NECは、長年にわたり使用済み情報通信機器の回収・再資源化に取り組んできた実績を持つ 25。特に、法人顧客から排出されるコンピュータ等の回収は1969年から開始されており、2001年には「資源の有効な利用の促進に関する法律」の改正を受け、電機・電子業界で初めてとなる「広域的処理認定業者」の資格を取得し、産業廃棄物として排出される使用済みパソコンの回収・リサイクルサービスを開始した 25。この取り組みにより、回収された使用済み情報通信機器の再資源化率(リユース、マテリアルリサイクル、サーマルリサイクルの合計重量比)は、2023年度実績で98%という極めて高い水準を達成・維持している 15

製品のリサイクルだけでなく、自社の事業活動から発生する廃棄物の削減と再資源化にも注力している。一般廃棄物および産業廃棄物(特別管理廃棄物を含む)の発生量削減目標を設定し、その達成に向けて、リサイクル設備の導入、分別排出の徹底、有価物売却の推進、ペーパーレス化の推進(会議資料の電子化、承認プロセスの電子化など)、緩衝材のリユースといった具体的な施策を実施している 21。また、廃棄物の適正処理に関する従業員の意識向上を図るため、定期的なセミナーの開催やWeb研修を通じた教育・啓発活動も行っている 25。子会社であるNECライベックスでは、社員食堂での食品ロス削減やアメニティ用品の削減といった取り組みも進めている 7。NECフィールディングでは、部品配送に耐久性のある専用通い袋を使用し、梱包材廃棄物を削減している 18

3.1.2. プラスチック資源循環への貢献策

プラスチックは現代社会に不可欠な素材である一方、その廃棄物問題は地球規模の課題となっている。NECは、プラスチック資源循環促進法への対応も含め、この課題解決に貢献するための取り組みを進めている。具体的には、プラスチック使用製品産業廃棄物等の排出抑制および再資源化を促進するため、排出量の削減目標(2024年度目標:2019年度比3.5%削減(売上原単位))を設定し、活動を推進している 25。2023年度には、この目標を大幅に上回る46%削減(売上原単位)を達成した 25

排出量削減に加え、技術開発による貢献も目指している。NECプラットフォームズでは、製品筐体へのバイオプラスチックの使用を検討している 30。また、政府主導の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)に参加し、製品に使用されるプラスチック素材の情報をデジタル管理し、サプライチェーン間で共有するための情報流通プラットフォーム「PLA-NETJ」の構築を進めている 25。これは、再生プラスチック材の利用拡大や、将来的なデジタルプロダクトパスポート(DPP)としての運用を見据えた、先進的な取り組みである。さらに、富山大学との共同研究では、AI技術を活用してアルミニウムスクラップから不純物を効率的に除去し、より純度の高い再生アルミ地金を製造する「アップグレードリサイクル」技術の開発に取り組んでおり、これが実現すれば資源効率の大幅な向上が期待される 25。子会社レベルでは、NECライベックスが宿泊施設のアメニティ備品をバイオマス配合品に切り替えたり、カフェでのプラスチック製ストロー提供を中止したりするなどの具体的な削減策を実施している 7

3.1.3. 循環型ビジネスモデルへの移行戦略

NECは、従来の「製品を製造・販売して終わり」というリニア(直線型)なビジネスモデルから、製品や資源を可能な限り長く、効率的に活用し続けるサーキュラー(循環型)なビジネスモデルへの移行を視野に入れている。これは、「モノからコトへ」、あるいは「所有から利用へ」という社会全体の価値観の変化に対応するものでもある 29。具体的な戦略として、リース、従量課金制(Pay-per-use)、サブスクリプションモデル、あるいは製品そのものをサービスとして提供するPaaS(Product as a Service)といった形態の導入を検討している 29。また、使用済み製品を回収し、修理・再整備して再販するリユース事業や、部品単位での再利用、あるいは複数ユーザーで製品を共有するシェアリングモデルなども、資源効率を高める循環型ビジネスの選択肢として考えられる 29

前述のプラスチック情報流通プラットフォーム「PLA-NETJ」25 やAIを活用したアップグレードリサイクル技術 25 の開発は、単なる技術開発に留まらず、製品のライフサイクル全体にわたるトレーサビリティを確保し、資源の価値を最大限に引き出すための基盤構築であり、これらが将来の循環型ビジネスモデルを支える重要な要素となりうる。また、グループ会社のNECキャピタルソリューションズが展開するエコリース・エコファイナンス事業は、顧客企業が省エネ設備や再生可能エネルギー設備、リサイクル設備などを導入する際の資金調達を支援するものであり、金融サービスを通じて社会全体のサーキュラーエコノミー移行を後押しする役割を担っている 31

3.2. 目標達成状況とパフォーマンス評価

NECの資源循環に関する取り組みの成果は、いくつかの主要な指標によって測ることができる。

使用済み情報通信機器の再資源化率は、2023年度実績で98%と、長年にわたり非常に高い水準を維持しており、製品リサイクルの仕組みが効果的に機能していることを示している 15。また、近年特に注力しているプラスチック資源循環に関しても、廃プラスチック排出量の削減目標(2024年度:2019年度比3.5%削減(売上原単位))に対し、2023年度実績で46%削減と、目標を大幅に超過達成する顕著な成果を上げている 25。プラスチック廃棄物の有効利用率(リサイクルやエネルギー回収など)も、2023年度実績で96%に達し、2030年度の100%達成目標に向けて順調に進捗している 29

一方で、事業活動全体から発生する廃棄物・有価物の発生量原単位(売上高あたりの発生量)については、2023年度の改善率が2010年度比で15%となり、同年度の目標であった17%改善には届かなかった 29。これは、製品リサイクルやプラスチック対策で大きな成果を上げている一方で、事業全体の効率化や他の種類の廃棄物削減にはまだ改善の余地があることを示唆している。

この廃棄物原単位改善目標の未達は、いくつかの要因が考えられる。一つは、NECの事業がITサービスから社会インフラまで多岐にわたり 1、それに伴い発生する廃棄物の種類も多様であるため、一律の削減策が適用しにくい可能性があること。特に、事業所の建設や解体、設備の入れ替えなどに伴う一時的な廃棄物増加の影響も考えられる。もう一つは、事業規模の拡大が、原単位での改善努力を上回って総排出量を押し上げている可能性である。目標達成に向けては、サプライチェーン全体を巻き込んだ発生抑制策のさらなる強化、分別徹底によるリサイクル率の向上、そしてAIを活用したリサイクル技術 25 のような革新的なアプローチの導入、従業員の環境意識と行動変容を促す継続的な教育 25 が、今後ますます重要になるだろう。

3.3. 資源循環におけるリスクと機会の分析

資源循環への取り組みは、NECにとってリスクと機会の両側面を持つ。

リスクとしては、まず規制関連のリスクが挙げられる。国内外で使用済み製品の回収やリサイクルに関する法規制が強化される傾向にあり、これらに適切に対応するためには、新たなプロセスの構築やシステム導入などにコストや時間が必要となる 25。万が一、規制対応が遅れた場合には、罰金や事業停止命令といった直接的なペナルティに加え、企業の評判低下やそれに伴う競争力の喪失といった間接的な損害につながる可能性がある 25

一方で、サーキュラーエコノミーへの移行は、NECにとって大きな事業機会をもたらす可能性を秘めている。世界的に資源効率向上や環境負荷低減への関心が高まる中、関連する技術やサービスに対する新たな市場が生まれ、拡大していくことが予想される 25。NECが開発を進めるプラスチック情報流通プラットフォーム「PLA-NETJ」25 は、製品のライフサイクル情報を管理・共有するデジタルプロダクトパスポート(DPP)としての活用が期待されており、これは製品の製造業者(動脈産業)とリサイクル業者(静脈産業)をつなぐ重要なICTサービスとなりうる 25。また、AIを活用したアルミのアップグレードリサイクル技術 25 のような、従来困難であった高度なリサイクルを可能にする技術は、資源価値の向上と環境負荷低減を両立する新たなソリューションとして、市場での競争優位性を確立する機会となりうる。これらの技術やサービスを提供することで、NECは社会全体のサーキュラーエコノミー移行に貢献するとともに、自社の新たな成長ドライバーを育成することができる。

第4部:生物多様性の保全

4.1. 生物多様性保全に関する具体的取り組み

NECは、生物多様性が食料、水、空気、気候安定など、人間社会存続の基盤であり、その保全が持続可能な社会の実現に不可欠であるとの認識に基づき、事業活動が生物多様性に与える影響を最小限に抑えるとともに、保全に貢献する活動を積極的に推進している 32。その取り組みの根幹となるのが「NECグループ生物多様性行動指針」である 32

4.1.1. 生物多様性行動指針に基づく活動

2010年に策定されたNECグループ生物多様性行動指針は、NECの生物多様性保全活動の羅針盤となっている 32。この指針は、3つの基本方針を柱としている。第一に、「生物多様性について理解を深める」こと。事業活動や日常生活と生物多様性の関わりを明らかにし、従業員、その家族、さらにはサプライヤーを含めて生物多様性に関する知識と意識を高めることを目指す 32。第二に、「生物多様性への影響に配慮して行動する」こと。地域社会、学校、NPOなど多様なステークホルダーと連携し、生物多様性保全に繋がる環境社会貢献活動を拡大するとともに、事業活動や日常生活のあらゆる場面で生物多様性に配慮した行動を実践する 32。第三に、「生物多様性に事業を通じて貢献する」こと。NECの強みであるIT・ネットワーク技術を活用し、生物多様性に関する事象の「見える化」、環境破壊や生物多様性損失の「予防」、そして失われた自然の「再生・回復」に繋がるソリューションを開発・提供することで、積極的に保全に貢献していく 32。この指針に基づき、設計開発から調達、生産、物流、サービス提供、使用、廃棄に至るサプライチェーン全体、製品ライフサイクル全体での生物多様性との関わりを評価し、配慮した活動を促進することが求められている 32

4.1.2. 事業拠点における生態系保全(我孫子事業場等)

NECは、自社事業所が立地する地域の生態系保全にも具体的に取り組んでいる。その代表例が、千葉県にあるNEC我孫子事業場での活動である 27。事業場敷地内には、かつて利根川から派生してできたと考えられる湧水池群「通称:四つ池」が存在する 27。NECは2009年から、地元のNPO法人「手賀沼水生生物研究会」と協働し、この四つ池周辺の生態系保全活動を継続的に実施している 27。特に注力しているのが、環境省レッドリストで絶滅危惧IB類(EN)に指定されている希少なトンボ「オオモノサシトンボ」の保護である 34。生息環境を脅かす外来種(アメリカザリガニやブラックバスなど)の駆除活動(釣り、網による捕獲、池干しなど)や、産卵・生育場所となる水生植物の保全、人工的なトンボ池の造成といった生息環境の整備を地道に行っている 27。これらの活動の結果、近年では池の広範囲でオオモノサシトンボの生息が確認されるようになっている 34

さらに、2012年の池干し作業の際に、タナゴ類の産卵母貝となる二枚貝「イシガイ」が多数生息していることが確認されたことを受け、2015年からは事業場内に設置した人工池を活用し、同じく絶滅危惧IA類(CR)に指定されている淡水魚「ゼニタナゴ」の保全・繁殖活動も開始した 15。これらの長年にわたる地道な保全活動が高く評価され、NEC我孫子事業場の取り組みは、2022年に日本自然保護協会が主催する「日本自然保護大賞」において「選考委員特別賞」を受賞したほか 34、2023年10月には環境省が推進する「30by30」目標達成に貢献する取り組みとして、四つ池周辺エリアが「自然共生サイト」の一つに認定された 15

4.1.3. 国際イニシアチブへの参画とステークホルダー連携

NECは、生物多様性に関する国際的な議論や枠組み作りにも積極的に関与している。企業が自然関連のリスクと機会を評価し、情報開示するための枠組みを開発する「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)」には、その開発段階からデータカタリストのメンバーとして参画し、枠組みの試行や議論に貢献してきた 34。また、科学的根拠に基づく自然関連目標(SBTs for Nature)の設定手法を開発するイニシアチブにも、企業エンゲージメントプログラムのメンバーとして参加している 34。さらに、2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として保全することを目指す国際目標「30by30」の国内達成を推進するために発足した「生物多様性のための30by30アライアンス」には、設立当初からのメンバーとして参加し、自社の我孫子事業場を自然共生サイトとして登録するなど、目標達成に貢献している 27。国内の業界団体活動としては、電機・電子4団体で構成される生物多様性ワーキンググループにも参加し、業界全体の取り組み推進に協力している 34。これらのイニシアチブへの参画は、世界の最新動向を把握し、自社の戦略に反映させるとともに、グローバルなルール形成にも貢献しようとするNECの姿勢を示している。また、生物多様性行動指針にも示されている通り、地域社会、学校、NPOといった多様なステークホルダーとの連携を重視し、我孫子事業場での保全活動のように、具体的な協働プロジェクトを進めている 32

4.1.4. 従業員の意識向上と参画促進

生物多様性保全を企業文化として根付かせ、実効性のあるものにするためには、従業員一人ひとりの理解と協力が不可欠である。NECは、従業員やその家族、さらにはサプライヤーも含めて、生物多様性の重要性や自社の取り組みについての理解を深めるための啓発活動に力を入れている 32

その代表的な活動が、2004年から認定NPO法人アサザ基金と協働で実施している「NEC田んぼ作りプロジェクト」である 15。これは、茨城県霞ケ浦周辺の耕作放棄地を再生し、田植えから稲刈り、そして収穫した米を使った酒造りまでを体験する、年間を通じた自然体験型のプログラムである 34。従業員とその家族が、自然と触れ合いながら生物多様性の恵みや保全の重要性を学ぶ貴重な機会となっている。近年では、オンライン形式でのイベント開催や、自宅でバケツ稲を育てるプログラムなども導入し、より多くの従業員が参加しやすい工夫も凝らしている 33

我孫子事業場においても、従業員とその家族を対象とした「生きもの観察隊」イベントを定期的に開催し、専門家の解説を聞きながら、四つ池周辺の多様な動植物を観察する機会を提供している 27。このほか、全従業員向けのWeb研修の中に生物多様性に関するコンテンツを組み込んだり 21、事業所周辺や海岸での清掃活動に従業員が参加したりする 35 など、多様な形で意識向上と参画促進を図っている。

4.2. 目標達成状況とパフォーマンス評価

NECの生物多様性に関する取り組みは多岐にわたるが、その目標達成状況やパフォーマンスを定量的に評価するための指標やデータは、気候変動分野と比較するとまだ限定的である。

NEC ESGデータブック2024によると、生物多様性保全に関する具体的な対策の実施件数として、年間10件以上という目標に対し、2023年度は35件を実施したという実績が報告されている 15。これは目標を大幅に上回る活動量であり、積極的な取り組み姿勢を示している。また、我孫子事業場「四つ池」が環境省の「自然共生サイト」に認定されたこと 15 は、長年の保全活動が具体的な成果として外部から認められた重要なマイルストーンである。情報開示の面では、TNFDの枠組み開発への貢献 34 や、2024年6月に「NEC TNFDレポート第2版」を発行したこと 34 など、先進的な取り組みが見られる。

しかしながら、ESGデータブックや関連資料を確認しても、我孫子事業場の保全エリアの具体的な面積、生物多様性保全活動への総投資額、事業活動による土地利用変化の状況といった、より詳細な定量的指標は見当たらない 2

NECは我孫子事業場での具体的な保全活動や国際イニシアチブへの参画において、生物多様性分野でのリーダーシップを発揮しようとしている。しかし、TNFDのような新しい情報開示フレームワークが企業に求めているのは、特定のサイトでの活動報告に留まらず、自社の事業活動全体が自然資本や生物多様性にどの程度依存し、どのような影響を与えているのかを定量的に評価し、そのリスクと機会を開示することである。現状では、NECの開示情報において、サプライチェーン全体を通じた生物多様性フットプリントの測定結果や、それに基づく具体的な削減目標といった情報は不足しているように見受けられる 2。これは、生物多様性影響の定量評価手法がまだ発展途上であることや、データの収集・分析に困難が伴うことも背景にあると考えられる。しかし、TNFDへの早期からの関与 34 は、NECがこの分野における課題を認識し、将来的に評価・開示のレベルを高めていこうとする意欲の表れと解釈できる。今後は、事業活動と生物多様性の関連性をより深く分析し、定量的な目標設定とそれに基づく進捗管理、そして透明性の高い情報開示を進化させていくことが、さらなる企業価値向上に繋がるだろう。

4.3. 生物多様性に関するリスクと機会の分析

NECは、生物多様性に関しても、事業活動に伴うリスクと、保全への貢献を通じた機会の両側面を認識している。

リスクとしては、主に生産拠点における事業活動が地域の生態系に与える潜在的な負の影響が挙げられる 34。工場の建設や拡張に伴う土地の改変、製造プロセスにおける地下水や地表水の利用、そして工場からの排水・排ガス・廃棄物の排出は、その地域の動植物の生息環境を変化させたり、汚染を引き起こしたりする可能性がある 34。特に、NECの事業所では有機溶剤や酸・アルカリ性の化学物質を使用する場合があるため、これらの物質が万が一、排水、大気、土壌へ漏洩した場合、深刻な環境汚染と生態系へのダメージを引き起こすリスクがある 34。これらのリスクに対応するため、NECは関連法規制の遵守はもちろんのこと、排水処理設備の適切な管理、大気汚染防止対策、化学物質の厳格な管理、そして万が一の漏洩事故に備えた緊急時対応訓練などを実施している 34

一方、生物多様性保全への取り組みは、NECにとって新たな価値創造の機会ともなりうる。まず、我孫子事業場での取り組みのように、事業拠点やその近隣地域で積極的に生物多様性保全活動を行うことは、地域社会やNPO、行政といった多様なステークホルダーとの良好な関係構築(エンゲージメント強化)につながる 34。また、絶滅危惧種の保全といった具体的な成果は、企業の環境に対する責任ある姿勢を示すことになり、ブランドイメージの向上にも寄与する 34。さらに、これらの活動を通じて得られた知見やネットワークは、将来的に新たな環境関連ビジネスを発掘するきっかけとなる可能性も秘めている 34

加えて、NECのコア技術であるIT・ネットワークを活用した生物多様性ソリューションの開発・提供は、直接的な事業機会となる 32。例えば、センサーネットワークやドローン、AI画像解析技術を用いた生態系モニタリングシステム、環境DNA分析による生息種調査の効率化、あるいは地理情報システム(GIS)を活用した生息地マッピングや保全計画策定支援ツールなどが考えられる。これらのソリューションは、研究機関、行政、環境コンサルタント、企業など、幅広い顧客層に対して、生物多様性の「見える化」「予防」「再生・回復」に貢献する価値を提供できる可能性がある 32

第5部:業界比較とベンチマーキング

5.1. 同業他社(富士通・日立製作所)の先進的環境事例

NECの環境パフォーマンスを評価する上で、同業他社の取り組みと比較することは有益である。ここでは、主要な競合企業である富士通および日立製作所の環境分野における先進的な事例や特徴的な取り組みを概観する。

富士通は、気候変動対策においてNECと同様に高い目標を掲げ、実績を上げている。CDP気候変動評価では7年連続で「Aリスト」に選定されており 37、これはNEC(5年連続)や日立(4年連続)を上回る実績である。2040年度までにバリューチェーン全体の温室効果ガス排出量をネットゼロにするという目標も設定している 38。再生可能エネルギーの導入にも積極的で、国内の主要データセンターで使用する電力を2025年度までに100%再生可能エネルギーに切り替える目標を掲げ、オーストラリアでは既にPPA契約を通じてデータセンター電力の47%を再エネ化している 38。サプライチェーンにおける排出削減にも注力し、主要取引先への目標設定要請を進めている 38。資源循環に関しては、サーキュラーエコノミー(CE)型ビジネスモデルに資する製品・サービスの開発を目標に掲げ、製品設計への反映を進めている 38。生物多様性分野では、サプライチェーンを含む自社の企業活動が生物多様性に与える負の影響(エコロジカル・フットプリント(EF)指標で評価)を2030年度までに25%以上低減するという具体的な定量目標を設定している点が特徴的である 38。ESG評価においても、MSCI ESGレーティングで最上位の「AAA」評価を獲得しており 39、Sustainalytics社のESG Risk RatingでもNECと同等の「Low Risk」評価を得ている 41

日立製作所も、気候変動対策を最重要課題の一つと位置づけている。CDP気候変動評価では4年連続で「Aリスト」に選定されている 42。カーボンニュートラル目標は、事業所(ファクトリー・オフィス)で2030年度、バリューチェーン全体で2050年度と設定しており、特に事業所レベルでの目標達成時期が早い 16。再生可能エネルギーの導入も進んでおり、2023年度には目標管理対象範囲の電力使用量に占める再エネ比率が56%に達している 16。サプライヤーに対してもCO2排出量削減目標の設定を要請するなど、サプライチェーン全体での取り組みを推進している 16。資源循環(サーキュラーエコノミー)への取り組みでは、「製品設計における変革」「製造過程における変革」「ビジネスモデルによる変革」という3つのアプローチを明確に打ち出し、体系的に推進している点が特徴的である 29。埋立廃棄物ゼロを達成する事業所の拡大や、プラスチック廃棄物の有効利用率100%(2030年度目標)といった具体的な目標も設定している 29。水資源管理にも注力し、水使用量原単位の改善目標を達成している 29。生物多様性分野では、NECと同様に「30by30アライアンス」への参加や「自然共生サイト」の認定(3サイト)を通じて貢献している 45。ESG評価では、MSCI ESGレーティングで「AA」評価を獲得している 44

5.2. 主要競合企業の環境戦略・パフォーマンス比較分析

NEC、富士通、日立製作所の3社は、いずれも日本を代表するICT・エレクトロニクス企業として、環境課題への対応を経営の重要事項と位置づけ、積極的な取り組みを展開している。特に気候変動対策においては、3社ともに野心的なカーボンニュートラル目標(NEC: 2040年、富士通: 2040年、日立: 2050年/事業所2030年)を設定し、SBTiからの認定取得やCDPでのAリスト評価獲得など、国際的な基準に照らしても高いレベルでの活動を推進している点は共通している。再生可能エネルギーの導入拡大やサプライチェーン全体での排出削減(Scope 3対策)も、3社共通の重点課題となっている。

資源循環の分野においても、製品リサイクルの推進、事業活動における廃棄物削減、そしてサーキュラーエコノミー型ビジネスモデルへの関心は共通して見られる。ただし、そのアプローチには各社の特色が出ている。例えば、日立製作所は「設計」「製造」「ビジネスモデル」という3つの変革アプローチを明確に示し、埋立廃棄物ゼロ達成事業所の拡大といった具体的な目標管理を行っている 29。NECは、AIを活用したリサイクル技術開発や情報流通プラットフォーム構築といった、技術主導での貢献を目指す姿勢がうかがえる 25。富士通は、CE型ビジネスモデルに資する製品開発を目標の中心に据えている 38

生物多様性保全に関しても、3社ともに事業拠点での保全活動(例:NEC我孫子、富士通沼津、日立水戸など)や、30by30アライアンスへの参加といった共通の取り組みが見られる。しかし、定量的な目標設定や情報開示のレベルには差異がある。富士通がエコロジカル・フットプリントを用いた負の影響低減目標を設定している 38 のに対し、NECや日立ではまだ同様の定量目標の開示は限定的である。NECはTNFDへの早期関与 34、日立は自然共生サイトの複数認定 45 など、それぞれ異なる側面で先進性を示している。

全体として、3社ともに環境課題への取り組みレベルは高い水準にあるが、重点領域や戦略的アプローチ、目標設定の具体性、情報開示の深度において、それぞれに強みと今後の課題が見られると言える。

5.3. 主要ESG評価機関による環境スコアのベンチマーキング

企業の環境パフォーマンスを客観的に比較評価する上で、CDP、MSCI、Sustainalyticsといった主要なESG評価機関によるスコアリングは重要な指標となる。以下に、NEC、富士通、日立製作所の3社について、これらの評価機関による環境関連スコアを比較分析する。なお、本報告書の指示に従い、表形式は用いず、すべての情報を文章形式で記述する。

5.3.1. CDPスコア比較分析

CDPは、企業の気候変動、水セキュリティ、フォレストに関する情報開示と取り組みを評価する国際的な非営利組織である。その評価はAからD-のスコアで示され、最高評価が「Aリスト」となる。

気候変動分野においては、NEC、富士通、日立製作所の3社すべてが、直近の評価(2023年または2024年発表)において最高評価である「Aリスト」に選定されている。NECはこの評価を5年連続で獲得しており 22、富士通は7年連続 37、日立製作所は4年連続 42 でAリスト入りを果たしている。これは、3社ともに気候変動に対するリスク認識、戦略策定、具体的な排出削減活動、そして情報開示の透明性において、世界的に見てもトップレベルにあることを示唆している。

水セキュリティ分野においても、NECは気候変動と同様に5年連続で「Aリスト」評価を獲得している 22。これは、NECが水リスク管理や水資源の有効活用においても先進的な取り組みを行っていることを示している。日立グループの日立ハイテクも、気候変動と水セキュリティの両分野でAリスト評価を受けており 47、グループ全体での水問題への意識の高さがうかがえる。富士通および日立製作所本体の水セキュリティに関するCDPスコアは、提供された資料からは確認できなかった。

さらに、CDPはサプライチェーン全体での気候変動対策を評価する「サプライヤーエンゲージメント評価」も実施している。NECはこの評価においても、4年連続で最高評価である「サプライヤ・エンゲージメント・リーダー」に選定されており 48、Scope 3排出量削減に向けたサプライヤーとの連携が効果的に進められていることが示唆される。富士通も同様に「サプライヤ・エンゲージメント・リーダー」に選定されている 40

グループ会社を見ると、NECキャピタルソリューションズはCDP気候変動スコアで「A-」評価を獲得しており、リーダーシップレベルと評価されている 17

5.3.2. MSCI ESGレーティング比較分析

MSCI ESG Researchは、企業のESG(環境・社会・ガバナンス)リスクへのエクスポージャーと、同業他社と比較したリスク管理能力を評価し、AAA(最高)からCCC(最低)までの7段階で格付けを行っている 49。この評価は業種内での相対評価が基本となる 49

このMSCI ESGレーティングにおいて、富士通は最上位の「AAA」評価を獲得している 39。これは、富士通が属するソフトウェア・サービス業界において、ESGリスクに対する管理能力が極めて高いと評価されていることを意味する。

一方、NECおよび日立製作所は、ともに「AA」評価を獲得している 44(NECについては48で指数組み入れの言及はあるが最新スコアの直接記載はないものの、過去の報道や指数構成状況からAA評価が継続していると推察される)。AA評価もリーダー(Leader)カテゴリーに属し、高いESGパフォーマンスを示しているが、富士通のAAA評価には一歩及ばない状況である。これは、特定の評価項目において、富士通がNECや日立よりも僅かに高い評価を得ている可能性を示唆している。例えば、日立のAA評価獲得時には、コンプライアンス教育推進やグリーン価値創出のための研究開発投資開示などが評価されたと報告されている 46

NECは、このMSCIの評価に基づき、「MSCI ESG Leaders Indexes」や、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が採用する「MSCI日本株ESGセレクト・リーダーズ指数」といった主要なESG投資インデックスの構成銘柄にも選定されている 48。日立製作所も同様にこれらの指数に選定されており 46、日立建機(日立グループ)も「MSCI ESG Leaders Indexes」に選定されている 50

5.3.3. Sustainalytics ESGリスクレーティング比較分析

Sustainalytics社は、企業が直面するESG要因に起因する重大な財務的影響のリスク(ESGリスク)を評価し、そのリスクの大きさ(管理されていないリスクの度合い)を0(リスクなし)から始まる数値スコアで示している。スコアが低いほどリスクが低いと評価される。

このESG Risk Ratingsにおいて、NECはスコア12.1で「Low Risk」(低リスク)と評価されている 51。これは、同社が属するTechnology Hardware業界(635社中76位)および評価対象企業全体(Global Universe、15160社中654位)の中で、ESGリスクが相対的に低い水準に管理されていることを示している 51

富士通もスコア12.5で「Low Risk」評価であり、NECとほぼ同等の低リスクレベルと評価されている 41。富士通はSoftware & Services業界(958社中19位)およびGlobal Universe(15155社中766位)に位置しており、業界内での順位はNECよりも高い 41。さらに富士通は、Sustainalytics社から「Industry Top Rated」(業界トップ評価)および「Region Top Rated」(地域トップ評価)にも選出されており、そのESGリスク管理能力が高く評価されていることがうかがえる 39

日立製作所は、Industrial Conglomerates業界(131社中11位)にランクされており、業界内でのESGリスクは低いと評価されているが、具体的なスコアは提供された資料からは確認できなかった 53

グループ会社では、NECキャピタルソリューションズがスコア25.8で「Medium Risk」(中リスク)と評価されている 54。富士通ゼネラルはスコア24.7で「Medium Risk」評価である 55

これらの評価結果から、NEC、富士通、日立製作所の3社本体はいずれもSustainalytics社からESGリスクが低いと評価されているが、特に富士通は業界内および地域でのトップ評価を受けている点が注目される。

第6部:NECの環境課題と今後の展望

6.1. 現状分析に基づく主要課題の特定

これまでの分析に基づき、NECが環境分野において直面している主要な課題を特定する。

第一に、Scope 3排出量削減の加速が挙げられる。Scope 1およびScope 2の排出削減は2030年目標に向けて順調に進捗しているものの、バリューチェーン全体排出量の大部分を占めるScope 3、特にカテゴリ1(購入した製品・サービス)とカテゴリ11(販売した製品の使用)に起因する排出量の削減ペースは、目標達成に向けて十分とは言えない状況にある 15。サプライチェーン全体にわたる排出量を効果的に削減するためには、より踏み込んだサプライヤーとの協働、製品ライフサイクル全体を見据えた設計思想の徹底、そして顧客側でのエネルギー効率改善を促す革新的なソリューション提供が急務である。

第二に、事業活動における廃棄物原単位改善の停滞が課題である。製品リサイクル率は98%と極めて高い水準を達成している一方で、事業活動全体から発生する廃棄物・有価物の発生量原単位(売上高あたり)の改善率は、2023年度において目標未達となった 29。これは、事業規模の拡大に伴う総量の増加圧力に加え、特定の廃棄物(例:建設廃棄物、特殊な製造プロセスからの廃棄物など)の削減や再資源化が難航している可能性を示唆している。継続的な生産効率の改善、より高度なリサイクル技術の導入、そして全従業員のさらなる意識向上が求められる。

第三に、生物多様性に関する定量的評価・開示の深化が必要である。我孫子事業場での保全活動や国際イニシアチブへの積極的な参画は評価されるべき点であるが、TNFDなどの国際的な枠組みが要求するレベルでの、事業活動全体を通じた生物多様性への依存度や影響度に関する定量的な評価、リスク・機会の財務影響分析、そしてそれらに基づく具体的な目標設定と情報開示は、まだ発展途上にあると考えられる 2。サプライチェーンを含めたバリューチェーン全体での生物多様性フットプリントを把握し、削減に向けた戦略を具体化していくことが今後の重要なステップとなる。

第四に、循環型ビジネスモデルの本格展開と収益化も今後の課題である。PLA-NETJのような情報基盤技術やAIを活用したリサイクル技術の開発は進められているが 25、これらの技術を核とした具体的な循環型ビジネスモデル(例:製品のサービス化、リユース・リマニュファクチャリング事業など)を確立し、収益を伴う形でスケールさせていくことが求められる。

6.2. 持続可能な成長に向けた重点分野と提言

特定された課題を踏まえ、NECが今後、持続可能な成長を実現するために注力すべき重点分野と具体的な提言を以下に示す。

第一に、サプライヤー協働強化によるScope 3削減を最優先課題の一つとして取り組むべきである。CDPサプライヤーエンゲージメントリーダーとしての実績 48 を基盤とし、主要サプライヤーとの対話をさらに深化させ、単なる目標設定要請に留まらず、具体的な削減計画の策定支援、技術協力、さらには共同での再生可能エネルギー調達や、削減成果に応じたインセンティブの導入などを検討することが有効である。同時に、製品の企画・設計段階からライフサイクル全体でのエネルギー消費量を最小化する「エコデザイン」の思想を、より一層徹底・強化することも不可欠である。

第二に、DX技術を活用した資源効率の抜本的向上を追求すべきである。NECの強みであるAI、IoT、データ分析、プラットフォーム技術(例:PLA-NETJ 25、AIによるアルミ再生 25)を最大限に活用し、自社の製造プロセスにおける歩留まり改善や廃棄物削減、エネルギー効率向上を図るだけでなく、同様の課題を抱える顧客企業に対しても、サプライチェーン全体の資源効率を可視化・最適化するソリューションを提供することで、新たな事業機会を創出することが期待される。これは、事業活動における廃棄物原単位改善の課題解決にも直結する。

第三に、生物多様性情報開示の高度化とネイチャーポジティブ貢献事業の育成に取り組むべきである。TNFD提言への本格的な対応を進め、自然関連リスクと機会に関する評価(特に財務影響の分析)を深化させ、その結果を統合報告書やESGデータブックで透明性高く開示していく必要がある。我孫子事業場での保全活動 34 で培った知見や生態系に関するデータを活用し、環境DNA分析技術、リモートセンシングやAIを用いた生態系モニタリングシステム、生物多様性保全に資するコンサルティングサービスなど、ネイチャーポジティブに貢献する新たな事業領域を戦略的に探索・育成することも推奨される。

第四に、環境価値と経済価値の両立を追求する事業戦略の強化が重要である。気候変動の緩和・適応に貢献するソリューション(脱炭素支援、VPP、防災・減災、適応ファイナンスなど)6 や、資源循環を促進するプラットフォーム・サービス 25 など、環境課題解決に直結する事業は、社会からの要請が高く、大きな成長が見込まれる分野である。これらの分野を「成長マテリアリティ」として明確に位置づけ 10、研究開発投資や人材育成、M&Aを含む戦略的なリソース配分を行い、環境貢献と収益成長を両立させるビジネスモデルの確立を加速させることが、NECの持続的な企業価値向上に不可欠である。

結論

NECの環境パフォーマンスに関する総括的評価

NECは、企業の存在意義(Purpose)に根差したサステナビリティ経営を推進し、その中で環境課題への対応を重要な柱と位置づけている。特に「気候変動」「資源循環」「生物多様性」の三分野において、明確な方針と中長期目標(2040年ネットゼロ目標を含む)を設定し、多岐にわたる具体的な取り組みを実行している。

気候変動対策では、Scope 1, 2排出削減を着実に進め、再生可能エネルギー導入率も向上させている。CDP気候変動評価で5年連続Aリストを獲得するなど、国際的にも高い評価を得ている。水セキュリティに関しても同様にAリスト評価を受けており、水リスク管理にも強みを持つ。資源循環では、製品リサイクルにおいて98%という高い再資源化率を維持し、プラスチック削減目標も大幅に達成するなど、具体的な成果を上げている。生物多様性保全では、我孫子事業場での長年の活動が自然共生サイト認定に繋がるなど、先進的な取り組みも見られる。また、TNFDやSBTs for Natureといった国際イニシアチブへの早期からの積極的な関与は、将来を見据えた戦略的な動きとして評価できる。

一方で、課題も存在する。Scope 3排出量の削減ペースは目標達成に向けて加速が必要であり、サプライチェーン全体での取り組み強化が求められる。事業活動から発生する廃棄物の原単位改善も目標未達であり、継続的な効率化が必要である。生物多様性に関しては、活動の質は高いものの、事業全体への影響に関する定量的な評価・開示は今後の深化が期待される。

総じて、NECは環境パフォーマンスにおいて多くの分野でリーダーシップを発揮しているが、バリューチェーン全体での課題解決や、新たな国際基準への対応といった側面では、更なる進化が求められる段階にあると言える。

環境スコアリングに向けた示唆

本報告書の分析結果は、NECの環境スコアリング評価において以下の示唆を与える。

ポジティブな評価要素としては、野心的な中長期目標(特に2040年ネットゼロ目標とSBT Net-Zero認定)、気候変動および水セキュリティにおけるCDP Aリスト評価、サプライヤーエンゲージメントリーダー認定、高い製品リサイクル率、我孫子事業場での具体的な生物多様性保全成果と自然共生サイト認定、TNFD等への積極的な関与、そして環境課題解決に貢献するICTソリューションの開発・提供などが挙げられる。これらは、NECが高いレベルの環境マネジメント体制を有し、具体的な行動と成果を伴っていることを示している。

一方で、スコアに影響を与える可能性のある留意点としては、Scope 3排出削減の進捗状況、事業活動における廃棄物原単位の改善状況、そして生物多様性に関する定量的な情報開示(特に依存度・影響度評価や財務影響分析)の充実度が挙げられる。これらの課題に対する今後の取り組みの進展が、スコアの維持・向上において重要な鍵となる。

また、競合他社との比較もスコアリングにおいて重要な要素となる。富士通がMSCI ESGレーティングでAAA評価を獲得している点や、日立製作所が体系的なサーキュラーエコノミー戦略を展開している点などを踏まえ、NECの取り組みの相対的な位置づけや独自性が評価されることになる。NECが持つICT技術を活用した環境ソリューションの独自性や、TNFD等への早期関与といった戦略的な動きが、将来的な評価においてどのように反映されるかも注目される点である。

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日本電気のGHG排出量推移

GHG排出量推移

「Scope1」の過去3年の推移

2023年20,000t-CO2
2022年21,000t-CO2
2021年22,000t-CO2

「Scope2」の過去3年の推移

2023年206,000t-CO2
2022年238,000t-CO2
2021年302,000t-CO2

「Scope3」の過去3年の推移

2023年5,738,000t-CO2
2022年6,894,000t-CO2
2021年6,535,000t-CO2

COR(売上高あたりのCO2排出量)推移

スコープ1+2

スコープ1+2 CORの過去3年推移

2023年65kg-CO2
2022年78kg-CO2
2021年107kg-CO2

スコープ3

スコープ3 CORの過去3年推移

2023年1,650kg-CO2
2022年2,081kg-CO2
2021年2,168kg-CO2

COA(総資産あたりのCO2排出量)推移

スコープ1+2

スコープ1+2のCOA推移

2023年53kg-CO2
2022年65kg-CO2
2021年86kg-CO2

スコープ3

スコープ3のCOA推移

2023年1,357kg-CO2
2022年1,730kg-CO2
2021年1,737kg-CO2

業績推移

売上推移

2023年3兆4773億
2022年3兆3130億
2021年3兆141億

純利益推移

2023年1,495億円
2022年1,145億円
2021年1,413億円

総資産推移

2023年4兆2275億
2022年3兆9841億
2021年3兆7617億

すべての会社・業界と比較

環境スコアポジション

日本電気の環境スコアは430点であり、すべての会社における環境スコアのポジションと業界内におけるポジションは下のグラフになります。

すべての会社と比較したポジション

業界内ポジション

日本電気のCORポジション

日本電気におけるCOR(売上高(百万円)における炭素排出量)のポジションです。CORは数値が小さいほど環境に配慮したビジネスであると考えられます。日本電気のスコープ1+2の合計のCORが65kg-CO2であり、スコープ3のCORが1650kg-CO2になります。グラフはGHG排出量のスコープ別に分かれており、すべての会社と業界内におけるそれぞれのポジションを表しています。
全体における日本電気のCORポジション

CORスコープ1+2

CORスコープ3

業界内における日本電気のCORポジション`

CORスコープ1+2

CORスコープ3

日本電気のCOAポジション

日本電気におけるCOA(総資産(百万円)における炭素排出量)ポジションです。COAもCAR同様、数値が小さいほど環境に配慮したビジネスを行っていると考えられます。日本電気のスコープ1+2の合計のCORが53kg-CO2であり、スコープ3のCORが1357kg-CO2になります。グラフはGHG排出量のスコープ別に分かれており、すべての会社と業界内におけるそれぞれのポジションを表しています。
全体における日本電気のCOAポジション

COAスコープ1+2

COAスコープ3

業界内における日本電気のCOAポジション

COAスコープ1+2

COAスコープ3

環境スコアランキング(全社)

集計数:1049企業
平均点数:180.6
CDPスコア気候変動勲章
三菱電機
6503.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコン製造業
505
CDPスコア気候変動勲章
コニカミノルタ
4902.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコン製造業
500
CDPスコア気候変動勲章
豊田自動織機
6201.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコン製造業
480
4
古河電気工業
5801.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコン製造業
470
5
味の素
2802.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコン製造業
460
6
セコム
9735.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコンサービス業
455
7
アイシン
7259.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコン製造業
450
8
ダイキン工業
6367.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコン製造業
450
9
フジクラ
5803.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコン製造業
445
10
三ツ星ベルト
5192.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコン製造業
445

業界別環境スコアランキング

集計数:509企業
平均点数:205.6
CDPスコア気候変動勲章
三菱電機
6503.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコン製造業
505
CDPスコア気候変動勲章
コニカミノルタ
4902.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコン製造業
500
CDPスコア気候変動勲章
豊田自動織機
6201.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコン製造業
480
4
古河電気工業
5801.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコン製造業
470
5
味の素
2802.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコン製造業
460
6
ダイキン工業
6367.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコン製造業
450
7
アイシン
7259.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコン製造業
450
8
三ツ星ベルト
5192.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコン製造業
445
9
オムロン
6645.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコン製造業
445
10
フジクラ
5803.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコン製造業
445