カテゴリー | 2021年度 | 2022年度 | 2023年度 |
---|---|---|---|
1購入した製品・サービス | - | 56,912 | 66,842 (▲9,930) |
2資本財 | - | 95,803 | 100,275 (▲4,472) |
3燃料・エネルギー関連活動 | - | 33,940 | 35,960 (▲2,020) |
5事業から発生する廃棄物 | - | 5,973 | 2,945 (▼3,028) |
6出張 | - | 490 | 484 (▼6) |
小田急グループは2024年4月1日より、小田急線、箱根登山線、江ノ電など対象全線で、運行に使用する全電力を実質再生可能エネルギー由来に切り替え。これにより年間約156,000トンのCO2排出量を実質ゼロにし、「カーボンニュートラル2050」達成を目指す。併せてICP制度も導入 。
※掲載情報は公開資料をもとに作成しており、全てのリスク・機会を網羅するものではありません。 より詳細な情報は企業の公式発表をご確認ください。
低炭素輸送サービスや環境配慮型商品・サービスへの需要増、省エネ・高レジリエンス建物(ZEB/ZEH)への需要増が見込まれる。地域での脱炭素・資源循環関連の新規事業(例:WOOMS)展開や、気候変動適応策強化による事業継続性・ブランド価値向上が期待される 。
小田急電鉄株式会社(以下、「小田急」または「同社」)は、東京都心部と神奈川県西部を結ぶ主要な民間鉄道事業者であり、運輸業を核に、不動産業、流通業、その他サービス業など多岐にわたる事業を展開している 1。特に、箱根、江の島、大山といった自然豊かな観光地へのアクセスを提供しており、事業活動は沿線地域の環境と密接に関連し、その恩恵を受けると同時に影響も与えている 4。近年、気候変動や資源枯渇、生物多様性の損失といった地球規模の環境課題が深刻化する中、社会や投資家からは、特に社会インフラを担う企業に対して、環境・社会・ガバナンス(ESG)への配慮と持続可能な経営の実践が強く求められている。小田急グループは、こうした状況を踏まえ、環境経営を重要な経営課題と位置付けている。
本報告書は、小田急の環境への取り組みとパフォーマンスについて、「気候変動」「資源循環」「生物多様性」の3つの重点分野を中心に包括的に分析することを目的とする。同社の公式報告書やウェブサイト開示情報、競合他社の動向、業界のベストプラクティス、第三者評価機関による環境スコアなどを基に、具体的な施策、目標、実績データを詳述し、環境リスクと機会を評価する。これにより、同社の環境スコアリングに必要な詳細情報を提供するとともに、今後の戦略的な方向性に関する考察を行う。報告書の構成は、まず小田急の環境戦略とガバナンス体制を概観し、次に気候変動、資源循環、生物多様性の各分野における具体的な取り組みと実績を分析する。続いて、環境関連のリスクと機会、業界のベストプラクティス、競合他社との比較、環境スコアのベンチマーキングについて述べる。最後に、現状の課題を評価し、将来に向けた推奨事項を提示する。
小田急グループは、「美しい地球環境と優しい社会を未来の世代に引き継ぐことを使命とし、事業活動を通じてCO2排出削減や資源循環、自然資源の保全・活用などの環境課題に積極的に取り組みます」という環境ビジョンを掲げている 5。このビジョンの下、中核となる環境長期目標として「小田急グループ カーボンニュートラル2050」を策定し、2050年度までにグループ全体のCO2排出量を実質ゼロにすることを目指している 5。この達成に向けた中間目標として、2030年度までにグループのCO2排出量を2013年度比で50%削減することを掲げている 5。
これらの環境目標は、同社グループの経営ビジョン「UPDATE 小田急 ~地域価値創造型企業に向けて~」とも連動している 4。このビジョンは、事業を通じて地域の課題解決や持続可能性向上に貢献し、沿線価値と企業価値を共に高めていくことを目指すものであり、環境への取り組みが事業戦略と一体であることを示している 10。
環境ビジョンと長期目標を達成するため、小田急グループは以下の3つの柱からなる環境戦略を推進している 7。
UPDATE 1:脱炭素社会の実現: グループ全体のCO2排出量実質ゼロ化、地域社会の脱炭素化への貢献、環境負荷の低い公共交通へのシフト促進を目指す。
UPDATE 2:資源循環社会の実現: グループ内での5R(Reduce, Reuse, Recycle, Refuse, Repair)推進、地域社会における資源循環課題の解決を目指す。
UPDATE 3:自然保全と活用: 森林、里地、河川、海洋などの保全活動推進、自然資源の持続可能な活用を目指す。
小田急は、気候変動関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に2021年9月に賛同を表明し、気候変動が事業に与えるリスクと機会に関する情報開示を進めている 5。TCFD提言に基づく具体的な分析結果は、同社ウェブサイト等で公開されている 18。
さらに、2024年3月には自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)の提言にも賛同し、TNFD Adopterとして登録したことを公表した 15。これは、気候変動問題に加えて、自然資本や生物多様性に関するリスクと機会についても、事業戦略への統合と情報開示を進める意思を示すものである。TNFDフレームワーク(特にLEAPアプローチ)に基づき、全事業セグメントを対象とした自然関連の依存・影響、リスク・機会の分析を進めている 15。
TCFDへの賛同(2021年)に続き、TNFDへも対応(2024年)を進めるという時系列は、企業がまず気候変動対策とその情報開示フレームワークに対応し、その後、より広範な自然関連課題へと焦点を拡大していく一般的な傾向を反映していると考えられる。これは、TCFDがTNFDよりも早く設立され(TCFD:2015年、TNFD:2021年設立、2023年最終提言)、規制当局や投資家の関心も気候変動問題に先行して高まったためである。このことから、現時点では同社の気候変動に関する戦略やデータの方が、生物多様性に関する戦略やデータよりも具体化・詳細化されている可能性がある。
小田急グループでは、サステナビリティ担当執行役員を委員長とする「サステナビリティ推進委員会」を設置し、環境方針の審議、目標達成に向けた進捗管理、気候変動や自然関連を含むリスク・機会の特定と評価、実績管理などを行っている 6。取締役会および取締役社長は、同委員会から定期的に報告を受け、進捗状況やリスク・機会を監視し、必要に応じて指示を行う体制となっている 6。これにより、環境経営がトップマネジメントの監督下で推進されるガバナンス体制が構築されている。
小田急グループは、2030年度にCO2排出量を2013年度比50%削減、2050年度に実質ゼロという目標を掲げている 7。2023年度の実績としては、グループ全体のCO2排出量(Scope1+2)は2013年度比で20.6%の削減となった 9。
詳細なGHG排出量データ(Scope1, 2)は以下の通りである。
小田急グループ全体 (Scope1+2, マーケット基準):
2023年度: 30万トンCO2 20
2022年度: 35万トンCO2 20
2030年度目標: 19万トンCO2 20
小田急電鉄単体(鉄道部門)(Scope1+2):
2023年度: 126,814トンCO2 20
2022年度: 151,692トンCO2 20
小田急電鉄単体(不動産部門・本社ほか)(Scope1+2):
2023年度: 62,521トンCO2 20
2022年度: 77,959トンCO2 20
2023年度のグループ全体のScope1+2排出量(30万トン)は、2022年度(35万トン)から大幅に減少し、前年比で14.3%の削減となっている。これは、2013年度からの10年間の平均削減率(年平均約2%)と比較して、近年、削減ペースが加速していることを示唆している。この加速の主な要因は、後述する再生可能エネルギー導入の拡大、特に2024年4月からの鉄道運行電力の実質再エネ100%化に向けた動きがScope2排出量削減に大きく寄与したためと考えられる 28。
Scope3排出量については、2022年度から集計が開始されており、2023年度の小田急電鉄単体のScope3排出量は合計で254,511トンCO2であった 20。これは、同社の鉄道部門のScope1+2排出量(126,814トン)を上回り、グループ全体のScope1+2排出量(30万トン)に迫る規模である。特に、「カテゴリ1:購入した製品・サービス」(66,842トン)と「カテゴリ2:資本財」(100,275トン)が大きな割合を占めている 20。この事実は、サプライチェーン全体での排出量削減、特に資材調達や設備投資における環境配慮(サステナブル調達)の重要性を示している 30。インフラ集約型産業である鉄道会社にとって、資本財からの排出が大きいことは想定されるが、その規模の大きさはサプライヤーとの連携強化が不可欠であることを示唆している。
再生可能エネルギー導入:
鉄道運行電力の再エネ化: 2024年4月1日より、小田急線、箱根登山電車、箱根登山ケーブルカー、箱根ロープウェイ、江ノ島電鉄、大山ケーブルカーの運行に使用する全電力を実質再生可能エネルギー由来に切り替えた 28。これにより、年間約156,000トンのCO2排出量削減効果が見込まれる 29。
ゼロカーボン・ロマンスカー: 2022年4月より、東京都のキャップ&トレード制度(C&T制度)のクレジットを活用し、特急ロマンスカー全編成をCO2排出量実質ゼロで運行している 8。
太陽光発電: 駅舎(東松原、下北沢、世田谷代田など)や商業施設(経堂コルティなど)の屋上等に太陽光発電パネルを設置し、発電した電力を駅照明や自動券売機、施設の空調などに利用している 5。
ハイブリッド発電: はるひ野駅など一部の駅では風力・太陽光ハイブリッド発電システムを導入している 33。
顧客向け再エネプラン: 「小田急でんきグリーンプラン」を提供し、森林由来のJ-クレジットを活用した実質CO2フリーの電力を顧客に供給している。料金の一部は森林整備に活用される 34。
省エネルギー施策(車両):
軽量化: 通勤車両にはステンレス、ロマンスカーにはアルミを採用し、車体重量を軽減している 33。
高効率制御: VVVFインバータ制御装置により、モーターへの電力供給を効率化している 33。
回生ブレーキ: ブレーキ時に発生するエネルギーを電力として回収し、他の列車の走行や駅設備に利用している 8。一部区間では蓄電池を設置し、回生電力を貯蔵・有効活用している 8。
省エネ車両導入: 新型通勤車両5000形など、エネルギー効率の高い車両を導入している 28。
省エネルギー施策(駅・施設):
LED照明: 駅施設や商業施設(小田急百貨店町田店など)の照明をLED化している 28。
自然光利用: 地下駅(世田谷代田駅など)において、光ダクトやトップライトを設置し、自然光を導入している 5。
地中熱利用: 一部の駅(下北沢駅など)では地中熱ヒートポンプシステムを導入している 5。
高効率建築: 不動産事業において、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)・ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)化を推進している 32。
運用改善: ビル共用部の空調管理徹底やエネルギー使用量のモニタリングによる運用改善を行っている 32。
小田急電鉄は、省エネルギー設備の導入などCO2排出量削減につながる設備投資を促進することを目的として、2024年度よりインターナルカーボンプライシング(ICP)制度を導入した 7。社内炭素価格は1トンCO2あたり5,000円に設定されている 29。
この5,000円/t-CO2という価格設定は、一部の国際的な炭素市場価格や、本格的な脱炭素化に必要とされる価格水準と比較すると、やや低い水準にあると言える。しかし、導入目的が「省エネルギー設備の導入促進」29 であることを考慮すると、特定の効率改善プロジェクトの投資判断において、費用対効果のバランスを有利にするインセンティブとしては機能する可能性がある。ただし、燃料転換や大規模な再生可能エネルギー導入といった抜本的な対策を促すには、他のインセンティブとの組み合わせや、将来的な価格の見直しが必要となるかもしれない。ICPの導入自体は、2030年目標達成に向けた取り組みを加速させる必要性(前述の削減ペース加速の必要性)と整合する動きである。その実効性は、今後の投資判断プロセスにおいて、この価格がどの程度厳格に適用されるかに依存するだろう。
小田急グループは、資源循環社会の実現に向けた目標として、「廃棄物排出量(収益原単位)の前年度比減」を掲げている 7。2023年度のグループ全体の廃棄物排出量原単位の実績は、5.28トン/億円であった 6。この目標が達成されたかどうかの評価には、前年度(2022年度)の実績値との比較が必要となるが、本報告書の作成時点で参照可能な資料からは、前年度比較は確認できなかった。
小田急電鉄単体のデータを見ると、2023年度の廃棄物総発生量は7,132トン、リサイクル量は3,442トンであり、リサイクル率は48.2%であった 20。このリサイクル率は、完全な循環型経済モデルを目指す上では、改善の余地が大きいことを示している。原単位での削減目標は収益変動の影響も考慮する点で妥当性があるが、同時に、廃棄物全体の削減とリサイクル率の向上も、真の資源循環達成には不可欠な要素である。
小田急グループは、5R(リデュース、リユース、リサイクル、リフューズ、リペア)を意識し、多岐にわたる資源循環の取り組みを推進している 7。
車両のリサイクル: 廃車車両から発生する金属類(重量比90%以上)を可能な限りリサイクルし、冷房装置のフロンガスは全量回収・適正処理している 27。
ペットボトルの水平リサイクル: 駅構内で顧客の協力(キャップ・ラベル分別)を得て回収した使用済みペットボトルを、新たな飲料用ペットボトルに再生する「ボトルtoボトル」リサイクルを推進している 5。新宿駅などにリサイクルステーションを設置している 27。
食品廃棄物のリサイクル:
グループ内の事業所から出る食品残渣を液体飼料(リキッドフィード)化し、その飼料で育てた豚肉を「優とん」ブランドとしてグループ店舗(Odakyu OX、小田急百貨店)で販売する食品リサイクルループを構築している 27。
箱根のホテル「山のホテル」では、2008年から業務用生ごみ処理機を導入し、食品廃棄物を堆肥化して庭園管理に利用している 5。
廃棄物管理サービス(WOOMS): デジタル技術を活用した廃棄物収集・運搬・処理の最適化支援サービス「WOOMS CONNECT」を地域事業者向けに提供し、資源循環の高度化とサーキュラーエコノミーの実現を目指している 11。海老名・座間エリアでの食品残渣共同運搬によるコスト削減実証実験などを実施している 37。
サステナブル素材の利用:
駅や車両から出る廃棄ポスターを再生紙として活用し、社員の名刺(古紙配合率50%)を作成している 27。
一部の仲介店舗やオフィスビルで、リサイクル材を活用した内装材(タイルカーペット、壁紙、フロアタイル)や地元の間伐材を利用している 32。
調達方針として、長期間使用可能で修理しやすい製品、リサイクル材を使用した製品を優先的に購入することを掲げている 30。
リユース・シェアリングの促進:
ホテル(小田急ホテルセンチュリー相模大野)でアメニティバイキングを導入し、使い捨てアメニティの削減を図っている 27。
プラットフォーム「小田急ONE」を通じて、モノ・スキル・空間などのシェアリングエコノミーを推進している 27。
傘シェアリングサービス「アイカサ」の導入を検討している 27。
湘南エリアで電動アシスト自転車によるシェアサイクルサービスを展開している 5。
古民家から取り出した古材を新築住宅に再利用する「KATARITSUGI」プロジェクトを推進している 32。
資源循環に関する教育: 小学生を対象に、ゲーム形式でごみ問題や資源循環について学ぶ環境教育プログラムを実施している 27。
水資源に関しても、小田急グループは「取水量(収益原単位)の前年度比減」を目標としている 7。2023年度のグループ全体の取水量原単位の実績は、0.69千立方メートル/億円であった 6。これも廃棄物同様、目標達成評価には前年度実績との比較が必要である。
小田急電鉄単体のデータでは、2023年度の総取水量は1,630千立方メートルであり、2022年度の1,212千立方メートルから大幅に増加(約34.5%増)している 20。収益の増加(コロナ禍からの回復等)が原単位の改善に寄与した可能性はあるものの、絶対量の増加は注目すべき点である。世界的に水ストレスへの懸念が高まる中、原単位目標の達成と並行して、絶対量の削減に向けた水効率改善策(漏水対策、節水型設備の導入、プロセス最適化など)の検討が望まれる。
小田急グループは、事業活動、特に観光事業を展開する箱根、江の島、大山エリアにおいて、豊かな自然資本(景観、生態系サービス)に大きく依存していることを認識している 6。同時に、土地開発や資材調達、騒音・振動などが自然資本や生態系に影響を与えること、そして自然の劣化が土砂災害などのリスクを高める(防災機能の低下)ことも理解しており、自然資本・生物多様性の保全を重要課題と位置付けている 6。
この認識に基づき、2024年3月にTNFD提言への賛同を表明し、Adopterとして登録した 15。現在、TNFDが推奨するLEAPアプローチ(Locate, Evaluate, Assess, Prepare)を用い、交通業、不動産業、生活サービス業の全事業を対象に、自然への依存度、影響、リスク、機会の特定・評価を進めている 15。ただし、現時点で公開されているTNFD関連の情報開示では、具体的なLEAPアプローチの分析結果の詳細は限定的であり、指標としては既存の廃棄物排出量原単位と取水量原単位が挙げられている 15。同社は今後、特定された依存・影響、リスク・機会を踏まえ、管理すべき自然関連指標を引き続き検討し、情報把握および目標設定に努めるとしている 15。
TNFDに基づく体系的な評価・戦略構築を進める一方で、小田急グループは従来から以下のような具体的な生物多様性保全活動に取り組んでいる。
森林管理・緑化:
鉄道林(JR東日本は約3,900haを管理 38、小田急の具体的な管理面積データは要確認)の適切な管理(間伐など)39。
駅舎やビル等での屋上緑化の実施 32。
沿線の自然に親しむ「小田急沿線自然ふれあい歩道」の整備・情報提供 39。
植樹会(菩提峠など)の実施や森林保全活動への参加・支援(他社の例:京王電鉄の「京王水源の森」41)39。
駅リニューアルにおける地域産材(多摩産材など)の利用による森林資源循環への貢献(参宮橋駅など)27。
「小田急でんきグリーンプラン」を通じた森林整備への資金的貢献 34。
生態系・野生生物:
生物多様性調査プロジェクト「駅からはじまるいきもの探し いきものGO」への参画(JR東日本、東急、西武鉄道、バイオーム社と連携)42。市民参加型でアプリ「Biome」を活用し、沿線地域の生物多様性を可視化し、保全に役立てることを目指す。
地域連携による鳥獣被害対策:小田原市と協定を結び、ハンターと農林業者をマッチングする「ハンターバンク」サービスを提供 47。
鉄道法面(線路脇の斜面)の管理における生物多様性配慮:在来種の導入実験や希少生物のモニタリングなど 39。
海岸清掃活動(江の島など)の実施 5。
ホテルを拠点としたエコツアーの実施 39。
(他社の例:JR東日本の魚道設置や干潟整備 38、京王電鉄のツバメの巣保護 41)。
環境負荷低減(騒音・振動): 防音車輪、低騒音型コンプレッサー、ロングレール、防音壁の設置などにより、沿線環境への影響を低減 33。
これらの活動は、地域社会との連携(市民参加型調査、清掃活動、自治体連携)、パートナーシップ(他鉄道会社、スタートアップ企業)、特定の場所(森林、沿線、駅)での管理・保全に重点が置かれているように見受けられる。TNFDへの対応を機に、これらの活動が事業全体のインパクトや依存関係の評価と結びつき、より体系的かつ定量的な目標設定を伴う戦略へと進化していくことが期待される。現状、TNFD開示で報告されている指標が資源関連(廃棄物・水)15 であることからも、生物多様性固有の指標設定は今後の課題と考えられる。
小田急はTCFD提言に基づき、気候変動がもたらすリスクと機会を分析している 18。
移行リスク:
政策・法規制: 炭素税導入等によるエネルギーコスト増(全事業)、排出規制強化に伴う車両導入コスト増(EVバス等、交通業)、省エネ基準強化(ZEB/ZEH義務化等)に伴う設備投資増(不動産業)。
市場: 低炭素車両導入コスト増(交通業)、資材高騰分の価格転嫁による顧客離れ(生活サービス業)。
評判: 環境意識の高まりによる、対策が不十分と見なされた場合の顧客離れ(生活サービス業)。
物理的リスク:
急性: 台風や集中豪雨の激甚化・頻発化による鉄道・バスの運休、沿線施設の営業停止に伴う収入減、災害復旧コストの増大(相模川氾濫等を想定)、設備の損壊(全事業)、サプライチェーン寸断による車両整備不可やサービス提供不可(交通業、生活サービス業)。
慢性: 自然資源の変化(観光資源の劣化等)による旅客減少(交通業、生活サービス業)、原材料(天然資源)の調達コスト増(生活サービス業)、感染症リスク増大による需要減(全事業)、猛暑による外出控え(交通業、生活サービス業)、渇水による温泉資源への影響(生活サービス業)。
機会:
製品・サービス: 低炭素輸送サービスへの需要増、環境配慮型商品・サービスへの関心向上、省エネ・高レジリエンスな建物(ZEB/ZEH)への需要増。
市場: 地域における脱炭素化や資源循環に関連する新規事業(例:WOOMS)の展開・拡大。
レジリエンス: 気候変動への適応策強化による事業継続性の向上、ブランド価値向上。
TNFDに基づく分析は進行中であるが、現時点で認識されている主な要素は以下の通りである 6。
依存: 観光事業における自然景観や生態系サービスへの高い依存度(特に箱根など)。事業運営に必要な土地、水、原材料(木材、食品等)。
影響: 土地利用・改変(開発事業、線路敷設)、資源採取(資材調達)、排出物(騒音・振動、廃棄物)。
リスク: 自然資本の劣化による防災機能の低下(土砂災害リスク増など)、生態系サービス(水供給、観光資源)の低下、規制強化、評判リスク。
機会: 自然資本保全への貢献によるブランド価値向上、ネイチャーポジティブ市場への参入、生態系を活用した防災・減災(Eco-DRR)の導入、サステナブル・ツーリズムの推進。
詳細なリスク・機会の特定と評価は、LEAPアプローチによる分析結果の開示が待たれる 49。
上記の気候変動・自然関連のリスク・機会は、規制、市場、評判という観点からも整理できる。
規制リスク: 炭素税、排出量規制、省エネ基準、廃棄物規制、自然保護関連法規の強化。
市場リスク: 環境意識の高い消費者・投資家からの選好の変化、競合他社の環境戦略による競争環境の変化、気候変動・自然災害によるサプライチェーンや需要の変動。
評判リスク: 環境問題への対応不足や環境インシデント発生によるブランドイメージの毀損、ステークホルダーからの信頼失墜。
事業機会: グリーンボンドやサステナビリティ・リンク・ローンなどのESGファイナンスの活用 40、環境配慮型サービス(WOOMS、再エネ電力プラン、ZEH/ZEB等)の開発・提供、資源効率化によるコスト削減、ESG投資家からの評価向上、サステナビリティを軸とした新たな地域価値創造。
国内外の鉄道・運輸業界における環境に関する先進的な取り組み(ベストプラクティス)は、小田急が自社の戦略を評価し、改善策を検討する上で重要な参考となる。
気候変動:
国際動向: 国際鉄道連合(UIC)や国際公共交通連合(UITP)は、鉄道を持続可能なモビリティの基幹と位置づけ、2050年カーボンニュートラル目標の設定、エネルギー効率基準の策定、水素やバッテリーなどの代替燃料技術の開発、回生ブレーキの活用、モーダルシフトの推進などを主導している 52。特に高速鉄道(HSR)は、航空機や自動車と比較して中長距離輸送におけるエネルギー効率の高さが強調されている 60。カリフォルニア高速鉄道プロジェクトでは、持続可能なインフラ認証(Envision)の取得や気候変動への適応策の組み込みが進められている 61。
国内動向: 自動車分野におけるトップランナー基準やITS(VICS/ETC)による効率化 62 は、鉄道へのモーダルシフトを促す間接的な要因となりうる。JR東日本は「ゼロカーボン・チャレンジ2050」を掲げ、大規模な再生可能エネルギー開発(風力、太陽光)、水素燃料電池車両の開発・導入を進めている 63。グリーンボンドやサステナビリティ・リンク・ローンといった環境・社会課題解決に資する資金調達手法の活用も広がっている 63。
資源循環:
国際動向: 鉄道業界のサプライチェーンにおけるサステナビリティ推進イニシアチブ「Railsponsible」が、EcoVadisのプラットフォームを活用して設立され、Alstom、Bombardier、ドイツ鉄道(DB)、Knorr-Bremse、オランダ鉄道(NS)、フランス国鉄(SNCF)などが参加している 66。UICはバラスト、コンクリート、鉄、水などの持続可能な利用を推進している 54。オランダ鉄道(NS)は2030年までに100%循環型鉄道を目指す野心的な目標を掲げている 67。
国内動向: 北九州市などで展開されたエコタウン事業は、地域内での産業共生による資源循環モデルの先駆けとなった 68。JR東日本は駅ごみのリサイクル率向上に加え、食品廃棄物からのバイオガス発電やCO2回収・利用(CCU)技術の導入など、サーキュラーエコノミーへの取り組みを進化させている 63。拡大生産者責任(EPR)の考え方も、製品ライフサイクル全体での環境負荷低減に寄与する概念として重要視されている 71。インフラ整備におけるリサイクル材の活用も進められている 72。
生物多様性:
国際動向: UICは、鉄道インフラを自然景観と一体化させ、生物の生息地や移動経路を提供する「グリーンネットワーク」構想を推進し、代替的な植生管理手法や野生動物との衝突防止策(PAWSプロジェクト)に取り組んでいる 54。CDSB(気候変動開示基準委員会)は、TCFDフレームワークを補完する形で生物多様性に関する情報開示ガイダンスを発行している 73。環境アセスメントにおける生物多様性評価の組み込み 74、自然を活用した解決策(NbS)や生態系を活用した防災・減災(Eco-DRR)の導入が国際的に推進されている 75。
国内動向: 経団連自然保護協議会による「生物多様性宣言」への賛同(例:西武HD 77)や、環境省が主導する「30by30アライアンス」への参加(例:西武HD 77)が企業の間で広がっている。JR東日本は、広大な鉄道林の管理、ダムにおける魚道設置、干潟の造成、環境教育プログラムなどを通じて生物多様性保全に貢献している 38。小田急も参加するJTOS(鉄道横断型社会実装コンソーシアム)とバイオーム社による市民参加型生物調査プロジェクトは、鉄道業界連携によるデータ収集・活用事例として注目される 42。緑化における在来種の利用も推奨されている(例:奈良市の事例 78)。
小田急の環境パフォーマンスを評価する上で、国内の主要な競合鉄道事業者との比較は不可欠である。ここでは、JR東日本、東急株式会社、京王電鉄、東武鉄道、西武ホールディングスを主な比較対象とする 3。
気候変動:
CO2削減目標:
小田急: 2030年度に2013年度比50%削減(グループ)7。
JR東日本: 2030年度に2013年度比50%削減(グループ)63。
東急: 2030年度に2019年度比46.2%削減(Scope1+2)、同30%削減(Scope3)86。
京王: 2030年度に連結で2019年度比30%削減、鉄道事業で2013年度比46%削減 41。
西武: 2030年度までにCO2排出量原単位(営業収益当たり)を2018年度比25%削減(旧目標)89。サステナビリティ・リンク・ローン(SLL)ではCDPスコア向上をSPT(目標)に設定 82。
東武: TCFD開示はあるが、具体的な数値目標は本調査の範囲では確認できず 90。
CO2削減実績 (2023年度):
小田急: 2013年度比20.6%削減(グループ)9。
JR東日本: 2013年度比14.7%削減(グループ)63。
東急: 2019年度比42.9%削減(Scope1+2)86。
京王: 2019年度比18.3%削減(連結Scope1+2)41。
注: 基準年が異なるため単純比較は困難だが、東急の近年(2019年度比)の削減率が高いことがうかがえる。
再生可能エネルギー:
小田急: 2024年4月から主要鉄道路線運行電力を実質再エネ100%化 29。
JR東日本: 2027年度までに70万kWの再エネ電源確保目標 63。自社開発を積極的に推進。
東急: 2023年度再エネ比率44.2%、2030年度目標50% 86。
京王: グループ主要ホテルで実質再エネ化 41。
西武: グループのホテル・レジャー施設45カ所で再エネ電力導入 92。
資源循環:
廃棄物削減・リサイクル目標:
小田急: 排出量原単位の前年度比減 27。
JR東日本: 2027年度までに廃棄物リサイクル率73%(2013年度比)63。
東急: 2030年までに廃棄物量(収益原単位)10%削減(2019年度比)87。
京王、東武、西武: 具体的な数値目標は本調査の範囲では確認できず。
廃棄物リサイクル実績 (2023年度):
小田急: 単体リサイクル率48.2% 20。
JR東日本: グループリサイクル率74%(2013年度比)63。
他社: データ不足。
独自施策: 小田急のWOOMS事業 37 や食品リサイクルループ 27 は特徴的。JR東日本はバイオガス発電やCCUへの取り組み 63、東急はブックオフとの連携による資源循環 93 など、各社独自の施策を展開。
生物多様性:
TNFD対応: 小田急 15 と西武 94 がTNFD Adopterとして登録済み。JR東日本もTNFDに基づく分析・開示を進めている 63。東急もサステナビリティレポート等でTNFDに言及している 95。京王、東武は本調査の範囲では明確な対応状況を確認できず。
具体的活動: 各社とも森林保全(鉄道林管理、植林活動等)や緑化、清掃活動などを実施。小田急、JR東日本、東急、西武が連携する「いきものGO」プロジェクト 42 は業界連携の好例。JR東日本の魚道設置や干潟整備 38、西武のABINC認証取得 77 など、特色ある取り組みも見られる。
総括的比較:
気候変動対策では、東急が近年高い削減実績を示し、野心的なScope3目標も設定している点が注目される。JR東日本は大規模な再エネ開発計画を持つ。小田急は2024年からの鉄道運行電力再エネ100%化が大きな進展である。資源循環では、JR東日本のリサイクル率目標・実績が高い水準にある。生物多様性では、小田急と西武がTNFDへの早期対応を示している点が特徴的である。全体として、各社がそれぞれの強みや事業特性に応じて重点分野を定め、取り組みを進めている状況がうかがえる。
第三者評価機関による環境スコアは、企業のESGパフォーマンスやリスク管理状況を客観的に比較する上で有用な指標となる。
CDPスコア(気候変動):
小田急: 2022年度評価は「C」(認識レベル)であった 96。水セキュリティ、フォレスト(木材、パーム油、大豆、畜牛)はいずれも「F」(情報開示なし/不十分)97。2023年度以降のスコアは本調査の範囲では確認できなかった。
JR東日本: スコアは直接確認できなかったが、取引先(鉄建建設)がJR東日本のスコア(2022年時点でマネジメントレベル「B」以上と推察される)をベンチマークとしていたことから、一定水準以上の評価を得ていると考えられる 99。
東急: 2023年度評価で「A-」(リーダーシップレベル)を獲得し、前年度の「B」から向上した 87。サプライヤー・エンゲージメント評価も「B」(2023年度)100。関連会社の東急不動産HDは2024年評価で気候変動「A」(4年連続)、水セキュリティ「A」(初)101、東急建設は2024年評価で気候変動「A」103 と、グループ全体で高い評価を得ている。
京王: 本調査の範囲ではスコアを確認できず 104。
東武: 2022年度評価は「B-」(マネジメントレベル)96。水セキュリティ、フォレストは「F」106。
西武: 2022年度までは「C」評価であったが 82、2023年度評価で「A-」(リーダーシップレベル)へと大幅に向上した 82。水セキュリティは「C」(2022年度)107。
比較: 入手可能な直近データ(主に2022~2023年度)に基づくと、CDP気候変動評価においては、東急グループや西武HD(2023年度)がリーダーシップレベル(A/A-)の高い評価を得ているのに対し、小田急(2022年度C評価)は相対的に低い評価となっていた。これは、情報開示の質・量や具体的な取り組みの進捗において、改善の余地があることを示唆している。西武HDのスコア向上は、積極的な取り組みが評価に結びつくことを示している。
MSCI ESGレーティング:
小田急: 2023年11月時点で「A」評価 79。ただし、2017年12月時点では「AA」評価であり 80、格下げがあったことがうかがえる。
JR東日本: 2017年12月時点で「AA」評価 80。FTSE Blossom Japan Indexにも選定されており 111、良好なESG評価を維持していると推察される。
東急: 2024年7月に最高評価である「AAA」を獲得 112。2023年7月時点では「AA」評価であり 114、格上げされた。関連会社の東急不動産HDも「AA」評価 102。
京王: 2017年12月時点で「AA」評価 80。MSCI日本株ESGセレクト・リーダーズ指数に組み入れられていることから 115、少なくとも「A」評価以上を維持していると考えられる。
東武: MSCI日本株ESGセレクト・リーダーズ指数に組み入れられていることから 116、「A」評価以上と推察されるが、具体的な格付けは確認できず。MSCI日本株女性活躍指数(WIN)の文脈では除外または未評価扱い 81。
西武: MSCI日本株ESGセレクト・リーダーズ指数およびWIN指数に組み入れられており 77、一定の評価を得ていると考えられるが、具体的な格付けは確認できず。
比較: MSCI評価では、東急が近年最高評価「AAA」を獲得し、業界内でリードしている。小田急は過去の「AA」から「A」へと評価が低下しており、相対的に見劣りする状況にある。JR東日本、京王は過去に高い評価を得ており、現在も一定水準を維持していると見られる。MSCIの評価は、企業全体のESGリスク管理能力を反映するため、小田急は気候変動以外の側面も含めたESG戦略全般の見直しが必要である可能性を示唆している。
Sustainalytics ESGリスクレーティング:
小田急: スコア33.2、「高リスク」カテゴリー。運輸セクター内順位は383社中352位(2023年8月時点)3。マネジメント:「平均的」、エクスポージャー:「中程度」。
JR東日本: スコア32.6、「高リスク」カテゴリー。順位383社中346位(2023年8月時点)83。マネジメント:「平均的」、エクスポージャー:「中程度」。
東急: 本調査の範囲ではスコアを確認できず。
京王: スコア29.1、「中リスク」カテゴリー。順位383社中312位(2023年8月時点)3。
東武: スコア33.2、「高リスク」カテゴリー。順位383社中351位(2023年8月時点)3。
西武: 本調査の範囲ではスコアを確認できず。
その他国内鉄道: JR東海 30.9(高リスク)、JR西日本 27.2(中リスク)、JR九州 26.6(中リスク)3。
比較: Sustainalyticsの評価では、小田急はJR東日本や東武と同様に「高リスク」カテゴリーに分類され、京王、JR西日本、JR九州といった「中リスク」の企業よりもリスクが高いと評価されている。運輸セクター内での順位も低い。これは、Sustainalyticsが評価するESGリスク要因(企業不祥事リスクなども含む)に対して、未管理な部分が大きいと見なされていることを示している。
これらのベンチマーキング結果は、小田急が環境パフォーマンスおよびESGリスク管理において、特に東急などの先進企業と比較して改善の余地があることを示唆している。
これまでの分析を踏まえ、小田急の環境に関する現状の主な課題は以下のように整理できる。
気候変動:
2030年目標達成への道筋: 2023年度時点で2013年度比20.6%削減であり、2030年度の50%削減目標達成には、残りの期間でさらなる削減努力の加速が必要である(Insight 2の背景)。鉄道運行電力の再エネ化は大きな前進だが、目標達成には他の事業部門やScope1, 3排出量の削減強化が不可欠。
ICPの実効性: 設定されたICP価格(5,000円/t-CO2)が、特に大規模な脱炭素投資を促進する上で十分なインセンティブとなるか、検証が必要である(Insight 4の背景)。
Scope3排出量管理: グループ全体のScope1+2排出量に匹敵する規模のScope3排出量(特にカテゴリ1:購入品・サービス、カテゴリ2:資本財)への具体的な削減戦略とサプライヤーエンゲージメントの強化が求められる(Insight 3の背景)。
物理的リスクへの適応: 気候変動による自然災害の激甚化・頻発化に対し、インフラの強靭化と事業継続計画(BCP)の高度化が継続的に必要である 19。
資源循環:
リサイクル率の向上: 小田急単体のリサイクル率(2023年度48.2%)は、循環型経済の理想からはまだ遠い水準であり、抜本的な改善が必要である(Insight 5の背景)。廃棄物発生量そのものの削減も重要。
循環型ビジネスモデルの拡大: WOOMS事業などの先進的な取り組みを、より広範な事業領域や地域に展開・スケールアップしていくことが課題。
水使用量の絶対量削減: 原単位での目標管理に加え、近年増加傾向にある水使用量の絶対量を抑制・削減するための具体的な施策導入が望まれる(Insight 6の背景)。
生物多様性:
戦略と目標の具体化: TNFDへの対応を進める中で、定性的な認識から、具体的な影響・依存関係の評価に基づいた測定可能な目標(KPI)と行動計画を設定する必要がある(Insight 7の背景)。
TNFD分析結果の統合: LEAPアプローチによる分析結果を、事業戦略、設備投資計画、調達方針などに具体的に反映させていくプロセスが重要となる。
開発と保全の両立: 特に箱根などの自然豊かなエリアでの事業展開において、開発行為と生物多様性保全とのバランスをどのように取るかが継続的な課題となる 6。
全体的なESGパフォーマンス:
外部評価の向上: CDP、MSCI、Sustainalyticsといった主要なESG評価において、一部競合他社に比べて低い評価となっている現状を改善する必要がある(Insights 9, 10, 11の背景)。
情報開示の充実: 特に資源循環や生物多様性に関する定量的なデータや目標、具体的な取り組みの成果に関する情報開示を強化し、透明性を高めることが求められる。
上記の課題を踏まえ、小田急が今後注力すべき戦略的な重点分野として以下を提案する。
脱炭素化の深化: Scope3排出削減戦略の具体化(特にサプライヤーエンゲージメント)、ICP制度の実効性評価と見直し、鉄道運行以外の事業における再生可能エネルギー導入拡大(自社開発含む)、非電化区間(バス等)の電動化加速。
サーキュラリティ(循環性)の向上: 廃棄物削減とリサイクル率向上に関する野心的な数値目標の設定、食品リサイクルループやWOOMS事業の適用範囲拡大、全社的な水使用量削減プログラムの導入。
生物多様性戦略の成熟化: TNFDに基づくリスク・機会評価の完了と結果の開示、定量的な生物多様性目標(例:生息地改善面積、重要種の指標)の設定、土地利用計画や調達方針への生物多様性配慮の明示的な組み込み、自然を活用した解決策(NbS)の積極的な検討・導入。
ESG情報開示と評価対応の強化: ESG評価機関との対話強化、資源循環・生物多様性分野における定量データの開示拡充、ベストプラクティスや競合他社の先進事例を参考としたパフォーマンス改善。
戦略的重点分野を推進するための具体的な行動として、以下を推奨する。
ICP価格の妥当性について定期的な見直しプロセスを導入し、必要に応じて価格引き上げの検討を行う。
主要サプライヤー(特に資本財、購入物品・サービス関連)を対象としたScope3排出量削減に関する協働プログラムを立ち上げる。
グループ全体の廃棄物リサイクル率について、具体的な数値目標(例:2030年度までに60%以上)を設定し、達成に向けたロードマップを策定する。
主要な事業活動(例:車両洗浄、ホテル運営)におけるウォーターフットプリント評価を試行的に実施し、削減ポテンシャルを特定する。
TNFDのLEAPアプローチに基づく詳細な分析結果と、それに基づいた具体的な生物多様性行動計画を公表する。
環境KPI(気候変動、資源循環、生物多様性)のトラッキングとレポーティングを効率化・高度化するためのデジタルツール導入を検討する。
気候変動への適応策とその有効性に関する情報開示を強化する。
本報告書では、小田急電鉄の環境への取り組みを、気候変動、資源循環、生物多様性の3つの側面から包括的に分析した。同社は、「カーボンニュートラル2050」という明確な長期目標を掲げ、近年では鉄道運行電力の実質再エネ100%化を実現するなど、気候変動対策において具体的な進展を見せている。また、WOOMS事業のような資源循環分野での先進的な取り組みや、TNFDへの早期対応など、将来を見据えた動きも評価できる。
一方で、課題も存在する。2030年のCO2削減中間目標達成には取り組みの加速が必要であり、グループ全体の排出量の相当部分を占めるScope3への対応強化が急務である。資源循環においては、リサイクル率の向上や水使用量の絶対量削減が求められる。生物多様性に関しては、TNFD対応を通じて体系的な戦略構築と具体的な目標設定を進める段階にある。外部のESG評価においても、一部競合他社と比較して改善の余地が見られる。
総じて、小田急は環境経営の重要性を認識し、多岐にわたる取り組みを進めているものの、目標達成と業界内でのリーダーシップ確立に向けては、戦略の深化、目標の具体化・野心度向上、そして実行力の強化が不可欠である。
小田急グループが掲げる「地域価値創造型企業」への進化 10 は、環境課題への取り組みと不可分である。気候変動への適応によるレジリエンス強化、資源循環の推進による効率化と新規事業創出、生物多様性保全による地域社会との共生は、同社の事業基盤を強化し、持続的な成長を実現するための鍵となる。本報告書で特定された課題に取り組み、提示された推奨事項を実行に移すことは、環境リスクを低減し、グリーンファイナンスや環境意識の高い顧客層といった機会を獲得することにつながる。これにより、小田急は事業を展開する地域社会と共に、真に持続可能な未来を築いていくことができると期待される。
2023年 | 80,000t-CO2 |
2022年 | 80,000t-CO2 |
2021年 | 80,000t-CO2 |
2023年 | 230,000t-CO2 |
2022年 | 280,000t-CO2 |
2021年 | 290,000t-CO2 |
2023年 | 254,511t-CO2 |
2022年 | 241,727t-CO2 |
2021年 | - |
スコープ1+2 CORの過去3年推移
2023年 | 756kg-CO2 |
2022年 | 911kg-CO2 |
2021年 | 1,031kg-CO2 |
スコープ3 CORの過去3年推移
2023年 | 621kg-CO2 |
2022年 | 612kg-CO2 |
2021年 | 0kg-CO2 |
スコープ1+2のCOA推移
2023年 | 238kg-CO2 |
2022年 | 281kg-CO2 |
2021年 | 288kg-CO2 |
スコープ3のCOA推移
2023年 | 196kg-CO2 |
2022年 | 189kg-CO2 |
2021年 | 0kg-CO2 |
2023年 | 4,098億円 |
2022年 | 3,952億円 |
2021年 | 3,588億円 |
2023年 | 815億円 |
2022年 | 407億円 |
2021年 | 121億円 |
2023年 | 1兆3016億円 |
2022年 | 1兆2800億円 |
2021年 | 1兆2852億円 |
すべての会社と比較したポジション
業界内ポジション
CORスコープ1+2
CORスコープ3
CORスコープ1+2
CORスコープ3
COAスコープ1+2
COAスコープ3
COAスコープ1+2
COAスコープ3