カテゴリー | 2021年度 | 2022年度 | 2023年度 |
---|---|---|---|
1購入した製品・サービス | - | 4,642 | 5,049 (▲407) |
2資本財 | - | 1,803 | 3,442 (▲1,639) |
3燃料・エネルギー関連活動 | - | 517 | 491 (▼26) |
4輸送・配送(上流) | - | 896 | 889 (▼7) |
5事業から発生する廃棄物 | - | 253 | 339 (▲86) |
山梨県産J-VERクレジットを購入し、店舗外ATM10拠点(15台)の稼働に伴うCO2排出量(年間約32トン)をオフセット。地域の森林保全活動への資金還流を促し、地域貢献と環境活動を結びつける取り組み。気候変動対策の一環として実施 。
笛吹市に約0.6haの「山梨ちゅうぎん 生物多様性の森」を開設。脱炭素(年間約2トンCO2吸収見込)と生物多様性保全を目的とし、植樹や下刈り、ミツバチ巣箱設置などを計画。行員が主体的に参加し、地域と連携して推進 。
※掲載情報は公開資料をもとに作成しており、全てのリスク・機会を網羅するものではありません。 より詳細な情報は企業の公式発表をご確認ください。
環境課題への対応は、グリーンファイナンス市場の拡大という事業機会をもたらします 。同行はサステナブルファイナンス目標を上方修正(2024年度末3500億円以上、2030年度末8000億円以上)し、この機会を捉えようとしています 。また、取引先の脱炭素化支援コンサルティングや「やまなしGX推進コンソーシアム」運営 は新たな収益源となり得ます 。地域再エネ導入支援等は地域貢献にも繋がります 。
本報告書は、株式会社山梨中央銀行(以下、「山梨中央銀行」または「同行」)の環境に関する取り組みと実績について、特に「気候変動」「資源循環」「生物多様性」の3つの主要分野に焦点を当て、包括的な分析を行うことを目的とする。その目的は、同行の環境スコア算定に必要な詳細情報を収集し、学術的な水準での評価と戦略的考察を提供することにある。報告書の構成は、序論に続き、同行の環境経営戦略とガバナンス体制、主要3分野における具体的な環境への取り組み、環境要因に関連するリスクと機会、金融業界における先進事例と競合分析、そして同行が直面する環境課題と将来に向けた提言を詳述する。結論では、分析結果を総括し、持続可能な地域社会実現に向けた展望を示す。なお、本報告書における全てのデータ、比較、ベンチマーク結果は、利用者からの指示に基づき、表や箇条書き形式を用いず、文章による記述形式のみで提示する。
近年、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資やサステナブルファイナンスへの関心が世界的に高まる中、金融機関、特に地域社会に深く根差した地方銀行が果たすべき環境面での役割はますます重要になっている。日本の地方銀行は、人口減少や高齢化といった社会構造の変化に直面しつつ 1、気候変動対策や生物多様性保全といった地球規模の環境課題への対応も迫られている。特に、東京証券取引所プライム市場上場企業に対しては、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言に沿った情報開示が実質的に求められるようになり 6、将来的にはISSB(国際サステナビリティ基準審議会)基準の影響も考慮する必要があるなど 8、規制や市場からの圧力は強まる傾向にある。グリーンファイナンス市場も拡大しており 12、これはリスクであると同時に新たな事業機会をもたらす。地方銀行は、自らの事業活動における環境負荷を低減するだけでなく、融資等を通じて地域経済全体の環境対応を支援し、持続可能な社会への移行を促進するという二重の役割を担っている 1。山梨中央銀行のような地域金融機関の環境戦略分析は、同行自身の評価にとどまらず、地方経済特有の課題(人口減少、特定の地域産業への依存等 1)とグローバルな持続可能性要請との複雑な相互作用の中で、地域金融がいかに舵取りを行うかを示す事例研究としても重要な意味を持つ。同行の取り組みは、地域社会のレジリエンス向上と、地球規模の環境目標達成への貢献という、二つの要請に応える必要性を浮き彫りにする。
山梨中央銀行グループは、その経営理念である「地域密着と健全経営」を根幹に据え、サステナビリティ経営を推進している 2。同行は、社会全体がサステナビリティを志向する中で、自らの存在意義(パーパス)を「山梨から豊かな未来をきりひらく」と明文化し、地域社会への価値創造を通じて自らの経済価値向上を目指す姿勢を示している 3。このパーパス実現に向け、同行はサステナビリティ経営の高度化に取り組み、その一環として、優先的に取り組むべきマテリアリティ(重要課題)を特定した 2。マテリアリティ特定プロセスにおいては、社会環境の変化、SDGs等の国際目標、地域課題、ステークホルダーの要請を抽出し、自社事業との関連性や社会・環境および自社事業への影響度を評価、経営層による妥当性検証を経て決定されている 2。特定されたマテリアリティの中には、「豊かな自然環境の維持と将来への継承」が含まれており、環境保全が同行の重要な経営課題の一つとして位置づけられていることが明確である 2。同行がサステナビリティ、特に環境保全を、地域アイデンティティ(「山梨から豊かな未来をきりひらく」 3)や中核的な経営理念と明確に結びつけている点は、単なる法令遵守を超えた、より深いレベルでの統合を示唆している可能性がある。これは、1877年の創業以来の歴史と地域への貢献を重視する姿勢 3、そして山梨県の豊かな自然(森林資源、富士山のイメージ 3)を背景とした環境課題への取り組みが、地域特性に根差した長期的な事業戦略の柱として位置づけられていることを示している。
山梨中央銀行グループは、具体的な行動指針として「山梨中央銀行グループ環境方針」を定めている 18。この方針は、環境関連法令の遵守、事業活動を通じた環境保全(環境配慮型商品・サービスの提供による顧客支援)、環境負荷の低減(持続可能なエネルギー利用、省エネ・省資源、リサイクル推進)、気候変動への対応(温室効果ガス排出削減、脱炭素社会実現への貢献)、生物多様性保全への対応(生物多様性の重要性認識と保全活動)、管理体制(サステナビリティ委員会による定期協議と改善)、そして環境方針の公開と積極的な情報発信という7つの柱から構成されている 18。特に、生物多様性については、「私たちの生活を守り、豊かな恵みをもたらす生物多様性の重要性を認識し、その保全に取り組みます」と独立した項目で明記されており 18、同行がこの課題を重要視していることがうかがえる。この環境方針は、気候変動、資源循環、生物多様性という本報告書の主要テーマを網羅し、具体的な取り組みの基盤となる公式なコミットメントを示している。生物多様性が独立項目として扱われている点は、後述する森林保全活動 21 や関連融資方針 18 への注力とも整合性が取れている。
山梨中央銀行は、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に賛同を表明しており、気候関連課題への対応を進めている 21。気候関連ガバナンス体制としては、頭取を委員長とするサステナビリティ委員会が設置され、原則として毎月、気候変動対応を含むサステナビリティに関する施策を本部各部横断的に協議・検討している 2。委員会での検討事項は常務会を経て取締役会へ付議・報告される体制が構築されており、取締役会による監督機能が確保されている 21。2023年度の委員会では、CO2排出量削減目標の引き上げやTCFD提言に基づく取り組み状況などが主要議題として挙げられた 21。同行は気候関連のリスク(移行リスク、物理的リスク)と機会について、短期(3年)、中期(10年)、長期(30年)の時間軸で分析を実施しており、当初は定性的な分析が中心であったが、定量的な評価も進めている 21。具体的には、移行リスクに関して、エネルギーセクターと運輸セクターを対象に、IEA(国際エネルギー機関)のNZE(Net Zero Emissions by 2050)シナリオ等における炭素価格を用いて、2050年までの融資先の財務悪化と与信関連費用の変化を分析した 21。物理的リスクについては、事業性与信先を対象に、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)のRCP2.6シナリオとRCP8.5シナリオに基づき、水害発生による財務影響と担保不動産の毀損に起因する与信関係費用の増加を分析している 21。また、炭素関連資産(エネルギー、運輸、素材・構築物、農業・食糧・林業製品の4セクターと定義)のエクスポージャーも把握しており、2024年3月末時点の貸出金残高に占める割合は、それぞれ2.24%、10.18%、21.78%、2.42%であると報告されている 21。これらの数値を文章で示すと、運輸セクターと素材・構築物セクターへのエクスポージャーが比較的大きいことがわかる。TCFDが推奨するガバナンス体制やリスク分析の枠組みを導入していることは、同行が気候変動リスク管理に真摯に取り組んでいる証左であり、特に炭素関連資産エクスポージャーの開示は、ポートフォリオにおける潜在的な移行リスクを理解する上での基礎情報となる。この体系的なアプローチは、プライム市場上場企業としての要請 3 に応えるとともに、国際的なベストプラクティスに沿ったものであると言える。
山梨中央銀行グループは、持続可能な地域社会の実現に向け、「山梨中央銀行グループ投融資ポリシー」を策定し、ESG(環境・社会・ガバナンス)への影響を重視した投融資判断を行っている 18。このポリシーは、ポジティブスクリーニング(積極的な支援)とネガティブスクリーニング(投融資を行わない対象)の両側面を明確に規定している。ポジティブスクリーニングの対象としては、脱炭素社会実現に資する再生可能エネルギー事業や二酸化炭素排出量削減に貢献する事業、水資源・森林資源・絶滅危惧種保護など生物多様性保全に資する事業、防災・減災に資する事業、農林業・観光業など地域の基幹産業振興に資する事業、世界遺産等の文化財保全に資する事業、その他持続可能な地域社会づくりに資する事業が挙げられている 18。一方、ネガティブスクリーニングとして、原則として投融資を行わない対象には、石炭火力発電所の新規建設事業(ただし、国のエネルギー政策や国際ガイドライン等を勘案し、個別案件ごとに慎重に検討する余地を残している)、クラスター弾など非人道兵器の開発・製造関連事業、そして森林資源等の保全や人権保護の観点から違法伐採や児童労働などが行われている可能性が高いパーム油農園開発・森林伐採関連事業等が含まれている 18。この投融資ポリシーは、銀行の最も重要な機能である資金供給を通じて、環境・社会課題への取り組みを具体化する手段であり、環境方針やサステナビリティ方針を実践するための実務的な指針となっている。特に、ポジティブスクリーニング基準は同行の環境目標(再生可能エネルギー、生物多様性)や地域重視の姿勢(地場産業振興、防災)と直結しており、ネガティブスクリーニング基準は主要なグローバルESG懸念事項に対応することで、リスク管理と社会的責任の両立を図ろうとしている。
山梨中央銀行は、自らの事業活動に伴う温室効果ガス排出量の削減に積極的に取り組んでいる。Scope1(燃料の直接燃焼等による排出)およびScope2(購入電力等による間接排出)の合計CO2排出量について、2030年度までに2013年度比で50%削減するという目標を設定している 21。なお、一部の資料では60%削減目標が言及されているが 26、公式ウェブサイトの環境セクションでは50%目標が明記されており、本稿ではこちらを正式な目標値として扱う。2023年度の実績としては、2013年度比で33.1%の削減を達成しており、目標達成に向けた進捗が確認できる 21。排出量の算定対象範囲は、Scope1が重油、ガス、ガソリンなどの直接排出量、Scope2が電気使用に伴う間接排出量である 21。さらに同行は、金融機関にとって気候変動におけるリスクと機会を捉える上で重要な指標とされるScope3排出量、特にカテゴリ15(投融資)の算定にも着手している。PCAF(Partnership for Carbon Accounting Financials)スタンダードの計測手法を参考に、国内事業法人向け融資を対象として算定を開始しており、今後も計測の高度化に取り組む方針を示している 21。Scope3の他のカテゴリ(8から14)については、算出による排出量はゼロと報告されている 21。具体的な中期目標を設定し、進捗を追跡していることは、TCFDの「指標と目標」の開示要請に応えるものである。特に、金融機関の気候影響の大部分を占めるScope3カテゴリ15への取り組みを開始したことは、自らの気候フットプリントに対するより包括的な理解に向けた重要な一歩であり、今後の進展が注目される。
山梨中央銀行は、Scope2排出量削減策として、再生可能エネルギーの導入を進めている。2022年4月より、山梨県営水力発電所で発電されたCO2フリー電気を、同行本店ビルおよび電算センタービルに導入している 21。さらに、2024年6月には、山梨県の新たな電力プラン「シン・やまなしパワー『ふるさと水力プラン』」を利用し、導入対象を拡大した。これにより、山梨県内の2拠点に加え、県外に所在する導入可能な全ての高圧受電拠点(6拠点)においても、水力由来の再生可能エネルギー電力が利用されることになった 21。これは、地域の再生可能エネルギー資源を活用することで、Scope2排出量を削減すると同時に、地域経済への貢献も意図した取り組みと言える。また、環境方針においては、持続可能なエネルギーの利用促進や省エネルギー・省資源の推進が謳われており 18、具体的な事例として他行ではLED照明や高効率空調の導入が進められているが 27、同行自身の設備更新に関する詳細な情報は限定的である。ただし、同行が山梨市の公共施設LED化事業に対してグリーンローンを提供している事例もあり 14、省エネルギー化への関心は高いと考えられる。地域資源である水力を活用した再エネ導入は、同行の地域密着姿勢と環境目標達成を結びつける象徴的な取り組みであり、段階的な導入拡大はその計画性を示している。
Scope1排出量削減の一環として、山梨中央銀行は営業用車両の電動化(EV化)を推進している 21。これまでに合計11台の電気自動車(EV)を導入したことが報告されている 21。ガソリン使用による排出量は同行のScope1排出量に含まれているため 21、EVへの転換は直接的な排出削減に貢献する。導入台数11台が同行の全車両フリートに占める割合や具体的な削減効果に関する情報は提供されていないものの、脱炭素化に向けた具体的な行動として、また行内外へのメッセージとしても意味を持つ取り組みである。
山梨中央銀行は、直接的な排出削減努力に加え、カーボン・オフセットの活用や地域全体の脱炭素化支援にも取り組んでいる。具体的には、山梨県の「やまなし県有林活用温暖化対策プロジェクト」によって創出されたオフセット・クレジット(J-VER)を購入し、店舗外ATMの一部(10拠点、15台)の稼働に伴うCO2排出を相殺することで、カーボンニュートラルを実現した 28。この取り組みにより、年間約32トンのCO2削減効果が見込まれるとされている 28。同様に、2023年に開催されたファッションイベント「TGC FES YAMANASHI 2023」においては、同行がカーボン・オフセット協賛を行い、イベント開催に伴う推定排出量(69.7トンCO2と算定)を山梨県有林J-VERでオフセットした 23。これは、主催者であるW TOKYOが開催するイベントとしては初のカーボン・オフセット事例となった 23。これらのオフセット活動において、山梨県産のJ-VERクレジットを一貫して活用している点は、地域内の森林資源保全活動への資金還流を促し、地域貢献と環境活動を結びつける同行の特徴的なアプローチを示している 23。さらに、同行は自らの排出削減にとどまらず、地域全体の脱炭素化を推進するため、山梨県と共に発起人となり、県内金融機関、商工団体、業界団体など全16機関が参画する「やまなしGX推進コンソーシアム」を設立した 29。このコンソーシアムを通じて、県内企業の脱炭素化に関する課題解決に向けた伴走支援(「知る」「測る」「減らす」「調整する」の4観点)を行うことで、地域における脱炭素化の先導役を担うことを目指している 29。これは、銀行が個別の企業支援だけでなく、地域全体のシステム変革を促進する役割を担おうとする、より戦略的な動きと評価できる。
山梨中央銀行は、環境方針に基づき、環境に配慮した商品やサービスの提供を通じて、顧客の環境保全活動を支援することを明記している 18。この方針を具現化するのが、サステナブルファイナンスへの注力である。同行は、中期経営計画「トランスキューブ2025」において、当初3年間でサステナブルファイナンスの投融資額を2500億円以上とする目標を設定し 1、その後、環境・社会課題への取り組み加速のため、2024年5月に目標を「2024年度までに3500億円以上」へと引き上げた 21。さらに、2030年度には8000億円以上という長期的な目標も掲げている 1。同行の定義によれば、サステナブルファイナンスとは持続可能な地域社会の実現に向けた社会・環境課題解決に繋がる投融資全般を指し、その中で特に地球温暖化抑制や環境負荷低減、気候変動対策を目指すものが環境ファイナンスとされている 21。2023年度末時点でのサステナブルファイナンスの累計投融資実績額は2473億円であり、そのうち環境ファイナンスは1231億円であった 30。上方修正された目標(2024年度末までに3500億円以上)に対する進捗としては、目標達成には更なる取り組みの加速が必要な状況と言える。具体的な商品・サービスとしては、顧客企業が設定したSDGs目標の達成度に応じて貸出金利を優遇するサステナビリティ・リンク・ローン(SLL)や「SDGs応援ローン」 1、山梨市公共施設LED化事業へのグリーンローン供与 14 などが挙げられる。また、環境省の利子補給事業(金融機関を通じたバリューチェーン脱炭素化推進のための利子補給事業)の指定金融機関として採択され、顧客の脱炭素設備投資(太陽光発電、省エネ機器、EV等)に対する融資に最大1.0%、最長3年間の利子補給を行うことで、実質的な金利負担を軽減する支援も開始した 31。さらに、融資だけでなく、投資ファンド「やまなしサステナ投資事業有限責任組合(やまなしサステナファンド)」を設立し(「山梨中銀SDGs投資事業有限責任組合」の後継)、サステナビリティに配慮した事業展開を図る企業に対し、資金供給と経営コンサルティングを組み合わせて支援している 32。日本銀行の気候変動対応オペレーションに関連する投融資実績も、2024年9月末時点で567億円に上る 21。これらの多様な取り組みは、同行が資金供給という本業を通じて気候変動対策と地域経済の持続可能性向上に貢献しようとする強い意志を示しており、目標額の上方修正は、市場の需要の高まり、あるいは同行の意欲の高まりを反映していると考えられる。
山梨中央銀行の環境方針には、省資源の促進や廃棄物のリサイクル等により環境負荷低減に努めることが明記されている 18。具体的な取り組み事例として、同行内で発生した使用済み文書をリサイクルして製造されたトイレットペーパーを、山梨県内の特別支援学校14校へ寄贈する活動が報告されている 29。この活動は、資源の有効活用(廃棄物削減とリサイクル)に貢献するとともに、SDGs達成に向けた取り組みの一環として位置づけられ、地域社会への貢献と環境教育の側面も持つ 35。しかしながら、提供された情報からは、このリサイクルトイレットペーパー寄贈以外に、行内全体の廃棄物削減量やリサイクル率に関する具体的な目標値や実績データ、その他の廃棄物(例:プラスチック、電子機器等)に関する体系的なリサイクルプログラムについての詳細は確認できなかった。この点は、気候変動や生物多様性に関する取り組みと比較して、資源循環分野の情報開示や活動の幅が限定的である可能性を示唆している。
資源循環の促進に関連して、山梨中央銀行はプラスチック使用量の削減と紙資源の効率的な利用に取り組んでいる。特に、「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」への対応およびSDGs推進の一環として、顧客に資料等を渡す際に使用するクリアファイルを、従来のプラスチック製から紙製のファイルへと順次切り替える措置を講じた 14。この紙製クリアファイルは、プラスチック素材を一切使用していない点が特徴である 36。同様に、預金通帳を入れる袋(通帳袋)についても、従来のポリエチレン素材からバイオマス配合素材に変更する取り組みが行われている 22。これらの代替素材への切り替えは、顧客の目に触れる機会が多い物品を通じて、同行の環境配慮姿勢を示すとともに、具体的なプラスチック使用量削減に貢献するものである。また、「山梨ちゅうぎん eco アクション」の一環として、ペーパーレス化の推進も挙げられている 36。中期経営計画期間中の事務量削減時間が目標に対して順調に進捗しているとの報告もあり 3、これは業務プロセスのデジタル化等によるペーパーレス化の進展を示唆している可能性があるが、直接的な紙使用量の削減データは示されていない。これらの取り組みは、「脱プラ」 36 や資源効率化という社会的な要請に応える具体的な行動として評価できる。
山梨中央銀行は、生物多様性保全への貢献として、長期的視点に立った森林保全・再生プロジェクトに取り組んでいる。その代表例が、2011年8月から山梨県中央市で実施されている「山梨中銀ふれあいの里山」活動である 22。このプロジェクトは、耕作放棄地と隣接する荒廃した森林の保全・再生を目的としており、人と自然が調和した里地里山を後世に引き継ぐことを目指している 25。具体的な活動としては、山桜340本、こぶし100本、ヤマボウシ100本などの植樹活動 22、再生した畑でのサツマイモやジャガイモなどの栽培、そして地域の生態系を理解するための生物多様性調査などが含まれる 22。特に、2024年11月には、役職員とその家族が参加してサツマイモ約140kg、ジャガイモ約32kgを収穫し、これらを地域の子供食堂を運営するNPO法人へ寄付するという社会貢献活動も行われた 25。さらに、この機会には一般社団法人ヤマネ・いきもの研究所の専門家を招き、生物多様性保全における企業の役割について学び、スマートフォンアプリ「Biome(バイオーム)」を活用したいきもの調査を体験するなど、活動の質を高める試みも行われている 25。10年以上にわたる継続的な活動は、同行の地域環境保全への真摯な姿勢を示すものであり、従業員参加型の活動を通じて環境意識の向上を図るとともに、専門家との連携や最新技術の導入により、その効果測定や教育的価値の向上にも努めている点が評価される。
「山梨中銀ふれあいの里山」での経験を活かし、山梨中央銀行は生物多様性保全活動をさらに拡大している。2023年12月には、山梨県笛吹市八代町に約0.6ヘクタールの森林を借り受け、「山梨ちゅうぎん 生物多様性の森」と名付けた新たな森林整備活動を開始した 21。この活動は、脱炭素と生物多様性保全の両方に資することを明確な目的として掲げている 24。活動内容としては、クヌギなどの苗木の植樹、下刈りといった森林整備作業に加え、森林・林業体験プログラムの提供、そして地域の生態系維持に貢献するための生物多様性保全活動が計画されている 24。具体例として、農作物や植物の受粉活性化に繋がるミツバチの巣箱設置も挙げられている 21。この活動は、同行行員が主体的に参加する形で行われ、年間約2トンのCO2吸収量が見込まれている 39。協定締結には、笛吹市長、森林所有者、地元の中央森林組合、そして同行頭取が出席しており 39、地域社会との強固な連携体制の下で進められていることがわかる。この二つ目の森林プロジェクトの開始は、同行が生物多様性保全へのコミットメントを強化していることの表れであり、「生物多様性の森」という名称やミツバチの巣箱設置といった活動内容は、より生態系機能に着目した取り組みへの進化を示唆している。
山梨中央銀行の生物多様性保全活動は、従業員の積極的な参加と地域社会との連携によって支えられている点が特徴である。「山梨中銀ふれあいの里山」および「山梨ちゅうぎん 生物多様性の森」のいずれのプロジェクトにおいても、同行の役職員やその家族が植樹、下草刈り、収穫、いきもの調査などの活動に直接参加している 24。これは、環境保全活動を実践するだけでなく、従業員の環境意識を高め、組織文化として定着させる効果も期待できる。さらに、活動の質と効果を高めるために、外部の専門機関(例:一般社団法人ヤマネ・いきもの研究所 25)や地域の諸団体(例:中央森林組合、NPO法人にじいろのわ、中央市、笛吹市 25)との連携を積極的に行っている。加えて、株主とのエンゲージメントを通じて環境保全に貢献するユニークな取り組みも実施している。株主が株主総会の議決権を郵送ではなくインターネットで行使した場合、それによって削減された郵送費用相当額等を、認定NPO法人環境リレーションズ研究所が運営する「Present Tree」プログラムを通じて地域の植樹活動に寄付する仕組みを導入している 41。2023年には、この取り組みにより26万円(広葉樹52本分に相当)が寄付された実績がある 22。これらの活動は、従業員、地域社会、専門家、株主といった多様なステークホルダーを巻き込みながら生物多様性保全を推進する、多角的なアプローチを採用していることを示している。
山梨中央銀行は、TCFD提言に沿った枠組みを用いて、気候変動がもたらす財務的なリスクの分析を進めている 21。分析は、短期・中期・長期の時間軸を設定し、当初は定性的な評価が中心であったが、近年は定量的な分析にも着手している 21。移行リスクについては、特に影響が大きいと考えられるエネルギーセクターと運輸セクターに焦点を当て、IEAのNZEシナリオ等で想定される炭素価格の上昇が、融資先の財務状況や同行の与信コストに与える潜在的な影響を2050年まで見据えて分析している 21。物理的リスクに関しては、日本の地理的特性を踏まえ、特に洪水リスクに着目している。IPCCのRCP2.6(低位安定化シナリオ)とRCP8.5(高排出シナリオ)を用いて、洪水発生が融資先の事業活動や保有資産(担保不動産等)に与える損害、そしてそれに伴う同行の与信コスト増加の可能性を評価している 5。これらのシナリオ分析に加え、炭素関連資産へのエクスポージャーを定量的に把握し開示していること(例:運輸セクター10.18%、素材・構築物セクター21.78% 21)は、ポートフォリオにおける移行リスクの集中度を測る上で重要な情報となる。これらの分析は、気候変動がもたらす潜在的な財務影響を具体的に理解し、リスク管理体制の強化や事業戦略の見直しに繋げるための基礎となる。特に、洪水リスクの分析は、地域金融機関として地域社会のレジリエンス向上に貢献する上でも意義深い。
気候変動に関連する直接的な物理的・移行リスクに加え、山梨中央銀行は、規制、市場、評判という観点からもリスクに晒されている。規制リスクとしては、国内外での環境関連規制の強化が挙げられる。既に東証プライム市場上場企業にはTCFD開示が求められており 6、今後はISSB基準の導入 8 やカーボンプライシングの本格化 17 など、さらなる開示要求や環境配慮義務の強化が進む可能性がある。これらに対応できない場合、規制上の不利益を被るリスクがある。市場リスクとしては、投資家や金融市場全体でESG要素を重視する傾向が強まっており 13、環境パフォーマンスが低いと評価される企業の株式や債券が敬遠されたり、炭素集約的な産業への投融資が将来的に価値を失う(座礁資産化)リスクがある 21。また、ESG評価の高い競合他行 42 と比較された場合に、資金調達コストや顧客獲得において不利になる可能性も考えられる。評判リスク(レピュテーショナルリスク)は、環境への取り組みが不十分である、あるいは環境に悪影響を与える事業への関与が明らかになった場合に、顧客、投資家、地域社会、従業員といったステークホルダーからの信頼を失うリスクである 15。目標未達やネガティブな情報が広まれば、ブランドイメージの低下、顧客離れ、株価下落などに繋がる可能性がある。一方で、優れたESGパフォーマンスは、逆にポジティブな評判を築き、企業価値向上に貢献しうる 15。地域によっては環境問題への感度が低い可能性も指摘されているが 45、全国的な動向や投資家からの視線を考慮すると、評判リスク管理の重要性は高い。これらのリスクに対応するためには、環境パフォーマンスの継続的な改善と、透明性の高い情報開示、そしてステークホルダーとの建設的な対話が不可欠となる。
環境課題への対応はリスクをもたらす一方で、新たな事業機会も創出する。特に、グリーンファイナンス市場は世界的に、そして日本国内においても急速な成長を見せている 12。グリーンボンドやサステナビリティ・リンク・ボンド/ローンの発行額は増加傾向にあり、発行体や資金使途も多様化している 12。この市場の拡大は、山梨中央銀行にとって、環境配慮型プロジェクトや企業のサステナビリティ目標達成を支援する融資(サステナブルファイナンス)の実行額を伸ばす好機となる。同行が既に設定し、さらに引き上げたサステナブルファイナンスの目標額 1 は、この機会を捉えようとする意欲の表れと言える。また、融資だけでなく、取引先企業の脱炭素化や環境経営に関するコンサルティング、ソリューション提供も重要な事業機会となり得る 1。企業のCO2排出量算定支援やビジネスマッチングなどを通じて、新たな手数料収入を得るとともに、顧客との関係性を深化させることが可能である。山梨中央銀行が設立した「やまなしGX推進コンソーシアム」 29 は、まさにこうした支援体制を地域ぐるみで構築しようとする試みである。さらに、地域内の再生可能エネルギー導入支援 18 や環境保全活動への貢献は、同行の経営理念である「地域密着」 3 と合致し、地域経済の活性化や魅力向上に繋がる可能性を秘めている。このように、環境課題への積極的な取り組みは、リスク管理の側面だけでなく、新たな収益源の確保、顧客基盤の強化、そして地域社会への貢献という、同行のコアビジネスと連携した成長戦略として位置づけることができる。
日本の金融業界、特に地方銀行セクターにおいても、環境問題への取り組みは活発化している。他行の先進的な事例を参照することは、山梨中央銀行の取り組みを評価し、今後の方向性を検討する上で有益である。資金供給面では、環境省のガイドライン等に基づいたグリーンローンやサステナビリティ・リンク・ローン/ボンドの組成が広がっており 27、特定のプロジェクト(例:東北電力の地熱発電所更新 46)への融資や、省エネ住宅、低公害車購入に対する金利優遇措置なども見られる 27。事業運営面では、LED照明や高効率空調の導入による省エネルギー化 27、紙製クリアファイルへの切り替えといった脱プラスチックの動き 14、シェアサイクルステーションの設置による交通手段の多様化支援 14 などが報告されている。取引先支援としては、CO2排出量算定支援や脱炭素関連のビジネスマッチング 5、地域全体の脱炭素化を目指すコンソーシアムの設立・運営 5、取引先の環境意識調査の実施と結果公表 45、地域の環境関連産業に関するレポート発行 47 など、非資金面でのサポートも多様化している。情報開示に関しては、大半の地方銀行がTCFD提言に賛同し、関連情報の開示を進めているほか 5、一部の先進的な銀行グループ(しずおかフィナンシャルグループ、九州フィナンシャルグループ等)では、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)の提言に沿った情報開示も始まっている 48。その他、従業員のワーク・ライフ・バランスを支援する休暇制度の充実(例:千葉銀行 49)や、事業再生・承継においてESG要素を考慮する動き 50 など、環境(E)と社会(S)の連携も意識されている。これらの事例と比較すると、山梨中央銀行の取り組み(TCFD対応、サステナブルファイナンス拡大、森林保全プロジェクト、GXコンソーシアム設立等)は、業界の主要なトレンドと概ね整合していると言える。特に、山梨県の地理的特性を活かした森林保全活動 21 は、同行の独自性を際立たせる要素かもしれない。一方で、TNFDへの対応は今後の課題として認識されるべきであろう。
山梨中央銀行の競争環境を理解するため、主要な競合他社を特定し、その環境への取り組みを分析することが求められる。地理的および市場シェアの観点から、主要な競合相手は以下のように考えられる。まず、山梨県内においては、同行が預金・貸出金ともに圧倒的なシェア(貸出金シェア約57.1% 42)を占めるものの、甲府信用金庫、山梨信用金庫、山梨県民信用組合、都留信用組合といった信用金庫・信用組合が地域密着型の金融サービスを提供しており、競合関係にある 29。また、農業協同組合(JAバンク)も一定の存在感を持つ 44。県外に目を向けると、隣接する長野県の八十二銀行(長野銀行と合併予定で、県内シェアは高い 42)や、静岡県の静岡銀行(県内トップシェア 42)などが、地域的な競合相手となりうる。さらに、特に法人取引においては、三菱UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行といったメガバンクも競合となる 44。しかしながら、本報告書の作成にあたり参照した資料群においては、これらの競合他社の具体的な環境(ESG)戦略、目標、実績に関する詳細な情報は極めて限定的であった。しずおかフィナンシャルグループがTNFD開示に着手していること 48 や、八十二銀行が高い従業員評価を得ていること 43 が間接的に示唆する点はあるものの、山梨中央銀行の取り組みと直接比較可能なレベルでの情報は得られなかった。したがって、競合他社の環境パフォーマンスに関する詳細な比較分析を行うためには、各社のウェブサイト、統合報告書、サステナビリティレポート等を個別に調査する必要がある。このデータギャップ自体が、地域金融機関におけるESG情報開示のばらつき、あるいはアクセス可能な情報源の限界を示す一つの結果とも言える。
外部評価機関によるESGスコアは、企業の環境パフォーマンスを客観的に比較・評価するための一つの指標となる。利用可能な情報によると、サステイナリティクス社(Sustainalytics)は、山梨中央銀行に対してESGリスクレーティングスコアとして32.7点を付与している 51。サステイナリティクスの評価体系では、スコアが低いほどリスクが低いことを示すため、32.7点というスコアは「High Risk(高リスク)」カテゴリーに分類される。これは、同行がグローバルな同業他社と比較して、管理されていないESGリスクへのエクスポージャーが相対的に大きいと評価されていることを意味する。評価対象となった業界グループ(おそらく銀行または地域金融機関セクター)内での順位は、1036社中826位であったと報告されている 51。この外部評価は、同行のESGリスク管理体制には改善の余地があることを示唆している。しかしながら、前項で特定した主要な競合他社(例:八十二銀行、静岡銀行、山梨県内の信用金庫等)に関する同等レベルのサステイナリティクス、あるいはMSCI、CDPといった他の主要評価機関による具体的なESGスコア情報は、参照した資料群の中には含まれていなかった。そのため、これらのスコアを用いた直接的な競合ベンチマーキングは、本報告書の範囲内では実施不可能であった。競合他社との相対的なポジションを正確に把握するためには、各評価機関のデータベース等、追加的な情報源へのアクセスが必要となる。
これまでの分析を踏まえ、山梨中央銀行が現在直面している主要な環境課題を評価する。第一に、温室効果ガス排出削減目標の達成が挙げられる。Scope1・2排出量について、2023年度時点で33.1%削減と進捗は見られるものの 21、2030年度目標(50%削減)の達成には、今後、より一層の努力と、場合によっては取り組みの加速が必要となる。特に、比較的容易な削減策が尽きた後、目標達成の難易度は増す可能性がある。第二に、Scope3(投融資)排出量の管理である。算定に着手したことは前向きな一歩であるが 21、多様な融資ポートフォリオ全体にわたる排出量を正確に計測し、科学的根拠に基づいた削減目標を設定し、そして実際に削減を進めていくことは、極めて複雑かつ資源を要する課題である 16。しかし、金融機関としての真の気候変動インパクトを管理するためには避けて通れない。第三に、資源循環への取り組み強化の必要性である。紙製ファイルへの切り替えやリサイクルトイレットペーパー寄贈などの個別事例は見られるものの 22、気候変動や生物多様性分野と比較して、体系的な廃棄物削減目標や広範なリサイクルプログラムに関する情報が乏しい。サーキュラーエコノミーの視点を取り入れた、より包括的なアプローチが求められる可能性がある。第四に、生物多様性保全活動のインパクト定量化である。森林保全プロジェクトは積極的に展開されているが 21、これらの活動が生態系に対して具体的にどのような正味の便益をもたらしているのかを定量的に示し、評価することは依然として難しい。TNFDのような新しい枠組みの登場 48 は、この分野での期待値が高まっていることを示している。第五に、ESG要素のコ Lending Decision への統合深化である。特定のグリーンローン商品等を提供するだけでなく 1、全ての与信判断プロセスやポートフォリオ管理において、ESGリスク・機会評価を体系的に組み込むことが、今後の課題となる 15。第六に、開示基準の急速な進化への追随である。ISSB基準の策定 8 やTNFDの登場 48 など、サステナビリティ情報開示を取り巻く環境は目まぐるしく変化しており、これらに適切に対応し続けるためには、継続的な情報収集と体制整備が不可欠である。最後に、地域特有のニーズとグローバル基準との両立という課題がある。山梨県という地域経済の固有の状況や優先順位 1 に配慮しつつ、サステイナリティクス評価 51 に見られるような、グローバルな投資家や評価機関が求める高いESGパフォーマンス基準を満たしていくというバランス感覚が求められる。これらの課題は、多くの金融機関に共通するものも含まれるが、資源循環プログラムの深度や、地域性とグローバル評価との間の緊張関係といった点で、同行特有の側面も見て取れる。
上記の課題認識に基づき、山梨中央銀行が今後重点的に取り組むべき分野と、それに対する戦略的な提言を以下に示す。
気候変動への対応を一層深化させるためには、まず、2030年のScope1・2排出削減目標達成に向けた具体的なロードマップを策定し、施策ごとの目標値や実施時期を明確化することが推奨される。その際、国際的な基準であるSBT(Science Based Targets)イニシアチブに整合した目標設定を検討することも有効であろう。次に、Scope3カテゴリ15(投融資)排出量の分析と管理を強化する必要がある。これには、算定対象となる資産クラスの拡大、データ品質向上のための取引先エンゲージメント強化、主要な排出セクターに対する具体的な削減目標の設定、そして分析結果のポートフォリオ戦略への反映が含まれる。PCAFスタンダードの活用をさらに進めるべきである 21。さらに、取引先の低炭素移行支援を拡充することも重要である。セクター別の脱炭素化に関する具体的なガイダンスの提供、トランジション・ファイナンス商品の拡充、そして「やまなしGX推進コンソーシアム」 29 を活用した中小企業へのアウトリーチ活動の積極化などが考えられる。
資源循環に関する取り組みを強化するためには、まず現状把握として、行内で発生する廃棄物の種類と量を詳細に把握する包括的な廃棄物監査を実施し、その結果に基づいて定量的な削減目標を設定することが第一歩となる。次に、紙やプラスチック代替といった個別品目にとどまらず、行内での廃棄物発生抑制策の徹底、サーキュラーエコノミーの原則に沿った調達方針(循環型調達)の導入、そしてサプライヤーに対しても環境配慮を働きかける(人権に関するサプライヤーへの働きかけ方針は既に存在する 18)など、より体系的なアプローチへと拡大していくことが望ましい。加えて、資源の使用量、廃棄物発生量、リサイクル率などに関する定量的な情報を、より積極的に開示していくことも重要である。
生物多様性保全活動の効果を最大化し、その貢献を明確に示すためには、現在実施している森林保全プロジェクト(「山梨中銀ふれあいの里山」、「山梨ちゅうぎん 生物多様性の森」 21)が生態系に与える影響を評価するための明確な指標(KPI)を設定し、モニタリング体制を構築することが推奨される。これは、TNFD 48 など、今後主流となる可能性のある自然関連情報開示の枠組みへの対応準備としても有効である。また、投融資ポリシーにおいて、特に農業、林業、建設・開発といった生物多様性への影響が大きいセクターに対する融資判断プロセスに、生物多様性への配慮をより明示的に組み込むことを検討すべきである。これは、既存のポジティブ/ネガティブスクリーニング基準 18 を補完し、リスク管理と機会創出の両面に貢献しうる。さらに、これらの保全活動を、従業員や地域住民、顧客に対する生物多様性の重要性に関する教育・啓発の機会として、より戦略的に活用することも考えられる。
急速に進化するサステナビリティ情報開示の潮流に対応するため、ISSBが公表したIFRS S1号(全般的要求事項)およびS2号(気候関連開示) 8 と自社の開示内容とのギャップ分析を行い、対応計画を策定することが急務である。同時に、TNFD 48 の枠組みについても、早期に内部での検討を開始し、将来的な開示への準備を進めるべきである。開示内容においては、本報告書の制約であった表形式を用いない場合でも、排出量、ファイナンス実績、資源使用量、生物多様性指標など、全ての分野にわたる定量的なデータの開示を強化し、その数値の背景や意味合いについて、より詳細な説明を付すことが求められる。例えば、サステイナリティクスのスコア 51 についても、単に数値を提示するだけでなく、その評価内容や改善に向けた取り組み状況などを具体的に記述することで、ステークホルダーの理解を深めることができる。最後に、投資家やESG評価機関との対話(エンゲージメント)を強化し、同行の戦略、進捗状況、そして地域特性といった文脈を丁寧に説明することで、外部からの評価や認識の改善を図る努力も重要となる。
本分析の結果、株式会社山梨中央銀行は、その経営理念である「地域密着と健全経営」に基づき、サステナビリティ、特に環境課題への取り組みを経営の重要課題と位置づけ、具体的な活動を展開していることが確認された。強みとしては、頭取を委員長とするサステナビリティ委員会を核としたガバナンス体制の構築、TCFD提言への賛同とそれに沿ったリスク・機会分析の実施、CO2排出削減目標の設定と再生可能エネルギー導入等の具体的な気候変動対策、サステナブルファイナンス目標の設定と実績の伸長、そして「山梨中銀ふれあいの里山」や「山梨ちゅうぎん 生物多様性の森」といった地域に根差した長期的な生物多様性保全プロジェクトの推進、さらには「やまなしGX推進コンソーシアム」設立に見られる地域連携の積極性が挙げられる。一方で、改善・強化が望まれる領域として、Scope3(投融資)排出量の管理と削減に向けた取り組みの深化、資源循環に関する活動範囲の拡大と定量的な目標設定・開示、生物多様性保全活動のインパクト評価手法の確立、サステイナリティクス評価にも反映されている可能性のあるESGリスク管理全般の高度化、そしてISSBやTNFDといった最新の国際的な開示基準への継続的な対応が課題として認識された。
山梨中央銀行は、山梨県内における高い市場シェアと地域社会との深い繋がりを活かし、地域の持続可能な発展を金融面から支える上で、極めて重要な役割を担うポテンシャルを有している。同行が環境課題に対して戦略的な重点を置き続け、具体的な取り組みを着実に実行し、その進捗と成果を透明性高く報告していくことは、気候変動や生物多様性損失に伴うリスクを管理し、グリーンファイナンス等の新たな事業機会を捉える上で不可欠である。さらに、それは同行自身の環境スコアや企業価値の向上に繋がるだけでなく、同行がサービスを提供する山梨県全体の持続可能な未来の実現に大きく貢献することになるであろう 1。今後の継続的な努力と進化に期待が寄せられる。
⑦山梨中央銀行――SDGs目標連動の投融資で地元企業の環境対応などを支援 3年間で2500億円以上目指す | 週刊エコノミスト Online, https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20230122/se1/00m/020/001000d
サステナビリティ経営への取組み | サステナビリティ | 山梨中央銀行, https://www.yamanashibank.co.jp/aboutus/csr/effotts.html
山梨中央銀行 統合報告書 - 2023, https://www.yamanashibank.co.jp/assets/files/K20230728312.pdf
厳しさが増す地域銀行のビジネス環境と 求められる収益基盤の強化 - 日本総研, https://www.jri.co.jp/file/report/researchfocus/pdf/13430.pdf
気候変動リスク・機会の評価等に向けたシナリオ・データ関係機関懇談会, https://www.mext.go.jp/content/20230306-mxt_kankyou-000027953_3.pdf
中小企業の脱炭素に向けた 地方銀行の役割 - 日本総研, https://www.jri.co.jp/file/report/researchfocus/pdf/14827.pdf
地域金融機関におけるTCFD開示の手引き - グリーンファイナンスポータル, https://greenfinanceportal.env.go.jp/pdf/policy_budget/esg_commintment/tcfd_1.pdf
ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)とは?開示基準の概要と日本企業への影響・動向を解説, https://www.mitsui.com/solution/contents/column/836
ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)とは?開示基準や動向を解説! - スキルアップGreen, https://green-transformation.jp/media/sustainability/081/
ISSBとは?IFRSサステナビリティ開示基準の概要と今後の動向を詳しく解説! - アスエネ, https://asuene.com/media/1450/
サステナビリティ開示及び保証に係る動向 - 財務会計基準機構, https://www.fasf-j.jp/jp/wp-content/uploads/sites/2/20250306_02.pdf
グリーンファイナンス市場の動向について - 環境省, https://www.env.go.jp/policy/4-1greenfinance%20%281%29.pdf
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地方銀行における 環境・気候変動問題への取り組み, https://www.chiginkyo.or.jp/assets/kankyo_20230517.pdf
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気候関連リスクの分析 - 金融庁, https://www.fsa.go.jp/common/about/kaikaku/fsaanalyticalnotes/20230623/04.pdf
地域金融機関に求められる気候変動対応支援の強化, https://www.jri.co.jp/file/report/other/pdf/14801.pdf
サステナビリティに関する方針、宣言 | サステナビリティ | 山梨中央 ..., https://www.yamanashibank.co.jp/aboutus/csr/policy.html
www.yamanashibank.co.jp, https://www.yamanashibank.co.jp/assets/files/K2024073031.pdf
株式会社 山梨中央銀行, https://finance-frontend-pc-dist.west.edge.storage-yahoo.jp/disclosure/20231212/20231207500430.pdf
環境・気候変動への取組み | サステナビリティ | 山梨中央銀行, https://www.yamanashibank.co.jp/aboutus/csr/eco/
株式会社山梨中央銀行, https://www.keidanren-biodiversity.jp/pdf/304_J.pdf
「TGC FES YAMANASHI 2023」における、 カーボンオフセットの取り組み, https://www.kanto.meti.go.jp/seisaku/recycle/jcredit/data/shiryou2.pdf
生物多様性保全に向けて新たな森林整備活動を実施します | 株式会社 ..., https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000062.000123552.html
「山梨中銀ふれあいの里山」にて収穫・いきもの調査を実施しま ..., https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000177.000123552.html
信頼性と費用対効果が導入の決め手。地域の脱炭素化と企業価値向上を目指すリーディングバンクの思い - ゼロボード, https://www.zeroboard.jp/case/yamanashibank
2050 年カーボンニュートラルに向けた銀行業界のビジョン(基本方針等), https://www.keidanren.or.jp/policy/2023/072_kobetsu40.pdf
オフセット・クレジットの活用により一部の店舗外ATMのカーボンニュートラルを実現しました, https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000021.000123552.html
地域の脱炭素化を推進する「やまなしGX推進コンソーシアム」の ..., https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000234.000123552.html
有 価 証 券 報 告 書 - 山梨中央銀行, https://www.yamanashibank.co.jp/files/202403_121_securities_report.pdf
環境省「金融機関を通じたバリューチェーン脱炭素化推進のための ..., https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000174.000123552.html
「やまなしサステナ投資事業有限責任組合」の設立について - PR TIMES, https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000078.000123552.html
従業員向け健康支援サービス「M3PSP」 地方銀行で初めて株式会社 ..., https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000218.000123552.html
山梨中央銀行・東京電力グループ3社 地域のカーボンニュートラル ..., https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000125.000123552.html
リサイクルトイレットペーパーを寄贈していただきました | 山梨県立わかば支援学校, https://www.wakabay.kai.ed.jp/1462/
www.yamanashibank.co.jp, https://www.yamanashibank.co.jp/assets/files/K20220517_2.pdf
【山梨中央銀行】脱プラスチックへの取り組みとしてお客さま向けクリアファイルをプラスチック製から紙製に切り替えます - グッドウェイ, https://goodway.co.jp/fip/htdocs/joahx59wn-303/?block_id=303&active_action=journal_view_main_detail&post_id=379062&comment_flag=1
「山梨中銀ふれあいの里山」にて収穫・いきもの調査を実施しました - 富士山経済新聞, https://mtfuji.keizai.biz/release/350600/
生物多様性保全に向けて新たな森林整備活動を実施します - Yamanashi Chuo Bank, https://www.yamanashibank.co.jp/assets/files/K20231213_2.pdf
「山梨ちゅうぎん生物多様性の森」森林整備の協定を締結しました - やまなし森づくりコミッション - 山梨県緑化推進機構, https://www.y-ryokka.or.jp/ymc/kcms_contents/202312111702271141.html
株式会社 山梨中央銀行 - コラボレーション詳細, https://presenttree.jp/collabo/yamanashibank.html
全国158万5849社の“メインバンク“調査 取引先の「増収増益」企業率は京葉銀行がトップ, https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1198846_1527.html
山梨中央銀行 「会社評価ランキング」 OpenWork, https://www.openwork.jp/a0910000000Fro1/ranking/
山梨県メインバンク「山梨中央銀行」6849 社でトップ - 帝国データバンク, https://www.tdb.co.jp/resource/files/assets/d4b8e8ee91d1489c9a2abd23a4bb5219/f720e5acfd384be0a9cd59b1b10ae756/20250203_%E5%B1%B1%E6%A2%A8%E7%9C%8C%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%90%E3%83%B3%E3%82%AF%E5%8B%95%E5%90%91%E8%AA%BF%E6%9F%BB%EF%BC%882024%EF%BC%89.pdf
気候変動対応を「チャンス」と捉えた 地域金融機関による取組事例集 - 環境省, https://www.env.go.jp/content/000213039.pdf
地方銀行における 環境・気候変動問題への取り組み, https://www.chiginkyo.or.jp/assets/kankyo_20240515.pdf
地方銀行における 環境・気候変動問題への取り組み, https://www.env.go.jp/content/000254051.pdf
地銀、TNFD開示そろり しずおか、九州FG先行 - ニッキンONLINE, https://www.nikkinonline.com/article/222518
働き方・休み方改善ハンドブック | 金融業(地方銀行業)編, https://work-holiday.mhlw.go.jp/material/pdf/category2/150320_03_01.pdf
[全国地方銀行協会・第二地方銀行協会] 1.地域金融の課題 (1)環境変化への迅速な対応, https://www.fsa.go.jp/common/ronten/201801/03.pdf
The Yamanashi Chuo Bank, Ltd. ESG Risk Rating - Sustainalytics, https://www.sustainalytics.com/esg-rating/the-yamanashi-chuo-bank-ltd/1008755453
2023年 | 702t-CO2 |
2022年 | 707t-CO2 |
2021年 | 682t-CO2 |
2023年 | 1,865t-CO2 |
2022年 | 2,367t-CO2 |
2021年 | 3,858t-CO2 |
2023年 | 3,123,657t-CO2 |
2022年 | - |
2021年 | - |
スコープ1+2 CORの過去3年推移
2023年 | 45kg-CO2 |
2022年 | 51kg-CO2 |
2021年 | 98kg-CO2 |
スコープ3 CORの過去3年推移
2023年 | 55,262kg-CO2 |
2022年 | 0kg-CO2 |
2021年 | 0kg-CO2 |
スコープ1+2のCOA推移
2023年 | 1kg-CO2 |
2022年 | 1kg-CO2 |
2021年 | 1kg-CO2 |
スコープ3のCOA推移
2023年 | 715kg-CO2 |
2022年 | 0kg-CO2 |
2021年 | 0kg-CO2 |
2023年 | 565億円 |
2022年 | 606億円 |
2021年 | 463億円 |
2023年 | 57億円 |
2022年 | 51億円 |
2021年 | 42億円 |
2023年 | 4兆3662億円 |
2022年 | 4兆3805億円 |
2021年 | 4兆4698億円 |
すべての会社と比較したポジション
業界内ポジション
CORスコープ1+2
CORスコープ3
CORスコープ1+2
CORスコープ3
COAスコープ1+2
COAスコープ3
COAスコープ1+2
COAスコープ3