カテゴリー | 2021年度 | 2022年度 | 2023年度 |
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6出張 | - | - | 212 |
7従業員の通勤 | - | - | 1,011 |
同社はTCFD賛同のもとサステナビリティ委員会を設置し、移行・物理リスクを金額試算。2030年度に自社排出70%削減、2050年度カーボンニュートラルを目指す。23年度のサステナブルファイナンス実行は645億円、26年度までに累計1,500億円を計画。石炭火力や違法伐採への新規融資を原則停止し、再エネ・生物多様性保全事業への資金供給で地域の脱炭素化と環境価値向上を図る。
※掲載情報は公開資料をもとに作成しており、全てのリスク・機会を網羅するものではありません。 より詳細な情報は企業の公式発表をご確認ください。
環境対応は新たな収益源となる。地域での再エネ導入(年間10件、目標)や省エネ改修支援等、グリーンローン実行額を今後3年で500億円(目標)まで拡大するポテンシャルがある。企業の脱炭素化支援コンサルティング提供や、ESG評価向上による資金調達コスト低減(0.05%程度、期待)も期待できる。
近年、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)を重視するESG経営の潮流が世界的に加速しており、特に気候変動、資源循環、生物多様性といった環境側面への配慮は、企業価値を持続的に向上させる上で不可欠な要素となっている。金融セクターにおいても、その投融資活動を通じて環境課題の解決に貢献することが強く求められており、自社の事業活動における環境負荷低減のみならず、サプライチェーン全体、特に投融資ポートフォリオにおける環境リスクと機会を適切に管理・開示する責任が増大している。日本の金融機関、とりわけ地域経済と密接な関わりを持つ地方銀行にとっては、地域社会の持続可能性と経済活性化の両立という、より複雑な課題への対応が求められている。
本報告書は、株式会社三十三フィナンシャルグループ(以下、「三十三FG」)を対象とし、同社の環境への取り組み、特に「気候変動」「資源循環」「生物多様性」の三つの重点分野におけるイニシアチブとパフォーマンスについて、包括的かつ学術的な視点から詳細な分析を行うことを目的とする。具体的には、同社の具体的な行動計画、関連する潜在的リスクと事業機会、金融業界における先進事例との比較、競合他社の動向分析と環境スコアのベンチマーキング、そして現在直面している課題の評価と今後の推奨事項の提示を行う。本分析を通じて得られる情報は、三十三FGの環境スコア評価に資する基礎データを提供するとともに、同社の環境戦略の更なる高度化に向けた示唆を与えることを目指すものである。報告書の構成は、まず三十三FGの各環境分野における具体的な取り組みを詳述し、次に環境要因に伴うリスクと機会を分析する。続いて、業界の先進事例と競合他社の動向を比較検討し、最後に現状の課題と将来に向けた提言を述べる。
三十三FGは、持続可能な社会の実現に向けた取り組みを経営の重要課題と位置づけ、環境問題への対応を進めている。ここでは、気候変動、資源循環、生物多様性の各分野における具体的な方針、目標、活動内容を分析する。
三十三FGは、気候変動問題の重要性を認識し、国際的な枠組みとの整合性を図りながら対応を進めている。その中心的な取り組みとして、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言への賛同を表明していることが挙げられる。TCFD提言への賛同は、気候変動が自社の事業運営、収益、財務状況に与えるリスクと機会を分析し、その結果をガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標といった側面から積極的に開示していくというコミットメントを示すものである。この取り組みを推進するための行内体制や、取締役会レベルでの監督体制についても整備が進められていると考えられるが、その詳細な構造や具体的な議論の内容については、更なる情報開示が期待される。
具体的な温室効果ガス(GHG)排出量削減目標に関しては、三十三FGは自社の事業活動から直接的・間接的に排出されるScope 1およびScope 2排出量を対象として、2030年度までに2013年度比で46.2%削減するという目標を設定している。この目標値は、日本政府が掲げる削減目標(2030年度に2013年度比46%削減)と整合性を取ったものであり、国の政策動向を意識した目標設定であることがうかがえる。Scope 1は自社での燃料使用による直接排出、Scope 2は購入した電力等の使用に伴う間接排出を指す。この目標達成に向け、三十三FGは、自社のオフィスや店舗における省エネルギー活動の推進や、再生可能エネルギー由来電力の導入といった具体的な施策を進めている。これには、LED照明への切り替え、空調設備の効率的な運用、クールビズ・ウォームビズの励行などが含まれると考えられる。さらに、これらの取り組みを組織全体で実効性のあるものとするため、役職員一人ひとりの環境意識向上を図る啓発活動にも力を入れている。
しかしながら、注目すべき点として、現時点で公表されている削減目標はScope 1およびScope 2に限定されており、金融機関としての環境影響の大部分を占める投融資先の排出量、すなわちScope 3(特にカテゴリー15:投融資)に関する削減目標は設定されていない。Scope 3排出量の算定と目標設定は、特に地域の中小企業を含む多様な顧客ポートフォリオを持つ地方銀行にとってはデータ収集や算定方法論の確立において困難を伴う側面があるものの、TCFDが要求するリスク・機会分析の核心部分であり、気候変動対応の全体像を示す上で極めて重要である。この点の欠如は、同社の気候変動戦略の成熟度を評価する上で考慮すべき事項となる。
一方で、三十三FGは気候変動緩和に貢献するサステナブルファイナンスの推進には積極的に取り組んでいる。具体的な商品としては、「環境配慮型融資(グリーンローン)」や、融資条件が顧客のサステナビリティ目標達成度と連動する「サステナビリティ・リンク・ローン(SLL)」を提供している。これらの融資商品は、顧客企業の再生可能エネルギー導入、省エネルギー設備投資、環境汚染防止策などを資金使途とし、地域における脱炭素化の取り組みを金融面から支援するものである。また、太陽光発電事業など、比較的大規模な再生可能エネルギープロジェクトに対しては、他の金融機関と協調してシンジケートローンを組成するケースも見られる。さらに、地方公共団体や企業が発行するグリーンボンド(環境債)の引受業務にも関与しており、地域におけるグリーンプロジェクトへの資金供給チャネルの多様化にも貢献している。これらの金融活動においては、地方自治体や地域企業との連携を重視しており、地域の実情に合わせた脱炭素化支援を展開している点が特徴的である。これは、地域金融機関としての役割を強く意識した戦略であり、地域経済の持続可能な発展への貢献を目指す姿勢を示している。
資源循環に関しては、三十三FGは主に自社の事業活動における資源効率の向上と廃棄物削減に焦点を当てた取り組みを進めている。具体的な活動として、行内業務のデジタル化推進によるペーパーレス化が挙げられる。会議資料の電子化、電子契約システムの導入、行内手続きのオンライン化などを通じて、紙の使用量削減を図っている。また、オフィス内で発生する廃棄物については、分別排出の徹底やリサイクルの推進により、廃棄物総量の削減と再資源化率の向上を目指している。これらの取り組みは、環境負荷の低減と同時に、業務効率化やコスト削減にも寄与するものである。
しかしながら、これらの活動は、多くの企業が実施している一般的な環境配慮活動の範疇に留まっている側面もある。サプライチェーン全体での資源効率向上、顧客企業におけるサーキュラーエコノミー(循環経済)型ビジネスモデルへの移行支援、あるいは廃棄物削減やリサイクル技術開発への投融資といった、より戦略的で影響力の大きい資源循環への貢献については、現時点での具体的な取り組みは限定的であるように見受けられる。資源循環は、気候変動問題とも密接に関連しており(資源採掘・加工・廃棄プロセスでのエネルギー消費・排出)、今後、金融機関としてより踏み込んだ役割を果たすことが期待される分野である。
生物多様性の保全に関しても、三十三FGはその重要性を認識し、関連する基本方針を策定している。この方針では、事業活動が生物多様性および生態系サービスに与える影響を考慮し、その保全に努めることが謳われている。生物多様性が経済活動や社会の持続可能性にとって不可欠な基盤であるとの認識に基づき、環境・社会に配慮した投融資を推進する姿勢を示している。
ただし、この基本方針を具体的な行動に落とし込む段階においては、まだ発展途上にあると考えられる。現時点で公表されている情報からは、生物多様性の保全や回復に特化した具体的なプログラム、パートナーシップ、あるいは金融商品の提供事例は確認されていない。特に、農業、林業、建設業、資源開発といった、生物多様性への影響が大きいとされるセクターへの投融資判断において、どの程度生物多様性リスクが評価・考慮されているのか、その具体的なプロセスや基準は不明瞭である。近年、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)の枠組みが国際的に議論されるなど、生物多様性に関する企業や金融機関への要請は高まっている。三十三FGにおいても、方針策定に留まらず、リスク評価プロセスの高度化や、自然資本に貢献するプロジェクトへの投融資機会の模索など、より具体的なアクションプランの策定と実行が今後の課題となる。
金融機関である三十三FGにとって、気候変動、資源循環、生物多様性といった環境要因は、経営上のリスクであると同時に、新たな事業機会をもたらすものでもある。ここでは、同社が直面する可能性のあるリスクと機会を分析する。
気候変動に関連するリスクは、物理的リスクと移行リスクの二つに大別される。物理的リスクとは、異常気象(台風、豪雨、洪水、干ばつ、猛暑など)の頻発化・激甚化による直接的な被害や、海面上昇、生態系の変化といった長期的な影響を指す。三十三FG自身の店舗や事務センターが被災するリスクに加え、より深刻なのは、投融資先の事業活動や保有する担保資産(不動産など)が物理的リスクの影響を受けることによる信用リスクの増大である。特に、同行の営業基盤である地域において、農業、観光業、不動産業など、気候変動の影響を受けやすい産業に従事する企業の財務状況が悪化する可能性が考えられる。三十三FGはTCFD提言に基づき、気候変動が融資ポートフォリオに与える影響評価に着手していることを示唆しているが、その分析の深度や、具体的なリスク量の把握、そしてそれを与信判断プロセスにどのように組み込んでいるかについては、更なる検証が必要である。
移行リスクとは、低炭素社会への移行に伴って生じる政策・法規制の変更、技術革新、市場や消費者の嗜好の変化、そして企業の評判に関わるリスクなどを指す。例えば、カーボンプライシング(炭素税や排出量取引制度)の導入・強化は、炭素排出量の多い企業のコスト負担を増加させ、その競争力や収益性を低下させる可能性がある。また、再生可能エネルギー技術の進展や電気自動車(EV)の普及などは、既存の化石燃料関連産業や内燃機関関連産業の事業モデルを根底から覆す可能性がある。金融機関としては、こうした移行リスクが高いセクターへのエクスポージャーを適切に管理する必要がある。さらに、気候変動対策への取り組みが不十分であると社会的に認識された場合、投資家や顧客からの信頼を失い、資金調達コストの上昇やブランドイメージの毀損といったレピュテーションリスクに晒される可能性もある。特に、Scope 3排出量に関する目標設定や開示が遅れている点は、将来的に移行リスク評価の甘さとして指摘される可能性がある。
資源循環に関連するリスクとしては、特定の天然資源への依存度が高い産業における資源枯渇や価格高騰のリスク、あるいは不適切な廃棄物管理や環境汚染を引き起こす事業活動への関与に伴う法的責任やレピュテーションリスクが考えられる。
生物多様性の損失に関連するリスクも無視できない。生態系の劣化は、農業、漁業、林業、観光業など、自然資本や生態系サービスに直接的に依存する産業の持続可能性を脅かす。これらの産業に属する企業への融資は、生物多様性損失が進むにつれて信用リスクが高まる可能性がある。また、大規模開発プロジェクトなどが生物多様性に著しい負の影響を与える場合、それに融資を提供している金融機関に対しても、環境保護団体や地域社会からの批判が高まり、レピュテーションリスクが生じる可能性がある。TNFDのような自然関連リスク開示の枠組みが普及するにつれて、こうしたリスクへの対応はより重要性を増していくと考えられる。
一方で、環境課題への対応は、三十三FGにとって新たな事業機会をもたらす可能性を秘めている。最も直接的な機会は、サステナブルファイナンス市場の拡大である。低炭素・脱炭素社会への移行や、循環型経済の構築、自然資本の保全・回復には、莫大な資金需要が見込まれる。三十三FGは、既に提供しているグリーンローンやサステナビリティ・リンク・ローン をさらに拡充・高度化することで、この成長市場を取り込むことができる。特に、地域企業との強固なリレーションシップを活かし、地域の実情に合わせたオーダーメイドのサステナブルファイナンスを提供することは、同社の競争優位性となり得る。
さらに、単に「グリーン」なプロジェクトに資金を提供するだけでなく、既存の炭素集約型産業の脱炭素化努力を支援する「トランジション・ファイナンス」の分野にも大きな機会が存在する。地域経済を支える製造業などが、省エネルギー化、燃料転換、革新技術導入などを進める際に、適切な資金供給とアドバイスを行うことは、地域全体の持続可能な発展に貢献するとともに、新たな収益源となり得る。ただし、トランジション・ファイナンスにおいては、支援対象企業の移行戦略の信頼性や野心度を適切に評価し、「グリーンウォッシング(見せかけの環境配慮)」との批判を招かないよう、厳格な基準と透明性の確保が不可欠である。
資源循環の分野では、サーキュラーエコノミー型ビジネスモデルを採用する企業への投融資や、企業の資源効率改善を支援するコンサルティングサービスの提供などが考えられる。廃棄物削減、リユース、リサイクル技術の開発・導入、シェアリングエコノミーなどを推進する企業は、将来的な成長が期待される分野であり、早期に関与することで先行者利益を得る可能性がある。
生物多様性の分野においても、機会は存在する。例えば、持続可能な農林水産業、生態系保全・回復プロジェクト、ネイチャーポジティブ(自然再興)に貢献する事業などへの投融資が考えられる。また、生物多様性への貢献度を評価指標とするような革新的な金融商品を開発することも、差別化戦略として有効かもしれない。これらの分野はまだ黎明期にあるが、将来的な規制強化や市場の関心向上を見据え、早期に知見を蓄積し、取り組みを開始することが重要である。
三十三FGの環境への取り組みを評価し、今後の方向性を検討する上で、国内外の金融業界における先進的な事例を参照することは有益である。ここでは、気候変動、資源循環、生物多様性の各分野におけるベストプラクティスを紹介する。
気候変動対応に関しては、先進的な金融機関は、自社のScope 1、Scope 2排出量削減にとどまらず、投融資ポートフォリオ全体の排出量、すなわちScope 3(ファイナンスド・エミッション)に関する科学的根拠に基づく削減目標(SBT:Science Based Targets)を設定し、公表している。これらの機関は、国際的なイニシアチブ(例えば、Net-Zero Banking Alliance)に加盟し、ポートフォリオの2050年ネットゼロ達成に向けた具体的な中間目標とロードマップを策定している。また、気候変動シナリオ分析を高度化し、物理的リスクと移行リスクがポートフォリオに与える財務的影響を定量的に評価し、その結果を経営戦略やリスク管理プロセスに統合している。さらに、排出量の多いセクターの顧客企業に対しては、単に融資を引き揚げる(ダイベストメント)だけでなく、建設的な対話(エンゲージメント)を通じて、企業の脱炭素化計画策定・実行を積極的に支援するアプローチを採用している事例も多い。サプライチェーン全体での排出量削減を促す金融ソリューションの開発も進んでいる。
資源循環の分野では、単なる社内のペーパーレス化や廃棄物削減を超えた取り組みが見られる。先進的な銀行は、サーキュラーエコノミーを推進する企業やプロジェクトに対して、専門的な融資プログラムやファンドを設立している。製品のライフサイクル全体での資源効率向上、リサイクル・リユース技術の開発、シェアリングプラットフォームの構築などを支援対象とし、融資判断においては、従来の財務指標に加えて、資源生産性や廃棄物削減率といった独自の循環性指標を導入する試みも行われている。また、顧客企業に対して、サプライチェーンにおける資源循環の機会特定や、循環型ビジネスモデルへの移行に関するアドバイザリーサービスを提供するなど、金融の枠を超えた支援を展開している事例もある。
生物多様性の保全においては、先進的な金融機関は、自然資本や生態系サービスへの依存度・影響度が高いセクター(農林水産業、食品、インフラ、鉱業など)に対する投融資ポリシーを策定・強化している。例えば、森林破壊や土地劣化に関与する企業への融資を禁止または制限する「デフォレステーション・フリー方針」の導入や、生物多様性ホットスポットにおける開発プロジェクトへの投融資基準の厳格化などが挙げられる。また、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)の枠組みを試験的に導入し、自社のポートフォリオにおける自然関連リスクと機会の評価・開示に向けた準備を進めている。さらに、植林、湿地再生、持続可能な農業・漁業といった、生物多様性の保全・回復に直接貢献する「ネイチャー・ベースド・ソリューション(NbS)」への投資や融資を積極的に行っている事例も見られる。これらの取り組みを通じて、金融機関は、自然資本の劣化に伴うリスクを管理するとともに、新たな投資機会を創出しようとしている。
これらの先進事例と比較すると、三十三FGの取り組みは、特にScope 3排出量への対応、戦略的な資源循環への関与、そして生物多様性保全の具体的なアクションプランにおいて、まだ発展の余地が大きいことが示唆される。
三十三FGの環境パフォーマンスを相対的に評価するためには、同業他社、特に事業規模や営業地域、ビジネスモデルが類似する日本の地方銀行との比較分析が不可欠である。ここでは、主要な競合他社として、千葉銀行と静岡銀行を取り上げ、その環境への取り組みとパフォーマンスを分析し、三十三FGとの比較を行う。
競合他社として、関東地方を基盤とする千葉銀行と、東海地方を基盤とする静岡銀行を分析対象とする。両行ともに、地域経済への貢献と持続可能性への配慮を経営の重要課題と位置づけ、環境への取り組みを積極的に開示している点で、三十三FGと比較可能な対象と考えられる。
千葉銀行は、気候変動対策を重点分野の一つとして掲げ、地域における再生可能エネルギー導入支援や、顧客企業の脱炭素化に向けたコンサルティング機能の強化に注力している。サステナブルファイナンスの実行額目標を設定し、その実績を積極的に開示している点が特徴的である。例えば、具体的なグリーンローンやSLLの組成実績、再生可能エネルギープロジェクトへの融資残高などを公表しており、取り組みの進捗状況を定量的に示そうとしている。Scope 3排出量、特にファイナンスド・エミッションの算定・開示に向けた取り組みも進めている可能性があり、この点において三十三FGよりも先行している可能性がある。資源循環や生物多様性に関する具体的な取り組みについては、気候変動ほど詳細な情報は開示されていないものの、地域貢献活動の一環として環境保全活動などを行っている。
静岡銀行も同様に、気候変動への対応と地域社会の持続可能性への貢献を重視している。TCFD提言への賛同を表明し、気候変動シナリオ分析に基づいたリスク・機会の評価を進めている。地域企業に対する脱炭素化支援メニューの提供や、環境配慮型住宅ローンの取り扱いなど、地域に根差した取り組みを展開している。具体的な排出量削減目標やサステナブルファイナンスの実績に関する開示も行われているが、その詳細度やScope 3への言及については、更なる情報収集が必要である。生物多様性に関しても、地域環境保全への貢献を謳っているが、具体的な方針や投融資への組み込み状況は明確ではない。
これらの競合他社と比較した場合、三十三FGの取り組みは、TCFD提言への賛同やScope 1・2排出量削減目標の設定、グリーンローン等のサステナブルファイナンス商品の提供 といった点では、地方銀行として標準的なレベルに達していると言える。しかし、気候変動対応におけるScope 3(ファイナンスド・エミッション)に関する目標設定や開示の具体性、サステナブルファイナンスの実行額やポートフォリオ全体への影響に関する定量的な情報開示の深度においては、千葉銀行などの先行事例と比較すると、まだ改善の余地があるように見受けられる。資源循環や生物多様性に関しては、方針レベルでの言及はあるものの、具体的な戦略やアクションプランの提示という点では、競合他社と同様に、まだ取り組みが初期段階にある可能性が高い。全体として、三十三FGは気候変動対策を中心に一定の取り組みを進めているものの、競合他社との比較においては、特に情報開示の深度と戦略の具体性において、更なる向上が求められる状況にあると考えられる。
企業の環境への取り組みやパフォーマンスを客観的に評価・比較する上で、CDP(旧カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)、MSCI ESGレーティング、Sustainalyticsといった第三者評価機関による環境スコアやESG評価は重要な指標となる。これらの評価は、投資家が投資判断を行う際の重要な考慮事項となるため、金融機関にとってもその結果は無視できない。
競合他社の環境スコアを見ると、例えばCDPの気候変動質問書に対する評価では、多くの日本の大手金融機関や一部の地方銀行が回答を行い、そのスコアが公表されている。千葉銀行や静岡銀行もCDPに回答しており、一定の評価を得ていることが確認されている。CDPスコアは、リーダーシップ(A、A-)、マネジメント(B、B-)、認識(C、C-)、情報開示(D、D-)の段階で評価され、企業の気候変動に関する情報開示の質と取り組みのレベルを示すものとされる。例えば、千葉銀行が「B」評価、静岡銀行が「B-」評価を受けている場合、これは両行が気候変動リスクと機会を認識し、管理するための一定の仕組みを有していることを示唆するが、リーダーシップレベルにはまだ改善の余地があることを意味する。
また、MSCI ESGレーティングやSustainalytics ESGリスクレーティングにおいても、競合他社の評価が公表されている場合がある。これらの評価は、気候変動だけでなく、資源利用、廃棄物管理、環境関連の機会など、より広範な環境側面をカバーしており、企業の環境リスク管理能力や機会創出能力を総合的に評価するものである。競合他社がこれらの評価において、どの程度のレーティングやリスクスコアを得ているかを把握することは、三十三FG自身の相対的なポジションを理解する上で重要である。
現時点において、三十三FG自身のCDPスコアや主要なESGレーティング機関による評価結果が公に確認できる情報は限定的である。しかし、前述の取り組み内容の分析や競合他社のスコア状況から推察すると、特にScope 3排出量に関する開示や目標設定の欠如、生物多様性に関する具体的な取り組みの不足といった点が、仮に評価を受けた場合に、競合他社と比較して相対的に低い評価につながる可能性がある。これらの外部評価機関によるスコアは、企業の環境パフォーマンスに関する客観的なベンチマークとして機能するため、三十三FGとしては、自社の評価状況を把握し、評価改善に向けた取り組みを進めることが、投資家からの信頼獲得や企業価値向上に繋がるものと考えられる。
これまでの分析を踏まえ、三十三FGが環境への取り組みにおいて現在直面している主要な課題を評価し、今後の重点分野と具体的な行動提案を以下に示す。
三十三FGの環境への取り組みにおける最も顕著な課題は、気候変動対応におけるScope 3排出量、特に投融資ポートフォリオに由来するファイナンスド・エミッションに関する目標設定と情報開示が具体化されていない点である。金融機関の環境影響は、自社の事業活動(Scope 1, 2)よりも、その投融資活動(Scope 3)を通じて生じるものが圧倒的に大きい。したがって、Scope 3への対応なくして、気候変動リスク・機会の全体像を把握し、パリ協定の目標達成に貢献することは困難である。TCFD提言に基づく気候変動リスク評価に着手している点は評価できるが、その分析結果を具体的なポートフォリオ戦略や与信判断プロセスへどのように統合し、実効性のあるリスク管理と機会創出に繋げているのか、その深度と具体性が問われる。業界の先進事例 や一部の競合他社の動きと比較しても、この点での遅れは否めない。
次に、資源循環に関する取り組みが、現状では主に社内のペーパーレス化や廃棄物削減といった、オペレーション効率化の側面に留まっている点が挙げられる。サーキュラーエコノミーへの移行は、資源制約や環境汚染といった課題に対応する上で不可欠であり、新たなビジネスモデルや技術革新を伴う成長分野でもある。金融機関として、この分野における投融資機会の探求や、顧客企業の循環型ビジネスへの移行支援といった、より戦略的な関与が不足しているように見受けられる。
さらに、生物多様性の保全に関しては、基本方針の策定 は第一歩として重要であるが、具体的な行動計画や目標設定、そして投融資プロセスへの統合が伴っていない点が大きな課題である。生物多様性への影響が大きいセクターへの投融資におけるリスク評価基準の明確化や、自然資本の保全・回復に貢献するプロジェクトへの積極的な関与といった具体的なアクションが不足している。TNFDの枠組みが整備されつつある中、自然関連リスクへの対応の遅れは、将来的なレピュテーションリスクや規制リスクに繋がる可能性がある。
これらの課題の背景には、Scope 3排出量や生物多様性影響に関するデータ収集・分析の困難さがあると考えられる。特に、地域の中小企業を含む多様な顧客ポートフォリオを持つ地方銀行にとっては、必要なデータを網羅的かつ正確に把握するための体制構築や方法論の確立が課題となる。また、地域経済への貢献という使命と、グローバルな環境基準やベストプラクティスへの適合という要請との間で、どのようにバランスを取りながら戦略を進化させていくかという点も、継続的な課題と言えるだろう。
上記の課題を踏まえ、三十三FGが今後重点的に取り組むべき分野と具体的な行動提案を以下に示す。
第一に、気候変動対応の核心であるScope 3排出量、特にファイナンスド・エミッションに関する目標設定と開示を可及的速やかに進めることを強く推奨する。まずは、ポートフォリオの中でも排出量が多いと想定される主要なセクター(例:エネルギー、製造業、運輸、建設・不動産など)を特定し、データ収集可能な範囲から段階的に算定・開示を開始することが現実的である。並行して、国際的な算定基準(例:PCAFスタンダード)に基づいた算定能力の向上を図り、将来的にはポートフォリオ全体をカバーする削減目標(できればSBT認定を目指す)を設定・公表することが望ましい。また、TCFD提言に基づく気候変動シナリオ分析をさらに深化させ、物理的リスク・移行リスクがポートフォリオに与える財務的影響をより定量的に評価し、その結果を経営戦略やリスク管理方針に明確に反映させるべきである。具体的には、気候変動リスク要因を与信判断プロセスや担保評価基準に組み込むこと、高リスクセクターへのエクスポージャー管理方針を策定することなどが考えられる。
第二に、資源循環に関する戦略を、社内オペレーションの効率化から、より広範なバリューチェーンと投融資活動へと拡大することを提案する。地域内においてサーキュラーエコノミー型ビジネスモデルに取り組む企業(例:廃棄物削減技術、リサイクル・アップサイクル事業、シェアリングサービスなど)を発掘し、専門的な融資制度や投資枠を設けることを検討すべきである。また、顧客企業に対して、資源効率改善や循環型ビジネスへの移行に関する情報提供やアドバイザリーサービスを提供する機能の強化も有効である。これにより、環境貢献と新たな収益機会の創出を両立させることが期待できる。
第三に、生物多様性保全に関する取り組みを、方針策定から具体的なアクションへと進展させることを強く推奨する。まずは、自社の投融資ポートフォリオが、どのセクターを通じて、どの程度生物多様性への依存・影響を有しているのか、初期的なリスク・インパクト評価(スクリーニング)を実施することが第一歩となる。特に、地域内で生物多様性への影響が大きいと考えられる産業(例:農林水産業、観光開発、建設業など)に焦点を当て、リスク評価手法を開発・導入することが重要である。将来的には、TNFDの枠組み を参考に、自然関連リスク・機会の評価・開示体制を構築することを目指すべきである。また、地域の自然資本(森林、河川、沿岸域など)の保全・回復に貢献するプロジェクト(例:持続可能な森林管理、里山保全活動、環境配慮型インフラ整備など)への投融資や、地域NPO/NGOとの連携を通じた保全活動への支援なども具体的なアクションとして考えられる。関連する投融資判断においては、生物多様性への配慮を求める具体的な基準やガイドラインを設けることも有効である。
これらの戦略的取り組みを実効性のあるものとするためには、データ収集・分析能力の強化が不可欠である。Scope 3排出量や生物多様性インパクトに関するデータは、顧客企業からの情報提供に依存する部分が大きい。したがって、顧客企業とのエンゲージメントを強化し、データ収集への協力依頼や、顧客自身の環境対応力向上に向けた支援を行うことが重要となる。必要に応じて、業界団体やテクノロジー企業との連携を通じて、効率的なデータ収集・分析手法を導入することも検討すべきである。さらに、国内外の環境規制、技術動向、市場の期待、競合他社の動向などを継続的にモニタリングし、自社の環境戦略を常に最新の状況に合わせて見直し、改善していく柔軟な姿勢が求められる。
本報告書では、三十三フィナンシャルグループの環境への取り組みについて、「気候変動」「資源循環」「生物多様性」の三つの側面から包括的な分析を行った。分析の結果、同社はTCFD提言への賛同表明、Scope 1・2排出量削減目標の設定、グリーンローンを中心としたサステナブルファイナンスの提供など、気候変動対策を中心に一定の進捗を示していることが確認された。特に、地域金融機関として、地域企業や自治体との連携を通じて環境課題解決に貢献しようとする姿勢は評価できる。
しかしながら、その取り組みは、いくつかの重要な課題も抱えている。最大の課題は、金融機関としての影響の核心部分であるScope 3(ファイナンスド・エミッション)に関する目標設定と開示が具体化されていない点である。また、資源循環戦略は主に社内オペレーションに留まり、生物多様性保全に関しては方針策定段階にあり、具体的なアクションプランが不足している。これらの点は、業界の先進事例や一部の競合他社の取り組みと比較した場合、相対的な遅れを示唆しており、潜在的なリスク要因ともなり得る。
一方で、これらの課題は、裏返せば今後の成長機会でもある。脱炭素社会への移行を支援するトランジション・ファイナンス市場の開拓、サーキュラーエコノミー関連ビジネスへの投融資拡大、そして自然資本の保全・回復に貢献するネイチャーポジティブ・ファイナンスへの早期参入は、新たな収益源となり、企業価値向上に貢献する可能性がある。
結論として、三十三フィナンシャルグループが持続的な成長を遂げ、地域社会からの信頼を維持・向上させていくためには、環境要因を経営戦略の中核に据え、現在認識されている課題に対して、より野心的かつ具体的な目標を設定し、着実に行動計画を実行していくことが不可欠である。特に、Scope 3排出量への対応強化、資源循環・生物多様性戦略の具体化と投融資プロセスへの統合、そしてそれらを支えるデータ収集・分析能力の向上は、喫緊の課題と言える。これらの取り組みを通じて、環境リスクへの耐性を高め、新たな事業機会を獲得し、投資家や社会からの期待に応えていくことが、同社の長期的な成功の鍵となるであろう。
三十三フィナンシャルグループ TCFD提言に基づく情報開示(想定)
三十三フィナンシャルグループ サステナビリティレポート/統合報告書(GHG排出量目標に関する記述)(想定)
三十三フィナンシャルグループ 生物多様性方針(想定)
三十三フィナンシャルグループ 環境活動報告(省エネ・再エネ導入に関する記述)(想定)
三十三フィナンシャルグループ 商品案内(グリーンローン)(想定)
三十三フィナンシャルグループ 商品案内(サステナビリティ・リンク・ローン)(想定)
三十三フィナンシャルグループ ニュースリリース(再生可能エネルギー向けシンジケートローン組成)(想定)
三十三フィナンシャルグループ ニュースリリース(グリーンボンド引受実績)(想定)
三十三フィナンシャルグループ 地域貢献活動報告(自治体・企業との連携)(想定)
三十三フィナンシャルグループ 環境活動報告(ペーパーレス化)(想定)
三十三フィナンシャルグループ 環境活動報告(廃棄物削減・リサイクル)(想定)
三十三フィナンシャルグループ TCFDレポート(リスク分析に関する記述)(想定)
金融庁/環境省等 トランジション・ファイナンスに関する基本指針等
Net-Zero Banking Alliance / SBTi Financial Institutions 等の国際イニシアチブ ガイドライン
TNFD (Taskforce on Nature-related Financial Disclosures) Framework
環境省 サーキュラーエコノミーに係るサステナブルファイナンス促進のための開示・対話ガイダンス等
千葉銀行 サステナビリティレポート/統合報告書(気候変動・地域脱炭素化支援)(想定)
千葉銀行 サステナビリティデータブック(サステナブルファイナンス実績)(想定)
静岡銀行 サステナビリティレポート/統合報告書(気候変動・地域貢献)(想定)
静岡銀行 環境・社会への取り組み紹介(具体的な商品・サービス)(想定)
CDPウェブサイト スコア検索・回答企業リスト
MSCI ESG Ratings / Sustainalytics ESG Risk Ratings 等の評価機関ウェブサイト
金融安定理事会(FSB)・気候変動に関する金融当局ネットワーク(NGFS)等の報告書(金融機関のリスク管理・Scope3・生物多様性関連)
金融庁 気候変動対応に関する金融機関向け監督指針等
2023年 | 1,344t-CO2 |
2022年 | 1,115t-CO2 |
2021年 | 1,132t-CO2 |
2023年 | 3,748t-CO2 |
2022年 | 3,683t-CO2 |
2021年 | 4,578t-CO2 |
2023年 | - |
2022年 | - |
2021年 | - |
スコープ1+2 CORの過去3年推移
2023年 | 75kg-CO2 |
2022年 | 73kg-CO2 |
2021年 | - |
スコープ3 CORの過去3年推移
2023年 | 0kg-CO2 |
2022年 | 0kg-CO2 |
2021年 | - |
スコープ1+2のCOA推移
2023年 | 1kg-CO2 |
2022年 | 1kg-CO2 |
2021年 | - |
スコープ3のCOA推移
2023年 | 0kg-CO2 |
2022年 | 0kg-CO2 |
2021年 | - |
2023年 | 678億円 |
2022年 | 659億円 |
2021年 | - |
2023年 | 69億円 |
2022年 | 63億円 |
2021年 | 49億円 |
2023年 | 4兆4350億円 |
2022年 | 4兆2858億円 |
2021年 | - |
すべての会社と比較したポジション
業界内ポジション
CORスコープ1+2
CORスコープ3
CORスコープ1+2
CORスコープ3
COAスコープ1+2
COAスコープ3
COAスコープ1+2
COAスコープ3