GX RESEARCH
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更新日: 2025/6/5

INPEX

1605.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコン鉱業
環境スコア90
売上
2,164,516百万円
総資産
6,739,476百万円
営業利益
1,114,189百万円

COR(売上高炭素比率)

年間CO2排出量(kg)÷ 売上高(百万円)
Scope1+2
3,197kg
Scope3
0kg

COA(総資産炭素比率)

年間CO2排出量(kg)÷ 総資産(百万円)
Scope1+2
1,027kg
Scope3
0kg

Scope1

事業者自らによる直接排出
6,864,000t-CO2
2023年実績

Scope2

エネルギー消化に伴う間接排出
55,000t-CO2
2023年実績

Scope3

事業者の活動に関連する他社の排出
--
2023年実績
開示データなし・GHG計算サービスを見る

スコープ3カテゴリー別データ

カテゴリー2021年度2022年度2023年度
1購入した製品・サービス
376,000
686,000
(310,000)
1,973,000
(1,287,000)
11販売した製品の使用
77,805,000
84,310,000
(6,505,000)
86,199,000
(1,889,000)

国際イニシアティブへの参加

SBT
RE100
EV100
EP100
check
UNGC
30by30
check
GXリーグ

ガバナンス・フレームワーク開示

check
サステナビリティ委員会
check
TCFD・IFRS-S2
TNFD
潜在的環境財務コスト(シナリオ別試算)
2023年度排出量データ: スコープ1(686万t)、 スコープ2(55,000t)、 スコープ3(情報なし)
低コストシナリオ
想定単価: 3,000円/t-CO₂
スコープ1:205.9億円
スコープ2:1.6億円
スコープ3:情報なし
総額:207.6億円
売上高比率:0.96%
中コストシナリオ
想定単価: 5,000円/t-CO₂
スコープ1:343.2億円
スコープ2:2.8億円
スコープ3:情報なし
総額:345.9億円
売上高比率:1.60%
高コストシナリオ
想定単価: 10,000円/t-CO₂
スコープ1:686.4億円
スコープ2:5.5億円
スコープ3:情報なし
総額:691.9億円
売上高比率:3.20%
※潜在的環境財務コストは、仮想的なカーボンプライシングシナリオをもとに算出した参考値です。

環境への取り組み

INPEX Vision 2035

「気候変動対応の基本方針」を改定

INPEXは「INPEX Vision 2035」に則り「気候変動対応の基本方針」を改定。パリ協定目標を支持し、2050年ネットゼロ目標やCCUS、水素等の具体的取り組みを通じ低炭素社会実現へ。情報開示も推進。

生物多様性

「経団連生物多様性宣言イニシアチブ」に参画

INPEXは経団連の「生物多様性宣言イニシアチブ」に参画。生物多様性の保全と持続可能な利用に向けた行動を加速し、自然共生社会の実現に貢献。2022年策定の自社方針に基づき全社的な取り組みを推進。

生物多様性保全

東京湾UMIプロジェクト アマモ場再生「種まき」イベントを開催

INPEXは「東京湾UMIプロジェクト」に参画し、アマモ場再生活動の一環として「種まき」イベントを開催。生物多様性保全と豊かな海の実現に向け、地域社会や関係団体と連携して取り組む。

気候変動関連のリスク・機会

※掲載情報は公開資料をもとに作成しており、全てのリスク・機会を網羅するものではありません。 より詳細な情報は企業の公式発表をご確認ください。

リスク

移行リスク

INPEXは政策・規制強化(炭素価格、メタン規制)、石油ガス需要減、低炭素製品への市場シフト、Scope1-3排出目標未達による評判低下、資金調達難に直面。イクシスLNGは排出量超過や高炭素強度を指摘され、CCSコスト(2-3.5万円/トン)も課題。

物理的リスク

INPEXの事業は、熱帯低気圧や洪水といった極端気象(急性リスク)による操業施設への直接的被害に晒される。また、長期的な平均気温上昇、降雨パターン変化、海面上昇(慢性リスク)も施設への悪影響をもたらす可能性がある。

機会

INPEXはCCUS(2030年250万トン超/年圧入、イクシス200万トン/年)、水素・アンモニア(2030年10万トン超/年)、再エネ(地熱、洋上風力)、カーボンリサイクル(2030年合成メタン6万トン/年)等ネットゼロ5分野に最大1兆円投資。LNG供給や森林保全も推進。

目標

2050年Scope1+2ネットゼロ。2035年GHG原単位60%減(2019年比)。2030年ゼロフレア。メタン原単位0.05%維持。CCUS年間250万トン超(2030年)。水素・アンモニア年間10万トン超(2030年)。Scope3削減貢献量820万トン(2035年)。

環境アナリストレポート

INPEX CORPORATIONの環境イニシアティブとパフォーマンスに関する包括的分析:気候変動、資源循環、生物多様性を中心に

序論

国際石油開発帝石株式会社(INPEX CORPORATION、以下「INPEX」または「同社」)は、日本のエネルギー安定供給に不可欠な役割を担う国際的な石油・天然ガス開発企業である 1。エネルギー産業は、地球規模の環境課題、特に気候変動、資源の枯渇、生物多様性の損失といった問題に直面しており、その対応は企業の持続可能性と社会的評価に不可欠な要素となっている 3。INPEXは、日本の主要なエネルギー供給者であると同時に、世界20カ国以上で事業を展開するグローバル企業としての側面も有しており 2、国内のエネルギー安全保障への貢献という要請と、地球環境問題への対応という国際的な責務との間で、複雑な均衡を保つ必要性に迫られている。同社は「サステナビリティ経営を実践し、事業やバリューチェーンを通じてサステナビリティの課題に取り組みます」と表明しており 1、環境配慮を単なる企業の社会的責任(CSR)活動としてではなく、事業戦略の中核に統合しようとする姿勢を示唆している。本報告書は、INPEXの環境への取り組みと実績を、「気候変動への対応」「資源循環の推進」「生物多様性の保全」という三つの重点分野において包括的に分析し、同社の環境スコアリングに必要な詳細情報を収集・整理することを目的とする。学術的視点から、同社の戦略、具体的な施策、および開示されているパフォーマンスデータを精査し、その有効性と、表明された経営理念と実際の事業活動との整合性を含めた課題について考察する。

気候変動への対応

方針と目標

INPEXは、エネルギーの安定供給責任を果たしつつ、2050年ネットゼロカーボン社会の実現に向けたエネルギー構造の変革に積極的に取り組むことを基本方針として掲げている 1。この方針は、パリ協定の目標達成への貢献を明確に意識したものであり、気候変動対応を経営上の最重要課題の一つと位置付けている 6。このコミットメントは、具体的な温室効果ガス(GHG)排出量削減目標によって裏付けられている。Scope₁およびScope₂排出量については、2050年までに絶対量ネットゼロを目指すという長期目標を設定している 7。その中間目標として、2035年までにGHG排出原単位(ネット)を2019年比で60%削減するとしている 7。さらに短期的な目標として、2030年の排出原単位に関して、3年間で10%(4.1kg-CO2​e/boe)以上の低減を目指すとの記述も見られる 8。特筆すべきは、2019年時点で操業していたプロジェクトについては、絶対量ベースでの排出量削減を目指すという方針も示されている点である 7。資本集約型産業において、生産活動の拡大と並行して環境負荷低減を目指す場合、原単位目標が先行的に設定されることは一般的であるが、2050年の絶対量ネットゼロ目標との整合性を保つためには、中期的な絶対量削減の道筋が重要となる。同社が事業規模の拡大を目指している点 9 を考慮すると、原単位が改善されたとしても、生産量の増加によっては中期的な絶対排出量が高止まり、あるいは増加する可能性も否定できず、気候科学が要請する急速な脱炭素経路との間に緊張が生じうる。Scope₃排出量に関しては、バリューチェーン全体のステークホルダーと協働し、削減の取り組みを進めるとしている 7。具体的な目標としては、2035年までに年間820万トンのCO2​削減貢献量を創出することを目指している 7。この「削減貢献量」とは、INPEXが提供する製品・サービスを通じて社会全体のGHG排出削減に貢献した量と定義されており 7、その算定方法の透明性と客観性が評価の鍵となる。例えば、CCS(後述)やブルー水素の提供による削減効果は、比較対象となる「参照シナリオ」の選定に大きく依存するため 10、その妥当性が貢献量の信頼性を左右する。このアプローチは、自社のバリューチェーン内での直接的なScope₃排出削減(特に石油・ガス業界で最大の割合を占める「販売した製品の使用」カテゴリ)への取り組みと並行して、低炭素ソリューションの提供者としての役割を強調する戦略と解釈できる。メタン(CH4​)排出量については、排出原単位(メタン排出量/天然ガス生産量)を現状の低いレベル(約0.1%、2023年暫定値では0.05%)に維持する目標を掲げている 7。さらに、メタン排出に関する報告・検証の国際的枠組みであるOGMP2.0(Oil and Gas Methane Partnership 2.0)のゴールドスタンダード取得を目指すとしており 10、これはCH4​がCO2​に比べて短期的な温暖化ポテンシャルが格段に高い(20年評価で約80倍 11)ことを考慮すると、迅速な気候変動緩和策として極めて重要である。この目標の達成は、短期的な温暖化抑制に大きく貢献しうる。フレアリングに関しても、オペレータープロジェクトを対象に2030年までに通常操業時ゼロフレアを目標としている 7

具体的取組

INPEXは気候変動対応目標の達成に向けて、多岐にわたる具体的取組を推進している。その中心的な役割を担うのがCCUS(CO2​回収・利用・貯留)であり、ネットゼロカーボンに向けた5つの重点事業分野の一つとして、ネットゼロ5分野へ最大1兆円程度を投入する計画の中で大きく位置づけられている 6。主要プロジェクトであるイクシスLNGプロジェクト(豪州)では、年間200万トン以上のCO2​を回収し、近傍のボナパルト鉱区へ圧入貯留する計画である 7。また、アバディLNGプロジェクト(インドネシア)においては、生産開始と同時にCO2​の圧入を開始し、よりクリーンな形でのLNG供給を目指すとしている 7。国内では新潟県の頸城油田におけるCO2​-EOR(石油増進回収)実証の経験も有しており 14、これら自社プロジェクト由来のCO2​処理に加え、将来的には第三者の排出するCO2​の圧入事業化も視野に入れ、2030年頃には年間250万トン以上のCO2​圧入量達成を目標としている 8。国際的な連携としてCCS+Initiativeにも参画している 8。水素・アンモニア事業も同様に重点分野とされ、2030年頃までに年間10万トン以上の生産・供給を目指している 6。具体的には、天然ガスを改質して水素やアンモニアを製造し、その過程で発生するCO2​をCCUSによって処理する、いわゆるブルー水素・アンモニアの製造プロジェクトを国内外で推進している。アブダビでのクリーンアンモニア事業の検討や、新潟県柏崎市での水素・アンモニア製造実証事業などがその例である 14。さらに、再生可能エネルギーを利用したグリーン水素の製造技術開発にも取り組んでおり、「人工光合成化学プロセス技術研究組合」に参画している 14。再生可能エネルギー分野では、地熱発電(インドネシア・ムアララボ発電所、秋田県小安地域など)、洋上風力発電(長崎県五島市沖など)、太陽光発電への投資と事業開発を積極的に進めている 8。これらの再生可能エネルギー電力を自社のイクシスLNGプロジェクトにおけるBESS(バッテリーエネルギー貯蔵システム)や小規模太陽光発電として導入することも検討されている 15。これらの新規事業への投資と並行して、既存事業におけるエネルギー効率改善とプロセス最適化も継続的に追求している。生産プロセスの見直しによるGHG排出原単位の削減努力 7、イクシスLNGプロジェクトにおける燃料ガス使用量やフレア発生量の削減、LDAR(Leak Detection and Repair:漏洩検知・修理)プログラムの実施 15、アブダビ事業における陸上施設でのクリーン電力使用開始 8 などが挙げられる。CO2​吸収源対策として、森林保全事業への参画も強化・拡充する方針である 6。さらに、カーボンリサイクル技術や新分野の開拓も進めている。具体的には、2030年までに年間6万トン程度の合成メタンを自社パイプラインで供給することを目指すメタネーション技術の開発、CO2​と水からのグリーンなギ酸製造技術を開発する米国OCOchemへの出資、メタンを水素と炭素に直接分解する技術、さらには核融合エネルギー(京都フュージョニアリング株式会社への出資)といった将来有望な技術への投資も行っている 8。これらの多角的な取り組みは、既存の化石燃料事業を可能な限り低炭素化しつつ、将来の低炭素エネルギーシステムへの移行を目指すという同社の戦略を反映している。CCUSプロジェクトの地理的な集中(豪州、インドネシア)や水素プロジェクトの国際的な展開(アブダビ、米国、豪州)は、これらの大規模かつ技術的に複雑な事業の実現には、国際的なパートナーシップや各国の規制・政策環境が不可欠であることを示唆している 7。また、CCSやクリーン水素・アンモニアを第三者へ提供する事業モデル 7 は、INPEXが単なるエネルギー供給者から「エネルギートランジションの実現を支援する企業」へと進化しようとする意図の表れとも言えるが、その成否はこれらのソリューションの市場における需要とコスト競争力に左右されるだろう。

実績と評価

INPEXの気候変動対応に関する実績は、サステナビリティレポート等を通じて開示されている。2023年のオペレーショナルコントロールベースでの排出量は、Scope₁が6,622千トン-CO2​e、Scope₂が35千トン-CO2​eであった(2022年はScope₁: 6,339千トン-CO2​e、Scope₂: 48千トン-CO2​e)17。主要プロジェクトであるイクシスLNGからのCO2​(年間約200万トン規模)は、CCUS施設が稼働開始するまでは大気へ排出されている状況が続いている 7。GHG排出原単位については、サステナビリティレポート2022のハイライトで2019年比20%削減を達成したと報告されており 1、2023年の排出原単位(暫定値)は29Kg-CO2​e/boeであるとされている 8。メタン排出原単位は、2023年の暫定値で0.05%と報告されており、目標である低水準を維持している 8。これらの排出量データの一部、具体的には2023年の権益分Scope₁排出量4,478千トンとScope₂排出量34千トンに対しては、第三者保証が取得されている 17。企業がGHG排出量や原単位の削減進捗を報告する一方で、イクシスLNGプロジェクトのような大規模資産の実際の環境パフォーマンスについては注意深い分析が求められる。例えば、同プロジェクトのCO2​排出量が規制上の許容排出量を超過したとの指摘や、そのカーボンインテンシティが他の豪州水域のLNGプロジェクトと比較して高いという分析が存在する 20。環境NGOであるMarket Forcesは、イクシスプロジェクトの操業期間全体でのCO2​排出量が、現在のオーストラリア一国全体の年間排出量の2倍に達する可能性があると試算している 21。これらの指摘は、企業全体の平均的な原単位改善と、特定の主要プロジェクトにおける環境負荷の実態との間に乖離が存在しうることを示唆しており、環境スコアリングにおいて重要な検討事項となる。また、INPEXの長期的なネットゼロ目標達成は、イクシスやアバディといった主要プロジェクトにおけるCCUSの将来的な導入と安定稼働に大きく依存している 7。イクシスにおけるCCUS施設の稼働開始時期や、アバディにおける生産開始と同時期でのCO2​圧入開始の確実性は、累積排出量を評価する上で極めて重要である。イクシスLNGは2018年に生産を開始したが 20、CCUS施設の稼働はこれからの予定であり 7、その間の数年間にわたり貯留層由来のCO2​(約8%含有と報告 20)が大気放出されてきたことになる。アバディLNGプロジェクトについても、生産開始と同時にCCUSを導入する計画であるが 7、最終投資決定(FID)や生産開始は将来のことであり 22、実際の稼働までの期間やCCUSの性能が計画通り達成されるかについては不確実性が残る。興味深いのは、INPEXが過去にはイクシスにおけるCCUSのコストを課題として挙げていたのに対し 20、近年では積極的に推進する姿勢に転換している点である 7。これは、世界的なネットゼロへの潮流や、将来的なカーボンプライシング導入・規制強化を見越した戦略的判断が、短期的な経済合理性よりも優先されるようになった可能性を示唆している 23。INPEXはTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言に沿った情報開示を継続しており、気候関連のリスク(政策・法規制、技術・市場、物理的リスク等)と機会(CCUS、水素、再生可能エネルギー等)を特定し、それぞれの対応策を講じている 1。その一環として、インターナルカーボンプライシング(社内炭素価格)も活用している 15。外部評価としては、CDP(旧カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)の気候変動質問書においてA-評価を取得している 24。また、S&P Global社のCSA(Corporate Sustainability Assessment)スコアは2024年10月時点で67/100と、石油・ガス上流・統合産業において比較的高位に評価されている 25。Sustainalytics社のESGリスクレーティングは2025年4月時点で33.61(High Risk)であり 26、MSCI社のESGレーティングはA(2024年10月時点、Shell社開示資料より)とされている 27。INPEXは日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がESG投資の参照指数として採用する複数の指数にも組み入れられている 28。これらの評価は、INPEXの気候変動への取り組みがある程度外部に認められていることを示す一方で、評価機関ごとに方法論や重点項目が異なるため、多角的な解釈が必要である。アバディLNGプロジェクト(マセラ鉱区)に関しては、環境影響評価(AMDAL)の再分析や、風向による汚染物質の拡散など、地域社会への影響を懸念する声も上がっている 29。GHG排出量目標と実績について詳述すると、Scope₁排出量については、具体的な目標値は示されていませんが、実績として2021年に6,658千トン-CO2​e、2022年に6,339千トン-CO2​e、2023年に6,622千トン-CO2​eが報告されています 17。同様にScope₂排出量も目標値は明示されていませんが、2021年に45千トン-CO2​e、2022年に48千トン-CO2​e、2023年に35千トン-CO2​eの実績が報告されています 17。Scope₁₊₂排出原単位の目標としては、2035年までに2019年比で60%削減(ネット)を掲げており、実績としては2022年報告で2019年比20%削減を達成し、2023年の暫定値では29Kg-CO2​e/boeであるとされています 1。Scope₃削減貢献量については、2035年までに年間820万トンのCO2​削減貢献を目指すとしていますが、具体的な実績はまだ報告されていません 7。CH4​排出原単位は、現状の約0.1%または0.05%を維持することを目標としており、2023年の暫定値では0.05%と報告されています 7。フレアリングに関しては、オペレータープロジェクトを対象に2030年までに通常操業時ゼロを目標としていますが、こちらについても具体的な実績はまだ報告されていません 7

資源循環の推進

方針と目標

INPEXは、事業活動における環境負荷の低減と循環経済(サーキュラーエコノミー)の形成への貢献を重要な経営課題と認識し、廃棄物の適正管理や資源の効率的利用に取り組む方針を掲げている 16。この分野におけるコミットメントをより明確にするため、2022年12月には廃棄物管理に関する基本的な考え方と具体的な約束事項を取締役会で決議し、公表した 31。同様に、水資源に関しても、事業の実施が水資源へ与える影響や、事業展開地域における水の持続可能性に配慮し、影響の低減と価値創造に向けた取り組みを推進するための基本方針とコミットメントを2022年12月に制定・公表している 16。これは、同社の重要課題の一つとして「生物多様性保全・水リスク管理」が特定されていることとも整合する 6。これらの比較的最近策定された方針は、気候変動対策に比して、資源循環分野における取り組みが戦略的重要性を増しつつあるものの、具体的な長期的データ蓄積や定量的な公約設定の面では発展途上にある可能性を示唆している。廃棄物管理に関する具体的な数値目標については、経団連の資料において、INPEXが産業廃棄物排出量(売上高当たり)を毎年対前年1%削減する目標を掲げているとの記載があるが 33、これがINPEX自身の公式な対外公表目標であるか、またその達成状況については、同社の一次情報源による確認が不可欠である。仮に公式目標だとしても、年率1%という削減幅の野心度については、より広範な循環経済の目標との関連で評価する必要がある。リサイクル率に関する具体的な目標値については、INPEXの開示情報からは限定的であり、「リサイクル率目標などを設定する」といった一般的な言及に留まっている箇所も見られる 34。水資源管理目標に関しては、特に水ストレスが高いと評価される地域における淡水取水を制限するというコミットメントが明記されている 32。これは重要な一歩であるが、その実効性は「水ストレスの高い地域」の具体的な定義や「制限」の厳格さに依存する。国際的な水リスク評価ツールであるWRI(世界資源研究所)の「AQUEDUCT」を活用してリスク評価を行っている点は評価できる 32。具体的な水使用量削減目標値については、サステナビリティレポート内で明確な言及は少ないものの、外部からは「水使用量削減目標設定」の必要性が指摘されている 36

具体的取組

INPEXは資源循環を推進するため、多岐にわたる具体的な取り組みを進めている。廃棄物管理においては、3R(リデュース、リユース、リサイクル)の推進を基本原則としている 32。これは水管理の文脈で言及されているが、廃棄物管理にも当然適用されるべき考え方である。排出される廃棄物については、有害廃棄物と非有害廃棄物を適切に分別管理し、特に石油・ガス開発特有の掘削関連廃棄物についても管理体制を整備していることが、第三者保証の対象項目として挙げられていることから伺える 18。しかしながら、具体的な廃棄物削減プログラムやリサイクル活動の詳細、例えば特定の廃棄物ストリームに対するリサイクル技術の導入やサプライチェーンを通じた循環利用の促進策などについては、公開されている情報からは把握が困難であった(関連情報源3737がアクセス不能であったため)。水資源管理においては、WRIの「AQUEDUCT」のような国際的に認知されたツールを用いて、事業所毎の水リスク評価を定期的に実施し、リスクが高いと判断された場合には、ミティゲーションヒエラルキーに基づいた追加的な対策を策定・実行するとしている 32。取水、水使用、排水の各段階で適切な管理を行い、ここでも3Rの取り組みを推進する方針である 32。特に、石油・ガス生産に伴い発生する産出水(随伴水)やその他の廃水については、環境基準を遵守した適切な処理と排水管理を実施しており、産出水の排出量は第三者保証の対象となっている 18。気候変動対応の項で詳述したメタネーション技術 8 は、CO2​を資源として再利用するカーボンリサイクルの取り組みであり、資源循環の観点からも重要である。さらに、INPEXは石油・天然ガス以外の地下資源の有効活用にも着目しており、ヨウ素を供給することで次世代太陽電池であるペロブスカイト太陽電池の普及を支援したり、かん水(地下鹹水)からリチウムなどの金属資源を回収したりする技術開発にも挑戦している 9。これは、従来の石油・ガス事業の枠を超え、未利用資源や副産物に新たな価値を見出す循環経済の理念に合致する革新的な試みと言える。これらの取り組みの中で、特に産出水の排出量や各種廃棄物量が第三者保証の対象となっている点 18 は、これらのパラメータに関するデータ収集・報告体制の信頼性向上への意識を示すものとして評価できる。

実績と評価

INPEXの資源循環に関する実績データは、主にサステナビリティレポートのESGデータ集に集約されている。廃棄物関連データについては、17の抜粋には具体的な総量やリサイクル率、最終処分量などの詳細数値は限定的であるが、18では「廃棄物量(有害廃棄物(処分されなかった廃棄物、処分された廃棄物)、非有害廃棄物(処分されなかった廃棄物、処分された廃棄物)、掘削関連(処分されなかった廃棄物、処分された廃棄物))」が第三者保証の対象であると明記されており、詳細データは主要な報告書に記載されていると推測される 17。水資源関連データについては、17において淡水使用量の実績が国内・海外別、水源別に開示されている。例えば、2023年の国内淡水使用量合計は1,074,351 m3、海外(主にイクシスLNGプロジェクト)での上水使用量は551,260 m3であった 17。産出水の排出量についても第三者保証の対象となっており 18、具体的な排出量データはESGデータ集で確認する必要がある 1717で開示されているデータは、淡水取水量と大気排出物質に焦点が当てられており、廃棄物のリサイクル率や詳細な水質排出パラメータ(産出水排出量そのものは保証対象だが、その水質等)に関する包括的な情報は、これらの抜粋資料からは限定的である。資源循環の全体像を評価するためには、廃棄物フロー全体やリサイクル・回収の実績に関するより詳細なデータが求められる。INPEXにおける廃棄物管理と水資源管理に関する包括的な方針が2022年12月に策定された比較的新しいものであることを考慮すると 31、これらの分野における長期的な実績トレンドや目標達成度を評価するには、今後の継続的かつ詳細な情報開示が不可欠である。3R原則へのコミットメント 32 は標準的なものであるが、特に石油・ガス探鉱開発(E&P)産業に固有の大量の掘削廃棄物や有害廃棄物の発生抑制、再利用、高度リサイクル(単なる適正処理や基本的なリサイクルを超えた、真の循環性の向上)に向けた具体的なプログラムとその成果が示されることが期待される。現状では、第三者保証の対象となっているデータ項目 18 は、データの信頼性向上という観点からは評価できるものの、資源循環戦略全体の有効性を判断するには情報が不足している。資源循環関連の目標と実績について具体的に述べると、産業廃棄物排出量原単位(売上高当たり)については、経団連資料によると毎年対前年1%削減という目標が示されていますが、その達成状況は確認が必要です 33。リサイクル率に関する具体的な全社目標値は限定的であり、詳細はESGデータ集での確認が求められます 34。国内の淡水総取水量については、目標値は示されていませんが、実績として2021年に1,187,815 m3、2022年に1,056,553 m3、2023年に1,074,351 m3が報告されています 17。海外の淡水総取水量(上水のみ)についても目標値は示されていませんが、2021年に635,373 m3、2022年に528,329 m3、2023年に551,260 m3の実績が報告されています 17。水ストレスが高い地域における淡水取水の制限についてはコミットメントとして記載されていますが、具体的な削減実績は確認が必要です 32。産出水排出量については、第三者保証の対象となっており、詳細はESGデータ集での確認が求められます 18。同様に、廃棄物総排出量も第三者保証の対象であり、詳細はESGデータ集での確認が必要です 18

生物多様性の保全

方針と目標

INPEXは、生物多様性保全を重要な地球環境課題の一つとして明確に認識し、事業活動が及ぼす影響の管理と持続可能な利用に向けた取り組みを強化している 38。その核心となるのが、2022年12月に取締役会決議を経て策定・公表された「生物多様性保全に関する基本的な考え方とコミットメント」である 38。この基本方針では、事業における生物多様性の「リスクと機会」を特定し、国際的に認知されたミティゲーション・ヒエラルキー(影響の回避、最小化、回復・復元、そして残存影響に対するオフセット=代償措置)の原則に基づき、生物多様性の保全と持続可能な利用に向けた取り組みを積極的に推進することが謳われている 6。気候変動対策と同様に、生物多様性保全もまた同社の重要課題の一つとして位置づけられている 6。この方針は、プロジェクトごとの環境影響評価(EIA)というかたちで長年実施されてきた取り組み 29 を、より包括的かつ戦略的なグループ全体の枠組みへと昇華させる試みと捉えられる。具体的なコミットメントとしては、第一に、事業における生物多様性へのリスクと機会を特定し、その持続可能な利用に向けた取り組みを推進するとともに、保全活動に関する情報開示を積極的に行うことが挙げられる 38。第二に、事業の実施除外エリアとして、UNESCO世界自然遺産の区域内では事業を実施しないことを明確に定めている。2023年12月末時点で、INPEXのオペレータープロジェクトはこの除外エリアには立地していないことが確認されている 38。これは検証可能で明確なコミットメントである。第三に、ネットポジティブインパクト(NPI)アプローチの推進を掲げている。特に、重要な生息地(Critical Habitat、IFCパフォーマンススタンダード6の定義を参照 39)で実施される事業においては、NPIの創出を含む生物多様性行動計画(BAP: Biodiversity Action Plan)を策定し、実行するとしている 38。NPIの達成は非常に野心的であり、その定義、測定方法、検証プロセスの透明性と科学的妥当性が、このコミットメントの実質的な価値を決定づける。第四に、生物多様性保全活動の促進として、新規事業においては生物多様性への影響を特定し、ミティゲーション・ヒエラルキーに基づき影響の回避・低減策を策定・実行すること、既存事業においては生物多様性への負の影響を可能な限り低減し、生物多様性への正の影響を創出する取り組みを促進することが約束されている 38。UNESCO世界自然遺産以外の「重要な生息地」の特定と管理、そこでのNPI達成に向けた具体的な道筋の提示が、今後の評価の焦点となるだろう。

具体的取組

INPEXは、生物多様性保全方針及びコミットメントに基づき、多岐にわたる具体的な取り組みを展開している。その基本となるのが、リスク・影響評価とミティゲーション・ヒエラルキーの適用である。事業が生物多様性にもたらす潜在的なリスクや実際の影響を評価し、特に環境的に脆弱な地域(保護区、希少種の重要な生息地、森林、マングローブ、サンゴ礁、湿地や干潟など)については、ミティゲーション・ヒエラルキーの原則に従って、影響の回避、最小化、回復・復元、そして代償措置という優先順位で対応策を計画・実行している 38。このプロセスを支援するため、地理情報システム(GIS)を積極的に活用し、「保護地域に関する世界データベース(WDPA)」からの保護区情報やIUCN(国際自然保護連合)レッドリストに掲載されている絶滅危惧種情報を集約・管理し、オペレータープロジェクトの操業状況の確認、新規プロジェクトにおける初期スクリーニング、既存プロジェクトでの生物多様性保全活動の計画立案に役立てている 38。海外の主要プロジェクトにおける具体的な取り組みとしては、まず豪州のイクシスLNGプロジェクトが挙げられる。ダーウィン湾の沿岸部に広がるマングローブ林は、魚類の繁殖地やウミガメの採餌場として重要な生態系を形成している。INPEXは、このマングローブ林を保全するため、排水の水質、海水水質、マングローブの生育状況、自然植生などに関する包括的なモニタリングを操業開始後も継続して実施している。また、北部準州政府によるジュゴンの生息調査への資金援助も行っている 38。しかし、同プロジェクトに対しては、過去に環境影響に関する外部からの批判も存在した 20。次に、インドネシアのアバディLNGプロジェクト(マセラ鉱区)では、同国の環境社会影響評価制度(AMDAL)の一環として、2021年に衛星画像解析、2023年11月にはダイビングによるサンゴ礁調査を実施し、詳細な影響評価を行っている。これらの評価結果に基づき、ミティゲーション・ヒエラルキーに沿ったサンゴ礁への影響低減策を今後策定・実行する予定である 22。一方で、地域住民からはAMDALの再分析を求める声や、風向きによる汚染物質の拡散といった環境リスクに対する懸念も提示されており 29、これらの社会的な側面への対応も生物多様性保全と密接に関連する。アブダビの陸上探鉱鉱区(Onshore Block 4 Project)では、渡り鳥の重要な飛来地であるBalghelam島及びUmm Al Barak島において、プロジェクト実施前に詳細な鳥類調査を行い、飛来する鳥類の種類、個体数、行動などを記録した。この調査結果を踏まえ、鳥類への影響を最小限に抑えるための施設配置の検討や、立ち入り区域の制限といった対策を実施し、現在はプロジェクト実施後の影響評価と今後の開発に向けたベースラインデータ取得のためのモニタリング調査を継続している 38。国内事業においては、2021年度に国内の主要事業所周辺の地域特性(河川、漁場・養殖場、森林、自然環境保全地域、文化財、天然記念物・絶滅危惧種の生息地など)に関する机上調査を実施し、その結果をGISに取りまとめて生態系の把握や新規事業計画段階での環境脆弱域の特定に活用している 38。また、新潟県長岡市の長岡鉱場に隣接する「キツネ平どんぐりの森」では、2010年度から新潟県の「森づくりサポートプロジェクト」の一環として森林保全活動を展開している。2019年度からは森づくり活動に加え、生物多様性調査も実施しており、ニホンカモシカやキツネといった多様な野生生物の生息が確認されている。今後は、従来の調査方法に加えて、2024年度には環境DNA分析を用いた追加的な調査も予定されており 38、これは生物多様性ベースラインデータの質的向上への投資を示すものである。これらの活動は、地域住民との協働で行われており、生物多様性保全と地域社会との良好な関係構築の両立を目指すものと言える。さらに、INPEXはTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の提言への対応も進めており、自然資本に関するリスクと機会の評価・開示に向けた準備を進めている 6。これらのプロジェクトごとの取り組みや先進技術の導入は評価できるが、それらを統合し、企業全体の生物多様性へのネットの影響を定量的に示し、NPIのような野心的な目標の達成度を具体的に報告していくことが今後の大きな課題となる。

実績と評価

INPEXの生物多様性保全活動に関する実績評価において、全社レベルでの具体的な定量的成果指標、例えば、保全・再生に貢献した総面積、ネットポジティブインパクト(NPI)を達成したプロジェクトの数やその具体的な内容、あるいは対象となる重要種の個体数変化に関する集計値などの開示は、現時点では限定的であると言わざるを得ない 38。多くの場合、個別のプロジェクトにおける活動報告や定性的な記述に留まっている。例えば、豪州のイクシスLNGプロジェクトにおけるダーウィン湾のマングローブ林保全活動では、排水水質やマングローブの生育状況などのモニタリングが継続されているものの 38、具体的なモニタリング結果の経年変化や、それに基づく生態系への影響に関する定量的な評価、NPIへの貢献度合いなどは詳細不明である。同様に、国内の「キツネ平どんぐりの森」における生物多様性調査では、ニホンカモシカやキツネなどの生息が確認されているが 38、これらの種の個体数トレンドや生息地の生態系健全性を示す具体的な定量的指標の開示は限定的である。2022年12月に策定された包括的な生物多様性保全方針とコミットメントは、同社のこの分野への取り組みを新たな段階に進めるものであり、特にNPIのような野心的な目標を掲げたことは前向きな一歩として評価できる。しかし、これらの目標の達成度を客観的に測るためには、具体的かつ透明性の高いKPI(重要業績評価指標)の設定と、それに基づく実績の開示が今後の重要な課題となる 38。TNFDへの対応準備を進めていること 38 は、将来的に自然関連財務情報の開示の質が向上する可能性を示唆しており、期待される。個々のプロジェクトレベルでは環境影響評価や保全活動が実施されているものの、イクシスLNGプロジェクトのCO2​排出問題 20 やマセラ鉱区(アバディLNGプロジェクト)のAMDALに関する地域社会からの懸念 29 など、主要プロジェクトに関連する環境問題や社会的な懸念は依然として存在しており、これらは間接的に生物多様性への影響ともなりうる。気候変動が生物多様性損失の主要な駆動要因であることを踏まえれば、同社の気候変動対策の進捗そのものが生物多様性保全の成否にも影響を及ぼす。外部機関による調査(例:ジュゴン生息調査への資金援助 38)や地域大学との連携 41 は、取り組みの科学的基盤を強化しうるが、その成果やデータ、そしてそれらがどのようにINPEXの意思決定や行動に反映されているかについての透明性の高い情報開示が伴って初めて、その意義が十分に評価される。INPEXの生物多様性保全への取り組みは、方針策定という重要な段階を経て、今まさに具体的な行動と成果が問われる時期に来ている。NPIのような先進的な目標を掲げた以上、その達成に向けた道筋と進捗を、定量的データに基づいて説得力をもって示していくことが、今後のステークホルダーからの信頼獲得において不可欠となるだろう。

総括と環境スコアリングに向けた考察

INPEXは、エネルギーの安定供給という社会的使命を担いつつ、地球環境問題への対応を経営の重要課題と位置づけ、特に気候変動、資源循環、生物多様性の三分野において取り組みを進めている。気候変動対応では、2050年ネットゼロカーボンという長期目標を掲げ、その達成に向けた戦略的投資としてCCUS、水素・アンモニア、再生可能エネルギーといった分野を重点的に推進している 7。TCFD提言に沿った情報開示は定着しつつあり、CDP気候変動スコアA-評価 24 やS&P Global CSAスコア67点 25 など、一定の外部評価も得ている。しかしながら、イクシスLNGプロジェクトのような主要な生産拠点における実際の排出量や環境負荷の大きさ、計画されているCCUS技術の経済性、大規模展開の実効性、長期的なCO2​貯留の確実性については、依然として課題が残されており、外部からの批判や懸念も存在する 20。資源循環と生物多様性の分野に関しては、2022年12月にそれぞれ包括的な基本方針とコミットメントが策定され、取り組みが強化されつつある段階にある 31。これらの分野では、具体的な全社レベルでの数値目標の設定や、ネットポジティブインパクト(NPI)のような先進的な概念の具体的な適用方法の確立と実績報告が今後の焦点となる。環境データの一部については第三者保証を取得しており 17、これは情報開示の透明性と信頼性向上への意識の表れとして評価できる。

環境スコアリングの観点からINPEXの取り組みを考察すると、いくつかの強みと課題が明確になる。強みとしては、まず、2050年ネットゼロという明確な長期気候目標と、2030年および2035年に向けたGHG排出原単位削減という中期目標が設定されている点が挙げられる。次に、CCUSや水素・アンモニアといった将来の脱炭素社会に貢献しうる技術への戦略的な投資姿勢も評価できる。さらに、TCFD提言に準拠した情報開示や、一部環境データの第三者保証取得、CDPスコアA-などの良好な外部評価はポジティブな要素である。資源循環や生物多様性に関しても、近年、包括的な方針が策定されたことは今後の進展への期待を抱かせる。

一方で、課題や改善が望まれる点も少なくない。気候変動対応においては、Scope₁およびScope₂排出量の絶対量削減目標について、特に短期および中期的な目標の具体性や野心度がより問われる。Scope₃排出量に関しては、「削減貢献量」という間接的な目標が中心であり、バリューチェーン全体、特に「販売した製品の使用」に伴う排出量の直接的な削減目標の欠如は、多くの石油・ガス企業に共通する課題ではあるものの、依然として大きな論点である。主要プロジェクトであるイクシスLNGや計画中のアバディLNGにおける実際の環境影響(排出量、生物多様性への負荷)に関する懸念に対し、より透明性の高い情報開示と具体的な対応策の提示が求められる。CCUS技術については、そのコスト、大規模展開の実現可能性、そして地下に貯留されたCO2​の永続的な安定性確保といった課題への取り組みが不可欠である。資源循環および生物多様性の分野では、具体的な全社レベルでの定量的目標(例えば、廃棄物削減率、リサイクル率、水使用量削減率、NPI達成面積など)の設定と、それに基づく実績の開示を一層充実させる必要がある。

環境スコアリングを実施するにあたっては、目標の野心度(科学的根拠との整合性、同業他社比較)、実績の進捗度(目標達成に向けた具体的な成果)、開示情報の透明性・網羅性(データの粒度、算定根拠の明確さ)、第三者保証の範囲とレベル、具体的施策の実効性(投資額、技術的成熟度)、そしてNGOや地域社会といったステークホルダーからの評価や批判への対応状況などを総合的に評価する必要がある。特に、企業が公約として掲げる方針や目標と、実際の事業運営(オペレーション)との間の一貫性、そしてCCUSや水素といった将来技術への依存度とそのリスク管理の適切さが、INPEXの環境パフォーマンスを評価する上での重要な評価軸となるであろう。INPEXの環境戦略は、長期的なビジョンと野心的な技術開発への期待を示しているが、その実現は、足元の事業活動における環境負荷の着実な低減と、新技術の実用化という二つの側面における具体的な成果にかかっている。各種ESG評価機関によるレーティングに差異が見られること 24 は、評価軸や方法論の違いを反映しており、独自のスコアリングにおいては一次情報に基づく詳細な分析と一貫した評価基準の適用が肝要である。

引用文献

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  3. Climate | Ipieca, 5月 16, 2025にアクセス、 https://www.ipieca.org/work/climate

  4. Environmental stewardship - Ipieca, 5月 16, 2025にアクセス、 https://www.ipieca.org/work/nature/environmental-stewardship

  5. Sustainability & Climate 2025 Progress Report - TotalEnergies.com, 5月 16, 2025にアクセス、 https://totalenergies.com/system/files/documents/totalenergies_sustainability-climate-2025-progress-report_2025_en.pdf

  6. 基本的な考え方 - INPEX Sustainability Report 2023, 5月 16, 2025にアクセス、 https://sustainability-report.inpex.co.jp/2023/jp/our-approach/sustainability-management/our-policy.html

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  8. 気候変動対応の基本方針 - INPEX, 5月 16, 2025にアクセス、 https://www.inpex.com/news/sustainability/topics/assets/pdf/8d2d4244b90e5bdc133dafafb8445480.pdf

  9. INPEX Vision 2035, 5月 16, 2025にアクセス、 https://www.inpex.com/company/midterm.html

  10. Corporate Position on Climate Change | INPEX, 5月 16, 2025にアクセス、 https://www.inpex.com/assets/documents/english/company/policies/corporate_position_on_climate_change.pdf

  11. EU Methane Import Standard: Policy Implications for South Korea - Solutions for Our Climate, 5月 16, 2025にアクセス、 https://content.forourclimate.org/files/research/PJKU7Xe.pdf

  12. CCS・CCUSを知る - INPEX, 5月 16, 2025にアクセス、 https://www.inpex.com/business/energy/ccs.html

  13. Dutch tech helping Inpex bring Indonesian LNG project to life - Offshore-Energy.biz, 5月 16, 2025にアクセス、 https://www.offshore-energy.biz/dutch-tech-helping-inpex-bring-indonesian-lng-project-to-life/

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  15. TCFD 提言への持続的な取組み - INPEX Sustainability Report 2023, 5月 16, 2025にアクセス、 https://sustainability-report.inpex.co.jp/2023/jp/climate-change/tcfd-recommendations.html

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  20. Inpex's Ichthys LNG emissions bust negates 1.7M solar panels - Boiling Cold, 5月 16, 2025にアクセス、 https://www.boilingcold.com.au/inpexs-ichthys-lng-emissions-bust-negates-1-7m-solar-panels/

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  22. Inpex selects Fugro for marine survey work on Abadi LNG project - Offshore Technology, 5月 16, 2025にアクセス、 https://www.offshore-technology.com/news/abadi-lng-marine-survey-contract/

  23. [General Q&A] INPEX Responds to Comprehensive Questions at INPEX Investor Day 2024 - Focus on Projects and Overall Company S, 5月 16, 2025にアクセス、 https://www.inpex.com/english/ir/library/pdf/presentation/e-Presentation20240909-f.pdf

  24. 基本的な考え方 - INPEX Sustainability Report 2023, 5月 16, 2025にアクセス、 https://sustainability-report.inpex.co.jp/2023/jp/climate-change/our-policy.html

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  26. Sustainability - Inpex Corp ADR IPXHY - Morningstar, 5月 16, 2025にアクセス、 https://www.morningstar.com/stocks/pinx/ipxhy/sustainability

  27. Reporting standards and ESG ratings | Shell Global, 5月 16, 2025にアクセス、 https://www.shell.com/sustainability/reporting-centre/reporting-standards-and-esg-ratings.html

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  30. Investment Analysis Of The Masela Block Project. Will The Masela Block Become A Natural Resource Paradox? (A Pestle Analysis) - ResearchGate, 5月 16, 2025にアクセス、 https://www.researchgate.net/publication/389072606_Investment_Analysis_Of_The_Masela_Block_Project_Will_The_Masela_Block_Become_A_Natural_Resource_Paradox_A_Pestle_Analysis

  31. 廃棄物の適正処分、循環経済形成への貢献 - INPEX Sustainability Report 2023, 5月 16, 2025にアクセス、 https://sustainability-report.inpex.co.jp/2023/jp/hse/environmental-management/proper-waste-management.html

  32. 適正な水管理 - INPEX Sustainability Report 2022, 5月 16, 2025にアクセス、 https://www.sustainability-report.inpex.co.jp/fy2022/jp/hse/environmental-management/proper-water-management.html

  33. 第3回 企業行動憲章に関するアンケート 【別冊1】 SDGsに貢献する 代表的な事業の取組事例集 - 一般社団法人日本経済団体連合会, 5月 16, 2025にアクセス、 https://www.keidanren.or.jp/policy/2024/005_bessatsu1.pdf

  34. ENEOSホールディングス株式会社の環境イニシアチブおよびパフォーマンスに関する分析報告書, 5月 16, 2025にアクセス、 https://gx-research.com/companies/9010001131743/reports/26

  35. Responsible water management across the value chain | Ipieca, 5月 16, 2025にアクセス、 https://www.ipieca.org/impact/action/responsible-water-management

  36. アサヒグループ「環境」の取り組み 投稿日時 - みんかぶ, 5月 16, 2025にアクセス、 https://minkabu.jp/news/3934055

  37. 1月 1, 1970にアクセス、 https://sustainability-report.inpex.co.jp/2023/jp/hse/environmental-management/resource-recycling.html

  38. 生物多様性の保全 - INPEX Sustainability Report 2023, 5月 16, 2025にアクセス、 https://sustainability-report.inpex.co.jp/2023/jp/hse/environmental-management/biodiversity-conservation.html

  39. Biodiversity Conservation - INPEX Sustainability Report 2023, 5月 16, 2025にアクセス、 https://sustainability-report.inpex.co.jp/2023/en/hse/environmental-management/biodiversity-conservation.html

  40. Project Overview - INPEX, 5月 16, 2025にアクセス、 https://www.inpex.com/english/ir/library/pdf/annual_report/e-annual2011-05.pdf

  41. Contributing to Local Communities - INPEX Sustainability Report 2023, 5月 16, 2025にアクセス、 https://sustainability-report.inpex.co.jp/2023/en/local-communities/supporting-local-communities.html

INPEXのGHG排出量推移

GHG排出量推移

「Scope1」の過去3年の推移

2023年6,864,000t-CO2
2022年6,839,000t-CO2
2021年7,302,000t-CO2

「Scope2」の過去3年の推移

2023年55,000t-CO2
2022年69,000t-CO2
2021年136,000t-CO2

「Scope3」の過去3年の推移

データがありません
2023年-
2022年-
2021年-

COR(売上高あたりのCO2排出量)推移

スコープ1+2

スコープ1+2 CORの過去3年推移

2023年3,197kg-CO2
2022年-
2021年3,200kg-CO2

スコープ3

スコープ3 CORの過去3年推移

2023年0kg-CO2
2022年-
2021年0kg-CO2

COA(総資産あたりのCO2排出量)推移

スコープ1+2

スコープ1+2のCOA推移

2023年1,027kg-CO2
2022年-
2021年1,188kg-CO2

スコープ3

スコープ3のCOA推移

2023年0kg-CO2
2022年-
2021年0kg-CO2

業績推移

売上推移

2023年2兆1645億
2021年2兆3247億
2020年1兆2444億

純利益推移

2023年3,217億円
2021年4,383億円
2020年2,230億円

総資産推移

2023年6兆7395億
2021年6兆2623億
2020年5兆1582億

すべての会社・業界と比較

環境スコアポジション

INPEXの環境スコアは90点であり、すべての会社における環境スコアのポジションと業界内におけるポジションは下のグラフになります。

すべての会社と比較したポジション

業界内ポジション

INPEXのCORポジション

INPEXにおけるCOR(売上高(百万円)における炭素排出量)のポジションです。CORは数値が小さいほど環境に配慮したビジネスであると考えられます。INPEXのスコープ1+2の合計のCORが3197kg-CO2であり、スコープ3のCORが0kg-CO2になります。グラフはGHG排出量のスコープ別に分かれており、すべての会社と業界内におけるそれぞれのポジションを表しています。
全体におけるINPEXのCORポジション

CORスコープ1+2

CORスコープ3

業界内におけるINPEXのCORポジション`

CORスコープ1+2

CORスコープ3

INPEXのCOAポジション

INPEXにおけるCOA(総資産(百万円)における炭素排出量)ポジションです。COAもCAR同様、数値が小さいほど環境に配慮したビジネスを行っていると考えられます。INPEXのスコープ1+2の合計のCORが1027kg-CO2であり、スコープ3のCORが0kg-CO2になります。グラフはGHG排出量のスコープ別に分かれており、すべての会社と業界内におけるそれぞれのポジションを表しています。
全体におけるINPEXのCOAポジション

COAスコープ1+2

COAスコープ3

業界内におけるINPEXのCOAポジション

COAスコープ1+2

COAスコープ3

環境スコアランキング(全社)

集計数:1049企業
平均点数:180.6
CDPスコア気候変動勲章
三菱電機
6503.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコン製造業
505
CDPスコア気候変動勲章
コニカミノルタ
4902.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコン製造業
500
CDPスコア気候変動勲章
豊田自動織機
6201.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコン製造業
480
4
古河電気工業
5801.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコン製造業
470
5
味の素
2802.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコン製造業
460
6
セコム
9735.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコンサービス業
455
7
ダイキン工業
6367.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコン製造業
450
8
アイシン
7259.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコン製造業
450
9
三ツ星ベルト
5192.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコン製造業
445
10
フジクラ
5803.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコン製造業
445

業界別環境スコアランキング

集計数:5企業
平均点数:147
CDPスコア気候変動勲章
日鉄鉱業
1515.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコン鉱業
305
CDPスコア気候変動勲章
石油資源開発
1662.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコン鉱業
280
CDPスコア気候変動勲章
INPEX
1605.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコン鉱業
90
4
三井松島ホールディングス
1518.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコン鉱業
30
5
K&Oエナジーグループ
1663.T
プライムアイコンプライム
プライムアイコン鉱業
30