カテゴリー | 2021年度 | 2022年度 | 2023年度 |
---|---|---|---|
1購入した製品・サービス | 1,788,000 | 1,922,000 (▲134,000) | 1,881,000 (▼41,000) |
2資本財 | 134,000 | 139,000 (▲5,000) | 157,000 (▲18,000) |
3燃料・エネルギー関連活動 | 86,000 | 82,000 (▼4,000) | 81,000 (▼1,000) |
4輸送・配送(上流) | 188,000 | 111,000 (▼77,000) | 108,000 (▼3,000) |
5事業から発生する廃棄物 | 12,000 | 10,000 (▼2,000) | 10,000 (=0) |
日本ガイシは、2050年カーボンニュートラル目標達成に向け、再エネ導入(RE100加盟 )や省エネを推進。同時に、TNFD早期採用企業 として生物多様性保全にも注力し、自然関連リスク・機会の評価(LEAP分析 )を開始。「自然共生サイト」認定 など具体的な保全活動も展開し、持続可能な社会への貢献を強化する。
※掲載情報は公開資料をもとに作成しており、全てのリスク・機会を網羅するものではありません。 より詳細な情報は企業の公式発表をご確認ください。
環境課題解決が事業機会に直結。特にCCUS市場は2030年に140億円、2050年に2,700億円規模へ拡大を見込む 。NAS®電池等のエネルギー貯蔵、パワー半導体基板等の省エネ分野も有望 。CO2分離膜 やSOEC 等、セラミック技術を核とした環境貢献製品群が成長を牽引する。
本レポートは、日本ガイシ株式会社(以下、日本ガイシ)の環境分野における取り組み、特に「気候変動」「資源循環」「生物多様性」の3つの重点分野に焦点を当て、そのパフォーマンスを包括的に分析・評価することを目的とする。日本ガイシは、独自のセラミック技術を核に、電力関連機器、産業用セラミックス、電子部品など多岐にわたる製品を製造・販売しており 1、その事業活動は地球環境と密接に関連している。本分析は、同社の環境パフォーマンスに関する詳細情報を提供し、近年重要性が増しているESG(環境・社会・ガバナンス)評価、特に環境スコアリングの算出に必要な基礎データを提供することを目指すものである。分析にあたっては、同社が発行する統合報告書「NGKレポート」やサステナビリティ関連ウェブサイト、データブックなどの公開情報を主要な情報源とする 2。
ESG投資の世界的な拡大や、顧客、従業員、地域社会といった多様なステークホルダーからの環境配慮への要請が高まる中、企業の環境パフォーマンスは、リスク管理の側面だけでなく、企業価値創造と持続可能な成長を実現するための経営戦略上不可欠な要素となっている 6。特に、気候変動による物理的・移行リスク、資源制約、生物多様性の損失といった地球規模の課題は、事業継続性に直接的な影響を与えうる。本レポートは、日本ガイシの環境戦略の現状、達成度、そして内在する課題や機会を客観的に評価し、同業他社との比較分析を通じて、そのポジションを明確にすることを試みる。これにより、投資家やその他のステークホルダーが、日本ガイシの持続可能な企業価値を評価する上での学術的かつ実用的な洞察を提供することを目指す。企業が自らの環境への取り組みを透明性高く開示し、ステークホルダーとの建設的な対話を行うことの重要性は増しており 7、本レポートがその一助となることも期待される。
日本ガイシは、2050年を見据えた長期経営指針「NGKグループビジョン Road to 2050」において、ESG経営をビジョン実現のためになすべき変革の一つとして明確に位置づけている 10。このESG経営における環境(E)側面の方針として、「NGKグループ環境ビジョン」が策定されており、これが同社の環境戦略の根幹をなしている 10。
この環境ビジョンは、事業活動を通じて社会からの要請に応える形で、「カーボンニュートラル」「循環型社会」「自然との共生」という3つの主要な目標達成に貢献することを定めている 10。具体的には、カーボンニュートラルに向けては、2050年までにグループ全体の二酸化炭素(CO2)排出量をネットゼロにすることを目指すという野心的な目標を掲げている 7。循環型社会へは、天然資源の使用量抑制と資源効率の高い製品開発・提供を通じて貢献し、自然との共生へは、生態系への環境負荷を最小限に抑制するとともに、啓発活動を通じて従業員の意識を高めることを目指している 10。
この環境ビジョンを支える基盤として、1996年4月に制定され、環境ビジョンの策定に合わせて2021年4月に改定された「NGKグループ環境基本方針」が存在する 10。この基本方針は、地球環境保全を人類共通の重要課題と認識し、環境と調和した企業活動を推進することを宣言している。具体的には、事業活動に伴う環境負荷の低減と、環境保全に資する製品や技術の開発を通じて地球環境保全に貢献していく姿勢を示している 10。
環境ビジョンにおいて、カーボンニュートラル、循環型社会、自然との共生という3つの柱を明確に掲げている点は、環境課題への包括的な取り組み姿勢を示すものとして評価できる。特に、多くの企業がカーボンニュートラル目標を先行して設定する中で、資源循環や生物多様性にも明確に言及している点は重要である。しかしながら、これらの柱に対する戦略の具体性やリソース配分のバランス、特に「循環型社会」と「自然との共生」に関する定量的な目標設定や具体的なロードマップが、カーボンニュートラルへの取り組みと比較してどの程度詳細に策定され、実行されているかが、同社の環境戦略全体の成熟度を測る上で重要な視点となる。ビジョンで示された方向性 10 が、具体的な環境行動5カ年計画 12 やリスク・機会分析 11 において、3つの柱の間でどのようにバランスを取りながら具現化されているかを継続的に注視する必要がある。
日本ガイシは、ESG課題への取り組みを組織的に推進するため、専門的な体制を構築している。2019年度には、社長を議長とする全社横断的な「ESG会議」を設置し、ESGの観点から経営課題を議論する体制を整えた 12。さらに、ESG関連テーマについて、単なる議論に留まらず、経営レベルでの審議と意思決定の必要性が高まったことから、2022年4月にはこの会議体を「ESG統括委員会」へと改組・強化した(2025年には「サステナビリティ統括委員会」に改称) 7。この委員会も引き続き社長が委員長を務め、ESGおよびSDGsの要素を含むサステナビリティ課題全般への取り組みを強化し、その活動内容を取締役会に報告する体制が整備されている 7。
ESG統括委員会の下には、より専門的なテーマを扱うための5つの分科会が設置されている。具体的には、「環境行動分科会」「ガバナンス分科会」「サプライチェーン分科会」「TCFD分科会」「社会貢献活動分科会」であり、これらの下部分科会を統括する機能も担っている 12。ESG統括委員会の事務局は、ESG推進統括部が担当しており、同部署はグループ全体のESGおよびSDGsに関する活動を横断的に取り扱っている 12。
ガバナンスの観点からは、取締役会がESG統括委員会の活動を適切に監督する体制が構築されている点が重要である 12。ESG会議からESG統括委員会への改組は、サステナビリティ課題が経営戦略の中核に位置づけられ、単なる報告事項ではなく、経営レベルでの審議・意思決定の対象となったことを示唆している。取締役会による監督機能が明記されていることは、ガバナンス強化への意識の表れと言える。しかしながら、その監督の実効性を評価するためには、形式的な体制だけでなく、取締役会においてESG関連の議論がどの程度の頻度と深度で行われているか、KPI(重要業績評価指標)の設定や目標達成のモニタリングに取締役会がどの程度具体的に関与しているかといった、実質的な側面を確認することが不可欠である。
日本ガイシは、気候変動および自然関連の財務情報開示に関する国際的な枠組みへの対応を積極的に進めている。気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言に対しては、2022年4月より、その4つの柱である「ガバナンス」「戦略」「リスクマネジメント」「指標と目標」に沿った情報開示を開始している 3。具体的には、気候変動シナリオ分析の結果や、それに基づくリスクと機会の評価などをウェブサイト等で公表している 12。同社は、これらの開示を通じて気候変動関連の経営への影響を明確にし、対応戦略を講じることで事業の持続的な成長を図る方針を示している 7。
さらに、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)に関しても、その提言への賛同を表明し、2024年1月には早期開示企業である「TNFD Early Adopter」として登録した 11。これは、2026年会計年度までにTNFD提言に沿った14項目の情報開示を目指すというコミットメントを示すものである 11。既にTNFDが推奨する分析アプローチであるLEAPアプローチ(Locate, Evaluate, Assess, Prepare)に基づき、自社の事業活動と自然との接点における依存関係、影響、リスク、機会の評価を開始している 11。
情報開示全般の方針としては、統合報告書である「NGKレポート」 2 や、サステナビリティウェブサイトおよび関連データ集 2 を通じて、財務情報と非財務情報(ESG情報)を事業戦略と共に統合的に報告することを目指している。これにより、ステークホルダーとの対話を通じて経営の健全性と透明性を高め、信頼関係を構築することを重視している 7。開示情報の信頼性を担保するため、一部の環境データ(2023年度の連結子会社を含むScope1およびScope2のエネルギー起源CO2排出量)については、第三者機関による保証を取得している 4。
TCFDに続き、比較的新しい枠組みであるTNFDへの早期対応を進めている点は、環境関連のリスクと機会に対する感度の高さと、情報開示に対する積極的な姿勢を示すものとして評価できる。特にTNFDへの早期コミットメントは、将来的な規制強化への備えや、環境意識の高い投資家からの評価向上に繋がる可能性がある。ただし、開示される情報の「質」、特にScope3排出量の算定精度やサプライチェーン全体での生物多様性への影響評価、そしてそれらの定量化が今後の重要な課題となるであろう。TCFDやTNFDへの対応は、単なる報告義務の履行に留まらず、リスク管理体制の強化や新たな事業機会の特定といった経営戦略ツールとして実質的に活用されているかが問われる。また、現状では第三者保証の対象範囲がScope1、2のエネルギー起源CO2に限定されている点 4 も、開示情報の信頼性向上の観点からは、今後の拡大が期待される領域である。
日本ガイシは、NGKグループ環境ビジョンに基づき、2050年までに事業活動におけるCO2排出量ネットゼロを達成するという長期目標を掲げている 7。この長期目標達成に向けたマイルストーンとして、具体的な中間目標を設定している。2025年度にはCO2排出量を55万トン(2013年度比25%削減)、さらに2030年度には37万トン(同50%削減)まで削減することを目指している 10。
これらの目標達成に向けたロードマップとして、同社は複数の戦略を推進している。主な取り組みとしては、徹底した省エネルギー活動の推進、セラミックス焼成工程などにおける燃料の非化石燃料(水素・アンモニア等)への転換、再生可能エネルギーの利用拡大、そして社会全体のカーボンニュートラルに貢献する製品・サービスの開発・提供が挙げられる 7。これらの取り組みを支える資金調達手段として、グリーンボンドの発行も活用している 10。
進捗状況については、2025年度の中間目標である「2013年度比25%削減」は、これまでの取り組みにより達成される見込みであると報告されている 12。これは、目標達成に向けた取り組みが順調に進んでいることを示唆している。
日本ガイシグループの温室効果ガス(GHG)排出量実績(2024年3月期)は以下の通りである 11。
Scope 1(自社での燃料燃焼等による直接排出):23.8万トン-CO2
Scope 2(購入した電力・熱の使用に伴う間接排出):31.9万トン-CO2
Scope 3(上記以外のバリューチェーン全体での間接排出):327.0万トン-CO2
これらのうち、Scope 1およびScope 2のエネルギー起源CO2排出量については、第三者機関による保証を取得しており、データの信頼性確保に努めている 4。
2024年3月期のScope 1とScope 2の合計排出量は55.7万トンであり、2025年度の目標値である55万トン 11 に既に迫っている。この実績から、2025年度目標の達成は高い確度で見込まれると言える。一方で、Scope 3排出量がScope 1・2合計の約6倍に達しており、バリューチェーン全体での排出量削減が今後の大きな課題であることが明確になっている 11。サプライヤーとの連携強化や製品使用段階での効率改善など、Scope 3削減に向けた具体的な戦略とその進捗が注目される。
日本ガイシは、カーボンニュートラル目標達成に向けた重要な柱の一つとして、再生可能エネルギーの利用拡大を積極的に推進している。2022年10月には、事業活動で使用する電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指す国際イニシアチブ「RE100」に加盟した 7。これにより、2040年までにグループ全体の事業活動で使用する電力を100%再生可能エネルギー由来とすることを目標に掲げ、その中間目標として2025年度までに50%達成を目指している 14。
実績としては、2024年3月期における再生可能エネルギー由来の電力利用率は27%であった 11。具体的な導入施策としては、ポーランドの製造拠点において、同社初となるバーチャル電力購入契約(VPPA)を締結し、再生可能エネルギー由来の環境価値を調達している.3 また、国内外の自社拠点への太陽光発電設備の導入も進めている 10。
RE100への加盟と具体的な導入目標(2025年度50%、2040年度100%)の設定は、脱炭素化への強いコミットメントを示すものとして評価できる。しかし、2024年3月期の実績が27% 11 であることを踏まえると、2025年度の50%目標 14 を達成するためには、導入ペースを大幅に加速させる必要がある。ポーランドでのVPPA締結 3 は重要な進展であるが、これを国内外の他の拠点へどのように展開し、目標達成に繋げていくかが今後の課題となる。目標達成には、オンサイトでの自家発電導入と、VPPAや証書購入といったオフサイトでの調達を組み合わせた戦略的なアプローチが求められるだろう。
エネルギー多消費産業であるセラミックス製造において、省エネルギーの推進はCO2排出量削減の根幹をなす取り組みである。日本ガイシは、トップダウンでの省エネ活動強化を掲げ、多様な施策を展開している。具体的には、生産設備のエネルギー効率向上(例:低温排熱回収システムの導入)、生産プロセス自体の改善による生産性向上、そしてエネルギー管理におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の活用などを推進している 11。また、基幹技術であるセラミックス焼成プロセスにおける省エネルギー化に関する研究開発も継続的に実施している 10。
これらの省エネ投資を加速させるための先進的な取り組みとして、2022年度から内部カーボンプライシング(ICP: Internal Carbon Pricing)制度を導入している 11。これは、CO2排出に社内で価格を設定し、そのコストを設備投資などの意思決定プロセスに組み込むことで、経済合理性の観点から低炭素化投資を促進する仕組みである。導入後、2023年度にはその価格を1トンあたり140米ドルに見直しており、これは国際的に見ても比較的高水準な価格設定と言える 14。
ICPの導入と140ドル/トンという価格設定 14 は、炭素排出に伴うコストを経営判断に織り込むという点で高く評価できる。特に、エネルギーコストが収益性に大きく影響するセラミックス産業において、ICPは省エネや再エネ導入を強力に後押しするインセンティブとなり得る。ただし、この制度が具体的にどのような投資決定(例:高効率設備への更新、再エネ導入)に繋がり、どの程度の省エネ効果やCO2削減効果を生み出しているのか、定量的な情報開示がなされることで、その有効性に対する評価はさらに高まるだろう。
日本ガイシは、自社のCO2排出量削減と社会全体のカーボンニュートラル実現への貢献の両面から、低炭素技術の開発に注力している。特に、排出量の大きいセラミックス焼成プロセスにおける脱炭素化は重要な課題であり、その解決策として水素およびアンモニアを燃料として利用する技術の開発・実証を積極的に進めている 10。既に水素バーナーを搭載した量産実証窯を設置するなど、実用化に向けた取り組みが進んでいる 14。
加えて、CCUS(CO2回収・有効利用・貯留)関連技術や、水素社会の実現に貢献する技術・製品開発も重要な柱となっている。同社独自のサブナノメートルサイズの細孔を持つセラミック膜技術は、CO2分離・回収への応用が期待されており 6、グリーンボンドの適格クライテリアにも含まれている 10。さらに、SOEC(固体酸化物形電気分解セル)や合成燃料製造に用いられるハニカム構造リアクターの開発も進めている 10。
これらに加え、電力系統の安定化や再生可能エネルギー導入拡大に不可欠なNAS®電池や亜鉛二次電池 7、電気自動車(EV)や再生可能エネルギー関連機器の省エネルギー化に貢献する次世代パワー半導体向け材料(窒化ガリウム(GaN)ウエハー、絶縁放熱基板) 6 など、幅広い分野でカーボンニュートラルに貢献する製品開発を推進している。
このように、自社の製造プロセス(特に焼成工程)の脱炭素化に向けた技術開発(水素・アンモニア利用)と、社会全体の脱炭素化・エネルギー転換を支える製品(CO2分離膜、蓄電池、パワー半導体基板など)の開発を両輪で進めている点は、リスク低減と事業機会創出を同時に追求する合理的な戦略と言える。日本ガイシのコア技術であるセラミックスは、高温プロセスでのエネルギー消費が大きいという課題を持つ一方で、その優れた特性(耐熱性、絶縁性、イオン伝導性、分離機能など)が、燃料電池、蓄電池、CCUS、パワー半導体といった多様な脱炭素技術のキーマテリアルとなる可能性を秘めている 6。この技術的な二面性を最大限に活かし、社会課題解決に繋げていくことが、同社の持続的な成長を実現する上で極めて重要となるだろう。
日本ガイシは、資源の有効活用と廃棄物削減を重要な環境課題と捉え、目標を設定し取り組みを進めている。2024年3月期におけるグループ全生産拠点からの廃棄物総発生量は4.8万トンであった 11。国内拠点においては、長年にわたり高い再資源化率を維持しており、2024年3月期の実績は99.5%に達している 11。
2025年度に向けた目標としては、国内再資源化率99%以上を維持することに加え、排出物発生量の売上高原単位を2013年度比で50%削減すること、そして排出物発生量の対BAU(Business As Usual:対策を講じなかった場合に想定される排出量)削減率を同じく2013年度比で30%削減することを掲げている 11。進捗として、排出物発生量の売上高原単位については、2023年度時点で既に2013年度比55%削減を達成しており、目標を前倒しでクリアしている 14。
具体的な取り組みとしては、製造工程で発生するセラミック廃材(スラッジや破片)を回収し、自社のセラミックス原料として再利用するほか、路盤材やコンクリート骨材としても有効活用している 14。また、近年関心が高まっているプラスチック廃棄物に関しても、2023年度から排出量の把握を開始(実績:1,456トン)し、発生量削減やリサイクル推進に向けた検討を進めている。具体例として、原料輸入に使用されるプラスチックドラム缶を建設・産業資材としてリサイクルする取り組みなどが挙げられる 14。
国内における極めて高いリサイクル率は特筆すべき成果であるが、グローバルに事業を展開する企業としては、海外拠点におけるリサイクル率の向上が今後の課題となる。排出量原単位目標の前倒し達成は評価できるものの、生産量の変動に影響されにくい絶対量の削減や、BAU比での削減目標達成に向けた継続的な努力が重要である。特に、設計段階からの資源投入量削減や、リサイクルが困難な廃棄物の削減・代替技術開発などが求められる。プラスチック廃棄物への対応 14 は緒に就いたばかりであり、具体的な削減目標の設定とロードマップの策定、そしてマテリアルリサイクル率の向上が期待される。
水資源は、セラミックス製造プロセスにおいて不可欠な要素であると同時に、地域によっては枯渇リスクや水質汚染リスクを伴う重要な資源である。日本ガイシグループ全体の2024年3月期における水消費量(取水量合計)は422.6万立方メートルであった 11。一方、水のリサイクル率(回収・再利用された水の割合)は、2023年度実績で2.4%に留まっている 14。
2025年度の目標としては、連結ベースでの水使用量の売上高原単位を2019年度レベルで維持することを掲げている 11。また、水リスクへの対応として、WRI(世界資源研究所)のAqueductなどのツールを用い、全世界の生産拠点を対象に水リスク(水ストレス、水質汚濁、洪水・渇水など)の評価を実施している 11。この評価に基づき、特にリスクが高いと特定された拠点においては、水資源管理の強化を進めている 15。具体的な取り組みとしては、生産工程における高効率な水利用を推進するほか、後述するセラミック膜フィルターシステムを用いた生産用水の回収・再利用を一部拠点で実施している 11。
水使用量の原単位を現状維持するという目標 11 は、生産量増加に伴う水使用量の増加を許容する可能性があり、特に水ストレスの高い地域での事業活動を考慮すると、やや保守的との見方もできる。絶対量の削減や、現状2.4% 14 と低い水リサイクル率の大幅な向上に向けた、より野心的な目標設定が望まれる。水リスク評価に基づき、拠点ごとの状況に応じた管理強化を進めている点は評価できるが、具体的な対策内容とその効果(取水量削減量や放流水質の改善度など)についての情報開示を充実させることが、取り組みの透明性と実効性を示す上で重要となる。水リサイクル率の低さは、改善の余地が大きい領域であり、自社技術を活用した取り組みの加速が期待される。
日本ガイシは、資源循環を推進するために、自社のコア技術を活用した取り組みや、環境負荷低減に貢献する製品開発を進めている。
特筆すべきは、自社開発のセラミック膜フィルター技術の活用である 14。この技術は、耐久性や耐薬品性に優れ、精密なろ過を可能にするものであり、産業排水処理や用水回収において高い性能を発揮する。例えば、半導体製造工程で発生するシリコン含有排水の処理においては、99%という高い水回収率を実現できるとされている 16。この技術を自社の生産拠点(小牧事業所、富士吉田事業所)に導入し、生産用水の回収・再利用を進めていることは、技術開発力とサステナビリティへの取り組みを統合した好事例と言える 14。
また、製品開発においては、廃棄物の再資源化や代替材料の活用を通じて、資源効率の高い製品・サービスの提供を目指している 11。さらに、同社の主力製品群には、顧客や社会全体のエネルギー効率改善や資源有効利用に貢献するものが多数含まれる。例えば、NAS®電池は再生可能エネルギーの出力変動を吸収し安定供給に貢献、自動車排ガス浄化用セラミックス(触媒担体)は有害物質の排出削減と燃費向上に寄与、パワーモジュール用絶縁放熱基板はEVや再生可能エネルギー関連機器の性能向上と省エネ化を支えている 7。
自社の強みであるセラミック膜技術を社内の水リサイクルに適用している点 14 は、技術力と環境経営を結びつける具体的なアクションとして評価できる。今後、この取り組みを国内外の他拠点へ展開し、水リサイクル率の大幅な向上に繋げることが期待される。また、NAS電池や自動車排ガス浄化用セラミックスなどの環境貢献製品 7 が、顧客や社会全体の環境負荷低減にどれだけ貢献しているか(例:Scope 4相当の回避・削減貢献量)を定量的に算定し、積極的に開示していくことができれば、企業の環境価値をより明確に示し、ステークホルダーからの評価を高めることに繋がるだろう。
生物多様性の損失は、気候変動と並んで深刻な地球環境問題であり、企業活動への影響も無視できないレベルになっている。日本ガイシは、この課題に対する認識を高め、国際的な情報開示の枠組みに対応する動きを加速させている。2024年1月には、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)の提言に早期に賛同・対応する企業グループ「TNFD Early Adopter」に登録し、2026年会計年度までにTNFD提言に完全に準拠した情報開示を行うことを宣言した 11。
具体的な分析アプローチとして、TNFDが推奨するLEAPアプローチ(Locate:自然との接点の特定、Evaluate:依存関係と影響の診断、Assess:重要なリスクと機会の評価、Prepare:対応戦略と報告)を採用し、自社のバリューチェーン全体における自然関連の依存関係、影響、リスク、機会の特定と評価を開始している 14。
これまでの評価により、国内外の製造拠点の多くが生物多様性の観点から重要性の高い地域(例:保護地域、重要野鳥生息地など)に位置している、または近接していることが特定された。また、一部の拠点においては、生態系の健全性が低い地域に立地していることや、水リスク(洪水・渇水、水ストレス)が高いことも確認されている 11。
開示計画としては、2024年度中にLEAPアプローチに基づくこれまでの分析結果を開示する予定であり 13、2024年9月末までにはTNFDの枠組みに沿った初期的な開示を目指している 11。
TNFDへの早期コミットメントとLEAPアプローチの体系的な採用は、自然関連リスク・機会に対する経営レベルでの認識と対応を進める上で先進的な取り組みと言える。拠点レベルでのリスク評価 11 が具体的に進められている点も評価できる。今後の焦点は、評価範囲をサプライチェーン上流(特に原材料の調達段階)へと拡大し、生物多様性への影響をより深く、可能であれば定量的に評価していくこと、そして特定されたリスクに対する具体的な管理策と、機会を活かす戦略を策定・開示していくことにある。
日本ガイシは、TNFDに基づく分析と並行して、具体的な生物多様性保全活動にも取り組んでいる。
特筆すべき成果として、岐阜県瑞浪市にあるグループ会社の周辺社有林「日本ガイシ みんなの森みずなみ」における長年の森林づくり活動が評価され、2024年3月にその一部区域(湧水湿地や地域由来の広葉樹林を含む約5.6ヘクタール)が、環境省が認定する「自然共生サイト」(OECM: Other Effective area-based Conservation Measures、保護地域以外で生物多様性保全に資する区域)に認定された 13。これは、企業の土地管理が生物多様性保全に貢献していることを示す客観的な証明となる。
また、名古屋市内の厚生施設(福利厚生施設)においては、夏季と冬季に鳥類、草木、昆虫類に関する定期的な生物調査を実施している 19。調査結果はパネル展示などを通じて施設利用者に公開され、生物多様性への意識向上に役立てられている。これまでの調査では、早急な対応が必要となる特定外来生物などは発見されておらず、適切な管理状態にあることが確認されている 19。
さらに、国内外の拠点において、地域社会との連携を通じた保全活動も展開している。石川工場およびNGKセラミックデバイス石川工場では、地域住民と共に海岸清掃活動に参加 13。グループ会社のNGKフィルテック(神奈川県)は、神奈川県の「かながわ森林再生50年構想」に賛同し、「森林再生パートナー」として協定を結び、水源林での森林保全活動(間伐、植林など)に従業員とその家族が参加している 13。海外では、NGKセラミックスタイランドが、CO2吸収や多様な生物の生息地提供、海岸浸食防止に役立つマングローブの植林活動を実施している 13。
これらの活動に加え、経団連自然保護協議会が推進する「生物多様性宣言」推進パートナーズへの参加(2022年1月) 19 や、愛知県による「あいち生物多様性企業認証」(認証区分、2023年11月)の取得 20 など、外部イニシアチブへの参画や認証取得も進めている。
「自然共生サイト」認定 18 は、具体的な保全活動の成果を示す重要なマイルストーンである。国内外での多様な地域連携活動 13 も、企業の社会的責任を果たす上で意義深い。今後の課題は、これらの個別活動を、TNFD/LEAPアプローチによって特定された自社の事業活動に関連する自然関連リスク(例:拠点周辺の生物多様性重要性や水リスク) 11 と結びつけ、リスク低減や機会創出にどのように貢献しているのかを戦略的に位置づけ、説明していくことである。また、活動の成果を定量的に把握し、目標を設定していくことも、取り組みの実効性を高める上で重要となるだろう。
日本ガイシは、TCFDおよびTNFDの枠組みを活用し、自社の事業活動に関連する環境リスクを体系的に特定・分析している。これらのリスクは、財務的な影響をもたらす可能性があり、経営戦略上、重要な管理対象となっている。
気候変動リスク:
移行リスク: 世界的な脱炭素化の潮流に伴うリスク。具体的には、温室効果ガス(GHG)排出削減規制の強化による対策コストの増加が挙げられる。同社の試算では、1.5℃シナリオ下で、2025年度に20億円、2030年度に58億円、2050年度には123億円のコスト増が見込まれている 11。また、カーボンプライシング(炭素税や排出量取引制度)の導入・強化によるコスト負担増もリスク要因である 11。さらに、主要市場である自動車産業における内燃機関関連ビジネスの縮小もリスクとして認識されている 11。
物理リスク: 気候変動に伴う異常気象の激甚化・頻発化によるリスク。特に、風水害による自社工場やサプライチェーン(部品供給網)への物理的な被害や操業停止のリスクが重要視されている。現状の損失期待値(年間31億円)に対し、気候変動の影響で2050年度には年間5.4億円の損失増が見込まれると試算されている 11。また、沿岸部に立地する工場においては、高潮や海面上昇によるリスクも考慮されている 11。
資源循環リスク:
天然資源の枯渇懸念や地政学的な要因による原材料価格の高騰リスク 11。
廃棄物削減やリサイクル材利用といった循環型経済への移行に対応できない場合の競争力低下やブランドイメージ毀損のリスク 11。
水不足や水質汚染による操業への影響、および対策コストの増加リスク 11。
生物多様性リスク:
事業活動(特に原材料調達や土地利用)が生態系へ与える負の影響に対する社会的な批判や、それによるブランド・レピュテーションの毀損リスク 11。
自社拠点が依存する生態系サービス(例:水資源供給、気候調整機能)の劣化による操業への影響リスク 11。
サプライチェーンにおける生物多様性関連リスク(例:原材料供給の不安定化) 11。
その他の環境リスク:
環境関連法規制の遵守違反(コンプライアンス)リスク 11。
大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、不適切な廃棄物・化学物質管理による環境汚染リスクと、それに伴う地域社会への影響リスク 11。
TCFDやTNFDの枠組みを用いて、リスクを移行リスク・物理リスク、資源関連、生物多様性関連などに分類し、一部については定量的な財務影響予測 11 まで行っている点は、リスク管理の高度化を示すものとして評価できる。特に、気候変動に関しては、移行リスク(コスト増)と物理リスク(操業影響)の両面から具体的な影響額を試算している点が重要である。一方で、資源循環リスクや生物多様性リスクについては、現時点ではまだ定性的な評価が中心である可能性があり、これらのリスクについても定量的な評価やシナリオ分析の深化が望まれる。また、サプライチェーン全体、特にScope3排出量や原材料調達段階における生物多様性への影響に関連するリスク評価をさらに深掘りしていくことが、今後の課題となろう。
日本ガイシは、環境リスクを認識する一方で、環境課題の解決に貢献することを通じて新たな事業機会を創出することも目指している。同社のコア技術であるセラミックスは、脱炭素化やデジタル社会の進展といったメガトレンドにおいて重要な役割を果たす可能性を秘めている。
気候変動関連の事業機会:
CCUS(CO2回収・有効利用・貯留)市場: 地球温暖化対策として注目されるCCUS技術において、同社のCO2分離膜などのセラミック製品が重要な役割を果たすと期待されている。同社の試算では、この市場拡大により、2030年度に140億円、2050年度には2,700億円規模の事業機会が見込まれる 11。
エネルギー貯蔵: 再生可能エネルギーの導入拡大に伴い、電力系統の安定化に不可欠な大規模蓄電池の需要が増加する。同社主力製品であるNAS®電池や、開発中の亜鉛二次電池などがこの需要を取り込むことが期待される 7。
省エネルギー: データセンター投資の活発化などを背景に、エネルギー効率の高い半導体関連製品(例:パワー半導体用基板)の需要拡大が見込まれる 11。
自動車: 短期的には、燃費改善や排ガス規制強化に対応する自動車排ガス浄化用セラミックスの需要増が見込まれる 11。
評価向上: カーボンニュートラルへの貢献を通じて、企業評価やブランドイメージが向上する機会 11。
資源循環関連の事業機会:
循環型経済への移行に伴う新たなビジネスモデル(例:製品のサービス化、リサイクル事業)の創出機会 11。
希少金属の枯渇や価格高騰に対応する代替材料技術や、セラミックス原材料の新たな活用法の開発機会 11。
資源効率改善によるコスト削減機会 11。
環境汚染防止関連の事業機会:
大気汚染防止(排ガス浄化触媒等)、水質浄化(セラミック膜等)、さらには原子力関連廃棄物の処理といった分野での事業拡大機会 11。
生物多様性関連の事業機会:
生物多様性保全への貢献によるブランド・レピュテーションの向上機会 11。
生態系への配慮を組み込んだ製品やビジネスモデル(例:持続可能な原材料調達に基づく製品)の市場拡大機会 11。
環境貢献製品群:
日本ガイシは、これらの事業機会を捉えるための具体的な製品・技術開発を積極的に進めている。主な環境貢献製品としては、NAS®電池、自動車排ガス浄化用セラミックス、パワーモジュール用絶縁放熱基板、CO2分離膜、SOEC(固体酸化物形電気分解セル)、亜鉛二次電池、GaNウエハーなどが挙げられる 6。
気候変動関連、特にCCUS市場における事業機会 11 を非常に大きく捉えており、関連技術(CO2分離膜など)への研究開発投資を強化していることがうかがえる。自社の強みであるセラミック技術が、脱炭素化(蓄電池、CCUS、水素)とデジタル社会の進展(半導体、センサー)という現代社会の主要な課題解決に貢献しうる多様な市場機会に繋がっていることを明確に示している点は、説得力がある。リスク評価と同時に機会評価を行い、それを具体的な製品開発戦略 10 や市場予測 11 に結びつけていることは、持続可能な成長を目指す上で重要なアプローチである。
日本ガイシの事業領域は、セラミックス製造を核としつつ、電力機器、自動車部品、電子部品など多岐にわたるため、関連する複数の業界における環境面のベストプラクティスを理解することは、自社の取り組みを評価し、改善の方向性を見出す上で重要である。
セラミックス業界:
資源効率: 粘土などの天然資源への依存を低減するため、他産業の副産物(例:鉄鋼スラグ)や回収したセラミック廃棄物を原料として再利用する動きが進んでいる 21。また、製品自体の耐久性を高め、長寿命化を図る設計思想も重要視されている 21。
エネルギー効率: エネルギー消費量が大きい焼成工程の改善が焦点となる。具体的には、より低い温度での焼成を可能にする材料・技術開発、キルン(焼成炉)自体の断熱性向上や高効率化、燃料転換(ガスから電気へ、さらには再生可能エネルギー利用の電気キルンや太陽熱、バイオ燃料を利用したキルン)、そして排ガスからの熱回収技術の導入などが挙げられる 21。
有害物質削減: 釉薬に含まれる鉛などの重金属や有害な化合物の使用を避け、無鉛・無毒の代替釉薬への転換が進められている 21。これは、製造者の健康保護と製品(特に食器など)の安全性確保の両面から重要である。
廃棄物管理: 焼成前の粘土(生の状態や乾燥状態)は比較的容易に再利用が可能であり、これを徹底することが基本となる 24。焼成後のセラミック廃棄物(不良品や破損品)も、粉砕して新しい粘土に混ぜ込む(グロッグとして利用)か、他の用途(例:建材)へリサイクルする取り組みが行われている 21。
電力機器業界:
エネルギー効率: 製品(変圧器、モーター、スイッチギア等)自体のエネルギー損失を低減する高効率設計が求められる。また、製造プロセスにおいても、エネルギーマネジメントシステム(EMS)の導入や高効率な生産設備の採用が進んでいる 27。
再生可能エネルギー導入: 工場や事業所での自家消費型太陽光発電システムの設置や、電力購入契約(PPA)、再生可能エネルギー証書(REC)の購入などを通じて、事業活動で使用する電力の再エネ化が進められている 30。
資源循環: 製品の長寿命化設計、修理・保守サービスの提供、部品のリファービッシュ(再生)やリマニュファクチャリング(再製造)によるライフサイクル延長が重要視されている 27。製品へのリサイクル材の使用や、使用済み製品の適切な回収・リサイクル(特に電子機器廃棄物=E-wasteとしての管理)も課題である 31。
サプライチェーン管理: サプライヤーに対して、環境管理体制(例:ISO14001認証)の整備や有害物質管理、GHG排出量削減などを要請するグリーン調達の取り組みが広がっている 27。
自動車部品業界:
軽量化: 車両の燃費向上(EVの場合は電費向上)に直結するため、プラスチックやアルミニウム、マグネシウム合金、高張力鋼板、炭素繊維複合材などの軽量素材の採用が積極的に進められている 33。
資源循環: 使用済み自動車から回収された材料(鉄、アルミ、銅、プラスチック、繊維など)を積極的に新車部品に再利用する取り組み(クローズドループリサイクル含む)が拡大している 33。また、エンジンやトランスミッションなどの部品を分解・洗浄・修理して再製品化するリマニュファクチャリングも重要な選択肢となっている 36。
サプライチェーン管理: 自動車メーカーからサプライヤーに対し、環境負荷低減(GHG排出量、水使用量、廃棄物削減)や人権尊重に関する要求が強まっており、サプライチェーン全体でのデューデリジェンスや情報開示(例:IMDSによる化学物質情報管理 37)が不可欠となっている 37。
製造プロセス: リーン生産方式などを活用した省エネルギー、廃棄物削減、水使用量削減、揮発性有機化合物(VOC)排出削減、有害化学物質の使用削減などが推進されている 36。
これらの業界動向を見ると、共通して①エネルギー効率の改善と再生可能エネルギーへの転換、②資源の循環的な利用(リサイクル材活用、廃棄物削減、製品・部品の長寿命化)、③サプライチェーン全体を視野に入れた環境負荷低減(サプライヤーエンゲージメント、LCA思考)、④有害物質の管理強化、といった方向性が確認できる。日本ガイシは、自社の省エネ努力や環境貢献製品開発などでこれらのトレンドに沿った取り組みを進めている。しかし、特に資源循環の側面(水リサイクル率の向上、廃棄物絶対量の削減)や、サプライチェーン全体でのGHG排出量削減(Scope3)においては、他業界の先進的な事例(例:自動車業界のクローズドループリサイクル 36、電力機器業界のリファービッシュ 31)から学び、取り組みを強化する余地があると考えられる。セラミックス製造特有の課題である高温焼成プロセスの脱炭素化 21 に加え、主要な顧客・関連業界である電力機器 31 や自動車部品 33 のサステナビリティ動向を深く理解し、連携していくことが、日本ガイシ自身の持続可能な事業戦略にとっても重要となる。
日本ガイシの環境パフォーマンスを客観的に評価するためには、同業他社との比較が不可欠である。事業内容の多様性を考慮し、主要な事業分野ごとに競合と考えられる企業を特定し、公開情報から得られる環境パフォーマンスデータを比較する。
主要競合企業の特定:
セラミックス/電子部品分野: 京セラ 1、日本特殊陶業(Niterra) 43、TDK 41、米Corning 1、AGC 1 などが、技術や市場で競合する主要企業として挙げられる。これらは、ファインセラミックス技術を基盤に、電子部品、半導体製造装置用部材、自動車部品など、日本ガイシと重なる分野で事業を展開している。
電力用がいし/電力機器分野: スイスABB 50、独Siemens 50、米General Electric 50、日立エナジー(旧ABBパワーグリッド事業) 51、東芝 50 などが、送配電機器市場における主要なグローバルプレイヤーである。がいし単体だけでなく、関連する電力システム全体での競合関係を考慮する必要がある。
NAS®電池分野: NAS電池は日本ガイシが世界で初めて事業化し 55、現在も市場をリードしているが、独BASFとは販売提携関係にありつつ 56、次世代電池開発では共同開発も行っている 56。直接的な競合は限定的だが、他の大規模蓄電池技術(リチウムイオン電池等)との競合は存在する 57。GSユアサなども広義の電池業界における競合となりうる 58。
自動車部品分野(排ガス浄化触媒担体等): 自動車排ガス浄化用セラミックス(ハニカム触媒担体)市場では、米Corningが主要な競合である。また、排ガス後処理システム全体としては、仏Faurecia(フォルシア)、米Tenneco(テネコ)なども関連プレイヤーとなる。日本ガイシはこの分野でグローバルな生産・販売網を持つ 11。
環境パフォーマンス比較(記述形式):
気候変動:
目標設定: 日本ガイシは2050年ネットゼロ、2030年50%削減(Scope1+2、2013年比)11。NiterraはScope1, 2, 3共に2030年30%削減(2018年比、SBT認定)59。TDKはSBTi 1.5℃認定(Scope1+2、2031年3月期42%削減 vs 2022年3月期)61。ABBは2030年Scope1+2 80%削減(2019年比)、Scope3 25%削減(2022年比)、SBTiネットゼロ基準整合 62。Siemens AGは2030年Scope1+2 90%削減(2019年比)、2050年バリューチェーン全体でネットゼロ、SBTiネットゼロ基準認定 64。京セラはScope1+2、Scope1+2+3共に2030年度46%削減(2019年度比、1.5℃水準、SBT認定)66。
再生可能エネルギー: 日本ガイシは2025年度50%、2040年100%目標、2024年3月期実績27% 11。TDKは2025年50%目標、2023年度実績55.2%(目標前倒し達成)61。ABBは2030年100%目標、2024年実績95% 62。Siemens AGは2030年100%目標(自社オペレーション)、2024年実績90%超 67。京セラは2030年度20倍目標(2013年度比)、2023年度実績11.5倍 66。
Scope3: 日本ガイシはScope3排出量(327万トン)を算定・開示しているが、具体的な削減目標は未設定 11。Niterra、TDK、ABB、Siemens AG、京セラはScope3削減目標を設定・公表している 59。
比較考察: グローバル競合であるABBやSiemens AGは、Scope1+2削減目標の野心度(2030年80-90%削減)および再エネ導入率の実績(90%超)において、日本ガイシを上回っている。国内競合では、TDKが再エネ導入目標を前倒し達成、Niterraや京セラ、TDKがScope3を含むSBT認定目標を設定しており、日本ガイシはScope3目標設定が今後の課題。ただし、日本ガイシのICP導入 14 は特徴的な取り組みである。
資源循環:
廃棄物: 日本ガイシは国内リサイクル率99.5%、原単位目標達成 11。TDKは2023年度排出物総量12.2万トン、原単位5%改善 69。ABBは2024年埋立廃棄物率5.8%、ゼロランドフィル目標に向け進捗 62。Siemens AGは2024年に埋立廃棄物30%削減を達成 68。京セラは複合機等への再生材利用目標を設定・達成 66。
水: 日本ガイシは水使用量原単位維持目標、リサイクル率2.4%(2023年度)11。TDKは2023年度総取水量1518万m3(原単位5.4%改善)70。ABB、Siemens AG、京セラは具体的な水リサイクル率の開示が見当たらないが、水リスク評価や節水策を実施 62。
比較考察: 日本ガイシの国内リサイクル率は高いが、絶対量削減や水リサイクル率向上は課題。TDKは原単位改善目標を達成。ABB、Siemens AGは埋立廃棄物削減で具体的な進捗を示している。京セラは製品への再生材利用で目標を設定。日本ガイシは水リサイクル率の低さが目立ち、改善が急務。
生物多様性:
TNFD/情報開示: 日本ガイシはTNFD早期採用、LEAP分析開始 11。京セラは具体的なTNFD対応の言及は少ないが、工場緑地での生態系調査や森づくり活動を実施 66。TDKはTNFD提言を受け評価を開始 61。ABB、Siemens AGの報告書では、EUタクソノミー対応等での言及はあるものの、TNFDに特化した開示や具体的な目標設定は限定的 62。
保全活動: 日本ガイシは自然共生サイト認定 18 や地域連携活動 13 を実施。京セラも森づくり活動などを展開 66。
比較考察: 生物多様性に関しては、日本ガイシがTNFDへの早期対応という形で先行している可能性がある。具体的な保全活動は各社実施しているが、TNFDのような体系的なリスク・機会評価と情報開示に踏み込んでいる企業はまだ少ない状況。
競合他社、特にABBやSiemens AGのようなグローバル企業と比較すると、日本ガイシは再生可能エネルギー導入率やScope1・2排出量の削減ペースにおいて、更なる努力が求められる側面がある。一方で、TNFDへの早期対応宣言は、ネイチャー(自然資本)関連の課題に対する先進的な姿勢を示すものと言える。セラミックス・電子部品分野の国内競合他社との比較では、各社がそれぞれ強みを持つ分野(例:TDKの再エネ導入実績、Niterraや京セラのScope3目標設定)が異なり、一概に優劣をつけるのは難しい。日本ガイシとしては、自社の強みであるICP導入や環境貢献製品開発を推進しつつ、Scope3削減や資源循環(特に水)といった課題領域において、競合の取り組みも参考にしながら改善を加速していく必要がある。
企業のサステナビリティへの取り組みは、CDP、MSCI、Sustainalyticsといった外部のESG評価機関によって評価され、その結果は投資家の投資判断や企業の評判に影響を与える重要な指標となっている 8。日本ガイシおよび主要な競合企業のESG評価を比較することで、相対的なポジションと改善点を把握する。
日本ガイシの主なESG評価:
CDP (2023年評価): 気候変動 A-、水セキュリティ B、サプライヤーエンゲージメント B 75。過去(2025年2月発表)には水セキュリティで最高評価のAリストに選定された実績もある 15。
MSCI: MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数、およびMSCI日本株女性活躍指数(WIN)の構成銘柄に選定されている 76。具体的なレーティング(AAA~CCCの7段階評価)については、公開情報からは確認できなかった(MSCIのツールでは通常、ACWI構成銘柄の一部情報のみ公開 77)。
Sustainalytics (2024年5月時点): ESGリスクレーティングは20.5で、「Medium Risk」に分類される。同社の評価対象である機械(Machinery)業界グループ(587社)の中では50位に位置する 78。リスク管理(Management)は「Strong」と評価されているが、リスクへの暴露(Exposure)が「Medium」と評価されている 78。
その他の主要インデックス: ダウ・ジョーンズ・サステナビリティ・インデックス(DJSI)のAsia Pacific Indexに8年連続で選定 79。FTSE Russell社のFTSE4Good Index Series、FTSE Blossom Japan Index、FTSE Blossom Japan Sector Relative Index、およびS&P/JPX Carbon Efficient Indexの構成銘柄にも選定されている 76。
主要競合企業のESG評価(比較):
京セラ: CDP気候変動でAリスト(2020, 2021, 2023年)、サプライヤーエンゲージメントリーダーに選定 80。Sustainalyticsは19.2(Low Risk、テクノロジーハードウェア業界306位/635社)42。
Niterra (日本特殊陶業): CDP気候変動 A-、水セキュリティ A-(2024年評価)46。MSCI評価はAAA(2023年以降)と最高評価を獲得 46。EcoVadisはSilver評価 46。
TDK: CDP気候変動 A-、水セキュリティ A(4年連続)、サプライヤーエンゲージメントリーダー(4年連続)と高い評価 81。Sustainalyticsは16.5(Low Risk、テクノロジーハードウェア業界217位/635社)47。EcoVadisはGold評価(2024年)83。
AGC: CDP気候変動 A-(2023年評価)84。Sustainalyticsは22.8(Medium Risk、建築製品業界39位/148社)49。
Corning: Sustainalyticsは17.5(Low Risk、テクノロジーハードウェア業界252位/635社)48。
ABB: CDP気候変動 A、水セキュリティ A-、サプライヤーエンゲージメント Aと全体的に高評価 85。MSCI評価はAAA(2024年7月)85。Sustainalyticsは15.4(Low Risk、電気機器業界13位/313社)と極めて高い評価 52。EcoVadisはGold評価 85。ISS ESGはPrime B評価 85。
Siemens AG: CDP気候変動 Aリスト 86。MSCI評価はAAA/AAのリーダーレベル 86。Sustainalyticsは25.8(Medium Risk、産業コングロマリット業界9位/131社)53。EcoVadisはPlatinum評価(上位1%)86。ISS ESGはPrime評価 86。
BASF (NAS電池提携先): CDPは気候変動・水・森林すべてA-評価 88。MSCIはA評価 88。Sustainalyticsは27.9(Medium Risk、化学業界197位/590社)90。ISS ESGはPrime評価 88。
ベンチマーキング考察:
日本ガイシは、DJSI Asia Pacificへの継続選定など、一定レベルのESG評価を得ていることは確かである。しかし、主要な評価機関、特にCDP(水セキュリティ)やSustainalyticsのリスク評価においては、改善の余地が見られる。CDP気候変動のA-評価は良好な水準であるが、水セキュリティがB評価 75 である点は、過去にAリストを獲得していた 15 ことから見ると後退しており、水資源管理の強化が評価向上に繋がる可能性がある。Sustainalyticsのリスクレーティングが「Medium」 78 であるのに対し、競合の京セラ、TDK、Corning、そして特にグローバルリーダーであるABBは「Low」評価を得ており 42、リスク管理体制や情報開示の更なる向上が求められる。NiterraのMSCI AAA評価 46 やTDKのCDP高評価 81 など、国内競合の中にも高い評価を得ている企業が存在する。ESG評価は、評価機関ごとに評価軸、重点項目、参照する業界分類が異なるため 42、各評価の詳細分析を通じて自社の弱点を特定し、的を絞った改善策と情報開示戦略を策定することが、スコア向上には不可欠である。
これまでの分析に基づき、日本ガイシの環境パフォーマンスにおける主要な課題を以下のように特定する。
気候変動対応の深化:
Scope3排出量の管理: Scope1+2排出量の約6倍に達するScope3排出量 11 は、バリューチェーン全体での脱炭素化における最大の課題である。現状、具体的な削減目標が設定されておらず、サプライヤーとの連携や製品使用段階での削減貢献を含む包括的な戦略と目標設定、そしてその実行計画の明確化が急務である。
再生可能エネルギー導入の加速: 2025年度の再エネ導入率50%目標 14 に対し、2024年3月期実績は27% 11 であり、目標達成には導入ペースの大幅な加速が必要である。特に海外拠点における導入拡大が鍵となる。
高温プロセスの脱炭素化: セラミックス製造の根幹である焼成工程の脱炭素化は、技術的・経済的なハードルが高い。水素・アンモニア燃焼技術 10 の開発・実証は進められているが、その実用化と全社的な展開には更なるブレークスルーが必要となる。
資源循環の高度化:
グローバルな廃棄物管理: 国内では高いリサイクル率を達成しているものの、海外拠点を含めたグループ全体での廃棄物発生量の絶対量削減と、リサイクル率の向上が課題である。原単位目標達成 14 に加え、絶対量削減に向けた取り組み強化が求められる。
水資源管理の強化: 水リサイクル率が2.4%(2023年度)14 と低い水準に留まっている点は、喫緊の改善課題である。水使用量の原単位維持目標 11 も、水ストレス地域での影響を考慮すると、より野心的な削減目標やリサイクル率目標の設定が望ましい。
プラスチック問題への対応: プラスチック廃棄物の排出量把握 14 は第一歩であり、今後は具体的な削減目標の設定と、マテリアルリサイクルを含む資源循環戦略の策定・実行が必要となる。
生物多様性保全の統合:
サプライチェーン評価の深化: TNFDへの早期対応は評価できるが、現状の分析は自社拠点が中心と見られる 11。生物多様性への影響が大きいと考えられる原材料調達など、サプライチェーン上流におけるリスクと影響の評価を深化させる必要がある。
目標設定と事業連関: 自然共生サイト認定 18 などの保全活動は重要だが、これらの活動が事業活動やTNFDで特定されたリスク・機会とどのように関連し、貢献しているのかを明確に示す必要がある。また、生物多様性に関する定量的な目標設定も今後の課題である。
情報開示と外部評価:
ESG評価の向上: CDP水セキュリティ評価の低下 15 やSustainalyticsのリスク評価 78 など、一部のESG評価において改善の余地がある。評価機関が重視する項目(例:水リスク管理、Scope3管理、サプライヤーエンゲージメント)への対応強化と、それを裏付ける透明性の高い情報開示が必要である。
開示の質と保証: Scope3排出量や生物多様性インパクトに関する定量データの精度向上と開示拡充、そして第三者保証の対象範囲を拡大していくことが、開示情報の信頼性を高める上で重要となる。
これらの課題認識は、日本ガイシが持続可能な成長を達成するために、重点的に取り組むべき領域を示唆している。特に、自社の努力だけでは解決が難しいScope3排出量削減やサプライチェーンにおける生物多様性保全については、関係各社との連携強化が不可欠となる。
特定された課題を踏まえ、日本ガイシが持続可能な成長を実現するために注力すべき戦略と、具体的な行動提言を以下に示す。
目標達成加速のための施策:
提言1:再生可能エネルギー導入の加速と多様化: 2025年度50%目標達成に向け、海外拠点での導入計画を具体化し、必要に応じて前倒しを検討する。導入手法として、オンサイト太陽光発電に加え、オフサイトPPA(Physical/Virtual)や再生可能エネルギー証書の戦略的な活用を組み合わせる。
提言2:内部カーボンプライシング(ICP)の活用深化: 現在140ドル/トン 14 と比較的高水準のICPを、省エネ・再エネ投資判断だけでなく、サプライヤー選定基準や新製品開発プロセスにおける評価指標としても適用拡大を検討し、脱炭素化をより広範に促進する。
提言3:エネルギー効率改善の継続強化: エネルギー管理のDX 11 を活用し、拠点・プロセスごとのエネルギー消費量をリアルタイムで監視・分析し、継続的な改善活動に繋げる。低温排熱回収など、効果の高い省エネ技術の導入を加速する。
サプライチェーン全体での環境負荷低減:
提言4:Scope3削減に向けたサプライヤー協働強化: 排出量への寄与が大きいカテゴリ1(購入した物品・サービス)14 を中心に、主要サプライヤーとGHG削減目標を共有し、達成に向けた技術支援や情報交換を強化する。CDPサプライヤーエンゲージメント評価 75 の結果も活用し、エンゲージメントの実効性を高める。
提言5:製品ライフサイクルアセスメント(LCA)の推進: 主要製品についてLCA評価を実施し、環境負荷のホットスポットを特定する。評価結果を製品設計やサプライヤー選定にフィードバックするとともに、透明性向上の観点から結果の開示を検討する。
提言6:物流効率の改善: サプライチェーンにおける輸送(Scope3 カテゴリ4, 9)に伴う排出量削減のため、輸送モードの最適化(モーダルシフト)、積載効率の向上、低燃費・EV車両への転換などをサプライヤーと連携して推進する。
ネイチャーポジティブへの貢献強化:
提言7:TNFD分析に基づく具体的目標設定: LEAPアプローチによる分析結果 11 に基づき、特にリスクや依存度が高いと特定された地域・課題(例:水ストレス地域での取水量削減目標、原材料調達における生物多様性影響緩和策)について、定量的かつ測定可能な目標を設定し、進捗を管理する。
提言8:自然共生サイト等の取り組み展開: 「日本ガイシ みんなの森みずなみ」での自然共生サイト認定 18 の経験を活かし、国内外の他の社有地や事業所周辺地域においても、生物多様性保全に貢献する取り組み(例:緑地管理、生態系調査、地域連携)の展開を検討する。
提言9:生物多様性に配慮した製品開発: 製品のライフサイクル全体を通じて生物多様性への負の影響を低減する視点を強化する。例えば、原材料調達において、持続可能性が認証された材料や、環境負荷の低い代替材料の利用を検討・推進する。
非財務情報開示の質的向上:
提言10:ESG評価機関への対応強化: CDP(特に水セキュリティ)、Sustainalyticsなどの評価機関が重視する評価基準やメソドロジーを詳細に分析し、弱点となっている分野(例:水リスク管理策の詳細、リスク管理ガバナンス、Scope3データ精度)に関する情報開示を強化する。定量的なデータ、具体的な取り組み事例、目標達成に向けたロードマップなどを充実させる。
提言11:第三者保証範囲の段階的拡大: 開示情報の信頼性を一層高めるため、現在Scope1, 2のエネルギー起源CO2に限定されている第三者保証の対象範囲を、将来的にはScope3排出量、水使用量・リサイクル率、廃棄物データ、さらには生物多様性関連の重要指標へと段階的に拡大していくことを検討する。
提言12:TCFD/TNFD開示の具体性向上: シナリオ分析において、用いたシナリオの前提条件、分析プロセス、財務影響の算定根拠などをより具体的に記述し、ステークホルダーの理解を深める。リスクと機会に対する具体的な対応策とその進捗状況についても、継続的に報告する。
これらの課題解決と提言の実行には、低炭素焼成技術や高度なリサイクル技術といった技術開発への継続的な投資、サプライヤーをはじめとするバリューチェーン上のパートナーとの強固な連携、環境データの収集・分析・管理体制の更なる高度化、そして何よりも経営層による強いリーダーシップとコミットメントが不可欠である。また、日本ガイシが持つセラミックス技術という独自の強みを、自社の環境負荷低減(例:セラミック膜による水再生利用の加速 14)と社会全体の環境課題解決(環境貢献製品の開発・普及)の両面で最大限に活用していく視点が、持続的な企業価値向上に繋がる鍵となるだろう。
日本ガイシは、「NGKグループ環境ビジョン」 10 のもと、明確な推進体制 7 を構築し、環境課題への取り組みを経営の重要課題として位置づけている。特に気候変動分野においては、2050年カーボンニュートラルという長期目標に加え、2030年50%削減という野心的な中間目標を設定し 11、省エネルギー推進、再生可能エネルギー導入、低炭素技術開発などを通じて着実な進捗を示している。TCFD提言に基づく情報開示 12 や内部カーボンプライシング(ICP)の導入 14、さらにはTNFDへの早期対応宣言 13 など、先進的な取り組みも積極的に導入しており、環境課題への意識の高さがうかがえる。
一方で、克服すべき課題も存在する。バリューチェーン全体で見た場合、Scope3排出量が依然として大きく 11、その削減に向けた具体的な目標設定と戦略実行が今後の焦点となる。資源循環においては、国内の高いリサイクル率維持は評価できるものの、廃棄物の絶対量削減や水リサイクル率の大幅な向上(現状2.4% 14)は喫緊の課題である。生物多様性に関しても、TNFDへの早期対応は強みであるが、具体的な保全目標の設定や事業活動との統合、サプライチェーン全体での影響評価はこれからの段階にある。また、グローバルに事業を展開する中で、国内外の拠点における取り組みレベルの標準化や、海外拠点でのデータ収集・管理体制の強化も必要となるだろう。ESG評価機関からの評価 75 も、一部改善の余地を残している。
日本ガイシが環境スコアを向上させ、持続可能な企業としての評価を一層高めていくためには、以下の点が鍵となる。
Scope3削減戦略の具体化と実行: サプライヤーとの連携強化、製品LCAの推進、輸送効率改善などを通じ、Scope3排出量削減に向けた具体的な目標とロードマップを策定し、着実に実行する。
資源循環の加速: 水リスク管理を強化し、自社技術(セラミック膜)の活用等により水リサイクル率を大幅に向上させる。廃棄物発生量の絶対量削減に向けた目標を設定し、3R(リデュース、リユース、リサイクル)を徹底する。
生物多様性保全の主流化: TNFD分析を深化させ、サプライチェーンを含む事業活動全体でのインパクトと依存性を評価し、生物多様性に関する具体的な目標(例:No Net Loss/Net Gain)を設定・公表する。保全活動と事業戦略との統合を図る。
情報開示の質向上と信頼性確保: 上記取り組みに関する定量的なデータ(特にScope3、水、廃棄物絶対量、生物多様性指標)の開示を拡充し、その算出根拠や進捗状況を透明性高く報告する。第三者保証の対象範囲を段階的に拡大し、開示情報の信頼性を高める。
これらの課題への取り組みに加え、日本ガイシの最大の強みである独自のセラミック技術を活かした環境貢献製品(NAS®電池、CO2分離膜、パワー半導体基板等) 7 の開発・提供は、リスク対応だけでなく、新たな事業機会を創出し、企業価値向上に貢献する重要なドライバーであり続ける。これらの製品が社会全体の環境負荷低減にどれだけ貢献しているかを定量的に示し、積極的にコミュニケーションしていくことが、今後ますます重要になるだろう。
最終的には、これらの環境への取り組みを、経営戦略の中核に据え続け、株主、顧客、従業員、地域社会といった全てのステークホルダーとの継続的な対話 7 を通じて、変化する社会からの期待に応え続けていくことが、日本ガイシの持続的な成長と社会への貢献を実現する道筋となる。
2023年 | 240,000t-CO2 |
2022年 | 250,000t-CO2 |
2021年 | 290,000t-CO2 |
2023年 | 320,000t-CO2 |
2022年 | 310,000t-CO2 |
2021年 | 330,000t-CO2 |
2023年 | 3,270,000t-CO2 |
2022年 | 3,519,000t-CO2 |
2021年 | 3,449,000t-CO2 |
スコープ1+2 CORの過去3年推移
2023年 | 967kg-CO2 |
2022年 | 1,001kg-CO2 |
2021年 | 1,215kg-CO2 |
スコープ3 CORの過去3年推移
2023年 | 5,649kg-CO2 |
2022年 | 6,292kg-CO2 |
2021年 | 6,757kg-CO2 |
スコープ1+2のCOA推移
2023年 | 497kg-CO2 |
2022年 | 544kg-CO2 |
2021年 | 631kg-CO2 |
スコープ3のCOA推移
2023年 | 2,900kg-CO2 |
2022年 | 3,419kg-CO2 |
2021年 | 3,509kg-CO2 |
2023年 | 5,789億円 |
2022年 | 5,592億円 |
2021年 | 5,104億円 |
2023年 | 406億円 |
2022年 | 550億円 |
2021年 | 709億円 |
2023年 | 1兆1276億円 |
2022年 | 1兆292億円 |
2021年 | 9,828億円 |
すべての会社と比較したポジション
業界内ポジション
CORスコープ1+2
CORスコープ3
CORスコープ1+2
CORスコープ3
COAスコープ1+2
COAスコープ3
COAスコープ1+2
COAスコープ3