カテゴリー | 2021年度 | 2022年度 | 2023年度 |
---|---|---|---|
1購入した製品・サービス | - | - | 317,000 |
2資本財 | - | - | 481,000 |
3燃料・エネルギー関連活動 | - | - | 70,000 |
5事業から発生する廃棄物 | - | - | 11,000 |
6出張 | - | - | 1,000 |
九州旅客鉄道株式会社(以下、JR九州)、株式会社UPDATER(以下、UPDATER)、GPSSホールディングス株式会社(以下、GPSS)は、オフサイトコーポレートPPA※1をJR九州で初めて活用し、在来線長崎駅や新八代駅などの新幹線駅舎を含む18箇所の駅舎等施設へ再生可能エネルギー100%※2由来の電気(以下「再エネ電気」)の供給を3者共同で行うことといたしました。 本取り組みは、GPSSが九州内(熊本県及び福岡県)で開発・建設した中小型の太陽光発電所の電気をUPDATERの脱炭素事業「みんな電力」が買い取り、再エネ指定の非化石証書の環境価値を組み合わせて、JR九州が保有する駅舎等へ再エネ電気の供給を行う計画です。今後も3者一同、引き続きCO2排出量ゼロの実現に向けて取り組みを推進するとともに、持続可能な社会の実現に貢献してまいります。
※掲載情報は公開資料をもとに作成しており、全てのリスク・機会を網羅するものではありません。 より詳細な情報は企業の公式発表をご確認ください。
省エネ・再エネ導入推進によるエネルギーコスト削減(将来的な炭素価格上昇リスク抑制)や、新技術(自動運転、AI)導入による運営コスト効率化、食品ロス削減によるコスト低減を機会と捉える。市場面では、環境意識の高まりを背景とした鉄道へのモーダルシフトやMaaS普及による利用者増、グリーンビルディング需要増、再エネ事業への参入・拡大が期待される。災害対応力強化による事業継続性向上と企業評価向上も重要な機会である。
本報告書は、九州旅客鉄道株式会社(以下、JR九州)の環境パフォーマンスに関する包括的な分析を提供するものである。特に「気候変動」、「資源循環」、「生物多様性」の3つの重点分野における同社の取り組みを詳細に評価し、環境スコア算出に必要な情報の収集及び学術的研究レベルの報告書作成を目的とする。分析範囲は、JR九州の具体的な環境イニシアチブ、プログラム、目標、実績データ、潜在的な環境リスクと事業機会、鉄道業界における先進事例、現状の課題と改善提案、主要競合他社(特にJR東日本、JR東海、JR西日本)の環境戦略とパフォーマンス分析、そして公開されている環境スコア(CDP、MSCI等)を用いたベンチマーキングを含む。
本分析は、JR九州が開示する公式情報(統合報告書、環境報告書、ウェブサイト等)、競合他社の報告書、業界出版物、ESG評価機関のデータに基づき実施された 。定量的データと定性的事例を重視し、報告書は日本語で記述され、表形式でのデータ提示を避け、叙述的またはリスト形式で情報を整理する形式要件に従う。
本報告書は以下の構成でJR九州の環境への取り組みを詳述する。まず、同社の環境戦略とガバナンス体制を概観し、次に気候変動、資源循環、生物多様性の各分野における具体的な取り組みと実績を分析する。続いて、TCFD提言に基づくリスクと機会の評価、業界のベストプラクティス、競合他社の動向、環境スコアによるベンチマーキング結果を示す。最後に、現状の課題を特定し、今後の改善に向けた提言を行う。
JR九州グループは、「全ての事業において地球環境との共生に取り組み、持続可能な社会の実現に貢献します」という基本理念を掲げている 。この理念に基づき、具体的な環境保全活動を推進するための基本方針が定められている。主要な方針は以下の通りである 。
気候変動対策: 脱炭素社会の実現に向け、効率的なエネルギー利用(省エネ型車両導入等)や新技術の導入、再生可能エネルギーの活用を推進し、気候変動対策を一層強化する。
資源循環: 水などの限りある資源の有効活用や廃棄物の削減(3Rの推進)を徹底し、循環型社会の実現に努める。
生物多様性保全: 気候変動対策と並行して、生物多様性の維持に努める。
環境汚染防止: 環境汚染物質の適正な管理・処理により、環境汚染の防止に努める。
これらの基本理念・基本方針は、1999年に初めて策定され、気候変動をはじめとする環境問題への対応をグループ全体でさらに推進するため、2022年4月に見直しが行われた 。特に「脱炭素社会の実現」は、JR九州グループが常に考えるべきこと(マテリアリティ)として設定されており、戦略的な重要性が示唆される 。
公開されている方針からは、気候変動対策がマテリアリティと明確に紐づけられ、エネルギー効率化や新技術導入といった具体的なアプローチに言及されているのに対し、資源循環(廃棄物削減、有効活用)や生物多様性(維持に努める)に関する記述はやや抽象的である 。これは、気候変動対策が戦略的に最も高い優先度を置かれている可能性を示唆しているが、資源循環や生物多様性に関しても具体的な活動は展開されている 。
環境問題への対応を推進するため、ESG戦略委員会が設置されている 。同委員会は、環境関連施策の計画立案、進捗管理を行い、その内容は取締役会にも報告される体制となっている 。この体制は、経営層による環境問題へのコミットメントを示すものである。
ESG戦略委員会の設置はガバナンス上の重要な一歩であるが、その実効性は、委員会の決定がJR九州グループの多様な事業部門(運輸サービス、不動産・ホテル、流通・外食等)における資本配分、事業運営の変更、業績評価インセンティブにどの程度反映されるかにかかっている 。報告書では進捗管理における役割が強調されているが、環境配慮が中核的な事業戦略や予算策定プロセスに深く統合されているかについては、継続的な検証が必要である。TCFDに基づくリスク・機会分析の実施とその経営戦略への反映 は、統合が進んでいる兆候と捉えられる。
JR九州グループは、気候変動対策に関する明確な数値目標を設定している。
目標:
2030年度までにCO2排出量(スコープ1+2、連結)を2013年度比で50%削減する 。
2050年度までにCO2排出量を実質ゼロ(カーボンニュートラル)にする 。 これらの目標は、日本の国家目標とも整合している 。
基準年排出量: 削減目標の基準となる2013年度のCO2排出量(スコープ1+2)は48.2万トンであった 。
実績: 最新の実績として、2023年度のグループ全体のCO2排出量(スコープ1+2)は41.3万トンであった 。これは、2013年度比で約14.3%の削減に相当する(計算:(48.2 - 41.3) / 48.2)。
排出構造: JR九州のスコープ1および2の排出量のうち、電力使用に由来する排出量(スコープ2)が約8割を占めており、電力の脱炭素化が極めて重要な課題となっている 。
過去10年間(2013年度~2023年度)で達成された14.3%の削減は、年平均約1.4%の削減率に相当する。2030年度の50%削減目標を達成するためには、今後7年間でさらに約35.7%の削減が必要であり、これは年平均5%を超える削減率が求められることを意味する。これまでの進捗と比較して、再生可能エネルギーの導入や省エネルギー施策の大幅な加速が必要であることを示している。
目標はスコープ1・2に焦点を当てているが、鉄道事業はその本質的な特性として、他の輸送手段よりも環境負荷が低く、社会全体の脱炭素化に貢献する側面を持つ 。法人顧客向けに提供される新幹線のCO2排出量実質ゼロ化サービス「Green EX」 は、顧客のスコープ3(出張等)排出量に直接対応するものであり、自社の事業運営を超えたバリューチェーン排出量への意識の高まりを示している。これは、脱炭素化経済におけるJR九州の提供価値を高める重要な取り組みである。
電力由来の排出量が大部分を占めることから、JR九州は再生可能エネルギーの導入を積極的に推進している 。
オンサイト(自家消費型)発電: 電力購入契約(PPA)モデルを活用し、複数の施設で太陽光発電設備を導入している。設置場所には、福工大前駅、亀川駅、長崎工務所、佐世保車両センター、新宮中央駅、JR鹿児島中央ビルなどが含まれる 。
オフサイト(外部調達):
風力発電: 2022年1月より、Daigasグループとの連携により、佐賀県内の肥前・肥前南風力発電所由来の再生可能エネルギー電気(トラッキング付非化石証書活用)を筑肥線の10駅へ供給している。「地産地消」モデルを意識した取り組みである 。
太陽光発電(オフサイトPPA): 株式会社UPDATER、GPSSホールディングス株式会社との協業により、大規模なオフサイトコーポレートPPAモデルを導入。熊本県と福岡県の太陽光発電所から、2024年10月より長崎駅や新八代駅など在来線・新幹線の駅舎等18箇所へ年間約485万kWhの再生可能エネルギー電気を供給開始予定。これにより年間約2,041トンのCO2排出量削減が見込まれる 。この事業は経済産業省の補助事業採択を受けている 。
太陽光発電(グループ開発): 株式会社ウエストホールディングス、大阪ガス株式会社と協業し、遊休地を活用した非FIT太陽光発電所を4エリアで開発し、JR九州の7施設の脱炭素化に貢献する 。
博多駅: 2022年7月より、博多駅(JR九州部分)で使用する電気を再生可能エネルギー電気に切り替え、年間約2,066トンのCO2排出量を削減している 。
連携: エネルギー供給会社(Daigasグループ、UPDATER、GPSS、ウエストHD、大阪ガス)や地方自治体(熊本市)と連携し、再生可能エネルギー導入を推進している 。
Green EXサービス: JR東海、JR西日本と共同で、2024年10月より九州新幹線区間を含む東海道・山陽・九州新幹線において、エクスプレス予約法人会員向けにCO2フリー電気(非化石証書付与)を活用した実質CO2排出量ゼロの移動サービスを提供する 。
JR九州は、オンサイト発電、オフサイトPPA(風力、太陽光)、直接供給契約、グループ会社による開発など、多様な手法で再生可能エネルギーの確保に取り組んでいる 。この多様化戦略は、供給の安定性確保やコスト管理の観点から有効と考えられる。異なる電源や調達モデルはそれぞれ特性が異なるため、ポートフォリオを組むことで市場変動や技術リスクへの耐性を高めることができる。
年間約485万kWhを供給するオフサイトPPA は、スコープ2排出量削減に向けた重要な一歩である。しかし、グループ全体の電力消費量(2023年度のスコープ1+2排出量41.3万トン、うち8割が電力由来と仮定すると約33万トン、排出係数0.45kg/kWhと仮定すると約7.3億kWhに相当)と比較すると、現在のPPA契約や個別駅への供給量(博多駅で約2千トン削減、オフサイトPPAで約2千トン削減)だけでは、総需要のごく一部しかカバーできていない。2030年、2050年の目標達成には、より大規模な再生可能エネルギー調達(大規模PPA、グリーン電力証書の購入、直接投資等)が不可欠となる。
エネルギー消費量そのものを削減する取り組みも重要である。
鉄道車両: エネルギー効率の高い車両の導入を積極的に進めている。具体例として、821系電車、811系リニューアル車、N700S「かもめ」、YC1系ハイブリッド気動車、BEC819系蓄電池電車「DENCHA」などが挙げられる 。2023年度末時点での省エネ型車両の導入率は85.1%に達している 。VVVFインバータ制御や回生ブレーキの採用も推進されている 。業界全体では、ハイブリッド型、蓄電池駆動型、さらには水素燃料電池車両の開発も進められている 。
運転操作: 省エネルギーを考慮した運転操縦や空調設定に関する実証実験を一部区間で実施している 。
駅・建物設備: 駅や商業施設等における省エネルギー化も推進。
LED照明への更新(2023年度は12施設で約1100台をLED化) 。
高効率空調機器、BEMS(ビルエネルギー管理システム)の導入 。
断熱性能の向上(複層ガラス、壁面・屋上緑化)、自然換気システムの導入 。
六本松複合施設での屋上緑化やコージェネレーション導入 。
ホテルオークラJRハウステンボスでの排水・排熱再利用、厨房設備更新 。
北九州資材センターでのフォークリフト電動化(年間約950リットルの燃料削減) 。
建築物省エネルギー性能表示制度(BELS)におけるZEB Ready認証の取得事例(年間一次エネルギー消費量を約57%削減)もある 。
電力システム: 電力貯蔵装置や電力融通装置を導入し、回生電力の有効活用や電力系統の安定化に貢献している 。
省エネ型車両の導入率85.1% は高い水準であり、鉄道事業におけるエネルギー消費削減の中核をなす。しかし、残る約15%の旧型車両の更新・代替が今後のエネルギー効率改善の鍵となる。これらの車両の更新は、コストや技術的課題を伴う可能性があるため、継続的な投資と次世代技術(水素、高性能蓄電池等)の導入検討が重要となる。
個別の建物での省エネ成果(ZEB Ready認証等) は評価できるが、JR九州が保有する広範な不動産ポートフォリオ(駅、オフィス、商業施設、ホテル等)全体でのエネルギー効率改善には、さらに大きな潜在性があると考えられる 。個別の先進事例に留まらず、既存建物の体系的な改修プログラムや新築物件に対するより厳格な省エネ基準の適用は、再生可能エネルギー導入を補完する形で、グループ全体のエネルギー需要とスコープ2排出量の大幅な削減に貢献し得る。
JR九州は、資源の有効活用と廃棄物削減を目指し、3R(リデュース、リユース、リサイクル)を推進している 。
目標:
PETボトルの「ボトルtoボトル」リサイクル率:100% 。
廃棄物全体のリサイクル率:90% 。
水使用量(売上高原単位):毎年度削減 。
注意点: JR九州のウェブサイト概要ページ では具体的なKPIは設定・公開されていないとの情報もあり、上記目標値 の現在の有効性や適用範囲(例:特定の報告書のみの目標か)については確認が必要である。
実績:
廃棄物排出量: 2023年度の産業廃棄物排出量(連結)は8.0万トンであった 。JR博多シティにおける一般廃棄物排出量(原単位)は、2030年度目標10.61kg/m²以下に対し、2023年度実績は10.40kg/m²(2022年度は10.04kg/m²)であった 。
リサイクル: 全体のリサイクル率に関する最新の報告値は見当たらない 。PETボトルの「ボトルtoボトル」プロジェクトは2023年12月に開始された 。制服リサイクル量は2023年度に約2,830kg 。使用済みきっぷのリサイクル量は2022年度に約47トン 。
水使用量: 2023年度のグループ全体の水使用量は338.9万キロリットル、JR九州単体では68.9万キロリットルであった 。売上高原単位での削減トレンドについては、売上高データとの照合が必要である。
廃棄物全体のリサイクル目標に関して、情報源間で矛盾が見られる点(90%目標の存在有無 )は、目標設定の明確化と一貫した情報開示の必要性を示唆している。目標が曖昧では、ステークホルダーが全体的な進捗を評価することが困難になる。PETボトルに関する目標 は明確だが、対象範囲が限定的である。
廃棄物排出量の動向については、2023年度の産業廃棄物8.0万トン を前年度と比較するためのデータが必要である。JR博多シティの廃棄物原単位が微増している点 は、少なくとも一部エリアでの削減努力に課題がある可能性を示唆しており、その要因(経済活動の活発化、建設工事の増加等)の分析が求められる。
JR九州グループは、多岐にわたる資源循環施策を実施している。
廃棄物削減・リサイクル:
PETボトル: JR九州サービスサポート株式会社、株式会社サーキュラーペットと連携し、駅、列車、駅ビル等から排出される使用済みPETボトルを回収し、再びPETボトル原料として水平リサイクルする「ボトルtoボトル」プロジェクトを2023年12月より開始した 。目標リサイクル率は100%である 。
制服: 株式会社JEPLANの「BRING UNIFORM™」プログラムなどを活用し、使用済み制服を回収・リサイクル(自動車内装材等へ)またはリユースする取り組みを進めている。2023年度は約2,830kgをリサイクルした 。JR東日本でも同様の取り組みが見られる 。
きっぷ: ICカード乗車券「SUGOCA」の普及により紙の使用量を削減するとともに、使用済みきっぷを回収し、トイレットペーパー等に再生している(2022年度は約47トン) 。
まくらぎ: 耐用年数の長いTPCまくらぎや合成まくらぎへの交換を推進し、交換頻度と廃棄物量を削減している。2006年度から2023年度までに累計約48万本を導入した 。
建設廃棄物: ジオロックウォール工法やスムースボード工法などの採用により、建設現場での廃棄物発生抑制に努めている 。工事における3Rを推進している 。
食品ロス削減: 道の駅「水辺の郷おおやま」での規格外農産物を活用したジェラート販売、宴会での食べ残し削減を促す「3010運動」の推進、株式会社萬坊による食料廃棄物を活用した釣り餌「SABIKI」の開発・販売、長崎マリオットホテルからフードバンクへの余剰菓子寄付、従業員向けに朝食ロスを活用したサブスクランチ提供など、多様な取り組みを実施している 。
その他: 事務用品におけるエコ商品やFSC認証紙の利用推奨、会議のペーパーレス化や帳票類のデータ化、商業施設での生ごみの肥料化、軌道材料(絶縁板)のリユース、不要となった鉄道関連部品のオークション販売、社内SNSでの不要品譲渡(あげくれボード)などを実施している 。
水資源管理: 車両基地での洗車用水の再利用や、駅ビルでの雨水利用などを行っている 。水使用量の原単位削減を目標としている 。
PETボトルや制服のリサイクル は、循環型経済への貢献を示す上で重要かつ可視性の高い取り組みである。しかし、大規模インフラ企業であるJR九州の総廃棄物量に占める割合としては、建設・解体廃棄物や事業運営に伴う一般廃棄物の方が大きい可能性がある。8.0万トンという産業廃棄物排出量 には、建設・保守関連の資材が多く含まれると推測され、まくらぎの長寿命化 のような取り組みが重要となるが、消費者向けの取り組みほどは強調されていないかもしれない。
多くの資源循環施策が特定の拠点やグループ会社(JR博多シティ、萬坊、長崎マリオットホテル、道の駅おおやま等)で実施されている事例として挙げられている 。これらの先進的な取り組みが、JR九州グループ全体(全駅、車両基地、ホテル、店舗等)でどの程度標準化され、展開されているかが、全体的な資源循環パフォーマンスを左右する。グループ横断的なデータが不足しているため、その評価は困難であるが、ベストプラクティスの共有と全社的な展開が今後の鍵となる。
JR九州は、基本方針において気候変動対策や資源循環と並び、生物多様性の維持に努めることを掲げている 。具体的な活動としては以下が挙げられる。
植樹・森林保全: グループ会社による森林保全活動(JR九州商事株式会社の「JR九州商事の森ゆのまえ」、キャタピラー九州株式会社の「キャタピラーの森」整備)や、熊本支社による金峰山での植樹活動などが実施されている 。比較として、JR西日本では旧鉄道林の再生実験や地域連携での森林保全活動が行われている 。
プラスチックごみ削減: ホテルにおける客室アメニティのバイオマスプラスチック製品や代替素材への切り替え(JR九州ステーションホテル小倉、株式会社おおやま夢工房、JR九州ホテルズアンドリゾーツ株式会社運営ホテル)、クルーズトレイン「ななつ星in九州」やD&S列車「36ぷらす3」での容器・カトラリーの代替素材への変更などが進められている 。
生息地・生態系への配慮: 地域コミュニティと連携した清掃活動(株式会社萬坊による海岸清掃、JR九州電気システム株式会社による地域美化活動、長崎マリオットホテルによるビーチクリーン活動)が実施されている 。業界の先進事例としては、JR西日本が特別天然記念物オオサンショウウオの生息域保全、トンネル湧水の生態系への活用、カメ用通路(アニマルパスウェイ)の設置、コウノトリ飛来地への配慮など、より具体的な生息地保全策を講じている 。
パートナーシップと技術活用: JR東日本、JR西日本イノベーションズと共同で、京都大学発ベンチャーの株式会社バイオームと連携している 。同社のAIを活用した動植物判定ゲームアプリ「Biome」を用い、生物多様性の調査やエコツアー等への活用を通じて「生物多様性市場」の創出を目指すテストマーケティングが計画された 。
気候変動分野のCO2排出量や資源循環分野のリサイクル率のような、生物多様性に関する具体的な数値目標や網羅的な実績指標は、提供された資料からは明確に確認できなかった 。
現状の生物多様性に関する報告は、植樹、プラスチック削減、清掃活動といった活動内容の定性的な記述が中心であり、特定の生態系や種への定量的影響や保全効果を評価することは難しい 。CO2排出量と異なり、生物多様性の測定は複雑であるが、先進的な企業はTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)などのフレームワークに基づき、自然に対する科学的根拠のある目標(例:生息地回復面積、特定絶滅危惧種への影響、ノーネットロス等)を設定する動きが広がっている。JR東日本もTNFD提言に基づく情報開示に取り組んでいる 。JR九州の取り組みは、この点においてまだ発展途上にあるように見受けられる。
株式会社バイオームとの連携 は、テクノロジー(AIアプリ)を活用した生物多様性モニタリングとエンゲージメントにおける革新的なアプローチとなる可能性がある。市民科学とAIツールの活用は、広大な鉄道網沿線の生物多様性データ収集を効率化し得る。この取り組みが成功すれば、よりデータに基づいた生物多様性管理への移行を促し、持続可能な観光への関心の高まりに応える形で、JR九州の旅行商品を差別化する可能性も秘めている。ただし、現時点での連携の具体的な進捗や影響規模は不明である。
JR九州は、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に賛同し、2021年2月から情報開示を実施している 。分析対象事業は、当初の運輸サービスグループに加え、2024年5月には不動産・ホテルグループ、流通・外食グループへと拡大された 。分析は1.5℃、2℃、4℃の複数の気候変動シナリオを用いて行われ、特定されたリスクと機会が事業、戦略、財務計画に及ぼす影響を評価している 。このプロセスはESG戦略委員会が主導し、取締役会へも報告される 。
急性リスク:
降雨・強風の激甚化・長期化による自然災害(台風、洪水等)の頻発。これにより、鉄道施設等の復旧コストが増加し、サプライチェーンの寸断や事業活動停止(運休、店舗休業等)による売上減少リスクが高まる(運輸サービス、不動産・ホテル、流通・外食) 。
災害リスクが高い地域に保有する資産(土地、建物等)の価値が低下するリスク(運輸サービス、不動産・ホテル) 。
慢性リスク:
平均気温の上昇による冷房需要の増加に伴う空調コストの増加。また、猛暑による外出控えなどが生じ、売上が減少するリスク(運輸サービス、不動産・ホテル、流通・外食) 。
政策・規制:
炭素税導入や既存税率の引き上げにより、エネルギー関連コストが増加するリスク。価格転嫁が困難な場合、収益性が悪化する可能性がある(運輸サービス、不動産・ホテル、流通・外食) 。
サプライチェーン全体への炭素価格導入により、エネルギーや原材料の調達価格が上昇するリスク 。
排出量や化石燃料使用に関する規制強化により、鉄道車両の開発・製造コストが増加するリスク(運輸サービス) 。
政府目標に沿った建築物の省エネ基準強化(グリーンビルディング化)により、開発・建設コストや既存物件の改修コストが増加するリスク(不動産・ホテル) 。
市場:
顧客やテナントの環境意識の高まりにより、環境性能の高い(グリーンビルディング)物件への需要がシフト。対応が遅れた場合、賃料収入の減少や空室率の上昇につながるリスク(不動産・ホテル) 。
エネルギー価格の変動(特に化石燃料価格の上昇)により、エネルギー調達コストが増加するリスク。価格転嫁が困難な場合、収益性が悪化する可能性がある 。
技術:
電気自動車(EV)の普及や自動運転技術の進展により、鉄道の相対的な環境優位性や利便性が低下し、利用者が減少するリスク(運輸サービス) 。
再生可能エネルギー関連の新技術導入に伴う初期投資コストの増加リスク(不動産・ホテル) 。
評判:
鉄道の環境優位性が低下した場合、環境意識の高い顧客が他の交通手段へシフトし、売上が減少するリスク(運輸サービス) 。
環境性能向上や災害対応力強化への取り組みが不十分と見なされた場合、資産価値やブランドイメージが低下するリスク(不動産・ホテル) 。
環境対策への取り組みが消極的と評価された場合、投資家からの評価が低下し、資金調達コストの上昇や株価への悪影響が生じるリスク(全事業) 。
コスト削減・効率化:
省エネルギー化や再生可能エネルギー導入を早期に進めることで、将来的な炭素価格上昇の影響を抑制し、エネルギーコストを削減できる機会 。
鉄道の自動運転技術やAI活用、気象予測の高度化による保守点検業務の効率化など、新技術導入による運営コスト削減の機会(運輸サービス) 。
食品ロス削減による原材料調達コストや廃棄物処理コストの低減(流通・外食) 。
市場・需要創出:
環境意識の高まりによる公共交通機関(特に鉄道)へのモーダルシフトが進み、利用者数が増加する機会(運輸サービス) 。
MaaS(Mobility as a Service)の普及により、鉄道を含む公共交通利用が促進され、交流人口増加に伴う需要拡大の機会(全事業) 。
グリーンビルディング等、環境配慮型建物への需要増加に対応することで、不動産価値向上や売上増加につながる機会(不動産・ホテル) 。
太陽光発電事業など、再生可能エネルギー関連事業への参入・拡大による新たな収益機会 。
レジリエンスと評判向上:
自然災害に対する強靭な事業運営体制を構築することで、事業継続リスクを低減するとともに、災害対応力をアピールし競争優位性を確保する機会(運輸サービス、不動産・ホテル) 。
災害発生時に避難場所を提供するなど地域社会に貢献することで、企業評価を高める機会 。
積極的な環境への取り組みを通じて、ブランドイメージ向上や投資家からの評価向上につながる機会 。
JR九州のTCFD分析 は、物理的リスク(異常気象等)と移行リスク(炭素価格等)が相互に関連し、運輸、不動産、流通といった多様な事業ポートフォリオ全体に複合的な影響を及ぼし得ることを示している。例えば、激甚化する台風(物理リスク)は鉄道インフラだけでなく商業施設にも被害を与える可能性があり、同時に、より強靭なインフラへの投資(適応機会)には、炭素価格が転嫁された資材価格の上昇(移行リスク)という形でコスト増要因が伴うかもしれない。これは、リスク管理において統合的な視点が不可欠であることを示唆している。
特定された機会の多くが、中核事業である鉄道事業の強化(モーダルシフト、MaaS連携、運行効率化)や既存資産の活用(不動産のグリーン化、遊休地での再エネ開発)に直結している点も注目される 。これは、JR九州が環境戦略を単なるリスク対応ではなく、自社の強みと連携した将来の成長ドライバーとして捉えていることを示唆している。環境機会と中核事業との整合性が高いことは、戦略の実行可能性を高める要因となり得る。
日本の鉄道業界では、各社が環境負荷低減に向けた様々な先進的な取り組みを進めている。JR九州の取り組みを評価する上で、これらのベストプラクティスは重要な参照点となる。
エネルギー効率と再生可能エネルギー:
次世代車両: JR東日本、JR東海、JR西日本は、ハイブリッド車両、蓄電池車両、さらには水素燃料電池車両の開発・導入に積極的に取り組んでいる 。JR九州もYC1系ハイブリッド車やBEC819系蓄電池車を導入しており、このトレンドに追随している 。
高効率駆動システム: 最新のSiC(炭化ケイ素)半導体素子を用いた駆動制御システムの採用により、さらなる効率化と軽量化が進められている 。
再生可能エネルギー目標: 特にJR東日本は、2030年度までにグループ全体の電力使用量を100%再生可能エネルギーで賄うという極めて意欲的な目標を掲げ、大規模な電源確保を進めている 。他の主要事業者も再エネ導入を進めている 。
省エネ建築: JR西日本は、新築開発物件においてZEB Ready認証やBELS(建築物省エネルギー性能表示制度)で最高ランクの5つ星、CASBEE(建築環境総合性能評価システム)でAランクを取得するなど、高いレベルの省エネ建築を推進している 。JR九州もZEB Ready認証取得事例がある 。
資源循環:
アップサイクル: JR東海は、廃車となった東海道新幹線の座席モケットやアルミ素材を、スリッパ、建材、子供用バット、ストローなど多様な製品に再生するアップサイクル事業を積極的に展開し、高い認知度を得ている 。JR西日本(制服をフェルト化)やJR東日本(制服を軍手に)も同様の取り組みを行っている 。JR九州も制服リサイクルや鉄道部品オークションを実施している 。
食品ロス削減: 東武鉄道は、フードシェアリングサービス「TABETE」と連携し、売れ残り農産物を鉄道(貨客混載)で都心へ輸送・販売するユニークな取り組みを行っている 。JR九州も複数の食品ロス削減策を実施している 。
水資源活用: JR西日本は、トンネル湧水を周辺地域の生態系保全(蛍の里)や農業用水に活用している 。JR九州は主に施設内での水再利用を行っている 。
生物多様性:
生息地保全: JR西日本は、オオサンショウウオの保護活動、トンネル湧水を利用した景観・生態系保全、線路脇へのカメ用通路設置、コウノトリ生息地への配慮など、具体的な生物・生息地保全活動を多数報告している 。
認証・連携: JR東海は、NPO法人等と連携し南アルプスの高山植物や森林の保全活動を支援している 。JR西日本は、分譲マンション事業においてABINC認証(いきもの共生事業所認証)を取得している 。JR九州もバイオーム社との連携や植樹活動を行っている 。
カーボンオフセット連携: JR西日本は、自社ポイント(WESTERポイント)を森林保全団体への寄付に交換できる「カーボンオフセット特典」を提供している 。
日本の大手鉄道会社は、車両効率化、再エネ導入、リサイクル、生物多様性配慮といった共通の環境テーマに取り組んでいるが、その規模、目標の野心度(例:JR東日本の2030年再エネ100%目標 )、そして注力分野(例:JR東海のアップサイクル 、JR西日本の生物多様性活動の詳細度 )には差異が見られる。これは、各社の事業規模、地理的条件、事業構成(不動産開発の比重等)、戦略的優先順位、ステークホルダーからの要請の違いなどを反映している可能性がある。JR九州は各分野で活動しているものの、利用可能な情報からは、最大手のJR東日本などと比較して、全ての分野で一貫して業界をリードしているとは言い難い側面もある。
JR西日本が研究する微生物発電 (実験段階と思われる)や水素技術の探求 、JR東日本・阪急阪神ホールディングス共同企画の「SDGsトレイン」 などは、業界内での継続的な技術革新や社会啓発への意欲を示している。鉄道業界は長期的な脱炭素化という課題に直面しており、水素や高性能蓄電池などの技術的ブレークスルーや、利用者の行動変容(モーダルシフト)が求められる。これらの革新的プロジェクトは、小規模であっても、将来の解決策を模索する業界の姿勢を示すものである。
JR九州の環境パフォーマンスを評価する上で、国内の主要な競合鉄道事業者、特にJR他社の取り組みとの比較は不可欠である。
JR東日本(東日本旅客鉄道株式会社):
気候変動: 長期目標「ゼロカーボン・チャレンジ2050」を掲げ、中間目標として2030年度までにCO2排出量50%削減(2013年度比)を目指す 。2023年度時点で14.7%削減を達成 。特に再生可能エネルギー導入に意欲的で、2030年度までに電力使用量の100%を再エネ化する目標を持つ 。自社での再エネ開発(洋上風力含む)、水素燃料電池車両の開発、駅・ビルでの徹底した省エネ策などを推進 。TCFDに加え、TNFD提言に基づく情報開示にも取り組む 。統合報告書等が公開されている 。CDPスコアは明示されていないが、目標の高さから高評価が推察される 。
資源循環: 2030年度目標として、駅・列車ごみのPETボトルリサイクル率100%、廃棄物全体のリサイクル率73%(2013年度比)を設定。2023年度実績はPETボトル98%、全体74% 。制服をリサイクルし軍手などを製造 。
生物多様性: TNFDへの対応、約3,900haの鉄道林の維持管理、地域での植樹活動などを実施 。バイオーム社との連携にも参加 。
JR東海(東海旅客鉄道株式会社):
気候変動: 2050年カーボンニュートラルを目指し、2030年度までにCO2排出量46%削減(2013年度比)を目標とする 。最新型新幹線N700Sの高いエネルギー効率を強みとし、ハイブリッド技術も検討 。再エネ導入も進めるが、JR東日本ほど具体的な比率目標は前面に出されていない。新幹線のCO2排出量実質ゼロ化サービス「Green EX」に参画 。統合報告書等が公開されている 。CDPスコアは不明 。GXリサーチによる環境スコアは90点 。
資源循環: 3Rの中でも特にアップサイクルに注力し、東海道新幹線の廃材(座席モケット、アルミ)を多様な製品(建材、雑貨、スポーツ用品等)に再生する取り組みが特徴的 。使用済み鉛蓄電池のリユースも検証中 。
生物多様性: 南アルプス国立公園周辺地域での高山植物保護や森林整備活動をNPO等と連携して支援。これらの活動支援を、飯田線・身延線における「ゼロカーボンデー」設定(CO2排出量オフセット)と結びつけている 。
JR西日本(西日本旅客鉄道株式会社):
気候変動: 「JR西日本グループ ゼロカーボン2050」を掲げ、2030年度までにCO2排出量50%削減(2013年度比)を目指す 。2023年度実績は123.6万トン(2013年度178万トン比で約30.6%削減)。新幹線(山陽・北陸)の列車運転用電力の再エネ化(2027年度目標10%以上)や、特定路線(大阪環状線・JRゆめ咲線)での100%再エネ電力運行(2024年達成)などを推進 。ZEB Ready認証取得などグリーンビルディングにも注力 。統合報告書等が公開されている 。CDPスコアは不明だが向上を目指していると推察される 。
資源循環: 2025年度目標として高いリサイクル率(駅・列車ごみ99%、設備工事資材97%、車両資材95%)を設定し、2023年度には目標達成または超過 。水使用量の原単位目標も設定 。制服リサイクルや遺失物の傘のアップサイクルなども実施 。
生物多様性: オオサンショウウオ保護、トンネル湧水活用、アニマルパスウェイ設置、コウノトリ配慮、森林再生、ABINC認証取得(住宅事業)など、具体的かつ多岐にわたる保全活動を展開 。ポイント制度を活用したカーボンオフセット寄付も実施 。バイオーム社との連携にも参加 。
主要JR各社は2050年ネットゼロという共通の長期目標を持つものの、2030年の中間目標(JR東海は46%削減、他社は50%削減)、報告されている進捗状況、具体的な戦略(特に再エネ導入ペースや生物多様性プログラムの深さ)には差異が見られる。JR東日本は再エネ導入において特に野心的である 。JR東海はアップサイクルの取り組みで際立っている 。JR西日本は生物多様性に関する包括的な活動が特徴的である 。JR九州は各分野で活動しているが、利用可能なデータに基づくと、これら競合他社と比較して全ての分野で常に最先端を走っているとは言い難い。JR九州の2030年CO2削減目標(50%) はJR東日本・西日本と同水準だが、現時点での削減進捗率(約14.3%) は、報告ベースではJR東日本の14.7% と同程度であるものの、目標達成にはより一層の加速が必要である。資源循環や生物多様性に関するプログラムも、一部の競合他社ほど定量的な目標設定や広範な展開が報告されていない側面がある。
各社のパフォーマンスを正確に比較することは、報告範囲(連結か単体か)、基準年の扱い、算定方法、公開情報の詳細度などの違いにより困難が伴う 。例えば、JR西日本のCO2削減率の算出にはデータ解釈上の注意が必要であった。リサイクル率の比較も、対象となる廃棄物の範囲定義が統一されていないと比較が難しい。これは、業界内での標準化された報告フレームワークの重要性を示唆している。ESGスコアは標準化された視点を提供するが、その根拠となるデータの透明性にはばらつきがある。
外部評価機関による環境スコアは、企業の環境パフォーマンスを客観的に比較・評価する上で有用な指標となる。
JR九州のスコア・評価:
CDP気候変動: 近年の評価で「B-」スコアを取得している 。CDPのスコアリング体系において、「B-」は「マネジメントレベル」に分類され、企業が環境影響を認識し、それに対応する行動をとっていることを示すが、最高評価である「A」や「A-」(リーダーシップレベル)には達していないことを意味する 。
ESGインデックス組入れ: 複数の主要なESGインデックスに組み入れられている。具体的には、「MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数」、「MSCI日本株女性活躍指数(WIN)」、「FTSE Blossom Japan Sector Relative Index」、「S&P/JPX カーボン・エフィシエント指数」、「Morningstar 日本株式ジェンダー・ダイバーシティ・ティルト指数」などが挙げられる 。これらのインデックスへの組入れは、JR九州が各評価機関の定める一定のESG基準を満たしていることを示すが、インデックス内での具体的なスコアや順位を開示するものではない 。
その他評価: 格付投資情報センター(R&I)は、JR九州発行のグリーンボンド(使途:グリーンビルディング)に対し、マテリアリティとの整合性や明確なCO2削減効果が見込める点などを評価し、肯定的なセカンドオピニオンを付与している 。GXリサーチによる環境スコアは125点とされている 。
競合他社・業界のスコア:
南海電気鉄道: 2023年度のCDP気候変動評価で「A-」(リーダーシップレベル)を取得し、前年度までの「B」から評価を向上させた 。CDP水セキュリティ評価は「C」であった 。
JR東海: GXリサーチによる環境スコアは90点 。CDPスコアに関する情報は提供された資料からは確認できなかった。
JR東日本・JR西日本: 最新のCDPスコアは提供された資料からは確認できなかった。しかし、鉄道会社のサプライヤーである鉄建建設がCDPでAリスト評価を受けており、主要顧客である鉄道会社のスコアレベルを意識していることが示唆されている 。日本企業全体としてCDPスコア向上への意識が高まっている傾向がある 。
国際比較: ドイツ鉄道は過去にCDPのAリスト企業として挙げられている 。世界銀行などが支援するWorld Benchmarking Alliance(WBA)の運輸セクターベンチマーク(世界の主要運輸企業90社対象)では、業界全体としてパリ協定の1.5℃目標達成に向けた取り組みがまだ不十分であると指摘されている 。
JR九州のCDPスコア「B-」 は、同社が気候変動問題に対応する管理体制を構築していることを示す一方で、国内の同業他社である南海電鉄(A-) や、リーダーシップレベルを目指す他の大手JR各社 と比較すると、まだ改善の余地があることを示唆している。複数のESGインデックスへの組入れ はポジティブな要素であるが、CDPスコアが示すパフォーマンスギャップを補完するものではない。CDPスコアは投資家による気候変動対策の成熟度評価に広く用いられており、「B-」評価は、より野心的な目標設定、実績向上、包括的なリスク管理、バリューチェーンへの関与といった点で、「A」リスト企業と比較して改善の可能性があることを示している。
複数のESGインデックスへの組入れ は、JR九州がサステナブル投資の対象として最低限の基準を満たしていることを裏付ける。しかし、これらのインデックスはそれぞれ異なる評価方法や基準(例:ジェンダーダイバーシティ )を用いており、CDPのように特定の環境側面に深く焦点を当てた評価とは異なる。したがって、インデックス組入れ状況のみに依存せず、CDPのような具体的なスコアを併せて分析することが、相対的なパフォーマンスをより正確に把握する上で重要となる。
これまでの分析を踏まえ、JR九州が環境パフォーマンスをさらに向上させる上で直面している主要な課題と、それに対する改善提案を以下に示す。
脱炭素化の加速: 2030年のCO2排出量50%削減目標達成には、過去の実績を大幅に上回るペースでの削減(年平均5%超)が必要であり、再生可能エネルギー導入と省エネルギー施策の規模拡大が喫緊の課題である(2.1.参照)。
資源循環における指標と範囲: 廃棄物全体のリサイクル率に関する明確かつ一貫したグループ全体の目標・実績報告が不足しており、進捗管理が困難である(3.1.参照)。取り組みが特定の品目や拠点に偏っている可能性があり、グループ全体への展開と効果測定が必要である(3.2.参照)。
生物多様性の定量化: 保全活動は主に定性的に報告されており、具体的な数値目標や影響評価が欠如しているため、取り組みの有効性を客観的に評価し、その価値をステークホルダーに示すことが難しい(4.1.参照)。TNFDなど定量的なアプローチを採用する競合他社に遅れをとっている可能性がある 。
ベンチマーキングにおける位置づけ: CDPスコアが「B-」に留まっており、リーダーシップレベルの評価を得ている競合他社との間にギャップが存在する(8.1.参照)。パフォーマンス向上と情報開示の透明性向上が求められる。
多様な事業へのESG統合: 鉄道事業に加え、不動産、ホテル、流通など多岐にわたる事業を展開する中で、グループ全体で一貫した環境基準を適用し、パフォーマンスを管理・向上させていくためのガバナンスと実行体制の強化が課題である(1.2., 3.2.参照)。
気候変動対策の強化:
2030年目標達成に必要な年率5%超のCO2削減を実現するための詳細なロードマップを策定・公開する。現在のPPA契約等に加え、大規模なグリーン電力証書購入、追加のPPA締結、または直接的な再エネ発電投資など、再生可能エネルギー調達を加速する方策を具体化する。
全ての施設(駅、ビル、ホテル等)を対象とした体系的な省エネルギープログラムを強化し、ポートフォリオ全体でのエネルギー削減目標を設定・管理する。
次世代低炭素車両技術(水素、高性能蓄電池等)の開発・導入を引き続き推進する。
資源循環の推進:
廃棄物削減と全体リサイクル率に関する明確かつ定量的なグループ全体の目標(例:の90%目標の再確認・更新)を設定し、その実績を定期的に報告する。
食品ロス削減や特定素材のリサイクルなど、成功事例をグループ内の関連子会社全てに横展開し、効果を測定・管理する仕組みを構築する。特に排出量の多い建設・保守関連廃棄物の削減・再資源化に注力する。
水使用量に関しても、より具体的な効率改善目標を設定する。
生物多様性戦略の具体化:
TNFDなどの国際的フレームワーク(JR東日本の事例 を参考に)に整合した正式な生物多様性戦略を策定する。
具体的な、測定可能な目標(例:鉄道沿線における特定の生息地の回復面積、新規開発プロジェクトにおける影響緩和策の基準設定など)を設定する。
バイオーム社との連携 を活用し、鉄道沿線の生物多様性に関するデータ収集と影響モニタリングを強化する。
土地利用計画や建設プロジェクトの初期段階から、生物多様性への配慮を体系的に組み込むプロセスを確立する。
情報開示とベンチマーキング:
特に資源循環と生物多様性の分野において、定量的な指標を用いた情報開示の透明性を向上させる。
CDP評価において、目標設定の野心度、実績、リスク管理、バリューチェーンへの取り組みなどを強化し、「A」リスト入りを目指す。
国内外の先進的な同業他社の取り組みを継続的にベンチマークし、自社の戦略に反映させる。
ガバナンスと実行体制:
ESG戦略(特に資源循環と生物多様性)が、グループ各社の事業運営、設備投資判断、業績評価に確実に反映されるようなガバナンス体制を強化する。
事業部門間での環境に関するベストプラクティスの共有と展開を促進する仕組みを構築する。
本分析の結果、JR九州は気候変動対策をマテリアリティと位置づけ、2030年及び2050年に向けたCO2排出削減目標を設定し、再生可能エネルギー導入(オンサイト・オフサイトPPA、地産地消モデル等)や省エネルギー型車両導入などの具体的な取り組みを開始していることが確認された 。資源循環に関しても、PETボトルの水平リサイクルや制服リサイクル、食品ロス削減など多様な施策に着手しており、生物多様性に関しても植樹活動やプラスチック削減、外部パートナーシップを通じた取り組みが見られる 。TCFD提言に沿ったリスク・機会分析も進められており、気候変動への対応を経営課題として認識している 。
一方で、いくつかの課題も明らかになった。気候変動対策では、2030年目標達成に向けて削減ペースの大幅な加速が必要である。資源循環においては、グループ全体を網羅する定量的な目標設定と実績報告の明確化、及び施策の広範な展開が求められる。生物多様性保全に関しては、取り組みの定量的な評価と戦略的な位置づけの強化が今後の課題である。外部評価であるCDPスコア(B-)は、マネジメント体制の構築を示す一方で、リーダーシップレベルの評価を得ている企業との比較では改善の余地があることを示唆している。
2023年 | 89,000t-CO2 |
2022年 | 74,000t-CO2 |
2021年 | 53,000t-CO2 |
2023年 | 323,000t-CO2 |
2022年 | 234,000t-CO2 |
2021年 | 260,000t-CO2 |
2023年 | 1,055,000t-CO2 |
2022年 | - |
2021年 | - |
スコープ1+2 CORの過去3年推移
2023年 | 980kg-CO2 |
2022年 | 804kg-CO2 |
2021年 | 950kg-CO2 |
スコープ3 CORの過去3年推移
2023年 | 2,510kg-CO2 |
2022年 | 0kg-CO2 |
2021年 | 0kg-CO2 |
スコープ1+2のCOA推移
2023年 | 378kg-CO2 |
2022年 | 309kg-CO2 |
2021年 | 329kg-CO2 |
スコープ3のCOA推移
2023年 | 969kg-CO2 |
2022年 | 0kg-CO2 |
2021年 | 0kg-CO2 |
2023年 | 4,204億円 |
2022年 | 3,832億円 |
2021年 | 3,295億円 |
2023年 | 384億円 |
2022年 | 312億円 |
2021年 | 133億円 |
2023年 | 1兆892億円 |
2022年 | 9,967億円 |
2021年 | 9,520億円 |
すべての会社と比較したポジション
業界内ポジション
CORスコープ1+2
CORスコープ3
CORスコープ1+2
CORスコープ3
COAスコープ1+2
COAスコープ3
COAスコープ1+2
COAスコープ3