カテゴリー | 2021年度 | 2022年度 | 2023年度 |
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1購入した製品・サービス | 2,284,000 | 2,792,000 (▲508,000) | 3,492,000 (▲700,000) |
2資本財 | 292,000 | 226,000 (▼66,000) | 168,000 (▼58,000) |
3燃料・エネルギー関連活動 | 19,000 | 87,000 (▲68,000) | 78,000 (▼9,000) |
4輸送・配送(上流) | 237,000 | 219,000 (▼18,000) | 205,000 (▼14,000) |
5事業から発生する廃棄物 | 8,000 | 8,000 (=0) | 8,000 (=0) |
明治グループは、2050年カーボンニュートラル目標達成に向け、再生可能エネルギー導入拡大やサプライチェーン全体でのGHG削減を推進しています 。TCFD提言に基づく情報開示も強化しています 。また、新たに「ネイチャーポジティブ宣言」を制定し 、持続可能なカカオ調達(100%達成) や森林保全活動 を通じ、生物多様性の保全と回復への貢献を加速します。
※掲載情報は公開資料をもとに作成しており、全てのリスク・機会を網羅するものではありません。 より詳細な情報は企業の公式発表をご確認ください。
環境課題への対応は、新たな事業機会をもたらします。環境配慮型製品(植物由来、サステナブル認証原料使用等)や健康・予防ニーズ(ワクチン、機能性食品等)への需要拡大が期待されます 。省エネや資源循環によるコスト削減 、ブランド価値向上、そしてメタン削減技術や代替タンパク質等のイノベーション創出も、持続的な成長ドライバーとなり得ます 。
本レポートは、明治ホールディングス株式会社(以下、明治HD)の環境パフォーマンスについて、特に「気候変動」「資源循環」「生物多様性」という3つの重要な環境分野に焦点を当て、包括的な分析を行うことを目的としています (User Query)。この分析は、同社の環境スコア算出に必要となる詳細情報の収集、および学術的なレベルでの評価と洞察を提供することを目指すものです (User Query)。なお、本レポートにおけるデータ提示は、ユーザーの要求に基づき、すべて記述形式で行い、表形式は用いません (User Query)。必要に応じて、情報の整理のために箇条書き等を使用します。
明治グループは、「食と健康」のプロフェッショナルとして、その事業活動を通じて社会が直面する課題の解決に貢献し、人々が健康で安心して暮らせる「持続可能な社会の実現」を目指しています。この目標達成に向けた経営の中核には、サステナビリティの推進が据えられています。
ROESG®経営:
明治HDは、2023中期経営計画から「明治ROESG®」という独自の経営指標を導入し、2026中期経営計画においても最上位の経営目標として位置付けています。この指標は、株主資本利益率(ROE)と主要なESG(環境・社会・ガバナンス)評価機関からの評価スコアを統合するだけでなく、「明治らしさ」という独自の要素を加味している点が特徴的です。この「明治らしさ」には、「健康寿命延伸への貢献」「タンパク質摂取量の向上」「インフルエンザワクチン接種率の向上」など、明治グループが特に重視する6つの社会課題への貢献度が反映されます。ROESG®経営の導入は、ESGへの取り組みを単なる外部評価への対応策として捉えるのではなく、企業の財務パフォーマンス向上と社会・環境価値の創出を不可分なものとして経営戦略の中核に統合し、両者のトレードオン(両立)を追求しようとする明治HDの強い意志を示唆しています。特に、「明治らしさ」という独自要素の組み込みは、自社のコアビジネスである「食と健康」を通じて社会課題解決に貢献するという、事業特性とサステナビリティを結びつける具体的な試みとして注目されます。
明治グループサステナビリティ2026ビジョン:
中期的な活動方針として、「明治グループサステナビリティ2026ビジョン」が策定されています。このビジョンは、「こころとからだの健康に貢献」「環境との調和」「豊かな社会づくり」という3つの主要な活動テーマと、これらすべてに共通するテーマとして「持続可能な調達活動」を設定しています。本レポートで重点的に分析する「気候変動」「資源循環」「生物多様性」の3分野は、主に「環境との調和」のテーマに含まれます。各テーマには具体的な重要課題(マテリアリティ)とKPI(重要業績評価指標)が設定され、進捗管理が行われています。
長期環境ビジョン「Meiji Green Engagement for 2050」:
さらに長期的な視点からは、「Meiji Green Engagement for 2050」と題する長期環境ビジョンが策定されています。このビジョンは、2050年を見据え、「気候変動(カーボンニュートラル達成)」「水資源(ウォーターニュートラル達成)」「資源循環(ゼロエミッション、新規自然資本利用の最小化)」「汚染防止」の4つの領域で具体的な目標を設定し、将来にわたって自然と共生する社会の実現を目指すものです。
これらの経営方針やビジョンは、明治HDが環境課題を含むサステナビリティを経営の根幹に据え、短期・中期・長期の視点を持って体系的に取り組んでいることを示しています。
明治HDは、気候変動を事業継続および持続可能な社会の実現に対する重要なリスクと認識し、「環境との調和」をサステナビリティビジョンの柱の一つとして、脱炭素社会の実現に向けた多岐にわたる取り組みを推進しています。
明治グループは、温室効果ガス(GHG)排出量削減のため、エネルギー効率の改善、再生可能エネルギーの導入拡大、サプライチェーン全体での排出削減策などを複合的に実施しています。
省エネルギー対策: 生産拠点において、エネルギー効率の高い設備への更新を進めています。例えば、チラー(冷却装置)の更新などによりCO2排出量の削減を図っています。また、事業活動全体での省エネルギー活動を推進しています。
再生可能エネルギーの活用:
自家発電: 国内外の自社拠点において、太陽光発電設備の導入を進めており、2022年度にはこれらの設備により年間で2,358トンのCO2排出削減効果がありました。今後も導入拡大を計画しています。
購入電力: 再生可能エネルギー由来の電力購入を計画的に進めています。2023年度実績として、グループ全体の使用電力に占める再生可能エネルギーの割合は17.4%に達しました。
バイオマスエネルギー: 工場排水や食品残渣を利用したバイオマスエネルギーの活用も進めています。特筆すべき事例として、十勝工場ではホエイ(乳清)残渣や排水処理から発生するメタンガスを回収・精製し、ボイラー燃料として利用するメタンバイオガス活用設備を2024年から稼働させています。これにより、年間で産業廃棄物を54%、CO2排出量を5.9%削減する効果が見込まれています。
インターナルカーボンプライシング(ICP)制度: 企業内部で炭素排出に価格を設定し、投資判断や事業評価に組み込むインターナルカーボンプライシング制度を導入しています。これにより、低炭素投資を経済合理性の観点からも促進し、排出削減へのインセンティブを高めることを意図しています。ただし、具体的な内部炭素価格や、それが投資決定に与えた影響の詳細については、開示情報が限定的です。
CFP(カーボンフットプリント)算定: 製品のライフサイクル全体(原材料調達から廃棄まで)におけるGHG排出量を算定するカーボンフットプリント(CFP)の取り組みを推進しています。特に排出寄与度が大きいと考えられる牛乳などの製品についてCFPを算定し、排出量の多い工程を特定して削減対策を検討・実施することに活用しています。
特定フロン全廃と自然冷媒への転換: オゾン層破壊や地球温暖化の原因となる特定フロンについて、2030年度までに全廃するという目標を掲げ、計画的に取り組みを進めています。環境省の補助金制度なども活用しながら、冷却設備で使用する冷媒を、環境負荷の小さい二酸化炭素などの自然冷媒へ転換しています。
サプライチェーン(Scope 3)における取り組み: 自社の直接排出(Scope 1)およびエネルギー使用に伴う間接排出(Scope 2)だけでなく、サプライチェーン全体での排出(Scope 3)削減にも注力しています。
酪農分野: Scope 3排出量の主要因の一つである酪農分野において、複数の取り組みを進めています。味の素株式会社との協業では、乳牛に与える飼料のアミノ酸バランスを改善することで、温室効果ガス(主にメタン)の排出量を削減する技術を活用しています。削減されたGHG排出量はJ-クレジット制度を通じてクレジット化され、これを明治グループが購入することで、酪農家の新たな収入源創出にも貢献するビジネスモデルを構築しています。現在、国内4牧場の約3000頭が対象ですが、今後の拡大が期待されます。また、牛のげップ由来のメタンは強力な温室効果ガスであるため、その削減に向けた研究開発にも着手しています。
持続可能な原材料調達: カカオ生産におけるアグロフォレストリー農法の推進 や、パーム油調達におけるRSPO認証の推進 など、原材料調達段階での環境負荷低減、ひいてはScope 3排出量削減に繋がる取り組みも行っています。
サプライヤーエンゲージメント: サプライヤーに対して環境への配慮を求め、協働して排出削減に取り組むためのエンゲージメントを強化しています。
これらの多岐にわたる取り組みは、明治HDが気候変動対策を包括的に捉え、自社努力のみならず、サプライチェーン全体での協働を通じて課題解決を図ろうとしている姿勢を示しています。特に、排出量の大きい酪農分野における具体的な削減策(味の素との協業、メタン削減研究)への着手は評価されるべき点です。一方で、ICP制度の具体的な運用実態や効果、CFP算定の対象範囲や活用方法の詳細など、取り組みの実効性に関する情報開示には更なる充実が望まれます。
明治HDは、パリ協定の目標達成に貢献するため、科学的根拠に基づいた野心的なGHG排出削減目標と再生可能エネルギー導入目標を設定し、その達成に向けて取り組んでいます。
GHG排出量削減目標:
中期目標(2030年度): Scope 1およびScope 2の合計排出量を、2020年度比で50%以上削減することを目指しています。これは年率換算で4.2%の削減に相当します。また、Scope 3排出量についても、2020年度比で30%以上の削減を目指しています。これらの目標は、SBT(Science Based Targets)イニシアチブが推奨する「1.5℃目標」水準に整合することを目指したものと考えられます。
長期目標(2050年度): サプライチェーン全体でのカーボンニュートラル、すなわちGHG排出量を実質ゼロにすることを目標として掲げています。
再生可能エネルギー導入目標:
中期目標(2030年度): グループ全体の総使用電力量に占める再生可能エネルギーの比率を50%以上に引き上げることを目指しています。
長期目標(2050年度): 自社拠点における総使用電力量に占める再生可能エネルギー比率を100%とすることを目標としています。
実績:
GHG排出量: 2023年度のグローバル連結での排出量は、Scope 1が20.9万トン-CO₂、Scope 2が26.3万トン-CO₂でした。2030年度のScope 1+2目標(2020年度比50%削減)に対する進捗率は、基準年(2020年度)の排出量データが開示されていないため、現時点では正確な評価が困難です。Scope 3排出量(日本)は420.5万トン-CO₂、Scope 3排出量(グローバル)は466.5万トン-CO₂と報告されています。
再生可能エネルギー比率: 2023年度の実績は17.4%でした。これは、2030年度目標である50%達成に向けては、導入ペースの加速が必要であることを示唆しています。
外部評価: 国際的な環境非営利団体CDPによる気候変動に関する評価において、3年連続で最高評価である「Aリスト企業」に選定されています。これは、明治HDの目標設定の野心性、具体的な取り組みの実施、そして情報開示の透明性が総合的に高く評価された結果と言えます。
目標設定においては、2050年カーボンニュートラルという長期的なゴールと、SBTiの基準を意識した野心的な2030年中間目標(Scope1・2 50%削減、Scope3 30%削減)が示されており、気候変動対策への強いコミットメントがうかがえます。しかしながら、特に再生可能エネルギー導入比率の進捗状況は、目標達成に向けて大きな課題があることを示しています。CDP Aリストの連続選定は、取り組みと情報開示の質の高さを客観的に裏付けるものですが、目標達成に向けた具体的な実行計画の強化と、その進捗に関する更なる透明性の高い情報開示が求められます。
明治HDは、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に早期から賛同(2019年12月)し、そのフレームワークに沿った情報開示を積極的に行っています。TCFD提言は、「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の4つの柱から構成されており、明治HDの取り組みは以下の通りです。
ガバナンス: 気候変動を重要な経営課題として明確に位置付けています。取締役会が気候変動関連のリスクと機会を監督する責任を負い、具体的な戦略策定や進捗管理は、CSO(Chief Sustainability Officer)が委員長を務める「グループサステナビリティ事務局会議」(月次開催)や、代表取締役社長が委員長を務める「グループサステナビリティ委員会」(年2回開催)などの専門組織が担っています。これにより、経営層のコミットメントのもと、組織横断的に気候変動対策を推進する体制を構築しています。
戦略(シナリオ分析): 気候変動が事業に与える中長期的な影響を評価するため、国際的に参照される複数のシナリオ(1.5℃上昇シナリオ、4℃上昇シナリオなど)を用いて、リスクと機会の分析を実施しています。
特定されたリスク: 分析の結果、主に以下のリスクが特定されています。
移行リスク: 各国政府によるGHG排出規制の強化や炭素税・カーボンプライシングの導入に伴うコスト増加、エネルギー価格の高騰、再生可能エネルギーへの転換に伴う電力購入費の変動、環境対応の遅れによる市場競争力の低下やレピュテーション(評判)リスク など。
物理リスク: 気温上昇、異常気象(台風、豪雨、熱波、渇水など)の激甚化・頻発化による、生産拠点の操業停止(洪水被害など)やサプライチェーンの寸断、主要原材料(生乳、カカオ、砂糖など)の収量減少や品質低下、それに伴う調達コストの増加、水不足や水質悪化といった水リスクの増大 など。
特定された機会: 一方で、気候変動は新たな事業機会ももたらすと認識されています。
市場の変化への対応: 気温上昇に伴う止渇飲料や暑さ対策関連商品への需要増加、消費者の環境意識の高まりを受けた環境配慮型製品(サステナブル認証原料使用製品、植物由来製品、環境配慮パッケージ製品など)やエシカル消費への需要拡大、感染症リスクの高まりや健康志向の向上に伴う医薬品・ワクチンや機能性食品・サプリメントへの需要増加 など。
効率化と価値向上: 省エネルギー化や資源効率の改善、リサイクル・アップサイクルによるコスト削減、積極的な環境への取り組みを通じた企業ブランド価値の向上、ESG投資家からの評価向上、優秀な人材の獲得・維持への貢献、環境課題解決に繋がるイノベーション(メタン削減技術、代替タンパク質、環境配慮型素材など)の創出 など。
財務影響の評価: シナリオ分析に基づき、特定されたリスクと機会が将来の財務状況に与える潜在的な影響について、定量的な試算を行い、開示しています。例えば、1.5℃シナリオにおいて炭素価格が導入された場合、自社が負担するコストは、省エネ・再エネ導入などの対策を講じた後でも、2030年に44億円増加、2050年には(現在の技術では排出ゼロ達成が困難なため)排出権購入(50億円と想定)も含めて100億円増加すると試算しています。また、主要原材料の調達に関しても、炭素価格導入の影響で2030年に465億円、2050年に475億円のコスト増が見込まれると試算しています。電力購入費については、再エネプレミアム価格などを考慮し、2030年に105億円のコスト増を見込む一方、2050年には技術革新によるコスト低下を想定し48億円のコスト減になると予測しています。物理リスクに関しては、4℃シナリオにおいて、洪水リスクの高い国内外15拠点で、100年確率洪水による機会損失(操業停止など)が2050年には年間合計で8.3億円増加すると推定しています。これらの定量的な影響評価は、気候変動リスクを具体的な経営リスクとして認識し、対策の優先順位付けや経営判断に活用しようとする姿勢を示すものです。
リスク管理: シナリオ分析やリスク評価の結果を踏まえ、気候関連リスクを全社的なリスクマネジメントプロセスに統合し、具体的な対応策を策定・実行しています。例えば、洪水リスクが高いと評価された生産拠点については、現地調査やGAP分析を実施し、防水設備の強化(ボックスウォール設置など)や、事業継続計画(BCP)の観点から生産拠点の分散化といったハード・ソフト両面での対策を検討・実施しています。また、サプライチェーンにおけるリスクに対しては、サプライヤー行動規範の遵守要請やサステナビリティ調査などを通じて管理を強化しています。
指標と目標: 気候変動への対応状況を測るための指標と目標を設定し、その進捗状況を定期的にモニタリングし、開示しています。主要な指標と目標には、前述(2.2.)のGHG排出量削減目標や再生可能エネルギー導入目標が含まれます。これらの指標と目標は、戦略の進捗度を測り、必要に応じて戦略を見直すための重要なツールとなります。
移行計画: 長期環境ビジョン「Meiji Green Engagement for 2050」および中期目標(サステナビリティ2026ビジョン)に基づき、カーボンニュートラル達成に向けた具体的な移行計画(トランジションプラン)を策定し、その実現性と事業のレジリエンス(強靭性)強化を目指しています。この計画には、自社拠点における省エネ・創エネの推進、再生可能エネルギー導入の加速、研究開発を通じた新技術(例:メタン削減)や次世代エネルギーの導入、そしてScope 3排出量削減に向けた具体的な施策(酪農分野での取り組み強化、持続可能なカカオ調達、プラスチック資源循環の推進、サプライヤーとの協働など)が含まれています。
明治HDのTCFDへの取り組みは、提言の要求項目に沿って体系的に進められており、特にシナリオ分析に基づくリスク・機会の特定と財務影響の定量化・開示は、国内企業の中でも先進的なレベルにあると言えます。移行計画も具体的な施策に落とし込まれていますが、その計画の着実な実行と、進捗状況の継続的なモニタリングおよび透明性の高い情報開示が、今後の企業価値向上と持続可能な社会への貢献を実現する上で極めて重要となります。
明治HDは、事業活動が天然資源の恩恵の上に成り立っていることを認識し、限りある資源を持続的に利用するため、リニアエコノミー(直線型経済)からサーキュラーエコノミー(循環型経済)への移行を重要な経営課題と捉えています。製品の設計から廃棄に至るライフサイクル全体を通じて環境負荷を低減し、資源の有効活用を最大化することを目指しています。
資源循環の実現に向けて、3R(リデュース、リユース、リサイクル)を基本原則とし、容器包装の環境配慮、食品リサイクルの推進、廃棄物削減、そして新たな価値創造に繋がるアップサイクルなど、多岐にわたる取り組みを展開しています。
3R(リデュース・リユース・リサイクル)の推進: 事業活動のあらゆる場面で、資源使用量の削減(リデュース)、再利用(リユース)、再資源化(リサイクル)を推進しています。
容器包装の環境配慮: 食品や医薬品の品質保持に不可欠な容器包装について、環境負荷低減に向けた様々な工夫を行っています。
リデュース(軽量化・薄肉化): プラスチック使用量を削減するため、容器や包装フィルムの軽量化・薄肉化を進めています。具体的な製品例や削減効果に関する定量的な情報は限定的ですが、継続的な取り組みとして言及されています。
代替素材への転換: 石油由来プラスチックの使用量を削減するため、植物由来のバイオマスプラスチックや、使用済みプラスチックを再利用した再生プラスチックの活用を拡大しています。例えば、「明治おいしい牛乳」の一部容器、「明治プロバイオティクスヨーグルト」の一部容器包装、「果汁グミ」のパッケージなどで採用実績があります。また、製品によってはシュリンクフィルム(商品を束ねるフィルム)を廃止する動きも見られます。
環境配慮型紙の使用: 適切に管理された森林からの木材を使用したFSC認証紙など、環境に配慮した紙素材の利用を推進しています。
賞味期限延長への貢献: 容器包装の機能性を高めることで、内容物の品質保持期間を延長し、結果的に食品ロス削減にも貢献することを目指した研究開発も進めています。
食品リサイクル: 生産工程で発生する食品廃棄物(食品残渣など)の削減に努めるとともに、発生した廃棄物の有効活用を進めています。国内の工場から発生する食品廃棄物(年間約1.2万トン)のうち、約90%は食品リサイクル法に基づき、家畜の飼料や農作物の肥料への再生(飼料化・肥料化)、メタン発酵によるバイオガス(エネルギー)化など、様々な方法でリサイクルされています。
アップサイクル: 廃棄物や副産物を単にリサイクルするだけでなく、より付加価値の高い製品へと転換するアップサイクルの取り組みも開始しています。特に注目されるのが、チョコレート製造時に発生するカカオ豆の種皮(カカオハスク)の活用です。従来は廃棄されることが多かったカカオハスクに着目し、外部パートナーとの共創により、その特徴(香りなど)を活かした雑貨や衣類などのライフスタイル製品を開発・販売するブランドを立ち上げました。これは、廃棄物削減と新たな事業機会の創出を両立するサーキュラーエコノミーの実践例として期待されます。
廃棄物管理: 工場などの事業拠点における廃棄物発生量そのものを削減するための活動や、発生した廃棄物の最終処分量(埋め立て量)をゼロに近づける「ゼロエミッション」の達成に向けた取り組みを推進しています。
これらの取り組みから、明治HDが容器包装の改善(リデュース、代替素材)と食品リサイクル(リサイクル率向上)に特に注力していることが分かります。カカオハスクのアップサイクルは、資源循環とイノベーションを結びつける先進的な試みとして評価できます。一方で、容器包装のリユース(再利用)に関する具体的な取り組み事例は、現在の開示情報からは限定的であり、今後の展開が注目されます。
資源循環に関する取り組みの実効性を測るため、明治HDは複数の定量的な目標を設定し、その進捗を管理・開示しています。
目標:
廃棄物ゼロエミッション: 製造工程における廃棄物のゼロエミッション(最終処分率の極小化)を実現することを目指しています。具体的な達成年限や定義は明示されていませんが、長期的な目標として掲げられています。
容器包装における新規自然資本の最小化: 再生材や植物由来素材の活用を通じて、容器包装の製造に使用される新たな天然資源(石油、木材パルプなど)の投入量を最小限に抑えることを目指しています。
プラスチック使用量削減: 国内グループ会社における容器包装などに使用するプラスチックの総量を、2030年度までに2018年度比で25%以上削減することを目標としています。
食品ロス削減: 国内の食品事業(明治株式会社)において発生する食品ロス(製品廃棄など)の量を、2025年度までに2016年度比で50%削減することを目標としています。
リサイクル率: 国内連結子会社における廃棄物のリサイクル率を、2023年度までに85%以上に維持することを目標としていました。
物流資材の有効利用: 物流工程で使用されるパレット、クレート、ストレッチフィルムなどの資材について、リユースやリサイクルを通じて、2030年度までに100%有効利用することを目指しています。
環境配慮型紙への切り替え: 製品の容器包装に使用する紙素材を、2023年度までに100%環境配慮型(FSC認証紙など)へ切り替えることを目標としていました。
実績:
リサイクル率: 国内連結リサイクル率は、2022年度に86.1%、2023年度には88.2%となり、目標(85%以上維持)を達成しています。
食品ロス削減: 2023年度の削減率は26.8%(2016年度比)であり、2025年度目標(50%削減)の達成に向けては、取り組みの加速が必要です。
プラスチック使用量削減: 2022年度の削減率は18.3%(2018年度比)であり、2030年度目標(25%以上削減)に向けては順調に進捗していますが、更なる努力が求められます。
物流資材有効利用率: 既に100%を達成しており、目標を維持しています。
環境配慮型紙への切り替え: 2023年度目標に対する達成状況に関する具体的な実績データは、公開されている情報からは確認できませんでした。
マテリアルバランス: 2023年度のグローバル連結でのマテリアルバランス(物質収支)が開示されており、資源のインプット(原料使用総量 267.2万トン、包材使用総量 16.5万トン)とアウトプット(廃棄物排出量 2.4万トン、うちリサイクル量 1.9万トン)の全体像が把握できます。
目標達成状況を見ると、リサイクル率や物流資材の有効利用といった管理しやすい領域では目標を達成している一方で、サプライチェーン全体での取り組みや消費者の行動変容も関わる食品ロス削減や、素材転換・軽量化の技術開発が必要なプラスチック削減については、目標達成に向けた課題が残されていることが明らかになりました。特に食品ロス削減の進捗率は目標に対して低く、サプライチェーン上の課題(需要予測、在庫管理、流通過程など)への対策強化が急務と考えられます。目標達成に向けた具体的なロードマップや、課題解決のための追加施策に関する情報開示が今後期待されます。マテリアルバランスの開示は、事業活動における資源フローの全体像を把握し、重点的に取り組むべき領域を特定する上で有効な情報を提供しています。
明治グループは、従来の「採掘・製造・消費・廃棄」という一方通行のリニア(直線型)な経済システムから脱却し、資源を可能な限り循環させ、廃棄物をなくす「サーキュラーエコノミー」への移行が、持続可能な社会と事業継続のために不可欠であるとの明確な方針を掲げています。
この方針に基づき、単に廃棄物を減らすだけでなく、製品のライフサイクル全体(設計・開発、原材料調達、製造、輸送、消費、廃棄・回収)を通じて環境負荷を限りなくゼロにすることを目指しています。具体的には、廃棄物の発生抑制(リデュース)とゼロエミッション化を徹底するとともに、使用済み製品や副産物の再利用(リユース)や再資源化(リサイクル)を推進することで、新たに投入する自然資本(資源)の量を最小化することを目指すとしています。
カカオハスクのアップサイクルのような取り組みは、この方針を具現化するものであり、廃棄物の削減だけでなく、資源の有効活用を通じて新たな価値や事業機会を創出し、カカオ産業全体の持続可能性向上にも貢献しうる可能性を示しています。
明治HDのサーキュラーエコノミーへの移行方針は、単なる廃棄物対策に留まらず、製品設計思想の見直し(LCA: ライフサイクルアセスメント思考の導入)、ビジネスモデルの変革(アップサイクル事業など)をも視野に入れた、より本質的な循環型システムへの転換を目指すものであると評価できます。この方針の実現には、技術開発、サプライチェーン全体での連携、そして消費者の理解と協力が不可欠であり、今後の具体的な戦略展開と実行が注目されます。
明治HDは、食品・医薬品事業が、原材料となる農畜産物や水資源など、豊かな自然の恵み(自然資本)に大きく依存していることを深く認識しており、生物多様性の保全をサステナビリティ経営における重要な課題の一つと位置付けています。原材料調達から製品の廃棄に至るバリューチェーン全体を通じて、事業活動が生物多様性に与える影響(インパクト)と依存度を把握し、その損失を止め、回復させる「ネイチャーポジティブ」への貢献を目指した取り組みを推進しています。
生物多様性保全に向けた取り組みは、特に影響と依存度の高い原材料調達における持続可能性の追求、自社事業所周辺の生態系保全活動、そして国際的なフレームワークへの対応を中心に展開されています。
持続可能な原材料調達: サプライチェーンにおける生物多様性への影響を低減するため、主要な原材料について、環境・社会に配慮した調達を推進しています。
カカオ: 明治グループにとって特に重要な原材料であるカカオについては、「メイジ・カカオ・サポート」という包括的な支援プログラムを2006年から展開しています。このプログラムは、カカオ生産地域が抱える課題解決を目指し、以下の3つの柱で構成されています。
農家支援: カカオ農家の生活基盤向上を目指し、苗木の供給、栽培技術指導(収量・品質向上)、インフラ整備支援(井戸建設など)を実施しています。
児童労働撤廃への取り組み: 児童労働リスクが高いとされる西アフリカ(特にガーナ)において、国際的な専門NPOであるInternational Cocoa Initiative (ICI) に日本の食品企業として初めて加盟(2021年)。ICIが開発した児童労働監視改善システム(CLMRS: Child Labor Monitoring and Remediation System)を導入し、農家への啓発、児童労働の実態調査、特定された場合の改善支援・モニタリングを行っています。
森林保全支援: 森林破壊が深刻な課題となっているカカオ生産地において、持続可能な栽培方法の普及に取り組んでいます。ブラジルのトメアスー地域では、2009年から農家と共に、多様な樹木や作物を混植・栽培することで生態系の回復と農家の収入安定化を図る「アグロフォレストリー」農法を推進しています。ガーナにおいても、現地NGOと協力し、試験農園での研究を通じてアグロフォレストリーを含む持続可能な栽培方法の普及を目指しています。さらに、調達するカカオ農園が森林破壊に関与していないかを確認するため、農園訪問によるGPSマッピング調査と衛星データを活用した検証を進めています。
パーム油: 熱帯林破壊の主要因の一つとされるパーム油については、「パーム油調達ガイドライン」を策定し、NDPE方針(No Deforestation, No Peat, No Exploitation = 森林破壊ゼロ、泥炭地開発ゼロ、搾取ゼロ)への支持を明確にしています。持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO)認証パーム油の調達を推進するとともに、サプライヤーと連携して、生産農園までのトレーサビリティ(追跡可能性)向上に取り組んでいます。
紙・パルプ: 製品の容器包装などに使用される紙・パルプについても、持続可能性に配慮し、適切に管理された森林から生産された木材を使用していることを示すFSC(Forest Stewardship Council)認証紙など、環境配慮型の紙素材への切り替えを進めています。
酪農: 牛乳・乳製品の主原料である生乳についても、「酪農乳業を、もっと持続可能に。」というスローガンを掲げ、環境負荷低減と持続可能性向上を目指しています。具体的には、牛の排泄物を堆肥として活用し、飼料作物の栽培に還元する循環型酪農の推進 や、家畜の福祉に配慮した飼育を目指すアニマルウェルフェアの観点から、国際獣疫事務局(現WOAH)が示す「5つの自由」を尊重する方針を定めています。
森林保全活動: 自社が所有・管理する土地や、地域社会との連携を通じて、森林生態系の保全活動を行っています。
企業緑地の管理: 熊本県にあるグループ会社所有の広大な企業緑地「くまもと こもれびの森」において、計画的な森林管理や環境教育活動などを実施しています。この活動は外部からも評価され、企業緑地の優れた管理・活用を認定するSEGES(社会・環境貢献緑地評価システム)の「そだてる緑」部門で最高ランクの認定を受けているほか、生物多様性保全上重要な地域として環境省の「自然共生サイト」にも認定され、国際的なデータベース(OECM:Other Effective area-based Conservation Measures)にも登録されています。また、この緑地における地下水涵養への貢献が評価され、くまもと地下水財団から「地下水保全顕彰 最優秀グランプリ」を受賞しています。
自治体との協働: 大阪府の「アドプトフォレスト制度」や香川県の「フォレストマッチング制度(協働の森づくり事業)」といった、企業と自治体が協働で森林保全を行う仕組みに参加し、荒廃した森林の整備(広葉樹林化、竹林伐採)、植樹(ヤマザクラなど)といった活動を支援・実施しています。
海外での活動: スペインのグループ会社では、農村地域の森林再生を目的とした植樹活動を行っています。
水源涵養・水質保全: 事業活動に不可欠な水資源の持続可能性を確保するため、水源地域の環境保全活動にも取り組んでいます。
河川清掃: 岐阜工場(糸貫川でのゲンジボタル保護活動)、足柄研究所(酒匂川)、大蔵製薬(宇治川流域)など、工場や研究所の近隣を流れる河川の清掃活動を定期的に実施し、水質保全と地域の環境美化に貢献しています。
地下水保全: 特に地下水への依存度が高い熊本地域において、前述の「くまもと こもれびの森」での活動などを通じて、地下水の涵養と保全に努めています。
TNFDへの対応: 自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)が開発した情報開示フレームワークへの対応を進めています。TNFDフォーラムに参画し、提言されているLEAPアプローチ(Locate, Evaluate, Assess, Prepare)を用いて、事業活動が自然資本に与える影響と依存度、そしてそれに伴うリスクと機会を評価しています。これまでに主要原材料であるカカオと生乳の生産地域を対象に分析を実施し、その結果を統合報告書などで開示しています。この分析を通じて、自然災害リスク、土壌侵食、生態系の変化、水リスクなどを評価し、今後の対応策の検討に繋げています。
明治HDの生物多様性保全への取り組みは、特に影響の大きい原材料調達、とりわけカカオにおける課題(児童労働、森林破壊)に対して、国際的なイニシアチブとの連携や現地での直接的な支援、検証活動を含む具体的かつ多角的なアプローチを採っている点が特徴的です。また、TNFDへの早期対応は、自然関連リスク・機会を経営課題として体系的に把握し、情報開示を進めようとする先進的な姿勢を示しています。これらの取り組みは、サプライチェーン上のリスク低減と、企業の持続可能性向上に貢献するものと期待されます。
生物多様性保全に関する取り組みの進捗と成果を測るため、明治HDは複数の目標を設定しています。
目標:
持続可能なカカオ調達: 農家支援を実施した地域で生産された「明治サステナブルカカオ豆」の調達比率を100%にする(当初目標:2026年度末)。
持続可能なパーム油調達: RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)認証パーム油の調達比率を100%にする(目標年度:2023年度)。
環境配慮型紙への切り替え: 製品の容器包装に使用する紙素材を100%環境配慮型(FSC認証紙など)へ切り替える(目標年度:2023年度)。
森林減少ゼロ: カカオ、パーム油などの主要な森林リスク産品(Forest Risk Commodities)について、サプライチェーンにおける森林破壊・減少に寄与しない(森林減少ゼロ)調達を2030年度までに達成する。
児童労働ゼロ: カカオサプライチェーンにおける児童労働を2030年度までに撤廃する。
森林保全活動面積: 自治体との協定などに基づき、明治グループが保守管理を行う森林の面積を、2026年度までに40ヘクタール以上とする。
自然共生サイト認定: 環境省が認定する「自然共生サイト」について、2026年度までに新たに1件の認定を受け、累計2件とする。
拠点における生物多様性活動: 国内外の生産拠点における生物多様性保全活動の実施率を100%にする(目標年度:2023年度、2023中期経営計画目標)。
実績:
持続可能なカカオ調達: 目標であった2026年度末を前倒し、2024年度に調達比率100%を達成しました。これは「メイジ・カカオ・サポート」プログラムの成果を示す重要な実績です。
持続可能なパーム油調達: 2023年度目標に対する達成状況に関する具体的な実績データは、公開情報からは確認できませんでした。
環境配慮型紙への切り替え: 2023年度目標に対する達成状況に関する具体的な実績データは、公開情報からは確認できませんでした。
森林減少ゼロ・児童労働ゼロ: 2030年度目標達成に向けて、取り組みを推進中です。例えば、ガーナのカカオ農園におけるトレーサビリティ向上(2022年時点で51%達成)や、GPSマッピングによる森林破壊との関連調査、CLMRSの導入・運用 などが進められています。しかし、これらの目標達成にはサプライチェーン全体での更なる努力が必要です。
森林保全活動面積・自然共生サイト認定: 2026年度目標に対する現在の進捗状況に関する具体的な実績データは、公開情報からは確認できませんでした。ただし、「くまもと こもれびの森」が自然共生サイトに認定された実績があります。
拠点における生物多様性活動: 2022年度の実績は、明治グループ連結で77.1%でした。2023年度目標(100%)の達成状況は不明です。
目標達成状況を見ると、サステナブルカカオ豆調達目標の前倒し達成は特筆すべき成果であり、「メイジ・カカオ・サポート」の実効性を示唆しています。一方で、森林減少ゼロや児童労働ゼロといった、より複雑で達成が困難な目標については、トレーサビリティの向上やモニタリング体制の強化など、地道な努力が継続的に必要とされています。他の目標(RSPO認証パーム油、環境配慮紙、森林保全面積、拠点活動率など)については、目標達成状況や現在の実績に関する情報開示が不足しており、透明性の向上が課題と言えます。
明治グループは、生物多様性保全へのコミットメントをより明確にするため、2024年3月に従来の「生物多様性保全活動ポリシー」を改訂するとともに、新たに「明治グループネイチャーポジティブ宣言」を制定しました。
改訂された**「明治グループ生物多様性保全活動ポリシー」**では、事業活動が自然の恵みに依存していることを改めて認識し、原材料調達から廃棄に至るバリューチェーン全体を通じて、自然と共生する社会の実現に貢献していくことを基本方針として掲げています。具体的には、生物多様性への影響に配慮した事業活動の推進、負荷の回避・低減、生物資源の持続可能な利用と有効活用、そして従業員の生物多様性に対する理解促進などに取り組むことを定めています。また、関連する国際条約や国内外の法令遵守も明記されています。
新たに制定された**「明治グループネイチャーポジティブ宣言」**は、生物多様性の損失を止め、回復軌道に乗せるという「ネイチャーポジティブ」の実現に向けた国際的な目標に賛同し、自らも貢献していく意思を表明するものです。この宣言は、従来の保全活動(損失の抑制)から一歩進んで、自然資本の回復・再生にも積極的に取り組むという、より野心的な姿勢を示すものと解釈できます。
これらのポリシー改訂と宣言制定は、明治グループが生物多様性保全を経営上の重要課題として捉え、その取り組みを強化し、国際社会の期待に応えようとする明確なシグナルです。特に、バリューチェーン全体での影響を考慮し、ネイチャーポジティブという未来志向の目標を掲げた点は、今後の具体的な活動展開への期待を高めるものです。
明治HDは、事業を取り巻く環境要因、特に気候変動、資源制約、生物多様性の損失などが、自社の事業活動、サプライチェーン、財務状況に与える潜在的なリスクと機会を認識し、その評価と対応を進めています。TCFD提言に基づくシナリオ分析などを通じて、これらのリスクと機会を特定・評価し、経営戦略に反映させる取り組みを行っています。
明治HDが認識している主要な環境関連リスクは、以下の通り多岐にわたります。
気候変動リスク:
物理的リスク: 近年激甚化・頻発化する異常気象(台風、集中豪雨、熱波、干ばつ等)は、生産拠点や物流網に直接的な被害(洪水による浸水、操業停止、サプライチェーン寸断など)をもたらすリスクを高めています。明治HDは、洪水リスクが高い拠点を特定し、年間8.3億円規模の機会損失が発生する可能性を試算しています(2050年、4℃シナリオ)。また、気温上昇や降水パターンの変化は、主要原材料(生乳、カカオ、砂糖など)の生育環境に影響を与え、収穫量の減少、品質の低下、病害虫の発生増加などを引き起こし、結果として原材料の安定調達が困難になったり、調達コストが高騰したりするリスクがあります。さらに、水不足(渇水)や水質の悪化といった水リスクの増大も、生産活動に直接的な影響を与える可能性があります。
移行リスク: 低炭素社会への移行に伴う政策・規制の強化(GHG排出規制、炭素税やカーボンプライシングの導入)は、エネルギーコストや原材料コストの上昇、新たな設備投資の必要性などを通じて、事業コストを増加させるリスクがあります。明治HDは、炭素価格導入による自社およびサプライチェーン全体での大幅なコスト増を試算しています。また、エネルギー価格そのものの高騰リスクも存在します。環境規制への対応が遅れた場合、市場における競争力が低下したり、投資家や消費者からの評価が低下したりするレピュテーションリスクも高まります。
資源循環リスク: 天然資源の枯渇懸念や、廃棄物処理に関する規制強化は、原材料の安定確保を困難にしたり、廃棄物処理コストを増加させたりするリスクがあります。特に、プラスチックについては、世界的な規制強化の潮流があり、対応コストの増加や代替素材への転換が求められます。不適切な廃棄物処理が発覚した場合、法的な罰則や社会的な信頼失墜(レピュテーションリスク)に繋がる可能性もあります。
生物多様性リスク: 事業活動、特に原材料調達が、森林破壊、土壌劣化、水質汚染などを通じて生態系に負の影響を与えている場合、原材料の供給不安定化や品質低下、調達コストの増加に繋がるリスクがあります。また、遺伝資源へのアクセスが将来的に制限される可能性もあります。さらに、サプライチェーン上で児童労働や強制労働、環境破壊といった問題が発覚した場合、深刻なレピュテーションリスクに晒されることになります。
水リスク: 事業運営に不可欠な水資源について、量的なリスク(水不足、渇水による取水制限)と質的なリスク(水質汚染による利用可能な水源の減少、浄水コストの増加)が存在します。特に水ストレスの高い地域での事業展開や原材料調達は、地域コミュニティとの水利権をめぐる対立などのリスクも孕んでいます。
汚染リスク: 工場などからの排出物(大気汚染物質、水質汚濁物質、土壌汚染物質、化学物質など)による環境汚染は、法規制違反による罰金や操業停止、対策コストの発生、周辺住民の健康被害、そして企業イメージの悪化といったリスクを引き起こす可能性があります。2023年度には、フロン類の漏洩事故が1件発生したと報告されています。
これらのリスク分析から、気候変動がもたらす物理的・移行リスクが特に重要視され、財務的な影響評価も進められていることがわかります。また、原材料調達においては、気候変動、生物多様性、水リスクが相互に深く関連しあい、サプライチェーン全体にわたる複合的なリスクとして顕在化する可能性が高いことが示唆されます。規制強化や市場・消費者の意識変化といった外部環境の変化に対応することの重要性も、複数のリスク項目から読み取れます。
一方で、明治HDは環境課題への対応を、リスク管理だけでなく、新たな事業成長の機会としても捉えています。
市場機会の創出:
気候変動適応ニーズへの対応: 気温上昇に伴う消費者の行動変化(外出自粛、巣ごもり傾向、熱中症対策意識の高まりなど)に対応し、止渇性の高い飲料、暑さ対策に資する食品・栄養補助食品、家庭内で楽しめる製品やサービス、栄養バランスを考慮した健康維持サポート製品などの需要拡大が期待されます。
環境配慮型製品への需要増大: 環境意識の高い消費者や、サステナビリティを重視する小売業者からの需要に応えるため、環境負荷の低減に貢献する製品(植物由来原料を使用した製品、細胞培養技術を用いた食品、環境再生型農業(リジェネラティブ農業)由来の原料を使用した製品など)や、持続可能な調達認証(フェアトレード、レインフォレスト・アライアンス、RSPOなど)を受けた原材料を使用した製品、環境負荷の少ない容器包装を使用した製品などの開発・販売拡大が機会となります。エシカル消費の市場拡大も追い風となります。
健康・予防ニーズへの対応: 気候変動による感染症リスクの増大や、社会全体の健康意識の高まりを受けて、ワクチンや抗生物質といった医薬品、プロバイオティクスなどの機能性食品、サプリメント、スポーツ栄養食品など、「食と健康」のプロフェッショナルとしての強みを活かせる分野での事業拡大が期待されます。
コスト削減機会: 省エネルギー設備の導入や再生可能エネルギーへの転換によるエネルギーコストの削減、廃棄物の削減やリサイクル・アップサイクルの推進による廃棄物処理コストの削減や有価物売却収入、水使用量の削減による水関連コストの低減など、環境負荷低減の取り組みが、中長期的にはコスト競争力の強化にも繋がる可能性があります。
ブランド価値・評判向上: 環境問題への積極的かつ透明性の高い取り組みは、企業の社会的評価を高め、ブランドイメージ向上に貢献します。これは、消費者の製品選択、ESG投資を重視する投資家からの資金調達、そして優秀な人材の獲得・定着においても有利に働くと考えられます。
イノベーション機会: 環境課題の解決を目指す中で、新たな技術やビジネスモデルが生まれる可能性があります。例えば、牛のメタン排出削減技術の開発、持続可能な農業技術(スマート農業、アグロフォレストリーなど)の開発・普及支援、代替タンパク質の研究開発、環境配慮型新素材の開発などが、将来の成長ドライバーとなる可能性があります。
これらの分析から、明治HDが気候変動や環境意識の高まりといった外部環境の変化を、単なる脅威として受け止めるだけでなく、自社の強みである「健康」領域と結びつけながら、新たな市場を開拓し、事業成長を実現するための機会として積極的に捉えようとしていることがうかがえます。環境配慮型製品の開発、コスト削減、ブランド価値向上、そしてイノベーションの推進は、持続可能な成長戦略の重要な柱となり得ます。
明治HDの環境パフォーマンスを客観的に評価するためには、同社が属する食品業界および製薬業界における先進的な取り組みや、主要な競合他社の戦略・実績と比較することが不可欠です。
国内外の食品・製薬企業においては、サステナビリティ、特に環境課題への取り組みが急速に進展しています。
食品業界の先進事例:
持続可能な原材料調達: グローバル食品大手のネスレ、ユニリーバ、ダノンなどは、サプライチェーンの透明性確保(農園レベルまでのトレーサビリティ)、森林破壊ゼロや人権尊重へのコミットメント、小規模農家への技術・資金支援、そして土壌の健全性回復や炭素貯留にも貢献するリジェネラティブ農業(環境再生型農業)の推進といった取り組みで業界をリードしています。国内でも、味の素が生物多様性ガイドラインを策定し、TNFDフレームワークに基づく自然関連リスク・依存度の分析・開示を行うなど、先進的な動きが見られます。
気候変動対策: アサヒグループホールディングスや不二製油グループ本社のように、TCFD提言に基づき、気候変動が原材料調達や事業コストに与える影響を定量的に評価し、具体的なリスクと対応策を開示する企業が増えています。多くの企業がSBT(科学的根拠に基づく目標)イニシアチブから認定を受けたGHG削減目標を設定し、再生可能エネルギーの導入を積極的に進めています。
資源循環: プラスチック問題への対応として、ユニリーバのようにバージンプラスチック使用量の半減といった野心的な目標を掲げる企業や、リサイクル材の利用率向上、リサイクルしやすい設計への変更などが進められています。食品ロス削減に関しても、自社内だけでなく、サプライチェーン全体での削減目標を設定したり、フードバンクとの連携を強化したりする動きが広がっています。
製薬業界の先進事例:
気候変動対策: アステラス製薬、第一三共、中外製薬など、日本の大手製薬企業の多くが、SBT認定目標の設定、使用電力の100%再生可能エネルギー化を目指すRE100への加盟、TCFD提言に沿った詳細な情報開示などを進めており、高いレベルでの取り組みが見られます。工場での省エネルギー化や再生可能エネルギー導入はもちろん、サプライチェーン排出量(Scope 3)の算定と削減目標設定も一般的になりつつあります。
資源循環・廃棄物管理: 医薬品の製造プロセスにおいては、環境負荷の高い有機溶剤の使用量削減や回収・再利用技術の開発、廃棄物そのものの発生抑制とリサイクル率向上、そして製品包装における環境配慮型素材(リサイクル材、バイオマスプラスチックなど)への切り替えなどが進められています。
水管理: 水リスク評価に基づき、特に水ストレスの高い地域に立地する工場などでは、取水量の削減目標設定、排水管理の強化、水リサイクル技術の導入といった対策が講じられています。
化学物質管理: PRTR法(化学物質排出移動量届出制度)に基づく適正管理に加え、企業独自の基準で有害化学物質の使用量削減目標を設定し、より安全な代替物質への転換や、閉鎖系プロセスでの使用徹底などを進める動きがあります(例:中外製薬のSVHC(高懸念物質)不使用プロセス構築目標)。
明治HDの取り組み、特にカカオ調達における「メイジ・カカオ・サポート」や、TCFD提言への早期対応と詳細な情報開示は、国内の食品・製薬業界においては先進的な側面を持っています。しかし、グローバルな食品業界のリーダー企業(ネスレ、ユニリーバなど)と比較した場合、リジェネラティブ農業への本格的な取り組み、サプライチェーン全体のトレーサビリティ確保の範囲と深度、プラスチック削減目標の野心性などにおいては、更なる向上の余地があると考えられます。また、製薬業界の主要な競合他社も、SBT認定やRE100加盟、TCFD対応などで非常に高い水準の取り組みを推進しており、明治HD(特に医薬品セグメント)は、これらの企業と伍していくために、継続的な取り組みの強化が求められます。
明治HDの食品事業および医薬品事業における主要な競合他社の環境戦略と取り組み状況は以下の通りです。
森永乳業: 「森永乳業グループ サステナビリティ中長期計画2030」を策定し、環境課題に取り組んでいます。生物多様性に関しては、TNFDのLEAPアプローチに類似した手法を用いて、事業活動における自然資本への依存度と影響、リスクと機会を評価し開示しています。持続可能な原材料調達目標として、カカオ豆、パーム油、紙について2030年までに100%持続可能な調達を目指すとしています。また、フードロスについては2030年までに70%削減(2018年度比)という野心的な目標を掲げています。気候変動に関してもTCFD提言に基づく情報開示を行っています。CDP気候変動スコアはA-評価(2023年)、Sustainalytics ESGリスクレーティングはMedium Riskと評価されています。
味の素: 「ASV(Ajinomoto Group Shared Value)」経営を推進し、サステナビリティを事業成長の中核に据えています。2030年までに事業活動による環境負荷を50%削減するという目標を掲げています。生物多様性保全にも注力し、独自のガイドラインを制定、TNFDのLEAPアプローチを用いたリスク・依存度分析を実施・開示しています。持続可能な原材料調達、気候変動(TCFD開示)、資源循環、フードロス削減、水資源保全など、幅広い環境課題に体系的に取り組んでいます。外部評価も高く、CDP気候変動では5年連続でAリストに選定されています。S&P Global ESG Scoreは76点(2025年1月時点)と高評価、Sustainalytics ESGリスクレーティングは24.7でMedium Riskと評価されています。
江崎グリコ: 「Glicoグループ サステナビリティ方針」のもと、環境課題に取り組んでいます。具体的な取り組みとしては、容器包装における環境配慮紙の使用拡大、生産拠点でのCO2排出量削減(省エネ設備導入など)、水資源使用量削減(排水再利用など)、廃棄物ゼロエミッションの推進、容器包装の軽量化やプラスチック使用量削減(シュリンクフィルム廃止など) が挙げられます。CDP気候変動スコアはB評価(2023年)、Sustainalytics ESGリスクレーティングは32.9でHigh Riskと評価されており、他の大手食品メーカーと比較すると取り組みや情報開示の面で遅れが見られる可能性があります。
アステラス製薬: 経営計画においてサステナビリティ向上の取り組み強化を戦略目標の一つに掲げ、「環境負荷低減」を優先テーマとしています。TCFD提言への賛同と情報開示、SBTイニシアチブから承認されたGHG削減目標の設定、RE100への参画など、気候変動対策に積極的に取り組んでいます。CDP気候変動スコアはA-評価(2023年)。MSCI ESGレーティングでは最高評価のAAAを獲得、Sustainalytics ESGリスクレーティングは22.4でMedium Riskと評価されています。
第一三共: 地球温暖化などを事業基盤にも影響を及ぼすリスク要因と捉え、環境経営を推進しています。気候変動対策を中心に積極的な取り組みを進めており、CDP気候変動スコアはA評価(2023年)。MSCI ESGレーティングでも最高評価のAAAを獲得。Sustainalytics ESGリスクレーティングは19.9と低く、Low Riskと評価されており、ESGリスク管理能力が高いと見なされています。
中外製薬: 「中期環境目標2030」を設定し、気候変動対策、循環型資源利用、生物多様性保全の3つを重要課題として取り組んでいます。気候変動では、Scope 1+2排出量を2030年に60-75%削減、Scope 3を30%削減という野心的な目標を掲げ、再生可能エネルギー100%導入も目指しています。資源循環では、プラスチック廃棄物や水消費量の削減目標を設定。生物多様性では、有害化学物質(SVHC)を使用しない製造プロセスの構築を目指すなど、独自の取り組みも行っています。TCFDに基づく情報開示も充実しており、CDP評価では気候変動と水セキュリティの両分野で最高評価のAリストを獲得(ダブルA)しています。MSCI ESGレーティングはAA評価、Sustainalytics ESGリスクレーティングは20.2でMedium Riskと評価されています。
これらの競合他社の動向を見ると、食品・製薬業界の大手企業は軒並みサステナビリティへの取り組みを強化しており、特に気候変動対策(SBT、RE100、TCFD)、持続可能な調達、資源循環は共通の重要テーマとなっています。味の素、アステラス製薬、第一三共、中外製薬などは、高い目標設定や積極的な情報開示、そして良好な外部評価を獲得しており、業界のベンチマークとなっています。明治HDは、これらの先進企業と比較した場合、取り組み内容自体は遜色ない部分も多いですが、目標の野心性(例:森永乳業のフードロス削減目標)、実績開示の網羅性、一部の外部評価(Sustainalytics)などにおいて、更なる向上の余地が見られます。江崎グリコと比較すると、明治HDの取り組みは全体的に進んでいると言えます。
主要なESG評価機関による環境関連スコアを比較することで、明治HDの客観的なパフォーマンスレベルと、競合他社に対する相対的な位置づけを把握することができます。
CDP(気候変動)評価: CDPは、企業の気候変動への取り組みと情報開示の質を評価する国際的な指標です。評価はA(リーダーシップレベル)からD-までのスコアで示されます。
明治HDは、2021年度から3年連続で最高評価である「Aリスト」に選定されています。
競合他社を見ると、味の素 および中外製薬 も同じくAリストを獲得しています。第一三共はA評価です。
アステラス製薬 と森永乳業 はA-評価です。
江崎グリコはB評価となっています。
記述による比較: CDP気候変動評価において、明治HDは味の素、中外製薬と並び最高評価のAリストを獲得しており、第一三共(A評価)を含め、国内の主要食品・製薬企業の中でもトップレベルの評価を受けています。アステラス製薬、森永乳業はA-評価であり、江崎グリコはB評価にとどまっています。この結果は、明治HDの気候変動に関する目標設定、取り組み、情報開示のレベルが、業界内で高く評価されていることを示しています。
MSCI ESGレーティング: MSCI社は、企業のESGリスクへのエクスポージャーとリスク管理能力を評価し、AAA(リーダー)からCCC(ラガード)までの7段階で格付けしています。
明治HDは、2024年12月に従来のA評価から格上げされ、「AA」評価を初めて獲得しました。これはリーダーに次ぐ高い評価レベルです。
競合他社では、アステラス製薬 と第一三共 が最高評価の「AAA」を獲得しています。
中外製薬は明治HDと同じ「AA」評価を維持しています。
味の素、森永乳業、江崎グリコのMSCIレーティングに関する直接的な情報は得られませんでしたが、S&P Global ESG Scoreでは味の素が76点/100点と非常に高い評価を得ています。MSCIの評価基準では、AAおよびAAAが「リーダー」、A、BBB、BBが「アベレージ」とされています。
記述による比較: MSCI ESGレーティングでは、明治HDはAA評価を獲得しました。これは中外製薬(AA)と同等の高い評価ですが、最高評価AAAを獲得しているアステラス製薬や第一三共といった製薬業界のリーダー企業には一歩及びません。食品業界の主要競合である味の素は、MSCIレーティングは不明ですが、S&P Global ESG Scoreで高評価を得ており、ESG全般で高いパフォーマンスを示していると考えられます。明治HDのAA評価は、ESGリスク管理において業界平均を上回るリーダー群に属することを示唆しています。
Sustainalytics ESG Risk Rating: Sustainalytics社は、企業が直面する重要なESGリスクと、それらをどの程度管理できているかを評価し、リスクスコア(数値が低いほどリスクが低い)を付与しています。リスクレベルはNegligible(無視できる)、Low(低い)、Medium(中程度)、High(高い)、Severe(深刻)の5段階に分類されます。
明治HDのESGリスクレーティングは23.3であり、「Medium Risk」に分類されています。食品業界(Food Products)内では563社中58位、グローバル全体では15152社中6130位に位置付けられています。
競合他社と比較すると、第一三共は19.9で「Low Risk」と評価されており、明治HDよりもリスクが低いと見なされています。
中外製薬(20.2)、アステラス製薬(22.4)、味の素(24.7) は、明治HDと同様に「Medium Risk」に分類されています。
江崎グリコは32.9で「High Risk」と評価されています。
森永乳業に関する直接的なスコア情報は得られませんでしたが、他の企業のスコアから類推するとMedium Riskの範囲にある可能性が考えられます。
記述による比較: Sustainalytics ESGリスクレーティングにおいて、明治HDは23.3と評価され、「Medium Risk」に分類されます。これは、Low Riskと評価される第一三共(19.9)と比較すると、管理すべきESGリスクが相対的に高いと見なされていることを示唆します。一方で、中外製薬(20.2)、アステラス製薬(22.4)、味の素(24.7)もMedium Riskであり、明治HDはこれら主要な競合企業と同程度のESGリスク管理レベルにあると評価されています。江崎グリコ(32.9)はHigh Riskと評価されており、明治HDはそれよりも良好な評価です。
これらのESGスコアを総合的に見ると、明治HDはCDPやMSCIといった評価機関からは、情報開示の質や方針、リーダーシップが比較的高く評価されている一方で、Sustainalyticsのリスク評価では、競合の一部(特に第一三共)と比較して改善の余地があることが示唆されます。これは、評価機関ごとに重視する側面(例:CDPやMSCIは方針や開示を重視、Sustainalyticsは特定のリスク項目やインシデント、管理の実効性を重視)が異なるためと考えられます。明治HDにとっては、これらの評価結果を多角的に分析し、自社の強みと弱みを把握した上で、更なるパフォーマンス向上とリスク管理の強化に繋げていくことが重要です。
明治HDは、サステナビリティ経営を推進し、気候変動、資源循環、生物多様性の各分野で意欲的な目標と具体的な取り組みを進めていますが、更なる環境パフォーマンス向上と持続可能な成長を実現するためには、いくつかの課題に対処し、取り組みを深化させる必要があります。
現在の取り組みと目標達成状況、そして外部環境の変化を踏まえると、明治HDは以下のような環境課題に直面していると考えられます。
一部目標達成に向けたギャップの存在: 設定された中期目標の中には、達成に向けて進捗が遅れているものが見られます。特に、再生可能エネルギー導入比率(2030年目標50%に対し2023年実績17.4%)、食品ロス削減率(2025年目標50%に対し2023年実績26.8%)、プラスチック使用量削減率(2030年目標25%に対し2022年実績18.3%)については、目標達成のために取り組みのペースを大幅に加速させる必要があります。これらのギャップ解消に向けた具体的な戦略と実行計画の強化が求められます。
Scope 3 排出量削減の難易度と複雑性: サプライチェーン全体でのGHG排出量削減、特に排出量の大部分を占める可能性がある原材料調達(酪農、カカオ栽培など)における削減は、自社の努力だけでは達成が困難です。多数のサプライヤーや農家との連携、新たな技術(メタン削減飼料など)の開発・普及、経済的なインセンティブ設計など、複雑な課題への対応が必要です。また、サプライチェーンの透明性を高め、排出量を正確に把握・管理するためのトレーサビリティ確保、特に海外(例:ガーナのカカオ農園)においては、継続的な課題となっています。
資源循環の深化と限界: 国内のリサイクル率は目標を達成するなど、リサイクルに関する取り組みは進んでいますが、サーキュラーエコノミーの理想である「リユース(再利用)」モデルの導入はまだ限定的です。また、プラスチック代替素材の開発・普及や、食品ロス削減の更なる推進には、技術的な制約やコスト、消費者の受容性といった課題も存在します。廃棄物ゼロエミッションの完全達成も、継続的な努力が必要です。
生物多様性保全の実効性と透明性: TNFD分析を通じてリスクと依存度を評価していますが、それに基づいた具体的なリスク低減策や生態系回復への貢献策の策定と実行が次のステップとなります。また、森林減少ゼロや児童労働ゼロといった野心的な目標(2030年)の達成には、サプライチェーンにおけるモニタリング体制の強化と、問題が発見された場合の迅速かつ効果的な改善措置の実施が不可欠です。さらに、一部の目標(RSPO認証パーム油調達率、環境配慮紙への切り替え率、森林保全面積など)に関する実績データの開示が不足しており、取り組みの進捗状況に関する透明性の向上が求められます。
情報開示の網羅性と質の向上: TCFDや主要なESG評価に対応した情報開示は進んでいますが、一部の目標に対する実績値や、ICP(インターナルカーボンプライシング)制度の具体的な運用方法とその効果、ROESG®経営におけるESG要素が役員報酬などにどのように連動しているかの詳細など、投資家やステークホルダーが企業の取り組みの実効性をより深く評価するために必要な情報の開示には、まだ改善の余地があります。
「サステナビリティと事業の融合」の更なる深化: 「mejiサステナブルプロダクツ社内認定制度」 の導入など、サステナビリティを事業活動に統合しようとする試みは見られますが、明治HD自身も、サステナビリティ要素を製品コンセプトに組み込み、それを市場での競争力強化に繋げる段階にはまだ至っていないと認識しています。サステナビリティへの取り組みを、一部の専門部署だけでなく、開発、マーケティング、生産、営業など、あらゆる部門の従業員が「自分ゴト」として捉え、日々の業務の中で実践していく企業文化の醸成も、継続的な課題です。
これらの課題は、明治HDがサステナビリティ先進企業として更なる飛躍を遂げるために乗り越えるべき重要なステップであり、積極的かつ戦略的な対応が求められています。
上記の課題を踏まえ、明治HDが今後、環境パフォーマンスを一層向上させ、持続可能な成長を実現するために注力すべき推奨事項を以下に示します。
目標達成に向けたロードマップの明確化と実行加速: 特に達成への道筋に課題が見られる再生可能エネルギー導入、食品ロス削減、プラスチック使用量削減について、目標達成までの具体的なアクションプラン、マイルストーン(中間目標)、必要な投資計画をより明確にし、社内外にコミットメントを示すべきです。計画の実行状況と成果(または課題)を定期的に、かつ透明性をもって開示することで、ステークホルダーからの信頼を高めるとともに、目標達成へのドライブを強化することが推奨されます。
Scope 3 排出量削減戦略の強化と協働の推進: 酪農分野においては、味の素との協業で得られた知見を活かし、対象農家の拡大や、開発中のメタン削減技術の実用化・普及を加速させるべきです。カカオ分野では、アグロフォレストリーの適用地域拡大や、トレーサビリティシステムの更なる向上(ブロックチェーン技術の活用なども検討)、そして農家への直接的な支援強化が必要です。他の原材料についても、主要サプライヤーとの間で具体的な削減目標を共有し、達成に向けた技術支援やインセンティブ提供など、より踏み込んだエンゲージメント戦略を展開することが効果的です。
サーキュラーエコノミー戦略の具体化と推進: リユース可能な容器包装モデル(例:牛乳瓶の回収・再利用システムの再検討、詰め替え用製品ラインナップの拡充など)の実現可能性調査や、限定的な市場での実証実験を開始することが考えられます。プラスチック代替素材(バイオマス、リサイクル材、紙素材など)の研究開発への投資を強化し、採用可能な製品範囲を拡大すべきです。食品ロス削減に向けては、AIなどを活用した需要予測精度の向上、賞味期限が近い製品の価格を変動させるダイナミックプライシングの導入検討、フードバンクや子ども食堂などへの寄付の仕組み強化などが有効です。カカオハスクに続くアップサイクル事業の可能性を他の副産物(例:乳清、野菜くずなど)にも広げ、新たな価値創造を目指すことも推奨されます。
生物多様性保全アクションの強化と情報開示の充実: TNFD分析の結果に基づき、特定されたリスク(例:水ストレス地域での調達リスク)に対する具体的な低減策(例:水効率改善技術の導入支援)や、機会(例:生物多様性保全に貢献する原料へのプレミアム価格設定)を創出するアクションプランを策定し、実行に移すべきです。森林減少ゼロ・児童労働ゼロ目標達成に向けては、サプライヤーに対する監査やモニタリング体制を強化し、改善が見られない場合の調達停止措置なども含めた厳格な運用が必要です。目標に対する進捗状況、特にこれまで開示が不十分であったRSPO認証パーム油調達率、環境配慮紙への切り替え率、森林保全面積などの定量的な実績データを積極的に開示し、透明性を高めることが重要です。
サステナビリティ情報開示の戦略的拡充: 投資家や評価機関が重視する情報、例えば、各目標に対する定量的な進捗データ、ICP制度の具体的な運用ルールや投資判断への影響事例、ROESG®経営におけるESGパフォーマンスと役員報酬や事業評価との連動メカニズムなどについて、より詳細かつ分かりやすい情報開示を強化すべきです。統合報告書やサステナビリティレポートだけでなく、ウェブサイトなどを活用し、タイムリーな情報発信を心がけることも有効です。
「サステナビリティと事業の融合」の組織的加速: 製品開発の初期段階から、環境負荷低減や社会課題解決といったサステナビリティ要件を必須項目として組み込むプロセスを強化すべきです。「mejiサステナブルプロダクツ」のような認定製品については、その価値を消費者に効果的に伝え、購買に繋げるためのマーケティング戦略を強化する必要があります。また、全従業員がサステナビリティの重要性を理解し、自らの業務との関連性を認識できるよう、階層別・職種別の研修プログラムの充実や、サステナビリティ貢献を評価するインセンティブ制度の導入などを通じて、「自分ゴト化」を組織全体で促進することが不可欠です。
これらの提言を実行に移すことで、明治HDは環境課題への対応を強化し、リスクを低減するとともに、新たな成長機会を捉え、企業価値の持続的な向上と社会からの信頼獲得を実現できると考えられます。
本レポートにおける分析の結果、明治ホールディングス株式会社は、独自の経営指標「ROESG®」を導入し、サステナビリティを経営の中核に据え、「気候変動」「資源循環」「生物多様性」の各環境分野において、長期ビジョンと中期目標に基づいた体系的な取り組みを推進していることが確認されました。気候変動対応では、TCFD提言に沿った詳細なリスク・機会分析と財務影響の試算・開示を行い、カーボンニュートラル達成に向けた移行計画を策定しています。資源循環では、容器包装の環境配慮や食品リサイクル、カカオハスクのアップサイクルといった多角的なアプローチが見られます。生物多様性保全では、特に重要な原材料であるカカオについて、「メイジ・カカオ・サポート」を通じたサプライチェーン上の課題解決に注力しており、TNFDへの対応も進めています。これらの取り組みは、CDP(Aリスト)やMSCI(AA評価)といった外部評価機関からも高く評価されており、同社の環境問題へのコミットメントと情報開示の質の高さを示しています。
総じて、明治HDは、事業活動と地球環境との調和を目指し、サステナビリティを重要な経営課題として認識し、着実に取り組みを進めている企業として評価できます。特に、気候変動リスクを財務影響として定量的に把握しようとする姿勢や、カカオという特定のサプライチェーンにおける複雑な課題(森林破壊、児童労働)に対して、長期的かつ包括的な支援プログラムを通じて解決を図ろうとする真摯な取り組みは顕著です。
しかしながら、同時にいくつかの課題も存在します。設定された目標の一部(再生可能エネルギー導入、食品ロス削減など)については、達成に向けた進捗の加速が必要です。Scope 3排出量削減や資源循環の更なる深化(特にリユース)、生物多様性保全における目標(森林減少・児童労働ゼロ)達成には、技術革新やサプライチェーン全体での協働強化が不可欠であり、その道筋は容易ではありません。また、一部の目標に関する実績開示の網羅性や、ICP制度の実効性に関する情報開示など、透明性の向上も求められます。SustainalyticsによるESGリスク評価が競合の一部と比較して中程度に留まっている点は、リスク管理の実効性向上にまだ改善の余地があることを示唆している可能性があります。
今後は、特定された課題に対して具体的な解決策を実行し、設定した目標を着実に達成していくことが求められます。同時に、「サステナビリティと事業の融合」を更に推し進め、環境・社会価値の創出が企業自身の競争力強化と財務パフォーマンス向上に繋がるという「ROESG®経営」の理念を具現化していくことが、持続的な企業価値向上と、社会からの更なる信頼獲得の鍵となるでしょう。明治HDが「食と健康」のプロフェッショナルとして、地球環境の課題解決においてもリーダーシップを発揮し、持続可能な未来への貢献を続けていくことが期待されます。
2023年 | 209,000t-CO2 |
2022年 | 229,000t-CO2 |
2021年 | 245,000t-CO2 |
2023年 | 263,000t-CO2 |
2022年 | 285,000t-CO2 |
2021年 | 291,000t-CO2 |
2023年 | 4,665,000t-CO2 |
2022年 | 3,905,000t-CO2 |
2021年 | 3,227,000t-CO2 |
スコープ1+2 CORの過去3年推移
2023年 | 427kg-CO2 |
2022年 | 484kg-CO2 |
2021年 | 529kg-CO2 |
スコープ3 CORの過去3年推移
2023年 | 4,220kg-CO2 |
2022年 | 3,676kg-CO2 |
2021年 | 3,185kg-CO2 |
スコープ1+2のCOA推移
2023年 | 392kg-CO2 |
2022年 | 452kg-CO2 |
2021年 | 480kg-CO2 |
スコープ3のCOA推移
2023年 | 3,870kg-CO2 |
2022年 | 3,437kg-CO2 |
2021年 | 2,888kg-CO2 |
2023年 | 1兆1055億円 |
2022年 | 1兆622億円 |
2021年 | 1兆131億円 |
2023年 | 507億円 |
2022年 | 694億円 |
2021年 | 875億円 |
2023年 | 1兆2053億円 |
2022年 | 1兆1362億円 |
2021年 | 1兆1175億円 |
すべての会社と比較したポジション
業界内ポジション
CORスコープ1+2
CORスコープ3
CORスコープ1+2
CORスコープ3
COAスコープ1+2
COAスコープ3
COAスコープ1+2
COAスコープ3