日本テレビの番組「所さんの目がテン!」内の里山再生プロジェクト「かがくの里」が、環境省の「自然共生サイト(仮称)認定実証事業」で「認定に相当する」との評価を受けた。タガメ等の希少生物が確認されるなど生物多様性保全への貢献が認められた 。
※掲載情報は公開資料をもとに作成しており、全てのリスク・機会を網羅するものではありません。 より詳細な情報は企業の公式発表をご確認ください。
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本レポートは、日本テレビホールディングス株式会社(以下、NTV HD)の環境イニシアチブとパフォーマンスを、「気候変動」「資源循環」「生物多様性」という3つの重要分野に焦点を当て、包括的に分析することを目的とする。特に、企業の環境スコア算定に必要な詳細情報の収集を目指すものである。NTV HDは「豊かな時を提供する」という理念のもと、多様な事業活動を展開しており 、その持続可能性への取り組みは、ステークホルダーにとって重要な関心事である。本レポートの構成は、NTV HDの具体的な取り組みの詳細な記述、環境要因に関連する潜在的なリスクと機会の分析、メディア・放送業界における環境ベストプラクティスとの比較、NTV HDが直面する現在の課題と将来に向けた推奨事項、主要競合他社の環境戦略・パフォーマンスとの比較分析、そして公開されている環境スコアのベンチマーキングから成る。最後に、これらの分析結果を総括し、結論を提示する。分析は、NTV HDが公開しているサステナビリティ報告書、統合報告書、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言に基づく報告書、プレスリリース、公式ウェブサイトの情報など、公開情報に基づいて実施した 。
分析対象は、日本テレビホールディングス株式会社(Nippon Television Holdings, Inc.)である。同社は、中核会社である日本テレビ放送網株式会社(以下、NTV)をはじめ、放送事業、メディアコンテンツ事業、生活・健康関連事業(フィットネスクラブ「ティップネス」等)、不動産事業などを傘下に持つ、日本を代表するメディア・コンテンツ企業グループである 。
本レポートでは、NTV HDの環境側面における取り組みとパフォーマンスを、以下の3つの主要分野に焦点を当てて分析する。
気候変動 (Climate Change): 温室効果ガス(GHG)排出削減(Scope 1, 2, 3)、再生可能エネルギー導入、気候変動の緩和策および適応策。
資源循環 (Resource Circulation): 事業活動に伴う廃棄物の削減、再利用(リユース)、再資源化(リサイクル)の推進。
生物多様性 (Biodiversity): 生物多様性の保全と回復に貢献する活動、事業活動が生態系に与える影響への配慮。
これらの分野は、地球環境の持続可能性にとって極めて重要であると同時に、NTV HD自身がサステナビリティポリシーやマテリアリティ(重要課題)として認識し、取り組みを進めている分野でもある 。
本分析は、メディア・放送業界におけるリーディングカンパニーの一つであるNTV HDの環境責任の履行状況を、客観的かつ詳細に評価することを目的とする。メディア企業は、その情報発信力を通じて社会の環境意識向上に貢献する役割を担うと同時に、番組制作、放送インフラの運用、イベント開催など、自らの事業活動においても環境負荷を生じさせている。本レポートは、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資家、サステナビリティ専門家、学術研究者、そしてNTV HD自身の経営層を含む多様なステークホルダーに対し、同社の環境パフォーマンスに関する深い洞察と、今後の取り組みを評価するための基礎情報を提供することに意義がある。
NTV HDは、「あらゆる活動をクリエイティブに発想し持続可能な未来に向けて積極果敢に取り組みます」というサステナビリティポリシーを掲げ、環境課題への対応を進めている 。以下では、「気候変動」「資源循環」「生物多様性」の各分野における具体的な取り組み、目標、実績を詳述する。
NTV HDは、気候変動を地球規模の重要課題と認識し、グループ全体でのカーボンニュートラル実現を目指している 。
NTV HDは、持続可能な未来への貢献を基本方針とし、気候変動への対応をマテリアリティ(重要課題)の一つである「地球環境への貢献」の中核に位置付けている 。この課題への取り組みを推進するため、TCFD提言に基づく情報開示を積極的に行っており、気候関連のリスクと機会の分析、それらに基づく戦略策定を進めている 。サステナビリティに関する取り組みの推進体制については、経営層の関与を示唆する記述はあるものの、具体的な委員会の名称や構成、権限に関する詳細な情報は、提供された資料からは限定的である。しかし、TCFDレポートが公開されていることから、気候変動課題が取締役会レベルで認識され、戦略的な議論が行われていることが推察される 。
NTV HDグループ、特に中核会社であるNTVを中心に、気候変動緩和・適応に向けた具体的な取り組みが進められている。
省エネルギー化 (Energy Saving): エネルギー消費量の削減は、CO2排出量削減の基本となる。NTVでは、汐留本社ビルにおいて、照明を2031年までに全てLED化する計画を推進している。また、エネルギー効率の高い空調機やポンプ類への設備更新を通じて、継続的に消費電力の削減を図っている 。これらの地道な設備投資は、運用段階でのエネルギー消費量とそれに伴うCO2排出量を着実に削減することに貢献する。
再生可能エネルギー導入 (Renewable Energy Adoption): NTVは、事業活動で使用する電力の再生可能エネルギーへの転換を積極的に進めている。対象となるのは、汐留本社、番町エリア、生田スタジオ、各支部・支局等であり、これらの拠点における電力の再エネ比率を2030年度までに100%に引き上げるという意欲的な目標を掲げている 。具体的な導入実績として、2023年度にはNTV単体で650万kWhのグリーン電力(非化石証書等を活用した実質再生可能エネルギー)を導入した 。また、グループ会社全体では、太陽光発電による発電量が1989万kWhに達しており、自社での再エネ創出にも取り組んでいることがわかる 。
ブルーカーボンプロジェクト (Blue Carbon Project): NTV HDは、2023年の開局70年を機に、「海の森を守ろう!日本列島ブルーカーボンプロジェクト」を開始した 。このプロジェクトは、海草(アマモなど)や海藻が成長過程でCO2を吸収・固定する「ブルーカーボン生態系」の保全・再生を目指すものである。グループ各社の社員やその家族が定期的にアマモ場の再生活動に参加しており、CO2吸収源対策への貢献と同時に、社員の環境意識向上や社会貢献活動としての意義も持つと考えられる 。この取り組みは、放送事業とは直接関連しないものの、メディア企業としての発信力を活かした環境啓発活動の一環としても位置づけられる可能性がある。ただし、このプロジェクトによる具体的なCO2吸収・固定量の目標値や実績値、算定方法に関する情報は開示されておらず、グループ全体の排出量削減目標達成に対する定量的な貢献度を評価することは現時点では困難である。プロジェクトの主目的が環境貢献だけでなく、ブランドイメージ向上や従業員エンゲージメント強化にある可能性も考慮する必要がある。今後、プロジェクトの定量的な環境貢献度の測定・開示と、グループ全体の排出削減戦略における位置づけの明確化が望まれる。
TCFD提言に基づく情報開示 (TCFD-aligned Disclosure): NTV HDは、TCFD提言に賛同し、気候関連のリスクと機会について、1.5℃及び4℃シナリオに基づいた分析結果を公開している 。これにより、気候変動が事業に与える潜在的な影響(財務的影響を含む)を評価し、それに対する戦略的な対応をステークホルダーに示すことを目指している。
NTV HDグループは、気候変動に関して段階的な目標を設定し、その達成に向けた取り組みを進めている。
NTV目標 (NTV Targets): 中核会社であるNTVは、具体的な数値目標を設定している。
2030年度までに、Scope1(事業者自身の燃料使用による直接排出)とScope2(購入した電力・熱の使用に伴う間接排出)を合わせたCO2排出量を、2019年度比で50%削減する 。
同じく2030年度までに、NTVが使用する電力の再生可能エネルギー比率を100%にする 。
NTV実績 (NTV Performance):
2023年度のNTVのCO2排出量(Scope1+Scope2)は、22,767.7 t-CO2であった 。これは、2013年度比で28.3%の削減に相当する 。ただし、2030年目標の基準年である2019年度比での削減率は、提供された情報からは直接読み取れない。
2023年度のNTVの再生可能エネルギー比率は19.4%であった 。
Scope3計画 (Scope 3 Plans): Scope3(Scope1, 2以外のサプライチェーン等における間接排出)については、NTVが2024年度に排出量の算定に着手する計画である 。また、Scope1+Scope2の排出量を開示するグループ会社の数を、現在の7社からさらに拡大する方針も示されている 。これは、グループ全体での排出量把握と管理体制の強化に向けた動きと評価できる。
グループ目標 (Group Target): NTV HDグループ全体としては、2050年度までにカーボンニュートラルを実現するという長期目標を掲げている 。
これらの目標と実績を比較すると、特に再生可能エネルギー比率に関して、2030年度目標(100%)と2023年度実績(19.4%)の間には大きな隔たりが存在する 。目標達成には、残り7年弱で年平均10%ポイントを超えるペースでの再エネ比率向上が必要となる。このような急加速を実現するためには、再生可能エネルギーの調達戦略(PPA契約、証書購入、自社発電設備への投資など)に関する具体的な計画、必要な投資規模、そしてその実行可能性が問われる。現状では、目標達成に向けた詳細なロードマップや中間目標に関する情報開示が十分とは言えず、目標達成には相応の実行リスクが伴う可能性が示唆される。目標達成に向けた具体的な戦略、投資計画、そして進捗状況に関する透明性の高い情報開示が、今後ますます重要となるだろう。また、国内外の再生可能エネルギー市場の動向や価格変動も、目標達成における不確実要因として考慮する必要がある。
NTV HDは、マテリアリティの一つとして「つくる責任、つかう責任」を掲げており、資源の有効活用と廃棄物削減の重要性を認識している 。しかし、気候変動分野と比較すると、グループ全体を対象とした具体的な資源循環目標(例:廃棄物削減率、リサイクル率、水使用量削減率など)の設定や、それに基づく定量的な実績開示は限定的である。
NTV HDグループ全体としての包括的な資源循環方針や具体的な数値目標は、提供された資料からは明確に確認できない。個別のグループ会社や取り組みレベルでの言及が中心となっている。
グループ会社単位での個別の取り組み事例が見られる。
紙資源リサイクル (Paper Recycling): グループ会社である株式会社日本テレビワーク24は、NTV局内で排出された紙資源をリサイクルして製造されたトイレットペーパーを局内トイレで使用している。さらに、芯の部分も紙でできているコアレス(芯なし)タイプを導入することで、芯材に使われる資源の節約にも貢献している 。これは、廃棄物削減と資源の有効活用に向けた具体的な取り組みである。
環境配慮型製品の開発・販売 (Eco-Products): グループ会社の株式会社日本テレビサービスは、製品の企画・製造・販売段階から環境・社会・経済側面を考慮した事業を展開している。具体例として、FSC認証紙を使用したポストカード、再生PETボトル素材から作られたしおり、オーガニックコットン製のTシャツ、リサイクルコットンを用いたトートバッグ、廃棄されたビニール傘を再利用したグッズ、サンゴ礁保全活動を支援する商品などが挙げられる 。これらの製品を通じて、消費者の環境意識向上にも貢献していると考えられる。
LIMEX素材の利用 (LIMEX Use): 日本テレビサービスは、イベント会場での商品販売時に、石灰石を主原料とする持続可能な新素材「LIMEX」で作られた什器を使用している 。これも、石油由来プラスチックの使用削減に向けた取り組みの一つである。
廃棄物削減努力 (Waste Reduction Efforts): グループ全体での取り組みとして、社内業務におけるペーパーレス化の推進や、収録用テープの再利用などが示唆されているが、その効果に関する定量的なデータは不足している 。
番組制作に伴う廃棄物 (Waste from Production): テレビ番組制作、特に美術セットの製作・解体においては、大量の資材が使用され、廃棄物が発生する可能性がある。NTV HDにおける美術セット等の廃棄物に関する具体的なリサイクル・リユース戦略や実績データは、提供された資料からは確認できない。他局(例:NHK)では、共通セットの長期利用、リサイクル可能な素材(紙素材ボード、木材等)への転換、廃棄時の分別強化といった先進的な取り組みが進められている 。NTV HDにおいても、制作過程での資源効率改善や廃棄物削減のポテンシャルは大きいと考えられ、今後の取り組み強化が期待される分野である。
電子廃棄物 (E-waste): テレビ受像機やエアコンなど、家電リサイクル法対象品目の廃棄・リサイクルについては、法に基づいた処理ルートが確立されている 。しかし、NTV HD自身の事業活動(放送機器、編集機材、IT機器等)から発生する電子廃棄物(E-waste)の具体的な処理プロセス、リサイクル率、再資源化の状況に関する情報は、提供された資料には含まれていない。電子廃棄物は、適切に処理・リサイクルされなければ環境汚染や資源枯渇に繋がるため、企業としての責任ある対応が求められる 。
前述の通り、NTV HDグループ全体としての廃棄物総排出量、削減目標、リサイクル率、水使用量などの定量的な目標設定や実績データは、提供された資料からは確認できない。これは、競合他社であるテレビ朝日ホールディングスが廃棄物発生量とリサイクル率の推移を開示している 点や、フジ・メディア・ホールディングス傘下のフジテレビが高いリサイクル率を報告している 点と比較すると、情報開示の面で改善の余地があることを示唆している。
この状況は、NTV HDグループ内における資源循環に関するデータ収集・管理体制がまだ発展途上である可能性、あるいは戦略的な優先順位が気候変動対策に比べて相対的に低い可能性を示している。グループ全体での資源循環に関するベースラインの設定、定量的な目標(例:廃棄物原単位での削減目標、リサイクル率の向上目標など)の策定、そして実績の継続的な測定と開示が、今後の重要な課題となる。特に、放送事業特有の廃棄物である美術セットや電子機器に関するリサイクル・リユース戦略を具体化し、その成果を透明性高く情報開示していくことが求められる。
NTV HDは、生物多様性の損失を食い止め、回復させるという国際的な目標(例:30by30ターゲット)への貢献を意識した活動を展開している 。
NTV HDは、サステナビリティポリシーの一環として、自然豊かな地球を未来世代に残すことの重要性を認識しており 、生物多様性の保全に向けた取り組みを進める方針を示している。特に、環境省が推進する「30by30アライアンス」への参画は、そのコミットメントを具体的に示すものである 。
NTV HDの生物多様性保全に関する取り組みは、メディアとしての特性を活かしたプロジェクトや情報発信に特徴が見られる。
30by30アライアンスへの参画 (Participation in 30by30 Alliance): 2022年7月、環境省が主導する「30by30アライアンス」に参画した 。これは、2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として保全するという国際目標(昆明・モントリオール生物多様性枠組のターゲット3)の達成に貢献することを目指す企業・団体等の有志連合である。NTV HDは、この枠組みの中で、自社の活動を通じて貢献していく意向を示している。
「かがくの里」プロジェクト ("Kagaku no Sato" Project): NTVの長寿番組「所さんの目がテン!」内で2014年から継続されている里山再生プロジェクトである 。茨城県内の土地を利用し、科学者や地域住民の協力を得ながら、環境負荷の少ない農法による菜園作りや森林の間伐整備などを実施している。8年以上にわたる活動の結果、かつては姿を消していたタガメ、ゲンゴロウ、ミズスマシといった希少な水生昆虫がため池に戻り、森ではフクロウやムササビが子育てをするなど、生物多様性が豊かになっている様子が確認されている 。このプロジェクトは、人が自然に積極的に関わることで生物多様性が増す「里山」の価値を、番組を通じて視聴者に伝え続けている。さらに、この「かがくの里」は、環境省が試行した「自然共生サイト(仮称)認定実証事業」において、「認定に相当する」との評価を受けており、具体的な保全成果が認められている 。これは、メディア企業がコンテンツ制作と連動して生物多様性保全に貢献できることを示す好事例と言える。
OECM認定目標 (OECM Certification Goal): NTV HDは、「かがくの里」以外にも、自社が関与する自然地域について、OECM(Other Effective area-based Conservation Measures:保護地域以外で生物多様性保全に資する地域、日本では「自然共生サイト」と呼ばれる)の認定取得を目指す方針を表明している 。これにより、30by30目標達成への具体的な貢献を目指す。
情報発信 (Information Dissemination): メディア企業としての強みを活かし、様々な番組コンテンツを通じて、自然保護や生物多様性の重要性を広く社会に伝えていくことを、重要な役割と位置付けている 。
30by30アライアンスへの貢献やOECM認定取得が目標として掲げられているが、具体的な数値目標(例:OECM認定面積目標)や達成に向けたロードマップに関する詳細な情報は、現時点では開示されていない 。一方で、「かがくの里」プロジェクトは、希少生物の定着や環境省による認定相当評価といった具体的な成果を示しており、NTV HDの生物多様性への取り組みにおける象徴的な事例となっている 。
NTV HDの生物多様性への取り組みは、「かがくの里」のような具体的かつメディア特性を活かしたプロジェクトにおいて顕著な成果を上げている。しかし、放送事業全体のサプライチェーン(例:番組ロケ地の選定・利用、放送インフラ建設に伴う土地利用、資材調達など)が生物多様性に与える直接的・間接的な影響(ポジティブおよびネガティブな影響)に関する体系的な評価や、それを踏まえた事業運営方針、調達方針に関する情報は不足している。生物多様性保全の取り組みが、個別のプロジェクトに留まらず、事業戦略全体にどのように統合されているのか、その全体像はまだ明確ではない。今後は、事業活動に伴う生物多様性への依存度と影響度(リスクと機会を含む)を評価し、サプライチェーン全体を視野に入れた包括的な保全方針を策定・開示することが望まれる。また、目標として掲げているOECM認定取得に向けた具体的な計画や進捗状況の開示も重要となるだろう。
NTV HDは、TCFD提言に基づき、気候変動が自社グループの事業活動に及ぼす潜在的なリスクと機会について、複数のシナリオ(1.5℃目標達成シナリオと4℃上昇シナリオ)を用いて分析し、その結果を開示している 。
気候変動は、規制強化や市場の変化といった「移行リスク」と、異常気象の激甚化といった「物理的リスク」の両面から、NTV HDの事業に影響を与える可能性がある。
低炭素社会への移行が急速に進む場合、以下のようなリスクが顕在化する可能性がある。
政策・法規制リスク (Policy/Legal): 政府による炭素税の導入や排出量取引制度の強化は、エネルギーコストや事業運営コストの増加に繋がる可能性がある。また、省エネルギー基準の強化など、より厳格な環境規制に対応するための設備投資(例:高効率な放送機材や空調設備への更新)が増加するリスクがある 。
技術リスク (Technology): 低炭素技術(例:次世代の省エネ放送技術、高効率な冷却システム等)への移行には、先行投資が必要となる。技術開発の動向によっては、既存設備の陳腐化リスクも考えられる。
市場リスク (Market): 再生可能エネルギーの需要増加に伴う価格上昇や、サプライヤー(番組制作会社、資材供給業者等)からの環境対応コストの転嫁により、事業コストが増加する可能性がある。また、環境意識の高まりにより、環境配慮が不十分と見なされるコンテンツやサービスに対する需要が減少するリスクも考えられる 。
評判リスク (Reputation): CO2排出削減への取り組みが不十分であると認識された場合、企業イメージが悪化し、視聴者、広告主、投資家、従業員など、様々なステークホルダーからの信頼を失うリスクがある。これは、ブランド価値の低下や資金調達コストの上昇に繋がる可能性がある 。
地球温暖化が進行し、気候変動の物理的な影響が深刻化する場合、以下のようなリスクが想定される。
急性リスク (Acute): 台風の大型化、集中豪雨による洪水、猛暑、干ばつといった異常気象の頻度と強度が増加することにより、以下のような影響が考えられる。
屋外でのニュース取材や番組ロケの実施が困難になる、あるいは中止に追い込まれるリスク 。
放送局舎、送信所、中継設備などのインフラが、洪水、強風、落雷などによって損傷を受けるリスク。
大規模なイベント(屋外フェスティバル、スポーツ中継など)の開催が困難になる、または中止されるリスク。
災害発生時に、従業員の安全確保や被災リスクが高まり、報道活動や事業継続に支障が出るリスク 。
慢性リスク (Chronic): 気候パターンの長期的な変化に伴うリスク。
平均気温の上昇により、放送局舎やデータセンター等の冷房負荷が増大し、エネルギーコストが増加するリスク 。
夏季の猛暑日増加により、屋外での活動が制約され、ロケやイベントの実施に影響が出るリスク。また、熱中症リスクの増大による従業員の健康への影響 。
海面水位の上昇により、沿岸部に位置する汐留本社ビルなどが、高潮や洪水による浸水リスクに晒される可能性 。
気候変動に伴う新たな感染症の発生・蔓延リスクの増大 。
NTV HDのTCFD分析は、これらのリスクを広範に特定している点で評価できる。しかしながら、特に物理的リスク、例えば異常気象の激甚化や海面上昇による汐留本社の浸水リスクに対して、具体的にどのような適応策(例:事業継続計画(BCP)の見直し、放送インフラの強靭化投資、代替拠点の確保、サプライチェーンにおける気候リスク評価など)を講じているか、あるいは計画しているかについての詳細な記述は、提供された情報からは限定的である。リスクの特定に留まらず、それに対する具体的な対応戦略や投資計画に関する情報開示を強化することが、ステークホルダーの理解を深め、企業のレジリエンスを示す上で重要となる。特に、基幹インフラである放送設備の気候変動に対する強靭性は、事業継続性の観点から極めて重要である。
一方で、気候変動への対応や社会の環境意識の高まりは、NTV HDにとって新たなビジネス機会をもたらす可能性も秘めている。
資源効率 (Resource Efficiency): 省エネルギー設備の導入推進や、デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展、リモートワークの普及に伴うオフィススペースの最適化などは、エネルギーコストや賃料等の運用コスト削減に繋がる可能性がある 。
エネルギー源 (Energy Source): 再生可能エネルギーへの移行は、長期的には化石燃料価格の変動リスクを低減し、エネルギーコストの安定化に寄与する可能性がある。また、再エネ利用を積極的にアピールすることは、企業のブランドイメージ向上にも繋がる 。
製品・サービス (Products/Services):
気候変動の影響(異常気象、自然災害など)が増大する中で、関連するニュース報道や防災・減災情報に対する社会的な需要が高まる。信頼性の高い情報を迅速かつ正確に提供することは、メディアとしての使命を果たすと同時に、視聴率や媒体価値の向上に繋がる可能性がある 。
環境問題やSDGs(持続可能な開発目標)に対する社会全体の関心が高まる中、「24時間テレビ」や「Good For the Planet」といったキャンペーン、環境ドキュメンタリーなど、関連するテーマを扱ったコンテンツの需要が増加する可能性がある。また、環境意識の高い企業とのスポンサーシップ連携や共同での啓発イベントなどを通じて、新たな収益機会を創出できる可能性がある 。
猛暑などにより人々が屋内で過ごす時間が増加した場合、映像コンテンツ(テレビ放送、動画配信サービスなど)の視聴時間が増加し、広告収入や有料配信収入の増加に繋がる可能性がある。また、テレビ通販事業(例:日テレポシュレ)の利用拡大も期待できる 。
健康意識の高まりや、気候変動による健康リスク(熱中症、感染症等)への懸念から、フィットネス事業(例:ティップネス)や健康情報番組への需要が増加する可能性がある。また、猛暑時の外出控えなどから、オンラインフィットネスサービスの利用が拡大する可能性もある 。
市場 (Markets): 環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)を重視するESG投資の拡大は、NTV HDのような企業にとって、資金調達の機会となりうる。優れたESGパフォーマンスを示すことで、投資家からの評価が高まり、有利な条件での資金調達や、株価へのポジティブな影響が期待できる。実際に、NTV HDはESG指数「FTSE Blossom Japan Sector Relative Index」の構成銘柄に選定されており、これは市場からの評価の一例と言える 。また、環境意識の高い消費者からの支持を得ることは、ブランドロイヤリティの向上にも繋がる。
レジリエンス (Resilience): 気候変動の物理的リスクに対する適応策を早期に講じ、事業継続体制を強化することは、競合他社に対する優位性を構築し、長期的な企業価値の維持・向上に貢献する。
NTV HDは、TCFD分析を通じて、特に環境・SDGs関連コンテンツの需要増という機会を明確に認識している 。これはメディア企業としての強みを活かせる領域である。しかしながら、これらのコンテンツ制作やキャンペーン活動が、具体的にどの程度、視聴率向上、広告収入増加、スポンサー契約獲得、あるいはブランド価値向上といったビジネス上の成果に結びついているのかを定量的に示すデータや分析は、提供された情報からは見当たらない。機会の認識と、それが実際の企業価値創造にどのように繋がっているのか、その関連性をより明確に示すことが望まれる。サステナビリティ関連の取り組み、特にNTV HDの強みであるコンテンツ制作がもたらす事業上の価値(財務的価値および非財務的価値)を測定・評価し、それをステークホルダーに分かりやすく開示する枠組みを構築することは、サステナビリティ活動への投資対効果を明確化し、より戦略的な意思決定を促進するために有益であろう。
メディア・放送業界においても、持続可能性への取り組みは重要な経営課題となっている。以下に、業界における環境に関する先進的な取り組み(ベストプラクティス)を概観し、NTV HDへの示唆を考察する。
特に、環境負荷が大きいとされるコンテンツ制作プロセスにおける持続可能性の向上が、業界全体の課題となっている。
持続可能なコンテンツ制作 (Sustainable Content Production): 映像制作のライフサイクル全体を通じて環境負荷を低減するための具体的な取り組みが進められている。
エネルギー管理: スタジオやオフィスの照明を完全にLED化する、ロケ地でのエネルギー源として太陽光発電を利用したトレーラーや、ディーゼル発電機の代替としてバッテリー駆動ユニットや水素燃料ユニットを使用する、といった取り組みが見られる 。また、建物のエネルギー効率を高める工夫(遮熱、空調管理)や、再生可能エネルギー由来の電力調達も重要視されている 。
輸送効率化: 制作に関わる人や物の移動に伴うCO2排出削減のため、移動計画の最適化、リモート会議やバーチャルプロダクション技術の積極的な活用、公共交通機関や自転車利用の推奨、撮影車両への電気自動車(EV)やハイブリッド車の導入、アイドリングストップの徹底などが実践されている 。TBSホールディングス(以下、TBS HD)による水素燃料電池中継車の導入も先進的な事例である 。
資材の選択と管理: 美術セットの制作においては、FSC(森林管理協議会)認証を受けた合板やリサイクル建材、中古資材を優先的に使用する動きがある 。また、オフィス業務においては、100%再生紙の使用や、台本・資料等のデジタル化によるペーパーレス化が進められている 。ケータリング等で発生する使い捨てプラスチック製品を削減し、リユース可能な食器や代替素材(紙、アルミ等)を使用することも推奨されている 。
廃棄物管理: 発生する廃棄物を削減するとともに、リサイクルやコンポストを促進するための徹底した分別が求められる。特に、美術セット解体時や電子機器廃棄時の責任ある処理が重要となる 。NHKアートの事例では、廃棄物置き場の名称を「美術リサイクルコーナー」に変更し、分別を細分化することでリサイクル率向上を図っている 。また、ケータリングで発生した余剰食品を地域の非営利団体へ寄付する取り組みもある 。
水資源管理: 事業活動における水の使用量を把握し、削減努力を行うとともに、排水処理を適切に行うことが求められる 。
デジタルワークフローとバーチャルプロダクション: 台本や各種資料の電子化、承認プロセスのデジタル化、クラウドベースの大容量ファイル転送サービスの利用などは、紙資源の削減だけでなく、業務効率化にも貢献する 。さらに、バーチャルプロダクション技術(LEDウォール等を用いた仮想空間での撮影)は、大規模な物理セットの制作や遠隔地へのロケ移動を大幅に削減できるため、エネルギー消費量とCO2排出量の削減に大きく貢献する可能性を秘めている 。
環境認証の取得 (Environmental Certification):
アルバート認証 (Albert Certification): 英国のBBCなどが中心となって設立されたコンソーシアム「アルバート」が運営する、映像制作における環境負荷削減のための認証制度である 。制作プロセスにおけるCO2排出量や廃棄物量を算定・管理し、削減努力に応じて認証(星1つ~3つ)を与える。この認証は、制作過程の環境パフォーマンスを客観的に評価し、改善を促すツールとして国際的に認知されつつある 。日本の民放では、TBS HDグループのTBSスパークルが制作したBS-TBSの番組『Style2030 賢者が映す未来』が、2022年に初めてアルバート認証(星2つ)を取得した 。
サプライヤーとの連携 (Supplier Engagement): 自社だけでなく、サプライチェーン全体での環境負荷削減を目指す動きも重要である。具体的には、サプライヤーに対して環境配慮を求める調達方針を策定・運用したり、サプライヤーと協力して環境負荷削減目標を設定・推進したりすることが考えられる 。CDPのサプライヤーエンゲージメント評価なども、こうした取り組みを測る指標となっている 。
透明性の高い情報開示とコミュニケーション (Disclosure and Communication): TCFD提言やCDP質問書への対応を通じて、気候変動リスク・機会や排出量データ、削減目標・実績などを詳細かつ透明性高く開示することが、投資家や社会からの信頼を得る上で不可欠となっている 。また、環境に関する情報発信においては、根拠のない表現や誇張、あいまいな言葉遣いを避け、事実に基づいた誠実なコミュニケーションを心がけること(グリーンウォッシュの回避)が重要である 。ステークホルダーとの継続的な対話も求められる 。
NTV HDは、省エネルギー化や再生可能エネルギー導入といった個別の取り組みを進めているものの 、上記の業界ベストプラクティスと比較すると、いくつかの点で更なる取り組みの深化が考えられる。
持続可能なコンテンツ制作ガイドラインの導入: 現在、NTV HDグループ全体で、コンテンツ制作プロセス全体を網羅するような包括的な環境ガイドラインが導入されているかは不明確である。アルバート認証の基準などを参考に、エネルギー、輸送、資材、廃棄物、水など、制作の各段階における具体的な環境配慮事項を定めたガイドラインを策定・導入することは、グループ全体の環境パフォーマンス向上と取り組みの標準化に繋がる可能性がある。
制作プロセスにおける具体的な負荷削減策の強化: 特に、環境負荷が大きいと考えられる美術セットの製作・廃棄や、ロケに伴う輸送、ケータリングなどにおいて、リサイクル素材の利用拡大、廃棄物分別の徹底、EVや水素燃料電池車等の導入、バーチャルプロダクション技術の活用などを積極的に検討・推進することで、Scope3排出量の削減にも大きく貢献できる可能性がある。
外部認証の活用: 競合であるTBS HDがアルバート認証を取得した 事例は、NTV HDにとっても示唆に富む。同様の外部認証を取得することは、自社の取り組みの客観的な評価を得るとともに、環境意識の高いクリエイターやパートナーを引き付け、業界内でのリーダーシップを示す上で有効な手段となりうる。これは、競争力維持・向上の観点からも検討に値するだろう。
サプライチェーン管理の強化: 番組制作には多くの外部パートナー(制作会社、技術会社、美術会社、タレント事務所等)が関与するため、サプライチェーン全体での環境負荷削減に向けた連携が重要となる。サプライヤーに対する環境配慮要請や、協働での目標設定などを検討する必要がある。
これまでの分析を踏まえ、NTV HDが環境分野において現在直面していると考えられる主要な課題を評価し、今後の取り組み強化に向けた具体的な推奨事項を提案する。
NTV HDは環境への取り組みを進めているものの、いくつかの課題も認識される。
データ収集・開示の網羅性: 気候変動に関するScope1およびScope2排出量のデータ開示は進んでいるが 、資源循環(グループ全体の廃棄物総量、品目別排出量、リサイクル率、水使用量など)や、事業活動が生物多様性に与える影響に関する定量的なデータ収集・管理体制、およびそれに基づく網羅的な情報開示は、まだ十分とは言えない状況にある。これは、グループ全体の環境パフォーマンスを正確に把握し、効果的な改善策を立案・実行する上での基盤となる部分であり、強化が必要な領域である。(分析セクション 2.2.3 および 2.3.3 参照)
Scope3排出量管理の具体性: 2024年度からNTVでScope3排出量の算定に着手する計画は前向きな一歩であるが 、放送・メディア事業の特性上、Scope3排出量はScope1, 2と比較して大きいと予想される。特に、カテゴリ1(購入した製品・サービス:番組制作委託費、資材購入費など)、カテゴリ3(Scope1, 2に含まれない燃料・エネルギー関連活動)、カテゴリ6(出張)、カテゴリ7(雇用者の通勤)などが主要な排出源となると考えられる。これらの排出量を正確に把握し、サプライチェーン全体を巻き込んだ具体的な削減戦略を策定・実行していくことは、カーボンニュートラル目標達成に向けた大きな課題となる。
グループ全体での連携と戦略浸透: グループ会社による個別の環境活動事例は報告されているものの 、ホールディングス全体としての一貫した環境戦略、具体的なKPI(重要業績評価指標)の設定と進捗管理、グループ会社間での目標共有や成功事例の横展開が、どの程度効果的に行われているかは、外部からは見えにくい。2050年カーボンニュートラルといったグループ全体の長期目標を達成するためには、ホールディングス主導によるガバナンス強化と、グループ各社の事業特性に応じた取り組みを連携させる仕組みが不可欠である。
目標と実績のギャップと実行計画: 特に、NTVにおける2030年再生可能エネルギー比率100%という目標は野心的である一方、2023年度実績(19.4%)との間に大きなギャップが存在する 。このギャップを埋めるための具体的なロードマップ、年次目標、投資計画、調達戦略などが明確に示されていない点は、目標達成の実現可能性に対する懸念材料となりうる。(分析セクション 2.1.3 参照)
持続可能な制作体制の確立: 業界ベストプラクティスで見たような、環境負荷を低減するコンテンツ制作プロセス(省エネ、廃棄物削減、輸送効率化など)が、NTV HDグループの制作現場全体でどの程度標準化され、実践されているかは不明確である。制作コストの増加や納期の制約といった現実的な課題と、環境配慮をどのように両立させていくか、具体的な仕組み作りが課題となる可能性がある。
上記の課題を踏まえ、NTV HDが今後、環境パフォーマンスをさらに向上させ、持続可能な成長を実現するために注力すべき分野と具体的な行動について、以下の通り推奨する。
資源循環戦略の体系的な強化:
まず、NTV HDグループ全体の廃棄物排出量(総量、および可能であれば種類別:例:一般廃棄物、産業廃棄物、紙類、プラスチック類、美術セット由来廃棄物、電子廃棄物など)と、リサイクル量・率、水使用量に関するベースライン(基準年)データを確立する。
その上で、具体的な削減目標を設定・公開する。例えば、「20XX年度までに廃棄物排出原単位(例:売上高あたり、従業員一人あたり)をXX%削減する」「20XX年度までにリサイクル率をXX%以上に向上させる」といった目標が考えられる。
特に、放送事業特有の廃棄物である番組美術セットや放送・IT機材等の電子廃棄物に関して、リユース(再利用)・リサイクルプロセスを強化する。これには、設計段階での解体・リサイクル容易性の考慮、分別回収システムの徹底、信頼できるリサイクル業者との連携強化などが含まれる。NHKアートにおける共通セットの活用や水平リサイクルの試み など、業界内外の先進事例を参考に、具体的な施策を検討・導入し、その実績(リユース・リサイクル量、率など)を定量的に開示する。
Scope3排出量削減の具体化と推進:
NTVにおけるScope3算定開始を契機に、グループ全体での主要なScope3排出カテゴリを特定し、算定範囲と精度を段階的に向上させる。
算定結果に基づき、排出削減ポテンシャルの大きいカテゴリ(例:番組制作委託、資材調達、出張など)に焦点を当てた具体的な削減目標を設定する。
サプライヤーエンゲージメントプログラムを導入・強化し、主要なサプライヤー(制作会社、技術会社、美術会社、運送会社など)に対して環境配慮(例:再エネ利用、省エネ、廃棄物削減)を求めるとともに、削減に向けた協働体制を構築する。調達基準に環境項目を盛り込むことも有効である。
持続可能なコンテンツ制作体制の確立と推進:
業界のベストプラクティス やアルバート認証基準などを参考に、NTV HDグループ独自の「持続可能なコンテンツ制作ガイドライン」を策定し、グループ内および主要な外部パートナーに周知・導入する。ガイドラインには、エネルギー使用、輸送、資材選択、廃棄物管理、水使用、生物多様性への配慮など、制作の各段階における具体的な推奨事項や必須事項を盛り込む。
番組プロデューサー、ディレクター、美術スタッフ、技術スタッフなど、制作に関わる全ての従業員および外部スタッフを対象とした研修プログラムを実施し、ガイドラインの理解促進と環境配慮意識の向上を図る。
バーチャルプロダクション技術の導入可能性を継続的に評価し、適用可能な番組・分野での活用を積極的に推進する。
アルバート認証などの国際的な外部認証の取得を、特定の番組や部門から試行的に開始し、その経験をグループ全体に展開することを検討する。
生物多様性への貢献活動の深化と評価:
「かがくの里」や「日本列島ブルーカーボンプロジェクト」といった既存の保全・再生プロジェクトを継続・発展させるとともに、それらの活動による定量的な成果(例:CO2吸収・固定量、対象エリアにおける生物種数や個体数の変化など)を科学的な手法に基づいて測定・評価し、開示する。(分析セクション 2.1.2 参照)
新規の事業開発(例:大規模スタジオ建設、不動産開発)や、自然環境への影響が大きい可能性のある番組ロケ(例:秘境での撮影、大規模なセット設営を伴うロケ)を実施する際には、事前に生物多様性への影響評価(アセスメント)を行うプロセスを導入する。評価結果に基づき、負の影響を回避・最小化するための措置(例:代替地の検討、実施時期の調整、環境配慮型工法の採用、原状回復計画の策定など)を講じる。(分析セクション 2.3.3 参照)
目標として掲げているOECM認定取得に向けて、対象候補地の選定、保全管理計画の策定、申請プロセスなどを含む具体的なロードマップを作成し、実行に移す。
情報開示の拡充と透明性の向上:
資源循環(廃棄物、リサイクル率、水使用量)および生物多様性(具体的な保全活動の成果、事業影響評価の結果など)に関する定量的な目標と実績データの開示を拡充する。
気候変動に関する目標、特にNTVの2030年再エネ100%目標達成に向けた具体的なロードマップ、中間目標、年次進捗状況、および具体的な施策(投資計画、調達戦略など)を詳細に開示する。(分析セクション 2.1.3 参照)
TCFD提言に基づき、特定された物理的リスク(例:異常気象、海面上昇)に対する具体的な適応策とその進捗状況を開示する。(分析セクション 3.1.2 参照)
サステナビリティ関連の活動(特にコンテンツ制作やキャンペーン)が、視聴率、ブランドイメージ、従業員エンゲージメント、収益など、企業の事業価値(財務的・非財務的)にどのように貢献しているかを評価し、その結果を開示する試みを行う。(分析セクション 3.2 参照)
NTV HDの環境パフォーマンスを評価する上で、同業他社の取り組みとの比較は重要な視点を提供する。ここでは、日本の主要な放送持株会社を競合として特定し、各社の環境戦略、具体的な取り組み、パフォーマンスについて比較分析を行う。
日本のメディア・放送業界におけるNTV HDの主要な競合企業として、以下の放送持株会社が挙げられる。これらの企業は、地上波テレビ放送を中核としつつ、BS/CS放送、コンテンツ制作・販売、不動産、イベントなど、類似した事業ポートフォリオを有している 。
TBSホールディングス株式会社 (TBS HD)
株式会社テレビ朝日ホールディングス (TV Asahi HD)
株式会社フジ・メディア・ホールディングス (Fuji Media HD)
株式会社テレビ東京ホールディングス (TV Tokyo HD)
各社の公開情報に基づき、気候変動、資源循環、生物多様性の各分野における戦略と取り組みを比較する。
TBSホールディングス (TBS HD):
気候変動: 「カーボンゼロ」を重要なマテリアリティとして掲げ、具体的な目標を設定している。特に、2026年度までにグループ全社の使用電力を100%再生可能エネルギー由来に切り替えるという目標は、業界内でも野心的である 。TCFD提言に沿った情報開示を実施しており 、Scope3排出量の算定にも着手している 。技術面では、世界初の水素燃料電池中継車「地球を笑顔にするくるま」を導入・運用している点が特徴的である 。また、進行中の「赤坂エンタテインメント・シティ計画」においては、省エネルギー化や緑化に加え、複数のグリーンビルディング認証(CASBEE、LEED、DBJ Green Building、BELS、ZEB)の取得を目指しており、不動産開発における環境配慮を重視している 。
資源循環: 「持続可能なコンテンツ制作」の推進を掲げ、前述の通り、グループ会社制作番組で日本の民放として初めてアルバート認証を取得した 。また、「TBSグループ水資源保全方針」を策定し、水使用量の削減と保全に取り組んでいる 。
生物多様性: 東京都心部の赤坂にある放送センター敷地内で、ミツバチの飼育(約20万匹)を行う「ミツバチプロジェクト」や、ビオトープの設置・管理を通じて、都市部における生物多様性保全と環境教育に貢献している 。
テレビ朝日ホールディングス (TV Asahi HD):
気候変動: 東京都環境確保条例に基づく基準値(2005~2007年度平均)に対するCO2排出量の削減目標を設定し、毎年度の実績を開示している 。2023年度実績では、基準値比で28.2%の削減を達成した。本社屋では地域冷暖房(コージェネレーション)システムからの熱供給を受けているほか、屋上緑化、遮熱フィルム施工、照明のLED化(スタジオ照明含む)、グリーン電力証書の購入(テレビ朝日およびBS朝日で導入)など、多岐にわたる削減策を実施している 。連結子会社のシンエイ動画では、屋上に太陽光パネルを設置し、使用電力の約20%を賄っている 。
資源循環: 廃棄物発生量とリサイクル率の実績を年度ごとに開示している。2023年度のリサイクル率は84.7%であった 。全業務エリアでのごみ分別を徹底し、リサイクル意識の向上を図っている 。
生物多様性: サステナビリティ宣言において「地球とともに」というテーマを掲げ、社会・環境課題解決に向けた情報発信を行う方針を示しているが 、具体的な生物多様性保全プロジェクトに関する情報は、提供された資料からは限定的である。
フジ・メディア・ホールディングス (Fuji Media HD):
気候変動: 「美しい地球環境を未来につなぐ」ことをマテリアリティの一つに掲げ、TCFD提言に基づく情報開示を行っている 。中核会社のフジテレビは、2023年度に本社ビルと湾岸スタジオで使用する電力を実質再生可能エネルギー100%で賄うことを達成した 。これにより、グループ全体のCO2排出量は基準年(具体的な基準年は未記載だが、前年比および複数年比較の文脈から推測)比で28.8%、前年度比で15.0%削減された 。また、グループ会社のニッポン放送は、木更津送信所に大規模太陽光発電所(メガソーラー)を設置・運用している 。
資源循環: フジテレビ本社では、ペーパーレス化、録画テープのリユース、中水(厨房排水の処理水)のトイレ洗浄水への利用などを通じて、廃棄物削減と水資源保全に取り組んでいる。その結果、2021年度には99.9%という非常に高いリサイクル率を達成したと報告されている 。
生物多様性: 東日本大震災の被災地復興支援の一環として、福島県沿岸部に桜を植樹する「ふくしま浜街道・桜プロジェクト」への寄付を行っている 。また、フジサンケイグループとして、地球環境保全に貢献する企業や団体を表彰する「地球環境大賞」を主催している 。
テレビ東京ホールディングス (TV Tokyo HD):
気候変動: 2024年度末までの目標としていたグループ全体のCO2排出量(Scope1+2)実質ゼロを、J-クレジット等の活用により1年前倒しし、2023年度に達成した 。これは、目標達成時期において競合他社をリードする動きである。具体的な取り組みとして、2021年11月から東京・天王洲スタジオで使用する電力を全て再生可能エネルギー(バイオマス発電由来)に切り替え、CO2排出ゼロを実現した 。これにより、グループ全体の電力使用に伴うCO2排出量の約20%を削減した。また、神谷町スタジオの照明LED化も進めている 。TCFD提言に基づく情報開示も行っている 。
資源循環: 年2回実施される「テレ東系SDGsウイーク」などのキャンペーンを通じて、「何ひとつ無駄にしないプロジェクト」(耕作放棄地での農業、廃棄物の有効利用)や「フルーツロス」削減といった資源循環に関連するテーマを取り上げ、番組コンテンツによる情報発信・啓発活動に力を入れている 。ただし、グループ全体の廃棄物削減目標やリサイクル率に関する定量的な情報は開示されていない。
生物多様性: 看板番組の一つである「緊急SOS!池の水ぜんぶ抜く大作戦」を通じて、外来種駆除による在来生態系の保全活動を継続的に放送している 。また、「ネイチャーポジティブ」(自然再生)をテーマとした特別番組を制作・放送するなど、コンテンツを通じた生物多様性への貢献を重視している 。
各社の戦略と取り組みを踏まえ、環境パフォーマンスを比較する。
CO2削減・再生可能エネルギー:
目標達成時期:TV Tokyo HDはクレジット活用によりScope1+2実質ゼロを2023年度に達成済み 。TBS HDは2026年度の再エネ100%目標を掲げる 。NTV HDは2030年度目標(NTV単体で50%削減、再エネ100%)であり 、Fuji Media HDは主要拠点で再エネ100%を達成したがグループ全体の目標時期は不明確 。TV Asahi HDは都条例基準での削減目標を設定している 。目標達成の前倒しや短期目標の野心度においては、TBS HDとTV Tokyo HDが一歩リードしているように見える。
実績:NTV HDのNTV単体での再エネ比率は2023年度19.4%であり、目標達成には大幅な向上が必要 。Fuji Media HDは主要拠点で100%達成 。TV Asahi HDも着実な削減実績を示している 。TV Tokyo HDは実質ゼロ達成 。各社とも削減努力はしているが、アプローチ(自社削減努力、再エネ調達、クレジット活用など)と進捗には差が見られる。NTV HDが気候変動対策のペースにおいて、一部競合に後れを取っている可能性が示唆される。目標達成に向けた取り組みの加速と、その戦略の有効性を継続的に評価する必要がある。
資源循環:
情報開示:TV Asahi HDとFuji Media HD(フジテレビ)は、廃棄物量やリサイクル率に関する定量データを年度ごとに開示しており、透明性が比較的高い 。特にフジテレビの報告するリサイクル率(99.9%)は際立って高い 。一方、NTV HD、TBS HD、TV Tokyo HDについては、グループ全体の定量的な廃棄物・リサイクルデータの開示が限定的である。
取り組み:TBS HDは、アルバート認証取得を通じて、番組制作プロセスにおける環境負荷削減に具体的に取り組んでいる点が特徴的である 。TV Tokyo HDは、番組コンテンツを通じた資源循環に関する啓発活動に注力している 。NTV HDはグループ会社による個別活動が中心である 。資源循環に関する情報開示レベルは競合間で差が大きく、業界全体での報告基準や取り組みレベルにばらつきがあることを示している。NTV HDにとっては、TV Asahi HDなどの情報開示のベストプラクティスに倣い、透明性を高めることが、ステークホルダーからの信頼向上に繋がる可能性がある。
生物多様性:
具体的な保全活動:NTV HDの「かがくの里」プロジェクト やTBS HDの赤坂での「ミツバチプロジェクト」 は、自社が関与する土地での具体的な生態系保全・再生への取り組みとして注目される。
コンテンツ連携:TV Tokyo HDは、「池の水ぜんぶ抜く大作戦」や「ネイチャーポジティブ」特番など、生物多様性をテーマとした番組コンテンツ制作・放送に強みを持つ 。NTV HDも「かがくの里」を通じて同様のアプローチをとっている 。
支援・啓発:Fuji Media HDは「ふくしま浜街道・桜プロジェクト」支援 や「地球環境大賞」主催 、TV Asahi HDはサステナビリティ宣言での言及 など、活動への支援や情報発信を中心としている。
各社とも何らかの形で生物多様性に関与しているが、そのアプローチ(直接的な保全活動、コンテンツ連携、支援・啓発)には違いが見られる。
この比較から、日本の主要放送持株会社グループは、各社それぞれの強みや戦略に基づき、環境課題に取り組んでいることがわかる。NTV HDにとっては、競合他社の先進的な取り組み(例:TBS HDの短期再エネ目標、TV Tokyo HDの実質ゼロ達成、TV Asahi HDやFuji Media HDの資源循環データ開示、TBS HDのアルバート認証)をベンチマークとし、自社の戦略や取り組みの改善に繋げていくことが重要となる。
企業の環境・社会・ガバナンス(ESG)への取り組みは、外部の評価機関によってスコアリングされ、投資判断や企業評価の指標として用いられている。ここでは、NTV HDおよび主要競合企業の公開されているESG評価スコアを比較し、NTV HDの相対的なポジションを評価する。
主要なESG評価機関によるスコア情報を以下に記述形式でまとめる。
Sustainalytics ESGリスクレーティング (Sustainalytics ESG Risk Rating): Sustainalyticsは、企業が直面するESGリスクの大きさ(エクスポージャー)と、それらをどの程度管理できているか(マネジメント)を評価し、未管理のリスク(Managed Risk)をスコア化する 。スコアが低いほどリスクが低いことを示す。
NTV HDのスコアは17.7であり、「低リスク (Low Risk)」カテゴリーに分類される。メディア業界(全266社中)での順位は165位である(2024年5月23日時点)。
TBS HDのスコアは17.5であり、同じく「低リスク」カテゴリー。業界順位は161位である 。
TV Tokyo HDのスコアは17.9であり、「低リスク」カテゴリー。業界順位は172位である(2024年10月29日時点)。
Fuji Media HDおよびTV Asahi HDに関するSustainalyticsのスコアは、提供された資料からは確認できなかった 。
記述的比較: NTV HD、TBS HD、TV Tokyo HDの3社はいずれもSustainalyticsから「低リスク」と評価されており、スコアも近接している(17.5~17.9の範囲)。この僅差の中で比較すると、TBS HDが最もリスクが低いと評価され、次いでNTV HD、TV Tokyo HDの順となっている。これは、これらの企業が直面するESGリスクの構造や、それに対する管理策の有効性が、評価機関からは類似していると見なされていることを示唆する。突出して高い評価を得ている企業も、著しく低い評価の企業もない状況と言える。業界内での相対的なポジションは中位に位置している。
CDPスコア (CDP Score): CDPは、企業に対して気候変動、水セキュリティ、フォレストに関する質問書を送付し、その回答内容に基づいて環境パフォーマンスを評価する国際的な非営利団体である 。評価はA(リーダーシップレベル)からD-(情報開示レベル)の8段階で行われ、無回答の場合はFとなる 。
NTV HDの最新のCDPスコアに関する情報は、提供された資料からは確認できなかった。2013年の古いレポートには「52 D」という記載があるが 、これは現在の評価体系やパフォーマンスを反映していない。
Fuji Media HDについても最新スコアは不明である。一部の外部サイトでは「F」(無回答または最低評価)と示唆する情報が見られるが 、これは確定情報ではない。同社はTCFD提言に基づく情報開示は行っている 。
TV Asahi HDについても最新スコアは不明である 。同社もTCFD提言に基づく情報開示は行っている 。
TBS HDおよびTV Tokyo HDに関するCDPスコア情報も、提供された資料には含まれていない。両社ともTCFD提言に基づく開示は実施している 。
記述的比較: 日本の主要な放送持株会社グループ全体として、CDPへの回答状況や獲得スコアに関する公開情報が非常に限定的である。多くの企業がTCFD提言に基づく情報開示は進めているものの、CDPという、より詳細な環境情報開示プラットフォームへの参加・情報開示には、業界としてまだ濃淡があるか、あるいは積極的でない可能性が示唆される。これは、他の産業セクター(例:製造業、金融業など)ではCDPのAリスト企業が多数存在すること と比較すると対照的である。放送業界特有の課題(例:Scope3算定の複雑さ)が背景にある可能性も考えられるが、全体として気候変動に関する情報開示の深さや標準化において、改善の余地がある可能性を示唆している。
MSCI ESGレーティング (MSCI ESG Rating): MSCIは、企業のESGリスクと機会を評価し、AAA(最高評価)からCCC(最低評価)の7段階で格付けする 。
NTV HDおよび主要競合他社(TBS HD, TV Asahi HD, Fuji Media HD, TV Tokyo HD)に関する具体的なMSCI ESGレーティングの情報は、提供された資料からは確認できなかった 。
その他のインデックス構成銘柄選定:
NTV HDは、FTSE Russell社が設計するESG指数「FTSE Blossom Japan Sector Relative Index」の構成銘柄に選定されている 。この指数は、各セクターにおいて相対的に優れたESG対応(特に気候変動リスク・機会への対応)を行っている日本企業を選定するものであり、NTV HDの取り組みが一定の評価を得ていることを示している。日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)も、この指数をESG投資のベンチマークの一つとして採用している 。
全体的な評価: NTV HDは、Sustainalyticsの評価では競合他社と同程度の「低リスク」評価を受けており、FTSE Blossom Japan Sector Relative Indexの構成銘柄にも選定されていることから、ESGリスク管理に関して一定レベルの取り組みが外部から認識されていると言える。
改善の余地: しかし、SustainalyticsのスコアでTBS HDに僅かに劣後している点や、CDPスコアに関する情報の不明確さは、更なる改善の余地を示唆している。特に、CDPのような詳細な環境情報開示プラットフォームへの積極的な参加と、そこでの高評価獲得は、グローバルな投資家からの評価を高める上で重要となる可能性がある。日本の放送業界全体としてCDPへの対応が遅れている可能性が示唆される中で、NTV HDが率先して詳細な情報開示を進めることは、業界内でのリーダーシップを示す機会ともなりうる。
差別化の必要性: Sustainalyticsの評価に見られるように、主要競合との差が僅少である現状を踏まえると、業界内でESGパフォーマンスにおける明確な差別化を図るためには、特定の分野(例:持続可能なコンテンツ制作体制の確立と認証取得、資源循環率の大幅な向上と透明性の高い開示、サプライチェーンを含むScope3排出量の野心的な削減目標設定と実行など)で先進的な取り組みを強化し、その成果を効果的に外部へ発信していくことが重要になる。現状維持では、競合他社との相対的な評価を大きく向上させることは難しい可能性がある。
本レポートでは、日本テレビホールディングス(NTV HD)の環境イニシアチブとパフォーマンスを、気候変動、資源循環、生物多様性の3分野に焦点を当てて分析した。
気候変動: NTV HDは、中核会社NTVにおいて2030年度までにScope1+2排出量50%削減(2019年度比)と電力の再エネ比率100%達成、グループ全体で2050年カーボンニュートラルという明確な目標を設定している 。TCFD提言に基づく情報開示 、省エネ・再エネ導入の推進 、そしてユニークな取り組みとして「日本列島ブルーカーボンプロジェクト」 を実施するなど、積極的な姿勢が見られる。しかし、2030年再エネ目標達成に向けては、現状(2023年度19.4%)との間に大きなギャップがあり、目標達成に向けた具体的な道筋と実行力が今後の課題である 。
資源循環: グループ会社による個別的な取り組み(リサイクルトイレットペーパーの使用、環境配慮型製品の販売など)は見られるものの 、グループ全体としての廃棄物削減やリサイクルに関する定量的な目標設定や実績開示は限定的である。特に、放送事業特有の廃棄物(美術セット、電子廃棄物など)に関する体系的な管理戦略の開示が待たれる。競合他社(TV Asahi HD, Fuji Media HD)がリサイクル率を開示している点と比較すると、情報開示の面で改善の余地がある 。
生物多様性: 番組「所さんの目がテン!」内の「かがくの里」プロジェクトは、里山再生と生物多様性向上に具体的に貢献し、外部評価も得ている成功事例である 。また、環境省推進の「30by30アライアンス」への参画 やOECM認定取得目標 など、国や国際的な目標への貢献意欲も示している。一方で、事業活動全体の生物多様性への影響評価や、サプライチェーンにおける配慮に関する情報は不足している。
リスクと機会: TCFD分析を通じて、気候変動に伴う移行リスク(政策・市場・評判リスク等)と物理的リスク(異常気象、海面上昇等)、およびビジネス機会(環境関連コンテンツ需要増、フィットネス事業需要増等)を広範に特定している 。しかし、物理的リスクに対する具体的な適応策や、特定された機会がどの程度事業価値に繋がっているかの定量的な評価については、情報開示の深化が望まれる。
競合比較とベンチマーキング: 主要競合他社(TBS HD, TV Asahi HD, Fuji Media HD, TV Tokyo HD)も環境への取り組みを進めており、目標達成時期(特に気候変動)や情報開示レベル(特に資源循環)、具体的な取り組み(例:TBS HDのアルバート認証)において、NTV HDが先行されている側面も見られる。SustainalyticsによるESGリスク評価では競合とほぼ同水準の「低リスク」評価を得ているが 、CDPスコアに関する情報が不明確であるなど、外部評価においても更なる向上を目指す余地がある。
NTV HDは、日本のメディア・放送業界におけるリーディングカンパニーとして、環境課題への取り組みを進めており、特に気候変動対策における目標設定や、生物多様性保全における「かがくの里」のようなユニークな活動は評価できる。メディアとしての情報発信力を活かした環境啓発活動にも積極的に取り組んでいる。
しかしながら、環境パフォーマンス全体として見ると、いくつかの側面で改善の余地が残されている。具体的には、①設定した目標(特に再エネ100%)達成に向けた実行計画の具体性と進捗の加速、②資源循環に関するグループ全体での戦略、目標設定、定量的な実績開示の強化、③サプライチェーンを含むScope3排出量の把握と削減策の具体化、④事業活動全体の生物多様性への影響評価と配慮の組み込み、⑤物理的な気候変動リスクに対する具体的な適応策の策定と開示、⑥持続可能なコンテンツ制作体制の確立と標準化、などが挙げられる。
これらの課題に対応し、取り組みを深化させることが、NTV HDが環境面でのリーダーシップを発揮し、長期的な企業価値向上と社会からの信頼獲得に繋がる鍵となるだろう。
NTV HDが持続可能な成長を達成するためには、本レポートで提案した推奨事項を着実に実行に移していくことが重要である。資源循環戦略の体系化、Scope3排出量削減の具体化、持続可能なコンテンツ制作ガイドラインの導入・推進、生物多様性への貢献活動の深化と評価、そしてこれらに関する透明性の高い情報開示の拡充は、環境パフォーマンスを向上させるだけでなく、ESG投資家をはじめとするステークホルダーからの評価を高める上でも不可欠である。
特に、メディア企業としての根幹であるコンテンツ制作プロセスに、環境配慮を体系的に組み込むこと(持続可能なコンテンツ制作)は、単なるコスト要因ではなく、新たな価値創造やブランドイメージ向上、さらには優秀な人材の獲得・維持にも繋がる戦略的な取り組みとなりうる。業界のベストプラクティスや外部認証(アルバート認証など)を積極的に取り入れ、制作現場の意識改革と実践を促すことで、NTV HDは環境負荷削減とクリエイティビティを両立させ、持続可能なメディア企業としての競争力を強化していくことができるだろう。
今後、NTV HDがこれらの課題に真摯に向き合い、具体的な行動を通じて環境パフォーマンスを着実に向上させていくことが、同社の持続的な成長と、より良い社会の実現への貢献に繋がることを期待する。
2023年 | 3,956t-CO2 |
2022年 | 2,212t-CO2 |
2021年 | - |
2023年 | 18,812t-CO2 |
2022年 | 22,140t-CO2 |
2021年 | - |
2023年 | - |
2022年 | - |
2021年 | - |
スコープ1+2 CORの過去3年推移
2023年 | 54kg-CO2 |
2022年 | 59kg-CO2 |
2021年 | 0kg-CO2 |
スコープ3 CORの過去3年推移
2023年 | 0kg-CO2 |
2022年 | 0kg-CO2 |
2021年 | 0kg-CO2 |
スコープ1+2のCOA推移
2023年 | 19kg-CO2 |
2022年 | 24kg-CO2 |
2021年 | 0kg-CO2 |
スコープ3のCOA推移
2023年 | 0kg-CO2 |
2022年 | 0kg-CO2 |
2021年 | 0kg-CO2 |
2023年 | 4,235億円 |
2022年 | 4,140億円 |
2021年 | 4,064億円 |
2023年 | 347億円 |
2022年 | 341億円 |
2021年 | 474億円 |
2023年 | 1兆1833億円 |
2022年 | 1兆355億円 |
2021年 | 1兆616億円 |
すべての会社と比較したポジション
業界内ポジション
CORスコープ1+2
CORスコープ3
CORスコープ1+2
CORスコープ3
COAスコープ1+2
COAスコープ3
COAスコープ1+2
COAスコープ3